以下、本発明の内視鏡用可撓管および内視鏡の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の内視鏡を電子内視鏡(電子スコープ)に適用した場合の実施形態を示す全体図、図2は、図1に示す電子内視鏡が備える挿入部可撓管の可撓管に対応する部分の縦断面を示す拡大図である。以下、図1中、上側を「基端」、下側を「先端」として説明する。
図1に示すように、電子内視鏡10は、可撓性(柔軟性)を有する長尺物の挿入部可撓管1と、挿入部可撓管1の先端部に設けられた湾曲部12と、挿入部可撓管1の基端部に設けられ、術者が把持して電子内視鏡10全体を操作する操作部6と、操作部6に接続された接続部可撓管7と、接続部可撓管7の先端側に設けられた光源差込部8とで構成されている。
挿入部可撓管1と接続部可撓管7とは、それぞれ、中空部を有する(管状の)芯材の外周を外皮3で被覆した内視鏡用可撓管(すなわち、本発明の内視鏡用可撓管)で構成されている。
また、操作部6には、その側面に操作ノブ61、62が設置されている。この操作ノブ61、62を操作すると、挿入部可撓管1内に配設されたワイヤー(図示せず)が牽引されて、湾曲部12が4方向に湾曲し、その方向を変えることができる。
湾曲部12の先端部内側には、観察部位における被写体像を撮像する図示しない撮像素子(CCD)が設けられ、また、光源差込部8の先端部に、画像信号用コネクタ82が設けられている。この画像信号用コネクタ82は、ケーブルを介してモニタ装置(図示せず)に接続された光源プロセッサ装置(図示せず)に接続される。また、光源差込部8の先端部には、光源用コネクタ81が設置され、この光源用コネクタ81が光源プロセッサ装置に接続される。
光源プロセッサ装置から発せられた光は、光源用コネクタ81、および、光源差込部8内、接続部可撓管7内、操作部6内および挿入部可撓管1内に連続して配設されたライトガイド(図示せず)を通り、湾曲部12(挿入部可撓管1)の先端部より観察部位に照射され、照明する。このようなライトガイドは、例えば、石英、多成分ガラス、プラスチック等により構成される光ファイバーが複数本束ねられて構成されている。
前記照明光により照明された観察部位からの反射光(被写体像)は、撮像素子で撮像される。撮像素子では、撮像された被写体像に応じた画像信号が出力される。この画像信号は、挿入部可撓管1内、操作部6内および接続部可撓管7内に連続して配設され、撮像素子と画像信号用コネクタ82とを接続する画像信号ケーブル(図示せず)を介して、光源差込部8に伝達される。
そして、光源差込部8内および光源プロセッサ装置内で所定の処理(例えば、信号処理、画像処理等)がなされ、その後、モニタ装置に入力される。モニタ装置では、撮像素子で撮像された画像(電子画像)、すなわち動画の内視鏡モニタ画像が表示される。
<挿入部可撓管1>
図2に示すように、挿入部可撓管1は、芯材2と、その外周を被覆する外皮3とを有している。この挿入部可撓管1(芯材2)の空間24には、例えば、光ファイバー、電線ケーブル、ケーブルまたはチューブ類等の長尺部材(図中省略)が配設されている。
可撓管11に対応する芯材2は、螺旋管21と、螺旋管21の外周を被覆する網状管(編組体)22とで構成され、また、図示しないが、湾曲部12に対応する芯材2は、互いに回動自在に連結された複数(多数)の節輪と、該節輪の外周を被覆する網状管とで構成され、芯材2は、全体としてチューブ状の長尺物を構成している。
螺旋管21は、帯状材を、間隔25をあけて、螺旋状に旋回して形成されたものである。また、螺旋管21の内径は、その全長に亘ってほぼ均一となるように設定されている。螺旋管21および節輪の構成材料としては、それぞれ、例えば、ステンレス鋼、銅合金等が好ましく用いられる。
網状管(網状管22等)は、金属製または非金属製の細線23を複数並べたものを編組して形成されたものである。細線23の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、銅合金等が好ましく用いられる。また、網状管を構成する細線23のうち少なくとも1本を樹脂材料で被覆するようにしてもよい。
網状管22の外周には、編組された細線23の編み目により隙間26が形成されている。この隙間26は、螺旋管21の外周と重なる位置では凹部となり、螺旋管21の間隔25と重なる位置では空間24に連通する孔となって、芯材2の外周に多数の孔および凹部を形成している。
また、芯材2(挿入部可撓管1)の内部には、例えば、二硫化モリブデン、窒化ホウ素(BN)、4フッ化エチレン重合体(フッ素系樹脂)、黒鉛、フッ化炭素((CF)n)等の固体潤滑剤が配されている。この固体潤滑剤は、前述したような長尺部材の周囲に配されている。これにより、各長尺部材同士の間や、各長尺部材と芯材2との間における摺動抵抗(摩擦抵抗)を小さくすることができる。このため、挿入部可撓管1(可撓管11および湾曲部12)を湾曲させる際に、各長尺部材の芯材2の長手方向(軸方向)への移動が円滑になされ、その湾曲抵抗が小さいものとなる。また、ライトガイドを構成する光ファイバーの引張り、圧迫、挫屈が抑制され、その結果、損傷、破損等を効果的に防止することができる。
芯材2の外周には、外皮3が被覆されている。外皮3は、消化管のような管状臓器の内壁に直接接触する部位であり、体液等が挿入部可撓管1の内部に侵入するのを防止する機能を有する。
外皮3の内面には、多数の突出部(アンカー)4が外皮3から連続して内側に向かって突出形成されている。各突出部4は、芯材2の外周に形成された多数の孔および凹部内にそれぞれ進入している。前記凹部内に進入した突出部4の先端は、螺旋管21の外周に達するまで形成されている。また、前記孔内に進入した突出部4は、より長く形成され、その先端が螺旋管21の間隔25に入り込んでいる。
これらの突出部4によりアンカー効果が生じ、芯材2に対し外皮3が確実に固定される。このため、外皮3は、挿入部可撓管1が湾曲した場合にも、芯材2と密着した状態を維持し、芯材2の湾曲に合わせて十分に大きく伸縮する。このように大きく伸縮した外皮3の復元力は、強く発揮され、挿入部可撓管1の湾曲を復元させる力に大きく寄与する。
また、突出部4を形成することにより、外皮3と網状管22との結合力が強いので、繰り返し使用しても外皮3が網状管22から剥離し難い。したがって、挿入部可撓管1は、耐久性に優れる。
網状管22を構成する細線23のうちの少なくとも1本を、樹脂材料で被覆したものを用いる場合には、この被覆された樹脂材料(被覆層)の少なくとも一部は、溶融して外皮3に結合(溶着)する。
このような外皮3は、繰り返し施されるオートクレーブによる消毒・滅菌処理等の際に、高温高圧の水蒸気に曝されることから耐圧性、耐熱性そして水蒸気バリア性を有し、かつ、摩擦により体腔内の組織に損傷を与えることを防止するため、柔軟性(可撓性)を有する材料を主材料として構成されているのが好ましい。また、外皮3の表面は、外部からの摩擦などの力にも耐えうるように、耐磨耗性を有する材料を主材料として構成されているのが好ましい。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、外皮3が、樹脂材料を主として含む複数の樹脂層を有する積層体で構成され、前記複数の樹脂層の層間のうち少なくとも1つの層間に、水蒸気バリア性を有するバリア層が介在することにより、長期にわたり可撓管内部への水蒸気の侵入を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本実施形態の挿入部可撓管(本発明の内視鏡用可撓管)1では、図2に示すように、外皮3が、内層31と、最外層32と、これらの層間に介在するバリア層33とを有する積層体で構成されている。すなわち、外皮3の前記積層体は、内層31、バリア層33、最外層32が順次積層している。本実施形態では、内層31とバリア層33とが隣接し、バリア層33と最外層32とが隣接している。なお、内層31とバリア層33との間や、バリア層33と最外層32との間に他の層が介在していてもよい。
この積層体では、内層31および最外層32が、主として樹脂材料で構成された樹脂層であり、バリア層33が、水蒸気バリア性を有する材料で構成された層である。これにより、このバリア層33は水蒸気透過度が極めて低いので、オートクレーブ時にも挿入部可撓管1内への水蒸気侵入が防止される。また、内層31と最外層32との間にバリア層33が介在しているので、バリア層33は外部からの摩擦や、芯材2内の空間24に配設される光ファイバー、電線ケーブル、ケーブルまたはチューブ類等の長尺部材(図中省略)との摩擦を直接受けないので、バリア層33の損傷が防止され、長期間にわたり挿入部可撓管1内への水蒸気の侵入を防止することができる。
内層31の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリイミドのような各種可撓性を有する樹脂や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ラテックスゴムのような各種エラストマー等が挙げられ、これらのうちの、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。その中でも特に、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)のうちの少なくとも1種を主成分とするものであるのが好ましい。
内層31を構成する材料としてポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いた場合には、突出部4の形成を制御し易くなる。
また、内層31を構成する材料としてTPOを含むものを用いた場合には、特に、耐熱性がより向上する。内層31を構成する材料がTPOを含む場合の具体的な含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、60wt%以上であるのがより好ましく、70〜100wt%であるのがさらに好ましい。
また、内層31を構成する材料としてSEBSを含むものを用いた場合には、特に、耐薬品性がより向上する。内層31を構成する材料がSEBSを含む場合の具体的な含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、60wt%以上であるのがより好ましく、70〜100wt%であるのがさらに好ましい。
また、内層31を構成する材料として、TPOとSEBSとを併用したものを用いた場合には、その相乗効果により、耐熱性、耐薬品性の向上が顕著なものとなる。内層31を構成する材料がTPOとSEBSの両方を含む場合には、材料中におけるTPOとSEBSとの含有量の合計が、50wt%以上であるのが好ましく、60wt%以上であるのがより好ましく、70〜100wt%であるのがさらに好ましい。
また、内層31を構成する材料としてSEBSを含むものを用いた場合には、特に、柔軟性がより向上する。
TPOは、一般に、硬質相(ハードセグメント)と軟質相(ソフトセグメント)とを有している。硬質相を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、硬質相は、これらのうち1種または2種以上で構成されたものである。また、軟質相を構成する材料としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム加硫物(EPDM)、ブチルゴム、クロロプレン等が挙げられ、軟質相は、これらのうち1種または2種以上で構成されたものである。
内層31の平均厚さ(突出部4の部分を除く。)は、特に限定されないが、0.05〜0.8mm程度が好ましく、0.05〜0.4mm程度がより好ましい。
また、内層31を構成する材料は、ポリオレフィンを含むものであってもよい。内層31を構成する材料がポリオレフィンを含むものであると、外皮3全体として、適度な弾力性(弾発性)を有するものとすることができる。
内層31を構成する材料がポリオレフィンを含むものである場合、ポリオレフィンの配合量は、TPOまたはSEBS100重量部に対して、5〜70重量部であるのが好ましく、10〜50重量部であるのがより好ましい。これにより、前述の効果がより顕著なものとなる。
最外層32を構成するポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリイミドのような各種可撓性を有する樹脂や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ラテックスゴムのような各種エラストマー等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリプロピレンを用いるのが好ましい。これにより、外皮3は、耐薬品性、耐熱性を保持しつつ、より優れた耐摩耗性を発揮するものとなる。
このようなポリプロピレンは、ホモポリプロピレンと、ランダムポリプロピレンと、ブロックポリプロピレンとに大別でき、中でも、特に、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンを用いるのが好ましい。これにより、優れた耐摩耗性を保持しつつ、より耐熱性を向上させることができる。
最外層32を構成する材料中におけるポリオレフィンの含有量は、特に限定されないが、最外層32が主としてポリオレフィンで構成されたものであるのが好ましい。材料中におけるポリオレフィンの具体的な含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましい。これにより、より優れた耐摩耗性を発揮する。
なお、前述したようなポリオレフィンの他に、最外層32を構成する材料として、別の材料を含んでいてもよい。この場合、熱可塑性エラストマーを含むものであるのが好ましい。これにより、外皮3全体として、特に優れた柔軟性(可撓性)を発揮するものとなる。
また、最外層32を、熱可塑性エラストマーを主成分とする材料で構成することもできる。
熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、前述したようなTPOまたはSEBSを用いるのが好ましい。このような熱可塑性エラストマーは、最外層32がポリオレフィンを含む場合、ポリオレフィンとの親和性(相溶性)に優れるため、安定した最外層32を形成することができる。
最外層32を構成する材料中における熱可塑性エラストマーの配合量は、ポリオレフィン100重量部に対して、70重量部以下であるのが好ましく、50重量部以下であるのがより好ましい。これにより、前述の効果がより顕著なものとなる。これに対し、配合量が前記上限値を超えると、十分な耐摩耗性が得られない場合がある。
最外層32の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜0.5mm程度が好ましく、0.03〜0.3mm程度がより好ましい。最外層32の厚さが薄すぎると、ポリオレフィンの含有量や種類等によっては、十分な耐摩耗性が得られない場合がある。一方、最外層32の厚さが厚すぎると、ポリオレフィンの含有量や種類等によっては、挿入部可撓管1の自由な湾曲が妨げられる場合がある。
また、最外層32の厚さは、長手方向に沿って変化する部分を有するものであってもよいが、ほぼ一定であるのが好ましい。これにより、挿入部可撓管1を体腔に挿入する際の操作性がより向上し、患者の負担もより軽減される。
なお、最外層32は、その外周が、耐磨耗性の優れたコート層によりコートされていてもよい。このコート層を構成する材料は、優れた耐磨耗性を有するだけでなく、ある程度の水蒸気バリア性を有していてもよい。
バリア層33は、水蒸気バリア性を有している。ここで、水蒸気バリア性とは、水蒸気透過度が、好ましくは5g/m2/24hrs以下(40℃・90%RH)、より好ましくは1g/m2/24hrs/以下(40℃・90%RH)、更に好ましくは0.1g/m2/24hrs以下(40℃・90%RH)であることをいう。この水蒸気透過度は、JIS K7129(A法)に記載の方法により測定される。
このようなバリア層33を構成する材料としては、前記範囲内であれば特に限定はされないが、例えば、各種無機材料を主成分とするものが好ましい。これにより、バリア層33は優れた水蒸気バリア性を有し、その結果、挿入部可撓管1の内部への水蒸気の侵入が確実に防止される。
前記無機材料の中でも、特に、アルミニウム、シリカ、酸化チタン、フッ化マグネシウム、アルミナ、金、銀、白金、酸化タンタル、酸化ニオブ、窒化珪素のうちの少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。このような材料は、特に優れた水蒸気バリア性を有している。
前述したような無機材料を主成分とする層は最外層や最内層として用いると通常耐久性に問題を生じるが、本発明にかかる操作部可撓管1は、バリア層33を、樹脂製の複数の層の層間(本実施形態では内層31と最外層32との層間)に介在させることによって、前記問題を回避している。すなわち、バリア層33は、操作部可撓管1の外部や、芯材2の内部空間に配置されたケーブル等からの摩擦を直接受けないので、優れた水蒸気バリア性を長期間にわたって有する。
前述の無機材料は、様々な方法により比較的簡単に内層31や最外層32などの樹脂層の面に設けることができる。例えば、前述の無機材料でバリア層33を形成する方法としては、プラズマCVD、熱CVD、レーザCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の気相成膜法(乾式メッキ法)、電解メッキ法、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、無機材料で構成されたシート材の接合等を用いることができる。これらの中でも、特に、気相成膜法が好ましい。これにより、均一なバリア層を比較的簡単に形成することができ、また、比較的緻密なバリア層を形成することができるので、比較的薄いバリア層であっても優れた水蒸気バリア性を発揮できる。
バリア層33の厚さは、前述のような材料を用いてバリア層33が構成されている場合、1〜1000nmであるのが好ましく、10〜800nmであるのがより好ましく、100〜500nmであるのがさらに好ましい。
バリア層33の厚さが前記下限値未満であると、隣接する内層31や最外層32の表面粗さ等によっては、水蒸気バリア性を十分に発揮できないことがある。
一方、バリア層33の厚さが前記上限値を超えると、挿入部可撓管1を大きく曲げすぎた場合に、バリア層33に割れを生じて、水蒸気バリア性が低下してしまうおそれがある。
また、バリア層33は、外皮3の長手方向および周方向での全域にわたって設けられていることが好ましいが、内層31もしくは最外層32だけで特に優れた水蒸気バリア性を発揮する部分などには、必ずしも形成されていなくてもよい。
前述したような内層31と最外層32とバリア層33とを有する外皮3の平均厚さ(突出部4の部分を除く。)は、芯材2およびその内部に配置される各長尺部材を体液等の液体から保護することができ、かつ、挿入部可撓管1の湾曲性を妨げなければ、特に限定されないが、0.08〜0.9mm程度であるのが好ましく、0.1〜0.8mm程度であるのがより好ましく、0.3〜0.5mm程度であるのがさらに好ましい。
また、外皮3の厚さは、長手方向に沿って変化する部分を有するものであってもよいが、ほぼ一定であるのが好ましい。これにより、挿入部可撓管1を体腔に挿入する際の操作性がより向上し、患者の負担もより軽減される。
なお、外皮3の材料(外皮材料)中には、必要に応じて、例えば、可塑剤、無機フィラー、顔料、各種安定剤(酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、滑剤)、X線造影剤等の各種添加物を配合(混合)するようにしてもよい。
以上説明したような挿入部可撓管1は、例えば、まず、押出口を備えた押出成形機を用いて、内層の材料を押出して芯材に被覆し、ついで、バリア層の材料を蒸着等し、しかる後に、押出成形機で最外層の材料を押出して被覆することにより、積層構造を有する外皮を連続的に製造することも可能である。
また、押出成形機による内層や最外層の構成材料の吐出量や芯材の引き速度、バリア層の材料の蒸着時間や蒸着温度などの蒸着条件を調整することにより、各層の厚さを調節することもできる。
また、挿入部可撓管1は、例えば、内層31を中空の管体(チューブ)として別途製造し、これを芯材2に被せた後、加熱等により熱融着して製造するようにしてもよい。また、これと同様に、最外層32も中空の管体として別途製造し、これをバリア層33を被覆した芯材2に被せた後、加熱等により熱融着して製造するようにしてもよい。
押出成形時の材料温度は、特に限定されないが、130〜220℃程度であるのが好ましく、165〜205℃程度であるのがより好ましい。押出成形時の材料温度が、かかる温度範囲の場合、外皮材料は、外皮3への成形加工性に優れる。このため、外皮3の厚さは、その均一度が向上する。また、材料温度は、各層の材料によって異なっていてもよい。
(他の実施形態)
次に、挿入部可撓管(本発明の内視鏡用可撓管)1の他の実施形態を図3に基づいて説明する。
図3は、ぞれぞれ、挿入部可撓管(本発明の内視鏡用可撓管)の他の実施形態を示す縦断面図である。
以下、図3に示す挿入部可撓管1’について、それぞれ、前述した挿入部可撓管1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
<挿入部可撓管1’>
挿入部可撓管1’は、外皮3’が、内層31’と中間層34と最外層32’とを有する積層体で構成され、内層31’と中間層34との間にバリア層(第1のバリア層)35、中間層34と最外層32’との間にバリア層(第2のバリア層)33’が介在していること以外は、前記挿入部可撓管1と同様である。
内層31’、中間層34の構成(材料、形状、厚さ等)は、前述した実施形態での内層31と同様であり、最外層32’の構成(材料、形状、厚さ等)が前述した実施形態の最外層32と同様である。
また、バリア層33’、35の構成(材料、形状、厚さ等)は、前述した実施形態でのバリア層33と同様と同様である。なお、バリア層33’の構成(材料、形状、厚さ等)は、バリア層35と異なっていてもよい。
このように、外皮3’が3層以上の積層体で構成され、この積層体に複数のバリア層(バリア層33’、35)が設けられたものである場合には、例えば、万一1つのバリア層が損傷しても、他のバリア層が水蒸気バリア機能を発揮するので、挿入部可撓管1内への水蒸気の進入が確実に防止される。
このような構成の挿入部可撓管1’およびこれを備える電子内視鏡10も、前記と同様の効果が得られる。
なお、外皮3’は、図示の構成のものに限定されず、例えば、4層であってもよいし、5層以上の積層構造のもの等であってもよく、バリア層はこの積層構造の層間のうち少なくとも1つの層間に介在していればよい。
また、本実施形態では、中間層34が、内層31'と同様の材料で構成されたものとして説明したが、これに限定されず、例えば、内層31’が、TPOまたはSEBSを含む材料で構成され、中間層34が内層とは異なる材料で構成されたものであってもよい。この場合、中間層34は、最外層32’より柔軟性(弾力性)に優れた層とされているのが好ましい。これにより、中間層34が内層31’と最外層32’との間のクッション機能を発揮する。
以上、本発明の内視鏡用可撓管および内視鏡について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部材(各部)の構成は、同様の機能を有する任意のものに置換すること、もしくは、任意の構成を付加することもできる。
各前記実施形態では、内視鏡用可撓管として挿入部可撓管を代表に説明したが、本発明の内視鏡用可撓管は、接続部可撓管に適用することができ、また、内視鏡として電子内視鏡(電子スコープ)を代表に説明したが、本発明の内視鏡は、光学内視鏡(ファイバースコープタイプの内視鏡)に適用することができることは言うまでもない。
また、各前記実施形態では、医療用の内視鏡に用いられるものについて説明したが、本発明の内視鏡用可撓管は、工業用(産業用)に用いられる内視鏡に適用することもできる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.内視鏡の作製
(実施例1)
まず、幅3.2mmのステンレス製の帯状材を巻回して、外径9mm、内径7mmの螺旋管を作製し、この先端に節輪を接合した。次に、この外周部を、直径0.08mmのステンレス製の細線を10本ずつ並べたものを編組みした網状管で被覆して芯材を得た。
一方、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用意し、押出成形により、前述した芯材の外周に、TPOで構成された内層を形成した。次に、この内層の外周に、蒸着によりアルミニウムを被着させ、アルミニウムで構成されたバリア層(第1のバリア層)を形成した。しかる後に、ポリオレフィン(ホモポリプロピレン)を用意し、押出成形により、前述した第1のバリア層の外周に、ポリオレフィンで構成された最外層を形成した。
こうして、内層、バリア層(第1のバリア層)、最外層が順次積層されてなる積層体で構成された外皮を形成し、内視鏡用可撓管を作製した。このとき、外皮の平均厚さが0.45mm、内層の平均厚さが0.4mm、バリア層の平均厚さが300nm、最外層の平均厚さが0.05mm、内視鏡用可撓管の長さが2mであった。また、バリア層の水蒸気透過度は、0.1g/m2/24hrs(40℃・90%RH)であった。
なお、バリア層の蒸着は1×10−2Torrの減圧下で、160秒行った。また、内層、最外層の押出成形時における材料の温度は、190℃であった。
そして、前述の内視鏡用可撓管を用い、図1に示す内視鏡を作製した。
(実施例2〜6)
第1のバリア層を構成する材料、第1のバリア層の平均厚さを表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして内視鏡用可撓管を作製し、これを用い、図1に示す内視鏡を作製した。また、第1のバリア層の水蒸気透過度は、表1に示すごとくとなった。
(実施例7)
第1のバリア層と最外層との間に、中間層および第2のバリア層を介在させた以外、前記実施例1と同様にして内視鏡用可撓管を作製し、これを用い、図1に示す内視鏡を作製した。
その際、アルミニウムで構成された第1のバリア層を形成した後に、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)を用意し、押出成形により、前述した第1のバリア層の外周に、SEBSで構成された中間層を形成した。次に、アルミニウムを用意し、この中間層の外周に、蒸着により、アルミニウムで構成された第2のバリア層を形成した。しかる後に、ポリオレフィン(ホモポリプロピレン)を用意し、押出成形により、前述した第2のバリア層の外周に、ポリオレフィンで構成された最外層を形成した。
こうして、内層、第1のバリア層、中間層、第2のバリア層、最外層が順次積層されてなる積層体で構成された外皮を有する内視鏡用可撓管を作製した。
本実施例では、中間層の平均厚さを0.05mmとし、また、第2のバリア層の平均厚さを200nmとした。また、第2のバリア層の水蒸気透過度は、表1に示すごとくとなった。
なお、第2のバリア層の蒸着は1×10−2Torrの減圧下で、120秒行った。また、中間層の押出成形時における材料の温度は、190℃であった。
(実施例8)
第1のバリア層を設けない以外、前記実施例7と同様にして内視鏡用可撓管を作製し、これを用い、図1に示す内視鏡を作製した。その際、2個の押出口を備えた押出成形機を用いて、押出成形により、内層および中間層を同時に押出して、内層および中間層の積層体を芯材に被覆した。
(実施例9)
アルミニウム箔(7μm)を内層の外周に被覆して第1のバリア層とした以外は、前記実施例1と同様にして内視鏡用可撓管を作製した。
(比較例1)
第1のバリア層が設けられていない以外は、前記実施例1と同様にして内視鏡用可撓管を作製した。そして、この内視鏡用可撓管を用い、図1に示す内視鏡を作製した。
2.内視鏡の特性評価
2−1 水蒸気バリア性の評価
各実施例および各比較例で作製した内視鏡について、以下に示す方法で試験を行った。
各実施例および各比較例で作製した内視鏡を、3つずつ用意した。各内視鏡を、2.2気圧下に135℃で15分間、オートクレーブ滅菌する操作を100回繰り返し行った。
水蒸気バリア性試験では、一連の操作を行った後に、各内視鏡用可撓管内の水分侵入量を測定し、以下の3段階の基準に従い、評価した。
◎:水分の侵入が認められない。
○:ごく僅かな水分の侵入が認められた。
×:水分の進入が認められた。
2−2 内視鏡の操作性の評価
前述の2−1での操作後、各内視鏡の湾曲操作ノブを操作することにより、内視鏡用可撓管の湾曲部を湾曲させた。この湾曲操作におけるアングル力量を以下の3段階の基準に従って評価した。
◎:適度なアングル力量を有し、内視鏡としての使用に適する。
○:アングル力量がやや大きいが、内視鏡としての使用に問題なし。
×:アングル力量が非常に大きく、内視鏡としての使用に適さない。または破損により、内視鏡としての使用不可。
表2から明らかなように、各実施例の内視鏡は、いずれも、優れた水蒸気バリア性を長期にわたって有していた。すなわち、各実施例の内視鏡用可撓管は、優れた水蒸気バリア性を長期にわたって有していた。
これに対し、比較例の内視鏡は、本発明の実施例のものに比べて、水蒸気バリア性が劣っており、内視鏡用可撓管内への水蒸気の侵入を長期にわたって防止することが不可能であった。
また、表2から明らかなように、各実施例の内視鏡は、長期にわたり優れた操作性を有していた。
これに対し、比較例の内視鏡は、本発明の実施例のものに比べて、操作性が劣っていた。これは、内視鏡用可撓管への水蒸気の侵入によって、操作ノブに連結されたワイヤーと内視鏡用可撓管の内壁との潤滑が損なわれたことによるものと推察される。