(第1実施形態)
以下、車両の姿勢制御装置の第1実施形態を図1~図6に従って説明する。
図1には、姿勢制御装置として機能する制動制御装置35を備える車両10が図示されている。車両10は、前輪11用の摩擦制動機構20Fと、後輪12用の摩擦制動機構20Rとを備えている。各摩擦制動機構20F,20Rでは、ホイールシリンダ21内の液圧が高いほど、対応する車輪11,12と一体回転する回転体22に対して摩擦材23が強く押し付けられる。このように摩擦材23を回転体22に押し付けることにより、車輪11,12に制動力が付与される。なお、以降の記載において、摩擦制動機構20F,20Rの作動によって車輪11,12に付与する制動力を「摩擦制動力」といい、ホイールシリンダ21内の液圧を、「WC圧」という。
車両10には、各ホイールシリンダ21内のWC圧を制御することにより、前輪11に付与する摩擦制動力及び後輪12に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置31が設けられている。摩擦制動装置31は、液圧発生装置32と、制動アクチュエータ33とを有している。液圧発生装置32は、ブレーキペダルなどの制動操作部材321が運転者によって操作されているときに、その操作量に応じた液圧を発生する。そして、運転者によって制動操作が行われている場合、液圧発生装置32で発生した液圧に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ21内に供給される。これにより、各車輪11,12に摩擦制動力が付与される。制動アクチュエータ33は、制動制御装置35による制御によって、各ホイールシリンダ21内のWC圧を個別に調整することができる。すなわち、制動アクチュエータ33の作動によって各車輪11,12に付与する摩擦制動力を個別に調整できる。なお、各ホイールシリンダ21は、各車輪11,12及び回転体22と同様に、サスペンション15F,15Rを構成するサスペンションアームやナックルに取り付けられている。そのため、摩擦制動力を発生させた際にホイールシリンダ21に作用する反力が、サスペンション15F,15Rに直接伝達される。
図1に示す車両10は、前輪11用のモータジェネレータ51Fと、後輪12用のモータジェネレータ51Rとを備えている。モータジェネレータ51Fを電動機として機能させることにより、モータジェネレータ51Fから前輪11に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ51Fを発電機として機能させることにより、モータジェネレータ51Fの発電量に応じた制動力が前輪11に付与される。同様に、モータジェネレータ51Rを電動機として機能させることにより、モータジェネレータ51Rから後輪12に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ51Rを発電機として機能させることにより、モータジェネレータ51Rの発電量に応じた制動力が後輪12に付与される。以降の記載において、モータジェネレータ51F,51Rの発電によって車輪11,12に付与する制動力を「回生制動力」という。なお、各モータジェネレータ51F,51Rは、車体に取り付けられている。そのため、回生制動力を発生させた際にモータジェネレータ51F,51Rに作用する反力は車体に伝達され、各車輪11,12が取り付けられているサスペンション15F,15Rに当該反力が直接伝達されることはない。
以降の記載において、前輪11に付与する摩擦制動力を「前輪摩擦制動力」といい、前輪11に付与する回生制動力を「前輪回生制動力」という。また、後輪12に付与する摩擦制動力を「後輪摩擦制動力」といい、後輪12に付与する回生制動力を「後輪回生制動力」という。
各モータジェネレータ51F,51Rは、モータ制御装置52によって制御される。すなわち、本実施形態では、各モータジェネレータ51F,51Rと、モータ制御装置52とにより、前輪回生制動力及び後輪回生制動力を調整する「回生制動装置50」が構成されている。また、図1に示す例では、前輪11に回生制動力を付与でき、且つ、後輪12にも回生制動力を付与できる。よって、前輪11及び後輪12の双方が、「回生対象車輪」となる。
車両10には、車輪11,12毎にサスペンション15F,15Rが設けられている。各サスペンション15F,15Rは、図3に示すように、対応する車輪11,12と車体13との間に介装されている。各サスペンション15F,15Rは、車重を支えて衝撃を吸収するスプリング16と、スプリング16の振動を減衰するダンパ17とを有している。各サスペンション15F,15Rは、サスペンション15F,15Rのストロークの変化速度とダンパ17が発生する減衰力との関係である減衰力特性を変更可能である。すなわち、各サスペンション15F,15Rは、ダンパ17が発生する減衰力FDを変更可能に構成されている。例えば、各サスペンション15F,15Rは、ダンパ17が発生する減衰力FDを、基準減衰力FDB、基準減衰力FDBよりも大きい第1減衰力FD1、基準減衰力FDBよりも小さい第2減衰力FD2のうちの何れか1つの減衰力に設定できるように構成されている。
なお、前述した減衰力FD1,FD2,FDBの大小は、サスペンション15F,15Rのストロークの変化速度に対するダンパ17が発生する減衰力の特性を基に、ストロークの変化速度が所定の変化速度であるときにダンパ17が発生する減衰力の大小のことである。つまり、サスペンション15F,15Rのストロークの変化速度が同一である条件下において、各減衰力FD1,FD2,FDBのうち、第1減衰力FD1が最も大きく、基準減衰力FDBが2番目に大きく、第2減衰力FD2が最も小さくなるように、各サスペンション15F,15Rの減衰力特性が変更される。ちなみに、減衰力FDが小さいほど、スプリング16が伸縮しやすくなる。より具体的には、減衰力FDが小さいほど、スプリング16に所定の荷重が加わった際に、スプリング16が荷重に対応する長さになるまでの所要時間が短くなる。すなわち、減衰力FDが小さいほど、スプリング16の伸縮速度が速くなる。
以降の記載において、ダンパ17の減衰力FDとして基準減衰力FDBが設定されている場合、サスペンション15F,15Rの状態を「基準状態」というとともに、このときのサスペンション15F,15Rの減衰力特性を「基準減衰力特性」という。減衰力FDとして第1減衰力FD1が設定されている場合、サスペンション15F,15Rの状態を「ハード状態」というとともに、このときのサスペンション15F,15Rの減衰力特性を「第1減衰力特性」という。減衰力FDとして第2減衰力FD2が設定されている場合、サスペンション15F,15Rの状態を「ソフト状態」というとともに、このときのサスペンション15F,15Rの減衰力特性を「第2減衰力特性」という。
図1に示すように、車両10は、各サスペンション15F,15Rのダンパ17を制御するサスペンション制御装置70を備えている。図1に示す例では、車両10の走行モードを選択する際に運転者によって操作される操作部111が車両10に設けられている。選択可能な走行モードとしては、例えば、通常モード、通常モードの選択時よりも車両10の急な加減速を繰り返す走行に適したモードであるスポーティモード、及び、通常モードの選択時よりも車両10の加減速を抑制するモードであるラグジュアリーモードが用意されている。サスペンション制御装置70は、選択されている走行モードに応じた特性を基準減衰力特性、第1減衰力特性及び第2減衰力特性の中から選択し、選択した特性をサスペンション15F,15Rの減衰力特性として設定する。すなわち、サスペンション制御装置70は、選択されている走行モードに基づき、サスペンション15F,15Rの状態を、基準状態、ハード状態及びソフト状態の何れかの状態とするべく、ダンパ17を制御する。そして、サスペンション制御装置70は、サスペンション15F,15Rの状態に関する情報、すなわちダンパ17の減衰力FDに関する情報を制動制御装置35に送信する。
次に、制動制御装置35について説明する。
図1に示すように、制動制御装置35には、操作量検出センサ101及び車速センサ102などの各種のセンサから検出信号が入力される。操作量検出センサ101は、運転者による制動操作部材321の操作量SBPを検出し、操作量SBPに応じた信号を検出信号として出力する。車速センサ102は、車両の車体速度である車速VSを検出し、車速VSに応じた信号を検出信号として出力する。
また、制動制御装置35は、回生制動装置50のモータ制御装置52、及びサスペンション制御装置70と各種の情報の送受信を行う。
図1に示すように、制動制御装置35は、機能部として、要求制動力導出部351と、規範プロファイル作成部352と、プロファイル補正部353と、期間長設定部354と、制動力配分導出部355と、作動指示部356と、摩擦制動制御部357とを有している。
要求制動力導出部351は、車両10の制動力の要求値である要求車両制動力FxRを導出する。すなわち、制動操作部材321が操作されている場合、要求制動力導出部351は、制動操作部材321の操作量SBP及び操作量SBPの変化速度を基に、要求車両制動力FxRを導出する。例えば、要求制動力導出部351は、操作量SBPが多いほど要求車両制動力FxRを大きくする。また、要求制動力導出部351は、操作量SBPの増大速度が高いほど要求車両制動力FxRを大きくする。
なお、要求制動力導出部351は、制動操作が行われていない状況下で車両10に減速が要求されたときにも要求車両制動力FxRを導出する。
規範プロファイル作成部352は、要求制動力導出部351によって導出された要求車両制動力FxRと、予め把握されている車両10の諸元特性とを基に、車両10のピッチ角APの推移の規範として規範ピッチ角推移プロファイルPRNを作成する。規範プロファイル作成部352は、各サスペンション15F,15Rの状態が基準状態であるという仮定の基、すなわちダンパ17の減衰力が基準減衰力FDBであるという仮定の基、規範ピッチ角推移プロファイルPRNを作成する。
ここで、図2を参照し、規範ピッチ角推移プロファイルPRNについて説明する。図2(c)に実線で示すようにダンパ17の減衰力FDとして基準減衰力FDBが設定されている状況下で図2(a)に示すように要求車両制動力FxRが推移する場合に予測される車両10のピッチ角APの推移が、図2(b)では実線で示されている。すなわち、図2(b)における実線が、規範ピッチ角推移プロファイルPRNの一例である。
規範プロファイル作成部352は、要求車両制動力FxRの変化速度、要求車両制動力FxRの大きさ、及び基準減衰力FDBを基に、ピッチ角APの収束値APC、及び、収束値APCまでのピッチ角APの変化速度を推測する。そして、規範プロファイル作成部352は、推測結果を基に、例えば、ピッチ角APが収束値APCに収束する時点が要求車両制動力FxRの保持の開始時点よりも遅れるような規範ピッチ角推移プロファイルPRNを作成する。
図1に戻り、プロファイル補正部353は、選択されているサスペンション15F,15Rの状態、すなわちダンパ17の減衰力FDを基に、規範プロファイル作成部352によって作成された規範ピッチ角推移プロファイルPRNを補正し、補正後のプロファイルをピッチ角推移プロファイルPRとして導出する。すなわち、サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合、プロファイル補正部353は、規範ピッチ角推移プロファイルPRNを補正することなく、規範ピッチ角推移プロファイルPRNをピッチ角推移プロファイルPRとして導出する。サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合、プロファイル補正部353は、サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合よりもピッチ角APの変化速度が低くなるように規範ピッチ角推移プロファイルPRNを補正し、ピッチ角推移プロファイルPRを導出する。サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合、プロファイル補正部353は、サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合よりもピッチ角APの変化速度が高くなるように規範ピッチ角推移プロファイルPRNを補正し、ピッチ角推移プロファイルPRを導出する。
ここで、図2を参照し、サスペンション15F,15Rの状態が基準状態以外の他の状態である場合に導出されるピッチ角推移プロファイルPRについて説明する。
図2(c)に破線で示すようにダンパ17の減衰力FDが第1減衰力FD1である場合、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態であるため、図2(b)に実線で示す規範ピッチ角推移プロファイルPRNが、図2(b)に破線で示すように補正される。すなわち、図2(b)における破線が、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態におけるピッチ角推移プロファイルPRを示す線である。
ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも大きいため、要求車両制動力FxRが増大している場合、サスペンション15F,15Rのスプリング16が伸縮しにくい。この場合、図2(b)に示すように、減衰力FDが基準減衰力FDBである場合と比較し、車両10のピッチ角APが緩やかに変化するため、ピッチ角APが収束値APCに達するまでに要する時間が長くなる。ピッチ角APが収束値APCに達した時点以降では、収束値APCに対してピッチ角APが少しだけオーバーシュートした後、ピッチ角APが収束値APCに収束する。
一方、図2(c)に二点鎖線で示すようにダンパ17の減衰力FDが第2減衰力FD2である場合、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態であるため、図2(b)に実線で示す規範ピッチ角推移プロファイルPRNが、図2(b)に二点鎖線で示すように補正される。すなわち、図2(b)における二点鎖線が、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態におけるピッチ角推移プロファイルPRを示す線である。
ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さいため、要求車両制動力FxRが増大している場合、サスペンション15F,15Rのスプリング16が伸縮しやすい。そのため、図2(b)に示すように、減衰力FDが基準減衰力FDBである場合と比較し、車両10のピッチ角APが早期に変化するため、ピッチ角APが収束値APCに達するまでに要する時間が短くなる。ピッチ角APが収束値APCに達した時点以降では、収束値APCに対してピッチ角APが大幅にオーバーシュートする。そして、オーバーシュートとアンダーシュートとを交互に繰り返しつつ、ピッチ角APが収束値APCに収束する。そのため、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合と比較し、要求車両制動力FxRの増大の開始時点からピッチ角APが収束値APCに収束する時点までの長さが長くなりやすい。
図1に戻り、期間長設定部354は、後述する所定の期間TRMの長さを設定する。すなわち、期間長設定部354は、規範プロファイル作成部352によって作成された規範ピッチ角推移プロファイルPRNと、プロファイル補正部353によって導出されたピッチ角推移プロファイルPRとを基に、所定の期間TRMの長さを設定する。例えば、期間長設定部354は、規範ピッチ角推移プロファイルPRNからピッチ角APの収束値APCを導出し、ピッチ角推移プロファイルPRからピッチ角APが収束値APCに収束する予測時点を導出する。そして、期間長設定部354は、要求車両制動力FxRの変更時点から予測時点までを所定の期間TRMとする。すなわち、期間長設定部354は、変更時点から予測時点までの時間的な長さが長いほど長くなるように所定の期間TRMの長さを設定する。図2に示す例では、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合、所定の期間TRMの長さは、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合よりも長くなるように設定される。
制動力配分導出部355は、設定されている各サスペンション15F,15Rの減衰力特性、すなわちダンパ17の減衰力FD、及び、要求車両制動力FxRの変化態様を基に、車両10における制動力の配分を導出する。例えば、制動力配分導出部355は、要求車両制動力FxRが増大される際、ダンパ17の減衰力FDが小さいときには、車両10における制動力の配分として、減衰力FDが大きいときよりもピッチング抑制力FPSを大きくする側の値を導出する。つまり、制動力配分導出部355は、要求車両制動力FxRが増大される際には、サスペンション15F,15Rの減衰力特性として、上記ストロークの変化速度が所定の変化速度であるときの減衰力FDを小さくする特性が設定されている場合、サスペンション15F,15Rの減衰力特性として、上記ストロークの変化速度が所定の変化速度であるときの減衰力FDを大きくする特性が設定されている場合よりもピッチング抑制力FPSを大きくする側の値を、車両10における制動力の配分として導出する。なお、ピッチング抑制力FPSとは、詳しくは後述するが、車輪11,12に制動力を付与することによって車両10に発生する力のうち、車両10のピッチ角APの増大を抑制する力である。
本実施形態では、制動力配分導出部355は、車両10における制動力の配分として、前後制動力配分nを導出する。前後制動力配分nとは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとの和に対する前輪制動力Fxfの割合である。前輪制動力Fxfとは、前輪摩擦制動力Fxfbと前輪回生制動力Fxfdとの和であり、後輪制動力Fxrとは、後輪摩擦制動力Fxrbと後輪回生制動力Fxrdとの和である。前後制動力配分nの具体的な導出処理については後述する。
作動指示部356は、回生制動装置50の各モータジェネレータ51F,51Rの作動と、摩擦制動装置31の制動アクチュエータ33の作動とを指示する。作動指示部356は、前輪回生制動力Fxfdの要求値である前輪回生制動力要求値FxfdRを導出し、前輪回生制動力要求値FxfdRに関する情報を回生制動装置50のモータ制御装置52に送信する。作動指示部356は、後輪回生制動力Fxrdの要求値である後輪回生制動力要求値FxrdRを導出し、後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報をモータ制御装置52に送信する。すなわち、前輪回生制動力要求値FxfdRに関する情報をモータ制御装置52に送信することが、モータジェネレータ51Fの作動を指示することである。後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報をモータ制御装置52に送信することが、モータジェネレータ51Rの作動を指示することである。また、作動指示部356は、前輪摩擦制動力Fxfbの要求値である前輪摩擦制動力要求値FxfbRと、後輪摩擦制動力Fxrbの要求値である後輪摩擦制動力要求値FxrbRとを導出する。前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRを導出することが、制動アクチュエータ33の作動を指示することである。
例えば、以下の関係式(式1)、(式2)、(式3)及び(式4)を用い、前輪摩擦制動力要求値FxfbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR及び後輪回生制動力要求値FxrdRを導出できる。前輪11の摩擦回生配分nfとは、前輪11に付与する摩擦制動力と回生制動力との和に対する、前輪11に付与する摩擦制動力の割合である。後輪12の摩擦回生配分nrとは、後輪12に付与する摩擦制動力と回生制動力との和に対する、後輪12に付与する摩擦制動力の割合である。
摩擦制動制御部357は、作動指示部356で導出された前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRを基に制動アクチュエータ33を作動させる。すなわち、摩擦制動制御部357は、前輪11に対して設けられているホイールシリンダ21内のWC圧が前輪摩擦制動力要求値FxfbRに応じた液圧となるとともに、後輪12に対して設けられているホイールシリンダ21内のWC圧が後輪摩擦制動力要求値FxrbRに応じた液圧となるように、制動アクチュエータ33を制御する。
次に、モータ制御装置52について説明する。
図1に示すように、モータ制御装置52は、機能部として、前輪モータ制御部60Fと、後輪モータ制御部60Rとを有している。前輪モータ制御部60Fはモータジェネレータ51Fを制御し、後輪モータ制御部60Rはモータジェネレータ51Rを制御する。
前輪モータ制御部60Fは、制動制御装置35から前輪回生制動力要求値FxfdRに関する情報を受信すると、前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRと等しくなるようにモータジェネレータ51Fの発電量を制御する。後輪モータ制御部60Rは、制動制御装置35から後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報を受信すると、後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRと等しくなるようにモータジェネレータ51Rの発電量を制御する。
次に、図3を参照し、車両制動時における車両10のピッチング運動について説明する。図3では、前輪11側のばね上荷重SWf及び後輪12側のばね上荷重SWrが白抜きの矢印で表されている。ばね上荷重とは、車両重量及びピッチングモーメントMpによって車体13からサスペンション15F,15Rに入力される垂直方向の荷重である。
制動力の付与によって車両10が減速すると、図3に実線の矢印で示すようなピッチングモーメントMpが車両10に発生し、ノーズダイブ側に車両10がピッチング運動する。ノーズダイブとは、車両10の前部を下方に変位させるとともに車両10の後部を上方に変位させる車両10の挙動のことである。一方、車両10の前部を上方に変位させるとともに車両10の後部を下方に変位させる車両10の挙動のことを、「ノーズリフト」という。ノーズダイブ側に車両10がピッチング運動すると、車両10のピッチ角APが大きくなる一方、ノーズリフト側に車両10がピッチング運動すると、ピッチ角APが小さくなる。
車両10がノーズダイブ側にピッチング運動すると、前輪11側のばね上荷重SWfが大きくなるため、前輪11用のサスペンション15Fのスプリング16が収縮する。その結果、図3に実線の矢印で示すように、スプリング16の復元力である前輪スプリング復元力FSfが車体13に付与される。また、車両10がノーズダイブ側にピッチング運動すると、後輪12側のばね上荷重SWrが小さくなるため、後輪12用のサスペンション15Rのスプリング16が伸長する。その結果、図3に実線の矢印で示すように、スプリング16の復元力である後輪スプリング復元力FSrが車体13に付与される。
また、車両10には、図3に黒塗りの矢印で示すように、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとが発生し得る。アンチダイブ力FADは、前輪11に制動力が付与されるときに車両前部を上方に変位させる力であり、前輪制動力Fxfが大きいほど大きくなる。アンチリフト力FALは、後輪12に制動力が付与されるときに車両後部を下方に変位させる力であり、後輪制動力Fxrが大きいほど大きくなる。
各サスペンション15F,15Rのジオメトリは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとが互いに同じ値であるときには、アンチリフト力FALのほうがアンチダイブ力FADよりも大きくなるように設定されることがある。本実施形態では、アンチリフト力FALのほうがアンチダイブ力FADよりも大きくなるものとする。
アンチリフト力FAL及びアンチダイブ力FADは、車両10のピッチ角APの増大を抑制する力である。車両制動時にあっては、アンチリフト力FALとアンチダイブ力FADとの和が大きいほど、ピッチ角APの増大の抑制効果を高くできる。そのため、上記のピッチング抑制力FPSは、アンチリフト力FALとアンチダイブ力FADとの和が大きいほど大きくなる。すなわち、アンチリフト力FAL及びアンチダイブ力FADを把握することにより、ピッチング抑制力FPSを推定することができる。
本実施形態では、アンチリフト力FALのほうがアンチダイブ力FADよりも大きくしやすいため、前後制動力配分nを小さくした場合、前輪制動力Fxfの減少に起因するアンチダイブ力FADの減少量よりも後輪制動力Fxrの増大に起因するアンチリフト力FALの増大量が大きくなる。つまり、前後制動力配分nを小さくすることにより、車両制動力Fxを可変させることなく、ピッチング抑制力FPSを増大させることができる。
次に、図4を参照し、車両制動時に制動力配分導出部355が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、車両10における制動力の配分として前後制動力配分nを導出するために実行される。なお、本処理ルーチンは、要求車両制動力FxRが変更されたことを条件に開始されるルーチンである。
本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、期間長設定部354によって設定された所定の期間TRMが取得される。続いて、ステップS12において、サスペンション制御装置70から受信した情報を基に、ダンパ17の減衰力FDが取得される。そして、次のステップS13において、各サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態であるか否かの判定が行われる。各サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合(S13:YES)、処理が次のステップS14に移行される。
ステップS14において、ソフト時制動力配分変更処理が実行される。各サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合における前後制動力配分nを、基準前後制動力配分nBとする。この場合、ソフト時制動力配分変更処理では、要求車両制動力FxRが増大される際には、基準前後制動力配分nBよりも小さい値が、前後制動力配分nとして導出される。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが小さいときには、前後制動力配分nとして、ダンパ17の減衰力FDが大きいときよりもピッチング抑制力FPSを大きくする側の値が導出される。一方、ソフト時制動力配分変更処理では、要求車両制動力FxRが減少される際には、基準前後制動力配分nBよりも大きい値が、前後制動力配分nとして導出される。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが小さいときには、前後制動力配分nとして、ダンパ17の減衰力FDが大きいときよりもピッチング抑制力FPSを小さくする側の値が導出される。ソフト時制動力配分変更処理の具体的な処理内容については後述する。
ちなみに、基準前後制動力配分nBは、車両10の走行状態、及び理想制動力配分を基に設定される。理想制動力配分とは、前輪11と後輪12とを同時にロックさせるような前後制動力配分である。
前後制動力配分nが導出されると、処理が次のステップS15に移行される。ステップS15において、所定の期間TRMが経過したか否かの判定が行われる。例えば、要求車両制動力FxRの変更の開始時点からの経過時間を基に、所定の期間TRMが経過したか否かを判定することができる。当該開始時点は、本処理ルーチンの開始時点である。所定の期間TRMが未だ経過していない場合(S15:NO)、処理がステップS14に移行される。すなわち、ソフト時制動力配分変更処理の実行が継続される。一方、所定の期間TRMが経過した場合(S15:YES)、処理が次のステップS16に移行される。すなわち、ソフト時制動力配分変更処理の実行が終了される。
ステップS16において、前後制動力配分nとして基準前後制動力配分nBが設定される。その後、本処理ルーチンが終了される。
その一方で、ステップS13において、各サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態ではない場合(NO)、処理が次のステップS17に移行される。ステップS17において、各サスペンション15F,15Rの状態がハード状態であるか否かの判定が行われる。各サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合(S17:YES)、処理が次のステップS18に移行される。
ステップS18において、ハード時制動力配分変更処理が実行される。ハード時制動力配分変更処理では、要求車両制動力FxRが増大される際には、基準前後制動力配分nBよりも大きい値が、前後制動力配分nとして導出される。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが大きいときには、前後制動力配分nとして、ダンパ17の減衰力FDが小さいときよりもピッチング抑制力FPSを小さくする側の値が導出される。一方、ハード時制動力配分変更処理では、要求車両制動力FxRが減少される際には、基準前後制動力配分nBよりも小さい値が、前後制動力配分nとして導出される。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが大きいときには、前後制動力配分nとして、ダンパ17の減衰力FDが小さいときよりもピッチング抑制力FPSを大きくする側の値が導出される。ハード時制動力配分変更処理の具体的な処理内容については後述する。
前後制動力配分nが導出されると、処理が次のステップS19に移行される。ステップS19では、上記ステップS15と同様に、所定の期間TRMが経過したか否かの判定が行われる。所定の期間TRMが未だ経過していない場合(S19:NO)、処理がステップS18に移行される。すなわち、ハード時制動力配分変更処理の実行が継続される。一方、所定の期間TRMが経過した場合(S19:YES)、処理が前述したステップS16に移行される。すなわち、ハード時制動力配分変更処理の実行が終了される。
その一方で、ステップS17において、各サスペンション15F,15Rの状態がハード状態ではない場合(NO)、各サスペンション15F,15Rの状態が基準状態であるため、処理が前述したステップS16に移行される。すなわち、この場合では、前後制動力配分nとして基準前後制動力配分nBが導出される。
次に、図5を参照し、ソフト時制動力配分変更処理の一例について説明する。
図5に示す例にあっては、図5(a)に示すようにタイミングt21からタイミングt22までの期間で要求車両制動力FxRが増大される。このように要求車両制動力FxRが増大される場合、本例では、図5(e)に示すようにタイミングt21からタイミングt23までの期間が所定の期間TRMとして設定される。そのため、図5(d)に示すように、ソフト時制動力配分変更処理の実行により、タイミングt21からタイミングt23までの期間では、前後制動力配分nとして基準前後制動力配分nBよりも小さい値が導出される。例えば、タイミングt21からタイミングt23までの期間内において、タイミングt21からあるタイミングまでの間では、前後制動力配分nが徐々に減少される。あるタイミングに達した以降では、前後制動力配分nが徐々に増大される。そして、タイミングt23で、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの増大が終わるタイミングt22を、あるタイミングとしてもよい。
なお、所定の期間TRM内での前後制動力配分nの変化態様は、前後制動力配分nの変更に対するピッチング抑制力FPSの変化量に基づいて決めることができる。前後制動力配分nの変更に対するピッチング抑制力FPSの変化量は、車両10の諸元特性から推測できる。
図5に示す例にあっては、図5(a)に示すようにタイミングt24からタイミングt25までの期間で要求車両制動力FxRが減少される。このように要求車両制動力FxRが減少される場合、本例では、図5(e)に示すようにタイミングt24からタイミングt26までの期間が所定の期間TRMとして設定される。そのため、図5(d)に示すように、ソフト時制動力配分変更処理の実行により、タイミングt24からタイミングt26までの期間では、前後制動力配分nとして基準前後制動力配分nBよりも大きい値が導出される。例えば、タイミングt24からタイミングt26までの期間内において、タイミングt24からあるタイミングまでの間では、前後制動力配分nが徐々に増大される。あるタイミングに達した以降では、前後制動力配分nが徐々に減少される。そして、タイミングt26で、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの減少が終わるタイミングt25を、あるタイミングとしてもよい。
次に、ハード時制動力配分変更処理の一例について説明する。
図6に示す例にあっては、図6(a)に示すようにタイミングt31からタイミングt32までの期間で要求車両制動力FxRが増大される。このように要求車両制動力FxRが増大される場合、本例では、図6(e)に示すようにタイミングt31からタイミングt33までの期間が所定の期間TRMとして設定される。そのため、ハード時制動力配分変更処理の実行により、図6(d)に示すように、タイミングt31からタイミングt33までの期間では、前後制動力配分nとして基準前後制動力配分nBよりも大きい値が導出される。例えば、タイミングt31からタイミングt33までの期間内において、タイミングt31からあるタイミングまでの間では、前後制動力配分nが徐々に増大される。あるタイミングに達した以降では、前後制動力配分nが徐々に減少される。そして、タイミングt33で、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの増大が終わるタイミングt32を、あるタイミングとしてもよい。
図6に示す例にあっては、図6(a)に示すようにタイミングt34からタイミングt35までの期間で要求車両制動力FxRが減少される。このように要求車両制動力FxRが減少される場合、本例では、図6(e)に示すようにタイミングt34からタイミングt36までの期間が所定の期間TRMとして設定される。そのため、図6(d)に示すように、ハード時制動力配分変更処理の実行により、タイミングt34からタイミングt36までの期間では、前後制動力配分nとして、基準前後制動力配分nBよりも小さい値が導出される。例えば、タイミングt34からタイミングt36までの期間内において、タイミングt34からあるタイミングまでの間では、前後制動力配分nが徐々に減少される。あるタイミングに達した以降では、前後制動力配分nが徐々に増大される。そして、タイミングt36で、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの減少が終わるタイミングt35を、あるタイミングとしてもよい。
次に、図5及び図6を参照し、本実施形態の作用及び効果について説明する。なお、前提として、車両制動時にあっては、前後制動力配分nを変更しても、各摩擦回生配分nf,nrは変わらないものとする。例えば、前輪制動力Fxfが前輪摩擦制動力Fxfbと等しく、且つ、後輪制動力Fxrが後輪摩擦制動力Fxrbと等しいものとする。
はじめに、各サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態であってダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さい場合について説明する。
図5(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、車両10に制動力が付与されると、車両10のピッチ角APが変化する。図5に示す例にあっては、タイミングt21からタイミングt22までの間では要求車両制動力FxRの増大に伴って車両制動力Fxが増大され、タイミングt22からは車両制動力Fxが保持される。ソフト時制動力配分変更処理が実行されない場合を第1比較例とした場合、第1比較例では、図5(d)に破線で示すように前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しい状態が継続するため、車両10のピッチ角APが図5(e)に破線で示すように推移する。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが小さいため、車両制動力Fxが増大される際における車両10のピッチ角APの増大速度が高くなる。そして、ピッチ角APは収束値APCを大幅にオーバーシュートした後、オーバーシュートとアンダーシュートとを交互に繰り返してからピッチ角APが収束値APCに収束する。
これに対し、本実施形態では、このように車両制動力Fxが増大される際には、ソフト時制動力配分変更処理が実行されるため、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBよりも小さくなる。その結果、第1比較例の場合よりも、図5(a)~(c)に示すように、車両10の減速度の変化を抑制しつつも、後輪制動力Fxrが増大されるとともに、前輪制動力Fxfが減少される。これにより、後輪制動力Fxrの増大に起因して車両10に発生するアンチリフト力FALが大きくなるため、第1比較例の場合よりも車両10のピッチング抑制力FPSが大きくなる。
すると、車両10のピッチ角APが、図5(e)に実線で示すように推移するようになる。すなわち、第1比較例の場合よりも、車両制動力Fxの増大時におけるピッチ角APの増大速度が低くなる。その結果、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さくても、車両10のピッチング姿勢の急激な変化を抑制できる。これにより、ダンパ17の減衰力FDが小さい場合であっても、車両制動力Fxが増大されるときにおける車両10のピッチング姿勢の変化を、減衰力FDが大きい場合に近づけることができる。すなわち、車両制動力Fxが増大される場合にあっては、ダンパ17の減衰力FDの相違に起因する車両10のピッチング姿勢の制御性を向上させることができる。
なお、ピッチング抑制力FPSは、ピッチ角APを小さくする方向に車両10に作用する。そのため、ピッチ角APが収束値APCを上回っている状況下でピッチング抑制力FPSが大きいと、ピッチ角APの減少速度が高くなり、アンダーシュートが発生しやすくなる。その結果、ピッチ角APを収束値APCに収束させるのに要する時間が長くなるおそれがある。
この点、本実施形態にあっては、所定の期間TRM中では、所定の期間TRMの終了時点であるタイミングt23で前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しくなるように変更される。そのため、ピッチ角APが大きくなって、ピッチ角APが収束値APCに接近していたり、ピッチ角APが収束値APCを越えていたりするときには、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBに向けて減少されている。そのため、タイミングt23でのピッチング抑制力FPSを第1比較例の場合と同程度まで小さくでき、ピッチ角APが収束値APCに実際に収束するまでに要する時間の長期化を抑制できる。
また、このようにソフト時制動力配分変更処理の実行によって後輪制動力Fxrを大きくしていても、所定の期間TRMの終了時点では後輪制動力Fxrは基準前後制動力配分nBに応じた大きさまで減少される。よって、車両挙動の安定性の低下を抑制できるため、アンチロックブレーキ制御や横滑り抑制制御などの制動制御の介入を抑制できる。
図5に示す例では、タイミングt24からタイミングt25までの間で車両制動力Fxが「0」まで減少され、タイミングt25から車両制動力Fxが「0」で保持される。第1比較例では、車両10のピッチ角APが図5(e)に破線で示すように推移する。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが小さいため、車両制動力Fxが減少される際における車両10のピッチ角APの減少速度が高くなる。そして、ピッチ角APは「0」を大幅にアンダーシュートした後、アンダーシュートとオーバーシュートとを交互に繰り返してからピッチ角APが「0」に収束する。
これに対し、本実施形態では、このように車両制動力Fxが減少される場合、ソフト時制動力配分変更処理が実行されるため、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBよりも大きくなる。その結果、図5(a)~(c)に示すように、車両の減速度の変化を抑制しつつも、第1比較例の場合よりも後輪制動力Fxrが減少されるとともに、前輪制動力Fxfが増大される。これにより、後輪制動力Fxrの減少に起因して車両10に発生するアンチリフト力FALが小さくなるため、第1比較例の場合よりも車両10のピッチング抑制力FPSが小さくなる。車両10のピッチ角APが減少される場合、ピッチング抑制力FPSは、ピッチ角APを小さくする方向に車両10に対して作用する。
そのため、ピッチング抑制力FPSを小さくすると、車両10のピッチ角APが、図5(e)に実線で示すように推移するようになる。すなわち、第1比較例の場合よりも、車両制動力Fxの減少時におけるピッチ角APの減少速度が低くなる。つまり、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さくても、車両10のピッチング姿勢の急激な変化を抑制できる。
次に、各サスペンション15F,15Rの状態がハード状態であってダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも大きい場合について説明する。
図6(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、車両10に制動力が付与されると、車両10のピッチ角APが変化する。図6に示す例にあっては、タイミングt31からタイミングt32までの間では車両制動力Fxが増大され、タイミングt32からは車両制動力Fxが保持される。ハード時制動力配分変更処理が実行されない場合を第2比較例とした場合、第2比較例では、図6(d)に破線で示すように前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと等しい状態が継続するため、車両10のピッチ角APが図6(e)に破線で示すように推移する。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが大きいため、車両制動力Fxが増大される際における車両10のピッチ角APの増大速度が低くなる。すなわち、ピッチ角APが収束値APCに達するのが遅くなる。
これに対し、本実施形態では、このように車両制動力Fxが増大される場合、ハード時制動力配分変更処理が実行されるため、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBよりも大きくされる。その結果、図6(a)~(c)に示すように、車両の減速度の変化を抑制しつつも、第2比較例の場合よりも後輪制動力Fxrが減少されるとともに、前輪制動力Fxfが増大される。これにより、後輪制動力Fxrの減少に起因して車両10に発生するアンチリフト力FALが小さくなり、第2比較例の場合よりも車両10のピッチング抑制力FPSが小さくなる。すなわち、車両10のピッチ角APを大きくしやすくなる。
すると、車両10のピッチ角APが、図6(e)に実線で示すように推移するようになる。すなわち、第2比較例の場合よりも、車両制動力Fxの増大時におけるピッチ角APの増大速度が高くなる。つまり、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも大きくても、車両10のピッチング姿勢の変化態様を、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さい場合の態様に近づけることができる。
したがって、本実施形態では、ダンパ17の減衰力FDの相違に起因する車両10のピッチング姿勢の変化態様のばらつきを抑えることができる。
なお、このようにハード時制動力配分変更処理の実行によって前輪制動力Fxfを大きくしていても、所定の期間TRMの終了時点では前輪制動力Fxfは基準前後制動力配分nBに応じた大きさまで減少されるため、車両挙動の安定性の低下を抑制できる。よって、アンチロックブレーキ制御や横滑り抑制制御などの制動制御の介入を抑制できる。
図6に示す例では、タイミングt34からタイミングt35までの間で車両制動力Fxが「0」まで減少され、タイミングt35から車両制動力Fxが「0」で保持される。第2比較例では、車両10のピッチ角APが図6(e)に破線で示すように推移する。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが大きいため、車両制動力Fxが減少される際における車両10のピッチ角APの減少速度が低くなる。その結果、ピッチ角APが「0」に収束するまでに要する時間が長くなる。
これに対し、本実施形態では、このように車両制動力Fxが減少される場合、ハード時制動力配分変更処理が実行されるため、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBよりも小さくされる。その結果、図6(a)~(c)に示すように、車両の減速度の変化を抑制しつつも、第2比較例の場合よりも前輪制動力Fxfが減少されるとともに、後輪制動力Fxrが増大される。これにより、後輪制動力Fxrの増大に起因して車両10に発生するアンチリフト力FALが大きくなるため、第2比較例の場合よりも車両10のピッチング抑制力FPSが大きくなる。ピッチ角APを小さくする場合、ピッチング抑制力FPSは、ピッチ角APが小さくなるのを助長するように車両10に作用する。
そのため、車両10のピッチ角APが、図6(e)に実線で示すように推移するようになる。すなわち、第2比較例の場合よりも、車両制動力Fxの減少時におけるピッチ角APの減少速度が高くなる。つまり、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも大きくても、車両10のピッチング姿勢の変化態様を、減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さい場合に近づけることができる。
(第2実施形態)
次に、車両の姿勢制御装置の第2実施形態を図7~図9に従って説明する。以下の説明においては、第1実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
図7に示すように、制動制御装置35の制動力配分導出部355は、前後制動力配分導出部35Aと、摩擦回生配分導出部35Bとを含んでいる。前後制動力配分導出部35Aは、車両10における制動力の配分として、前後制動力配分nを導出する。例えば、前後制動力配分導出部35Aは、車両10の走行状態及び理想制動力配分に基づいた値を、前後制動力配分nとして導出する。
摩擦回生配分導出部35Bは、車両10における制動力の配分として、摩擦回生配分を導出する。図1に示したとおり、車両10では前輪11及び後輪12の双方が回生対象車輪である。そのため、摩擦回生配分導出部35Bは、前輪11の摩擦回生配分nf及び後輪12の摩擦回生配分nrの双方を導出する。
次に、図8及び図9を参照し、前輪摩擦制動力Fxfbとアンチダイブ力FADとの大小関係と、前輪回生制動力Fxfdとアンチダイブ力FADとの大小関係とについて説明する。
図8に示すように前輪11に摩擦制動力が付与された場合、前輪11と路面150との接地点が、前輪摩擦制動力Fxfbが前輪11に作用する作用点P2に相当する。図8に示す中心点P1は、前輪11用のサスペンション15Fの回転中心である。作用点P2と中心点P1とを繋ぐ直線L1と路面150とのなす角を、「前輪作用角θfb」とした場合、中心点P1に作用する力のうち、路面150と直交する方向の成分と、車両重心から前輪11の車軸までの距離である前輪側距離Lfとの積が、アンチダイブ力FADに相当する。すなわち、アンチダイブ力FADは、以下の関係式(式5)のように表すことができる。
図9に示すように前輪11に回生制動力が付与された場合、前輪11の回転中心が、前輪回生制動力Fxfdが前輪11に作用する作用点P3に相当する。前輪11用のサスペンションの中心点P1とこうした作用点P3を繋ぐ直線L2と路面150とのなす角を、「前輪作用角θfd」とした場合、中心点P1に作用する力のうち、路面150と直交する方向の成分と前輪側距離Lfとの積が、アンチダイブ力FADに相当する。すなわち、アンチダイブ力FADは、以下の関係式(式6)のように表すことができる。
なお、図8及び図9に示すように、前輪11に摩擦制動力が付与される場合の前輪作用角θfbと、前輪11に回生制動力が付与される場合の前輪作用角θfdとを比較した場合、前輪作用角θfdが前輪作用角θfbよりも小さくなる。これは、前輪回生制動力Fxfdの前輪11に対する作用点P3が、前輪摩擦制動力Fxfbの前輪11に対する作用点P2よりも車両上方に位置するためである。その結果、回生制動力が前輪11に付与される場合に発生するアンチダイブ力FADは、摩擦制動力が前輪11に付与される場合に発生するアンチダイブ力FADよりも小さくなる。
次に、後輪摩擦制動力Fxrbとアンチリフト力FALとの大小関係と、後輪回生制動力Fxrdとアンチリフト力FALとの大小関係とについて説明する。
後輪12に摩擦制動力が付与される場合、後輪摩擦制動力Fxrbの後輪12に対する作用点は、後輪12と路面150との接地点となる。また、後輪12に回生制動力が付与される場合、後輪回生制動力Fxrdの後輪12に対する作用点は、後輪12の回転中心となる。そのため、回生制動力が後輪12に付与される場合に発生するアンチリフト力FALは、摩擦制動力が後輪12に付与される場合に発生するアンチリフト力FALよりも小さくなる。
以降の記載において、前輪11への摩擦制動力の付与によって車両10に発生するアンチダイブ力FADを「摩擦アンチダイブ力FADb」とし、前輪11への回生制動力の付与によって車両10に発生するアンチダイブ力FADを「回生アンチダイブ力FADd」とする。また、後輪12への摩擦制動力の付与によって車両10に発生するアンチリフト力FALを「摩擦アンチリフト力FALb」とし、後輪12への回生制動力の付与によって車両10に発生するアンチリフト力FALを「回生アンチリフト力FALb」とする。
ピッチング抑制力FPSは、摩擦アンチダイブ力FADbと、回生アンチダイブ力FADdと、摩擦アンチリフト力FALbと、回生アンチリフト力FALdとの和が大きいほど大きくなる。そして、前輪摩擦制動力Fxfbと前輪回生制動力Fxfdとの和である前輪制動力Fxfを変更しなくても前輪11の摩擦回生配分nfを変更することにより、摩擦アンチダイブ力FADbと、回生アンチダイブ力FADdとの和を変えることができる。また、後輪摩擦制動力Fxrbと後輪回生制動力Fxrdとの和である後輪制動力Fxrを変更しなくても後輪12の摩擦回生配分nrを変更することにより、摩擦アンチリフト力FALbと、回生アンチリフト力FALdとの和を変えることができる。
例えば、前輪11の摩擦回生配分nfを大きくすることにより、前輪摩擦制動力Fxfbが増大されるとともに前輪回生制動力Fxfdが減少されると、摩擦アンチダイブ力FADbと、回生アンチダイブ力FADdとの和が大きくなる。すなわち、前輪11の摩擦回生配分nfを大きくすることは、ピッチング抑制力FPSを大きくする側に摩擦回生配分nfを変更することを意味する。
また、後輪12の摩擦回生配分nrを大きくすることにより、後輪摩擦制動力Fxrbが増大されるとともに後輪回生制動力Fxrdが減少されると、摩擦アンチリフト力FALbと、回生アンチリフト力FALdとの和が大きくなる。すなわち、後輪12の摩擦回生配分nrを大きくすることは、ピッチング抑制力FPSを大きくする側に摩擦回生配分nfを変更することを意味する。
つまり、前輪11の摩擦回生配分nf及び後輪12の摩擦回生配分nrの少なくとも一方を調整することにより、前後制動力配分nを変更することなく、ピッチング抑制力FPSを変化させることができる。すなわち、要求車両制動力FxRが変更される際のピッチング姿勢の変化態様を調整することができる。
そこで、ダンパ17の減衰力FD、すなわちサスペンション15F,15Rの状態を基に、前輪11の摩擦回生配分nfを変更する場合について説明する。なお、各サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合における摩擦回生配分nfを、「基準摩擦回生配分nfB」とする。
サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合、摩擦回生配分導出部35Bによってソフト時制動力配分変更処理が実行される。要求車両制動力FxRが増大される場合のソフト時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、前輪11の摩擦回生配分nfとして基準摩擦回生配分nfBよりも大きい値が導出される。例えば、所定の期間TRM内において、要求車両制動力FxRの増大の開始時点からあるタイミングまでの間では、摩擦回生配分nfが徐々に増大される。あるタイミングに達した以降では、摩擦回生配分nfが徐々に減少される。そして、所定の期間TRMの終了タイミングで、摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの増大が終わるタイミングを、あるタイミングとしてもよい。
車両制動力Fxの増大に際してソフト時制動力配分変更処理が実行されると、前輪11の摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBよりも大きくなるため、前輪摩擦制動力Fxfbが増大されるとともに、前輪回生制動力Fxfdが減少される。これにより、摩擦アンチダイブ力FADbと回生アンチダイブ力FADdとの和を大きくでき、ひいては車両10のピッチング抑制力FPSを大きくできる。すると、ソフト時制動力配分変更処理が実行されない場合と比較し、車両制動力Fxが増大される際におけるピッチ角APの増大速度を低くできる。その結果、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さくても、車両10のピッチング姿勢の急激な変化を抑制できる。すなわち、ダンパ17の減衰力FDが小さい場合であっても、車両制動力Fxが増大される際における車両10のピッチング姿勢の変化を、減衰力FDが大きい場合に近づけることができる。
要求車両制動力FxRが減少される場合のソフト時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、前輪11の摩擦回生配分nfとして基準摩擦回生配分nfBよりも小さい値が導出される。例えば、所定の期間TRM内において、要求車両制動力FxRの減少の開始時点からあるタイミングまでの間では、摩擦回生配分nfが徐々に減少される。あるタイミングに達した以降では、摩擦回生配分nfが徐々に増大される。そして、所定の期間TRMの終了タイミングで、摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの減少が終わるタイミングを、あるタイミングとしてもよい。
車両制動力Fxの減少に際してソフト時制動力配分変更処理が実行されると、前輪11の摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBよりも小さくなるため、前輪摩擦制動力Fxfbが減少されるとともに、前輪回生制動力Fxfdが増大される。これにより、摩擦アンチダイブ力FADbと回生アンチダイブ力FADdとの和を小さくでき、ひいては車両10のピッチング抑制力FPSを小さくできる。すると、ソフト時制動力配分変更処理が実行されない場合と比較し、車両制動力Fxの減少時におけるピッチ角APの減少速度を低くできる。その結果、ダンパ17の減衰力FDが基準減衰力FDBよりも小さくても、車両10のピッチング姿勢の急激な変化を抑制できる。これにより、ダンパ17の減衰力FDが小さい場合であっても、車両制動力Fxが減少されるときにおける車両10のピッチング姿勢の変化を、減衰力FDが大きい場合に近づけることができる。
サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合、摩擦回生配分導出部35Bによってハード時制動力配分変更処理が実行される。要求車両制動力FxRが増大される場合のハード時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、前輪11の摩擦回生配分nfとして基準摩擦回生配分nfBよりも小さい値が導出される。例えば、所定の期間TRM内において、要求車両制動力FxRの増大の開始時点からあるタイミングまでの間では、摩擦回生配分nfが徐々に減少される。あるタイミングに達した以降では、摩擦回生配分nfが徐々に増大される。そして、所定の期間TRMの終了タイミングで、摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの増大が終わるタイミングを、あるタイミングとしてもよい。
車両制動力Fxの増大に際してハード時制動力配分変更処理が実行されると、前輪11の摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBよりも小さくなるため、前輪摩擦制動力Fxfbが減少されるとともに、前輪回生制動力Fxfdが増大される。これにより、摩擦アンチダイブ力FADbと回生アンチダイブ力FADdとの和が小さくでき、ひいては車両10のピッチング抑制力FPSを小さくできる。すると、ハード時制動力配分変更処理が実行されない場合と比較し、車両制動力Fxの増大時におけるピッチ角APの増大速度が高くなる。その結果、ダンパ17の減衰力FDが大きい場合であっても、車両制動力Fxが増大されるときにおける車両10のピッチング姿勢の変化を、減衰力FDが小さい場合に近づけることができる。
要求車両制動力FxRが減少される場合のハード時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、前輪11の摩擦回生配分nfとして基準摩擦回生配分nfBよりも大きい値が導出される。例えば、所定の期間TRM内において、要求車両制動力FxRの減少の開始時点からあるタイミングまでの間では、摩擦回生配分nfが徐々に増大される。あるタイミングに達した以降では、摩擦回生配分nfが徐々に減少される。そして、所定の期間TRMの終了タイミングで、摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBと等しくされる。この場合、要求車両制動力FxRの減少が終わるタイミングを、あるタイミングとしてもよい。
車両制動力Fxの減少に際してハード時制動力配分変更処理が実行されると、前輪11の摩擦回生配分nfが基準摩擦回生配分nfBよりも大きくなるため、前輪摩擦制動力Fxfbが増大されるとともに、前輪回生制動力Fxfdが減少される。これにより、摩擦アンチダイブ力FADbと回生アンチダイブ力FADdとの和を大きくでき、ひいては車両10のピッチング抑制力FPSが大きくなる。すると、ハード時制動力配分変更処理が実行されない場合と比較し、車両制動力Fxの減少時におけるピッチ角APの減少速度が高くなる。その結果、ダンパ17の減衰力FDが大きい場合であっても、車両制動力Fxが減少されるときにおける車両10のピッチング姿勢の変化を、減衰力FDが小さい場合に近づけることができる。
(第3実施形態)
次に、車両の姿勢制御装置の第3実施形態を説明する。本実施形態では、ダンパ17の減衰力FDに応じて後輪12の摩擦回生配分nrを変更する点が、第2実施形態と相違する。よって、以下の説明においては、第2実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
ダンパ17の減衰力FD、すなわち各サスペンション15F,15Rの状態を基に、後輪12の摩擦回生配分nrを変更する場合について説明する。なお、各サスペンション15F,15Rの状態が基準状態である場合における摩擦回生配分nrを、「基準摩擦回生配分nrB」とする。
サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合、摩擦回生配分導出部35Bによってソフト時制動力配分変更処理が実行される。要求車両制動力FxRが増大される場合のソフト時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、後輪12の摩擦回生配分nrとして基準摩擦回生配分nrBよりも大きい値が導出される。一方、要求車両制動力FxRが減少される場合のソフト時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、後輪12の摩擦回生配分nrとして基準摩擦回生配分nrBよりも小さい値が導出される。これにより、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態である場合にあっては、上記第2実施形態の場合と同等の作用効果を得ることができる。
サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合、摩擦回生配分導出部35Bによってハード時制動力配分変更処理が実行される。要求車両制動力FxRが増大される場合のハード時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、後輪12の摩擦回生配分nrとして基準摩擦回生配分nrBよりも小さい値が導出される。一方、要求車両制動力FxRが減少される場合のハード時制動力配分変更処理では、所定の期間TRMの間、後輪12の摩擦回生配分nrとして基準摩擦回生配分nrBよりも大きい値が導出される。これにより、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態である場合にあっては、上記第2実施形態の場合と同等の作用効果を得ることができる。
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記各実施形態において、規範ピッチ角推移プロファイルPRNとピッチ角推移プロファイルPRとを用いた所定の期間TRMの長さの設定とは異なる手法で、所定の期間TRMの長さを設定するようにしてもよい。例えば、ダンパ17の減衰力FDと、要求車両制動力FxRの変化速度とを基に、所定の期間TRMを設定するようにしてもよい。
・所定の期間TRMの長さを規定値で固定してもよい。例えば、サスペンション15F,15Rの状態がソフト状態であるときには所定の期間TRMの長さを第1時間で固定し、サスペンション15F,15Rの状態がハード状態であるときには所定の期間TRMの長さを第2時間で固定してもよい。この際、第1時間は第2時間と異なっていてもよいし、第1時間は第2時間と同じであってもよい。
・上記第2実施形態及び第3実施形態では、所定の期間TRMが経過すると、摩擦回生配分nf,nrを基準摩擦回生配分nfB,nrBに戻していた。しかし、所定の期間TRMが経過した時点以降でも、摩擦回生配分nf,nrが基準摩擦回生配分nfB,nrBと異なっている状態を継続させてもよい。
・上記第1実施形態において、所定の期間TRMが経過した時点以降でも、前後制動力配分nが基準前後制動力配分nBと異なっている状態を継続させてもよい。ただし、当該状態の継続に起因して車両10の挙動の安定性の低下を抑制するための制動制御の実行条件が成立したときには、当該制動制御を優先して実行させる。
・上記第2実施形態では、前輪11の摩擦回生配分nfの基準摩擦回生配分nfBからの変更に加え、後輪12の摩擦回生配分nrも基準摩擦回生配分nrBから変更させることによってピッチング抑制力FPSを変化させるようにしてもよい。これにより、ピッチング抑制力FPSの調整精度をさらに高くできる。
・上記第1実施形態では、前後制動力配分nの基準前後制動力配分nBに加え、回生対象車輪の摩擦回生配分をも変更することによってピッチング抑制力FPSを変化させるようにしてもよい。これにより、ピッチング抑制力FPSの調整精度をさらに高くできる。
・上記第1実施形態において、車両の姿勢制御装置を、モータジェネレータ51F,51Rを備えない車両に適用してもよい。すなわち、前輪11及び後輪12の何れにも回生制動力を付与できない車両10に姿勢制御装置を適用できる。
・上記第2実施形態において、車両の姿勢制御装置を、モータジェネレータ51Rを備えない車両10に適用してもよい。すなわち、前輪11に回生制動力を付与できるのであれば、後輪12には回生制動力を付与できない車両に姿勢制御装置を適用できる。
・上記第3実施形態において、車両の姿勢制御装置を、モータジェネレータ51Fを備えない車両10に適用してもよい。すなわち、後輪12に回生制動力を付与できるのであれば、前輪11には回生制動力を付与できない車両に姿勢制御装置を適用できる。
・上記各実施形態では、ダンパ17として、減衰力FDを3段階に変更可能なダンパが採用されている。しかし、複数段階で減衰力FDを変更できるのであれば3段階以外の多段階に減衰力FDを変更可能なダンパをダンパ17として採用する車両に、姿勢制御装置を適用してもよい。また、減衰力FDを無段階で変更可能なダンパをダンパ17として採用する車両に、姿勢制御装置を適用してもよい。
・前輪11用のサスペンション及び後輪12用のサスペンションのジオメトリが次に述べる条件を満たす車両に車両の姿勢制御装置を適用してもよい。すなわち、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとが互いに同じ値であるときには、アンチダイブ力FADのほうがアンチリフト力FALよりも大きくなること。
第1実施形態の姿勢制御装置をこうした車両に適用した場合を考える。ダンパ17の減衰力FDが小さい場合、車両制動力Fxが増大される際には前後制動力配分nを大きくすることにより、ピッチング抑制力FPSを大きくできる。反対に、ダンパ17の減衰力FDが大きい場合、車両制動力Fxが増大される際には前後制動力配分nを小さくすることにより、ピッチング抑制力FPSを大きくできる。
・車輪11,12に摩擦制動力を付与できるのであれば、摩擦制動機構20F,20Rは、上記各実施形態で説明した構成とは異なる機能であってもよい。例えば、摩擦制動機構20F,20Rは、ホイールシリンダ21を備えないで、電気モータの駆動量に応じた力で摩擦材23を回転体22に押し付ける機構のものであってもよい。こうした摩擦制動機構20F,20Rとしては、例えば、「特開2017-100507号公報」を挙げることができる。
・制動制御装置35は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。