以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に制限されるものではない。
図1は、実施形態にかかる走行制御装置100の構成等を示した例示的かつ模式的なブロック図である。走行制御システムは、車両の走行状態を制御するためのシステムとして車両に搭載される。なお、車両は、たとえば四輪の自動車であるが、実施形態の技術は、四輪の自動車以外の一般的な車両にも適用可能である。
図1に示すように、走行制御システムは、当該走行制御システムの制御を行う走行制御装置100と、車両に関する情報を検出する車載センサ110と、車両の挙動を制御するアクチュエータ120と、を備えている。
走行制御装置100は、プロセッサやメモリなどといったハードウェアを備えた(マイクロ)コンピュータとして構成される。走行制御装置100は、たとえば、車載センサ110の出力値としてのセンサ情報を取得し、取得したセンサ情報に基づいてアクチュエータ120を制御することで、車両の挙動を安定化させる安定化制御や車両の加減速を調整する加減速制御を実行する。
安定化制御とは、たとえば、走行時における車両の姿勢が不安定になっている場合に当該姿勢を安定化させる姿勢制御である。姿勢制御の例としては、たとえば、アンダーステアやオーバーステアなどといった旋回時における車両の横滑りを抑制するように車両のヨー角を安定化させる横滑り抑制制御や、車両のロール角/ピッチ角を安定化させるロール/ピッチ制御などが考えられる。
また、加減速制御とは、車両の加減速を制御するものである。たとえば、車両の急加速と急減速を抑制する制御が考えられる。
なお、実施形態にかかる走行制御装置100が実行する制御の詳細については、後でより詳しく説明するため、ここではこれ以上の説明を省略する。
車載センサ110は、速度センサ111と、ヨーレートセンサ112と、加速度センサ113と、ステアリングセンサ114(運転操作センサ)と、アクセル開度センサ115(運転操作センサ)と、ステアリングトルクセンサ116と、エンジン回転数センサ117と、油圧センサ118と、を含んでいる。
速度センサ111は、車両の速度(より具体的には車輪の回転速度)を検出する。ヨーレートセンサ112は、車両に発生するヨーレートを検出する。
加速度センサ113は、車両に発生する前後方向および横方向の加速度を検出する。ステアリングセンサ114は、車両に対するドライバの運転操作に含まれる操舵操作(の量)を検出する。
アクセル開度センサ115は、アクセル開度(アクセルペダルによる踏み込み量)を検出する。ステアリングトルクセンサ116は、ステアリングトルク(操舵トルク)を検出する。
エンジン回転数センサ117は、エンジンの回転数を検出する。油圧センサ118は、各車輪のホイールシリンダの油圧を検出する。なお、車載センサ110は、ほかに、運転操作センサとしてのブレーキセンサ等を備えていてもよい。
また、アクチュエータ120は、操舵装置121と、前輪操舵装置122と、後輪操舵装置123と、制動装置124と、駆動装置125と、懸架装置126と、安定化装置127と、を含んでいる。
操舵装置121は、操舵(ステアリング)を制御する。操舵装置121は、たとえば、EPS(Electric Power Steering)により実現される。
前輪操舵装置122は、車両の前輪の操舵を制御する。前輪操舵装置122は、たとえば、車速と舵角に応じてステアリングのギア比を変更することで、前輪の切れ角を最適に制御する。これにより、たとえば、駐車時などではステアリングを少し切るだけで大きく曲がり、操作が容易になる。また、高速走行時などではハンドルの操作量に対して切れ角が小さくなり、走行安定性が高まる。
後輪操舵装置123は、車両の後輪の操舵を制御する。後輪操舵装置123は、たとえば前輪操舵装置122と同様の構造によって実現される。
制動装置124は、車両に制動力を与えるブレーキ機構を制御する。駆動装置125は、車両に駆動力を与える駆動機構を制御する。
懸架装置126は、車両のサスペンションの減衰力を制御する。懸架装置126は、たとえば、サスペンションの減衰力を、運転操作や路面状況に応じて4輪独立で複数段階に可変制御し、快適な乗り心地とハンドリング性能の両立を図る。
安定化装置127は、車両の旋回時のロール方向の傾きを抑制し、走行安定性を高める。安定化装置127は、たとえば、可変剛性のスタビライザによって、車両の直進時や旋回時等の走行状況に応じてスタビライザの剛性を変化させる。
なお、実施形態において、車載センサ110は、図1に例示したものに限定されず、一部のセンサを省略してもよいし、あるいは、他のセンサを含んでいてもよい。
同様に、実施形態において、アクチュエータ120は、図1に例示したものに限定されず、一部の装置を省略してもよいし、あるいは、他の装置を含んでいてもよい。
ところで、従来から、車両の運転支援(いわゆる部分的自動運転や条件付き自動運転を含む。)の技術として、車両の挙動を安定化させる安定化制御や車両の加減速を制御する加減速制御がある。そして、この運転支援時に自動で実現される車両の挙動と、ドライバの運転操作によって手動で実現される車両の挙動と、の不一致感を抑制することで、運転支援時にドライバに与える違和感を低減する技術についても研究開発が進められている。
また、一般に、ドライバごとに運転操作の特性(特徴)は異なる。したがって、たとえば、同じ車両状態であっても、ドライバによって、安定化制御と加減速制御による運転支援の程度を変えることが好ましいが、従来技術ではそれを実現できていない。
そこで、この実施形態では、ドライバの運転操作の特性に応じて安定化制御と加減速制御による運転支援の程度を変えることが可能な走行制御装置100について説明する。
すなわち、実施形態にかかる走行制御装置100は、上記のような作用効果を実現するための機能として、センサ情報取得部101と、安定化指令値決定部102と、加減速指令値決定部103と、特性パラメータ取得部104と、調整出力部105と、を備えている。これらの機能は、たとえば、走行制御装置100のプロセッサがメモリに記憶されたプログラムを読み出して実行した結果として実現される。なお、実施形態では、走行制御装置100の機能の一部または全部が、専用のハードウェア(回路)のみによって実現されてもよい。
センサ情報取得部101は、車載センサ110の出力値としてのセンサ情報を取得する。前述したように、センサ情報は、たとえば、速度センサ111の出力値としての車両の速度や、ヨーレートセンサ112の出力値としての車両のヨーレートや、加速度センサ113の出力値としての車両の前後方向および横方向の加速度や、ステアリングセンサ114の出力値としてのドライバの操舵操作の量を含んでいる。また、センサ情報は、たとえば、アクセル開度センサ115の出力値としてのアクセル開度や、ステアリングトルクセンサ116の出力値としてのステアリングトルクや、エンジン回転数センサ117の出力値としてのエンジンの回転数や、油圧センサ118の出力値としての各ホイールシリンダの油圧を含んでいる。なお、以下では、これらの出力値を、車両の実際の状態を表す値という意味で、実値と表現することがある。
安定化指令値決定部102は、車両の走行状態に基づいて、車両の挙動を安定化させる安定化制御を実行するための安定化指令値を決定する。つまり、安定化指令値決定部102は、センサ情報取得部101によって取得される車載センサ110からのセンサ情報に基づいて、安定化制御を実現するためにアクチュエータ120に与える安定化指令値を決定する。安定化指令値は、安定化制御において実現すべきアクチュエータ120における各装置121〜127の少なくともいずれかにおける運転支援のための制御値である。たとえば、安定化指令値は、車両におけるヨーレートに関する運転支援のための制御値である。また、車両の走行状態は、車載センサ110からのセンサ情報に基いて算出できる。
加減速指令値決定部103は、車両の加減速を制御(たとえば急加速や急減速の抑制等)する加減速制御を実行するための加減速指令値を決定する。たとえば、加減速指令値決定部103は、センサ情報取得部101によって取得される車載センサ110からのセンサ情報に基づいて、加減速制御を実現するためにアクチュエータ120に与える加減速指令値を決定する。加減速指令値は、たとえば、制動装置124における制動力の目標値に対する運転支援のための制御値(抑制のための制御値等)や、駆動装置125における駆動力の目標値に対する運転支援のための制御値(抑制のための制御値等)である。なお、本実施形態では、説明を簡潔にするために、アクチュエータ120に、運転支援のための制御値である加減速指令値を与えるものとするが、これに限定されず、たとえば、駆動力の目標値や制動力の目標値を加減速指令値で調整したものを与えてもよい。
特性パラメータ取得部104は、車両に対するドライバの運転操作を検出する運転操作センサの出力値と、車両の走行状態と、に基づいて、ドライバの運転操作の特性を示す特性パラメータを取得する。特性パラメータ取得部104は、安定化制御と加減速制御によって自動で実現される車両の挙動と、ドライバの運転操作によって手動で実現される車両の挙動と、の不一致感を抑制するために考慮すべきパラメータとして、車両のドライバの運転操作の特性(特徴)を示す特性パラメータを取得する。
ここで、一般に、ドライバの運転操作の特性(特徴)を推定するための技術として、下記の式(1)で表される前方注視モデルに基づく下記の式(2)で表される評価関数J´を最小化する3つのパラメータτL´、τh´、およびh´の組み合わせを、特性パラメータとして取得する技術が知られている。
ここで、上記の2式において、δは、ドライバの運転操作のうち車両の舵角を変化させるための操舵操作の量の実値である。yOLは、車両の目標経路に沿った車両の横方向の変位の目標値である。yは、車両の横方向の変位の実値である。τL´は、運転操作におけるドライバの反応の遅れを示す無駄時間である。τh´は、ドライバがどの程度先の時間を予見して運転操作を行っているかを示す予見時間である。h´は、比例定数である。λ´は、予見時間と比例定数との積である。δ*およびy*は、それぞれ、時間の関数としての操舵操作の量および車両の実際の横方向の変位の実値である。
上記の2式から分かるように、前方注視モデルは、車両の横方向の変位の目標値と実値との偏差が取得可能なことを前提としているので、目標経路を算出したり走行軌跡を取得したりするための構成を有しない車両では実現できない。
そこで、本願の発明者らは、実験などに基づき鋭意検討した結果として、上記の前方注視モデルにおいて車両の横方向の変位を車両のヨーレートに置き換えたモデルによっても、上記の前方注視モデルによって得られる特性パラメータと同等の適切な特性パラメータを取得することが可能であるという知見を得た。
すなわち、実施形態において、特性パラメータ取得部104は、前方注視モデルのアナロジーとしての下記の式(3)で表されるモデルに基づく下記の式(4)で表される評価関数Jの値を最小化する3つのパラメータτL、τh、およびhの組み合わせを、特性パラメータとして取得する。つまり、特性パラメータ取得部104は、一例として、少なくとも車両に発生させるべきヨーレートの目標値とヨーレートの実値との偏差に基づいて、特性パラメータを取得する。なお、特性パラメータの取得は、安定化制御と加減速制御が実行されている間、所定の制御周期で繰り返し(周期的に)実行される。
ここで、上記の2式において、δは、ドライバの操舵操作の量の実値である。γは、ヨーレートの実値である。γOLは、ヨーレートの目標値である。τLは、運転操作におけるドライバの反応の遅れを示す無駄時間である。τhは、ドライバがどの程度先の時間を予見して運転操作を行っているかを示す予見時間である。hは、比例定数である。λは、予見時間と比例定数との積である。δ*およびγ*は、それぞれ、時間の関数としての操舵操作の量およびヨーレートの実値である。
なお、上記の式(3)は、1次遅れ系の伝達関数に対応しているので、その特性上、γがγOLに近づく(収束する)ように変化する区間において特に意味を持つと考えられる。したがって、実施形態において、特性パラメータ取得部104は、ヨーレートの実値が目標値に近づくように変化する区間において、上記の評価関数Jの値を最小化する3つのパラメータτL、τh、およびhの組み合わせを、特性パラメータとして取得することが好ましい。後述するように、実施形態においては、基本的に、繰り返し取得される特性パラメータの変動が所定範囲内に収束して特性パラメータが(実質的に)確定した場合にのみ、特性パラメータが制御に利用される。
ところで、特性パラメータは、実験に基づいて決定されるマップなどを利用した所定の演算により、車両のドライバが与える操作量(たとえば、ハンドル操作量、アクセル操作量、ブレーキ操作量)の大きさに相当する操作量相当値を表すパラメータに変換することが可能である。一般に、操作量の大きいドライバは、運転技術レベルが低く、安定化制御と加減速制御によって自動で実現される車両の挙動が大きくなったとしても違和感を覚えにくく、また、運転支援の必要性が高いと考えられる。また、操作量の小さいドライバは、運転技術レベルが高く、安定化制御と加減速制御によって自動で実現される車両の挙動が大きくなると、運転操作によって手動で実現される車両の挙動に対して持っているイメージとのズレにより違和感を覚えやすく、また、運転支援の必要性が低いと考えられる。
そこで、実施形態において、調整出力部105は、特性パラメータに基づいて、ドライバが与える操作量の大きさに相当する操作量相当値を取得し、その操作量相当値に基づいて、安定化指令値と加減速指令値を調整し、調整後の安定化指令値と加減速指令値をアクチュエータ120に出力する。具体的には、たとえば、調整出力部105は、操作量相当値が大きいほど、安定化指令値と加減速指令値の少なくとも一方を、運転支援の程度が大きくなるように調整する。そして、調整出力部105は、調整後の各指令値(安定化指令値、加減速指令値)を、アクチュエータ120に出力する。
より具体的に、調整出力部105は、上述の操作量相当値と、各指令値に乗じる調整係数との対応関係を示す次の図2に示されるような調整係数マップ105aを有している。
図2は、実施形態にかかる調整係数マップ105aの一例を示した例示的かつ模式的な図である。図2において、横軸は、上述の操作量相当値を示しており、縦軸は、各指令値に乗じる調整係数を示している。
図2に示すように、調整係数マップ105aは、操作量相当値が大きいほど係数が大きく、操作量相当値が小さいほど係数が小さくなるように設定されている(実線L1参照)。これにより、安定化制御と加減速制御の実行時においてドライバに与える違和感を低減するように、操作量相当値に応じて各指令値の調整を実行し、調整後の各指令値をアクチュエータ120に与えることが可能である。なお、図2の調整係数マップ105aでは、操作量相当値がP1以下のときは調整係数が一定であり、また、操作量相当値がP2以上のときも調整係数が一定であるものとしているが、これに限定されない。
調整出力部105等の処理についてさらに説明すると、実施形態において、調整出力部105は、まず、特性パラメータ取得部104により取得される特性パラメータに応じて、所定の演算により、操作量相当値を決定する。そして、調整出力部105は、操作量相当値を引数として調整係数マップ105aを参照し、安定化指令値決定部102により決定される安定化指令値と加減速指令値決定部103により決定される加減速指令値に乗じる調整係数を決定する。そして、調整出力部105は、各指令値に調整係数を乗じることで各指令値を調整し、調整後の各指令値をアクチュエータ120に出力する。
なお、上記の式(3)および(4)から分かるように、特性パラメータは、時間経過とともに収束するように変動する性質を持っている。また、特性パラメータは、ドライバの運転操作の特性を表すパラメータであり、基本的にはドライバ毎に固有の値となるので、ドライバの交代などが発生しない限り、大きく変動することは基本的にない。
したがって、図1に戻り、実施形態において、調整出力部105は、各指令値の調整係数が記憶されるメモリとしての調整係数記憶部105bを有している。調整係数記憶部105bには、安定化制御と加減速制御が開始する前のたとえば初期状態において、所定の値(初期値)が記憶されている。
実施形態において、調整出力部105は、安定化制御と加減速制御が開始した後、特性パラメータの変動が実質的に収束して特性パラメータが確定した場合、調整係数マップ105aに基づいて調整係数を取得し、取得した調整係数により、調整係数記憶部105bに記憶された上記の初期値を更新し、更新後の調整係数に基づいて各指令値を調整する。そして、調整出力部105は、調整係数が一旦更新された後は、調整係数マップ105aを再び参照することなく、前回取得した調整係数、すなわち調整係数記憶部105bに記憶された調整係数をそのまま利用して各指令値を調整する。これにより、特性パラメータが確定して調整係数を新たに取得することが不要になった後も調整係数マップ105aを利用した処理が繰り返し実行されるのを抑制し、処理負担を低減することが可能である。
一方、実施形態において、調整出力部105は、安定化制御と加減速制御が開始した後であっても、特性パラメータの変動が収束せずに特性パラメータが確定していない場合、調整係数マップ105aを参照することなく、調整係数記憶部105bに記憶された上記の初期値に基づいて各指令値を調整する。これにより、未確定の特性パラメータに基づいて不正確な調整が実行されるのを抑制することが可能である。
以上の構成に基づき、実施形態にかかる走行制御装置100は、次の図3に示されるようなフローチャートに沿って処理を実行する。
図3は、実施形態にかかる走行制御装置100が車両の安定化制御と加減速制御のために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。この図3に示される一連の処理は、所定の制御周期で繰り返し(周期的に)実行される。
図3に示すように、実施形態では、まず、ステップS1において、走行制御装置100のセンサ情報取得部101は、車載センサ110の出力値としてのセンサ情報を取得する。
次に、ステップS2において、安定化指令値決定部102は、ステップS1で取得されたセンサ情報に基づいて、安定化制御を実現するためにアクチュエータ120に与える安定化指令値を決定する。
次に、ステップS3において、加減速指令値決定部103は、ステップS1で取得されたセンサ情報に基づいて、加減速制御を実現するためにアクチュエータ120に与える加減速指令値を決定する。
次に、ステップS4において、特性パラメータ取得部104は、ステップS1で取得された車両に関する各種の情報の実値と、ステップS2、S3で得られる車両に関する各種の情報の目標値と、に基づいて、上述した式(3)および(4)を用いて、ドライバの運転操作の特性を示す特性パラメータを取得する。
次に、ステップS5において、調整出力部105は、ステップS4で取得された特性パラメータの変動が実質的に収束し、特性パラメータが確定したか否かを判定し、Yesの場合はステップS7に進み、Noの場合はステップS6に進む。
ステップS7において、調整出力部105は、調整係数記憶部105bに記憶された調整係数が、調整係数マップ105aに基づいて取得される調整係数によって既に更新済か否かを判定し、Yesの場合はステップS9に進み、Noの場合はステップS8に進む。
ステップS8において、調整出力部105は、ステップS4で取得された特性パラメータに基づいて操作量相当値を取得し、当該操作量相当値を引数として調整係数マップ105aを参照することで調整係数を取得し、取得した調整係数により、調整係数記憶部105bに記憶された調整係数を更新する。
次に、ステップS9において、調整出力部105は、ステップS8で更新された調整係数を乗じることで各指令値(安定化指令値、加減速指令値)を調整し、調整後の各指令値をアクチュエータ120に出力する。そして、処理が終了する。
また、ステップS7でYesの場合、ステップS8をスキップし、ステップS9において、調整出力部105は、調整係数記憶部105bに記憶された、つまり前回の調整で使用された調整係数を乗じることで各指令値を調整し、調整後の各指令値をアクチュエータ120に出力する。そして、処理が終了する。
一方、ステップS6において、調整出力部105は、調整係数記憶部105bに記憶された調整係数を、安定化制御と加減速制御が開始する前のたとえば初期状態に対応した所定の係数(初期値)に初期化する。
ステップS6の後、ステップS9において、調整出力部105は、調整係数記憶部105bに記憶された初期値を使用して各指令値を調整し、調整後の各指令値をアクチュエータ120に出力する。そして、処理が終了する。
以上の構成および処理に基づき、実施形態にかかる安定化制御と加減速制御によれば、以下に説明するような車両の挙動が得られる。図4は、実施形態にかかる走行制御装置による安定化制御と加減速制御の結果として実現される車両の挙動の例を示した例示的かつ模式的な図である。
たとえば、図4(a1)に示すように、ドライバが、車両発進時にアクセルを強く踏んで急加速をしてピッチ角が大きく変化することが多い、という運転操作の特性を有するものとする。その場合、特性パラメータから変換した操作量相当値が大きな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は大きくなる。したがって、そのようなドライバが車両発進時にアクセルを強く踏んだ場合、加減速制御における駆動力を抑制するための加減速指令値が調整係数の乗算後にあまり小さくならず、つまり、運転支援の程度が大きくなって、図4(a2)に示すような緩やかな加速が実現される。このような運転技術レベルが低いと考えられるドライバが車両発進時にアクセルを強く踏んだということは、運転技術レベルが低いことに起因していて急加速を希望していない可能性が高く、運転支援の程度を大きくして緩やかな加速を実現するのが望ましい。
一方、たとえば、ドライバが、車両発進時にアクセルを弱く踏んでゆるやかに加速をしてピッチ角が小さく変化することが多い、という運転操作の特性を有する場合、特性パラメータから変換した操作量相当値は小さな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は小さくなる。したがって、そのようなドライバが車両発進時にアクセルを強く踏んだ場合、加減速制御における駆動力を抑制するための加減速指令値が調整係数の乗算後に小さくなり、つまり、運転支援の程度が小さくなって、緩やかな加速ではなく急加速が実現される。しかし、このような運転技術レベルが高いと考えられるドライバが車両発進時にアクセルを強く踏んだということは、急加速を希望している可能性が高く、運転支援の程度を小さくして急加速を実現するのが望ましい。なお、図4(a1)(a2)の例では、駆動力を抑制するための加減速指令値について説明したが、これに限定されず、たとえば、サスペンションの減衰力を調整するための安定化指令値についても同様である。
また、たとえば、図4(b1)に示すように、ドライバが、車両停止時にブレーキを強く踏んで急減速をしてピッチ角が大きく変化することが多い、という運転操作の特性を有するものとする。その場合、特性パラメータから変換した操作量相当値が大きな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は大きくなる。したがって、そのようなドライバが車両停止時にブレーキを強く踏んだ場合、加減速制御における制動力を抑制するための加減速指令値が調整係数の乗算後にあまり小さくならず、つまり、運転支援の程度が大きくなって、図4(b2)に示すような緩やかな減速が実現される。このような運転技術レベルが低いと考えられるドライバが車両停止時にブレーキを強く踏んだということは、運転技術レベルが低いことに起因していて急減速を希望していない可能性が高く、運転支援の程度を大きくして緩やかな減速を実現するのが望ましい。
一方、たとえば、ドライバが、車両停止時にブレーキを弱く踏んでゆるやかに減速をしてピッチ角が小さく変化することが多い、という運転操作の特性を有する場合、特性パラメータから変換した操作量相当値は小さな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は小さくなる。したがって、そのようなドライバが車両停止時にブレーキを強く踏んだ場合、加減速制御における制動力を抑制するための加減速指令値が調整係数の乗算後に小さくなり、つまり、運転支援の程度が小さくなって、緩やかな減速ではなく急減速が実現される。しかし、このような運転技術レベルが高いと考えられるドライバが車両停止時にブレーキを強く踏んだということは、急減速を希望している可能性が高く、運転支援の程度を小さくして急減速を実現するのが望ましい。なお、図4(b1)(b2)の例では、制動力を抑制するための加減速指令値について説明したが、これに限定されず、たとえば、サスペンションの減衰力を調整するための安定化指令値についても同様である。
また、たとえば、図4(c1)に示すように、ドライバが、車両旋回時に急なハンドル操作をして急旋回をしてヨーレートが大きくなることが多い、という運転操作の特性を有するものとする。その場合、特性パラメータから変換した操作量相当値が大きな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は大きくなる。したがって、そのようなドライバが車両旋回時に急なハンドル操作をした場合、安定化制御におけるヨーレートを安定化させるための安定化指令値が調整係数の乗算後にあまり小さくならず、つまり、運転支援の程度が大きくなって、図4(c2)に示すような緩やかな旋回が実現される。このような運転技術レベルが低いと考えられるドライバが車両旋回時に急なハンドル操作をしたということは、運転技術レベルが低いことに起因していて急旋回を希望していない可能性が高く、運転支援の程度を大きくして緩やかな旋回を実現するのが望ましい。
一方、たとえば、ドライバが、車両旋回時に緩やかなハンドル操作をしてヨーレートが小さいことが多い、という運転操作の特性を有する場合、特性パラメータから変換した操作量相当値は小さな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は小さくなる。したがって、そのようなドライバが車両旋回時に急なハンドル操作をした場合、安定化制御におけるヨーレートを安定化させるための安定化指令値が調整係数の乗算後に小さくなり、つまり、運転支援の程度が小さくなって、緩やかな旋回ではなく急旋回が実現される。しかし、このような運転技術レベルが高いと考えられるドライバが車両旋回時に急なハンドル操作をしたということは、急旋回を希望している可能性が高く、運転支援の程度を小さくして急旋回を実現するのが望ましい。
また、たとえば、図4(d1)に示すように、ドライバが、車両旋回時にハンドルやアクセルの大きな操作をしてロール角が大きくなることが多い、という運転操作の特性を有するものとする。その場合、特性パラメータから変換した操作量相当値が大きな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は大きくなる。したがって、そのようなドライバが車両旋回時にハンドルやアクセルの大きな操作をした場合、安定化制御におけるロール角変化を抑制するための安定化指令値が調整係数の乗算後にあまり小さくならず、つまり、運転支援の程度が大きくなって、図4(d2)に示すような小さなロール角での旋回が実現される。このような運転技術レベルが低いと考えられるドライバが車両旋回時にハンドルやアクセルの大きな操作をしたということは、運転技術レベルが低いことに起因していて大きなロール角での旋回を希望していない可能性が高く、運転支援の程度を大きくして小さなロール角での旋回を実現するのが望ましい。
一方、たとえば、ドライバが、車両旋回時にハンドルやアクセルの小さな操作をしてロール角が小さいことが多い、という運転操作の特性を有する場合、特性パラメータから変換した操作量相当値は小さな値となる。そうすると、図2からわかるように、調整係数は小さくなる。したがって、そのようなドライバが車両旋回時にハンドルやアクセルの大きな操作をした場合、安定化制御におけるロール角変化を抑制するための安定化指令値が調整係数の乗算後に小さくなり、つまり、運転支援の程度が小さくなって、小さなロール角での旋回ではなく大きなロール角での旋回が実現される。しかし、このような運転技術レベルが高いと考えられるドライバが車両旋回時にハンドルやアクセルの大きな操作をしたということは、大きなロール角での旋回を希望している可能性が高く、運転支援の程度を小さくして大きなロール角での旋回を実現するのが望ましい。
このように、実施形態の走行制御装置100によれば、安定化制御を実行するための安定化指令値と加減速制御を実行するための加減速指令値を、ドライバの運転操作の特性に応じた調整係数で調整してから、それらの調整後の各指令値を用いてアクチュエータ120を制御することで、ドライバの運転操作の特性に応じて安定化制御と加減速制御による運転支援の程度を変えることができる。
また、図2に示すような調整係数マップ105aを用いることで、たとえば、同じ車両状態であっても、運転技術レベルの高いドライバに対しては安定化制御や加減速制御による運転支援の程度を低くし、運転技術レベルの低いドライバに対しては安定化制御や加減速制御による運転支援の程度を高くすることができる。つまり、乗り心地と操作性の両面で良好な制御を実現できる。また、乗り心地と操作性のそれぞれを追求する割合を可変に制御できる。
また、たとえば、車両に発生させるべきヨーレートの目標値とヨーレートの実値との偏差に基づいて特性パラメータを取得することで、特性パラメータを取得するのに目標経路を算出したり走行軌跡を取得したりするための構成が不要となり、走行制御装置100の構成が簡素で済む。
なお、従来技術で、ドライバのブレーキ操作に基づいて、フィードフォワード方式で制御指令を補正しながらドライバの運転意図を反映して車両を制御するものがある。しかし、この従来技術では、車両の前後方向についてしかドライバの運転意図を反映することができない。また、ドライバの運転操作の特性を反映させることはできない。
一方、本実施形態の走行制御装置100によれば、車両の前後方向だけでなく、横方向、上下方向、および、回転方向について、ドライバの運転意図を反映しつつ、さらに、ドライバの運転操作の特性も反映させることができる。
なお、実施形態では、特性パラメータを上記の式(3)および(4)に基づいて取得する構成が例示されているが、特性パラメータは、上記の式(1)および(2)に基づいて取得されてもよい。ただし、上記の式(1)および(2)を利用する場合、目標経路を算出したり走行軌跡(より具体的には横方向の変位の履歴)を取得したりする構成を車両に設ける必要がある。
以上、本開示の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、または変更を行うことができる。また、上述した実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。