以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲がある場合は、数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
〔第1実施形態〕
図1~図7、及び図19を用いて、第1実施形態の時計部品としてのヒゲぜんまい10について説明する。
まず、図19を用いて、第1実施形態のヒゲぜんまい10が組み込まれた時計について説明する。図19に示されるように、時計100のコンプリートは、図示しないケース裏蓋、およびガラス102からなる時計ケース104内に、ムーブメント106と、時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板108と、時を示す時針110と、分を示す分針112と、秒を示す秒針114と、を備えている。文字板108には、日付Dを示す数字を明示させる日窓108Aが開口されている。
時計100は、機械式の腕時計である。ムーブメント106は、ヒゲぜんまい10(図1参照)が配置されたてんぷ(図示省略)を備えている。さらに、ムーブメント106は、他の時計部品であるアンクル(図示省略)、ガンギ車130(図12参照)等を備えている。
図1(A)、(B)に示されるように、ヒゲぜんまい10は、薄板ばねであり、複数の巻線を持った渦巻状のヒゲぜんまい本体部12と、ヒゲぜんまい本体部12の外周端部に配置されたヒゲ持ち16と、を備えている。さらに、ヒゲぜんまい10は、ヒゲぜんまい本体部12の中心部に配置されたヒゲ玉18を備えている。ヒゲぜんまい本体部12とヒゲ持ち16とヒゲ玉18とは一体に構成されている。ヒゲぜんまい10は、軸方向からみたときに、径方向に隣り合うヒゲぜんまい本体部12同士が略等間隔となるように配置されている。
ヒゲ持ち16は、略長円形状からなる環状の部材であり、中心部には略長円状の貫通孔16Aが形成されている。ヒゲ持ち16には、図示しないヒゲ持ち受を介しててんぷ受が連結されるようになっている。
ヒゲ玉18は、環状の部材であり、中心部には略円形状の貫通孔18Aが形成されている。ヒゲ玉18は、周方向の一部が開口19により分割されている。ヒゲ玉18には、後述するカナ54(図4(B)参照)が打ち込まれるようになっている。
図2(A)、(B)は、ヒゲぜんまい本体部12の一部を切断した斜視図及び断面図である。図2(A)、(B)に示されるように、ヒゲぜんまい本体部12は、シリコン材料で構成されたシリコン材22と、シリコン材22の厚み方向一方側の表面(図2中の上面)に形成された第1金属膜24と、第1金属膜24の上に形成された第2金属膜26と、第2金属膜26の上に形成された外側金属層28と、を備えている。また、ヒゲぜんまい本体部12は、シリコン材22の厚み方向他方側の裏面(図2中の下面)に順次形成された第1金属膜24と、第2金属膜26と、外側金属層28と、を備えている。第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層28とで金属積層体30が形成されている。ここで、金属積層体30は、金属層の一例である。
ヒゲぜんまい本体部12は、シリコン材22の厚み方向と直交する方向の両側に、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32を備えている。第1実施形態では、庇部32は、シリコン材22の両面(表面と裏面)に設けられている。なお、シリコン材22の裏面には、庇部34もある(図3(G)ご参照)。
シリコン材22は、シリコン基板としてのシリコンウエハ40(図3参照)をRIE(反応性イオンエッチング)等により加工して形成されている。シリコン材22の厚みは、例えば、50~200μmとされている。第1実施形態では、シリコン材22の厚みは約100μmである。
第1金属膜24の材料としては、例えば、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)などが用いられている。第1実施形態では、第1金属膜24として、クロムが用いられている。第1金属膜24の厚みは、例えば、10~500nmとされている。第1実施形態では、第1金属膜24の厚みは約50nmである。
第2金属膜26の材料としては、例えば、銅(Cu)、金(Au)、パラジウム(Pd)などが用いられている。第1実施形態では、第2金属膜26として、銅が用いられている。第2金属膜26の厚みは、例えば、10~500nmとされている。第1実施形態では、第2金属膜26の厚みは約100nmである。
外側金属層28の材料としては、例えば、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、パラジウム-ニッケル合金などが用いられる。第1の実施形態においては、ヒゲぜんまい10の特性向上を考慮し、温度特性をゼロに近づけることを考えると、外側金属層28の厚みは1.1μmが好ましい。これは、後述するが、シリコンのヤング率の温度係数が負の値であり、約-60×10-6(1/K)であるのに対し、パラジウム52%-ニッケル48%合金では、正の値であり、約2800×10-6(1/K)である。これらの値から、ヒゲぜんまい10を並列バネと考え、ヤング率および温度係数が、各々の厚みの比で決まると考えた場合、温度係数をゼロとするためには、シリコンとパラジウム52%-ニッケル48%合金の厚みの比率が100:2.2(両面合計)となることからこの値とした。
シリコン材22は、シリコンウエハ40(図3参照)をRIE(反応性イオンエッチング)等により加工して形成する際に、シリコン材22の側面22Aに切欠き又は縦筋等の欠陥23が生じる場合がある(図2参照)。ヒゲぜんまい10では、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32を設けることで、シリコン材22の側面22Aの欠陥23に力が集中することを抑制するようになっている。
シリコン材22の側面22Aからの庇部32の張り出し量は、0.5~20μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。庇部32の張り出し量が0.5μmより小さいと、シリコン材22の側面22Aに生じた切欠き等の欠陥23に力が集中することを抑制する効果が少なくなる。また、庇部32の張り出し量が10μmより大きいと、ヒゲぜんまい10の作動時に庇部32がヒゲぜんまい10のバネ性能に影響を与える場合がある。
次に、ヒゲぜんまい10の製造方法について説明する。
図3(A)に示されるように、シリコンウエハ40の表面(図3中の上面)と裏面(図3中の下面)に、シリコンウエハ40の側から順に、クロム膜からなる第1金属膜24と、銅膜からなる第2金属膜26を、例えばスパッタリング法で形成する。なお、第1金属膜24と第2金属膜26は、蒸着法などで形成してもよい。これにより、シリコンウエハ40の両面に、第1金属膜24と第2金属膜26とからなる導電層が形成される。
次いで、図3(B)に示されるように、シリコンウエハ40の両面(表面と裏面)の第2金属膜26上にポジ型レジスト材料をスピンコート法などにより塗布することで、ポジ型レジスト層42を所定の厚み(例えば、1μm)で形成する。なお、ポジ型レジスト材料に代えて、ネガ型レジスト材料を用いてもよい。
そして、シリコンウエハ40の両面側のポジ型レジスト層42を、所定のパターンが描画されたフォトマスクを用いて露光し、現像する。これにより、図3(C)に示されるように、所定の形状及び寸法のヒゲぜんまい10(図1参照)の部分に開口を有するパターン42Aを形成する。
次いで、図3(D)に示されるように、パターン42Aが形成されたポジ型レジスト層42をマスクとして、シリコンウエハ40の両面側にパラジウムめっきを施すことにより、シリコンウエハ40の両面(表面と裏面)の第2金属膜26上に外側金属層28を形成する。これにより、シリコンウエハ40の両面側にメタルマスク層としての機能を有する外側金属層28が形成される。その後、図3(E)に示されるように、パターン42Aが形成されたポジ型レジスト層42を剥離する。
次いで、図3(F)に示されるように、外側金属層28の間のシリコンウエハ40の両面に露出した第2金属膜26と第1金属膜24とからなる導電層をエッチングにより除去する。エッチングとしては、例えば、湿式エッチングなどが用いられる。また、第1金属膜24として、チタンやタンタルを用いる場合は、ドライエッチングなどを用いてもよい。これにより、シリコンウエハ40の両面に第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層28とで構成された所定のパターンの金属積層体30が形成される。ヒゲぜんまい10のヒゲ玉18(図1参照)では、シリコンウエハ40の表面と裏面の金属積層体30のパターンが異なる。第1実施形態では、シリコンウエハ40の裏面の隣り合う金属積層体30の間の開口46が、シリコンウエハ40の表面の隣り合う金属積層体30の間の開口48よりも小さい。
さらに、図3(G)に示されるように、金属積層体30をマスクとして、シリコンウエハ40の表面(図3中の上面)側からRIE(反応性イオンエッチング)によりシリコンウエハ40のエッチング加工を行う。これにより、金属積層体30の間のシリコンウエハ40がエッチングされ、所定のパターンのシリコン材22が形成される。このとき、金属積層体30の面方向端部の下側のシリコンウエハ40がエッチングされることで、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32、34が形成される。
シリコン材22の側面22Aからの庇部32、34の張り出し量が足りない場合は、フッ酸系又はアルカリ系のエッチング液によりシリコンウエハ40に湿式エッチング加工を行う。湿式エッチングは、等方性エッチングである。これにより、金属積層体30の面方向端部の下側のシリコンウエハ40がさらにエッチングされ、シリコン材22の側面22Aからの庇部32の張り出し量が大きくなる。上記のような工程により、金属積層体30で挟まれたシリコン材22を備えたヒゲぜんまい10が製造される。
次に、図4~図7を用いて、ヒゲぜんまい10のヒゲ玉18にカナを打ち込む工程について説明する。なお、図4及び図5では、構成を分かりやすくするため、金属積層体30を構成する層である第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層28の図示を省略している。
図4(A)、(B)に示されるように、ヒゲぜんまい10のヒゲぜんまい本体部12は、シリコン材22の両面に庇部32、34を備えている。また、ヒゲぜんまい10のヒゲ玉18では、シリコン材22の表面(図4中の上面)に庇部32を備えており、シリコン材22の裏面(図4中の下面)に庇部32、34を備えている。その際、ヒゲ玉18の貫通孔18Aでは、シリコン材22の表面に、貫通孔18Aの側に張り出した庇部32を備えており、シリコン材22の裏面に、貫通孔18Aの側に張り出した庇部34を備えている。シリコン材22の側面22Aからの庇部34の張り出し量は、シリコン材22の側面22Aからの庇部34の張り出し量よりも大きい。言い換えると、ヒゲ玉18では、シリコン材22の裏面の隣り合う庇部34の間の開口46が、シリコン材22の表面の隣り合う庇部32の間の開口48よりも小さい。
図4(B)に示されるように、打ち込み部材の一例としてのカナ54は、軸54Aと、軸54Aの軸方向の一端部側に設けられた歯車54Bと、軸54Aの軸方向の中間部に歯車54Bと隣接して設けられた取付部54Cと、を備えている。ここで、取付部54Cは、軸部の一例である。取付部54Cは、略円筒状であり、軸54Aの外周面に接合されている。取付部54Cの外径は、歯車54Bの外径よりも小さい。
また、図4(B)及び図6(B)に示されるように、取付部54Cの外径は、ヒゲ玉18の貫通孔18Aの内径よりも小さい。さらに、取付部54Cの外径は、シリコン材22の裏面の向かい合う庇部34の間の開口46の内径よりも大きい。庇部34の周方向の一部には、庇部34が面方向と交差する方向に塑性変形しやすいように、複数(第1実施形態では3つ)の切欠き部35が形成されている(図6(B)参照)。切欠き部35は、庇部34の周方向にほぼ等間隔で設けられている。なお、庇部34のコシが強い場合は、切欠き部35の数を増やし、庇部34を塑性変形しやすくしてもよい。
また、図6(A)に示されるように、取付部54Cの外径は、シリコン材22の表面の向かい合う庇部32の間の開口48の内径よりも小さい。庇部32の周方向の一部には、庇部32から貫通孔18Aの半径方向内側に突出した突出部33が形成されている。突出部33に接する仮想円の内径は、取付部54Cの外径よりも小さい。
図4(B)に示されるように、カナ54の取付部54Cは、ヒゲ玉18の庇部34の間の開口46(図4中の下側)からヒゲ玉18の貫通孔18Aに打ち込まれる。これにより、図5に示されるように、金属積層体30が張り出した庇部34が塑性変形してヒゲ玉18の貫通孔18A(シリコン材22の側面22Aの側)に入り込み、ヒゲ玉18の貫通孔18Aの壁面と取付部54Cとの隙間を塞ぐ変形部58が形成される。この変形部58により、カナ54の取付部54Cがヒゲ玉18の貫通孔18Aに保持されている(嵌合されている)。
金属積層体30の外側金属層28(図2(A)、(B)参照)をめっきで製作する場合、通常の金属に比べて、外側金属層28の硬度(例えば、ビッカース硬さ)が高くなる。このため、金属積層体30が張り出した庇部34が硬い場合は、レーザ等で庇部34を局所的に加熱し、再結晶又は結晶の粗大化を行うことにより、庇部34を軟化させてもよい。これにより、嵌合時のカナ54の取付部54Cの押込み抵抗を小さくすることができる。
また、図示を省略するが、カナ54の取付部54Cがヒゲ玉18の貫通孔18Aに打ち込まれたときに、突出部33は、塑性変形によりヒゲ玉18の貫通孔18Aと反対側に曲がる。このため、庇部34と突出部33により、カナ54の軸54Aの軸心がヒゲ玉18の貫通孔18Aの中心部に安定して保持され、ヒゲ玉18の貫通孔18Aに対するカナ54の軸54Aの位置決め(位置出し)が容易となる。
なお、第1実施形態では、図6(A)に示す突出部33が設けられているが、突出部33を設けない構成でもよい。
図7には、打ち込み部材の他の例としてのカナ60が示されている。図7に示されるように、カナ60は、軸54Aと、歯車54Bと、取付部60Aとを備えている。取付部60Aは、歯車54Bと反対側に向かうにしたがって外径が徐々に縮小されたテーパ面60Bを備えている。図示を省略するが、カナ60の取付部60Aをヒゲ玉18の貫通孔18Aに打ち込んでもよい。カナ60の取付部60Aは、先細り形状とされており、ヒゲ玉18の貫通孔18Aに挿入しやすいため、カナ60の取付部60Aの挿入時にヒゲ玉18を構成するシリコン材22が割れにくい。
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
ヒゲぜんまい10では、シリコン材22の厚み方向の両面に金属積層体30が設けられている。シリコン材22の厚み方向の両面には、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32、34が形成されている。
シリコン材22は、シリコンウエハ40(図3参照)をRIE(反応性イオンエッチング)等により加工して形成される際に、シリコン材22の側面22Aに切欠き又は縦筋等の欠陥23が生じる場合がある(図2(A)、(B)参照)。
一般的に、シリコンウエハは、本質的に脆く、劈開性を有するため、シリコンウエハの厚み方向と直交する方向(図2中の矢印A方向)に対して、強度が低く、強度のバラツキも大きい。このため、切欠き又は縦筋等の欠陥が開始位置(発生源)となって、シリコンウエハの割れや劈開が生じる可能性がある。
第1実施形態のヒゲぜんまい10では、図2(A)、(B)及び図3(G)に示されるように、シリコン材22の両面に金属積層体30と、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32、34とが形成されている。金属積層体30及び庇部32、34は、シリコン材22に対して延性及び展性に優れている。これにより、シリコン材22が金属積層体30及び庇部32、34により補強及び保護されるので、切欠き又は縦筋等の欠陥23に力が直接加わることが抑制され、シリコン材22の欠陥23による破壊が抑制される。このため、ヒゲぜんまい10の破壊強度が上昇する。したがって、低コストでヒゲぜんまい10の強度を上げることができる。
また、ヒゲぜんまい10では、ヒゲ玉18の貫通孔18Aを構成するシリコン材22に、金属積層体30が貫通孔18Aの側に張り出した庇部32、34が設けられている。そして、シリコン材22の貫通孔18Aにカナ54の取付部54Cが打ち込まれた状態で、庇部34が貫通孔18Aの側に塑性変形した変形部58により、取付部54Cがシリコン材22の貫通孔18Aに保持されている(図5参照)。このため、カナ54の取付部54Cをシリコン材22の貫通孔18Aに容易に位置決めすると共に、カナ54の取付部54Cをシリコン材22の貫通孔18Aに容易に固定することができ、生産性が向上する。
また、シリコン材22の両面に金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32、34が形成されているので、カナ54の取付部54Cをヒゲ玉18の貫通孔18Aに打ち込むときに、シリコン材22が切欠き又は縦筋等の欠陥23を開始位置として破壊するのを抑制することができる。
また、ヒゲぜんまい10では、シリコン材22は、ヤング率の温度係数が0~100℃の間で、ほぼ-60×10-6(1/K)の負の温度係数を有している。また、本実施形態の金属積層体30の外側金属層28は、パラジウム52%-ニッケル48%合金で形成されており、ヤング率の温度係数は、0~100℃の間で、ほぼ2800×10-6(1/K)であり、正の係数を有している。これにより、シリコン材22の上側と下側にパラジウム-ニッケル合金からなる外側金属層28を設けることで、負と正の温度係数を相殺し、温度係数を0に近づけることができる。本実施形態によれば、ヒゲぜんまい10の温度変化に対する精度が向上する。また、外側金属層28にパラジウムを用いることで、ヒゲぜんまい10の耐食性が向上する。
また、ヒゲぜんまい10の製造方法では、シリコンウエハ40の両面に所定のパターンの金属積層体30を形成する。そして、シリコンウエハ40をRIE(反応性イオンエッチング)により加工し、金属積層体30がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部32、34を形成する。このため、低コストでヒゲぜんまい10の強度を上げることができる。
さらに、庇部32、34の張り出し量が足りない場合は、反応性イオンエッチングの後に湿式めっきを施すことで、シリコン材22の側面22Aに対して庇部32、34をさらに張り出させることができる。これにより、庇部32、34により切欠き又は縦筋等の欠陥23に力が直接加わることがより確実に抑制され、ヒゲぜんまい10の破壊強度がさらに上昇する。
(補足)
ヒゲぜんまいにテンワを加えた場合の温度係数について
(1)基本的な考え方
機械式時計の遅れ・進みの温度による影響は、テンプを構成する材料としてのヒゲぜんまいの線熱膨張係数α1と、テンワの線熱膨張係数α2と、ヒゲぜんまいのヤング率の温度係数βと、により決まる。テンプの周期をTとし、温度による周期の変動をΔTとすると、その精度であるΔT/Tは、温度変化に比例し、その比例係数kは次式(1)で与えられる。
したがって、比例係数kの値をゼロに近づけることが時計としての精度を向上することにつながる。
一般に、テンワとして使われる材料は、その加工性から真鍮材が用いられるが、時計で使用されるものは、その線熱膨張係数がα2=21×10-6(1/K)である。一方、シリコンの線熱膨張係数は、結晶方位にもよるが、α1=3.9×10-6(1/K)である。上述のようにシリコンのヤング率の温度係数βは、β=-60×10-6(1/K)である。したがって、テンプを真鍮製のテンワとシリコン製のヒゲぜんまいとで作製すると、比例係数kは、k=45.15×10-6と、非常に大きな値となる。
このため、シリコンをヒゲぜんまいとして用いる場合、比例係数kをゼロに近づけるべく、ヤング率の温度係数が正の値であり、その値が+215×10-6(1/K)であるシリコン酸化膜をシリコンの表面に熱酸化法等により、その寸法に応じた厚み分だけ形成することが考えられる(例えば、特表2006-507454号公報)。また、シリコン酸化膜だけで比例係数kをゼロに近づけられない場合は、テンワを線熱膨張係数が小さな材質で形成することが考えられるが、多くの場合、加工が困難であり、コスト的に問題を生じている。
これに対し本実施形態では、シリコン製のヒゲぜんまい10の平坦平行をなす両面に、パラジウム52%-ニッケル48%合金の層を形成することにより、比例係数kをゼロに近づける。
具体的には、テンワの材料として、加工性が良い真鍮材(α2=21×10-6(1/K))を選択し、ヒゲぜんまい10におけるシリコン材22の厚みを150μmとする。この場合、外側金属層28の厚みをシリコン材22の表裏とも2.4μmとすることにより、比例係数kをほぼ、ゼロとすることができる。
本実施形態では、外側金属層28としてパラジウム52%-ニッケル48%合金を用いたが、ヤング率の温度係数βはパラジウムとニッケルとの組成を変えることにより、正の値、詳しくは0~2800×10-6(1/K)の範囲とすることができる。以上のように、本実施形態のひげぜんまい10を用いてテンプを形成する場合、外側金属層28の組成、厚み及び張り出し量の設定を調整することにより、必要な強度と所望とする温度特性とを得ることができる。
なお、パラジウム-ニッケル合金以外の材料として、白金(Pt)合金、パラジウム-金合金、ニオブ(Nb)合金等が挙げられる。外側金属層28の組成や厚みは、対象となるシリコン材22の形状及び寸法により決定される。また、外側金属層28の形成方法は、真空蒸着、スパッタリング等の気相成長法、及び湿式めっき法等を採用することができる。
(2)具体的なシミュレーション
上記比例係数kについて、シリコン及び金属層の厚みを考慮する。シリコンの線熱膨張係数をα1、温度係数をβ1、厚みをxとし、金属層の線熱膨張係数をα3、温度係数をβ3の片面厚みをyとし、テンワの線熱膨張係数α2とする。この場合、シリコンの両面に厚みyの層を形成すると比例係数kは、次式(2)で近似できる。
したがって、比例係数kをゼロとして、yについて解くと次式(3)のとおりとなる。
ここで、テンワ及び金属層の材質を変えた場合の金属層の厚さyを求めると表1のとおりとなる。
ケース1はテンワの材質が真鍮であり、金属層の材質がパラジウム52%-ニッケル48%合金の例である。ケース2はテンワの材質がチタンであり、金属層の材質がパラジウム52%-ニッケル48%合金の例である。ケース3はテンワの材質が真鍮であり、金属層の材質がパラジウム50%-ニッケル50%合金の例である。
以上のように、テンワ及び金属層の材質を変えることにより、シリコン材22に形成する外側金属層28の厚みを調整することができる。ヒゲぜんまい10におけるシリコン材22の厚さが薄くなる程、強度が下がるが、金属層である外側金属層28を厚くし、かつ張り出し量を大きくするように形成することで、ヒゲぜんまい10全体としての強度を確保することができる。
〔第2実施形態〕
次に、図8~図10を用いて、第2実施形態の時計部品としてのヒゲぜんまいについて説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
図8に示されるように、ヒゲぜんまい70では、シリコン材22の厚み方向の両面に金属積層体72が設けられている。シリコン材22の厚み方向の両面には、金属積層体72がシリコン材22の側面22Aから張り出した庇部74、76が形成されている。金属積層体72の厚みは、第1実施形態の金属積層体30の厚みよりも薄い。このとき、金属積層体72の厚みは、打ち込み部材としてのカナ80の軸80Aが押し込まれても、シリコン材22が割れない程度の厚みに設定されている。また、ヒゲ玉18では、シリコン材22の側面22Aからの庇部76の張り出し量が、庇部74の張り出し量よりも大きい。
カナ80は、軸部としての軸80Aと、軸80Aに接合された歯車54Bと、を備えている。カナ80には、第1実施形態のカナ54のような取付部54C(図4参照)は設けられていない。図示を省略するが、カナ80の軸80Aの外径と庇部74、76等との寸法関係は、図6(A)、(B)に示すカナ54の取付部54Cと庇部32、34等との寸法関係と同じである。
図8に示されるように、カナ80の軸80Aは、ヒゲ玉18の庇部76の間の開口46(図9中の下側)からヒゲ玉18の貫通孔18Aに打ち込まれる。これにより、図9に示されるように、金属積層体72が張り出した庇部76が塑性変形してヒゲ玉18の貫通孔18A(シリコン材22の側面22Aの側)に入り込み、変形部78が形成される。変形部78は、金属積層体72から上側に折れ曲がっている。
変形部78が小さく、カナ80の軸80Aとヒゲ玉18の貫通孔18Aとの嵌合状態が弱い場合は、図10に示されるように、ヒゲ玉18の上側(図10中の上側)から軸80Aとヒゲ玉18の貫通孔18Aとの隙間に接着剤84を充填して固める。嵌合状態が弱くても、庇部76の変形による変形部78と突出部33(図6(A)の変形により、軸80Aの軸心がヒゲ玉18の貫通孔18Aに対して位置決め(位置出し)されるため、ヒゲ玉18の貫通孔18Aに対する軸80Aのブレ等は小さい(図6(A)、(B)参照)。このため、軸80Aの軸心が貫通孔18Aの中心部に配置されると共に、貫通孔18Aの軸方向に沿って軸80Aの軸心が垂直方向に配置される。
このとき、カナ80の軸80Aとヒゲ玉18の上側の庇部74との間から接着剤84を充填しやすくするため、突出部33(図6(A)参照)の大きさを小さくすることが好ましい。また、ヒゲ玉18の下側の庇部76からの接着剤84の流れ出しを抑えるために、切欠き部35(図6(B)参照)の幅を小さくすることが好ましい。
上記のヒゲぜんまい70では、ヒゲ玉18の貫通孔18Aにカナ80の軸80Aが打ち込まれた状態で、庇部76がシリコン材22の側面22Aの側に塑性変形した変形部78と、軸80Aとシリコン材22との間に充填された接着剤84により、軸80Aがヒゲ玉18の貫通孔18Aに保持されている。このため、カナ80の軸80Aをヒゲ玉18の貫通孔18Aに容易に固定することができ、生産性が向上する。
また、接着剤84は、軸80Aの軸方向の変形部78の逆側から軸80Aとシリコン材22との間に充填されている。これにより、接着剤84を充填する際に、接着剤84の流れを変形部78により抑えることができ、カナ80の不要な部分への接着剤84のはみ出しが抑制される。
図20には、比較例に係るヒゲぜんまい300の一部が示されている。図20に示されるように、ヒゲぜんまい300のヒゲぜんまい本体部12とヒゲ玉18は、シリコン材302で形成されている。シリコン材302の両面には、金属層は形成されていない。
ヒゲぜんまい300では、ヒゲ玉18の貫通孔18Aにカナ80の軸80Aを打ち込む際に、シリコン材302が割れやすく、ヒゲ玉18の貫通孔18Aに対して軸80Aがふらつき、ヒゲ玉18の鉛直方向に対して軸80Aが斜めになることがある。このため、ヒゲ玉18の貫通孔18Aとカナ80の軸80Aとの間に接着剤84を充填したときに、接着剤84がヒゲ玉18の下部からはみ出やすい。
これに対して、第2実施形態では、軸80Aの軸方向の変形部78の逆側から軸80Aとシリコン材22との間に接着剤84を充填するので、変形部78により接着剤84の流れ出しを抑制することができる。
〔第1、第2実施形態の変形例〕
次の図11(A)に示す庇部の形態の第1例、図11(B)に示す庇部の形態の第2例は、第1実施形態、第2実施形態にそれぞれ適用することができる。
図11(A)には、RIE(反応性イオンエッチング)の最初にめっき(電解めっき又は無電解めっき)を施した場合の庇部32の形態の第1例が示されている。図11(A)に示されるように、RIE(反応性イオンエッチング)の最初に外側金属層92のめっき(電解めっき又は無電解めっき)を施した場合には、第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層92とで構成された金属積層体94により、シリコン材90の側面90Aから張り出した庇部32が形成される。この庇部32は、外側金属層92がシリコン材90の側面90Aの側に回り込まない形状とされている。このような庇部32の形態では、庇部32をシリコン材90の側面90Aから張り立たせるために、RIE(反応性イオンエッチング)の後に、シリコン材90を湿式エッチング加工してもよい。エッチング液は、例えば、フッ化水素酸や、濃度が約30%の水酸化ナトリウムの水溶液などが用いられる。これにより、庇部32の下側のシリコン材90の側面90Aがエッチングされ、金属積層体94をシリコン材90の側面90Aに対してさらに張り出させることができる。
図11(B)には、RIE(反応性イオンエッチング)の後にめっき(電解めっき又は無電解めっき)を施した場合の庇部32の形態の第2例が示されている。図11(B)に示されるように、RIE(反応性イオンエッチング)の後に外側金属層96のめっき(電解めっき又は無電解めっき)を施した場合には、外側金属層96がシリコン材90の側面90Bの側に回り込む。これにより、シリコン材90の表面に第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層96とで構成された金属積層体98が形成されると共に、シリコン材90の厚み方向の面(上面)から外側金属層96がシリコン材90の側面90Aの一部にかけて覆うことで、外側金属層96がシリコン材90の側面90Bから張り出した庇部32が形成される。庇部32の外面は、シリコン材90の上面からシリコン材90の側面90Aの一部を覆うように湾曲した形状となる。このような庇部32の形態では、RIE(反応性イオンエッチング)の後に、シリコン材90を湿式エッチング加工しなくてもよい。
〔第3実施形態〕
次に、図12~図14を用いて、第3実施形態の時計部品としてのガンギ車について説明する。なお、第3実施形態において、第1及び第2実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
図12に示されるように、ガンギ車130は、円環状のリム部132と、リム部132の内側に配置されたハブ部134と、リム部132とハブ部134とを連結する複数(第3実施形態では4本)のスポーク部136と、を備えている。複数のスポーク部136は、ハブ部134の外周縁からリム部132の内周縁に向かって放射状に延在している。リム部132の周縁部には、歯部138が形成されている。歯部138は、ガンギ車130の径方向外側に向かって突出され、ガンギ車130の周方向に沿って所定の間隔を空けて複数配置されている。ハブ部134は、略円形状に形成されており、ハブ部134の中心部には、貫通孔135が形成されている。ハブ部134の貫通孔135には、打ち込み部材としての軸部(図示省略)が打ち込まれるようになっている。
図13に示されるように、ガンギ車130の歯部138は、シリコン材142と、シリコン材142の厚み方向の両面(表面と裏面)に形成された金属層としての金属積層体144と、を備えている。さらに、ガンギ車130の歯部138は、シリコン材142の厚み方向と直交する方向の両側に、金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146を備えている。第3実施形態では、庇部146は、シリコン材142の両面(表面と裏面)に設けられている。
歯部138を構成するシリコン材142の先端面は、アンクルのつめ石190(図17参照)が摺動する摺動面150とされている。シリコン材142の摺動面150とつめ石190とが摺動しやすいように、シリコン材142の摺動面150の厚み方向の両側には、金属積層体144を凹ませた凹部152が設けられている。すなわち、シリコン材142の摺動面150の上下では、金属積層体144が摺動面150から張り出しておらず、金属積層体144が凹部152によって摺動面150から後退している。言い換えると、ガンギ車130では、シリコン材142の両面に設けられた金属積層体144の一部に、金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146が設けられている。
なお、図示を省略するが、ガンギ車130の歯部138以外の他の部分も、シリコン材142と、シリコン材142の両面(表面と裏面)に形成された金属積層体144と、金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146と、を備えている。
次に、ガンギ車130の製造方法について説明する。なお、図14は、ガンギ車130の製造方法を分かりやすくするために、寸法関係が実際とは異なる模式的な断面図とされている。
図14(A)に示されるように、シリコンウエハ40の両面に、シリコンウエハ40の側から順に、クロム膜からなる第1金属膜24と、銅膜からなる第2金属膜26を、例えばスパッタリング法や蒸着法で形成する。
次いで、図14(B)に示されるように、シリコンウエハ40の両面の第2金属膜26上に、例えば、ポジ型レジスト材料を塗布することで、ポジ型レジスト層42を所定の厚み(例えば、1μm)で形成する。そして、シリコンウエハ40の両面側のポジ型レジスト層42を、所定のパターンが描画されたフォトマスクを用いて露光し、現像する。これにより、図14(C)に示されるように、所定の形状及び寸法のガンギ車130(図12参照)以外の部分に開口を有するパターン42Bを形成する。
次いで、図14(D)に示されるように、ポジ型レジスト層42のパターン42Bをマスクとして、第2金属膜26、第1金属膜24の順にエッチング加工を行う。
そして、図14(E)に示されるように、ポジ型レジスト層42を剥離する。これにより、ガンギ車130(図12参照)の形状及び寸法の第2金属膜26及び第1金属膜24のパターン27が形成される。
次いで、第2金属膜26及び第1金属膜24のパターン27が形成されたシリコンウエハ40をパラジウム(Pd)触媒液に浸漬し、水洗した後、無電解ニッケルめっき液に浸漬する。これにより、図14(F)に示されるように、第2金属膜26の上に、例えば、厚みが約10μmのニッケルめっき層からなる外側金属層28を形成する。これにより、シリコンウエハ40の両面に、ガンギ車130(図12参照)の形状及び寸法の第1金属膜24と第2金属膜26と外側金属層28とで構成された金属積層体144が形成される。
さらに、図14(G)に示されるように、金属積層体144をマスクとして、シリコンウエハ40の表面(図14中の上面)側からRIE(反応性イオンエッチング)によりシリコンウエハ40のエッチング加工を行う。これにより、金属積層体144の間のシリコンウエハ40がエッチングされ、所定のパターンのシリコン材142が形成される。このとき、金属積層体144の面方向端部の下側のシリコンウエハ40がエッチングされることで、金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146が形成される。以上のような工程により、ガンギ車130が製造される。
上記のガンギ車130では、シリコン材142の両面に金属積層体144が形成され、さらに金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146が形成されている。これにより、シリコン材142が金属積層体144及び庇部146により補強及び保護されるので、切欠き又は縦筋等の欠陥に力が直接加わることが抑制され、シリコン材142の欠陥による破壊が抑制される。このため、ガンギ車130の破壊強度が上昇する。したがって、低コストでガンギ車130の強度を上げることができる。
なお、第1実施形態と同じ構成による他の効果については、記載を省略する。
〔第4実施形態〕
次に、図15を用いて、第4実施形態の時計部品としてのガンギ車について説明する。なお、第4実施形態において、第1~第3実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
図15に示されるように、ガンギ車160の歯部162は、シリコン材142と、シリコン材142の両面(表面と裏面)に形成された金属積層体144と、金属積層体144がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部146と、を備えている。歯部162の先端部では、シリコン材142の側面としての先端面142Bの厚み方向の両側に、金属積層体144が先端面142Bから張り出した庇部146が設けられている。
上記のガンギ車160でも、第1実施形態と同様の構成により、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、ガンギ車160では、シリコン材142の先端面142Bから張り出した庇部146がアンクルのつめ石190(図17参照)に接触するため、庇部146とつめ石190との接触面積が小さくなり、摩擦係数が下がる。このため、庇部178とつめ石190とを相対的にスムーズに摺動させることができる。
〔第5実施形態〕
次に、図16~図18を用いて、第5実施形態の時計部品としてのガンギ車について説明する。なお、第5実施形態において、第1~第4実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
図16に示されるように、ガンギ車170の歯部172は、シリコン材142と、シリコン材142の両面(表面と裏面)に形成された金属積層体174と、金属積層体174がシリコン材142の側面142Aから張り出した庇部176と、を備えている。歯部172の先端部では、シリコン材142の先端面142Bの厚み方向の両側に、金属積層体144が先端面142Bから張り出した庇部178が設けられている。
庇部176は、金属積層体174を構成する外側金属層(図示省略)を無電解めっき法により形成することで、外側金属層がシリコン材142の側面142Aの一部を覆うように回り込んだ形状とされている。言い換えると、庇部176は、シリコン材142の厚み方向の面からシリコン材142の側面142Aの一部にかけて覆っており、庇部176の外面が湾曲した形状とされている。庇部176は、例えば、無電解ニッケル-ホウ素めっきにより形成されている。庇部176の硬さ(ビッカース硬さ)Hvは、例えば、700である。ここで、ビッカース硬さは、押込み硬さの一種であり、頂角136度の正四角錐のダイヤモンドでできた剛体(圧子)を被試験物に対して押込み、そのときにできるくぼみ(圧痕)の表面積でその荷重を除した値で表す。ビッカース硬さの測定は、例えば、JIS G 0562に基づいて行った。
図16及び図17に示されるように、歯部172の先端部では、シリコン材142の先端面142Bの厚み方向の両側に、金属積層体144が先端面142Bから張り出した庇部178が設けられている。庇部178は、シリコン材142の厚み方向の面からシリコン材142の先端面142Bの一部にかけて覆っており、庇部178の外面が湾曲した形状とされている。庇部178は、例えば、無電解ニッケル-ホウ素めっきにより形成された庇部をレーザで局所加熱することによって形成されている。庇部178は、レーザで局所加熱することにより、庇部176よりも硬くなる。庇部178の硬さ(ビッカース硬さ)Hvは、例えば、1100~1200である。
図17に示されるように、歯部172の先端部では、シリコン材142の先端面142Bの両側の庇部178がアンクルのつめ石190の摺動面190Aと接触している。この状態で、シリコン材142の厚み方向の両側の庇部178とつめ石190の摺動面190Aとが、それぞれ矢印B、Cに示す方向に回転することで、シリコン材142の厚み方向の両側の庇部178とつめ石190の摺動面190Aとが摺動する。ここで、アンクルのつめ石190は、他の部材の一例である。
上記のガンギ車170では、庇部176は、シリコン材142の厚み方向の面からシリコン材142の側面142Aの一部にかけて覆っている。また、庇部178は、シリコン材142の厚み方向の面からシリコン材142の先端面142Bの一部にかけて覆っている。これにより、シリコン材142の切欠き又は縦筋等の欠陥(図示省略)に力が直接加わることがより確実に抑制され、ガンギ車170の破壊強度がさらに上昇する。
また、ガンギ車170では、庇部178がつめ石190の摺動面190Aに接触する構成とされており、庇部178と摺動面190Aとの接触部の面積が小さいので、摩擦係数が下がる。このため、庇部178と摺動面190Aとを相対的にスムーズに摺動させることができる。さらに、庇部178の硬度を庇部176の硬度よりも高くすることで、庇部178の耐摩耗性が向上する。
また、図18に示されるように、シリコン材142の先端面142Bとつめ石190の摺動面190Aとの間に、潤滑油180を保持又は溜めるようにしてもよい。これにより、庇部178と摺動面190Aとの間に、潤滑油180が入り込み、庇部178と摺動面190Aとをさらにスムーズに摺動させることができる。
〔補足説明〕
なお、第1~第5実施形態では、時計部品として、ヒゲぜんまい又はガンギ車の例が示されているが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、アンクルなどの時計部品にも本発明を適用することができる。
また、第1~第5実施形態では、シリコン材の両面に金属層としての金属積層体と、金属積層体がシリコン材の側面から張り出した庇部とが設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、シリコン材の片面に金属層としての金属積層体と、金属積層体がシリコン材の側面から張り出した庇部とを備える構成でもよい。
また、第1、第2、第4及び第5実施形態では、シリコン材の金属層としての金属積層体のほぼ全体に、金属積層体がシリコン材の側面から張り出した庇部が設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、シリコン材の金属積層体の一部に、金属積層体がシリコン材の側面から張り出した庇部を備える構成でもよい。
なお、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。