以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。実施形態としては、10台の室内機が室外機に並列に接続され、全ての室内機で同時に冷房運転あるいは暖房運転が行える空気調和装置を例に挙げて説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
図1(A)に示すように、本実施形態における空気調和装置1は、1台の室外機2と、室外機2に液管8およびガス管9で並列に接続された10台の室内機5-1~5-10(図1(A)では、これらのうちの2台のみを描画している)とを備えている。より詳細には、室外機2の閉鎖弁25と各室内機5の液管接続部53とが液管8で接続されている。また、室外機2の閉鎖弁26と各室内機5のガス管接続部54とがガス管9で接続されている。このように、室外機2と10台の室内機5とが液管8およびガス管9で接続されて、空気調和装置1の冷媒回路10が形成されている。
<室外機の構成>
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機21と、四方弁22と、室外熱交換器23と、室外機膨張弁24と、液管8が接続された閉鎖弁25と、ガス管9が接続された閉鎖弁26と、アキュムレータ27と、室外機ファン28と、室外機制御手段200とを備えている。そして、室外機ファン28と室外機制御手段200とを除くこれら各装置が、以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて冷媒回路10の一部をなす室外機冷媒回路20を形成している。
圧縮機21は、インバータにより回転数が制御される図示しないモータによって駆動されることで、運転容量を可変できる能力可変型圧縮機である。圧縮機21の冷媒吐出側は、後述する四方弁22のポートaと吐出管41で接続されている。また、圧縮機21の冷媒吸入側は、アキュムレータ27の冷媒流出側と吸入管42で接続されている。
四方弁22は、冷媒回路10における冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機21の冷媒吐出側と吐出管41で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と冷媒配管43で接続されている。ポートcは、アキュムレータ27の冷媒流入側と冷媒配管46で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26と室外機ガス管45で接続されている。
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外機ファン28の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気を熱交換させるものである。上述したように、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と四方弁22のポートbが冷媒配管43で接続されている。また、室外熱交換器23の他方の冷媒出入口と閉鎖弁25が室外機液管44で接続されている。室外熱交換器23は、空気調和装置1が冷房運転を行う場合は凝縮器として機能し、空気調和装置1が暖房運転を行う場合は蒸発器として機能する。
室外機膨張弁24は、室外機液管44に設けられている。室外機膨張弁24は、図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁であり、パルスモータに与えられるパルス数によって開度が調整されることで、室外熱交換器23に流入する冷媒量、あるいは、室外熱交換器23から流出する冷媒量が調整される。室外機膨張弁24の開度は、空気調和装置1が暖房運転を行っている場合は、室外熱交換器の冷媒出口側における冷媒過熱度が後述する目標冷媒過熱度となるようにその開度が調整される。また、室外機膨張弁24の開度は、冷房運転を行っている場合は全開とされる。
アキュムレータ27は、前述したように、冷媒流入側が四方弁22のポートcと冷媒配管46で接続されるとともに、冷媒流出側が圧縮機21の冷媒吸入側と吸入管42で接続されている。アキュムレータ27は、冷媒配管46からアキュムレータ28の内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離してガス冷媒のみを圧縮機21に吸入させる。
室外機ファン28は樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外機ファン28は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。図1(A)に示すように、吐出管41には、圧縮機21から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力センサ31と、圧縮機21から吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度センサ33が設けられている。冷媒配管46におけるアキュムレータ28の冷媒流入口近傍には、圧縮機21に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力センサ32と、圧縮機21に吸入される冷媒の温度を検出する吸込温度センサ34とが設けられている。
室外機液管44における室外熱交換器23と室外機膨張弁24との間には、室外熱交換器23に流入する冷媒の温度、あるいは、室外熱交換器23から流出する冷媒の温度を検出するための熱交温度センサ35が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ36が備えられている。
また、室外機2には、本発明の制御手段である室外機制御手段200が備えられている。室外機制御手段200は、室外機2の図示しない電装品箱に格納された制御基板に搭載されており、図1(B)に示すように、CPU210と、記憶部220と、通信部230と、センサ入力部240とを備えている。
記憶部220は、例えばフラッシュメモリであり、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機21や室外機ファン28の駆動状態、各室内機5から送信される運転情報(運転/停止情報、冷房/暖房等の運転モード等を含む)や室外機2の定格能力および各室内機5の要求能力を記憶する。通信部230は、各室内機5との通信を行うインターフェイスである。センサ入力部240は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU210に出力する。
CPU210は、センサ入力部240を介して各種センサでの検出値を定期的(例えば、30秒毎)に取り込むとともに、各室内機5から送信される運転情報を含む信号が通信部230を介して入力される。CPU210は、これら入力された各種情報に基づいて、室外機膨張弁24の開度調整、圧縮機21や室外機ファン28の駆動制御を行う。
<各室内機の構成>
次に、10台の室内機5-1~5-10について説明する。10台の室内機5-1~5-10は全て同じ構成を有しており、室内熱交換器51と、室内機膨張弁52と、液管接続部53と、ガス管接続部54と、室内機ファン55とを備えている。そして、室内機ファン55を除くこれら各構成装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室内機冷媒回路50を構成している。
室内熱交換器51は、冷媒と、後述する室内機ファン55の回転により図示しない吸込口から室内機5の内部に取り込まれた室内空気を熱交換させるものである。室内熱交換器51の一方の冷媒出入口と液管接続部53とが室内機液管71で接続され、他方の冷媒出入口とガス管接続部54aとが室内機ガス管72で接続されている。室内熱交換器51は、空気調和装置1が冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、空気調和装置1が暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。尚、液管接続部53やガス管接続部54は、各冷媒配管が溶接やフレアナット等により接続されている。
室内機膨張弁52は、室内機液管71に設けられている。室内機膨張弁52は電子膨張弁であり、室内熱交換器51が蒸発器として機能する場合すなわち室内機5が冷房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51の冷媒出口(ガス管接続部54側)での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように調整される。また、室内機膨張弁52は、室内熱交換器51が凝縮器として機能する場合すなわち室内機5が暖房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51の冷媒出口(液管接続部53側)での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように調整される。ここで、目標冷媒過熱度や目標冷媒過冷却度とは、室内機5-1~5-10の各々で十分な冷房能力あるいは暖房能力を発揮するのに必要な冷媒過熱度および冷媒過冷却度である。
室内機ファン55は樹脂材で形成されており、室内熱交換器51の近傍に配置されている。室内機ファン55は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機5の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器51において冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ放出する。
以上説明した構成の他に、室内機5には各種のセンサが設けられている。室内機液管71における室内熱交換器51と室内機膨張弁52との間には、室内熱交換器51に流入あるいは室内熱交換器51から流出する冷媒の温度を検出する液側温度センサ61が設けられている。室内機ガス管72には、室内熱交換器51から流出あるいは室内熱交換器51に流入する冷媒の温度を検出するガス側温度センサ62が設けられている。室内機5の図示しない吸込口付近には、室内機5の内部に流入する室内空気の温度を検出する室内温度センサ63が備えられている。
<冷媒回路の動作>
次に、本実施形態における空気調和装置1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れや各部の動作について、図1(A)を用いて説明する。尚、以下の説明ではまず、空気調和装置1が暖房運転を行う場合について説明し、次に、空気調和装置1が冷房運転を行う場合について説明する。尚、図1(A)における実線矢印は、暖房運転時の冷媒の流れを示している。また、図1(A)における破線矢印は、冷房運転時の冷媒の流れを示している。
<暖房運転>
図1に示すように、空気調和装置1が暖房運転を行う場合は、四方弁22が実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdとが連通するように、また、ポートbとポートcとが連通するように切り換えられる。これにより、冷媒回路10は、各室内熱交換器51が凝縮器として機能するとともに、室外熱交換器23が蒸発器として機能する暖房サイクルとなる。
冷媒回路10が暖房サイクルとして機能する状態で圧縮機21が駆動すると、圧縮機21から吐出された冷媒は、吐出管41を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から室外機ガス管45を流れて、閉鎖弁26を介してガス管9へと流入する。
ガス管9を流れる冷媒は、各ガス管接続部54を介して室内機5-1~5-10に分流する。室内機5-1~5-10に流入した冷媒は、各室内機ガス管72を流れて各室内熱交換器51に流入する。各室内熱交換器51に流入した冷媒は、各室内機ファン55の回転により各室内機5の内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って凝縮する。
このように、各室内熱交換器51が凝縮器として機能し、各室内熱交換器51で冷媒と熱交換を行って加熱された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機5-1~5-10が設置された室内の暖房が行われる。
各室内熱交換器51から各室内機液管71に流入した冷媒は、各室内熱交換器51の冷媒出口側での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように開度が調整された各室内機膨張弁52を通過する際に減圧される。ここで、目標冷媒過冷却度は、室内機5-1~5-10の各々で要求される暖房能力に基づいて定められるものである。また、暖房能力は、各室内機5-1~5-10において、設定された設定温度と検出した室内温度との温度差に基づいて決定されるものである。
各室内機膨張弁52で減圧された冷媒は、各室内機液管71から各液管接続部53を介して液管8に流出する。液管8で合流し閉鎖弁25を介して室外機2に流入した冷媒は室外機液管44を流れ、室外熱交換器23の冷媒出口側での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように開度が調整された室外機膨張弁24を通過する際にさらに減圧される。ここで、目標冷媒過熱度は、予め試験などを行って求められて、室外機制御手段200の記憶部220に記憶されているものであり、暖房運転時に蒸発器として機能する室外熱交換器23の冷媒出口側における冷媒過熱度を目標冷媒過熱度とすれば、液バックが発生しないことが確認できている値である。
室外機膨張弁24で減圧された冷媒は、室外機液管44を流れて室外熱交換器23に流入し、最大回転数とされている室外機ファン28の回転によって室外機5の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器23から冷媒配管43へと流入した冷媒は、四方弁22、冷媒配管46、アキュムレータ27、吸入管42の順に流れ、圧縮機21に吸入されて再び圧縮される。
<冷房運転>
空気調和装置1が冷房運転を行う場合は、図1(A)に示すように、四方弁22が破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbとが連通するように、また、ポートcとポートdとが連通するように切り換えられる。これにより、冷媒回路10は、各室内熱交換器51が蒸発器として機能するとともに、室外熱交換器23が凝縮器として機能する暖房サイクルとなる。
冷媒回路10が冷房サイクルとして機能する状態で圧縮機21が駆動すると、圧縮機21から吐出された冷媒は、吐出管41を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から冷媒配管43を介して室外熱交換器23へと流入する。室外熱交換器23へと流入した冷媒は、室外機ファン28の回転によって室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って凝縮する。室外熱交換器23から室外機液管44へと流出した冷媒は、開度が全開とされている室外機膨張弁24を通過し、閉鎖弁25を介して液管8に流出する。
液管8を流れる冷媒は、各液管接続部53を介して室内機5-1~5-10に流入する。室内機5-1~5-10に流入した冷媒は各室内機液管71を流れ、各室内熱交換器51の各々の冷媒出口での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように開度が調整された各室内機膨張弁52を通過する際に減圧される。ここで、目標冷媒過熱度は、室内機5-1~5-10の各々で要求される冷房能力に基づいて定められるものである。また、冷房能力は、各室内機5-1~5-10において、設定された設定温度と検出した室内温度との温度差に基づいて決定されるものである。
各室内機液管71から各室内熱交換器51に流入した冷媒は、各室内機ファン55の回転により室内機5-1~5-10の内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って蒸発する。このように、各室内熱交換器51が蒸発器として機能し、各室内熱交換器51で冷媒と熱交換を行って冷却された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機5-1~5-10が設置された室内の冷房が行われる。
各室内熱交換器51から各室内機ガス管72に流出した冷媒は、各ガス管接続部54を介してガス管9に流出する。ガス管9で合流し閉鎖弁26を介して室外機2に流入した冷媒は、室外機ガス管45、四方弁22、冷媒配管46、アキュムレータ27、吸入管42の順に流れ、圧縮機21に吸入されて再び圧縮される。
<室内機の要求する空調能力に応じた圧縮機制御>
ここまでに説明した本実施形態の空気調和装置1は、室内機5-1~5-10毎に、使用者が設定した空調運転時の室内温度の目標値である設定温度(以降、設定温度Tpと記載する)から室内温度センサ63で検出した室内温度(以降、室内温度Trと記載する)を減じた温度差(以降、温度差ΔTと記載する)を算出する。そして、各温度差ΔTの中で一番大きい温度差ΔTに基づいた要求能力、つまり、室内機5-1~5-10が要求する空調能力(暖房運転時は暖房能力/冷房運転時は冷房能力)のうちの最大要求能力をシステム要求能力とし、このシステム要求能力に基づいて目標蒸発温度あるいは目標凝縮温度が設定されて、これら目標蒸発温度あるいは目標凝縮温度が実現できるように圧縮機21の回転数が制御される。このように、目標蒸発温度あるいは目標凝縮温度が実現できるように圧縮機21の回転数が制御されることで、最大要求能力となっている室内機と、これ以外の要求する空調能力が最大要求能力より小さい室内機とに、各々で必要となる量の冷媒が供給される。
図2に示すのは、各室内機5-1~5-10で設定された設定温度Tpや各室内機5-1~5-10の室内温度センサ63で検出した室内温度Trなどを、室内機5-1~5-10毎に記憶する室内機運転状態テーブル300である。尚、図2では、一例として空気調和装置1が暖房運転を行っている場合の室内機運転状態テーブル300を示している。この室内機運転状態テーブル300は、室外機制御手段200の記憶部220に記憶されている。
具体的には、室内機運転状態テーブル300には、室内機5-1~5-10毎に、室内機5-1~5-10の番号(ここでは、室内機5-1は「1」というように、記号の末尾としている)、運転モード(ここでは、全て「暖房」となっている)、設定温度Tp(単位:℃)、室内温度Tr(単位:℃)、設定温度Tpと室内温度Trとの温度差(単位:℃。以降、温度差ΔTと記載する)、室内機5-1~5-10のうち温度差ΔTが一番大きくて要求する空調能力(ここでは、暖房能力)が最大(以降、最大要求能力と記載する場合がある)を要求している室内機であるか否かを「該当」/「非該当」で示す最大要求能力室内機、および、後述する要求能力無視条件が成立して上述した温度差ΔTが一番大きい室内機が要求する最大要求能力を無視するか否かを「適用」/「非適用」で示す能力無視適用の6つの項目が記憶されている。
室外機制御手段200のCPU210は、室内機5-1~5-10の各々で設定温度Tpが変更されたことを含む信号を通信部230を介して取り込む度に、また、室内機5-1~5-10の各々で室内温度センサ63が検出した室内温度Trを定期的(例えば、3分毎)に取り込む度に、室内機運転状態テーブル300の設定温度Tpや室内温度Trの項目を更新する。また、CPU210は、設定温度Tpや室内温度Trを取り込む度に、温度差ΔTを算出して室内機運転状態テーブル300の温度差ΔTの項目を更新する。尚、温度差ΔTは、暖房運転時は設定温度Tpから室内温度Trを減じることとし、冷房運転時は室内温度Trから設定温度Tpを減じることとする。
ところで、図2に示す暖房運転時の室内機運転状態テーブル300では、室内機5-6を除く全ての室内機で温度差ΔTが0℃~1.5℃であるのに対し、室内機5-6では室内温度Trが他の室内機における室内温度Trより低い温度であることによって温度差ΔTが4.0℃となっており、他の室内機の温度差ΔTも含めた中で一番大きい温度差ΔT(以降、最大温度差ΔTmと記載する)となっている。このようなことが起こる状況として、室内機5-6の空調負荷が他の室内機の空調負荷と比べて一時的に大きくなる可能性のある場所、例えば、窓際や部屋の出入り口に近い場所に設置されている状況が考えられる。
具体的には、室内機5-6が窓際に設置されている場合、夏季には日射によって室内機5-6が検出する室内温度Trが他の室内機が検出する室内温度Trより高くなることがある。この日射による室内温度Trへの影響は、窓から部屋に日射が差し込む時間の長さや太陽の位置によって変化する。また、冬季には窓からの冷気によって室内機5-6が検出する室内温度Trが他の室内機が検出する室内温度Trより低くなることがある。この窓からの冷気による影響は、日射の有無や外の風速によって変化する。
また、室内機5-6が部屋の出入り口に近い場所に設置されている場合、出入り口のドアが開閉されて外気が部屋に流入することによって、室内機5-6が検出する室内温度Trが他の室内機が検出する室内温度Trと比べて夏季には高くなることがあり、また、冬季には低くなることがある。そして、出入り口からの外気流入による室内温度Trへの影響は、ドアが開けられている時間の長さや外気温度によって変化する。
上述したように、窓際や出入り口付近において室内機5-6が検出する室内温度Trが受ける影響は日射やドアの開閉時間などによって変化するため、室内機5-6における温度差ΔTが最大温度差ΔTmとなることも一時的である場合が多い。従って、室内機5-6が要求する空調能力が最大要求能力となることも一時的である場合が多い。このように、室内温度Trが一時的に変化することに起因して室内機5-6が要求する空調能力が最大要求能力となる場合は、これに応える必要がないのであるが、この場合に室内機5-6が要求する空調能力が最大要求能力となる度にこの最大要求能力に応じた目標蒸発温度あるいは目標凝縮温度が設定され、これら目標蒸発温度あるいは目標凝縮温度が実現できるように圧縮機21の回転数を上昇させると、空気調和装置1の省エネ性が低下する恐れがあった。
そこで、本実施形態の空気調和装置1では、空調運転中に以下に説明する要求能力無視条件が成立していれば、一時的に温度差ΔTが大きい室内機が要求する最大要求能力は採用せず、現在発揮されている空調能力を維持するために圧縮機21の回転数を変化させない。一方、要求能力無視条件が成立していなければ、温度差ΔTが一番大きい室内機が要求する最大要求能力が発揮できる圧縮機21の回転数に制御する。
ここで、要求能力無視条件は、予め試験などを行って定められるものであり、以下の3つの要件を全て満たせば、要求能力無視条件が成立する。
要件1:最大温度差ΔTmとなっている室内機が所定台数以下(例えば1台)
要件2:最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTが所定の範囲内(例えば、
1.5℃以内)
要件3:最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTの平均値(以降、平均温度
差ΔTaと記載する)よりも最大温度差ΔTmが所定値大きい(例えば2℃以上高い)
つまり、要求能力無視条件は、複数の室内機5-1~5-10のうちの1台の室内機が他の室内機と比べて著しく大きい空調能力を要求しているか否かを判断するための条件である。
以下、要求能力無視条件の上述した3つの要件について説明する。まず、1つ目の要件(要件1)である「最大温度差ΔTmとなっている室内機が所定台数以下である」について説明する。要件1が成立している場合は、高い空調能力を要求している室内機の空調負荷が大きくなっている可能性が高いことを示している。一方、要件1が成立しない場合、つまり、最大温度差ΔTmとなっている室内機が所定台数より多く存在する場合は、多数の室内機で高い空調能力が要求されていることを示しており、この場合は、室内機5-1~5-10が設置された部屋全体の空調負荷が大きいと考えられる。つまり、要件1が成立しているか否かを判断することで、最大温度差ΔTmとなっている原因が、部屋全体の空調負荷が大きいためであるのか、あるいは、特定の室内機の空調負荷のみが大きくなっているのかを判断することができる。なお、所定台数の具体的な数値は、複数台の室内機のうち、窓際や出入り口付近に設置されている室内機の台数とすればよく、本実施形態の空気調和装置1では、上述したように窓際や出入り口付近に設置されている室内機が室内機5-6のみであるため、1台としている。
次に、2つめの要件(要件2)である「最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTが所定の範囲内」について説明する。要件2が成立する場合は、最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の他の室内機では、室内温度Trが設定温度Tp付近の温度となっていることを示しており、この場合は、室内機5-1~5-10が設置された部屋が概ね設定温度Tp付近の温度となっていると考えられる。一方、要件2が成立しない場合は、最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の他の室内機以外の他の室内機の温度差ΔTも(最大温度差ΔTmほどではないにしても)大きい値となっており、室内機5-1~5-10が設置された部屋において設定温度Tp付近の温度となっていない箇所が複数個所あると考えられる。つまり、要件2が成立しているか否かを判断することで、最大温度差ΔTmとなっている室内機の温度差ΔTが、他の室内機の温度差ΔTと比べて突出して大きいか否かを判断することができる。なお、所定の範囲の具体的な数値は、室内機の台数や設置される部屋の大きさ、部屋の空調負荷などに応じて、空気調和装置ごとに適宜定めればよく、本実施形態の空気調和装置1では、上述したように1.5℃以内としている。
最後に、3つめの要件(要件3)である「最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTの平均温度差ΔTaよりも最大温度差ΔTmが所定値大きい」について説明する。要件3が成立する場合は、最大温度差ΔTmと最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTとの差が大きいということであり、最大温度差ΔTmとなっている室内機の要求する空調能力がこれ以外の室内機の要求する空調能力に対して著しく大きい値であることを意味する。一方、要件3が成立しない場合は、最大温度差ΔTmと最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTとの差が小さいということであり、最大温度差ΔTmとなっている室内機の要求する空調能力もこれ以外の室内機の要求する空調能力もさほど変わらないということである。つまり、要件3が成立しているか否かを判断することで、最大温度差ΔTmとなっている室内機の要求する空調能力が他の室内機が要求する空調能力に対して著しく大きい値であるか否かを判断することができる。なお、所定値の具体的な数値は、室内機の台数や空調能力の合計値に応じて、空気調和装置ごとに適宜定めればよく、本実施形態の空気調和装置1では、上述したように2℃以上としている。
以上説明した要求能力無視条件の3つの要件が、図2の室内機運転状態テーブル300に掲載した空気調和装置1の運転状態の場合に当てはまるか否かを見ると、まず、室内機5-1~5-10の各温度差ΔTのうち温度差ΔTの最大値は室内機5-6の温度差ΔT:4.0℃であり、最大温度差ΔTmとなっているのは室内機5-6のみであるため、要求能力無視条件の要件1を満たしている。また、最大温度差ΔTmとなっている室内機5-6以外の室内機の各温度差ΔTは全て1.5℃以内であるため、要求能力無視条件の要件2を満たしている。そして、室内機5-6を除く他の室内機の温度差ΔTの平均温度差ΔTaが、(1.50+1.00+0+1.00+1.00+0.50+0+1.00+0.50)/9≒0.72℃であり、この平均温度差ΔTa:0.72℃より最大温度差ΔTm:4.0℃の方が2℃以上高いため、要求能力無視条件の要件3を満たしている。従って、空気調和装置1が暖房運転を行っているときに、室内機5-1~5-10の状態が図2の室内機運転状態テーブル300に示す状態であれば、要件1~3が全て成立しているので要求能力無視条件が成立している。
上記の内容を踏まえ、室内機運転状態テーブル300では、室内機5-6のみ能力無視適用の項目が「適用」(他の室内機は全て「非適用」)とされている。室外機2では、要求能力無視条件が成立している場合は、室内機5-6における温度差ΔTが最大温度差ΔTmであっても、この最大温度差ΔTmに基づいて決定された最大要求能力をシステム要求能力とはせず、圧縮機21の回転数も変更しない。一方、要求能力無視条件が成立していない場合は、最大温度差ΔTmに基づいて決定された最大要求能力をシステム要求能力とし、このシステム要求能力を発揮できる圧縮機21の回転数に制御する。なお、要求能力無視条件が成立していない場合は、室内機運転状態テーブル300の能力無視適用の項目が全て「非適用」とされる。
そして、要求能力無視条件が成立してから所定時間(以降、所定時間tと記載する)が経過した後に、室内機5-6から設定温度Tpと室内温度Trとを取り込んで現在の温度差ΔT(以降、現在の温度差ΔTnと記載する)を算出する。算出した現在の温度差ΔTnが所定の閾温度差ΔTt以上であれば、所定時間tの間も室内機5-6が要求する空調能力が小さくなっていないことから、室内機5-6で一時的ではなく大きな空調能力を要求しているものと考えて、先に求めた最大温度差ΔTmに基づいた最大要求能力をシステム要求能力とし、このシステム要求能力が発揮できるように圧縮機21の回転数を制御する。一方、所定時間経過後に算出した現在の温度差ΔTnが閾温度差ΔTt未満であれば、室内機5-6における温度差ΔTが最大温度差ΔTmとなったのが一時的なものであると考えて、室内機5-6も含めた全ての室内機5-1~5-10の各々の温度差ΔTの中の最大値に基づいて決定される空調能力を発揮できるように圧縮機21の回転数を制御する。
ここで、上記所定時間tは、室内機5-6で温度差ΔTが一時的に大きくなった要因がなくなった、例えば、開けられていたドアが閉じられたことによって、室内温度Trが再び上昇(暖房運転時)あるいは下降(冷房運転時)するのにかかる時間であり、例えば、要求能力無視条件が成立してから室内温度Trを3回取り込むのに必要な時間(3分間×3=9分間)とする。また、閾温度差ΔTtは、予め試験などを行って求められて記憶部220に記憶されている値であり、所定時間tが経過した後の室内機5-6で検出する室内温度Trが上昇(暖房運転時)あるいは下降(冷房運転時)せずに温度差ΔTがこの閾温度差ΔTt以上の値であれば、室内機5-6における空調負荷が大きくて空調能力を大きくする必要があることを示す値である。
<圧縮機制御に関わる処理の流れ>
次に、図3のフローチャートを用いて、本実施形態における空気調和装置1が空調運転を行う際に、室外機制御手段200のCPU210が、室内機5-1~5-10の各々から要求される空調能力を実現するために、圧縮機21の回転数を制御する際の処理の流れについて説明する。図3において、STは処理のステップを表し、これに続く数字はステップの番号を表している。尚、図3では、本発明に関わる処理のみに言及しており、空気調和装置1に関わるその他の一般的な制御については、記載と説明を省略する。また、図3では、前述した設定温度Tp、室内温度Tr、温度差ΔT、最大温度差ΔTm、現在の温度差ΔTn、所定時間tのそれぞれに加えて、システム要求能力をAr、最大要求能力をArm、能力減算値をArpとしている。
まず、CPU210は、各室内機5-1~5-10から設定温度Tpと室内温度Trを取り込む(ST1)。具体的には、CPU210は、空調運転の開始時や使用者によって設定温度Tpの変更がなされたときに各室内機5-1~5-10から送信された設定温度Tpを、通信部230を介して取り込む。また、CPU210は、各室内機5-1~5-10の室内温度センサ63で検出される室内温度Trを通信部230を介して定期的(3分毎)に取り込む。なお、前述したように、CPU210は、設定温度Tpや室内温度Trを取り込む度に、記憶部220に記憶している室内機運転状態テ-ブル300の設定温度Tpや室内温度Trの項目を更新する。
次に、CPU210は、取り込んだ各室内機5-1~5-10の設定温度Tpから室内温度Trを減じて、温度差ΔTを各室内機5-1~5-10毎に算出する(ST2)。なお、CPU210は、各室内機5-1~5-10の温度差ΔTを算出する度に記憶部220に記憶している室内機運転状態テ-ブル300の温度差ΔTの項目を更新する。
次に、CPU210は、ST2で算出した温度差ΔTの中から最大温度差ΔTmを抽出し、この最大温度差ΔTmに基づいて最大要求能力Armを決定する(ST3)。
次に、CPU210は、要求能力無視条件が成立しているか否かを判断する(ST4)。前述したように、要求能力無視条件は、最大温度差ΔTmとなっている室内機が所定台数以下(本実施形態では、1台)であり、かつ、最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTが所定の範囲内(本実施形態では1.5℃以内)であり、かつ、最大温度差ΔTmとなっている室内機以外の各室内機の温度差ΔTの平均温度差ΔTaよりも最大温度差ΔTmが所定値大きい場合(本実施形態では、2℃以上高い場合)、である。
要求能力無視条件が成立していなければ(ST4-No)、CPU210は、ST3で決定した最大要求能力Armをシステム要求能力Arとし圧縮機21の回転数をこのシステム要求能力Arを発揮できる回転数として(ST11)、ST1に処理を戻す。
要求能力無視条件が成立していれば(ST4-Yes)、CPU210は、ST3で決定した最大要求能力Arm、つまり、要求能力無視条件を満たす室内機(本実施形態では、室内機5-6)の温度差ΔTに基づいた空調能力は採用せず、現在のシステム要求能力Arおよび現在の圧縮機21の回転数を維持して(ST5)、タイマーの計時を開始する(ST6)。なお、CPU210は、計時機能を有している。
次に、CPU210は、ST6で計時を開始してから所定時間tが経過したか否かを判断する(ST7)。所定時間tが経過していなければ(ST7-No)、CPU210は、ST7に処理を戻して所定時間tが経過するのを待つ。
所定時間tが経過していれば(ST7-Yes)、CPU210は、タイマーをリセットし(ST8)、ST3で最大温度差ΔTmであった室内機、つまり、要求能力無視条件を満たす室内機(本実施形態では、室内機5-6)の最新の設定温度Tpと室内温度Trとを取り込んで現在の温度差ΔTnを算出する(ST9)。
次に、CPU210は、ST9で算出した現在の温度差ΔTnが閾温度差ΔTt以上であるか否かを判断する(ST10)。なお、CPU210は、現在の温度差ΔTnの絶対値と閾温度差ΔTtとを比較する。
現在の温度差ΔTnが閾温度差ΔTt以上でなければ(ST10-No)、CPU210は、ST1に処理を戻す。現在の温度差ΔTnが閾温度差ΔTt以上であれば(ST10-Yes)、CPU210は、ST11に処理を進める。
以上説明したように、本実施形態の空気調和装置1では、空調運転を行っているときに要求能力無視条件が成立していれば、最大温度差ΔTmに基づく最大要求能力をシステム要求能力とせず、圧縮機21の回転数も変更しない。これにより、温度差ΔTが一時的に大きくなった室内機以外の室内機で頻繁にサーモオフ/サーモオンを繰り返すことを抑制できる。
また、要求能力無視条件が成立してから所定時間tが経過した後に、要求能力無視条件を満たす室内機の現在の温度差ΔTnを算出し、この温度差が閾温度差ΔT以上であれば、所定時間tpが経過する前に算出した最大温度差ΔTmに基づいた要求能力をシステム要求能力とし、このシステム要求能力が発揮できる圧縮機21の回転数とする。これにより、要求能力無視条件を満たす室内機において空調負荷が高いなどの理由で本当に高い空調能力が必要な場合は当該空調能力を発揮させることができるので、使用者の快適性を損なうことがない。