以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の動力源として機能するエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。尚、第2回転機MG2が、本発明の回転機に対応している。
図2は、エンジン12の概略構成を説明する図である。図2において、エンジン12は、車両10の走行用の動力源であり、過給機18を有するガソリンエンジンからなる公知の内燃機関、すなわち過給機18付きエンジンである。エンジン12の吸気系には吸気管20が設けられており、吸気管20はエンジン本体12aに取り付けられた吸気マニホールド22に接続されている。エンジン12の排気系には排気管24が設けられており、排気管24はエンジン本体12aに取り付けられた排気マニホールド26に接続されている。過給機18は、吸気管20に設けられたコンプレッサー18cと排気管24に設けられたタービン18tとを有する、公知の排気タービン式の過給機すなわちターボチャージャーである。タービン18tは、排出ガスすなわち排気の流れにより回転駆動させられる。コンプレッサー18cは、タービン18tに連結されており、タービン18tによって回転駆動させられることでエンジン12への吸入空気すなわち吸気を圧縮する。
排気管24には、タービン18tの上流側から下流側へタービン18tを迂回させて排気を流す為の排気バイパス28が並列に設けられている。排気バイパス28には、タービン18tを通過する排気と排気バイパス28を通過する排気との割合を連続的に制御する為のウェイストゲートバルブ(=WGV)30が設けられている。ウェイストゲートバルブ30は、後述する電子制御装置100によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁開度が連続的に調節される。ウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程、エンジン12の排気は排気バイパス28を通って排出され易くなる。従って、過給機18の過給作用が効くエンジン12の過給状態において、過給機18による過給圧Pchgはウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程低くなる。過給機18による過給圧Pchgは、吸気の圧力であり、吸気管20内でのコンプレッサー18cの下流側気圧である。
吸気管20の入口にはエアクリーナ32が設けられ、エアクリーナ32よりも下流であってコンプレッサー18cよりも上流の吸気管20には、エンジン12の吸入空気量Qairを測定するエアフローメータ34が設けられている。コンプレッサー18cよりも下流の吸気管20には、吸気と外気又は冷却水とで熱交換を行うことで過給機18により圧縮された吸気を冷却する熱交換器であるインタークーラ36が設けられている。インタークーラ36よりも下流であって吸気マニホールド22よりも上流の吸気管20には、後述する電子制御装置100によって不図示のスロットルアクチュエータが作動させられることにより開閉制御される電子スロットル弁38が設けられている。インタークーラ36と電子スロットル弁38との間の吸気管20には、過給機18による過給圧Pchgを検出する過給圧センサ40、吸気の温度である吸気温度THairを検出する吸気温センサ42が設けられている。電子スロットル弁38の近傍例えばスロットルアクチュエータには、電子スロットル弁38の開度であるスロットル弁開度θthを検出するスロットル弁開度センサ44が設けられている。
吸気管20には、コンプレッサー18cの下流側から上流側へコンプレッサー18cを迂回させて空気を再循環させる為の空気再循環バイパス46が並列に設けられている。空気再循環バイパス46には、例えば電子スロットル弁38の急閉時に開弁させられることによりサージの発生を抑制してコンプレッサー18cを保護する為のエアバイパスバルブ(=ABV)48が設けられている。エアバイパスバルブ48は、後述する電子制御装置100によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁開度が連続的に調節される。
エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、電子スロットル弁38や燃料噴射装置49や点火装置51やウェイストゲートバルブ30等を含むエンジン制御装置50(図1参照)が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。燃料噴射装置49は、エンジン12の一点鎖線で示す燃焼室12b内に燃料が直接噴射される筒内噴射式、もしくはポート噴射式が採用されている。
図1に戻り、第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10の走行用の動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置100によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース56内に設けられている。
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース56内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速機58及び機械式有段変速機60等を備えている。電気式無段変速機58及び機械式有段変速機60は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に直列に設けられている。電気式無段変速機58は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速機60は、電気式無段変速機58の出力側に連結されている。又、動力伝達装置16は、機械式有段変速機60の出力回転部材である出力軸62に連結された差動歯車装置64、差動歯車装置64に連結された一対の車軸66等を備えている。動力伝達装置16において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速機60へ伝達され、その機械式有段変速機60から差動歯車装置64等を介して駆動輪14へ伝達される。このように構成された動力伝達装置16は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。尚、以下、電気式無段変速機58を無段変速機58、機械式有段変速機60を有段変速機60という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速機58や有段変速機60等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された連結軸68などの軸心である。尚、有段変速機60が、本発明の自動変速機に対応している。
無段変速機58は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速機58の出力回転部材である中間伝達部材70に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構72とを備えている。中間伝達部材70には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。中間伝達部材70は、有段変速機60を介して駆動輪14に連結されているので、第2回転機MG2は、駆動輪14に動力伝達可能に連結された回転機である。無段変速機58は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構72の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを制御可能な回転機、例えばエンジン回転速度Neを引き上げることが可能な回転機である。動力伝達装置16は、動力源の動力を駆動輪14へ伝達する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
差動機構72は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸68を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構72において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速機60は、エンジン12および第2回転機MG2と駆動輪14との間の動力伝達経路に備えられ、無段変速機58と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材70は、有段変速機60の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材70には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速機58の入力側にはエンジン12が連結されているので、有段変速機60は、動力源(第2回転機MG2及びエンジン12)と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた変速機である。中間伝達部材70は、駆動輪14に動力源の動力を伝達する為の伝達部材である。有段変速機60は、例えば第1遊星歯車装置74及び第2遊星歯車装置76の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路78から出力される調圧された係合装置CBの各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2(後述する図6参照)により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速機60は、第1遊星歯車装置74及び第2遊星歯車装置76の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材70、ケース56、或いは出力軸62に連結されている。第1遊星歯車装置74の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置76の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速機60は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速機60は、複数の係合装置が選択的に係合されることによって、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速機60は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速機60にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。入力回転速度Niは、有段変速機60の入力回転部材の回転速度である有段変速機60の入力回転速度であって、中間伝達部材70の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速機60の出力回転速度である出力軸62の回転速度であって、無段変速機58と有段変速機60とを合わせた全体の変速機である複合変速機80の出力回転速度でもある。複合変速機80は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速機60は、例えば図3の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後述するように、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図3の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図3の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速機60のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速機60は、後述する電子制御装置100によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速機60の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
車両10は、更に、ワンウェイクラッチF0、機械式のオイルポンプであるMOP82、電動式のオイルポンプであるEOP84等を備えている。
ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸68を、ケース56に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸68に一体的に連結され、他方の部材がケース56に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース56に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース56に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース56に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し、且つ、キャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し、且つ、負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
MOP82は、連結軸68に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油oilを吐出する。MOP82は、例えばエンジン12により回転させられて作動油oilを吐出する。EOP84は、車両10に備えられたオイルポンプ専用のモータ86により回転させられて作動油oilを吐出する。MOP82やEOP84が吐出した作動油oilは、油圧制御回路78へ供給される(後述する図6参照)。係合装置CBは、作動油oilを元にして油圧制御回路78により調圧された各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2によって作動状態が切り替えられる。
図4は、無段変速機58と有段変速機60とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図4において、無段変速機58を構成する差動機構72の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速機60の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速機60の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸62の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構72の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置74,76の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
図4の共線図を用いて表現すれば、無段変速機58の差動機構72において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材70と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材70を介して有段変速機60へ伝達するように構成されている。無段変速機58では、縦線Y2を横切る各直線L0e,L0m,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速機60において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材70に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸62に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材70に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース56に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース56に選択的に連結される。有段変速機60では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸62における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図4中の実線で示す、直線L0e及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン12を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行(=HV走行)モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構72において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機60を介して駆動輪14へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図4中の一点鎖線で示す直線L0m及び図4中の実線で示す直線L1,L2,L3,L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行(=EV走行)モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。モータ走行モードでの前進走行におけるモータ走行としては、例えば第2回転機MG2のみを動力源として走行する単駆動モータ走行と、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に動力源として走行する両駆動モータ走行とがある。単駆動モータ走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。単駆動モータ走行では、ワンウェイクラッチF0が解放されており、連結軸68はケース56に対して固定されていない。
両駆動モータ走行では、キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されると、キャリアCA0の負回転方向への回転が阻止されるようにワンウェイクラッチF0が自動係合される。ワンウェイクラッチF0の係合によってキャリアCA0が回転不能に固定された状態においては、MG1トルクTgによる反力トルクがリングギヤR0へ入力される。加えて、両駆動モータ走行では、単駆動モータ走行と同様に、リングギヤR0にはMG2トルクTmが入力される。キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されたときに、MG2トルクTmが入力されなければ、MG1トルクTgによる単駆動モータ走行も可能である。モータ走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG1トルクTg及びMG2トルクTmのうちの少なくとも一方のトルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機60を介して駆動輪14へ伝達される。モータ走行モードでの前進走行では、MG1トルクTgは負回転且つ負トルクの力行トルクであり、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
図4中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速機60を介して駆動輪14へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置100によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。モータ走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
動力伝達装置16では、エンジン12が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材70が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構72を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構72の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速機58が構成される。中間伝達部材70が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、動力伝達装置16では、エンジン12が動力伝達可能に連結された差動機構72と差動機構72に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構72の差動状態が制御される無段変速機58が構成される。無段変速機58は、入力回転部材となる連結軸68の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材70の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速機60にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪14の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン12を効率の良いエンジン動作点Pengにて作動させることが可能である。動作点は、回転速度とトルクとで表される運転点であり、エンジン動作点Pengは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成された有段変速機60と無段変速機として作動させられる無段変速機58とで、無段変速機58と有段変速機60とが直列に配置された複合変速機80全体として無段変速機を構成することができる。
又は、無段変速機58を有段変速機のように変速させることも可能であるので、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成される有段変速機60と有段変速機のように変速させる無段変速機58とで、複合変速機80全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機80において、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表すトータル変速比γt(=Ne/No)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速機60と無段変速機58とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機80にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。トータル変速比γtは、直列に配置された、無段変速機58と有段変速機60とで形成される全体の変速比であって、無段変速機58の変速比γ0と有段変速機60の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速機60の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速機58の変速比γ0との組合せによって、有段変速機60の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図5は、ギヤ段割当テーブルの一例である。図5において、複合変速機80のアップシフトでは、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。又、複合変速機80のダウンシフトでは、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬2速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬3速ギヤ段-模擬5速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬6速ギヤ段-模擬8速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬9速ギヤ段-模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機80では、出力回転速度Noに対して所定のトータル変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速機58が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機80では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速機58が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。尚、図5では、アップシフトとダウンシフトとで、ATギヤ段に対して割り当てられる模擬ギヤ段が異なる場合がある一例を示したが、同じであっても良い。
図1に戻り、車両10は、エンジン12、無段変速機58、及び有段変速機60などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。よって、図1は、電子制御装置100の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。尚、電子制御装置100が、本発明の制御装置に対応している。
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエアフローメータ34、過給圧センサ40、吸気温センサ42、スロットル弁開度センサ44、エンジン回転速度センサ88、出力回転速度センサ90、MG1回転速度センサ92、MG2回転速度センサ94、アクセル開度センサ96、バッテリセンサ98、油温センサ99など)による検出値に基づく各種信号等(例えば吸入空気量Qair、過給圧Pchg、吸気温度THair、スロットル弁開度θth、エンジン回転速度Ne及びエンジン12のクランク軸の回転位置を示すクランク角度Acr、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油oilの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路78、モータ86など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、EOP84の作動を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、有段変速機60の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を調圧する各ソレノイドバルブSL1-SL4等(後述する図6参照)を駆動する為の指令信号である。電子制御装置100は、各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路78へ出力する。
電子制御装置100は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態(充電量)を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置100は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
図6は、油圧制御回路78を説明する図であり、又、油圧制御回路78へ作動油oilを供給する油圧源を説明する図である。図6において、MOP82とEOP84とは、作動油oilが流通する油路の構成上、並列に設けられている。MOP82及びEOP84は、各々、係合装置CBの各々の作動状態を切り替えたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の油圧の元となる作動油oilを吐出する。MOP82及びEOP84は、各々、ケース56の下部に設けられたオイルパン120に還流した作動油oilを、共通の吸い込み口であるストレーナ122を介して吸い上げて、各々の吐出油路124,126へ吐出する。吐出油路124,126は、各々、油圧制御回路78が備える油路、例えばライン圧PLが流通する油路であるライン圧油路128に連結されている。MOP82から作動油oilが吐出される吐出油路124は、油圧制御回路78に備えられたMOP用チェックバルブ130を介してライン圧油路128に連結されている。EOP84から作動油oilが吐出される吐出油路126は、油圧制御回路78に備えられたEOP用チェックバルブ132を介してライン圧油路128に連結されている。MOP82は、エンジン12と共に回転し、エンジン12により回転駆動されることで作動油圧を発生する。EOP84は、エンジン12の回転状態に拘わらず、モータ86により回転駆動されることで作動油圧を発生する。EOP84は、例えばモータ走行モードでの走行時に作動させられる。
油圧制御回路78は、前述したライン圧油路128、MOP用チェックバルブ130、及びEOP用チェックバルブ132の他に、レギュレータバルブ134、各ソレノイドバルブSLT,SL1-SL4などを備えている。
レギュレータバルブ134は、MOP82及びEOP84の少なくとも一方が吐出する作動油oilを元にしてライン圧PLを調圧する。ソレノイドバルブSLTは、例えばリニアソレノイドバルブであり、アクセル開度θacc或いは有段変速機60への入力トルク等に応じたパイロット圧Psltをレギュレータバルブ134へ出力するように電子制御装置100により制御される。レギュレータバルブ134においては、スプール136がパイロット圧Psltによって付勢され、排出用流路138の開口面積の変化を伴ってスプール136が軸方向に移動させられることにより、パイロット圧Psltに応じてライン圧PLが調圧される。これにより、ライン圧PLは、アクセル開度θacc或いは有段変速機60の入力トルク等に応じた油圧とされる。ソレノイドバルブSLTに入力される元圧は、例えばライン圧PLを元圧として不図示のモジュレータバルブによって一定値に調圧されたモジュレータ圧PMである。
ソレノイドバルブSL1-SL4は、何れも例えばリニアソレノイドバルブであり、ライン圧油路128を介して供給されるライン圧PLを元圧として、係合装置CBの各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を出力するように電子制御装置100により制御される。ソレノイドバルブSL1は、クラッチC1の油圧アクチュエータへ供給するC1油圧Pc1を調圧する。ソレノイドバルブSL2は、クラッチC2の油圧アクチュエータへ供給するC2油圧Pc2を調圧する。ソレノイドバルブSL3は、ブレーキB1の油圧アクチュエータへ供給するB1油圧Pb1を調圧する。ソレノイドバルブSL4は、ブレーキB2の油圧アクチュエータへ供給するB2油圧Pb2を調圧する。
図1に戻り、電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、変速制御手段すなわち変速制御部102、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部104を備えている。
変速制御部102は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えばATギヤ段変速マップを用いて有段変速機60の変速判断を行い、必要に応じて有段変速機60の変速制御を実行する。変速制御部102は、この有段変速機60の変速制御では、有段変速機60のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1-SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路78へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力回転速度No及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、有段変速機60の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、出力回転速度Noに替えて車速Vなどを用いても良いし、又、アクセル開度θaccに替えて要求駆動トルクTwdemやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップシフト線、及びダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。この各変速線は、あるアクセル開度θaccを示す線上において出力回転速度Noが線を横切ったか否か、又は、ある出力回転速度Noを示す線上においてアクセル開度θaccが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値である変速点を横切ったか否かを判断する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。
ハイブリッド制御部104は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部104は、予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで車両10に対して要求される駆動トルクTwである要求駆動トルクTwdemを算出する。この要求駆動トルクTwdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPwdemである。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。ハイブリッド制御部104は、バッテリ54に対して要求される充放電パワーである要求充放電パワー等を考慮して、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2のうちの少なくとも1つの動力源によって要求駆動パワーPwdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部104は、例えば無段変速機58を作動させて複合変速機80全体として無段変速機として作動させる場合、要求駆動パワーPwdemに要求充放電パワーやバッテリ54における充放電効率等を加味した要求エンジンパワーPedemを実現する、最適エンジン動作点OPengf等を考慮した目標エンジン回転速度Netgtにおける目標エンジントルクTetgtを出力するエンジンパワーPeとなるように、エンジン12を制御する。加えて、ハイブリッド制御部104は、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度Netgtとする為のMG1トルクTgを出力するように第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速機58の無段変速制御を実行して無段変速機58の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機80のトータル変速比γtが制御される。複合変速機80全体として無段変速機として作動させるときのMG1トルクTgは、例えばエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1を作動させるフィードバック制御において算出される。複合変速機80全体として無段変速機として作動させるときのMG2トルクTmは、例えばエンジン直達トルクTdによる駆動トルクTw分と合わせて要求駆動トルクTwdemが得られるように算出される。
最適エンジン動作点OPengfは、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点OPengとして予め定められている。目標エンジン回転速度Netgtは、エンジン回転速度Neの目標値であり、目標エンジントルクTetgtは、エンジントルクTeの目標値である。
図7は、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeを変数とする二次元座標上に、最適エンジン動作点OPengfの一例を示す図である。図7において、実線Lengは、最適エンジン動作点OPengfの集まりを示している。等パワー線Lpw1,Lpw2,Lpw3は、各々、要求エンジンパワーPedemが要求エンジンパワーPe1,Pe2,Pe3であるときの一例を示している。点Aは、要求エンジンパワーPe1を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengAであり、点Bは、要求エンジンパワーPe3を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengBである。点A,Bは、各々、目標エンジン回転速度Netgtと目標エンジントルクTetgtとで表されるエンジン動作点OPengの目標値すなわち目標エンジン動作点OPengtgtでもある。アクセル開度θaccの増大により、例えば目標エンジン動作点OPengtgtが点Aから点Bへ変化させられた場合、最適エンジン動作点OPengf上を通る経路aでエンジン動作点OPengが変化させられるように制御される。
ハイブリッド制御部104は、例えば無段変速機58を有段変速機のように変速させて複合変速機80全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機80の変速判断を行い、変速制御部102による有段変速機60のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速機58の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれのトータル変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段のトータル変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。複数の模擬ギヤ段は、出力回転速度Noに応じてエンジン回転速度Neを制御するだけで良く、有段変速機60のATギヤ段の種類とは関係無く所定の模擬ギヤ段を成立させることができる。このように、ハイブリッド制御部104は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度No及びアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図8は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速機58と有段変速機60とが直列に配置された複合変速機80全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。複合変速機80全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTwdemが比較的大きい場合に、複合変速機80全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部104による模擬有段変速制御と、変速制御部102による有段変速機60の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段-模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行われるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図8における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図8中に記載した「AT1→2」等参照)。又、図8における模擬ギヤ段の「2←3」、「5←6」、「8←9」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図8中に記載した「AT1←2」等参照)。又は、図8の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令を変速制御部102に対して出力するようにしても良い。このように、有段変速機60のアップシフト時は、複合変速機80全体のアップシフトが行われる一方で、有段変速機60のダウンシフト時は、複合変速機80全体のダウンシフトが行われる。変速制御部102は、有段変速機60のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行われる為、エンジン回転速度Neの変化を伴って有段変速機60の変速が行われるようになり、その有段変速機60の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部104は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させて、各走行モードにて車両10を走行させる。例えば、ハイブリッド制御部104は、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。ハイブリッド制御部104は、要求駆動パワーPwdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、ハイブリッド走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
図9は、モータ走行とハイブリッド走行との切替制御に用いる動力源切替マップの一例を示す図である。図9において、実線Lswpは、モータ走行とハイブリッド走行とを切り替える為のモータ走行領域とハイブリッド走行領域との境界線である。車速Vが比較的低く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的小さい、要求駆動パワーPwdemが比較的小さな領域がモータ走行領域に予め定められている。車速Vが比較的高い又は要求駆動トルクTwdemが比較的大きい、要求駆動パワーPwdemが比較的大きな領域がハイブリッド走行領域に予め定められている。バッテリ54の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満となるとき又はエンジン12の暖機が必要なときには、図9におけるモータ走行領域がハイブリッド走行領域に変更されても良い。
ハイブリッド制御部104は、モータ走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できる場合には、第2回転機MG2による単駆動モータ走行にて車両10を走行させる。一方で、ハイブリッド制御部104は、モータ走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPwdemを実現できない場合には、両駆動モータ走行にて車両10を走行させる。ハイブリッド制御部104は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動モータ走行にて車両10を走行させても良い。
ところで、有段変速機60の変速時において、変速を速やかに完了させたり変速ショックを低減したりするために、有段変速機60に入力される入力トルクTinを一時的に低減するトルクダウン制御が知られている。電子制御装置100は、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2を発電させて有段変速機60に入力される入力トルクTinを低減するトルクダウン制御を実行する変速時入力トルク低減手段すなわち変速時入力トルク低減部106を機能的に備えている。変速時入力トルク低減部106は、例えば有段変速機60のアップ変速時において、有段変速機60のイナーシャ相が開始されると、第2回転機MG2を発電させることで、有段変速機60の入力トルクTinをギヤ段や車速V等に基づいて設定される変速時要求トルク低減量ΔTだけ低減する。
ここで、バッテリ54の充電状態値SOCが高い状態になると、充電可能電力Winが制限されることで、第2回転機MG2の発電によって有段変速機60の入力トルクTinを十分に低減することが困難になる。このような場合には、有段変速機60の変速時において、エンジン12の点火時期を遅角することによって入力トルクTinの低減を実行することが考えられる。しかしながら、過給機18を有するエンジン12にあっては、点火時期が遅角されると過給圧Pchgが上昇することが知られている。このため、第2回転機MG2を発電させることにより有段変速機60の入力トルクTinを十分に低減することができないとき、エンジン12の点火時期を遅角することにより入力トルクTinを低減すると、過給圧Pchgの上昇に起因して変速ショックを招く虞があった。
上記問題を解消するため、電子制御装置100は、有段変速機60の変速の発生を予測する予測手段すなわち予測部108と、有段変速機60の変速の発生が予測されたときに、バッテリ54の放電制御を行う放電制御手段すなわち放電制御部110と、を機能的に備えている。
予測部108は、図8に示す模擬ギヤ段変速マップにおいて、車両の状態が所定時間ta経過後に有段変速機60の実変速を伴う変速線に到達すると予測されると、有段変速機60の変速が発生するものと予測する。例えば、車両の状態が図8の点Cにあるとき、出力回転速度Noの変化に基づくと、所定時間ta経過した時点において模擬ギヤ段の「6→7」のアップシフト線すなわち「AT2→3」のアップシフト線上の点Dに到達するものと予測された場合、有段変速機60の変速が発生するものと予測される。尚、所定時間taは、予め実験的又は設計的に求められ、有段変速機60の変速が開始されるまでの間に、放電制御によってバッテリ54の充電状態値SOCを予め低減できる値に設定されている。
予測部108が有段変速機60の変速の発生を予測すると、放電制御部110は、バッテリ54の充電状態値SOCが予め設定されている所定値SOC1よりも高いかを判定する。充電状態値SOCの所定値SOC1は、予め実験的又は設計的に求められ、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTを、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって得ることができる範囲に設定される。すなわち、充電状態値SOCの所定値SOC1は、予測された変速が実行されるとき、第2回転機MG2によるトルクダウン制御を実行可能な範囲に設定され、ここでは、上限値に設定されている。
ここで、変速時要求トルク低減量ΔTは、予測される変速の種類毎に異なる。具体的には、変速時要求トルク低減量ΔTは、変速されるギヤ段や車速V等によって変化する。これに関連して、所定値SOC1についても、変速ギヤ段や車速V等に応じて変更される。例えば、変速ギヤ段がローギヤ(低速側ギヤ段)になるほど変速時要求トルク低減量ΔTは小さくなり、所定値SOC1が高くなる。また、車速Vが低速になるほど変速時要求トルク低減量ΔTは小さくなり、所定値SOC1が高くなる。放電制御部110は、予め求められて記憶されている、変速されるギヤ段の数や車速V等からなる所定値SOC1を求めるための関係マップを記憶しており、その関係マップに変速されるギヤ段の数や車速V等を適用することで、変速の発生が予測される毎に所定値SOC1を決定する。
放電制御部110は、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1以下と判定した場合には、放電制御の実行を不要と判断する。この場合には、放電制御によってバッテリ54の充電状態値SOCを予め低下させなくても、第2回転機MG2の発電によって、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTを確保できるためである。
一方、放電制御部110は、有段変速機60の発生が予測され、且つ、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高い場合には、トルクダウン制御において第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTが得られないため、バッテリ54の充電状態値SOCを低下させる放電制御を行う。このとき、放電制御部110は、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすかを予め判定する。
放電制御部110は、先ず、変速時要求トルク低減量ΔT及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、放電制御によって低減すべき充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを算出する。図10は、変速時要求トルク低減量ΔTと充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemとの関係を示している。図10に示すように、変速時要求トルク低減量ΔTが大きくなるほど、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemが高くなっている。変速時要求トルク低減量ΔTが大きくなるほど、トルクダウン制御時において第2回転機MG2の発電によって発生する電力量が増加し、その電力量を蓄電できるバッテリ54の容量を確保する必要があるためである。又、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemは、そのときの充電状態値SOCによっても変更される。要求低減量ΔSOCdemは、充電状態値SOCが所定値SOC1近傍の値であれば小さくなり、充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高くなるほど要求低減量ΔSOCdemも大きくなる。
放電制御部110は、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを算出すると、放電制御によって放電可能な電力及び放電制御を実行可能な時間tbに基づいて、放電制御によって低減可能な充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposを算出する。放電制御にあっては、走行中に第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmを増加させることで消費電力を増加させる。従って、走行中に出力可能な第2回転機MG2のMG2トルクTmまで増加したときの消費電力等に基づいて走行中に放電可能な電力が算出される。さらに、放電可能な電力に、放電制御を実行可能な時間tbが乗算されることで、充電状態値SOCの低減可能な可能低減量ΔSOCposが算出される。この可能低減量ΔSOCposが充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemよりも大きい場合には、有段変速機60の変速の発生が予測されたときに、放電制御によって低減できるバッテリ54の可能低減量ΔSOCposが、充電状態値SOCの要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすと判定される。一方、可能低減量ΔSOCposが充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemよりも小さい場合には、放電制御によって低減できるバッテリ54の可能低減量ΔSOCposが、充電状態値SOCの要求される要求低減量ΔSOCdemを満たさないと判定される。
放電制御部110は、放電制御によって低減できる充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが、充電状態値SOCの要求される要求低減量ΔSOCdemを満たす場合には、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTに基づき、バッテリ54の充電状態値SOCを、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを得ることのできる上限値以下に低減するよう放電制御を行う。具体的には、放電制御部110は、放電制御において、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemが得られるように第2回転機MG2のMG2トルクTmを増大するとともに、第2回転機MG2のMG2トルクTmの増大による入力トルクTinの増大を抑制するように、エンジン12のスロットル弁開度θthの制御を通じてエンジン12のエンジントルクTeを低減する。上記のように放電制御が実行されることで、変速が開始される時点において、バッテリ54の充電状態値SOCが、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを得ることのできる上限値以下まで低減されるため、変速時には第2回転機MG2によるトルクダウン制御が実行可能となる。従って、変速過渡期に発生する変速ショックが抑制される。又、放電制御によって第2回転機MG2のMG2トルクTmが増大しても、その増大分が、エンジン12のスロットル弁開度θthの制御によるエンジントルクTeの低減によって相殺されることで、放電制御による車両10の駆動トルクTwの変化も抑制される。
又、電子制御装置100は、放電制御部110が、放電制御によって低減できるバッテリ54の可能低減量ΔSOCposが要求される要求低減量ΔSOCdemを満たさないと判定した場合には、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減の一方を行い、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTを低減する変速時要求トルク低減量低減手段すなわち変速時要求トルク低減量低減部112を機能的に備えている。
変速時要求トルク低減量低減部112(以下、要求トルク低減量低減部112)は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更及び過給機18による過給圧Pchgの低減を選択的に行い、有段変速機60の変速点の低車速側への変更ができないとき、過給機18による過給圧Pchgの低減を行う。要求トルク低減量低減部112は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更が可能であるかを判定する。要求トルク低減量低減部112は、例えばアクセル開度θacc及び出力回転速度Noから構成される、変速点を低車速側へ変更可能か否かを判定する変更可能領域マップを記憶しており、この変更可能領域マップに実際のアクセル開度θacc及び出力回転速度Noを適用することで、変速点の低車速側への変更が可能であるかを判定する。変速可能領域マップは、予め実験的又は設計的に求められて記憶されており、変速点が低車速側へ変更されることで車両10の走行性能に著しい低下が生じる走行領域では、変速点の低車速側への変更が不可能となるように設定されている。
要求トルク低減量低減部112は、変速点の低車速側への変更を可能と判定すると、有段変速機60の変速点を予め設定されている移動量Qtraだけ低車速側に変更する。有段変速機60の変速点が低車速側に変更されることで、変速過渡期における回転変化が減少し、有段変速機60の変速過渡期の変速時要求トルク低減量ΔTが減少する。これより、変速中における仕事量が減るため、変速中におけるトルクダウン制御の必要性が低下する。又、変速時要求トルク低減量ΔTが減少することで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを確保できる場合には、変速時においてトルクダウン制御を実行することで変速ショックを抑制することができる。尚、変速点の移動量Qtraは、予め実験的又は設計的に求められ、例えば、変速中にトルクダウン制御が実行されない場合であっても、それによって発生する変速ショックが許容範囲となる値、又は、変速時要求トルク低減量ΔTの低減に伴って第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御が実行可能になる値に設定されている。
一方、要求トルク低減量低減部112は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更ができないとき、過給機18による過給圧Pchgの低減を行う。要求トルク低減量低減部112は、ウェイストゲートバルブ30を制御することで、過給圧Pchgを低減する。過給機18による過給圧Pchgが低減されることで、エンジン12のエンジントルクTeが減少し、変速時要求トルク低減量ΔTも減少する。これより、変速中におけるトルクダウン制御の必要性が低下する。又、過給圧Pchgの低下に伴って変速時要求トルク低減量ΔTが減少することで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを確保できる場合には、変速時においてトルクダウン制御を実行することで変速ショックを抑制することができる。尚、過給機18による過給圧Pchgの低減量ΔPchgは、予め実験的又は設計的に求められ、例えば、変速中にトルクダウン制御が実行されない場合であっても、それによって発生する変速ショックが許容範囲となる値、又は、変速時要求トルク低減量ΔTの低減に伴って第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御が実行可能になる値に設定されている。
図11は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明する為のフローチャートであり、有段変速機60の変速時に発生する変速ショックを抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、車両10の走行中において繰り返し実行される。
先ず、予測部108の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略する)では、有段変速機60の変速の発生が予測されるかが判定される。ST1が否定される場合、リターンされる。ST1が肯定される場合、放電制御部110の制御機能に対応するST2において、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1以下であるかに基づいて、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御を実行可能であるかが判定される。ST2が肯定される場合、リターンされる。ST2が否定される場合、放電制御部110の制御機能に対応するST3において、放電制御によって充電状態値SOCを要求低減量ΔSOCdemまで低減できるかが判定される。
ST3が肯定される場合、放電制御部110の制御機能に対応するST4において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが増大されることによる放電制御が実行されるとともに、エンジン12のスロットル弁開度θthが制御されることによるエンジン12のトルクダウン制御が実行される。これより、充電状態値SOCが要求低減量ΔSOCdemまで低減される。従って、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御を実行可能になる。又、エンジン12のトルクダウン制御が実行されることで、第2回転機MG2のMG2トルクTmの増大を相殺するように、エンジン12のエンジントルクTeが低減され、放電制御による車両10の駆動トルクTwの変動が抑制される。
ST3に戻り、ST3が否定される場合、要求トルク低減量低減部112の制御機能に対応するST5において、有段変速機60の変速点を低車速側に変更可能であるかが判定される。ST5が肯定される場合、要求トルク低減量低減部112の制御機能に対応するST6において、有段変速機60の変速点が低車速側に変更される。これより、変速時要求トルク低減量ΔTが低減され、有段変速機60の変速においてトルクダウン制御の必要性が低下する。又、変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを確保できるようになる。よって、有段変速機60の変速時に発生する変速ショックが抑制される。
ST5に戻り、ST5が否定される場合、要求トルク低減量低減部112の制御機能に対応するST7において、過給機18による過給圧Pchgが低減される。これより、エンジン12のエンジントルクTeが低減し、変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることから、有段変速機60の変速においてトルクダウン制御の必要性が低下する。又、変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを確保できるようになる。
図12は、走行中に有段変速機60の変速が予測されたときの作動結果の一態様を説明するためのタイムチャートである。図12のタイムチャートでは、AT2速ギヤ段からAT3速ギヤ段へのアップ変速であって、アップ変速が予測された時点で充電状態値SOCが所定値SOC1を越えている場合が一例として示されている。
図12に示すt1時点において、有段変速機60のアップ変速が予測されると、充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高いことから、放電制御の実行が必要であるものと判断される。さらに、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たすか否かが判定される。図12では、t1時点において、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たしているものとする。
t2時点において、放電制御が開始される。図12に示すように、t2時点~t3時点の間では、第2回転機MG2のMG2トルクTmが目標値に向かって漸増している。又、第2回転機MG2のMG2トルクTmの増加を相殺するようにエンジントルクTeが漸減している。さらに、エンジン12のエンジン回転速度Ne及び第1回転機MG1のMG1回転速度Ngが変化しないように、第1回転機MG1のMG1トルクTg(回生トルク)がゼロに向かって漸増されている。上述した放電制御が実行されることで、バッテリ54から放電量が増加し、充電状態値SOCが漸減している。
t3時点において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが目標値に到達すると、t3時点~t4時点において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが増大した状態で維持されている。又、エンジン12のエンジントルクTe及び第1回転機MG1のMG1トルクTgについても同様に、一定値で維持されている。この状態においても第2回転機MG2のMG2トルクTmが増大された状態にあるため、充電状態値SOCの低下が継続している。t4時点において変速の実行が近づくと、t4時点~t5時点において、放電制御を終了するため、第2回転機MG2のMG2トルクTm、エンジン12のエンジントルクTe、及び第1回転機MG1のMG1トルクTgが放電制御前の状態に復帰するように制御されている。そして、t5時点において、放電制御が完了し、バッテリ54の充電状態値SOCが、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを低減可能な値にまで低減される。
t6時点において、有段変速機60のアップ変速の実行が判断されると、解放側係合装置であるブレーキB1の油圧Pb1が予め設定されている勾配で漸減されている。又、t6時点から所定時間経過すると、係合側係合装置であるクラッチC2の油圧Pc2が予め設定されている勾配で漸増されている。そして、t7時点において、有段変速機60のイナーシャ相が開始されると、第2回転機MG2のMG2トルクTmの発電により入力トルクTinが低減されることによるトルクダウン制御が開始される。このとき、第2回転機MG2において発電され、発電された電力がバッテリ54に蓄電されることで、充電状態値SOCが増加している。ここで、充電状態値SOCが、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを確保できる値まで予め低減されているため、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御によって、変速時要求トルク低減量ΔTを確保することができる。よって、トルクダウン制御中に発生する変速ショックが抑制される。
上述のように、本実施例によれば、有段変速機60の変速の発生が予測されると、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高いときには、バッテリ54の放電制御が行われるため、変速開始時点においてバッテリ54の充電状態値SOCが予め低下させられる。従って、変速開始時点でバッテリ54の充電状態値SOCが高く、変速時においてバッテリ54の充電が制限されることで、第2回転機MG2を発電させることにより入力トルクTinを十分に低減することができなくなるのを抑制することができる。
又、本実施例によれば、第2回転機MG2のMG2トルクTmを増大することで第2回転機MG2で消費される電力が増加するため、バッテリ54からの放電量が増加し、バッテリ54の充電状態値SOCを低下させることができる。また、第2回転機MG2のMG2トルクTmの増大による入力トルクTinの増大を抑制するようにエンジン12のエンジントルクTeが低減されるため、駆動輪14に伝達される駆動トルクの変動を抑制することができる。又、バッテリ54の充電状態値SOCが、第2回転機MG2の発電によって変速時要求トルク低減量ΔTを得ることができる上限値以下になるように放電制御が行われるため、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって確実に変速時要求トルク低減量ΔTが得られるようにすることができる。又、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求される要求低減量ΔSOCdemに満たない場合には、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減の一方を行うことで、変速時における変速時要求トルク低減量ΔTを低減することができる。従って、放電制御によってバッテリ54の充電状態値SOCを要求低減量ΔSOCdemまで低減できない場合の変速ショックを低減することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、有段変速機60の変速中に実施されるトルクダウン制御として、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減が実行されるものであった。本実施例では、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減に加えて、エンジン12の点火時期を遅角させて入力トルクTinを低減する制御も併せて実行される。以下、本実施例に対応する制御態様について説明する。尚、前述の実施例1と変わらない点については、その説明を省略する。
図13は、本実施例に対応する電子制御装置200の制御機能を説明する為の機能ブロック線図である。電子制御装置200は、変速制御部102、ハイブリッド制御部104、予測部108、変速時入力トルク低減部206、放電制御部208、及び変速時要求トルク低減量低減部210を、機能的に備えている。尚、変速制御部102、ハイブリッド制御部104、及び予測部108については、前述した実施例1と機能が同じであるためその説明を省略する。
変速時入力トルク低減部206は、例えば有段変速機60のアップ変速時において、有段変速機60のイナーシャ相が開始されると、第2回転機MG2の発電による有段変速機60の入力トルクTinの低減に加え、エンジン12の点火時期を遅角させて有段変速機60の入力トルクTinを低減する。すなわち、本実施例では、トルクダウン制御として、第2回転機MG2の発電及び点火時期の遅角の両方が実行される。トルクダウン制御中に実行される点火時期の遅角は、過給機18による過給圧Pchgの上昇が問題にならない範囲で実行される。このように、エンジン12の点火時期の遅角によっても有段変速機60の入力トルクTinが低減されることで、トルクダウン制御時において確実に入力トルクTinを変速時要求トルク低減量ΔTだけ低減させることができる。
放電制御部208は、バッテリ54の充電状態値SOCが予め設定されている所定値SOC2よりも高いかを判定する。所定値SOC2は、予め実験的又は設計的に求められ、予測された変速での変速時において第2回転機MG2に要求される入力トルクTinの回転機要求トルク低減量ΔT1に基づき、バッテリ54の充電状態値SOCを、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって回転機要求トルク低減量ΔT1を得ることのできる範囲の上限値に設定されている。
本実施例では、トルクダウン制御が点火時期の遅角によっても行われることから、トルクダウン制御において、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減と点火時期の遅角による入力トルクTinの低減とによって、変速時要求トルク低減量ΔTを確保すれば足りる。すなわち、トルクダウン制御において、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1と点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2との和が、変速時要求トルク低減量ΔT(=ΔT1+ΔT2)となればよい。従って、点火時期の遅角によって低減できる遅角要求トルク低減量ΔT2が増加するほど、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1が小さくなる。
ここで、点火時期の遅角によって低減可能な遅角要求トルク低減量ΔT2は、後述するように過給圧Pchg等に基づいて決定され、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1は、変速時要求トルク低減量ΔTと遅角要求トルク低減量ΔT2との差(=ΔT-ΔT2)で算出される。算出された回転機要求トルク低減量ΔT1に基づいて、所定値SOC2が決定される。又、遅角要求トルク低減量ΔT2が大きくなるほど、回転機要求トルク低減量ΔT1が小さくなることで、所定値SOC2が大きな値となる。このように、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1に基づいて所定値SOC2が決定されるため、所定値SOC2が、前述の実施例1の所定値SOC1に比べて高い値となる。
放電制御部208は、充電状態値SOCが所定値SOC2よりも大きい場合、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減とエンジン12の点火時期の遅角による入力トルクTinの低減とによって、予測された変速での変速時に要求される変速時要求トルク低減量ΔTが得られないと判断し、放電制御を行う。
放電制御を行うに当たって、放電制御部208は、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすかを判定する。
放電制御部208は、先ず、変速時要求トルク低減量ΔT、点火時期の遅角によって低減可能な遅角要求トルク低減量ΔT2、及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54の充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを算出する。前述の実施例1の図10に示したように、変速時要求トルク低減量ΔTが大きくなるほど、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemが増加する。図14は、点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2と充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemとの関係を示している。図14に示されるように、点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2が大きくなるほど、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemが減少する。これは、点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2が増加すると、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1が減少するためである。このように、点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2の分だけ、回転機要求トルク低減量ΔT1が小さくなるため、要求低減量ΔSOCdemについても、遅角要求トルク低減量ΔT2の分だけ小さくなる。
ここで、点火時期の遅角によって低減可能な遅角要求トルク低減量ΔT2は、過給圧Pchg及びアクセル開度θacc等で構成される遅角要求トルク低減量ΔT2を求めるための不図示の関係マップに、実際の過給圧Pchg及びアクセル開度θacc等を適用することで求められる。前記関係マップは、予め実験的又は設計的に求められており、例えば、過給圧Pchgが高くなるほど、遅角要求トルク低減量ΔT2が減少するように設定されている。
放電制御部208は、図10及び図14に示す関係に基づき、さらにバッテリ54の充電状態値SOCを考慮して充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを決定する。次いで、放電制御部208は、放電制御によって放電可能な電力及び放電制御を実行可能な時間tbに基づいて、放電制御によって低減可能な充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposを算出する。可能低減量ΔSOCposの算出については、前述した実施例1と同じであるため、その説明を省略する。
放電制御部208は、算出された可能低減量ΔSOCposが充電状態値SOCの要求される要求低減量ΔSOCdemよりも大きい場合には、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが、バッテリ54の充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを満たすと判定する。一方、可能低減量ΔSOCposが充電状態値SOCの要求される要求低減量ΔSOCdemよりも小さい場合には、放電制御によって低減できるバッテリ54の可能低減量ΔSOCposが、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを満たさないと判定される。
放電制御部208は、放電制御によって低減できる充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たす場合には、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの回転機要求トルク低減量ΔT1に基づき、バッテリ54の充電状態値SOCを第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって回転機要求トルク低減量ΔT1を得ることのできる上限値以下に低減するように放電制御を行う。尚、放電制御の具体的な態様については、前述した実施例1と同じであるためその説明を省略する。
又、放電制御によって低減できるバッテリ54の可能低減量ΔSOCposが、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合には、変速時要求トルク低減量低減部210(以下、要求トルク低減量低減部210)は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18の過給圧Pchgの低減の一方を行い、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTを低減する。
要求トルク低減量低減部210は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減を選択的に行い、有段変速機60の変速点の低車速側への変更ができないときに過給機18による過給圧Pchgの低減を行う。要求トルク低減量低減部210は、前述した実施例1と同じようにして、有段変速機60の変速点の低車速側への変更が可能であるかを判定する。
要求トルク低減量低減部210は、変速点の低車速側への変更を可能と判定した場合には、有段変速機60の変速点を予め設定されている移動量Qtraだけ低車速側に変更する。これより、変速時の変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることから、変速中におけるトルクダウン制御の必要性が低下する。又、変速時要求トルク低減量ΔTが減少することで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって回転機要求トルク低減量ΔT1を確保できる場合には、トルクダウン制御として、変速時において第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減及び点火時期の遅角による入力トルクTinの低減を実行することで、変速ショックを抑制することができる。
又、要求トルク低減量低減部210は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更ができないとき、過給機18による過給圧Pchgの低減を行う。要求トルク低減量低減部210は、ウェイストゲートバルブ30を制御することで、過給圧Pchgを所定の低減量ΔPchgだけ低減する。過給圧Pchgが低減されることで、エンジントルクTeが減少し、これに関連して変速時要求トルク低減量ΔTも減少する。結果として、変速中におけるトルクダウン制御の必要性が低下する。又、変速時要求トルク低減量ΔTが減少することで、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減によって回転機要求トルク低減量ΔT1を確保できる場合には、トルクダウン制御として、変速時において第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減及び点火時期の遅角による入力トルクTinの低減を実行することで、変速ショックを抑制することができる。
上述のように、有段変速機60の変速時のトルクダウン制御として、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減、及びエンジン12の点火時期の遅角による入力トルクTinの低減、を実施するものであっても構わない。この場合には、図14に示したように点火時期の遅角による遅角要求トルク低減量ΔT2が大きくなるほど、第2回転機MG2に要求される回転機要求トルク低減量ΔT1が小さくため、前述の実施例1にくらべて充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemを小さくすることができる。従って、放電制御において、可能低減量ΔSOCposが要求される要求低減量ΔSOCdemを満たす場合が増え、放電制御によって充電状態値SOCをトルクダウン制御の実行できる値に低減することができる。結果として、有段変速機60の変速時はトルクダウン制御によって好適に変速ショックを抑制することができる。
上述のように、本実施例においても、前述した実施例1と同様の効果が得られる。又、エンジン12の点火時期の遅角は過給圧Pchgの上昇が問題にならない範囲で行うことができ、エンジン12の点火時期の遅角によっても入力トルクTinを低減することで、好適に入力トルクTinを低減することができる。又、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減とエンジン12の点火時期の遅角による入力トルクTinの低減とによっても、変速時要求トルク低減量ΔTが得られないときに放電制御が行われるため、不必要に充電制御が行われることを防止することができる。
前述の各実施例1、2では、放電制御によって低減できる充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求される要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合には、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、又は過給機18による過給圧Pchgの低減の何れかを行って変速時要求トルク低減量ΔTを低減するものの、放電制御は行われなかった。本実施例では、上記制御に並行して放電制御を行うものである。以下、前述の各実施例1、2と異なる点について説明する。
図15は、本実施例に対応する電子制御装置300の制御機能を説明する為の機能ブロック線図である。電子制御装置300は、変速制御部102、ハイブリッド制御部104、変速時入力トルク低減部106、予測部108、放電制御部302、及び変速時要求トルク低減量低減部304(以下、要求トルク低減量低減部304)を、機能的に備えている。尚、変速制御部102、ハイブリッド制御部104、変速時入力トルク低減部106、及び予測部108については、前述した実施例1と機能が同じであるためその説明を省略する。
放電制御部302は、放電制御が必要と判断されると、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすかを判定する。放電制御部302は、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たすと判断された場合には、前述した実施例1と同じようにして放電制御を実行する。
一方、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合には、要求トルク低減量低減部304は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減の一方を行い、予測された変速での変速時に要求される入力トルクTinの変速時要求トルク低減量ΔTを低減する。
要求トルク低減量低減部304は、有段変速機60の変速点の低車速側への変更が可能である場合、有段変速機60の変速点を予め設定されている移動量Qtraだけ低車速側に変更する。ここで、有段変速機60の変速点の低車速側への移動量Qtraが、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposに応じて変更される。図16は、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposと変速点の移動量Qtraとの関係を示している。図16に示すように、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが大きくなるほど、変速点の移動量Qtraが小さくなる。要求トルク低減量低減部304は、図16に基づいて変速点の移動量Qtraを決定し、その移動量Qtraだけ変速点の低車速側に変更する。具体的には、要求トルク低減量低減部304は、バッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合には、可能低減量ΔSOCposが小さいほど、言い換えれば、要求低減量ΔSOCdemに対する可能低減量ΔSOCposの不足量が大きいほど、変速点の低車速側への移動量Qtraを大きくする。
このとき、放電制御部302は、変速点の低車速側への変更と並行して、放電制御を実行する。ここで、変速点の変更によって変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることから、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemも減少する。これに関連して、放電制御によって充電状態値SOCが低減されることから、放電制御による充電状態値SOCの低減量ΔSOCが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすことができる。このとき、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御が可能になる。尚、図16の関係は、好適には、放電制御による充電状態値SOCの低減量ΔSOCが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすことができるような値に設定される。結果として、有段変速機60の変速時には、トルクダウン制御を実行することが可能になるため、変速ショックを抑制することができる。
又、要求トルク低減量低減部304は、過給機18による過給圧Pchgの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTを低減する場合、所定の低減量ΔPchgだけ過給圧を低減する。この過給圧Pchgの低減量ΔPchgは、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposに応じて変更される。図17は、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposと過給圧Pchgの低減量ΔPchgとの関係を示している。図17に示すように、充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが大きくなるほど、過給圧Pchgの低減量ΔPchgが小さくなる。要求トルク低減量低減部304は、図17に基づいて過給圧Pchgの低減量ΔPchgを決定し、その低減量ΔPchgだけ過給圧Pchgを低減する。具体的には、要求トルク低減量低減部304は、バッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合には、可能低減量ΔSOCposが小さいほど、言い換えれば、要求低減量ΔSOCdemに対する可能低減量ΔSOCposの不足量が大きいほど、過給機18による過給圧Pchgを大きく低減する。
このとき、放電制御部302は、過給圧Pchgの低減と並行して、放電制御を実行する。ここで、過給圧Pchgの低減によって変速時要求トルク低減量ΔTが低減されることから、充電状態値SOCの要求低減量ΔSOCdemも減少する。これに関連して、放電制御によって充電状態値SOCが低減されることから、放電制御による充電状態値SOCの低減量ΔSOCが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすことができる。このとき、有段変速機60の変速時において、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御が可能になる。尚、図17の関係は、好適には、放電制御による充電状態値SOCの低減量ΔSOCが、要求される要求低減量ΔSOCdemを満たすことができるような値に設定されている。結果として、有段変速機60の変速時には、トルクダウン制御を実行することが可能になるため、変速ショックを抑制することができる。
上述のように、要求トルク低減量低減部304の変速時要求トルク低減量ΔTの低減に並行して放電制御が実行されることで、有段変速機60の変速時においてトルクダウン制御を実行可能にすることができる。結果として、有段変速機60の変速時にトルクダウン制御を実行することで、変速ショックを抑制することができる。
上述のように、本実施例においても、前述した実施例1と同様の効果が得られる。又、要求低減量ΔSOCdemに対する可能低減量ΔSOCposの不足量が大きいほど、過給機18による過給圧Pchgが大きく低減されるため、好適に過給圧Pchgを低減して、変速時要求トルク低減量ΔTを好適な値(例えば、第2回転機MG2の発電によるトルクダウン制御が可能になる値)まで低減することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の各実施例1~3では、有段変速機60の変速が予測されたときに、放電制御によって低減できるバッテリ54の充電状態値SOCの可能低減量ΔSOCposが要求される要求低減量ΔSOCdemを満たさない場合、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減の一方を選択的に行うものであったが、これら変速点の変更及び過給圧Pchgの低減の両方を行うものであっても構わない。又、前述の各実施例1~3では、有段変速機60の変速点の低車速側への変更、及び過給機18による過給圧Pchgの低減が選択的に行われるものであったが、これらのうち一方が一律に行われるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、有段変速機60のアップ変速時のトルクダウン制御について説明されていたが、本発明は、有段変速機60のアップ変速に限定されない。すなわち、有段変速機60のダウン変速においても本発明が適用されても構わない。尚、有段変速機60のダウン変速にあっては、イナーシャ相の終期にトルクダウン制御が実行される。このイナーシャ相の終期においてトルクダウン制御を実行できるように、予め放電制御が実行される。
また、前述の実施例3において、トルクダウン制御として第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減が行われていたが、第2回転機MG2の発電による入力トルクTinの低減に加えて、エンジン12の点火時期の遅角によってトルクダウン制御が実行されるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、エンジン12は過給機18を有して構成されるものであったが、エンジンの構造は必ずしもこれに限定されない。例えば、図18に示すようなエンジン400であっても構わない。図18に示すエンジン400にあっては、前述したエンジン12に対して、排気タービン式の過給機18を構成するコンプレッサー18cの上流側に、電動過給機404がさらに追加されている。電動過給機404は、コンプレッサー18cよりも上流の吸気管20に設けられた電動コンプレッサー404cと電動コンプレッサー404cに連結された電動モータ404mとを有しており、電動による過給を行う。電動コンプレッサー404cは、電動モータ404mによって回転駆動させられることで、エンジン400への吸気を圧縮する。電動モータ404mは、例えば過給機18による過給の応答遅れを補うように、図示しない電子制御装置からの指令信号によって駆動させられる。又、吸気管20の電動コンプレッサー404cの上流側と下流側とを連通する吸気バイパス406が並列に設けられている。吸気バイパス406には、吸気バイパス406における通路を開閉するエアバイパスバルブ408が設けられている。エアバイパスバルブ408は、不図示の電子制御装置によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁の開閉が制御される。エアバイパスバルブ408は、例えば電動過給機404の非作動時には電動過給機404が通路抵抗となり難くなるように弁が開かれる。上述したような過給機18に加えて電動過給機404を有するエンジン400であっても、本発明を適用することができる。尚、具体的な制御態様については、前述した実施例と基本的には変わらないため、その説明を省略する。
又、前述の実施例では、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機として、有段変速機60を例示したが、必ずしもこの態様に限らない。自動変速機を構成する遊星歯車装置の回転要素の連結構成及び係合装置の配置は一例であって、有段変速可能な構成であれば適宜適用され得る。又、自動変速機としては、同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの有段変速機であっても構わない。
又、前述の実施例では、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構としてワンウェイクラッチF0を例示したが、この態様に限らない。このロック機構は、例えば連結軸68とケース56とを選択的に連結する、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置であってもよい。或いは、車両10は、必ずしもワンウェイクラッチF0を備える必要はない。
又、前述の実施例において、無段変速機58は、差動機構72の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る変速機構であってもよい。又、差動機構72は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。又、差動機構72は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であってもよい。又、差動機構72は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材70が各々連結された差動歯車装置であってもよい。又、差動機構72は、2以上の遊星歯車装置がそれらを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、それらの遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であってもよい。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。