上述のように、従来の射出成形用金型で成形品を製造する際には、高圧・高温で溶融した樹脂を金型内に流し込み、圧力を一定に保ちながら冷却していく。溶融樹脂を流し込む流路(スプルー106、ランナー107、ゲート108)は細く、この流路を流れる際に溶融樹脂は少しずつ冷やされて固化していく。その樹脂固化を少しでも抑制するために、高温に熱した溶融樹脂を、大きな圧力をかけて短時間のうちにキャビティ103まで流し込み充填させる必要がある。
このとき金型に射出される溶融樹脂の圧力は、樹脂の粘度にもよるが、200〜500kgf/cm2にも及ぶ極めて大きなものとなる。この大きな射出圧力が溶融樹脂にかけられても型開きが起こらないようにするため、型締にも大きな圧力が必要となる。例えば、溶融樹脂の射出圧力が300kgf/cm2であり、成形品の型締方向の投影面積が1,200cm2であったとすると、射出圧力が加えられた溶融樹脂は360Tonもの大きな力で金型を開こうとすることになる。すなわち、型締の締め付け力にも360Ton以上のものが必要となる。そのため、溶融樹脂の射出圧力および金型の型締圧力を得るために、大量の電力を消費するという問題があった。
また、流路を流れる溶融樹脂が固化すると、より大きな射出圧力が必要となることから、樹脂固化が起こりにくくなるようにするために、金型を高温に加熱しておく必要がある。そのため、金型への加熱でも大量の電力を消費するという問題があった。しかも、金型が大きく熱容量が大きいため、樹脂の融点ほどまでは金型を加熱することができず、樹脂固化を完全には防げない。そのため、金型を加熱した場合でも依然として大きな射出圧力が必要であり、そのために大量の電力を消費する。また、キャビティ103に溶融樹脂が充填された後は、冷却水孔115に冷却水を流して金型を一定温度まで冷却する必要がある。この冷却の際にも多くの電力を消費するという問題があった。
さらに、数百Tonにも及ぶ大きな圧力に耐え得る剛性を出すために、固定型101および可動型102の材質は鉄鋼材料を用いた合金とし、肉厚も大きくする必要がある。それに伴い、固定側取付板105および可動側取付板114も大きなものが必要となる。また、固定型101と可動型102との位置決めのためにガイドピン104を設ける必要があり、成形品の取り出しのためにスペーサブロック110、突き出しピン111、リターンピン112およびエジェクタプレート113を設ける必要がある。これらを装備するために、固定型101および可動型102の幅も大きくする必要がある。
そのため、金型は全体として、成形品と比べて極めて大きなものとなり、設置のために大きなスペースが必要になるという問題があった。一般に、金型の成形品に対する体積比は300〜2,000倍程度、重量比は2,000〜10,000倍程度にもなる。このように従来は、成形品を作るのに数百から数千倍もの大きな金型を使う必要があり、設置スペースのムダは極めて大きいと言わざるを得ない。また、それだけ大きくて重い金型に対して圧力コントロールおよび温度コントロールをしなければならないので、消費電力のムダも計り知れないものがある。
なお、金型の消費電力や設置スペースなどのムダを少なくするための工夫を施した特許出願も数多く存在する。しかしながら、それらの特許出願で見られる殆どの工夫が、図1に示した金型の基本構造を踏襲した上での改良程度のものであり、ムダの改善の程度は不十分である。上記のムダを大幅に減らすためには、金型構造の根本的な見直しが必要となる。
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、射出成形用型装置を大幅に小型化できるようにし、一連の射出成形にかかる消費電力を大幅に減らすことができるようにすることを目的とする。
上記した課題を解決するために、本発明の射出成形用型装置は、第1パーティング面を有する固定型の側面に設けられ第1パーティング面よりも可動型側に突出する第1突出部材、および第1パーティング面と同形同大の第2パーティング面を有する可動型の側面に設けられ第2パーティング面よりも固定型側に突出する第2突出部材の少なくとも一方を備えている。
このように構成した本発明によれば、固定型と可動型との位置決めが、第1パーティング面よりも可動型側に突出する第1突出部材と可動型の側面との接合、および第2パーティング面よりも固定型側に突出する第2突出部材と固定型の側面との接合の少なくとも一方によって行われるので、当該位置決めのためにガイドピンを設ける必要がなくなる。これにより、ガイドピンを設けなくても良い分、固定型および可動型の幅を小さくすることができる。その結果、射出成形用型装置を全体として小型化することができる。
また、固定型および可動型を小型化すると、熱容量が小さくなるので、射出工程時に樹脂固化が起こりにくくなるようにするために行う固定型および可動型に対する加熱と、冷却工程時に行う固定型および可動型に対する冷却とを従来に比べて少ないエネルギーで実現することができる。これにより、射出工程および冷却工程における温度コントロールに要する消費電力を削減することができる。
本発明の他の態様では、溶融樹脂の流路として、成形機のノズルからキャビティまでのスプルーを固定型に形成している。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、成形機のノズルからキャビティに至るまでの流路上にランナーがなくなり、従来に比べて流路を短くすることができる。このため、流路上での溶融樹脂の固化が起こりにくくなるようにすることができ、それに伴い、溶融樹脂に対して加圧すべき射出圧力を低減することができる。
これにより、射出工程時に行う溶融樹脂に対する加圧を従来に比べて少ないエネルギーで実現することができ、射出工程における圧力コントロールに要する消費電力を削減することができる。また、射出圧力を低減することができると、型締に要する圧力も低減することができるので、型締圧力を得るために要する消費電力も削減することができる。
さらに、射出圧力を低減できると、耐圧を目的とした固定型および可動型の肉厚を薄くすることが可能となる。すなわち、上述のようにガイドピンを省略することにより固定型および可動型の幅を小さくすることができることに加え、肉厚も薄くすることができる。その結果、固定型および可動型の熱容量が更に小さくなるので、射出工程時の加熱と冷却工程時の冷却とを更に少ないエネルギーで実現することができる。これにより、固定型および可動型の肉厚を薄くすることによって射出成形用型装置を全体として小型化することができることに加えて、温度コントロールに要する消費電力を更に削減することができる。
本発明の他の態様では、固定型および可動型を高熱伝導度材料により構成する一方、固定型にはスプルーの周囲にブッシュを備え、当該ブッシュを低熱伝導度材料により構成している。
また、本発明の他の態様では、固定型および可動型を低熱伝導度材料により構成する一方、キャビティの周囲に冷却水孔を備え、キャビティおよび冷却水孔の周囲を高熱伝導度材料により構成している。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、溶融樹脂がスプルーを流れているときに、その周囲に形成された低熱伝導度材料によって熱が奪われにくくなり、樹脂固化の進行を遅らせることができる。これにより、射出圧力を更に低減することができるため、射出工程における圧力コントロールに要する消費電力を更に削減することができる。これに伴い、型締に要する圧力も更に低減することができるので、型締圧力を得るために要する消費電力も更に削減することができる。
さらに、射出圧力を更に低減できる分、耐圧を目的とした固定型および可動型の肉厚を更に薄くすることが可能となる。その結果、固定型および可動型の熱容量が更に小さくなるので、射出工程時の加熱と冷却工程時の冷却とを更に少ないエネルギーで実現することができる。これにより、固定型および可動型の肉厚を更に薄くすることによって射出成形用型装置を全体として更に小型化することができることに加えて、温度コントロールに要する消費電力も更に削減することができる。
本発明の他の態様では、固定型のキャビティに抱き付いている成形品を吸着により取り出す取出機構を備えている。
また、本発明の他の特徴によれば、固定型を固定側取付板に直接取り付けるとともに、可動型を可動側取付板に直接取り付けている。あるいは、固定型を固定側取付板に直接取り付けるとともに、取付台として機能するアダプタを介して可動型を可動側取付板に取り付けている。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、突き出しではない手段で成形品を取り出す構成を有しているので、従来のように可動型に抱き付いている成形品を取り出すための突き出しピンや、その関連部材であるリターンピン、エジェクタプレート、スペーサブロックなどを設ける必要がなくなる。これらの部材を設けなくても良い分、固定型および可動型の幅を更に小さくすることができ、射出成形用型装置も全体として更に小型化することができる。
また、固定型および可動型を更に小型化すると、熱容量が更に小さくなるので、射出工程時の加熱と冷却工程時の冷却とを更に少ないエネルギーで実現することができる。これにより、射出工程および冷却工程における温度コントロールに要する消費電力を更に削減することができる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図2は、本実施形態による射出成形用型装置10の構成例を示す図である。図2(a)は型開きした状態、図2(b)は型締した状態を示している。また、図2(c)は射出成形用型装置10の要部を簡易的に表した斜視図を示している。また、図2(d)は突出部材の一部拡大図を示している。
図2において、固定型1は、断面が例えば四角形のプレートであり、その一面には、平坦な第1パーティング面11を有している。可動型2も、断面が例えば四角形のプレートであり、その一面には、第1パーティング面11に対向する平坦な第2パーティング面21を有している。第1パーティング面11と第2パーティング面21は同形同大であり、固定型1および可動型2を型締したときに全面(キャビティ3の部分を除く)にわたって接合するように形成されている。
固定型1の側面の一部には、第1パーティング面11よりも可動型2側に突出する第1突出部材12が設けられている。本実施形態では、第1突出部材12は、固定型1が有する4つ側面のうち、第1パーティング面11を形成する四角形の1組の対辺側に位置する2つの側面に設けられている。第1突出部材12は、1つの側面の全体を覆い、かつ、可動型2側に突出する部分を有する四角形の平板である。当該突出する部分の内側には、図2(d)に示すようにテーパ状の傾斜が形成されている。この第1突出部材12は、固定型1の2つの側面に対して、例えばネジ止めにより固定されている。
可動型2の側面の一部には、第2パーティング面21よりも固定型1側に突出する第2突出部材22が設けられている。本実施形態では、第2突出部材22は、可動型2が有する4つ側面のうち、固定型1および可動型2を型締したときに第1突出部材21と対向しない位置の2つの側面に設けられている。すなわち、第2突出部材22は、第2パーティング面21を形成する四角形の1組の対辺であって、第1突出部材12が設けられた対辺とは異なる対辺側に位置する2つの側面に設けられている。
第2突出部材22は、1つの側面のほぼ全体(後述する冷却水孔5の部分を除く全体)を覆い、かつ、固定型1側に突出する部分を有する四角形の平板である。第2突出部材22の当該突出する部分の内側にも、図2(d)と同様のテーパ状の傾斜が形成されている。この第2突出部材22も、可動型2の2つの側面に対して、例えばネジ止めにより固定されている。第1突出部材12の突出する部分の内側および第2突出部材22の突出する部分の内側にテーパ状の傾斜が形成されることにより、型締をするときに固定型1と可動型2との位置が正しく合うようにテーパによりガイドされる。
3はキャビティであり、第1パーティング面11に対して凹部を設けることにより形成される。図2の例の場合、凹部の空間形状そのものがキャビティ3の形状であり、成形品の形状となる。したがって、キャビティ3を構成する凹部の空間形状は、成形品の形状に合わせて所望の形状とすることができる。
4は固定型1に設けられたスプルーであり、これによって成形機(図示せず。以下同様)のノズル200からキャビティ3までの溶融樹脂の流路が形成される。スプルー4のキャビティ3側の先端にはゲートが設けられている。本実施形態では、スプルー4とキャビティ3との間にランナーは設けていない。すなわち、成形機のノズル200から射出された溶融樹脂は、スプルー4を通ってダイレクトにキャビティ3に到達する。
5は冷却水孔であり、固定型1および可動型2の両方に設けられている。この冷却水孔5は、固定型1および可動型2を冷却するための冷却水が流れる流路である。固定型1および可動型2を冷却するのは、キャビティ3に充填された溶融樹脂を冷やして固めるためである。よって、この冷却効果を高めるために、固定型1においてはキャビティ3の周辺に冷却水孔5を設けるのが好ましい。また、可動型2においては、図2(b)のように型締されたときにキャビティ3に最も近づく凸部に冷却水孔5を設けるのが好ましい。また、冷却水孔5からキャビティ3までの熱伝導を良くするために、固定型1および可動型2は熱伝導度の高い鉄鋼材料などで構成するのが好ましい。
図2(a)(b)に示すように、第2突出部材22には、固定型1側の冷却水孔5および可動型2側の冷却水孔5を覆って塞いでしまうことがないように、切り欠き部23が設けられている。なお、図2(c)では第1突出部材12および第2突出部材22の配置関係のみを簡易的に示しているため、切り欠き部23は図示を省略している。
6はスプルー4の周囲に形成されたブッシュであり、鉄鋼材料に比べて熱伝導度が低い材料(例えば、セラミック)により構成されている。本実施形態では、ブッシュ6はスプルー4の周囲を覆うように形成されている。なお、固定型1および可動型2に用いられる鉄鋼材料と比べて熱伝導度が低い材料であれば、セラミック以外のものを用いてもよい。
このようにブッシュ6を構成した場合、ブッシュ6の熱伝導度が低いので、射出工程の際にスプルー4を流れる溶融樹脂からブッシュ6に対して熱が奪われにくくなり、スプルー4内での樹脂固化の進行を遅らせることができる。また、冷却工程の際にも冷却水による冷温がブッシュ6に対して伝わりにくくなり、スプルー4内に残った溶融樹脂を比較的高温のまま保つことができる。
7は固定側取付板であり、成形機に対して固体型1を取り付けるためのものである。8は可動側取付板であり、成形機に対して可動型2を取り付けるためのものである。本実施形態では、受板やスペーサブロックを介して可動型2を可動側取付板8に取り付ける構造ではなく、可動型2を可動側取付板8に対して直接取り付ける構造としている。
固定側取付板7に固定型1を、可動側取付板8に可動型2を取り付ける際には、まずスプルー穴中心と固定側取付板7のノズル穴中心に合わせて固定型1を固定し、可動型2を可動側取付板8に仮固定した状態で型締する。このとき、第1パーティング面11よりも可動型2側に突出する第1突出部材12と可動型2の側面とが接合するとともに、第2パーティング面21よりも固定型1側に突出する第2突出部材22と固定型1の側面とが接合することにより、固定型1および可動型2の位置決めが行われる。
すなわち、固定型1の向かい合う側面に設けられた2つの第1突出部材12と、可動型2の向かい合う2つの側面(第2突出部材22が設けられていない側面)とがそれぞれ接合することにより、当該2つの第1突出部材12が向かい合う第1方向に対する固定型1と可動型2との位置決めが行われる。
同時に、可動型2の向かい合う側面に設けられた2つの第2突出部材22と、固定型1の向かい合う2つの側面(第1突出部材12が設けられていない側面)とがそれぞれ接合することにより、当該2つの第2突出部材22が向かい合う第2方向(第1方向に対して直角な方向)に対する固定型1と可動型2との位置決めが行われる。
このようにして固定型1と可動型2との位置決めが行われた時点で、可動側取付板8に可動型2を本固定する。
図3は、上記のように構成した射出成形用型装置10を用いた射出成形機の構成例を示す図である。なお、この図3において、図2に示した構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付している。また、射出成形用型装置10の構成については既に詳しく説明したので、一部図示を省略して簡略的に示している。
図3において、9は取出機構であり、固定型1のキャビティ3に抱き付いている成形品を吸着により取り出すためのものである。本実施形態では、取出機構9は、複数の関節を有するアーム9aと、アーム9aの先端に設けられた吸着パッド9bとにより構成され、例えば真空吸着により成形品をキャビティ3から取り出す。
30はタイバーであり、その一端側は固定側取付板7に固定され、他端側は可動側取付板8に設けた孔に挿入されている。このタイバー30は、可動型2が可動側取付板8と共に移動するときに、その移動の経路を案内するガイドとしての役割を持つ。300は油圧シリンダであり、可動側取付板8(およびこれに取り付けられた可動型2)の移動を制御する。
201は成形機のシリンダ、202はスクリュー、203はホッパー、204は油圧モータ、205は加熱ヒータである。ホッパー203から投入された原料樹脂は、シリンダ201内で加熱ヒータ205により加熱されるとともにスクリュー202により混練され、シリンダ201の先端にあるノズル200から射出成形用型装置10に向けて射出される。
次に、上記のように構成した本実施形態による射出成形用型装置10の動作を説明する。本実施形態の射出成形用型装置10による射出成形も、従来と同様、型締、射出、保圧、冷却、型開き、離型の工程順で行われる。
最初の型締工程では、成形機の油圧シリンダ300を作動させて、可動側取付板8およびこれに取り付けられた可動型2を固定型1の方向に移動させることにより、固定型1および可動型2の両方を所定圧で型締する。このとき、取出機構9は退避している。固定型1および可動型2を型締したときに、図2(b)に示すように、第1パーティング面11と第2パーティング面21とが接合する。
このとき、第1パーティング面11よりも可動型2側に突出する第1突出部材12と可動型2の側面とが接合するとともに、第2パーティング面21よりも固定型1側に突出する第2突出部材22と固定型1の側面とが接合することにより、固定型1および可動型2の位置決めが行われる。
射出工程では、成形機のシリンダ201内で溶融した樹脂を射出成形用型装置10内に流し込み、キャビティ3内に溶融樹脂を充填させる。保圧工程では、溶融樹脂がしっかりキャビティ3内に充填されるように、溶融樹脂を追加充填しながら射出成形用型装置10に圧力をかけ続ける。なお、保圧の際にかける圧力は、樹脂充填中に比べて小さな圧力でよい。冷却工程は、保圧工程とほぼ同時進行で進む。冷却工程では、冷却水孔5に冷却水を流すことにより、固定型1および可動型2を一定温度以下となるように冷却する。
キャビティ3内で溶融樹脂が冷やされ成形品として十分に固まった後、型開き工程では、油圧シリンダ300を逆方向に作動させて可動型2を固定型1から離れる方向に移動させる。そして、離型工程では、固定型1と可動型2との間にできた空間に取出機構9のアーム9aを移動させて、固定型1に抱き付いている成形品を吸着パッド9bに吸着させて取り出す。ここで、キャビティ3内の樹脂(成形品)は冷却により十分に固まっているが、スプルー4内に残った溶融樹脂は比較的高温のまま保たれている。また、スプルー4の先端はゲート構造になっている。そのため、キャビティ3内の成形品だけをスプルー4内の樹脂から切り離して取り出すことが可能である。
以上詳しく説明したように、本実施形態の射出成形用型装置10では、第1パーティング面11を有する固定型1の2つの側面に、第1パーティング面11よりも可動型2側に突出する第1突出部材12を設けている。また、第1パーティング面11と同形同大の第2パーティング面21を有する可動型2の側面であって、固定型1および可動型2を型締したときに第1突出部材12と対向しない位置にある2つの側面に、第2パーティング面21よりも固定型1側に突出する第2突出部材22を設けている。
このように構成した本実施形態の射出成形用型装置10によれば、固定型1と可動型2との位置決めが、第1パーティング面11よりも可動型2側に突出する第1突出部材12と可動型2の側面との接合、および第2パーティング面21よりも固定型1側に突出する第2突出部材22と固定型1の側面との接合によって行われるので、当該位置決めのためにガイドピンを設ける必要がなくなる。ガイドピンを設けなくても良い分、固定型1および可動型2の幅を小さくすることができる。
また、本実施形態の射出成形用型装置10では、固定型1のキャビティ3に抱き付いている成形品を、取出機構9を用いて吸着により取り出すようにしている。従来は可動型側に設けられた突き出しピンを用いて成形品を金型から取り出すために、例えば固定型よりも可動型に対する抱き付き力が大きくなるような構造を採ることにより、成形品が可動型に抱き付くようにしていた。これに対して、本実施形態では、成形品を可動型に抱き付かせるための構造をあえて採用せず、成形品を固定型1に抱き付かせるようにしている。そして、固定型1に抱き付いている成形品を吸着により取り出すようにしている。
そのため、図1に示した従来例のように可動型102に抱き付いている成形品を取り出すための突き出しピン111や、その関連部材であるリターンピン112、エジェクタプレート113、スペーサブロック110などを設ける必要がなくなる。よって、これらの部材を設けなくても良い分、固定型1および可動型2の幅を小さくすることができる。以上により、射出成形用型装置10も全体として小型化および軽量化することができる。
固定型1および可動型2を小型化できると、熱容量が小さくなるので、射出工程時に樹脂固化が起こりにくくなるようにするために行う固定型1および可動型2に対する加熱と、冷却工程時に行う固定型1および可動型2に対する冷却とを従来に比べて少ないエネルギーで実現することができる。これにより、射出工程および冷却工程における温度コントロールに要する消費電力を削減することができる。
また、本実施形態の射出成形用型装置10では、成形機のノズル200から射出された溶融樹脂がキャビティ3に至るまでの流路として、スプルー4を固定型1に形成している。この構成によれば、成形機のノズル200からキャビティ3に至るまでの流路上にランナーがなくなり、従来に比べて流路を短くすることができる。このため、流路上での溶融樹脂の固化が起こりにくくなるようにすることができ、それに伴い、溶融樹脂に対して加圧すべき射出圧力を低減することができる。
さらに、本実施形態の射出成形用型装置10では、スプルー4の周囲にブッシュ6を設け、当該ブッシュ6をセラミック等の低熱伝導度材料により構成している。そのため、溶融樹脂がスプルー4を流れているときに、その周囲に形成されたブッシュ6によって熱が奪われにくくなり、樹脂固化の進行を遅らせることができる。これにより、溶融樹脂に対して加圧すべき射出圧力を更に低減することができる。
これにより、射出工程時に行う溶融樹脂に対する加圧を従来に比べて少ないエネルギーで実現することができ、射出工程における圧力コントロールに要する消費電力を削減することができる。また、射出圧力を低減することができると、型締に要する圧力も低減することができるので、型締圧力を得るために要する消費電力も削減することができる。
また、射出圧力を低減できると、耐圧を目的とした固定型1および可動型2の肉厚を薄くすることが可能となる。すなわち、上述のようにガイドピンや突き出しピンなどを省略することにより固定型1および可動型2の幅を小さくすることができることに加え、肉厚も薄くすることができる。その結果、固定型1および可動型2の熱容量が更に小さくなるので、射出工程時の加熱と冷却工程時の冷却とを更に少ないエネルギーで実現することができる。これにより、固定型1および可動型2の肉厚を薄くすることによって射出成形用型装置10を全体として小型化および軽量化することができることに加えて、温度コントロールに要する消費電力を更に削減することができる。
上記のように構成した本実施形態の射出成形用型装置10によれば、従来の金型に比べて、体積および重量で数十分の1以下に小型化することができる。射出成形用型装置10を小型化することに伴い、それを心臓部として用いる射出成形機全体の小型化も図ることができる。これにより、工場における設置スペースのムダを大幅に削減して工場面積を縮小化することができる。
また、本実施形態の射出成形用型装置10によれば、従来の金型に比べて、圧力コントロールおよび温度コントロールに要する消費電力を数十分の1以下に低減することができる。これにより、消費電力のムダを大幅に削減してCO2排出量も格段に低減することができる。
なお、上記実施形態では、固定型1の第1パーティング面11および可動型2の第2パーティング面21を平坦な形状としたが、本発明はこれに限定されない。型締をしたときに第1パーティング面11と第2パーティング面21とがきちんと接合すれば、形状は任意である。ただ、加工の容易さ等を考慮すれば、平坦な形状とするのが好ましい。
また、上記実施形態では、固定型1の第1パーティング面11に対して凹部を設けることによってキャビティ3を形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、可動型2の第2パーティング面21に対して凹部を設けることによってキャビティ3を形成するようにしてもよいし、第1パーティング面11および第2パーティング面21の両方に凹部を設けることによってキャビティ3を形成するようにしてもよい。あるいは、第1パーティング面11に対して凹部を設けるとともに、第2パーティング面21に対して凸部を設けることにより、型締によって凹部と凸部との間にできる空間によりキャビティ3を形成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、固定型1の一側面の全面にわたって第1突出部材12を設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図4(a)または(b)に示すように、固定型1の一側面の一部に第1突出部材12を設けるようにしてもよい。これと同様に、可動型2の一側面の一部に第2突出部材22を設けるようにしてもよい。
なお、図4(a)のように、第1突出部材12および第2突出部材22をコーナー2箇所にまとめて設ける場合には、これらの突出部材12,22がないコーナー2箇所で固定型1と可動型2とが位置ずれしてしまうことを防ぐために、第1突出部材12および第2突出部材22の幅を一定以上(例えば、固定型1および可動型2の側面の幅の1/2以上)とするのが好ましい。また、図4(a)では1つの側面に1つの第1突出部材12あるいは第2突出部材22を設けているが、1つの側面に複数の第1突出部材12あるいは第2突出部材22を設けてもよい。
このように、可動型2の一側面の一部に第2突出部材22を設けるように構成した場合、図2(a)のような切り欠き部23の加工をせずとも、固定型1側および可動型2側の冷却水孔5を避けて第2突出部材22を配置することができる。切り欠き部23が不要なので、第2突出部材22の加工が容易である。
また、上記実施形態では、固定型1の側面および可動型2の側面の両方に第1突出部材12と第2突出部材22とを備える例について説明したが、固定型1の側面または可動型2の側面のどちらか一方にのみ第1突出部材12または第2突出部材22を設けてよい。例えば図4(c)は、第2突出部材22の側面にのみ複数の第2突出部材22を設けた状態の平面図を示している。このように、固定型1の側面または可動型2の側面のどちらか一方にのみ突出部材を設ける場合、全ての側面に突出部材を設けるのが好ましい。
また、上記実施形態では、第1突出部材12および第2突出部材22を四角形の平板で構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1突出部材12と可動型2の側面とが接合するとともに、第2突出部材22と固定型1の側面とが接合すれば、第1突出部材12および第2突出部材22の形状は任意である。
また、上記実施形態では、固定型1および可動型2を、断面が四角形のプレートにより構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、第1パーティング面11および第2パーティング面21の形状は、四角形に限定されない。
例えば、固定型1および可動型2を、断面が六角形のプレートにより構成し、第1パーティング面11および第2パーティング面21の形状を六角形としてもよい。この場合、第1パーティング面11を構成する六角形の各辺のうち、例えば互いに隣接しない3つの辺が位置する3つの側面に第1突出部材12を設ける。また、第2パーティング面21を構成する六角形の各辺のうち、互いに隣接しない3つの辺であって、第1突出部材12と対向しない辺が位置する3つの側面に第2突出部材22を設ける。なお、辺の数が偶数である他の多角形により第1パーティング面11および第2パーティング面21を構成する場合も同様である。
また、固定型1および可動型2を、断面が五角形のプレートにより構成し、第1パーティング面11および第2パーティング面21の形状を五角形としてもよい。この場合、第1パーティング面11を構成する五角形の各辺のうち、例えば互いに隣接しない2つの辺が位置する2つの側面に第1突出部材12を設ける。また、第2パーティング面21を構成する五角形の各辺のうち、第1突出部材12と対向しない辺が位置する3つの側面に第2突出部材22を設ける。なお、辺の数が奇数である他の多角形により第1パーティング面11および第2パーティング面21を構成する場合も同様である。
また、固定型1および可動型2を、断面が円形のプレートにより構成し、第1パーティング面11および第2パーティング面21の形状を円形としてもよい。この場合、第1パーティング面11を構成する円周のうち、例えば円の中心を挟んで互いに対向する位置にある2つの円弧(例えば、中心角が90度の円弧)に対応する2つの側面に第1突出部材12を設ける。また、第2パーティング面21を構成する円周のうち、第1突出部材12と対向しない位置にある円弧(例えば、中心角が90度の円弧)に対応する2つの側面に第2突出部材22を設ける。
大きな板材から断面多角形のプレートを切り出すには多面加工が必要であるのに対し、円柱状の丸材から断面円形のプレートを切り出すには3面加工でよく、加工が容易でコストも安く済むというメリットがある。なお、固定型1および可動型2を円柱状とした場合、その側面に取り付ける第1突出部材12および第2突出部材22の形状は、円弧に沿ったカーブを有する曲面材で構成してもよいが、加工が容易な屈折材(例えば、平面材を鉤状に折り曲げたもの)で構成してもよい。
また、上記実施形態では、第1突出部材12を固定型1の側面にネジ止めし、第2突出部材22を可動型2の側面にネジ止めする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ネジ止め以外の手段により固定するようにしてもよい。また、第1突出部材12と固定型1、第2突出部材22と可動型2とをそれぞれ一体成形するようにしてもよい。ただし、第1突出部材12と固定型1とを別体とし、第2突出部材22と可動型2とを別体として何らかの手段で固定する方が、加工が容易という点で好ましい。
また、上記実施形態では、小型化した射出成形用型装置10を小型化した成形機に用いる例(図3)について説明したが、本発明はこれに限定されない。現在ではどこの工場でも、大型の射出成形用金型を大型の成形機に用いているが、大型の金型を小型の射出成形用型装置10に交換すると同時に、大型の成形機を小型の成形機に交換するのは、コスト負担の関係上、難しいかもしれない。
そこで、大型の金型を小型の射出成形用型装置10に交換するだけで、成形機については従来の大型のものをそのまま使えるように、成形機に射出成形用型装置10を取り付けるためのアダプタを設けてもよい。図5は、本実施形態の射出成形用型装置10を、従来の大型の成形機に対してアダプタにより取り付ける構造の例を示す図である。
図5において、図3に示した構成要素と同一の機能を有するが図3よりも大型の構成要素には、同一の符号に「’」の記号を付して示している。31は成形機の固定盤(固定側取付板を取り付けるための板)であり、32は成形機の可動盤(可動側取付板を取り付けるための板)である。図5では図示を省略しているが、アーム9aの取り付け位置は固定盤31となる。
図5に示すタイバー30’は、その一端側が固定盤31に固定され、他端側が可動盤32に設けた孔に挿入されている。このタイバー30’は、可動型2が可動側取付板8および可動盤32と共に移動するときに、その移動の経路を案内するガイドとしての役割を持つ。油圧シリンダ300’は、可動盤32(およびこれに取り付けられた可動側取付板8および可動型2)の移動を制御する。
50はアダプタであり、成形機の可動盤32に対して取り付けられている。可動側取付板8は、このアダプタ50上に固定されている。このアダプタ50は、固定型1と可動型2との空間距離を縮めるために用いる取付台であり、可動側取付板8を取り付ける面が可動盤32と平行になっていれば、アダプタ50の形状は任意である。
図5のように大型の成形機を用いる場合、可動盤32の可動範囲には制限がある。すなわち、大型の成形機に大型の金型を取り付ける場合、可動盤32の可動範囲は少なくてよい。その関係上、可動盤32に対して可動側取付板8を直接取り付けると、固定型1の方向に可動盤32を最大限移動させても、可動型2が固定型1まで届かず、型締できない状態となってしまう。これに対して、アダプタ50を用いて可動側取付板8を取り付ければ、大型の成形機を用いた場合であっても、固定型1と可動型2の型締を確実に行うことができる。
また、上記実施形態では、取出機構9をアーム9aおよび吸着パッド9bにより構成し、真空吸着により成形品を取り出す例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、固定型1および固定側取付板7に対して成形機側からキャビティ3側まで貫通する通気孔60を設け、この通気孔60を通じて固定側取付板7側からキャビティ3に向けて空気を吹き付けることにより、その空気圧で成形品を取り出すようにしてもよい。なお、溶融樹脂が通気孔60に逆流しないように、通気孔60の先端に逆流防止弁61を設けるのが好ましい。
また、上記実施形態では、固定型1および可動型2を鉄鋼材料等の高熱伝導度材料により構成する一方、スプルー4の周囲にブッシュ6を設け、当該ブッシュ6をセラミック等の低熱伝導度材料により構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、固定型1および可動型2をセラミック等の低熱伝導度材料により構成する一方、スプルー4の周囲にブッシュ6を設ける代わりに、キャビティ3および冷却水孔5の周囲を鉄鋼材料等の高熱伝導度材料により構成するようにしてもよい。このようにすれば、射出成形用型装置10を更に軽量化することができる。
また、上記実施形態では、溶融樹脂がキャビティ3に至るまでの流路としてスプルー4を固定型1に形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図7に示すように、成形機のノズル200の形状に合わせた凹部を固定型1に形成し、当該ノズル200の先端をキャビティ3に当接させることにより、当該ノズル200自体を樹脂流路としてもよい。ノズル200の先端穴はゲートのように細くする。この場合、ノズル200はヒータ205により加熱されているので、セラミック製のブッシュをノズル200の周囲に設ける必要はない。なお、ノズル200の近辺にもヒータ205を設けるのが好ましい。
また、上記実施形態では、射出成形用型装置10が固定側取付板7および可動側取付板8を備える例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、固定側取付板7および可動側取付板8は必須の構成ではない。例えば、図3の変形例として、固定側取付板7および可動側取付板8の代わりに成形機の固定盤および可動盤を設け、固定型1を固定盤に、可動型2を可動盤に直接取り付けてもよい。また、図5の変形例として、固定型1を成形機の固定盤31に、可動型2をアダプタ50に直接取り付けてもよい。
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。