JP2005119094A - サーマルヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】 発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において生じる不要な内部応力を可能な限り低減させることにより作動性能を確保することが可能なサーマルヘッドを提供する。
【解決手段】 絶縁層5と保護層6との間に高展延性の応力緩和層7を備えるように、サーマルヘッドの発熱部10Aを構成する。発熱・冷却サイクル過程において絶縁層5と保護層6との間に内部応力差が生じたとしても、その内部応力差が応力緩和層7の変形作用(延伸・収縮作用)を利用して緩和されるため、発熱部が応力緩和層を備えておらず、絶縁層と保護層との間に生じた内部応力差を緩和し得ない従来のサーマルヘッドとは異なり、発熱部10A中において内部応力が大きくなりすぎることが抑制される。これにより、発熱抵抗体層3の発熱特性の不安定化に起因する印画性能の不安定化や、発熱部10A中の層間剥離に起因する保護層6の剥離が防止される。
【選択図】 図2
【解決手段】 絶縁層5と保護層6との間に高展延性の応力緩和層7を備えるように、サーマルヘッドの発熱部10Aを構成する。発熱・冷却サイクル過程において絶縁層5と保護層6との間に内部応力差が生じたとしても、その内部応力差が応力緩和層7の変形作用(延伸・収縮作用)を利用して緩和されるため、発熱部が応力緩和層を備えておらず、絶縁層と保護層との間に生じた内部応力差を緩和し得ない従来のサーマルヘッドとは異なり、発熱部10A中において内部応力が大きくなりすぎることが抑制される。これにより、発熱抵抗体層3の発熱特性の不安定化に起因する印画性能の不安定化や、発熱部10A中の層間剥離に起因する保護層6の剥離が防止される。
【選択図】 図2
Description
本発明は、例えば感熱方式の印画装置等に発熱源として搭載されるサーマルヘッドに係り、特に、発熱抵抗体層を保護するための保護層を備えたサーマルヘッドに関する。
近年、熱エネルギーを利用して画像を形成する画像形成分野において、発熱源としてサーマルヘッドが広く使用されている。サーマルヘッドは、発熱用の発熱抵抗体層を備えたデバイスであり、このサーマルヘッドを搭載した画像形成装置(例えば感熱方式の印画装置)を使用すれば、発熱抵抗体層において発生した熱エネルギーを利用して画像形成用媒体(例えば感熱紙などの印画媒体)に画像を形成(印画)することが可能である。
図8は、従来のサーマルヘッドの主要部(発熱部100A)の断面構成を表している。この発熱部100Aは、図8に示したように、基板101上に、蓄熱用のグレーズ層102と、発熱用の発熱抵抗体層103と、所定のギャップGを挟んで互いに対向配置された通電用の一対の電極層104(104A,104B)と、絶縁用の絶縁層105と、保護用の保護層106とがこの順に積層された積層構造を有している。なお、図8では、一対の電極層104を1組だけ示しているが、この一対の電極層104は図中のY軸方向に沿って複数組に渡って並列配置されている。
この発熱部100Aを構成する絶縁層105および保護層106の機能に関して詳細に説明すれば、絶縁層105は、保護層106が低抵抗性(高導電性)の材料により構成されている場合に、その保護層106が電極層104と電気的に導通することを防止するために、それらの保護層106と電極層104との間を電気的に分離(絶縁)するためのものである。また、保護層106は、サーマルヘッドを使用して印画媒体に画像を印画する際に、その印画媒体と接触することに起因して発熱抵抗体層103や電極層104が磨耗または破損することを防止するためのものである。
この保護層106に要求される特性としては、例えば、(1)上記したように発熱抵抗体層103や電極層104を保護する上で、印画媒体と接触した際に生じる物理的ダメージに耐え得る程度の耐磨耗性、(2)発熱抵抗体層103において発生した熱エネルギーに耐え得る程度の耐熱性、(3)上記した物理的ダメージに起因して下地(絶縁層105)から剥離し得ない程度の密着性の3つが挙げられる。これらの耐磨耗性、耐熱性ならびに密着性を考慮した上で、従来より、例えば、ケイ素(Si)を含むセラミックを使用して保護層106を構成する技術(例えば、特許文献1,2参照)が提案されている。このケイ素を含むセラミックとして、例えば、シラン(SiH4 )、ジボラン(B2 H6 )およびホスフィン(PH3 )等を使用してプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )で成膜されたケイ素−ホウ素ーリン化合物(SiBP)は、耐磨耗性および耐熱性に優れている上、成膜時に内部応力が小さくなる特性に起因して密着性にも優れている
特開平06−099601号公報
特許第2786262号明細書
ところで、サーマルヘッドの作動性能を確保するためには、例えば、以下の2つの理由により、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において発熱部100A中に生じる不要な内部応力(歪み)を可能な限り低減させる必要がある。この場合には、特に、発熱部100Aを構成する一連の構成要素のうち、他の構成要素よりも大きな厚さを有するために内部応力が大きくなりやすい絶縁層105や保護層106に関して内部応力を低減させることが重要である。
第1に、発熱部100A中に生じた内部応力が大きくなりすぎると、この内部応力に起因して発熱抵抗体層103において抵抗ドリフトが生じ、その発熱抵抗体層103の発熱特性が経時変化するため、サーマルヘッドの印画性能が不安定化してしまう。この場合には、サーマルヘッドの印画性能が不安定化する結果、さらに、サーマルヘッドの印画寿命が短くなることも想定される。
第2に、発熱部100A中に内部応力が生じた結果、例えば、絶縁層105と保護層106との間の内部応力差が大きくなりすぎると、その発熱部100Aにおいて層間剥離が生じ、すなわち保護層106が絶縁層105から剥離してしまう。保護層106が剥離すると、発熱抵抗体層103や電極層104が物理的ダメージを受けやすくなるため、サーマルヘッドが故障しやすくなる。
なお、発熱部100A中の内部応力を低減させる上では、例えば、上記した先行技術、すなわちプラズマCVDを使用してケイ素−ホウ素ーリン化合物(SiBP)を成膜することにより保護層106を形成する技術が有用であると考えられる。しかしながら、この技術を利用して制御することが可能な保護層106の内部応力は、あくまで成膜直後の内部応力のみ(すなわち初期内部応力)であり、サーマルヘッドの発熱・冷却サイクルの繰り返し過程において発熱部100A中に生じる内部応力を低減させ得るものではない。したがって、サーマルヘッドの作動特性を確保する上では、発熱・冷却サイクルの繰り返し過程前の発熱部100A中の内部応力だけでなく、その発熱・冷却サイクルの繰り返し過程において発熱部100A中に生じる内部応力まで制御する観点において、未だ改善の余地がある。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において生じる不要な内部応力を可能な限り低減させることにより、作動性能を確保することが可能なサーマルヘッドを提供することにある。
本発明に係るサーマルヘッドは、発熱抵抗体層と、この発熱抵抗体層に接続され、所定のギャップを挟んで互いに対向配置された一対の電極層と、これらの発熱抵抗体層および一対の電極層を覆うように設けられた絶縁層と、この絶縁層を覆うように設けられた保護層と、絶縁層と保護層との間に設けられ、少なくとも保護層の内部応力を緩和させるための応力緩和層とを備えたものである。
本発明に係るサーマルヘッドでは、絶縁層と保護層との間に応力緩和層が設けられているため、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において保護層とその周辺(例えば絶縁層)との間に内部応力差が生じたとしても、その内部応力差が応力緩和層の変形作用(延伸・収縮作用)を利用して緩和される。これにより、保護層およびその周辺において内部応力が蓄積され、その内部応力が大きくなりすぎることが抑制される。
本発明に係るサーマルヘッドによれば、応力緩和層を備えた構成的特徴に基づき、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において保護層とその周辺(例えば絶縁層)との間に生じた内部応力差が緩和され、その内部応力が大きくなりすぎることが抑制されるため、応力緩和層を備えておらず、保護層とその周辺(例えば絶縁層)との間に生じた内部応力差を緩和し得ない従来のサーマルヘッドとは異なり、発熱抵抗体層の発熱特性の不安定化に起因する印画性能の不安定化や層間剥離に起因する保護層の剥離が防止される。したがって、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において生じる不要な内部応力を可能な限り低減させることにより、サーマルヘッドの作動特性を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係るサーマルヘッドの構成について説明する。図1は、サーマルヘッド10の外観構成を表している。
本実施の形態に係るサーマルヘッド10は、例えば、感熱方式の印画装置(すなわちプリンタ)などに発熱源として搭載されるデバイスである。このサーマルヘッド10は、例えば、図1に示したように、発熱部10Aと、この発熱部10Aを駆動させるための駆動部10Bとを備え、発熱部10Aが駆動部10Bに搭載された構成を有している。
駆動部10Bは、発熱部10Aに通電して駆動させることにより、その発熱部10Aの駆動状態を制御するものである。この駆動部10Bは、例えば、アルミニウム(Al)製の放熱板11に対してプリント基板(PCB;Print Circuit Board )12が部分的に重なるように連結されており、このプリント基板12の一方の面(上面)にドライバIC(Integrated Curcuit)13が取り付けられ、かつ他方の面(下面)に外部接続用のコネクタ14が取り付けられた構成を有している。このドライバIC13は、発熱部10Aを駆動させるためのデバイスであり、例えば、IC樹脂膜15中に埋設されている上、さらに、プリント基板12の一方の面に取り付けられたICカバー16によりIC樹脂膜15と共に覆われている。
発熱部10Aは、駆動部10Bから通電されることにより駆動して発熱するものであり、例えば、シリコン系の接着剤17を介して駆動部10Bの放熱板11に固定されている。なお、発熱部10Aの詳細な構成については後述する。
次に、図1〜図3を参照して、発熱部10Aの詳細な構成について説明する。図2および図3は発熱部10Aの詳細な構成を拡大して表しており、図2は断面構成を示し、図3は平面構成を示している。なお、図2では、図3に示したII−II線に沿った断面構成を示している。
発熱部10Aは、例えば、図2に示したように、例えば酸化アルミニウム(Al2 O3 ;アルミナ)製の基板1上に、グレーズ層2と、発熱抵抗体層3と、一対の電極層4と、絶縁層5と、保護層6とがこの順に積層された積層構造を有し、絶縁層5と保護層6との間に、少なくとも保護層6の内部応力を緩和させるための応力緩和層7が設けられた構成を有している。
グレーズ層2は、発熱抵抗体層3において発生した熱を蓄熱することにより、その熱が基板1へ逃げないようにするためのものであり、例えば、ガラスなどの低熱伝導性材料により構成されている。
発熱抵抗体層3は、電極層4を介して通電されることより発熱するものであり、例えば、多結晶シリコン(Poly−Si)を含んで構成されている。この多結晶シリコンとしては、例えば、ホウ素(B)がドープされたP型の多結晶シリコンや、リン(P)がドープされたn型の多結晶シリコンなどが挙げられる。
一対の電極層4は、発熱抵抗体層3を通電させるためのものであり、所定のギャップGを挟んで互いに対向配置された電極層4A,4Bを含んで構成されている。これらの電極層4A,4Bは、例えば、いずれもアルミニウム(Al)などの高導電性材料により構成されている。
絶縁層5は、電極層4と保護層6との間で電気的に導通することを防止するために、それらの電極層4と保護層6との間を電気的に分離(絶縁)するためのものであり、例えば、酸化ケイ素(SiO2 )や窒化ケイ素(SiN)などの絶縁性材料により構成されている。なお、絶縁層5は、保護層6と電極層4との間だけでなく、応力緩和層7と電極層4との間を電気的に分離する機能も担っている。
保護層6は、サーマルヘッド10を使用して印画媒体に画像を印画する際に、その印画媒体と接触することに起因して発熱抵抗体層3や電極層4が磨耗または破損することを防止するためのものである。この保護層6は、例えば、ケイ素(Si)、ホウ素(B)およびリン(P)を有する材料を含んで構成されており、具体的にはシラン(SiH4 )、ジボラン(B2 H6 )およびホスフィン(PH3 )等を使用してプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )で成膜されたケイ素−ホウ素ーリン化合物(SiBP)により構成されている。この保護層6は、例えば、絶縁層5の厚さの5倍程度の厚さを有している。
応力緩和層7は、サーマルヘッド10が発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において発熱部10A中に生じる不要な内部応力(歪み)を緩和させるためのものである。具体的には、応力緩和層7は、上記したように、発熱部10Aを構成する主要な構成要素(発熱抵抗体層3,電極層4,絶縁層5,保護層6)のうちの少なくとも保護層6の内部応力を緩和させるためのものであり、好ましくは絶縁層5および保護層6の双方の内部応力を緩和させるためのものである。
この応力緩和層7は、高展延性を有する材料を含んで構成されており、例えば、少なくとも保護層6の伸び率よりも大きい伸び率を有する材料、好ましくは絶縁層5および保護層6の双方の伸び率よりも大きい伸び率を有する材料を含んで構成されている。この種の材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)、バリウム(Ba)、タンタル(Ta)および白金(Pt)を含む群のうちの少なくとも1種の金属や、上記した一連の金属を含む群のうちの少なくとも1種の合金などが挙げられる。なお、上記した「伸び率」とは、外部応力に対する伸び率であり、すなわち外部応力を付与された際に、その外部応力に応じてどれだけ変形(延伸)したかを表す物理特性値である。
また、応力緩和層7は、例えば、少なくともギャップGに対応する領域に設けられている。具体的には、応力緩和層7は、例えば、図2に示したように、ギャップGに対応する領域に設けられた中央部7A(第1の応力緩和層)と、この中央部7Aに連結され、一対の電極層4(4A,4B)に対応する領域に設けられた側方部7B(第2の応力緩和層)とを含んで構成されている。すなわち、応力緩和層7は、例えば、X軸方向に沿って、一方の電極層4A上からギャップG上を経由して他方の電極層4B上まで連続的に延在しており、全体としてほぼ一律な厚さを有している。
この発熱部10Aでは、例えば、図3に示したように、一対の電極層4(4A,4B)がY軸方向に沿って複数組に渡って並列配置されており、この電極層4の各組ごとに発熱抵抗体層3が同方向に沿って複数に渡って並列配置されている。一対の電極層4のうち、一方の電極層4Aはコモン電極として機能するものであり、電極層4の各組間で互いに連結されているのに対して、他方の電極層4Bはリード電極として機能するものであり、電極層4の各組ごとに互いに分離されている。このリード電極として機能する各電極層4Bは、駆動部10BのドライバIC13(図1参照)に接続されており、このドライバIC13を通じて互いに独立して通電可能になっている。応力緩和層7は、例えば、一対の電極層4の並列方向(Y軸方向)に沿って、その電極層4の各組を覆うように連続的に延在している。なお、図3では、発熱抵抗体層3、電極層4(4A,4B)および応力緩和層7の積層方向における位置関係を見やすくするために、絶縁層5および保護層6の図示を省略していると共に、応力緩和層7に網掛けを施している。
次に、図1〜図3を参照して、サーマルヘッド10の動作について説明する。
このサーマルヘッド10では、例えば、感熱方式の印画装置等に駆動部10Bのコネクタ14を介して接続された状態において、画像パターン情報に基づいてドライバIC13を通じて電極層4(4A,4B)が通電されると、この電極層4から供給された電流に基づいて発熱抵抗体層3が発熱することにより、印画用の熱が発生する。このとき発生した熱は、絶縁層5および保護層6内を経由したのち、最終的に印画媒体(図示せず)の印画エリアまで伝導する。
この際、サーマルヘッド10が発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において、発熱時の熱膨張現象や冷却時の収縮現象等に起因して発熱部10A中に不要な内部応力(歪み)が生じると、その発熱部10A中に生じた内部応力が、高展延性を有する応力緩和層7の変形作用(延伸・収縮作用)に基づいて低減する。具体的には、例えば、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において絶縁層5および保護層6の双方中に内部応力が生じ、それらの絶縁層5と保護層6との間に内部応力差が生じたとしても、その内部応力差に基づいて応力緩和層7が延伸・収縮するため、その応力緩和層7の延伸・収縮作用を利用して内部応力差が緩和される結果、発熱部10A中の内部応力が低減する。
本実施の形態に係るサーマルヘッド10では、図1〜図3に示したように、絶縁層5と保護層6との間に高展延性の応力緩和層7を備えるように発熱部10Aを構成したので、「サーマルヘッド10の動作」として上記したように、例えば、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において絶縁層5と保護層6との間に内部応力差が生じたとしても、その内部応力差が応力緩和層7の延伸・収縮作用を利用して緩和される結果、発熱部10A中の内部応力が低減する。この場合には、発熱部100Aが応力緩和層7を備えておらず、絶縁層105と保護層106との間に生じた内部応力差を緩和し得ない従来のサーマルヘッド(図8参照)とは異なり、発熱部10A中において内部応力が大きくなりすぎることが抑制されるため、その内部応力が大きくなりすぎることに起因して生じる不具合、すなわち上記「発明が解決しようとする課題」の項において説明した発熱抵抗体層3の発熱特性の不安定化に起因する印画性能の不安定化や発熱部10A中の層間剥離に起因する保護層6の剥離が防止される。したがって、本実施の形態では、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において生じる不要な内部応力を可能な限り低減させることにより、サーマルヘッド10の作動特性を確保することができる。これにより、サーマルヘッド10の印画寿命を長期化することができると共に、サーマルヘッド10の故障を防止することもできる。
なお、本実施の形態に係るサーマルヘッド10に関する効果に関して補足すれば、発熱部10A中において生じる内部応力差は、上記した絶縁層5と保護層6との間に限らず、保護層6と他の構成要素(例えば発熱抵抗体層3や電極層4)との間や、保護層6を除く他の構成要素間(例えば電極層4と絶縁層5との間)においても生じ得る。しかしながら、発熱部10Aを構成する一連の構成要素に関して内部応力の発生程度を考慮した場合、一般に、他の構成要素よりも大きな厚さを有する絶縁層5や保護層6において内部応力が大きくなりやすいため、これらの絶縁層5や保護層6の伸び率よりも大きい伸び率を有するように応力緩和層7を構成しておけば、結果として、応力緩和層7を利用して発熱部10A全体の内部応力を効果的に緩和させることが可能となるのである。
特に、本実施の形態では、プラズマCVDで成膜されたケイ素−ホウ素ーリン化合物(SiBP)を使用して保護層6を構成することにより、成膜直後の保護層6の内部応力が可能な限り低減する。したがって、上記したように、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において保護層6中に生じる内部応力を可能な限り低減させることが可能な上、さらに発熱・冷却サイクルの繰り返し過程前の保護層6中の初期内部応力も可能な限り低減させることが可能なため、発熱部10A中の不要な内部応力を極めて低減させることができる。
また、本実施の形態では、図3に示したように、応力緩和層7が電極層4の各組を覆うように連続的に延在しているので、発熱源としての発熱抵抗体層3を被覆している応力緩和層7の被覆面積が大きくなり、その大きな被覆面積に応じて応力緩和層7の延伸・収縮性が向上する。したがって、この観点においても、応力緩和層7を利用して発熱部10A中の内部応力を効果的に緩和させることができる。
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
上記実施の形態において図1〜図3に示した本発明のサーマルヘッドを使用して作動特性試験を行ったところ、以下の結果が得られた。すなわち、基板(アルミナ(Al2 O3 ))/グレーズ層(ガラス)/発熱抵抗体層(ホウ素がドープされたP型の多結晶シリコン(Poly−Si);幅=100μm)/電極層(アルミニウム(Al);幅=100μm,ギャップ長=113μm)/絶縁層(酸化ケイ素(SiO2 ))/応力緩和層(アルミニウム(Al);厚さ=0.5μm)/保護層(ケイ素−ホウ素−リン化合物(SiBP))の構成となるようにサーマルヘッドを製造したのち、このサーマルヘッドを使用してステップストレス試験(SST;Step Stress Test)を実施した。上記した「幅」および「長さ」とは、それぞれ図1〜図3に示したY軸方向の寸法およびX軸方向の寸法である。このステップストレス試験としては、パルス幅=0.5msec、パルス周期=1.0msec、印加時間=1分間の条件でサーマルヘッドに多数回に渡って連続的に電力を変化させながら印加し、電力印加時ごと(印加時間ごと)にサーマルヘッドの抵抗値を測定した。そして、電力印加前の抵抗値(初期抵抗値R1)と電力印加後の抵抗値(試験後抵抗値R2)とを随時比較することにより、サーマルヘッドの抵抗特性変化を追跡した。この際、初期抵抗値R1に対する試験後抵抗値R2の変化率(抵抗変化率)が±3%を越えるときの印加電力を抵抗特性変化の判定基準とした。なお、本発明のサーマルヘッドの抵抗特性変化を調べる際には、その性能を比較評価するために、応力緩和層を備えていない点を除いて本発明のサーマルヘッドと同様の構成となるように従来のサーマルヘッド(図8参照)を製造し、この従来のサーマルヘッドに関しても同様のステップストレス試験を実施して抵抗特性変化を調べた。
本発明のサーマルヘッドおよび従来のサーマルヘッドの双方に関してステップストレス試験を実施し、初期抵抗値R1に対する試験後抵抗値R2の変化率([(R2−R1)/R1]×100)が±3%に至ったときの印加電力を調べたところ、その印加電力は従来のサーマルヘッドに関して30W/mm2 であるのに対して、本発明のサーマルヘッドに関して40W/mm2 であり、従来よりも本発明において大きくなった。また、本発明のサーマルヘッドでは、ステップストレス試験後において、保護層の剥離に代表される層間剥離は観察されなかった。このことから、本発明のサーマルヘッドでは、層間剥離が生じない上、従来のサーマルヘッドよりも抵抗特性が安定化するため、発熱・冷却サイクルを繰り返す過程において生じる不要な内部応力を可能な限り低減させることにより作動性能を確保できることが確認された。
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
具体的には、例えば、上記実施の形態では、図2に示したように、応力緩和層7が全体としてほぼ一律な厚さを有し、すなわち応力緩和層7を構成する中央部7Aの厚さと側方部7Bの厚さとが互いにほぼ等しくなるようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、それらの中央部7Aの厚さと側方部7Bの厚さとの間の関係は自由に変更可能である。例えば、図4に示したように、中央部7Aの厚さが側方部7Bの厚さより大きくなるようにしてもよい。この場合においても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、厚さの差異に基づいて中央部7Aの延伸・収縮作用が側方部7Bの延伸・収縮作用よりも大きくなるため、発熱抵抗体層3の発熱時に熱が集中しやすい領域(すなわちギャップGに対応する領域)において、中央部7Aの延伸・収縮作用を利用して内部応力を効果的に緩和させることができる。なお、図4に示した発熱部10Aに関する上記以外の特徴は、図2に示した場合と同様である。
また、上記実施の形態では、図3に示したように、応力緩和層7が電極層4の各組を覆うように連続的に延在するようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、応力緩和層7の配設範囲は自由に変更可能である。具体的には、例えば、図5に示したように、応力緩和層7が電極層4の並列方向(Y軸方向)に沿って、その電極層4の各組ごとに複数に渡って断続的に並列配置されるようにしてもよい。この場合においても、上記実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。ただし、応力緩和層7の配設範囲を設定する場合には、上記したように、発熱抵抗体層3の発熱時にギャップGに対応する領域に熱が集中しやすい点を考慮して、少なくともギャップGに対応する領域を覆うように応力緩和層7を配置させるのが好ましい。なお、図5に示した発熱部10Aに関する上記以外の特徴は、図3に示した場合と同様である。
また、上記実施の形態では、図2および図3に示したように、ギャップGに対応する領域に設けられた中央部7Aと一対の電極層4(4A,4B)に対応する領域に設けられた側方部7Bとの双方を含むように応力緩和層7を構成したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、図6および図7に示したように、側方部7Bを含まずに、中央部7Aのみを含むように応力緩和層7を構成してもよい。この場合においても、上記実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。この場合には、上記したように、発熱抵抗体層3の発熱時に熱が集中しやすい領域(ギャップGに対応する領域)を覆うように応力緩和層7(中央部7A)を設けることにより、その応力緩和層7を利用して内部応力を効果的に緩和させることができる。なお、図6および図7に示した発熱部10Aに関する上記以外の特徴は、図2および図3に示した場合と同様である。
なお、上記実施の形態において図2および図3に示した発熱部10Aの構成、ならびに変形例として図4〜図7に示した発熱部10Aの構成は、自由に組み合わせることが可能である。
本発明に係るサーマルヘッドは、発熱抵抗体層を保護するための低熱伝導性の保護層を備えたサーマルヘッドに適用することが可能である。
1…基板、2…グレーズ層、3…発熱抵抗体層、4(4A,4B)…電極層、5…絶縁層、6…保護層、7…応力緩和層、10…サーマルヘッド、10A…発熱部、10B…駆動部、11…放熱板、12…プリント基板、13…ドライバIC、14…コネクタ、15…IC樹脂膜、16…ICカバー、17…接着剤、G…ギャップ。
Claims (13)
- 発熱抵抗体層と、
この発熱抵抗体層に接続され、所定のギャップを挟んで互いに対向配置された一対の電極層と、
これらの発熱抵抗体層および一対の電極層を覆うように設けられた絶縁層と、
この絶縁層を覆うように設けられた保護層と、
前記絶縁層と前記保護層との間に設けられ、少なくとも前記保護層の内部応力を緩和させるための応力緩和層と
を備えたことを特徴とするサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、少なくとも前記保護層の伸び率よりも大きい伸び率を有する材料を含んで構成されている
ことを特徴とする請求項1記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、前記保護層および前記絶縁層の双方の伸び率よりも大きい伸び率を有する材料を含んで構成されており、前記保護層および前記絶縁層の双方の内部応力を緩和させるためのものである
ことを特徴とする請求項2記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)、バリウム(Ba)、タンタル(Ta)および白金(Pt)を含む群のうちの少なくとも1種の金属を含んで構成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)、バリウム(Ba)、タンタル(Ta)および白金(Pt)を含む群のうちの少なくとも1種の合金を含んで構成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、少なくとも前記ギャップに対応する領域に設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、前記ギャップに対応する領域に設けられた第1の応力緩和層と、この第1の応力緩和層に連結され、前記一対の電極に対応する領域に設けられた第2の応力緩和層とを含んで構成されている
ことを特徴とする請求項6記載のサーマルヘッド。 - 前記第1の応力緩和層の厚さは、前記第2の応力緩和層の厚さよりも大きくなっている
ことを特徴とする請求項7記載のサーマルヘッド。 - 前記発熱抵抗体層は、多結晶シリコンを含んで構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のサーマルヘッド。 - 前記保護層は、ケイ素(Si)、ホウ素(B)およびリン(P)を有する材料を含んで構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のサーマルヘッド。 - 前記一対の電極層は、複数組に渡って並列配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、前記一対の電極層の並列方向に沿って、その一対の電極層の各組を覆うように連続的に延在している
ことを特徴とする請求項11記載のサーマルヘッド。 - 前記応力緩和層は、前記一対の電極層の並列方向に沿って、その一対の電極層の各組ごとに複数に渡って断続的に並列配置されている
ことを特徴とする請求項11記載のサーマルヘッド。
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