JPH0663756A - Ｔ形継手パネルの溶接歪防止法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 金属薄板材に縦骨材を隅肉アーク溶接してな
るＴ形溶接継手パネルに関し、角変形歪ならびに座屈変
形歪が極めて少なく平坦なパネル材を提供する。 【構成】 金属薄板の溶接線に平行な両端を溶接面方向
に略直角に折曲げを行い、かつ該金属薄板の溶接部裏側
を高エネルギービームで隅肉アーク溶接より先行加熱す
る。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は金属薄板のＴ形溶接継手
の溶接歪防止方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】金属薄板は一般に高速艇、漁船、鉄道車
両、橋梁、建物、タンク等の構造物に多く使用されてお
り、こうした構造物は素材である金属薄板を溶接するこ
とにより組立建造されることが普通である。しかしなが
ら、この金属薄板の溶接組み立て加工では溶接歪が発生
し易いという問題を抱えていた。例えば、補強の縦骨材
を外板材と溶接して組み立てる時、縦骨材の隅角部を隅
肉アーク溶接していくと、金属薄板では特にその入熱に
より図１のように溶接ビード部を中心に座屈変形歪（Ｈ
１）および角変形歪（Ｈ２）が出易いという問題があっ
た。この変形歪が生じると溶接構造材としての品質が低
下し、例えば高速艇に使用した際に航行時の波の抵抗を
増す等の問題があることから、この歪を出来る限り最小
にすることが要求されている。

【０００３】こうした問題に対し（ａ）事前に機械的拘
束を行ったり、（ｂ）あるいは溶接組み立て終了後に溶
接部またはその近傍を点状あるいは線状に局部加熱後急
冷をして歪除去を行ったり（アルミニウム合金溶接歪防
止マニュアル 軽金属溶接構造協会）（ｃ）裏側から同
時加熱を行ったりしている（特開昭５８−１７９５６５
号公報）が、そのための作業時間や工数が大きいという
問題があった。また、その効果にも限界があり、これら
手法をもってしても歪を完全に取り除くのは困難で、特
に座屈変形歪が残留してしまうという問題もあった。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】本発明者らは以前にこ
のようなＴ形溶接継手で連続隅肉アーク溶接を行う際の
問題に対し、その溶接薄板の溶接部裏側を高エネルギー
ビームで隅肉アーク溶接より先行加熱する方法を提案し
た（例えば特願平２−７５９６５）。そしてこの方法に
より上記変形を低減することができ、特に角変形を大幅
に低減する事ができるようになった。しかしながら板厚
がより薄いものに対しては、この手法をもってしても溶
接変形の内の座屈変形を必ずしも完全に防止することは
できなかった。

【０００５】本発明は上記問題点を解決して簡潔にして
かつ低コストで歪の無い溶接構造物の製作を可能とする
ことを目的とするものである。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明の骨子は、角変形
および座屈変形の防止策を各々別手法にてほぼ同時に行
うことにより溶接変形の防止をはかるものである。即
ち、金属薄板材に１本以上の縦骨材を連続隅肉アーク溶
接してなるＴ形継手パネルにおいて、該金属薄板の溶接
線に平行な両端を溶接面方向に略直角に折曲げを行い、
かつ該金属薄板の溶接部裏側を高エネルギービームで隅
肉アーク溶接より先行加熱することを特徴とするＴ形継
手パネルの溶接歪防止方法である。

【０００７】ここで金属薄板の種類としては軟鋼、アル
ミニウム合金板等が好ましく適用できる。また、高エネ
ルギービームとしてはＴＩＧおよびプラズマアーク、電
子ビーム、レーザービーム、アセチレンおよびプロパン
バーナー等が好ましく使用でき、その加熱の程度は板
厚、溶接条件等に応じて適宜予備実験を行って選定すれ
ばよい。Ｔ形溶接継手で連続隅肉アーク溶接する金属薄
板の裏側を先行して加熱する際の高エネルギービームと
隅肉アーク溶接の間隔は最小でも１ｍｍ以上が必要であ
り、好ましくは５０〜１０００ｍｍ先行することが望ま
しい。先行加熱の程度は特に限定されないが、通常金属
薄板のごく表層（０．１ｍｍ程）を溶かす程度で良く、
実際には板厚や隅肉アーク溶接の条件毎に予備実験等に
より最適な程度を選定すれば良い。図３に示すように、
板両端で溶接面方向に略直角に折曲げする量としては特
に限定されないが通常は１ｔ〜１０ｔ（ｔ：板厚）が望
ましい。折曲げる方向はいずれの方向でもよいが、図３
に示すようにＴ継手の縦骨材と同じ方向に揃える方が金
属薄板の外面に折曲げ部が現われず、また複数のＴ継手
からなる板を溶接する場合に折曲げ部を溶接するのに溶
接しやすいなどの利点がある。隅肉溶接法の種類として
は特に限定されないが、通常ＭＩＧ溶接、ＣＯ₂溶接ま
たはマグ溶接等が使用でき、金属薄板の種類に応じて適
宜選択する。なお本発明は、通常、板厚は１０ｍｍ以下
に適用できるが、２〜５ｍｍが好適である。

【０００８】

【作用】高エネルギービームの先行加熱によりＴ継手の
角変形歪防止が可能な理由は以下の２つの理由によるも
のと考えられる。即ち高エネルギービームによる加熱に
より、隅肉アーク溶接前の金属薄板に逆向きの角変形歪
が容易に発生し、この逆歪がその後の隅肉アーク溶接に
よる変形で打ち消される結果歪が平坦になる作用および
加熱により隅肉溶接時の板面でのアーク熱の分布のアン
バランスが緩和される作用によるものと思われる。これ
に対し高エネルギービームで加熱する位置が隅肉アーク
溶接のアークの真下ないし後方ではその効果が少ない。
これは隅肉アーク溶接により溶融凝固して一旦Ｔ継手が
形成されてしまうと、溶接前の平板のままの状態に比べ
拘束力が大きくなり、その後の歪矯正では元の状態に戻
すのが困難になるため、および溶接熱により加熱されて
しまっていることから熱バランス効果が低下するためと
考えられる。

【０００９】また座屈変形を大幅に低下させることがで
きる理由についてはおおよそ次の通りと考えられる。す
なわち、通常金属薄板の隅肉溶接を行うと溶接部には溶
接線方向に収縮（縦収縮）が生じる。この収縮により溶
接部周辺の金属薄板にも縦収縮しようとする応力が働く
が、薄板であることから腰が弱くこのため容易に座屈変
形を生じてしまい既出の図１に示すような形状になるも
のと思われる。これに対して図３に示すように金属薄板
の溶接線に平行な両端を溶接面方向に略直角に折曲げる
ことにより断面の剛性が増加し、その結果座屈変形が防
止されるものと考えられる。

【００１０】

【実施例】あらかじめ下記の外板材の溶接する部分に平
行な板両端を溶接面方向に１０ｍｍ略直角に折曲げた。 ・試験片 外板材：ＪＩＳＡ５０８３−Ｏアルミニウム材 厚さ３ｍｍ、幅１５００ｍｍ、長さ３０００ｍｍ 縦骨材：ＪＩＳＡ５０８３−Ｏアルミニウム材 厚さ４ｍｍ、幅６０ｍｍ、長さ３０００ｍｍ ついで、図２に示すように、縦骨材を外板材の板端から
２４０ｍｍの位置から順に５００ｍｍ間隔に３本、外板
材と略直角となるように、かつ縦骨材と外板材の境界に
隙間が無いように押しつけた状態で仮付け溶接した後、
各々の溶接位置より２００ｍｍ前方の外板材の裏側を３
台のＴＩＧ溶接機トーチのアークで先行加熱しながら、
６台のＭＩＧ溶接機トーチで３本の縦骨材の連続自動隅
肉溶接を行った。溶接条件は次の通りである。 ＭＩＧ １８０（アンペア） １８（ボルト） ＴＩＧ １５０（アンペア） １８（ボルト） 溶接速度 ２０００ｍｍ／ｍｉｎ

【００１１】この時の座屈変形量の最大値Ｈ１および溶
接中心から１００ｍｍの位置における角変形量Ｈ２を測
定した。その結果を表１に示す。なお、比較例として上
記条件で板端の折曲げおよび裏側のＴＩＧ加熱を行わな
い場合の歪の結果も表１に示す。

【００１２】

【表１】

【００１３】表１に示すように比較例では座屈変形、角
変形ともに１５ｍｍ程度の歪が生じているが、本発明に
係るＴ形継手では座屈変形量が０．２ｍｍ、角変形量が
０．４ｍｍと極めて少なく比較例の１／５０程度にまで
減少しており、極めて平坦なＴ形継手を得ることができ
た。

【効果】以上詳述したように、本発明の溶接方法によれ
ば、金属薄板材に縦骨材を１本以上溶接してなるＴ形継
手パネルにおいて、角変形歪ならびに座屈変形歪が極め
て少なく平坦なパネル材を提供することができ、従って
船舶等の建造工数、工期の削減ができ、大幅なコストダ
ウンとなる。また他の歪取り法や歪予防法と比較して簡
便に行えるという利点がある。

【図面の簡単な説明】

【図１】Ｔ形溶接継手における歪を示す斜視図である。

【図２】本発明の実施例を示す溶接過程の断面図であ
る。

【図３】本発明に係る溶接後のＴ形溶接継手を示す斜視
図である。

【符号の説明】

１ 折曲げ部 ３ 金属薄板（外板材） ４ 縦骨材 ５ 溶接ビード １０ ＭＩＧ溶接機 １１ ＴＩＧ溶接機 Ｈ１ 座屈変形量 Ｈ２ 角変形量 ｌ 溶接中心からの距離

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 金属薄板材に１本以上の縦骨材を連続隅
   肉アーク溶接してなるＴ形継手パネルにおいて、該金属
   薄板の溶接線に平行な両端を溶接面方向に略直角に折曲
   げを行い、かつ該金属薄板の溶接部裏側を高エネルギー
   ビームで隅肉アーク溶接より先行加熱することを特徴と
   するＴ形継手パネルの溶接歪防止方法。