JP7139513B2 - ストラドルドビークルエンジンユニット、及びストラドルドビークル - Google Patents
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Description
本発明の目的は、複数気筒を有し鞍乗型車両に搭載される内燃機関の失火を内燃機関の広い動作範囲において高い精度で検出することができる鞍乗型車両エンジンユニットを提供することである。
つまり、内燃機関の慣性モーメントが小さい場合、低負荷・低回転速度領域では、正常時のクランク軸回転速度の変動量の分布が広がりやすい。このため、正常時と失火時のクランク軸回転速度の変動量の分布において隣り合う裾(tail)に重なりが生じやすい。従って、失火時の回転速度の変化との差を判定し難い。
鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関では、低負荷・低回転速度領域で正常時のクランク軸回転速度の変動量の分布が広がりやすい。このため、正常時と失火時のクランク軸回転速度の変動量の分布において隣り合う裾に重なりが生じやすい。
検討する中で、本発明者らは、正常時のクランク軸回転速度の変動量の分布が広がることによって正常時と失火時とのクランク軸回転速度の変動量の分布が重なった場合に、正常時の検出とは異なる方法が適用できることに気づいた。
その方法は、変動量の分布が重なった部分の変動について、まず、順次取得されるクランク軸回転速度の変動パターンを判定することである。例えばランダムに生じる悪路走行の変動と異なり、失火は、内燃機関における特定のサイクル即ち燃焼サイクルに特有の現象である。また、失火による変動量は、内燃機関の燃焼の特性に依存する。このため、クランク軸回転速度の変動が失火に起因することの判定は、変動が例えば悪路走行に起因することを判定するよりも高い精度で実施することができる。
前記クランク角信号出力器の信号に基づいて、前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量をクランク軸回転速度変動物理量として取得するクランク軸回転速度変動物理量取得器と、前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量に基づいて前記内燃機関の失火状態を判定する失火判定器とを有する失火検出装置と
を備え、鞍乗型車両に設けられる鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記内燃機関は、前記内燃機関の動作中におけるクランク軸回転速度及び負荷が重複動作領域を含む領域に位置するように構成され、前記重複動作領域は、正常時と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布の一部が互いに重なる領域であり、
前記失火判定器は、
前記内燃機関の動作中におけるクランク軸回転速度及び負荷が少なくとも前記重複動作領域に位置している場合に、前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量が、前記正常時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量と前記失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量との間で設定された物理量判定基準よりも大きいか否かを判定する第1判定器と、
前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得されたクランク軸回転速度変動物理量の少なくとも一部の物理量に対し、前記少なくとも一部の物理量と前記少なくとも一部の物理量の少なくとも前又は後で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に該当するか否かを判定する第2判定器と、
前記第1判定器の判定結果及び前記第2判定器の判定結果に基づき失火判定を有効とするか否かを判定する第3判定器とを備える。
失火検出装置は、クランク軸回転速度変動物理量に基づいて複数の気筒を有する内燃機関の失火状態を判定する。失火検出装置は、第1判定器と、第2判定器と、第3判定器とを備える。
第1判定器は、少なくとも重複動作領域で動作している場合に、取得されたクランク軸回転速度変動物理量が物理量判定基準よりも大きいか否かを判定する。物理量判定基準は、正常時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量との間で設定される。このため、第1判定器において、クランク軸回転速度変動物理量の大きさを用いある精度で失火を判定することができる。ただし、複数の気筒を有する内燃機関について、物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量に、正常時のクランク軸回転速度変動物理量の数が混在している可能性がある。鞍乗型車両の悪路走行状態では、失火時でない場合に物理量判定基準よりも大きいと判定されるクランク軸回転速度変動物理量の数が増大する場合がある。
第2判定器は、前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得されたクランク軸回転速度変動物理量の少なくとも一部の物理量に対し判定を行う。第2判定器は、少なくとも一部の物理量と前記少なくとも一部の物理量の少なくとも前又は後で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に該当するか否かを判定する。
第3判定器は、前記第1判定器の判定結果及び前記第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定する。
上記構成によれば、第2判定器で、第1判定器での判定と異なる基準による判定が実施される。例えば、第2判定器の判定結果が第1判定器の判定結果に対し大きく異なる場合、第1判定器の判定結果は、本来失火を判定することができない状況を示している可能性が高い。第3判定器で、前記第1判定器の判定結果と前記第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かが判定される。このため、高い精度で複数の気筒を有する内燃機関の失火を検出することができる。
前記第2判定器は、前記第1判定器で前記物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量を前記少なくとも一部の物理量とし、前記少なくとも一部の物理量と前記少なくとも一部の物理量の少なくとも前又は後で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に含まれるか否かを判定する。
前記第3判定器は、前記第1判定器で前記物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に対する、前記第2判定器で前記失火パターン範囲に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づいて失火判定を有効とするか否かを判定する。
従って、複数気筒を有し鞍乗型車両に搭載される内燃機関の失火を内燃機関の広い動作範囲で高い精度で検出することができる。
前記第3判定器は、前記重複動作領域として、前記内燃機関で出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さいクランク軸回転速度を含む低回転速度領域で、且つ、前記内燃機関で出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さい負荷を含む低負荷・低回転速度領域において前記内燃機関が動作している場合に、前記第1判定器の判定結果と前記第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定する。
前記内燃機関は、正常時と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布が間隔を開けて分離するような分離動作領域を含む領域で動作するように構成され、
前記物理量判定基準は、前記間隔の範囲内に設定される。
鞍乗型車両エンジンユニットで駆動される駆動輪と、
を備えた鞍乗型車両。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。さらに、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、複数の技術および工程が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
したがって、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しい鞍乗型車両エンジンユニットについて説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
鞍乗型車両の駆動輪は、例えば後輪である。駆動輪はこれに限られず、例えば前輪であってもよい。
変動のパターンは、複数のタイミングで順次取得される物理量の変動の類型である。失火パターン範囲は、例えば、複数のタイミングで得られる複数の物理量のそれぞれについて設定される値の範囲の組合せである。変動のパターンが設定された失火パターン範囲に該当するか否かは、例えば、順次取得される複数物理量の各々が失火パターン範囲で設定された各々の値の範囲に該当するか否かによって判定される。失火パターン範囲は、これに限られず、例えば、あるタイミングで取得された物理量に対し、後に取得される物理量が増加しているか又は減少しているかの状態であってもよい。
第3判定器は、低負荷・低回転速度領域において内燃機関が動作している場合に、第1判定器の判定結果と第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定する。第3判定器は、低負荷・低回転速度領域以外の領域において内燃機関が動作している場合に、第1判定器の判定結果と第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定してもよい。
失火判定は、第1判定器で物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づく判定である。この場合、例えば、失火判定が有効であれば、第1判定器で物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度を失火の頻度とする。ただし、失火判定は、これに限られず、さらに、第1判定器で物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量のうち、第2判定器で失火パターン範囲に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づく判定であってもよい。この場合、失火判定が有効であれば、例えば、第1判定器で物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量のうち第2判定器で失火パターン範囲に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度を失火の頻度とする。また、第2判定器の判定が、第1判定器の判定とは独立の場合、失火判定は、第2判定器で失火パターン範囲に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づく判定でもよい。
エンジン20は、内燃機関である。エンジン20は、クランク軸21と、クランク角信号出力器27(以降、角信号出力器27とも称する)とを有する。エンジン20の動力は、クランク軸21から出力される。角信号出力器27は、クランク軸21の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力する。
失火検出装置10は、クランク軸回転速度変動物理量取得部11(以降、変動物理量取得部11とも称する。)、及び失火判定部12を有する。失火判定部12は、第1判定部13、第2判定部14、及び第3判定部15を備える。失火検出装置10は、更に、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とを備える。
エンジン20は、重複動作領域を含む領域で動作するよう構成されている。エンジン20の重複動作領域は、失火のない正常時の回転速度変動物理量の分布Eと失火時の回転速度変動物理量の分布Mの一部が互いに重なるような領域である。エンジン20の重複動作領域は、例えば、低負荷・低回転速度領域LLを含んでいる。
第1判定部13は、物理量判定基準ARよりも大きい回転速度変動物理量N2の頻度を、仮の失火の頻度として記憶する。
また、失火判定部12によって悪路走行が検出された場合、報知信号送信部16は、悪路走行の検出結果を表す情報を報知装置30に出力する。報知信号送信部16は、失火判定部12によって失火判定が有効と判定された場合、失火の検出結果を表す失火情報を報知装置30に出力する。報知信号送信部16は、報知装置30としての診断装置が失火検出装置10と接続された時又は接続されている時に、記憶された情報を出力する。
第2判定部14で、第1判定部13での判定と異なる基準による判定が実施される。例えば、第2判定部14の判定結果が第1判定部13の判定結果に対し大きく異なる場合、第1判定部13によって失火を判定することができない状況を示している可能性が高い。第3判定部15で、第2判定部14の判定結果と第1判定部13の判定結果に基づき失火判定を有効とするか否かが判定される。このため、複数の気筒を有するエンジン20の失火を高い精度で検出することができる。
また、失火に起因する変動の態様は燃焼サイクルに特有の現象であるため、悪路走行に起因する変動の態様と比べて多様性が低い。このため、クランク軸回転速度の変動が失火に起因することの判定の精度は、変動が例えば悪路走行に起因することを判定するよりも高い。失火に起因するクランク軸回転速度の変動を判定する第2判定部14の結果を用いることにより、より高い精度で悪路走行による影響を除去することができる。
図2に示す鞍乗型車両50は、車体51及び車輪52a,52bを備えている。車輪52a,52bは、車体51に支持されている。鞍乗型車両50は、2つの車輪52a,52bを有する自動二輪車である。車輪52a,52bは、鞍乗型車両50の車体51に対して、鞍乗型車両50の前後方向Xに並んで配置されている。後ろの車輪52bは駆動輪である。
鞍乗型車両50は、鞍乗型車両エンジンユニットEU、及び駆動系59を備えている。鞍乗型車両エンジンユニットEUは、失火検出装置10及びエンジン20を備えている。駆動系59は、エンジン20の動力を伝達することによって、鞍乗型車両50を駆動する。
CPU101は、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。メモリ102は、制御プログラムと、演算に必要な情報とを記憶する。I/Oポート103は、外部装置に対し信号を入出力する。
I/Oポート103には、角信号出力器27が接続されている。角信号出力器27は、エンジン20のクランク軸21が検出角度回転する毎に角信号を出力する。
I/Oポート103には、報知装置30も接続されている。報知装置30は、失火検出装置10から出力される信号に基づいて情報を表示する。報知装置30は、例えば鞍乗型車両50に設けられた表示ランプである。また、報知装置30には、例えば、鞍乗型車両50の外部装置である診断装置も含まれる。
変動物理量取得部11は、角信号出力器27からの信号が出力されるタイミングの時間間隔を計測することによって回転速度を得る。また、変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量を得る。変動物理量取得部11が取得する回転速度変動物理量は、エンジン20の回転速度変動物理量である。
エンジン20の回転速度の変動には、エンジン20の燃焼による変動だけでなく、悪路走行による変動が含まれる場合がある。悪路走行は、エンジン20の外的要因である。
図4のグラフの横軸はクランク軸21の回転角度θを示し、縦軸は回転速度を示す。図4に示す例では、回転速度の関係を分かりやすくするため、エンジン20の外的要因による変動を含まない。
図4のグラフは、回転速度OMGの変動を概略的に示している。回転速度OMGのグラフは、燃焼行程及び吸気行程に対応するクランク角度について算出された回転速度の値を曲線で結ぶことによって得られる。
図4のグラフは、時間を基準とした回転速度の推移ではなく、クランク角度を基準とした回転速度OMGの推移を示している。
図4のグラフにおいて、ある時点における検出対象のクランク角度の位置の番号を「0」とし、「0」の位置から240度クランク角度ごとに「1」,「2」,「3」…の番号を割り当てている。また、「0」と「1」の間に「0a」、そして、「1」と「2」の間に「1a」のように文字付きの番号を割り当てている。図4の例では、3つの気筒のうち第3の気筒の吸気行程(#3S)を、ある時点における検出対象である「0」の位置とする。「1」,「2」,「3」の位置は、第2の気筒、第1の気筒、第3の気筒における吸気行程(#2S,#1S,#3S)にそれぞれ対応している。
例えば、図4に示す「0」の位置が検出対象となる場合、同一の行程が連続する気筒に対応するクランク角度の位置は、「0」と「1」の位置である。例えば、「1」の位置は、第2の気筒の吸気行程(図4の#2S)に対応する。「0」の位置は、第3の気筒の吸気行程(図4の#3S)に対応する。つまり、「1」の位置と「0」の位置で第2の気筒の吸気行程と第3の気筒の吸気行程が連続する。第1の変動量は、回転速度OMG1と回転速度OMG0の差である。ここで、回転速度OMG1は、図4に示す「1」の位置の回転速度である。また、回転速度OMG0は、「0」の位置での回転速度である。
また更に、変動物理量取得部11は、第1の変動量を算出したクランク軸21の位置よりも720度クランク角度前の位置において、同一の行程が連続する気筒における差を算出する。この差を第2の変動量とする。720度クランク角度前の位置において、同一の行程が連続する気筒に対応するクランク軸21の位置は、「3」と「4」の位置である。第2の変動量は、回転速度OMG8と回転速度OMG6の差である。ここで、回転速度OMG6は、「3」の位置での、エンジン20の回転速度OMGである。また、回転速度OMG8は、「4」の位置での回転速度である。
また、変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量ΔOMGとして、上記の第1の変動量と第2の変動量との差を算出する。変動物理量取得部11は、算出した差を回転速度変動物理量として出力する。各位置「0」,「1」,「2」,…は、回転速度変動物理量を取得するタイミングでもある。以降の説明では、「0」,「1」,「2」,…をタイミングとして説明する場合もある。
本実施形態における第1判定部13は、取得された回転速度変動物理量が物理量判定基準ARよりも大きいか否かを判定する。物理量判定基準ARは、正常時のクランク軸回転速度変動物理量の分布E0のピークXnに対応するクランク軸回転速度変動物理量と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布M0のピークXsに対応するクランク軸回転速度変動物理量との間で設定される。
図6は、エンジンに関する回転速度変動物理量の分布を示す説明図である。
図6の横軸は、クランク軸21の回転速度を示す。縦軸はエンジン20の負荷を示す。図6は、エンジン20が出力可能な回転速度と負荷の範囲全体を表している。
図6には、エンジン20が出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域が示されている。また、図6には、エンジン20が出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域が示されている。つまり、図6には、クランク軸回転速度の大きさと負荷大きさの組合せが異なる9つの領域が示されている。9つの領域のうち、高負荷・高回転速度領域HHと低負荷・低回転速度領域LLに符号を付している。例えば、低負荷・低回転速度領域LLは、エンジン20で出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さいクランク軸回転速度を含む低回転速度領域で、且つ、前記内燃機関で出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さい負荷を含む領域である。
エンジン20は、鞍乗型車両50に搭載するため、クランク軸21の慣性モーメントが小さくなるように構成されている。クランク軸21の慣性モーメントの低減に起因して、低負荷・低回転速度領域LLにおいて、分布Eと、分布Mとが、互いに重なるように生じる。分布Eと、分布Mとが、互いに重なるように生じるエンジン20の動作領域を重複動作領域と称する。低負荷・低回転速度領域LLは、重複動作領域に含まれている。
例えば、高負荷・高回転速度領域HHのように、分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間隔が充分に離れていれば、悪路走行によって回転速度変動物理量ΔOMGが増大しても分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間隔が離れている。従って、第1判定部13による、回転速度変動物理量が物理量判定基準ARよりも大きいか否かの判定によって失火を判定することも可能である。また、悪路走行状態か否かが判定可能である。
しかし、例えば、低負荷・低回転速度領域LLのように、分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間に間隔Gaが無い場合、第1判定部13によって物理量判定基準ARよりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量に、正常時のクランク軸回転速度変動物理量が混在している可能性がある。その結果、低負荷・低回転速度領域LLにおける失火の検出性能が低下する。
さらに、鞍乗型車両50の悪路走行状態では、失火時でない場合に物理量判定基準ARよりも大きいと判定されるクランク軸回転速度変動物理量の数が増大する場合がある。すなわち、第1判定部13による判定結果には、誤判定が混在する場合がある。
物理量判定基準ARは、正常時の回転速度変動物理量の分布のピークに対応する回転速度変動物理量と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量との間で設定される。より詳細には、物理量判定基準ARは、正常時の回転速度変動物理量の分布の裾に設定される。
これによって、第1判定部13は、回転速度変動物理量の大きさを用いて失火を判定する。
第2判定部14は、変動物理量取得部11で取得された回転速度変動物理量の一部の物理量に対し判定を行う。より詳細には、第2判定部14は、第1判定部13で物理量判定基準ARよりも大きいと判定された回転速度変動物理量について判定を行う。つまり、第2判定部14は、第1判定部13で物理量判定基準ARよりも大きいと判定された回転速度変動物理量と、その前及び後で取得された回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に該当するか否かを判定する。
図7には、失火及び悪路走行に起因する変動がある場合の回転速度変動物理量ΔOMGが示されている。
図7には、クランク角度における「1」の直前の位置に対応する角度で実際の失火が生じている場合の回転速度変動物理量が示されている。図7のPは、第2判定部14が用いる失火パターン範囲の例を示す。
図7に示す失火パターン範囲Pは、3つの基準範囲P1a,P1b,P1cを有している。
例えば、「1」の位置における回転速度変動物理量ΔOMGが失火パターン範囲Pに含まれていることは、「1」の位置における回転速度変動物理量ΔOMG1が物理量判定基準ARよりも大きく、回転速度変動物理量ΔOMG0の前(「2」)で取得された回転速度変動物理量ΔOMG2が基準範囲P1cの上限値以下であり、回転速度変動物理量ΔOMG0の後(「0」)で取得された回転速度変動物理量ΔOMG(0)が基準範囲P1aの上限値以下であることに対応する。なお、失火パターン範囲Pとしては、上限値に加え下限値を設定した基準範囲を有することも可能である。また、なお、失火パターン範囲Pとしては、2つの基準範囲を有することも可能である。
失火による回転速度変動物理量の変動は、例えば悪路走行による変動と異なり、失火に特有のパターンを有している。
図7に示す回転速度変動物理量ΔOMGの場合、第1判定部13によって、「-3」の位置に対応する回転速度変動物理量ΔOMG(-3)は、物理量判定基準ARよりも大きいと判定される。しかし、第2判定部14は、例えば、「-3」の位置に対応する回転速度変動物理量ΔOMG(-3)は、失火パターン範囲Pに該当しないと判定する。
第2判定部14は、失火パターン範囲Pを用いることによって、第1判定部13と異なる基準で失火を判定することができる。第2判定部14は、例えば第1判定部13よりも高い精度で、失火を判定することができる。
回転速度変動物理量N1のうち、第2判定部14でパターン範囲に含まれると判定される回転速度変動物理量Y1の頻度は少ない。
回転速度変動物理量N2のうち、第2判定部14でパターン範囲に含まれると判定される回転速度変動物理量Y2の頻度は多い。
第3判定部15は、第1判定部13で物理量判定基準ARよりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に対する、第2判定部14で失火パターン範囲P(図7参照)に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づいて失火判定を有効とするか否かを判定する。
第3判定部15は、低負荷・低回転速度領域LL(図6参照)においてエンジン20が動作している場合に、第1判定部13の判定結果と第2判定部14の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定する。
エンジン20では、低負荷・低回転速度領域LL(図6参照)での正常時と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布において隣り合う裾に重なりが生じる。しかし、第3判定部15は、低負荷・低回転速度領域LLで、第2判定部14の判定結果に基づいて判定を行うため、クランク軸回転速度変動物理量の分布において隣り合う裾に重なりが生じやすい領域でも高い精度で失火を検出することができる。
第3判定部15は、失火パターン範囲Pに含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度が頻度基準値未満の場合、悪路走行状態であると判定する。この場合第3判定部15は、失火判定を無効と判定する。
例えば、エンジン20が高負荷・高回転速度領域HHで動作している場合、エンジン20が重複動作領域で動作していない。この場合(S11でNo)、失火判定部12は、簡略失火検出を行う(S12)。簡略失火検出は、回転速度変動物理量の値のみで失火の検出を行う。
複数の回転速度変動物理量が失火パターン範囲に該当しない場合、回転速度変動物理量の異常は、悪路走行による可能性がある。この場合(S16でNo)、第2判定部14は、失火カウンタの計数を省略する。
判定期間が経過した場合(S19でYes)、第3判定部15は、異常変動カウンタの値に占める失火カウンタの値の割合が、基準値を越えているか否か判定する(S22)。
10 失火検出装置
12 失火判定部
13 第1判定部(第1判定器)
14 第2判定部(第2判定器)
15 第3判定部(第3判定器)
20 エンジン(内燃機関)
21 クランク軸
27 クランク角信号出力器(角信号出力器)
50 鞍乗型車両
52b 車輪(駆動輪)
Xn 正常時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピーク
Xs 失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピーク
P 失火パターン範囲
Claims (6)
- 複数の気筒と、クランク軸と、前記クランク軸の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力するクランク角信号出力器とを有する内燃機関と、
前記クランク角信号出力器の信号に基づいて、前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量をクランク軸回転速度変動物理量として取得するクランク軸回転速度変動物理量取得器と、前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量に基づいて前記内燃機関の失火状態を判定する失火判定器とを有する失火検出装置と
を備え、鞍乗型車両に設けられる鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記内燃機関は、前記内燃機関の動作中におけるクランク軸回転速度及び負荷が重複動作領域を含む領域に位置するように構成され、前記重複動作領域は、正常時と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布の一部が互いに重なる領域であり、
前記失火判定器は、
前記内燃機関の動作中におけるクランク軸回転速度及び負荷が少なくとも前記重複動作領域に位置している場合に、前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量が、前記正常時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量と前記失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布のピークに対応するクランク軸回転速度変動物理量との間で設定された物理量判定基準よりも大きいか否かを判定する第1判定器と、
前記クランク軸回転速度変動物理量取得器で取得されたクランク軸回転速度変動物理量の少なくとも一部の物理量に対し、前記少なくとも一部の物理量と前記少なくとも一部の物理量の少なくとも前又は後で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に該当するか否かを判定する第2判定器と、
前記第1判定器の判定結果及び前記第2判定器の判定結果に基づき失火判定を有効とするか否かを判定する第3判定器とを備える。 - 請求項1記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記第2判定器は、前記第1判定器で前記物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量を前記少なくとも一部の物理量とし、前記少なくとも一部の物理量と前記少なくとも一部の物理量の少なくとも前又は後で取得された前記クランク軸回転速度変動物理量との間の変動のパターンが、設定された失火パターン範囲に含まれるか否かを判定する。 - 請求項2記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記第3判定器は、前記第1判定器で前記物理量判定基準よりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に対する、前記第2判定器で前記失火パターン範囲に含まれると判定されたクランク軸回転速度変動物理量の頻度に基づいて失火判定を有効とするか否かを判定する。 - 請求項1記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記第3判定器は、前記重複動作領域として、前記内燃機関で出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さいクランク軸回転速度を含む低回転速度領域で、且つ、前記内燃機関で出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さい負荷を含む低負荷・低回転速度領域において前記内燃機関が動作している場合に、前記第1判定器の判定結果と前記第2判定器の判定結果に基づき、失火判定を有効とするか否かを判定する。 - 請求項1記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記内燃機関は、正常時と失火時のクランク軸回転速度変動物理量の分布が間隔を開けて分離するような分離動作領域を含む領域で動作するように構成され、
前記物理量判定基準は、前記間隔の範囲内に設定される。 - 請求項1記載の鞍乗型車両エンジンユニットと、
鞍乗型車両エンジンユニットで駆動される駆動輪と、
を備えた鞍乗型車両。
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