《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置(以降、「第1装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
第1装置は、ヒートポンプ用エンジンが備える点火プラグのメンテナンス時期を算出する、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置である。点火プラグに対して行われるメンテナンスの具体例としては、例えば、点火プラグの交換等を挙げることができる。
上記ヒートポンプは、少なくとも、エンジンと、少なくとも1つの圧縮機と、循環経路と、少なくとも一対の熱交換器と、制御部と、を備える。上記圧縮機は、上記エンジンによって駆動される。上記循環経路は、上記圧縮機の吐出口から上記圧縮機の吸入口へと熱媒体を循環させる通路である。上記熱交換器は、上記循環経路に介在する。上記制御部は、上記エンジン及び/又は上記圧縮機の作動状態を制御するように構成されている。
図1は、第1装置によってエンジンの点火プラグのメンテナンス時期が算出されるエンジンヒートポンプの構成の一例を示す模式図である。尚、図1においては空気調和装置において使用されるヒートポンプを例示するが、第1装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算出されるエンジンヒートポンプは、空気調和装置において使用されるヒートポンプに限定されず、その構成も図1に例示する構成に限定されない。
空気調和装置100は、室外機200及び室内機300を含み、これらの間には配管330及び340を介して熱媒体が循環される。即ち、配管330及び340は上記「循環経路」を構成する。室外機200は、3台の圧縮機211乃至213、オイルセパレータ230、四方弁240、熱交換器250並びにアキュムレータ260を含む。圧縮機211乃至213の構成は特に限定されないが、例えば、3台の圧縮機211乃至213は何れもスクロールコンプレッサである。一方、室内機300は、電子膨張弁310及び熱交換器320を含む。更に、空気調和の対象となる室内の温度を検出する室内温度センサ284が設けられている。室外機200の熱交換器250及び室内機300の熱交換器320は上記「一対の熱交換器」を構成する。
更に、これらの構成要素の間に熱媒体を循環させるための配管の所定の箇所には、バッファ221、ストレーナ222、223及び224、フィルタドライヤ225、オイルバイパス調整弁270、高圧スイッチ(SW)281、及び高圧センサ282が設けられている。加えて、室外機200には、室外の温度を検出する室外温度センサ283が設けられている。
そして、ヒートポンプ用電子制御装置(HP-ECU)110は、例えば室内温度センサ284によって検出される空気調和の対象となる室内の温度、室外温度センサ283によって検出される室外の温度、稼働している室内機の台数(室内機の運転台数)及び室内機の設置場所等、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の運転を制御する。HP-ECU110は、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU)である。
更に、室外機200は、オイルセパレータ230と吐出側(下流側)とアキュムレータ260の吸入側(上流側)とを連通する熱媒体の通路と、当該通路を遮断及び開放するホットガスバイパス弁290と、を含む。ホットガスバイパス弁290により当該通路が開放されていると、圧縮機211乃至213から吐出された熱媒体は、熱交換器250を迂回して、圧縮機211乃至213へと戻る。ホットガスバイパス弁290を開くことにより、圧縮機211乃至213の吐出側から吸入側への熱媒体の循環に必要とされる仕事量を大幅に削減して、圧縮機211乃至213の仕事率を低下させることができる。
加えて、圧縮機211乃至213は、それぞれの中間圧縮室から吸入ポートへと熱媒体を戻す通路と、当該通路を遮断及び開放する容量電磁弁291乃至293と、をそれぞれ含む。容量電磁弁291乃至293を開くことにより、圧縮機211乃至213の中間圧縮室から下流側における仕事量を大幅に削減して、圧縮機211乃至213の仕事率を低下させることができる。
空気調和装置100における熱媒体の流れ方向は、図中に示した実線の矢印(冷房時)及び破線の矢印(暖房時)によって表されるように、空気調和装置100の運転モード(冷房モード及び暖房モード)によって異なる。しかしながら、圧縮機211乃至213からオイルセパレータ230を介して四方弁240までの循環経路(吐出側経路)並びに四方弁240からアキュムレータ260及びストレーナ224を介して圧縮機211乃至213までの循環経路(吸入側経路)においては、図中の矢印によって示すように、空気調和装置100の運転モードに拘わらず、熱媒体の流れ方向は常に同じである。
冷房時においては、室内機300の熱交換器320がヒートポンプによる熱の移動元(低温側)として機能し、室外機200の熱交換器250がヒートポンプによる熱の移動先(高温側)として機能する。一方、暖房時においては、室外機200の熱交換器250がヒートポンプによる熱の移動元(低温側)として機能し、室内機300の熱交換器320がヒートポンプによる熱の移動先(高温側)として機能する。
図1においては、圧縮機211乃至213を駆動するエンジン400及びエンジン400の作動を制御するエンジン用電子制御装置(ENG-ECU)410は省略されている。そこで、これらにつき、図2を参照しながら以下に説明する。
エンジン400の気筒数、気筒レイアウト、点火方式及び燃料等の具体的な構成は特に限定されない。図1に例示するエンジン400は、多気筒(本例においては直列四気筒)・4サイクル・ピストン往復動型・火花点火式ガスエンジンである。
前述したように、HP-ECU110は、例えば室内温度センサ284によって検出される空気調和の対象となる室内の温度、室外温度センサ283によって検出される室外の温度、稼働している室内機300の台数(室内機300の運転台数)及び室内機300の設置場所等、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の運転を制御する。
尚、空気調和装置100が使用するヒートポンプは、複数の圧縮機211乃至213を含み、且つ、これらの複数の圧縮機211乃至213のうちの少なくとも一部の圧縮機において、エンジン400から圧縮機へと駆動力が伝達される状態である伝達状態と、エンジン400から圧縮機へと駆動力が伝達されない状態である遮断状態と、を切り替えるクラッチを更に含む。
具体的には、図2に示すように、3台の圧縮機211乃至213がエンジン400によってベルト駆動される。圧縮機211乃至213のうち2台の圧縮機211及び212は常に伝達状態にあり、圧縮機213についてのみ伝達状態と遮断状態とをクラッチ(図示せず)によって切り替えることができるように構成されている。これにより、HP-ECU110は、ヒートポンプの運転状況及び/又は環境条件に応じて、圧縮機211乃至213の全てを運転するか或いは圧縮機211及び212のみを運転するかを切り替えることができる。
ENG-ECU410は、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。ENG-ECU410は、エンジン400の運転状態に関連する各種パラメータを検出する各種センサからの検出信号を受信し、エンジン400及び圧縮機211乃至213を操作するための指示信号を各種アクチュエータに送信することにより、圧縮機211乃至213に要求される仕事量に応じて、エンジン400の作動を制御する。
以上のように、HP-ECU110及びENG-ECU410は、第1装置によって構成要素のメンテナンス時期が個別に算出されるエンジンヒートポンプが備える上記「制御部」を構成する。但し、制御部の構成は上記に限定されず、それぞれのECUは上述した種々の制御のうちの何れを実施するように構成されていてもよい。また、制御部としての機能は、上記のように複数のECUによって分散的に達成されてもよく、或いは1つのECUによって全ての機能が達成されてもよい。
図3は、第1装置の構成の一例を示す模式的なブロック図である。図3に例示する第1装置500は、時間計測部510と、状態量検出部520と、演算部530と、データ記憶部540と、を備える。時間計測部510は、上記点火プラグの装着時又は交換時から現時点までの期間におけるエンジン400の累積運転時間を計測するように構成されている。具体的には、時間計測部510は、例えば上記制御部(即ち、HP-ECU110及び/又はENG-ECU410)から、上記エンジンの運転時間を取得することができる。
状態量検出部520は、少なくとも上記エンジンの回転速度及び負荷を含む複数の状態量からなる群である状態量群を検出するように構成された検出手段を含む。具体的には、エンジンの回転速度は、例えば、エンジン400のシリンダブロック部に配設されたクランクポジションセンサ(図示せず)からの信号(実際には隣接するパルス信号間の時間)に基づいて検出することができる。また、エンジン400の負荷は、例えば、エンジン400の吸気管の途中に介装されたスロットル弁(図示せず)の開度に基づいて検出することができる。この場合、エンジン400の負荷を検出する検出手段は、例えば、図示しないスロットルポジションセンサ等である。或いは、エンジン400の負荷は、例えば、圧縮機211及び212の吐出側と吸入側との間における圧力差等に基づいて検出することができる。この場合、エンジン400の負荷を検出する検出手段は、例えば、圧縮機211及び212の吐出側及び吸入側に配設された図示しない圧力センサ等である。
演算部530は、上述したメンテナンス時期を算出するように構成されている。演算部530もまた、例えば、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。演算部530においては、後述するメンテナンス時期の算出ルーチンに含まれる種々の処理をCPUに実行させるためのアルゴリズムに対応するプログラムがROMに格納されており、当該プログラムに従って当該ルーチンをCPUが実行する。
データ記憶部540は、第1データ及び第2データを格納している。第1データは、少なくとも上記点火プラグの放電用電極に印加される電圧である要求電圧と上記状態量群との関係を示すデータである。当業者に周知であるように、要求電圧とは、点火プラグの電極の間隙に火花放電を発生させるために必要とされる当該電極間への印加電圧であり、エンジンの燃焼室内の圧力(即ち、筒内圧)が高くなるほど要求電圧も高くなる。第1データは、このような要求電圧と上記状態量群(即ち、少なくともエンジン400の回転速度及び負荷)との関係を示すデータである。従って、詳しくは後述するように、その時々の状態量群から、この第1データに基づいて、その時点における点火プラグの要求電圧を特定することができる。
上記のような第1データは、例えば、種々の運転状態における点火プラグの要求電圧との関係を特定する実験を事前に行うことによって得ることができる。より詳しくは、例えば、エンジン400の回転速度と負荷との種々の組み合わせにおける点火プラグの要求電圧を測定する実験を事前に行うことにより、上記第1データを得ることができる。
一方、第2データは、少なくとも上記点火プラグの劣化度の変化の速度である劣化速度と上記状態量群との関係を示すデータである。上記「劣化度」とは、点火プラグのメンテナンスの要否の判断において指標となる状態を示す値である。具体的には、例えば、点火プラグの電極の摩耗及び/又は汚れ等の度合いを劣化度とすることができる。また、上記「劣化速度」とは、単位時間当たりの劣化度の変化量(増分)である。第2データは、上記状態量群を構成する状態量の種々の組み合わせと点火プラグの劣化速度との対応関係を示すデータである。従って、詳しくは後述するように、その時々の状態量群から、この第2データに基づいて、その時点における点火プラグの劣化速度を特定することができる。
上記のような第2データは、例えば、種々の運転状態における運転時間と構成要素の劣化度との関係を特定する実験を事前に行うことによって得ることができる。より詳しくは、例えば、エンジン400の回転速度と負荷との種々の組み合わせにおいて、運転時間の経過に伴う劣化度の変化を観測する実験を事前に行うことにより、上記第2データを得ることができる。
尚、上記状態量群は、エンジン400の回転速度及び負荷に加えて、点火プラグの要求電圧及び/又は劣化速度に影響を及ぼす他の状態量を含むことができる。このような状態量の具体例としては、例えば、その時々の点火プラグの劣化度及びエンジン400の累積運転時間等を挙げることができる。
データ記憶部540は例えばROM及び/又はRAM等の記憶装置であり、第1データ及び第2データは電子データとしてデータ記憶部540に格納される。また、第1データ及び第2データは、それぞれ上述した関係を表すデータテーブル(マップ)或いは当該関係を表す関数等として、データ記憶部540に格納することができる。
演算部530を構成するCPUは、詳しくは後述するメンテナンス時期の算出過程において、例えば、データテーブルとしての第1データを参照したり、関数としての第1データに状態量群を構成する各状態量を変数として入力したりすることにより、点火プラグの要求電圧を特定又は算出することができる。同様に、演算部530を構成するCPUは、詳しくは後述するメンテナンス時期の算出過程において、例えば、データテーブルとしての第2データを参照したり、関数としての第2データに状態量群を構成する各状態量を変数として入力したりすることにより、点火プラグの劣化速度を特定又は算出することができる。
前記演算部は、以下に列挙する第1ステップ乃至第6ステップを含む処理であるメンテナンス時期算出処理を実行するように構成されている。
第1ステップ:現時点における上記累積運転時間を上記時間計測部から取得する。
第2ステップ:上記現時点における上記状態量群を上記状態量検出部から取得する。
第3ステップ:上記現時点における上記状態量群から、上記第1データに基づいて、上記要求電圧を算出する。
第4ステップ:前回のメンテナンス時期の算出時である前時点における上記累積運転時間と現時点における上記累積運転時間との差である運転時間、上記状態量群及び上記要求電圧から、上記第2データに基づいて、上記前時点と上記現時点との間の期間である算出期間における上記点火プラグの劣化度の変化量である劣化量を算出する。
第5ステップ:上記劣化量及び上記前時点における前上記劣化度から、上記現時点における上記劣化度を算出する。
第6ステップ:少なくとも上記現時点における上記劣化度及び上記現時点における上記累積運転時間から、上記点火プラグの劣化度が所定の上限値に到達するときの上記累積運転時間を、上記点火プラグのメンテナンス時期として算出する。
図4は、第1装置500が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図4を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS110において、上述した第1ステップを実行する。具体的には、現時点における累積運転時間T(n)を運転時間計測部510から取得する。累積運転時間T(n)は、上述したように、点火プラグの装着時又は交換時から現時点までの期間におけるエンジン400の累積運転時間(累積稼働時間)である。運転時間計測部510は、上述したようにヒートポンプを構成するエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の作動状態を制御する制御部(を構成するHP-ECU110及び/又はENG-ECU410)から累積運転時間(n)に関するデータを取得することができる。
ところで、基本的には、例えば図5に示すグラフによって表されるように、運転時間が長くなるほど、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグの劣化が進行する(即ち、劣化度が増大する)。しかしながら、点火プラグの劣化速度は、エンジン400の運転条件(例えば、エンジン400の回転速度及び負荷等)等に応じて変化する。
より詳しくは、例えば、エンジンの回転速度が大きくなるほど、運転時間当たりの点火回数が増大するので、点火プラグの劣化速度は大きくなる。従って、例えば図6に示すグラフによって表されるように、エンジンの回転速度NEが大きくなるほど、運転時間の増大に伴う点火プラグの電極の摩耗量の増大を表すグラフの傾きがより大きくなる(NE1<NE2<NE3)。また、例えば、点火プラグの要求電圧が高くなるほど、点火プラグの劣化速度は大きくなる。従って、例えば図7に示すグラフによって表されるように、点火プラグの要求電圧Vが高くなるほど、運転時間の増大に伴う点火プラグの電極の摩耗量の増大を表すグラフの傾きがより大きくなる(V1<V2<V3)。
そこで、CPUは、次のステップS120へと処理を進め、上述した第2ステップを実行する。具体的には、点火プラグの劣化度に影響を及ぼす運転条件(例えば、エンジン400の回転速度及び負荷等)に対応する状態量(からなる群である状態量群)を検出部520からそれぞれ取得する。
上述したように、上記状態量群を構成する状態量は、エンジン400の回転速度及び負荷に限定されない。例えば算出されるメンテナンス時期に要求される精度等に応じて、点火プラグの劣化度に影響を及ぼす他の状態量(例えば、その時々の点火プラグの劣化度及びエンジンの累積運転時間等)を状態量群に追加してもよい。また、上記状態量群を構成する状態量は、点火プラグの劣化度に直接的に影響を及ぼす状態量であってもよく、点火プラグの劣化度に間接的に影響を及ぼす状態量であってもよく、或いは点火プラグの劣化度に影響を及ぼす状態量と相関関係を有する他の状態量であってもよい。
尚、上述した第1ステップ及び第2ステップ(即ち、ステップS110及びS120)の実行順序は必ずしも上記の通りである必要は無く、第2ステップの実行後に第1ステップを実行してもよく、或いは第1ステップと第2ステップとを同時に実行してもよい。CPUは、次のステップS130へと処理を進め、上述した第3ステップを実行して、点火プラグの要求電圧V(n)を特定又は算出する。具体的には、上述したように、現時点における状態量群から、上記第1データに基づいて、点火プラグの要求電圧V(n)を特定又は算出する。
そして、CPUは、次のステップS140へと処理を進め、上述した第4ステップを実行して、前回のメンテナンス時期の算出時である前時点における上記累積運転時間T(n-1)と現時点における上記累積運転時間T(n)との差である運転時間ΔT(=T(n)-T(n-1))、上記要求電圧V(n)及び上記状態量群から、上記第2データに基づいて、上記前時点と上記現時点との間の期間である算出期間における点火プラグの劣化度の変化量である劣化量ΔD(n)を算出する。
前時点における累積運転時間T(n-1)と現時点における累積運転時間T(n)との差ΔT(=T(n)-T(n-1))は、算出期間におけるエンジン400の運転時間(稼働時間)に該当する。上述したように、この運転時間が長くなるほど、点火プラグの劣化が進行する(即ち、劣化量が増大する)。また、このときの点火プラグの劣化速度は、エンジン400の回転速度NE及び点火プラグの要求電圧Vによって変化する。そこで、第4ステップにおいては、例えば、現時点におけるエンジン400の回転速度NE及び点火プラグの要求電圧Vから、上述した第2データに基づいて、現時点における点火プラグの劣化速度を特定又は算出し、算出期間における運転時間ΔT及び点火プラグの劣化速度から、算出期間における点火プラグの劣化量ΔD(n)を算出する。
次に、CPUは次のステップS150へと処理を進め、第5ステップを実行する。具体的には、CPUは、前時点における劣化度D(n-1)と第4ステップ(ステップS140)において特定又は算出された劣化量ΔD(n)とに基づいて、現時点における点火プラグの劣化度D(n)を算出する。
上述したように、演算部530を構成するCPUは所定の短い周期にて当該ルーチンを実行する。従って、当該ルーチンを実行する度に、現時点における劣化度Dを算出して、データ記憶部540に格納しておくことができる。一方、上述した第4ステップにおいては、算出期間における点火プラグの劣化量ΔD(n)が算出されている。CPUは、前時点における劣化度D(n-1)と算出期間における劣化量ΔD(n)とに基づいて、現時点における劣化度D(n)を算出することができる。典型的には、現時点における劣化度D(n)は、例えば、前時点における劣化度D(n-1)と第4ステップにおいて算出された劣化量ΔD(n)から、以下に示す式(1)によって算出することができる。
次に、CPUは次のステップS160へと処理を進め、第6ステップを実行する。具体的には、CPUは、少なくとも現時点における劣化度D(n)及び累積運転時間T(n)から、所定の上限値に劣化度Dが到達するときの累積運転時間Tを、点火プラグのメンテナンス時期として算出する。
上記「上限値」とは、上述したようなメンテナンスを行うべきと判断される劣化度に対応する値であり、換言すればヒートポンプ用エンジンの正常な作動が可能な範疇における点火プラグの劣化度の最大値に対応する値である。上限値の具体的な値は、例えばヒートポンプ用エンジンの正常な作動が不可能となった時点における点火プラグの劣化度を測定する実験を事前に行うことにより、適宜定めることができる。
また、少なくとも現時点における劣化度D(n)及び累積運転時間T(n)から所定の上限値に劣化度Dが到達するときの累積運転時間Tを算出するための具体的な手法は特に限定されず、例えば、最終的に算出されるメンテナンス時期に求められる精度、演算部530を構成するCPUの処理能力、並びにデータ記憶部540の容量及びデータ転送速度等に応じて、当該技術分野において周知の様々な手法の中から適宜選択することができる。
例えば、現時点における(即ち、最新の)劣化度D(n)及び累積運転時間T(n)と原点(累積運転時間T=0における劣化度D(0)=0)とに基づく線形補間によってメンテナンス時期を算出してもよい。或いは、現時点までに得られた複数の劣化度(D(n),D(n-1),D(n-2)…)及びその時々の累積運転時間(T(n),T(n-1),T(n-2)…)に基づく線形回帰又は非線形回帰によってメンテナンス時期を算出してもよい。更に、累積運転時間Tの増大に伴う点火プラグの劣化度Dの推移のパターンを例えば事前の実験等によって求めておき、少なくとも現時点における劣化度D(n)及び累積運転時間T(n)を当該パターンに当てはめることにより、メンテナンス時期を算出してもよい。
上記のようにして算出された点火プラグのメンテナンス時期は、例えば第1装置に設けられたコネクタ等に計測機器又は診断機器等を接続することにより、例えばメンテナンス担当者が確認することができる。或いは、例えば第1装置に設けられた液晶ディスプレイ等の表示装置によってメンテナンス時期を表示してもよい。更に、例えばインターネット及び/又は電話回線網等のネットワークを介して、例えばメンテナンス業者が利用するサーバに、上記のようにして算出されたメンテナンス時期が自動的に送信されるようにしてもよい。
以上説明してきたように、第1装置によれば、点火プラグの要求電圧と状態量群(例えばエンジンの回転速度及び負荷等)との関係を示す第1データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群から第1データに基づいて要求電圧を見積もることができる。従って、上述した従来技術のように、高価な筒内圧センサ等の筒内圧取得手段を設けて筒内圧を検出する必要が無く、例えば部品点数の増加、構成の複雑化及びコストの増大等の問題を回避することができる。
また、第1装置によれば、点火プラグの劣化速度と状態量群との関係を示す第2データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群及び累積運転時間、並びに上記のようにして見積もられる要求電圧から第2データに基づいて点火プラグの劣化度を正確に算出することができる。更に、このようにして算出された劣化度が上限値に到達するときの運転時間を点火プラグのメンテナンス時期として算出することにより、点火プラグの劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定することができる。
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置(以降、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
上述したように、第1装置においては、点火プラグの要求電圧と状態量群(少なくともエンジンの回転速度及び負荷)との関係を示す第1データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群から第1データに基づいて要求電圧を見積もることができる。そして、点火プラグの劣化速度と状態量群との関係を示す第2データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群及び累積運転時間、並びに上記のようにして見積もられる要求電圧から第2データに基づいて点火プラグの劣化度を正確に算出することができる。
しかしながら、例えば運転条件(例えば、エンジンの回転速度及び負荷等)は、例えばヒートポンプの使用者による条件設定の変更及び自然現象に伴う気温の変化等によって変化する場合がある。或いは、何等かの突発的な外乱により運転条件が急激に変化する場合もある。このような運転状態の変化における過渡的な状態において取得された状態量群に基づいてメンテナンス時期を算出すると、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題に繋がる虞がある。
そこで、第2装置は、上述した第1装置であって、状態量群を構成する状態量の変動幅が所定の第1閾値未満である状態においてのみメンテナンス時期算出処理を実行するように演算部が構成されている、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置である。
上記「第1閾値」は、例えば、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において想定される状態量群を構成する各状態量の変動幅に応じて、適宜定めることができる。第2装置が備える演算部は、各状態量の変動幅が第1閾値以上である状態においてはメンテナンス時期算出処理を実行せず、各状態量の変動幅が第1閾値未満である状態においてのみメンテナンス時期算出処理を実行する。
図8は、第2装置が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図8を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS100において、状態量群を構成する各状態量の変動幅が所定の第1閾値未満であるか否かを判定する。具体的には、CPUは、状態量群を構成する各状態量を検出部520から取得し、所定の期間における各状態量の変動幅が第1閾値よりも小さいか否かを判定する。上記「所定の期間」の長さは、例えば、エンジンの運転状態が、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態にあるか否かを判定するために十分な長さに定められる。所定の期間の具体的な長さは、例えば、エンジンの運転状態が過渡的な状態にある場合における各状態量の変動幅とエンジンの運転状態が定常状態にある場合における各状態量の変動幅とを比較する実験を事前に行うことによって定めることができる。
状態量群を構成する各状態量の変動幅が第1閾値未満である場合(即ち、エンジンの運転状態が定常状態にある場合)、CPUは上記ステップS100において「Yes」と判定し、次のステップS110へと処理を進める。ステップS110以降の処理の流れは、第1装置に関する説明において参照した図4に示すフローチャートと同様であるので、ここでの説明は省略する。一方、状態量群を構成する各状態量の変動幅が第1閾値以上である場合(即ち、エンジンの運転状態が過渡的な状態にある場合)、CPUは上記ステップS100において「No」と判定し、当該ルーチンを一端終了する。
上記の結果、第2装置によれば、上述したような条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく定常状態において取得された状態量群に基づいて点火プラグのメンテナンス時期が算出される。従って、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題を有効に低減することができる。
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置(以降、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
上述したように、第2装置においては、状態量群を構成する状態量の変動幅が第1閾値未満である状態においてのみメンテナンス時期算出処理が実行される。これにより、上述したような運転状態の変化における過渡的な状態において取得された状態量群に基づいてメンテナンス時期が算出されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題を低減することができる。
ところで、当該技術分野においては、例えば空気調和の対象となる室内の温度と設定温度との差の変化、室内機の稼働台数の変化及び使用者による条件設定の変更等に起因する負荷(例えば、熱媒体の要求循環量)の変動の有無を所定の周期(例えば、30秒毎)にて検出し、負荷の変動が検出された場合にのみ例えばエンジンの回転速度等の運転条件を変更し、負荷の変動が検出されなかった場合には、運転条件を変更せず、一定の運転条件にて定常運転を継続するように制御されたエンジンヒートポンプが知られている。
上記のようなヒートポンプにおいては、上記制御により運転条件が変更され得るタイミングが予め決められている。従って、上記制御により運転条件が変更された時点から運転状態が定常状態となるまでの期間においてはメンテナンス時期算出処理を実行しないようにすることにより、過渡的な状態において取得された状態量群に基づいてメンテナンス時期が算出されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
そこで、第3装置においては、ヒートポンプが備える制御部が所定の周期毎に第1制御を実行するように構成されている。「第1制御」とは、(例えば、空気調和の対象となる室内の温度と設定温度との差の変化、室内機の稼働台数の変化及び使用者による条件設定の変更等に起因する負荷の変動等に伴い)熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は当該要求循環量に応じてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更し、要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更しない、という処理を行う制御である。
更に、第3装置においては、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように演算部が構成されている。
上記「第1期間」の具体的な長さは、例えば、対象となるヒートポンプにおいて熱媒体の要求循環量を様々に変化させたときのエンジンの運転条件及び/又は当該運転条件に対応する各状態量の値が安定するまでに要する時間の長さに応じて適宜定めることができる。このような時間の長さは、例えば対象となるヒートポンプにおいて熱媒体の要求循環量を様々に変化させる事前の実験等によって計測することができる。
また、上記のように、第3装置が備える演算部は、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように構成されている。一方、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更されなかった場合は、第1装置に関する説明において述べたように、メンテナンス時期算出処理を所定の間隔にて実行することができる。
図9は、第3装置によってエンジン400の点火プラグのメンテナンス時期が算出されるヒートポンプ100が備える制御部(HP-ECU110及びENG-ECU410)によって実行される第1制御ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、ヒートポンプ100が備える制御部を構成するCPUにより、所定の短い周期(例えば、30秒毎)にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS210において、エンジン400が稼働中であるか否かを判定する。エンジン400が稼働中ではない場合(即ち、エンジン400が停止している場合)、CPUは「No」と判定して、当該ルーチンを一端終了する。一方、エンジン400が稼働中である場合、CPUは「Yes」と判定し、次のステップS220へと処理を進める。CPUは、ステップS220において、ヒートポンプ100における熱媒体の要求循環量に変化が生じているか否かを判定する。
熱媒体の要求循環量に変化が生じていない場合、CPUは「No」と判定して、当該ルーチンを一端終了する。一方、熱媒体の要求循環量に変化が生じている場合、CPUは「Yes」と判定し、次のステップS230へと処理を進める。CPUは、ステップS230において、熱媒体の要求循環量に応じて、例えばエンジン400の回転速度、圧縮機211及び212の稼働台数及び/又は圧縮機211乃至213の容量電磁弁291乃至293の開度等、ヒートポンプ100の運転状態を変更するための指示信号を送出する。これにより、例えばエンジン400の回転速度、圧縮機の稼働台数及び/又は容量電磁弁の開度等が変化し、エンジン400の運転状態が一時的に過渡的な状態となる。従って、CPUは次のステップS240へと処理を進め、エンジン400の運転状態が定常状態にあることを示すフラグFLGを降ろす(フラグFLGの値を「0(ゼロ)」に設定する)。
次に、CPUは、次のステップS250へと処理を進め、上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過したか否か(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態に到達して各状態量の変動幅が所定の第1閾値Th1未満となったか否か)を判定する。上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過していない場合(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態に未だ到達しておらず各状態量の変動幅が第1閾値Th1以上である場合)、CPUはステップS250において「No」と判定して、ステップS250の前へと処理を戻し、第1期間P1が経過するまで待機する。一方、上記指示信号を送出した時点から第1期間P1が経過した場合(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態に到達し各状態量の変動幅が第1閾値Th1未満となっている場合)、CPUはステップS250において「Yes」と判定して、次のステップS260へと処理を進める。
次のステップS260において、CPUは、エンジン400の運転状態が定常状態にあることを示すフラグFLGを立て(フラグFLGの値を「1」に設定し)、当該ルーチンを一端終了する。
以上のようにして、ヒートポンプ100が備える制御部は、熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は当該要求循環量に応じてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件を変更し、熱媒体の要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件を変更しない制御(第1制御)を所定の周期毎に実行する。加えて、ヒートポンプ100が備える制御部は、第1制御においてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過したか否か(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態に到達したか否か)を表すフラグFLGの値を適切に設定する。
従って、第3装置が備える演算部は、上記フラグFLGの値を参照することにより、第1制御においてエンジン400及び/又は圧縮機211乃至213の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過した後においてのみメンテナンス時期算出処理を実行することができる。即ち、第3装置が備える演算部は、上記フラグFLGにより、エンジン400の運転状態が過渡的な状態ではなく定常状態にあるときにのみ点火プラグのメンテナンス時期を算出することができる。
図10は、第3装置が備える演算部530によって実行されるメンテナンス時期の算出ルーチンにおける処理の流れの1つの例を示すフローチャートである。図10を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、演算部530を構成するCPUは、ステップS150において、上述したフラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。具体的には、演算部530を構成するCPUは、ヒートポンプ100の制御部からフラグFLGの値を取得し、フラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。フラグFLGの値が「1」ではない場合(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態にはない場合)、CPUはステップS150において「No」と判定し、当該ルーチンを一端終了する。一方、フラグFLGの値が「1」である場合(即ち、エンジン400の運転状態が定常状態にある場合)、CPUはステップS150において「Yes」と判定し、次のステップS110へと処理を進める。ステップS110以降の処理の流れは、第1装置に関する説明において参照した図4に示すフローチャートと同様であるので、ここでの説明は省略する。
以上のように、第3装置においては、上述した第1制御が実行されるエンジンヒートポンプにおいて、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理が実行されない。これにより、負荷の変動に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において、状態量群をより確実かつ容易に取得することができるので、過渡的な状態において取得された状態量群に基づいてメンテナンス時期が算出されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
尚、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更されなかった場合においても、熱媒体の要求循環量の変化の有無を確認した時点から所定の第1期間が経過するまではメンテナンス時期算出処理が実行されないようにしてもよい。例えば、熱媒体の要求循環量の変化の有無を確認する周期に対して第1期間が十分に短い場合は、第1制御によるエンジン及び/又は圧縮機の運転条件の変更の有無に拘わらず、熱媒体の要求循環量の変化の有無を確認した時点から第1期間が経過するまでメンテナンス時期算出処理を実行しないようにしても、状態量群の取得に支障は無い。また、熱媒体の要求循環量の変化の有無に応じてメンテナンス時期算出処理を実行するタイミングを変更する必要が無くなるので、演算部のCPUによって実行されるルーチンを簡潔にすることができる。
また、図9及び図10を参照しながら説明した例においては、図9に示したフローチャートのステップS240及びS260において適宜設定されるフラグFLGの値に応じてメンテナンス時期算出処理を実行するか否かが制御される(図10に示したフローチャートのステップS150を参照)。しかしながら、例えば図11に示すフローチャートによって表されるように、フラグFLGを利用すること無く、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しないように演算部を構成することもできる。
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置(以降、「第4装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
上述した第1装置乃至第3装置を始めとする種々の本発明装置によれば、高価な筒内圧センサ等の筒内圧取得手段を設けること無く、エンジンの運転状態から点火プラグの要求電圧を見積もり、点火プラグの劣化度を正確に算出することができる。更に、このようにして算出された劣化度が上限値に到達するときの運転時間を点火プラグのメンテナンス時期として算出することにより、点火プラグの劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定することができる。
しかしながら、例えば点火プラグの製造時における品質のバラツキ及び/又は使用に伴う劣化度のバラツキ等により、本発明装置によって算出される劣化度と実際の劣化度との間に乖離が生ずる可能性も考えられる。例えば、本発明装置によって算出される劣化度よりも実際の劣化度の方が大きい場合、予期せぬ時期に点火プラグの作動不良(例えば、エンジンの失火等)が生じて、ヒートポンプを安定的に稼働させることが困難となる虞がある。
一方、上記のような算出される劣化度と実際の劣化度との乖離を当初から想定してメンテナンス時期を早めに算出するようにした場合、点火プラグの劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定するという本発明の目的を達成することが困難となる虞がある。
そこで、第4装置は、上述した第1装置乃至第3装置を始めとする本発明装置であって、点火プラグの点火出力を所定の第1量だけ一時的に低下させたときのエンジンの回転速度の変動幅が所定の第2閾値以上である場合に劣化度補正処理を実行するように演算部が構成されている。上記「第2閾値」は、例えば失火等の発生によりエンジンの回転速度がヒートポンプを正常に稼働させることが困難となっている状態におけるエンジンの回転速度の変動幅に対応する値である。このような第2閾値は、例えば、様々な劣化度を有する点火プラグを備えるエンジンによってヒートポンプを稼働させたときのヒートポンプの稼働状況を観測する実験を事前に行うことによって特定することができる。
また、上記「第1量」は、例えば、未だメンテナンス(例えば、交換等)を必要としない状態にある点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させてもエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上とはならないものの、メンテナンスを必要とする状態にある点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させるとエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上となるように定められる。具体的には、第1量は、例えば、前述した上限値に未だ到達していない劣化度を有する点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させてもエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上とはならないものの、上限値に既に到達している劣化度を有する点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させるとエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上となるように定められる。尚、第1量の具体的な大きさは、予め定められた固定値であってもよく、或いは、その時々の点火プラグの劣化度が大きくなるほど小さくなるように定められる変動値であってもよい。
尚、第4装置が備える演算部は、点火プラグへの通電時間及び/又は印加電圧を低減することにより、点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させるように構成されている。具体的には、第4装置が備える演算部は、例えば、ヒートポンプが備える制御部(ENG-ECU)を介して、点火プラグの火花放電を起こすための電極への通電時間を短縮したり当該電極への印加電圧を下げたりすることにより、点火プラグの点火出力を第1量だけ低下させるように構成されている。
劣化度補正処理は、現時点における点火プラグの劣化度を所定の第2量だけ増大させる処理である。上記「第2量」は、例えば、点火プラグの劣化度(例えば、火花放電を起こすための電極の摩耗量等)の絶対量であってもよく、点火プラグの劣化度の前述した上限値に対する相対値(比率)であってもよい。また、第2量の具体的な大きさは、予め定められた固定値であってもよく、或いは、その時々に検出されたエンジンの回転速度の変動幅が大きくなるほど大きくなるように定められる変動値であってもよい。
図12は、第4装置が備える演算部530によって実行される劣化度補正処理における処理ルーチンの流れの一例を示すフローチャートである。図11を参照しながら、当該ルーチンについて以下に詳しく説明する。尚、当該ルーチンは、演算部530を構成するCPUにより、所定の短い周期(例えば、百時間乃至数百時間毎)にて実行される。
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS310において、点火プラグへの通電時間及び/又は印加電圧を低減するようにヒートポンプ100の制御部(ENG-ECU410)に対して指示信号を送出する。これにより、エンジン400の点火プラグの点火出力が第1量だけ低減される。次に、CPUは、ステップS320へと処理を進め、エンジン400の回転速度NEを所定の期間に亘って計測する。
上記「所定の期間」の長さは、例えば、メンテナンスを必要とする状態にある点火プラグの点火出力が第1量だけ低減された時点からエンジン400の回転速度NEにおける変動が生ずる迄の期間の長さに応じて適宜定めることができる。このような期間の具体的な長さは、例えば、メンテナンスを必要とする状態にある点火プラグの点火出力を第1量だけ低減させた時点からエンジン400の回転速度NEにおける変動が生ずる迄の期間の長さを計測する実験を事前に行うことによって定めることができる。
次に、CPUは、ステップS330へと処理を進め、エンジン400の回転速度NEの変動幅ΔNEが上述した第2閾値Th1以上であるか否かを判定する。エンジン400の回転速度NEの変動幅ΔNEが第2閾値Th1未満である場合は、上述したメンテナンス時期算出処理によって算出された現時点における点火プラグの劣化度D(n)と実際の劣化度との乖離が十分に小さいと判断することができる。従って、CPUは、ステップS330において「No」と判定し、現時点における点火プラグの劣化度D(n)を補正すること無く、当該ルーチンを一端終了する。
一方、エンジン400の回転速度NEの変動幅ΔNEが上述した第2閾値Th1以上である場合は、メンテナンス時期算出処理によって算出された現時点における点火プラグの劣化度D(n)と実際の劣化度との乖離が大きいと判断することができる。従って、CPUは、ステップS330において「Yes」と判定し、次のステップS340へと処理を進める。
ステップS340において、CPUは、現時点における点火プラグの劣化度D(n)を補正する。具体的には、CPUは、現時点における点火プラグの劣化度D(n)を所定の第2量ΔD2だけ増大させる。
以上のように、第4装置においては、点火プラグの点火出力を所定の第1量だけ一時的に低下させたときのエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上である場合は現時点における点火プラグの劣化度が第2量だけ増大される。これにより、例えば点火プラグの製造時における品質のバラツキ及び/又は使用に伴う劣化度のバラツキ等により、本発明装置によって算出される劣化度と実際の劣化度との間に乖離が生じ得る場合においても、当該乖離を低減して、点火プラグのメンテナンス時期をより正確に算出することができる。
《第5実施形態》
以下、本発明の第5実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、上述した第1装置乃至第4装置を始めとする種々の本発明装置によって実行されるヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法(本発明方法)にも関する。
そこで、第5方法は、少なくとも、エンジンと、エンジンによって駆動される少なくとも1つの圧縮機と、圧縮機の吐出口から圧縮機の吸入口へと熱媒体を循環させる通路である循環経路と、循環経路に介在する少なくとも一対の熱交換器と、エンジン及び/又は圧縮機の作動状態を制御するように構成された制御部と、を備えるヒートポンプにおいて、エンジンが備える点火プラグのメンテナンス時期を算出する、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。
第5方法は、点火プラグの装着時又は交換時から現時点までの期間におけるエンジンの累積運転時間を計測するように構成された時間計測部と、少なくともエンジンの回転速度及び負荷を含む複数の状態量からなる群である状態量群を検出するように構成された検出手段を含む状態量検出部と、メンテナンス時期を算出するように構成された演算部と、少なくとも点火プラグの放電用電極に印加される電圧である要求電圧と上記状態量群との関係を示すデータである第1データ並びに少なくとも点火プラグの劣化度の変化の速度である劣化速度と上記状態量群との関係を示すデータである第2データを格納しているデータ記憶部と、を備えるヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置によって実行される。
具体的には、以下に列挙する第1ステップ乃至第6ステップを含む処理であるメンテナンス時期算出処理が演算部によって実行される。
第1ステップ:現時点における上記累積運転時間を上記時間計測部から取得する。
第2ステップ:上記現時点における上記状態量群を上記状態量検出部から取得する。
第3ステップ:上記現時点における上記状態量群から、上記第1データに基づいて、上記要求電圧を算出する。
第4ステップ:前回のメンテナンス時期の算出時である前時点における上記累積運転時間と現時点における上記累積運転時間との差である運転時間、上記状態量群及び上記要求電圧から、上記第2データに基づいて、上記前時点と上記現時点との間の期間である算出期間における上記点火プラグの劣化度の変化量である劣化量を算出する。
第5ステップ:上記劣化量及び上記前時点における前上記劣化度から、上記現時点における上記劣化度を算出する。
第6ステップ:少なくとも上記現時点における上記劣化度及び上記現時点における上記累積運転時間から、上記点火プラグの劣化度が所定の上限値に到達するときの上記累積運転時間を、上記点火プラグのメンテナンス時期として算出する。
上記ヒートポンプ、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出装置、及び第1ステップ乃至第6ステップの詳細については、上述した第1装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第5方法によれば、点火プラグの要求電圧と状態量群(例えばエンジンの回転速度及び負荷等)との関係を示す第1データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群から第1データに基づいて要求電圧を見積もることができる。従って、上述した従来技術のように、高価な筒内圧センサ等の筒内圧取得手段を設けて筒内圧を検出する必要が無く、例えば部品点数の増加、構成の複雑化及びコストの増大等の問題を回避することができる。
また、第5方法によれば、点火プラグの劣化速度と状態量群との関係を示す第2データを予め格納しておき、その時々に検出される状態量群及び累積運転時間、並びに上記のようにして見積もられる要求電圧から第2データに基づいて点火プラグの劣化度を正確に算出することができる。更に、このようにして算出された劣化度が上限値に到達するときの運転時間を点火プラグのメンテナンス時期として算出することにより、点火プラグの劣化度に正確に対応したメンテナンス時期を適切に設定することができる。
《第6実施形態》
以下、本発明の第6実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法(以降、「第6方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
第6方法は、上述した第5方法であって、演算部により、状態量群を構成する状態量の変動幅が所定の第1閾値未満である状態においてのみメンテナンス時期算出処理が実行される、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。
上記のように、第6方法は、上述した第2装置に対応するヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。従って、第6方法の詳細については、上述した第2装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第6方法によれば、第2装置に関する説明において述べたように、条件設定の変更、自然現象及び/又は突発的な外乱に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく定常状態において取得された状態量群に基づいて点火プラグのメンテナンス時期が算出される。従って、例えばメンテナンス時期の精度の低下等の問題を有効に低減することができる。
《第7実施形態》
以下、本発明の第7実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法(以降、「第7方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
第7方法は、上述した第5方法又は第6方法であって、エンジンヒートポンプが備える制御部は、熱媒体の要求循環量に変化が生じた場合は要求循環量に応じてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更し、要求循環量に変化が生じていない場合はエンジン及び/又は圧縮機の運転条件を変更しない、という処理を行う制御である第1制御を所定の周期毎に実行するように構成されている。
更に、演算部は、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理を実行しない。
上記のように、第7方法は、上述した第3装置に対応するヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。従って、第7方法の詳細については、上述した第3装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第7方法においては、上述した第1制御が実行されるエンジンヒートポンプにおいて、少なくとも第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された場合は、第1制御においてエンジン及び/又は圧縮機の運転条件が変更された時点から所定の長さを有する期間である第1期間が経過する迄はメンテナンス時期算出処理が実行されない。これにより、負荷の変動に起因する運転状態の変化における過渡的な状態ではなく、定常状態において、状態量群をより確実かつ容易に取得することができるので、過渡的な状態において取得された状態量群に基づいてメンテナンス時期が算出されることに起因するメンテナンス時期の精度の低下等の問題をより確実且つ容易に低減することができる。
《第8実施形態》
以下、本発明の第8実施形態に係るヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法(以降、「第8方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
第8方法は、上述した第5方法乃至第7方法を始めとする本発明方法であって、演算部により、点火プラグへの通電時間及び/又は印加電圧を低減することにより点火プラグの点火出力を所定の第1量だけ一時的に低下させたときのエンジンの回転速度の変動幅が所定の第2閾値以上である場合に現時点における点火プラグの劣化度を所定の第2量だけ増大させる処理である劣化度補正処理が実行される、ヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。
上記のように、第8方法は、上述した第4装置に対応するヒートポンプ用エンジンの点火プラグのメンテナンス時期算出方法である。従って、第8方法の詳細については、上述した第4装置に関する説明において既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
第8方法においては、点火プラグの点火出力を所定の第1量だけ一時的に低下させたときのエンジンの回転速度の変動幅が第2閾値以上である場合は現時点における点火プラグの劣化度が第2量だけ増大される。これにより、例えば点火プラグの製造時における品質のバラツキ及び/又は使用に伴う劣化度のバラツキ等により、本発明方法によって算出される劣化度と実際の劣化度との間に乖離が生じ得る場合においても、当該乖離を低減して、点火プラグのメンテナンス時期をより正確に算出することができる。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。