JPH09165826A - 高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライスプレート - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 鋼材同士をボルトで接合する際のスプライス
プレートの摩擦接合面の摩擦抵抗を高め、安定して高い
すべり係数を発現する高力ボルト摩擦接合用鋼材を提供
する。 【解決手段】 スプライスプレートの摩擦接合面のボル
ト穴周縁にボルト穴を中心とした同心円状にローレット
駒を転圧・転造することによって凹凸模様を付与する。
その際、ボール盤、ＮＣ装置付きボール盤または可搬式
ボール盤に固定し得る錐またはロッドに、凹凸模様を付
与しようとする領域に対応した位置にローレット駒を必
要に応じて複数個組み合わせて取り付けた加工工具を用
いる。このローレット駒群は錐またはロッドの回りに対
称に２組または正多角形状に複数組取り付けてもよい。
さらに付与された凹凸模様の凸部の硬さが、被接合母鋼
板の表面硬さよりも高いことが必要である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、高力ボルト摩擦接
合用スプライスプレートに関するもので、建築、橋梁な
どにおける鋼構造物の摩擦接合部に利用できる。本発明
鋼材を用いることにより安定して高い摩擦接合面のすべ
り係数が得られ、鋼構造物の安全性を高めることができ
る。

【０００２】

【従来の技術】高力ボルト摩擦接合において、日本建築
学会の設計施工指針では、接合耐力上重要となる摩擦面
は、黒皮除去された良好な赤錆面で、すべり係数が０．
４５を上回る処理を施し、また、すべり係数はすべり耐
力試験により確認する必要があるとされている。通常、
良好な赤錆状態であれば、すべり係数は０．４５を上回
ることが知られており、すべり耐力試験は省略される場
合が多い。

【０００３】赤錆状態のすべり係数は０．６程度の値が
得られることもあるが、環境因子や鋼材組成などにより
錆発生状態が異なるためバラツキが大きく、すべり係数
は０．４５として設計されているようである。摩擦接合
面のすべり係数は接合耐力上高いほど好ましいことは明
らかであり、特開昭５１−５２６２８号公報では接合面
に施工前に凹凸を付けたり、特開平１−２０６１０４号
公報では接合面に耐食性金属を溶射して高い摩擦抵抗を
発生させている。

【０００４】しかし、すべり係数は鋼材表面の粗さの増
大に伴って高くなる傾向にあるが、表面粗さを増しても
ある値以上にはならないという問題があった。また、表
面粗さ（凹凸）付与の方法もコストや手軽さの面で一般
に普及するには至っていない。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、スプライス
プレート側摩擦接合面のボルト穴周縁にローレット駒の
転造模様を有し、かつその凸部が被接合母鋼材よりも硬
いことにより、安定して高いすべり係数を発現する高力
ボルト摩擦接合用スプライスプレートを提供するもので
ある。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明の要旨は次の通り
である。 （１）スプライスプレートの摩擦接合面のボルト穴周縁
にボルト穴を中心とした同心円状にローレット駒を転圧
・転造することによって凹凸模様を付与したことを特徴
とする高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプラ
イスプレート。

【０００７】（２）ローレット駒によって粗度を付与す
る際、ボール盤、ＮＣ装置付きボール盤または可搬式ボ
ール盤に固定し得る錐またはロッドに、凹凸模様を付与
しようとする領域に対応した位置にローレット駒を必要
に応じて複数個組み合わせて取り付けた加工工具によっ
て凹凸模様を付与したことを特徴とする (1)記載の高力
ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライスプレー
ト。

【０００８】（３）ローレット駒群を錐またはロッドの
回りに対称に２組または正多角形状に複数組取り付けた
加工工具で凹凸模様を付与したことを特徴とする (1)記
載の高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライ
スプレート。 （４）付与された凹凸模様の凸部の硬さが、被接合母鋼
板の表面硬さよりも高いことを特徴とする (1)記載の高
力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライスプレ
ート。

【０００９】

【発明の実施の形態】鋼材（スプライスプレート）のす
べり係数を高めるには、ショットあるいはグリッドブラ
ストなどにより摩擦接合面の表面粗度を増す方法が一般
的である。しかし、これらの処理による表面粗度は、鋼
種やショット粒の種類などにもよるが十点平均粗さＲｚ
で高々１５０μｍ程度であり、これによるすべり係数の
増加には自ずと限界がある。

【００１０】そこで発明者らは、まずこのショットブラ
スト処理で付与し得る粗さ以上の凹凸を容易に得る方法
を種々検討した。その結果、切削などの機械加工、放電
加工あるいはエッチングのような化学的な方法では生産
性が低く、また実用上最も重要と考えた手軽さという点
で不十分であった。これに対し、凹凸付きロールの転圧
・転造による凹凸付与は、比較的容易で生産性も良好で
あるとの結果を得、その後改良を加え、ローレット駒を
用いた本発明に至った。

【００１１】さらに、本発明者らの研究によれば、同一
の表面粗さですべり係数を高めるためには、スプライス
プレートの少なくとも凸部の硬さを被接合母鋼板の硬さ
よりも高め、より被接合母鋼板に食い込ませることが有
効であるとの知見を得、本発明に至ったものである。

【００１２】以下、本発明について説明する。すべり係
数の観点からは、スプライスプレート摩擦接合面の粗度
が大きく、表面硬さは高いほど良い。また、凸部先端は
鋭いほど好ましい。まず、摩擦接合面の粗度は、特にコ
ストや簡便性の観点からローレット駒の転造とした。そ
の際、鋼板上をローレット駒の往復運動によって転造す
ることも可能であるが、より高効率に転造することを考
慮し、ボール盤に代表される回転加工機を用い、それら
に固定し得る錐またはロッドに市販のローレット駒を取
り付けた加工工具によって加工することとした。

【００１３】その際、凹凸模様を付与しようとする面積
に応じてローレット駒を複数個組み合わせることが可能
である。なお、幅広のローレット駒を使用することも可
能であるが、上述したボール盤などの回転加工機を用い
る本発明においては、内外輪差によって、外側の凹凸模
様の凸部先端の鋭角性が確保できないため、好ましくは
一つのローレット駒の幅は８mm以下である。また、複数
個組み合わせることで、凹凸高さ、ピッチを半径位置毎
に変化させることも可能で、例えばボルト締結時の軸力
分布に応じて最適な凹凸を付与することも可能である。

【００１４】ローレット駒の転造による凹凸模様は、ロ
ーレット駒の選択によって決まるが、例えばローレット
駒の刻み模様にある角度をもったものを組み合わせて使
用すれば、綾目状模様、すなわち角錐状の凹凸模様も容
易に付与できる。発明者らの検討によれば、同一の凹凸
模様付与面積であれば、綾目状模様が最も好ましい。

【００１５】さらに、ローレット駒群を、上述の錐また
はロッドに対称に２組または正多角形状に複数個取り付
けても良く、転造がより高効率に行なえ、ローレット駒
の配置によっては綾目状模様も付与できる。これら摩擦
接合面の凹凸は、摩擦接合面全面に施しても良いが、ボ
ルト締結時の軸力分布を考慮すれば、ボルト穴の周縁
に、ボルト穴を中心とした同心円状に凹凸を付与するこ
とが実効上最も有効であり、回転加工機に取り付けた加
工工具で凹凸模様を付与することは非常に効率的であ
る。

【００１６】発明者らの実験によれば、凹凸模様付与面
積は、凹凸模様にもよるが、ボルト穴径の１．５〜３倍
程度が最も好ましいが、必ずしもその領域内全面である
必要はない。

【００１７】凹凸の高さについては特に規定しないが、
ショットブラストなどで容易に付与し得る粗度（高低
差）以上、すなわち０．１５mm以上が好ましく、上限に
ついてはローレット駒の制約などもあるが、２mmを超え
てもすべり係数は顕著に増加せず、実効上は２mm以下で
ある。

【００１８】上記のように摩擦接合面に凹凸模様を付与
した上で、さらにすべり係数を向上させるためには、少
なくとも凸部の硬さが被接合母鋼板の表面硬さよりも高
い必要がある。これは、凸部が被接合母鋼板に食い込む
というアンカー効果を最大限発揮するために必要となる
もので、被接合母鋼板の表面硬さより硬いことが必要
で、ビッカース硬さで５０以上硬いことが好ましい。

【００１９】凸部の硬さが被接合母鋼板の表面硬さより
低いと、食い込みが不十分であったり、付与した凹凸
（粗度）が潰れてしまい、凹凸付与の効果が十分に発揮
されない。硬さの上限は特に規定しないが、鋼の組成な
どにより自ずと限界があることは自明である。なお、こ
の硬さは少なくとも凸部において必要で、スプライスプ
レート全断面にわたる必要はなく、ボルトの穴開け加工
などを考慮すると凸部近傍のみ硬いことがむしろ好まし
い。

【００２０】転造は、塑性変形を伴うため、それ自体で
若干固くなる傾向にあるが、転造後、焼入れなどの各種
の硬化処理を施すことは、本発明の効果をむしろ発揮す
るものであり好ましい。このほか、既に所要の表面硬さ
を十分に有する高張力鋼を用いれば、表面硬化処理を行
うことなく、転造による凹凸付与のみで本発明の要件を
満たすことができる。

【００２１】

【実施例】表１は、本発明の有用性を例示するために用
いた被接合母鋼板とスプライスプレートの組合わせと、
その結果としてのすべり係数を示したもので、実施例１
〜１０は本発明例、実施例１１〜１３は比較例である。
表には各々の摩擦接合面の粗度および表面硬さに加え、
スプライスプレートにおいては表面粗度付与面積および
方法、表面硬化方法などを併記した。

【００２２】

【表１】

【００２３】表中の表面硬さとは、最表面から０．１mm
下から０．５mmまで０．１mmピッチで荷重２００ｇで測
定したビッカース硬さの平均値である。表１の組合わせ
で図２に示すような試験体を用いてすべり係数を測定し
た。測定に当たっては、被接合母鋼板１、治具プレート
４は同一鋼板（ＳＭ４９０鋼）、ボルト３はＦ１０Ｔを
用い、スプライスプレート２に本発明による凹凸模様を
付与した。

【００２４】実施例１〜１０は、いずれも本発明の請求
項に記載した通りの摩擦接合面の表面粗度（Ｒｚ）、表
面硬さを有するため、０．７５以上の高いすべり係数を
発現している。これに対して比較例１１〜１３では、表
１中にハッチングで示したように本発明の構成要素であ
るスプライスプレート摩擦接合面に凹凸模様が施されて
いなかったり、凸部硬さが被接合母鋼板より低いなどの
ためにすべり係数が概して低い。

【００２５】

【発明の効果】本発明により、安定して高いすべり係数
を容易に得ることが可能になった。その結果、建築、橋
梁分野などにおいて、高力ボルト摩擦接合部の信頼性を
高める構造部材として提供することができ、その工業的
価値は大である。

【図面の簡単な説明】

【図１】（ａ１），（ａ２）及び（ｂ）は凹凸模様を示
す模式図で、（ｂ）は最も好ましい綾目状模様である。

【図２】すべり係数測定のための試験体の（ａ）は側面
図、（ｂ）は平面図である。

【符号の説明】

１：被接合母鋼板 ２：スプライスプレート（本発明鋼） ３：ボルト ４：治具プレート

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小林 清一 木更津市久津間1752 有限会社小林精密工 業内

Claims (4)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 スプライスプレートの摩擦接合面のボル
   ト穴周縁にボルト穴を中心とした同心円状にローレット
   駒を転圧・転造することによって凹凸模様を付与したこ
   とを特徴とする高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高め
   るスプライスプレート。
2. 【請求項２】 ローレット駒によって粗度を付与する
   際、ボール盤、ＮＣ装置付きボール盤または可搬式ボー
   ル盤に固定し得る錐またはロッドに、凹凸模様を付与し
   ようとする領域に対応した位置にローレット駒を必要に
   応じて複数個組み合わせて取り付けた加工工具によって
   凹凸模様を付与したことを特徴とする請求項１記載の高
   力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライスプレ
   ート。
3. 【請求項３】 ローレット駒群を錐またはロッドの回り
   に対称に２組または正多角形状に複数組取り付けた加工
   工具で凹凸模様を付与したことを特徴とする請求項１記
   載の高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるスプライ
   スプレート。
4. 【請求項４】 付与された凹凸模様の凸部の硬さが、被
   接合母鋼板の表面硬さよりも高いことを特徴とする請求
   項１記載の高力ボルト摩擦接合時の接合効率を高めるス
   プライスプレート。