JP2004537047A - 標的分子のリガンドをスクリーニングする方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
本出願は、ここに引用して共に本明細書に組み入れる、共に「タンパク質フォールディングを調節する化合物を同定する方法(METHODS FOR IDENTIFYING COMPOUNDS THAT MODULATE PROTEIN FOLDING)」なる発明の名称の、2001年6月14日に出願された米国仮出願第60/298531号および2002年2月13日に出願された第60/356315号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野は、薬物発見で用いることができるリード化合物についてのスクリーニングのような、化合物のスクリーニングに関する。特に、本発明は、標的分子に結合することができる化合物についてのハイスループットスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0003】
薬物発見のプロセスは、薬物開発用のリード化合物を得るための膨大な数の化合物のスクリーニングに依拠する。活性につき試験する化合物のごく一部のみが肯定的な結果を与え、これらの「ヒット」のうちのごく一部のみが結局は成功した治療剤に至るであろう。スクリーニングによって同定された多くの化合物は、動物実験または臨床試験における許容されない吸収、分布、代謝、排出または毒性の問題のため、治療剤として成功しないであろう。かくして、標的に対する非常に多数の化合物をスクリーニングして、安全かつ効果的な治療剤を開発することができる充分な数のヒットを得る必要性がある。
【0004】
ヒトゲノムの配列決定および多数の感染性生物のゲノムの配列決定は、多くの新しい潜在的薬物標的をもたらした。バイオインフォーマティクスから知られたこれらの潜在的薬物標的の多くは、未だ割り当てられた機能を有していない。現在、細胞ベースのアッセイ、遺伝子スクリーニング、生物物理学的方法、およびコンピューターモデリング(例えば、Burbaumらに対して1999年3月2日に発行された米国特許第5876946号明細書、FreireおよびToddに対して2001年6月5日に発行された米国特許第6242190号明細書、Pearlmanらに対して2001年11月27日に発行された米国特許第6322991号明細書、Vogelsらに対して2002年1月22日に発行された米国特許第6340595号明細書、Brauerらに対して2002年4月16日に発行された米国特許第6373577号明細書参照)を含む、広い範囲のスクリーニング技術が、リード薬物化合物を同定するために医薬およびバイオテクノロジー産業で使用されている。これらスクリーニングのうちの多くは、タンパク質標的の機能についての知識を必要とする。
【0005】
標的分子の変性に影響を及ぼすリガンドの能力に基づいて標的分子に結合する化合物を同定するスクリーニングも当該分野で知られている。例えば、全てここに引用してその全体を本明細書に組み入れる米国特許第6376180明細書、第6303322号明細書、第6232085号明細書、第6226603号明細書、第6036920号明細書、第6020141号明細書、第5585277号明細書、第5679582号明細書、および第5260207号明細書は、熱のような変性条件に応じて変性に対する標的の感受性を改変するタンパク質標的のリガンドの能力に依拠することができるアッセイを開示する。しかしながら、現在実施されているように、試験化合物の標的への結合を測定する多くのアッセイは、長く、多数の工程を必要とし、かつ化合物干渉および標識干渉の問題を有する可能性がある。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第6376180号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
少量および最少の工程を用いて実施することができ、未知の機能を有する標的を含む多くの異なるタイプの標的に結合できる化合物をスクリーニングするのに用いることができ、かつ機能的関連性を有する化合物の同定をもたらすことができる、迅速な自動スクリーニングに対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、標的分子のリガンドを同定するための一連の関連した方法を提供する。該方法は、加熱のような変性条件に応じた標的のアンフォールディングに対する試験化合物の効果を判断するために、蛍光検出を用いる。
【0009】
本発明の一つの実施形態は、標的タンパク質のアンフォールド状態に特異的に結合する第一の特異的結合メンバーを使用することを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法である。この実施形態において、第一の特異的結合メンバーはFRET対の一つのメンバーに結合し、FRET対の他のメンバーに結合することができ、かつ標的分子の異なる領域に結合することができる第二の特異的結合メンバーを提供する。蛍光シグナルは、標的分子が変性されると接近する二つのFRETパートナーの相互作用に依存する。好ましくは、標的分子がアンフォールドされる程度の測定は、蛍光共鳴エネルギー移動の検出によって行う。
【0010】
本発明の第二の実施形態も、標的タンパク質のアンフォールド状態に特異的に結合する特異的結合メンバーを使用することを含む。この実施形態においては、特異的結合メンバーはフルオロフォアに結合し、FPの変化が、変性条件に応じた標的のアンフォールディングとして検出される。
【0011】
本発明の第三の実施形態は、FRETドナーに結合することができる第一の特異的結合メンバーおよびFRETアクセプターに結合することができる第二の特異的結合メンバーを用いることを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法であり、ここで、第一および第二の特異的結合メンバーは、標的タンパク質の同一の単一領域に結合する。
【0012】
この実施形態の一つの態様において、標的分子群の一部を第一の特異的結合メンバーで標識し、標的分子群を変性条件に付し、第二の特異的結合メンバーをアッセイ試料に添加する。第二の特異的結合メンバーが、第一の特異的結合メンバーに結合した標的分子と凝集した標的分子に結合する場合に、FRETが検出される。かくして、第一および第二の特異的結合メンバーに結合したFRETパートナーは、第一の特異的結合メンバーと結合した標的分子のアンフォールディングおよび引き続いて起こる凝集によって、第二の特異的結合メンバーと結合することになる標的分子と接近する。
【0013】
本発明のこの実施形態のもう一つの態様において、標的分子の一つの群は、FRET対の一つのメンバーに結合する第一の特異的結合メンバーに結合し、標的分子の第二の群は、FRET対のもう一つのメンバーに結合する第二の特異的結合メンバーに結合する。標的分子の第一および第二の群を変性条件に付し、FRETは変性された標的分子凝集体として検出される。
【0014】
本発明の第四の実施形態は、標的タンパク質に付着した蛍光標識を使用することを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法である。標的タンパク質の加熱の結果、溶液中でタンパク質がアンフォールディングや凝集をするにつれて、蛍光偏光が変化する。フルオロフォア−標識標的タンパク質を試験化合物の存在下で加熱すると、標的分子に結合してそれをアンフォールディングから保護するこれらの化合物は、試験化合物なしに標的分子を含むコントロール試料と比較して、低いFPの読み出しを有するであろう。
【0015】
本発明の第五の実施形態は、本発明の方法を用いて同定したリガンドである。該リガンドは医薬組成物において治療化合物として処方することができ、所望により、治療化合物を作り出すための医薬品化学の試みの出発点として働く。
【0016】
かくして、本発明は、そのアイデンティティーおよび機能が既知であっても未知であってもよい広範囲の標的のリガンドのためのハイスループットアッセイとして構成することができる感度のよい検出方法を用いて化合物についてスクリーニングする方法を提供する。
【0017】
図1は、本発明のFRETアッセイの構成の一つの態様の模式図である。標的を認識する二つの異なる抗体をドナーおよびアクセプターフルオロフォアで標識する。抗体の一つはフォールドしていない標的に対して特異的である。標的がアンフォールドすると、サンドイッチが形成され、これは、ドナーおよびアクセプターフルオロフォアを、エネルギー移動を受けるように相互に充分に近づけて位置させる。
【0018】
図2は、本発明のFRETアッセイの構成の二つの態様の模式図を示す。両方の態様において、標的分子群の少なくとも一部を第一抗体を用いてFRET対のメンバーで標識し、標的分子群を加熱し、そして第一抗体と同一の領域を認識し、かつFRETパートナーを含む第二抗体を用いて、標的分子群の未標識部分を標識する。標的分子の凝集体はFRETによって検出する。a)では、標的タンパク質の二つの混合物を加熱に先立って混合する;これら二つの混合物のうち一つは、FRETパートナーで標識された標的タンパク質を有する。b)では、そのタンパク質のタンパク質と共に第一抗体をプレインキュベートする工程を省略するために、加熱に先立って、標的タンパク質を、FRETパートナーで標識した特異的結合メンバーと比較する。
【0019】
図3は、ドープ凝集蛍光偏光(FP)アッセイの構成の一つの態様の模式図である。本発明のこの態様において、少ないパーセンテージの標的分子群をフルオロフォアで標識する。標的分子群の加熱の後に、蛍光偏光を検出する。標的分子の凝集のレベルが増大すると、FPシグナルが増大する。
【0020】
図4は、Tmが43.3℃である、標的X90のCD熱融解を示す。CD検出は、種々の温度で行った。
【0021】
図5は、標的X90の熱融解を、アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式におけるタンパク質濃度の関数として示す。抗体濃度は滴定のために一定に保持した。TR−FRET検出は、試料を種々の温度で加熱し室温まで冷却した後に、室温で行なった。
【0022】
図6は、アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式におけるX90の熱融解を示す。12ngの標的タンパク質の融解のグラフは、47.3℃の中間点転移を示す。
【0023】
図7は、スクリーニング温度(TATLAS=53℃)および低コントロール温度(4℃)における、3,840の標的X90のコントロールウェルからのTR−FRETデータのプロットを示す。低コントロールは、熱により誘発される標的のアンフォールディングがない状態のシグナルを与える。
【0024】
図8は、既知のリガンドの存在下での標的X90の熱融解を示す(三角形)。リガンドの存在しないコントロールも同様に示す(菱形);リガンドストック溶液に存在するものと同一の濃度で、DMSOをコントロールに添加した。10マイクロモル濃度のリガンドの存在下で、融解転移はより高温に押され、このことは、リガンドが熱保護を標的タンパク質に与えたことを示す。
【0025】
図9は、標的X90に対して二連で試験した7,744の化合物の%阻害の散布図である。各化合物についての阻害の程度をプロットし、二回のスクリーニングの結果を相互に対してプロットした。斜めの線は、化合物が双方のスクリーニングにおいて正確に同じ程度の阻害を示す理想的な場合を表す。
【0026】
図10は、アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた20の単独の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線を示す。各パネルは、単独の化合物の滴定を表す。
【0027】
図11は、標的X90に結合する二連ヒット化合物A1のITCスキャンを示す。曲線は、二つの結合部位モデルについてのデータに対する適合を表す。このモデルでは、一つの強い結合部位(KD=0.5マイクロモル濃度)があり、これは、TR−FRETアッセイ様式を用いて得られた1.5マイクロモル濃度のIC50(図10a)によく合致する。また、化合物に対する一連のかなり弱い結合部位があり;標的当たり平均4.6の化合物が、50マイクロモル濃度の有効KDで結合する。
【0028】
図12は、Tmが50.3℃の、標的DB7のCD熱融解を示す。融解のグラフは、温度が上昇するにつれてタンパク質が不可逆的なアンフォールディングを受けることを示す。
【0029】
図13は、アンフォールディングでの凝集を評価するために用いられる標的DB7の動的光散乱分析を示す。より高い温度において明らかに分子量が増加していることは、フォールドしていない標的タンパク質が、一旦アンフォールドすると凝集したということを示す。
【0030】
図14は、標的DB7の熱融解を、アッセイ構成におけるタンパク質濃度の関数として示す。a)では、標的タンパク質の二つの混合物を加熱に先立って混合する;これら二つの混合物のうち一つは、FRETパートナーで標識された標的タンパク質を有する。b)では、そのタンパク質のタンパク質と共に第一抗体をプレインキュベートする工程を省略するために、加熱に先立って、標的タンパク質を、FRETパートナーで標識した特異的結合メンバーと比較する。
【0031】
図15は、TR−FRET構成A様式を用いての、標的DB7の熱融解を示す。融解のグラフを、0、3、44および88ngの標的タンパク質について示す。44および88ng条件は、中間点転移温度を決定するために充分に強いシグナルを示し、各々、47.5℃および47.0℃のTmである。
【0032】
図16は、スクリーニング温度(TATLAS=49℃)および低コントロール温度(4℃)における、3,840の標的DB7についてのコントロールウェルからのデータのプロットである;低コントロールは、標的のアンフォールディングがない状態のシグナルを与える。
【0033】
図17は、標的DB7に対して二連で試験した7744の化合物の%阻害の散布図を示す。二回のスクリーニングの結果を相互に対してプロットする。斜めの線は、化合物が双方のスクリーニングにおいて正確に同じ程度の阻害を示す理想的な場合を表す。
【0034】
図18は、10マイクロモル濃度の標的DB7に対して二連で行ったスクリーニングで見られた三つの化合物(ヒット)の滴定を示す。パーセント阻害は、試験化合物の濃度の関数としてプロットした。各パネルは、単独の化合物の滴定を表す。IC50を各化合物につき計算した。
【0035】
図19は、4℃における標的タンパク質D56のCDスペクトルを示す。
【0036】
図20は、標的D56のCD熱融解を示し、温度が上昇するにつれてタンパク質が不可逆的なアンフォールディングを受けることを示す。
【0037】
図21は、標的D56についての示差走査熱量測定(DSC)のグラフを示す。温度が上昇するにつれて、タンパク質は(約45℃および約53.5℃において)二つの転移を受ける。
【0038】
図22は、ドープ凝集蛍光偏光(DAFP)アッセイ様式での標的D56の熱融解を示す。微量の標識したタンパク質の濃度は2ナノモル濃度で一定に保持し、高い温度では、それだけではシグナルは増大しなかった。未標識タンパク質の濃度を増大させると、低い転移温度で良好なシグナルが得られた。
【0039】
図23は、スクリーニング温度(TATLAS=48℃)および低コントロール温度(25℃)における、各プレートの標的D56についてのコントロールウェルからの平均FPのプロットである;低温コントロールで、標的のアンフォールディングがない場合のFP値が得られる。
【0040】
図24は、4,933の化合物で二連で行ったスクリーニングからのFP値を、各化合物について、相互に対してプロットした散布図である。斜めの線は、アッセイが双方のスクリーニングで所与の化合物について正確に同じFP値を示す理想的な場合を表す。
【0041】
図25は、10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした八つの二連ヒット化合物の滴定を示す。パーセント阻害を、試験化合物の濃度の関数としてプロットする。IC50を各化合物について計算した。各パネルは単独の化合物を表す。
【0042】
定義
【0043】
他の定義がされない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するものと同一の意味を有する。一般に、本明細書中で用いる命名法および後記する製造または実験手法はよく知られており、当該分野で通常に使用される。当該分野および種々の一般的刊行物で供されるもののような慣用的方法がこれらの手法で用いられる。「上向き」および「下向き」または「上方」または「下方」等のような向きについての用語は、装置を使用する際の部品の向きをいう。用語が単数で供される場合、本発明者らはその用語の複数も考慮する。引用して本明細書の一部に組み入れられる刊行物で用いられる用語および定義の間に相違がある場合、本出願で用いる用語は本明細書中で与える定義を有すべきである。開示の全体にわたって使いられる場合、以下の用語は、特に断りのない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0044】
「標的分子」は、構造または活性に影響する化合物がそれに対して望まれる、対象の分子である。
【0045】
「標的タンパク質」は、構造または活性に影響する化合物がそれに対して望まれるタンパク質である。標的タンパク質は、糖タンパク質、リポタンパク質または核タンパク質であり得る。標的タンパク質は、硫酸化、グリコシル化、リン酸化、アシル化、ファルネシル化、ミリスチル化、またはその他の化学的もしくは生化学的修飾を受け得る。
【0046】
本明細書中で用いる場合、「リンカー」とは、例えば、フルオロフォアおよび標的分子のような二つの分子または部位を結びつける化学構造体である。活性基または活性化可能な基を含むリンカーを用いて、二つの分子または部位の化学的連結を容易にすることができる。また、リンカーは、対象の二つの分子または部位が意図したように機能できるように、それらの間に間隔を設けることができる。リンカーは、例えば、それらの長さ、適応性、および活性基または活性化可能な基のような特性に基づいて、選択、設計することができる。対象の分子および部位へのリンカーのカップリングは、リンカー上の種々の基、例えば、ヒドロキシル基、アルデヒド基、アミノ基、メルカプト基等を介することができる。分子および部位は、所望により、リンカーに接続するために、種々の方法により誘導化することができる。対象の分子および対象の部位へのリンカーのカップリングは、当該分野で既知のカップリング試薬を用いて達成することができる。
【0047】
本明細書中で用いる場合、「ペプチドリンカー」は、二つのペプチド配列もしくはタンパク質配列同士、またはタンパク質配列とペプチド配列とを結びつけるペプチド配列を有するリンカーである。好ましくは、リンカーは、ペプチドまたはタンパク質が意図したようにそれらの生物学的または生化学的活性および機能を保持することができるように、それらの間に間隔を設ける。例えばリンカーは、接続したペプチドタグから標的タンパク質を分離する、適応性のあるペプチドを含むことができる。このように、標的タンパク質は、プチドタグからある程度の距離を持って位置させることができるが、この距離は例えば、接続したペプチドタグが、標的タンパク質の、アンフォールディングまたは凝集に関連し得る領域に干渉しないようなものである。リンカーは、例えば、それらの長さおよび適応性、または安定な二次構造の欠如などの特性に基づいて、選択、設計することができる。本発明で有用であり得るリンカーの非限定的な例は、例えば、グリシン、セリンおよびプロリン残基を有するものを含む、親水性アミノ酸残基および短い側鎖を持つアミノ酸残基から成るペプチド配列を含む(例えば、全てここに引用して本明細書の一部に組み入れた、Dubelらの、Gene 128:97−101(1993);Barbasらの、Proc.Natl.Acad.Sci.88:797807982(1991);Hustonらに対して1993年11月2日に発行された米国特許第5258498号明細書およびChangらに対して1999年6月1日に発行された米国特許第5908626号明細書参照)。
【0048】
結合について言及する場合、「直接的に」は、結合を媒介する中間分子なくして分子Aが分子Bに接触、結合することを意味し、「間接的に」は、結合を媒介する少なくとも一つの中間分子と接することによって、分子Aが分子Bに結合することを意味する。
【0049】
「試験化合物」は、特異的結合能のような少なくとも一つの活性について本発明の少なくとも一つの方法によって試験する、化学物質、化合物、組成物または抽出物である。試験化合物は、小分子、薬物、抗体またはその断片もしくは活性断片のようなタンパク質またはペプチドまたはその活性断片、DNAやRNAのような核酸分子もしくはそれらの組み合わせ、または脂質、炭水化物、もしくはそれらの任意の組み合わせのような他の有機もしくは無機の分子を含むことができる。試験化合物は、一旦同定されると、標的の、アゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニストまたはインバースアゴニストであり得る。アッセイを行う前は、試験化合物が目的の標的に結合することは通常分かっていない。
【0050】
「実質的に純粋」とは、存在する主な種類または活性である、目的の種類または活性をいい(例えば、モル濃度を基準とすると、それは、組成物中で、他のどんな個々の種類または活性よりも富んでいる)、好ましくは、実質的に精製された画分または化合物は、目的の種類または活性が、存在する全ての高分子または活性の(モル濃度、重量または活性を基準として)少なくとも約50パーセントを構成している組成物である。一般に、実質的に純粋な組成物としては、組成物に存在する全ての高分子の種類または活性の約80パーセントより多く、より好ましくは、約85%、90%、95%および99%より多くを構成するであろう。最も好ましくは、目的の種類または活性は、実質的に同質となるまで精製し、ここで、汚染物の種類または活性は通常の検出方法によって検出できず、組成物は実質的に単一の高分子の種類または活性よりなる。本発明者らは、組成物内で、特に抽出物では、単一の種類または複数の種類によって、活性が直接的または間接的に引き起こされるであろうことを認識する。
【0051】
「薬剤または薬物」とは、適当な用量、用法、投与経路、時間および送達様式によって適切に投与した場合に所望の治療効果を誘導することができる、化学物質、組成物または活性をいう。
【0052】
「特異的結合メンバー」とは、特異的に結合する領域を表面上または空洞中に有する二つの分子のうちの一つであり、それゆえ、それは、他の分子の特定の空間的および極性的な機構と相補的であると定義される。特異的結合メンバーは、(抗原−抗体のような)免疫学的対、ビオチン−アビジン、ホルモン−ホルモンレセプター、二本鎖核酸、IgG−プロテインA、DNA−DNA、DNA−RNA等のメンバーであり得る。
【0053】
本明細書中で用いる場合、「一次特異的結合メンバー」とは、標的分子に直接的に結合する特異的結合メンバーであって、「二次特異的結合メンバー」とは、フルオロフォアまたはクエンチャーに一次特異的結合メンバーを連結する特異的結合メンバーである。
【0054】
「アンフォールド状態−特異的結合メンバー」とは、標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合し、標的分子の天然形態にはあまり結合しない、特異的結合メンバーである。
【0055】
「ATLAS」または「任意標的リガンド親和性スクリーニング」は、本明細書中では商標として用いないが、本明細書中に記載するようなアッセイをいう。
【0056】
「フルオロフォア」とは、特定の波長で光を吸収する結果、特徴的な波長スペクトルの光を発する分子である。フルオロフォアおよび検出目的で種々のフルオロフォアを異なる分子に連結する方法は、化学および生化学においてよく知られている。分子検出で有用な多くのフルオロフォアは、例えば、Molecular Probes(ユージーン、OR)から商業的に入手可能である。
【0057】
「蛍光共鳴エネルギー移動」または「FRET」は、励起エネルギーが、フォトンを吸収したドナーフルオロフォアとアクセプター部位との間を移動し、ドナー蛍光の消光を引き起こす場合に起こる。もしアクセプター部位が、その励起スペクトルがドナーの発光スペクトルと重なるフルオロフォアであれば、アクセプター部位は、その特徴的な発光波長で蛍光を発するであろう。もしアクセプター部位がフルオロフォアでなければ、それは、光を発することなくドナーフルオロフォアの蛍光を消光するであろう。この場合、アクセプター部位は蛍光クエンチャーである。
【0058】
本明細書中で用いる場合、「ドナーフルオロフォア」とは、光の吸収に際して、励起エネルギーをアクセプターフルオロフォアまたは蛍光クエンチャーに移動することができるフルオロフォアである。このエネルギー移動は、アクセプターフルオロフォアの吸収スペクトルがドナーフルオロフォアの発光スペクトルに重なる場合に起こり得る。アクセプターがクエンチャーである場合、他のメカニズムもエネルギー移動を可能とする。双方の場合において、ドナーフルオロフォアによって発せられた光は消光される。しかしながら、もし励起エネルギーがアクセプターフルオロフォアに移動すれば、アクセプターフルオロフォアはそれ自身の特徴的な発光波長スペクトルで蛍光を発し、他方、もしエネルギーがクエンチャーに移動すれば、二次蛍光はない。
【0059】
「アクセプターフルオロフォア」とは、ドナーフルオロフォアによって移動した励起エネルギーを受け取り、この移動したエネルギーを用いて、それ自身の特徴的な発光波長スペクトルで光を発することができる分子である。
【0060】
「FRET対」とは、ドナーフルオロフォアおよびアクセプター部位より成り、ここで、ドナーフルオロフォアは、その励起波長で光に暴露した場合、励起エネルギーをアクセプター部位に移動させることができる。「蛍光共鳴エネルギー移動」として知られたこの現象は、ドナーおよびアクセプター分子の間の距離に依存し、アクセプターの吸収スペクトルがドナーの発光スペクトルと重なることを要する。FRET対の二つのメンバーは、FRETパートナーということができる。
【0061】
「FRETドナー」とは、本明細書中で「FRETアクセプター」とするもう一つの部位と共にFRETに関与することができる、ドナーフルオロフォアである。FRETドナーおよびFRETアクセプターがFRET対のメンバーであって、(FRET対のフォルスター半径によって判断して)相互に充分近く位置する場合、励起エネルギーはFRETドナーからFRETアクセプターに移動することができる。FRETドナーからの共鳴エネルギー移動による励起の後、FRETアクセプターは蛍光を発することができ(この場合、FRETアクセプターはアクセプターフルオロフォアと呼ぶことができる)、または蛍光を発することができない(この場合、FRETアクセプターは蛍光クエンチャーと呼ぶことができる)。
【0062】
本明細書中で用いる場合、「蛍光クエンチャー」または「クエンチャー」は、励起したフルオロフォアからエネルギーを受け取ることができ、それにより、フルオロフォアの蛍光シグナルを低下させる非蛍光分子である。
【0063】
「蛍光偏光」とは、偏光を吸収した後に分子が発する光の指向性の尺度である。蛍光偏光は以下の式:
P=(I(par)−I(per))/(I(par)+I(per))
によって定義され、式中、Pは偏光に相当し、I(par)は発した光の平行成分に相当し、そしてI(per)は、平面偏光によって励起したときの、フルオロフォアの発した光の垂直成分に相当し、そして、「平行」および「垂直」という向きは、励起光に対してである。P、つまり偏光単位は、フルオロフォアの濃度から独立しており、発せられた光の強度から独立している。
蛍光偏光および極限偏光、フルオロフォアの蛍光寿命、およびフルオロフォアの回転緩和時間の関係は:
((1/P)−(1/3))=((1/P0)−(1/3))×(1+(3 / ))
によって与えられ、式中、 は回転緩和時間である( =3 )。FPは、蛍光寿命が短くなると減少し、回転緩和時間が増大するにつれ増大し、分子量と共に増大する。
【0064】
「異方性」とは、偏光を吸収した後に分子が発する光の指向性の尺度である。異方性は以下の式:
A=(I(par)−I(per))/(I(par)+2I(per))
によって定義され、式中、Aは異方性に相当し、I(par)は発した光の平行成分に相当し、そしてI(per)は、平面偏光によって励起したときの、フルオロフォアの発した光の垂直成分に相当し、そして、「平行」および「垂直」という向きは、励起光に対してである。
【0065】
「複数」は二以上を意味する。本明細書中で用いる場合、「多数」は二より多いことを意味する。
【0066】
本明細書中で用いる場合、「変性した」とは、分子が、その天然形態に対して、二次、三次または四次構造を失ったことを意味する。用語「変性した」および「アンフォールドした」は互換的に用いる。所与の分子は、種々の程度の変性またはアンフォールディングを呈することができ、アンフォールディングの中間体はまた、分子の変性したまたはアンフォールドした形態をいう。
【0067】
分子の「天然形態」、「天然立体構造」または「フォールドした形態」とは:1)分子が天然で形成された場合の分子の構造、または2)分子またはその断片の任意の活性な状態をいう。本発明の方法は主に生物学的分子に関連するので、天然立体構造は、通常、細胞、ウイルスもしくは組織の中もしくは表面に見出されるか、または細胞もしくは生物によって分泌された、分子の立体構造をいう。しかしながら、天然立体構造は、生体分子断片の活性のまたは「天然の」形態に適用することもでき、ここで、天然の形態は、断片が無傷の生体分子内に有するであろう構造を有する形態であり、さらに、この天然立体構造は、天然に生じない分子(例えば、キメラ分子)の活性形態に適用することもできる。天然立体構造とは、(「プレ」タンパク質、「プロ」タンパク質、「プレ」(スプライシングされていない)mRNA等のような)プロセッシングされたまたはプロセッシングされていない分子の天然立体構造をいうことができ、突然変異のまたは異常な形態のタンパク質または核酸、例えば、病気状態で見出される生体分子の形態の立体構造をいうことができる。
【0068】
「Tm」は中間点温度であり、本明細書中で用いる場合、分子群の半分がアンフォールド状態である温度をいう。アンフォールド状態への一つより多くの転移を分子が受ける場合、分子の半分が特定の「転移状態」または中間のアンフォールド状態に入る、一つより多くの「転移温度」であり得る。標的分子は、異なる条件下で異なるTmを呈することができる(例えば、塩濃度、界面活性剤濃度等はタンパク質のTmに対して影響を有することができる)。
【0069】
「TATLAS」とは、標的分子および試験化合物が本発明のスクリーニング方法でそこまで加熱される温度をいう。「TATLAS」は、本発明の方法を用いてフォールドしていない標的分子のレベルの変化を検出することができる任意の温度であり得る。(フォールドしていない標的分子のレベルの変化は、フォールドしていない標的分子の量または割合の直接的または間接的な測定によって、フォールドした標的分子の量または割合の直接的または間接的な測定によって、またはそれらの組み合わせによって検出することができる。)
【0070】
本明細書中で用いる場合、「ウェル」は、液体試料を保持することができる任意の容器であり得、好ましくは、小量(サブミリリットル)の液体試料を保持することができる容器であり得る。例えば、ウェルは表面の窪みであり得るか、または小量の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。本発明の好ましい態様において、「ウェル」はマルチウェルプレートのウェルである。
【0071】
「基準値」とは、本発明の方法を用いて行った測定値であるか、あるいは本発明の方法を用いて行った一つ以上の測定値から計算された値であり、これは、試験ウェルのアッセイ測定値と比較することができる。基準値は、試験化合物なしに標的タンパク質を含むコントロールウェルの測定値もしくは測定値に基づく計算値であり得るか、または標的タンパク質と化合物とを含む「標準」ウェルの測定値もしくは測定値に基づく計算値であり得る。標準ウェル中の化合物は、標的のアンフォールディングに対するその影響が知られているか、または知られていない化合物であり得る。異なる化合物を含む一つより多くの標準ウェルの測定値を用いて、例えば、一連の試験化合物の平均測定値のような基準値を導き出すことができる。
【0072】
本発明において、「付着タグ」とは、標的分子に連結することができる任意の化学的または生化学的部位である。好ましくは、付着タグは、フルオロフォアを含むまたはそれに結合する特異的結合メンバーを含む、一つ以上の特異的結合メンバーによって特異的に結合され得る部位である。好ましくは、付着タグは、共有結合により標的分子と連結する。付着タグは、化学的に標的分子にカップリングすることができるDNPまたはビオチンのような化学的部位であり得る。付着タグはペプチドでもあり得る。標的分子がタンパク質である態様において、付着タグは設計されたペプチドタグであり得、所望により、組換えDNA技術を用いてペプチドタグ配列をタンパク質配列に組み込むことによって、タンパク質に付着させることができる。「単一の付着タグ」は、特定の標的分子上で一度だけ現れるタグである。同様に、「単一のペプチドタグ」は、特定の標的タンパク質配列において一度だけ現れるペプチド配列である。用語「単一の付着タグ」および「単一のペプチドタグ」の使用は、本発明において、特定のタグが、標的分子の中または上で、一度を超えては現れないことを意味することを意図する。用語「単一のペプチドタグ」および「単一の付着タグ」の使用は、一つ以上のさらなるタグが「単一のペプチドタグ」または「単一の付着タグ」と別の化学的アイデンティティーを有し、かつ同一の特異的結合メンバーによって結合されない限り、同一標的タンパク質上で一つ以上のさらなるタグが存在することを考慮している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
緒言
【0074】
本発明は、薬物発見の試みにおいて非常に多数のリード化合物を供する必要性を認識する。本発明は、多数の小量の試料および高感度/低バックグラウンドの蛍光検出方法を用いて、短時間で広く種々の標的タイプを効果的にスクリーニングするために用いることができるハイスループットスクリーニング方法を提供する。本発明のアッセイは、最少の検出干渉、洗浄工程の削除、最少のインキュベーション、および迅速な検出をもたらす、一般的な標識試薬の使用を含む。
【0075】
本発明は、試験化合物の存在下および不存在下での標的分子のアンフォールディングの程度を測定するアッセイ方法を提供する。コントロールに対する、試験化合物の存在下での標的分子のアンフォールディングの程度の差は、加熱の間に標的分子に結合し、それにより該分子の安定性を変化させる、試験化合物の能力を示す。かくして、標的分子のアンフォールディングの程度を変化させる試験化合物は、標的分子のリガンドとして同定することができる。
【0076】
本発明の方法は、分子のアンフォールディングの程度の指標としての蛍光読み出しに依拠する。特に、該アッセイは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)検出または蛍光偏光(FP)検出および特異的に標識した標的分子を用いて、標的分子のアンフォールディングを測定する。FRETおよびFP分光法を含む蛍光分光法は当該分野でよく知られており、Plenum Publishing Corp.の、Joseph R.Lakowicz編、Principles of Fluorescence Spectroscopy、第2版(1999)で議論されている。本明細書中に開示した方法においてFRETおよびFPを用いる利点には、標識試薬(フルオロフォア)の安定性、高感度、非常に迅速な検出、そして検出を自動化する能力が含まれる。
【0077】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、FRET検出を使用する。これらの実施形態において、標的分子に結合することができる二つの特異的結合メンバーを用い、その各々は、FRET対のメンバーに結合する。フルオロフォアをある波長の光に暴露すると、それは、異なる波長で光を発する(蛍光を発する)。しかしながら、FRETの間、光によって刺激されるフルオロフォアは、非放射的に励起エネルギーをアクセプター部位に移動させることができる。これは、ドナーの蛍光の消光を引き起こす。もし励起状態のエネルギーがもう一つのフルオロフォアに移動すれば、アクセプターフルオロフォアは、それ自身の特徴的な発光波長スペクトルで蛍光を発する。もし、逆に、励起状態のエネルギーが非フルオロフォアアクセプターに移動すれば、ドナーの蛍光は、アクセプターによる蛍光発光をせず消光するであろう。FRETに関与することができる分子の対をFRET対と呼ぶ。FRETが起こるためには、FRET対(FRETパートナー)のメンバーは非常に接近しなければならず、ドナーの励起スペクトルはアクセプターの発光スペクトルに重ならなければならない(Cleggら(1992)Methods in Enzymology 211:353−388;Selvin(1995)Methods in Enzymology 246:300−334)。
【0078】
蛍光偏光は、本発明で用いるもう一つの高感度の検出手段である。蛍光偏光とは、それが吸収されるのと同一の方向に蛍光分子が光を発する傾向をいう。しかしながら、もしフルオロフォアが蛍光発光の寿命の間に溶液中で回転していれば、発せられた光は励起光よりも偏光されない。フルオロフォアの回転速度を低下させるいずれの条件も、発せられた光の指向性を増加させ、かくして、蛍光発光の偏光度を増加させる。従って、この現象を用いて、安定した部位への結合、サイズの増加、溶液の粘度の増加等のような、溶液中の分子の回転速度を低下させる現象を調べ、定量することができる。
【0079】
本発明のいくつかの好ましい方法において、蛍光検出方法を用いて、標的分子の可溶性凝集体を検出する。これらのアッセイにおいて、試験化合物の存在下で標的分子を変性条件に付す。標的分子がアンフォールドするにつれ、それは、溶液中の他の標的分子と凝集体を形成する傾向にある。本発明はどのような特定のメカニズムにも限定されないが、標的分子のアンフォールディングは、分子の一部すなわち溶液中で露出していない領域を露出させ、そしてこれらの領域が分子間結合に関与できるため、標的分子が可溶性凝集すると考えられる。標的分子をフルオロフォアで標識すると、これらの可溶性凝集体は、その低下した回転速度により、FP検出を用いて検出することができる。標的分子の標的分子群の異なるメンバーをFRETドナーおよびFRETアクセプターで標識すると、標的分子の凝集体は、ドナー発光、アクセプター発光、またはその組み合わせを測定することによって、凝集した標的分子上のFRETパートナーの近接性により検出することができる。また、標的分子に結合し、変性条件下で標的分子の安定性を変化させる試験化合物は、標的分子の凝集に影響し、従って、コントロールに対して、(FPまたはFRET検出を用いる)蛍光読み出しを変化させる。
【0080】
本発明は、かくして、非常に低いバックグラウンドしか生じない、リガンドについての迅速で小量のスクリーニングを提供することを特徴とする。シグナルは標的のアンフォールディングの量に依存し、蛍光読み出しは、タンパク質のアンフォールド状態(多くの場合、凝集した状態)について直接的に報告する。標識した試験化合物または遊離標識化合物を有するアッセイで起こり得る、人為的な影響の可能性は大いに低下する。
【0081】
かくして、本発明は、標的分子の二次構造を安定化または不安定化し、所定の温度に加熱した場合の標的分子のアンフォールディングおよび凝集の程度に影響するリガンドの能力に基づく、種々の、容易にセットされ、迅速で、高度に再現可能で、高シグナル対ノイズのアッセイを提供する。アッセイは、蛍光シグナルが最小バックグラウンドで迅速に検出されるように、蛍光シグナルが標的分子のアンフォールディングの程度に直接関連する蛍光検出に依拠する。
【0082】
本発明の第一の実施形態は、標的タンパク質の変性した形態に特異的に結合する第一の特異的結合メンバーを使用することを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法である。本発明のこの態様において、第一の特異的結合メンバーはFRET対の一つのメンバーに結合し、FRET対の他のメンバーに結合することができる第二の特異的結合メンバーもまたアッセイに含まれるので、蛍光シグナルは、標的分子が変性されるにつれ接近する二つのFRETパートナーの相互作用に依存する。好ましくは、標的分子がアンフォールドする程度の測定は、蛍光共鳴エネルギー移動の検出によって行う。
【0083】
本発明の第二の実施形態は、また、標的タンパク質のアンフォールド形態に特異的に結合する特異的結合メンバーを使用することを含む。この実施形態においては、特異的結合メンバーはフルオロフォアに結合し、FPの変化は、標的が変性条件に応じてアンフォールドするに従って検出される。
【0084】
本発明の第三の実施形態は、FRETドナーに結合することができる第一の特異的結合メンバーおよびFRETアクセプターに結合することができる第二の特異的結合メンバーを使用することを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法であり、ここで、第一および第二の特異的結合メンバーは、標的タンパク質の同一の単一領域に結合する。
【0085】
この実施形態の一つの態様において、標的分子群の一部を第一の特異的結合メンバーで標識し、標的分子群を変性条件に付し、第二の特異的結合メンバーをアッセイ試料に添加する。第二の特異的結合メンバーが、第一の特異的結合メンバーに結合した標的分子と凝集した標的分子に結合すると、FRETが検出される。かくして、第一および第二の特異的結合メンバーに結合したFRETパートナーは、アンフォールディング、および引き続いて起こる、第一の特異的結合メンバーが結合した標的分子と第二の特異的結合メンバーが結合するようになる標的分子との凝集によって、接近する。
【0086】
本発明のこの実施形態のもう一つの態様において、一つの標的分子群は、FRET対の一つのメンバーに結合する第一の特異的結合メンバーに結合し、標的分子の第二の群は、FRET対のもう一つのメンバーに結合する第二の特異的結合メンバーに結合する。第一および第二の標的分子群を変性条件に付すと、FRETが、変性した標的分子が凝集するに従って検出される。
【0087】
本発明の第四の実施形態は、標的タンパク質に付着した蛍光標識を使用することを含む、標的タンパク質のリガンドについてスクリーニングする方法である。標的タンパク質の加熱の結果、タンパク質が溶液中でアンフォールドし凝集するにつれ起こる蛍光偏光が変化する。フルオロフォア−標識標的タンパク質を試験化合物の存在下で加熱すると、標的分子に結合してそれをアンフォールディングから保護するこれら化合物は、試験化合物の不存在下で標的分子を含むコントロール試料と比較した場合に、低いFP読み出しを有するであろう。
【0088】
発明の要素
【0089】
標的分子
本発明の方法で用いる標的分子は任意のタイプの分子とすることができるが、好ましくは、標的分子は、加熱によって改変することができる二次、三次または四次構造を有する分子である。例えば、標的分子は、大きな有機分子、炭水化物、タンパク質、脂質、核酸またはそれらの組み合わせを含むことができる。好ましい標的分子は、ペプチド、タンパク質または核酸を含む標的分子である。
【0090】
本発明のいくつかの好ましい態様において、標的分子は一つ以上のタンパク質を含み、また、所望により、補因子、補欠分子族、脂質、炭水化物、核酸等のような、有機分子および無機分子を含む、他の部位を含むこともできる。標的分子はタンパク質のモノマー、ダイマーまたはオリゴマー形態であり得る。また、標的分子は一つより多くのタンパク質の複合体であり得、ここで、複合体中の一つ以上のタンパク質は、一つ以上の他の部位を含むことができる。
【0091】
本発明の方法で用いる標的タンパク質は、細胞または培地から単離するなど、任意のものを源とすることができ、標的タンパク質を合成するように遺伝子工学により作成した細胞も含む。遺伝子工学により作成した細胞は、非限定的例として、細菌種、真菌種、昆虫種、鳥類種および哺乳動物種を含む、任意の種からのものであり得る。標的タンパク質は、それをコードする核酸分子への一つ以上の突然変異の導入によって修飾したタンパク質であり得、ここで、突然変異は一ヶ所以上の欠失、挿入、短縮、置換またはその組み合わせを含む、任意の突然変異であり得る。標的タンパク質は、他のタンパク質の一つ以上のドメインを含むことができ、二つ以上のタンパク質からの領域を組み込む融合タンパク質であり得る。また、標的タンパク質は、化学的にまたは酵素的に修飾することができ、限定されるものではないが、活性な基、標識または特異的結合メンバーのような部位を含み得る。
【0092】
付着タグ
本発明の標的分子は、所望により、付着タグを含むことができる。付着タグは、標的分子に連結する化学的または生化学的部位である。好ましくは、付着タグは標的分子に共有結合する。所望により、タグの標的分子への付着は、化学的なリンカーを介することができる。本発明の方法において、付着タグは、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的に結合することができる特異的結合メンバーのような、特異的結合メンバーに対する結合部位として用いる。付着タグの使用は、フォールディング/アンフォールディングまたはリガンド結合に関与することができる標的分子の内因性領域に結合せずに標的分子に結合する特異的結合メンバーを使用することができるなど、いくつかの利点を有する。付着タグの使用は、付着タグを認識し、かつフルオロフォアまたはクエンチャーを含むまたはそれに結合する特異的結合メンバーのような、本発明のアッセイにおける一般的な試薬の使用も可能とする。
【0093】
付着タグは、標的分子に化学的または酵素的にカップリングすることができる化学的部位であり得る。そのような付着タグの非限定的例は、ジニトロフェニル(DNP)およびビオチンである。付着タグはペプチド配列でもあり得る。標的分子がタンパク質である場合、特異的結合メンバーによって認識され得るペプチド配列を、遺伝子工学を用いて、標的タンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームに組み込むことができる。ペプチドタグを含む標的タンパク質は、形質転換した原核生物細胞または真核生物細胞によって産生することができる。
【0094】
いくつかのペプチドタグは当該分野で知られており、それらに特異的に結合する抗体は商業的に入手可能である。しかしながら、本発明は既知のペプチドタグに限定されない。例えば、新規なペプチドタグを本発明で用いるために採用または開発することができる。
【0095】
ペプチドタグは、好ましくは、標的タンパク質のCまたはN末端に付着させて、標的タンパク質の天然立体構造との干渉を最小化させる。それらは、所望により、限定されるものではないが、ペプチドリンカーのようなリンカーを用いて付着させることができる。
【0096】
試験化合物
本発明の方法で用いる試験化合物は、限定されるものではないが、炭水化物、糖、ペプチド、タンパク質、脂質、ステロール、核酸およびそれらの組み合わせを含む、それらに限定されることのない、小分子、有機または無機化合物を含む、任意の化合物であり得る。
【0097】
試験化合物は、種々の方法のうち任意のもので作成できる化合物ライブラリーからのものであり得る。例えば、コンビナトリアル化学、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイを用いて、化合物を作成することができ、これは、本発明の方法を用いてアッセイすることができる。化合物を合成、選択し、標的タンパク質の構造および相同性についての情報、また所望により、可溶性、毒性の可能性の低さ、製造性等についての評価を使用できるコンピュータープログラムの使用を含む合理的薬物設計に基づくアッセイで試験することができる。
【0098】
化合物ライブラリーを標的にすることもしないこともでき、それは他のライブラリーのサブセット、または拡大したセットであり得る。本発明のアッセイまたは他のアッセイで標的分子との相互作用を示した化合物は、類似の化合物の試験または設計のためのベースとして用いることができる。例えば、化学的骨格構造は、アッセイのヒットまたは既知の化合物に基づくことができ、骨格にランダムにまたは非ランダムに工夫を凝らして、本発明のアッセイのためのさらなる試験化合物を作成することができる。
【0099】
試験化合物は、植物、真菌、細菌、海洋生物、または増殖培地の画分または抽出物であり得る化合物の混合物でもあり得る。生物の画分、抽出物または培地をさらに分画し、部分的にまたは実質的に精製することができる。
【0100】
試験化合物は、一つ以上の緩衝液、塩、還元剤、キレーター、界面活性剤、アルコール、グリセロール、DMSO等を含む溶液中で作成することができる。好ましくは、試験化合物の溶液は、アッセイ混合物に添加する場合に、溶液がアッセイに適合できるように作成する。
【0101】
特異的結合メンバー
本発明で用いる特異的結合メンバーは、抗体、タンパク質、ペプチド、小分子および核酸を含む任意の特異的結合メンバーを含むことができる。本発明のいくつかの態様において、標的分子に特異的に結合する特異的結合メンバーを用いる。標的分子に結合する特異的結合メンバーは、標的分子の付着タグを含む、標的分子に特異的に結合する任意の特異的結合メンバーであり得る。好ましい特異的結合メンバーは、抗体およびビオチン/ストレプトアビジンである。
【0102】
本発明においては、特異的結合メンバーを、非限定的例として、フルオロフォアまたはクエンチャーを標的分子に結合させるか、あるいはフルオロフォアまたはクエンチャーを標的分子のもう一つの特異的結合メンバーに結合させるために用いる。特異的結合メンバーに結合したフルオロフォアまたはクエンチャーは、特異的結合メンバーに化学的にカップリングさせることができるか、あるいは二次特異的結合メンバーを介して結合させることができる。「一次特異的結合メンバー」は、フルオロフォアまたはクエンチャーを直接的に標的分子に連結させ、かくして、それらは一般的にはフルオロフォアまたはクエンチャーに化学的にカップリングする。「二次特異的結合メンバー」は、フルオロフォアまたはクエンチャーを標的分子に間接的に連結させ、かくして、それらは一般的にはフルオロフォアまたはクエンチャーに化学的にカップリングし、一次特異的結合メンバーに結合することができる。
【0103】
標的タンパク質に直接的に結合させるために用いる好ましい特異的結合メンバーは、抗体、特にモノクローナル抗体を含む。抗体分子の特異的結合活性を保持する、限定されるものではないがFab断片のような抗体断片も、本発明の方法において特異的結合メンバーとして用いることもできる。
【0104】
本発明のアッセイのいくつかの構成において、試料の加熱に先立って、一つ以上の特異的結合メンバーを添加する。そのような場合、特異的結合メンバーの結合は、アッセイで用いる温度によって低下するべきではない。試料の加熱の間に存在する、本発明の方法で用いるために開発し、または購入した抗体を、アッセイ温度まで加熱する間の結合の安定性について試験することができる。抗体の結合が熱感受性を有するいくつかの場合、加熱、そしてそれに引き続く(室温のような)結合適合温度への冷却の後に、その特定の抗体の結合が加わるように、アッセイを再構成することができる。
【0105】
フルオロフォア
本発明は、標的分子に直接的または間接的に結合することができる蛍光標識を用いる。蛍光分子またはフルオロフォアは、例えば、活性基を介してカップリングすることによってフルオロフォアを他の分子に結合させる方法で、当該分野でよく知られている。フルオロフォアは、例えば、フルオロフォアにカップリングした特異的結合メンバーの結合を介して、標的分子に間接的に結合することもできる。
【0106】
本発明のいくつかの方法において、蛍光偏光を検出する。蛍光偏光検出のために標的分子に直接的または間接的に結合することができるフルオロフォアは、当該分野で知られた、または後に開発された任意のフルオロフォア、例えば、フルオレセイン、ローダミン、Alexa染料、Cy染料、TMR、JOE、FAM、TAMRA、BODPY、ピレン、ユーロピウムまたは他のランタニド化合物、ならびにフィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、GFPおよびその誘導体、D.s.レッド等のような蛍光タンパク質等を含む。本発明のいくつかの他の方法において、蛍光共鳴エネルギー移動を検出する。これらの方法において、蛍光ドナー/アクセプター対を用いる。任意のドナー/アクセプターフルオロフォア対を用いることができ、ここで、ドナーフルオロフォアは、光を吸収し、励起エネルギーをアクセプターフルオロフォアに移動することができるので、アクセプターフルオロフォアが蛍光を発光する。本発明の方法で有用なドナー/アクセプター対の例は、テルビウム/フルオレセイン、テルビウム/GFP、テルビウム/TMR、テルビウム/Cy3、テルビウム/Rフィコエリトリン、ユーロピウム/Cy5、ユーロピウム/APC、Alexa488/Alexa555、Alexa568/Alexa647、Alexa594/Alexa647、Alexa647/Alexa594、Cy3/Cy5、BODIPY FL/BODIPY FL、フルオレセイン/TMR、IEDANS/フルオレセイン、およびフルオレセイン/フルオレセインを含む。
【0107】
第一の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合することができるフルオロフォアまたはクエンチャーは、第二の特異的結合メンバーによって直接的または間接的に結合されたクエンチャーまたはフルオロフォアと共にFRET対を構成する、任意のフルオロフォアまたはクエンチャーであり得る。「ドナーフルオロフォア」とは、光によって活性化された場合に、フルオロフォアが励起エネルギーをアクセプターフルオロフォアへ移動させることができることを意味する。「アクセプターフルオロフォア」とは、フルオロフォアが、適当な波長の光によって励起されたドナーフルオロフォアから励起エネルギーを受け取ることを意味する。本発明の方法で有用であり得るドナーフルオロフォアの非限定的例は、テルビウム、Alexa488、Alexa568、Alexa594、Alexa647、Cy3、BODIPY FL、フルオレセイン、IEDANS、EDANS、またはユーロピウム化合物を含む。本発明の方法で有用であり得るアクセプターフルオロフォアの非限定的例は、フルオレセイン、GFP、TMR、Cy3、Rフィコエリトリン、Cy5、APC、Alexa555、Alexa647、Alexa647、Alexa594、Cy5、BODIPY FL、TMR、XL−665およびアロフィコシアニンを含む。
【0108】
加えて、第二の特異的結合メンバーに結合した蛍光クエンチャーによって消光され得るフルオロフォアを用いることも可能であり、あるいは第一の特異的結合メンバーはクエンチャーを含み、またはそれに結合することができ、アッセイで用いる第二の特異的結合メンバーはドナーフルオロフォアに結合することができる。本発明の方法で用いることができる蛍光クエンチャーの非限定的例は、DABCYL、DABSYL、QSY7、QSY9、QSY21およびQSY35を含む。
【0109】
試料の加熱
本発明のいくつかの好ましい方法において、標的分子および一つ以上の試験化合物を含む試料を一つ以上の所定の温度まで加熱して、標的分子のアンフォールディングに対する試験化合物の影響を測定する。これらの方法において、アッセイの間に試料をそこまで加熱する温度をTATLASと呼ぶ。(もし試料を一つより多くの温度まで加熱するならば、温度はTATLAS1、TATLAS2、TATLAS3等と呼ぶことができる。)TATLASは、所与の条件下で測定可能な量の標的分子がアンフォールドする、任意の予め選択した温度であり得、ここで、アンフォールドする標的分子の量は、試料中のアンフォールドした標的分子の量を直接的または間接的に測定することによって、試料中のフォールドした標的分子の量を直接的または間接的に測定することによって、あるいはそれらの組み合わせによって、測定することができる。
【0110】
測定可能な量の標的分子がアンフォールドする温度を決定するための、標的分子の解析は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、円二色性(CD)、核磁気共鳴(NMR)、UV吸光光度法、蛍光(蛍光発光および蛍光偏光を含む)、光散乱、または分子の構造を明らかにするために用いることができる任意の他の方法を用いて、分子の構造をモニターしつつ、段階的にまたは規定された速度で分子を加熱することによって行うことができる。好ましくは、標的タンパク質のような標的分子の解析は、標的分子の中間点温度(Tm)を測定することを含むが、これは本発明の要件ではない。
【0111】
好ましくは、標的分子はまた、リガンドをスクリーニングするために用いられるであろうATLASアッセイと同一の方法で構成される標識および検出システムを用いて、一連の温度で構造決定する。例えば、実施例2および図6;実施例8および図15を参照。これは、実施者が、アッセイ条件下での温度と標的のアンフォールディングとの関係をプロットすることを可能とする。TATLASは、アッセイ条件下での温度と標的のアンフォールディングとの関係を用いて選択することができる。TATLASの選択で用いることができる基準は、ダイナミックレンジ、または種々の温度におけるアンフォールディングの程度の大きな変化を測定する能力、(アッセイで得られたシグナル対ノイズ比率およびアッセイの精度に依存する)種々の温度におけるアッセイの質もしくは「頑健性」(Z’因子);種々の温度におけるアッセイの感度、および種々の温度におけるアッセイ試薬の安定性である。
【0112】
本発明のアッセイにおける標的分子のTATLASへの加熱は、原則的に連続的とすることができ、またはそれは別個の工程で行うことができる。好ましくは、加熱は規定された速度で比較的迅速に、例えば、毎分0.5度かそれより速く行う。しかしながら、加熱の速度は本発明を限定するものではない。
【0113】
一旦所定の温度まで加熱すれば、試験ウェルをその温度に任意の長さの時間保持することができる。好ましくは、試験ウェルをTATLASで約一分から約六時間、より好ましくは約十分から約一時間インキュベートする。
【0114】
加熱および所定の温度での任意のインキュベーションの後、所望により、試験ウェルをより低い温度まで冷却することができる。蛍光検出を行うに先立ち、試料をほぼ室温(約22℃)まで冷却するのが便宜である。しかしながら、蛍光検出に先立ち、試料を37℃未満の温度のような、他の温度まで冷却してもよい。また、蛍光検出の間、試験ウェルをTATLASに維持するのも本発明の範囲内のものである。
【0115】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルを単一の別個の温度に加熱し、単一温度に特定の長さの時間置いた後、ウェルを室温まで冷却し、蛍光発光または蛍光偏光の測定を行う。
【0116】
蛍光の測定
本発明のアッセイは、標的分子のアンフォールド状態を測定するために蛍光検出を用いる。本発明の方法においては、蛍光検出は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の検出または蛍光偏光(FP)の検出であり得る。
【0117】
FRET検出を使用する場合、標的分子をFRETドナーおよびFRETアクセプターで直接的または間接的に標識する。FRETパートナーがタンパク質アンフォールディングによって接近すると、蛍光共鳴エネルギー移動が検出される。例えば、標的分子群の一つの部分をFRETドナーで標識することができ、標的分子群のもう一つの部分をFRETアクセプターで標識することができる。
【0118】
もしアッセイで用いるFRET対がドナーフルオロフォアおよび蛍光クエンチャーを含むならば、検出は、ドナーの発光スペクトルの波長で行う。蛍光読み出しは、FRETパートナーを相互に接近させる標的分子のアンフォールディングが増大すると、低下するであろう。
【0119】
もしアッセイで用いるFRET対がドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアを含むならば、検出は、ドナー発光スペクトルの波長、アクセプター発光スペクトルの波長、または好ましくはその双方で行うことができる。ドナー発光に対するアクセプター発光の比率は、試験化合物を含む試験ウェルとコントロール試験ウェルとを比較するための基礎として用いることができる。ドナーフルオロフォアからの蛍光読み出しは、FRETパートナーを相互に接近させる標的分子のアンフォールディングが増大すると、低下するであろう。アクセプターフルオロフォアからの蛍光読み出しは、FRETパートナーを相互に接近させる標的分子のアンフォールディングが増大すると、増大するであろう。従って、ドナー発光に対するアクセプター発光の比率も、標的のアンフォールディングの増大に従って増加する。
【0120】
好ましくは、FRETベースの発光測定は時間分解であるが、これは本発明の要件ではない。時間分解蛍光共鳴エネルギー移動の測定は、例えば試料を含むウェルからのバックグラウンド蛍光による干渉を低下させることができる。
【0121】
FP検出を用いる場合、好ましくは、標的分子または標的分子群の画分を蛍光標識で直接的または間接的に標識するが、標的分子の固有の蛍光からFPを検出することもできる。標的分子のアンフォールディング、および/または、フォールドしたタンパク質に対して流体力学が改変する、タンパク質のようなフォールドしていないタンパク質等の標的分子は、凝集体になり得、この凝集体は、その増大したサイズのため、未凝集の標的に対して溶液中の回転速度が低下している。回転速度の低下の結果、非凝集標的タンパク質と比較した場合、フルオロフォアによって発せられる光の偏光が増大する。本発明のアッセイにおいて、試験ウェルをTATLASまで加熱した後の、試験化合物を含む試験ウェルのFP値とコントロール試験ウェルのFP値との比較を用いて、試験化合物の存在下での標的分子のアンフォールディングの程度を測定することができる。
【0122】
また、アンフォールド状態−特異的結合メンバーの結合のために起こる標的分子のFPの増加を測定することもできる。アンフォールド状態−特異的結合メンバーの結合は、標的分子の回転速度を低下させることができ、FPを測定可能な程度増加させる。大きな分子または粒子のような部位は、所望により、アンフォールド状態−特異的結合メンバーに付着させて、フォールドしていない標的/アンフォールド状態−特異的結合メンバー複合体のサイズを増加させ、FPシグナルを増大させることができる。また、標的をフルオロフォアで標識し、標的分子がアンフォールドして多かれ少なかれ自由に回転できるにつれてFPシグナルが減少または増大することを測定することもできる。
【0123】
基準値
本発明の方法において、試験ウェルの測定値を基準値と比較して、試験化合物が変性条件下で標的タンパク質の安定性を改変するか否かを判断することができる。
【0124】
基準値は、コントロールウェルから得た測定値とすることができ、ここで、コントロールウェルは、標的分子を含み、試験化合物を欠くものであり、試験ウェルと同一の方法で処理する(試薬の添加、インキュベーション等)。一つ以上のコントロールウェルを、一つ以上の試験ウェルをアッセイする時間と異なる時間にアッセイすることができるが、好ましくは、コントロールウェルは試験ウェルと同時にアッセイする。もし一つ以上のコントロールウェルを、一つ以上の試験ウェルをアッセイする時間と異なる時間にアッセイすれば、一つまたは複数のコントロールウェルから得た測定値を記録することができ、試験化合物でのアッセイの結果を、保存したデータと比較することができる。
【0125】
基準値は、一つ以上の標準ウェルから得た測定値とすることもでき、ここで、標準ウェルは、標的分子、および標的分子の安定性に影響することができるかまたはできない一つ以上の化合物を含み、一つまたは複数の標準ウェルは、試験ウェルと同一の方法で処理する(試薬の添加、インキュベーション等)。標準ウェルは、(標的分子に対するその効果を試験すべき)試験化合物、または変性条件下での標的分子の安定性に対するその効果が知られている化合物を含むことができる。一つ以上の標準ウェルを、一つ以上の試験ウェルをアッセイする時間と異なる時間にアッセイすることができるが、好ましくは、標準ウェルは、試験ウェルと同時にアッセイする。もし一つ以上の標準ウェルを、一つ以上の試験ウェルをアッセイする時間と異なる時間にアッセイすれば、一つまたは複数の標準ウェルから得た測定値を記録することができ、試験化合物でのアッセイの結果を、保存したデータと比較することができる。
【0126】
基準値は、一つ以上のコントロールウェルまたは一つ以上の標準ウェルから得た測定値のみならず、それから導いた値も含む。例えば、本発明の方法で用いる基準値は、同一の化合物または異なる化合物を含む二つ以上の標準ウェルの測定値の平均、二つ以上のコントロールウェルの測定値の平均、コントロールウェルまたは標準ウェルの測定値から導いた比率(または比率の平均)(例えば、ドナー波長蛍光強度に対するアクセプター波長蛍光強度の比率)、またはコントロールウェル、標準ウェル、もしくはコントロールウェルおよび標準ウェルの組み合わせから得た測定値を任意に実用的に処理した結果とすることができる。
【0127】
I.標的分子のアンフォールド形態を認識する特異的結合メンバーおよびFRET検出を用いる、標的分子に結合する一つ以上の化合物を同定するためのスクリーニング方法
【0128】
本発明の一つの実施形態は、標的分子の一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法であり、ここで、該スクリーニング方法は、標的分子のアンフォールド形態を特異的に認識する特異的結合メンバーおよびFRET検出を用いる。「特異的に認識する」とは、特異的結合メンバーが、アンフォールド状態の標的分子に結合するが、フォールドした、または天然の状態にある標的分子には認め得るほどには結合しないことを意味する。標的分子を少なくとも一つの試験化合物と接触させ、標的分子のアンフォールド形態に特異的な特異的結合メンバー(以後、「アンフォールド状態−特異的結合メンバー」という)の存在下で変性処理に付す。タンパク質がアンフォールドするに従い、アンフォールド状態−特異的結合メンバーは、フォールドしていない標的分子に結合する。変性工程の後、第二の特異的結合メンバーを添加する。第二の特異的結合メンバーは、アンフォールド状態−特異的結合メンバーが結合する領域とは別の標的分子の領域に特異的に結合する。第一および第二の特異的結合メンバーは、各々、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)対のメンバーを含むか、あるいはそれに結合する。すなわち、特異的結合メンバーのうち一方はFRETドナーに結合し、他方の特異的結合メンバーはFRETアクセプターに結合する。かくして、FRETパートナーが接近している場合、例えばそれらが標的分子のアンフォールディングの後に同一の標的分子に結合する場合、またはそれらがアンフォールディングの後に形成された凝集体の構成要素に結合する場合、エネルギーはFRETドナーからFRETアクセプターに移動することができる。一つ以上の蛍光シグナルを検出し、(標的分子が試験化合物の不存在下で少なくとも部分的に変性される)コントロールまたは(標的分子が試験化合物の存在下で少なくとも部分的に変性される)標準の蛍光測定と比較した場合、蛍光測定は、変性条件下でアンフォールドまたはフォールド状態の標的分子が存在する程度の指標として用いる。アッセイ温度で標的分子がアンフォールド状態で存在する程度を変化させる試験化合物は、標的タンパク質のリガンドとして同定する。好ましい実施形態において、変性処理とは、(標的分子が試験化合物の不存在下で測定可能な程度までアンフォールドすることが知られている)一つ以上の所定のアッセイ温度まで加熱することである。
【0129】
該方法は:溶液中の標的分子を一つ以上の試験ウェル中に供し;該一つ以上の試験ウェルに一つ以上の試験化合物を添加し;該一つ以上の試験ウェルに、標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する第一の特異的結合メンバーを添加し、ここで、第一の特異的結合メンバーはFRETドナーまたはアクセプターを含むか、あるいはFRETドナーまたはFRETアクセプターに直接的または間接的に結合することができ;そして該一つ以上の試験ウェルを、標的分子の少なくとも一部が変性される条件に付すことを含む。該方法は、さらに、該一つ以上の試験ウェルに、第一の特異的結合メンバーの結合部位とは別の部位において該標的分子に結合することができる第二の特異的結合メンバーを添加することを含む。第二の特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーに付着した、またはそれに一体化したフルオロフォアの性質に応じて、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれらに結合することができ、第一の特異的結合メンバーがFRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合、第二の特異的結合メンバーは、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ、また、第一の特異的結合メンバーがFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合、第二の特異的結合メンバーは、FRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。該方法は、さらに、一つ以上の試験ウェルから一つ以上の波長で蛍光発光を測定し;一つ以上の試験ウェルの一つ以上の波長での蛍光発光を基準値と比較し;該蛍光発光の比較を用いて、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、標的分子が、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を測定し;そして、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、該標的分子がアンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度の測定を用いて、一つ以上の試験化合物が該標的分子に結合するか否かを測定し、それにより、標的分子の一つ以上のリガンドを同定することを含む。
【0130】
リガンドが求められる標的分子は任意の分子であり得るが、好ましくは、標的分子は、生体分子、より好ましくは、ペプチド、タンパク質または核酸を含む生体分子、最も好ましくはタンパク質を含む生体分子である。タンパク質またはペプチドを含む生体分子は、例えば、化学的または翻訳後の修飾を含むタンパク質であり得、例えば、糖タンパク質、核タンパク質、リポタンパク質、ファルネシル化、ミリスチル化、アシル化、リン酸化または硫酸化タンパク質等であり得る。「タンパク質」または「標的タンパク質」を本明細書において用いる場合、タンパク質を含む前記の生体分子も含まれる。それは、限定されるものではないが、リンカー、(フルオロフォアを含む)標識、タグ、および特異的結合メンバーのような、ペプチドまたは化学的部位も含むことができる。
【0131】
標的タンパク質は任意の種から由来したものであり得、生物、環境源または培地を含めた、天然源から単離することができるか、あるいは内因性または外因性の細胞型を用いる組換え技術を用いて生産することができる。例えば、標的タンパク質は、細菌または真菌の培養、昆虫細胞の培養、鳥類細胞の培養、(ヒトを含む)哺乳動物細胞の培養等で生産することができる。それらは、トランスジェニック生物によって生産することもできる。タンパク質は、好ましくは、アッセイで用いるために、少なくとも部分的に精製し、より好ましくは実質的に精製する。タンパク質は天然の野生型の形態に対して配列が異なっていてもよく、一つ以上の付着タグを含んでいてもよい。
【0132】
本発明の好ましい態様において、標的タンパク質は、フルオロフォアのような標識を含むかそれに結合することができる特異的結合メンバーのような特異的結合メンバーによって認識され得る、付着タグを含むことができる。このように、(フルオロフォアまたはクエンチャーにカップリングするか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができるもののような)付着タグに特異的に結合することができる一次特異的結合メンバーの形態である一般的な試薬を、本発明のアッセイで用いることができる。付着タグを用いる重要な利点は、それが、標的タンパク質の内因性領域に結合する特異的結合メンバーを使用せずにすむことである。内因性領域は試験化合物の結合部位であり得るか、あるいは標的タンパク質の熱依存的な凝集に関与し得るか、あるいはその立体構造または接近可能性が試料の加熱に伴って変化する領域であり得るので、内因性領域の使用は好ましくない。付着タグの例は、例えば、FLAG、血球凝集素、mycまたは6xHisタグのような、短いペプチドタグ配列である。そのようなタグは、組換えDNA技術を用いて標的タンパク質配列に挿入することができる。好ましくは、ペプチドタグを、それが標的タンパク質の天然構造を壊さず、かつ標的タンパク質の天然構造の安定性を大きく改変しないような、タンパク質の領域に付加する。例えば、ペプチド配列タグを標的タンパク質のNまたはC末端に付加することができる。所望により、短い化学的なリンカーまたはペプチドリンカーを用いて、ペプチドタグ配列を標的タンパク質に付着させることができる。別法として、設計したエピトープタグは、例えば、タンパク質のNまたはC末端に化学的に付着することができるビオチンまたはジニトロフェニル(DNP)のような、化学的なタグであり得る。(CDまたは他の方法によって評価した)熱変性は、タグを有する標的タンパク質で行うことができ、結果を、タグを含まない標的タンパク質での結果と比較して、タグ配列が標的タンパク質の安定性に有意に影響するか否かを判断することができる。
【0133】
好ましくは、標的分子の溶液は、例えば、緩衝液中で作成し、標的分子溶液を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。各試料で用いる標的分子の量は、標的に応じて変わるであろう。しかしながら、FRET検出を用いるアッセイの高感度/低バックグラウンドは、これらのアッセイで非常に少量の標的分子を用いることを可能とし、例えば、標的分子がタンパク質である場合、約0.1ngから10マイクログラムの量であるが、アッセイにおける標的タンパク質の量は、約1ngから100ngの範囲が好ましい。典型的には、アッセイにおけるタンパク質の濃度は、約0.001マイクロモル濃度から約100マイクロモル濃度のような、サブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であり、好ましくは約0.01マイクロモル濃度から約50マイクロモル濃度であろう。アッセイ試料中の標的タンパク質の最適量は、アッセイにおけるタンパク質の量を滴定することによって実験的に決定することができる(例えば、実施例2および図5参照)。
【0134】
一つ以上の試験化合物を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。試験化合物は、緩衝液、溶媒または他の化合物を含む、溶液中で作成することができる。標的分子をウェルに添加する前、後またはそれと同時に、試験化合物を一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、試験化合物は、複数のウェルに添加する。所与のアッセイにおいて試験化合物のいくつかの濃度を試験することは、本発明の範囲内のものである。また、単一の試験ウェルに一つより多くの試験化合物を含めることも、本発明の範囲内のものである。
【0135】
一つより多くの試験化合物を、一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、少なくとも二つのウェルに添加する試験化合物は、異なる試験化合物、または異なる量もしくは組み合わせの試験化合物である。ウェルに導入する試験化合物の量は変化させることができるが、多くの場合、約0.01マイクロモル濃度から約100マイクロモル濃度のような、サブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であり、好ましくは約0.1マイクロモル濃度から約50マイクロモル濃度であろう。
【0136】
所望により、標的分子と試験化合物とのアッセイ混合物を、変性工程に先立って一定時間インキュベートする。インキュベーションは任意の温度で行うことができるが、もし行うならば、プレインキュベーションは、好ましくは37℃以下の温度で行い、より好ましくは約22℃で行う。変性前インキュベーションは任意の時間行うことができるが、それを含む場合、典型的には30分以下であろう。
【0137】
好ましくは、アッセイは、試験化合物の不存在下で標的分子を含む少なくとも一つのコントロールウェルを含む。好ましくは、アッセイは、少なくとも一つのコントロールウェルで試験ウェルと同時に行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、コントロールアッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のためにコントロールデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、コントロールウェルからの一つ以上の測定値、およびコントロールウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性等)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0138】
コントロールウェルを含める代わりに、あるいはそれに加えて、標的分子および少なくとも一つの化合物を含む少なくとも一つの標準ウェルを含めることができる。標準ウェル中の化合物と標的分子との相互作用は、アッセイに先立って既知でなくてもよいが、好ましくは、標準ウェル化合物が標的タンパク質の変性に影響する程度は既知であるものとする。いくつかの態様において、標準ウェルは、本発明のアッセイにおいて他の試験化合物ウェルと比較する試験化合物ウェルであり得る。好ましくは、一つ以上の標準ウェルを用いる場合、アッセイは、試験ウェルと同時に少なくとも一つの標準ウェルで行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、標準アッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のために標準ウェルのデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、標準ウェルからの一つ以上の測定値、および標準ウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0139】
FRET対のメンバー(すなわち、FRETドナーまたはFRETアクセプター)を含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合する第一の特異的結合メンバーを、標的タンパク質溶液をウェルに添加する前または後に、標的分子溶液に添加することができる。また、第一の特異的結合メンバーを、試料を変性条件に付した後に添加することもできる。この第一の特異的結合メンバーは、例えば、標的分子がアンフォールドした場合に露出または形成される標的分子のエピトープに結合することによって、標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する。タンパク質標的では、第一の特異的結合メンバーは、好ましくは、モノクローナル抗体のような抗体である。モノクローナル抗体の特異的結合活性を保有する抗体断片も用いることができる(例えばFab断片)。
【0140】
標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する第一の特異的結合メンバーは、FRET対のメンバーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。例えば、特異的結合メンバーを、当該分野で既知の方法を用いてフルオロフォアまたはクエンチャーに共役させることができる。別法として、特異的結合メンバーは、例えば、一つ以上の他の特異的結合メンバー対(以下、「一次特異的結合メンバー」が標的分子に直接的に結合するものである場合、「二次特異的結合メンバー」と呼ぶ)の使用を介して、フルオロフォアまたはクエンチャーに間接的に結合することができる。ATLASアッセイで用いる抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォアまたはクエンチャーを連結させるのに用いることができる二次特異的結合メンバーの一つの例は、ビオチン−ストレプトアビジンである。例えば、フルオロフォアをストレプトアビジンに連結させることができ、アッセイで用いる一次特異的結合メンバーをビオチン化することができる(またはその逆も可能である)。抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォア(またはクエンチャー)を連結させるこのメカニズムは、アッセイに適応性をもたらし、フルオロフォア(またはクエンチャー)を、所望により、第一の特異的結合メンバーを添加するものとは別の時間(例えば、TATLASまで加熱し、引き続き室温まで冷却した後、およびシグナル検出の前)に、アッセイ混合物に添加することができる。用いることができる他の二次特異的結合メンバー対は、ビオチン−アビジン、キチン結合ドメイン−キチン結合タンパク質;ニトリロ酢酸−6xHis;カルモジュリン結合ドメイン−カルモジュリン;等を含む。また、二次特異的結合メンバーとして、抗体を用いることもでき、例えば、アイソタイプ−および種−特異的二次抗体をフルオロフォアまたはクエンチャーに共役結合させることができ、標的タンパク質を結合するために用いる一次抗体に結合させることができる。FRETドナーまたはFRETアクセプターに「直接的または間接的に結合することができる」特異的結合メンバーは、特異的結合メンバーを試験ウェルに添加する場合にFRETドナーまたはFRETアクセプターに結合させることができるか、あるいは特異的結合メンバーを試験ウェルに添加する場合にFRETドナーまたはFRETアクセプターに結合させることができない。もし、特異的結合メンバーを試験ウェルに添加したときにそれがFRET対メンバーに結合しなければ、それは、特異的結合メンバーが(試験ウェル中にあるような)FRET対メンバーと接触するに際して、FRET対メンバーに結合することができる。結合は、所望により、二次特異的結合メンバーによって媒介され得る。
【0141】
リガンドまたは試験化合物の不存在下で、標的タンパク質の少なくとも一部がアンフォールドする条件に、一つ以上のウェルを付す。変性条件は、標的分子の二次、三次、または四次構造の喪失を引き起こすか、あるいは標的分子の三次元立体構造を改変する任意の条件とすることができ、熱、pH変化、洗剤または界面活性剤の存在、カオトロピック剤、塩、キレーター等を含む。好ましくは、変性条件は、上昇した温度であり、試験ウェルを変性条件に付すことは、標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで、標的分子および一つ以上の試験化合物を加熱することを含む。
【0142】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルおよび任意のコントロールウェルまたは標準ウェルは、TATLASと呼ばれる単一の別個の所定の温度まで加熱する。TATLASは、標的分子を加熱し、温度の関数としてのそのアンフォールディングの程度をモニターする予備実験(しかし標的分子のアイデンティティーまたは任意の活性が既知である必要はない)で選択することができる。好ましくは、アッセイを行う前に、標的分子を解析して、標的分子の構造を示す物理的測定値を温度の関数としてプロットした融解(温度依存性の構造的アンフォールディング)曲線を作成する。物理的測定は、当該分野でよく知られた種々の構造決定方法のうち任意のもの、例えば、CD、光散乱、UV吸光光度法、示差走査熱量測定等に基づくことができる。次いで、標的分子の融解曲線を用いて、アッセイのTATLASを含むパラメーターを確立することができる。熱融解は、好ましくは、(試験化合物のアッセイで用いるであろう緩衝液、試薬、特異的結合メンバー、ドナーフルオロフォア、アクセプター部位、およびFRET検出を用いる)アッセイ条件下で行い、(試験化合物の不存在下の)アッセイ条件下での融解曲線を得ることができる(実施例2および図5参照)。好ましくは、TATLASは、アッセイ試薬が安定であって、アッセイが広いダイナミックレンジおよび高い質(Z’)を有する温度として選択する。
【0143】
いくつかの場合、ウェルを一つより多くの別個の温度(例えば、TATLAS1、TATLAS2等)まで加熱するのが望ましいであろうが、しかしこれは余り好ましくない。これは、いくつかの場合において、例えば、アンフォールディング中間体の存在を示す一つより多くの転移温度を標的分子が有することを、融解曲線が示した場合であれば、望ましいものであり得る。しかしながら、好ましくは、三つより多くの別個の温度をATLASアッセイで用いず、最も好ましくは、ウェルは単一のTATLASまで加熱する。
【0144】
加熱は、任意のインキュベーターまたは試料加熱装置内で行うことができ、好ましくは、迅速で、均一で、正確な加熱、および好ましくは正確な温度までの冷却、ならびに正確な温度維持を可能とする加熱装置を用いて行う。例えば、多くの商業的に入手可能なサーモサイクラーを、この目的で用いることができる。アッセイ試料は、任意の時間、例えば、約3分から約6時間、好ましくは約10分から約一時間、TATLASに保持することができる。しかしながら、TATLASでのインキュベーションの時間は、本発明を限定するものではない。
【0145】
試料は、所望により、TATLASより低い温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは比較的迅速であって、規定された速度で行う。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光検出手段が、蛍光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0146】
TATLASまでの加熱、および、所望により、しかし好ましくは、より低い温度までの試料の冷却の前または後に、第二の特異的結合メンバーを、一つ以上の試験ウェル、好ましくは、一つまたは複数のコントロール(または標準)ウェルに添加する。第二の特異的結合メンバーは、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むことができるか、あるいはそれに結合することができる。第二の特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーが認識する結合部位とは別の部位で、標的分子に特異的に結合する。標的分子がタンパク質である場合、第二の特異的結合メンバーの結合部位は、好ましくは、付着ペプチドタグ、例えば、6xHis、myc、FLAG、もしくは血球凝集素タグ、または特異的結合メンバーによって特異的に認識され得る、当該分野で知られた、もしくは後に開発された、任意の他の短いペプチド配列のような、付着タグである。標的タンパク質へ導入した、設計したペプチド配列タグの使用は、ATLASアッセイにおける一般的な抗体試薬の使用を可能とし、ここで、一般的な抗体試薬は、付着タグを認識する抗体とすることができ、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的にカップリングする。一般的な抗体試薬を、抗体によって認識される付着タグを含む任意の標的タンパク質についてのATLASで用いることができる。また、付着タグの使用は、第二の特異的結合メンバーが、標的分子の特定の領域に結合することについて試験化合物と競合するか、または変性の間に改変する標的タンパク質の内因性領域に結合するという可能性を回避する。
【0147】
第一の特異的結合メンバーが、FRETドナーを含むか、あるいはそれに結合するアッセイにおいて、第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、FRETアクセプターに結合するか、あるいはそれを含む。第一の特異的結合メンバーが、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに結合するアッセイにおいて、第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、FRETドナーに結合するか、あるいはそれを含む。第一の特異的結合メンバーの場合におけるように、アッセイで用いる第二の特異的結合メンバーは、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的にカップリングすることができる。直接的なカップリングは、例えば、特異的結合メンバー上の活性基を介しての、フルオロフォアの化学的カップリングであり得る。間接的なカップリングは、さらに、第二の特異的結合メンバーおよびフルオロフォアに結合することができる、ビオチンおよびストレプトアビジンのような二次特異的結合メンバーを用いることができ、第二の特異的結合メンバーおよびフルオフォロアは、ビオチン−ストレプトアビジンの結合を介して共にカップリングすることができる。
【0148】
本発明のこの実施形態のいくつかの好ましい実施形態において、第一の特異的結合メンバーは、加熱の間、アッセイおよびコントロール(および/または標準)試料に存在するが、アッセイおよびコントロール試料がTATLASまで加熱され、引き続いて37℃未満まで冷却される後まで、フルオロフォアまたはクエンチャーには結合しない。第一の特異的結合メンバーを、FRETパートナーへの連結のために、二次特異的結合メンバーにカップリングする。検出に先立ち、(二次特異的結合メンバーを介して)第一の特異的結合メンバーに結合することができるFRETパートナーならびにFRET対の他のメンバーにカップリングする第二の特異的結合メンバーを含む「レベレーションミックス(Revelation Mix)」を、アッセイに添加する。試料をTATLAS未満の温度にした後そして蛍光検出の前に、フルオロフォアを添加すると、フルオロフォアが標的分子のアンフォールディングに干渉する可能性を回避することができ、また、フルオロフォアの熱不安定性による潜在的な問題を回避することができる。
【0149】
総合すると、第一の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーに一体化したフルオロフォア、および第二の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーに一体化したフルオロフォアは、FRET対を形成する。本発明の方法で有用であり得るFRET対の非限定的例は、テルビウム/フルオレセイン、テルビウム/GFP、テルビウム/TMR、テルビウム/Cy3、テルビウム/Rフォコエリトリン、ユーロピウム/Cy5、ユーロピウム/APC、Alexa488/Alexa555、Alexa568/Alexa647、Alexa594/Alexa647、Alexa647/Alexa594、Cy3/Cy5、BODIPY FL/BODIPY FL、フルオレセイン/TMR、IEDANS/フルオレセイン、フルオレセイン/フルオレセイン、およびEDANS/DABCYLを含む。当該分野で知られた、または知られるようになった、蛍光ドナーおよびアクセプター部位を含む他のFRET対を用いることもできる。FRET対を選択する際に、ドナー発光波長スペクトルがアクセプター吸収波長スペクトルと重なるドナーおよびアクセプターを選択すべきである。加えて、最適なアッセイの感度のためには、ドナーおよびアクセプター双方が本発明の方法に従って標的分子に結合する場合にそれらが相互から離れて位置するであろう距離は、好ましくは、対のフォルスター半径より小さいかそれと同等である。FRET対は、これらの基準(蛍光スペクトルおよびフォルスター半径値)に基づいて選択することができ、それは文献に見出すことができ(Principles of Fluorescence Spectroscopy、第2版(1999) Joseph R.Lakowicz編、Plenum Publishing Corp.;および、Molecular Probes,ユージーン、ORから入手可能であって、www.probes.comにおいて入手可能な文献)、試験化合物の不存在下で熱により融解させた試験タンパク質で構成したアッセイにおいてそれらの適合性および効率について試験することができる。
【0150】
ATLASアッセイは、さらに、標的分子および試験化合物を含む一つ以上のウェルもしくは少なくとも一つのコントロールウェルまたは一つ以上の標準ウェルから、一つ以上の波長で蛍光発光を検出することを含む。該アッセイで検出される蛍光発光は、蛍光ドナーと蛍光アクセプターか、または蛍光ドナーとクエンチャーのいずれかである、二つのFRETパートナーの間の相互作用の結果である。該アッセイの構成は、標的分子の変性が、FRET対の第一のメンバーの結合を可能とし、そしてFRET対の第一のメンバーが結合する部位とは別の標的分子の部位へのFRETパートナーの結合が、FRETパートナーを接近させるものである。かくして、標的分子の熱変性の程度は、蛍光シグナルの強度または波長特性を決定する。
【0151】
蛍光シグナルの検出は、一つ以上の波長で行うことができる。例えば、蛍光の検出は、ドナーフルオロフォアの波長で行うことができ、ここで、ドナーフルオロフォアの蛍光の低下した強度は、アクセプターフルオロフォアまたはクエンチャーに対するその接近性に依存する。より好ましくは、蛍光の検出は、アクセプターフルオロフォアの波長で行うことができる。
【0152】
好ましくは、検出は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の検出であり、ここで、アッセイは、アクセプターフルオロフォアの蛍光を検出するように設計する。より好ましくは、アッセイは、アクセプター/ドナー対のドナーおよびアクセプターフルオロフォア双方の蛍光を検出する。ドナーおよびアクセプターの蛍光は、比率、例えば、ドナー発光波長での蛍光に対するアクセプター発光波長での蛍光の比率として表すことができる。しかしながら、ドナー波長での蛍光発光を検出することによって、タンパク質のアンフォールディングをアッセイすることもできる。例えば、ドナー波長での蛍光は、タンパク質のアンフォールディングが増大して蛍光ドナーが蛍光アクセプターまたは蛍光クエンチャーと接近すると、低下するであろう。
【0153】
蛍光検出は、アッセイで用いるフルオロフォアが発光した波長で蛍光を検出することができる任意の装置によって行うことができる。マルチウェルプレートから蛍光を検出するものを含む蛍光検出装置は、当該分野で知られている(例えば、Perkin Elmerによって製造されたVictor V、およびPackard Biosciencesによって製造されたFusion分析器)。蛍光検出装置は、試料加熱装置とつなぐことができるか、あるいは別々とすることができる。好ましくは、蛍光検出装置は、一つより多くの波長で蛍光を検出することができ、好ましくは、アッセイで用いるドナーおよびアクセプターの蛍光発光の波長のような二つの波長間の比率を計算することができるソフトウェアを含む。
【0154】
一つ以上の波長での蛍光発光の検出は、好ましくは、時間分解蛍光検出である。本発明の方法で用いる好ましい検出メカニズムは、二つの波長で時間分解蛍光検出を用いるので、「時間分解エネルギー移動」もしくは「TRET」、または「時間分解蛍光共鳴エネルギー移動」もしくは「TR−FRET」ということができる。TRET(または「TR−FRET」)検出は、当該分野でよく知られている(Popeら、(1999)Drug Disc Tech 4(8):350−362)。本発明で実施するように、TR−FRETは、ドナーフルオロフォアの励起後の短い時間枠によって、二つ以上の波長での蛍光強度の測定を遅らせることを含む。これは、蛍光測定における化合物干渉によるバックグラウンドを低下させることができる。
【0155】
本発明の好ましい態様において、試験化合物を欠くが試験ウェルと同量の標的分子および一つまたは複数の特異的結合メンバーを含む、一つ以上のコントロールウェルを作成し、コントロールウェルは、試験ウェルと同一方法で同時に加熱、分析する。好ましくは、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物およびコントロールアッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0156】
代替法において、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上のコントロールウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。コントロールウェルの蛍光検出のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0157】
本発明のいくつかの態様において、一つ以上の試験ウェルと比較するために一つ以上の標準ウェルを供する。標準ウェルは、標的タンパク質および少なくとも一つの化合物を含み、該化合物は、試験化合物か、または標的のアンフォールディングに対する影響が知られている化合物のいずれかである。一つ以上の標準ウェルも、試験ウェルと同一の方法で、好ましくは同時に加熱、分析する。標準ウェルを用いて基準値を得る場合、それらは一つ以上のアッセイにおける試験ウェルの一つ、いくつか、または全てとすることができ、これを用いて、検出測定の平均値を計算し、それを個々の試験ウェルの検出測定値と比較することができる。好ましくは、標準ウェルを用いる本発明の態様において、少なくとも一つの標準ウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物および標準アッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0158】
代替法において、標準ウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上の標準ウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。標準ウェルの蛍光測定のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0159】
標的分子のアンフォールディングの測定
試験ウェルの測定値を一つ以上のコントロールウェルまたは一つ以上の標準ウェルの測定値と比較して、いずれかの試験化合物が蛍光読み出しを有意に変化させるか否かを判断する。例えば、試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、試験化合物を欠くコントロールウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度が特定の量もしくはパーセンテージを超えて標準ウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率が特定の量もしくはパーセンテージを超えて標準ウェルと異なる場合、一つ以上の異なる化合物を含む標準ウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験化合物とコントロールウェルまたは標準ウェルとの比較は、蛍光ドナー発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、蛍光アクセプター発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、または蛍光ドナー発光波長および蛍光アクセプター発光波長双方の関数であるいくつかの値の比較であり得る。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光アクセプターを含むFRET対を用いる場合、比較は、蛍光ドナー発光に対する蛍光アクセプター発光の比率に基づく。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光クエンチャーを含むFRET対を用いる場合、比較は、ドナー波長発光強度に基づく。
【0160】
ほとんどの(しかし全てではない)場合において、一つもしくは複数の蛍光シグナルまたは蛍光シグナルに基づく判断における有意差は、試験化合物が、上昇した温度のような変性条件に応じたアンフォールディングから標的分子をある程度保護したことを示すであろう。蛍光ドナー/蛍光アクセプター対の場合、ドナー蛍光に対するアクセプター蛍光の比率の低下は、試験化合物の存在下で標的のアンフォールディングが減少したことを示す。蛍光ドナー/蛍光クエンチャーの対の場合には、ドナー蛍光の強度の増加は、試験化合物の存在下で標的のアンフォールディングが減少したことを示す。また、ドナー蛍光に対するアクセプター蛍光の比率の増加を検出することによって、またはドナー/クエンチャー対の場合にはドナー蛍光の強度の減少を検出することによって、標的のアンフォールディングを促進する化合物を同定することができる。また、標的のアンフォールディングを促進する化合物は、標的のリガンドであり得る。特定のメカニズムに拘束されるものではないが、いくつかの場合には、化合物の結合は、特定の温度でのアンフォールディングに対する標的の感受性を高くする。
【0161】
リガンドの同定
試験化合物ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルもしくは標準ウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルもしくは標準ウェルとは異なる場合、上昇した温度でのアンフォールディングから標的分子を保護する試験化合物を含むウェルとして同定することができる。高温で標的分子を安定化させるものとして同定される試験化合物は、標的分子の潜在的リガンドとして同定する。当業者であれば、例えば、コントロールデータからの20%以上の差、または好ましくはコントロールデータからの50%以上の差のような、第一のスクリーニングリガンドを同定するための適当な基準を決定することができる。
【0162】
好ましくは、第一のスクリーニングのヒットは、それらを元来同定したものと同一のアッセイ様式で再度スクリーニングする。第二のアッセイにおいて、第一のスクリーニングのヒットが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルもしくは標準ウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルもしくは標準ウェルと異なる場合、それを二連ヒットと呼ぶ。
【0163】
二連ヒットは、様々な濃度でアッセイする一連の滴定に付すことができる(実施例5参照)。滴定可能な、すなわち、アッセイにおいて濃度依存性を示す二連ヒットは、標的に対する推定リガンドとして同定する。IC50値は、これらのアッセイから決定することができる(例えば、図10参照)。
【0164】
標的分子のリガンドとして同定された試験化合物は、標的分子の結合を単独で確認するために、他のタイプのアッセイで試験することができる。そのようなアッセイの例は、ELISA、ゲル濾過、膜結合、等温熱量測定、および当該分野で知られた他の結合アッセイである。
【0165】
ハイスループットスクリーニング
本発明は、多数の試験化合物を同時に試験することができるハイスループットスクリーニングに特によく適合する。FRET検出また特にTR−FRET検出の、高感度および低いバックグラウンドのため、少量のタンパク質とそれに対応する少容量(例えば20マイクロリットル未満)をアッセイで用いることができる。ハイスループットアッセイでは、試料は、好ましくはマルチウェルプレートのウェル中に作成する。しかしながら、他の試料容器を用いることができる。例えば、試料容器は、表面の窪みとすることができるか、あるいは小量(サブミリリットル)の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。好ましくは、アッセイは、多数の、好ましくは数百の試料を含むハイスループットまたはウルトラハイスループットスクリーニング(HTSまたはUHTS)に形式化し、かくして、該アッセイは、例えば、96、384、1536または3456ウェルプレートのウェルにおいて最も便宜に行われる。当該分野で既知である、または本発明の方法のために設計した、プレート加熱およびプレート蛍光検出システムを用いることができる。
【0166】
ATLASアッセイは、最小のピペッティング工程しか必要でないように、容易に構成することができる。例えば、実施例4においては、三つの試薬混合物を用いる:一つは試験化合物を含み、一つは標的タンパク質および第一の特異的結合メンバーを含み、そして一つはフルオロフォア、二次特異的結合メンバー、および第二の特異的結合メンバーの「レベレーションミックス」を含む。好ましくは、液体取扱装置を、試料成分を分注するために用いる。加えて、アッセイ試料を作成し、単一の温度まで迅速に加熱し、一時間未満インキュベートし、迅速に冷却し、次いで検出することができるので、アッセイは短時間内に行うことができる。
【0167】
試薬の添加、ならびに加熱、インキュベーション、冷却および検出工程は、自動化することができる。本発明の好ましい態様において、一体化したシステムは、ロボットを使用して、試薬を分注し、試験ウェルを含むプレートを分注領域、加熱/冷却装置、および蛍光プレートリーダーへ、またはそこから移動させる。好ましくは、一体化されたシステムは、コンピュータ化され、プログラム可能であり、試料の分析のためのソフトウェアを含む。
【0168】
II.標的分子のアンフォールド形態を認識する特異的結合メンバーおよびFP検出を用いる、標的分子に結合する一つ以上の化合物を同定するためのスクリーニング方法
【0169】
本発明のもう一つの実施形態は、標的分子の一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法であり、ここで、該スクリーニング方法は、標的分子のアンフォールド形態を特異的に認識する特異的結合メンバーおよび蛍光偏光(FP)検出を用いる。「特異的に認識する」とは、特異的結合メンバーが、アンフォールド状態の標的分子に結合するが、フォールドした、または天然の状態にある標的分子には認め得るほどには結合しないことを意味する。標的分子を少なくとも一つの試験化合物と接触させ、標的分子のアンフォールド形態に特異的な特異的結合メンバー(以後、「アンフォールド状態−特異的結合メンバー」という)の存在下で変性処理に付す。タンパク質がアンフォールドするに従い、アンフォールド状態−特異的結合メンバーは、フォールドしていない標的分子に結合する。変性工程の後、蛍光偏光を検出し、基準値と比較すると、蛍光測定は、アッセイ温度において標的分子がアンフォールド状態で存在する程度の指標として用いる。アッセイ温度で標的分子がアンフォールド状態で存在する程度を変化させる試験化合物は、標的タンパク質のリガンドとして同定する。
【0170】
該方法は:溶液中の標的分子を一つ以上の試験ウェル中に供し;該一つ以上の試験ウェルに一つ以上の試験化合物を添加し;該一つ以上の試験ウェルに、標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する特異的結合メンバーを添加し、ここで、第一の特異的結合メンバーはフルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ;そして該一つ以上の試験ウェルを、標的分子の少なくとも一部が変性される条件に付すことを含む。該方法は、さらに、一つ以上の試験ウェルから蛍光偏光を測定し;一つ以上の試験ウェルの蛍光偏光を基準値と比較し;該蛍光偏光の比較を用いて、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、標的分子が、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を測定し;そして、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、該標的分子がアンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度の測定を用いて、一つ以上の試験化合物が該標的分子に結合するか否かを測定し、それにより、標的分子の一つ以上のリガンドを同定することを含む。
【0171】
リガンドが求められる標的分子は任意の分子であり得るが、好ましくは、標的分子は、生体分子、より好ましくは、ペプチドまたはタンパク質を含む生体分子、最も好ましくはタンパク質を含む生体分子である。タンパク質またはペプチドを含む生体分子は、例えば、化学的または翻訳後の修飾を含むタンパク質であり得、例えば、糖タンパク質、核タンパク質、リポタンパク質、ファルネシル化、ミリスチル化、アシル化、リン酸化または硫酸化タンパク質等であり得る。「タンパク質」または「標的タンパク質」を本明細書において用いる場合、タンパク質を含む前記の生体分子も含まれる。それは、限定されるものではないが、リンカー、(フルオロフォアを含む)標識、タグ、および特異的結合メンバーのような、ペプチドまたは化学的部位も含むことができる。
【0172】
標的タンパク質は任意の種から由来したものであり得、生物、環境源または培地を含む、天然源から単離することができるか、あるいは内因性または外因性の細胞型を用いる組換え技術を用いて生産することができる。例えば、標的タンパク質は、細菌または真菌の培養、昆虫細胞の培養、鳥類細胞の培養、(ヒトを含む)哺乳動物細胞の培養等で生産することができる。それらは、トランスジェニック生物によって生産することもできる。タンパク質は、好ましくは、アッセイで用いるために、少なくとも部分的に精製し、より好ましくは実質的に精製する。タンパク質は天然の野生型の形態に対して配列が異なっていてもよく、一つ以上の付着タグを含んでいてもよい。
【0173】
本発明の好ましい態様において、標的タンパク質は、フルオロフォアのような標識を含むかそれに結合することができる特異的結合メンバーのような特異的結合メンバーによって認識され得る、付着タグを含むことができる。このように、付着タグに特異的に結合することができる一次特異的結合メンバーの形態である一般的な試薬を、本発明のアッセイで用いることができる。付着タグを用いる重要な利点は、それが、標的タンパク質の内因性領域に結合する特異的結合メンバーを使用せずにすむことである。内因性領域は試験化合物の結合部位であり得るか、あるいは標的タンパク質の熱依存的な凝集に関与し得るか、あるいはその立体構造または接近可能性が試料の加熱に伴って変化する領域であり得るので、内因性領域の使用は好ましくない。付着タグの例は、例えば、FLAG、血球凝集素、mycまたは6xHisタグのような、短いペプチドタグ配列である。そのようなタグは、組換えDNA技術を用いて標的タンパク質配列に挿入することができる。好ましくは、ペプチドタグを、それが標的タンパク質の天然構造を壊さず、かつ標的タンパク質の天然構造の安定性を大きく改変しないような、タンパク質の領域に付加する。例えば、ペプチド配列タグを標的タンパク質のNまたはC末端に付加することができる。所望により、短い化学的なリンカーまたはペプチドリンカーを用いて、ペプチドタグ配列を標的タンパク質に付着させる。別法として、設計したエピトープタグは、例えば、タンパク質のNまたはC末端に化学的に付着することができるビオチンまたはジニトロフェニル(DNP)のような、化学的なタグであり得る。(CDまたは他の方法によって評価した)熱変性は、タグを有する標的タンパク質で行うことができ、結果を、タグを含まない標的タンパク質での結果と比較して、タグ配列が標的タンパク質の安定性に有意に影響するか否かを判断することができる。
【0174】
好ましくは、標的分子の溶液は、例えば、緩衝液中で作成し、標的分子溶液を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。各試料で用いる標的分子の量は、標的に応じて変わるであろう。しかしながら、FP検出を用いるアッセイの高感度/低バックグラウンドは、これらのアッセイで非常に少量の標的分子を用いることを可能とし、例えば、標的分子がタンパク質である場合、約0.1ngから10マイクログラムの量であるが、アッセイにおける標的タンパク質の量は、約1ngから5マイクログラムの範囲が好ましい。アッセイ試料中の標的タンパク質の最適量は、アッセイにおけるタンパク質の量を滴定することによって実験的に決定することができる。
【0175】
一つ以上の試験化合物を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。試験化合物は、緩衝液、溶媒または他の化合物を含む、溶液中で作成することができる。標的分子をウェルに添加する前、後またはそれと同時に、試験化合物を一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、試験化合物は、少なくとも二つのウェルに添加する。所与のアッセイにおいて試験化合物のいくつかの濃度を試験することは、本発明の範囲内のものである。また、単一の試験ウェルに一つより多くの試験化合物を含めることも、本発明の範囲内のものである。
【0176】
一つより多くの試験化合物を、一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、少なくとも二つのウェルに添加する試験化合物は、異なる試験化合物、または異なる量もしくは組み合わせの試験化合物である。ウェルに導入する試験化合物の量は変化させることができるが、多くの場合、約0.01マイクロモル濃度から約500マイクロモル濃度のような、サブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であろう。
【0177】
所望により、標的分子と試験化合物とのアッセイ混合物を、変性工程に先立って一定時間インキュベートする。インキュベーションは任意の温度で行うことができるが、もし行うならば、プレインキュベーションは、好ましくは37℃以下の温度で行い、より好ましくは約22℃で行う。変性前インキュベーションは任意の時間行うことができるが、それを含む場合、典型的には30分以下であろう。
【0178】
好ましくは、アッセイは、試験化合物の不存在下で標的分子を含む少なくとも一つのコントロールウェルを含む。好ましくは、アッセイは、少なくとも一つのコントロールウェルで試験ウェルと同時に行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、コントロールアッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のためにコントロールデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、コントロールウェルからの一つ以上の測定値、およびコントロールウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性等)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0179】
コントロールウェルを含める代わりに、あるいはそれに加えて、標的分子および少なくとも一つの化合物を含む少なくとも一つの標準ウェルを含めることができる。標準ウェル中の化合物と標的分子との相互作用は、アッセイに先立って既知でなくてもよいが、好ましくは、標準ウェル化合物が標的タンパク質の変性に影響する程度は既知であるものとする。いくつかの態様において、標準ウェルは、本発明のアッセイにおいて他の試験化合物ウェルと比較する試験化合物ウェルであり得る。好ましくは、一つ以上の標準ウェルを用いる場合、アッセイは、試験ウェルと同時に少なくとも一つの標準ウェルで行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、標準アッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のために標準ウェルのデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、標準ウェルからの一つ以上の測定値、および標準ウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0180】
標的タンパク質溶液をウェルに添加する前または後に、フルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができるアンフォールド状態−特異的結合メンバーを、標的分子溶液に添加することができる。また、試料を変性条件に付した後に、第一の特異的結合メンバーを添加することもできる。この第一の特異的結合メンバーは、例えば、標的分子がアンフォールドすると露出するかあるいは形成される、標的分子のエピトープに結合することによって、標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する。アンフォールド状態−特異的結合メンバーは、好ましくはモノクローナル抗体のような抗体である。モノクローナル抗体の特異的結合活性を保持する抗体断片を用いることもできる(例えば、Fab断片)。
【0181】
標的分子のアンフォールド形態に結合するアンフォールド状態−特異的結合メンバーは、フルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。例えば、特異的結合メンバーを、当該分野で既知の方法を用いてフルオロフォアに共役させることができる。別法として、特異的結合メンバーは、例えば、一つ以上の他の特異的結合メンバー対(以下、「一次特異的結合メンバー」が標的分子に直接結合するものである場合、「二次特異的結合メンバー」と呼ぶ)の使用を介して、フルオロフォアに間接的に結合することができる。本発明のアッセイで用いる抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォアまたはクエンチャーを連結させるのに用いることができる二次特異的結合メンバー対の一つの例は、ビオチン−ストレプトアビジンである。例えば、フルオロフォアは、ストレプトアビジンに連結させることができ、アッセイで用いる一次特異的結合メンバーは、ビオチン化することができる(または逆も可能である)。抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォアを連結させるこのメカニズムは、アッセイに適応性をもたらし、フルオロフォアを、所望により、第一の特異的結合メンバーを添加するのとは別の時間(例えば、TATLASまで加熱し、引き続き室温まで冷却した後、およびシグナル検出の前)に、アッセイ混合物に添加することができる。用いることができる他の二次特異的結合メンバー対は、ビオチン−アビジン、キチン結合ドメイン−キチン結合タンパク質;ニトリロ酢酸−6xHis;カルモジュリン結合ドメイン−カルモジュリン;等を含む。また、二次特異的結合メンバーとして抗体を用いることも可能であり、例えば、アイソタイプ−および種−特異的二次抗体をフルオロフォアまたはクエンチャーに共役結合させることができ、標的タンパク質を結合させるのに用いる一次抗体に結合させることができる。フルオロフォアに直接的または間接的に結合することができるアンフォールド状態−特異的結合メンバーを、特異的結合メンバーを試験ウェルに添加する場合にフルオロフォアに結合させることができるか、あるいはアンフォールド状態−特異的結合メンバーを試験ウェルに添加する場合にフルオロフォアに結合させることができない。もし、アンフォールド状態−特異的結合メンバーを試験ウェルに添加する場合にそれがフルオロフォアに結合しないならば、それは、(試験ウェル中にあるような)フルオロフォアと接触するに際して、フルオロフォアに結合することができる。結合は、所望により、二次特異的結合メンバーによって媒介され得る。
【0182】
この方法の変形において、標的分子は、フルオロフォアで直接的に標識することができる。本実施形態のこの態様において、アンフォールド状態−特異的結合メンバーの結合は、標的分子複合体のサイズを変化させ、かくして、標的分子のFPシグナルを増大させる。
【0183】
リガンドまたは試験化合物の不存在下で、標的タンパク質の少なくとも一部がアンフォールドする条件に、一つ以上のウェルを付す。変性条件は、標的分子の二次、三次、または四次構造の喪失を引き起こすか、あるいは標的分子の三次元立体構造を改変する任意の条件とすることができ、熱、pH変化、洗剤または界面活性剤の存在、カオトロピック剤、塩、キレーター等を含む。好ましくは、変性条件は、上昇した温度であり、試験ウェルを変性条件に付すことは、標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで、標的分子および一つ以上の試験化合物を加熱することを含む。
【0184】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルおよび任意のコントロールウェルまたは標準ウェルは、TATLASと呼ばれる単一の別個の所定の温度まで加熱する。TATLASは、標的分子を加熱し、温度の関数としてのそのアンフォールディングの程度をモニターする予備実験(しかし標的分子のアイデンティティーまたは任意の活性が既知である必要はない)で選択することができる。好ましくは、アッセイを行う前に、標的分子を解析して、標的分子の構造を示す物理的測定値を温度の関数としてプロットした融解(温度依存性の構造的アンフォールディング)曲線を作成する。物理的測定は、当該分野でよく知られた種々の構造決定方法のうち任意のもの、例えば、CD、光散乱、UV吸光光度法、示差走査熱量測定等に基づくことができる。次いで、標的分子の融解曲線を用いて、アッセイのTATLASを含むパラメーターを確立することができる。熱融解は、好ましくは、(試験化合物のアッセイで用いるであろう緩衝液、試薬、特異的結合メンバー、ドナーフルオロフォア、アクセプター部位、およびFRET検出を用いる)アッセイ条件下で行い、(試験化合物の不存在下の)アッセイ条件下での融解曲線を得ることができる。好ましくは、TATLASは、アッセイ試薬が安定であって、アッセイが広いダイナミックレンジおよび高い質(Z’)を有する温度として選択する。
【0185】
いくつかの場合、ウェルを一つより多くの別個の温度(例えば、TATLAS1、TATLAS2等)まで加熱するのが望ましいであろうが、しかしこれは余り好ましくない。これは、いくつかの場合において、例えば、アンフォールディング中間体の存在を示す一つより多い転移温度を標的分子が有することを、融解曲線が示した場合であれば、望ましいものであり得る。しかしながら、好ましくは、三つより多くの別個の温度をATLSアッセイで用いず、最も好ましくは、ウェルは単一のTATLASまで加熱する。
【0186】
加熱は、任意のインキュベーターまたは試料加熱装置内で行うことができ、好ましくは、迅速で、均一で、正確な加熱、および好ましくは正確な温度までの冷却、ならびに正確な温度維持を可能とする加熱装置を用いて行う。例えば、多くの商業的に入手可能なサーモサイクラーを、この目的で用いることができる。アッセイ試料は、任意の時間、例えば、約3分から約6時間、好ましくは約10分から約一時間、TATLASに保持することができる。しかしながら、TATLASでのインキュベーションの時間は、本発明を限定するものではない。
【0187】
試料は、所望により、TATLASより低い温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは比較的迅速であって、規定された速度で行う。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光検出手段が、蛍光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0188】
TATLASまでの加熱、および、所望により、しかし好ましくは、より低い温度までの試料の冷却の前または後に、一つ以上のさらなる特異的結合メンバーを、一つ以上の試験ウェル、および好ましくは、一つまたは複数のコントロール(または標準)ウェルに添加することができる。一つ以上のさらなる特異的結合メンバーは、粒子またはビーズを含むか、あるいはそれらに結合することができる。特異的結合メンバーを介して標的分子に結合することができる粒子およびビーズは、標的分子複合体のサイズを増大させることができ、かくして、アンフォールド状態−特異的結合メンバーのフルオロフォアが標的に結合する場合に、FPをより増大させる。
【0189】
粒子またはビーズに結合することができる一つ以上のさらなる特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーが認識する結合部位とは別の部位で、標的分子に特異的に結合することができる。標的分子がタンパク質である場合、第二の特異的結合メンバーの結合部位は、好ましくは、付着ペプチドタグ、例えば、6xHis、myc、FLAG、もしくは血球凝集素タグ、または特異的結合メンバーによって特異的に認識され得る、当該分野で知られた、もしくは後に開発された、任意の他の短いペプチド配列のような、付着タグである。標的タンパク質へ導入した、設計したペプチド配列タグの使用は、本発明のアッセイにおける一般的な抗体試薬の使用を可能とし、ここで、一般的な抗体試薬は、付着タグを認識する抗体とすることができ、粒子またはビーズに直接的または間接的にカップリングする。一般的な抗体試薬を、抗体によって認識される付着タグを含む任意の標的タンパク質についての本発明のアッセイで用いることができる。また、付着タグの使用は、さらなる特異的結合メンバーが、標的分子の特定の領域に結合することについて試験化合物と競合するか、または変性の間に改変する標的タンパク質の内因性領域に結合するという可能性を回避する。
【0190】
標的分子−フルオロフォア複合体のサイズを増大させる他の方策は、標的タンパク質を認識するポリクローナル抗体の使用、二次抗体(抗アイソタイプ抗種抗体)の使用、またはアンフォールドしたタンパク質が凝集する条件を選択することを含む。単一の標的分子へ多数の抗体分子が結合すると、変性状態−特異的抗体を介してフルオロフォアが結合した、変性した標的のサイズが増大する。変性工程の後であって検出の前に、ポリクローナルおよび二次抗体を添加して、アンフォールディングプロセスへの干渉を回避することができる。また、これらの方策は、標的分子をフルオロフォアで直接的に標識する態様で用いることもできる。
【0191】
試料は、所望により、約37℃以下の温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは規定された速度で行なわれる。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光偏光検出手段が、蛍光偏光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0192】
蛍光偏光検出は、アッセイで用いるフルオロフォアが発する波長で蛍光偏光を検出することができる、任意の装置によって行うことができる。マルチウェルプレートからの蛍光を検出するものを含む蛍光検出装置は、当該分野で知られている。蛍光検出装置は、試料加熱装置とつなぐことができるか、あるいは別々とすることができる。
【0193】
本発明の好ましい態様において、試験化合物を欠くが試験ウェルと同量の標識された標的を含む、少なくとも一つのコントロールウェルを作成し、コントロールウェルは、加熱し、試験ウェルと同一方法で同時に分析する。好ましくは、少なくとも一つのコントロールウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物およびコントロールアッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0194】
代替法において、コントロールウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上のコントロールウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。コントロールウェルの蛍光検出のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0195】
本発明のいくつかの態様において、一つ以上の試験ウェルと比較するために一つ以上の標準ウェルを供する。標準ウェルは、標的タンパク質および少なくとも一つの化合物を含み、該化合物は、試験化合物か、または標的のアンフォールディングに対する影響が知られている化合物のいずれかである。一つ以上の標準ウェルも、試験ウェルと同一の方法で、好ましくは同時に加熱、分析する。標準ウェルを用いて基準値を得る場合、それらは一つ以上のアッセイにおける試験ウェルの一つ、いくつか、または全てとすることができ、これを用いて、検出測定の平均値を計算し、それを個々の試験ウェルの検出測定値と比較することができる。好ましくは、標準ウェルを用いる本発明の態様において、少なくとも一つの標準ウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物および標準アッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0196】
代替法において、標準ウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上の標準ウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。標準ウェルの蛍光測定のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0197】
標的分子のアンフォールディングの測定
一つ以上の試験ウェルの測定値を一つ以上のコントロールウェルおよび/または一以上の標準ウェルの測定値と比較して、いずれかの試験化合物が蛍光読み出しを有意に変化させるか否かを判断する。例えば、試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光偏光において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、試験化合物を欠くコントロールウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。
【0198】
ほとんどの(しかし全てではない)場合において、一つまたは複数の蛍光シグナルまたは蛍光シグナルに基づく判断における差は、試験化合物が、上昇した温度に応じたアンフォールディングから標的分子をある程度保護したことを示すであろう。標的分子がアンフォールドし、特異的結合メンバーが結合するのを可能とする場合、蛍光偏光シグナルは、フルオロフォアを含む標的を結合した特異的結合メンバー対結合していないそれの長い回転相関により増大する。しかしながら、コントロールに対する蛍光偏光シグナルの減少を検出することによって、変性条件下での標的のアンフォールディングを促進する化合物を同定することも可能である。また、標的のアンフォールディングを促進する化合物は、標的のリガンドであり得る。特定のメカニズムに拘束されるものではないが、いくつかの場合には、化合物の結合は、特定の温度でのアンフォールディングに対する標的の感受性を高くする。
【0199】
リガンドの同定
試験化合物ウェルが、蛍光偏光において特定の量またはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、第一のスクリーニングのヒットとして同定することができる。当業者であれば、例えば、コントロールデータからの20%以上の差、または好ましくはコントロールデータからの50%以上の差のような、第一のスクリーニングのヒットを同定するための適当な基準を決定することができる。
【0200】
好ましくは、第一のスクリーニングのヒットは、それらを元来同定したものと同一のアッセイ様式で再度スクリーニングする。第二のアッセイにおいて、第一のスクリーニングのヒットが、蛍光偏光において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、それを二連ヒットと呼ぶ。
【0201】
二連ヒットは、様々な濃度でアッセイする一連の滴定に付すことができる。滴定可能な、すなわち、アッセイにおいて濃度依存性を示す二連ヒットは、標的分子に対する潜在的リガンドである。IC50値は、これらのアッセイから決定することができる。
【0202】
潜在的な標的分子のリガンドとして同定された試験化合物は、標的分子の結合を単独で確認するために、他のタイプのアッセイで試験することができる。そのようなアッセイの例は、ELISA、膜結合、等温熱量測定、または当該分野で知られた他の結合アッセイである。
【0203】
ハイスループットスクリーニング
本発明は、多数の試験化合物を同時に試験することができるハイスループットスクリーニングに特によく適合する。蛍光偏光検出の高感度および低いバックグラウンドのため、少量のタンパク質とそれに対応する少容量をアッセイで用いることができる。ハイスループットアッセイでは、試料は、好ましくはマルチウェルプレートのウェル中に作成する。しかしながら、他の試料容器を用いることができる。例えば、試料容器は、表面の窪みとすることができるか、あるいは小量(サブミリリットル)の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。好ましくは、アッセイは、多数の、好ましくは数百の試料を含むハイスループットまたはウルトラハイスループットスクリーニング(HTSまたはUHTS)に形式化し、かくして、該アッセイは、例えば、96、384、1536または3456ウェルプレートのウェルにおいて最も便宜に行われる。当該分野で既知である、または本発明の方法のために設計した、プレート加熱およびプレート蛍光検出システムを用いることができる。
【0204】
ATLASアッセイは、最小のピペッティング工程しか必要でないように、容易に構成することができる。好ましくは、液体取扱装置を、試料成分を分注するために用いる。加えて、アッセイ試料を作成し、単一の温度まで迅速に加熱し、一時間未満インキュベートし、迅速に冷却し、次いで検出することができるので、アッセイは短時間内に行うことができる。
【0205】
試薬の添加、ならびに加熱、インキュベーション、冷却および検出工程は、自動化することができる。本発明の好ましい態様において、一体化したシステムは、ロボットを使用して、試薬を分注し、試験ウェルを含むプレートを分注領域、加熱/冷却装置、および蛍光プレートリーダーへ、またはそこから移動させる。好ましくは、一体化されたシステムは、コンピュータ化され、プログラム可能であり、試料の分析のためのソフトウェアを含む。
【0206】
III.標的分子の凝集体のFRET検出を用いる、一つ以上の標的分子リガンドを同定するための化合物のスクリーニング方法
【0207】
本発明のもう一つの実施形態は、凝集依存性FRETである。凝集依存性FRETのスクリーニング方法は、FRET対の二つのメンバーを用い、ここで、FRETパートナーは、標的タンパク質の異なる分子に一体化しているか、あるいはそれに結合する。この実施形態において、標的分子が凝集すると、FRETパートナーは接近する。これらの方法において、熱変性のような変性による標的タンパク質の可溶性凝集体を、FRETによって検出する。標的分子のアンフォールディングを改変し、それによりアッセイにおける凝集の程度を改変する標的分子は、試験ウェルにおける改変されたFRETによって同定し、標的分子のリガンドとして同定する。
【0208】
一つの態様において、凝集依存性FRETの実施形態は、アッセイで用いるべき標的分子群の少なくとも一部が第一の特異的結合メンバーに結合するアッセイを含み、ここで、第一の特異的結合メンバーは、ドナーフルオロフォアまたはアクセプター部位を含むか、あるいはそれらに結合することができる。(その一部が第一の特異的結合メンバーに結合する)一つ以上のアリコートの標的分子群を少なくとも一つの試験化合物と接触させ、(試験化合物の不存在下でタンパク質が測定可能な程度までアンフォールドすることが知られている)変性条件に付す。変性処理の後、第二の特異的結合メンバーを添加する。第二の特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーによって認識される標的分子の同一の単一領域に特異的に結合する。第一および第二の特異的結合メンバーは、同一の特異的結合メンバー、例えば、同一のモノクローナル抗体とすることができるが、それらは異なるFRET標識にカップリングするか、あるいはそれに結合することができる。第一および第二の特異的結合メンバーは、FRET対のメンバーを含むか、あるいはそれに結合する。すなわち、第一の特異的結合メンバーがFRETドナーに結合する態様において、第二の特異的結合メンバーはFRETアクセプターに結合し、その逆も起こる。かくして、FRETパートナーが接近している場合、例えば、相互に凝集する標的分子群の異なるメンバーにそれらが結合する場合、エネルギーは、FRETドナーからFRETアクセプターに移動することができる。一つ以上の蛍光シグナルを検出し、標的分子を試験化合物の不存在下で変性条件に付すコントロールの蛍光測定、あるいは標的分子を異なる化合物の存在下で変性条件に付す少なくとも一つの標準の蛍光測定と比較した場合、蛍光測定は、アッセイ条件において標的分子がアンフォールド状態で存在する程度の指標として用いる。アッセイ条件において標的分子がアンフォールド状態で存在する程度を変化させる試験化合物は、標的タンパク質のリガンドとして同定することができる。
【0209】
凝集依存性FRETの実施形態の異なる態様において、提供するアッセイは、アッセイで用いるべき標的分子の第一の群の少なくとも一部が、第一の特異的結合メンバーに結合するか、あるいはそれを含み、かつアッセイで用いるべき標的分子の第二の群の少なくとも一部が、第二の特異的結合メンバーと結合するか、あるいはそれを含むものである。第一および第二の特異的結合メンバーは、各々、FRETドナーまたはFRETアクセプターのいずれかを含むことができるか、あるいはそれに結合することができる。総合すると、第一および第二の特異的結合メンバーは、FRET対のメンバーを含むか、あるいはそれに結合する。すなわち、第一の特異的結合メンバーが、FRETドナーを含むか、あるいはそれに結合することができる態様において、第二の特異的結合メンバーは、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに結合することができ、逆も成立する。標的分子の第一および第二の特異的結合メンバー−標識標的分子群を共に添加して、標的分子の混合した第一および第二の特異的結合メンバー−標的群とする。標的の混合した第一および第二の特異的結合メンバー−標識群を少なくとも一つの試験化合物と接触させ、(試験化合物の不存在下でタンパク質が測定可能な程度までアンフォールドすることが知られている)変性条件に付す。変性処理の後、可溶性凝集体をFRETによって検出する。かくして、FRETパートナーが接近している場合、例えば、互いに凝集した標的分子にそれらが結合する場合、エネルギーは、FRETドナーからFRETアクセプターに移動することができる。一つ以上の蛍光シグナルを検出し、標的タンパク質が試験化合物の不存在下で変性条件に付されるコントロールの蛍光測定と比較した場合、蛍光測定は、アッセイ温度において標的分子がアンフォールド状態で存在する程度の指標として用いる。アッセイ温度において標的分子がアンフォールド状態で存在する程度を変化させる試験化合物は、標的タンパク質のリガンドとして同定することができる。
【0210】
標的タンパク質群の一部を、FRETパートナーと結合することができる第一の特異的結合メンバーで標識する方法
【0211】
凝集依存性FRETの第一の態様が包含する方法は:標的分子群を供し、ここで、標的タンパク質群の少なくとも一部を、標的分子の単一の付着タグに結合することができる第一の特異的結合メンバーで標識し、ここで、第一の特異的結合メンバーは、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ、次いで、第一の特異的結合メンバー−標識標的タンパク質のアリコートを、一つ以上の試験ウェル中の少なくとも一つの試験化合物と接触させることを含む。該方法は、さらに、標的分子の少なくとも一部が変性される所定の温度まで、一つ以上の試験ウェルおよび少なくとも一つのコントロールウェルを加熱し、次いで、第一の特異的結合メンバーによって認識される単一領域で標識タンパク質に結合することができる第二の特異的結合メンバーを、一つ以上の試験ウェルおよび少なくとも一つのコントロールウェルに添加することを含む。第二の特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーに付着したFRETパートナーの性質に依存して、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的にまたは間接的に結合することができるので、第一の特異的結合メンバーがFRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合、第二の特異的結合メンバーは、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ、そして第一の特異的結合メンバーが、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合、第二の特異的結合メンバーは、FRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。該方法は、さらに、一つ以上の試験ウェルから一つ以上の波長で蛍光発光を測定し;一つ以上の試験ウェルの一つ以上の波長での蛍光発光を基準値と比較し;該蛍光発光の比較を用いて、該標的分子が、試験ウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方において存在する程度を測定し;次いで、該標的分子が、試験ウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度の測定を用いて、一つ以上の試験化合物が標的分子に結合するか否かを測定し、それにより、標的分子の一つ以上のリガンドを同定することを含む。
【0212】
リガンドが求められる標的分子は任意の分子であり得るが、好ましくは、標的分子は、生体分子、より好ましくは、ペプチド、タンパク質または核酸を含む生体分子、最も好ましくはタンパク質を含む生体分子である。タンパク質またはペプチドを含む生体分子は、例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、核タンパク質、またはファルネシル化、ミリスチル化、アシル化、リン酸化もしくは硫酸化タンパク質等であり得る。「タンパク質」または「標的タンパク質」を本明細書において用いる場合、タンパク質を含む前記の生体分子も含まれる。
【0213】
標的タンパク質は任意の種から由来したものであり得、生物、環境源または培地を含めた、天然源から単離することができるか、あるいは内因性または外因性の細胞型を用いる組換え技術を用いて生産することができる。例えば、標的タンパク質は、細菌または真菌の培養、昆虫細胞の培養、鳥類細胞の培養、(ヒトを含む)哺乳動物細胞の培養等で生産することができる。それらは、トランスジェニック生物によって生産することもできる。タンパク質は、好ましくは、アッセイで用いるために、少なくとも部分的に精製し、より好ましくは実質的に精製する。タンパク質は天然の、野生型の形態に対して配列が異なっていてもよく、一つ以上の付着タグを含んでいてもよい。
【0214】
本発明の好ましい態様において、標的タンパク質は、フルオロフォアまたはクエンチャーのような標識を含むかそれに結合することができる特異的結合メンバーのような特異的結合メンバーによって認識され得る、付着タグを含む。このように、(フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的に結合することができるもののような)付着タグに特異的に結合することができる一次特異的結合メンバーの形態である一般的な試薬を、本発明のアッセイで用いることができる。付着ペプチドタグ配列を用いる重要な利点は、それが、標的タンパク質の内因性領域に結合する特異的結合メンバーを使用せずにすむことである。内因性領域は試験化合物の結合部位であり得るか、あるいは標的タンパク質の熱依存的な凝集に関与し得るか、あるいはその立体構造または接近可能性が試料の加熱に伴って変化する領域であり得るので、内因性領域の使用は好ましくない。付着タグの例は、例えば、FLAG、血球凝集素、mycまたは6xHisタグのような、短いペプチド「エピトープタグ」配列である。そのようなペプチドエピトープタグは、組換えDNA技術を用いて標的タンパク質配列に挿入することができる。好ましくは、ペプチドタグ配列を、それが標的タンパク質の天然構造を壊さず、かつ標的タンパク質の天然構造の安定性を大きく改変しないような、タンパク質の領域に付加する。例えば、ペプチド配列タグを標的タンパク質のNまたはC末端に付加することができる。標的分子が、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに結合することができる特異的結合メンバーによって認識される付着タグを含む場合に、付着タグがタンパク質中に一度だけ存在するということは、重大なことである。かくして、本発明のこの態様において、標的タンパク質は、ペプチドタグのような単一の付着タグを含むことができる。所望により、短いペプチドリンカーを用いて、ペプチドタグ配列を標的タンパク質に付着させることができる。(CDまたは他の方法によって評価した)熱変性は、設計したペプチドエピトープタグを有する標的タンパク質で行うことができ、結果を、設計したタグを含まない標的タンパク質での結果と比較して、タグ配列が標的タンパク質の安定性に有意に影響するか否かを判断することができる。
【0215】
標的タンパク質の少なくとも一部を、いずれかの実用的な方法で、第一の特異的結合メンバーで標識することができる。例えば、標的タンパク質の溶液を適当な量の抗体と混合し、一定時間インキュベートし、標識されたタンパク質を所望により遊離抗体から分離することができる。
【0216】
本発明のいくつかの態様において、第一の特異的結合メンバーで標識した標的タンパク質群の画分を有するのが望ましく、ここで、第一の特異的結合メンバーで標識した標的タンパク質群のパーセンテージは、1%未満から90%を超える任意のパーセンテージであってよい。本発明のいくつかの好ましい態様において、標的タンパク質群における標識された標的タンパク質の割合は約50%であり得る。アッセイは、標的タンパク質群中の標識された標的タンパク質の割合に基づいて最適化することができる。アッセイで用いるドナーフルオロフォアおよびアクセプター部位、特定の標的タンパク質、アッセイで用いる特異的結合メンバー等のような因子は、標識した標的タンパク質の最適割合の決定における因子であり得る。群の一部を標識するのが望ましい構成において、既知量の標的タンパク質の一定量を標識処置で用いることができ、引き続いて、未標識の標的タンパク質の一定量と混合して、本発明のアッセイで用いるべき標的タンパク質群における標識された標的タンパク質の所望の割合を得ることができる。
【0217】
本発明のいくつかの態様において、標的タンパク質における第一の特異的結合メンバー−標識標的タンパク質の一部は、実質的に、標的タンパク質群の全てであってもよい。「実質的に全て」とは、アッセイで供するべき標的群の全てを第一の特異的結合メンバー標識処置に付し、標識処理の効率が、第一の特異的結合メンバーで標識した標的タンパク質の割合を決定することを意味する。好ましくは、これらの場合において、80%を超える、より好ましくは90%を超える、最も好ましくは95%を超える標的タンパク質を、第一の特異的結合メンバーで標識する。
【0218】
第一の特異的結合メンバーは、FRET対のメンバーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。第一の特異的結合メンバーは、当該分野で既知の方法を用いてFRETドナーまたはFRETアクセプターに共役させることができる。別法として、特異的結合メンバーは、例えば、一つ以上の他の特異的結合メンバー対(「二次特異的結合メンバー」)の使用を介して、フルオロフォアまたはクエンチャーに間接的に結合させることができる。ATLASアッセイで用いる、抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォアまたはクエンチャーを連結するために用いることができる二次特異的結合メンバー対の一つの例は、ビオチン−ストレプトアビジンである。例えば、フルオロフォアをストレプトアビジンに連結させることができ、およびアッセイで用いる一次特異的結合メンバーをビオチン化することができる(また、逆も可能である)。抗体のような一次特異的結合メンバーにフルオロフォア(またはクエンチャー)を連結させるこのメカニズムは、アッセイに適応性をもたらし、フルオロフォア(またはクエンチャー)を、所望により、第一の特異的結合メンバーを添加するのとは別の時間(例えば、TATLASまで加熱し、引き続き室温まで冷却した後、およびシグナル検出の前)に、アッセイ混合物に添加することができる。用いることができる他の二次特異的結合メンバー対は、ビオチン−アビジン、キチン結合ドメイン−キチン結合タンパク質;ニトリロ酢酸−6xHis;カルモジュリン結合ドメイン−カルモジュリン;等を含む。また、二次特異的結合メンバーとして、抗体を用いることもでき、例えば、アイソタイプ−および種−特異的二次抗体をフルオロフォアまたはクエンチャーに共役結合させることができ、標的タンパク質を結合するために用いる一次抗体に結合させることができる。
【0219】
好ましくは、標的分子の溶液は、例えば、緩衝液中で作成し、標的分子溶液を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。各試料で用いる標的分子の量は、標的に応じて変わるであろう。しかしながら、FRET検出を用いるアッセイの高感度/低バックグラウンドは、これらのアッセイで非常に少量の標的分子を用いることを可能とし、例えば、標的分子がタンパク質である場合、約0.1ngから10マイクログラムの量であるが、アッセイにおける標的タンパク質の量は、約1ngから5マイクログラムの範囲が好ましい。アッセイ試料中の標的タンパク質の最適量は、アッセイにおけるタンパク質の量を滴定することによって実験的に決定することができる(例えば、実施例8および図14参照)。
【0220】
一つ以上の試験化合物を、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。試験化合物は、緩衝液、溶媒または他の化合物を含む、溶液中で作成することができる。標的分子をウェルに添加する前、後またはそれと同時に、試験化合物を一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、試験化合物は、一つ以上の試験ウェルに添加する。所与のアッセイにおいて試験化合物のいくつかの濃度を試験することは、本発明の範囲内のものである。また、単一の試験ウェルに一つより多くの試験化合物を含めることも、本発明の範囲内のものである。
【0221】
一つより多くの試験化合物を、一つ以上の試験ウェルに添加することができる。好ましくは、少なくとも二つのウェルに添加する試験化合物は、異なる試験化合物、または異なる量もしくは組み合わせの試験化合物である。ウェルに導入する試験化合物の量は変化させることができるが、多くの場合、約0.01マイクロモル濃度から約100マイクロモル濃度のようなサブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であり、好ましくは約0.1マイクロモル濃度から約50マイクロモル濃度であろう。
【0222】
所望により、標的分子と試験化合物(アッセイ混合物)を、加熱工程に先立って一定時間インキュベートする。インキュベーションは任意の温度で行うことができるが、もし行うならば、プレインキュベーションは、好ましくは37℃以下の温度で行い、より好ましくは約22℃で行う。加熱前インキュベーションは任意の時間行うことができるが、それを含む場合、典型的には30分以下であろう。
【0223】
好ましくは、アッセイは、試験化合物の不存在下で標的分子を含む少なくとも一つのコントロールウェルを含む。好ましくは、アッセイは、少なくとも一つのコントロールウェルで試験ウェルと同時に行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、コントロールアッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のためにコントロールデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、コントロールウェルからの一つ以上の測定値、およびコントロールウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性等)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0224】
コントロールウェルを含める代わりに、あるいはそれに加えて、標的分子および少なくとも一つの化合物を含む少なくとも一つの標準ウェルを含めることができる。標準ウェル中の化合物と標的分子との相互作用は、アッセイに先立って既知でなくてもよいが、好ましくは、標準ウェル化合物が標的タンパク質の変性に影響する程度は既知であるものとする。いくつかの態様において、標準ウェルは、本発明のアッセイにおいて他の試験化合物ウェルと比較する試験化合物ウェルであり得る。好ましくは、一つ以上の標準ウェルを用いる場合、アッセイは、試験ウェルと同時に少なくとも一つの標準ウェルで行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、標準アッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のために標準ウェルのデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、標準ウェルからの一つ以上の測定値、および標準ウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0225】
リガンドまたは試験化合物の不存在下で、標的タンパク質の少なくとも一部がアンフォールドする条件に、一つ以上のウェルを付す。変性条件は、標的分子の二次、三次、または四次構造の喪失を引き起こすか、あるいは標的分子の三次元立体構造を改変する任意の条件とすることができ、熱、pH変化、洗剤または界面活性剤の存在、カオトロピック剤、塩、キレーター等を含む。好ましくは、変性条件は、上昇した温度であり、試験ウェルを変性条件に付すことは、標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで、標的分子および一つ以上の試験化合物を加熱することを含む。
【0226】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルおよび任意のコントロールウェルまたは標準ウェルは、TATLASと呼ばれる単一の別個の所定の温度まで加熱する。TATLASは、標的分子を加熱し、温度の関数としてのそのアンフォールディングの程度をモニターする予備実験(しかし標的分子のアイデンティティーまたは任意の活性が既知である必要はない)で選択することができる。好ましくは、アッセイを行う前に、標的分子を解析して、標的分子の構造を示す物理的測定値を温度の関数としてプロットした融解(温度依存性の構造的アンフォールディング)曲線を作成する。物理的測定は、当該分野でよく知られた種々の構造決定方法のうち任意のもの、例えば、CD、光散乱、UV吸光光度法、示差走査熱量測定等に基づくことができる。次いで、標的分子の融解曲線を用いて、アッセイのTATLASを含むパラメーターを確立することができる。熱融解は、好ましくは、(試験化合物のアッセイで用いるであろう緩衝液、試薬、特異的結合メンバー、ドナーフルオロフォア、アクセプター部位、およびFRET検出を用いる)アッセイ条件下で行い、(試験化合物の不存在下の)アッセイ条件下での融解曲線を得ることができる(実施例8および図14参照)。好ましくは、TATLASは、アッセイ試薬が安定であって、アッセイが広いダイナミックレンジおよび高い質(Z’)を有する温度として選択する。
【0227】
いくつかの場合、ウェルを一つより多くの別個の温度(例えば、TATLAS1、TATLAS2等)まで加熱するのが望ましいであろうが、しかしこれは余り好ましくない。これは、いくつかの場合において、例えば、アンフォールディング中間体の存在を示す一つより多くの転移温度を標的分子が有することを、融解曲線が示した場合であれば、望ましいものであり得る。しかしながら、好ましくは、三つより多くの別個の温度をATLASアッセイで用いず、最も好ましくは、ウェルは単一のTATLASまで加熱する。
【0228】
加熱は、任意のインキュベーターまたは試料加熱装置内で行うことができ、好ましくは、迅速で、均一で、正確な加熱、および好ましくは正確な温度までの冷却、ならびに正確な温度維持を可能とする加熱装置を用いて行う。例えば、多くの商業的に入手可能なサーモサイクラーを、この目的で用いることができる。アッセイ試料は、任意の時間、例えば、約3分から約6時間、好ましくは約10分から約一時間、TATLASに保持することができる。しかしながら、TATLASでのインキュベーションの時間は、本発明を限定するものではない。
【0229】
試料は、所望により、TATLASより低い温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは比較的迅速であって、規定された速度で行う。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光検出手段が、蛍光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0230】
TATLASまでの加熱、および好ましくは、より低い温度までの試料の冷却の後に、第二の特異的結合メンバーを、一つ以上の試験ウェル、好ましくは、一つまたは複数のコントロールウェルに添加する。第二の特異的結合メンバーは、ドナーフルオロフォアまたはアクセプター部位を含むことができるか、あるいはそれに結合することができる。第二の特異的結合メンバーは、第一の特異的結合メンバーが認識する標的分子の同一の単一領域に、特異的に結合する。「単一領域」とは、該領域が一度現れ、標的分子において一度のみ現れることを意味する。かくして、単一の付着タグを認識する一つの特異的結合メンバーは、個々の標的分子に結合することができる。標的分子がタンパク質である場合、この単一領域は、好ましくは、(時々エピトープタグという)短いペプチドエピトープ、例えば、6xHis、myc、FLAG、もしくは血球凝集素タグ、または特異的に識別され得る任意の他の短いペプチドエピトープのような、付着タグである。標的タンパク質へ導入した、単一の付着タグの使用は、ATLASアッセイにおける一般的な抗体試薬の使用を可能とし、ここで、一般的な抗体試薬は、付着タグを認識する抗体とすることができ、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的にカップリングする。一般的な抗体試薬を、付着タグを含む任意の標的タンパク質についてのATLASで用いることができる。また、設計したペプチドエピトープの使用は、特異的結合メンバーによる単一領域の結合が標的タンパク質の熱依存性の凝集特性を変化させるか、または標的分子の特定の領域に結合することについて試験化合物と競合するか、または熱変性の間に改変する標的タンパク質の内因性領域に結合するという可能性を回避する。
【0231】
第一の特異的結合メンバーが、ドナーフルオロフォアを含むか、あるいはそれに結合するアッセイにおいて、第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、アクセプター部位に結合するか、あるいはそれを含む。第一の特異的結合メンバーが、アクセプター部位を含むか、あるいはそれに結合するアッセイにおいて、第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、ドナーフルオロフォアに結合するか、あるいはそれを含む。総合すると、第一の特異的結合メンバーが結合するFRETパートナーおよび第二の特異的結合メンバーが結合するFRETパートナーが、FRET対を形成する。
【0232】
第一の特異的結合メンバーの場合におけるように、アッセイで用いる第二の特異的結合メンバーは、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的にカップリングすることができる。直接的なカップリングは、例えば、特異的結合メンバー上の活性基を介しての、フルオロフォアの化学的カップリングであり得る。間接的なカップリングは、第二の特異的結合メンバーおよびフルオロフォアに結合することができる、ビオチンおよびストレプトアビジンのような二次特異的結合メンバーを用いることができ、第二の特異的結合メンバーおよびフルオフォロアは、ビオチン−ストレプトアビジンの結合を介して共にカップリングすることができる。
【0233】
総合すると、第一の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーと一体化するフルオロフォア、および第二の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーと一体化するフルオロフォアは、FRET対を形成する。本発明の方法で有用であり得るFRET対の非限定的例は、テルビウム/フルオレセイン、テルビウム/GFP、テルビウム/TMR、テルビウム/Cy3、テルビウム/Rフォコエリトリン、ユーロピウム/Cy5、ユーロピウム/APC、Alexa488/Alexa555、Alexa568/Alexa647、Alexa594/Alexa647、Alexa647/Alexa594、Cy3/Cy5、BODIPY FL/BODIPY FL、フルオレセイン/TMR、IEDANS/フルオレセイン、フルオレセイン/フルオレセイン、およびEDANS/DABCYLを含む。当該分野で知られた、または知られるようになった、蛍光ドナーおよびアクセプター部位を含む他のFRET対を用いることもできる。FRET対を選択する際に、ドナー発光波長スペクトルがアクセプター吸収波長スペクトルと重なるドナーおよびアクセプターを選択すべきである。加えて、最適なアッセイの感度のためには、ドナーおよびアクセプター双方が本発明の方法に従って標的分子に結合する場合にそれらが相互から離れて位置するであろう距離は、好ましくは、対のフォルスター半径より小さいかそれと同等である。FRET対は、これらの基準(蛍光スペクトルおよびフォルスター半径値)に基づいて選択することができ、それは文献に見出すことができ(Principles of Fluorescence Spectroscopy、第2版(1999) Joseph R.Lakowicz編、Plenum Publishing Corp.;および、Molecular Probes,ユージーン、ORから入手可能であって、www.probes.comにおいて入手可能な文献)、試験化合物の不存在下で熱により融解させた試験タンパク質で構成したアッセイにおいてそれらの適合性および効率について試験することができる。
【0234】
アッセイは、さらに、一つ以上の試験ウェルから一つ以上の波長で蛍光発光を検出することを含む。該アッセイで検出される蛍光発光は、蛍光ドナーと蛍光アクセプターか、または蛍光ドナーと蛍光クエンチャーのいずれかである、二つのFRETパートナーの間の相互作用の結果である。該アッセイは、標的分子の変性をその自己凝集によって検出するように構成する。FRETは、標的分子の同一領域に特異的に結合する特異的結合パートナーが接近した場合に起こる。これは、二つ以上の標的分子が結合して、それらの変性により凝集体を形成した場合に起こる。かくして、標的分子の熱変性の程度は、蛍光シグナルの強度または波長特性を決定する。
【0235】
蛍光シグナルの検出は、一つ以上の波長で行うことができる。例えば、蛍光の検出は、ドナーフルオロフォアの波長で行うことができ、ここで、ドナーフルオロフォアの蛍光の低下した強度は、アクセプターフルオロフォアまたはクエンチャーに対するその接近性に依存する。より好ましくは、蛍光の検出は、アクセプターフルオロフォアの波長で行うことができる。
【0236】
好ましくは、検出は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の検出であり、ここで、アッセイは、アクセプターフルオロフォアの蛍光を検出するように設計し、より好ましくは、アッセイは、アクセプター/ドナー対のドナーおよびアクセプターフルオロフォア双方の蛍光を検出する。ドナーおよびアクセプターの蛍光は、比率、例えば、ドナー発光波長での蛍光に対するアクセプター発光波長での蛍光の比率として表すことができる。しかしながら、ドナー波長での蛍光発光を検出することによって、タンパク質のアンフォールディングをアッセイすることもできる。例えば、ドナー波長での蛍光は、タンパク質のアンフォールディングが増大して蛍光ドナーが蛍光アクセプターまたは蛍光クエンチャーと接近すると、低下するであろう。
【0237】
蛍光検出は、アッセイで用いるフルオロフォアが発光した波長で蛍光を検出することができる任意の装置によって行うことができる。マルチウェルプレートから蛍光を検出するものを含む蛍光検出装置は、当該分野で知られている(例えば、Packard Biosciences、Perkin Elmer)。蛍光検出装置は、試料加熱装置とつなぐことができるか、あるいは別々とすることができる。好ましくは、蛍光検出装置は、一つより多くの波長で蛍光を検出することができ、好ましくは、アッセイで用いるドナーおよびアクセプターの蛍光発光の波長のような二つの波長間の比率を計算することができるソフトウェアを含む。
【0238】
一つ以上の波長での蛍光発光の検出は、好ましくは、時間分解蛍光検出である。本発明の方法で用いる好ましい検出メカニズムは、二つの波長で時間分解蛍光検出を用いるので、「時間分解エネルギー移動」もしくは「TRET」、または「時間分解蛍光共鳴エネルギー移動」もしくは「TR−FRET」ということができる。TRET(または「TR−FRET」)検出は、当該分野でよく知られている(Popeら、(1999)Drug Disc Tech 4(8):350−362)。本発明で実施するように、TR−FRETは、ドナーフルオロフォアの励起後の短い時間枠によって、二つ以上の波長での蛍光強度の測定を遅らせることを含む。これは、蛍光測定における化合物干渉によるバックグラウンドを低下させることができる。
【0239】
本発明の好ましい態様において、試験化合物を欠くが試験ウェルと同量の標的分子および一つまたは複数の特異的結合メンバーを含む、一つ以上のコントロールウェルを作成し、コントロールウェルは、試験ウェルと同一方法で同時に加熱、分析する。好ましくは、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物およびコントロールアッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0240】
代替法において、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上のコントロールウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。コントロールウェルの蛍光検出のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0241】
本発明のいくつかの態様において、一つ以上の試験ウェルと比較するために一つ以上の標準ウェルを供する。標準ウェルは、標的タンパク質および少なくとも一つの化合物を含み、該化合物は、試験化合物か、または標的のアンフォールディングに対する影響が知られている化合物のいずれかである。一つ以上の標準ウェルも、試験ウェルと同一の方法で、好ましくは同時に加熱、分析する。標準ウェルを用いて基準値を得る場合、それらは一つ以上のアッセイにおける試験ウェルの一つ、いくつか、または全てとすることができ、これを用いて、検出測定の平均値を計算し、それを個々の試験ウェルの検出測定値と比較することができる。好ましくは、標準ウェルを用いる本発明の態様において、少なくとも一つの標準ウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物および標準アッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0242】
代替法において、標準ウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上の標準ウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。標準ウェルの蛍光測定のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0243】
標的分子のアンフォールディングの測定
試験ウェルの測定値を一つ以上のコントロールウェルまたは一つ以上の標準ウェルの測定値と比較して、いずれかの試験化合物が蛍光読み出しを有意に変化させるか否かを判断する。例えば、試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、試験化合物を欠くコントロールウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度が特定の量もしくはパーセンテージを超えて標準ウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率が特定の量もしくはパーセンテージを超えて標準ウェルと異なる場合、一つ以上の異なる化合物を含む標準ウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験化合物とコントロールウェルまたは標準ウェルとの比較は、蛍光ドナー発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、蛍光アクセプター発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、または蛍光ドナー発光波長および蛍光アクセプター発光波長双方の関数であるいくつかの値の比較であり得る。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光アクセプターを含むFRET対を用いる場合、比較は、蛍光ドナー発光に対する蛍光アクセプター発光の比率に基づく。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光クエンチャーを含むFRET対を用いる場合、比較は、ドナー波長発光強度に基づく。
【0244】
ほとんどの(しかし全てではない)場合において、一つまたは複数の蛍光シグナルまたは蛍光シグナルに基づく判断における有意差は、試験化合物が、上昇した温度のような変性条件に応じたアンフォールディングから標的分子をある程度保護したことを示すであろう。蛍光ドナー/蛍光アクセプター対の場合、ドナー蛍光に対するアクセプター蛍光の比率の低下は、試験化合物の存在下での標的のアンフォールディングおよび引き続いて起こる凝集の減少を示す。蛍光ドナー/蛍光クエンチャーの対の場合には、ドナー蛍光の強度の増加は、試験化合物の存在下での標的のアンフォールディングおよび引き続いて起こる凝集の減少を示す。また、ドナー蛍光に対するアクセプター蛍光の比率の増加を検出することによって、またはドナー/クエンチャー対の場合にはドナー蛍光の強度の減少を検出することによって、標的のアンフォールディングを促進する化合物を同定することができる。また、標的のアンフォールディングを促進する化合物は、標的のリガンドであり得る。特定のメカニズムに拘束されるものではないが、いくつかの場合には、化合物の結合は、特定の温度でのアンフォールディングに対する標的の感受性を高くする。
【0245】
リガンドの同定
試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、上昇した温度でのアンフォールディングから標的分子を保護する試験化合物を含むウェルとして同定することができる。高温で標的分子を安定化させるものとして同定される試験化合物は、標的分子のリガンドとして同定する。当業者であれば、例えば、コントロールデータからの20%以上の差、または好ましくはコントロールデータからの50%以上の差のような、第一のスクリーニングリガンドを同定するための適当な基準を決定することができる。
【0246】
好ましくは、第一のスクリーニングのヒットは、それらを元来同定したものと同一のアッセイ様式で再度スクリーニングする。第二のアッセイにおいて、第一のスクリーニングのヒットが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、それを二連ヒットと呼ぶ。
【0247】
二連ヒットは、様々な濃度でアッセイする一連の滴定に付すことができる(実施例11および図18参照)。滴定可能な、すなわち、アッセイにおいて濃度依存性を示す二連ヒットは、標的分子に対するリガンドであると考えられる。IC50値は、これらのアッセイから決定することができる。
【0248】
標的分子のリガンドとして同定された試験化合物は、所望により、標的分子の結合を単独で確認するために、他のタイプのアッセイで試験することができる。そのようなアッセイの例は、ELISA、膜結合、等温熱量測定、および当該分野で知られた他の結合アッセイである。
【0249】
ハイスループットスクリーニング
本発明は、多数の試験化合物を同時に試験することができるハイスループットスクリーニングに特によく適合する。FRET検出また特にTR−FRET検出の、高感度および低いバックグラウンドのため、少量のタンパク質とそれに対応する少容量をアッセイで用いることができる。ハイスループットアッセイでは、試料は、好ましくはマルチウェルプレートのウェル中に作成する。しかしながら、他の試料容器を用いることができる。例えば、試料容器は、表面の窪みとすることができるか、あるいは小量(サブミリリットル)の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。好ましくは、アッセイは、多数の、好ましくは数百の試料を含むハイスループットまたはウルトラハイスループットスクリーニング(HTSまたはUHTS)に形式化し、かくして、該アッセイは、例えば、96、384、1536または3456ウェルプレートのウェルにおいて最も便宜に行われる。当該分野で既知である、または本発明の方法のために設計した、プレート加熱およびプレート蛍光検出システムを用いることができる。
【0250】
ATLASアッセイは、最小のピペッティング工程しか必要でないように、容易に構成することができる。加えて、アッセイ試料を作成し、単一の温度まで迅速に加熱し、一時間未満インキュベートし、迅速に冷却し、次いで検出することができるので、アッセイは短時間内に行うことができる。
【0251】
試薬の添加、ならびに加熱、インキュベーション、冷却および検出工程は、自動化することができる。本発明の好ましい態様において、一体化したシステムは、ロボットを使用して、試薬を分注し、試験ウェルを含むプレートを分注領域、加熱/冷却装置、および蛍光プレートリーダーへ、またはそこから移動させる。好ましくは、一体化されたシステムは、コンピュータ化され、プログラム可能であり、試料の分析のためのソフトウェアを含む。
【0252】
標的タンパク質の一つの群を第一のFRETパートナーで標識し、標的タンパク質の第二の群を第二のFRETパートナーで標識する方法
【0253】
本発明の凝集依存性FRETの実施形態が包含する方法は:標的分子の第一の群を供し、ここで、第一の群は、ドナーフルオロフォアまたはアクセプター部位で標識されるか、あるいはそれに結合することができ;標的分子の第一の群に標的分子の第二の群を添加し、ここで、第二の群は、アクセプター部位で標識されるか、あるいはそれに結合することができ;標的分子の混合ドナー/アクセプター群を形成することも含む。該方法は、さらに、一つ以上の試験ウェル中で、標的分子の混合ドナー/アクセプター群を一以上の試験化合物と接触させ、一つ以上の試験ウェルを、標的分子の少なくとも一部が変性される所定の温度まで加熱することを含む。該方法は、さらに、一つ以上の試験ウェルから一つ以上の波長で蛍光発光を測定し;一つ以上の試験ウェルの一つ以上の波長での蛍光発光を基準値と比較し;該蛍光発光の比較を用いて、該標的分子が、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を測定し;そして、一つ以上の試験ウェル中で、該標的分子がアンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度の測定を用いて、一つ以上の試験化合物が該標的分子に結合するか否かを測定し、それにより、該標的分子の一つ以上のリガンドを同定することを含む。
【0254】
リガンドが求められる標的分子は任意の分子であり得るが、好ましくは、標的分子は、生体分子、より好ましくは、ペプチド、タンパク質または核酸を含む生体分子、最も好ましくはタンパク質を含む生体分子である。タンパク質またはペプチドを含む生体分子は、例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、核タンパク質、またはファルネシル化、ミリスチル化、アシル化、リン酸化もしくは硫酸化タンパク質等であり得る。「タンパク質」または「標的タンパク質」を本明細書において用いる場合、タンパク質を含む前記の生体分子も含まれる。
【0255】
標的タンパク質は任意の種から由来したものであり得、生物、環境源または培地を含めた、天然源から単離することができるか、あるいは内因性または外因性の細胞型を用いる組換え技術を用いて生産することができる。例えば、標的タンパク質は、細菌または真菌の培養、昆虫細胞の培養、鳥類細胞の培養、(ヒトを含む)哺乳動物細胞の培養等で生産することができる。それらは、トランスジェニック生物によって生産することもできる。タンパク質は、好ましくは、アッセイで用いるために、少なくとも部分的に精製し、より好ましくは実質的に精製する。タンパク質は天然の野生型の形態に対して配列が異なっていてもよく、所望により一つ以上の付着タグを含んでいてもよい。
【0256】
標的タンパク質は、所望により、フルオロフォアのような標識を含むかそれに結合することができる特異的結合メンバーのような特異的結合メンバーによって認識され得る、付着タグを含むことができる。このように、(フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的に結合することができるもののような)付着タグに特異的に結合することができる一次特異的結合メンバーの形態である一般的な試薬を、本発明のアッセイで用いることができる。(小さなペプチドエピトープのような)付着タグを用いる重要な利点は、それが、標的タンパク質の内因性領域に結合する特異的結合メンバーを使用せずにすむことである。内因性領域は試験化合物の結合部位を含み得るか、あるいは標的タンパク質の熱依存的な凝集に関与し得るか、あるいはその立体構造または接近可能性が試料の加熱に伴って変化する領域であり得るので、内因性領域の使用は好ましくない。付着タグの例は、例えば、FLAG、血球凝集素、mycまたは6xHisタグのような、短いペプチドエピトープ「タグ」配列である。そのようなタグ配列は、組換えDNA技術を用いて標的タンパク質配列に挿入することができる。好ましくは、ペプチドエピトープタグを、それが標的タンパク質の天然構造を壊さず、かつ標的タンパク質の天然構造の安定性を大きく改変しないような、タンパク質の領域に付加する。例えば、ペプチド配列タグを標的タンパク質のNまたはC末端に付加することができる。所望により、短いペプチドリンカーを用いて、タグ配列を標的タンパク質に付着させることができる。(CDまたは他の方法によって評価した)熱変性は、タグを有する標的タンパク質で行うことができ、結果を、タグを含まない標的タンパク質での結果と比較して、タグ配列が標的タンパク質の安定性に有意に影響するか否かを判断することができる。
【0257】
第一および第二の群の標的分子は、ドナーフルオロフォアまたはアクセプター部位を含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる。種々の方策を用いて、第一および第二の群の標的分子を標識することができ、ここで、変量には、標的分子を標識するために用いるフルオロフォアまたはクエンチャーのタイプ、標識が標的分子と一体化、あるいはそれに直接的または間接的に結合するか否か、およびアッセイ処理中のいずれの時点でフルオロフォアまたはクエンチャーが標的分子に結合するか、を含むことができる。しかしながら、アッセイを構成するにおいて、1)第一の標的分子群のメンバーがドナーフルオロフォアに結合するアッセイにおいて、第二の標的分子群のメンバーがアクセプター部位に結合し、そして第一の標的分子群のメンバーがアクセプター部位に結合するアッセイにおいて、第二の標的分子群のメンバーがドナーフルオロフォアに結合すること;2)総合すると、標的分子の第一および第二の群のメンバーが、FRET対を形成するドナーフルオロフォアおよびアクセプター部位を含むか、それに結合すること;そして3)アッセイで用いるドナーフルオロフォアおよびアクセプター部位を、検出工程の前のある時点で付加することが好ましい。
【0258】
例えば、第一の群を第二の群に添加する前に、第一の群の標的分子をFRETドナーに化学的にカップリングすることができ、第二の群の標的分子をFRETアクセプターに化学的にカップリングすることができ、またその逆も可能である。別法として、標的分子の第一および第二の群を、各々、群を合わせる前に、FRETパートナーにカップリングする特異的結合メンバーに結合させることができる。第一および第二の群をFRETパートナーで標識する方法の種々の組み合わせが可能である。
【0259】
例えば、アッセイは、標的分子の第一の群のみが、FRET対のメンバーに結合する特異的結合メンバーによって認識され得る設計したタグ配列を含むように、構成することができる。この場合、標的分子の第二の群は、FRETパートナーに化学的にカップリングすることができる。別法として、第一の群は一つの設計したタグ配列を含むことができ、第二の群は異なる設計したタグ配列を含むことができる。二つの異なるタグ配列は、FRET対の二つの異なるメンバーにカップリングする二つの異なる抗体によって認識され得る。さらにもう一つの代替法において、標的分子の第一または第二の群のいずれかをビオチン化することができ、それらは、例えば、検出の前にストレプトアビジンに連結したFRETドナーまたはアクセプターによって結合され得る。
【0260】
標的分子の第二の群を標的分子の第一の群に添加して、標的分子の混合群を作成する。二つの群は任意の比率で合わせることができるが、典型的には、約1:1の比率で合わせることとなろう。好ましくは、標的分子の混合群は、例えば、緩衝液中で作成される。各試料で用いる標的分子の量は、標的間で変化するであろう。しかしながら、FRET検出を用いるアッセイの高感度/低バックグラウンドは、これらのアッセイで非常に少量の標的分子を用いることを可能とし、例えば、標的分子がタンパク質である場合、約0.1ngから10マイクログラムの量であるが、アッセイにおける標的タンパク質の量は、約1ngから5マイクログラムの範囲が好ましい。アッセイ試料中の標的タンパク質の最適量は、アッセイにおけるタンパク質の量を滴定することによって実験的に決定することができる。
【0261】
一つ以上の試験化合物を、少なくとも一つのウェルまたは試料容器に添加する。試験化合物は、緩衝液、溶媒または他の化合物を含む、溶液中で作成することができる。標的分子をウェルに添加する前、後またはそれと同時に、試験化合物を一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、試験化合物は、複数のウェルに添加する。所与のアッセイにおいて試験化合物のいくつかの濃度を試験することは、本発明の範囲内のものである。また、単一の試験ウェルに一つより多くの試験化合物を含めることも、本発明の範囲内のものである。
【0262】
一つより多くの試験化合物を、一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、少なくとも二つのウェルに添加する試験化合物は、異なる試験化合物、または異なる量もしくは組み合わせの試験化合物である。ウェルに導入する試験化合物の量は変化させることができるが、多くの場合、約0.01マイクロモル濃度から約100マイクロモル濃度のような、サブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であり、好ましくは約0.1マイクロモル濃度から約50マイクロモル濃度であろう。
【0263】
所望により、標的分子の混合群と試験化合物(アッセイ混合物)を、加熱工程に先立って一定時間インキュベートする。インキュベーションは任意の温度で行うことができるが、もし行うならば、プレインキュベーションは、好ましくは37℃以下の温度で行い、より好ましくは約22℃で行う。加熱前インキュベーションは任意の時間行うことができるが、それを含む場合、典型的には30分以下であろう。
【0264】
好ましくは、アッセイは、試験化合物の不存在下で標的分子を含む少なくとも一つのコントロールウェルを含む。好ましくは、アッセイは、少なくとも一つのコントロールウェルで試験ウェルと同時に行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、コントロールアッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のためにコントロールデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、コントロールウェルからの一つ以上の測定値、およびコントロールウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性等)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0265】
コントロールウェルを含める代わりに、あるいはそれに加えて、標的分子および少なくとも一つの化合物を含む少なくとも一つの標準ウェルを含めることができる。標準ウェル中の化合物と標的分子との相互作用は、アッセイに先立って既知でなくてもよいが、好ましくは、標準ウェル化合物が標的タンパク質の変性に影響する程度は既知であるものとする。いくつかの態様において、標準ウェルは、本発明のアッセイにおいて他の試験化合物ウェルと比較する試験化合物ウェルであり得る。好ましくは、一つ以上の標準ウェルを用いる場合、アッセイは、試験ウェルと同時に少なくとも一つの標準ウェルで行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、標準アッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のために標準ウェルのデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、標準ウェルからの一つ以上の測定値、および標準ウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0266】
リガンドまたは試験化合物の不存在下で、標的タンパク質の少なくとも一部がアンフォールドする条件に、一つ以上のウェルを付す。変性条件は、標的分子の二次、三次、または四次構造の喪失を引き起こすか、あるいは標的分子の三次元立体構造を改変する任意の条件とすることができ、熱、pH変化、洗剤または界面活性剤の存在、カオトロピック剤、塩、キレーター等を含む。好ましくは、変性条件は、上昇した温度であり、試験ウェルを変性条件に付すことは、標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで、標的分子および一つ以上の試験化合物を加熱することを含む。
【0267】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルおよび任意のコントロールウェルまたは標準ウェルは、TATLASと呼ばれる単一の別個の所定の温度まで加熱する。TATLASは、標的分子を加熱し、温度の関数としてのそのアンフォールディングの程度をモニターする予備実験(しかし標的分子のアイデンティティーまたは任意の活性が既知である必要はない)で選択することができる。好ましくは、アッセイを行う前に、標的分子を解析して、標的分子の構造を示す物理的測定値を温度の関数としてプロットした融解(温度依存性の構造的アンフォールディング)曲線を作成する。物理的測定は、当該分野でよく知られた種々の構造決定方法のうち任意のもの、例えば、CD、光散乱、UV吸光光度法、示差走査熱量測定等に基づくことができる。次いで、標的分子の融解曲線を用いて、アッセイのTATLASを含むパラメーターを確立することができる。熱融解は、好ましくは、(試験化合物のアッセイで用いるであろう緩衝液、試薬、特異的結合メンバー、ドナーフルオロフォア、アクセプター部位、およびFRET検出を用いる)アッセイ条件下で行い、(試験化合物の不存在下の)アッセイ条件下での融解曲線を得ることができる(実施例8および図14参照)。好ましくは、TATLASは、アッセイ試薬が安定であって、アッセイが広いダイナミックレンジおよび高い質(Z’)を有する温度として選択する。
【0268】
いくつかの場合、ウェルを一つより多くの別個の温度(例えば、TATLAS1、TATLAS2等)まで加熱するのが望ましいであろうが、しかしこれは余り好ましくない。これは、いくつかの場合において、例えば、アンフォールディング中間体の存在を示す一つより多くの転移温度を標的分子が有することを、融解曲線が示した場合であれば、望ましいものであり得る。しかしながら、好ましくは、三つより多くの別個の温度をATLASアッセイで用いず、最も好ましくは、ウェルは単一のTATLASまで加熱する。
【0269】
加熱は、任意のインキュベーターまたは試料加熱装置内で行うことができ、好ましくは、迅速で、均一で、正確な加熱、および好ましくは正確な温度までの冷却、ならびに正確な温度維持を可能とする加熱装置を用いて行う。例えば、多くの商業的に入手可能なサーモサイクラーを、この目的で用いることができる。アッセイ試料は、任意の時間、例えば、約3分から約6時間、好ましくは約10分から約一時間、TATLASに保持することができる。しかしながら、TATLASでのインキュベーションの時間は、本発明を限定するものではない。
【0270】
試料は、所望により、TATLASより低い温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは比較的迅速であって、規定された速度で行う。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光検出手段が、蛍光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0271】
アッセイをどのように構成するかに応じて、一つ以上の特異的結合メンバーまたはFRETパートナーを、TATLASまで加熱した後、一つ以上の試験ウェルに、および好ましくは一つまたは複数のコントロールウェルに添加し、好ましくは、試料をより低い温度まで冷却することができる。例えば、標的分子の混合群における第一の群を、ビオチン化した、標的分子の付着タグを認識する第一の抗体に結合させることができ、そして標的分子の混合群における第二の群を、蛍光ドナーに直接的に連結した第二の抗体に結合させることができる。検出に先立ち、第一の群を標識するために、抗原結合FRETアクセプター部位をウェルに添加することができる。代替の構成において、第一および第二の標的分子群は、各々、別個の付着タグを含む(例えば、第一の群は6xHisタグを含み、第二の群はFLAGタグを含む)。蛍光ドナーにカップリングした6xHisタグを認識する抗体およびアクセプター部位にカップリングしたFLAGタグを認識する抗体を、試料の加熱の後で蛍光測定の前に、「レベレーションミックス」に添加することができる。ある場合には、試料をTATLAS未満の温度とした後であって蛍光検出の前に、特異的結合メンバーを添加すると、いくつかの抗体の熱感受性の問題を未然に防ぐことができる。いくつかの場合において、試料をTATLAS未満の温度とした後であって蛍光検出の前に、フルオロフォア(および、所望により、クエンチャー)を添加すると、フルオロフォアが標的分子のアンフォールディングに干渉する可能性を回避することができ、フルオロフォアの熱不安定性による問題の可能性を回避することができる。
【0272】
二つの異なる特異的結合メンバーを用いるアッセイにおいて、標的分子の第一の群に結合する第一の特異的結合メンバーは、ドナーフルオロフォアを含むか、あるいはそれに結合し、そして標的分子の第二の群に結合する第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、アクセプター部位に結合するか、あるいはそれを含む。第一の特異的結合メンバーがアクセプター部位を含むか、あるいはそれに結合するアッセイにおいて、第二の特異的結合メンバーは、好ましくは、ドナーフルオロフォアに結合するか、あるいはそれを含む。アッセイで用いる特異的結合メンバーは、フルオロフォアまたはクエンチャーに直接的または間接的にカップリングさせることができる。直接的なカップリングは、例えば、特異的結合メンバー上の活性基を介しての、フルオロフォアの化学的カップリングであり得る。間接的なカップリングは、第二の特異的結合メンバーおよびフルオロフォアに結合することができる、ビオチンおよびストレプトアビジンのような二次特異的結合メンバーをさらに用いることができ、第二の特異的結合メンバーおよびフルオフォロアは、ビオチン−ストレプトアビジンの結合を介して共にカップリングすることができる。
【0273】
総合すると、第一の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーと一体化するフルオロフォア、および第二の特異的結合メンバーに直接的または間接的に結合するか、あるいは該メンバーと一体化するフルオロフォアは、FRET対を形成する。本発明の方法で有用であり得るFRET対の非限定的例は、テルビウム/フルオレセイン、テルビウム/GFP、テルビウム/TMR、テルビウム/Cy3、テルビウム/Rフォコエリトリン、ユーロピウム/Cy5、ユーロピウム/APC、Alexa488/Alexa555、Alexa568/Alexa647、Alexa594/Alexa647、Alexa647/Alexa594、Cy3/Cy5、BODIPY FL/BODIPY FL、フルオレセイン/TMR、IEDANS/フルオレセイン、フルオレセイン/フルオレセイン、およびEDANS/DABCYLを含む。当該分野で知られた、または知られるようになった、蛍光ドナーおよびアクセプター部位を含む他のFRET対を用いることもできる。FRET対を選択する際に、ドナー発光波長スペクトルがアクセプター吸収波長スペクトルと重なるドナーおよびアクセプターを選択すべきである。加えて、最適なアッセイの感度のためには、ドナーおよびアクセプター双方が本発明の方法に従って標的分子に結合する場合にそれらが相互から離れて位置するであろう距離は、好ましくは、対のフォルスター半径より小さいかそれと同等である。FRET対は、これらの基準(蛍光スペクトルおよびフォルスター半径値)に基づいて選択することができ、それは文献に見出すことができ(Principles of Fluorescence Spectroscopy、第2版(1999) Joseph R.Lakowicz編、Plenum Publishing Corp.;および、Molecular Probes,ユージーン、ORから入手可能であって、www.probes.comにおいて入手可能な文献)、試験化合物の不存在下で熱により融解させた試験タンパク質で構成したアッセイにおいてそれらの適合性および効率について試験することができる。
【0274】
ATLASアッセイは、さらに、一つ以上の試験ウェルから一つ以上の波長で蛍光発光を検出することを含む。ATLASアッセイで検出される蛍光発光は、蛍光ドナーと蛍光アクセプターか、または蛍光ドナーと蛍光クエンチャーのいずれかである、二つのFRETパートナーの間の相互作用の結果である。該アッセイは、標的分子の変性を溶液内でのその自己凝集によって検出するように構成する。FRETは、標的分子の同一領域に特異的に結合する特異的結合パートナーが接近した場合に起こる。かくして、標的分子の熱変性の程度は、蛍光シグナルの強度または波長特性を決定する。
【0275】
蛍光シグナルの検出は、一つ以上の波長で行うことができる。例えば、蛍光の検出は、ドナーフルオロフォアの波長で行うことができ、ここで、ドナーフルオロフォアの蛍光の低下した強度は、アクセプターフルオロフォアまたはクエンチャーに対するその接近性に依存する。より好ましくは、蛍光の検出は、アクセプターフルオロフォアの波長で行うことができる。
【0276】
好ましくは、検出は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の検出であり、ここで、アッセイは、アクセプターフルオロフォアの蛍光を検出するように設計し、より好ましくは、アッセイは、アクセプター/ドナー対のドナーおよびアクセプターフルオロフォア双方の蛍光を検出する。ドナーおよびアクセプターの蛍光は、比率、例えば、ドナー発光波長での蛍光に対するアクセプター発光波長での蛍光の比率として表すことができる。しかしながら、ドナー波長での蛍光発光を検出することによって、タンパク質のアンフォールディングをアッセイすることもできる。例えば、ドナー波長での蛍光は、タンパク質のアンフォールディングが増大して蛍光ドナーが蛍光アクセプターまたは蛍光クエンチャーと接近すると、低下するであろう。
【0277】
蛍光検出は、アッセイで用いるフルオロフォアによって発光された波長で蛍光を検出することができる任意の装置によって行うことができる。マルチウェルプレートから蛍光を検出するものを含む蛍光検出装置は、当該分野で知られている(例えば、Perkin Elmerによって製造されたVictor V、およびPackard Biosciencesによって製造されたFusion分析器)。蛍光検出装置は、加熱装置とつなぐことができるか、あるいは別々とすることができる。好ましくは、蛍光検出装置は、一つより多くの波長で蛍光を検出することができ、好ましくは、アッセイで用いるドナーおよびアクセプターの蛍光発光の波長のような二つの波長間の比率を計算することができるソフトウェアを含む。
【0278】
一つ以上の波長での蛍光発光の検出は、好ましくは、時間分解蛍光検出である。本発明の方法で用いる好ましい検出メカニズムは、二つの波長で時間分解蛍光検出を用いるので、「時間分解エネルギー移動」もしくは「TRET」、または「時間分解蛍光共鳴エネルギー移動」もしくは「TR−FRET」ということができる。TRET(または「TR−FRET」)検出は、当該分野でよく知られている(Popeら、(1999)Drug Disc Tech 4(8):350−362)。本発明で実施するように、TR−FRETは、ドナーフルオロフォアの励起後の短い時間枠によって、二つ以上の波長での蛍光強度の測定を遅らせることを含む。これは、蛍光測定における化合物干渉によるバックグラウンドを低下させることができる。
【0279】
一つ以上の波長での蛍光発光の検出は、好ましくは、時間分解蛍光検出である。本発明の方法で用いる好ましい検出メカニズムは、二つの波長で時間分解蛍光検出を用いるので、「時間分解エネルギー移動」もしくは「TRET」、または「時間分解蛍光共鳴エネルギー移動」もしくは「TR−FRET」ということができる。TRET(または「TR−FRET」)検出は、当該分野でよく知られている(Popeら、(1999)Drug Disc Tech 4(8):350−362)。本発明で実施するように、TR−FRETは、ドナーフルオロフォアの励起後の短い時間枠によって、二つ以上の波長での蛍光強度の測定を遅らせることを含む。これは、蛍光測定における化合物干渉によるバックグラウンドを低下させることができる。
【0280】
本発明の好ましい態様において、試験化合物を欠くが試験ウェルと同量の標的分子および一つまたは複数の特異的結合メンバーを含む、一つ以上のコントロールウェルを作成し、コントロールウェルを、試験ウェルと同一方法で同時に加熱、分析する。好ましくは、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物およびコントロールアッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0281】
代替法において、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上のコントロールウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。コントロールウェルの蛍光検出のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0282】
本発明のいくつかの態様において、一つ以上の試験ウェルと比較するために一つ以上の標準ウェルを供する。標準ウェルは、標的タンパク質および少なくとも一つの化合物を含み、該化合物は、試験化合物か、または標的のアンフォールディングに対する影響が知られている化合物のいずれかである。一つ以上の標準ウェルも、試験ウェルと同一の方法で、好ましくは同時に加熱、分析する。標準ウェルを用いて基準値を得る場合、それらは一つ以上のアッセイにおける試験ウェルの一つ、いくつか、または全てとすることができ、これを用いて、検出測定の平均値を計算し、それを個々の試験ウェルの検出測定値と比較することができる。好ましくは、標準ウェルを用いる本発明の態様において、少なくとも一つの標準ウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物および標準アッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0283】
代替法において、標準ウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上の標準ウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。標準ウェルの蛍光測定のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0284】
標的分子のアンフォールディングの測定
一つ以上の試験ウェルの測定値を少なくとも一つのコントロールウェルの測定値と比較して、いずれかの試験化合物が蛍光読み出しを有意に変化させるか否かを判断する。例えば、試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、試験化合物を欠くコントロールウェルに比べて有意に異なる程度標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験ウェルとコントロールウェルとの比較は、蛍光ドナー発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、蛍光アクセプター発光波長での蛍光強度(またはそれから導いた値)の比較、または蛍光ドナー発光波長および蛍光アクセプター発光波長双方の関数であるいくつかの値の比較であり得る。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光アクセプターを含むFRET対を用いる場合、比較は、蛍光ドナー発光に対する時間分解蛍光アクセプター発光の比率に基づく。好ましくは、アッセイが蛍光ドナーおよび蛍光クエンチャーを含むFRET対を用いる場合、比較は、時間分解ドナー波長発光強度に基づく。
【0285】
ほとんどの(しかし全てではない)場合において、一つまたは複数の蛍光シグナルまたは蛍光シグナルに基づく判断における差は、試験化合物が、上昇した温度に応じたアンフォールディングから標的分子をある程度保護したことを示すであろう。蛍光ドナー/蛍光アクセプター対の場合、ドナー蛍光に対するアクセプター蛍光の比率の低下は、試験化合物の存在下での標的のアンフォールディングの減少を示す。蛍光ドナー/蛍光クエンチャーの対の場合には、ドナー蛍光の強度の増加は、試験化合物の存在下での標的のアンフォールディングの減少を示す。また、標的のアンフォールディングを促進する化合物は、標的のリガンドであり得る。特定のメカニズムに拘束されるものではないが、いくつかの場合には、化合物の結合は、特定の温度でのアンフォールディングに対する標的の感受性を高くする。
【0286】
リガンドの同定
試験ウェルが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、第一のスクリーニングヒットとして同定することができる。当業者であれば、例えば、コントロールデータからの20%以上の差、または好ましくはコントロールデータからの50%以上の差のような、第一のスクリーニングヒットを同定するための適当な基準を決定することができる。
【0287】
好ましくは、第一のスクリーニングのヒットは、それらを元来同定したものと同一のアッセイ様式で再度スクリーニングする。第二のアッセイにおいて、第一のスクリーニングのヒットが、一つ以上の波長での蛍光強度において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、または二つ以上の波長での蛍光強度の比率において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、それを二連ヒットと呼ぶ。
【0288】
二連ヒットは、様々な濃度でアッセイする一連の滴定に付すことができる。滴定可能な、すなわち、アッセイにおいて濃度依存性を示す二連ヒットは、標的分子に対する潜在的なリガンドである。IC50値は、これらのアッセイから決定することができる。
【0289】
標的分子のリガンドとして同定された試験化合物は、標的分子の結合を単独で確認するために、他のタイプのアッセイで試験することができる。そのようなアッセイの例は、ELISA、膜結合、等温熱量測定、および当該分野で知られた他の結合アッセイである。
【0290】
ハイスループットスクリーニング
本発明は、多数の試験化合物を同時に試験することができるハイスループットスクリーニングに特によく適合する。FRET検出また特にTR−FRET検出の、高感度および低いバックグラウンドのため、少量のタンパク質とそれに対応する少容量をアッセイで用いることができる。ハイスループットアッセイでは、試料は、好ましくはマルチウェルプレートのウェル中に作成する。しかしながら、他の試料容器を用いることができる。例えば、試料容器は、表面の窪みとすることができるか、あるいは小量(サブミリリットル)の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。好ましくは、アッセイは、多数の、好ましくは数百の試料を含むハイスループットまたはウルトラハイスループットスクリーニング(HTSまたはUHTS)に形式化し、かくして、該アッセイは、例えば、96、384、1536または3456ウェルプレートのウェルにおいて最も便宜に行われる。当該分野で既知である、または本発明の方法のために設計した、プレート加熱およびプレート蛍光検出システムを用いることができる。
【0291】
ATLASアッセイは、最小のピペッティング工程しか必要でないように、容易に構成することができる。例えば、二つまたは三つの試薬混合物を用いることができる:一つは試験化合物を含み、一つは標的タンパク質の二つの群を含み、そして所望により、一つはフルオロフォア、二次特異的結合メンバー、および第二の特異的結合メンバーの「レベレーションミックス」を含む。好ましくは、液体取扱装置を、試料成分を分注するために用いる。加えて、アッセイ試料を作成し、単一の温度まで迅速に加熱し、一時間未満インキュベートし、迅速に冷却し、次いで検出することができるので、アッセイは短時間内に行うことができる。
【0292】
試薬の添加、ならびに加熱、インキュベーション、冷却および検出工程は、自動化することができる。本発明の好ましい態様において、一体化したシステムは、ロボットを使用して、試薬を分注し、試験ウェルを含むプレートを分注領域、加熱/冷却装置、および蛍光プレートリーダーへ、またはそこから移動させる。好ましくは、一体化されたシステムは、コンピュータ化され、プログラム可能であり、試料の分析のためのソフトウェアを含む。
【0293】
IV.蛍光偏光によって凝集体を検出することによる、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するための化合物のスクリーニング方法
【0294】
本発明の一つの実施形態は、標的分子の一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法であり、ここで、スクリーニング方法は、フルオロフォアで標識した標的分子および蛍光偏光検出を、標的のアンフォールディングの尺度として用いる。アッセイで用いるべき標的分子群の一部、好ましくはしかし所望により小さなパーセンテージを、フルオロフォアに直接的または間接的に結合させて、「ドープ」標的分子群を得る。次いで、標的分子群を少なくとも一つの試験化合物と接触させ、(試験化合物の不存在下でタンパク質が測定可能な程度までアンフォールドすることが知られている)一つ以上の所定のアッセイ温度まで加熱する。加熱に応じて標的分子がアンフォールディングすると、それは溶液中で凝集する。蛍光標識した標的タンパク質の可溶性凝集体は、未凝集の標的タンパク質より高度の蛍光偏光を有するであろう。小さなパーセンテージの標的タンパク質のみが標識されるドープ群を使用すると、結合した標識化合物のため、熱的安定性および凝集挙動における人為的な影響の可能性が大いに低下する。加熱した後、蛍光偏光を検出し、標識したタンパク質を試験化合物の不存在下で加熱するコントロールの蛍光偏光測定と比較した場合、蛍光偏光測定は、アッセイ温度で標的分子がアンフォールド状態で存在する程度の指標として用いる。この「ドープ凝集蛍光偏光」(DAFP)アッセイにおいて、標的分子がアッセイ温度でアンフォールド状態で存在する程度を低下させる試験化合物は、標的タンパク質の潜在的リガンドとして同定する。
【0295】
該方法は:標的分子群を供し、その少なくとも一部はフルオロフォアを含むか、あるいはそれに結合し;一つ以上の試験ウェル中で、標的分子群のアリコートを一つ以上の試験化合物と接触させ;次いで、一つ以上の試験ウェルを、標的分子の少なくとも一部が変性される条件に付すことを含む。該方法は、さらに:一つ以上の試験ウェルから、および少なくとも一つのコントロールウェルから蛍光偏光を測定し;一つ以上の試験ウェルの蛍光偏光値を蛍光偏光基準値と比較し;該蛍光偏光値の該比較を用いて、該標的分子が、標的分子および試験化合物を含むウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を決定し;次いで、該標的分子が、標的分子および試験分子を含むウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度の決定を用いて、一つ以上の試験化合物が該標的分子に結合するか否かを判断し、それにより、該標的分子の一つ以上のリガンドを同定することを含む。
【0296】
リガンドが求められる標的分子はいずれの分子とすることもできるが、好ましくは、標的分子が生体分子、より好ましくはペプチド、タンパク質または核酸を含む生体分子、最も好ましくはタンパク質を含む生体分子である。タンパク質を含む生体分子は、例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、核タンパク質、またはファルニシル化、ミリスチル化、アシル化、リン酸化または硫酸化タンパク質等であり得る。「タンパク質」または「標的タンパク質」を本明細書において用いる場合、タンパク質を含む前記生体分子も含まれる。
【0297】
標的タンパク質はいずれの種の起源のものとすることもでき、生物、環境源、または培地を含めた天然源から単離することができるか、あるいは内因性または外因性細胞型を用いる組換え技術を用いて生産することができる。例えば、標的タンパク質は細菌または真菌の培養、昆虫細胞の培養、鳥類細胞の培養、(ヒトを含めた)哺乳動物細胞の培養等で生産することができる。また、それらはトランスジェニック生物によって生産することもできる。タンパク質は、アッセイで用いるために、好ましくは少なくとも部分的に精製し、より好ましくは実質的に精製する。タンパク質は天然の野生型形態に対して配列が異なるものとすることもでき、一つ以上の付着タグを含むこともできる。
【0298】
標的タンパク質は、所望により、フルオロフォアのような標識を含むか、あるいはそれに結合することができる特異的結合メンバーのような特異的結合メンバーによって認識され得る付着タグを含むことができる。このように、付着タグに特異的に結合することができる(フルオロフォアに直接的または間接的に結合することができるもののような)一次特異的結合メンバーの形態の一般的な試薬を、本発明のアッセイで用いることができる。設計したペプチドタグ配列を使用する重要な利点は、それが、標的タンパク質の内因性領域に結合する特異的結合メンバーを使用せずにすむことである。内因性領域は試験化合物の結合部位であり得るか、あるいは標的タンパク質の熱依存的な凝集に関与し得るか、あるいはその立体構造または接近可能性が試料の加熱に伴って変化する領域であり得るので、内因性領域の使用は好ましくない。付着タグの例は、例えば、FLAG、血球凝集素、mycまたは6xHisタグのような、短いペプチド「タグ」配列である。そのようなタグは、組換えDNA技術を用いて標的タンパク質配列に挿入することができる。好ましくは、ペプチドタグを、それが標的タンパク質の天然構造を壊さず、かつ標的タンパク質の天然構造の安定性を大きく改変しないような、タンパク質の領域に付加する。例えば、ペプチド配列タグを標的タンパク質のNまたはC末端に付加することができる。所望により、短いペプチドリンカーを用いて、タグ配列を標的タンパク質に付着させることができる。(CDまたは他の方法によって評価した)熱変性は、タグを有する標的タンパク質で行うことができ、結果を、タグを含まない標的タンパク質での結果と比較して、タグ配列が標的タンパク質の安定性に有意に影響するか否かを判断することができる。
【0299】
本発明の方法で用いる標的分子群の少なくとも一部は、フルオロフォアで標識する。好ましくは、フルオロフォアで標識する標的群のパーセンテージは小さく、例えば、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%未満、最も好ましくは約0.1%以下である。アッセイすべき群における標識する標的分子のパーセンテージが小さいことは、標識の影響による人為的な影響が入る機会を多いに低下させる。小さなパーセンテージの標的分子群の標識は、標的タンパク質のアリコートを標識し、次いで、規定された量の標識したタンパク質を既知量の未標識の標的タンパク質に添加することによって、行うことができる(標的分子群の「ドーピング」)。
【0300】
しかしながら、本発明は、小さなパーセンテージの標的分子群を標識する態様に制限されない。標的分子群のパーセンテージは、0.1%未満から99.9%を超える任意のパーセンテージとすることができる。
【0301】
標的タンパク質を標識するために用いるフルオロフォアは、アッセイで用いるために便宜な吸収および発光スペクトルを有する任意のフルオロフォアとすることができる。多くのフルオロフォアが当該分野で知られており、多くは、例えば、Molecular Probes(ユージーン、OR)から商業的に入手可能である。標的分子の標識は、直接的または間接的なものとすることができる。例えば、フルオロフォアは、当該分野で知られた方法を用いて標的分子に化学的にカップリングさせることができる。代替法において、フルオロフォアは、特異的結合メンバーを介して標的分子に間接的に結合させることができる。標的分子にフルオロフォアを結合させるための好ましい特異的結合メンバーは、モノクローナル抗体のような抗体である。特異的結合メンバーは、フルオロフォアにカップリングさせることができるか、あるいは所望により、二次特異的結合メンバーを介して、例えばビオチン−ストレプトアビジンの結合を介して、フルオロフォアに結合させることができる。
【0302】
好ましくは、標的分子のドープ群を含む溶液は、例えば、緩衝液中で作成し、標的分子溶液のアリコートを、一つ以上のウェルまたは試料容器に添加する。各試料で用いる標的分子の量は、標的間で変わるであろう。しかしながら、FP検出を用いるアッセイの高感度/低バックグラウンドは、これらのアッセイで非常に少量の標的分子を用いることを可能とし、例えば、標的分子がタンパク質である場合、約0.1ngから10マイクログラムの量であるが、アッセイにおける標的タンパク質の量は、約1ngから5マイクログラムの範囲が好ましい。アッセイ試料中の標的タンパク質の最適量は、アッセイにおけるタンパク質の量を滴定することによって実験的に決定することができる(例えば、実施例14および図22参照)。
【0303】
一つ以上の試験化合物を、少なくとも一つのウェルまたは試料容器に添加する。試験化合物は、緩衝液、溶媒または他の化合物を含む、溶液中で作成することができる。標的分子群のアリコートを一つ以上のウェルに添加する前、後またはそれと同時に、試験化合物を一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、試験化合物は、少なくとも二つのウェルに添加する。所与のアッセイにおいて試験化合物のいくつかの濃度を試験することは、本発明の範囲内のものである。また、単一の試験ウェルに一つより多くの試験化合物を含めることも、本発明の範囲内のものである。
【0304】
一つより多くの試験化合物を、一つ以上のウェルに添加することができる。好ましくは、少なくとも二つのウェルに添加する試験化合物は、異なる試験化合物、または異なる量もしくは組み合わせの試験化合物である。ウェルに導入する試験化合物の量は変化させることができるが、多くの場合、約0.01マイクロモル濃度から約500マイクロモル濃度のような、サブマイクロモル濃度からマイクロモル濃度の範囲であろう。
【0305】
所望により、標的分子と試験化合物(アッセイ混合物)を、加熱工程に先立って一定時間インキュベートする。インキュベーションは任意の温度で行うことができるが、もし行うならば、プレインキュベーションは、好ましくは37℃以下の温度で行い、より好ましくは約22℃で行う。加熱前インキュベーションは任意の時間行うことができるが、それを含む場合、典型的には30分以下であろう。
【0306】
好ましくは、アッセイは、試験化合物の不存在下で標的分子を含む少なくとも一つのコントロールウェルを含む。好ましくは、アッセイは、少なくとも一つのコントロールウェルで試験ウェルと同時に行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、コントロールアッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のためにコントロールデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、コントロールウェルからの一つ以上の測定値、およびコントロールウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性等)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0307】
コントロールウェルを含める代わりに、あるいはそれに加えて、標的分子および少なくとも一つの化合物を含む少なくとも一つの標準ウェルを含めることができる。標準ウェル中の化合物と標的分子との相互作用は、アッセイに先立って既知でなくてもよいが、好ましくは、標準ウェル化合物が標的タンパク質の変性に影響する程度は既知であるものとする。いくつかの態様において、標準ウェルは、本発明のアッセイにおいて他の試験化合物ウェルと比較する試験化合物ウェルであり得る。好ましくは、一つ以上の標準ウェルを用いる場合、アッセイは、試験ウェルと同時に少なくとも一つの標準ウェルで行い、アッセイの全ての工程は、一つまたは複数の試験ウェルと全く同様に行う;しかしながら、標準アッセイを別に行うこと、および試験化合物のアッセイの測定値との比較のために標準ウェルのデータを記録することは、本発明の範囲内のものである。試験ウェルと同時にアッセイを行うか否かを問わず、標準ウェルからの一つ以上の測定値、および標準ウェルからの測定値に基づく値(例えば、平均、比率、異方性)を、一つ以上の試験ウェルとの比較のための基準値として用いることができる。
【0308】
リガンドまたは試験化合物の不存在下で、標的タンパク質の少なくとも一部がアンフォールドする条件に、一つ以上のウェルを付す。変性条件は、標的分子の二次、三次、または四次構造の喪失を引き起こすか、あるいは標的分子の三次元立体構造を改変する任意の条件とすることができ、熱、pH変化、洗剤または界面活性剤の存在、カオトロピック剤、塩、キレーター等を含む。好ましくは、変性条件は、上昇した温度であり、試験ウェルを変性条件に付すことは、標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで、標的分子および一つ以上の試験化合物を加熱することを含む。
【0309】
本発明の好ましい態様において、試験ウェルおよび任意のコントロールウェルまたは標準ウェルは、TATLASと呼ばれる単一の別個の所定の温度まで加熱する。TATLASは、標的分子を加熱し、温度の関数としてのそのアンフォールディングの程度をモニターする予備実験(しかし標的分子のアイデンティティーまたは任意の活性が既知である必要はない)で選択することができる。好ましくは、アッセイを行う前に、標的分子を解析して、標的分子の構造を示す物理的測定値を温度の関数としてプロットした融解(温度依存性の構造的アンフォールディング)曲線を作成する。物理的測定は、当該分野でよく知られた種々の構造決定方法のうち任意のもの、例えば、CD、光散乱、UV吸光光度法、示差走査熱量測定等に基づくことができる。次いで、標的分子の融解曲線を用いて、アッセイのTATLASを含むパラメーターを確立することができる。熱融解は、好ましくは、(試験化合物のアッセイで用いるであろう緩衝液、試薬、特異的結合メンバー、フルオロフォア、およびFP検出を用いる)アッセイ条件下で行い、(試験化合物の不存在下の)アッセイ条件下での融解曲線を得ることができる(実施例14および図22参照)。好ましくは、TATLASは、アッセイ試薬が安定であって、アッセイが広いダイナミックレンジおよび高い質(Z’)を有する温度として選択する。
【0310】
いくつかの場合、ウェルを一つより多くの別個の温度(例えば、TATLAS1、TATLAS2等)まで加熱するのが望ましいであろうが、しかしこれは余り好ましくない。これは、いくつかの場合において、例えば、アンフォールディング中間体の存在を示す一つより多くの転移温度を標的分子が有することを、融解曲線が示した場合であれば、望ましいものであり得る。しかしながら、好ましくは、三つより多くの別個の温度をATLASアッセイで用いず、最も好ましくは、ウェルは単一のTATLASまで加熱する。
【0311】
加熱は、任意のインキュベーターまたは試料加熱装置内で行うことができ、好ましくは、迅速で、均一で、正確な加熱、および好ましくは正確な温度までの冷却、ならびに正確な温度維持を可能とする加熱装置を用いて行う。例えば、多くの商業的に入手可能なサーモサイクラーを、この目的で用いることができる。アッセイ試料は、任意の時間、例えば、約3分から約6時間、好ましくは約10分から約一時間、TATLASに保持することができる。しかしながら、TATLASでのインキュベーションの時間は、本発明を限定するものではない。
【0312】
試料は、所望により、TATLASより低い温度まで冷却する。ほとんどの場合、アッセイ試料は、ほぼ室温(22℃)まで冷却する。好ましくは、冷却を行う場合、それは比較的迅速であって、規定された速度で行う。代わりに、検出工程のために試料をTATLASに維持することもできる。これは、蛍光偏光検出手段が、蛍光偏光検出の間に所望の温度を維持することができる加熱エレメントにつなぐことができることを必要とする。
【0313】
TATLASまで加熱し、および好ましくはより低い温度まで試料を冷却した後、一つ以上の試験ウェルおよび少なくとも一つのコントロールウェルから一つ以上の波長で蛍光偏光を検出する。ATLASアッセイで検出される蛍光偏光は、フルオロフォアの回転相関時間の尺度を提供する。アッセイは、標的分子の変性の結果、標的分子の凝集体が非凝集標的よりもゆっくりと回転することにより相関時間が変化するように、構成する。かくして、標的分子の熱変性の程度は、FPシグナルによってアッセイすることができる。
【0314】
蛍光偏光検出は、アッセイで用いるフルオロフォアが発する波長で蛍光偏光を検出することができる任意の装置によって行うことができる。マルチウェルプレートから蛍光を検出するものを含む蛍光検出装置は、当該分野で知られている。蛍光検出装置は、試料加熱装置とつなぐことができるか、あるいは別々とすることができる。
【0315】
本発明の好ましい態様において、試験化合物を欠くが試験ウェルと同量の標的分子および一つまたは複数の特異的結合メンバーを含む、一つ以上のコントロールウェルを作成し、一つ以上のコントロールウェルを、試験ウェルと同一方法で同時に加熱、分析する。好ましくは、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物およびコントロールアッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0316】
代替法において、一つ以上のコントロールウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上のコントロールウェルを加熱し、蛍光偏光検出測定に付すことができる。コントロールウェルの蛍光偏光検出のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0317】
本発明のいくつかの態様において、一つ以上の試験ウェルと比較するために一つ以上の標準ウェルを供する。標準ウェルは、標的タンパク質および少なくとも一つの化合物を含み、該化合物は、試験化合物か、または標的のアンフォールディングに対する影響が知られている化合物のいずれかである。一つ以上の標準ウェルも、試験ウェルと同一の方法で、好ましくは同時に加熱、分析する。標準ウェルを用いて基準値を得る場合、それらは一つ以上のアッセイにおける試験ウェルの一つ、いくつか、または全てとすることができ、これを用いて、検出測定の平均値を計算し、それを個々の試験ウェルの検出測定値と比較することができる。好ましくは、標準ウェルを用いる本発明の態様において、少なくとも一つの標準ウェルは、試験ウェルも含むマルチウェルプレート中にあり、試験化合物および標準アッセイ混合物は、同一ストック濃度の標的分子、特異的結合メンバー、シグナル分子等から同時に作成する。
【0318】
代替法において、標準ウェルは、試験ウェルの作成とは別の時間に作成することができる。試験ウェルを加熱する前または後に、一つ以上の標準ウェルを加熱し、蛍光検出測定に付すことができる。標準ウェルの蛍光測定のデータを、データベースなどに記録し保存することができる。
【0319】
標的分子のアンフォールディングの測定
一つ以上の試験ウェルの測定値を、少なくとも一つのコントロールウェルおよび/または少なくとも一つの標準ウェルの測定値と比較して、いずれかの試験化合物が蛍光偏光読み出しを有意に変化させるか否かを判断する。試験ウェルの測定値または値との比較に用いる、一つ以上のコントロールウェルもしくは一つ以上の標準ウェルの測定値、またはそれから導いた値を、ここでは基準値という。試験ウェルが、蛍光偏光において特定の量またはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、試験化合物を欠くコントロールウェルと有意に異なる程度まで標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。試験ウェルが、蛍光偏光において特定の量またはパーセンテージを超えて標準ウェルと異なる場合、一つ以上の異なる化合物を含む標準ウェルと有意に異なる程度まで標的分子がアンフォールドしたウェルとして同定することができる。
【0320】
ほとんどの(しかし全てではない)場合において、一つもしくは複数の蛍光シグナルまたは蛍光シグナルに基づく判断における差は、試験化合物が、上昇した温度に応じたアンフォールディングから標的分子をある程度保護したことを示すであろう。標的分子がアンフォールドし凝集すると、蛍光偏光シグナルは、フルオロフォアを含む凝集した標的対非凝集の標的のより長い回転相関により、増加する。しかしながら、コントロールに対する蛍光偏光シグナルの減少を検出することによって、変性条件下での標的のアンフォールディングを促進する化合物を同定することも可能である。標的のアンフォールディングを促進する化合物は、標的のリガンドでもあり得る。特定のメカニズムに拘束されるものではないが、いくつかの場合には、化合物の結合は、特定の温度でのアンフォールディングに対する標的の感受性を高くする。
【0321】
リガンドの同定
試験化合物ウェルが、蛍光偏光において特定の量またはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、第一のスクリーニングのヒットとして同定することができる。当業者であれば、例えば、コントロールデータからの20%以上の差、または好ましくはコントロールデータからの50%以上の差のような、第一のスクリーニングのヒットを同定するための適当な基準を決定することができる。
【0322】
好ましくは、第一のスクリーニングのヒットは、それらを元来同定したものと同一のアッセイ様式で再度スクリーニングする。第二のアッセイにおいて、第一のスクリーニングのヒットが、蛍光偏光において特定の量もしくはパーセンテージを超えてコントロールウェルと異なる場合、それを二連ヒットと呼ぶ。
【0323】
二連ヒットは、様々な濃度でアッセイする一連の滴定に付すことができる(実施例17参照)。滴定可能な、すなわち、アッセイにおいて濃度依存性を示す二連ヒットは、標的分子に対する潜在的なリガンドである。IC50値は、これらのアッセイから決定することができる。
【0324】
潜在的な標的分子のリガンドとして同定された試験化合物は、標的分子の結合を単独で確認するために、他のタイプのアッセイで試験することができる。そのようなアッセイの例は、ELISA、膜結合、等温熱量測定、および当該分野で知られた他の結合アッセイである。
【0325】
ハイスループットスクリーニング
本発明は、多数の試験化合物を同時に試験することができるハイスループットスクリーニングに特によく適合する。蛍光偏光検出の高感度および低いバックグラウンドのため、少量のタンパク質とそれに対応する少容量をアッセイで用いることができる。ハイスループットアッセイでは、試料は、好ましくはマルチウェルプレートのウェル中に作成する。しかしながら、他の試料容器を用いることができる。例えば、試料容器は、表面の窪みとすることができるか、あるいは小量(サブミリリットル)の液体試料を保持するための毛細管または管とすることができる。好ましくは、アッセイは、多数の、好ましくは数百の試料を含むハイスループットまたはウルトラハイスループットスクリーニング(HTSまたはUHTS)に形式化し、かくして、該アッセイは、例えば、96、384、1536または3456ウェルプレートのウェルにおいて最も便宜に行われる。当該分野で既知である、または本発明の方法のために設計した、プレート加熱およびプレート蛍光検出システムを用いることができる。
【0326】
ATLASアッセイは、最小のピペッティング工程しか必要でないように、容易に構成することができる。例えば、実施例16においては、二つの試薬混合物を用いる:一つは試験化合物を含み、そして一つは標識した標的タンパク質を含む。好ましくは、液体取扱装置を、試料成分を分注するために用いる。加えて、アッセイ試料を作成し、単一の温度まで迅速に加熱し、一時間未満インキュベートし、迅速に冷却し、次いで検出することができるので、アッセイは短時間内に行うことができる。
【0327】
試薬の添加、ならびに加熱、インキュベーション、冷却および検出工程は、自動化することができる。本発明の好ましい態様において、一体化したシステムは、ロボットを使用して、試薬を分注し、試験ウェルを含むプレートを分注領域、加熱/冷却装置、および蛍光プレートリーダーへ、またはそこから移動させる。好ましくは、一体化されたシステムは、コンピュータ化され、プログラム可能であり、試料の分析のためのソフトウェアを含む。
【0328】
V.本発明の方法を用いて同定した化合物
【0329】
また、本発明は、本発明の方法を用いて標的分子のリガンドとして同定した化合物を含む。そのような化合物は、薬理学的化合物として、および同定した化合物の誘導体または修飾を同定するための医学的化学的研究での出発点として有用である。そのような医学的化学的研究は、さらに、本明細書中に記載し、また当該分野で知られたように、活性、薬理学、毒物学等について、化合物およびその誘導体をスクリーニングすることができる。
【0330】
試験化合物の薬理学および毒性
そのような関係に基づき、薬理学的活性および毒物学の、適当な確認的なインビトロおよびインビボ試験を選択し、実行する。また、本明細書中に記載した方法を用いて、薬理学的選択性および特異性、ならびに毒性を評価することもできる。同定した試験化合物は、既知の方法を用いて、毒物学的影響について評価することができる(Lu,Basic Toxicology,Fundamentals,Target Organs,and Risk Assessment,Hemisphere Publishing Corp.参照)。試験化合物の構造は、質量分析のような当該分野で知られた方法によって決定するか、または確認することができる。種々の条件下で長期間保存した試験化合物について、その構造、活性および能力を確認することができる。同定した試験化合物は、認められた方法および本明細書中に開示する方法を用いて、特定の活性について評価することができる。例えば、もし同定した試験化合物がインビトロで抗癌細胞活性を有することが判明すれば、該試験化合物は、癌を治療するための化学療法薬としての推定薬理学的特性を有するであろう。そのような関係は、いくつかの疾病状態について当該分野で知られており、より多くが経時的に発見されると予測される。Washington(1985);Culbrethに対する米国特許第5196313号明細書(1993年3月23日発行)およびBenetに対する第5567952号明細書(1996年10月22日発行)。例えば、試験化合物の毒物学は、哺乳動物、例えばヒトの細胞系のような細胞系に対するインビトロの毒性を測定することによって、確立することができる。試験化合物は、例えば、ミクロソーム調製物のような肝臓の調製物などの組織抽出物で処理して、生物全体で代謝された後の試験化合物の毒物学的特性の増加または減少を測定することができる。これらのタイプの実験の結果から、ヒトを含む哺乳動物のような動物における化学物質の毒物学的特性を予測する。別法として、あるいはインビトロ実験におけるこれらに加えて、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたはサルのような動物モデルでの試験化合物の毒物学的特性は、確立された方法を用いて測定することができる(Lu、前掲(1985);およびCreasey,Drug Disposition in Humans,The Basis of Clinical Pharmacology,Oxford University Press,オクスフォード(1979)参照)。試験化合物の毒性、標的器官、組織、位置および推定メカニズムに応じて、適当な用量、LD50値、投与経路、および試験化合物の毒物学的特性を測定するのに適するであろう用法を決定するために、当業者は負担を要しないであろう。動物モデルに加え、米国食品医薬品局(USFDA)が示したもののような確立された手法、または他の政府による同等手法に従って、ヒトの臨床試験を行うことができる。これらの毒性研究は、インビボでの試験化合物の影響を測定するための基礎を提供する。
【0331】
化合物の影響
試験化合物の影響は、インビトロ法、動物モデルまたはヒトの臨床試験のようないくつかの当該分野で認められた方法を用いて確立することができる(Creasey、前掲(1979))。認められたインビトロのモデルが、いくつかの疾病または状態について存在する。例えば、インビトロでHIV感染細胞の寿命を延ばす試験化合物の能力は、HIV感染またはAIDSを治療するために効果的であると予測される化学物質を同定するための許容されるモデルとして認められている(Dalugeら、Antimicro.Agents Chemother.41:1082−1093(1995)参照)。さらに、インビトロでT−細胞の増殖を妨げるサイクロスポリンA(CsA)の能力は、免疫抑制剤として効果的であると予測される化学物質を同定するための許容されるモデルとして確立されている(Suthanthiranら、前掲(1996))。ほとんど全てのクラスの治療法、疾病または状態について、許容されるインビトロもしくは動物モデルが利用できる。それらは文献で、あるいはUSFDAまたは国立衛生研究所(NIH)から入手できるため、当業者は、広く種々のそのようなモデルを有している。加えて、これらのインビトロ法は、ミクロソーム調製物のような肝臓の調製物などの組織抽出物を用いて、試験化合物での代謝の影響の信頼性のある指標を供することができる。同様に、許容される動物モデルを用いて、試験化合物の影響を確立し、種々の疾病または状態を治療することができる。例えば、ウサギの膝は、関節炎の治療における効果について薬剤を試験するために、認められたモデルである(Shaw and Lacy,J.Bone Joint Surg.(Br.)55:197−205(1973)参照)。関節炎を治療するためにヒトで用いることが認可されたヒドロコルチゾンは、このモデルの有効性を確認するこのモデルで有効である(McDonough,Phys.Ther.62:835−839(1982)参照)。試験化合物の影響を測定するために適当なモデルを選択する場合、当業者は、適当なモデル、用量および投与経路、用法および終点を選択するために、技術局、USFDAまたはNIHによって手引きを受け得るので、過度な負担を要しないであろう。
【0332】
動物モデルに加えて、ヒトの臨床試験を用いて、試験化合物の影響を測定することができる。USFDAまたは同等の政府当局は、そのような研究について確立された手法を有する。
【0333】
試験化合物の選択性
前記したインビトロおよびインビボ法は、モジュレーター候補の選択性も確立している。化学物質は、広く種々の生物学的プロセスを調節することができること、または選択的であり得ることが認められている。当該分野で知られているような細胞のパネルを用いて、試験化合物の特異性を測定することができる(1998年4月2日に公開されたWhitneyらに対する国際公開第98/13353号パンフレット)。選択性は、例えば化学療法の分野では明白であり、ここで、癌性細胞に対して毒性があり非癌細胞に対しては毒性のない化学物質の選択性が、明らかに望ましい。選択的モジュレーターは、臨床環境において副作用が少ないので、好ましい。試験化合物の選択性は、種々の細胞の経路および感受性を呈する複数の細胞系に対する試験化合物の毒性および影響を試験することによって、インビトロで確立することができる。これらのインビトロ毒性研究から得られたデータは、ヒトの臨床試験を含む動物モデル実験まで拡大して、試験化合物の毒性、有効性および選択性を判断することができる。
【0334】
試験化合物の選択性、特異性および毒物学、ならびに一般的薬理学は、しばしば、活性を有すると元来同定された試験化合物の構造/特性の関係に基づいてさらなる試験化合物を作成することによって、改良することができる。また、活性の程度の変化を示す試験化合物の組の構造/特性の関係もあろう。試験化合物を修飾して、親和性、血液中での寿命、毒物学、特異性および膜透過性のような種々の特性を改良することができる。そのような洗練された試験化合物を、当該分野で知られた、または本明細書中に記載するさらなるアッセイに付すことができる。そのような化合物または組成物を作成、分析するための方法は、Agrafiotisらに対する米国特許第5574656号明細書のように、当該分野で知られている。
【0335】
医薬組成物
本発明は、医薬上許容される担体または希釈剤中に医薬上有効な量のペプチドまたはタンパク質を有する、保存および好ましくは引き続く投与のために調製した医薬上許容される担体を含む医薬組成物中の、本発明の方法を用いて同定された化合物、またはその部分または誘導体を含む。治療的使用のための許容される担体または希釈剤は医薬分野でよく知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,(A.R.Gennaro編(1985))に記載されている。保存料、安定剤、色素および香味剤でさえ、医薬組成物中に供することができる。例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルは、保存料として添加することができる。加えて、抗酸化剤および懸濁化剤を用いることができる。
【0336】
本発明の化合物は、処方し、経口投与のための錠剤、カプセル剤またはエリキシル剤;直腸投与のための坐薬;滅菌溶液、懸濁液または注射投与;等で用いることができる。注射剤は、液状溶液または懸濁液、注射に先立って液体に溶解または懸濁するのに適した固体形態として、あるいは乳濁液としてのいずれかの便宜な形態で調製することができる。適当な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、マンニトール、ラクトース、レシチン、アルブミン、グルタミン酸塩、塩酸システイン等である。加えて、もし所望であれば、注射可能な医薬組成物は、少量の、湿潤剤、pH緩衝剤等のような非毒性の補助物質を含むことができる。もし所望であれば、リポソームのような吸収促進調製物を使用することができる。
【0337】
用量として要求される化合物の医薬上有効な量は、投与経路、治療すべき動物または患者のタイプ、および検討する個別の動物の身体的特徴に依存するであろう。用量は、所望の効果を達成するように調整することができるが、体重、食餌、併用する薬物処理および医療業界の当業者が認識するであろう他の因子のような、因子に依存するであろう。本発明の方法を実施するにおいて、医薬組成物は、単独で、または相互に組み合わせて、または他の治療剤もしくは診断薬と組み合わせて用いることができる。これらの生成物質は、好ましくは哺乳動物患者、好ましくはヒトにおけるインビボで、またはインビトロで利用することができる。それらをインビボで用いるにおいて、医薬組成物は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、結腸内投与、直腸内投与、鼻腔内投与または腹腔内投与を含む種々の方法で、種々の投与形態を用いて患者に投与することができる。そのような方法は、インビボで本発明の化合物の活性を試験するためにも用いることができる。
【0338】
当業者に容易に明らかになるように、投与すべき有用なインビボの投与量および特定の投与態様は、治療する患者の年齢、体重およびタイプ、使用する特定の医薬組成物、ならびに医薬組成物を使用する特定の用途に応じて変化するであろう。所望の結果を達成するために必要な用量レベルである効果的な投与量レベルの決定は、前記した決まった方法を用いて当業者が達成することができ、USFDAまたはNIHのような当局によって手引きを受け得る。典型的には、生成物質のヒトの臨床適用は、より低い投与量レベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量レベルを増大させる。別法として、許容されるインビトロ研究を用いて、化合物の有用な用量および投与経路を確立することができる。
【0339】
ヒト以外の動物での研究において、医薬組成物の適用は、より高い用量レベルで開始し、所望の効果が達成されなくなるか、あるいは副作用が減少してなくなるまで、投与量を減少させる。本発明の化合物の投与量は、広く、所望の効果、治療の徴候、投与経路ならびに試験化合物の純度および活性に依存して、変えることができる。典型的には、投与量は、約1ng/kgと約10mg/kgの間、好ましくは約10ng/kgと約1mg/kgの間、より好ましくは約100ng/kgと約100マイクログラム/kgの間、最も好ましくは約1マイクログラム/kgと約10マイクログラム/kgの間とすることができる。
【0340】
的確な処方、投与経路および投与量を、患者の状態を考慮して個々の医師が選択することができる(Fingleら、The Pharmacological Basis of Therapeutics(1975)参照)。主治医であれば、毒性、器官機能不全または他の有害な影響があるときに、いかにして、およびいつ投与を終了し、中断し、または調整するかを知っているであろうことに留意されたい。逆に、主治医であれば、もし臨床的応答が適切でなければ治療をより高いレベルに調整することも知っているであろう。目的の病気の管理において投与する量の程度は、治療すべき状態の重症度および投与経路に伴って変化するであろう。状態の重症度は、例えば、部分的には、標準的な予後評価方法によって評価することができる。さらに、用量および恐らくは投与頻度もまた、動物適用に対するものを含めて、個々の患者の年齢、体重および応答に従って変化するであろう。
【0341】
治療すべき特定の状態に応じて、そのような医薬組成物を処方し、全身または局所投与することができる。処方および投与のための技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、Mack Publishing Co.,イーストン、PA(1990)に見出すことができる。適当な投与経路は、口、鼻腔、直腸、皮膚、耳、目、膣、粘膜または腸からの投与:筋肉内注射、皮下注射、髄質内注射、ならびにクモ膜下、直接的脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射を含む、非経口送達を含むことができる。
【0342】
注射するために、本発明の医薬組成物は、水性溶液中に、好ましくは、ハンクス液、リンガー液または生理食塩水緩衝液のような生理学的に適合する緩衝液中に、処方することができる。そのような経粘膜投与では、浸透すべきバリアーに適切な浸透剤を、処方で用いる。そのような浸透剤は、一般に当該分野で知られている。本発明を実施するために本明細書で開示した医薬組成物を処方するための、医薬上許容される担体を、全身投与に適した投与形態に使用することは、本発明の範囲内のものである。担体および適当な製造手法を適切に選択することで、本発明の組成物、特に、溶液としてのそれらの処方は、静脈内注射のように非経口投与することができる。医薬組成物は、当該分野でよく知られた医薬上許容される担体を用いて、経口投与に適した投与形態に容易に処方することができる。そのような担体は、本発明の化合物を、治療すべき患者による経口摂取のために、タブレット、丸剤、カプセル、シロップ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することを可能とする。
【0343】
細胞内投与することを意図した薬剤は、当業者によく知られた技術を用いて投与することができる。例えば、そのような薬剤は、リポソームに封入し、次いで、前記したように投与することができる。薬物の細胞内送達は、HIVのtatタンパク質の移動ドメインのようなペプチドを薬剤に連結することによって達成することができる。付着されたtatペプチドまたは同様の移動性ペプチドにビオチンのような疎水性分子を連結すると、細胞内送達をさらに改良することができる(Chenら、Analyt.Biochem.227:168−175(1995))。リポソーム形成の時点に水性溶液中に存在する実質的に全ての分子は、このように形成されたリポソームに、またはその内に一体化される。リポソームの内容物は、外部のミクロ環境から保護されると共に、リポソームが細胞膜に融合することにより、細胞質に効果的に送達される。加えて、それらの疎水性のため、小さな有機分子を細胞内に直接的に投与することができる。
【0344】
本発明で用いるのに適した医薬組成物は、その意図した目的を達成するために効果的な量の有効成分を含んだ組成物を含む。医薬組成物の有効量の決定は、特に、本明細書中に提供した詳細な開示に照らして、充分に当業者の能力内のものである。有効成分に加え、これらの医薬組成物は、活性な化学物質を医薬的に使用できる製剤に加工することを容易とする賦形剤および補助剤を含む、適当な医薬上許容される担体を含有することができる。経口投与用に処方する製剤は、タブレット、糖衣錠、カプセルまたは液体の形態とすることができる。本発明の医薬組成物は、それ自体既知の方法で、例えば、慣用的な混合、溶解、顆粒化、糖衣作成、乳化、カプセル化、閉じ込め、または凍結乾燥加工によって製造することができる。非経口投与用の薬剤の処方は、水溶性形態の活性な化学物質の水性溶液を含む。
【0345】
加えて、活性な化学物質の懸濁液は、適切な油状注射懸濁液として調製することができる。適当な親油性溶媒または媒体は、ゴマ油のような脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドもしくはリポソームのような合成脂肪酸エステルを含む。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランのような、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有することができる。所望により、懸濁液は、化学物質の溶解性を増大させて高度に濃縮された溶液の調製を可能とする、適当な安定剤または作用物質を含むこともできる。
【0346】
経口使用のための医薬組成物は、活性な化学物質を固体の賦形剤と合わせ、所望により、得られた混合物を粉砕し、次いで、適当な補助剤を添加した後に顆粒の混合物を加工して、所望により、タブレットまたは糖衣錠のコアを得ることによって、得ることができる。適当な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖;例えば、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドンなどのセルロース調製物のような、充填剤である。所望であれば、架橋したポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩のような、崩壊剤を添加することができる。糖衣錠のコアには適当なコーティングを施すことができる。同定するため、または活性用量の異なる組み合わせを特徴付けるために、色素または顔料を、タブレットまたは糖衣錠のコーティングに添加することができる。
【0347】
本発明の化合物およびそのような化合物を含む医薬組成物を用いて、ヒトを含む患者における種々の病気を治療することができる。本発明の化合物は、抗菌、抗微生物、抗ウイルス、抗癌細胞、抗腫瘍および細胞毒活性を有することができる。そのような治療を必要とする患者には、本発明の化合物またはその一部を、好ましくは薬理学的な組成物中に入れて提供することができる。量、投与形態、投与経路、用法および終点は、全て、本明細書中に記載した、あるいは米国食品医薬品局のような適当な政府当局による手法を用いて、決定することができる。
【実施例1】
【0348】
X90標的タンパク質の解析
X90を標的タンパク質として選択した。組換えX90を大腸菌で生産し、標準的な方法を用いて精製した。X90の熱融解は、0.2mlの量のATLAS緩衝液(50mMトリス、pH7.5;250mMのNaCl;0.1%のTween 20;0.5mMのDTT;および0.5%のNaN3)中の40マイクログラムの該タンパク質を加熱し、AVIV(レークウッド、NJ)によって製造されたCircular Dichroism Spectrophotometer、モデル62ADSで、毎分1℃の速度で約90℃を超えるまで加熱し、続いて冷却することによって行った。図4に示すように、楕円率を温度の関数としてプロットした。Tmは43.3℃であると計算された。
【実施例2】
【0349】
X90標的タンパク質アッセイの展開
アンフォールド形態のX90に特異的なモノクローナル形態を用いて、X90に結合する化合物についてのアッセイを展開した。抗体を作成するために、組換えX90タンパク質をまずSDS中で変性した。X90タンパク質をSDS−PAGEゲルで泳動した。ゲルをクマシーブルーで染色し、染色されたバンドをゲルから切り出し、タンパク質をゲルスライスから電気溶出した。マウスに、電気溶出した変性タンパク質を注射した。モノクローナルを、アンフォールド状態のX90タンパク質を認識しフォールド状態のX90タンパク質を認識しない能力について、スクリーニングした。モノクローナル抗体は、当該分野で知られた方法を用いて、作成し、スクリーニングし、精製した。
【0350】
50mMの重炭酸緩衝液(pH7.8)中の2.0mg/mlの0.5mlのストックを作成することによって、モノクローナル抗体をビオチン化し、1mg/mlのNHS−LC−ビオチンを37.5マイクロリットル添加し、混合物を氷上で2時間インキュベートした。インキュベーションに続き、透析、ゲル濾過、およびいくつかの場合には、適当な分子量を遮断するフィルター(例えば、Centriprep YM−50)を通す緩衝液での洗浄を用いて、ビオチン化抗体を遊離ビオチンから精製した。モノクローナル抗体のビオチン化の程度は、Pierce Chemical Co.のHABA/アビジンシステム(Pierce書類番号0212、Pierce ImmunoPure HABA カタログ番号28010、Pierce ImmunoPure D−Biotin カタログ番号29129、Pierce ImmunoPure アビジン カタログ番号21121)を用いて測定した。
【0351】
アッセイを構成するために、アッセイ試薬および様々な濃度のタンパク質を用いて、熱融解曲線を作成した(図5)。ビオチン化抗体(200ng/マイクロリットル)および標的タンパク質X90(50ng/マイクロリットル)のストック溶液を、ATLAS緩衝液(50mMのトリス、pH7.5;250mMのNaCl;0.10%Tween 20;0.5mMのDTT;および0.05%のNaN3)中に作成した。ATLAS緩衝液中の、1ng/マイクロリットルのビオチン化抗体、および1%のDMSO、および様々な濃度のX90標的タンパク質よりなるATLASアッセイ混合物も作成した。最終濃度が20ngのビオチン化抗体、1%のDMSO、および0、3、6、12、24または48ngのうちいずれかのX90標的タンパク質を含有する六つの異なるアッセイ混合物を、ATLAS緩衝液中で作成した。各アッセイ混合物を384ウェルアッセイプレートの3つの試料ウェルに用い、各ウェルは20マイクロリットルの試料を含有する。アッセイプレートを、MWG PrimusHTサーモサイクラーに入れ、蓋を閉め、蓋を70℃まで加熱した。サーモサイクラーをプログラムして、毎秒2.0℃の速度で35から60℃の範囲のインキュベーション温度まで加熱し、次いで、温度を30分0秒の間インキュベーション温度に保持するようにした。次いで、温度を毎秒2.0℃の速度で22.0℃まで下げた。次いで、サイクラーの蓋を開け、10マイクロリットルのレベレーションミックス(300mMのKF;ユーロピウムクリプテートで標識した1.8ng/マイクロリットルの抗−6HIS Ab;およびXL665で標識したマイクロリットル当たり5ngのストレプトアビジン)を、各384ウェルアッセイプレートの各試料ウェルに添加した。次いで、プレートを室温で40分間インキュベートし、Victor Vで、LANCEモードで、665nmおよび620nmでプレートを読み取った。
【0352】
665nm/620nmの蛍光の比率を計算し、インキュベーション温度の関数としてプロットした。図5はこれらの実験のうち二つの平均の結果を示しており、シグナルが、温度と共に、および熱アンフォールディングCDスペクトルと比較すると標的タンパク質のアンフォールディングと共に、増加することが確認される(シグナルは標的タンパク質の不存在下では増大しない)。高温では、アッセイシグナルは、その最大から減少し始める。この減少は、恐らくは、より高い温度における抗体の融解によるものであろう。温度のグラフを図6に示し、Tmは47.3℃と計算された。この構成されたアッセイは、384ウェルプレートで行った(20マイクロリットル/ウェル)。
【実施例3】
【0353】
X90標的タンパク質アッセイの検証
ビオチン化抗体のストック溶液(200ng/マイクロリットル)および標的タンパク質X90のストック溶液(50ng/マイクロリットル)を、ATLAS緩衝液(50mMのトリス、pH7.5;250mMのNaCl;0.10%のTween 20;0.5mMのDTT;および0.05%のNaN3)中に作成した。ATLAS緩衝液中の、1ng/マイクロリットルのビオチン化抗体、0.6ng/マイクロリットルの標的X90タンパク質(12ng/ウェル)、および1%のDMSOよりなるATLASアッセイ混合物も作成した。20マイクロリットルのATLASアッセイ混合物を、十の384ウェルPCRアッセイプレート(Nalge Nunc International、カタログ番号264582)の384ウェルの各々、およびコントロールとして用いる10の同一の384ウェルプレートの384ウェルの各々に添加した。コントロールプレートを4℃で30分間インキュベートした。アッセイプレートを、MWG PrimusHTサーモサイクラーに入れ、蓋を閉め、蓋を70℃まで加熱した。サーモサイクラーをプログラムして、毎秒2.0℃の速度で53.0℃まで加熱し、次いで、30分0秒の間、温度を53.0℃に保持するようにした。次いで、温度を毎秒2.0℃の速度で22.0℃まで下げた。次いで、サイクラーの蓋を開け、10マイクロリットルのレベレーションミックス(300mMのKF;ユーロピウムクリプテートで標識した1.8ng/マイクロリットルの抗−6HIS Ab;およびXL665で標識したマイクロリットル当たり5ngのストレプトアビジン)を、各384ウェルアッセイプレートの各試料ウェルに添加した。次いで、プレートを室温で40分間インキュベートし、Victor Vで、LANCEモードで、665nmおよび620nmでプレートを読み取った。
【0354】
【表1】
【0355】
アッセイの結果を図7のグラフに示す。Z’値を計算して、アッセイの頑健性を評価した。統計および対応するZ’値を表1に示す。式:Z’=1−(3*SD 53C+3*SD 4C)/(Ave 53C−Ave 4C)を用いて、構成した標的X90のZ’値が0.72であると計算し、式中、SD 53C、SD 4C、Ave 53CおよびAve 4Cは、二つの温度(53℃および4℃)における標準偏差および平均である。この0.72という値は、許容される範囲である0.50から1.00の間にあり、頑健なアッセイであることを示す。
【0356】
【表2】
【0357】
本発明者らのスクリーニング方法のさらなる試験として、標的X90に対する既知のリガンドの存在下で、TR−FRETアッセイ様式で熱融解を行った(図8)。標的X90に対する既知のリガンドを、前記したATLASアッセイ混合物に添加して、10マイクロモル濃度の最終濃度にした。各温度について、前記したようにアッセイを行った。簡単に述べれば、384ウェルプレートの3つの試料ウェルに20マイクロリットルのアッセイ混合物を充填し、プレートを53℃まで加熱した。22℃まで冷却した後、十マイクロリットルのレベレーションミックスを各試料ウェルに添加し、プレートを室温でインキュベートし、次いで、Victor Vプレートリーダーで読み取った。DMSOをコントロールウェルで用いて、リガンドストック溶液中に存在するDMSOについてコントロールした。リガンドの存在下で、融解転移はより高い温度に押され、このことは、リガンドが標的タンパク質に熱的保護を与えたことを示す。
【実施例4】
【0358】
X90のリガンドについてのハイスループットスクリーニング
前記したATLAS混合物およびレベレーションミックスを用いて、22の384ウェルプレートを二セット、スクリーニングした。TATLASは53℃であった。各384ウェルプレートで、32のウェルをアッセイコントロールとして供し(各々は、化合物の代わりにウェル当たり2マイクロリットルの10%DMSOを有する)、他方、残りの352ウェルは、スクリーニングのための化合物を含有させた(10%DMSO中100マイクロモル濃度の濃度で2マイクロリットル)。各セットの22のプレートは、各々352の化合物を含有し(22×352=7744の化合物);アッセイにおける最終の化合物濃度は10マイクロモル濃度であった。
【0359】
化合物をスクリーニングする場合にアッセイの応答の精度管理を評価するため、7,744の化合物を、標的X90について二回スクリーニングした。各化合物についてアッセイ阻害の程度をプロットした;二つのスクリーニングの結果を相互に対してプロットする(図9)。黒色の斜めの線は、化合物が双方のスクリーニングにおいて正確に同じ程度の阻害を示す理想的な場合を表す。二つのスクリーニングの双方においてコントロールとの有意な差を示した化合物は、二連ヒットと考えられた。多数のそのような二連ヒットが、7,744の化合物のスクリーニングから得られた。
【実施例5】
【0360】
二連X90標的タンパク質アッセイヒットの滴定
二連ヒットとして同定した化合物の濃度は、一連の2倍連続希釈を行い、各化合物につき11の濃度の系列を作成することによって、滴定した;最高濃度は100マイクロモル濃度であった。前記したATLAS混合物、レベレーションミックスおよびアッセイ手順を用いて、これらの化合物をアッセイした;TATLASは53℃であった。これらの20のヒットの滴定曲線を、図10に示す。
【実施例6】
【0361】
二連ヒット化合物によるX90標的結合の単独の検証
化合物結合の単独の検証を得るために、滴定可能な二連ヒットのうちのいくつかを等温熱量測定(ITC)に付し;これら化合物のうちの一つの結果を図11に示す。ITC測定は、Microcal VP−ITCマイクロ熱量計(MicroCal Inc.,ノーサンプトン、MA)で行った。試料を濾過し、充填に先立って十分間脱気した。実験は25℃の試料温度で行った。緩衝液は、50mMのトリス、250mMのNaCl、1mMのTCEP、1%のDMSOであった。
【0362】
試料セル中のX90の濃度は8マイクロモル濃度であった。滴定は、試料セルに230マイクロモル濃度の化合物を制御して注入することによって行い、注入の間は400秒とした。滴定の間に生じたピークを積分し、これを用いて、エンタルピー変化対セル中の種類のモル比のプロットを得た。対照実験を行って、化合物の緩衝液への希釈熱から結合エンタルピーへの寄与を測定した。化合物とタンパク質との間の相互作用についての正味のエンタルピーは、希釈成分の熱を差し引くことによって決定した。ORIGINソフトウェアを用いて曲線の当てはめを行って、化合物とタンパク質との間の相互作用についての解離定数および結合部位の数を決定した。
【0363】
データは、サブマイクロモル濃度KDで化合物に対する一つの強い結合部位があることを示した(これは、滴定実験でのIC50値とよく合致する)。また、化合物の一組のかなり弱い結合部位もあり:標的当たり平均4.6の化合物が、約二桁高い有効なKDで結合する。
【実施例7】
【0364】
DB7標的タンパク質の解析
DB7を標的タンパク質として選択した。遺伝子工学により6xHisタグをN−末端に挿入した組換えDB7を大腸菌で生産し、標準的な方法を用いて精製した。6xHis挿入を有するDB7タンパク質を用いて、以下の生物物理学的解析を行った。
【0365】
DB7の熱融解は、Circular Dichroism Spectrophotometer、モデル62 ADS(AVIV、レークウッド、NJ)で、0.2mlの中の、ml当たり0.2mgのタンパク質を加熱し、毎分1℃の速度で約90℃を超えるまで加熱し、続いて冷却することによって行った。楕円率を測定し、図12に示すように、温度の関数としてプロットした。CD熱融解のグラフは、温度が上昇するにつれタンパク質が不可逆的なアンフォールディングを受けることを示す;アンフォールディング転移の中間点温度は、50.3℃である。
【0366】
また、光散乱によってタンパク質を分析して、分子量により、アンフォールディングに際してのDB7の凝集を評価した(図13)。より高い温度における見掛けの分子量の増加は、アンフォールディングした標的タンパク質が一旦アンフォールディングすると凝集することを示す。
【実施例8】
【0367】
DB7標的タンパク質アッセイの展開
このアッセイのために、本発明者らは、標的タンパク質の変性した形態に対して作成した抗体の代わりに一般的な試薬を用いた。実施例2から5に詳細を記載したアッセイ様式とは異なり、このアッセイでは、凝集体の検出に時間分解蛍光を用いた。これにより、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動を介して、アンフォールディングに際しての標的タンパク質の凝集を検出することができた。加えて、実施例3に示したアッセイと比較して、このアッセイではより高い濃度のタンパク質を用いた、というのは、これがスクリーニング温度またはTATLASでの凝集体の形成を促進することが判明したからである。
【0368】
TR−FRETアッセイの展開に、二つのアプローチを採用した。これらのアプローチは、フルオロフォアを標的タンパク質に付着させる方法が異なっていた。双方の場合において、フルオロフォアの付着は、DB7タンパク質の付着タグ(6xHis)への抗体の結合を介するものであった。
【0369】
第一のTR−FRETアッセイの構成は、アッセイで用いるDB7タンパク質の半分を、ドナーフルオロフォアで標識した抗−6xHis抗体に事前に結合させ、抗体と結合していない半分のタンパク質を添加し、混合物を加熱し、次いで、読み取り前のレベレーション工程としてアクセプターフルオロフォアで標識した抗−6xHis抗体を添加することを含む(図2a)。第二のアプローチは、アッセイで用いるDB7タンパク質の全てを、ドナーフルオロフォアで標識した抗−6xHis抗体と混合し、該混合物を加熱し、次いで、読み取り前のレベレーション工程としてアクセプターフルオロフォアで標識した抗−6xHis抗体を添加することを含む(図2b)。
【0370】
DB7アッセイの検出様式は、時間分解エネルギー移動蛍光(TR−FRETまたは「TRET」)に基づくものであり、Packard Biosciencesを通じて商業的に入手可能な、均一な時間分解蛍光(HTRF)の試薬を利用した。ユーロピウムクリプテート部位(ドナーフルオロフォア)を抗−6xHisタグモノクローナル抗体に付着させ、XL665部位(アクセプターフルオロフォア)を抗−6xHisタグモノクローナル抗体に付着させた(図2)。双方のアプローチにおいて、タンパク質の加熱による凝集は、ドナーフルオロフォア、凝集したDB7およびアクセプターフルオロフォアの間でサンドイッチが形成されることを可能とする。DB7の凝集体は、図2に示すように今や密接に接近したドナーからアクセプターへのエネルギー移動を介して検出される。加熱に際しての溶液中での凝集体の豊富さ、そしてひいてはアクセプターフルオロフォアからの時間分解発光の量は、溶液中の凝集したDB7タンパク質の量に比例するであろう。これに基づき、もし化合物がDB7タンパク質に結合すれば、それは、フォールディングに対する凝集の比率を変化させ、かくして、ドナーとアクセプターとの間で見られるエネルギー移動の量を変化させるであろう。
【0371】
構成A(半分の標的タンパク質の事前標識)
構成(A)では、ユーロピウムクリプテートで標識した10マイクロリットルの量の抗−6xHis抗体に、DB7タンパク質の半分をプレカップリングさせ、5マイクロリットルの量のDB7タンパク質の他の半分を添加し、混合物を加熱した。試料混合物を冷却した後、XL665アクセプター成分で標識した抗−6xHis抗体を5マイクロリットルの量で添加し、シグナルを、ユーロピウムについては620nmで、XL665については665nmで読み取る。
【0372】
二つの波長(620nmおよび665nm)で測定することで、665/620の比率を、比率=(シグナル665/シグナル620)×1000として計算し、665/620比率として得ることを可能とし、かくして、特に、励起の50マイクロ秒後かつ検知の400マイクロ秒前に測定したことから、ほとんど全ての化合物の干渉が排除された(表1参照)。
【0373】
アッセイは、いくつかのタンパク質濃度を用いて一連の温度で行い、検出は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR−FRET)を介した。二つの混合物、DB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物およびDB7混合物を作成した。DB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物は、pH6.2の50mMのリン酸ナトリウム、200mMのNaCl、0.10%のTween 20、1mMのDTT、様々な量のDB7タンパク質、およびミリリットル当たり1.2マイクログラムの、ユーロピウムクリプテートで標識した抗−6His Abを含有する。DB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物中のDB7タンパク質の濃度は、マイクロリットル当たり0から8.8ナノグラムまで変化させ、ウェル当たり0から88ngの抗体標識DB7タンパク質を供した。DB7混合物は、pH6.2の50mMのリン酸ナトリウム、200mMのNaCl、0.10%のTween 20、1mMのDTT、およびマイクロリットル当たり0から17.6ナノグラムのDB7タンパク質を含有し、ウェル当たり0から88ngの未標識DB7タンパク質を供した。アッセイを行うにおいて、等量の標識されたおよび未標識のタンパク質を添加したので、各混合物は、常に、アッセイにおける全DB7タンパク質の50%に寄与し、ウェル中のDB7タンパク質の合計量は0から176ngまで変化した。
【0374】
二マイクロリットルのDMSOを、384ウェルプレートの3つのウェルの各々に添加して、化合物スクリーニングの間に存在するDMSOを再現した。次いで、五マイクロリットルのDB7混合物および十マイクロリットルのDB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物を、各ウェルに添加した。次いで、プレートを、二度の増分で30℃から62℃の範囲の様々な温度で、30分間インキュベートした。次いで、pH6.2の50mMのリン酸ナトリウム、200mMのNaCl、0.10%のTween 20、1mMのDTT、およびXL665で標識した5マイクロリットル当たり200ngの抗−6xHis ABを含有する、五マイクロリットルのレベレーションミックスを、試料ウェルに添加した。次いで、プレートを室温にて30分間インキュベートした。620および665nmでの発光フィルターを装備したVictor V(PerkinElmer)で、LANCEモードで、620および665nm双方で、ウェルの蛍光を読み取った。
【0375】
一定範囲のDB7濃度について、熱融解をインキュベーション温度の関数として示した図14Aで分かるように、(17マイクロリットルの反応容量中)22、44および88ngのタンパク質が、強い665nm/620nmシグナルを示す。アッセイシグナルは、DB7タンパク質濃度が増大すると増加し、タンパク質濃度が高い程、飽和に近づいた(図14a)。このデータの曲線当てはめによって、44ngおよび88ngについて、それぞれ47.5および47.0℃の中間点転移温度が得られた(図15)。
【0376】
構成B(実質的に全ての標的タンパク質の事前標識)
同様に、構成(B)では、ユーロピウムクリプテートで標識した15マイクロリットルの量の抗−6xHis抗体の存在下で、全てのDB7タンパク質を加熱した。冷却した後、XL665アクセプター成分で標識した抗−6xHis抗体を5マイクロリットルの量で添加し、前記と同様の方法でシグナルを読み取った。構成(A)と同様に、加熱に際しての溶液中での凝集体の豊富さ、そしてひいてはアクセプターフルオロフォアからの時間分解発光の量は、溶液中の凝集したDB7タンパク質の量に比例するであろう。これに基づき、もし化合物がDB7タンパク質に結合すれば、それは、フォールディングに対する凝集の比率を変化させ、かくして、ドナーとアクセプターとの間で見られるエネルギー移動の量を変化させるか、あるいは低下させる。
【0377】
アッセイは、いくつかのタンパク質濃度を用いて一連の温度で行い、検出は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR−FRET)を介した。
【0378】
pH6.2の50mMのリン酸ナトリウム、200mMのNaCl、0.10%のTween 20、1mMのDTT、様々な量のDB7タンパク質、およびミリリットル当たり2マイクログラムの、ユーロピウムクリプテートで標識した抗−6xHis Abを含有する、DB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物を作成した。DB7+抗−His Ab(ユーロピウムクリプテート)混合物中のDB7タンパク質の量は、マイクロリットル当たり0から2.9ナノグラムまで変化させ、ウェル当たり0から44ナノグラムのタンパク質を供した。
【0379】
二マイクロリットルのDMSOを、384ウェルプレートの3つのウェルの各々に添加して、化合物スクリーニングの間に存在するDMSOを再現した。次いで、15マイクロリットルのDB7+抗−His Ab(XL665)混合物を、各ウェルに添加した。次いで、プレートを、二度の増分で30℃から62℃の範囲の様々な温度で、30分間インキュベートした。pH6.2の50mMのリン酸ナトリウム、200mMのNaCl、0.10%のTween 20、1mMのDTT、およびXL665で標識した5マイクロリットル当たり200ngの抗−6xHis Abを含有する、五マイクロリットルのレベレーションミックスを、試料ウェルに添加した。次いで、プレートを室温で30分間インキュベートした。620および665nmでの発光フィルターを装備したVictor V(PerkinElmer)で、LANCEモードで、620および665nm双方で、ウェルの蛍光を読み取った。
【0380】
一定範囲のDB7濃度について、熱融解をインキュベーション温度の関数として示した図14Bで分かるように、(17マイクロリットルの反応容量中)44ngのタンパク質が、強い665nm/620nmシグナルを示した。
【0381】
かくして、商業的に入手可能なFRET試薬と共に、検出方法としてTR−FRETを用いて、DB7標的タンパク質についてのATLASアッセイを構成した。TR−FRETアッセイは47.5℃のTmを有し、生物物理学データは50.3℃のTmを示した。ドナーおよびアクセプター付着フルオロフォアを両方有する抗体濃度は、これらの実験において一定に保持した。このアッセイ系では、検出は、実施例1のアッセイ系よりも高いタンパク質濃度を必要とし、ここで、50マイクロリットルのアッセイ量中3ngのタンパク質で、タンパク質のアンフォールディングついて適切に報告することができ、これは、タンパク質の凝集が実際にこのアッセイにおけるTR−FRET検出系によって測定されるという考えを裏付ける。かくして、双方の構成で得られたデータは、DB7タンパク質濃度に対する凝集の依存性を示し、他方、「タンパク質の無い」コントロールシグナルは、アッセイの間に増加しなかった。
【実施例9】
【0382】
DB7標的タンパク質アッセイの検証
構成(A)アッセイの検証は、15μLのウェル容量当たり44ngのDB7タンパク質を用いて、十の384ウェルプレートを決定したTATLAS(49℃)で、また、十のプレートを低温(4℃)で、実行することを含む(図16)。アッセイの頑健性は、スクリーニング温度TATLAS(49℃)およびコントロール温度(4℃)双方において、十のプレートを実行することによって測定した。この検証についてのZ’値は、0.63であると計算され、許容される範囲内である0.5から1.0の間にある。
【0383】
【表3】
【実施例10】
【0384】
標的タンパク質DB7のリガンドについてのハイスループットスクリーニング
7,744の化合物を標的タンパク質DB7で二連で試験した。TATLAS=49℃で、前記した構成Aを用い、22の384ウェルプレートを2セット、スクリーニングした。各384ウェルプレートで、32のウェルをアッセイコントロール(ウェル当たり1.5μlの10%DMSO)として供し、他方、残りの352ウェルは、スクリーニングのための試験化合物(10%DMSO中に100マイクロモル濃度を2μl)を含有させた。各セットの22のプレートは、各々352の化合物を含有し(22×352=7744の化合物);アッセイにおける最終の化合物濃度は10マイクロモル濃度であった。
【0385】
二連スクリーニングの試験化合物を含有するウェルの精度管理の評価を、図17の散布図に示す。
【実施例11】
【0386】
DB7標的タンパク質アッセイの二連ヒットの滴定
二回のスクリーニングにおいて10マイクロモル濃度のスクリーニング濃度でアッセイ阻害を示した化合物を、一定範囲の濃度にわたって試験して、濃度依存性アッセイ阻害について試験し、各化合物についてIC50を計算した。化合物濃度は、一連の2倍連続希釈を行い、各化合物につき11の濃度の系列を作り出すことによって、滴定した;最高濃度は100マイクロモル濃度であった。前記した構成(A)を用いて、これらの化合物をアッセイした;TATLAS=49℃。これらの滴定の三つの結果を、図18に示す。
【実施例12】
【0387】
二連ヒット化合物によるDB7標的の結合の単独の検証
等温熱量測定スキャン(ITC)を用いて、滴定可能なヒットの結合を検証することができる。ITC測定は、Microcal VP−ITCマイクロ熱量計(MicroCal Inc.,ノーサンプトン、MA)で行った。試料を濾過し、充填に先立って十分間脱気した。実験は25℃の試料温度で行った。1%のDMSOを添加したアッセイ緩衝液を用いる。試料セル中のタンパク質濃度は、およそ10マイクロモル濃度である。滴定は、試料セルにおよそ200マイクロモル濃度の化合物を制御して注入することによって行い、注入の間は400秒とした。滴定の間に渡って生じたピークを積分し、これを用いて、エンタルピー変化対セル中の種類のモル比のプロットを得た。対照実験を行って、化合物の緩衝液中への希釈熱から結合エンタルピーへの寄与を測定する。化合物とタンパク質との間の相互作用についての正味のエンタルピーは、希釈成分の熱を差し引くことによって決定する。ORIGINソフトウェアを用いて曲線の当てはめを行って、化合物とタンパク質との間の相互作用についての解離定数および結合部位の数を決定する。
【実施例13】
【0388】
D56標的タンパク質の解析
C末端に6xHisタグを含む組換えD56を大腸菌中で生産し、標準的な方法を用いて精製した。
【0389】
Circular Dichroism Spectrophotometer(モデル62ADS、製造業者:AVIV、レークウッド、N.J.)を用い、リン酸緩衝生理食塩水0.2ml中の0.03mg/mlのタンパク質を用いて、D56のCDスペクトル(図19)を測定した。この試料の熱融解は、1℃/分の速度で約90℃を超えるまで加熱することによって行った。楕円率を温度の関数として測定して、タンパク質のアンフォールディングをモニターした(図20)。
【0390】
DSC測定は、Microcal VP−DSCマイクロ熱量計(MicroCal Inc.,ノーサンプトン、MA)で行った。全ての試料を濾過し、充填に先立って十分間脱気した。試料は、リン酸緩衝生理食塩水中に1.33mg/mlのタンパク質を含有し、15℃から80℃の温度範囲にわたって1℃/分で加熱した。緩衝液単独でのDSC測定を、最初のタンパク質のアップスキャンから差し引いた。次いで、Origin DSCソフトウェアを用いて、データを正規化し、ベースラインを修正した。示差走査熱量測定は、温度が上昇するにつれてタンパク質が(約45℃において、および53.5℃において)二つの転移を受けることを示した(図21)。
【実施例14】
【0391】
D56標的タンパク質アッセイの展開
pH7.0の20mMのリン酸Na、5%のグリセロール、150mMのNaCl、0.005%のTween 20、1mMのDTT、FITCで直接標識した2ナノモル濃度のD56、および様々な濃度の未標識D56を含有する、ATLAS混合物を作成した。アッセイを構成するために、様々な濃度の未標識D56タンパク質を用いて、熱融解曲線を作成した。各アッセイ混合物を384ウェルアッセイプレートの3つの試料ウェルに用い、各試料ウェルには、20マイクロリットルを含有させる。プレートをMWG PrimusHTサーモサイクラーに入れ、蓋を閉じ、70℃まで加熱した。サーモサイクラーをプログラムして、毎秒2℃の速度で25℃から56℃の範囲のインキュベーション温度まで加熱し、次いで、その温度に30分間保持するようにした。次いで、温度を毎秒2℃の速度で22℃まで下げた。サイクラーの蓋を開け、Victor Vプレートリーダーを用いてプレートを読み取った。プレートは、485nmの励起波長および535nmの発光波長で、FP(蛍光偏光)で読み取った。FP値を、温度の関数としてプロットした(図22)。
【0392】
図22は、未標識タンパク質の濃度の関数として、FP単位を示す。微量の標識タンパク質の濃度(2nM)は一定であり、それのみでは温度が上がってもシグナルが増大しなかった。未標識タンパク質の濃度を増大させていくと、低い転移温度で良好なシグナルが得られた。
【実施例15】
【0393】
D56標的タンパク質アッセイの検証
D56のFPアッセイの確認では、TATLAS=48℃およびウェル当たり540ngの標的タンパク質を用い、実施例14に記載したように、4933の化合物を二連でスクリーニングし、5394の化合物を一回スクリーニングした。これらのスクリーニングプレート、並びに、選択したアッセイ温度(TATLAS=48℃)およびコントロール温度(TL owControl=25℃)の双方でスクリーニングしたアッセイ展開で用いたいくつかの事前検証プレートの、コントロールウェル(試験化合物を有しないウェル)についてのFP値を、図23にプロットする。
【実施例16】
【0394】
D56のリガンドについてのハイスループットスクリーニング
TATLAS=48℃およびウェル当たり540ngの標的タンパク質を用いて、4933の化合物を標的D56について二回スクリーニングした。各化合物につき、アッセイで見られた蛍光偏光(FP)の値をプロットした;図24で、二つのスクリーニングからの結果を相互に対してプロットする。
【実施例17】
【0395】
二連ヒットの滴定
二連ヒット化合物の濃度は、一連の2倍連続希釈を行い、各化合物につき11の濃度の系列を作成することによって、滴定した;最高濃度は100μMであった。前記した実施例14に記載した構成;TATLAS=48℃およびウェル当たり540ngの標的タンパク質を用いて、これらの化合物をアッセイした。二連ヒットの八つの滴定曲線を図25に示す。
【実施例18】
【0396】
標的の結合の単独の検証
ITC測定は、Microcal VP−ITCマイクロ熱量計(MicroCal Inc.,ノーサンプトン、MA)で行うことができる。試料を濾過し、充填に先立って十分間脱気する。実験は25℃の試料温度で行う。1%のDMSOを添加したアッセイ緩衝液を使用する。試料セル中のタンパク質濃度は、およそ10マイクロモル濃度である。滴定は、試料セルにおよそ200マイクロモル濃度の化合物を制御して注入することによって行い、注入の間は400秒とする。滴定の間に渡って生じたピークを積分し、これを用いて、エンタルピー変化対セル中の種類のモル比のプロットを得る。対照実験を行って、化合物の緩衝液中への希釈熱から結合エンタルピーへの寄与を測定する。化合物とタンパク質との間の相互作用についての正味のエンタルピーは、希釈成分の加熱を差し引くことによって決定する。ORIGINソフトウェアを用いて曲線の当てはめを行って、化合物とタンパク質との間の相互作用についての解離定数および結合部位の数を決定する。
【0397】
任意の引用文献を含む、本出願で引用した特許書類および科学論文を含む全ての刊行物は、各個々の刊行物を出典明示して本明細書に組み入れるのと同一程度に、全ての目的について、ここに出典明示してその全体を本明細書に組み入れる。
【0398】
全ての見出しは読手の便宜のためであり、特に断りのない限り、見出しに続く文章の意味を限定するために用いるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0399】
【図1】本発明のFRETアッセイの構成の一つの態様の模式図。
【図2A】本発明のFRETアッセイの構成の第1の態様の模式図。
【図2B】本発明のFRETアッセイの構成の第2の態様の模式図。
【図3】ドープ凝集蛍光偏光(FP)アッセイの構成の一つの態様の模式図。
【図4】標的X90のCD熱融解を示したグラフ。
【図5】標的X90の熱融解を、アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式におけるタンパク質濃度の関数として示したグラフ。
【図6】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式におけるX90の熱融解を示したグラフ。
【図7】スクリーニング温度(TATLAS=53℃)および低コントロール温度(4℃)における、3,840の標的X90のコントロールウェルからのTR−FRETデータのプロット。
【図8】既知のリガンドの存在下での標的X90の熱融解(三角形)、およびリガンドの存在しないコントロールの熱融解(菱形)を示したグラフ。
【図9】標的X90に対して二連で試験した7,744の化合物の%阻害の散布図。
【図10A】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第1の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10B】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第2の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10C】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第3の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10D】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第4の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10E】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第5の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10F】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第6の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10G】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第7の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10H】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第8の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10I】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第9の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10J】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第10の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10K】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第11の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10L】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第12の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10M】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第13の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10N】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第14の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10O】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第15の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10P】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第16の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10Q】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第17の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10R】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第18の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10S】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第19の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図10T】アンフォールド状態−特異的結合メンバーTR−FRETアッセイ様式を用いて標的X90に対する結合について二連で行ったアッセイで見られた単独の第20の化合物(「ヒット」)についての滴定曲線。
【図11】標的X90に結合する二連ヒット化合物A1のITCスキャンを示したグラフ。
【図12】標的DB7のCD熱融解を示したグラフ。
【図13】標的DB7の動的光散乱分析を示したグラフ。
【図14A】標的DB7の熱融解を、アッセイ構成におけるタンパク質濃度の関数として示したグラフ。
【図14B】標的DB7の熱融解を、アッセイ構成におけるタンパク質濃度の関数として示したグラフ。
【図15】標的DB7の熱融解を示したグラフ。
【図16】スクリーニング温度(TATLAS=49℃)および低コントロール温度(4℃)における、3,840の標的DB7についてのコントロールウェルからのデータのプロット。
【図17】標的DB7に対して二連で試験した7744の化合物の%阻害の散布図。
【図18】10マイクロモル濃度の標的DB7に対して二連で行ったスクリーニングで見られた三つの化合物(ヒット)の滴定を示したグラフ。
【図19】標的タンパク質D56のCDスペクトルを示したグラフ。
【図20】標的D56のCD熱融解を示したグラフ。
【図21】標的D56についての示差走査熱量測定(DSC)のグラフを示したグラフ。
【図22】標的D56の熱融解を示したグラフ。
【図23】スクリーニング温度(TATLAS=48℃)および低コントロール温度(25℃)における、各プレートの標的D56についてのコントロールウェルからの平均FPのプロット。
【図24】4,933の化合物で二連で行ったスクリーニングからのFP値を、各化合物について、相互に対してプロットした散布図。
【図25A】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第1の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25B】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第2の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25C】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第3の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25D】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第4の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25E】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第5の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25F】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第6の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25G】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第7の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
【図25H】10マイクロモル濃度の標的D56に対してスクリーニングした第8の二連ヒット化合物の滴定を示したグラフ。
Claims (88)
- (a)溶液中の標的分子を一以上のウェル中に供し;
(b)前記一以上のウェルに一以上の試験化合物を添加して、標的分子および一以上の試験化合物を含む一以上の試験ウェルを供し;
(c)前記標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する第一の特異的結合メンバーを、前記一以上の試験ウェルに添加し、ここで、前記第一の特異的結合メンバーは、FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはFRETドナーまたはFRETアクセプターに直接的または間接的に結合することができ;
(d)前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に、前記一以上の試験ウェルを付し;
(e)前記第一の特異的結合メンバーの結合部位とは別の部位において前記標的タンパク質に結合できる第二の特異的結合メンバーを、前記一つ以上の試験ウェルに添加し、ここで;前記第一の特異的結合メンバーがFRETドナーフルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合できる場合、前記第二の特異的結合メンバーはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合でき、そして前記第一の特異的結合メンバーがFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合できる場合、前記第二の特異的結合メンバーはFRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合でき;
(f)前記試験ウェルからの一つ以上の波長での蛍光発光を測定し;
(g)前記一つ以上の試験ウェルの一つ以上の波長での蛍光発光と一つ以上の基準値との比較を行い;
(h)工程(g)における前記比較を用いて、前記標的分子が、前記一つ以上の試験ウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を決定し;次いで、
(i)パート(h)における決定を用いて、前記一つ以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一つ以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に前記一つ以上の試験ウェルを付すことが、前記標的分子の少なくとも一部が変性する一つ以上の所定の温度まで前記一以上の試験ウェルを加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項2に記載の方法。
- 前記標的分子が標的タンパク質である、請求項1に記載の方法。
- 前記標的タンパク質が、前記第二の特異的結合メンバーによって認識される付着タグを含む、請求項4に記載の方法。
- 前記付着タグが化学的部位である、請求項5に記載の方法。
- 前記化学的部位がDNPまたはビオチンである、請求項6に記載の方法。
- 前記付着タグが設計したペプチドタグである、請求項5に記載の方法。
- 前記設計したペプチドタグが、6xHisタグ、FLAGタグ、mycタグ、または血球凝集素タグである、請求項8に記載の方法。
- 前記第一の特異的結合メンバーが、前記標的タンパク質のアンフォールド形態に特異的に結合する抗体である、請求項1に記載の方法。
- 前記抗体が、FRETドナーまたはFRETアクセプターに直接的または間接的に結合することができる、請求項10に記載の方法。
- 前記抗体が、FRETドナーまたはFRETアクセプターに間接的に結合することができる、請求項11に記載の方法。
- 前記抗体がビオチンに結合し、かつ前記FRETドナーまたはFRETアクセプターがストレプトアビジンに結合する、請求項12に記載の方法。
- 工程(e)が、さらに、ストレプトアビジンに結合した前記FRETドナーまたはFRETアクセプターを添加することを含む、請求項13に記載の方法。
- 前記第二の特異的結合メンバーが抗体である、請求項12に記載の方法。
- 前記第二の特異的結合メンバーが、FRETドナーまたはFRETアクセプターに直接的に結合する抗体である、請求項14に記載の方法。
- 前記FRETドナーが、テルビウム、Alexa488、Alexa568、Alexa594、Alexa647、Cy3、BODIPY FL、フルオレセイン、IEDANS、EDANS、またはユーロピウムクリプテートである、請求項1に記載の方法。
- 前記FRETドナーがユーロピウムクリプテートである、請求項20に記載の方法。
- 前記FRETアクセプターが、フルオレセイン、GFP、TMR、Cy3、Rフィコエリトリン、Cy5、APC、Alexa555、Alexa647、Alexa647、Alexa594、Cy5、BODIPY FL、TMR、DABCYL、XL−665、またはアロフィコシアニンである、請求項1に記載の方法。
- 前記FRETアクセプターがXL−665である、請求項19に記載の方法。
- 前記一つ以上の波長が二つの波長である、請求項1に記載の方法。
- さらに、前記蛍光発光を、二つの波長での蛍光発光の比率として表すことを含む、請求項3に記載の方法。
- 前記基準値が、一以上のコントロールウェルからの一以上の測定値または計算した値である、請求項1に記載の方法。
- 前記基準値が、一以上の標準ウェルからの一以上の測定値または計算した値である、請求項1に記載の方法。
- (a)標的分子群を供し、ここで、前記群の少なくとも一部を第一の特異的結合メンバーで標識し、ここで、前記第一の特異的結合メンバーは前記標的分子の単一の付着タグに結合することができ、そして、前記第一の特異的結合メンバーはFRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ;
(b)一以上の試験ウェル中で、前記標的分子群のアリコートを少なくとも一つの試験化合物と接触させ;
(c)前記標的タンパク質の少なくとも一部が変性される条件に、前記一以上の試験ウェルを付し;
(d)前記標的分子の前記単一の付着タグに結合する第二の特異的結合メンバーを、前記一以上の試験ウェルに添加し、ここで、前記第二の特異的結合メンバーはアクセプターまたはドナーフルオロフォアを含むか、あるいはそれに結合することができ、ここで:前記第一の特異的結合メンバーがFRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合は、前記第二の特異的結合メンバーはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ、そして前記第一の特異的結合メンバーがFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合は、前記第二の特異的結合メンバーはFRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ;
(e)前記一以上の試験ウェルからの一以上の波長での蛍光発光を測定し;
(f)前記一以上の試験ウェルの前記一以上の波長での蛍光発光を一以上の基準値と比較し;
(g)前記標的分子が、前記一以上の試験ウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を決定し;次いで、
(h)パート(g)における決定を用いて、一以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記少なくとも一部が前記群のほぼ50%である、請求項25に記載の方法。
- 前記少なくとも一部が前記群の少なくとも80%である、請求項25に記載の方法。
- 前記標的分子の少なくとも一部が変性される条件に前記一以上の試験ウェルを付すことが、前記標的分子の少なくとも一部が変性する一以上の所定の温度まで前記一以上の試験ウェルを加熱することを含む、請求項25に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項28に記載の方法。
- 前記標的分子が、単一の付着タグを含む標的タンパク質である、請求項25に記載の方法。
- 前記単一の付着タグが化学的部位である、請求項30に記載の方法。
- 前記化学的部位がDNPまたはビオチンである、請求項31に記載の方法。
- 前記単一の付着タグが設計したペプチドタグである、請求項30に記載の方法。
- 前記設計したペプチドタグが、6xHisタグ、FLAGタグ、mycタグ、または血球凝集素タグである、請求項33に記載の方法。
- 前記第一の特異的結合メンバーが抗体である、請求項25に記載の方法。
- 前記抗体がドナーフルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる、請求項35に記載の方法。
- 前記抗体がドナーフルオロフォアを含む、請求項36に記載の方法。
- 前記ドナーフルオロフォアが、テルビウム、Alexa488、Alexa568、Alexa594、Alexa647、Cy3、BODIPY FL、フルオレセイン、IEDANS、EDANS、またはユーロピウムである、請求項37に記載の方法。
- 前記第二の特異的結合メンバーが、アクセプターフルオロフォアを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる、請求項38に記載の方法。
- 前記第二の特異的結合メンバーがアクセプターフルオロフォアを含む、請求項39に記載の方法。
- 前記アクセプターフルオロフォアが、フルオレセイン、GFP、TMR、Cy3、Rフィコエリスリン、Cy5、APC、Alexa555、Alexa647、Alexa647、Alexa594、Cy5、BODIPY FL、TMR、DABCYL、またはXL665である、請求項40に記載の方法。
- 工程(e)および(f)において、前記一つ以上の波長が二つの波長である、請求項25に記載の方法。
- さらに、工程(e)の後に、前記一つ以上の試験ウェルからの前記二つの波長での蛍光発光の比率を計算することを含み、ここで、工程(f)において、二つの波長での蛍光発光を比較することが、二つの波長での蛍光発光の比率を比較することを含む、請求項42に記載の方法。
- 前記一つ以上の基準値が、一つ以上のコントロールウェルからの前記二つの波長での蛍光発光間の一つ以上の比率である、請求項43に記載の方法。
- 前記一つ以上の基準値が、一つ以上の標準ウェルからの前記二つの波長での蛍光発光間の一つ以上の比率である、請求項43に記載の方法。
- (a)FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに結合することができる標的分子の第1の群を供し;
(b)FRETドナーまたはFRETアクセプターを含むか、あるいはそれに結合することができる前記標的分子の第二の群を、前記標的分子の前記第一の群に添加して、前記標的分子の混合ドナー/アクセプター群を生じさせ、ここで:前記第一の特異的結合メンバーが、FRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合は、前記第二の特異的結合メンバーは、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ、そして前記第一の特異的結合メンバーが、FRETアクセプターを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができる場合は、前記第二の特異的結合メンバーは、FRETドナーを含むか、あるいはそれに直接的または間接的に結合することができ;
(c)一つ以上の試験ウェル中で、前記標的分子の前記混合ドナー/アクセプター群のアリコートを、少なくとも一つの試験化合物と接触させ;
(d)前記標的タンパク質の少なくとも一部が変性される条件に、前記一つ以上の試験ウェルを付し;
(e)前記一つ以上の試験ウェルからの一つ以上の波長での蛍光発光を測定し;
(f)前記一つ以上の試験ウェルの一つ以上の波長での蛍光発光を一つ以上の基準値と比較し;
(g)標的分子が、前記一つ以上の試験ウェル中で、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方で存在する程度を決定し;次いで、
(h)パート(g)における決定を用いて、一つ以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一つ以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記標的分子の少なくとも一部が変性される条件に前記一つ以上の試験ウェルを付すことが、一つ以上の所定の温度まで前記一つ以上の試験ウェルを加熱することを含む、請求項46に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項47に記載の方法。
- 前記標的分子が標的タンパク質である、請求項46に記載の方法。
- 前記標的タンパク質が付着タグを含む、請求項49に記載の方法。
- 前記付着タグが化学的部位である、請求項50に記載の方法。
- 前記化学的部位がDNPまたはビオチンである、請求項51に記載の方法。
- 前記付着タグが設計したペプチドタグである、請求項50に記載の方法。
- 前記設計したペプチドタグが、6xHisタグ、FLAGタグ、mycタグ、または血球凝集素タグである、請求項53に記載の方法。
- 前記FRETドナーまたは前記FRETアクセプターが、前記標的タンパク質の前記第一の群に直接的に結合する、請求項46に記載の方法。
- 前記FRETドナーまたは前記FRETアクセプターが、前記標的タンパク質の前記第一の群に間接的に結合する、請求項53に記載の方法。
- 前記FRETドナーまたは前記FRETアクセプターが、前記標的タンパク質の前記設計したペプチドタグを認識する特異的結合メンバーを介して、前記標的タンパク質の前記第一の群に結合する、請求項55に記載の方法。
- 前記FRETドナーまたはFRETアクセプターが、前記標的タンパク質の前記第二の群に間接的に結合する、請求項53に記載の方法。
- 前記FRETドナーまたはFRETアクセプターが、前記標的タンパク質の前記設計したペプチドタグを認識する特異的結合メンバーを介して、前記標的タンパク質の前記第二の群に結合する、請求項58に記載の方法。
- 工程(e)および(f)において、前記一つ以上の波長が二つの波長である、請求項46に記載の方法。
- さらに、工程(e)の後に、前記一つ以上の試験ウェルからの前記二つの波長での蛍光発光間の比率を計算することを含み、ここで、工程(f)において、二つの波長での蛍光発光を比較することが、二つの波長での蛍光発光の比率を比較することを含む、請求項46に記載の方法。
- 前記基準値が、前記二つの波長での蛍光発光間の少なくとも一つの比率を含む、請求項61に記載の方法。
- 前記一つ以上の基準値が、一つ以上のコントロールウェルからの前記二つの波長での蛍光発光間の一つ以上の比率である、請求項62に記載の方法。
- 前記一つ以上の基準値が、一つ以上の標準ウェルからの前記二つの波長での蛍光発光間の一つ以上の比率である、請求項62に記載の方法。
- (a)標的分子群の少なくとも一部を少なくとも一つのフルオロフォアで標識し;
(b)前記標的分子の前記群のアリコートを一つ以上の試験ウェルに分注し;
(c)前記一つ以上の試験ウェルに一つ以上の試験化合物を添加し;
(d)前記標的タンパク質の少なくとも一部が変性する条件に前記一つ以上の試験ウェルを付し;
(e)前記一つ以上の試験ウェルの蛍光偏光を測定し;
(f)前記一つ以上の試験ウェルの前記蛍光偏光測定を基準値と比較し;
(g)標的分子が、複数の試験ウェルにおいて、および前記一つ以上のコントロールウェルまたはコントロール値において、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方において存在する程度を決定し;次いで、
(h)パート(g)における決定を用いて、一つ以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一つ以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に、前記一つ以上の試験ウェルを付すことが、前記一つ以上の試験ウェルを一つ以上の所定の温度まで加熱することを含む、請求項65に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項66に記載の方法。
- 前記標的分子が標的タンパク質である、請求項65に記載の方法。
- 前記標的タンパク質がフルオロフォアに間接的に結合する、請求項68に記載の方法。
- 前記標的タンパク質がフルオロフォアに直接的に結合する、請求項68に記載の方法。
- 前記基準値が二つ以上のコントロールウェルの蛍光偏光測定値の平均である、請求項65に記載の方法。
- 前記基準値が二つ以上の標準ウェルの蛍光偏光測定値の平均である、請求項65に記載の方法。
- (a)溶液中の標的分子を一つ以上の試験ウェル中に供し;
(b)前記一つ以上の試験ウェルに、一つ以上の試験化合物を添加し;
(c)前記標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する少なくとも一つの特異的結合メンバーを、前記一つ以上の試験ウェルに添加し、ここで、前記少なくとも一つの第一の特異的結合メンバーは、フルオロフォアを含むか、あるいはフルオロフォアに直接的または間接的に結合することができ;
(d)前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に、前記一つ以上の試験ウェルを付し;
(e)前記一つ以上の試験ウェルの蛍光偏光を測定し;
(f)前記一つ以上の試験ウェルの前記蛍光偏光を基準値と比較し;
(g)前記標的分子がアンフォールド状態、フォールド状態、または双方において存在する程度を決定し;次いで、
(h)パート(g)における決定を用いて、一つ以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一つ以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に前記一つ以上の試験ウェルを付すことが、一つ以上の所定の温度まで前記一つ以上の試験ウェルを加熱することを含む、請求項70に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項71に記載の方法。
- 前記標的分子が標的タンパク質である、請求項70に記載の方法。
- 前記特異的結合メンバーがフルオロフォアに間接的に結合する、請求項70に記載の方法。
- 前記特異的結合メンバーがフルオロフォアに直接的に結合する、請求項70に記載の方法。
- 前記特異的結合メンバーがビーズまたは粒子にカップリングする、請求項78に記載の方法。
- (a)標的分子群の少なくとも一部を、少なくとも一つのフルオロフォアで標識し;
(b)前記標的分子の前記群のアリコートを一つ以上の試験ウェルに分注し;
(c)前記一つ以上の試験ウェルに一つ以上の試験化合物を添加し;
(d)前記標的分子のアンフォールド形態に特異的に結合する少なくとも一つの特異的結合メンバーを、前記一つ以上の試験ウェルに添加し;
(e)前記標的タンパク質の少なくとも一部が変性する条件に、前記一つ以上の試験ウェルを付し;
(f)前記一つ以上の試験ウェルの蛍光偏光を測定し;
(g)前記一つ以上の試験ウェルの前記蛍光偏光を基準値と比較し;
(h)標的分子が、前記一つ以上の試験ウェルにおいて、アンフォールド状態、フォールド状態、または双方において存在する程度を決定し;次いで、
(i)パート(h)における決定を用いて、一つ以上の試験化合物が前記標的分子に結合するか否かを決定し、それにより、前記標的分子の一つ以上のリガンドを同定する;
工程を含むことを特徴とする、標的分子に結合する一つ以上のリガンドを同定するためのスクリーニング方法。 - 前記標的分子の少なくとも一部が変性する条件に前記一つ以上の試験ウェルを付すことが、一つ以上の所定の温度まで前記一つ以上の試験ウェルを加熱することを含む、請求項80に記載の方法。
- 前記少なくとも一つの所定の温度が一つの所定の温度である、請求項81に記載の方法。
- 前記標的分子が標的タンパク質である、請求項80に記載の方法。
- 前記標的分子がフルオロフォアに間接的に結合する、請求項80に記載の方法。
- 前記標的分子がフルオロフォアに直接的に結合する、請求項80に記載の方法。
- 前記少なくとも1つの特異的結合メンバーがビーズまたは粒子にカップリングする、請求項80に記載の方法。
- 少なくとも一つの特異的結合メンバーが少なくとも二つの特異的結合メンバーである、請求項80に記載の方法。
- 前記少なくとも二つの特異的結合メンバーが、少なくとも一つの一次抗体および少なくとも一つの二次抗体を含む、請求項87に記載の方法。
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