《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置(以降、「第1装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
第1装置は、エンジンヒートポンプの構成要素のうちの予め定められた複数の構成要素からなる群である構成要素群に含まれる構成要素のメンテナンス時期を個別に算定するエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置である。第1装置によってメンテナンス時期が個別に算定される構成要素(即ち、構成要素群に含まれる構成要素)の具体例としては、例えば、点火プラグ、冷却水、エンジンオイル、エンジンオイルフィルタ、エアエレメント、燃料ホース、キャブレタ、凝縮水のドレンフィルタ、各種パッキン、及び圧縮機の駆動ベルト等を挙げることができる。また、これらの構成要素に対して行われるメンテナンスの具体例としては、例えば、点火プラグの交換又は清掃、冷却水の交換又は強化剤の添加、エンジンオイルの交換、エンジンオイルフィルタの交換、エアエレメントの交換又は清掃、燃料ホースの交換、例えばキャブレタ洗浄剤によるキャブレタの清掃、ドレンフィルタの交換又は清掃、各種パッキンの交換、及び駆動ベルトの交換等を挙げることができる。
上記エンジンヒートポンプは、少なくとも、エンジンと、少なくとも1つの圧縮機と、熱媒体を循環させる通路である循環経路と、少なくとも一対の熱交換器と、制御部と、を備えるエンジンヒートポンプである。上記圧縮機は、上記エンジンによって駆動される。上記循環経路は、上記圧縮機の吐出口から上記圧縮機の吸入口へと熱媒体を循環させる通路である。上記熱交換器は、上記循環経路に介在して、例えば外気等と上記熱媒体との間における熱交換を行う。上記制御部は、上記エンジン及び/又は上記圧縮機の作動状態を制御するように構成されている。
図1は、第1装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算定されるエンジンヒートポンプの構成の一例を示す模式図である。尚、図1においては空気調和装置において使用されるヒートポンプを例示するが、第1装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算定されるエンジンヒートポンプは、空気調和装置において使用されるヒートポンプに限定されず、その構成も図1に例示する構成に限定されない。
空気調和装置100は、室外機200及び室内機300を含み、これらの間には配管330及び340を介して熱媒体が循環される。即ち、配管330及び340は上記「循環経路」を構成する。室外機200は、3台の圧縮機211乃至213、オイルセパレータ230、四方弁240、熱交換器250並びにアキュムレータ260を含む。圧縮機211乃至213の構成は特に限定されないが、例えば、3台の圧縮機211乃至213は何れもスクロールコンプレッサである。一方、室内機300は、電子膨張弁310及び熱交換器320を含む。更に、空気調和の対象となる室内の温度を検出する室内温度センサ284が設けられている。室外機200の熱交換器250及び室内機300の熱交換器320は上記「一対の熱交換器」を構成する。
更に、これらの構成要素の間に熱媒体を循環させるための配管の所定の箇所には、バッファ221、ストレーナ222、223及び224、フィルタドライヤ225、オイルバイパス調整弁270、高圧スイッチ(SW)281、及び高圧センサ282が設けられている。加えて、室外機200には、室外の温度を検出する室外温度センサ283が設けられている。
そして、ヒートポンプ用電子制御装置(HP-ECU)110は、例えば室内温度センサ284によって検出される空気調和の対象となる室内の温度、室外温度センサ283によって検出される室外の温度、稼働している室内機の台数(室内機の運転台数)及び室内機の設置場所等、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の運転を制御する。HP-ECU110は、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU)である。
更に、室外機200は、オイルセパレータ230と吐出側(下流側)とアキュムレータ260の吸入側(上流側)とを連通する熱媒体の通路と、当該通路を遮断及び開放するホットガスバイパス弁290と、を含む。ホットガスバイパス弁290により当該通路が開放されていると、圧縮機211乃至213から吐出された熱媒体は、熱交換器250を迂回して、圧縮機211乃至213へと戻る。ホットガスバイパス弁290を開くことにより、圧縮機211乃至213の吐出側から吸入側への熱媒体の循環に必要とされる仕事量を大幅に削減して、圧縮機211乃至213の仕事率を低下させることができる。
加えて、圧縮機211乃至213は、それぞれの中間圧縮室から吸入ポートへと熱媒体を戻す通路と、当該通路を遮断及び開放する容量電磁弁291乃至293と、をそれぞれ含む。容量電磁弁291乃至293を開くことにより、圧縮機211乃至213の中間圧縮室から下流側における仕事量を大幅に削減して、圧縮機211乃至213の仕事率を低下させることができる。
空気調和装置100における熱媒体の流れ方向は、図中に示した実線の矢印(冷房時)及び破線の矢印(暖房時)によって表されるように、空気調和装置100の運転モード(冷房モード及び暖房モード)によって異なる。しかしながら、圧縮機211乃至213からオイルセパレータ230を介して四方弁240までの循環経路(吐出側経路)並びに四方弁240からアキュムレータ260及びストレーナ224を介して圧縮機211乃至213までの循環経路(吸入側経路)においては、図中の矢印によって示すように、空気調和装置100の運転モードに拘わらず、熱媒体の流れ方向は常に同じである。
冷房時においては、室内機300の熱交換器320がヒートポンプによる熱の移動元(低温側)として機能し、室外機200の熱交換器250がヒートポンプによる熱の移動先(高温側)として機能する。一方、暖房時においては、室外機200の熱交換器250がヒートポンプによる熱の移動元(低温側)として機能し、室内機300の熱交換器320がヒートポンプによる熱の移動先(高温側)として機能する。
図1においては、圧縮機211乃至213を駆動するエンジン400及びエンジン400の作動を制御するエンジン用電子制御装置(ENG-ECU)410は省略されている。そこで、これらにつき、図2を参照しながら以下に説明する。
エンジン400の気筒数、気筒レイアウト、点火方式及び燃料等の具体的な構成は特に限定されない。図1に例示するエンジン400は、多気筒(本例においては直列四気筒)・4サイクル・ピストン往復動型・火花点火式ガスエンジンである。
前述したように、HP-ECU110は、例えば室内温度センサ284によって検出される空気調和の対象となる室内の温度、室外温度センサ283によって検出される室外の温度、稼働している室内機300の台数(室内機300の運転台数)及び室内機300の設置場所等、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の運転を制御する。
尚、空気調和装置100が使用するヒートポンプは、複数の圧縮機211乃至213を含み、且つ、これらの複数の圧縮機211乃至213のうちの少なくとも一部の圧縮機において、エンジン400から圧縮機へと駆動力が伝達される状態である伝達状態と、エンジン400から圧縮機へと駆動力が伝達されない状態である遮断状態と、を切り替えるクラッチを更に含む。
具体的には、図2に示すように、3台の圧縮機211乃至213がエンジン400によってベルト駆動される。圧縮機211乃至213のうち2台の圧縮機211及び212は常に伝達状態にあり、圧縮機213についてのみ伝達状態と遮断状態とをクラッチ(図示せず)によって切り替えることができるように構成されている。これにより、HP-ECU110は、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の全てを運転するか或いは圧縮機211及び212のみを運転するかを切り替えることができる。
ENG-ECU410は、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。ENG-ECU410は、エンジン400の運転状態に関連する各種パラメータを検出する各種センサからの検出信号を受信し、エンジン400を操作するための指示信号を各種アクチュエータに送信することにより、圧縮機211乃至213に要求される仕事量に応じて、エンジン400の作動を制御する。
以上のように、HP-ECU110及びENG-ECU410は、第1装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算定されるエンジンヒートポンプが備える上記「制御部」を構成する。但し、制御部の構成は上記に限定されず、それぞれのECUは上述した種々の制御のうちの何れを実施するように構成されていてもよい。また、制御部としての機能は、上記のように複数のECUによって分散的に達成されてもよく、或いは1つのECUによって全ての機能が達成されてもよい。
図3は、第1装置の構成の一例を示す模式的なブロック図である。図3に例示する第1装置500は、運転時間計測部510と、検出部520と、演算部530と、データ記憶部540と、を備える。運転時間計測部510は、上記エンジンヒートポンプの製造時又は前回のメンテナンスの実施時から現時点までの期間における上記エンジンヒートポンプの運転時間を計測するように構成されている。具体的には、運転時間計測部は、例えば、上記制御部(即ち、HP-ECU110及び/又はENG-ECU410)から、上記エンジンヒートポンプの運転時間を取得することができる。
検出部520は、少なくとも上記エンジンの回転速度及び負荷並びに外気温度を含む複数の状態量からなる群である状態量群を検出するように構成された検出手段を含む。具体的には、エンジンの回転速度は、例えば、エンジン400のシリンダブロック部に配設されたクランクポジションセンサ(図示せず)からの信号(実際には隣接するパルス信号間の時間)に基づいて検出することができる。また、エンジン400の負荷は、例えば、エンジン400の吸気管の途中に介装されたスロットル弁(図示せず)の開度に基づいて検出することができる。この場合、エンジン400の負荷を検出する検出手段は、例えば、図示しないスロットルポジションセンサ等である。或いは、エンジン400の負荷は、例えば、圧縮機211及び212の吐出側と吸入側との間における圧力差等に基づいて検出することができる。この場合、エンジン400の負荷を検出する検出手段は、例えば、圧縮機211及び212の吐出側及び吸入側に配設された図示しない圧力センサ等である。更に、外気温度は、例えば、上述した室外温度センサ283等によって検出することができる。
演算部530は、上述したメンテナンス時期を算出するように構成されている。演算部530もまた、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。演算部530においては、後述するメンテナンス時期の算出ルーチンに含まれる種々の処理をCPUに実行させるためのアルゴリズムに対応するプログラムがROMに格納されており、当該プログラムに従って当該ルーチンをCPUが実行する。
データ記憶部540は、上記構成要素群に含まれる上記構成要素の各々につき、上記運転時間と上記状態量群に含まれる1つ以上の状態量と上記構成要素の劣化度の変化量である劣化量との関係を示すデータである劣化データを格納している。上記「劣化度」とは、個々の構成要素のメンテナンスの要否の判断において指標となる構成要素の状態を示す値である。例えば、メンテナンス時期を算出しようとする構成要素が点火プラグである場合は、火花放電を起こすための電極の摩耗の度合い等を劣化度とすることができる。また、メンテナンス時期を算出しようとする構成要素がドレンフィルタである場合は、ドレンフィルタの性能低下の度合い等を劣化度とすることができる。
尚、データ記憶部540は例えばROM及び/又はRAM等の記憶装置であり、劣化データは電子データとしてデータ記憶部540に格納される。また、劣化データは、例えば、個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす運転条件及び/又は環境条件等の運転状態に対応する状態量と当該構成要素の劣化度と運転時間との対応関係を表すデータテーブル(マップ)或いは当該対応関係を表す関数等として、データ記憶部540に格納することができる。
演算部530を構成するCPUは、詳しくは後述するメンテナンス時期の算出過程において、例えば、データテーブルとしての劣化データを参照したり、関数としての劣化データに運転時間及び状態量を変数として入力したりすることにより、個々の構成要素の劣化量を特定又は算出する。
劣化データは、例えば、種々の運転状態における運転時間と構成要素の劣化度との関係を特定する実験を事前に行うことによって得ることができる。より詳しくは、構成要素群に含まれる構成要素の各々について、例えばエンジンの回転速度及び負荷等の運転条件と例えば外気温度等の環境条件との種々の組み合わせにおいて、運転時間の経過に伴う劣化度の変化を観測する実験を事前に行うことにより、上記劣化データを得ることができる。
更に、演算部530は、以下に列挙する第1ステップ乃至第6ステップを含む処理であるメンテナンス時期算出処理を実行することにより、上述した構成要素群に含まれる構成要素のメンテナンス時期を個別に算定するように構成されている。
第1ステップ:現時点における上記運転時間を上記運転時間計測部から取得する。
第2ステップ:現時点における上記エンジンの回転速度及び負荷並びに上記外気温度を含む複数の状態量からなる群である状態量群を上記検出部から取得する。
第3ステップ:前回のメンテナンス時期の算定時である前時点における上記運転時間及び現時点における上記運転時間並びに上記状態量群より選ばれる少なくとも1つの状態量から、上記劣化データに基づいて、上記前時点と上記現時点との間の期間である算定期間における劣化量を、上記構成要素群に含まれる上記構成要素の各々について算出する。
第4ステップ:上記前時点における劣化度及び上記劣化量から、現時点における劣化度を、上記構成要素の各々について算出する。
第5ステップ:少なくとも現時点における上記劣化度及び上記運転時間から、所定の上限値に劣化度が到達するときの運転時間を、個別メンテナンス時期として、上記構成要素の各々について算出する。
第6ステップ:構成要素の各々について算出された前記個別メンテナンス時期のうち最も早く到達する個別メンテナンス時期を、前記エンジンヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択する。
図4は、第1装置500が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図4を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS10において、上述した第1ステップを実行する。具体的には、現時点における運転時間を運転時間計測部510から取得する。運転時間は、上述したように、エンジンヒートポンプの製造時又は前回のメンテナンスの実施時から現時点までの期間におけるエンジンヒートポンプの運転時間(稼働時間)である。従って、運転時間計測部510は、上述したようにヒートポンプを構成するエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の作動状態を制御する制御部(を構成するHP-ECU110及び/又はENG-ECU410)から運転時間に関するデータを取得することができる。
ところで、基本的には、例えば図5に示すグラフによって表されるように、運転時間が長くなるほど、エンジンヒートポンプの構成要素の劣化が進行する(即ち、劣化度が増大する)。しかしながら、前述したように、構成要素の劣化速度は、例えば運転条件(例えば、エンジンの回転速度及び負荷等)及び環境条件(例えば、外気温度等)等の運転状態に応じて変化する。また、エンジンヒートポンプの運転状態の変化に伴う劣化速度の変化の方向(加速又は減速)及び大きさは構成要素によって異なる。
より詳しくは、例えば、エンジンの回転速度が大きくなるほど、運転時間当たりの点火回数が増大するので、点火プラグの劣化速度は大きくなる。従って、例えば図6に示すグラフによって表されるように、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど、運転時間の増大に伴う点火プラグの電極の摩耗量の増大を表すグラフの傾きがより大きくなる。これに対し、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど排気の温度が上昇するので、例えば図7の(a)に示すグラフによって表されるように、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど排気経路の温度が上昇するので、排気経路において発生する凝縮水の量が減少し、ドレンフィルタの劣化速度(性能低下の進行速度)は小さくなる。また、例えば図7の(b)に示すグラフによって表されるように、外気温度Toutが高くなるほど排気経路において発生する凝縮水の量が減少するので、ドレンフィルタの劣化速度は小さくなる。
一方、燃料ホース及び各種パッキンについては、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど、及び、外気温度Toutが高くなるほど、これらの部材を構成する材料の熱劣化がより速く進行するため、例えば図8の(a)及び(b)に示すグラフによってそれぞれ表されるように、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど、及び、外気温度Toutが高くなるほど、劣化速度は大きくなる。尚、上述した図5乃至図8においては、便宜上、運転時間の増大に伴う各構成部材の劣化度の増大を表すグラフを直線によって表したが、各構成部材の劣化度は運転時間の増大に対して必ずしも線形的に変化するものではない。運転時間の増大に対する各構成部材の劣化度の実際の変化のパターンは、例えば上述した劣化データを得るための実験等により、確認することができる。
そこで、CPUは、次のステップS20へと処理を進め、上述した第2ステップを実行する。具体的には、個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす運転条件(例えば、エンジン400の回転速度及び負荷等)及び/又は環境条件(例えば、外気温度等)等の運転状態に対応する状態量(からなる群である状態量群)を検出部520からそれぞれ取得する。
上記状態量群を構成する状態量は、エンジンの回転速度及び負荷並びに外気温度に限定されない。例えばメンテナンス時期を算定しようとする構成要素の種類及び算定されるメンテナンス時期に要求される精度等に応じて、個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす他の状態量(例えば、点火プラグに供給される電圧及び外気の湿度等)を状態量群に追加してもよい。また、上記状態量群を構成する状態量は、個々の構成要素の劣化度に直接的に影響を及ぼす状態量であってもよく、個々の構成要素の劣化度に間接的に影響を及ぼす状態量であってもよく、或いは個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす状態量と相関関係を有する他の状態量であってもよい。
尚、上述した第1ステップ及び第2ステップ(即ち、ステップS10及びS20)の実行順序は必ずしも上記の通りである必要は無く、第2ステップの実行後に第1ステップを実行してもよく、或いは第1ステップと第2ステップとを同時に実行してもよい。CPUは、次のステップS30へと処理を進め、上述した第3ステップを実行して、個々の構成要素の劣化度の変化量を算出する。具体的には、前回のメンテナンス時期の算定時である前時点における運転時間及び現時点における運転時間並びに状態量群より選ばれる少なくとも1つの状態量から、上述した劣化データに基づき、前時点と現時点との間の期間である算定期間における劣化量を、構成要素群に含まれる構成要素の各々について算出する。
前時点における運転時間と現時点における運転時間との差は、算定期間におけるエンジンヒートポンプの運転時間(稼働時間)に該当する。上述したように、この稼働時間が長くなるほど、エンジンヒートポンプの構成要素の劣化が進行する(即ち、劣化量が増大する)。また、このときの劣化速度は、個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす状態量によって変化する。そこで、第3ステップにおいては、上述した劣化データに基づいて、前時点及び現時点における運転時間と個々の構成要素の劣化度に影響を及ぼす状態量から、算定期間における個々の構成要素の劣化量(ΔD(n))を特定又は算出する。
次に、CPUは次のステップS40へと処理を進め、第4ステップを実行する。具体的には、CPUは、構成要素の各々につき、前時点における劣化度(D(n-1))と第3ステップ(ステップS30)において特定又は算出された劣化量(ΔD(n))とに基づいて現時点における劣化度(D(n))を算出する。
上述したように、演算部530を構成するCPUは所定の短い周期にて当該ルーチンを実行する。従って、構成要素の各々について、前時点における劣化度が算出されており、データ記憶部540に格納しておくことができる。一方、上記第3ステップにおいては、算定期間における個々の構成要素の劣化量が特定又は算出されている。CPUは、この前時点における劣化度と算定期間における劣化量とに基づいて、現時点における劣化度を、上記構成要素の各々について算出することができる。典型的には、現時点における劣化度(D(n))は、例えば、前時点における劣化度(D(n-1))と第3ステップにおいて特定又は算出された劣化量(ΔD(n))から、以下に示す式(1)によって算出することができる。
次に、CPUは次のステップS50へと処理を進め、第5ステップを実行する。具体的には、CPUは、少なくとも現時点における劣化度(D(n))及び運転時間Tから、所定の上限値に劣化度が到達するときの運転時間を、個別メンテナンス時期として、構成要素の各々について算出する。
上記「所定の上限値」とは、上述したようなメンテナンスを行うべきと判断される劣化度に対応する値であり、換言すればエンジンヒートポンプの正常な作動が可能な範疇における個々の構成要素の劣化度の最大値に対応する値である。上限値の具体的な値は、エンジンヒートポンプの構成要素の各々に応じて適宜定められる。
構成要素の各々について、少なくとも現時点における劣化度(D(n))及び運転時間Tから所定の上限値に劣化度が到達するときの運転時間(個別メンテナンス時期)を算出するための具体的な手法は特に限定されず、例えば、最終的に算定されるメンテナンス時期に求められる精度、演算部530を構成するCPUの処理能力、並びにデータ記憶部540の容量及びデータ転送速度等に応じて、当該技術分野において周知の様々な手法の中から適宜選択することができる。
例えば、現時点における(即ち、最新の)劣化度(D(n))及び運転時間Tと原点(運転時間T=0における劣化度D(0)=0)とに基づく線形補間によって個別メンテナンス時期を算出してもよい。或いは、現時点までに得られた複数の劣化度(D(n))及びその時々の運転時間Tに基づく線形回帰又は非線形回帰によって個別メンテナンス時期を算出してもよい。更に、構成要素群に含まれる構成要素の各々につき、運転時間Tの進行に伴う劣化度(D(n))の推移のパターンを例えば事前の実験等によって求めておき、少なくとも現時点における劣化度(D(n))及び運転時間Tを当該パターンに当てはめることにより、個別メンテナンス時期を算出してもよい。
次に、CPUは次のステップS60へと処理を進め、第6ステップを実行する。具体的には、CPUは、構成要素の各々について算出された個別メンテナンス時期のうち最も早く到達する個別メンテナンス時期を、エンジンヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択する。
例えば、エンジンヒートポンプの構成要素A~Fの劣化度に応じて当該ヒートポンプのメンテナンス時期を算定しようとする場合を想定する。この場合、上述した構成要素群は構成要素A~Fによって構成され、上述した第1ステップから第5ステップにより、個別メンテナンス時期が構成要素A~Fの各々について個別に算出される。このようにして算出された個別メンテナンス時期を以下の表1に列挙する。
表1に列挙された個別メンテナンス時期の中では構成要素Bについて算出された個別メンテナンス時期が最も短い(最も早く到達する)。従って、この場合、構成要素Bについて算出された個別メンテナンス時期である12000時間が、当該ヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択される。また、以下の表2に列挙する個別メンテナンス時期が構成要素A~Fの各々について算出された場合は、最も短い(最も早く到達する)個別メンテナンス時期が算出された構成要素Aについての個別メンテナンス時期である11000時間が、当該ヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択される。
尚、上記のようにして算定されたメンテナンス時期は、例えば第1装置に設けられたコネクタ等に計測機器又は診断機器等を接続することにより、例えばメンテナンス担当者が確認することができる。或いは、例えば第1装置に設けられた液晶ディスプレイ等の表示装置によってメンテナンス時期を表示してもよい。更に、例えばインターネット及び/又は電話回線網等のネットワークを介して、例えばメンテナンス業者が利用するサーバに上記のようにして算定されたメンテナンス時期が自動的に送信されるようにしてもよい。
以上説明してきたように、第1装置においては、メンテナンスの対象となる構成要素の各々につき、例えばエンジンの回転速度及び負荷等の運転条件のみならず例えば外気温度等の環境条件をも含む複数の状態量の各々とエンジンヒートポンプの構成要素の劣化量と運転時間との関係を示すデータを予め格納しておき、その時々に検出される上記状態量及び運転時間から上記データに基づいて見積もられる上記劣化量及び運転時間から、個々の構成要素の劣化度が上限値に到達するときの運転時間を個別メンテナンス時期として算出し、算出された個別メンテナンス時期のうち最も短い個別メンテナンス時期を当該ヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択する。
即ち、第1装置においては、メンテナンスの対象となる構成要素の各々につき、例えばエンジンの回転速度及び負荷等の運転条件のみならず例えば外気温度等の環境条件をも含む複数の状態量及び運転時間に基づき、その時々の劣化度が算出される。従って、運転条件のみに基づいて構成要素の劣化度が算出される従来技術とは異なり、環境条件による影響も考慮された正確な劣化度を算出することができる。また、第1装置においては、その時々に取得される状態量に基づいて構成要素の劣化度が算出されるので、所定の期間における状態量の平均値に基づいて劣化度が算出される従来技術とは異なり、より正確な劣化度を算出することができる。その結果、第1装置によれば、個々の構成要素の劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定することができる。
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置(以降、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
上述したように、第1装置においては、その時々に取得される状態量に基づいて構成要素の劣化度が算出されるので、所定の期間における状態量の平均値に基づいて劣化度が算出される従来技術とは異なり、より正確な劣化度を算出することができる。しかしながら、例えば運転条件(例えば、エンジンの回転速度及び負荷等)及び環境条件(例えば、外気温度等)等の運転状態は、例えばヒートポンプの使用者による条件設定の変更及び自然現象に伴う気温の変化等によって変化する場合がある。或いは、何等かの突発的な外乱により運転条件が急激に変化する場合もある。このような運転状態の変化における過渡的な状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期を算定すると、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題に繋がる虞がある。
そこで、第2装置は、上述した第1装置であって、状態量群を構成する状態量の変動幅が所定の閾値未満である状態においてのみ上述したメンテナンス時期算出処理を実行するように演算部が構成されている、エンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置である。
上記「所定の閾値」は、例えば、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において想定される状態量の変動幅に応じて、適宜定めることができる。第2装置が備える演算部は、状態量の変動幅が当該閾値以上である状態においては、メンテナンス時期算出処理を実行しない(即ち、メンテナンス時期を算出しない)。
図9は、第2装置が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS00において、状態量群を構成する各状態量の変動幅が所定の閾値未満であるか否かを判定する。具体的には、CPUは、状態量群を構成する各状態量を検出部520から取得し、所定の期間における各状態量の変動幅が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。上記「所定の期間」の長さは、例えば、エンジンヒートポンプの運転状態が、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態にあるか否かを判定するために十分な長さに定められる。所定の期間の具体的な長さは、例えば、エンジンヒートポンプの運転状態が過渡的な状態にある場合における各状態量の変動幅とエンジンの運転状態が定常状態にある場合における各状態量の変動幅とを比較する実験を事前に行うことによって定めることができる。
状態量群を構成する各状態量の変動幅が所定の閾値未満である場合(即ち、エンジンヒートポンプの運転状態が定常状態にある場合)、CPUは上記ステップS00において「Yes」と判定し、次のステップS10へと処理を進める。ステップS10以降の処理の流れは、第1装置に関する説明において参照した図4に示すフローチャートと同様であるので、ここでの説明は省略する。一方、状態量群を構成する各状態量の変動幅が第1閾値以上である場合(即ち、エンジンヒートポンプの運転状態が過渡的な状態にある場合)、CPUは上記ステップS00において「No」と判定し、当該ルーチンを一端終了する。
上記の結果、第2装置によれば、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく定常状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定される。従って、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題を有効に低減することができる。
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置(以降、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
上述したように、第2装置においては、状態量群を構成する状態量の変動幅が所定の閾値未満である状態においてのみ上述したメンテナンス時期算出処理が実行される。これにより、上述したような運転状態の変化における過渡的な状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題を低減することができる。
ところで、当該技術分野においては、例えば空気調和の対象となる室内の温度と設定温度との差の変化、室内機の稼働台数の変化及び使用者による条件設定の変更等に起因する負荷(例えば、熱媒体の要求循環量)の変動の有無を所定の周期(例えば、30秒毎)に検出し、負荷の変動が検出された場合にのみ例えばエンジンの回転速度等の運転条件を変更し、負荷の変動が検出されなかった場合には、運転条件を変更せず、一定の運転条件にて定常運転を継続するように制御されたエンジンヒートポンプが知られている。
上記のようなヒートポンプにおいては、上記制御により運転条件が変更され得るタイミングは予め決められている。従って、上記制御により運転条件が変更された時点から運転状態が定常状態となるまでの期間においてはメンテナンス時期算出処理を実行しないようにすることにより、れば、過渡的な状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
そこで、第3装置においては、エンジンヒートポンプが備える制御部が所定の周期毎に第1制御を実行するように構成されている。「第1制御」とは、例えば空気調和の対象となる室内の温度と設定温度との差の変化、室内機の稼働台数の変化及び使用者による条件設定の変更等に起因する負荷の変動に伴い熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は当該要求循環量に応じてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更し、要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更しない、という処理を行う制御である。
更に、第3装置においては、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように演算部が構成されている。
第1期間の具体的な長さは、例えば、対象となるエンジンヒートポンプにおいて負荷を様々に変化させたときのエンジン及び/又は圧縮機等の運転条件及び/又は当該運転条件に対応する状態量の値が安定するまでに要する時間の長さに応じて適宜定めることができる。このような時間の長さは、例えば対象となるエンジンヒートポンプにおいて負荷を様々に変化させる事前の実験等によって計測することができる。
また、上記のように、第3装置が備える演算部は、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように構成されている。換言すれば、第3装置においては、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、所定の第1期間が経過するまでは上述した第1ステップ乃至第6ステップは実行されない。一方、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更されなかった場合は、第1装置に関する説明において述べたように、メンテナンス時期算出処理を所定の間隔にて実行することができる。
図10は、第3装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算定されるヒートポンプ100が備える制御部(HP-ECU110及びENG-ECU410)によって実行される第1制御ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図10を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、ヒートポンプ100が備える制御部を構成するCPUにより、所定の短い周期(例えば、30秒毎)にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS210において、ヒートポンプ100が稼働中であるか否かを判定する。ヒートポンプ100が稼働中ではない場合(即ち、ヒートポンプ100が停止している場合)、CPUは「No」と判定して、当該ルーチンを一端終了する。一方、ヒートポンプ100が稼働中である場合、CPUは「Yes」と判定し、次のステップS220へと処理を進める。CPUは、ステップS220において、ヒートポンプ100における熱媒体の要求循環量に変化が生じているか否かを判定する。
熱媒体の要求循環量に変化が生じていない場合、CPUは「No」と判定して、当該ルーチンを一端終了する。一方、熱媒体の要求循環量に変化が生じている場合、CPUは「Yes」と判定し、次のステップS230へと処理を進める。CPUは、ステップS230において、熱媒体の要求循環量に応じて、例えばエンジン400の回転速度、圧縮機211及び212の稼働台数及び/又は圧縮機211乃至213の容量電磁弁291乃至293の開度等、ヒートポンプ100の運転状態を変更するための指示信号を送出する。これにより、例えばエンジン400の回転速度、圧縮機の稼働台数及び/又は容量電磁弁の開度等が変化し、ヒートポンプ100の運転状態が一時的に過渡的な状態となる。従って、CPUは次のステップS240へと処理を進め、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態にあることを示すフラグFLGを降ろす(フラグFLGの値を「0(ゼロ)」に設定する)。
次に、CPUは、次のステップS250へと処理を進め、上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過したか否か(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態に到達して各状態量の変動幅が所定の閾値未満となったか否か)を判定する。上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過していない場合(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態に未だ到達しておらず各状態量の変動幅が所定の閾値以上である場合)、CPUはステップS250において「No」と判定して、ステップS250の前へと処理を戻し、第1期間P1が経過するまで待機する。一方、上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過した場合(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態に到達し各状態量の変動幅が所定の閾値未満となっている場合)、CPUはステップS250において「Yes」と判定して、次のステップS260へと処理を進める。
次のステップS260において、CPUは、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態にあることを示すフラグFLGを立て(フラグFLGの値を「1」に設定し)、当該ルーチンを一端終了する。
以上のようにして、ヒートポンプ100が備える制御部は、熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は当該要求循環量に応じてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件を変更し、熱媒体の要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件を変更しない制御(第1制御)を所定の周期毎に実行する。加えて、ヒートポンプ100が備える制御部は、第1制御においてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過したか否か(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態に到達したか否か)を表すフラグFLGの値を適切に設定する。
従って、第3装置が備える演算部は、上記フラグFLGの値を参照することにより、第1制御においてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過した後においてのみメンテナンス時期算出処理を実行することができる。即ち、第3装置が備える演算部は、上記フラグFLGにより、ヒートポンプ100の運転状態が過渡的な状態ではなく定常状態にあるときにのみ点火プラグのメンテナンス時期を算出することができる。
図11は、第3装置が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの1つの例を示すフローチャートである。図11を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、演算部530を構成するCPUは、ステップS05において、上述したフラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。具体的には、演算部530を構成するCPUは、ヒートポンプ100の制御部からフラグFLGの値を取得し、フラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。フラグFLGの値が「1」ではない場合(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態にはない場合)、CPUはステップS150において「No」と判定し、当該ルーチンを一端終了する。一方、フラグFLGの値が「1」である場合(即ち、ヒートポンプ100の運転状態が定常状態にある場合)、CPUはステップS150において「Yes」と判定し、次のステップS110へと処理を進める。ステップS110以降の処理の流れは、第1装置に関する説明において参照した図4に示すフローチャートと同様であるので、ここでの説明は省略する。
以上のように、第3装置においては、上述した第1制御が実行されるエンジンヒートポンプにおいて、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理が実行されない。これにより、負荷の変動に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において状態量をより確実かつ容易に取得することができるので、過渡的な状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
尚、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更されなかった場合においても、負荷の変動の有無を検出した時点から所定の第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理が実行されないようにしてもよい。例えば、負荷の変動の有無を検出する周期に対して第1期間が十分に短い場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件の変更の有無に拘わらず第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないようにしても、状態量の取得に支障は無い。また、負荷の変動の有無に応じてメンテナンス時期算出処理を実行するタイミングを変更する必要が無くなるので、演算部のCPUによって実行されるルーチンを簡潔にすることができる。
また、図10及び図11を参照しながら説明した例においては、図10に示したフローチャートのステップS240及びS260において適宜設定されるフラグFLGの値に応じてメンテナンス時期算出処理を実行するか否かが制御される(図11に示したフローチャートのステップS05を参照)。しかしながら、例えば図12に示すフローチャートによって表されるように、フラグFLGを利用すること無く、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように演算部を構成することもできる。
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、上述した第1装置乃至第3装置を始めとする種々の本発明装置によって実行されるエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法(本発明方法)にも関する。
そこで、第4方法は、少なくとも、エンジンと、エンジンによって駆動される少なくとも1つの圧縮機と、圧縮機の吐出口から圧縮機の吸入口へと熱媒体を循環させる通路である循環経路と、循環経路に介在する少なくとも一対の熱交換器と、エンジン及び/又は圧縮機の作動状態を制御するように構成された制御部と、を備えるエンジンヒートポンプにおいて、当該エンジンヒートポンプの構成要素のうちの予め定められた複数の構成要素からなる群である構成要素群に含まれる構成要素のメンテナンス時期を個別に算定する、エンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法である。
第4方法は、エンジンヒートポンプの製造時又は前回のメンテナンスの実施時から現時点までの期間におけるエンジンヒートポンプの運転時間を計測するように構成された運転時間計測部と、少なくともエンジンの回転速度及び負荷並びに外気温度を含む複数の状態量からなる群である状態量群を検出するように構成された検出手段を含む検出部と、メンテナンス時期を算出するように構成された演算部と、構成要素群に含まれる構成要素の各々につき、運転時間と状態量群に含まれる1つ以上の状態量と構成要素の劣化度の変化量である劣化量との関係を示すデータである劣化データを格納しているデータ記憶部と、を備えるエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置によって実行される。
具体的には、以下に列挙する第1ステップ乃至第6ステップを含む処理であるメンテナンス時期算出処理が演算部によって実行される。
第1ステップ:現時点における上記運転時間を上記運転時間計測部から取得する。
第2ステップ:現時点における上記エンジンの回転速度及び負荷並びに上記外気温度を含む複数の状態量からなる群である状態量群を上記検出部から取得する。
第3ステップ:前回のメンテナンス時期の算定時である前時点における上記運転時間及び現時点における上記運転時間並びに上記状態量群より選ばれる少なくとも1つの状態量から、上記劣化データに基づいて、上記前時点と上記現時点との間の期間である算定期間における劣化量を、上記構成要素群に含まれる上記構成要素の各々について算出する。
第4ステップ:上記前時点における劣化度及び上記劣化量から、現時点における劣化度を、上記構成要素の各々について算出する。
第5ステップ:少なくとも現時点における上記劣化度及び上記運転時間から、所定の上限値に劣化度が到達するときの運転時間を、個別メンテナンス時期として、上記構成要素の各々について算出する。
第6ステップ:構成要素の各々について算出された前記個別メンテナンス時期のうち最も早く到達する個別メンテナンス時期を、前記エンジンヒートポンプ全体としてのメンテナンス時期として選択する。
上記エンジンヒートポンプ、エンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定装置、及び第1ステップ乃至第6ステップの詳細については、上述した第1装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
上記のように、第4方法においては、メンテナンスの対象となる構成要素の各々につき、例えばエンジンの回転速度及び負荷等の運転条件のみならず例えば外気温度等の環境条件をも含む複数の状態量及び運転時間に基づき、その時々の劣化度が算出される。従って、運転条件のみに基づいて構成要素の劣化度が算出される従来技術とは異なり、環境条件による影響も考慮された正確な劣化度を算出することができる。また、第4方法においては、その時々に取得される状態量に基づいて構成要素の劣化度が算出されるので、所定の期間における状態量の平均値に基づいて劣化度が算出される従来技術とは異なり、より正確な劣化度を算出することができる。その結果、第4方法によれば、個々の構成要素の劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定することができる。
《第5実施形態》
以下、本発明の第5実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
第5方法は、上述した第4方法であって、演算部により、状態量群を構成する状態量の変動幅が所定の閾値未満である状態においてのみ上述したメンテナンス時期算出処理が実行される、エンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法である。
上記のように、第5方法は、上述した第2装置に対応するエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法である。従って、第5方法の詳細については、上述した第2装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第5方法によれば、第2装置に関する説明において述べたように、条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく定常状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定される。従って、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題を有効に低減することができる。
《第6実施形態》
以下、本発明の第6実施形態に係るエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法(以降、「第6方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
第6方法は、上述した第4方法又は第5方法であって、エンジンヒートポンプが備える制御部は、熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は当該要求循環量に応じてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更し、要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更しない、という処理を行う制御である第1制御を所定の周期毎に実行するように構成されている。
更に、第6方法においては、演算部により、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄は上述したメンテナンス時期算出処理を実行しない。
上記のように、第6方法は、上述した第3装置に対応するエンジンヒートポンプのメンテナンス時期算定方法である。従って、第6方法の詳細については、上述した第3装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第6方法においては、上述した第1制御が実行されるエンジンヒートポンプにおいて、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理が実行されない。これにより、負荷の変動に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において状態量をより確実かつ容易に取得することができるので、過渡的な状態において取得された状態量に基づいてメンテナンス時期が算定されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。