1.第1実施形態
(1)構成
1)全体構造
図1に示す本発明の一実施形態としての2マスフライホイール1は、エンジン側のクランクシャフト91からのトルクをクラッチ(クラッチディスク組立体93及びクラッチカバー組立体94)を介してトランスミッション側の入力シャフト92にトルクを伝達するための装置である。2マスフライホイール1は、捩り振動を吸収・減衰するためのダンパー機能を有している。2マスフライホイール1は、主に第1フライホイール2と、第2フライホイール3と、両フライホイール2,3の間のダンパー機構4と、第1摩擦発生機構5と、第2摩擦発生機構6から構成されている。
なお、図1のO−Oが2マスフライホイール1及びクラッチの回転軸線であり、図1の左側にはエンジン(図示せず)が配置されており、右側にはトランスミッション(図示せず)が配置されている。以後、図1において左側を軸方向エンジン側といい、右側を軸方向トランスミッション側という。また、図3において矢印R1の向きが駆動側(回転方向正側)であり、矢印R2の向きが反駆動側(回転方向負側)である。
なお、以下に述べる実施形態における実際の数値は一実施例に関するものであって、本発明を限定するものではない。
2)第1フライホイール
第1フライホイール2は、クランクシャフト91の先端に固定されている。第1フライホイール2は、クランクシャフト91側に大きな慣性モーメントを確保するための部材である。第1フライホイール2は、主に、フレキシブルプレート11と、イナーシャ部材13とから構成されている。
フレキシブルプレート11は、クランクシャフト91からイナーシャ部材13に対してトルクを伝達すると共に、クランクシャフトからの曲げ振動を吸収するための部材である。したがって、フレキシブルプレート11は、回転方向には剛性が高いが軸方向及び曲げ方向には剛性が低くなっている。具体的には、フレキシブルプレート11の軸方向の剛性は、3000kg/mm以下であり、600kg/mm〜2200kg/mmの範囲にあることが好ましい。フレキシブルプレート11は、中心孔が形成された円板状の部材であり、例えば板金製である。フレキシブルプレート11は内周端が複数のボルト22によってクランクシャフト91の先端に固定されている。フレキシブルプレート11には、ボルト22に対応する位置にボルト貫通孔が形成されている。ボルト22はクランクシャフト91に対して軸方向トランスミッション側から取り付けられている。
イナーシャ部材13は、厚肉ブロック状の部材であり、フレキシブルプレート11の外周端の軸方向トランスミッション側に固定されている。フレキシブルプレート11の最外周部は、円周方向に並んだ複数のリベット15によってイナーシャ部材13に固定されている。イナーシャ部材13の外周面にはエンジン始動用リングギア14が固定されている。なお、第1フライホイール2は一体の部材から構成されていてもよい。
3)第2フライホイール
第2フライホイール3は、環状かつ円板状の部材であり、第1フライホイール2の軸方向トランスミッション側に配置されている。第2フライホイール3には、軸方向トランスミッション側にクラッチ摩擦面3aが形成されている。クラッチ摩擦面3aは、環状かつ平坦な面であり、後述するクラッチディスク組立体93が連結される部分である。第2フライホイール3は、さらに、内周縁において軸方向エンジン側に延びる内周筒状部3bを有している。また、第2フライホイール3の内周部には、ボルト22が貫通するための貫通孔3dが円周方向に並んで形成されている。
4)ダンパー機構
ダンパー機構4について説明する。ダンパー機構4は、クランクシャフト91と第2フライホイール3とを回転方向に弾性的に連結するための機構である。このように第2フライホイール3はダンパー機構4によってクランクシャフト91に連結されることで、ダンパー機構と共にフライホイール組立体(フライホイールダンパー)を構成している。ダンパー機構4は、複数のコイルスプリング34,35,36と、一対の出力側円板状プレート32,33と、入力側円板状プレート20とから構成されている。なお、図15の機械回路図に示すように、コイルスプリング34,35,36は摩擦発生機構5,6に対して回転方向に並列に作用するように配置されている。
一対の出力側円板状プレート32,33は、軸方向エンジン側の第1プレート32と、軸方向トランスミッション側の第2プレート33とから構成されている。両プレート32,33は、円板状部材であり、軸方向に所定の間隔を空けて配置されている。各プレート32,33には、円周方向に並んだ複数の窓部46,47がそれぞれ形成されている。窓部46,47は、後述するコイルスプリング34,35を軸方向及び回転方向にそれぞれ支持するための構造であり、コイルスプリング34,35を軸方向に保持しかつその円周方向両端に当接する切り起こし部を有している。窓部46,47は、それぞれ2個ずつ、円周方向に交互に並んで配置されている(同一半径方向位置に配置されている)。さらに、各プレート32,33には、円周方向に並んだ複数の第3窓部48がそれぞれ形成されている。第3窓部48は、半径方向対向する2カ所に形成され、具体的には第1窓部46の外周側に形成されており、後述する第3コイルスプリング36を軸方向及び回転方向にそれぞれ支持するための構造である。
第1プレート32と第2プレート33は、内周部同士は軸方向に一定の間隔を維持しているが、外周部同士は互いに近接してリベット41,42によって堅く固定されている。第1リベット41は、円周方向に並んで配置されている。第2リベット42は、第1プレート32と第2プレート33において形成された切り起こし当接部43,44同士を固定している。切り起こし当接部43,44は、円周方向の2カ所において半径方向に対向して形成され、具体的には第2窓部47の半径方向外側に配置されている。図2に示すように、切り起こし当接部43,44の軸方向位置は入力側円板状プレート20と同一である。
第2プレート33は、外周部が複数のリベット49によって、第2フライホイール3の外周部に固定されている。
入力側円板状プレート20は、出力側円板状プレート32,33の間に配置された円板状の部材である。入力側円板状プレート20には、第1窓部46に対応した第1窓孔38と、第2窓部47に対応した第2窓孔39が形成されている。また、第1及び第2窓孔38,39は、それぞれ、直線状の内周縁を有しているが、内周縁の回転方向中間部分には半径方向内側に凹んだ切り欠き38a,39aを有している。入力側円板状プレート20は、図11に示すように、さらに、中心孔20aと、その回りに形成された複数のボルト貫通孔20bが形成されている。また、外周縁の各窓孔38,39の円周方向間にあたる位置には、半径方向外側に突出する突起20cが形成されている。突起20cは、出力側円板状プレート32,33の切り起こし当接部43,44と第3コイルスプリング36から回転方向に離れて配置されており、かつ、回転方向に接近するといずれにも当接可能となっています。言い換えると、突起20cと切り起こし当接部43,44はダンパー機構4全体のストッパー機構を構成している。また、突起20c同士の回転方向の空間は第3コイルスプリング36を収納するための第3窓孔40として機能している。さらに、入力側円板状プレート20の円周方向の複数箇所(この実施形態では4カ所)には、孔20dが形成されている。孔20dは概ね円形状であるが、わずかに半径方向に長くなっている。孔20dの回転方向位置は窓孔38,39の回転方向間であり、孔20dの半径方向位置は切り欠き38a,39aとほぼ同じである。
入力側円板状プレート20は、フレキシブルプレート11,補強部材18,及び支持部材19と共に、ボルト22によってクランクシャフト91に固定されている。フレキシブルプレート11の内周部は、クランクシャフト91の先端面91aの軸方向トランスミッション側面に当接している。補強部材18は、円板状の部材であり、フレキシブルプレート11の内周部の軸方向トランスミッション側面に当接している。支持部材19は、筒状部19aと、その外周面から半径方向に延びる円板状部19bとから構成されている。円板状部19bは、補強部材18の軸方向トランスミッション側面に当接している。筒状部19aの内周面は、クランクシャフト91の先端中心に形成された円柱突起91bの外周面に当接して芯出しされている。フレキシブルプレート11の内周面及び補強部材18の内周面は、筒状部19aの軸方向エンジン側の外周面に当接して芯出しされている。入力側円板状プレート20の内周面は、筒状部19aの軸方向トランスミッション側根元の外周面に当接して芯出しされている。筒状部19aの内周面には軸受23が装着され、軸受23はトランスミッションの入力シャフト92の先端を回転自在に支持している。また、各部材11,18,19,20はネジ21によって互いに堅く固定されている。
以上に述べたように、支持部材19は、クランクシャフト91に対して半径方向位置決めされた状態で固定され、さらに第1フライホイール2と第2フライホイール3の半径方向位置決めを行っている。このように一つの部品に複数の機能を持たせているため、部品点数が少なくなり、コスト低減につながる。
第2フライホイール3の筒状部3bの内周面は、ブッシュ30を介して、支持部材19の筒状部19aの外周面に支持されている。このようにして、第2フライホイール3は支持部材19によって第1フライホイール2及びクランクシャフト91に対して芯出しされている。ブッシュ30は、さらに、入力側円板状プレート20の内周部と、第2フライホイール3の筒状部3b先端との間に配置されたスラスト部30aを有している。このように、第2フライホイール3からのスラスト荷重は、スラスト部30aを介して、軸方向に並んで配置された各部材11,18,19,20によって受けられるようになっている。つまり、ブッシュ30のスラスト部30aが、入力側円板状プレート20の内周部に支持されて第2フライホイール3からの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能している。入力側円板状プレート20の内周部は平板状であって平面度が向上しているため、スラスト軸受における発生荷重が安定する。また、入力側円板状プレート20の内周部は平面状であるため、スラスト軸受部を長く取ることができ、その結果ヒステリシストルクが安定する。さらに、入力側円板状プレート20の内周部は支持部材19の円板状部19bに対して軸方向に密に当接する部分であるため、剛性が高い。
第1コイルスプリング34は、第1窓孔38及び第1窓部46内に配置されている。第1コイルスプリング34の回転方向両端は、第1窓孔38及び第1窓部46の回転方向端に当接又は近接している。
第2コイルスプリング35は、第2窓孔39及び第2窓部47内に配置されている。第2コイルスプリング35は、大小のばねが組み合わせられた親子ばねであり、第1コイルスプリング34より剛性が高い。第2コイルスプリング35の回転方向両端は、第2窓部47の回転方向両端に近接又は当接しているが、第2窓孔39の回転法両端から所定角度(この実施形態では4°)離れている。
第3コイルスプリング36は、第3窓孔40及び第3窓部48内に配置されている。第3コイルスプリング36は、第1コイルスプリング34及び第2コイルスプリング35より小型ではあるが外周に配置されているため、剛性は高くなっている。
5)摩擦発生機構
5−1)第1摩擦発生機構5
第1摩擦発生機構5は、ダンパー機構4の入力側円板状プレート20と出力側円板状プレート32,33との回転方向間でコイルスプリング34,35,36と並列に機能する機構であり、クランクシャフト91と第2フライホイール3が相対回転すると所定の摩擦抵抗(ヒステリシストルク)を発生する。第1摩擦発生機構5は、ダンパー機構4の作動角範囲全体で一定の摩擦を発生するための装置であり、比較的小さな摩擦を発生するようになっている。
第1摩擦発生機構5は、ダンパー機構4より内周側に配置されており、さらに第1プレート32と第2フライホイール3との軸方向間に配置されている。第1摩擦発生機構5は、第1摩擦部材51と、第2摩擦部材52と、コーンスプリング53と、ワッシャ54とから構成されている。
第1摩擦部材51は、入力側円板状プレート20と一体回転して第1プレート32に回転方向に摺動するための部材である。図7〜10に示すように、第1摩擦部材51は、環状部51aと、環状部51aから軸方向トランスミッション側に延びる第1及び第2係合部51b、51cとを有している。環状部51aは、第1プレート32の内周部に対して回転方向に摺動可能に当接している。第1係合部51bと第2係合部51cは、回転方向に交互に配置されている。第1係合部51bは、回転方向に細長い形状を有しており、入力側円板状プレート20の窓孔38,39の内周側切り欠き38a,39aに係合している。第2係合部51cは、半径方向にわずかに長い形状を有しており、入力側円板状プレート20の孔20dに係合している。このため、第1摩擦部材51は、入力側円板状プレート20に対して相対回転不能にかつ軸方向に移動可能になっている。
なお、第1係合部51bの軸方向先端の回転方向中間位置にさらに軸方向に延びる第1突起51dが形成されている。このため、第1突起51dの回転方向両側には第1軸方向面51eが形成されている。また、第2係合部51cの半径方向内側位置にさらに軸方向に延びる第2突起51fが形成されている。このため、第2突起51fの半径方向外側位置には第2軸方向面51gが形成されている。
第2摩擦部材52は、入力側円板状プレート20と一体回転して第2フライホイール3に回転方向に摺動するための部材である。第2摩擦部材52は、図14に示すように、環状の部材であり、第2フライホイール3の内周部の第2摩擦面3cに対して回転方向に摺動可能に当接している。第2摩擦面3cは第2フライホイール3における他の部分より軸方向トランスミッション側に凹んだ平坦な環状面である。
第2摩擦部材52の内周縁には、回転方向に並んだ複数の切り欠き52aが形成されている。これら切り欠き52a内には、第1係合部51bの第1突起51dと第2係合部51cの第2突起51fが各々係合している。そのため、第2摩擦部材52は、第1摩擦部材51に対して相対回転不能にかつ軸方向に移動可能になっている。
コーンスプリング53は、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52との軸方向間に配置され、両部材を軸方向に離れる方向に付勢するための部材である。コーンスプリング53は、図13に示すように、円錐状又は円板状のばねであり、内周縁に複数の切り欠き53aが形成されている。これら切り欠き53a内には、第1係合部51bの第1突起51dと第2係合部51cの第2突起51fが各々係合している。そのため、コーンスプリング53は、第1摩擦部材51に対して相対回転不能にかつ軸方向に移動可能になっている。
ワッシャ54は、コーンスプリング53の荷重を第1摩擦部材51に確実に伝えるための部材である。ワッシャ54は、図14に示すように、環状の部材であり、内周縁に円周方向に並んだ複数の切り欠き54aを有している。これら切り欠き54a内には、第1係合部51bの第1突起51dと第2係合部51cの第2突起51fが各々係合している。そのため、ワッシャ54は、第1摩擦部材51に対して相対回転不能にかつ軸方向に移動可能になっている。ワッシャ54は、第1係合部51bの第1軸方向面51eと第2係合部51cの第2軸方向面51gに着座している。コーンスプリング53は、内周部がワッシャ54に支持され、外周部が第2摩擦部材52に支持されている。
5−2)第2摩擦発生機構6
第2摩擦発生機構6は、ダンパー機構4の入力側円板状プレート20と出力側円板状プレート32,33との回転方向間でコイルスプリング34,35,36と並列に機能する機構であり、クランクシャフト91と第2フライホイール3が相対回転すると所定の摩擦抵抗(ヒステリシストルク)を発生する。第2摩擦発生機構6は、ダンパー機構4の作動角範囲全体で一定の摩擦を発生するための装置であり、比較的大きな摩擦を発生するようになっている。この実施形態では、第2摩擦発生機構6が発生するヒステリシストルクは、第1摩擦発生機構5が発生するヒステリシストルクの5〜10倍となっている。
第2摩擦発生機構6は、フレキシブルプレート11の外周部である環状部11aと、第2円板状プレート12との軸方向間に形成された空間内に配置され互いに当接する複数のワッシャによって構成されている。第2摩擦発生機構の各ワッシャ」は、イナーシャ部材13及びリベット15内周側に近接して配置されている。
第2摩擦発生機構6は、図4に示すように、フレキシブルプレート11から第2円板状プレート12の対向部分12aに向かって順番に、フリクションワッシャ57、入力側フリクションプレート58、及びコーンスプリング59を有している。このようにフレキシブルプレート11は第2摩擦発生機構6を保持する機能も有しているため、部品点数が少なくなり、構造が簡単になる。
コーンスプリング59は、各摩擦面に対して軸方向に荷重を付与するための部材であり、対向部分12aと入力側フリクションプレート58との間に挟まれて圧縮されており、そのため両部材に対して軸方向に付勢力を与えている。入力側フリクションプレート58は外周縁に形成された爪部58aが、第2円板状プレート12に形成された軸方向に延びる切り欠き12bに係合しており、この係合によって入力側フリクションプレート58は、第2円板状プレート12に対して、相対回転は不能であるが軸方向に移動可能となっている。
フリクションワッシャ57は、図5に示すように、回転方向に並んで配置された複数の部材であり、それぞれが弧状に延びている。この実施形態ではフリクションワッシャ57は合計6個である。各フリクションワッシャ57は、入力側フリクションプレート58とフレキシブルプレート11の外周部である環状部11aの間に挟まれている。つまり、フリクションワッシャ57の軸方向エンジン側面57aはフレキシブルプレート11の軸方向トランスミッション側面に摺動可能に当接しており、フリクションワッシャ57の軸方向トランスミッション側面57bは入力側フリクションプレート58の軸方向エンジン側面に摺動可能に当接している。図6に示すように、フリクションワッシャ57の内周面には、凹部63が形成されている。凹部63は、フリクションワッシャ57の概ね回転方向中心に形成され、具体的には、回転方向に延びる底面63aと、その両端から概ね半径方向に(底面63aから概ね直角に)延びる回転方向端面63bとを有している。凹部63は、フリクションワッシャ57の内周面の軸方向中間に形成されているため、軸方向両側を構成する軸方向端面63c、63dを有している。
各フリクションワッシャ57の内周側、より具体的には凹部63内には、それぞれ、フリクション係合部材60が配置されている。各フリクション係合部材60の外周部は、フリクションワッシャ57の凹部63内に配置されている。なお、フリクションワッシャ57とフリクション係合部材60はともに樹脂製である。
フリクション係合部材60とフリクションワッシャ57の凹部63とによって構成される係合部分64について説明する。フリクション係合部材60は、軸方向端面60a,60bと、回転方向端面60cとを有している。フリクション係合部材60の外周面60gは凹部63の底面63aに近接している。回転方向端面60cと回転方向端面63bのそれぞれとの間には所定角度の回転方向隙間65(図6における65A)が確保されており、両角度の合計がそのフリクションワッシャ57がフリクション係合部材60に対して相対回転可能な所定角度の大きさとなる。なお、この角度はエンジンの燃焼変動に起因する微少捩り振動により生じるダンパー作動角に等しい又はわずかに越える範囲にあることが好ましい。なお、この実施形態では、フリクション係合部材60は、図6に示す中立状態において、凹部63の回転方向中心に配置されている。したがって、フリクション係合部材60の回転方向各側の隙間の大きさは同じである。
フリクション係合部材60は、第1プレート32に対して、一体回転するようにかつ軸方向に移動可能となるように係合している。具体的には、第1プレート32の外周縁には軸方向エンジン側に延びる環状壁32aが形成されており、環状壁32aには各フリクション係合部材60に対応して半径方向内側に凹んだ凹部61が形成されている。さらに、凹部61の回転方向中心には半径方向に貫通する第1スリット61aが形成されており、回転方向両側には半径方向に貫通する第2スリット61bが形成されている。フリクション係合部材60は、第1スリット61a内に半径方向外側から内側に向かって延びさらに回転方向両側に延び環状壁32aの内周面に当接する第1脚部60eと、各第2スリット61b内に半径方向外側から内側に向かって延びさらに回転方向外側に延びて環状壁32aの内周面に当接する一対の第2脚部60fを有している。これにより、フリクション係合部材60が環状壁32aから半径方向外方に移動することがない。さらに、フリクション係合部材60は、半径方向内側に延び環状壁32aの凹部61に対して回転方向に係合する凸部60dを有している。これにより、フリクション係合部材60は、第1プレート32の凸部として一体回転する。
なお、フリクション係合部材60は、第1プレート32に対して軸方向に着脱可能である。
また、フリクション係合部材60の軸方向寸法が凹部63の軸方向寸法より短い(つまり、凹部63の軸方向端面63c,63d間がフリクション係合部材60の軸方向端面60a,60b間より長い)ため、フリクション係合部材60はフリクションワッシャ57に対して軸方向に移動可能である。さらに、フリクション係合部材60の外周面60gと凹部63の底面63aとの間には半径方向隙間が確保されているため、フリクション係合部材60はフリクションワッシャ57に対して所定角度ではあるが傾くことが可能である。
以上に述べたように、フリクションワッシャ57は、入力側の部材であるフレキシブルプレート11と入力側フリクションプレート58に対して回転方向に移動可能に摩擦係合し、フリクション係合部材60に対して係合部分64の回転方向隙間65を介してトルク伝達可能に係合している。さらに、フリクション係合部材60は、第1プレート32と一体回転すると共に、軸方向に移動可能となっている。
次に、フリクションワッシャ57とフリクション係合部材60との関係について、さらに詳細に説明する。フリクション係合部材60の回転方向幅(回転方向角度)は全て同じであるが、凹部63の回転方向幅(回転方向角度)が異なるものがある。言い換えると、凹部63の回転方向幅が異なる少なくとも2種類のフリクションワッシャ57がある。この実施形態では、図5の上下方向に対向する2つの第1フリクションワッシャ57Aと、左右方向に対向する4つの第2フリクションワッシャ57Bとから構成されている。第1フリクションワッシャ57Aと第2フリクションワッシャ57Bは概ね同一形状であり、又同一材料からなる。両者が異なる点は、凹部63の回転方向隙間の回転方向幅(回転方向角度)のみである。具体的には、第2フリクションワッシャ57Bの凹部63の回転方向幅が、第1フリクションワッシャ57Aの凹部63の回転方向幅より大きくなっている。この結果、第2フリクションワッシャ57Bにおける第2係合部分64Bの第2回転方向隙間65Bが、第1フリクションワッシャ57Aにおける第1係合部分64Aの第1回転方向隙間65Aより大きくなっている。この実施形態では、例えば、前者が10°であり、後者が8°であり、その差は2°である。
各フリクションワッシャ57A,57Bの両回転方向端は互いに近接している。回転方向端間に確保された回転方向端間の角度は、第2フリクションワッシャ57Bにおける第2回転方向隙間65Bと第1フリクションワッシャ57Aにおける第1回転方向隙間65Aの差(例えば、2°)より、大きく設定されている。
6)クラッチディスク組立体
クラッチのクラッチディスク組立体93は、第2フライホイール3のクラッチ摩擦面3aに近接して配置される摩擦フェーシング93aと、トランスミッション入力シャフト92にスプライン係合するハブ93bとを有している。
7)クラッチカバー組立体
クラッチカバー組立体94は、クラッチカバー96と、ダイヤフラムスプリング97と、プレッシャープレート98とを有している。クラッチカバー96は、第2フライホイール3に固定された円板状かつ環状部材である。プレッシャープレート98は、摩擦フェーシング93aに近接する押圧面を有する環状の部材であり、クラッチカバー96と一体回転するようになっている。ダイヤフラムスプリング97は、クラッチカバー96に指示された状態でプレッシャープレート98を第2フライホイール側に弾性的に付勢するための部材である。図示しないレリーズ装置がダイヤフラムスプリング97の内周端を軸方向エンジン側に押すと、ダイヤフラムスプリング97はプレッシャープレート98への付勢を解除する。
(2)動作
1)トルク伝達
この2マスフライホイール1では、エンジンのクランクシャフト91からのトルクは、第2フライホイール3に対してダンパー機構4を介して伝達される。ダンパー機構4では、トルクは、入力側円板状プレート20、コイルスプリング34〜36、出力側円板状プレート32,33の順番で伝達される。さらに、トルクは、2マスフライホイール1から、クラッチ連結状態でクラッチディスク組立体93に伝達され、最後に入力シャフト92に出力される。
2)捩り振動の吸収・減衰
2マスフライホイール1にエンジンからの燃焼変動が入力されると、ダンパー機構4において入力側円板状プレート20と出力側円板状プレート32,33とが相対回転し、その間でコイルスプリング34〜36が並列に圧縮される。さらに、第1摩擦発生機構5及び第2摩擦発生機構6が所定のヒステリシストルクを発生する。以上の作用により捩じり振動が吸収・減衰される。
次に、図16の捩り特性線図を用いてダンパー機構4の動作を説明する。捩り角度の小さな領域(角度ゼロ付近)では、第1コイルスプリング34のみが圧縮されて比較的低剛性の特性が得られる。捩り角度が大きくなると、第1コイルスプリング34と第2コイルスプリング35が並列に圧縮され、比較的高剛性の特性が得られる。捩り角度がさらに大きくなると、第1コイルスプリング34と第2コイルスプリング35と第3コイルスプリング36が並列に圧縮され、捩り特性の両端に最も高い剛性の特性が得られる。第1摩擦発生機構5は、捩り角度の全ての領域において作動している。なお、第2摩擦発生機構6は、捩り角度の両端において捩り動作の向きが変わってから所定角度までは作動していない。
次に、フリクションワッシャ57がフリクション係合部材60によって駆動されるときの動作を説明する。中立状態から、フリクション係合部材60がフリクションワッシャ57に対して回転方向R1側に捩れていく動作を説明する。
捩り角度が大きくなると、やがて、第1フリクションワッシャ57Aにおいてフリクション係合部材60が第1フリクションワッシャ57Aの凹部63の回転方向R1側の回転方向端面63bに当接する。このとき、第2フリクションワッシャ57Bにおいて、フリクション係合部材60が第2フリクションワッシャ57Bの凹部63の回転方向R1側の回転方向端面63bに対して回転方向隙間(第2フリクションワッシャ57Bの第2回転方向隙間65Bと第1フリクションワッシャ57Aの第1回転方向隙間65Aとの差の半分であり、この実施形態では1°)を有している。
さらに捩り角度が大きくなると、フリクション係合部材60は第1フリクションワッシャ57Aを駆動して、フレキシブルプレート11及び入力側フリクションプレート58に対して摺動させる。このときに、第1フリクションワッシャ57Aは第2フリクションワッシャ57Bに対して回転方向R1側に接近するが、両者の端部が当接することはない。
やがて捩り角度が所定の大きさになると、フリクション係合部材60が、第2フリクションワッシャ57Bの凹部63の回転方向端面63bに当接する。これ以降は、フリクション係合部材60は、第1及び第2フリクションワッシャ57A,57Bをともに駆動して、フレキシブルプレート11及び入力側フリクションプレート58に対して摺動させる。
以上をまとめると、フリクションワッシャ57が第1プレート32によって駆動される時には、捩り特性において一定の枚数が駆動されて中間摩擦抵抗が発生する領域が、全ての枚数が駆動される大摩擦抵抗の領域の開始前に発生する。
2−1)微少捩り振動
次に、エンジンの燃焼変動に起因する微小捩り振動が2マスフライホイール1に入力されたときのダンパー機構4の動作を、図15の機械回路図と図16〜図19の捩り特性線図を用いて説明する。
微少捩り振動が入力されると、第2摩擦発生機構6において、入力側円板状プレート20は、フリクション係合部材60(凸部)と凹部63との間の回転方向隙間65において、フリクションワッシャ57に対して相対回転する。つまり、フリクションワッシャ57は、第1プレート32によって駆動されず、したがってフリクションワッシャ57は入力側の部材に対して回転しない。この結果、微小捩じり振動に対しては高ヒステリシストルクが発生しない。すなわち図16の捩り特性線図において例えば「DCa」ではコイルスプリング34,35が作動するが、第2摩擦発生機構6では滑りが生じない。つまり、所定の捩り角度範囲では、通常のヒステリシストルクよりはるかに小さなヒステリシストルクしか得られない。このように、捩じり特性において第2摩擦発生機構6を所定角度範囲内では作動させない微少回転方向隙間を設けたため、振動・騒音レベルを大幅に低くすることができる。
この結果、捩り特性2段目において、捩り振動の動作角度が第1フリクションワッシャ57Aの第1係合部分64Aの第1回転方向隙間65Aの角度(例えば、8°)以内である場合は、図17のように大摩擦抵抗(高ヒステリシストルク)は一切発生せず、低摩擦抵抗の領域Aのみが得られる。また、捩り振動の動作角度が第1フリクションワッシャ57Aの第1係合部分64Aの第1回転方向隙間65Aの角度(例えば、8°)以上であるがそれに第2フリクションワッシャ57Bの第2係合部分64Bの第2回転方向隙間65Bの角度(例えば10°)以内である場合は、図18のように低摩擦抵抗の領域Aの端に中間摩擦抵抗の領域Bが発生する。そして、捩り振動の動作角度が第2フリクションワッシャ57Bの第2係合部分64Bの第2回転方向隙間65Bの角度(例えば10°)以上である場合は、図19のように低摩擦抵抗の領域Aの両端に、中間摩擦抵抗の領域Bと、一定の大摩擦抵抗が発生する領域Cとがそれぞれ得られる。
2−1)大捩り振動入力時の動作
大捩り振動が入力された場合の第2摩擦発生機構6の動作を説明する。第2摩擦発生機構6では、フリクションワッシャ57は、フリクション係合部材60及び第1プレート32と一体回転し、フレキシブルプレート11及びフリクションプレート58と相対回転する。この結果、フリクションワッシャ57及びフリクション係合部材60がフレキシブルプレート11と入力側フリクションプレート58に摺動して摩擦抵抗を発生する。先に述べたように、捩り振動の捩り角度が大きい場合は、フリクションワッシャ57がフレキシブルプレート11及び入力側フリクションプレート58に摺動する。その結果、一定の大きさの摩擦抵抗が捩り特性の全体にわたって得られる。
ここで、捩り角度の端部(振動の向きが変わる位置)での動作について説明する。図16の捩り特性線図の右側端では、フリクションワッシャ57は第1プレート32に対して最も回転方向R2側にずれている。この状態から第1プレート32が出力側円板状プレート32,33に対して、回転方向R2側にねじれていくと、フリクション係合部材60(凸部)と凹部63の回転方向隙間65の全角度にわたって、フリクションワッシャ57が第1プレート32に対して相対回転する。この間では、フリクションワッシャ57は入力側の部材に対して摺動しないため、低摩擦抵抗の領域A(例えば、8°)が得られる。続いて、第1フリクションワッシャ57Aの第1係合部分64Aの第1回転方向隙間65Aがなくなると、次に第1プレート32が第1フリクションワッシャ57Aを駆動する。すると、第1フリクションワッシャ57Aがフレキシブルプレート11及び入力側フリクションプレート58に対して相対回転する。この結果、先に述べたように、中間の摩擦抵抗の領域B(例えば、2°)が発生する。続いて、第2フリクションワッシャ57Bの第2係合部分64Bの第2回転方向隙間65Bがなくなると、次に第1プレート32が第2フリクションワッシャ57Bを駆動する。すると、第2フリクションワッシャ57Bがフレキシブルプレート11及び入力側フリクションプレート58に対して相対回転する。この時には、第1フリクションワッシャ57Aと第2フリクションワッシャ57Bがともに摺動するため、比較的大きな摩擦抵抗の領域Cが発生する。なお、第1フリクションワッシャ57Aによって発生するヒステリシストルクは、第2フリクションワッシャ57Bによって発生するヒステリシストルクより小さく、実際には半分程度である。
以上に述べたように、大きな摩擦抵抗が発生する初期の段階には、中間の摩擦抵抗の領域Bが設けられている。このように大摩擦抵抗の立ち上がりを段階的にしているため、大摩擦抵抗発生時の高ヒステリシストルクの壁が存在しない。そのため、微少捩り振動を吸収するために微少回転方向隙間を設けた摩擦発生機構において、高ヒステリシストルク発生時のツメのたたき音が減少する。
特に、本発明において、中間の摩擦抵抗を発生させるのに単一種類のフリクションワッシャ57を用いているため、摩擦部材の種類を少なく抑えることができる。また、フリクションワッシャ57は、弧状に延びる簡単な構造である。また、フリクションワッシャ57は、軸方向貫通孔が形成されておらず、製造コストを低く抑えることができる。
2−2)微小捩り振動入力時の動作
次に、エンジンの燃焼変動に起因する微小捩り振動がフライホイールダンパーに入力されたときの第2摩擦発生機構6の動作を説明する。
微少捩り振動が入力されると、第2摩擦発生機構6において、フリクション係合部材60は、微少回転方向隙間65において、フリクションワッシャ57に対して相対回転する。つまり、フリクションワッシャ57は、フリクション係合部材60によって駆動されず、したがってフリクションワッシャ57は入力側の部材に対して回転しない。この結果、微小捩じり振動に対しては高ヒステリシストルクが発生しない。つまり、所定の捩り角度範囲では、通常のヒステリシストルクよりはるかに小さなヒステリシストルクしか得られない。このように、捩じり特性において第2摩擦発生機構6を所定角度範囲内では作動させない微少回転方向隙間を設けたため、振動・騒音レベルを大幅に低くすることができる。
(3)効果
3−1)第1摩擦発生機構5の効果
第1摩擦発生機構5が第2フライホイール3の一部を摩擦面として利用しているため、摺動面の面積を大きくすることができる。具体的には、第2摩擦部材52がコーンスプリング53によって第2フライホイール3に付勢されているため、摺動面の面積を大きくすることができる。したがって、摺動面の面圧が低下し、第1摩擦発生機構5の寿命が向上する。
第2摩擦部材52の外周部と第1及び第2コイルスプリング34,35の内周部は軸方向に重なって配置され、第2摩擦部材52の外周縁の半径方向位置は第1及び第2コイルスプリング34,35の内周縁の半径方向位置より半径方向外側にある。このため、第2摩擦部材52と第1及び第2コイルスプリング34,35とが半径方向に近接しているにもかかわらず第2摩擦発生機構6において摩擦面を十分に確保できる。
第1摩擦部材51の環状部51aの外周部と第1及び第2コイルスプリング34,35の内周部は軸方向に重なって配置され、環状部51aの外周縁の半径方向位置は第1及び第2コイルスプリング34,35の内周縁の半径方向位置より半径方向外側にある。このため、環状部51aと第1及び第2コイルスプリング34,35が半径方向に近接しているにもかかわらず、第2摩擦発生機構6において摩擦面を十分に確保できる。
第1摩擦部材51のみが入力側円板状プレート20に相対回転不能に係合しており、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52が互いに相対回転不能に係合している。このため、入力側円板状プレート20と第2摩擦部材52とを係合させる必要がなくなり、構造が簡単になる。
第1摩擦部材51は、第1プレート32に対して回転方向に摺動可能に当接する環状部51aと、環状部51aから軸方向に延び入力側円場状プレート20に対して軸方向に移動可能に且つ相対回転不能に係合する複数の係合部51b,51cとを有している。第2摩擦部材52は、複数の係合部51b,51cに相対回転不能に且つ軸方向に移動可能に係合する複数の切り欠き52aを有している。このように、第1摩擦部材51が軸方向に延びる複数の係合部51b,51cを有しているため、第1摩擦部材51の環状部51aと第2摩擦部材52とが軸方向に離れた配置した構造を簡単に実現できる。
コーンスプリング53は、第2摩擦部材52と、第1摩擦部材51の係合部51b,51cとの間に配置されて、両者を軸方向に付勢している。そのため、構造が簡単になる。
ワッシャ54は、第1摩擦部材51の係合部51b,51cの先端に着座し、コーンスプリング53からの付勢力を受ける受け部材として機能している。そのため、摩擦摺動面に付与される軸方向の荷重が安定し、その結果、摺動面で発生する摩擦抵抗が安定する。
第1摩擦発生機構5は第2フライホイール3のクラッチ摩擦面3aから内周側に(半径方向内側に離れて)配置されている。したがって、第1摩擦発生機構5はクラッチ摩擦面3aからの熱の影響を受けにくく、摩擦抵抗が安定する。
第1摩擦発生機構5は、ダンパー機構4の第1及び第2コイルスプリング34,35の半径方向中心位置より内周側に配置されており、ボルト22の最外周縁より外周側に配置されている。したがって、省スペースの構造になる。
3−2)第2摩擦発生機構6の効果
第2摩擦発生機構6が第1フライホイール2(具体的には、フレキシブルプレート11)に保持されているため、第2摩擦発生機構6は第2フライホイール3のクラッチ摩擦面3aからの熱の影響を受けにくい。したがって、第2摩擦発生機構6の性能が安定する。特に、第1フライホイール2は第2フライホイール3とコイルスプリング34〜36を介して連結されていないため、第1フライホイール2にも第2フライホイール3からの熱は伝わりにくくなっている。
第2摩擦発生機構6は、フレキシブルプレート11の外周部である環状部11aを摩擦面として利用している。フレキシブルプレート11を利用しているため、第2摩擦発生機構6は部品点数が少なくなり、構造が簡単になる。
第2摩擦発生機構6は、クラッチクラッチ摩擦面3aより外周側に配置されてクラッチ摩擦面3aから半径方向に離れているため、第2摩擦発生機構6がクラッチ摩擦面3aからの熱の影響を受けにくい。
3−3)フレキシブルフライホイール(第1フライホイール2とダンパー機構4)の効果
第1フライホイール2は、イナーシャ部材13と、イナーシャ部材13をクランクシャフト91に連結するための部材であり曲げ方向にたわみ変形可能なフレキシブルプレート11とを有する。ダンパー機構4は、クランクシャフト91からのトルクが入力される入力側円板状プレート20と、入力側円板状プレート20に相対回転可能に配置された出力側円板状プレート32,33と、両者の相対回転によって回転方向に圧縮されるコイルスプリング34,35,36とを有する。第1フライホイール2は、ダンパー機構4に対して曲げ方向に所定範囲で変位可能である。以上に述べた第1フライホイール2とダンパー機構4の組み合わせをフレキシブルフライホイールという。
第1フライホイール2に曲げ振動が発生すると、フレキシブルプレート11が曲げ方向にたわむ。このため、エンジンからの曲げ振動が抑制される。このフレキシブルフライホイールでは、第1フライホイール2がダンパー機構4に対して曲げ方向に所定範囲で変位可能であるため、フレキシブルプレート11による曲げ振動抑制効果が十分に高い。
フレキシブルフライホイールは、第1フライホイール2とダンパー機構4の出力側円板状プレート32との間に配置され、コイルスプリング34,35,36と回転方向に並列に作用する第2摩擦発生機構6をさらに備えている。第2摩擦発生機構6は、トルク伝達可能であるが曲げ方向に相対変位可能に係合するフリクションワッシャ57及びフリクション係合部材60を有している。このフレキシブルフライホイールでは、第2摩擦発生機構6において2つの部材が曲げ方向に相対変位可能に係合しているため、第1フライホイールがダンパー機構4に対して第2摩擦発生機構6を介して係合しているにもかかわらず、曲げ方向に所定範囲で変位可能である。この結果、フレキシブルプレート11による曲げ振動抑制効果が十分に高い。
フリクションワッシャ57とフリクション係合部材60は回転方向に隙間を空けて係合している。つまり、両者は回転方向に密着していないため、曲げ方向に相対変位する際に大きな抵抗が生じない。
フリクション係合部材60は、出力側円板状プレート32,33の第1プレート32に対して軸方向に移動可能に係合する。そのため、フリクションワッシャ57が第1フライホイール2と共に軸方向移動した際に、フリクション係合部材60と出力側円板状プレート32,33との間で軸方向に抵抗が生じにくい。
3−4)第3コイルスプリング36の効果
第3コイルスプリング36は、捩り特性の捩り角度が最も大きくなった領域で作動を開始し、ダンパー機構4に十分なストッパートルクを付与するための部材である。第3コイルスプリング36は、第1及び第2コイルスプリング34,35に対して回転方向に並列に作用する配置されている。
第3コイルスプリング36は、線径及びコイル径が第1及び第2コイルスプリング34,35に対して大幅に小さく(半分程度)、そのため軸方向にしめるスペースも小さい。図1に示すように、第3コイルスプリング36は、第1及び第2コイルスプリング34,35の外周側に配置され、第2フライホイール3のクラッチ摩擦面3aに対応する位置に配置されている。言い換えると、第3コイルスプリング36の半径方向位置は、クラッチ摩擦面3aの内径と外径の間の環状の領域内にある。
この実施形態では、第3コイルスプリング36を設けることで、ストッパートルクを十分に高くして性能を向上させつつ、第3コイルスプリング36の寸法や配置位置を工夫することで省スペースの構造を実現している。特に、第3コイルスプリング36は第2フライホイール3のクラッチ摩擦面3a(クラッチ摩擦面3a部分は軸方向厚みが大きい)に対応する位置に配置されているにかかわらず、その部分の軸方向寸法は十分に小さくなっており、第1及び第2コイルスプリング34,35が配置されている部分の軸方向寸法より小さくなっている。
また、第3コイルスプリング36は、入力側円板状プレート20の突起20cと出力側円板状プレート32,33の切り起こし当接部43,44とからなるストッパーと、概ね同一の半径方向位置に配置されている。そのため、各機構が半径方向の異なる位置に配置された構造に比べて、全体の構造の径が小さくなる。
(4)他の実施形態
以上、本発明に従うクラッチ装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。特に、本発明は前述の具体的な角度の数値等に限定されない。
前記実施形態では、係合部分の回転方向隙間の大きさの種類を2種類としていたが、3種類又はそれ以上にしても良い。3種類の場合は、中間の摩擦抵抗の大きさが2段階になる。
前記実施形態では第1摩擦部材と第2摩擦部材の摩擦係数を同一としているが、異ならせてもよい。このように、第1摩擦部材と第2摩擦部材とで発生する摩擦抵抗を調整することで、中間摩擦抵抗と大摩擦抵抗の比を自由に設定できる。
前記実施形態では凸部の大きさを全て同じにして異なる大きさの凹部を設けることで中間の摩擦抵抗を発生させていたが、凹部の大きさを全て同じにして異なる大きさの凸部を設けてもよい。さらには、異なる大きさの凸部と、異なる大きさの凹部とを組み合わせてもよい。
前記実施形態ではフリクションワッシャの凹部は半径方向内側を向いていたが、逆に半径方向外側に向いていてもよい。
さらに、前記実施形態ではフリクションワッシャが凹部を有していたが、フリクションワッシャが凸部を有していてもよい。その場合は、例えば、入力側円板状プレートが凹部を有することになる。
さらに、前記実施形態ではフリクションワッシャは入力側部材に摩擦係合する摩擦面を有していたが、出力側部材に摩擦係合する摩擦面を有していてもよい。その場合は、フリクションワッシャと入力側部材との間に、回転方向隙間を有する係合部分が形成されることになる。
2.第2実施形態
図20を用いて第2摩擦発生機構107について説明する。以下、前記実施形態と同様の構造については説明を省略し、異なる部分を説明する。
図20に示すように、第2摩擦発生機構107は、ダンパー機構の入力側円板状プレートと出力側円板状プレート132,133との回転方向間でコイルスプリングと並列に機能する機構であり、クランクシャフトと第2フライホイール103が相対回転すると所定の摩擦抵抗(ヒステリシストルク)を発生する。第2摩擦発生機構107は、ダンパー機構の作動角範囲全体で一定の摩擦を発生するための装置であり、比較的大きな摩擦を発生するようになっている。
第2摩擦発生機構107は、図20に示すように、フレキシブルプレート111の外周部である環状部111aと、イナーシャ部材113との軸方向間に形成された空間内に配置され互いに当接する複数の部材によって構成されている。具体的には、イナーシャ部材113は、環状部111aに対して軸方向に離れた位置で対向する環状突出部113aを有しており、環状突出部113aは軸方向エンジン側面113bを有している。イナーシャ部材113は、環状突出部113aの軸方向エンジン側に、内周面113cを有している。
第2摩擦発生機構107は、図20に示すように、フレキシブルプレート111からイナーシャ部材113の軸方向エンジン側面113bに向かって順番に、コーンスプリング158、フリクションプレート159、及びフリクションワッシャ161を有している。このようにフレキシブルプレート111が第2摩擦発生機構107を保持する機能も有しているため、部品点数が少なくなり、構造が簡単になる。また、イナーシャ部材113も第2摩擦発生機構107を保持する機能を有しているため、さらに効果が高くなる。
コーンスプリング158は、各摩擦面に対して軸方向に荷重を付与するための部材であり、環状部111aとフリクションプレート159との間に挟まれて圧縮されており、そのため両部材に対して軸方向に付勢力を与えている。
フリクションプレート159は内周縁に形成された複数の爪部159aを有している。爪部159aは、曲げられて軸方向エンジン側に延びており、フレキシブルプレート111の環状部111aに形成された切り欠き111bに係合している。この係合によってフリクションプレート159は、フレキシブルプレート111に対して、相対回転は不能であるが軸方向に移動可能となっている。
フリクションワッシャ161は、前記実施形態と同様に、回転方向に並んで配置された複数の部材であり、それぞれが弧状に延びている。この実施形態ではフリクションワッシャ161は合計6個である。各フリクションワッシャ161は、フリクションプレート159とイナーシャ部材113との間に挟まれている。つまり、フリクションワッシャ161の軸方向エンジン側面161aはフレキシブルプレート111の軸方向トランスミッション側面111cに摺動可能に当接しており、フリクションワッシャ161の軸方向トランスミッション側面161bはイナーシャ部材113の軸方向エンジン側面113bに摺動可能に当接している。さらに、フリクションワッシャ161の外周面161cは、イナーシャ部材113の内周面113cに当接している。
以上をまとめると、第2摩擦発生機構107は、イナーシャ部材113の軸方向エンジン側面113bとフレキシブルプレート111の軸方向トランスミッション側面111cとの間の空間内に配置されており、イナーシャ部材113の軸方向エンジン側面113bに当接するフリクションワッシャ161と、フレキシブルプレート111に対して相対回転不能にかつ軸方向移動可能に係合するフリクションプレート159と、フレキシブルプレート111の軸方向トランスミッション側面111cとフリクションプレート159との間に配置されフリクションプレート159をフリクションワッシャ161側に弾性的に付勢するコーンスプリング158とを有する。
このように第2摩擦発生機構107は、イナーシャ部材113の一部を摩擦面として利用している。言い換えると、イナーシャ部材113は、前記実施形態におけるイナーシャ部材13と第2円板状プレート12を一体化させていると見ることができる。このため、第2摩擦発生機構107は、部品点数が少なくなり、全体の構造が簡単になる。この結果、低コスト化を実現できる。さらに、第2摩擦発生機構107での発熱がイナーシャ部材113によって吸収されるため、第2摩擦発生機構107でのヒステリシストルクの大きさが安定したり、摩耗を少なくなったりする。これは、イナーシャ部材が軸方向に厚みが大きな部材であり、熱容量が大きいからである。さらに、第2円板状プレート12を省略することでイナーシャ部材113の大型化が容易になっている。
また、前記実施形態とは異なり、フリクションワッシャ161がフレキシブルプレート111に当接していないため、第2摩擦発生機構107の作動時に異音がフレキシブルプレート111に拡散しにくい。
図21を用いて第2実施形態の変形例を説明する。フリクションプレート159は外周縁に形成された爪部159bを有している。爪部159b半径方向外側に延びており、フレキシブルプレート111の最外周部(イナーシャ部材113に当接する部分)に形成された切り欠き111dに係合している。この係合によってフリクションプレート159は、フレキシブルプレート111に対して、相対回転は不能であるが軸方向に移動可能となっている。