JP4000972B2 - 内燃機関の筒内ガス状態取得装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のシリンダ内の圧力を相対圧力として検出する筒内相対圧力センサの出力値に基いて圧縮行程時にシリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス量等のシリンダ内に吸入されているガスの状態を取得する内燃機関の筒内ガス状態取得装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関により燃焼される混合気の空燃比を所定の値とするためには、同内燃機関のシリンダ(気筒、燃焼室)内に吸入される空気の量(以下、「筒内吸入空気量」と称呼する。)を精度良く求める必要がある。このため、例えば、下記特許文献1に開示された内燃機関の筒内吸入空気量検出装置は、シリンダ内の筒内絶対圧力を検出する筒内絶対圧力センサと、シリンダ内に吸入される吸入空気の温度を検出する吸気温度センサと、シリンダ内から排出される排気ガスの温度を検出する排気温度センサとを備え、吸気温度センサの出力及び排気温度センサの出力等に基いて圧縮行程開始時点におけるシリンダ内に吸入されているガスの筒内ガス温度を推定するとともに、同推定された圧縮行程開始時点での筒内ガス温度と、筒内絶対圧力センサにより得られる圧縮行程開始時点での筒内絶対圧力、及び状態方程式等を使用して筒内吸入空気量を検出するようになっている。
【0003】
ところで、上記したような絶対圧力を検出できる絶対圧力センサは、一般に、比較的狭い圧力範囲内では精度良く絶対圧力を検出できるものの、シリンダ内の圧力等のように比較的広い範囲内で変動する絶対圧力を同広い範囲の全域に渡って精度良く検出することができない。従って、シリンダ内の圧力を広範囲に渡って精度良く検出するためには、一般に、広範囲に渡って精度良く相対圧力(基準圧力からの相対圧力)を検出できる相対圧力センサを使用することが好適である。ところが、シリンダ内の圧力をかかる相対圧力センサにより検出する場合、同相対圧力センサにより得られるシリンダ内の筒内相対圧力の値を、上記筒内絶対圧力の値のように直接状態方程式に適用して筒内吸入空気量を求めることができない。
【0004】
このため、下記特許文献2に開示された内燃機関の筒内吸入空気量検出装置は、圧縮行程時、シリンダ内のガスの状態はポリトロープ指数が一定のポリトロープ変化(可逆変化)すると仮定した上で、圧縮行程時における異なる2点での各(相対)圧力を筒内相対圧力センサにより検出して各圧力間の圧力差を求め、この圧力差の値と、エンジン回転速度と、同圧力差の値及びエンジン回転速度と筒内吸入空気量との関係を規定する実験的に求められたテーブルと、に基いて筒内吸入空気量を検出するようになっている。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−166447号公報
【特許文献2】
特開平2−238149号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実際の内燃機関の運転状態は時々刻々と変化するので、圧縮行程時におけるシリンダと同シリンダ外部との間で伝達される熱量も時々刻々と変化し、その結果、実際の圧縮行程時におけるシリンダ内のガスの状態は、常にポリトロープ指数が一定のポリトロープ変化するとは限らない(非可逆変化する場合もある)。従って、上記特許文献2に開示された装置では、筒内吸入空気量が常に精度良く検出されるとは限らない。
【0007】
さらには、上記特許文献2に開示された装置では、圧縮行程時における2点のみの筒内相対圧力値に基いて筒内吸入空気量を推定しているので、検出点数の少なさに起因する検出精度の低下により、上記圧力差の検出精度が低下して筒内吸入空気量が精度良く検出されない場合もある。
【0008】
また、内燃機関の異常燃焼(例えば、ノッキング、ミスファイア等)の発生を検出するためには、シリンダ内の筒内絶対圧力を精度良く求める必要がある。ここで、シリンダ内の筒内吸入空気量を精度良く検出できれば、圧縮行程時におけるシリンダ内のガスに状態方程式を適用することで、シリンダ内の筒内絶対圧力をも精度良く計算でき、この計算された筒内絶対圧力値と、筒内相対圧力センサにより得られる筒内相対圧力値との差を圧力補正値(校正値)として設定することで、その後において、筒内相対圧力センサの出力値と同圧力補正値とに基いて筒内絶対圧力を精度良く求めることができるようになる。
【0009】
ところが、上述したように、上記特許文献2に開示された装置では、筒内吸入空気量が精度良く検出されない場合もあるので、筒内絶対圧力をも精度良く求めることができない。即ち、上記特許文献2に開示された装置では、筒内相対圧力センサの出力値に基いて筒内吸入空気量(ガス量)、筒内絶対圧力等の圧縮行程時にシリンダ内に吸入されているガスの状態を精度良く取得することができないという問題がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、シリンダ内の相対圧力を検出できる筒内相対圧力センサの出力に基いて、筒内吸入ガス量(空気量)、筒内絶対圧力等のシリンダ内に吸入されているガスの状態を精度良く取得することができる内燃機関の筒内ガス状態取得装置を提供することにある。
【0011】
【本発明の概要】
本発明の特徴は、シリンダ内の圧力を所定の基準圧力からの相対圧力である筒内相対圧力検出値として検出する筒内相対圧力センサを備え、前記筒内相対圧力検出値に基いて前記シリンダ内に吸入されているガスの状態を取得する内燃機関の筒内ガス状態取得装置が、圧縮行程時に前記シリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス量、同圧縮行程の所定の時点における同シリンダ内の筒内ガス温度、及び同所定の時点における同シリンダ内の筒内絶対圧力のうちの2つの値を仮設定することで同所定の時点における同シリンダ内に吸入されているガスの状態を仮設定する仮設定手段と、前記仮設定された前記所定の時点におけるシリンダ内に吸入されているガスの状態から得られる同所定の時点におけるシリンダ内の仮の筒内絶対圧力の値と前記所定の時点における筒内相対圧力検出値との比較により仮の圧力補正値を算出し、前記所定の時点を含む前記圧縮行程の所定の区間内における複数の筒内相対圧力検出値と前記仮の圧力補正値とから同所定の区間内における同シリンダ内の複数の仮の筒内絶対圧力設定値を順次設定する第1計算手段と、前記仮設定手段により仮設定された前記所定の時点におけるシリンダ内のガスの状態を初期条件として、エネルギー保存則に基いて求められた同シリンダについてのモデルを使用して前記所定の区間内におけるシリンダ内の複数の仮の筒内絶対圧力計算値を順次計算する第2計算手段と、前記所定の区間内における前記複数の仮の筒内絶対圧力設定値と前記複数の仮の筒内絶対圧力計算値との偏差の程度を示す偏差指標値を計算する偏差指標値計算手段と、前記偏差指標値が示す前記偏差の程度が小さくなるように前記仮設定する2つの値を逐次補正して、前記仮設定手段、前記第1計算手段、前記第2計算手段、及び前記偏差指標値計算手段が行う一連の各処理を、同偏差の程度が略最小になるまで繰返し実行させるとともに、同偏差の程度が略最小になった時点で前記仮設定されている前記2つの値をそれぞれ真の値として設定し、前記所定の時点におけるシリンダ内に吸入されているガスの真の状態を取得する筒内ガス状態取得手段とを備えたことにある。
【0012】
ここにおいて、前記仮設定手段は、圧縮行程時にシリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス量、同圧縮行程の所定の時点における同シリンダ内の筒内ガス温度、及び同所定の時点における同シリンダ内の筒内絶対圧力(以下、「3つの値」と称呼する。)のうちの2つの値を仮設定することで、同仮設定された2つの値と、前記所定の時点での既知のピストン位置から求まる同所定の時点での既知のシリンダ容積と、圧縮行程時にシリンダ内に密閉されているガスに適用され得る状態方程式とに基いて残りの一つの値を算出し、仮設定することができる。
【0013】
従って、前記第1計算手段が仮の圧力補正値を算出する際に使用する所定の時点におけるシリンダ内の仮の筒内絶対圧力の値は、所定の時点におけるシリンダ内の筒内絶対圧力の値が上記仮設定された2つの値のうちの一つとして仮設定されている場合には、その仮設定された値であり、所定の時点におけるシリンダ内の筒内絶対圧力の値が上記仮設定された2つの値に含まれていない場合には、同仮設定された2つの値と上記状態方程式等に基いて算出され、仮設定された値である。
【0014】
第1計算手段は、このようにして仮設定された所定の時点における仮の筒内絶対圧力の値と、筒内相対圧力センサにより得られる同所定の時点における筒内相対圧力検出値との比較により仮の圧力補正値を計算する。そして、第1計算手段は、広範囲に渡って精度良く相対圧力(所定の基準圧力からの相対圧力)を検出できる前記筒内相対圧力センサにより得られる圧縮行程の所定の区間内における複数の筒内相対圧力検出値と、上記のように計算した仮の圧力補正値とに基いて、同所定の区間における複数の仮の筒内絶対圧力設定値を順次計算し設定することにより、同所定の区間内において、同複数の仮の筒内絶対圧力設定値を通る仮の筒内絶対圧力設定値の波形を求める。
【0015】
また、第2計算手段は、圧縮行程時におけるシリンダと同シリンダ外部との間で伝達される熱量も考慮し得るとともに非可逆変化をも扱うことが可能なエネルギー保存則に基いて求められたシリンダ内についてのモデルを使用して、前記仮設定手段により仮設定された所定の時点におけるシリンダ内のガスの状態を初期条件として、所定の区間における複数の仮の筒内絶対圧力計算値を順次計算することにより、同所定の区間内において、同複数の仮の筒内絶対圧力計算値を通る仮の筒内絶対圧力計算値の波形を求める。
【0016】
偏差指標値計算手段は、上記のように求められた所定の区間における複数の仮の筒内絶対圧力設定値と複数の仮の筒内絶対圧力計算値との偏差の程度を示す偏差指標値を計算する。この偏差指標値は、例えば、所定の区間内における同一クランク角度における仮の筒内絶対圧力設定値と仮の筒内絶対圧力計算値の差を2乗した値を同所定区間内に渡り積算した値であって、これに限定されない。
【0017】
そして、筒内ガス状態取得手段は、偏差指標値が略最小になるように、仮設定手段により仮設定される上記2つの値を同定し、同定された2つの値をそれぞれ真の値として設定する。また、この筒内ガス状態取得手段は、上記2つの真の値をそれぞれ設定することで、同設定された2つの真の値と、所定の時点での既知のシリンダ容積と、圧縮行程時にシリンダ内に密閉されているガスに適用され得る状態方程式とに基いて上記3つの値のうちの残りの一つの真の値を算出することができる。具体的には、圧縮行程時にシリンダ内に吸入されている真の筒内吸入ガス量、同圧縮行程の所定の時点における同シリンダ内の真の筒内ガス温度、及び同所定の時点における同シリンダ内の真の筒内絶対圧力をそれぞれ求めることができる。
【0018】
このようにして筒内ガス状態取得手段により求められた3つの真の値は、広範囲に渡って精度良く得られる筒内相対圧力検出値(実測値)に基いた仮の筒内絶対圧力設定値の波形と、圧縮行程時におけるシリンダと同シリンダ外部との間で伝達される熱量も考慮し得るとともに非可逆変化をも扱うことが可能であって経験則ではなく物理法則に従って表されたモデルにより得られる計算精度の高い仮の筒内絶対圧力計算値の波形とが略一致するように同定された値である。
【0019】
また、筒内相対圧力検出値(実測値)に基いた筒内絶対圧力設定値の波形は、圧縮行程の所定の区間における多数の検出値(実測値)に基いて求められ得るので、検出点数の少なさに起因する検出精度の低下の影響が発生しにくい波形である。従って、本発明による筒内ガス状態取得装置によれば、筒内相対圧力センサの出力に基いて、上記3つの真の値、即ち、これらの値に基く上記所定の時点におけるシリンダ内のガスの真の状態を精度良く取得することができる。
【0020】
また、これにより、例えば、流体力学等に基づく式により表される吸気系のモデルと、所定のテーブル(マップ)を用いて筒内吸入空気量を推定するように構成された筒内吸入空気量推定装置を有する内燃機関に対して上記本発明による筒内ガス状態取得装置を適用すれば、通常は、上記モデルとテーブルとに基いて筒内吸入空気量を推定するとともに、所定のタイミング毎に本発明による筒内ガス状態取得装置により真の筒内吸入ガス量を求め、同真の筒内吸入ガス量と推定された筒内吸入空気量との比較により上記テーブルを補正することで、筒内吸入空気量推定装置による筒内吸入空気量の推定精度を向上させることができる。
【0021】
上記本発明による内燃機関の筒内ガス状態取得装置においては、前記筒内ガス状態取得手段は、前記所定の時点におけるシリンダ内の真の筒内絶対圧力を取得するように構成され、前記真の筒内絶対圧力の値と前記所定の時点における筒内相対圧力検出値との比較により真の圧力補正値を取得する圧力補正値取得手段を備えるように構成されることが好適である。
【0022】
これによれば、圧力補正値取得手段により真の圧力補正値が取得された後において、筒内相対圧力センサの出力値である筒内相対圧力検出値と同真の圧力補正値とに基いてシリンダ内の筒内絶対圧力を精度良く求めることができるようになる。従って、内燃機関の異常燃焼(例えば、ノッキング、ミスファイア等)の発生を筒内絶対圧力の変化に基いて検出する装置を有する内燃機関に対して本発明による筒内ガス状態取得装置を適用すれば、内燃機関の異常燃焼の発生を精度良く検出できるようになる。
【0023】
また、上記いずれかの筒内ガス状態取得装置においては、前記所定の時点は、吸気弁が閉弁する圧縮行程開始時点に設定されるとともに、前記所定の区間は、その始期が前記圧縮行程開始時点に、その終期が圧縮行程終了時点になるように設定されることが好適である。ここで、圧縮行程終了時点は、シリンダ内のガスが燃焼を開始して爆発行程に推移する時点である。これによれば、所定の区間の幅を最大とすることができ、筒内絶対圧力値設定値の波形は、より一層多数の検出値(実測値)に基いて求められ得るので、検出点数の少なさに起因する検出精度の低下の影響を最小限に抑制することが可能となる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による内燃機関の筒内ガス状態取得装置を含む燃料噴射量制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、この燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒(例えば、4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。
【0025】
内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
【0026】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
【0027】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角及び同吸気弁32のバルブリフト量(最大バルブリフト量)を連続的に変更し得る吸気弁制御装置33、吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
【0028】
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットルバルブ43、及びスワールコントロールバルブ(以下、「SCV」と称呼する。)44を備えている。スロットルバルブ43は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ43aにより吸気管41内で回転駆動されるようになっている。SCV44は、前記スロットルバルブ43よりも下流で前記インジェクタ39よりも上流の位置にて前記吸気管41に対し回動可能に支持されるとともに、DCモータからなるSCVアクチュエータ44aにより回転駆動されるようになっている。
【0029】
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51に接続されたエキゾーストパイプ52、及びエキゾーストパイプ52に介装された触媒コンバータ(三元触媒装置)53を備えている。
【0030】
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、吸気温センサ62、大気圧センサ(スロットルバルブ上流圧力センサ)63、スロットルポジションセンサ64、SCV開度センサ65、カムポジションセンサ66、吸気弁リフト量センサ67、クランクポジションセンサ68、水温センサ69、O2センサ70、アクセル開度センサ71、及び筒内相対圧力センサ72を備えている。
【0031】
エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の質量流量に応じた電圧Vgを出力するようになっている。吸気温センサ62は、エアフローメータ61内に備えられていて、吸入空気の温度を検出し、吸気温度Taを表す信号を出力するようになっている。大気圧センサ63は、スロットルバルブ43の上流の圧力(即ち、大気圧)を検出し、スロットルバルブ上流圧力Paを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ64は、スロットルバルブ43の開度(スロットルバルブ開度)を検出し、スロットルバルブ開度TAを表す信号を出力するようになっている。SCV開度センサ65は、SCV44の開度を検出し、SCV開度θivを表す信号を出力するようになっている。
【0032】
カムポジションセンサ66は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。吸気弁リフト量センサ67は、吸気弁31のリフト量を検出し、吸気弁が全閉のとき「0」の値をとる吸気弁リフト量Lを表す信号を出力するようになっている。クランクポジションセンサ68は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、クランク角θca、及びエンジン回転速度Neを表す。
【0033】
水温センサ69は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。O2センサ70は、触媒コンバータ53に流入する排ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ71は、運転者によって操作されるアクセルペダルの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。筒内相対圧力センサ72は、シリンダ21内(燃焼室25内)の圧力を所定の基準圧力からの相対圧力として検出し、筒内相対圧力検出値Pmeasを表す信号を出力するようになっている。
【0034】
電気制御装置80は、互いにバスで接続されたCPU81、CPU81が実行するプログラム、テーブル(マップ)、定数等を予め記憶したROM82、CPU81が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM83、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM84、及びADコンバータを含むインターフェース85等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース85は、前記センサ61〜72と接続され、CPU81にセンサ61〜72からの信号を供給するとともに、同CPU81の指示に応じて吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットルバルブアクチュエータ43a、及びSCVアクチュエータ44aに駆動信号を送出するようになっている。
【0035】
次に、上記のように構成された燃料噴射量制御装置によるシミュレーションモデルを用いた燃料噴射量の決定方法(筒内吸入空気量Mcの推定方法)について説明する。以下に述べる処理は、CPU81がプログラムを実行することによりなされる。
【0036】
(燃料噴射量fiの決定方法・筒内吸入空気量Mcの推定方法)
この燃料噴射量制御装置(吸入空気量推定装置)は、吸気行程にある気筒の吸気弁32が閉じる前に同気筒に対して燃料を噴射しなければならないので、吸気弁32が閉じた時点で(即ち、吸気弁閉時に)同気筒内に吸入されているであろう吸入空気量(筒内(燃焼室内)吸入空気量)を予測する必要がある。一方、吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDは、燃焼室25に吸入されている筒内吸入空気量Mcと比例関係にある。従って、吸気管圧力PMFWDを予測することができれば、実際の筒内吸入空気量Mcを推定することができる。
【0037】
そこで、本燃料噴射量制御装置は、吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDを予測・推定し、推定した吸気管圧力PMFWDを一気筒の排気量と空気密度の積で除した値に所定の係数を乗算することにより筒内吸入空気量Mcを求め、下記数1に基づいて燃料噴射量fiを決定する。数1において、Kは設定空燃比に応じて変化する係数である。
【0038】
【数1】
fi =K・Mc
【0039】
以下、吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDの推定方法について、同推定に使用するモデルとともに説明する。図2に示したように、吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDは電子制御スロットルモデルM1、スロットルモデルM2、吸気弁モデルM3、及びインテークマニホールドモデルM4により推定される。
【0040】
(1)電子制御スロットルモデルM1
電子制御スロットルモデルM1は、現時点までのアクセルペダル操作量Accpに基づいて吸気弁閉時のスロットルバルブ開度TASを推定するモデルである。本実施形態においては、スロットルバルブ電子制御ロジックA1にて、アクセル開度センサ71により検出されたアクセルペダル操作量Accpと、図3に示したアクセルペダル操作量Accpと目標スロットルバルブ開度θrとの関係を規定するテーブルとに基づいて暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1が求められ、この暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を所定時間T(例えば、64msec)だけ遅延させた値が最終的な目標スロットルバルブ開度θrとして決定される。そして、スロットルバルブ電子制御ロジックA1(電気制御装置80)は、実際のスロットルバルブ開度TAが目標スロットルバルブ開度θrとなるようにスロットルバルブアクチュエータ43aに対して駆動信号を送出する。
【0041】
このように、目標スロットルバルブ開度θrは、現時点から所定時間Tだけ前の時点におけるアクセルペダル操作量Accpに応じて決定されるから、現時点から吸気弁閉時までの時間をtとすると、吸気弁閉時の目標スロットルバルブ開度θrは、現時点から時間(T−t)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1と等しい。また、目標スロットルバルブ開度θrは、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を無視すれば、スロットルバルブ開度TASと等しい。このような考えに基づき、電子制御スロットルモデルM1は、検出されるエンジン回転速度Neと、内燃機関10の運転状態に応じて別途定められる吸気弁の開閉タイミング(進角量)VT(上記信号Neと上記G2信号とにより求めた実際の開閉タイミングVTでも良い。)と等に基づいて現時点から吸気弁閉時までの時間tを求め、同時間tと、現時点から所定時間Tだけ前の時点から現時点までのアクセルペダル操作量Accp(又は、暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1)の変化の経緯とに基づいて吸気弁閉時のスロットルバルブ開度TASを推定する。なお、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を考慮に加えて、吸気弁閉時のスロットルバルブ開度TASを推定してもよい。
【0042】
(2)スロットルモデルM2
スロットルモデルM2は、スロットルバルブ43を通過する空気量(スロットル通過空気量)mtを、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則、及び状態方程式に基づいて得られた下記数2及び下記数3に基づいて推定するモデルである。下記数2及び下記数3において、μは流量係数、Atはスロットル開口面積、νはスロットルバルブ43を通過する空気の流速、Paはスロットルバルブ上流圧力、Pmは吸気管圧力、Taは吸気温度、ρmは吸気密度、Rは気体定数、及びκは比熱比(以下、本吸入空気量推定装置において、κを一定値として扱う。)である。
【0043】
【数2】
mt=μ・At・ν・ρm=μ・At・{Pa/(R・Ta)1/2}・Φ(Pm/Pa)
【0044】
【数3】
【0045】
ここで、上記数2は、k1を所定の係数(=μ・At・{Pa/(R・Ta)1/2})、mtsを吸気弁閉時のスロットル通過空気量とするとき下記数4に書き換えられる。また、数4において、内燃機関10が定常状態にある場合(スロットルバルブ開度が一定である場合)のスロットル通過空気量をmtsTA、及び吸気管圧力をPmTAとすると、下記数5が得られるので、数4及び数5から係数k1を消去して下記数6を得ることができる。
【0046】
【数4】
mts=k1・Φ(Pm/Pa)
【0047】
【数5】
mtsTA=k1・Φ(PmTA/Pa)
【0048】
【数6】
mts={mtsTA/Φ(PmTA/Pa)}・Φ(Pm/Pa)
【0049】
上記数6の右辺における値{mtsTA/Φ(PmTA/Pa)}は、スロットルバルブ開度TAが一定であるときの吸入空気流量(スロットル通過空気量)に関する値であり、スロットルバルブ開度TA、エンジン回転速度Ne、吸気弁の開閉タイミングVT、及びスロットルバルブ上流圧力Paが決定されると、実質的に一意に定まる値である。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度TA、エンジン回転速度Ne、吸気弁の開閉タイミングVT、及びスロットルバルブ上流圧力Paと、値{mtsTA/Φ(PmTA/Pa)}との関係を規定したテーブルをROM82内に記憶していて、このテーブルと吸気弁閉時の推定スロットルバルブ開度TAS、実際のエンジン回転速度Ne、実際の吸気弁の開閉タイミングVT、及び実際のスロットルバルブ上流圧力Paとに基づいて値{mtsTA/Φ(PmTA/Pa)}を求める。
【0050】
また、数6の右辺における値Φ(Pm/Pa)は、上記数3から理解されるように、比熱比κが一定であるとき、吸気管圧力Pmとスロットルバルブ上流圧力Paにより決定される値である。スロットルモデルM2は、吸気管圧力Pm及びスロットルバルブ上流圧力Paと、値Φ(Pm/Pa)との関係を規定したテーブルをROM82内に記憶していて、このテーブルと、後述するインテークマニホールドモデルM4が現時点で既に演算している最新の吸気管圧力Pm、及び実際のスロットルバルブ上流圧力Paとに基づいて値Φ(Pm/Pa)を求める。以上により、吸気弁閉時のスロットル通過空気量mtsが求められる。
【0051】
(3)吸気弁モデルM3
吸気弁モデルM3は、吸気管圧力Pm、吸気管内温度Tm、及び吸気温度THA等から筒内吸入空気流量mcを推定するモデルである。吸気弁閉時の気筒内圧力は吸気弁32の上流の圧力、即ち吸気弁閉時の吸気管圧力Pmとみなすことができるので、筒内吸入空気流量mcは吸気弁閉時の吸気管圧力Pmに比例する。そこで、吸気弁モデルM3は筒内吸入空気流量mcを、経験則に基づく下記数7にしたがって求める。
【0052】
【数7】
mc=(Ta/Tm)・(c・Pm−d)
【0053】
数7において、値cは比例係数、値dは筒内に残存していた既燃ガス量である。吸気弁モデルM3は、エンジン回転速度Ne、及び吸気弁の開閉タイミングVTと、比例係数c、及び既燃ガス量dとの関係をそれぞれ規定するテーブルをROM82内に格納していて、実際のエンジン回転速度Neと、実際の吸気弁の開閉タイミングVTと前記格納しているテーブルとから比例係数c、及び既燃ガス量dを求める。また、吸気弁モデルM3は、演算時点において、後述するインテークマニホールドモデルM4により既に推定されている直前(最新)の吸気弁閉時の吸気管圧力Pmと直前の吸気管内空気温度Tmとを上記数7に適用し、吸気弁閉時の筒内吸入空気流量mcを推定する。
【0054】
(4)インテークマニホールドモデルM4
インテークマニホールドモデルM4は、質量保存則とエネルギー保存則とにそれぞれ基づいた下記数8及び下記数9にしたがって、吸気弁閉時の吸気管圧力Pmと、吸気弁閉時の吸気管内温度Tmとを求める。なお、Vは吸気管の容積、Rは気体定数、mtはスロットル通過空気量、Taはスロットルバルブ通過空気温度(即ち、吸気温度Ta)である。
【0055】
【数8】
dPm/dt=κ・(R/V)・(mt・Ta−mc・Tm)
【0056】
【数9】
d(Pm/Tm)/dt=(R/V)・(mt−mc)
【0057】
図2に示したように、インテークマニホールドモデルM4は、スロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気量mtsを上記数8,数9におけるスロットル通過空気量mtとして使用し、吸気弁モデルM3により推定された吸気弁閉時の筒内吸入空気流量mcを上記数8,数9の筒内吸入空気流量mcとして使用する。このインテークマニホールドモデルM4により推定された吸気管圧力Pmが、前記吸気弁閉時の推定吸気管圧力PMFWDとなる。
【0058】
以上のようにして、本燃料噴射量制御装置は、電子制御スロットルモデルM1、スロットルモデルM2、吸気弁モデルM3、インテークマニホールドモデルM4の各シミュレーションモデルを用いて吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDを予測・推定し、推定した吸気管圧力PMFWDに対して所定の計算を行うことにより筒内吸入空気量Mcを求め、上記数1に基づいて燃料噴射量fiを決定する。
【0059】
(圧縮行程開始時点におけるシリンダ内のガス状態の取得)
本燃料噴射量制御装置は、通常、上述したように各種モデルを使用して、各気筒が吸気行程を迎える度に同吸気行程を迎える特定気筒における筒内吸入空気量Mcを求める一方で、本燃料噴射量制御装置に含まれる本発明による筒内ガス状態取得装置は、所定の条件が成立する度に、以下のようにして、同特定気筒における圧縮行程開始時点におけるシリンダ内のガス状態を取得して、同シリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス量(質量)、圧縮行程開始時点における同シリンダ内の筒内絶対圧力等を求める。
【0060】
(1)筒内相対圧力検出値の取得
先ず、本装置は、クランクポジションセンサ68により得られる信号とカムポジションセンサ66により得られる上記G2信号とにより求められる吸気弁32の開閉タイミング(進角量)VTに基き、上記特定気筒の吸気弁32が閉弁する(開状態から閉状態に移行する)圧縮行程開始時点(所定の時点)におけるクランク角θcaを求めて、その値をクランク角θ(1)として設定する。
【0061】
そして、本装置は、図4に示すように、クランクポジションセンサ68により得られるクランク角θcaがクランク角θ(1)になると、その時点における筒内相対圧力センサ72により得られる筒内相対圧力検出値Pmeasを筒内相対圧力検出値Pmeas(1)としてRAM83に格納する。以降、本装置は、クランク角θcaが所定の一定間隔(計算間隔)Δθだけ進む度にクランク角θcaの値を順にクランク角θ(H) (H=2,3,・・・)として設定していくとともに、クランク角θcaがクランク角θ(H) (H=2,3,・・・)になる度にその時点における上記筒内相対圧力検出値Pmeasを筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=2,3,・・・)として順にRAM83に格納していく。
【0062】
本装置は、このような処理を上記特定気筒の点火プラグ37が点火されて同特定気筒が爆発行程に移行する圧縮行程終了時点まで継続して行い、同圧縮行程終了時点における上記変数Hの値をサンプル数Nとして設定する。このようにして、本装置は、所定の時点である圧縮行程開始時点から圧縮行程終了時点までの所定の区間内における複数の(N個の)筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を取得して順次RAM83に記憶する。
【0063】
(2)筒内吸入ガス量、及び筒内ガス平均温度の仮設定
次に、本装置は、上記複数の筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を取得した上記圧縮行程時(以下、この圧縮行程を「特定圧縮行程」と呼ぶ。)に上記特定気筒のシリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス(混合気)量(質量)Mcm、及び特定圧縮行程開始時点における同シリンダ内の筒内ガス平均温度Tcmを、それぞれ下記数10及び下記数11により仮設定する。
【0064】
【数10】
Mcm=fi+Mc
【0065】
【数11】
Tcm=Tm
【0066】
上記数10において、fiは上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点の直前に同特定気筒内に実際に噴射された燃料噴射量であり、Mcは上記各モデルを用いて推定されている同特定気筒の上記特定圧縮行程時における筒内吸入空気量である。上記数11において、Tmは上記インテークマニホールドモデルM4により推定されている上記特定気筒の吸気弁閉時(上記特定圧縮行程開始時点)の吸気管内温度Tmである。このように、上記数10及び上記数11を利用して、筒内吸入ガス量Mcm、及び筒内ガス平均温度Tcmをそれぞれ仮設定する手段が、仮設定手段を構成する。
【0067】
(3)仮の圧力補正値の算出、及び仮の筒内絶対圧力設定値の設定
次に、本装置は、上記のように仮設定した筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値を利用して、状態方程式に基く下記数12により上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点における仮の筒内絶対圧力P0(上記特定圧縮行程開始時点における上記特定気筒のシリンダ内のガスの状態の一つ)を求める(仮設定する)。
【0068】
【数12】
P0=(Mcm・Rg・Tcm)/Vcm(1)
【0069】
上記数12において、Rgはガス定数であり(上述した気体定数Rとは異なる)、Vcm(1)は、上記特定圧縮行程開始時点、即ちクランク角θcaが上記クランク角θ(1)となる時点における既知のピストン22の位置を利用して求まるシリンダ容積である。
【0070】
次に、本装置は、上記のようにして求めた仮の筒内絶対圧力P0の値と、上記特定圧縮行程開始時点における上記筒内相対圧力検出値Pmeas(1)とから、下記数13により図4に示す仮の圧力補正値ΔPを求める。
【0071】
【数13】
ΔP=P0−Pmeas(1)
【0072】
そして、本装置は、上記のようにして求めた仮の圧力補正値ΔPと、上記N個の筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)の各々とに基いて、下記数14により図4に示す上記所定の区間内におけるN個の仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を求める。このように、上記数13を利用して仮の圧力補正値ΔPを求めるとともに、下記数14を利用して仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を求める手段が、第1計算手段を構成する。
【0073】
【数14】
Pc(H)=Pmeas(H)+ΔP (H=1,2,・・・,N-1,N)
【0074】
(4)仮の筒内絶対圧力計算値の計算
次に、本装置は、上記のようにして仮設定した上記特定圧縮行程開始時点における上記特定気筒のシリンダ内のガスの状態のうちの仮の筒内絶対圧力P0の値、及び筒内吸入ガス量Mcmを初期条件として、エネルギー保存則に基づく下記数15〜下記数17、及び状態方程式に基いた下記数18により記述されたシリンダモデルにより、図4に示す上記所定の区間内におけるN個の仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を求める。
【0075】
【数15】
【0076】
【数16】
【0077】
【数17】
【0078】
【数18】
【0079】
上記数15はエネルギー保存則に基く基本式であって、上記特定気筒を模式的に表した図5に示すように、同数15において、Pcmは仮の筒内絶対圧力計算値、Vcmはシリンダ容積、Qはシリンダ21外部(シリンダ壁面、吸気ポート等)からシリンダ21内に伝達される単位時間当たりの熱伝達量、κは比熱比である。上記数16は、上記数15における熱伝達量Qを表す基本式であって、同数16において、Aは筒内表面積、hwは熱伝達率、Tcmは筒内ガス平均温度、Twは筒内壁面温度である。
【0080】
数17は所謂ウォッシーニ(Woschni)モデルを使用して上記数16における熱伝達率hwを表した式であって、同数17において、diはシリンダ内径、C1は定数(本例では、2.28)、Cwは平均ピストン速度である。上記数18は上記特定圧縮行程において特定気筒内に密閉されているガス(混合気)に適用される状態方程式に基く式であって、同数18において、Rgは上述した気体定数Rとは異なるガス定数、Mcmは筒内吸入ガス量(質量)である。
【0081】
ここで、シリンダ容積Vcm、シリンダ容積の時間微分値dVcm/dt、筒内表面積Aはクランクポジションセンサ68により得られるクランク角θcaに基いて求めることができ、平均ピストン速度Cwはエンジン回転速度Neに基いて求めることができ、筒内壁面温度Twは水温センサ69により得られる冷却水温THWにて代用することができる。また、比熱比κは筒内ガス平均温度Tcmの関数として表すことができる。
【0082】
従って、上記数15〜上記数18により記述されたシリンダモデルは、筒内吸入ガス量Mcm、及び時刻tにおける仮の筒内絶対圧力計算値Pcmの値が求められていると、上記数18により時刻tにおける筒内ガス平均温度Tcmを求めることができ、その結果、上記数17により時刻tにおける熱伝達率hwを求めることができる。そして、上記数16により時刻tにおける熱伝達量Qを求めることができ、その結果、理論上、上記数15により時刻(t+dt)における仮の筒内絶対圧力計算値Pcmを求めることができる。よって、筒内吸入ガス量Mcm、及び仮の筒内絶対圧力P0の値が初期条件(上記特定圧縮行程開始時点における値)として付与されると、上記シリンダモデルは、理論上、上記所定の区間内における仮の筒内絶対圧力計算値Pcmを順次求めることができる。
【0083】
実際には、本装置は、以下のようにして、上記所定の区間内におけるN個の仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を求める。先ず、上記数15において、d/dtを(d/dθ)・(dθ/dt)=(d/dθ)・ω (θはクランク角,ωはクランクシャフトの角速度(即ち、エンジン回転速度Ne))に書き改めると、下記数19が得られる。
【0084】
【数19】
【0085】
上記数19の両辺に(κ-1)/(ω・Vcm)を乗算して整理すると下記数20が得られる。
【0086】
【数20】
【0087】
ここで、上記数20を、クランク角θに関して計算間隔Δθをもって離散化するため、数20の左辺のdPcm/dθ,dκ/dθを、それぞれ下記数21,下記数22を用いて書き改め、さらに、数20におけるPcmをPcm(θ)、κをκ(θ)、VcmをVcm(θ)、dVcm/dθをdVcm(θ)/dθ、ωをω(θ)、QをQ(θ)にそれぞれ書き改めると、下記数23が得られる。
【0088】
【数21】
【0089】
【数22】
【0090】
【数23】
【0091】
また、上記数16において、AをA(θ)、hwをhw(θ)、TcmをTcm(θ)にそれぞれ書き改めると、下記数24が得られる。
【0092】
【数24】
【0093】
また、上記数17及び上記数18を書き改めると、それぞれ、下記数25及び下記数26が得られる。
【0094】
【数25】
【0095】
【数26】
【0096】
そして、本装置は、初期条件として、筒内吸入ガス量Mcmを上記のように仮設定された筒内吸入ガス量Mcmに設定し、上記仮の筒内絶対圧力P0の値を、クランク角θcaが上記クランク角θ(1)となる上記特定圧縮行程開始時点における仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(1)に設定することにより、上記数26によりクランク角θcaがクランク角θ(1)となるときにおける筒内ガス平均温度Tcm(1)を求めることができ、その結果、上記数25によりクランク角θcaがクランク角θ(1)となるときにおける熱伝達率hw(1)を求めることができる。また、上記筒内ガス平均温度Tcm(1)によりクランク角θcaがクランク角θ(1)となるときにおける比熱比κ(1)を求めることができる。なお、κ(0)はκ(1)と同一の値として設定される。
【0097】
また、本装置は、上記数24によりクランク角θcaがクランク角θ(1)となるときにおける熱伝達量Q(1)を求めることができ、その結果、上記数23によりクランク角θcaがクランク角θ(2)(クランク角θ(1)+Δθ)となるときにおける仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(2)を求めることができる。換言すれば、本装置は、仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(1)が求まれば、上記数23〜上記数26を使用することにより仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(2)を求めることができる。
【0098】
従って、上記数23〜上記数26を繰り返し使用することにより、本装置は、図4に示すように、上記所定の区間内におけるN個の仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を順次求めることができる。このように、上記数23〜上記数26を利用して仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を求める手段が、第2計算手段を構成する。
【0099】
(5)偏差指標値の計算
次に、本装置は、上記所定の区間におけるN個の仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H)とN個の仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)との偏差の程度(図4において多数のドットで示された領域の面積に応じて変化する値)を示す偏差指標値として、下記数27により表される値Eを採用する。このように、下記数27を利用して偏差指標値Eを求める手段が、偏差指標値計算手段を構成する。
【0100】
【数27】
【0101】
(6)筒内吸入ガス量Mcm、及び筒内ガス平均温度Tcmの同定
上述したように偏差指標値Eを求めた後、本装置は、上記偏差指標値Eが最小になるように、上記した(2)〜(5)の一連の各処理を繰り返し実行することにより、上記数10及び上記数11により仮設定した筒内吸入ガス量Mcm及び上記特定圧縮行程開始時点での筒内ガス平均温度Tcmを同定し、同定された筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値を、それぞれ真の値である確定筒内吸入ガス量Mcfin及び確定筒内ガス平均温度Tcfinとして設定する。かかる同定方法の詳細は後述する。
【0102】
そして、本装置は、上記数12において、Mcmの代わりに確定筒内吸入ガス量Mcfinの値を、Tcmの代わりに確定筒内ガス平均温度Tcfinをそれぞれ適用することにより、上記特定圧縮行程開始時点での筒内絶対圧力の真の値である確定筒内絶対圧力Pcfinを求め、上記特定圧縮行程開始時点での特定気筒のシリンダ内に吸入されているガスの真の状態を完全に取得する。このようにして、上記特定圧縮行程開始時点での特定気筒のシリンダ内に吸入されているガスの真の状態を取得する手段が、筒内ガス状態取得手段を構成する。
【0103】
また、これにより、本装置は、上記確定筒内吸入ガス量Mcfinから実際の燃料噴射量fiを減じることにより上記特定気筒の上記特定圧縮行程時における真の筒内吸入空気量を求め、この真の筒内吸入空気量の値と、上述した各モデルを用いて推定されている同特定気筒の同特定圧縮行程時における筒内吸入空気量Mcの値との比較により、先に説明した数7における比例係数c及び既燃ガス量dをそれぞれ求めるためにROM82に格納されている各テーブルを補正する。
【0104】
さらには、本装置は、下記数28により真の圧力補正値である確定圧力補正値ΔPfinを算出する。
【0105】
【数28】
ΔPfin=Pcfin - Pmeas(1)
【0106】
従って、本装置は、上記数28により確定圧力補正値ΔPfinを算出した時点以降、筒内相対圧力センサ72の出力値である筒内相対圧力検出値Pmeasに確定圧力補正値ΔPcfinを加算することにより、シリンダ21内の筒内絶対圧力を精度良く求めることができるようになり、内燃機関10の異常燃焼(例えば、ノッキング、ミスファイア等)の発生を精度良く検出できるようになる。このように、上記数28を利用して確定圧力補正値ΔPfinを求める手段が、圧力補正値取得手段を構成する。以上のようにして、上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点におけるシリンダ内のガス状態が取得される。
【0107】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本燃料噴射量制御装置、及び同燃料噴射量制御装置に含まれる本発明による筒内ガス状態取得装置の実際の作動について、電気制御装置80のCPU81が実行するルーチンをフローチャートにより示した図6〜図12を参照しながら説明する。
【0108】
(スロットルバルブ制御)
電気制御装置80のCPU81は、図6にフローチャートにより示したスロットルバルブ開度を制御するためのルーチンを所定時間(1msec)の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングとなると、CPU81はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んでアクセルペダル操作量Accp読み込む。次いで、CPU81はステップ610に進み、同ステップ610にて図3と同じテーブルを用いることにより上記読み込んだアクセルペダル操作量Accpに基づく暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を求める。
【0109】
次に、CPU81はステップ615に進んで変数Iを「64」に設定し、続くステップ620にて記憶値θr(I)にθr(I−1)の値を格納する。現時点では、変数Iは「64」であるから、記憶値θr(64)に記憶値θr(63)の値が格納される。次いで、CPU81はステップ625に進み、変数Iが「1」と等しくなったか否かを判定する。この場合、変数Iの値は「64」であるから、CPU81はステップ625にて「No」と判定してステップ630に進み、同ステップ630にて変数Iの値を「1」だけ減少し、その後上記ステップ620に戻る。この結果、ステップ620が実行されると、記憶値θr(63)に記憶値θr(62)の値が格納される。このような処理は、変数Iの値が「1」となるまで繰り返し実行される。
【0110】
その後、ステップ630の処理が繰り返されて変数Iの値が「1」となると、CPU81はステップ625にて「Yes」と判定してステップ635に進み、同ステップ635にて前記ステップ610にて求めた現時点における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を記憶値θr(0)に格納する。以上により、現時点からImsec前(0msec≦Imsec≦64msec,Iは整数)の暫定的な目標スロットルバルブ開度θr(I)(I=64,63,62,・・・,2,1,0)がRAM83内に記憶されることになる。
【0111】
次に、CPU81はステップ640に進み、同ステップ640にて記憶値θr(64)を最終的な目標スロットルバルブ開度θrとして設定し、続くステップ645にて実際のスロットルバルブ開度が目標スロットルバルブ開度θrと等しくなるように、スロットルバルブアクチュエータ43aに対し駆動信号を出力し、その後ステップ695にて本ルーチンを一旦終了する。
【0112】
以降においても、上記ルーチンの処理は1msecの経過毎に実行される。この結果、実際のスロットルバルブ開度が、所定時間T(=64msec)前のアクセルペダル操作量Accpに基づく目標スロットルバルブ開度θrと等しくなるように制御される。これにより、上記電子制御スロットルモデルM1による吸気弁閉時のスロットルバルブ開度TASの推定が可能となる。
【0113】
(燃料噴射量fiの計算、噴射指示)
CPU81は、吸気行程を迎える特定気筒のクランク角θcaが、その気筒の吸気上死点から所定クランク角度だけ前の角度(例えば、BTDC90°)になると、図7の燃料噴射量fiの計算ルーチンの処理をステップ700から開始してステップ705に進み、図2に示した各モデルに従って別途計算されている吸気弁閉時の吸気管圧力PMFWDに基づく筒内吸入空気量Mcを読み込む。なお、筒内吸入空気量Mcは、所定時間毎に繰り返し実行される図2に示した各モデルに従う図示しないルーチンにより求められている。
【0114】
次に、CPU81はステップ710に進んで、ステップ705にて読み込んだ筒内吸入空気量Mcの値と上記数1の右辺とに基づいて燃料噴射量fiを計算する。そして、CPU81はステップ715に進んで、ステップ710にて計算された燃料噴射量fiだけ燃料を噴射するように前記特定気筒に対するインジェクタ39に駆動信号を送出し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0115】
(筒内吸入ガス量の計算開始判定)
CPU81は、図8にフローチャートにより示した筒内吸入ガス量を計算するためのルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングとなると、CPU81はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「0」であるか否かを判定する。筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANは、その値が「1」のとき筒内相対圧力センサ72の出力に基いて筒内相対圧力検出値Pmeasの取得処理を実行していることを示し、その値が「0」のとき同筒内相対圧力検出値Pmeasの取得処理を実行していないことを示す。
【0116】
いま、後述する筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立しておらず、且つ、前記筒内相対圧力検出値Pmeasの取得処理を実行していないとして説明を続けると、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「0」になっている。従って、CPU81はステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立していて、且つ吸気行程を迎える特定気筒のクランク角θcaが上記開閉タイミング(進角量)VTに基いて計算される吸気弁閉時の角度より計算間隔Δθ(一定値)だけ前の角度になっているか否かを判定する。
【0117】
この筒内吸入ガス量等の計算開始条件は、冷却水温THWが所定温度以上であり、図示しない車速センサにより得られた車速が所定の高車速以上であり、スロットル弁開度TAの単位時間あたりの変化量が所定量以下である、機関が定常運転されている場合に成立する。更に、かかる計算開始条件に、前回の筒内吸入ガス量等の計算時点から所定時間以上が経過したこと、前回の筒内吸入ガス量等の計算時点から車両が所定距離以上運転されたこと、前回の筒内吸入ガス量等の計算時点から内燃機関10が所定時間以上運転されたことの任意の一つ、又は一つ以上を加えても良い。現段階では、上述したように、筒内吸入ガス量等の計算開始条件は成立していないから、CPU81はステップ810にて「No」と判定してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0118】
次に、上記筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立したものとして説明を続けると、CPU81はステップ810に進んだとき、特定気筒のクランク角θcaが吸気弁閉時の角度より計算間隔Δθだけ前の角度になっていると同ステップ810にて「Yes」と判定してステップ815に進み、筒内相対圧力取得処理を開始するため、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値を「1」に設定し、続くステップ820にて変数Hの値を「0」に設定するとともに、続くステップ825にて現時点でクランクポジションセンサ68により得られる前記特定気筒のクランク角θcaの値を変数θ1に格納した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0119】
以降、CPU81は図8のルーチンをステップ800から繰り返し実行するが、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」になっていることから、ステップ805に進んだとき、同ステップ805にて「No」と判定してステップ830に進み、前記特定気筒の点火プラグ37が点火される前であるか否か(現時点が特定気筒の特定圧縮行程終了時点より前であるか否か)を判定するようになる。現時点では、前記特定気筒は吸気弁閉時直前(特定圧縮行程開始直前)の状態にあるから、CPU81はステップ830にて「Yes」と判定してステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、特定気筒の特定圧縮行程が終了するまでステップ800,805,830,895の処理が繰り返し実行されて、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値は「1」に維持される。
【0120】
(筒内相対圧力等の取得)
一方、CPU81は図9に示した筒内相対圧力等の取得ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU81はステップ900から処理を開始してステップ905に進み、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」であるか否かを判定する。ここで、CPU81は、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「0」であれば直ちにステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了するが、現時点では先の図8のステップ815の処理により筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値は「1」になっているので、ステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、現時点でクランクポジションセンサ68により得られる前記特定気筒のクランク角θcaの値を変数θ2に格納する。
【0121】
次に、CPU81はステップ915に進んで、ステップ910の処理時点でのクランク角θcaの値が格納されている変数θ2の値から先の図8のステップ825の処理時点でのクランク角θcaの値が格納されている変数θ1の値を減算した値(角度)が上記計算間隔Δθ以上になっているか否かを判定する。現時点は先の図8のステップ825の処理を実行した直後であるから、現時点では変数θ2の値から変数θ1の値を減算した値が上記計算間隔Δθ未満であり、CPU81はステップ915にて「No」と判定して直ちにステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0122】
以降、CPU81は、変数θ2の値から変数θ1の値を減算した値が上記計算間隔Δθ以上になるまで、上記ステップ900〜ステップ915の処理を繰り返し実行する。そして、ステップ910の処理が繰り返されてクランク角θcaの増大とともに変数θ2の値が増大し、変数θ2の値から変数θ1の値を減算した値が上記計算間隔Δθに到達すると、CPU81はステップ915に進んだとき、「Yes」と判定してステップ920以降の筒内相対圧力等の取得処理を開始する。なお、この時点は、先の図8のステップ810にて「Yes」と判定した時点から計算間隔Δθだけ経過した時点であるので、特定気筒の吸気弁閉時(特定圧縮行程開始時点)に対応している。
【0123】
CPU81はステップ920に進むと、その時点での変数Hの値を「1」だけ増大した値を新たな変数Hとして格納する。現時点では、先の図8のステップ820の処理により変数Hの値は「0」になっているので、この処理により変数Hの値は「1」に設定される。次に、CPU81はステップ925に進み、現時点でのクランク角θcaが格納されている変数θ2の値をクランク角θ(H)に格納する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点でのクランク角θcaの値がクランク角θ(1)に格納される。
【0124】
次いで、CPU81はステップ930に進み、現時点での筒内相対圧力検出値Pmeasを筒内相対圧力検出値Pmeas(H)に格納する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点での筒内相対圧力検出値Pmeasが筒内相対圧力検出値Pmeas(1)に格納される。次に、CPU81はステップ935に進み、クランク角θ(H)の値と、クランク角θcaの関数f1とに基づいて得られるシリンダ容積の値をシリンダ容積Vcm(H)として設定する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点でのシリンダ容積の値がシリンダ容積Vcm(1)に格納される。
【0125】
次に、CPU81はステップ940に進み、クランク角θ(H)の値と、クランク角θcaの関数f2とに基づいて得られるシリンダ容積のクランク角についての微分値をシリンダ容積微分値dVcm(H)/dθとして設定する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点でのシリンダ容積微分値がシリンダ容積微分値Vcm(1)/dθに格納される。
【0126】
次いで、CPU81はステップ945に進み、クランク角θ(H)の値と、クランク角θcaの関数f3とに基づいて得られる筒内表面積の値を筒内表面積A(H)として設定する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点での筒内表面積の値が筒内表面積A(1)に格納される。
【0127】
次に、CPU81はステップ950に進んで、現時点でのエンジン回転速度Neの値を角速度ω(H)に格納する。これにより、上記特定圧縮行程開始時点でのエンジン回転速度Neの値が角速度ω(1)に格納される。そして、CPU81はステップ955に進んで、変数θ2の値を変数θ1として格納した後ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0128】
以降、CPU81は、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」である限りにおいて、ステップ910,915の処理を繰り返し実行する。ここで、先に述べたとおり筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値は特定圧縮行程が終了するまで「1」に維持されている。従って、現時点から特定圧縮行程が終了するまでの間、ステップ910の処理が繰り返されてクランク角θcaの増大とともに変数θ2の値が増大し、同変数θ2の値から既にステップ955にて設定されている変数θ1の最新値を減算した値が上記計算間隔Δθに到達する度ごとに、ステップ920以降の筒内相対圧力等の取得処理が実行される。
【0129】
この結果、特定圧縮行程開始時点以降、同特定圧縮行程終了時点までの間、クランク角θcaの値が計算間隔Δθだけ増大する毎に、変数Hが「1」ずつ増大するとともに、その各々の時点における各値、即ち、クランク角θ(H)、筒内相対圧力検出値Pmeas(H)、シリンダ容積Vcm(H)、シリンダ容積微分値Vcm(H)/dθ、筒内表面積A(H)、角速度ω(H) (H=1,2,3,・・・)が順次設定されていく。
【0130】
そして、上記特定気筒の点火プラグ37が点火されて上記特定圧縮行程が終了すると、CPU81は図8のステップ830に進んだとき、「No」と判定してステップ835に進み、現時点での変数Hの値をサンプル数Nとして格納する。次いで、CPU81はステップ840に進み、現時点にて水温センサ69により得られる冷却水温THWの値を筒内壁面温度Twとして設定し、続くステップ845にて、同ステップ845内に記載の式に基き、既に図9のステップ950にて算出されているN個の角速度ω(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)の平均値を平均回転速度Nemeanとして設定するとともに、続くステップ850にて、平均回転速度Nemeanの値と、エンジン回転速度Neの関数f4とに基いて得られる平均ピストン速度を平均ピストン速度Cwとして格納する。
【0131】
次に、CPU81はステップ855に進んで、上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点の直前に同特定気筒内に実際に噴射された燃料噴射量fiの値に、図2に示した各モデルに従う図示しないルーチンにより推定されている同特定気筒の同特定圧縮行程時における筒内吸入空気量Mcの値を加えた値を筒内吸入ガス量Mとして仮設定する。
【0132】
次いで、CPU81はステップ860に進み、図2に示したインテークマニホールドモデルM4に従う図示しないルーチンにより推定されている上記特定気筒の吸気弁閉時(上記特定圧縮行程開始時点)の吸気管内温度Tmの値を筒内ガス平均温度Tとして仮設定する。そして、CPU81はステップ865に進んで、前記筒内吸入ガス量Mの値を筒内吸入ガス量Mcmとして設定するとともに、続くステップ870にて前記筒内ガス平均温度Tの値を筒内ガス平均温度Tcmとして設定した後、ステップ875に進んで図10に示した偏差指標値の計算ルーチンを実行する。
【0133】
(偏差指標値の計算)
即ち、CPU81はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、先の図8のステップ865,870にてそれぞれ設定した筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値と、図9のステップ935にて既に設定されているシリンダ容積Vcm(1)の値と、上記数12の右辺に相当するステップ1005内に記載の式とに基いて上記特定圧縮行程開始時点における仮の筒内絶対圧力P0を算出する。
【0134】
次に、CPU81はステップ1010に進んで、仮の筒内絶対圧力P0の値を仮の筒内絶対圧力設定値Pc(1)として設定するとともに、続くステップ1015にて同仮の筒内絶対圧力P0の値を仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(1)として設定する。次いで、CPU81は1020に進み、筒内絶対圧力設定値Pc(1)の値と、図9の930にて既に設定されている筒内相対圧力検出値Pmeas(1)と、上記数13の右辺に相当するステップ1020内に記載の式とに基き仮の圧力補正値ΔPを算出する。
【0135】
次に、CPU81はステップ1025に進んで、偏差指標値Eの値を「0」にクリアするとともに、続くステップ1030にて変数Iを「1」に設定する。次いで、ステップ1035に進んで、図9のステップ930にて設定されている筒内相対圧力検出値Pmeas(I)の値と、ステップ1020にて算出した仮の圧力補正値ΔPと、上記数14の右辺に相当するステップ1035内に記載の式とに基き仮の筒内絶対圧力設定値Pc(I)を算出する。
【0136】
次に、CPU81はステップ1040に進んで、仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(I)の値(現時点では変数Iの値は「1」であり、ステップ1015にて設定した仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(1)の値)と、ステップ1005にて使用した筒内吸入ガス量Mcmの値と、図9のステップ935にて既に設定されているシリンダ容積Vcm(I)の値と、上記数26の右辺に相当するステップ1040内に記載の式とに基き筒内ガス平均温度Tcm(I)を算出する。
【0137】
次いで、CPU81はステップ1045に進み、前記筒内ガス平均温度Tcm(I)の値と、筒内ガス平均温度Tcmの関数f5とに基いて得られる比熱比を比熱比κ(I)として設定し、続くステップ1050にて、図8のステップ850にて設定した平均ピストン速度Cwの値と、ステップ1040にて使用した仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(I)の値と、ステップ1040にて算出した筒内ガス平均温度Tcm(I)の値と、上記数25の右辺に相当するステップ1050内に記載の式とに基いて熱伝達率hw(I)を算出する。
【0138】
次に、CPU81はステップ1055に進んで、図9のステップ945にて設定した筒内表面積A(I)の値と、前記熱伝達率hw(I)の値と、ステップ1040にて算出した筒内ガス平均温度Tcm(I)の値と、図8のステップ840にて設定した筒内壁面温度Twの値と、上記数24の右辺に相当するステップ1055内に記載の式とに基いて単位時間当たりの熱伝達量Q(I)を算出する。
【0139】
次いで、CPU81はステップ1060に進んで、ステップ1045にて設定したκ(I)の値及びκ(I-1)の値(現時点では変数Iの値は「1」であり、κ(0)の値はκ(1)の値と同一)と、ステップ1040にて使用したシリンダ容積Vcm(I)の値と、図9のステップ940にて設定したシリンダ容積微分値dVcm(I)/dθと、ステップ1040にて使用した仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(I)の値と、ステップ1055にて算出した熱伝達量Q(I)の値と、図9のステップ950にて設定した角速度ω(I)の値と、上記数23の右辺に相当するステップ1060内に記載の式とに基いて仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(I+1)を算出する。
【0140】
現時点では、変数Iの値は「1」であるので、上述したステップ1035〜1060では、仮の筒内絶対圧力設定値Pc(1)、筒内ガス平均温度Tcm(1)、比熱比κ(1)、熱伝達率hw(1)、熱伝達量Q(1)、及び仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(2)が算出・設定される。
【0141】
次に、CPU81はステップ1065に進み、その時点での偏差指標値Eの値に、仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(I)から仮の筒内絶対圧力設定値Pc(I)を減じた値を二乗した値を加えた値を新たな偏差指標値Eとして設定する。現時点では、偏差指標値Eの値は「0」であり、変数Iの値は「1」であるので、この処理により、偏差指標値Eの値は(Pcm(1)-Pc(1))2となる。
【0142】
そして、CPU81はステップ1070に進んで変数Iの値が図8のステップ835にて設定したサンプル数Nの値と等しくなったか否かを判定する。現時点では変数Iの値は「1」であるので、CPU81はステップ1070にて「No」と判定してステップ1075に進み、変数Iの値を「1」だけ増大し、その後ステップ1035に戻る。
【0143】
この結果、変数Iの値は「2」になり、続くステップ1035〜1060では、仮の筒内絶対圧力設定値Pc(2)、筒内ガス平均温度Tcm(2)、比熱比κ(2)、熱伝達率hw(2)、熱伝達量Q(2)、及び仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(3)が算出・設定される。ここで、ステップ1040にて使用される仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(2)としては、直前にステップ1060の処理を実行した際に計算した仮の筒内絶対圧力計算値Pcm(2)が使用される。
【0144】
次に、CPU81は再びステップ1065に進み、その時点での偏差指標値Eの値に(Pcm(2)-Pc(2))2の値を加えた値を新たな偏差指標値Eとして設定する。このような処理は、ステップ1075の処理が繰り返されて変数Iの値がサンプル数Nになるまで繰り返し実行される。これにより、偏差指標値Eが上記数27に示した式に基いた値となる。
【0145】
そして、変数Iの値がサンプル数Nになると、CPU81はステップ1070にて「Yes」と判定してステップ1095に進み、本ルーチンを終了するとともに、図8のステップ880に戻る。このように、図10の偏差指標値の計算ルーチンは、筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値を設定すると、同設定した筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値に基いた偏差指標値Eを計算するルーチンである。
【0146】
次いで、CPU81はステップ880に進むと、上述した図10のルーチンにより計算された偏差指標値Eの値を偏差指標値前回値E1に格納するとともに、続くステップ885にて筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値を「0」に設定した後、ステップ895に進んで図8のルーチンを一旦終了する。
【0147】
以降、CPU81は図8のルーチンをステップ800から繰り返し実行するが、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「0」になっているので、ステップ805に進んだとき「Yes」と判定してステップ810に進むようになる。この時点では、筒内吸入ガス量等の計算を終了した直後であって先に説明した筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立していないので、CPU81はステップ810にて「No」と判定してステップ895に進み本ルーチンを一旦終了する。この結果、次回の筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立する時点までステップ800,805,810,895の処理が繰り返し実行されて、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値は「0」に維持される。
【0148】
(偏差指標値最小化処理)
また、CPU81は図11及びこれに続く図12に示した偏差指標値を最小にするためのルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU81はステップ1100から処理を開始し、ステップ1102に進んで、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」から「0」に変化したか否かをモニタする。このとき、上記特定気筒の上記特定圧縮行程が終了し、上述した図8のステップ885にて筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」から「0」に変更されると、CPU81はステップ1102にて「Yes」と判定してステップ1104に進む。なお、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が変化していなければ、CPU81はステップ1102から図12のステップ1195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0149】
いま、上記特定気筒の上記特定圧縮行程が終了した直後であるとすると、図8のステップ885にて筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「1」から「0」に変更された直後であるから、CPU81はステップ1102からステップ1104に進み、その時点での筒内吸入ガス量Mの値に同定用補正量ΔMを加えた値を筒内吸入ガス量M(1)として設定するとともにその時点での筒内ガス平均温度Tの値を筒内ガス平均温度T(1)として設定し、続くステップ1106にて、その時点での筒内吸入ガス量Mの値から同定用補正量ΔMを値を減じた値を筒内吸入ガス量M(2)として設定するとともにその時点での筒内ガス平均温度Tの値を筒内ガス平均温度T(2)として設定し、続くステップ1108にて、その時点での筒内吸入ガス量Mの値を筒内吸入ガス量M(3)として設定するとともにその時点での筒内ガス平均温度Tの値に同定用補正温度ΔTを加えた値を筒内ガス平均温度T(3)として設定し、続くステップ1110にて、その時点での筒内吸入ガス量Mの値を筒内吸入ガス量M(4)として設定するとともにその時点での筒内ガス平均温度Tの値から同定用補正温度ΔTを減じた値を筒内ガス平均温度T(4)として設定する(現時点では、筒内吸入ガス量Mの値及び筒内ガス平均温度Tの値は、それぞれ図8のステップ855及びステップ860にて設定された値である。)。
【0150】
次に、CPU81はステップ1112に進んで変数Iを「1」に設定してステップ1114に進み、筒内吸入ガス量M(I)の値及び筒内ガス平均温度T(I)の値をそれぞれ筒内吸入ガス量Mcm及び筒内ガス平均温度Tcmとして設定する。現時点では変数Iの値は「1」であるので、筒内吸入ガス量M(1)の値及び筒内ガス平均温度T(1)の値がそれぞれ筒内吸入ガス量Mcm及び筒内ガス平均温度Tcmとして設定される。
【0151】
次いで、CPU81はステップ1116に進んで、先に説明した図10の偏差指標値の計算ルーチンを実行する。これにより、筒内吸入ガス量M(1)の値及び筒内ガス平均温度T(1)の値に基いた偏差指標値Eが算出される。次に、CPU81はステップ1118に進んで、前記偏差指標値Eの値を偏差指標値E(I)として設定する。現時点では、変数Iの値は「1」であるので前記偏差指標値Eが偏差指標値E(1)として設定される。
【0152】
次いで、CPU81はステップ1120に進み、変数Iの値が「4」と等しいか否かを判定する。現時点では、変数Iの値は「1」であるので、CPU81はステップ1120にて「No」と判定してステップ1122に進み、変数Iの値を「1」だけ増大し、その後ステップ1114に戻る。この結果、続くステップ1114〜1118にて、筒内吸入ガス量M(2)の値及び筒内ガス平均温度T(2)の値に基いた偏差指標値Eが算出され、同偏差指標値Eが偏差指標値E(2)として設定される。このような処理は、ステップ1122の処理が繰り返されて変数Iの値が「4」になるまで繰り返される。この結果、偏差指標値E(I)は筒内吸入ガス量M(I)の値及び筒内ガス平均温度T(I)に基いて計算される値になるように設定される(I=1,2,3,4)。
【0153】
そして、変数Iの値が「4」になると、CPU81はステップ1120にて「Yes」と判定して図12のステップ1124に進み、前記偏差指標値E(I) (I=1,2,3,4)のうち最小のものに対応する変数Iの値をIminとして設定するとともに、ステップ1126に進んで、最小偏差指標値E(Imin)からその時点での偏差指標値前回値E1(現時点では、図8のステップ880にて設定されている値)を減じた値を偏差指標値変化量ΔEとして設定する。
【0154】
次に、CPU81はステップ1128に進み、前記偏差指標値変化量ΔEの絶対値が最小化判定基準値ΔEref以上であるか否かを判定する。いま、偏差指標値変化量ΔEの絶対値が最小化判定基準値ΔEref以上であるとして説明を続けると、CPU81はステップ1128にて「Yes」と判定してステップ1130に進み、筒内吸入ガス量M(Imin)の値及び筒内ガス平均温度T(Imin)の値を、それぞれ筒内吸入ガス量M及び筒内ガス平均温度Tとして再設定するとともに、続くステップ1132にて上記最小偏差指標値E(Imin)を偏差指標値前回値E1として再設定した後、図11のステップ1104に戻る。
【0155】
この結果、続くステップ1104〜1110にて、筒内吸入ガス量M(I)及び筒内ガス平均温度T(I) (I=1,2,3,4)の各値が先のステップ1130にて設定された筒内吸入ガス量M及び筒内ガス平均温度Tに基いて再設定されて、続くステップ1112〜1126の処理が実行される。これにより、最小偏差指標値E(Imin)が更新されてより小さい値となり、更新された新たな最小偏差指標値E(Imin)から先のステップ1132にて設定された偏差指標値前回値E1を減じた値が新たな偏差指標値変化量ΔEとして設定される。
【0156】
そして、ステップ1128にて再度、前記新たな偏差指標値変化量ΔEの絶対値が上記最小化判定基準値ΔEref以上であるか否かが判定され、その結果、新たな偏差指標値変化量ΔEの絶対値が未だ上記最小化判定基準値ΔEref以上であれば、同新たな偏差指標値変化量ΔEの絶対値が上記最小化判定基準値ΔEref未満になるまで上述した処理が繰り返し実行される。
【0157】
その結果、偏差指標値変化量ΔEの絶対値が上記最小化判定基準値ΔEref未満になると、その時点での最小偏差指標値E(Imin)が偏差指標値Eの最小値であることになる。このとき、CPU81はステップ1128にて「No」と判定してステップ1134に進み、その時点での筒内吸入ガス量M(Imin)の値及び筒内ガス平均温度T(Imin)の値を、それぞれ確定筒内吸入ガス量Mcfin及び確定筒内ガス平均温度Tcfinとして設定するとともに、続くステップ1136にて、同確定筒内吸入ガス量Mcfinの値及び同確定筒内ガス平均温度Tcfinの値と、上記数12の右辺に相当するステップ1136内に記載の式とに基き確定筒内絶対圧力Pcfinを算出する。これにより、筒内吸入ガス量Mcm及び筒内ガス平均温度Tcmの同定が完了する。
【0158】
次いで、CPU81はステップ1138に進んで、前記確定筒内絶対圧力Pcfinの値と、図9のステップ930にて設定されている筒内相対圧力検出値Pmeas(1)と、上記数28の右辺に相当するステップ1138内に記載の式とに基いて確定圧力補正値ΔPfinを算出する。
【0159】
次に、CPU81はステップ1140に進んで、上記確定筒内吸入ガス量Mcfinから実際の燃料噴射量fiを減じることにより上記特定気筒の上記特定圧縮行程時における真の筒内吸入空気量を求め、この真の筒内吸入空気量の値と、上述した各モデルを用いて推定されている同特定気筒の同特定圧縮行程時における筒内吸入空気量Mcの値とを比較することにより、先に説明した吸気弁モデルM3を記述する上記数7における比例係数c及び既燃ガス量dをそれぞれ求めるためにROM82に格納されている各テーブルを補正する。そして、CPU81はステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0160】
以降、CPU81は図11及びこれに続く図12のルーチンを繰り返し実行するが、筒内相対圧力取得処理実行中フラグXHANの値が「0」に維持されているので、図11のステップ1102にて「No」と判定して図12のステップ1195に直接進んで本ルーチンを一旦終了するようになる。
【0161】
以上説明したように、本発明による筒内ガス状態取得装置の実施形態によれば、筒内相対圧力センサ72の出力に基いて、上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点におけるシリンダ内のガスの真の状態を精度良く取得することができた。
【0162】
また、上述した筒内吸入ガス量等の計算開始条件が成立する毎に、真の筒内吸入ガス量(Mcfin-fi)を求め、同真の筒内吸入ガス量(Mcfin-fi)と上記各モデルにより推定された筒内吸入空気量Mcとを比較して吸気弁モデルM3を記述する上記数7における比例係数c及び既燃ガス量dをそれぞれ求めるための各テーブルを補正する。この結果、上記各モデルにより構成される筒内吸入空気量推定装置による筒内吸入空気量Mcの推定精度を向上させることができた。
【0163】
また、確定圧力補正値ΔPfinが取得された後においては、筒内相対圧力センサ72の出力値である筒内相対圧力検出値Pmeasと同確定圧力補正値ΔPfinとに基いてシリンダ21内の筒内絶対圧力を精度良く求めることができるようになる。従って、内燃機関の異常燃焼(例えば、ノッキング、ミスファイア等)の発生を精度良く検出できるようになった。
【0164】
さらには、最初に仮設定される筒内吸入ガス量Mcmの値は、上記特定気筒の上記特定圧縮行程開始時点の直前に同特定気筒内に実際に噴射された燃料噴射量fiと上記各モデルを用いて推定されている同特定気筒の上記特定圧縮行程時における筒内吸入空気量Mcとを加算した値であり、最初に仮設定される筒内ガス平均温度Tcmの値は、上記インテークマニホールドモデルM4により推定されている上記特定気筒の吸気弁閉時(上記特定圧縮行程開始時点)の吸気管内温度Tmである。従って、最初に仮設定される筒内吸入ガス量Mcmの値、及び最初に仮設定される筒内ガス平均温度Tcmの値は、それぞれ、実際の真の値に近い値である可能性が高いので、偏差指標値Eが最小となるように筒内吸入ガス量Mcmの値及び筒内ガス平均温度Tcmの値を同定する際に実行される処理の繰り返し回数を少なくすることができた。
【0165】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、仮設定手段は、(特定圧縮行程時にシリンダに吸入されている)筒内吸入ガス量Mcmと、(特定圧縮行程開始時点における)筒内ガス平均温度Tcmとを仮設定するように構成されているが、前記筒内吸入ガス量Mcm及び前記筒内ガス平均温度Tcmのいずれか一方と、(特定圧縮行程開始時点における)仮の筒内絶対圧力P0とを仮設定するように構成してもよい。この場合、前記筒内吸入ガス量Mcm及び前記筒内ガス平均温度Tcmの他方の値は、上記数12を変形した式に基いて求めることができ、これにより、上記特定圧縮行程開始時点における上記特定気筒のシリンダ内のガスの状態が仮設定される。
【0166】
また、上記実施形態では、複数の(サンプル数N個の)仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)等が設定される圧縮行程の所定の区間の終期を特定圧縮行程終了時点(点火プラグにより点火される時点)に設定しているが、内燃機関10の運転状態に応じて所定の期間(例えば、アクセルペダルの操作量Accpが「0」となる期間)だけ燃料を噴射しない制御(所謂フューエルカット制御)が実行される場合、前記所定の区間の終期を、通常は特定圧縮行程終了時点に設定し、前記所定の期間内はピストンの位置が圧縮上死点に到達した時点に設定してもよい。
【0167】
また、上記実施形態では、エネルギー保存則、及び状態方程式に基くシリンダモデルを記述する上記数15〜上記数18のうちの熱伝達率hw(熱伝達量Q)を求めるための上記数17において、定数C1を一定値「2.28」に設定しているが、値C1を仮設定手段により仮設定し、筒内ガス状態取得手段により同値C1の真の値を求めるように(偏差指標値Eが最小となるように同値C1を同定するように)構成してもよい。
【0168】
また、上記実施形態では、第1計算手段は、筒内ガス状態取得手段が仮設定手段、第1計算手段、第2計算手段、及び偏差指標値計算手段が行う一連の各処理を繰返し実行させる前に予め取得してある圧縮行程の所定の区間内における複数の筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)に基いて、複数の仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を設定するように構成されているが、、前記第1計算手段を、前記筒内ガス状態取得手段が前記一連の各処理を繰返し実行する毎に、前記複数の筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を新たに取得して同新たに取得した複数の筒内相対圧力検出値Pmeas(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)に基いて前記複数の仮の筒内絶対圧力設定値Pc(H) (H=1,2,・・・,N-1,N)を設定するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による筒内ガス状態取得装置を含む燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒内燃機関に適用したシステムの概略構成図である。
【図2】 図1に示した電気制御装置が筒内吸入空気量を推定するために採用した各種モデルの接続関係を示した機能ブロック図である。
【図3】 図1に示したCPUが参照するアクセルペダル操作量と目標スロットルバルブ開度との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図4】 図1に示した特定気筒の圧縮行程におけるクランク角に対する、複数の筒内相対圧力検出値、複数の仮の筒内絶対圧力設定値、及び複数の仮の筒内絶対圧力計算値の各々に基く波形の一例を示した図である。
【図5】 シリンダモデルを表すために使用する変数を説明するためシリンダ及びその近傍を概念的に示した図である。
【図6】 図1に示したCPUが実行するスロットルバルブ開度を制御するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】 図1に示したCPUが実行する燃料噴射量を計算するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】 図1に示したCPUが実行する筒内吸入ガス量の計算を開始するか否かを決定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】 図1に示したCPUが実行する複数の筒内相対圧力検出値等を取得するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】 図1に示したCPUが実行する偏差指標値を計算するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】 図1に示したCPUが実行する偏差指標値を最小化するためのルーチンの前半部を示したフローチャートである。
【図12】 図1に示したCPUが実行する偏差指標値を最小化するためのルーチンの後半部を示したフローチャートである。
【符号の説明】
10…火花点火式多気筒内燃機関、20…シリンダブロック部(エンジン本体部)、21…シリンダ、25…燃焼室、31…吸気ポート、32…吸気弁、39…インジェクタ、41…吸気管、43…スロットルバルブ、68…クランクポジションセンサ、71…アクセル開度センサ、72…筒内相対圧力センサ、80…電気制御装置、81…CPU。
Claims (3)
- シリンダ内の圧力を所定の基準圧力からの相対圧力である筒内相対圧力検出値として検出する筒内相対圧力センサを備え、前記筒内相対圧力検出値に基いて前記シリンダ内に吸入されているガスの状態を取得する内燃機関の筒内ガス状態取得装置であって、
圧縮行程時に前記シリンダ内に吸入されている筒内吸入ガス量、同圧縮行程の所定の時点における同シリンダ内の筒内ガス温度、及び同所定の時点における同シリンダ内の筒内絶対圧力のうちの2つの値を仮設定することで同所定の時点における同シリンダ内に吸入されているガスの状態を仮設定する仮設定手段と、
前記仮設定された前記所定の時点におけるシリンダ内に吸入されているガスの状態から得られる同所定の時点におけるシリンダ内の仮の筒内絶対圧力の値と前記所定の時点における筒内相対圧力検出値との比較により仮の圧力補正値を算出し、前記所定の時点を含む前記圧縮行程の所定の区間内における複数の筒内相対圧力検出値と前記仮の圧力補正値とから同所定の区間内における同シリンダ内の複数の仮の筒内絶対圧力設定値を順次設定する第1計算手段と、
前記仮設定手段により仮設定された前記所定の時点におけるシリンダ内のガスの状態を初期条件として、エネルギー保存則に基いて求められた同シリンダについてのモデルを使用して前記所定の区間内におけるシリンダ内の複数の仮の筒内絶対圧力計算値を順次計算する第2計算手段と、
前記所定の区間内における前記複数の仮の筒内絶対圧力設定値と前記複数の仮の筒内絶対圧力計算値との偏差の程度を示す偏差指標値を計算する偏差指標値計算手段と、
前記偏差指標値が示す前記偏差の程度が小さくなるように前記仮設定する2つの値を逐次補正して、前記仮設定手段、前記第1計算手段、前記第2計算手段、及び前記偏差指標値計算手段が行う一連の各処理を、同偏差の程度が略最小になるまで繰返し実行させるとともに、同偏差の程度が略最小になった時点で前記仮設定されている前記2つの値をそれぞれ真の値として設定し、前記所定の時点におけるシリンダ内に吸入されているガスの真の状態を取得する筒内ガス状態取得手段と、
を備えた内燃機関の筒内ガス状態取得装置。 - 請求項1に記載の内燃機関の筒内ガス状態取得装置であって、
前記筒内ガス状態取得手段は、前記所定の時点におけるシリンダ内の真の筒内絶対圧力を取得するように構成され、
前記真の筒内絶対圧力の値と前記所定の時点における筒内相対圧力検出値との比較により真の圧力補正値を取得する圧力補正値取得手段を備えた内燃機関の筒内ガス状態取得装置。 - 請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の筒内ガス状態取得装置において、
前記所定の時点は、吸気弁が閉弁する圧縮行程開始時点に設定されるとともに、
前記所定の区間は、その始期が前記圧縮行程開始時点に、その終期が圧縮行程終了時点になるように設定された内燃機関の筒内ガス状態取得装置。
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