以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る回転機の制御装置について詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転機の制御装置(以下、適宜「制御装置」と略す)100の構成例を示す図である。実施の形態1に係る制御装置100は、電圧印加器3と、電流検出器4と、制御器5と、PWM変調器6と、電圧積算器7と、位置推定器8とを備えて構成される。
電圧印加器3は、直流電源1と回転機2との間に接続されている。直流電源1は、回転機2への駆動電力を与える電力供給源である。
回転機2は、インダクタンスが回転子位置によって変化する三相電動機である。回転機2は、u相、v相及びw相の固定子巻線を有する固定子2aと、固定子2aの内側に配置される回転子2bとを有する。回転機2は、動作態様によって、三相発電機としても動作する。本稿では、回転機2の一例として同期リラクタンスモータを想定するが、同期リラクタンスモータ以外のモータでもよい。なお、本稿では、インダクタンスが最大となる回転子2bの方向をd軸、最小となる回転子2bの方向をq軸と定義し、回転子位置はd軸を基準とする。
電流検出器4は、直流電源1と回転機2との間に配置される。電流検出器4は、電圧印加器3と回転機2の固定子巻線との間に流れる固定子電流isu,isv,iswを検出する。
電圧印加器3は、各相に具備される複数のスイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで回転機2へ矩形状の固定子電圧を印加する。固定子電圧は、回転機2の固定子巻線に印加する電圧である。本稿において、電圧印加器3は、三相インバータを想定する。
制御器5は、電流検出器4で検出された固定子電流isu,isv,isw及び回転子2bの位置情報である回転子位置に基づいて電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*を演算する。電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*は、回転機2を駆動するための固定子電圧の指令値である。電圧印加器3が出力する固定子電圧は、電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*によって制御される。
PWM変調器6は、電圧印加器3が出力する矩形状の固定子電圧を平滑化した値が電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*と一致するようにゲート信号gu,gv,gwを生成し、このゲート信号gu,gv,gwを用いてスイッチング素子のオン及びオフを制御する。
電圧積算器7は、ゲート信号gu,gv,gwを積算することで、固定子電圧の積算値である電圧積算値vsui,vsvi,vswiを演算する。
位置推定器8は、電圧積算値vsui,vsvi,vswi及び固定子電流isu,isv,iswに基づいて、推定回転子位置θ^
rを演算する。推定回転子位置θ^
rは、回転子2bの位置情報である回転子位置の推定値である。なお、本稿において、推定回転子位置θ^
rは、電気角に換算した値とする。
図2は、図1の電圧印加器3として利用する三相インバータの主回路の構成例を示す図である。図2において、スイッチング素子31はu相正側のスイッチング素子であり、スイッチング素子32はu相負側のスイッチング素子である。同様に、スイッチング素子33,34は、それぞれv相の正側及び負側のスイッチング素子であり、スイッチング素子35,36は、それぞれw相の正側及び負側のスイッチング素子である。スイッチング素子31~36の一例は図示のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、IGBT以外のスイッチング素子を用いてもよい。IGBT以外のスイッチング素子の一例は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。各スイッチング素子の両端には、逆並列に接続されるダイオードが設けられている。逆並列とは、ダイオードのアノードがIGBTのエミッタに接続され、ダイオードのカソードがIGBTのコレクタに接続される接続形態である。
次に、制御器5の動作を具体的に説明する。制御器5は、電流指令値演算器501と、三相-二相変換器502と、回転座標変換器503と、d-q電流制御器504と、回転座標逆変換器505と、二相-三相変換器506とを備えて構成される。制御器5にはトルク指令値T*が入力される。制御器5は、回転機2がトルク指令値T*に応じたトルクを出力するように、電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*を演算する。
電流指令値演算器501は、回転機2がトルク指令値T*に応じたトルクを出力するのに必要な固定子電流の指令値である電流指令値isd
*,isq
*を演算する。電流指令値isd
*,isq
*は、回転機2の回転速度に同期して回転する回転座標上での演算値である。なお、電流指令値isd
*,isq
*は、トルクに対する電流実効値が最小、即ちトルクに対する回転機2の銅損が最小になるように演算される。
三相-二相変換器502は、三相座標上の固定子電流isu,isv,iswを三相-二相変換によって、静止座標である二相座標上の固定子電流isα,isβへ変換する。なお、本稿において、この変換処理には、以下の(1)式に示される変換行列C32を利用する。
回転座標変換器503は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の固定子電流isα,isβを回転座標変換によって、回転座標上の固定子電流isd,isqへ変換する。なお、本稿において、この変換処理には、以下の(2)式に示される変換行列Cdq(θr)を利用する。
d-q電流制御器504は、固定子電流isd,isqが電流指令値isd
*,isq
*に一致するように制御を行い、回転座標上の電圧指令値vsd
*,vsq
*を演算する。この制御には、比例積分制御を利用できる。なお、比例積分制御以外の制御を利用してもよい。
回転座標逆変換器505は、推定回転子位置θ^
rを使用し、回転座標上の電圧指令値vsd
*,vsq
*を回転座標逆変換によって、二相座標上の電圧指令値vsα
*,vsβ
*へ変換する。なお、本稿において、この逆変換処理には、以下の(3)式に示される逆変換行列Cdq
-1(θ^
r)を利用する。
二相-三相変換器506は、二相座標上の電圧指令値vsα
*,vsβ
*を二相-三相変換によって、三相座標上の電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*に変換する。なお、本稿において、この変換処理には、以下の(4)式に示される変換行列C23を利用する。
図3は、図1に示すPWM変調器6の動作説明に供する第1の図である。図3には、1相分の波形例としてu相の波形が示されている。
図3において、上段部にはu相における電圧指令値であるu相電圧指令値vsu
*及び三角波のキャリア信号cの波形が示され、中上段部にはu相上側におけるゲート信号であるu相上側ゲート信号gupの波形が示され、中下段部にはu相下側におけるゲート信号であるu相下側ゲート信号gunの波形が示され、下段部にはu相における固定子電圧であるu相電圧vsuの波形が示されている。vdcは、直流電源1の電圧である電源電圧である。この場合、図3に示されるように、電源電圧vdcの半分であるvdc/2が、相電圧のステップ幅となり、u相電圧指令値vsu
*及びu相電圧vsuは、±vdc/2の範囲で変化する。
PWM変調器6は、u相電圧指令値vsu
*をキャリア信号cと比較し、u相電圧指令値vsu
*がキャリア信号cの値よりも大きければ、u相上側ゲート信号gupをH、u相下側ゲート信号gunをLにする。また、PWM変調器6は、u相電圧指令値vsu
*がキャリア信号cの値以下であれば、u相上側ゲート信号gupをL、u相下側ゲート信号gunをHにする。ここで、Hは“High”、Lは“Low”を意味する。u相上側ゲート信号gup=H、u相下側ゲート信号gun=Lの場合、電圧印加器3におけるu相正側のスイッチング素子31をオンにし、u相負側のスイッチング素子32をオフにする。また、u相上側ゲート信号gup=L、u相下側ゲート信号gun=Hの場合、電圧印加器3におけるu相正側のスイッチング素子31をオフにし、u相負側のスイッチング素子32をオンにする。v相及びw相の動作も、u相と同様である。
実際に出力されるu相電圧vsuは、u相電圧指令値vsu
*をスイッチング周期Tswで平均した値の電圧となる。なお、スイッチング周期Tswは、キャリア信号cの周期であるキャリア周期に等しい。一般的に、正側及び負側のスイッチング素子のオンとオフとを切り替えるとき、両者の同時オンを防止するため、両者を共にオフにする時間であるデッドタイムを設けるが、図3では図示を省略している。また、説明の簡略化のため、図3に示すu相電圧vsuの波形では、三相電圧の平均値である中性点電圧を無視している。
また、実施の形態1において、スイッチング周波数fswは、回転機2の回転速度の基本波周波数fsの整数倍に同期させる手法を採る。スイッチング周波数fswは、スイッチング周期Tswの逆数である。この同期手法によって、スイッチング周波数fswが基本波周波数fsに対して十分に高くない場合でも、低次の高調波成分が少なくなる。これにより、歪みが小さい固定子電圧、及び歪みが小さい固定子電流を回転機2に供給できる。なお、ここで言う、スイッチング周波数fswが十分に高くない場合とは、例えばスイッチング周波数fswが基本波周波数fsの1~15倍である場合がこれに該当する。
図4は、図1に示すPWM変調器6の動作説明に供する第2の図である。図4には、基本波周波数fsとスイッチング周波数fswとの関係が示されている。まず、スイッチング周波数fswは、図4のように基本波周波数fsに応じて変化させる。fsmaxは最大の基本波周波数であり、fswmaxは最大のスイッチング周波数である。図4の例では、基本波周波数fsが、fsmax/20超、fsmax/15以下では、スイッチング周波数fswを基本波周波数fsの15倍にし、fsmax/15超、fsmax/9以下では9倍にしている。また、基本波周波数fsが、fsmax/9超、fsmax/3以下では3倍にし、それより高い場合は1倍にしている。なお、基本波周波数fsがfsmax/20以下では、単にfswmaxを利用している。また、ここでは三相で共通のキャリア信号を用いることを想定し、スイッチング周波数fswは、基本波周波数の1、3、9又は15倍としている。
図5は、図1に示す電圧積算器7の構成例を示す図である。図5には、積分器701,703,705、及び乗算器702,704,706を含む構成が示されている。なお、正側のゲート信号と、負側のゲート信号とは、基本的に互いに反転した関係の信号となるので、図5では、正側のゲート信号に関する構成部のみが示されている。
まず、u相分について説明する。正側のゲート信号gupが積分器701に入力され、積分器701では、正側のゲート信号gupに関し、ハイレベルHを+1、ローレベルLを-1として積分される。積分を行う期間である積算期間は、現在の時刻tよりもTgi前までの時刻から、現在の時刻tまでとする。ゲート信号の積算後、乗算器702によって、積分器701の積算値に電源電圧vdcの半分であるvdc/2が乗算され、u相電圧積算値vsuiとして出力される。これによって、矩形状のu相電圧vsuの瞬時値の積算値を演算することができる。残りのv相、w相についても同様の処理が積分器703,705及び乗算器704,706で実施される。これにより、乗算器704からv相電圧積算値vsviが出力され、乗算器706からw相電圧積算値vswiが出力される。なお、これらの各相の電圧積算値vsui,vsvi,vswiに対し、個々の相を区別しない場合には、電圧積算値vsxiと表記する。
ここで、電圧積算値vsxiを演算する演算周波数は、矩形状の固定子電圧vsの瞬時値に対して演算を行うため、PWM変調器6によって生成されるゲート信号のスイッチング周波数fswに対して十分に高く設定する。なお、十分に高いと言えるためには、25倍以上であることが好ましく、100倍以上であればより好ましい。また、この積算処理自体の演算負荷は小さいので、演算周波数を高くしても、計算機の演算負荷は、回転機2の制御に必要な計算量と比べて小さい。また、ここで利用する電源電圧vdcの値としては、検出値を利用してもよいし、定格値又は使用時の想定値を利用してもよい。
次に、位置推定器8によって回転子位置及び回転速度を推定する原理について説明する。まず、回転機2の特性を数式化した回転機モデルは二相座標上において、以下の(5)、(6)式で表される。
ここで、vs
αβは固定子電圧、is
αβは固定子電流、ψs
αβは鎖交磁束、Rsは巻線抵抗である。上付き文字の“αβ”は二相座標上の値であることを示している。
また、回転機2のインダクタンスは回転子位置によって変化する。上記(6)式では、インダクタンスが回転子位置によって変化しないインダクタンス平均成分Lsavgと、インダクタンスが回転子位置の電気角周波数の2倍の周波数で変化するインダクタンス変動成分Lsvarとを用いて表されている。これらのインダクタンス平均成分Lsavg及びインダクタンス変動成分Lsvarは、d軸方向のインダクタンスLsdと、q軸方向のインダクタンスLsqとを用いて、以下の(7)、(8)式で表される。
上記(5)、(6)式で表される回転機モデルより、鎖交磁束ψs
αβからq軸方向のインダクタンスLsqと固定子電流is
αβとの積を減算することで、以下の(9)式のように、d軸基準のアクティブ・フラックス(Active Flux)ψafd
αβを抽出できる。
d軸基準のアクティブ・フラックスψafd
αβは、鎖交磁束ψs
αβのうちの回転子位置に同期して回転する成分である。
また、固定子電流is
αβは、その電流実効値Iphと、回転子位置との角度差である通電角度φiを用いて、以下の(10)式で表せる。
上記(6)、(10)式を、上記(9)式の右辺へ代入すると、二相座標上におけるd軸基準のアクティブ・フラックスψafd
αβを表す式として、以下の(11)式が得られる。
上記(11)式に示されるように、アクティブ・フラックスψafd
αβは、インダクタンス変動成分Lsvarと、固定子電流isdとの積によって生成される成分である。また、上記(11)式のアクティブ・フラックスψafd
αβはd軸方向を基準としているので、これを公知のオブザーバに入力することで、回転子位置を推定することができる。
なお、上記(9)式に代え、鎖交磁束ψs
αβからd軸方向のインダクタンスLsdと固定子電流is
αβとの積を減算した、以下の(12)式で表される、q軸基準のアクティブ・フラックスψafq
αβを利用することもできる。
d軸基準の場合と同様に、上記(6)、(10)式を上記(12)式の右辺に、代入すると、二相座標上におけるq軸基準のアクティブ・フラックスψafq
αβを表す式として、以下の(13)式が得られる。
上記(13)式で表されるq軸基準のアクティブ・フラックスψafq
αβは、q軸方向を基準としているので、これを公知のオブザーバに入力することで、回転子位置を推定できる。
なお、本実施の形態では、d軸基準のアクティブ・フラックスψafd
αβを、上述の特許文献1に開示されているオブザーバに入力することで、回転子位置を推定する。なお、特許文献1に開示されているオブザーバ以外のものを用いて、回転子位置を推定してもよい。
特許文献1中の(14)式で表されるオブザーバは、本稿で用いる変数を用いて、以下の(14)式で表すことができる。
上記(14)式において、ψ^
safd
dqはd軸基準のアクティブ・フラックスの推定値である。このオブザーバは、推定した回転子位置に同期する回転座標上で表されており、上付き文字の“dq”は回転座標上の値であることを示している。また、上記(14)式中のωrは回転角速度、ωsは回転座標上の回転角速度を示している。また、上記(14)式中の記号Jは、以下の(15)式で表される変換行列である。
上記(14)式で表されるオブザーバにおいて、特許文献1に従ってオブザーバゲインを設定すれば、d軸基準のアクティブ・フラックスψafd
αβの推定値が得られる。また、d軸基準のアクティブ・フラックスψafd
αβは、上記(11)式に示されるように、回転子位置θrに同期しているので、上記(11)式の2つの成分の逆正接を演算すれば、回転子位置を推定できる。
また、上記(14)式の両辺をsで割ると、以下の(16)式が得られる。
なお、上記(14)式はオブザーバを利用して表した式ではあるものの、基本的には固定子電圧vs
dqと、固定子電流is
dqとを含む項を積分して表現したものである。また、上記(14)式を変形した(16)式の右辺第1項は、固定子電圧vs
dqの積分値である。そこで、実施の形態1では、この部分に電圧積算器7が演算した電圧積算値vsxiを利用する。なお、従来技術である特許文献1は、固定子電圧vs
dqとしては、電圧指令値vs
dq*を利用している。
図6は、図1に示す位置推定器8の構成例を示す図である。位置推定器8は、三相-二相変換器801,803と、回転座標変換器802,804と、オブザーバ805とを含む構成とすることができる。
三相-二相変換器801は、電圧積算器7から出力される電圧積算値vsui,vsvi,vswiを三相-二相変換によって二相座標上の電圧積算値vsαi,vsβiへ変換する。回転座標変換器802は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の電圧積算値vsαi,vsβiを回転座標変換によって、回転座標上の電圧積算値vsdi,vsqiへ変換する。なお、推定回転子位置θ^
rは、オブザーバ805の出力、即ち位置推定器8の出力である推定回転子位置θ^
rをフィードバックして使用する。
また、三相-二相変換器803は、三相座標上の固定子電流isu,isv,iswを三相-二相変換によって二相座標上の固定子電流isα,isβへ変換する。回転座標変換器804は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の固定子電流isα,isβを回転座標変換によって、回転座標上の固定子電流isd,isqへ変換する。
オブザーバ805は、前述のオブザーバを用いて推定回転子位置θ^
rと、回転角速度の推定値である推定回転角速度ω^
rを演算する。なお、特許文献1ではオブザーバの他に位相同期器を通して回転子位置及び回転角速度を推定しており、本稿におけるオブザーバ805も位相同期器の機能を含むものとする。また、位置推定器8は、簡易的に三相座標上の値を入力としているが、これに限定されない。回転座標上の値を制御器5又は電圧積算器7から入力してもよい。
また、オブザーバを用いた鎖交磁束ψsの演算処理の演算周期をTpsi1とすると、この演算周期Tpsi1は、スイッチング周期Tswの半分の整数倍ではないとする。また、鎖交磁束ψsの演算処理の後に行う推定回転子位置θ^
rの演算処理の演算周期をTpsi2とすると、この演算周期Tpsi2も、スイッチング周期Tswの半分の整数倍ではないとする。また、電圧積算値vsxiの積算処理の期間である積算期間をTgiとすると、この積算期間Tgiも、スイッチング周期Tswの半分の整数倍ではないとする。
次に、スイッチング周期Tswと制御演算周期Tpsiとの関係について、図7及び図8の図面を参照して説明する。図7は、実施の形態1におけるスイッチング周期Tswと制御演算周期Tpsiとの関係の説明に供する第1の図である。図8は、実施の形態1におけるスイッチング周期Tswと制御演算周期Tpsiとの関係の説明に供する第2の図である。なお、ここでは、鎖交磁束ψsの演算周期Tpsi1、推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2及び電圧積算値vsxiの積算期間Tgiは共に等しく、制御演算周期Tpsiも、鎖交磁束ψsの演算周期Tpsi1、推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2及び電圧積算値vsxiの積算期間Tgiのそれぞれに等しいとする。
一般的に、回転機の制御では、固定子電圧の値として、検出値の代わりに指令値を利用する。制御演算周期Tpsiをスイッチング周期Tswの半分の整数倍とすると、制御演算周期Tpsiごとに電圧指令値と実際の電圧を平滑化した値とは等しくなる。なお、平滑化として、実際の電圧の平均値を用いる場合でも、電圧指令値と平均値とは概ね等しくなる。
スイッチング周期Tswと制御演算周期Tpsiとに関し、図7には、Tpsi=1×(Tsw/2)である場合が示され、図8には、Tpsi=3×(Tsw/2)である場合が示されている。それぞれの上段部にはu相電圧指令値vsu
*及びキャリア信号cの波形が示され、それぞれの下段部にはu相電圧vsuの波形が示されている。u相電圧指令値vsu
*は、正弦波の波形である。
図7及び図8の何れの場合も,u相電圧vsuを制御演算周期Tpsiで平均すると、u相電圧指令値vsu
*と概ね等しくなることが確認できる。同時に、制御演算周期TpsiをTsw/2の整数倍にしない場合は、各々の制御演算周期Tpsiで平滑化したu相電圧vsuが、u相電圧指令値vsu
*と一致しないことが分かる。一方、スイッチング周波数fswに対して十分に高い演算周波数で電圧積算値vsxiを演算した場合、どのタイミングで電圧積算値を取り出しても、その直前の積算期間Tgiでの電圧積算値vsxiが正確に得られる。また、電圧積算値vsxiの演算処理は、演算周波数は高いものの、単なる積分演算であり、また、どのタイミングで電圧積算値vsxiを取り出してもよいので、演算負荷は小さいと言える。
前述したように、スイッチング周波数fswは基本波周波数fsの整数倍に設定されている。ここで、回転機2の基本波周波数fsは、一定ではなく時々刻々と変化している。このため、スイッチング周波数fswと等価であるキャリア周波数は、基本波周波数fsの変化に応じて、リアルタイムに変更する必要がある。ここで、一般的な回転機の制御に倣って、制御演算周期Tpsiをスイッチング周期Tswの半分の整数倍にするためには、逐次リアルタイムで制御演算周期Tpsiを変更する必要がある。これを実現するには、制御演算周期Tpsiを変更しながら可変周期で演算しようとすると、制御演算量が多くなる他、制御設計が複雑になる。
そこで、実施の形態1では、制御演算周期Tpsiは固定値とし、スイッチング周期Tswの半分の整数倍に逐次調整しないこととする。このようにすれば、制御演算における演算量も少なくなり、高価なマイクロプロセッサなどの計算機が不要となり、制御設計も比較的簡単となる。その結果、電圧指令値vs
*には実際の電圧に対して誤差が含まれる。
上述したように、制御演算周期Tpsiがスイッチング周期Tswの半分の整数倍に調整されない場合、固定子電圧に誤差が含まれ得る。固定子電圧に誤差がある場合、これらを用いて演算した鎖交磁束ψsにも誤差が発生する。また、鎖交磁束ψsの演算は、基本的に積分処理であるので、直流から低周波成分を含む直流近傍成分の影響が特に大きい。そして、固定子電圧における直流近傍成分の誤差は、回転子位置に同期して基本波周波数fsで回転する回転座標に変換されると、基本波周波数fs近傍の誤差になる。位置推定の演算は、回転座標上の鎖交磁束ψs、より正確にはd軸基準のアクティブ・フラックスを用いて行うので、推定回転子位置θ^
rにも基本波周波数fs近傍の誤差が発生する。そして、脈動する誤差を持つ推定回転子位置θ^
rを回転機2の制御に利用すると、トルク及び電力が脈動する。これに対し、実施の形態1の位置推定器8は、鎖交磁束ψs及び推定回転子位置θ^
rの演算に電圧指令値vsu
*,vsv
*,vsw
*ではなく、電圧積算値vsxiを利用しているので、基本波周波数fs近傍の誤差に起因するトルク及び電力の脈動を除去して位置推定することができる。
次に、PWM変調器6がスイッチング周波数fswを切り替える場合の影響について、図9及び図10を参照して説明する。図9は、図1に示すPWM変調器6がスイッチング周波数fswを切り替える場合の影響の説明に供する第1の図である。図10は、図1に示すPWM変調器6がスイッチング周波数fswを切り替える場合の影響の説明に供する第2の図である。
図9には、固定子電圧vsの基本波成分の振幅が同じ条件であるときに、スイッチング周波数fswが15fsである場合の鎖交磁束ψsの波形と、9fsである場合の鎖交磁束ψsの波形とが各相ごとに比較できるように示されている。図9に示されるように、基本波成分が同じであっても、両者の瞬時値は異なっていることが分かる。瞬時値が異なっている場合にスイッチング周波数fswを切り替えると、鎖交磁束ψsは、基本的に固定子電圧vsの積分なので、切り替えた時点での差分が直流成分の誤差として切り替え後も残ることになる。同様に、図10には、固定子電圧vsの基本波成分の振幅が同じ条件であり、スイッチング周波数fswが9fsである場合の鎖交磁束ψsの波形と、3fsである場合の鎖交磁束ψsの波形とが示されている。図10でも同様に、基本波成分が同じであっても、両者の瞬時値は異なっていることが分かる。従って、両者を切り替えた場合は、切り替えた時点での差分が直流成分の誤差として切り替え後も残ることになる。
従来技術である特許文献1は、固定子電圧として指令値を利用して、磁束を演算したり回転子位置を推定したりする。固定子電圧指令値は、瞬時値は考慮せずに基本波成分しか考慮していないので、スイッチング周波数を切り替えた場合には上記のような直流近傍成分の誤差が発生する。三相座標上での直流成分の誤差は、回転座標上では基本波周波数近傍成分の誤差になり、これを用いて推定した回転子位置には基本波周波数近傍の誤差が発生する。その結果、回転機2にトルク脈動及び電力脈動が発生する。これに対し、実施の形態1の位置推定器8は、位置推定の演算処理に電圧指令値vs
*ではなく、瞬時値を積算した電圧積算値vsxiを利用しているので、基本波周波数fs近傍の誤差に起因するトルク及び電力の脈動を除去して位置推定することができる。
次に、上述した実施の形態1に係る制御演算による効果について要約する。まず、実施の形態1では、スイッチング周波数を回転機2の基本波周波数fsの整数倍に同期させる。これにより、低いスイッチング周波数でも歪みの小さい固定子電圧及び固定子電流を回転機2へ供給できる。また、実施の形態1では、オブザーバ805による鎖交磁束ψsの演算周期Tpsi1及び推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2をスイッチング周期Tswの半分の整数倍に逐次調整することは行わない。これにより、制御演算における演算量も少なくなり、高価なマイクロプロセッサなどの計算機が不要となり、制御設計も比較的簡単となる。このような構成でも、電圧積算値vsxiを利用することで、基本波周波数fs近傍の誤差及び脈動を低減して、回転子位置を推定できる。従って、高価なマイクロプロセッサを必要とすることなく、位置センサレスであり、且つ、トルク脈動及び電力脈動の少ない制御装置100を構成できるといった、従来にない顕著な効果を奏する。
以上説明したように、実施の形態1に係る回転機の制御装置によれば、電圧積算器は、ゲート信号を積算することで電圧積算値を演算し、位置推定器は、電圧指令値及び固定子電流に基づいて、回転子位置を推定する。これにより、回転子位置の推定値に含まれ得る推定誤差に起因するトルク脈動及び電力脈動を低減することが可能となる。
なお、実施の形態1に係る回転機の制御装置は、電圧印加器が出力する固定子電圧を検出する電圧検出器を備えていてもよい。この場合、電圧積算値は、ゲート信号を積算することに代え、電圧検出器によって検出された固定子電圧の検出値を積算することで得てもよい。このようにしても、トルク脈動及び電力脈動を低減する効果が得られる。
また、回転子位置の推定値は、鎖交磁束の成分から回転子位置に同期して回転する成分を推定し、その推定値の位相から演算することができる。この演算に用いる鎖交磁束は、電圧積算値を用いて演算することができる。鎖交磁束を積分演算する場合、オフセット成分が生じて推定値に誤差及び脈動が発生する場合があるが、実施の形態1の手法を用いれば、推定値に含まれ得る誤差及び脈動を小さくすることが可能となる。
また、実施の形態1に係る回転機の制御装置によれば、PWM変調器は、スイッチング素子のオンとオフとを切り替えるスイッチング周波数を、回転機の回転速度の基本波周波数の整数倍に同期させる。これにより、歪みが小さい固定子電圧、及び歪みが小さい固定子電流を回転機に供給することが可能となる。また、同期PWMの実施時には、固定子電圧の指令値である電圧指令値と実電圧との電圧誤差が大きくなるが、この手法を用いれば、固定子電圧を正確に演算することができる。これにより、回転子位置の推定値に含まれ得る誤差及び脈動を小さくすることが可能となる。
なお、実施の形態1に係る回転機の制御装置は、回転子位置を推定する演算周期がスイッチング周期の半分の整数倍になっていない場合に、その効果を享受できる。回転子位置を推定する演算周期がスイッチング周期の半分の整数倍に調整されない場合、回転子位置の推定値に誤差が含まれ得るが、実施の形態1の手法を用いれば、当該誤差の低減が可能となる。
また、実施の形態1に係る回転機の制御装置は、鎖交磁束を演算する演算周期がスイッチング周期の半分の整数倍になっていない場合に、その効果を享受できる。鎖交磁束を演算する演算周期がスイッチング周期の半分の整数倍に調整されない場合、固定子電圧及び固定子電流に誤差が含まれ得るが、実施の形態1の手法を用いれば、当該誤差の低減が可能となる。
なお、実施の形態1に係る回転機の制御装置において、電圧積算値を演算する周波数である演算周波数は、スイッチング周波数の25倍以上であることが好ましい。このように設定されていれば、電圧積算値を正確に演算することができる。
また、実施の形態1に係る回転機の制御装置において、電圧印加器にスイッチング素子のオンとオフとを切り替えるスイッチング周波数を回転機の回転速度の基本波周波数に応じて切り替えることが望ましい。スイッチング周波数の切り替え時には、電圧指令値と固定子電圧との間の電圧誤差が大きくなるが、この手法を用いれば、当該誤差の低減が可能となる。
実施の形態2.
図11は、実施の形態2に係る回転機の制御装置100Aの構成例を示す図である。実施の形態2に係る制御装置100Aと、図1に示す制御装置100とを比較すると、図11では、PWM変調器6がPWM変調器9に置き替えられ、電圧積算器7が電圧積算器10に置き替えられ、位置推定器8が位置推定器11に置き替えられている。その他の構成は、制御装置100と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は割愛する。
PWM変調器9は、実施の形態1のPWM変調器6と同様にゲート信号gu,gv,gwを生成する一方で、スイッチング周波数fswを可変にする方法がPWM変調器6とは異なる。具体的には、基本波周波数fsではなく固定子電圧vsの振幅に応じて可変にする。回転機2のトルクを発生するための鎖交磁束ψsの大きさは回転速度によって変わらないので、回転機2の固定子電圧vsは基本波周波数fsに比例すると考えることができる。
図12は、図11に示すPWM変調器9の動作説明に供する図である。図12には、電圧指令値vs
*の振幅vsdq
*とスイッチング周波数fswとの関係が示されている。実施の形態2では、図12のように、振幅vsdq
*に応じてスイッチング周波数fswを変化させる。図4と同様に、vsdqmaxは振幅vsdq
*の最大の振幅であり、fswmaxは最大のスイッチング波周波数である。図12の例では、振幅vsdq
*が、vsdqmax/20超、vsdqmax/15以下では、スイッチング周波数fswを基本波周波数fsの15倍にし、vsdqmax/15超、vsdqmax/9以下では9倍にしている。また、振幅vsdq
*が、vsdqmax/9超、vsdqmax/3以下では3倍にし、それより高い場合は1倍にしている。なお、振幅vsdq
*がvsdqmax/20以下では、単にfswmaxを利用している。また、ここでは三相で共通のキャリア信号を用いることを想定し、スイッチング周波数fswは、基本波周波数の1、3、9又は15倍としている。なお、振幅vsdq
*は、以下の(17)式で計算することができる。
図13は、図11に示す電圧積算器10の構成例を示す図である。図13には、LPF1001,1004,1007、積分器1002,1005,1008、及び乗算器1003,1006,1009を含む構成が示されている。なお、正側のゲート信号と、負側のゲート信号とは、基本的に互いに反転した関係の信号となるので、図13では、正側のゲート信号に関する構成部のみが示されている。
まず、u相分について説明する。正側のゲート信号gupはLPF1001を通過させてから、積分器1002に入力される。LPF1001は、ゲート信号gupの高周波成分を遮断し、ゲート信号gupの波形を滑らかにする。積分器1002では、ゲート信号gupに関し、ハイレベルHを“+1”、ローレベルLを“-1”として積分される。積分を行う期間である積算期間Tgiは、現在の時刻tよりもTgi前までの時刻から、現在の時刻tまでとする。ゲート信号gupの積算後、乗算器1003では、積分器1002の積算値に電源電圧vdcの半分であるvdc/2が乗算され、u相電圧積算値vsuiとして出力される。これによって、矩形状のu相電圧vsuの瞬時値の積算値を演算することができる。残りのv相、w相についても同様の処理が積分器1005,1008及び乗算器1006,1009で実施される。これにより、乗算器1006からv相電圧積算値vsviが出力され、乗算器1009からw相電圧積算値vswiが出力される。
ここで、電圧積算値vsxiを演算する演算周波数は、矩形状の固定子電圧vsの瞬時値に対して演算を行うため、PWM変調器9によって生成されるゲート信号のスイッチング周波数fswに対して十分に高く設定する。なお、十分に高いと言えるためには、25倍以上であることが好ましく、100倍以上であればより好ましい。また、この積算処理自体の演算負荷は小さいので、演算周波数を高くしても、計算機の演算負荷は、回転機2の制御に必要な計算量と比べて小さい。また、ここで利用する電源電圧vdcの値としては、検出値を利用してもよいし、定格値又は使用時の想定値を利用してもよい。
LPF1001,1004,1007としては、伝達関数が、例えば以下の(18)式で表される一次のLPFを利用することができる。
上記(18)式において、ωcは遮断角周波数である。LPF1001,1004,1007はディジタルフィルタで実現してもよいし、アナログフィルタを用いてもよい。また、LPF1001,1004,1007は、二次のフィルタを用いてもよいし、移動平均を利用してもよい。
ここで、LPF1001,1004,1007を用いることの効果について、図14及び図15を参照して説明する。以下、LPF1001,1004,1007を総称して、単に「LPF」と呼ぶ。
図14は、実施の形態2における電圧積算器10がLPFを有さない場合の動作説明に供する図である。図14において、破線はゲート信号gupの波形を表し、丸記号はサンプリング点を表し、実線はゲート信号gupのサンプリング後の波形を表している。また、図15は、実施の形態2における電圧積算器10がLPFを有する場合の動作説明に供する図である。図15において、破線はゲート信号gupの波形を表し、一点鎖線はLPF通過後のゲート信号gupの波形を表し、丸記号はサンプリング点を表し、実線はLPF通過後のゲート信号gupのサンプリング後の波形を表している。
図14の場合、破線と実線とで囲まれた面積の部分、具体的にはハッチングで示されているA1,A2の部分が積算誤差となる。図15の場合も、破線と実線とで囲まれた面積の部分が積算誤差となる。図15の波形は、LPF通過後のゲート信号gupの波形に対するサンプリング後の波形の偏りが小さいのに対し、図14の波形は、ゲート信号gupの波形に対するサンプリング後の波形の偏りが大きい。また、図14におけるA1,A2の面積は互いに同符号なので、ゲート信号gupの1周期で考えると、A1,A2の部分の面積の和が積算誤差となる。これに対し、図15の場合、ハッチングで示されているB1及びB2の面積と、B3の面積とは互いに異符号なので、ゲート信号gupの1周期で考えると、B1とB2の和とB3との差が積算誤差となる。以上のことから、LPFを利用することで電圧積算値vsxiを正確に演算できることが解かる。また、LPFを利用することにより、サンプリング周波数、即ち電圧積算値vsxiを演算する演算周波数を低くしても、電圧積算値vsxiをより精度よく演算することができる。
図16は、図11に示す位置推定器11の構成例を示す図である。位置推定器11は、三相-二相変換器1101,1102と、回転座標変換器1103と、第1の演算器1104と、第1の推定器1105と、第2の演算器1106と、第3の演算器1107と、を含む構成とすることができる。
三相-二相変換器1101は、電圧積算器10が演算した、三相座標上の電圧積算値vsui,vsvi,vswiを三相-二相変換によって二相座標上の電圧積算値vsαi,vsβiへ変換する。同様に、三相-二相変換器1102は、三相座標上の固定子電流isu,isv,iswを三相-二相変換によって二相座標上の固定子電流isα,isβへ変換する。回転座標変換器1103は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の固定子電流isα,isβを回転座標変換によって、回転座標上の固定子電流isd,isqへ変換する。
次に、第1の演算器1104及び第1の推定器1105による処理内容について説明する。第1の演算器1104は鎖交磁束インダクタンス変動分を演算し、第1の推定器1105は鎖交磁束インダクタンス変動分を推定する。
まず、二相座標上における回転機2の鎖交磁束ψs
αβは、以下の(19)式で求められる。
また、上記(19)式の積分演算は、以下の(20)式に示す伝達関数で表される。
一般的に、鎖交磁束を積分で演算する場合、通常は初期値が不明である。そこで、静止座標である三相座標及び二相座標で鎖交磁束を演算する場合は、カットオフ周波数が基本波周波数成分に対して十分に低いハイパスフィルタ(High-Pass Filter:HPF)を利用することが行われる。この手法、即ち積分及びHPFを利用して静止座標で鎖交磁束を演算する手法を、本稿では「不完全積分」と呼ぶ。この不完全積分で使用されるハイパスフィルタの伝達関数は、カットオフ周波数をωhpfとして、以下の(21)式で表すことができる。
上記(21)式で示されるHPFを上記(20)式に適用すると、以下の(22)式が得られる。
上記(22)式は、HPFを適用した場合の鎖交磁束ψshpf
αβを表す式である。また、上記(22)式を変形すると、以下の(23)式が得られる。
なお、上記(23)式の右辺第1項は、固定子電圧vs
αβの積分値である。そこで、実施の形態2では、この部分に電圧積算器10が演算した電圧積算値vsxiを利用する。なお、従来技術である特許文献1は、固定子電圧vs
αβとして、電圧指令値vs
αβ*を利用している。
同期リラクタンスモータの位置センサレス制御においては、鎖交磁束の演算に不完全積分を利用する手法を用いることが可能である。不完全積分を利用する手法は、オブザーバを用いる場合と比べて計算負荷が小さいので、より安価なマイクロプロセッサなどの計算機を利用することができる。
また、実施の形態2において、不完全積分を用いた鎖交磁束の演算周期Tpsi1はスイッチング周期Tswの半分の整数倍になっていないとし、その後の推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2もスイッチング周期Tswの半分の整数倍ではないとする。
回転機2の鎖交磁束ψs
αβは、二相座標上にて上記(6)式で表される。この鎖交磁束ψs
αβを推定回転子位置θ^
rを用いて回転座標変換すると、以下の(24)式のように表すことができる。
上記(24)式において、第1項は、回転子位置によって変化しないインダクタンス平均成分Lsavgを含む項であり、第2項は回転子位置の2倍の周波数で変化するインダクタンス変動成分Lsvarを含む項である。
第1の演算器1104は、上記(24)式の第2項に相当する成分を計算によって求める。具体的には、上記(24)式を変形した、以下の(25)式に従って演算する。
上記(25)式の右辺第1項は、上記(23)式に示される鎖交磁束ψshpf
αβを回転座標変換して求めたものである。また、上記(25)式の右辺第2項は、上記(24)式の第1項を表している。図16には、第1の演算器1104の構成例が示されているが、この例に限定されるものではない。
一方、第1の推定器1105は、上記(24)式の第2項に相当する成分を直接的に推定する。図16には、第1の推定器1105の構成例が示されているが、このように簡易に構成できる理由について説明する。
まず、上記(24)式の第2項が回転座標上での鎖交磁束インダクタンス変動分の推定値であるとして、この推定値をψ^
svar
dqで表すと、以下の(26)式のように表すことができる。
上記(26)式において、推定回転子位置θ^
rと、回転子位置の真値θrとが凡そ等しいと近似すると、上記(26)式は、以下の(27)式のように簡略化される。なお、図6には、この(27)式を表す制御器の構成が示されている。
次に、第2の演算器1106及び第3の演算器1107による処理内容について説明する。
まず、鎖交磁束インダクタンス変動分の推定値ψ^
svar
dqと、演算値ψsvar,calc
dqとの外積は、以下の(28)式で表される。
上記(28)式において、推定回転子位置θ^
rと、回転子位置の真値θrとが凡そ等しい、即ちθ^
r≒θrと近似すると、回転子位置の推定誤差“-(θ^
r-θr)”は、以下の(29)式で演算できる。
以上のように、第2の演算器1106は、上記(25)式による演算値と、上記(27)式による推定値とに基づいて、回転子位置の推定誤差“-(θ^
r-θr)”を演算する。
第2の演算器1106によって演算された回転子位置の推定誤差“-(θ^
r-θr)”は、第3の演算器1107に入力される。第3の演算器1107は、回転子位置の推定誤差“-(θ^
r-θr)”を比例積分(PI)制御した後に積分してゼロに収束させることで、推定回転子位置θ^
rを演算する。また、第3の演算器1107は、回転子位置の推定誤差“-(θ^
r-θr)”をゼロに収束させる過程で、推定回転角速度ω^
rを演算する。
以上のように、実施の形態2に係る回転機の制御装置は、固定子電圧の積算値である電圧積算値を用いて回転子位置を推定する手法を、静止座標で鎖交磁束を演算する構成に適用可能である。回転機が同期リラクタンスモータである場合の位置センサレス制御では、静止座標にて鎖交磁束を積分演算するので、オフセット成分が生じて推定値に誤差及び脈動が生じ易い。従って、実施の形態2の手法は、同期リラクタンスモータを位置センサレスで制御する場合に好適に用いることが可能である。
また、実施の形態2に係る回転機の制御装置において、電圧積算値を演算する際には、ゲート信号又は固定子電圧の検出値に対して、低域フィルタを通過させてから演算することが望ましい。このようにすれば、電圧積算値を演算する計算負荷を低減しつつ、電圧積算値をより精度よく演算することができる。
また、実施の形態2に係る回転機の制御装置において、電圧印加器にスイッチング素子のオンとオフとを切り替えるスイッチング周波数を電圧指令値の振幅に応じて切り替えることが望ましい。スイッチング周波数の切り替え時には、電圧指令値と固定子電圧との間の電圧誤差が大きくなるが、この手法を用いれば、当該誤差の低減が可能となる。
次に、上述した実施の形態2に係る制御演算による効果について要約する。まず、実施の形態2においては、不完全積分を利用した上記(23)式を用いた鎖交磁束ψsの演算周期Tpsi1と、推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2とは、共にスイッチング周期Tswの半分の整数倍にはなっていない。このとき、電圧指令値vs
*と実際の電圧を平滑化した値とは一致しない。その結果、電圧指令値vs
*には実際の電圧に対して誤差が含まれる。従って、従来技術を利用して演算した鎖交磁束ψsにも誤差が発生する。更に、実施の形態2では、鎖交磁束ψsを真値に収束させるためのオブザーバを利用せずに、不完全積分を利用して演算しているので、鎖交磁束ψsの誤差が大きくなり、真値への収束も比較的遅い。また、鎖交磁束の演算は、基本的に積分処理に基づいて実施しているので、その誤差は、直流から低周波成分にかけて大きくなる。その結果、回転座標上においては、基本波周波数fs近傍の誤差が大きくなり、推定回転子位置θ^
rにも基本波周波数fs近傍に大きな誤差が発生する。この問題に対して、実施の形態2の位置推定器11は、鎖交磁束ψs及び推定回転子位置θ^
rの演算に電圧指令値vs
*ではなく電圧積算値vsxiを利用しているので、基本波周波数近傍の誤差及び脈動を低減して、回転子位置を推定することができる。また、実施の形態2の位置推定器11は、オブザーバを利用せずに不完全積分によって鎖交磁束を演算するので、実施の形態1よりも計算負荷を低減できる。従って、実施の形態2の手法を用いれば、高価なマイクロプロセッサを必要とすることなく、位置センサレスであり、且つ、トルク脈動及び電力脈動の少ない制御装置100Aを構成できるといった、従来にない顕著な効果を奏する。
実施の形態3.
図17は、実施の形態3に係る回転機の制御装置100Bの構成例を示す図である。実施の形態3に係る制御装置100Bと、図1に示す制御装置100とを比較すると、図17では、電圧積算器7が電圧積算器13に置き替えられ、位置推定器8が位置推定器14に置き替えられている。また、電圧印加器3が回転機2に印加する矩形状の固定子電圧vsを検出する電圧検出器12が設けられている。その他の構成は、制御装置100と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は割愛する。
図18は、図17に示す電圧積算器13の構成例を示す図である。図18には、積分器1301,1302,1303を含む構成が示されている。なお、正側のゲート信号と、負側のゲート信号とは、基本的に互いに反転した関係の信号となるので、図18では、正側のゲート信号に関する構成部のみが示されている。
まず、u相分について説明する。電圧検出器12の検出値であるu相電圧vsuが積分器1301に入力される。積分器1301は、u相電圧vsuを積分する。積分を行う期間である積算期間Tgiは、現在の時刻tよりもTgi前までの時刻から、現在の時刻tまでとする。残りのv相、w相についても同様の処理が積分器1302,1303で実施される。これにより、積分器1301からu相電圧積算値vsuiが出力され、積分器1302からv相電圧積算値vsviが出力され、積分器1303からw相電圧積算値vswiが出力される。
ここで、電圧積算値vsxiを演算する演算周波数は、矩形状の固定子電圧vsの瞬時値に対して演算を行うため、PWM変調器6によって生成されるゲート信号のスイッチング周波数fswに対して十分に高く設定する。なお、十分に高いと言えるためには、25倍以上であることが好ましく、100倍以上であればより好ましい。また、この積算処理自体の演算負荷は小さいので、演算周波数を高くしても、計算機の演算負荷は、回転機2の制御に必要な計算量と比べて小さい。また、ここで利用する電源電圧vdcの値としては、検出値を利用してもよいし、定格値又は使用時の想定値を利用してもよい。
実施の形態3では、積分を利用せずに鎖交磁束を演算して回転子位置及び回転速度を推定する。ここではまず、位置推定器14によって回転子位置及び回転速度を推定する原理について説明する。まず、回転機2の特性を数式化した回転機モデルは回転座標上において、以下の(30)、(31)式で表される。
なお、上記(30)式中の記号Jは、上記の(15)式で示した変換行列である。
また、実施の形態3では、インダクタンス値を計算で求めるので、上記(31)式を以下の(32)式のように表す。
上記(32)式において、Lsd,calcは計算で求めたd軸インダクタンスを表し、Lsq,calcは計算で求めたq軸インダクタンスを表している。
また、上記(30)式の右辺第3項の誘起電圧ωrJψs
dqを計算で求めるため、これをvemf,calcと表記する。ここで、上記(30)式における微分項、即ち上記(30)式の右辺第2項を無視すると、計算値である誘起電圧vemf,calcは、固定子電圧vs
dqと、固定子電流is
dqとにより、以下の(33)式を用いて演算できる。
ここで、上記(33)式の固定子電圧vs
dqは、電圧積算器13が演算した電圧積算値vsxiを利用し、固定子電流is
dqには検出値を利用する。電圧積算値vsxiは、矩形状の固定子電圧vsを積算期間Tgiだけ積算した値であるので、電圧積算値vsxiをTgiで割れば、積算期間Tgiにおける固定子電圧vsの平均値が正確に得られる。実施の形態3において、積算期間Tgiは推定回転子位置θ^
rの演算周期Tpsi2と等しいとする。なお、従来技術である特許文献1は、固定子電圧vs
dqとしては、電圧指令値vs
dq*を利用している。
また、上記(32)式によって鎖交磁束ψs,calc
dqを演算し、これと推定回転角速度ω^
rとから、以下の(34)式を用いて、誘起電圧vemfの推定値である推定誘起電圧v^
emfを得ることができる。
以上のように、上記(33)式による演算値と、上記(34)式による推定値とを比較し、その差がゼロに収束するように比例積分制御を行えば、回転速度ωrの推定である推定回転角速度ω^
rを得ることができる。
また、上記(33)式にて計算した誘起電圧vemf,calcを推定回転角速度ω^
rで除算すると鎖交磁束ψsの計算値が得られ、更に固定子電流isで除算するとインダクタンス値の計算値が得られる。
上記(6)式に示されるように、インダクタンス値は真の回転子位置θrに依存して変化する。また、上記(24)式に示されるように、インダクタンス値は真の回転子位置θrと、推定回転子位置θ^
rとの差に依存して変化する。従って、インダクタンス値の計算値を、これらのインダクタンス変化特性に照らし合わせれば、回転子位置を推定することが可能である。具体的には、インダクタンス変動成分Lsvarと、固定子電流isとの積によって生成される鎖交磁束インダクタンス変動分が含まれた鎖交磁束ψs
dqを固定子電流is
dqで除算してインダクタンス値を計算して、その回転子位置に依存したインダクタンス変化特性から推定回転子位置θ^
rを得ることができる。
次に、位置推定器14の構成及び動作について説明する。図19は、図17に示す位置推定器14の構成例を示す図である。位置推定器14は、除算器1401と、三相-二相変換器1402,1404と、回転座標変換器1403,1405と、速度角度演算器1406と、を含む構成とすることができる。
除算器1401は、三相の電圧積算値vsui,vsvi,vswiを積算期間Tgiで割って、積算期間Tgiでの固定子電圧vsの平均値である固定子電圧平均値vsua,vsva,vswaを演算する。三相-二相変換器1402は、三相座標上の固定子電圧平均値vsua,vsva,vswaを三相-二相変換によって二相座標上の固定子電圧平均値vsαa,vsβaへ変換する。三相-二相変換器1404は、三相座標上の固定子電流isu,isv,iswを三相-二相変換によって二相座標上の固定子電流isα,isβへ変換する。回転座標変換器1403は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の固定子電圧平均値vsαa,vsβaを回転座標変換によって、回転座標上の固定子電圧平均値vsda,vsqaへ変換する。回転座標変換器1405は、推定回転子位置θ^
rを使用し、二相座標上の固定子電流isα,isβを回転座標変換によって、回転座標上の固定子電流isd,isqへ変換する。なお、推定回転子位置θ^
rは、速度角度演算器1406の出力の1つである推定回転子位置θ^
rをフィードバックして使用する。速度角度演算器1406は、前述の説明に従って推定回転子位置θ^
r及び推定回転角速度ω^
rを演算する。
実施の形態3の手法では、鎖交磁束の演算にオブザーバ又は不完全積分を利用していないので、これらと比較して演算周期が長くてもよい。この理由から、計算負荷が小さくなるので、より安価なマイクロプロセッサなどの計算機を利用することができる。なお、実施の形態3において、推定回転子位置θ^
r及び推定回転角速度ω^
rを演算する制御演算周期Tpsiと、電圧積算値vsxiを演算する積算期間Tgiとは等しいとする。
また、実施の形態1,2と同様に、電圧積算値vsxiを演算する積算期間Tgiは、スイッチング周期Tswの半分の整数倍ではないとする。この場合、電圧指令値vs
*を用いる従来技術では、電圧指令値vs
*と実際の電圧を平滑化した値とは一致しないので、電圧指令値vs
*には実際の電圧に対して誤差が含まれる。従って、これらを用いて演算した推定回転子位置θ^
r及び推定回転角速度ω^
rにも誤差が発生する。
回転機2においては、低い周波数の誤差ほど磁束及びトルクに大きな振動成分を発生させる。静止座標において、直流及び周波数が低い直流近傍成分は、回転座標上にて基本波周波数fs近傍の誤差になる。これに対し、実施の形態3の位置推定器14は、固定子電圧積算値を利用することでその積算区間つまり位置推定の演算周期での平均の固定子電圧を正確に得ることができる。従って、基本波周波数fs近傍の誤差に起因するトルク及び電力の脈動を除去して位置推定することができる。
以上のように、実施の形態3の位置推定器14は、オブザーバ及び不完全積分を利用せずに鎖交磁束を演算するといった計算負荷の少ない構成でも、電圧積算値vsxiを利用することで、基本波周波数fs近傍の誤差に起因するトルク及び電力の脈動を除去して位置推定することができる。従って、実施の形態3の手法を用いれば、高価なマイクロプロセッサを必要とすることなく、位置センサレスであり、且つ、トルク脈動及び電力脈動の少ない制御装置100Bを構成できるといった、従来にない顕著な効果を奏する。
次に、上記で説明した実施の形態1から3に係る制御装置100,100A,100Bにおけるハードウェアの構成について、図20及び図21を参照して説明する。図20は、実施の形態1から3に係る制御装置100,100A,100Bの各機能を実現する第1のハードウェア構成例を示す図である。図21は、実施の形態1から3に係る制御装置100,100A,100Bの各機能を実現する第2のハードウェア構成例を示す図である。なお、制御装置100,100A,100Bの各機能とは、制御装置100,100A,100Bに含まれる、制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の機能を指している。
制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の各機能は、処理回路を用いて実現することができる。図20では、実施の形態1から3における制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14が専用処理回路15に置き替えられている。専用のハードウェアを利用する場合、専用処理回路15は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の各機能のそれぞれを処理回路で実現してもよいし、まとめて処理回路で実現してもよい。
また、図21では、実施の形態1から3の構成における制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14が、プロセッサ16と、記憶装置17とに置き替えられている。プロセッサ16は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、記憶装置17としては、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリを例示することができる。
プロセッサ16及び記憶装置17を利用する場合は、制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組合せにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶装置17に記憶される。プロセッサ16は記憶装置17に記憶されたプログラムを読みだして実行する。また、これらのプログラムは、制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の各機能の手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。記憶装置17には、例えば、ROM、EPROM、EEPROMなどの不揮発性または揮発性の半導体メモリやフレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、DVDなどを利用できる。
制御器5、PWM変調器6,9、電圧積算器7,10,13及び位置推定器8,11,14の各機能は、一部をハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、PWM変調器6,9及び電圧積算器7,10,13の機能を専用のハードウェアを用いて実現し、制御器5及び位置推定器8,11,14の機能をプロセッサ16及び記憶装置17を用いて実現してもよい。
なお、本稿の実施の形態2,3では、回転機2が同期リラクタンスモータである場合を例示して説明したが、回転機2が誘導モータ又は永久磁石モータであってもよい。回転機2が誘導モータの場合は、例えば特開平11-4599号公報に開示された手法を利用できる。また、回転機2が永久磁石モータの場合は、例えば国際公開第2002/091558号に開示された手法を利用できる。なお、実施の形態3における手法の一部は、特開2002-165475号公報に記載されている手法を利用しているので、実施の形態3において説明できなかった部分は、当該公報の内容を参照されたい。
また、本稿において、電圧印加器3は三相2レベルインバータを用いて説明したが、これに限定されない。他の相数のインバータでもよいし、3レベルインバータ又は5レベルインバータのようなマルチレベルインバータでもよい。これらのインバータを利用しても、本開示に係る回転機の制御装置を実施可能である。
また、本稿では、スイッチング周波数の例示として、スイッチング周波数が基本波周波数fsの1~15倍であると説明した。一般的に、例えば三相で共通のキャリア信号を利用する場合、1倍の他、3倍、6倍、9倍、12倍、15倍など3の倍数のスイッチング周波数が用いられる。その一方で、キャリア信号を利用せずに固定のスイッチングパターンを利用する場合は、整数倍であればどの倍数も用いることができる。
また、本稿では、回転機2のトルクに対する固定子電流は、電流実効値が最小になるように設定すると説明したが、これに限定されない。回転機2のトルクに対する固定子電流は、鎖交磁束が最小になるように設定してもよいし、電圧印加器3又は回転機2の効率が最大になるように設定してもよい。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。