以下、複数の実施形態による制御装置およびバルブタイミング調整システムを図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
第1実施形態の制御装置、および、これを適用したバルブタイミング調整システムを図1に示す。バルブタイミング調整システム1は、図示しない車両に搭載され、「調整装置」としてのバルブタイミング調整装置2と制御装置50とを備え、制御装置50によりバルブタイミング調整装置2を制御することで、「内燃機関」としてのエンジン5のバルブタイミングを調整可能である。本実施形態では、バルブタイミング調整システム1は、エンジン5の吸気バルブのバルブタイミングを調整可能である。
図1に示すように、バルブタイミング調整装置2は、油圧アクチュエータ30と「制御弁」としてのOCV10とを備えている。油圧アクチュエータ30は、エンジン5のクランク軸3に対するカム軸4の変位角すなわち位相を変化させる。油圧アクチュエータ30は、ハウジング31、ロータ32等を有している。ハウジング31は、クランク軸3に同期して回転する。ロータ32は、ハウジング31内に設けられ、カム軸4と同期して回転する。ロータ32は、ハウジング31の内部において、ハウジング31との間に、「油圧室」としての進角室33と遅角室34とを区画形成している。
油圧アクチュエータ30は、作動油が進角室33、遅角室34に供給され、ハウジング31に対するロータ32の回転角が変化することにより作動する。作動油が進角室33に供給されると、油圧アクチュエータ30は、クランク軸3に対するカム軸4の変位角すなわち位相を進角側に変化させるように作動する。一方、作動油が遅角室34に供給されると、油圧アクチュエータ30は、クランク軸3に対するカム軸4の変位角すなわち位相を遅角側に変化させるように作動する。このとき、作動油が供給されない側の「油圧室」からは、作動油が供給される側の「油圧室」の拡大に伴い、内部の作動油が押し出され、排出される。
油圧アクチュエータ30に供給される作動油は、エンジン5により駆動されるオイルポンプ41から圧送される。OCV10は、オイルポンプ41と油圧アクチュエータ30との間に設けられている。OCV10は、例えば4ポートスプール弁であり、スリーブ11、スプール12、スプリング13、ソレノイド14等を有している。OCV10は、スリーブ11に対するスプール12の位置によって、油圧アクチュエータ30の進角室33、遅角室34に対する作動油の供給または排出を制御することができる。
OCV10は、供給ポート21、進角ポート22、遅角ポート23、ドレンポート24を有している。供給ポート21は、オイルポンプ41に接続されている。進角ポート22は、進角室33に接続されている。遅角ポート23は、遅角室34に接続されている。ドレンポート24は、オイルパン42に接続されている。
スプール12は、移動方向の一方の端部をスプリング13によって支持され、他方の端部をソレノイド14によって支持されている。スリーブ11内におけるスプール12の位置は、ソレノイド14に供給する「制御信号」としての駆動電流のデューティ(以下、適宜、「OCV駆動デューティ」という)によって制御することができる。
図1に示すスプール12の位置では、進角ポート22、遅角ポート23と供給ポート21、ドレンポート24との連通が遮断されており、進角室33、遅角室34に対する作動油の供給および排出は実質的に行われない。以下、進角ポート22、遅角ポート23と供給ポート21、ドレンポート24との連通が遮断されるスプール12の作動域を「中立域」という。
スプール12が中立域にある状態においてOCV駆動デューティが増大されると、スプール12は、ソレノイド14に押されて移動する。これにより、進角ポート22と供給ポート21とが連通し、遅角ポート23とドレンポート24とが連通し、進角室33への作動油の供給と遅角室34からの作動油の排出とが同時に行われるようになる。以下、進角室33へ作動油が供給されるときのスプール12の作動域を「進角域」という。
一方、スプール12が中立域にある状態においてOCV駆動デューティが低減されると、スプール12は、スプリング13に押されて移動する。これにより、進角ポート22とドレンポート24とが連通し、遅角ポート23と供給ポート21とが連通し、遅角室34への作動油の供給と進角室33からの作動油の排出とが同時に行われるようになる。以下、遅角室34へ作動油が供給されるときのスプール12の作動域を「遅角域」という。
図2は、バルブタイミング調整装置2におけるOCV駆動デューティと油圧アクチュエータ30の作動の速度、すなわち、油圧アクチュエータ30の変位速度(クランク軸3に対するカム軸4の変位角の変化速度)との関係を示す特性線図である。図2に示すように、バルブタイミング調整装置2には、油圧アクチュエータ30の変位速度がゼロに保持されるデューティ(以下、適宜、「保持デューティ」という)の付近に、デューティ値の変化に対して変位速度の変化が小さい、つまり、デューティ値の変化に対する応答性が低い領域である「不感帯」が存在する。ここで、上記「中立域」は、一定の幅をもって形成されている。スプール12が中立域内にあるときのOCV駆動デューティの範囲が不感帯となる。
OCV駆動デューティが不感帯を超えて増大されると、油圧アクチュエータ30の変位速度は、進角側に増大し始め、OCV駆動デューティの変化に対し線形に変化する。これは、スプール12の作動域が中立域から進角域に入ったことによる。OCV駆動デューティがある程度まで増大した時点で、油圧アクチュエータ30の変位速度は、最大進角速度に達し、それ以上OCV駆動デューティを増大させても、変位速度は一定に保たれる。このとき、スプール12は、進角域の限界位置まで移動し、進角ポート22と供給ポート21とが完全に連通し、遅角ポート23とドレンポート24とが完全に連通した状態となっている。
一方、OCV駆動デューティが不感帯を超えて低減されると、油圧アクチュエータ30の変位速度は、遅角側に増大し始め、OCV駆動デューティの変化に対し線形に変化する。これは、スプール12の作動域が中立域から遅角域に入ったことによる。OCV駆動デューティがある程度まで低減した時点で、油圧アクチュエータ30の変位速度は、最大遅角速度に達し、それ以上OCV駆動デューティを低減させても、変位速度は一定に保たれる。このとき、スプール12は、遅角域の限界位置まで移動し、進角ポート22とドレンポート24とが完全に連通し、遅角ポート23と供給ポート21とが完全に連通した状態となっている。
制御装置50は、例えば電子制御ユニット(「ECU」)であり、演算部としてのCPU、記憶部としてのROMおよびRAM等、入出力部としてのI/O等を備える小型のコンピュータである。制御装置50は、図示しない車両に設けられた各種センサからの信号等に基づき、車両の各部に設けられた機器、装置等を制御する。
制御装置50は、OCV10の作動を制御する。制御装置50と、油圧アクチュエータ30およびOCV10を含む機構部分(バルブタイミング調整装置2)とにより、バルブタイミング調整システム1が構成される。制御装置50は、概念的な機能部として、制御部51、保持値特定部53、作動判定部60、制御信号設定部59を有している。
制御装置50の制御部51は、クランク軸3に対するカム軸4の目標変位角(目標位相)を設定し、実際の変位角(制御変位角、実位相)と目標変位角との偏差に基づいて「OCV駆動デューティ」を算出する。制御装置50は、算出したOCV駆動デューティを「制御信号」としてOCV10に出力する。
このように、制御部51は、OCV10に出力する制御信号によって油圧アクチュエータ30の作動を制御可能である。
なお、目標変位角は、エンジン5の運転状態に応じた最適なバルブタイミングを得るための変位角であり、エンジン5の運転状態をパラメータとするマップから決定される。制御変位角は、クランク角センサ61の出力信号とカム角センサ62の出力信号とから計算することができる。
以下、制御装置50によるOCV10の制御について説明する。
図3には、OCV10の制御特性を特性線で示している。図3において、実線は、例えば所定の温度である0度より高い温度(高温)のときの制御特性を示している。一方、一点鎖線は、例えば所定の温度である0度以下の温度(低温)のときの制御特性を示している。
図3に示すように、油圧アクチュエータ30の作動速度は、高温の場合(実線)、不感帯の内においても0以外をとり得るが、低温の場合(一点鎖線)、不感帯の内においては、略0となる。
本実施形態では、制御装置50の保持値特定部53は、油圧アクチュエータ30の作動速度がゼロとなるときの制御信号の値である保持値(「保持デューティ」)を特定する。図3に示すように、高温の場合、油圧アクチュエータ30の作動速度がゼロとなる保持デューティは、1つ存在するのみであるが、低温の場合、油圧アクチュエータ30の作動速度がゼロとなる保持デューティは複数存在する。
保持値特定部53は、所定の条件として、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下のとき、保持デューティとして、進角側の保持値である「進角保持デューティ」、および、遅角側の保持値である「遅角保持デューティ」を特定すなわち学習する。具体的には、保持値特定部53は、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動が開始したときの制御信号の値を進角側の保持値(「進角保持デューティ」)として特定し、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動が開始したときの制御信号の値を遅角側側の保持値(「遅角保持デューティ」)として特定すなわち学習する。
保持値特定部53は、油温または水温が所定の温度より高いとき、1つの保持デューティを特定すなわち学習する。なお、保持値特定部53による保持値の学習前は、保持値として所定の初期値が設定されている。
ここで、作動油の温度である油温は、オイルポンプ41とOCV10とを結ぶ油圧ラインに設けられた油温センサ63によって検出することができる。また、エンジン5の冷却水の温度である水温は、エンジン5を冷却するウォータージャケットに設けられた水温センサ64によって検出することができる。
制御装置50の作動判定部60は、油圧アクチュエータ30が作動しているか否かを判定する。具体的には、作動判定部60は、クランク軸3に対するカム軸4の実際の変位角に対応する「実進角値」を検出することで、油圧アクチュエータ30が作動しているか否かを判定する。より具体的には、作動判定部60は、クランク角センサ61およびカム角センサ62からの信号に基づき、クランク軸3に対するカム軸4の進角方向の相対位相を算出することで、実進角値を検出し、実進角値が「作動判定閾値」を超えたと判断した場合に、油圧アクチュエータ30が作動していると判定する。
制御装置50は、油圧アクチュエータ30の制御変位角(実位相)と目標変位角(目標位相)との偏差に基づくフィードバック制御により、OCV10のデューティ制御を行う。制御装置50には、エンジン5(クランク軸3)の回転数であるエンジン回転数および油温と制御ゲインとの関係が予めマップデータとして記憶されている。
制御装置50の制御信号設定部59は、油圧アクチュエータ30の作動を開始するため制御部51によりOCV10に対し制御信号を出力した後、上記所定の条件(油温または水温が所定の温度以下のとき)において、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が所定時間作動していない」と判定されるまで、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、および、前記保持値の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定し(下記式1参照)、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が所定時間作動していない」と判定された後、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されるまで、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、前記保持値、および、Iゲインと偏差積分との積の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する(下記式2参照)。
制御信号=Pゲイン×偏差+Dゲイン×偏差微分+保持値 ・・・式1
制御信号=Pゲイン×偏差+Dゲイン×偏差微分+保持値+Iゲイン×偏差積分 ・・・式2
また、制御信号設定部59は、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定された後は、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、および、前記保持値の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する(上記式1参照)。すなわち、設定する制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
制御部51は、制御信号設定部59により設定した制御信号をOCV10に出力し、油圧アクチュエータ30の作動を制御する。
以下、本実施形態の制御装置50による保持値の特定すなわち学習に関する処理について、より具体的に説明する。図4に示すフローチャートは、進角保持デューティの特定すなわち学習に関する処理S100を示している。処理S100は、制御装置50によって一定の周期で実行される。
S101では、制御部51は、油圧アクチュエータ30に対し進角作動を指令する。具体的には、制御部51は、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動を開始するためOCV10に対し制御信号を出力する。
S102では、制御部51は、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下か否か判断する。油温または水温が所定の温度以下であると判断した場合(S102:YES)、処理はS103へ移行する。一方、油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S102:NO)、処理はS100を抜ける。
S103では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。具体的には、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。ここで、式1における「保持値」は、「進角保持デューティ」である。なお、「進角保持デューティ」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。S103で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S104では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」と判定した場合(S104:YES)、処理はS105へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S104:NO)、処理はS100を抜ける。
S105では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、I項を追加する。具体的には、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。S105で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S106では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」か否かを判定する。具体的には、実進角値が「作動判定閾値」を超えたと判断した場合に、油圧アクチュエータ30が作動を開始したと判定する。「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定した場合(S106:YES)、処理はS107へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は作動を開始していない」と判定した場合(S106:NO)、処理はS105に戻る。
S107では、保持値特定部53は、進角保持デューティを更新する。具体的には、保持値特定部53は、S106で「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する。
また、S107では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
S107の後、処理はS100を抜ける。
なお、S102で油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S102:NO)、すなわち、上記所定の条件を満たさない場合(高温)、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。ここで、式1における「保持値」は、油温または水温が所定の温度より高いときに学習した「保持デューティ」である。なお、「保持デューティ」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。
図5に示すフローチャートは、遅角保持デューティの特定すなわち学習に関する処理S200を示している。処理S200は、制御装置50によって一定の周期で実行される。
S201では、制御部51は、油圧アクチュエータ30に対し遅角作動を指令する。具体的には、制御部51は、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動を開始するためOCV10に対し制御信号を出力する。
S202では、制御部51は、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下か否か判断する。油温または水温が所定の温度以下であると判断した場合(S202:YES)、処理はS203へ移行する。一方、油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S202:NO)、処理はS200を抜ける。
S203では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。具体的には、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。ここで、式1における「保持値」は、「遅角保持デューティ」である。なお、「遅角保持デューティ」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。S203で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S204では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」と判定した場合(S204:YES)、処理はS205へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S204:NO)、処理はS200を抜ける。
S205では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、I項を追加する。具体的には、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。S205で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S206では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定した場合(S206:YES)、処理はS207へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は作動を開始していない」と判定した場合(S206:NO)、処理はS205に戻る。
S207では、保持値特定部53は、遅角保持デューティを更新する。具体的には、保持値特定部53は、S206で「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「遅角保持デューティ」として更新する。
また、S207では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
S207の後、処理はS200を抜ける。
S202で油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S202:NO)、すなわち、上記所定の条件を満たさない場合(高温)、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。ここで、式1における「保持値」は、油温または水温が所定の温度より高いときに学習した「保持デューティ」である。なお、「保持デューティ」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。
次に、本実施形態の制御装置50の作動例について、図6に基づき説明する。図6の上段は、上記所定の条件において、制御信号設定部59により設定される制御信号(実線)、および、保持値特定部53により特定される保持値(破線)の時間に伴う変化を示している。図6の下段は、上記所定の条件において、制御部51により設定される油圧アクチュエータ30の目標位相(一点鎖線)、および、油圧アクチュエータ30の実位相(実線)の時間に伴う変化を示している。
図6に示すように、時刻t1で油圧アクチュエータ30に対し進角作動が指令され(S101)、油圧アクチュエータ30の目標位相が設定されると、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する(S103)。
時刻t2において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t2-t1)作動していない」と判定すると(S104:YES)、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する(S105)。これ(I項追加)により、時刻t2以降、制御信号が増大する。
時刻t3において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定すると(S106:YES)、保持値特定部53は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する(S107)。また、このとき、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
時刻t4において、油圧アクチュエータ30の実位相(実線)が目標位相(一点鎖線)に到達する。
このように、本実施形態では、不感帯の学習をすることなく、OCV10を制御することができる。
次に、比較形態の制御装置50の作動例について、図7に基づき説明する。比較形態では、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。また、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」と判定した場合、そのときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」または「遅角保持デューティ」として更新する。
図7の上段は、上記所定の条件において、制御信号設定部59により設定される制御信号(実線)、および、保持値特定部53により特定される保持値(破線)の時間に伴う変化を示している。図7の下段は、上記所定の条件において、制御部51により設定される油圧アクチュエータ30の目標位相(一点鎖線)、および、油圧アクチュエータ30の実位相(実線)の時間に伴う変化を示している。
図7に示すように、時刻t1で油圧アクチュエータ30に対し進角作動が指令され、油圧アクチュエータ30の目標位相が設定されると、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。
時刻t2において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t2-t1)作動していない」と判定すると、そのときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する。
時刻t3において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t3-t2)作動していない」と判定すると、そのときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する。
時刻t4において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t4-t3)作動していない」と判定すると、そのときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する。
時刻t5において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t5-t4)作動していない」と判定すると、そのときの制御信号(デューティ)を「進角保持デューティ」として更新する。
時刻t6において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定すると、「進角保持デューティ」の更新を停止する。
このように、比較形態では、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。そのため、不感帯の内においては、変位速度がゼロのため、油圧アクチュエータ30が作動しない。よって、保持値を何度も更新する必要があり、油圧アクチュエータ30の作動の開始、および、実位相の目標位相への到達が遅れるおそれがある。
これに対し、本実施形態では、不感帯を特定せずとも、実作動量と目標作動量との偏差が生じて油圧アクチュエータ30が作動しない間は、OCV10に出力すべき制御信号を変化させて、不感帯を抜けることができる。そのため、油圧アクチュエータ30の作動の開始、および、実位相の目標位相への到達を早めることができる。
以上説明したように、<1>本実施形態では、制御信号設定部59は、「油圧アクチュエータ30が所定時間作動していない」と判定された後、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されるまで、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、および、保持値の和に加え、Iゲインと偏差積分との積に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。そのため、不感帯を特定せずとも、実作動量と目標作動量との偏差が生じて油圧アクチュエータ30が作動しない間は、OCV10に出力すべき制御信号を変化させて、不感帯を抜けることができる。これにより、不感帯を特定することなく、OCV10を制御することができる。
また、<2>本実施形態では、制御信号設定部59は、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定された後は、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、および、保持値の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。すなわち、設定する制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。そのため、I項による収束性の悪化を抑制できる。
また、<4>本実施形態では、保持値特定部53は、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動が開始したときの制御信号の値を進角側の保持値として特定し、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動が開始したときの制御信号の値を遅角側側の保持値として特定する。
このように、進角側と遅角側とで保持値を学習し、進角側保持値以上、遅角側保持値以下では速度をもつため、不感帯の広い低温で起きる、保持値±αのデューティにおいて作動しないことを抑制できる。
また、作動方向毎に保持値をもつことで、作動方向が変わる度に学習を繰り返す必要がない。
また、<6>本実施形態のバルブタイミング調整システム1は、バルブタイミング調整装置2と、上記制御装置50と、を備え、制御装置50によりバルブタイミング調整装置2を制御することで、エンジン5のバルブタイミングを調整可能である。上記制御装置50は、上述のように、不感帯を特定することなく、OCV10を制御することができる。そのため、バルブタイミング調整装置2の油圧アクチュエータ30の作動を早期に開始でき、エンジン5のバルブタイミングの調整を早期に開始できる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態による制御装置を図8に示す。第2実施形態は、制御装置50の構成等が第1実施形態と異なる。
本実施形態では、制御装置50は、不感帯特定部52をさらに備えている。
不感帯特定部52は、所定の条件、すなわち、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下のときにおいて、制御信号が出力される信号域のうち制御信号の変化に対する油圧アクチュエータ30の応答が無い、または、応答性が低い領域である不感帯を特定する。不感帯特定部52は、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動が開始したときの制御信号の値を不感帯の上端として特定すなわち学習し、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動が開始したときの制御信号の値を不感帯の下端として特定すなわち学習する(図9参照)。
以下、本実施形態の制御装置50による不感帯の特定すなわち学習に関する処理について、より具体的に説明する。図10に示すフローチャートは、不感帯の上端の特定すなわち学習に関する処理S300を示している。処理S300は、制御装置50によって一定の周期で実行される。
S301では、制御部51は、油圧アクチュエータ30に対し進角作動を指令する。具体的には、制御部51は、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動を開始するためOCV10に対し制御信号を出力する。
S302では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。具体的には、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。ここで、式1における「保持値」は、「保持デューティ」である。なお、「保持デューティ」、「不感帯の上端」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。「不感帯の上端」の学習後は、「不感帯の上端」の学習値(「不感帯上端値」)に基づき、「保持デューティ」を決定する。S302で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S303では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」と判定した場合(S303:YES)、処理はS304へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S303:NO)、処理はS300を抜ける。
S304では、制御部51は、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下か否か判断する。油温または水温が所定の温度以下であると判断した場合(S304:YES)、処理はS305へ移行する。一方、油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S304:NO)、処理はS300を抜ける。
S305では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、I項を追加する。具体的には、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。S305で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S306では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」か否かを判定する。具体的には、実進角値が「作動判定閾値」を超えたと判断した場合に、油圧アクチュエータ30が作動を開始したと判定する。「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定した場合(S306:YES)、処理はS307へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は作動を開始していない」と判定した場合(S306:NO)、処理はS305に戻る。
S307では、不感帯特定部52は、「不感帯の上端」に対応する値である「不感帯上端値」を更新する。具体的には、不感帯特定部52は、S306で「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「不感帯上端値」として更新する。
また、S307では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
S307の後、処理はS300を抜ける。
なお、S303で「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S303:NO)、不感帯の上端を学習する必要がないため、不感帯の上端を学習しない。
また、S304で油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S304:NO)、不感帯の拡大が要因ではないため、不感帯の上端を学習しない。
また、本実施形態において、不感帯上端値を「保持デューティ」とすると、「保持デューティ」(不感帯上端値)に対応する位置である保持位置からわずかにずれたOCV10のストローク位置(スリーブ11内におけるスプール12の位置)で速度が出るため、制御信号に対するOCV10のストローク位置の繰り返し精度が求められ、ロバスト性に欠けるおそれがある。そのため、保持したい場合は、「保持デューティ」を用いる。
図11に示すフローチャートは、不感帯の下端の特定すなわち学習に関する処理S400を示している。処理S400は、制御装置50によって一定の周期で実行される。
S401では、制御部51は、油圧アクチュエータ30に対し遅角作動を指令する。具体的には、制御部51は、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動を開始するためOCV10に対し制御信号を出力する。
S402では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。具体的には、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する。ここで、式1における「保持値」は、「保持デューティ」である。なお、「保持デューティ」、「不感帯の下端」の学習前は、「保持値」には所定の初期値が設定されている。「不感帯の下端」の学習後は、「不感帯の下端」の学習値(「不感帯下端値」)に基づき、「保持デューティ」を決定する。S402で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S403では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30は所定時間作動していない」と判定した場合(S403:YES)、処理はS404へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S403:NO)、処理はS400を抜ける。
S404では、制御部51は、油温または水温が所定の温度(例えば0度)以下か否か判断する。油温または水温が所定の温度以下であると判断した場合(S404:YES)、処理はS405へ移行する。一方、油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S404:NO)、処理はS400を抜ける。
S405では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、I項を追加する。具体的には、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する。S405で設定された制御信号は、OCV10に対し出力される。
S406では、作動判定部60は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」か否かを判定する。「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定した場合(S406:YES)、処理はS407へ移行する。一方、「油圧アクチュエータ30は作動を開始していない」と判定した場合(S406:NO)、処理はS405に戻る。
S407では、不感帯特定部52は、「不感帯の下端」に対応する値である「不感帯下端値」を更新する。具体的には、不感帯特定部52は、S406で「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「不感帯下端値」として更新する。
また、S407では、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
S407の後、処理はS400を抜ける。
なお、S403で「油圧アクチュエータ30は所定時間内に作動している」と判定した場合(S403:NO)、不感帯の下端を学習する必要がないため、不感帯の下端を学習しない。
また、S404で油温または水温は所定の温度より高いと判断した場合(S404:NO)、不感帯の拡大が要因ではないため、不感帯の下端を学習しない。
また、本実施形態において、不感帯下端値を「保持デューティ」とすると、「保持デューティ」(不感帯下端値)に対応する位置である保持位置からわずかにずれたOCV10のストローク位置で速度が出るため、制御信号に対するOCV10のストローク位置の繰り返し精度が求められ、ロバスト性に欠けるおそれがある。そのため、保持したい場合は、「保持デューティ」を用いる。
上述のように、不感帯特定部52により不感帯の上端および下端を学習することにより、不感帯を飛ばした制御が可能となり、油圧アクチュエータ30が作動不能状態となることを抑制できる。
なお、不感帯特定部52により不感帯の上端および下端を学習した後は、上記特許文献1(特許第4353249号公報)のように、仮想のモデル制御弁についてのモデル制御特性を用いてOCV10を制御してもよい。
次に、本実施形態の作動例について、図12に基づき説明する。図12の上段は、上記所定の条件において、制御信号設定部59により設定される制御信号(実線)、保持値(「保持デューティ」:破線)、および、不感帯特定部52により特定される不感帯上端値(一点鎖線)の時間に伴う変化を示している。図12の下段は、上記所定の条件において、制御部51により設定される油圧アクチュエータ30の目標位相(一点鎖線)、および、油圧アクチュエータ30の実位相(実線)の時間に伴う変化を示している。
図12に示すように、時刻t1で油圧アクチュエータ30に対し進角作動が指令され(S301)、油圧アクチュエータ30の目標位相が設定されると、制御信号設定部59は、上記式1に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する(S302)。
時刻t2において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30は所定時間(t2-t1)作動していない」と判定すると(S303:YES)、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定するにあたり、上記式1にI項(Iゲイン×偏差積分)を追加した上記式2に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を算出および設定する(S305)。これ(I項追加)により、時刻t2以降、制御信号が増大する。
時刻t3において、作動判定部60が「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定すると(S306:YES)、不感帯特定部52は、「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定されたときの制御信号(デューティ)を「不感帯上端値」として更新する(S307)。また、このとき、制御信号設定部59は、OCV10に出力すべき制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)。
時刻t4において、油圧アクチュエータ30の実位相(実線)が目標位相(一点鎖線)に到達する。
以上説明したように、<5>本実施形態は、不感帯特定部(52)をさらに備えている。不感帯特定部52は、制御信号が出力される信号域のうち制御信号の変化に対する油圧アクチュエータ30の応答が無い、または、応答性が低い領域である不感帯を特定する。
不感帯特定部52は、上記所定の条件において、油圧アクチュエータ30の進角方向の作動が開始したときの制御信号の値を不感帯の上端として特定し、油圧アクチュエータ30の遅角方向の作動が開始したときの制御信号の値を不感帯の下端として特定する。これにより、不感帯を飛ばした制御が可能となり、油圧アクチュエータ30が作動不能状態となることを抑制できる。
(他の実施形態)
上述の実施形態では、制御信号設定部59が、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定された後は、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、および、保持値の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定する例を示した。すなわち、設定する制御信号を求める計算式(上記式2)から、フィードバック制御におけるI項を削除(リセット)する(上記式1参照)例を示した。
これに対し、<3>他の実施形態では、制御信号設定部59は、作動判定部60により「油圧アクチュエータ30が作動を開始した」と判定された後は、Pゲインと偏差との積、Dゲインと偏差微分との積、保持値、および、前記Iゲインより小さなゲインである小Iゲインと偏差積分との積の和に基づき、OCV10に出力すべき制御信号を設定することとしてもよい(下記式3参照)。
制御信号=Pゲイン×偏差+Dゲイン×偏差微分+保持値+小Iゲイン×偏差積分 ・・・式3
制御信号設定部59が上記式3により制御信号を設定することによっても、I項による収束性の悪化を抑制できる。
また、他の実施形態では、バルブタイミング調整システムは、内燃機関の排気バルブのバルブタイミングを調整することとしてもよい。
また、他の実施形態では、例えば、カム軸を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧アクチュエータを用い、油圧アクチュエータと制御弁とを備える調整装置を、内燃機関のバルブリフトを調整する装置として用いてもよい。
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。