【発明の詳細な説明】
生物学的互換ヒドロキシアパタイト製剤及びその使用
発明の背景
本発明は、主に、スパーリング的に溶解可能な(sparlingly soluble)、即ち
生体内の成分をあまり消費せずに溶解可能なカルシウムリン酸塩の組み合わせ及
びその用途に関する。より詳細には、カルシウムリン酸塩は、液体と組み合わさ
れて、ヒドロキシアパタイトのペーストあるいはスラリーを形成する。このヒド
ロキシアパタイトは、医学的、歯科的その他多くの用途に用いられる。種々の生
物学的的に許容される、即ち生物適合(biocompatibile)、即ち生物学的適合性
を有する添加剤を、用途に合わせて上記のスラリーやペーストに添加することが
可能である。
従来の技術
ヒドロキシアパタイトは、カルシウムリン酸塩ミネラルであり、主に、人体の
骨や歯の構成成分となっている。ヒドロキシアパタイトは、それぞれリン酸塩に
対するカルシウムの比率、結晶構造、物理特性等が異なる種々のカルシウムリン
酸塩ミネラルのわずか一種に過ぎない。アパタイトは、非常に広範囲の化合物に
対して用いられる一般的な用語であり、一般式M2+ 10(ZO4 3-)6Y- 2で表される。
ただし、この一般式において、Mは金属原子、特にアルカリ又はアルカリ土類金
属であり、ZO4は酸ラジカル、Zはリン酸、ヒ素、バナジウム、硫黄、ケイ素のい
ずれか、あるいは、そのすべてまたは一部が炭酸塩(CO3-)で置換されてもよい。
Yはアニオン、通常はハロゲン化物、ヒドロキシ基、あるいは炭酸塩である。
スパーリング的に可溶なカルシウムリン酸塩の組み合わせ、特に、テトラカル
シウムリン酸塩とその他のスパーリング的に可溶なカルシウムリン酸塩との組み
合わせは、両者が固体、水溶液系又は非水溶液系相での平衡状態又は双方の塩が
過剰の準平衡状態のいずれにおいても、ヒドロキシアパタイト、即ち、Ca5(PO4)3
OHの沈殿が可能である。双方のカルシウムリン酸塩が、同じ飽和溶液の平衡状
態に近く、加えてヒドロキシアパタイトに対して過飽和状態にあるならば、この
組成物からのヒドロキシアパタイトの沈殿が続く。沈殿したヒドロキシアパタイ
トは、"in vivo"即ち生体内の状態でも、あるいは"ex vivo"即ち生体外の状態
でも、形成可能であり、種々の機械的および生物学的特性を有する。例えば、こ
のような特性として、高度、柔軟性、多孔性、溶解性、生物学的吸収,生物学的
分解、組織接着性、及び柔軟な組織や硬い組織による置換等が挙げられる。
ヒドロキシアパタイト及びその変成物等は、骨、歯、及びある種の無脊椎動物
の骨に天然に得られる。ヒドロキシアパタイトの結晶は、骨や歯のマトリクス内
に、セルや組織マトリクス材、例えば架橋コラーゲン等の繊維質プロテイン、及
びミネラル結合プロテイン、例えばglaプロテイン、象牙質、エナメル質と共に
埋め込まれる。
脊椎動物及び自然の歯を有する動物は、すべて、骨や歯のマトリクスのミネラ
ル化が可能である。このミネラル化は、適切な生理学的なpH、温度及びイオン条
件下で、ヒドロキシアパタイト結晶の沈殿を通じて行われる。その結果得られる
組織は、高度に細胞化したものではなく、ある種のユニークな特性、例えば大き
な機械的強度、フレキシビリティ、生理学的活性、連続的自己改造(self-remod
eling)等が見られる。
その独特の特性から、ヒドロキシアパタイトは、非常に生物学的互換性を有す
る物質である。骨の内部にあるこのようなヒドロキシアパタイトの独特の特性か
ら、ヒドロキシアパタイト、セラミクス及びその他の硬いカルシウムリン酸塩ヒ
ドロキシアパタイト、例えばα−及びβ−リン酸トリカルシウム(tricalcium
phosphates)等をインプラント(implant)即ち移植用材料とし用いる研究がな
されている。これらの材料は、形成及び再建手術において、骨の欠損部の修復に
広く用いられており、また、骨に歯を固着するためにも用いられている(例えば
、歯や歯周病の治療や形成外科等に用いられる)。多くの物理的及び化学的な変
更を加えることで、(i)機械的強度を高くして、ヒドロキシアパタイトのみ又は
ヒドロキシアパタイト化合物のインプラントを、負荷のかかる部位における骨の
欠損
部のインプランとに用いるようにする、(ii)多孔率を変えることで、インプラン
ト内への骨の侵入成長即ちイングロウスを促進することで、新しく成長した骨組
織にインプラントが効果的に取り込まれるようにする、(iii)粒状とすることで
、外科的な欠損部分へのパッキングを可能とする、等の試みがなされている。
上記用途に加えて、骨の構造の形成に用いられる種々の細胞を形成及び成長さ
せると信じれられる生物学的な要因も、「誘導的」特性を有するヒドロキシアパ
タイト化合物インプラントの形成に用いられている。
ヒドロキシアパタイトは、その他の用途も知られており、例えば骨の修復や、
歯の再ミネラル化にも用いられている。このような用途は、ブラウン(Brown)等
に付与された米国特許第33,221号や第33,161号等に開示されている
。その例として、歯の損傷部(lesion)や空洞部の修復が挙げられる。歯の表面
に初期損傷や空洞の成長が生じた場合、従来の治療においては、空洞部の充填が
行われていた。この治療処理は、病巣の拡大を抑制することは可能であるが、歯
を元の状態に戻すわけではない。しかし、歯に生じた初期損傷部を再ミネラル化
する技術が研究されている。再ミネラル化の目的は、ヒドロキシアパタイトをカ
リエス空洞に堆積させ、この空洞部の歯のエナメル質構造内にヒドロキシアパタ
イトが取り込ませることである。このようにして、再ミネラル化を行うことで、
歯の損傷の拡大が防がれるとともに、歯の修復もなされる。一般に、再ミネラル
化に用いられる過飽和溶液やスラリーは、リン酸カルシウムの単一フォームから
調製される。しかし、種々の理由から、これらの溶液やスラリーは、満足できる
ものではない。例えば、これらの過飽和溶液内において再ミネラル化に使用可能
であるカルシウムイオンやリン酸イオンは、比較的少なく、したがって必要とな
る流体の体積が大きくなるとともに、繰り返し再ミネラル化を行う必要がある。
単一のリン酸カルシウム、β−Ca3(PO4)2をパルプキャッピング即ち歯髄覆
罩に用いることは、ドリスケル(Driskell)等による「顎顔面用のセラミック及び
セラミック化合物デバイスの改良[Development of Ceramic and Ceramic C
omposite Devices for Maxillofacial Application:J.Biomed.Mat.Res.6:34
5-361(1972)]」において示唆されている。また、Ca4(PO4)2Oを歯髄覆罩剤として
使用可能であるということは、IADRアブストラクトNo.120[IADR Abstract.
NO.120,J.Dent.Res.54:74(1975)]における発明者らによって示唆されている。こ
れらの単一のリン酸カルシウムセメントは、しかしながら、硬くかつ高密度にセ
ッティングすることはできず、また、上述した単一のリン酸カルシウム再ミネラ
ル化剤と同様の難点がある。例えば、pH値をある程度一定に保つことができない
うえ、十分な再ミネラル化容量が得られない。
骨組織の置換用のカルシウム系のインプラントもまた、何年も前から存在する
。これらのインプラントの殆どは、予め製造及び焼結されたヒドロキシアパタイ
トを粒状もしくはブロック形態で用いている。これらの前処理においては、骨の
欠陥とのなじみ難さの他にも、いくつかの難点が存在し、特にブロックの場合、
粒同士の構造一体性に難点がある(粒同士が互いに結合しない)。又、失われた
骨組織の形状に適合した形状を有するインプラントを形成することは困難である
。
ヒドロキシアパタイトの種々の形態や、その製造方法、その他の高分子性物質
との適合性、生物学的骨組織構造成分、例えばコラーゲンとの混合、ある種の診
断薬剤あるいは治療薬との組み合わせの使用、及び生物学的活性タンパク質又は
ポリペプチドとの混合等の技術が、技術文献や特許文献に種々記載されている。
このような文献をすべて挙げるとばく大になるので、本発明に関連する例を以下
に挙げる。米国特許第4,795,467号、第4,865,602号、第4,
992,226号、5,123,925号、及び5,246,457号等には、
骨の修復のためのミネラル-コラーゲン混合物の調製技術が、その滅菌方法も含
めて開示され、この技術では、ミネラル成分は、好適には粒径サイズが約100
−2000μmであるヒドロキシアパタイトまたはリン酸トリカルシウムとから
選択される。また、コラーゲンは、成形性をよくするために添加されるか、ある
いは、セラミック粒子内の多孔性の間隙をコーティングするために用いられる。
米国特許第5,204,382号及び国際特許出願WO93/16657号には
、注射可能な組成物であって、粒径50−250μmの微粒子セラミック材及び
コラーゲン又はその他の生物学的に互換性を有する有機ポリマーが開示されてい
る。これらの組み合わせは、セラミック粒子を残して生物学的に互換性を有する
成分をとばすことで、硬質組織あるいは軟質組織の修復及び増強(augumentatoin
)を行うために用いられている。
この特許文献は、骨の再生に使用される生物学的ファクターをヒドロキシアパ
タイト[ホームズ等による「プラスチック及び再生外科(Plastic and Recons
tructive Surgery Volume 63,page 626,1979)」に開示される珊瑚状ヒド
ロキシアパタイトを含む]あるいはリン酸トリカルシウム粒と混合する技術、及
びこのような製剤の骨の修復への使用が開示されている。これらの開示内容は、
いずれも、ヒドロキシアパタイトの前成物質(オクタカルシウムリン酸塩又はβ
−トリカルシウムリン酸塩)に関するものであり、実質的に均一な一つの形態の
リン酸カルシウム塩を用いるか、このリン酸カルシウム塩から製造されるものと
なっている。このリン酸カルシウム塩には、その原料及び製造方法により起因す
る混入物あるいは不純物が含まれる。
ブラウン(Brown)及びチョウ(Chow)による米国特許第33,221号や第
33,161号等には、リン酸カルシウム塩、例えば無水テトラカルシウムリン
酸塩に可溶なスラリー、パウダー、及びペーストが開示されており、これらは、
室温条件下における広範囲の液相条件でヒドロキシアパタイトを沈殿可能である
。米国特許第4,880,610号、第5,047,031号、第5,053,
212号、第5,129,905号、第5,178,845号及び国際出願番号
WO92/02543号 、EP0,347028A2号、コンスタンツ(Cons
tantz)等によるEP0,416,761A1号には、ある種の生体内原位置、
即ちイン-シツの状態でのカルシウムリン酸塩ミネラル方法、リン酸塩の供給源
が実質的に無水形のリン酸である、カルシウムとリン酸塩との親密混合物、及び
それにより得られる化合物、及びその骨の修復への使用が記載されている。
コンスタンツ等は、また、このような材質を、骨の補綴のコーティングへの使
用が開示されている。また、米国特許第5,164,187号、第5,188,
670号、及び国際特許出願EP0,383,568号A2号をも参照されたい
。米国特許第5,034,059号、5,231,169号、及び国際特許出願
WO93/12736号には、コラーゲンを組み合わせるか、あるいはミネラル
化することにより、物理的に骨に類似する特性を得る技術が開示されている。J
P1,111,762号には、リン酸テトラカルシウムを含有するパウダーある
いはパウダー混合物、及び溶液を混練して、水と接触することでヒドロキシアパ
タ
イトを生成する、硬化組成物を得る技術が開示されている。
EP436,499号は、カルシウムリン酸塩タイプパウダーを、高度にアク
ティブなパウダーとして、また、カルシウムリン酸塩タイプの硬化剤の成分とし
て製造する技術を開示している。これらの材質は、高度に流動性を有して成形性
を有する、マイルドな条件下において硬化する材質である。
コクボ(Kokubo)等に付与された米国特許第5,068,122号には、骨状
のバイオアクティブなヒドロキシアパタイトのフィルムを、熱処理及びある範囲
のCa2+イオン及びHPO4 2-イオンを含有する溶液からヒドロキシアパタイトを沈殿
させることによる、所望基質表面に形成する方法が開示されている。リウ(Liu
)等は、リン酸テトラカルシウムを単独あるいはα-トリカルシウムリン酸塩を
ベースとして用いて、比較的高い表面pHを有するリン酸カルシウムセメントを
製造する方法を開示しており、その生物学的互換性から、整形科、歯科、及び顎
顔面の治療に有用であると考えられる。この点は、米国特許第5,149,36
8号に記載されている。予め調製されたヒドロキシアパタイトとは異なり、カル
シウムリン酸塩セメントは、種々のカルシウムリン酸塩前駆物質を有し、沈殿さ
れるヒドロキシアパタイトに対して、バイオアクティブな基質、例えばプロテイ
ンを取り込むことで、骨等の組織の能動再生を誘導するインプラントの製造が可
能となっている。コラーゲン等の組織マトリクスプロテインを取り込むことで、
骨や軟質組織を含む組織の成長に望ましいマトリクスであるインプラントが提供
されている。しかし、これらの参照文献は、バイオアクティブあるいは生物学的
適合性を有するプロテインの取り込みや、組織修復用途に用いられるインプラン
トとしてのヒドロキシアパタイトの特性の向上手段としての、関連する基質にの
み関するものである。
多くの特許、特許出願及び公報においては、組織挙動(tissue behavior)に
影響を与える方法、装置及びその使用を開示しており、これには、電界及び電磁
場を用いた治療が含まれる。体外に電極を配置する手法に加えて、電極として働
く侵入性インプラントも、選択された組織サイト及びその周辺に電界や電磁場を
直接あるいはパルス状に発生させるために用いられている。上記文献には、骨折
の治癒または増強、筋肉繊維の緩和、柔軟組織の再生等が報告されている。最も
古い関連特許は、米国特許第3,055,372号である。この特許には、特定
の用途における使用に優れた幾つかの特定の設計が開示されており、例えば、ヒ
ドロキシアパタイトインプラントのポア内への骨の内部成長の促進に用いられる
装置が開示されている。例えば、シミズ等による形成リサーチジャーナル6号の
248〜258ページを参照されたい。しかし、これらの文献は、いずれも、ヒ
ーリングを起こすための電気シミュレーションの効果や機械的効果を調整及び/
又は向上するための製剤や装置に関しては開示がない。
現時点での、ヒドロキシアパタイトを用いた技術や製品には、その他、実用上
の制限だけでなく、コンセプト的に、即ち構想的にも制限がある。主な構想的な
制限は、上述した組織置換にヒドロキシアパタイトを用いるフォーカス、即ち病
巣から生じる。通常、インプラントは、組織のボイドを充填して構造的に支持体
となるか、あるいは、修復又は再生時において新しく形成される組織に組み込ま
れるように用いられる。その結果、ヒドロキシアパタイトの生物学的互換特性の
利用や、これを利用した製剤の開発は殆ど研究されていない。従って、生物学的
特性の利用やこれを利用した製剤を開発することで、ヒドロキシアパタイトをあ
る種の合成ポリマーと同様にして吸収または分解し、主に、生理学的活性マテリ
アルを所定のサイトにローカライズするための生物学的互換マトリクスとして機
能させるか、あるいはこのようなマテリアルの生物学的環境内に、コントロール
した状態で存在させることで有用性を増す、というようなことは行われていない
。本発明にかかる新規な製剤を得るうえでの実際場の制限は、幾つかの大きな技
術的制限から発生している。
第1に、現在のヒドロキシアパタイト技術は、苛酷な製造方法により制限され
ている。殆どのヒドロキシアパタイトインプラントは、極端な物理的あるいは化
学的条件において製造されており、その結果、硬いインプラントは、大きく、ラ
ンダムなポアやギャップを有して、大きい熔融されたマクロ結晶より構成され、
これは、自然の骨や骨格構造内に自然に形成されるマテリアルとは異なるもので
ある。
第2に、通常のヒドロキシアパタイト製剤は、組織コンパチビリティや再吸収
性が制限されているという特徴を有する。例えば、結晶構造の硬度や特性によっ
て、柔軟な組織の修復には使用できない場合がある。これらの難点は、製剤の物
理的特性のみならず、生体側で、許容時間範囲内でマテリアルを完全に再吸収す
ることができないという点にも起因する。第3に、公知の製剤は、コフォーミュ
レーション・キャパシティが制限されている、即ち、複数の製剤をまとめて一つ
の製剤とするのには大きな制限がある。細胞成長を促進する生物学的に活性なフ
ァクターや、細胞成長の良好なサポートとなりうる生物学的互換性を有する基質
は、従来のヒドロキシアパタイトインプラントの表面には、スプレー法、フリー
ズドライ法、又はソーキングによってしか適用することができない。なぜなら、
インプラントの製造に用いられる条件においては、生物学的活性が損なわれてし
まうからである。第4に、周知の製剤における乖離特性が、望ましくない場合が
ある。ヒドロキシアパタイトインプラント表面のコーティングに用いられる生物
学的互換または生物活性を有するマテリアルは、生理学的環境において速やかに
洗い流されるおそれがあり、その結果、基質の局部的濃度が急上昇する一方で、
これらの基質の殆どにおいて要求される長期作用にはマテリアルが全くもしくは
殆ど残らない状態となる。その他にも、現在のヒドロキシアパタイト技術におい
ては種々の難点がある。
発明の概要
ヒドロキシアパタイトの生物学的互換性及び室温条件下でヒドロキシアパタイ
ト結晶の沈殿が可能であるという特性によって、生物学的活性を有する基質を含
有可能な、新規なバイオマテリアルが製造されてきている。これらのバイオマテ
リアルは、その他の高分子[例えば、ダクロン(dacron)、ナイロン、ビニル、
テフロン、アクリル酸等]やエレメンタル(例えばカーボン、チタン等)、合金
(例えばスティール)と共製剤化(coformulation)することや、またはこれらの
コーティングを行うことが可能である。機械的及び生物学的特性に基づいて選択
される新規なバイオマテリアルは、カバーリングや組織の充填における構造的支
持に有用であり、また、その他の機械的デバイスの安定化にも有用である。また
、組織構造の修復、再生、増強の促進あるいはサポート、あるいは、予防接種あ
るいは遺伝子療法における遺伝物質や抗原マテリアルのデリバーや離脱、また、
抗
生物質や化学療法剤やホルモン基質等の薬学的活性剤の局部的、長期的、または
調整的デリバリーによる治療効果を容易に向上するためにも用いられる。さらに
は、圧電場の供給による電磁的刺激のデリバー、直接増幅あるいはパルス的刺激
を行うことによる治療あるいは機械的動作の調整等にも有用である。これらは、
生物適合なヒドロキシアパタイト製剤の用途の単なる一例に過ぎない。
使用する際のコンシステンシーや所望のサイトに応じて、本発明に係る製剤や
方法は、種々の治療用途において、(注射、移植、関節鏡検査、パッキング等の)
投与手段に応じて修正可能である。上述したように、ヒドロキシアパタイトの分
子組成によって、生物適合性が非常に高くなる。成体の脊椎動物の体重は、その
相当の量がリン酸カルシウムからなる。骨はアクティブに再生可能な組織である
ことから、リン酸カルシウムが連続的に相当ターンオーバー即ち代謝している。
高カルシウム血症による異常な状態を除いては、生体のほとんどの器官は、生理
学的リン酸カルシウム代謝に耐えることができ、また、主に腎臓によるリン酸カ
ルシウムの排出システムによって、分解されたリン酸カルシウムの処理が可能で
ある。インプラント(または“in-situ”状態即ち生体内でのインプラント形成
が可能なリン酸カルシウム組成物)の製造においてリン酸カルシウムのバイオコ
ンパチビリティの付与は、医薬用途において適用範囲が極めて広い。このインプ
ラントは、アンビエントな状態あるいは生理学的状態条件下でヒドロキシアパタ
イトの沈殿により形成され、種々のレートで体内に吸収される。
このような生物適合なマテリアルによる製剤(formulation)は、ポリメチルメ
タクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及びこれらの基質の共重合体等の、
天然には存在しない合成ポリマーに対して好適である。これらのポリマーは、広
いコンシステンシーの範囲で得られるが、これらのマテリアルの高分子化や解重
合においては、pHや温度に許容できないまでの変化が生じることが多いので、
有毒な有機溶媒の使用が必要になったり、動物や人体に望ましからざる炎症等を
引き起こすおそれがある。
ヒドロキシアパタイト結晶は、特有の圧電特性を有し、細胞の代謝活性や成長
の調整に効果がある。従って、ヒドロキシアパタイト結晶よりなるインプラント
を用いることで、電気的あるいは電磁的刺激による組織の治療やコントロールさ
れた機械的運動の生成が大きく向上する。このようなインプラントは、その他の
、細胞マニプレーションに用いられる生物適合または生物活性を有する基質を用
いることで、更にその性能が向上する。
従って、本発明の目的は、選択された部位に、種々の生物活性あるいは生物適
合な基質をコントロールされた状態で提供し、また、このような基質を局所的に
あるいは所望の期間にわたって全身に徐々にデリバーすることにある。このよう
なデリバーは、このような基質のその他の手段による投与に比較して、臨床上優
れている。
また、本発明の他の目的は、生物適合な添加剤よりなる可変性のデリバーマト
リクスを得ることである。このデリバーマトリクスは、動物や人体への吸収や生
物学的分解速度の変動に応じて修正可能であり、かつ、そのコンシステンシー即
ち粘度や密度を広範囲に変えることができ(例えば、スラリー、ペースト、硬い
粒状、ブロック、パウダー等)、更に、温度やpHをあまり変化させることなく
硬化及び溶解可能である。
更に、本発明は、適切な再吸収特性、細胞成長サポート能、及び圧電コンダク
タンス容量が適切に組み合わされたインプラントまたはインプラント可能な組成
物の製剤を提供し、電気または電磁的刺激の向上に用いられる。
上記及びその他の目的を達成するために、本発明は、ある種のスパーリング的
に溶解可能なカルシウムリン酸塩の組み合わせを提供し、この組み合わせは、生
物学的及び/又はアンビエントな条件下でヒドロキシアパタイトの沈殿が可能で
ある。また、生物適合または生物活性を有するマテリアルが、この沈殿プロセス
の間に取り込まれ、この取り込まれたマテリアルは、製剤を使用するサイトに長
期間にわたって維持されるか、あるいは周囲の生物学的環境に徐々に解離してい
く。本発明に係る製剤に用いられる塩の組み合わせの組成は、得られるヒドロキ
シアパタイト沈殿物の物理特性(有孔率、張力及び曲げ強度、コンシステンシー
等)及び吸収/生物分解特性によって、上記製剤は、取り込まれた生物適合また
は生物活性を有するマテリアルの機能の向上が可能となる。
本発明の一実施形態において、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、生理
学的条件下(pH、温度、イオン強度等)でのヒドロキシアパタイトの沈殿が可
能であり、かつ、(i)添加された生物適合又は生物活性を有する基質の活性の
保存や、(ii)沈殿された組成全体に、相当均質に基質を含浸させること、が
可能である。この実施形態の一実施例は、それぞれ異なる細胞や組織の形成や成
長をサポートする生物学的にコンパチブルなマテリアルと、このような細胞や組
織の形成を引き起こすかあるいは誘導する生物学的に活性な基質と、を有する製
剤に関する。
他の実施例では、生物学的に活性を有する基質を有する製剤をも予期あるい企
図している。ここでの製剤に含まれる基質は、病んだあるいは望ましくない細胞
や組織を殺し、あるいは、治療において有益な活性を有するある種の活性細胞や
組織を活性化するものである。生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、その他
の技術により用いられるプロダクツやストラクチャーに用いることで、新たな組
み合わせの治療デバイスを得ることも可能である。
他の形態によれば、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤の調製方法も提供さ
れる。リン酸カルシウム塩のベースコンビネーション即ちベース混合物が提供さ
れる。液相でも調製される。また、生物適合な添加物も提供される。これらのコ
ンポーネント即ち成分は、その後に組み合わされて混合物が形成される。その後
、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤がこの混合物から沈殿される。この混合
物を得るには、上記の成分のうちの任意の二つを適切な方法で組み合わせ、その
後に次の第三の成分を加える。または、上記3つの成分を同時に混合してもよい
。この実施形態の種々の実施例によれば、生物適合な添加物は、成長因子、接着
剤、免疫元、ワクチン、遺伝子、組み替え細胞(recombinant cells)、抗生物
質、薬剤、ホルモン、ファイバー、ゲル、空間占有パーティクル、電気刺激向上
剤等のどの成分を用いてもよく、特別な制限はない。この方法により得られた製
剤は、薬学的に許容されるキャリアを含んでもよい。
他の形態によれば、患者の処置方法も提供される。この実施例では、生物適合
なヒドロキシアパタイト製剤は上述の方法により製造される。その後、製造が患
者に投与される。
本発明の他の目的、利点は、以下の実施形態の説明及び図面により、当業者に
容易に理解されるよう開示される。
図面の簡単な説明
図1は、Ca(OH)2、H3PO4、H2Oの三成分系での25℃におけるCa4(PO4)2O、CaH
PO4・2H2O、CaHPO4、Ca8H2(PO4)6・5H2O、β-Ca3(PO4)2、及びCa5(PO4)3OHの溶解
等温線である。
好適実施形態の説明
本発明は、概してリン酸カルシウム塩の選択的混合物に関し、このリン酸カル
シウム塩は、パウダー、スラリー、又はペーストとして形成され、種々の機械的
特性、多孔率、圧電特性、生物学的吸収特性を有する。これらのマテリアルは、
従来の薬剤で用いられている種々の化学剤に対して、また、糖タンパク質、高分
子炭化水素、脂質、糖脂質、糖質製剤(含水炭素)、タンパク質及び核酸に対し
て、新規なデリバリービークル即ちデリバリー溶剤として働く。加えて、これら
のマテリアルは、組織ヒーリング即ち組織治療における電気または電磁刺激の効
果を増大させる。
得られる新規な組成物は、広範囲の治療用途において有用であり、例えば、免
疫またはワクチン法、遺伝子治療等に有用である。また、細胞の選択的除去また
は変化または基質生理的環境からの基質の除去、生物学的構造マテリアル(例え
ば骨、筋肉、肌、鍵、靭帯等)の修復や再生媒介される治療的理学療法、歯と骨
との固着、補綴デバイスの固定、ブレスト組織即ち胸の組織等の柔軟な組織の増
強等にも有用である。その他の本発明の使用や、種々の組成において予測される
ある種の特定の用途は、以下に記述する。
生物適合なヒドロキシアパタイト製剤の主成分は、スパーリング的に溶解可能
なリン酸カルシウム塩を含む。好ましくは、二つの塩が組み合わされ、そのひと
つは、好適にはリン酸テトラカルシウムである。その他の塩は、CaHPO4・2H2O、C
aHPO4、Ca8H2(PO4)6・5H2O、β-Ca3(PO4)2、α−Ca3(PO4)2、及びCa3(PO4)2の変
性体、例えば、プロトンもしくは約10wt%以下のマグネシウムにより変性され
たリン酸トリカルシウムである。
リン酸テトラカルシウムと混合される第二のスパーリング的に溶解可能なリン
酸カルシウム塩の選択する際の原理は、ブラウンとチョウとによる記述されてい
る。例えば、米国特許第33,221号及び第33,161号、ブラウンとチョ
ウによる「デンタルリサーチジャーナル」[W.E.Brown and L.C.Chow,“J.of
Dental Research",vol.63,p.672(1983)]、「セメントリサーチの進歩」[W.
E.Brown and L.C.Chow,“Cements Research Progress-1986, American Ce
ramic Society,"p.352(1986)]、及びフカセ、イーンズ、タカギ、チョウ、ブ
ラウンによる「デンタルリサーチジャーナル」[Y.Fukase,E.D.Eans,S.Takagi,L.
C.Chow and W.E.Brown,“J.of Dental Researce"vol.69,p.1852(1990)]等に
記載されている。これらの内容は、参照として本願に包含される。
基本的に、各カルシウムリン酸塩は、特徴的な溶解挙動を示し、これは、一定
温度における溶液のpHに対する、飽和点におけるカルシウムイオンの総濃度の
プロットによって示される。同様に、本発明においては、pHに対するリン酸イ
オンの総濃度のプロットを用いることもできる。なぜなら、リン酸イオンの濃度
とカルシウムイオンの濃度は互いにリンクしているからである。得られる曲線は
、等温曲線として示される。
種々のリン酸カルシウム塩における等温線を同じ軸にプロットすると、各リン
酸カルシウム塩の相対的な特性を知ることができる。具体的には、あるリン酸カ
ルシウムの等温線が、与えられたpHにおいて他のリン酸カルシウム塩の等温線
よりも上にきている場合、そのリン酸カルシウム塩は、他に比較して準安定的で
ある。二つのリン酸カルシウム塩の等温線の交点は、特異点(singulara point)
として知られている。二つのリン酸カルシウムに対して飽和している溶液は、ど
ちらのリン酸カルシウムも、特異点においては飽和溶液内で平衡状態になってい
る。このことは、どちらのリン酸カルシウムも沈殿しないが、その等温線が上記
の特異点より下にある第三のリン酸カルシウムは、沈殿が生じることを意味する
。本発明の一つの形態は、ヒドロキシアパタイトに対して過飽和状態にある特異
点溶液を形成するリン酸カルシウム塩類の組み合わせに関連している。
図1は、Ca(OH)2、H3PO4、H2Oの三成分系における25℃での6つのリン酸カ
ルシウム塩の溶解等温曲線を示す。図1のy軸は、カルシウムイオンの総濃度(
モル/1リットル)を示し、x軸はpHの値を示す。ここで、CaHPO4・2H2O、
CaHPO4、β-Ca3(PO4)2、及びCa5(PO4)3OHの等温曲線は、それぞれ、
グレゴリー等による「Ca(OH)2−H3PO4−H2O系の5°,15°,25°及び37.5℃にお
けるCaHPO4・2H2Oの溶解度」[Gregory et al.,“Solubility of CaHPO4・2H2
O in the System Ca(OH)2-H3PO4-H2O at 5°,15°,25° and 37.5℃.,
J.Res. Nat. Bur. Stand. 74A: 461-475(1970)]、
マクドウェル等による「カルシウム水素リン酸塩イオンの溶解度」[McDowell
et al., “Solubility Study of Calcium Hydrogen Phosphate Ion
Pari Formation",Inorg.Chem. 10:1638-1643(1971)]、
グレゴリー等による「Ca(OH)2−H3PO4-H2O系の5°、15°、25°及び37℃にお
けるβ-Ca3(PO4)2溶解度」[Gregory et al.,“Solubility of β-Ca3(PO4)2
in the System Ca(OH)2-H3PO4-H2O at 5°,15°,25° and 37℃.,
J.Res. Nat. Bur. Stand. 78A: 667-674(1974)]、及び、
マクドウェル等による「Ca(OH)2−H3PO4−H2O系の5°、15°、25°及び37.5℃
におけるCa5(PO4)3OHの溶解度」[McDowell et al., “Solubility of Ca5
(PO4)3OH in the System Ca(OH)2−H3PO4-H2O at 5°,15°,25° and
37.5℃., J.Res. Nat. Bur. Stand. 81A: 273-281(1977)]、の各文献
による。
Ca8H2(PO4)6・5H2Oの等温線は、モレノ等により開示された「水溶液中におけ
るリン酸二カルシウムジヒドライドの溶解度及びリン酸オクタカルシウムの溶解
度」["Stability of Dicalcium Phosphate Dihydrate in Aqueous Solut
ions and Solubility of Octacalcium Phosphate," Soil Sci. Soc. A
m. Proc. 21:99-102(1996)]に開示された溶解度プロダクトによる。Ca4(PO4)2
Oの等温曲線は、例えば米国特許第33,221号及び33,161号に開示さ
れる、ブラウンとチョウにより算出された溶解度プロダクトの概算値による。
本発明の好適実施形態では、他の塩に対するリン酸テトラカルシウムの比や、
相対粒径サイズは、所望の機械的特性の基準、吸収性、分解プロファイル等や、
添加剤として含まれる特定の生物活性または生物適合な基質に対して適合するよ
うに、製剤ごとに違ってくる。加えて、塩の組み合わせの量に対する液体相の相
対的な量(好ましくは、水、生理食塩水、弱い酸溶液、生物適合な緩衝液、血清
、
血しょう、及びその他の生体に含まれる溶液)は、硬化時間(setting time)
を変動させるためや、得られる沈殿した生物適合なヒドロキシアパタイト製剤の
コンシステンシーを変動させるために、変動させることができる。生物適合ある
いは生物学的活性を有する添加剤は、好ましくは、液相に溶解もしくは実質的に
均一に混合しておき、その後に、乾燥した塩の組み合わせにこの液相を加え、ヒ
ドロキシアパタイトの沈殿反応を発生させる。
または、液相を最初にリン酸カルシウムと混合した後に、この混合物に添加剤
を加えてもよい。さらにまた、生物学的活性を有する添加剤を最初に塩と混合し
、その後に液相を添加してもよい。さらにまた、塩、添加剤、及び液相を同時に
混合してもよい。液相には、硬化反応調製剤またはヒドロキシアパタイト結晶成
長調製剤を添加してもよく、例えば、プロテオグリカン(例えばヒアルロン酸)
、プロテイン(例えば血清アルブミン)、炭水化物(例えばグラニュー糖)、合
成マテリアル(例えばボリエチレングリコール)、ある種のその他のイオン剤等
が添加可能である。このようなマテリアルの添加剤の代表例が、多数、米国特許
第33,161号、第33,221号に開示されている。
リン酸テトラカルシウム成分は、種々の適当な手法から製造可能である。ある
方法においては、リン酸テトラカルシウムは、リン酸二カルシウムと炭酸カルシ
ウムとの等モル混合物の高温処理(例えば1500℃〜1700℃)での触媒化
によって、固相反応によって得ることができる。このように得られたリン酸テト
ラカルシウムは、その後、所望の量の、スパーリング的に可溶である他のリン酸
カルシウム塩(上述したリン酸塩のうちから選択される)と混合される。または
、α−Ca3(PO4)2とリン酸テトラカルシウムとの混合物は、Ca/Pのモル比が
1.5〜1.8であるヒドロキシアパタイト試料を、1150℃〜1450℃、
減圧下でカ焼することで製造することもできる。この混合物は、更に、適切なス
パーリング的に可溶なリン酸カルシウム塩を加えて調整することで、ヒドロキシ
アパタイト製剤の所望の硬化特性及びコンシステンシーが得られるようにする。
このヒドロキシアパタイト製剤は、生物学的活性を有するか又は生物適合な添加
剤を含有する、増強された液相との混合による沈殿によって得られる。リン酸カ
ルシウム塩及びその混合物は、好ましくは、液相に添加したときに、十分かつ高
品質なヒドロキシアパタイトを沈殿させるために、実質的に無水条件下で製造及
び保管される。
以下の実施例には、上述したリン酸カルシウム塩混合物の製造方法、種々の生
物学的活性を有するかあるいは生物適合な添加剤、これにより得られる製剤、及
びその使用が含まれる。各例において、医薬用途に用いられる、代表的な生物学
的に活性なあるいは生物適合な基質が開示される。当業者であれば、以下の実施
例に記載されたこのような物質を製造することが可能であり、かつ、(好適ある
いは望ましくは)生物学的に活性な又は生物適合な基質を、各実施例に記載され
ている基質に添加あるいは置換することが可能である。また、上述した議論は、
リン酸カルシウム塩混合物、例えばブラウン氏やチョウ氏により開示された混合
物に関して行ったが、本発明の技術は、これに限定されるものではない。本発明
の実施例、特徴及び形態は、その他のリン酸カルシウム塩の組み合わせにも適用
できるものである。更に、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤の特性により、
生体内(in vivo)または半ビボ(ex vivo)で、あるいは、部分的に半ビボ、
又は部分的に生体内で沈殿を行うことが可能でる。
1.創傷治癒及び軟質組織修復のための成長因子の組み込み
第1の実施例は、創傷治療及び軟質組織修復に関し、損傷した軟質組織(例え
ば皮膚、筋肉、筋膜、歯肉、歯周組織等)に用いられるマテリアルにおいて主に
必要とされるものであり、損傷した組織を治癒させるか、あるいは治癒の促進(
サポートとは区別される)を目的とする。所望の細胞の成長の誘発や、損傷した
サイトの領域内の未分化(uncommitted)の前駆細胞からこのような細胞を形成す
る場合、種々の生物学的要因が存在する。このようなマテリアルを全身に適用す
る場合、かなりの量が必要となって、この様なアプローチではコストが高くなり
、また、マテリアルの効用性の点からも、実用的ではない。このような問題が遺
伝子組み替え技術により解決されたとしても、これらのマテリアルの調製時に、
特定のサイトを適切な濃度とするのに多量の全身投与を行ってしまうと、上述し
た生物学的要因やコンタミネーションによって、他の活性が出現し、望ましから
ざる副作用が現れるおそれがある。今日までのこのようなマテリアルの局所的使
用
においては、生物分解性メンブランカバーリングタイプのマテリアルのコーティ
ングを行うか、あるいは、時間をおいて何回も投与を行っていた。このような方
法は、効率が悪く、感染のおそれがあり、リスクが高く、扱いにくい。
本発明の第1の実施例は、組織の増強又はガイドされた組織再生の医療用に関
し、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤であってひとつ以上の成長因子を含ん
だものに関する。この成長因子は、上皮細胞成長因子、(EGF)、形質転換成長因
子α(TGF-α)、形質転換成長因子β(TGF-β)、ワクシニア成長因子(vaccin
ia growth factor:VGF)、酸又は塩基線維芽細胞成長因子(acidic or basi
c fibroblast growth factor:FGF)、例えばIGF−I又はIGF−II等
のインシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、軟骨由
来成長因子(CDGF)、インターロイキン-2(interleukin-2)、神経細胞体成
長因子(NCGF)、造血細胞成長因子(HCGF)、リンパ球成長因子(LGF)、
骨形態発生プロテイン(BMP)及びその他創傷治癒因子等の成長因子類である。
更に、造血細胞成長因子は、インターロイキン-3、顆粒球-マクロファージコロ
ニー刺激因子、血管形成因子、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニ
ー刺激因子、及びエリスロポエチン等のうちから選択されてもよい。また、リン
パ球成長因子は、B細胞成長因子、T細胞成長因子、インターロイキン-4、インタ
ーロイキン-5、インターロイキン-6であってもよい。この製剤は、好ましくは、
ペースト状、ヒドロゲル状、フィルム状等の各機械的特性を有する。また、この
製剤は、好ましくは、成長因子の約1日でのリリース量が20%未満であり、約
30日でのリリース量は約90%より大きいである。
更に好ましくは、上記リリースレートは、2日で20%未満、5日で90%以上
とする。成長因子の量は、好ましくは製剤1立方センチメートルあたり約0.1μg
〜約10μgであり、好ましくは、1立方センチメートルあたり約3μg〜6μg
である。
生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、以下のステップにより製造可能であ
る。最初のステップでは、リン酸カルシウム塩のベース混合がなされる。このス
テップは、好ましくは、以下の工程によりなされる。まず、上述した手法によっ
て、リン酸カルシウム塩の混合物を一種以上調製する。その後、無菌化した水、
生理食塩水、生理的に許容される緩衝液等の液体を、例えばヒアルロン酸、架橋
されてないコラーゲン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセ
リン、ポリリシン等の結晶成長調製剤とともに添加することで液相とする。結晶
成長調製剤によって、硬化時間を変えることが可能となり、コンシステンシーを
所望のものとすることができる。このコンシステンシーは、投与方法によって所
望の値が変動する。次に、得られた液相を一つ以上の塩混合物に添加し、好まし
くは重量比での固体と液体との比が1:1〜5:1となるようにする。この固体
と液体との比は、より好ましくは1.5:1〜4:1とし、もっとも好ましくは、2.5:1
〜3.5:1とする。各ヒドロキシアパタイト試料は、これらの混合物から沈殿され
、これらはそれぞれコンシステンシー及び硬化特性が試験された。その後、各試
料をシート状に硬化し、各シートの厚みは、好ましくは約1mm〜7mmとした。よ
り好ましくは、厚みを3mm〜5mmとした。各硬化したマテリアルの試験片を、実
験動物、例えばラット、モルモット、ウサギ、又は豚等に対し、皮下にインプラ
ントされ、同時に筋内にもインプラントした。その後、所望のリリースレートを
有するヒドロキシアパタイトのベース製剤が選択された。このリン酸カルシウム
塩のベース混合物は、このヒドロキシアパタイトのベース製剤を沈殿可能な混合
物である。
第二のステップにおいては、選択された成長因子を添加することで、液相が強
化された。このステップは、好ましくは、以下の手順により行う。第一に、成長
因子が、好ましくは上述したように選択される。例えば、EGF、TGF-α、TGF-β
、VGFが、組換DNAを用いた技術によって、変質した(transformed)ホスト細
胞基質(例えば哺乳類、微生物、昆虫の細胞培養)から生成され、あるいは、化
学合成や、これらのマテリアルを生成した培養細胞から生成される。純化した試
料を、細胞培養システム内で分析し、細胞成長の促進効力や、レセプタ(EGFR)
との結合性の特異性を測定する。その後、これらは、凍結パウダーとして保管さ
れる。その他の創傷治癒因子は、組換または合成手段によって製造可能であり、
かつ、細胞培養刺激分析及び特異レセプタ結合分析によって、それぞれ効力や特
異性が特徴づけられる。選択された成長因子を一つ以上、量を変動させてとり、
第1ステップで上述した、補給された液相に添加し、選択された成長因子が最終
濃
度範囲となっている一つ以上の増強された液相をそれぞれ得た。次に、各増強さ
れた液相をそれぞれ上述したベース塩混合物に混合して、それぞれ増強された(
augumented)ヒドロキシアパタイトサンプルを得た。好ましくは、この混合物は
、固体と液体との重量比が1:1〜5:1(より好ましくは、1.5:1〜4:1
、特に好ましくは2.5:1〜3.5:1)である。これらのそれぞれ増強された
ヒドロキシアパタイト試料は、その後、厚みが好ましくは約1mm〜7mm(より好
ましくは約3mm〜5mm)シート状に硬化された。あるいは、これらの試料を硬化
してテストブロックとしてもよい。各硬化された試料の試験ポーションは、その
後、水、生理食塩水、または、血清、血漿等の他の生理学的流体に、無菌状態で
約25℃〜約42℃で浸漬され、各試験ポーションを静かに撹拌した。液体メデ
ィアからの試験ポーションは、その後、免疫技術を用いて何回も試験され、リリ
ースされる成長因子の量が測定された。これらの試験結果からリリース速度ダイ
アグラムをプロットすることも可能である。約5日で約30%以下のリリースが
生じた製剤を用いて、生体内(in-vivo)での試験を行った。選択された製剤を
、実験動物の血管化サイトに、皮下及び筋肉にインプラント即ち移植した。各試
料の成長因子のリリースレートは、このインプラント周囲の部位の吸引によって
集められた流体とともに、血清サンプルをも集めることで決定された。その後、
最終的に増強されて上述した所望のリリースレートを有するヒドロキシアパタイ
ト製剤が選択された。この増強された液相は、この最終的に増強されたヒドロキ
シアパタイト製剤の沈殿が可能なものである。
第3のステップでは、増強された液相を、リン酸カルシウム塩ベース混合物と
混合した。そして、第4ステップでは、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤が
、この混合物から沈殿された。
2.免疫源の組み込み
免疫源、例えば精製されたプロテイン、グリコプロテイン、脂タンパク質等を
、数週間にわたって免疫源の吸収及びリリースを行う生物適合なインプラントに
組み込むことにより、従来よりも利点が得られる(ただし、これらに限定される
わけではない)。この様な利点としては、追加抗原注射を複数回行う必要がない
点
が挙げられる。追加抗原注射を行う場合、患者が何回も来院する必要がでてしま
う。また、従来のように抗原を種々のアジュバント即ち抗原性捕強剤と混合して
投与した場合に比較して、より潜在的な抗原反応を、より少ない抗原マテリアル
を用いて誘発することが可能となる。加えて、インプラントは、炎症反応が低グ
レードで局所的となるように形成できるので、抗原濃度を高くすることもできる
。また、リリース速度を遅くすることによって、ある程度有毒で従来は抗原化で
きなかったマテリアルの抗原化も可能となる。
本発明の第二の実施例は、従って、免疫源を組み込んだ、生物適合なヒドロキ
シアパタイト製剤に関する。例えば、免疫源は、ウイルス抗原、細菌性抗原、菌
類抗原、寄生性抗原等から選択することが可能である。用いられる抗原は、悪性
−特異的マーカー(malignancy-specific marker)としてもよく、例えば、腫
瘍抗原、腫瘍抗原のペプチドフラグメンツ、転移性特異性抗原とすることができ
る。免疫源は、サブユニットワクチンでもよい。また、免疫源は、ワクチン内に
、活性あるいは不活性状態で組み込まれてもよい。また、ワクチンは、有機的に
得られるかあるいは再組換により合成ワクチンでもよい。その抗原の例としては
、HBVエンベロープ抗原;HIV gp120/gp160/p41;再組換又は精製プロテイン免疫
であって、おたふく風邪、はしか、風疹、または小痘疹(small pox)、完全痘
疱、及びその他の予防接種用の免疫が挙げられる。好ましくは、製剤は、グラニ
ュールあるいはプラグの機械特性(力学的性質)を有する。好ましくは、製剤の
リリースレートは、約1日で約20%以下の免疫源をリリースし、約30日で9
0%以上をリリースする。より好ましくは、リリースレートは、約2日で20%
以下で、約5日で90%以上である。製剤内の免疫源の量は、好ましくは、1立
方センチメートルあたり約50μg〜約500μgである。好ましくは、1立方セ
ンチメートルあたり約100〜400μg、更に好ましくは、1立方センチメー
トルあたり約150〜300μgである。
本発明に係る製剤は、好ましくは、以下のステップにより調製される。第1の
ステップにおいては、リン酸カルシウム塩のベース混合物が調製される。この第
1のステップは、以下の手順によりなされる。最初に、スパーリング的に可溶の
リン酸カルシウム塩の一つ以上の混合物が前述したように調製される。次に、前
述した固体と液体比を有する液相を、前述のようにして得る。以下のいくつかの
サブステップにおいて、上記液相は、塩混合物と混合されてヒドロキシアパタイ
ト製剤を沈殿し、これらは、それぞれ第1実施例と同様にして試験された。上述
したような所望の特性を有する製剤が選択された。これらの製剤は、免疫源を所
望のリリースレートでリリース可能である。
第二のステップにおいては、選択された免疫源を添加することで、液相が強化
された。このステップは、好ましくは以下の手順によりなされる。第一に、免疫
源が選択される。この免疫源は、前述したどの免疫源でもよい。次に、選択され
た免疫源を、量を変えて一種以上を前記第1ステップで述べた液相に添加して、
強化された液相を一つ以上得た。これらは、選択された免疫源を最終濃度範囲で
有している。各強化された液相は、それぞれ上述したベース塩混合物と混合され
て、それぞれ強化されたヒドロキシアパタイト試料が沈殿された。その後に、こ
れらの試料を、第一実施例で述べたようにして試験した。最終的に強化されたヒ
ドロキシアパタイト製剤は、所望のリリースレートが得られるように選択された
。第2実施例における強化された液相は、この選択された最終強化ヒドロキシア
パタイト製剤の沈殿が可能なものである。
第3のステップでは、増強された液相を、リン酸カルシウム塩ベース混合物と
混合した。そして、第4ステップでは、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤が
、この混合物から沈殿された。
3.遺伝子の組み込み
本発明の第3の実施例は、遺伝子治療にかんする。近年、疾病における遺伝子
のかかわりの理解が進み、また、医薬分野でも遺伝子機能の操作が革命的に発展
している。人間及びその他の動物の遺伝物質は、デオキシリボ核酸(DNA)よ
りなり、種の違いを超えて、受容細胞に直接移入(direct transfer)させるこ
とが可能である。20年前に、哺乳類(人類も含む)の組織培養した細胞にDN
Aを移入させる方法では、DNA分子をリン酸カルシウムに複合(complexing)
させ、この複合体を所望の受容体細胞に投与する方法が用いられていた。この手
法により、非常に頻度は低いものの、受容細胞がリン酸カルシウム−DNA複合
体を取り込み、DNAのいくつかが染色マテリアル内に組み込まれこれにより、
受容細胞内に、DNAによりエンコードされたプロダクツが生成される。
裸のDNA形態内の遺伝子を無傷の生物(動物又は人間)にデリバーする時の
主な障害は、体液内の酵素を分解するというDNAの感受性が挙げられる。また
、目的となる組織サイト、例えば筋肉組織、において、作用された細胞がある程
度の量に達っする前にDNAが流されてしまうという傾向がある点も挙げられる
。これらの問題を解決するために、ある種のウイルスに由来する遺伝子配列を付
加することで、取り込まれたウイルスの配列によって、受容細胞内のDNAのピ
ースの再生を可能とする試みがなされている。これにより、たとえ少しの細胞に
しか所望のDNAピースが取り込まれなかったとしても、十分なものとなる。こ
れは、受容細胞の後代即ち子孫(progenies)及び細胞から細胞への転移によっ
て、動物(又は人間)にデリバーされたDNA量を増幅し、所望の治療効果が得
られるようになっていると考えられる。しかし、ウイルス由来の配列によって所
望の遺伝子にウイルスと同様の自己複製エレメントを与えると、安全性に関して
問題が生じる。これは、非常に大きな問題である。何故なら、所望の複製能力を
実際に与えることのできるウイルス配列の殆どは、非常に感染性の高いウイルス
に由来するものであり、ある種のウイルスは、AIDSやガン等の致命的な疾病を引
き起こすことが知られているからである。
本発明の第3の実施例によれば、遺伝子治療用の、生物適合なヒドロキシアパ
タイト製剤が得られ、この製剤には、遺伝物質が含まれる。この遺伝物質として
は、例えばDNAやRNA等の核酸(例えばアンチセンス即ち非転写鎖)、タン
パク質、変成タンパク質(例えば酵素、転写因子又はトランスレーション因子)
、所望のタンパク質や核酸を有する細胞等が挙げられる。遺伝物質(例えばDN
A)は、ヒドロキシアパタイトとランダムに、あるいは所定のオーダーにより、
複合される。細胞は、物理的にこの様な複合体に隣接し、このような複合体、従
って遺伝子の取り込みが可能となる。好ましくは、第3の実施例での製剤は、標
識配列やプロモータ配列と動作的にリンクされたコーディング配列を表す精製D
NA分子(例えば、濃縮、サーキュラー、リニアフォーム)を含む。上記精製D
NA分子によって、一種以上の哺乳類の細胞内に所望の遺伝子プロダクツを好適
に出
現させることができる。この製剤は、好適には、柔軟なペーストやスラリー等の
力学的特性を示し、約1日での遺伝物質のデリバー量が20%以下で、約30日
でのデリバー量は90%以上である。より好適には、約2日でのデリバー比率は
約20%以下で、約5日では90%以上である。DNAのレベルは、好ましくは
、本実施例により精製されるデリバリービークル1立方センチメートルあたり約
10μg〜約100μgである。
本実施例に係る生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、好ましくは、以下の
ステップにより製造される。第1のステップにおいて、リン酸カルシウム塩類の
ベース混合物が調製される。これは、上記実施例と同様の以下のステップにより
得られる。まず、一種以上のリン酸カルシウム塩類の混合物を、上述のようにし
て調製する。その後、液相を、上述のようにして調製する。これらの成分の混合
物、好ましくは、固体と液体との比が上述した実施例に記載された比であって、
液体比が上述した実施例に記載された比であるものを、上述のように試験した。
第2のステップにおいて、液相は、所望の遺伝物質を添加することで増強され
る。このステップは、以下の手順により達成される。第1に、ホストに出現させ
ようとするプロダクツをエンコードするための、所望の遺伝子(コーディング配
列)が選択される。この遺伝子を微生物ホスト内で複製、プロパゲート及びエデ
ィットして、広範囲の受容ホスト細胞内に、または組織特異的に出現させる。上
記出現のために必要となり要求される調節エレメントとしては、一般的又は組織
特異的プロモータ配列、スプライス信号(splice signals)、ポリアデニレー
ション信号(polyadenylation signals)、及びエンハンサー配列がある。ヒド
ロキシアパタイト製剤に組み込まれる遺伝構造(genetic construct)は、コー
ディング配列を動作的リンク内の調節エレメントの適切なセットと組み合わせる
ことで得られる。哺乳類の細胞もしくは人間の細胞-指向ウイルス(human cell-
directed virus)に対しての危険な遺伝的配列が混入するおそれを無くすために
、その後、この構造を微生物ホスト内で増殖(propagate)させてもよい。好ま
しくは、遺伝構成のすべてのパーツは、通常の人体の細胞遺伝物質から複製され
、その後に微生物ホストシステム内で変性、エディット、及び増殖される。又は
、ウイルス配列やオンコ配列の出現が望ましいときには(例えば、ある種のガン
やAI
DS等の遺伝子治療を行う場合)、コーディング配列は、適当なウイルス細胞ある
いは腫瘍細胞から得てもよい。場合によっては、コーディング配列は、元の染色
体に由来するマテリアルから「イントロン(introns)」を除去することで得ら
れるか、あるいは、逆転写と呼ばれる、機能メッセンジャーRNAのDNAコピ
ーを行うプロセスにより得られる。他の場合は、所望のポリペプチド又はタンパ
ク質プロダクツのアミノ酸配列が分かっている場合、このようなタンパク質又は
所定の変性がなされたこの様なタンパク質の変形フォームに対するコーディング
配列は、化学的遺伝子合成により得られる。コーディング配列が修正又は合成的
に製造されるという、これらの状況においては、受容細胞内のコーディング配列
によってエンコードされるプロダクツの製造を容易とするために、コーディング
配列の修正においては、新しい接続信号、転写/トランスレーション開始サイト
、及びその他を、所定のとおりに追加してもよい。この実施例の生物適合なヒド
ロキシアパタイト製剤用の精製されたDNAは、好ましくは、上述したリニアま
たはサーキュラーな形状で製造された機能遺伝子構造を、単一コピーあるいは縦
にリンクされた複数のコピー形態、あるいはこれらの形態が混合した状態で有し
てもよい。
所望の遺伝子、例えば精製DNAを、種々の量で用意し、これらを上述の実施
例で記載されたタイプの液相内に溶解させた。所望の遺伝子が細胞の中に含まれ
、かつ、その細胞は、受容細胞であると考えられる。この細胞は、骨髄由来の細
胞、あるいはリンパ球由来の細胞でもよい。この細胞は、組換体プロダクツを出
現させ、例えば(これらに制限される訳ではない)、インシュリン、核酸、ウイ
ルス抗原、バクテリア抗原、菌類抗原、寄生性抗原、サイトカイン、成長因子、
ホルモン、細胞表面タンパク質、及び酵素等が挙げられる。また、タンパク質や
核酸は、液相に直接添加することも可能である。
遺伝物質の液相との混合は、好ましくは、上述した固体-液体の重量比でなさ
れる。これらの増強された液相は、ベース塩混合物と混合されて、増強されたヒ
ドロキシアパタイト試料が精製され、この試料は、上述したように試験される。
最終的に増強されて、所望のデリバリーレートを有するヒドロキシアパタイト製
剤が選択される。増強された液相は、この最終的に増強されたヒドロキシアパタ
イ
ト試験製剤を生成するものである。
第3のステップにおいて、増強された液相は、リン酸カルシウム塩のベース混
合物と混合される。また、第4のステップにおいて、生物適合なヒドロキシアパ
タイト製剤は、この混合物から沈殿される。
4.薬剤のデリバリーの長期化及びコントロール
従来の薬剤に含まれる化学分子は、通常小さく、比較的早く循環系からクリア
されてしまう。このような特質の結果として、所望の薬剤を含んだ化合物の投与
を患者に対して、数日から数週間にわたって繰り返し投与する必要がでてしまう
。また、このように各投与を行う場合においては、最初に溶解した後に、十分な
化合物が循環系内に十分な量存在して所望の薬剤効果が得られるように、多量の
化合物を使用している。これらの問題を解決するための現在のアプローチにおい
ては、機械的方法、例えば、連続静脈内点滴や、インプラント可能なポンプ等の
手法が用いられている。所望の作用物質を有してそれぞれ異なる期間で分解が可
能であり、これにより、上記作用物質や生物適合なイオン、例えばカルシウム及
びリン酸を放出する、インプラント可能な基質(substance)を用いることで、
これらのアプローチを向上することができる。特に、このようなアプローチによ
って、従来の薬剤投与における煩雑さを減少させることができ、また、従来より
安価で、感染のおそれが小さく、患者の満足度も増す。本実施例におけるインプ
ラント可能な基質は、治療の全体で必要とされる薬剤の総量を減少させ、かつ、
従来における各薬剤の投与後において薬剤濃度が高くなることに起因する副作用
のおそれも抑制されている。
従って、第4実施例は、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤であって、薬剤
を含有するものに関する。好ましくは、この薬剤は、殺生物剤であり、抗新生物
薬、抗菌物質、抗寄生物質(anti-parasitic agents)のうちから選択される。抗
新生物薬は、シクロフォスファミド、アルキル化剤、プリン類似体、ピリミジン
類似体、ヴィンカ及びヴィンカ類アルカロイド(vinca and vinca-like alka
loides)、エトポサイド及びエトポサイド類ドラッグ(etoposides and etopos
ide-like drugs)、抗生物質、コルチコステロイド、ニトロソ尿素(nitrosoure
as)、代謝拮抗物質、白金ベース細胞毒性ドラッグ、ホルモン拮抗剤、抗エスト
ロゲン、タモキシフェン(tamoxifen)、ドキソルビシン(doxorubicin)、L-アス
パラギナーゼ、デカルバジン(decarbazine)、アムサクリン、(amsacrine)、プロ
カルバジン、ヘキサメチルメラミン、ミトキザントロン(mitoxantrone)から選
択することもできる。抗菌物質は、重金属、抗生物質、又はその他の抗菌物質を
含んでもよい。薬剤は、炎症剤、鎮痛剤、又は他の化学療法基質であってもよい
。他にも、当業者に知られている薬剤がある。生物適合なヒドロキシアパタイト
製剤は、粒状又は柔軟なペーストの機械的特性を示す必要がある。製剤は、1日
のリリース量が20%以下で、約30日で90%以上をリリースする。より好適
には、リリースレートは、約2日で20%以下、約10日以内で90%以上であ
る。好適な薬剤の量は、従来の治療に処方されている総量の約10%〜50%で
ある。
第4の実施例に係る生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、好ましくは、以
下のステップにより製造される。第1のステップにおいては、リン酸カルシウム
塩のベース混合物は、以下のように、前述の実施例と同様にして製造される。
第2のステップにおいて、液相は、所望の薬剤の添加によって増強される。こ
の第2のステップは、好ましくは、以下のようになされる。所望の成分を、前述
した成分の内から選択する。その後に、一つ以上の液相を、前述のようにして調
製し、量の異なる薬剤を添加することで増強する。各増強された液相は、その後
、それぞれベースの塩混合物と混合され、好ましくは、その固体と液体との比が
上述したようにされて、増強された製剤が得られる。各増強された製剤の試料(
薬剤化合物の量がそれぞれ異なる)を、実験動物の皮下、筋内、又は腹腔内にイ
ンプラントし、その特徴、例えば薬剤化合物の血清レベルや、インプラントされ
た製剤の吸収率等が観察された。最終増強製剤は、粒状やペースト状の力学的特
性を有し、かつ、所望の薬剤リリースレートが得られ、かつ、その薬剤レベルは
、現在処方されている総量の約10%〜50%であるものが選択された。増強さ
れた液相は、最終増強試験製剤が得られるものであった。
第3ステップにおいては、リン酸カルシウム塩のベース混合物は、増強された
液相と混合された。また、第4ステップにおいて、生物適合なヒドロキシアパタ
イト製剤は、上記第3ステップの混合物から沈殿された。
本実施例の一例によれば、抗生物質及び抗炎症薬化合物は、ヒドロキシアパタ
イト製剤内に組み込まれ、最終増強製剤は、7〜14日にわたって好適な投与量
となるように選択された。他の例では、化学療法基質(又は他の基質との組み合
わせ)がヒドロキシアパタイト製剤に組み込まれ、化学療法基質を約20〜約3
0日にわたってデリバー可能な増強された製剤が得られるようにした。
5.ホルモンのデリバリーの長期化及びコントロール
小さなペプチドホルモン又はその誘導体は、生理学的作用を特定のターゲット
細胞に(その細胞にメンブレン受容体を結合させることで)及ぼすと信じられる
。従来の薬剤に組み込まれる小さな化学分子の場合と同様に、小さなペプチドは
、循環半減期(circulating half-life)が制限されている。この特性は、この
ような分子を生物分解性ヒドロキシアパタイトマテリアル内に組み込むことで、
大きく改良される。
従って、本発明の第5の実施例では、生物適合ヒドロキシアパタイト製剤は、
ペプチドホルモンやホルモン類剤等のホルモンのデリバリービークルとして提供
される。好ましくは、製剤は、ホルモン又はペプチド因子、例えば調節タイプの
ホルモンを含む。この調節タイプのホルモンとしては、インシュリン、心房ナト
リウム***増加因子(ANF)、カルシトニン、バソプレシン、レラキシン等が挙
げられる。ホルモンは、卵胞ホルモン、プロゲステロンホルモン、男性ホルモン
、及びこれらの誘導体の内から選択される性ホルモンとすることも可能である。
製剤は、皮下への配置、及び経皮的な用途に適したペースト状の力学的特性を有
する必要がある。好ましくは、製剤は、ホルモンのデリバーレートが約1日で2
0%以下であり、約30日で約90%以上である。より好ましくは、デリバーレ
ートは、約2日で20%以下であり、約7日で90%以上である。製剤内の活性
マテリアルの濃度は、好ましくは、従来方において約5〜30日の間における予
測累積的投与量の約10〜約50%(投与された製剤1立方センチメートルあた
り)である。
生物適合なヒドロキシアパタイト製剤は、以下のステップにより得られる。第
1のステップでは、好ましくは、第4実施例(即ち、薬剤を組み込んだ実施例)
に記載された手順及びステップと同様にして調製される。第2ステップでは、例
えば前述した実施例に記載されたような液相は、所望のホルモン(又はペプチド
因子又はホルモン類剤)の添加によって増強される。これは、好ましくは、第4
実施例の第3ステップと同様にして行われる。第3ステップにおいては、ベース
塩混合物は、増強された液相と混合される。第4ステップにおいては、生物適合
ヒドロキシアパタイト製剤が、第3ステップの混合物から沈殿される。
6.骨の充填、修復及び再生
骨は、脊椎動物等の高等生物の複雑な組織の中でも、完全に再生する能力があ
るという点で特異である。骨組織は、複雑であり、かつ体の部位によって、骨格
の機能が大きく変わることから、部位によって異なるアプローチをとると、多く
の場合治療効果が高くなる。細胞コンポーネント、マトリクスコンポーネントが
果たすそれぞれの役割、及びこれら骨の二つの相の間の相互作用は、組織の再生
プロセス及び機能に寄与している。骨に特有の、ある種のタンパク質が、その構
造及びミネラル結合特性に関連して同定されている。従って、本発明の第6の実
施例は、骨の充填(replacement)、修復、及び再生に関する。
本実施例の一形態では、骨伝導性原理(osteoconductive principle)を扱う
。この形態では、骨に見られる主構造のミネラル結合タンパク質の存在下で骨の
主なミネラル成分をあらわす生物適合なヒドロキシアパタイト製剤が得られる。
この製剤は、通常の骨のマトリクスに類似するマトリクスを用いた、骨のボイド
の充填剤として用いることが可能である。このような製剤は、骨に適合し、かつ
、徐々に吸収されて、自然のプロセスに沿って再生する新しい骨によって置換さ
れていくという特性を有する。この新規な製剤は、種々の損傷サイトの充填に有
用であり、かつ、種々の補綴デバイスとその周囲の骨組織との間のギャップを充
填するのにも有用であし、従って、骨、歯根、歯の治療等の用途に用いられる、
優れたアタッチメントとなりうる。この製剤は、また、自己移植、異型移植を行
う際に、その通常的に得られる量が十分でないときにも、エクステンダー即ち増
量剤として使用可能である。
従って、この形態によれば、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤であって、
骨の成長をサポート可能なものが提供される。好ましくは、この形態による製剤
は、一種以上の接着剤成分を有する。この接着剤成分は、インテグリン(integr
in)、細胞外基質タンパク質、白血球接着タンパク質(leukocyte adhesion p
roteins)、コラーゲン、アルブミン、骨タンパク質、オステオネクチン(osteon
ectins)、細胞表面レセプタタンパク質、骨glaタンパク質、及びマトリクスgla
タンパク質のうちから選択することも可能である。生物適合なヒドロキシアパタ
イト製剤は、インプラントに硬化されるペースト状の力学的特性を示すべきであ
る。このインプラントの圧縮強度は、好ましくは、10MPaより高く、より好ま
しくは約50MPaより高く、更に好ましくは約100MPaより高い。このインプラ
ントの多孔率は約45%で、平均孔径が約15〜約30μmとすべきである。よ
り好ましくは、平均孔径サイズは、約20〜25μmである。更に好ましくは、
平均孔径サイズは、約23μmである。最大孔径サイズは、100μm未満とす
べきであり、好ましくは50μm未満である。この製剤は、好ましくは、約60
日〜約2年で吸収される。より好ましくは、この製剤は、約60〜約90日で吸
収される。骨原性のタンパク質の量は、製剤の総量の約10%〜約40%とすべ
きであり、タンパク質どうしの相対比率(二種以上のタンパク質が用いられてい
る場合)は、治療が行われるサイトにおける骨組織に見られる比率と同様のもの
とすべきである。この生物適合なヒドロキシアパタイト製剤に対して、(a)修復
プロセスの間に局所的に製剤からリリースされるとともに、再生を妨害するおそ
れのある感染症を抑制するための抗生物質基質(b)ホルモン、例えば、修復プロ
セスの間に局所的にリリースされるとともに、骨粗しょう症等のような代謝性の
疾病の進行による骨の損失を抑制するためのカルシトニン、等を添加してもよい
。
第6実施例のこの形態に係る増強されたヒドロキシアパタイト製剤は、好まし
くは、以下に示す方法により得られる。第1のステップでは、リン酸カルシウム
塩のベース混合物が調製される。これは、前述の実施例と同様にして得ることが
できる。
第2のステップでは、骨原性の接着-タイプタンパク質を添加することで、液
相が増強される。これは、以下の手順により行うことが可能である。まず、一種
以
上のタンパク質を、前述したタンパク質から選択する。例えば、人骨のglaタン
パク質、人間のマトリクスglaタンパク質、及び人間のオステオネクチンが、組
換手段及び生成によって製造される。その後、液相が、前述した手法により形成
される。液相には、粒状の糖を添加してもよく、最終生成物における糖の比率が
20重量%以下となるように、ベース塩混合物に対して糖が添加される。選択さ
れたタンパク質は、その後、上記添加がなされた液相に均一に溶解され、増強さ
れた液相が得られた。第4ステップでは、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤
が、第3ステップで得られた混合物から沈殿された。
上述のように得られたペーストは、好ましくは、“in vitro”、即ち生体外で
約12時間〜48時間加圧(例えば、約40,000psi〜約80,000psi)され、所望の
型の形状に硬化された。この硬化した製剤を、その後、約50℃〜約70℃の温
水、好ましくは約50℃〜約55℃の温水で処理した。この処理は、約4〜10
時間、好ましくは4〜5時間程度行い、粒状糖のほとんどを除去して、多孔率の
高いマテリアルを得た。このマテリアルを、その後、体内にインプラントし、例
えば選択された骨のボイド部位にインプラントした。
第6実施例の他の形態は、オステオインダクション(osteoinduction)に関する
。ヒドロキシアパタイトインプラント内には、多孔性の形状のものも含めて、骨
の損傷サイトで新しく成長した骨組織が成長する、即ち内殖してくる。その結果
、ヒドロキシアパタイトインプラントは、自然に再生した新しい骨に組み入れら
れることとなる。分化プロセスをアクティブに引き起こすことが可能なヒドロキ
シアパタイトインプラントが提供され、この分化プロセスによって、損傷したサ
イトにおける多能性ステム(stem)細胞による骨の形成、即ち“骨生成”が行わ
れる。従って、優れた治療を行なうことができる。通常骨原性因子、骨形態発生
タンパク質、または軟骨生成因子(chondrogenic factors)と呼ばれる一群の因
子は、このような動物及び人体における現象を媒介することが示されている。
従って、本発明の第6の実施例によれば、生物適合なヒドロキシアパタイト製
剤であって、インプラントに対してアクティブに骨を内殖させることが可能な製
剤が提供される。好ましくは、この製剤は、新しい骨の生成の誘導を発生させる
ことができ、さらに、骨原性因子、骨形態発生タンパク質、及び軟骨生成因子の
うちから選択される一種以上の成長因子を有する。
これらの成長因子は、単独または一種以上の接着性成分と組み合わされる。こ
の接着性成分は、インテグリン、細胞外マトリクスタンパク質、白血球接着性タ
ンパク質、コラーゲン、アルブミン、骨タンパク質、オステオネクチン、細胞表
面受容体タンパク質、骨glaタンパク質、及びマトリクスglaタンパク質のうちか
ら選択することも可能である。これらの製剤は、ペースト状の力学的特性を有す
るべきであり、少なくとも20Mpaの抗張力を有してインプラント内に硬化され
る。より好ましくは、この抗張力は、60MPaより大きく、更に好ましくは、約
70MPaよりも大きい。この製剤は、好ましくは、多孔性であって、上述した平
均孔径及び最大孔径を有する。活性成長因子のレベルは、選択された成長因子の
みを有するデリバリー溶剤1立方センチメートルあたり約10μg〜約100μg
である。または、一種以上の接着性成分を有する場合には、デリバリー溶剤の約
40重量%まで含有される。
最終製剤には、ヘパラナーゼ(heparanase)を添加してもよい。この“ヘパラナ
ーゼ”という用語は、通常、硫酸ヘパリンを分解する酵素か、あるいは、“in v
ivo”、即ち生体内でヘパリンや硫酸ヘパリンを結合した分子のリリースを生じ
させる酵素を意味するように用いられる。この最終製剤は、抗生物質を含んでも
よい。
第6実施例のこの形態に係る製剤は、以下の方法により調製される。第1のス
テップにおいて、スパーリング的に可溶なリン酸カルシウム塩のベース混合物が
、前述したように調製される。第2のステップにおいて、液相は、適切な一種以
上の成長因子及び所望の接着剤成分を添加することで増強される。種々の適切な
因子、例えば前述した例を含めて、従来技術において、遺伝的に研究された哺乳
類の細胞内または微生物ホスト細胞内での製造の組換手段に関して開示がなされ
ている。第3のステップにおいて、増強された液相は、ベース塩混合物と混合さ
れる。好ましくは、この混合物の固体と液体との比は、前述した値となっている
。第4のステップにおいて、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤が、上記第3
のステップで得られた混合物から沈殿される。この製剤は、好ましくは、前述し
た特性を有する。最終製剤は、“ex vivo”即ち生体外で用いられるか、あるい
は、
他のインプラントとの接合におけるインプラントやグラウチングマテリアルとし
て開放骨折に用いる場合には、“in vivo”即ち生体内の状態で用いられる。
第6実施例の更に他の形態では、骨の再生を目的とする。骨の欠損においては
、骨格におけるサイトが異なると、それに応じて、骨の再生と短期のバイオメカ
ニカルサポートとのバランスがそれぞれ異なってくる。第6実施例における前述
した形態で説明した製剤は、適度な機械的サポートを提供でき、かつ、長期的機
械的サポートによる新しく生成された骨内にインプラントが速やかに組み込まれ
るよう、効率的な骨の内殖が可能である。更に、これらの製剤は、術後の短期間
において、その機械的強度によって相当な張力耐久力を提供する。他の用途にお
いて、短期負荷耐久力が重要な要因ではない場合(例えば、脊髄固定、橈骨ある
いは尺骨の非癒合骨折等)、短期的にはその他の固定デバイスによりサポートを
提供したうえで、長期的には新しい骨を急速に形成することが必要となる場合も
ある。
従って、本発明の第6実施例の他の形態によれば、小さな損傷における骨の修
復をアクティブに誘発させることのできる、生物適合なヒドロキシアパタイト製
剤が提供される。この製剤は、好ましくは、骨原性因子、骨形態発生タンパク質
、及び軟骨形成因子のうちから選択される成長因子を含有する。この製剤は、一
種以上の接着性成分を含んでもよく、インテグリン、細胞外マトリクスタンパク
質、白血球接着性タンパク質、コラーゲン、アルブミン、骨タンパク質、オステ
オネクチン、細胞表面受容体タンパク質、骨glaタンパク質、及びマトリクスgla
タンパク質のうちから選択することも可能である。これらの製剤は、経皮的に用
いることができるように、ソフトペースト状またはスラリー状の力学的特性を有
する。好ましくは、この製剤は、前述した形態で述べられた吸収性を特徴とし、
好ましくは、製剤中には、選択された成長因子が1立方センチメートルあたり約
50μg〜約500μgである。また、接着成分を含有する場合、その接着成分は
、最終製剤の約40重量%まで含有される。
この製剤は、ヘパラナーゼ(heparanase)を添加してもよい。この“ヘパラナー
ゼ”という用語は、通常、硫酸ヘパリンを分解する酵素か、あるいは、“in vi
vo”、即ち生体内でヘパリンや硫酸ヘパリンを結合した分子のリリースを生じさ
せる酵素を意味するように用いられる。この最終製剤は、抗生物質を含んでもよ
い。この製剤を、この実施例での前述した形態における製剤と比較すると、この
製剤は、十分な機械強度を得ることはあまり意図しておらず、一方、より急速か
つ局所的、短期的に成長因子をデリバーすることを意図している。
第6実施例におけるこの製剤は、以下の方法により調製可能である。第1のス
テップにおいて、スパーリング的に可溶なリン酸カルシウム塩のベース混合物が
、前述したように調製される。第2のステップにおいて、液相は、適切な一種以
上の成長因子及び所望の接着剤成分を添加することで増強される。第3のステッ
プにおいて、増強された液相は、ベース塩混合物と混合される。第4のステップ
において、生物適合なヒドロキシアパタイト製剤が、上記第3のステップで得ら
れた混合物から沈殿される。この製剤は、好ましくは、前述した特性を有する。
また、この混合物は、前述した固体-液体比を有する。好ましくは、最終製剤は
、経皮的に用いられ、“in vivo”即ち生体内で硬化する。
この実施例における前述した形態及びこの形態での例としては、(a)チャイニ
ーズハムスターの卵巣(CHO)細胞内で得られたBMP-2ホモダイマーを組み込んだ
製剤、(b)E大腸菌細胞内(E coli cells)で得られる、COP5又はCOP7又はVglと
呼ばれる分子を用いた製剤(c)遺伝的に得られた(genetically engineered)哺
乳類ホスト細胞内で得られるBMP-4及びBMP-5ヘテロダイマーを組み込んだ製剤が
挙げられる。
7. 骨成長の電気的または電磁的刺激の強化
本発明の第7の実施態様は、電磁的刺激に応じたヒドロキシアパタイトインプ
ラントの周囲および内部の骨形成の強化に関する。電磁的刺激は、骨治癒および
インプラントの平均孔サイズが好ましくは約15μから約30μ(さらに好まし
くは20μ〜25μ、最も好ましくは約23μに等しい)までの範囲であるとき
、ヒドロキシアパタイトインプラントへの骨内部成長の刺激に効果的であること
が報告されている。常磁性、反磁性、伝導性、および絶縁物質をインプラントへ
の組み入れることにより、電磁的刺激を与えた場合のインプラントの近位電界お
よび磁場を増大または減衰することができる。この改良製剤により、骨治癒の速
度を増大し、電磁的刺激に必要な場の強さを低下させることができる。本発明の
こ
の実施態様は、電磁場誘導骨修復および骨形成の効果を強化する磁気特性および
伝導特性が変化した増強ヒドロキシアパタイト製剤に関する。
このため、本発明の第7の実施態様により、電気的刺激増強剤を組み入れる生
体適合性ヒドロキシアパタイト製剤が得られる。この刺激増強剤は、常磁性材料
、反磁性材料、伝導性材料、または絶縁体のうち1つ以上であってよい。常磁性
材料は、鉄、鉄アンモニウムミョウバン、ウラニウム、白金、およびアルミニウ
ムを含む群から選択することができる。反磁性材料は、ビスマス、水銀、銀、炭
素(ダイアモンド)、鉛、および銅を含む群から選択することができる。伝導性
材料は、銀、銅、アルミニウム、およびタングステンを含む群から選択すること
ができる。また、絶縁体は、ガラス、ルーサイト、マイカ、石英、およびポリテ
トラフルオロエチレン(PTFE)を含む群から選択することができる。製剤は
、インプラント周囲の組織における新しい骨内部成長を誘発し、骨形成を促進で
きることが好ましい。製剤は、20MPaを超える(さらに好ましくは60MP
aを超え、最も好ましくは70MPaを超える)引張強度を有するインプラント
に強化するペーストの機械特性を示さなければならない。製剤は、上述した平均
および最大孔サイズの多孔性でなければならない。製剤は、既述した再吸収性を
有することが好ましい(すなわち、60日乃至2年、好ましくは60−90日)
。
第7の実施態様のヒドロキシアパタイト製剤は、次の方法に従って調製するこ
とができる。第1のステップにおいて、スパーリング的に溶解可能なリン酸カル
シウム塩の基本化合物を従来通りに調製する。第2のステップにおいて、既述し
たものから選択される1つ以上の電磁強化剤を添加することにより、液相を増強
する。材料が毒性である場合は、ガラスまたはPTFE内に液相を入れることが
できる。第3のステップにおいて、増強された液相は基本塩化合物と混合する。
また、第4のステップにおいて、生体適合性ヒドロキシアパタイト製剤を第3の
ステップの混合物から沈降させる。
ヒドロキシアパタイト製剤は試験管内で強化し、骨置換として用いることがで
きる。治療例において、この製剤から形成されたインプラントを人体に移植する
ことができる。次に、このインプラントを電気的または磁気的に刺激し、インプ
ラントの内部および周囲の骨成長を誘発する。
8. 材料の局所放出における電気的または電磁的パルスの強化
本発明のいくつかの実施態様は、生体適合性物質を送達するためのヒドロキシ
アパタイト製剤の使用に関する。電磁場の適用により、ヒドロキシアパタイトイ
ンプラントの内部および周囲の骨や組織の成長および血管化を刺激することがで
きる。ヒドロキシアパタイトインプラントまたは移植ヒドロキシアパタイト製剤
を電磁的に刺激することにより、生体適合性、生体適合性物質の送達を調節する
こともできる。電界はその電界に曝露されるマトリックスからの因子の脱着を引
き起こすことがわかっている。直接的放出を引き起こすほか、電磁刺激はインプ
ラントへの組織内部成長をも刺激するため、生体適合性物質と組織との間の接触
を増大する。
このため、本発明の第8の実施態様は、ヒトまたは動物への挿入後に電気的ま
たは電磁的刺激にかける生体適合性ヒドロキシアパタイト製剤に関する。このヒ
ドロキシアパタイト製剤は次の方法に従って調製されることが好ましい。第1の
ステップにおいて、リン酸カルシウム塩の基本化合物を従来通りに調製する。第
2のステップにおいて、1つ以上の生体適合性物質を添加することにより液相を
増強する。生体適合性物資は本明細書中で述べた生体適合性添加物のいずれでも
よい。第3のステップにおいて、増強された液相を基本塩化合物と混合する。第
4のステップにおいて、生体適合性ヒドロキシアパタイト製剤を第3のステップ
の混合物から沈降させる。沈降は生体内で行うことができる。またその代わりに
、沈降は体外で行うことができる。この代替法によれば、沈降ヒドロキシアパタ
イト製剤をヒトまたは動物に移植する場合に追加のステップが必要である。第5
のステップにおいて、インプラントを電気的または電磁的に刺激し、ヒドロキシ
アパタイトインプラントの内部および周囲の骨や組織の成長および血管化を誘発
すると共に、ヒドロキシアパタイト製剤からの生体適合性物質の放出を誘発する
。
9. 二重組織接合面の多重コンポーネント層状装置
誘導された組織再生過程における移植可能装置の使用は、このような装置の1
つの表面が1つの組織型と適合性であると同時に、別の表面がもう1つの組織型
と適合性であるように構成されている場合は、きわめて有利となる。例えば、歯
周欠損の場合、これらの装置は歯肉軟組織および基礎骨構造物の両方と接合する
。
同様に、慢性関節リウマチまたは骨関節症が軟骨や骨の損傷の原因となっている
腰、膝、肘および足関節など関節において、望ましい装置は骨と適合性の1つの
表面および軟骨と適合性のもう1つの表面を有することが必要である。他の実施
例が人体および動物の全体にわたる適用と容易に一致することは、普通の熟練者
にとって自明である。
このため、このような二重組織接合面適用に使用できる第9の実施態様は、合
成ポリマー(例えば、軟組織または軟骨との適合性のために選択されるグリコリ
ド/ラクチド/アクリル材料)を含む第1の層および骨と適合性である生体適合
性ヒドロキシアパタイト製剤の第2の層を有する層状装置を提供する。第2の層
は、既述したようなスパーリング的にリン酸カルシウム塩混合物から形成される
ペーストの適用により生成することができる。この実施態様では、1クラスの製
剤的活性または生体適合性材料を第1の層に組み入れ、軟組織または軟骨の再生
を促進すると共に、ヒドロキシアパタイト層は、先の実施態様において述べた骨
修復を促進する1つ以上の生物学的活性または生体適合性物質を組み入れる。
この実施態様の層状装置における大きな利点は、選択組織の形成を無効にする
生物学的または製剤的活性物質を1つの層に組み入れることができると共に、上
記の形成を促進するその他の物質を別の層に組み入れることができる点である。
これにより、誘導された組織再生過程において生成される二重組織接合面の明ら
かな輪郭が可能となる。例えば、関節の場合、軟骨と適合性であるようにされる
合成ポリマー層は、抗血管原性因子を含み、ヒドロキシアパタイト層で再生され
る骨組織からこの層への骨組織の移動を予防することができる。実施例によれば
、合成ポリマーをII型コラーゲンおよびヒアルロン酸と含浸し、より優れた軟
骨適合性が得られると共に、ヒドロキシアパタイト層をI型コラーゲン、骨グラ
蛋白、オステオネクチン等と含浸し、骨再生を促進する。
10. その他の特徴および態様
上述した実施態様は単に本発明の実施例として意図されたものであり、本発明
はこれらに限定されるものではない。例えば、前述した通り、本明細書中で述べ
た実施態様の多くは、液相を生体適合性添加剤で増強する方法を含む。次に、増
強された液相をリン酸カルシウム塩の基本化合物と混合する。しかし、ヒドロキ
シアパタイトを沈降する混合物の成分は異なる順序で、または同時に結合できる
ことが考えられる。また、さまざまな放出速度が述べられているが、普通の熟練
を有する者であれば、ヒドロキシアパタイト製剤の成分を操作し、特定の適用に
さらに適切である異なる放出速度が得られることを認識であろう。
本発明のさまざまな実施態様の特徴によれば、生体適合性ヒドロキシアパタイ
ト製剤を沈降する混合物の成分はキットの形で提供することができる。例えば、
パッケージはバイアル3本を有するキットからなる。第1のバイアルは測定され
た量の基本リン酸カルシウム塩化合物を含むことが好ましい。第2のバイアルは
、既述した添加剤のいずれでもよい(例えば、成長因子)選択された添加剤を含
むことが好ましい。添加剤および望ましい治療基準により、添加剤はいくつかの
形状のいずれであってもよい。例えば、成長因子は凍結乾燥状態で供給すること
ができる。第3のバイアルは液相を含む。または、キットはバイアル2本を含む
ことがある。第1の2本バイアルのオプションでは、1本のバイアルはリン酸カ
ルシウム塩を含み、もう1本は液相と添加剤の混合物を含むことになる。第2の
2本バイアルのオプションでは、1本のバイアルは添加剤と塩の化合物を含むと
共に、もう1本のバイアルは液相を含む。
キットの特徴の態様によれば、バイアルの中身を組み合わせて生体適合性ヒド
ロキシアパタイト材料のペーストを得ることができる。こうして得られたペース
トは単独で手術部位に適用することができ、またはこれを用いて、創傷の安定化
や閉鎖のために広範囲に使用される縫合糸、鎹、膜(再吸収型または非再吸収型
)等を増強することができる。このペーストを用いて大火傷を覆うために用いら
れる人工皮膚や膜を増強することもできる。
先の実施態様の別の特徴によれば、添加剤を組み入れる沈降生体適合性ヒドロ
キシアパタイト製剤の予め含浸した強化シートを滅菌形態で得ることができる。
これらのシートは望ましい形状に切断することが可能であり、創傷部位を覆い、
または深部創傷を包むために適用可能であることが好ましい。また、こうして適
用されるシートは周知の外科的閉鎖法を用いて安定化することができる。シート
または同様の構造物を得る各種方法はこの実施態様において予測される。
上述した実施態様は、増強されたヒドロキシアパタイト材料の感染を予防する
抗生物質を組み入れることもできる。抗生物質は創傷の感染を予防するために創
傷部位で放出させることもできると共に、材料は適所にある。使用できる抗生物
質の種類の一部には、アミノグリコサイド、アムフェニコール(例えば、クロラ
ムフェニコール)、β−ラクタム系抗生物質、ペニシリン(例えば、アムピシリ
ン)、ペプチド系抗生物質、およびテトラサイクリン系抗生物質(例えば、テト
ラサイクリン)が含まれるが、これらに限定されることはない。
別の特徴によれば、2つ以上の製剤が独立して調製される。例えば、上述した
通り塩、添加剤および液相を混合することにより体外でインプラントを調製し、
ペーストを得ることができる。ペーストは別々に調製した製剤よりも緩徐に再吸
収可能である成分に硬化することができる。このペーストは適切な孔を通じて押
出し、大きなガーゼ皮下針または他の許容注射器機構を通じて適用されるサイズ
の顆粒を得ることができる。第2の製剤を適用時に新しく調製することができる
(例えば、生体内でさらに急速に生分解性インプラントに硬化できる軟性ペース
トが得られる比での基本塩化合物に総使用量の約3分の1の添加剤を含む液相を
添加することにより)。増強された液相を添加する前に、軟性ペーストが一因と
なる免疫原の約3倍を顆粒が占めるように、十分な量の顆粒を基本塩化合物と均
一に混合することができる。顆粒と混合したペーストおよび新しく調製したペー
ストを含むこのようなシステムにより、新しく調製したペーストが選択された添
加剤の第1の用量を比較的急速に放出し、ペーストと顆粒の混合物が長期間にわ
たってさらに緩徐に追加量を送達する2成分システムが得られる。この特徴の態
様によれば、中心核が、さらに急速に再吸収可能な製剤により囲まれるさらに緩
徐に再吸収可能な製剤を含む層状複合物を得ることができる。
これらの実施態様のさらに別の特徴によれば、製剤は添加剤(例えば、DNA
)を送達する場合に、筋内的、静脈内的、皮下的または経皮的に(所望標的組織
に応じて)投与することができる。固液比および液相について本明細書中で開示
された補充物の量は、各種試験製剤を投与すると共に、添加剤の放出およびヒド
ロキシアパタイトの生分解がモニターされる動物評価の結果に基づき選択される
。
本明細書中で開示された特定の実施例に対する他のバリエーションおよび変形
が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく容易に達成できることは、関
連技術の普通の熟練を有する者により認められる。したがって、本発明は以下の
請求項によってのみ限定される。
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(31)優先権主張番号 08/471,216
(32)優先日 1995年6月6日
(33)優先権主張国 米国(US)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,S
Z,UG),UA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD
,RU,TJ,TM),AL,AM,AT,AU,AZ
,BB,BG,BR,BY,CA,CH,CN,CZ,
DE,DK,EE,ES,FI,GB,GE,HU,I
L,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LK
,LR,LS,LT,LU,LV,MD,MG,MK,
MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO,R
U,SD,SE,SG,SI,SK,TJ,TM,TR
,TT,UA,UG,UZ,VN
(72)発明者 セン,アラップ
アメリカ合衆国テキサス州75209,ダラス,
ウエスト・ビバリー・ドライブ 3845