以下、図1~7を参照しながら、本発明の一実施形態に係る遠隔操作システムについて説明する。本実施形態は、例えば、オペレータ3が遠隔操作装置40によって作業機械10を遠隔操作できるように構成された遠隔操作システム1に適用されたものである。
この作業機械10は、例えば油圧ショベルであり、アタッチメント11、アーム12、ブーム13、旋回体14及び走行体15などを備えている。この走行体15は、図示例ではクローラ式の走行体であり、図示しない走行用油圧モータによって駆動される。なお、走行体15は、車輪型の走行体であってもよい。
また、旋回体14は、走行体15の上側に配置され、図示しない旋回用油圧モータにより走行体15に対してヨー軸回りに旋回するように駆動される。この旋回体14の後部は、機械室14bになっており、この機械室14bには、図示しない油圧回路及び油圧機器(油圧ポンプ、方向切換弁及び作動油タンクなど)と、油圧ポンプなどの動力源である図示しないエンジンなどが収容されている。
また、作業機械10は、運転者が搭乗して操縦することも可能なタイプのものであり、旋回体14の前部には、運転室14aが設けられている。この運転室14aには、作業機械10の操縦用の操作装置17(図2参照)が配置されており、この操作装置17は、操作レバー、操作ペダル及び操作スイッチ(いずれも図示せず)などを備えている。
ブーム13は、旋回体14に対して揺動可能に旋回体14の前部に取り付けられており、油圧シリンダ13aによって旋回体14に対して揺動するように駆動される。また、アーム12は、ブーム13に対して揺動可能にブーム13の先端部に取り付けられており、油圧シリンダ12aによってブーム13に対して揺動するように駆動される。
さらに、アタッチメント11は、アーム12に対して揺動可能にアーム12の先端部に取り付けられており、油圧シリンダ11aによってアーム12に対して揺動するように駆動される。
なお、図1では、アタッチメント11として、バケットが例示されているが、アタッチメント11は、他の種類のもの(例えば、破砕機、ブレーカ及びマグネットなど)であってもよい。
また、作業機械10は、上述した走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ及び油圧シリンダ11a~13a以外のアクチュエータ(例えば、ドーザの駆動用の油圧アクチュエータ、破砕機などのアタッチメントに含まれる油圧アクチュエータなど)をさらに備えていてもよい。さらに、作業機械10の一部のアクチュエータ(例えば、旋回用アクチュエータ)は、電動アクチュエータであってもよい。
以上の構成の作業機械10では、エンジンを作動させた状態で、操作装置17の操作レバー又は操作ペダルを操作することで、走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ及び油圧シリンダ11a~13aなどのアクチュエータをそれぞれ作動させ、それにより、作業機械10を操縦することができる。この場合、操作装置17の操作に応じた各アクチュエータの作動は、例えば公知の作業機械と同様に実行される。
また、本実施形態では、作業機械10の遠隔操作を可能とするために、図2に示すように、操作装置17を駆動する操作駆動装置18が作業機械10に搭載されている。この操作駆動装置18は、複数の電動モータ(図示せず)を有する電動式のものであり、運転室14aに設置されている。
さらに、操作駆動装置18は、操作装置17の操作レバー又は操作ペダルなどの各々を電動モータによって駆動することができるように、操作装置17に接続されている。なお、操作駆動装置18は、作業機械10の遠隔操作を実施しない場合には、作業機械10から取り外すことができるように構成されている。
一方、前述した油圧回路内には、多数の電磁制御弁19(図2に1つのみ図示)が設けられており、後述する作業機側制御装置29によって、これらの電磁制御弁19の開閉状態が制御される。
また、図2に示すように、作業機械10は、作業機側制御装置29及び無線通信装置30などを備えている。この作業機側制御装置29には、前述した操作駆動装置18、上述した電磁制御弁19、操作状態センサ20、角速度センサ21、加速度センサ22、油圧センサ23、運転状態センサ24、姿勢検知センサ25、相対角度検出センサ26、複数のカメラ27(1つのみ図示)及びマイク28が電気的に接続されている。
操作状態センサ20は、複数のセンサ(図示せず)で構成されており、上述した操作装置17の操作レバー及び操作ペダルの操作状態を検知して、それらを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。作業機側制御装置29は、この操作状態センサ20の検知信号に応じて、電磁制御弁19の開閉状態を制御することにより、上述した油圧シリンダ11a~13a及び2つの油圧モータなどへの作動油の供給状態を制御する。それにより、3つの要素11~13の動作状態、旋回体14の旋回状態及び走行体15のクローラの回転状態が制御される。
なお、操作状態センサ20に代えて、油圧センサを用い、操作レバー及び操作ペダルの操作によるパイロット圧の変化を検知することにより、操作レバー及び操作ペダルの操作状態を検知するように構成してもよい。
一方、角速度センサ21は、複数のセンサ素子(図示せず)を組み合わせて構成されており、旋回体14のピッチ角速度ωp、ロール角速度ωr及びヨー角速度ωyを検知して、それらを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。作業機側制御装置29は、この検知信号に基づき、旋回体14のピッチ角θp、ロール角θr及びヨー角θyを算出する。
この場合、ピッチ角θpは、旋回体14が水平な状態にあるときの位置を原点(すなわち値0)として、旋回体14を右側面視したときのピッチ軸の反時計回りの角度を正値として算出される。また、ロール角θrは、旋回体14が水平な状態にあるときの位置を原点(すなわち値0)として、旋回体14を正面視したときのロール軸の反時計回りの角度を正値として算出される。さらに、ヨー角θyは、アーム12及びブーム13が走行体15の前後方向の中心軸と平行な状態にあるときの旋回体14の位置を原点(すなわち値0)として、旋回体14を平面視したときのヨー軸の反時計回りの角度を正値として算出される。
また、加速度センサ22は、複数のセンサ素子(図示せず)を組み合わせて構成されており、旋回体14の前後方向及び左右方向の加速度(以下「前後G及び左右G」という)を検知して、それらを表す加速度信号を作業機側制御装置29に出力する。作業機側制御装置29は、この加速度信号に基づき、旋回体14の前後左右方向の並進速度を算出する。
また、油圧センサ23は、油圧回路内の所定箇所の油圧Poilを検知して、それを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。
さらに、運転状態センサ24は、エンジン回転数などのエンジンの運転状態(以下「エンジン運転状態」という)を検知して、それを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。
一方、姿勢検知センサ25は、例えばエンコーダやポテンションメータで構成され、アタッチメント11、アーム12及びブーム13の姿勢を検知して、それらを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。
また、相対角度センサ26は、例えばエンコーダで構成され、旋回体14と走行体15の相対角度を検知して、それを表す検知信号を作業機側制御装置29に出力する。
一方、複数のカメラ27は、アーム12、ブーム13及び旋回体14の所定部位に設けられており、アタッチメント11付近の映像や、旋回体14の前方及び左右方向の映像を撮影し、それらを表す動画データ信号を作業機側制御装置29に出力する。
また、マイク28は、旋回体14周辺の音をデータとして含む音響データ信号を作業機側制御装置29に出力する。
一方、作業機側制御装置29は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。作業機側制御装置29は、前述した各種のセンサ21~26の検知信号から作業機械10の動作状況を表す動作状況データ(旋回体14のピッチ角速度θp、ロール角θr、ヨー角θy、前後左右方向の並進速度、油圧Poil_i、3つの要素11~13の姿勢、旋回体14と走行体15の相対角度及びエンジン運転状態)を取得する。そして、作業機側制御装置29は、これらの動作状況データを含む動作状況データ信号を無線通信装置30に出力する。
また、作業機側制御装置29は、複数のカメラ27からの動画データ信号及びマイク28からの音響データ信号を無線通信装置30に出力する。なお、以下の説明では、動作状況データ信号、動画データ信号及び音響データ信号をまとめて「各種データ信号」という。
一方、無線通信装置30では、上記のように、各種データ信号が作業機側制御装置29との間で入出力されるとともに、遠隔操作装置40の後述する無線通信装置41との間で無線通信が実行される。例えば、無線通信装置30は、各種データ信号が作業機側制御装置29から入力されたときには、これを無線通信装置41に送信する。
また、無線通信装置30は、例えば、無線通信装置41から後述する操作指令信号を受信したときには、これを作業機側制御装置29に出力する。作業機側制御装置29は、無線通信装置30から入力された操作指令信号に応じて、前述した操作駆動装置18による操作装置17の駆動状態を制御する。それにより、後述するように、操作駆動装置18によって操作装置17の操作レバー又は操作ペダルなどが駆動されることで、前述した油圧回路内の多数の電磁制御弁19の開閉状態が制御される。その結果、作業機械10の動作状態が制御される。
次に、遠隔操作装置40について説明する。遠隔操作装置40は、図2及び図7に示すように、無線通信装置41、マスタ側制御装置42、スピーカ43、ディスプレイ44、駆動機構45及び操作装置50を備えている。これらの要素41~45,50はいずれも、遠隔操作室2内に設けられている。
無線通信装置41は、前述したように、無線通信装置30との間で無線通信を実行するとともに、マスタ側制御装置42との間で、各種データの入出力を実行する。例えば、無線通信装置41は、前述した動作状況データ信号、動画データ信号及び音響データ信号を無線通信装置30から受信したときには、これらのデータ信号をマスタ側制御装置42に出力する。また、無線通信装置41は、例えば、マスタ側制御装置42から操作指令信号を受信したときには、これを無線通信装置30に送信する。
また、マスタ側制御装置42(制御要素)は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。このマスタ側制御装置42は、前述したアタッチメント11、アーム12、ブーム13、旋回体14及び走行体15の重心位置情報を予め記憶している。
さらに、マスタ側制御装置42には、スピーカ43、複数のディスプレイ44(図3に2つのみ図示)、駆動機構45及び操作状態センサ53が電気的に接続されている。
マスタ側制御装置42は、前述した音響データ信号が無線通信装置41から入力されたときには、これをスピーカ43に出力する。それにより、音響データ信号に含まれる音が、スピーカ43から遠隔操作室2内に出力されることで、遠隔操作室2のオペレータ3は、旋回体14の運転室14a内にいるような臨場感を得ることができる。
また、マスタ側制御装置42は、前述した動画データ信号が無線通信装置41から入力されたときには、これをディスプレイ44に出力する。それにより、動画データ信号に含まれる動画がディスプレイ44に表示されることで、遠隔操作室2のオペレータ3は、旋回体14のキャビン内から外部を見ているような臨場感を得ることができる。
さらに、駆動機構45は、旋回台、傾斜台、複数の電動アクチュエータ及び電動モータ(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、これらの複数の電動アクチュエータ及び電動モータは、マスタ側制御装置42に電気的に接続されている。旋回台は、電動モータによってヨー軸線回りに旋回するように駆動され、その際、傾斜台は、旋回台と一体に旋回する。
また、傾斜台は、旋回台の上側に複数の電動アクチュエータを介して設けられており、これらの電動アクチュエータによって、旋回台に対して相対的にピッチングしたり、ローリングしたり、前後左右方向に平行移動(すなわち並進)したりするように駆動される。この駆動機構45の上面の中央部には、操作席46が設けられており、この操作席46は、傾斜台に固定されている。
以上の構成により、この駆動機構45では、複数の電動アクチュエータ及び電動モータがマスタ側制御装置42によって制御されることによって、傾斜台すなわち操作席46がピッチングしたり、ローリングしたり、ヨーイングしたり、前後左右方向に並進したりするように駆動される。それにより、操作席46に座ったオペレータ3は、作業機械10の動作中に旋回体14のキャビン内にいるときのような、旋回体14のピッチング、ローリング、ヨーイング及び前後左右方向の並進などの動作を仮想的に体感することができる。
また、マスタ側制御装置42は、前述した動作状況データ信号が無線通信装置41から入力されたときには、動作状況データ信号に含まれる、旋回体14のピッチ角速度θp、ロール角θr、ヨー角θy、前後G及び左右Gが駆動機構45によって再現されるように、駆動機構45の動作状態を制御する。それにより、オペレータ3は、旋回体14の傾きや加速度などを仮想的に体感することができる。これに加えて、マスタ側制御装置42は、後述するように、指定条件判定処理などの制御処理を実行する。
また、操作装置50は、作業機械10を遠隔操作するために、オペレータ3によって操作される。この操作装置50は、操作ペダル50ap付きの操作レバー50aと、操作席46の左右のコンソール46bにそれぞれ搭載された操作レバー50b(1つのみ図示)と、操作スイッチ(図示せず)と、操作状態センサ53などを備えている。
この場合、操作装置50は、作業機械10の操作装置17と異なる構成のものであってもよい。例えば、操作装置50は、ジョイスティック、操作ボタン等を有する携帯型の操作装置であってもよい。
この操作状態センサ53は、オペレータ3による操作ペダル50ap、操作レバー50a、操作レバー50b及び操作スイッチの操作状態を検知して、それらを表す操作状態信号をマスタ側制御装置42に出力する。
マスタ側制御装置42は、操作状態センサ53から操作状態信号が入力されたときに、操作指令信号を、無線通信装置41を介して作業機械10の無線通信装置30に送信する。この操作指令信号は、操作装置50の操作状態に対応して、作業機械10の操作装置17を駆動するためのものである。
以上の構成により、この遠隔操作システム1では、オペレータ3は、作業機械10を遠隔操作する際、遠隔操作室2内の操作席46に着座した状態で、スピーカ43からの音及びディスプレイ44の動画映像を視聴しながら、操作装置50を操作する。それに伴い、オペレータ3の操作装置50の操作状態に対応して、操作指令信号が遠隔操作装置40の無線通信装置41から作業機械10の無線通信装置30に送信される。
そして、操作指令信号が無線通信装置30から作業機側制御装置29に入力されると、作業機側制御装置29は、操作指令信号に応じて、前述した操作駆動装置18による操作装置17の駆動状態を制御する。具体的には、操作装置17の操作レバー、操作ペダル及び操作スイッチの動作状態(操作状態)が、オペレータ3による操作装置50の操作レバー50a,50b、操作ペダル50ap及び操作スイッチの操作状態と同期するように、操作装置17が操作駆動装置18によって駆動される。それにより、前述した油圧回路内の多数の電磁制御弁19の開閉状態が制御されることで、オペレータ3による操作装置50の操作に対応して、作業機械10の動作状態が制御される。すなわち、オペレータ3によって作業機械10が遠隔操作される。
また、作業機械10の動作中、前述した各種センサ21~26、カメラ27及びマイク28から、前述した各種データ信号が作業機側制御装置29に入力されると、これが作業機側制御装置29及び無線通信装置30を介して無線通信装置41に送信された後、無線通信装置41からマスタ側制御装置42に入力される。
それにより、音響データ信号に含まれる音がスピーカ43から遠隔操作室2内に出力され、動画データ信号に含まれる動画がディスプレイ44に表示される。さらに、動作状況データ信号に含まれる動作状況データ、すなわち旋回体14のピッチ角速度ωp、ロール角速度ωr、ヨー角速度ωy、前後左右方向の並進速度が駆動機構45によって再現される。それにより、オペレータ3は、旋回体14のキャビン内で作業機械10を操縦したときの傾きや速度などを仮想的に体感することができる。
次に、マスタ側制御装置42によって実行される指定条件判定処理について説明する。この指定条件判定処理は、作業機械10の動作状況が、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するような指定条件を満たす状況にあるか否かを判定するものであり、マスタ側制御装置42によって所定の制御周期で実行される。
なお、本実施形態の場合、作業機械10が安定状態又は不安定状態にあるということは以下に述べる状態を意味する。すなわち、作業機械10が安定状態にあるということは、図8及び図9に示すように、作業機械10を平面視したときに、作業機械10の重心(又はZMP)が作業機械10の支持多角形内の領域である安定領域(図中にハッチングで示す領域)に位置していることを意味する。
一方、作業機械10が不安定状態にあるということは、図10に示すように、作業機械10を平面視したときに、作業機械10の重心(又はZMP)が安定領域から外れ、その外側の不安定領域(図中に網掛けで示す領域)に位置していることを意味する。
指定条件判定処理は、具体的には、図4に示すように実行される。まず、前述した動作状況データを読み込む(図4/STEP1)。次いで、動作状況データに含まれるエンジン運転状態に基づき、作業機械10が運転中であるか否かを判定する(図4/STEP2)。この判定は、具体的には、エンジンが運転中であるか否かに基づいて実行される。
この判定が否定で(図4/STEP2…NO)、作業機械10が運転停止中であるときには、そのまま本処理を終了する。
一方、この判定が肯定であるとき(図4/STEP2…YES)には、ピッチ角の絶対値|θp|が所定しきい値θp_lmt以上であるか否かを判定する(図4/STEP3)。この所定しきい値θp_lmtは、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するか否かを判定できる値、すなわち、作業機械10の重心が安定領域から不安定領域に移行するか否かを判定できる値であり、作業機械10が前傾しているときには、作業機械10が後傾しているときよりも小さい値が用いられる。
この判定が肯定で(図4/STEP3…YES)、|θp|≧θp_lmtが成立しているときには、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するような指定条件が満たされたと判定して、それを表すために、指定条件フラグF_CONDIを「1」に設定する(図4/STEP4)。その後、本処理を終了する。
一方、上述した判定が否定(図4/STEP3…NO)で、|θp|<θp_lmtが成立しているときには、ロール角の絶対値|θr|が所定しきい値θr_lmt以上であるか否かを判定する(図4/STEP5)。この所定しきい値θr_lmtは、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するか否かを判定できる値、すなわち、作業機械10の重心が安定領域から不安定領域に移行するか否かを判定できる値に設定されている。
この判定が肯定で(図4/STEP5…YES)、|θr|≧θr_lmtが成立しているときには、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するような指定条件が満たされたと判定して、前述したように、指定条件フラグF_CONDIを「1」に設定する(図4/STEP4)。その後、本処理を終了する。
一方、上述した判定が否定(図4/STEP5…NO)で、|θr|<θr_lmtが成立しているときには、油圧Poilが所定しきい値Plmt以上であるか否かを判定する(図4/STEP6)。この所定しきい値Plmtは、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移する動作状況にあるか否かを判定できるような値に設定されている。
この判定が肯定で(図4/STEP6…YES)、Poil≧Plmtが成立しているときには、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するような指定条件が満たされたと判定して、前述したように、指定条件フラグF_CONDIを「1」に設定する(図4/STEP4)。その後、本処理を終了する。
一方、上述した判定が否定のとき(図4/STEP6…NO)、すなわち|θp|<θp_lmt、|θr|<θr_lmt及びPoil<Plmtがいずれも成立しているときには、上述した指定条件が満たされていないと判定して、前述した指定条件フラグF_CONDIを「0」に設定する(図4/STEP7)。その後、本処理を終了する。
なお、図4の指定条件判定処理において、以下に述べるように、作業機械10の重心の位置及び安定領域を算出し、作業機械10の重心が安定領域にあるか否かに応じて、前述した指定条件フラグF_CONDIの値を設定するように構成してもよい。
まず、マスタ側制御装置42が予め記憶している5つの要素11~15の重心位置情報、姿勢検知センサ25からの3つの要素11~13の姿勢、及び相対角度センサ26からの旋回体14と走行体15の相対角度に基づいて、作業機械10の重心の位置を演算する。
さらに、旋回体14と走行体15の相対角度、旋回体14のピッチ角θp及びロール角θrなどに基づいて、作業機械10の安定領域を算出する。そして、作業機械10の重心が安定領域にあるときには、指定条件フラグF_CONDIを「0」に設定し、作業機械10の重心が安定領域にないときすなわち不安定領域にあるときには、指定条件フラグF_CONDIを「1」に設定する。以上のように構成した場合でも、図4と同様に、作業機械10が安定状態から不安定状態に遷移するような指定条件を満たす状況にあるか否かを適切に判定することができる。
次に、図5を参照しながら、マスタ側制御装置42によって実行される動作状態制御処理について説明する。この動作状態制御処理は、駆動機構45の動作状態を制御するものであり、マスタ側制御装置42によって所定の制御周期で実行される。
まず、前述した動作状況データを読み込む(図5/STEP10)。次いで、動作状況データに含まれるエンジン運転状態に基づき、作業機械10が運転中であるか否かを判定する(図5/STEP11)。
この判定が否定で(図5/STEP11…NO)、作業機械10が運転停止中であるときには、そのまま本処理を終了する。一方、この判定が肯定であるとき(図5/STEP11…YES)には、前述した指定条件フラグF_CONDIが「1」であるか否かを判定する(図5/STEP12)。
この判定が否定であるとき(図5/STEP12…NO)には、通常制御処理を実行する(図5/STEP)。この通常制御処理では、旋回体14のピッチ角速度ωp、ロール角速度ωr、ヨー角速度ωy及び前後左右方向の並進速度などの動作状況データに基づき、オペレータ3が作業機械10の実際の動作状況をリアルタイムで体感できるように、駆動機構45の動作状態が制御される(図6参照)。
より具体的には、操作席46のピッチ角速度、ロール角速度、ヨー角速度、前後左右方向の並進速度などが、旋回体14の値と同じになるように、駆動機構45の動作状態が制御される。以上のように、通常制御処理を実行した後、本処理を終了する。
一方、上記の判定が肯定であるとき(図5/STEP12…YES)、すなわち指定条件が満たされているときには、指定制御処理を実行する。この指定制御処理では、通常制御処理から移行したときに、操作席46の駆動速度すなわちオペレータ3が体感していた速度が不連続的に変化するように、駆動機構45の動作状態が制御される(図6参照)。
より具体的には、後述するように、操作席46のピッチ角速度ωp’及びロール角速度ωr’が、旋回体14と一時的に異なる値に変化した後、旋回体14と同じ値まで復帰するように、駆動機構45の動作状態が制御される。この指定制御処理の実行中、図示しないが、操作席46のピッチ角速度及びロール角速度が、旋回体14と同じ値まで復帰したタイミングで、前述した指定条件フラグF_CONDIが「0」にリセットされる。以上のように、指定制御処理を実行した後、本処理を終了する。
次に、図6を参照しながら、以上のように、マスタ側制御装置42によって、指定条件判定処理及び動作状態制御処理が実行されたときの制御結果の一例について説明する。なお、同図は、作業機械10のロール角θr及び油圧Poilにおいて、|θr|<θr_lmt及びPoil<Plmtがいずれも成立しているときの、旋回体14のピッチ角θp及びピッチ角速度ωpと、操作席46のピッチ角速度ωp'などの推移を示したものである。
同図に示すように、旋回体14が前傾姿勢になり、そのピッチ角速度ωp及びピッチ角θpが増大している状況下では、操作席46のピッチ角速度ωp’が旋回体のピッチ角速度ωpと同じになるように、駆動機構45の動作状態が制御される。これと同時に、図7に示すように、操作席46のピッチ角θp’もピッチ角θpと同様に増大するように、駆動機構45の動作状態が制御される。
その際、旋回体14のピッチ角θpが所定しきい値θp_lmt未満であるときには、指定条件判定処理において、指定条件フラグF_CONDIが「0」に設定され、動作状態制御処理において、通常制御処理が実行される。
そして、ピッチ角θpがさらに増大し、θp≧θp_lmtが成立したタイミング(時刻t1)で、指定条件フラグF_CONDIが「1」に設定され、指定制御処理が開始される。それにより、旋回体のピッチ角速度ωpが連続して増大し続けるのに対して、操作席46のピッチ角速度ωp’は不連続的に変化する。
具体的には、操作席46のピッチ角速度ωp’は、一時的に急減した後、反転して急増し、旋回体のピッチ角速度ωpと同じ値になるように急増する。この場合の操作席46のピッチ角速度ωp’の変化量は、オペレータ3に過度の不安感又は違和感を与えないような値に設定されている。
そして、ωp’=ωpが成立したタイミング(時刻t2)で、指定制御処理が終了し、指定条件フラグF_CONDIが「0」にリセットされると、それ以降、通常制御処理が実行される。
なお、作業機械10のロール角θrにおいて、|θr|≧θr_lmtが成立したときは、指定制御処理において、操作席46のロール角速度ωr’が以上のピッチ角速度ωp’と同様に制御される。また、作業機械10の油圧PoilにおいてPoil≧Plmtが成立したときには、指定制御処理において、操作席46のピッチ角速度ωp’及び/又はロール角速度ωr’が以上のピッチ角速度ωp’と同様に制御される。
以上のように、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、作業機械10の動作状況が、作業機械10を安定状態から不安定状態に遷移させるような指定条件を満しているとき、すなわち図4のSTEP3,5,6のいずれかがYESであるときには、図5の駆動状態制御処理において、指定制御処理が実行される。この指定制御処理では、操作席46のピッチ角速度ωp’が、旋回体14のピッチ角速度ωpよりも急減した後、旋回体14と同じ値まで急増するように、駆動機構45の動作状態が制御される。
これにより、操作席46に着座しているオペレータ3は、ピッチ角速度ωp’の急減及び急増に起因して、加速度の増減を体感することになり、慣性力が自身の体に2回作用するのを体感することになる。その結果、作業機械10の動作状況が作業機械10を安定状態から不安定状態に遷移させるような状況であることを、より明確にオペレータ3に認識させることができる。また、その際のピッチ角速度ωp’の変化量は、オペレータ3に過度の不安感又は違和感を与えないような値に設定されているので、上記の状況のみをオペレータ3に適切に認識させることができる。
なお、本実施形態の作業機械10の場合、作業機械10が平地に位置しているときでも、作業機械10の姿勢によっては、作業機械10の重心が安定領域から不安定領域に移動し、作業機械10が安定状態から不安定状態に移行することがある。
例えば、前述した図9に示すような、作業機械10が平地に位置しかつ安定状態の姿勢にある状態から、作業機械10のブーム13と旋回体14との間の角度、及びブーム13とアーム12との間の角度が増大側に変化すると、図11に示すように、作業機械10の重心が安定領域から不安定領域に移動し、作業機械10が安定状態から不安定状態に移行することがある。このような重心の移動は、上記2つの角度の変化に加えて、走行体15と旋回体14との間の角度の変化や、アーム12とアタッチメント11との間の角度にも起因して発生する。
したがって、作業機械10が平地に位置している場合でも、以下に述べるように、上述した指定制御(STEP14)を実行してもよい。まず、前述した手法によって、作業機械10の重心の位置を演算する。さらに、相対角度センサ26からの旋回体14と走行体15の相対角度などに基づいて、作業機械10の安定領域を算出する。
そして、作業機械10の重心が安定領域から外れているときすなわち不安定領域に移動したときには、図12に示すマップを検索することにより、操作席46の傾斜量(すなわち操作席46のピッチ角θp)を算出し、操作席46の実際の傾斜量が算出された傾斜量になるように、駆動機構45が制御される。この場合、図12のマップ値の設定により、重心が不安定領域により入り込むほど、操作席46の傾斜量がより増大するように、駆動機構45が制御される。また、作業機械10が若干、傾斜している場合において、重心が安定領域から不安定領域に移動したときには、操作席46の傾斜量が、図12のマップ値分だけ上乗せされるように、駆動機構45が制御される。
このような操作席46の傾斜量の増大制御に加えて、前述した図6に示す状態と同様に、操作席46のピッチ角速度ωp’が不連続的に変化するように、駆動機構45が制御される。以上のように、指定制御処理を実行した場合でも、作業機械10の動作状況が作業機械10を安定状態から不安定状態に遷移させるような状況であることをオペレータ3に認識させることができる。
なお、実施形態は、作業機械として、作業機械10を用いた例であるが、本発明の作業機械はこれに限らず、オペレータ3によって遠隔操作できるものであればよい。例えば、作業機械として、クレーン装置などを用いてもよい。
また、実施形態は、作業機械の動作状況として、ピッチ角θp、ロール角θr及び油圧Poilを用いた例であるが、本発明の作業機械の動作状況はこれらに限らず、作業機械の動作状況を表すものであればよい。例えば、作業機械の動作状況として、ピッチ角速度ωp及びロール角速度ωrを用いてもよい。その場合には、ピッチ角速度ωpが所定のしきい値以上になったとき、及び/又はロール角速度ωrが所定のしきい値以上になったときに、指定条件が満たされたと判定すればよい。
また、作業機械の動作状況として、油圧Poilの変動量(油圧Poilの今回値と前回値との偏差)や、エンジン回転数、エンジン回転数の変動量(エンジン回転数の今回値と前回値との偏差)などを用いてもよい。その場合には、油圧Poilの変動量が所定のしきい値以上になったときや、エンジン回転数が所定のしきい値以上になったとき、エンジン回転数の変動量が所定のしきい値以上になったときに、指定条件が満たされたと判定すればよい。また、油圧Poilとして、油圧回路の複数箇所における油圧Poilの値を用いてもよい。
さらに、作業機械の動作状況として、作業機械10の動作中、土砂がバケットタイプのアタッチメント11内に収容されている状態で、アーム12及びブーム13を伸ばした場合において、例えば、アーム12とブーム13との間の角度(劣角)が所定値以上になったときに、指定条件が満たされたと判定してもよい。
また、実施形態は、操作席46の駆動速度として、ピッチ角速度ωp’及びロール角速度ωr’を用いた例であるが、本発明の操作席の駆動速度はこれに限らず、駆動機構によって操作席が駆動されたときの速度であればよい。例えば、駆動速度として、操作席のヨー角速度や、前後左右方向の並進速度を用いてもよい。
一方、実施形態は、指定条件が満たされたときに、操作席46のピッチ角速度ωp’が一時的に急減した後、反転して旋回体のピッチ角速度ωpと同じ値まで急増するように、駆動機構45を制御した例であるが、指定条件が満たされたときに、操作席46の駆動速度が不連続的に変化するように、駆動機構45が制御される手法であればよい。例えば、操作席46のピッチ角速度ωp’が一時的に急増した後、反転して旋回体のピッチ角速度ωpと同じ値まで急減するように、駆動機構45を制御してもよい。
また、実施形態は、作業機側制御装置29及びマスタ側制御装置42が互いに無線通信を実行するように構成したが、これに代えて、両者が互いに有線通信を実行するように構成してもよい。