JPWO2013137060A1 - シリンダとピストンリングとの組合せ - Google Patents
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Abstract
Description
又、アルミニウム合金は比較的軟かいため、従来からシリンダ内周面にシリンダライナを装着することが行われている。さらに、シリンダブロックを鋳造後、摺動面側のアルミニウムマトリックスのみを電解エッチングにより選択的にエッチングし、析出したSi粒子を表面に露出させて耐摩耗性を向上させた技術が実用化されている(特許文献1)。
例えば、Si又はWを5〜30原子%含有し、硬さHv:700〜2000である硬質炭素被膜をピストンリング外周面に形成する技術が報告されている(特許文献2)。又、Si,Ti,W,Cr,Mo,Nb及びVの群からなる元素の炭化物を分散させ、硬さHv:700〜2000である硬質炭素被膜をピストンリング外周面に形成する技術が報告されている(特許文献3)。
さらに、本発明者が鋭意研究した結果、Wなどの金属成分を含有する硬質炭素被膜がシリンダ内周面のアルミニウム合金と摺動すると、シリンダの摺動面が微細な凸凹を生じて梨地状になることが判明した。これは、金属同士が自由電子を介して相互作用する金属結合が生じ、硬質炭素被膜に含まれる金属成分が摺動相手のアルミニウム合金を構成するAlと金属結合して微細な摩耗粉を形成し、この摩耗粉が相対的に軟質なアルミニウム合金を構成するAl部分を攻撃することによって生じると考えられる。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜が硬すぎず、かつ軟らか過ぎずに上記効果を確実に発揮することができる。
前記硬質炭素被膜が水素と炭素と窒素によって構成される場合、水素含有量が15原子%以上30原子%以下であることが好ましい。
前記硬質炭素被膜が水素と炭素と窒素によって構成される場合、窒素含有量が3原子%以上12原子%以下であることが好ましい。
前記硬質炭素被膜の膜厚が2μm以上10μm以下であることが好ましい。
前記硬質炭素被膜の十点平均粗さRzjisが0.15μm以下であることが好ましい。
本発明は、内燃機関のシリンダと該シリンダの内周面を摺動するピストンリングとを備えたシリンダとピストンリングとの組み合わせであり、ピストンリングは公知のピストンに外嵌され、ピストンがシリンダ内を往復運動する際に、ピストンリングの外周面がシリンダの内周面を摺動する。
シリンダの少なくとも摺動面側は、8質量%以上22質量%以下のSiを含み、且つ粒径が3μm以上でSi,Al2O3及びSiO2の群から選ばれる1種以上の粒子を含むアルミニウム合金からなる。
アルミニウム合金に含まれるSiが8質量%未満であると、析出するSi粒子の量や大きさが低下し、十分な耐摩耗性を得ることが困難となる。そして、アルミニウム合金の強度が十分でないため、このアルミニウム合金マトリクス内に保持される上記粒子が脱落しやすく、やはり十分な耐摩耗性を得ることが困難となる。一方,アルミニウム合金中のSi含有量が22質量%を超えると、析出するSi粒子が加工を阻害するため、生産コストが高くなる。
これら粒子は、例えば上記アルミニウム合金からシリンダを鋳造する際、合金中のSiが析出し、又はAl2O3又はSiO2の粒子をアルミニウム溶湯に加えた分散強化合金としてもよい。これら粒子の粒径は、得られたシリンダの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像につき、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用い、Alマトリクス(基地)と異なる組成の領域(粒子)を構成する元素の二次元分布を測定する。
実際のEDXの測定では、まずSEM像を取得した後、EDX測定にてAl,Si,O(酸素)を測定対象とし、Alのマッピングに加え、Oのマッピング結果を合わせることでAl2O3又はSiO2の分布を定めることができる。そして、得られた二次元分布から、個々の領域(粒子)の面積に相当する円の直径(円相当径)を求め、粒径とする。このようにして算出したすべての粒子の粒径を平均した。
なお、シリンダの少なくとも摺動面側が上記アルミニウム合金からなっていればよい。例えば、上記アルミニウム合金からなるシリンダライナを、上記アルミニウム合金と異なる材料からなるシリンダボアに内嵌してもよい。但し、生産性を向上させて生産コストを低減する観点から、シリンダ全体を上記アルミニウム合金から構成することが好ましい。
図1に示すように、ピストンリング40の少なくとも外周面18aに、水素と炭素のみによって構成される硬質炭素被膜14が被覆されている。
ここで、本発明において、硬質炭素被膜14が「水素と炭素のみ」によって構成される場合を、「第1の硬質炭素被膜」と称する。又、硬質炭素被膜14が「水素と炭素と窒素」によって構成される場合を、「第2の硬質炭素被膜」と称する。又、以下の説明で、単に「硬質炭素被膜」という場合は、「第1の硬質炭素被膜」と「第2の硬質炭素被膜」を共に含むものとする。
なお、符号18は、ピストンリング40の基材を示し、例えばステンレス鋼からなる。又、図2に示すように、硬質炭素被膜14と基材18との間に、中間層16を設けてもよい。中間層16は(1)クロム又はチタンからなる金属層、(2)炭化タングステン又は炭化シリコンからなる金属炭化物層、(3)炭化クロム,炭化チタン,炭化タングステン及び炭化シリコンからなる群から選択される1種以上を含む炭素層(金属含有炭素層)、(4)金属を含有しない炭素層、及び(1)〜(4)の2種以上の組み合わせであることが好ましい。ここで、(3)層は、炭化タングステン又は炭化シリコンの粒子を含有した炭素層である点で、炭化タングステン、炭化シリコン自体の(2)層と相違する。又、中間層16は(4)層と、(2)層との積層構造であってもよい。
なお、硬質炭素被膜14はピストンリング40の少なくとも外周面18aに形成されていればよいが、ピストンリング40の上面や下面の一部にも硬質炭素被膜14が形成されていてもよい。
同様に、「水素と炭素と窒素によって構成される」とは、硬質炭素被膜全体の成分の中で水素と炭素と窒素の合計が98原子%以上、又は水素を除いた成分の中で炭素と窒素との合計が97原子%以上であることをいう。この組成は、水素と炭素と窒素以外の不純物等として含まれる元素が少ない。そして、硬質炭素被膜が水素と炭素と窒素によって構成されると、後述のように被膜自体が硬くなり過ぎずに弾性変形し易くなって耐摩耗性を維持することができる(図3参照)。
硬質炭素被膜の水素と炭素と窒素の含有量は、以下のようにして測定することができる。まず、RBS(ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry))/HFS、(水素前方散乱分析(Hydrogen Forward scattering Spectrometry)により、被膜中の水素含有量(単位:原子%)を測定する。次に、SIMS(二次イオン質量分析法(Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometry)により、水素と炭素と窒素の二次イオン強度を測定し、これらの比率と、RBS/HFSによって求めた水素含有量とから、炭素含有量を求める。
同様に、第2の硬質炭素被膜に弾性を十分に付与するためには当該第2の硬質炭素被膜に含まれる水素量が15原子%以上30原子%以下、窒素量が3原子%以上12原子%以下であることが好ましい。第2の硬質炭素被膜の水素含有量が30原子%及び窒素含有量が12原子%を超えると、耐摩耗性を維持することが困難となる場合がある。一方、第2の硬質炭素被膜の水素含有量が15原子%未満、窒素含有量が3原子%未満であると、被膜硬さが硬くなりすぎたり弾性変形しづらくなって、シリンダ表面に露出する上述の硬質な粒子を第2の硬質炭素被膜が攻撃し、粒子が欠けたり脱落したりしてシリンダ表面にキズが発生しやすくなる。
又、上記した水素と炭素と窒素によって構成される第2の硬質炭素被膜は、各種CVD法(化学蒸着法)、PVD(物理蒸着法)法を用い、原料ガスである水素や窒素、炭化水素系ガス、アンモニア(これらは、第2の硬質炭素被膜を構成する炭素と水素と窒素を含む)、及び放電を補助するArなどの希ガス以外のガスを供給せず、リークや冶具などからの放出ガスによって不可避的に被膜に混入する成分を除き、水素と炭素と窒素以外の元素を供給せずに成膜することができる。
炭化水素系ガスとしては、メタンやアセチレンを挙げることができる。
CVD法としては、グロー放電やアーク放電等によって形成されるプラズマを利用したプラズマ気相合成法(プラズマCVD法)が挙げられる。PVD法としては、スパッタターゲットとして炭素ターゲットを用いた反応性スパッタリング法が挙げられる。
又、硬質炭素被膜に含有される水素量の調整は、成膜時に導入する水素ガス量を変えたり、水素と炭素の比率が異なる炭化水素系ガスを利用することによって行うことができる。窒素量の調整は、成膜時に導入する窒素ガスやアンモニアと他のガスとの比率を変えることによって行うことができる。
従って、長期にわたってシリンダ内周面62aの平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
図4は、硬質炭素被膜140のマルテンス硬さが13GPaを超え、ヤング率が200GPaを超えた硬い被膜である場合に、硬質炭素被膜140が、シリンダ62と摺動する状態を模式的に示す。
硬質炭素被膜140は極めて硬いため、シリンダの内周面62aの粒子68と接触すると、粒子68を押しのけたり破壊しながら粒子68が硬質炭素被膜140に引きずられ、ピストンリングの移動と共に粒子68がシリンダ内周面62aのAl基材を引っ掻きながら摺動する。このようにしてシリンダ内周面62aに傷が生じることがある。さらに、硬質炭素被膜140が粒子68を巻き込んだり引っ掛けたりすることにより、硬質炭素被膜140の摩擦係数が変動してスティックスリップ現象が生じやすくなる。スティックスリップ現象が生じると、スティック時に摩耗が部分的に進行し、シリンダ内周面62aに大きな凹凸(波状摩耗)が形成されることもある。
一方、硬質炭素被膜のマルテンス硬さが5GPa未満で、ヤング率が70GPa未満の場合、そもそも硬質炭素被膜の耐摩耗性が十分でないため、使用中に摩耗によって硬質炭素被膜が消滅し、耐焼き付き性を維持することが困難となる場合がある。(図5)
ヤング率は、硬さ試験機で圧子を押込み後に除荷する時に、圧子先端周辺の弾性回復を荷重-押し込み深さ(変位線)図から求める押込除荷試験法により測定する。例えば、上記硬さ試験機を用い、上記した条件で測定することができる。
ここで塑性変形エネルギーWpは、硬さ試験において被膜表面から押し込まれる圧子が被膜の変形に費やす仕事(エネルギー)の内、圧子を除去しても被膜が変形したままの状態になるときのエネルギーである。又、弾性変形エネルギーWeは、圧子が除去されて被膜が元に戻ることによって解放されるエネルギーである。従って、比(Wp/We)で表されるRpeは、被膜表面に異物が押し込まれた場合に、弾性変形しやすい被膜であるか、又は塑性変形しやすい被膜であるかを特徴付ける指標となる。
例えば、弾性変形のみの被膜の場合、Weのみとなり、Rpeが0(ゼロ)になる。具体的には、後述の図6に示されたWpとWeの合計が変形エネルギーの合計で、WpとWeの占める割合によって、弾性変形と塑性変形のどちらが生じやすいかがわかる。
一方、Rpeが大きくなる、つまり塑性変形エネルギーWpの比率が大きくなると、硬さ試験においてダイヤモンド圧子による負荷がなくなっても解消されない被膜表面の変形、塑性変形量が多くなることを示す。
なお、この摩耗は、シリンダ62を構成するアルミニウム合金に含まれる粒子62の粒径が3μm以上の場合に顕著になり、特に粒径5μm以上の場合にさらに顕著になることが判明した。
硬質炭素被膜の膜厚が2μm未満であると、シリンダ内周面62aに露出する粒子68の押し込みに対して十分な弾性変形ができず、この粒子68が硬質炭素被膜の摺動に伴って移動してシリンダ内周面62aを引っ掻き、シリンダ内周面62aを摩耗させる場合がある。一方、膜厚が10μmを超えても効果が飽和すると共にコストアップに繋がる場合がある。硬質炭素被膜の膜厚は、集束イオンビーム(FIB)加工によって製作した薄片の被膜厚さ方向断面の透過型電子顕微鏡像(TEM像)から求める。
プラズマ気相合成法や反応性スパッタリング法等のCVD法やPVD法を用いて硬質炭素被膜を形成した場合、被膜表面は完全に平滑ではなく、微小な突起が形成されることがある。この突起はシリンダを構成するアルミニウム合金の基材Alを引っ掻き、シリンダ内周面にキズを形成する場合がある。このため、必要に応じて硬質炭素被膜表面を研磨し、その表面の十点平均粗さRzjisが0.15μm以下になるように調整することが好ましい。
なお、十点平均粗さRzjisは、JIS B 0601(2001)に従って測定する。
以下の実施例1〜6、比較例1〜4は、第1の硬質炭素被膜についての実験である。
<実施例1〜3>
脱脂洗浄を行ったピストンリング(窒化処理したステンレス鋼SUS420J2相当、呼称径:φ90mm,厚さ(h1):1.2mm,幅(a1):3.2mm)を、合い口隙間を埋める金属棒を備える成膜冶具にスタックし、ピストンリングの外周面に第1の硬質炭素被膜を成膜した。
ピストンリングを成膜装置の回転機構に設置し、装置内を5×10−3Pa以下の圧力に到達するまで真空排気した。真空排気後、ピストンリングにイオンボンバード処理を実施して被膜形成面を清浄化し、Cr中間層をピストンリング表面に形成した。その後、装置内にC2H2とArを導入しながら、プラズマCVD法によって第1の硬質炭素被膜をCr中間層上に形成した。
<実施例4〜6>
装置内にC2H2、Ar及びH2をそれぞれ導入し、グラファイト製ターゲットを備えるスパッタ源を用いて反応性スパッタリング法によって第1の硬質炭素被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。
導入するH2流量を多くすることによって被膜に含まれる水素含有量を多くしたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。これを比較例1とする。
プラズマCVD法の処理時間を短くして、第1の硬質炭素被膜の膜厚を薄くしたこと以外は、実施例6と同様にして処理を行った。これを比較例2とする。
グラファイト製ターゲットを備えるスパッタ源に印加するバイアス電圧を3倍にしたこと以外は実施例4と同様にして処理を行った。この時,研磨を行わない状態で第1の硬質炭素被膜の表面粗さRzjisが0.15μmを越えることを確認した。これを比較例3とする。
磁気フィルターを備えるアーク式蒸発源を用い、グラファイト製カソード(炭素98質量%以上)を用い、アーク放電時にH2を導入し、装置の圧力を5×10−2Paとし、アーク放電によって前記グラファイト製カソードを蒸発させて第1の硬質炭素被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。これを比較例4とする。
以下の実施例11〜16、比較例11〜15は、第2の硬質炭素被膜についての実験である。
<実施例11〜13>
脱脂洗浄を行ったピストンリング(窒化処理したステンレス鋼SUS420J2相当、呼称径:φ90mm,厚さ(h1):1.2mm,幅(a1):3.2mm)を、合い口隙間を埋める金属棒を備える成膜冶具にスタックし、ピストンリングの外周面に第2の硬質炭素被膜を成膜した。
ピストンリングを成膜装置の回転機構に設置し、装置内を5×10−3Pa以下の圧力に到達するまで真空排気した。真空排気後、ピストンリングにイオンボンバード処理を実施して被膜形成面を清浄化し、Cr中間層をピストンリング表面に形成した。その後、装置内にC2H2とN2、Arを導入しながら、プラズマCVD法によって水素と炭素と窒素を含有する第2の硬質炭素被膜をCr中間層上に形成した。
装置内にC2H2、N2、Ar及びH2をそれぞれ導入し、グラファイト製ターゲットを備えるスパッタ源を用いて反応性スパッタリング法によって第2の硬質炭素被膜を形成したこと以外は、実施例11と同様にして処理を行った。
導入するH2流量を多くすることによって被膜に含まれる水素含有量を多くしたこと以外は、実施例11と同様にして処理を行った。これを比較例11とする。
プラズマCVD法の処理時間を短くして、第2の硬質炭素被膜の膜厚を薄くしたこと以外は、実施例16と同様にして処理を行った。これを比較例12とする。
グラファイト製ターゲットを備えるスパッタ源に印加するバイアス電圧を3倍にしたこと以外は実施例14と同様にして処理を行った。この時,研磨を行わない状態で第2の硬質炭素被膜の表面粗さRzjisが0.15μmを越えることを確認した。これを比較例13とする。
磁気フィルターを備えるアーク式蒸発源を用い、グラファイト製カソード(炭素98質量%以上)を用い、アーク放電時にH2を導入し、装置の圧力を8×10−2Paとし、アーク放電によって前記グラファイト製カソードを蒸発させて第2の硬質炭素被膜を形成したこと以外は、実施例11と同様にして処理を行った。これを比較例14とする。
装置内にC2H2とN2、Ar及びH2をそれぞれ導入し、グラファイト製ターゲットを備えスパッタ源を用いて反応性スパッタリング法により、窒素含有量の多い被膜を形成したこと以外は、実施例11と同様にして処理を行った。これを比較例15とする。
以下の評価は、第1の硬質炭素被膜、第2の硬質炭素被膜に共通する。
1.硬質炭素被膜のマルテンス硬さとヤング率
マルテンス硬さとヤング率の測定は、上述のとおりにして行った。なお、マルテンス硬さとヤング率の測定は、それぞれ14回実施し、得られた値から最も大きな値とその次に大きな値、及び最も小さな値とその次に小さな値の合計4つを除いた値から平均値を算出した。又、試験への表面粗さの影響を小さくするため、平均粒径0.25μmダイヤモンドペーストを塗布した直径30mm以上の鋼球を用いて、硬質炭素被膜の表面近傍を球面研磨し、研磨部分を測定に供した。このとき、研磨部の最大深さを、硬質炭素被膜の膜厚に対して1/10以下にした。
変形率Rpeの測定は、上述のとおりにして行った。なお、図6の荷重−押し込み深さ曲線から各領域OADC、ABDの面積を算出する際には台形公式を用いて数値計算した。又、荷重−押し込み深さ曲線の測定は14回実施し、算出されたWpの値から最も大きな値とその次に大きな値、及び最も小さな値とその次に小さな値の合計4つを除いた結果を採用し、これらについてWeも算出して各測定毎にRpeを計算し、その平均値を算出した。
硬質炭素被膜の水素と炭素と窒素の含有量は、上述のとおりにRBS/HFS及びSIMSにより求めた。まず、RBS/HFSにより、被膜中の水素含有量(単位:原子%)を測定した。次に、SIMSにより、水素と炭素と窒素の二次イオン強度を測定し、これらの比率と、RBS/HFSによって求めた水素含有量とから、炭素含有量と窒素含有量を求めた。
なお、ピストンリングの外周面に形成された硬質炭素被膜は平坦でないので、そのままではRBS/HFS測定はできない。そこで、基準試料として、鏡面研磨した平坦な試験片(焼入処理したSKH51材ディスク、φ25×厚さ5(mm),硬度がHRC60〜63)に硬質炭素被膜を形成した。基準試料は、第1の硬質炭素被膜、第2の硬質炭素被膜にそれぞれ対応して別個に作製した。第1の硬質炭素被膜用の基準試料を「第1の基準試料」と称し、第2の硬質炭素被膜用の基準試料を「第2の基準試料」と称する。
第1の基準試料の成膜は反応性スパッタリング法を用い、雰囲気ガスとしてC2H2、Ar、H2を導入して行った。そして、第1の基準試料の被膜に含まれる水素量は、導入するH2流量と全体の圧力を変えることによって調整した。このようにして、水素と炭素のみによって構成され、水素含有量の異なる硬質炭素被膜を形成し、これらの第1の基準試料の硬質炭素被膜の組成(水素を含めたすべての元素)をRBS/HFSによって評価した。そして、第1の基準試料に形成された硬質炭素被膜全体の成分の中で水素と炭素の合計が98原子%以上、かつ水素を除いた成分の中で炭素が97原子%以上であることを確認した。
次に、第1の基準試料の被膜をSIMSで分析し、水素と炭素の二次イオン強度を測定した。ここで、SIMS分析は、平面でない実際のピストンリングの外周面をも測定できる。従って、第1の基準試料の同一の被膜につき、RBS/HFSによって得られた水素量と炭素量(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(検量線)を求めることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素量と炭素量を算定することができる。
次に、実際の各実施例及び比較例のピストンリング外周に形成された第1の硬質炭素被膜をSIMSにより分析し、水素と炭素以外の元素の二次イオン強度が十分小さい(水素と炭素の二次イオン強度の合計に対して1/100以下)ことを確認した後、上記実験式を用いて水素量と炭素量を求めた。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも被膜表面から20nm以上の深さ、かつ50nmの範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用した。
第2の基準試料の成膜は反応性スパッタリング法を用い、雰囲気ガスとしてC2H2、N2、Ar、H2を導入して行った。そして、第2の基準試料の被膜に含まれる水素量は、導入するH2流量と全体の圧力を変えることによって調整した。このようにして、水素と炭素と窒素によって構成され、水素と窒素の含有量の異なる硬質炭素被膜を形成し、これらの第2の基準試料の硬質炭素被膜の組成(水素を含めたすべての元素)をRBS/HFSによって評価した。そして、第2の基準試料に形成された硬質炭素被膜全体の成分の中で水素と炭素と窒素の合計が98原子%以上、かつ水素を除いた成分の中で炭素と窒素の合計が97原子%以上であることを確認した。
次に、第2の基準試料の被膜をSIMSで分析し、水素と炭素、窒素の二次イオン強度を測定した。ここで、SIMS分析は、平面でない実際のピストンリングの外周面をも測定できる。従って、第2の基準試料の同一の被膜につき、RBS/HFSによって得られた水素量と炭素量(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素、窒素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(検量線)を求めることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素量と炭素量と窒素量を算定することができる。
次に、実際の各実施例及び比較例のピストンリング外周に形成された第2の硬質炭素被膜をSIMSにより分析し、水素と炭素と窒素以外の元素の二次イオン強度が十分小さい(水素と炭素と窒素の二次イオン強度の合計に対して1/100以下)ことを確認した後、上記実験式を用いて水素量と炭素量と窒素量を求めた。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも被膜表面から20nm以上の深さ、かつ50nmの範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用した。
硬質炭素被膜の膜厚及び十点平均粗さRzjisの測定は、上述のとおりにして行った。粗さ測定は触針式粗さ測定器(株式会社東京精密製,SURFCOM1400D)を用い、測定場所や触針の移動方向を変えながら10回以上測定し平均値を採用した。測定条件はJISB0633:2001に準拠した。
図7に示すようにして、往復動摺動試験を行って耐摩耗性を評価した。まず、シリンダの内周面を模し、ホーニング相当の加工によって表面粗さを十点平均粗さRzjis:0.9〜1.3μmに調整したアルミニウム合金製のプレート84を準備した。プレート84の組成を表1に示す。そして、試験前のプレート84の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用い、Alマトリクス(基地)と異なる組成の領域(粒子)を構成する元素の二次元分布を測定した。EDXの測定方法は上述のとおりである。そして、得られた二次元分布から、Si,Al2O3、又はSiO2に相当する個々の領域(粒子)の面積に相当する円の直径(円相当径)を求め、粒径とした。このようにして算出したすべての粒子の粒径を平均した。
試験後、硬質炭素被膜が摩耗した場合には楕円形の摺動痕が観察された。
図8(a)に示すようにして、硬質炭素被膜の摩耗量を算出した。まず、試験後のピストンリング片80の摺動部80aを含む外周の形状を、上記触針式粗さ測定器を用いて周方向に測定した。そして、試験前のピストンリング片80の外周の曲率半径(既知)から、試験前のピストンリング片80の外縁80fを算出し、外縁80fと摺動部80aとの径方向の寸法差の最大値を摩耗量とした。
なお、図8(b)に示すように、ピストンリング片80の軸方向に沿って摺動部80aの中央付近の位置Lで、形状測定を行った。
<プレート(シリンダ相当)の摩耗量>
プレート84の摩耗量は、触針式粗さ計を用い、測定長さの両端に未摺動部が入るようにして摺動方向に粗さ測定した。このとき、未摺動部と摺動部の差の最大値を摩耗量とした。
なお、表1に示す第1の硬質炭素被膜及びプレートの摩耗量は、実施例1の摩耗量を1としたときの相対値で表した。同様に、表2に示す第2の硬質炭素被膜及びプレートの摩耗量は、実施例11の摩耗量を1としたときの相対値で表した。
さらにプレート84の摺動面(表面)を目視及び光学顕微鏡で観察し、欠陥の有無を以下の基準で評価した。プレート84の摺動面に長さ10mm以上のキズが認められる場合を「キズ」と表記した。プレート84の摺動面に周期的な表面のうねりが認められる場合を「波状摩耗」とした。
第1の硬質炭素被膜の膜厚が2μm未満である比較例2の場合、プレートの摩耗量が実施例1に比べて大幅に増えた。同様に、第2の硬質炭素被膜の膜厚が2μm未満である比較例12の場合、プレートの摩耗量が実施例11に比べて大幅に増えた。又、比較例2,12の場合、プレートの摺動面にキズが生じると共に、粒子が脱落したと推測される凹みが生じ、プレートの摺動面の平滑な形状を維持することができなかった。これは、膜厚が薄いために硬質炭素被膜がプレート側の粒子の押し込みに対して十分な弾性変形ができず、この粒子が硬質炭素被膜の摺動に伴って移動してプレートを引っ掻いたためと考えられる。
18 ピストンリングの基材
18a ピストンリングの外周面
40、41 ピストンリング
62 シリンダ
68 粒子
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
前記硬質炭素被膜の膜厚が2μm以上10μm以下であることが好ましい。
前記硬質炭素被膜の十点平均粗さRzjisが0.15μm以下であることが好ましい。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜が硬すぎず、かつ軟らか過ぎずに上記効果を確実に発揮することができる。
この構成によれば、硬質炭素被膜自身が弾性を有しているため、シリンダの内周面の硬質の粒子が硬質炭素被膜表面に押し込まれても被膜自身が弾性変形してこの力を受け止める。次に、ピストンリングが移動してこの力が解放されると、硬質炭素被膜が弾性変形して元に戻る。このようにして、シリンダの内周面の粒子を脱落させず、かつ硬質炭素被膜自身も損傷を受けない。従って、長期にわたってシリンダ内周面の平滑な形状及び耐摩耗性を維持することができる。
Claims (10)
- 内燃機関のシリンダと該シリンダの内周面を摺動するピストンリングとを備えたシリンダとピストンリングとの組み合わせであって、
前記シリンダの少なくとも摺動面側は、8質量%以上22質量%以下のSiを含み,且つ粒径が3μm以上のSi,Al2O3及びSiO2の群から選ばれる1種以上の粒子を含むアルミニウム合金からなり、
前記ピストンリングの少なくとも外周面に、水素と炭素のみによって構成される硬質炭素被膜が被覆されているシリンダとピストンリングとの組合せ。 - 内燃機関のシリンダと該シリンダの内周面を摺動するピストンリングとを備えたシリンダとピストンリングとの組み合わせであって、
前記シリンダの少なくとも摺動面側は、8質量%以上22質量%以下のSiを含み,且つ粒径が3μm以上のSi,Al2O3及びSiO2の群から選ばれる1種以上の粒子を含むアルミニウム合金からなり、
前記ピストンリングの少なくとも外周面に、水素と炭素と窒素によって構成される硬質炭素被膜が被覆されているシリンダとピストンリングとの組合せ。 - 前記硬質炭素被膜のマルテンス硬さ(押し込み硬さ)が5GPa以上13GPa以下である請求項1又は2記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜のヤング率が70GPa以上200GPa以下である請求項1〜3のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の塑性変形エネルギーWpと弾性変形エネルギーWeとの比(Wp/We)で表される変形率Rpeが0.45以下である請求項1〜4のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の水素含有量が20原子%以上35原子%以下である請求項1、3〜5のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の水素含有量が15原子%以上30原子%以下である請求項2〜5のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の窒素含有量が3原子%以上12原子%以下である請求項2〜5、7のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の膜厚が2μm以上10μm以下である請求項1〜8のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
- 前記硬質炭素被膜の十点平均粗さRzjisが0.15μm以下である請求項1〜9のいずれか記載のシリンダとピストンリングとの組合せ。
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