A.第1実施例:
A1.車両10の構成:
図1~図4は、一実施例としての車両10を示す説明図である。図1は、車両10の右側面図を示し、図2は、車両10の上面図を示し、図3は、車両10の下面図を示し、図4は、車両10の背面図を示している。図2~図4では、図1に示す車両10の構成のうち、説明に用いる部分が図示され、他の部分の図示が省略されている。図1~図4には、6つの方向DF、DB、DU、DD、DR、DLが示されている。前方向DFは、車両10の前進方向であり、後方向DBは、前方向DFの反対方向である。上方向DUは、鉛直上方向であり、下方向DDは、上方向DUの反対方向である。右方向DRは、前方向DFに走行する車両10から見た右方向であり、左方向DLは、右方向DRの反対方向である。方向DF、DB、DR、DLは、いずれも、水平な方向である。右と左の方向DR、DLは、前方向DFに垂直である。
本実施例では、この車両10は、一人乗り用の小型車両である。車両10(図1、図2)は、車体90と、車体90に連結された1つの前輪12Fと、車体90に連結され車両10の幅方向(すなわち、右方向DRに平行な方向)に互いに離れて配置された2つの後輪12L、12Rと、を有する三輪車である。前輪12Fは、操舵可能であり、車両10の幅方向の中心に配置されている。後輪12L、12Rは、操舵不能な駆動輪であり、車両10の幅方向の中心に対して対称に配置されている。
車体90(図1)は、本体部20を有している。本体部20は、前部20aと、底部20bと、後部20cと、支持部20dと、を有している。底部20bは、水平な方向(すなわち、上方向DUに垂直な方向)に拡がる板状の部分である。前部20aは、底部20bの前方向DF側の端部から前方向DF側かつ上方向DU側に向けて斜めに延びる板状の部分である。後部20cは、底部20bの後方向DB側の端部から後方向DB側かつ上方向DU側に向けて斜めに延びる板状の部分である。支持部20dは、後部20cの上端から後方向DBに向かって延びる板状の部分である。本体部20は、例えば、金属製のフレームと、フレームに固定されたパネルと、を有している。
車体90(図1)は、さらに、底部20b上に固定された座席11と、底部20b上の座席11よりも前方向DF側に配置されたアクセルペダル45とブレーキペダル46と、座席11の座面の下に配置され底部20bに固定された制御装置110と、底部20bのうちの制御装置110よりも下の部分に固定されたバッテリ120と、前部20aの前方向DF側の端部に固定された操舵装置41と、操舵装置41に取り付けられたシフトスイッチ47と、を有している。なお、図示を省略するが、本体部20には、他の部材(例えば、屋根、前照灯など)が固定され得る。車体90は、本体部20に固定された部材を含んでいる。
アクセルペダル45は、車両10を加速するためのペダルである。アクセルペダル45の踏み込み量(「アクセル操作量」とも呼ぶ)は、ユーザの望む加速力を表している。ブレーキペダル46は、車両10を減速するためのペダルである。ブレーキペダル46の踏み込み量(「ブレーキ操作量」とも呼ぶ)は、ユーザの望む減速力を表している。シフトスイッチ47は、車両10の走行モードを選択するためのスイッチである。本実施例では、「ドライブ」と「ニュートラル」と「リバース」と「パーキング」との4つの走行モードから1つを選択可能である。「ドライブ」は、駆動輪12L、12Rの駆動によって前進するモードであり、「ニュートラル」は、駆動輪12L、12Rが回転自在であるモードであり、「リバース」は、駆動輪12L、12Rの駆動によって後退するモードであり、「パーキング」は、少なくとも1つの車輪(例えば、後輪12L、12R)が回転不能であるモードである。
操舵装置41(図1)は、回動軸Ax1を中心に車両10の旋回方向に向けて前輪12Fを回動可能に支持する装置である。操舵装置41は、前輪12Fを回転可能に支持する前フォーク17と、ユーザによる操作によってユーザの望む旋回方向と操作量とが入力される操作入力部としてのハンドル41aと、回動軸Ax1を中心に前フォーク17(すなわち、前輪12F)を回動させる軸受け65と、を有している。
前フォーク17(図1)は、例えば、サスペンション(コイルスプリングとショックアブソーバ)を内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。
ハンドル41a(図1)は、ハンドル41aの回転軸に沿って延びる支持棒41axを中心に回動可能である。ハンドル41aの回動方向(右、または、左)は、ユーザの望む旋回方向を示している。支持棒41axは、前フォーク17に連結されている。前フォーク17(ひいては、車輪12F)は、ハンドル41aの回動に応じて、同じ方向に回動する。ユーザは、ハンドル41aを操作することによって、旋回方向(すなわち、前輪12Fの操舵方向)を入力できる。直進を示す所定方向からのハンドル41aの操作量(ここでは、回動角度。以下「ハンドル角」とも呼ぶ)は、操舵角AF(図2)の大きさを示している。操舵角AFは、下方向DDを向いて車両10を見る場合に、前方向DFを基準とする、回転する前輪12Fの進行方向D12の角度である。この進行方向D12は、前輪12Fの回転軸に垂直な方向である。本実施例では、「AF=ゼロ」は、「方向D12=前方向DF」を示し、「AF>ゼロ」は、旋回方向が右方向DRであること(すなわち、方向D12が右方向DR側を向いている)を示し、「AF<ゼロ」は、旋回方向が左方向DLであること(すなわち、方向D12が左方向DL側を向いている)を示している。
図1に示すように、本実施例では、車両10が水平な地面GL上に配置されている場合、操舵装置41の回動軸Ax1は、地面GLに対して斜めに傾斜しており、具体的には、回動軸Ax1に平行に下方向DD側へ向かう方向は、斜め前方を向いている。そして、操舵装置41の回動軸Ax1と地面GLとの交点P2は、前輪12Fの地面GLとの接触中心P1よりも、前方向DF側に位置している。図1、図3に示すように、接触中心P1は、前輪12Fと地面GLとの接触領域Ca1の中心である。接触領域の中心は、接触領域の重心の位置を示している。領域の重心は、領域内に質量が均等に分布していると仮定した場合の重心の位置である。これらの点P1、P2の間の後方向DBの距離Ltは、トレールと呼ばれる。正のトレールLtは、接触中心P1が交点P2よりも後方向DB側に位置していることを示している。また、鉛直上方向DUと、回動軸Ax1に沿って鉛直上方向DU側へ向かう方向と、のなす角度CAは、キャスター角とも呼ばれる。キャスター角CAがゼロよりも大きいことは、回動軸Ax1に沿って鉛直上方向DU側へ向かう方向が、斜め後ろに傾斜していることを、示している。
2つの後輪12L、12R(図4)は、後輪支持部80に回動可能に支持されている。後輪支持部80は、リンク機構30と、リンク機構30の上部に固定されたリーンモータ25と、リンク機構30の上部に固定された第1支持部82と、リンク機構30の前部に固定された第2支持部83(図1)と、を有している。図1では、説明のために、リンク機構30と第1支持部82と第2支持部83のうちの右後輪12Rに隠れている部分も実線で示されている。図2では、説明のために、本体部20に隠れている後輪支持部80と後輪12L、12Rと連結部75とが、実線で示されている。図1~図3では、リンク機構30が簡略化して示されている。
第1支持部82(図4)は、リンク機構30の上方向DU側に配置されている。第1支持部82は、左後輪12Lの上方向DU側から、右後輪12Rの上方向DU側まで、右方向DRに平行に延びる板状の部分を含んでいる。第2支持部83(図1、図2)は、リンク機構30の前方向DF側の、左後輪12Lと右後輪12Rとの間に配置されている。
右後輪12R(図1)は、リムを有するホイール12Raと、ホイール12Raのリムに装着されたタイヤ12Rbと、を有している。ホイール12Ra(図4)は、右電気モータ51Rに接続されている。右電気モータ51Rは、ステータとロータとを有している(図示省略)。ロータとステータとのうちの一方は、ホイール12Raに固定され、他方は、後輪支持部80に固定されている。右電気モータ51Rの回転軸は、ホイール12Raの回転軸と同じであり、右方向DRに平行である。左後輪12Lの構成は、右後輪12Rの構成と、同様である。具体的には、左後輪12Lは、ホイール12Laとタイヤ12Lbとを有している。ホイール12Laは、左電気モータ51Lに接続されている。左電気モータ51Lのロータとステータとのうちの一方は、ホイール12Laに固定され、他方は、後輪支持部80に固定されている。これらの電気モータ51L、51Rは、後輪12L、12Rを直接的に駆動するインホイールモータである。
図1、図4には、車体90が傾斜せずに直立している状態(後述する傾斜角Tがゼロである状態)が、示されている。この状態で、左後輪12Lの回転軸ArLと右後輪12Rの回転軸ArRとは、同じ直線上に位置している。また、図1、図3には、右後輪12Rの地面GLとの接触中心PbRと、左後輪12Lの地面GLとの接触中心PbLと、が示されている。図3に示すように、右の接触中心PbRは、右後輪12Rと地面GLとの接触領域CaRの中心である。左の接触中心PbLは、左後輪12Lと地面GLとの接触領域CaLの中心である。図1の状態では、これらの接触中心PbR、PbLの前方向DFの位置は、おおよそ同じである。
リンク機構30(図4)は、いわゆる、平行リンクである。リンク機構30は、右方向DRに向かって順番に並ぶ3つの縦リンク部材33L、21、33Rと、下方向DDに向かって順番に並ぶ2つの横リンク部材31U、31Dと、を有している。縦リンク部材33L、21、33Rは、車両10の停止時には鉛直方向に平行である。横リンク部材31U、31Dは、車両10の停止時には水平方向に平行である。2つの縦リンク部材33L、33Rと、2つの横リンク部材31U、31Dとは、平行四辺形リンク機構を形成している。上横リンク部材31Uは、縦リンク部材33L、33Rの上端を連結している。下横リンク部材31Dは、縦リンク部材33L、33Rの下端を連結している。中縦リンク部材21は、横リンク部材31U、31Dの中央部分を連結している。これらのリンク部材33L、33R、31U、31D、21は、互いに回動可能に連結されており、回動軸は、前方向DFに平行である。左縦リンク部材33Lには、左電気モータ51Lが固定されている。右縦リンク部材33Rには、右電気モータ51Rが固定されている。中縦リンク部材21の上部には、第1支持部82と第2支持部83(図1)とが、固定されている。リンク部材33L、21、33R、31U、31Dと、支持部82、83とは、例えば、金属で形成されている。
リーンモータ25は、例えば、ステータとロータとを有する電気モータである。リーンモータ25のステータとロータのうちの一方は、中縦リンク部材21に固定され、他方は、上横リンク部材31Uに固定されている。リーンモータ25の回動軸は、これらのリンク部材31U、21の連結部分の回動軸と同じであり、車両10の幅方向の中心に位置している。リーンモータ25のロータがステータに対して回動すると、上横リンク部材31Uが、中縦リンク部材21に対して、傾斜する。これにより、車両10が傾斜する。以下、リーンモータ25によって生成されるトルク(本実施例では、中縦リンク部材21に対して上横リンク部材31Uを傾斜させるトルク)を、傾斜トルクとも呼ぶ。
図5は、車両10の状態を示す概略図である。図中には、車両10の簡略化された背面図が示されている。図5(A)は、車両10が直立している状態を示し、図5(B)は、車両10が傾斜している状態を示している。図5(A)に示すように、上横リンク部材31Uが中縦リンク部材21に対して直交する場合、全ての車輪12F、12L、12Rが、平らな地面GLに対して直立する。そして、車体90を含む車両10の全体は、地面GLに対して、直立する。図中の車両上方向DVUは、車両10の上方向である。車両10が傾斜していない状態では、車両上方向DVUは、上方向DUと同じである。なお、後述するように、車体90は、後輪支持部80に対して回動可能である。そこで、本実施例では、後輪支持部80の向き(具体的には、リンク機構30の動きの基準である中縦リンク部材21の向き)を、車両上方向DVUとして採用する。
図5(B)に示すように、上横リンク部材31Uが中縦リンク部材21に対して傾斜する場合、右後輪12Rと左後輪12Lとの一方が、車両上方向DVU側に移動し、他方は、車両上方向DVUとは反対方向側に移動する。すなわち、リンク機構30とリーンモータ25とは、幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪12L、12Rの間の回転軸に垂直な方向の相対位置を変化させる。この結果、全ての車輪12F、12L、12Rが地面GLに接触した状態で、これらの車輪12F、12L、12Rは、地面GLに対して傾斜する。そして、車体90を含む車両10の全体は、地面GLに対して、傾斜する。図5(B)の例では、右後輪12Rが車両上方向DVU側に移動し、左後輪12Lが反対側に移動している。この結果、車輪12F、12L、12R、ひいては、車体90を含む車両10の全体は、右方向DR側に、傾斜する。後述するように、車両10が右方向DR側に旋回する場合に、車両10は、右方向DR側に傾斜する。車両10が左方向DL側に旋回する場合に、車両10は、左方向DL側に傾斜する。
図5(B)では、車両上方向DVUは、上方向DUに対して、右方向DR側に傾斜している。以下、前方向DFを向いて車両10を見る場合の、上方向DUと車両上方向DVUとの間の角度を、傾斜角Tと呼ぶ。ここで、「T>ゼロ」は、右方向DR側への傾斜を示し、「T<ゼロ」は、左方向DL側への傾斜を示している。車両10が傾斜する場合、車体90も、おおよそ、同じ方向に傾斜する。車両10の傾斜角Tは、車体90の傾斜角Tということができる。
なお、リーンモータ25は、リーンモータ25を回動不能に固定する図示しないロック機構を有している。ロック機構を作動させることによって、上横リンク部材31Uは、中縦リンク部材21に対して回動不能に固定される。この結果、傾斜角Tが固定される。例えば、車両10の駐車時に、傾斜角Tはゼロに固定される。ロック機構としては、メカニカルな機構であって、リーンモータ25(ひいては、リンク機構30)を固定している最中に電力を消費しない機構が好ましい。
図5(A)、図5(B)には、傾斜軸AxLが示されている。傾斜軸AxLは、地面GL上に位置している。リンク機構30とリーンモータ25とは、車両10を、傾斜軸AxLを中心に、右と左とに傾斜させることができる。本実施例では、傾斜軸AxLは、地面GL上に位置しており、前輪12Fと地面GLとの接触中心P1を通り前方向DFに平行な直線である。後輪12L、12Rを回転可能に支持するリンク機構30と、リンク機構30を作動させるアクチュエータとしてのリーンモータ25とは、車体90を車両10の幅方向に傾斜させる傾斜機構89を構成する。傾斜角Tは、傾斜機構89による傾斜角である。
車体90(具体的には、本体部20)は、図1、図5(A)、図5(B)に示すように、後方向DB側から前方向DF側に向かって延びるロール軸AxRを中心に回動可能に、後輪支持部80に連結されている。図2、図4に示すように、本実施例では、本体部20は、サスペンションシステム70と連結部75とによって、後輪支持部80に連結されている。サスペンションシステム70は、左サスペンション70Lと、右サスペンション70Rと、を有している。本実施例では、各サスペンション70L、70Rは、コイルスプリングとショックアブソーバとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。各サスペンション70L、70Rは、各サスペンション70L、70Rの中心軸70La、70Ra(図4)に沿って、伸縮可能である。図4に示すように車両10が直立している状態では、各サスペンション70L、70Rの中心軸は、鉛直方向におおよそ平行である。サスペンション70L、70Rの上端部は、第1軸方向(例えば、前方向DF)に平行な回動軸を中心に回動可能に本体部20の支持部20dに連結されている。サスペンション70L、70Rの下端部は、第2軸方向(例えば、右方向DR)に平行な回動軸を中心に回動可能に後輪支持部80の第1支持部82に連結されている。なお、サスペンション70L、70Rと他の部材との連結部分の構成は、他の種々の構成であってもよい(例えば、玉継ぎ手)。
連結部75は、図1、図2に示すように、前方向DFに延びる棒である。連結部75は、車両10の幅方向の中心に配置されている。連結部75の前方向DF側の端部は、本体部20の後部20cに連結されている。連結部分の構成は、例えば、玉継ぎ手である。連結部75は、後部20cに対して、予め決められた範囲内で、任意の方向に動くことができる。連結部75の後方向DB側の端部は、後輪支持部80の第2支持部83に連結されている。連結部分の構成は、例えば、玉継ぎ手である。連結部75は、第2支持部83に対して、予め決められた範囲内で、任意の方向に動くことができる。
このように、本体部20(ひいては、車体90)は、サスペンションシステム70と連結部75とを介して、後輪支持部80に連結されている。車体90は、後輪支持部80に対して、動くことが可能である。図1のロール軸AxRは、車体90が後輪支持部80に対して右方向DRまたは左方向DLに回動する場合の中心軸を示している。本実施例では、ロール軸AxRは、前輪12Fと地面GLとの接触中心P1と、連結部75の近傍と、を通る直線である。車体90は、サスペンション70L、70Rの伸縮によって、ロール軸AxRを中心に、幅方向に回動可能である。なお、本実施例では、傾斜機構89による傾斜の傾斜軸AxLは、ロール軸AxRと異なっている。
図5(A)、図5(B)には、ロール軸AxRを中心に回動する車体90が、点線で示されている。図中のロール軸AxRは、サスペンション70L、70Rを含み前方向DFに垂直な平面上のロール軸AxRの位置を示している。図5(B)に示すように、車両10が傾斜した状態においても、車体90は、さらに、ロール軸AxRを中心に、右方向DRと左方向DLとに回動可能である。
車体90は、後輪支持部80による回動と、サスペンションシステム70と連結部75とによる回動と、によって、鉛直上方向DU(ひいては、地面GL)に対して、車両10の幅方向に回動し得る。このように、車両10の全体を総合して実現される車体90の幅方向の回動を、ロールとも呼ぶ。本実施例では、車体90のロールは、主に、後輪支持部80とサスペンションシステム70と連結部75との全体を通じて引き起こされる。また、車体90やタイヤ12Rb、12Lbなどの車両10の部材の変形によっても、ロールは生じる。
図1、図5(A)、図5(B)には、重心90cが示されている。この重心90cは、満載状態での車体90の重心である。満載状態は、車両10が、車両10の総重量が許容される車両総重量になるように、乗員(可能なら荷物も)を積んだ状態である。例えば、荷物の最大重量は規定されず、最大定員数が規定される場合がある。この場合、重心90cは、車両10に対応付けられた最大定員数の乗員が車両10に搭乗した状態の重心である。乗員の体重としては、最大定員数に予め対応付けられた基準体重(例えば、55kg)が採用される。また、最大定員数に加えて、荷物の最大重量が規定される場合がある。この場合、重心90cは、最大定員数の乗員と、最大重量の荷物と、を積んだ状態での、車体90の重心である。
図示するように、本実施例では、重心90cは、ロール軸AxRの下方向DD側に配置されている。従って、車体90がロール軸AxRを中心に振動する場合に、振動の振幅が過度に大きくなることを抑制できる。本実施例では、重心90cをロール軸AxRの下方向DD側に配置するために、車体90(図1)の要素のうち比較的重い要素であるバッテリ120が、低い位置に配置されている。具体的には、バッテリ120は、車体90の本体部20のうちの最も低い部分である底部20bに固定されている。従って、重心90cを、容易に、ロール軸AxRよりも低くできる。
図6は、旋回時の力のバランスの説明図である。図中には、旋回方向が右方向である場合の後輪12L、12Rの背面図が示されている。後述するように、旋回方向が右方向である場合、制御装置110(図1)は、後輪12L、12R(ひいては、車両10)が地面GLに対して右方向DRに傾斜するように、リーンモータ25を制御する場合がある。
図中の第1力F1は、車体90に作用する遠心力である。第2力F2は、車体90に作用する重力である。ここで、車体90の質量をm(kg)とし、重力加速度をg(おおよそ、9.8m/s2)とし、鉛直方向に対する車両10の傾斜角をT(度)とし、旋回時の車両10の速度をV(m/s)とし、旋回半径をR(m)とする。第1力F1と第2力F2とは、以下の式1、式2で表される。
F1 = (mV2)/R (式1)
F2 = mg (式2)
また、図中の力F1bは、第1力F1の、車両上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F2bは、第2力F2の、車両上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F1bと力F2bとは、以下の式3、式4で表される。
F1b = F1 cos(T) (式3)
F2b = F2 sin(T) (式4)
力F1bは、車両上方向DVUを左方向DL側に回動させる成分であり、力F2bは、車両上方向DVUを右方向DR側に回動させる成分である。車両10が傾斜角T(さらには、速度Vと旋回半径R)を保ちつつ安定して旋回を続ける場合には、F1bとF2bとの関係は、以下の式5で表される
F1b = F2b (式5)
式5に上記の式1~式4を代入すると、旋回半径Rは、以下の式6で表される。
R = V2/(g tan(T)) (式6)
式6は、車体90の質量mに依存せずに、成立する。
図7は、操舵角AFと旋回半径Rとの簡略化された関係を示す説明図である。図中には、下方向DDを向いて見た車輪12F、12L、12Rが示されている。図中では、前輪12Fは、右方向DRに回動しており、車両10は、右方向DRに旋回する。図中の前中心Cfは、前輪12Fの中心である。前中心Cfは、前輪12Fの回転軸上に位置している。下方向DDを向いて車両10を見る場合、前中心Cfは、接触中心P1(図1)とおおよそ同じ位置に位置している。後中心Cbは、2つの後輪12L、12Rの中心である。車体90が傾斜していない場合、後中心Cbは、後輪12L、12Rの回転軸上の、後輪12L、12Rの間の中央に位置している。下方向DDを向いて車両10を見る場合、後中心Cbの位置は、2個の後輪12L、12Rの接触中心PbL、PbRの間の中央の位置と、同じである。中心Crは、旋回の中心である(旋回中心Crと呼ぶ)。ホイールベースLhは、前中心Cfと後中心Cbとの間の前方向DFの距離である。図1に示すように、ホイールベースLhは、前輪12Fの回転軸と、後輪12L、12Rの回転軸との間の前方向DFの距離である。
図7に示すように、前中心Cfと後中心Cbと旋回中心Crとは、直角三角形を形成する。点Cbの内角は、90度である。点Crの内角は、操舵角AFと同じである。従って、操舵角AFと旋回半径Rとの関係は、以下の式7で表される。
AF = arctan(Lh/R) (式7)
なお、現実の車両10の挙動と、図7の簡略化された挙動と、の間には、種々の差異が存在する。例えば、現実の車輪12F、12L、12Rは、地面GLに対して滑り得る。また、現実の後輪12L、12Rは、傾斜する。従って、現実の旋回半径は、式7の旋回半径Rと異なり得る。ただし、式7は、操舵角AFと旋回半径Rとの関係を示す良い近似式として、利用可能である。
また、旋回半径が上記の式6で表される旋回半径Rと同じである場合には、力F1b、F2b(図6、式5)が釣り合うので、車両10の挙動の安定性が向上する。また、傾斜角Tで旋回する車両10は、式6で表される旋回半径Rで旋回しようとする。そして、車両10が傾斜角Tで旋回する場合、前輪12Fの向き(すなわち、操舵角AF)が、式6で表される旋回半径Rと、式7と、から特定される操舵角AFの向きと同じである場合に、車両10の挙動の安定性が向上する。
なお、実際には、車体90を傾斜させた状態で前進する車両10の前輪12F(ひいては、操舵装置41)には、種々の力が作用し得る。図8(A)は、速度Vとトルクtqとの関係の例を示すグラフである。横軸は、車両10の速度Vを示し、縦軸は、前輪12Fに作用する回動軸Ax1を中心とするトルクtqを示している。このグラフは、旋回半径R(図6、図7)が一定の状態で、速度Vを変化させる場合のトルクtqの変化を示している。グラフ中では、トルクtqの向きは、in方向とout方向とで示されている。in方向のトルクtqは、前輪12Fの方向D12(図2)を、傾斜方向に回動させるトルクである。out方向のトルクtqは、前輪12Fの方向D12を、傾斜方向とは反対の方向に回動させるトルクである。例えば、車体90が右方向DR側に傾斜する場合、in方向のトルクtqは、前輪12Fの方向D12を右方向DR側へ回動させるトルクであり、out方向のトルクtqは、前輪12Fの方向D12を左方向DL側へ回動させるトルクである。グラフ中には、前輪12Fに作用し得る4つのトルクtq1~tq4と、これらのトルクtq1~tq4の合計トルクtqsと、が示されている。
図9(A)は、速度Vとトルクtqとの関係の例を示す別のグラフである。このグラフは、傾斜角T(図5)が一定の状態で、速度Vを変化させる場合のトルクtqの変化を示している。横軸は、速度Vを示し、縦軸は、トルクtqを示している。このグラフにも、図8(A)のグラフと同様に、4つのトルクtq1~tq4と、合計トルクtqsと、が示されている。
図10は、第1トルクtq1の説明図である。図10(A)には、下方向DDを向いて見た車両10の概略が示され、図10(B)には、前方向DFを向いてみた前輪12Fの概略が示されている。これらの図は、前進中の車両10の車体90が右方向DR側へ傾斜した状態を、示している。図10(B)に示すように、前輪12Fは、右方向DR側に傾斜している。この状態で、前輪12Fは、地面GLに接触して、車両10の重量の一部を、支えている。従って、前輪12Fは、地面GLから、上方向DUの力Fpaを受ける。力Fpaは、前輪12Fの接触中心P1に、作用する。このような力Fpaは、前輪12Fの回動軸Ax1に平行な成分Fpaxと、回動軸Ax1に垂直に左方向DL側に向かう成分Fpa1と、を含んでいる。垂直成分Fpa1は、前輪12Fの接触中心P1を左方向DLへ移動させる。
図10(A)に示すように、前輪12Fの接触中心P1には、左方向DL側を向いた力Fpa1が、作用する。また、前輪12Fの回動軸Ax1と地面との交点P2は、接触中心P1よりも、前方向DF側に位置している。従って、力Fpa1に起因して、前輪12Fには、前輪12Fの方向D12を右方向DR側に回動させる第1部分トルクtq11が、作用する。力Fpa1は、傾斜角Tの絶対値がゼロから増大することに応じて、大きくなる。従って、力Fpa1に起因する第1部分トルクtq11は、傾斜角Tの絶対値が大きいほど、大きい。
図10(C)には、右方向DRを向いて見た前輪12Fの概略が示されている。この図は、図10(A)のように、前輪12Fの進行方向D12が右方向DR側に回動した状態を、示している。上述したように、前輪12Fの接触中心P1は、地面GLから、上方向DUの力Fpaを受ける。また、図示するように、本実施例では、前輪12Fのキャスター角CAは、ゼロよりも大きい。力Fpaは、前輪12Fの回動軸Ax1に平行な成分Fpaxと、回動軸Ax1に垂直に前方向DF側に向かう成分Fpa2と、を含んでいる。垂直成分Fpa2は、前輪12Fの接触中心P1を前方向DFへ移動させる。
図10(D)には、下方向DDを向いて見た前輪12Fの概略が示されている。この図は、前輪12Fの進行方向D12が右方向DR側に回動した状態を、示している。図中には、比較的小さい操舵角AF1の前輪12Fと、比較的大きい操舵角AF2の前輪12Fとが、示されている。図10(C)で説明したように、前輪12Fの接触中心P1には、前方向DF側に向かう力Fpa2が作用する。また、前輪12Fの進行方向D12が右方向DR側に回動している場合、接触中心P1は、回動軸Ax1の交点P2よりも左方向DL側に位置している。従って、力Fpa2に起因して、前輪12Fには、前輪12Fの方向D12を右方向DR側に回動させる第2部分トルクtq12が、作用する。第2部分トルクtq12の大きさは、力Fpa2の大きさが一定である場合、接触中心P1と回動軸Ax1の交点P2との間の、力Fpa2の方向に垂直な方向(ここでは、右方向DRと同じ)の距離が大きいほど、大きい(垂直距離と呼ぶ)。図中の距離D1は、操舵角AFが比較的小さい操舵角AF1である場合の垂直距離であり、距離D2は、操舵角AFが比較的大きい操舵角AF2である場合の垂直距離である。前輪12FのトレールLt(図1)は、ゼロよりも大きい。従って、図10(D)に示すように、操舵角AFが大きいほど、垂直距離は大きい。従って、第2部分トルクtq12は、操舵角AFが大きいほど、大きい。
第1トルクtq1(図8(A)、図9(A)、図10(A))は、これらの部分トルクtq11、tq12の合計である。第1トルクtq1は、傾斜角Tと操舵角AFとに応じて、変化する。例えば、図8(A)のグラフのように、旋回半径Rが一定である場合、車速Vの増大に応じて傾斜角Tの絶対値が大きくなるので、車速Vの増大に応じて、第1部分トルクtq11(図10(A)、図10(B))が大きくなる。また、旋回半径Rが一定であるので、操舵角AFは一定であり得る。また、車速Vが速い場合には、旋回半径Rを維持するために必要な操舵角AFの絶対値が小さくなり得る。従って、第2部分トルクtq12(図10(D))は、車速Vの増大に応じて、一定であり得、また、小さくなり得る。ここで、第2部分トルクtq12の減少は、第1部分トルクtq11の増大に比べて、小さい。従って、図8(A)のグラフでは、第1トルクtq1は、車速Vの増大に応じて、大きくなる。
図9(A)のグラフのように、傾斜角Tが一定である場合、第1部分トルクtq11(図10(A)、図10(B))は、車速Vに拘わらずに、おおよそ一定である。また、傾斜角Tが一定である場合、車速Vの増大に応じて旋回半径Rが大きくなるので、車速Vの増大に応じて、操舵角AFの絶対値は小さくなる。従って、第2部分トルクtq12(図10(D))は、車速Vの増大に応じて、小さくなる。以上により、図9(A)のグラフでは、第1トルクtq1は、車速Vの増大に応じて、小さくなる。
図11は、第2トルクtq2の説明図である。図中には、下方向DDを向いて見た車両10の概略が示されている。図中の車両10の車体90は、右方向DR側へ傾斜しており、車両10は、右方向DR側へ旋回している。図6でも説明したように、旋回する車両10の車体90には、旋回の中心とは反対側(ここでは、左方向DL側)を向く遠心力F1が、作用する。すなわち、前輪12Fの回動軸Ax1には、左方向DL側を向く力Fpbが作用する。一方、前輪12Fと地面との接触中心P1は、摩擦によって、直ぐに左方向DL側へ移動することはできない。そして、接触中心P1は、回動軸Ax1と地面との交点P2よりも、後方向DB側に位置している。これらの結果、前輪12Fには、前輪12Fの方向D12を左方向DL側に回動させる第2トルクtq2が、作用し得る。このような第2トルクtq2は、遠心力F1が大きいほど、大きい。
図8(A)のグラフのように、旋回半径Rが一定である場合、車速Vの増大に応じて、遠心力は大きくなる。従って、第2トルクtq2は、車速Vの増大に応じて、大きくなる。図9(A)のグラフのように、傾斜角Tが一定である場合については、以下の通りである。図6のように車体90の傾斜と遠心力とが釣り合っている場合、「F1=F2 tan(T)」である。このように、傾斜角Tが一定である場合、遠心力F1は、おおよそ一定である。従って、図9(A)のグラフでは、第2トルクtq2は、車速Vに拘わらず、おおよそ一定である。
図12は、第3トルクtq3の説明図である。図12(A)には、下方向DDを向いて見た車両10の概略が示され、図12(B)には、前輪12Fと、操舵装置41(ここでは、前フォーク17の一部)との概略斜視図が示されている。これらの図は、前進中の車両10の車体90が右方向DR側へ傾斜し、そして、車両10が右方向DR側へ旋回している状態を、示している。
図12(B)には、3本の軸Axa、Axb、Axcが示されている。回転軸Axbは、前輪12Fの回転軸である。車両10が前進する場合、前輪12Fは、この回転軸Axbを中心に、回転する。図中の回転軸Axbに付された回転方向Rbは、回転軸Axbを中心とする前輪12Fの回転方向を示している。鉛直軸Axaは、前輪12Fの中心12Fcを通り、鉛直上方向DUに平行な軸である。前輪12Fの中心12Fcは、回転軸Axb上に位置している。操舵装置41の回動軸Ax1は、鉛直軸Axaに対して、斜めに傾斜している。前後軸Axcは、前輪12Fの中心12Fcを通り、鉛直軸Axaと回転軸Axbとに垂直な軸である。この前後軸Axcは、地面におおよそ平行であり、また、前輪12Fの進行方向D12に平行である。
図12(A)のように下方向DDを向いて見る場合、右方向DR側に向かって旋回する車両10は、旋回中心Cr(図7)の周りを時計回りに移動する公転運動を行いつつ、車両10の前方向DFを時計回りに回転させる自転運動RM(図12(A))を行う。この車両10の自転運動RMに起因して、前輪12Fも、前輪12Fの進行方向D12を時計回りに回転させる自転運動を行う。図12(B)の鉛直軸Axaに付された回転方向Raは、前輪12Fの自転運動の方向を示している。
このように、前輪12Fには、鉛直軸Axaを中心とする回転方向Raのトルクtqrが、作用する。このトルクtqrは、前輪12Fの回転軸Axbを回転させる。この場合、ジャイロスコープの動作と同様に、回転軸Axbを中心に回転する前輪12Fには、回転軸Axbと、トルクtqrの軸である鉛直軸Axaと、に直交する軸である前後軸Axcを中心とするトルクtq3xが作用する。このトルクtq3xは、前輪12Fの傾斜を、左方向DL側に変化させるトルクである。
本実施例では、キャスター角CA(図1)がゼロよりも大きいので、操舵装置41の回動軸Ax1は、前後軸Axcに対して、直交せずに斜めに傾斜している。従って、前後軸Axcを中心とするトルクtq3xは、操舵装置41の回動軸Ax1を中心とするトルクの成分を含んでいる。この回動軸Ax1を中心とするトルクの成分が、第3トルクtq3である。この第3トルクtq3は、前輪12Fの方向D12を左方向DLに回動させる方向の、トルクである。この第3トルクtq3は、前輪12Fの回転軸Axbを中心とする回転による角運動量(すなわち速度V)が速いほど、大きい。また、自転運動の角速度が速いほど、大きい。
図8(A)のグラフのように、旋回半径Rが一定である場合、車速Vの増大に応じて、自転運動の角速度も速くなる。従って、第3トルクtq3は、車速Vの増大に応じて、大きくなる。図9(A)のグラフのように、傾斜角Tが一定である場合、車速Vの増大に応じて旋回半径Rが大きくなるので、自転運動の角速度は小さくなり得る。しかし、前輪12Fの回転軸Axbを中心とする回転による角運動量は、車速Vが速いほど大きくなる。これにより、第3トルクtq3は、車速Vの増大に応じて、大きくなる。
図13は、第4トルクtq4の説明図である。図13(A)には、下方向DDを向いて見た車両10の概略が示され、図13(B)には、前方向DFを向いてみた前輪12Fの概略が示されている。これらの図は、前進中の車両10の車体90が右方向DR側へ傾斜した状態を、示している。図13(B)に示すように、車体90の傾斜に応じて、前輪12Fも、右方向DR側へ傾斜している。公知の通り、地面GLに対して傾斜した状態で回転する車輪には、キャンバースラストと呼ばれる力が作用する。キャンバースラストは、車輪のうちの地面との接触部分に作用する力であり、車輪の傾斜方向を向いた力である。図13(B)のように車輪12Fが右方向DR側に傾斜する場合、前輪12Fの接触中心P1に、右方向DRのキャンバースラストFpcが、作用する。
図13(A)に示すように、前輪12Fの接触中心P1には、右方向DRのキャンバースラストFpcが、作用する。また、前輪12Fの回動軸Ax1と地面との交点P2は、接触中心P1よりも、前方向DF側に位置している。従って、キャンバースラストFpcに起因して、前輪12Fには、前輪12Fの方向D12を左方向DL側に回動させる第4トルクtq4が、作用し得る。第4トルクtq4は、キャンバースラストFpcが大きいほど、大きい。そして、キャンバースラストFpcは、前輪12Fの傾斜が大きいほど、すなわち、傾斜角Tの絶対値が大きいほど、大きい。
図8(A)のグラフのように、旋回半径Rが一定である場合、車速Vの増大に応じて傾斜角Tの絶対値が大きくなるので、車速Vの増大に応じて、第4トルクtq4は大きくなる。また、図9(A)のグラフのように、傾斜角Tが一定である場合、第4トルクtq4は、車速Vに拘わらずに、おおよそ一定である。
以上、車両10が右方向DRに旋回する場合について説明した。車両10が左方向DLに旋回する場合には、図10~図13のトルクtq1~tq4とは反対向きのトルクが、前輪12Fに作用し得る。
図8(A)、図9(A)の合計トルクtqsは、4つのトルクtq1~tq4の合計トルクである。図示するように、合計トルクtqsは、速度Vの増大に応じて、in方向からout方向に向かって、変化する。グラフ中の速度Vv1、Vv2は、合計トルクtqsがゼロとなる速度Vである(ゼロ速度Vv1、Vv2とも呼ぶ)。速度Vがゼロ速度Vv1、Vv2よりも遅い範囲内にある場合、合計トルクtqsは、ゼロよりも大きなin方向のトルクであり、速度Vの増大に応じて小さくなる。速度Vがゼロ速度Vv1、Vv2よりも速い範囲内にある場合、合計トルクtqsは、ゼロよりも大きなout方向のトルクであり、速度Vの増大に応じて大きくなる。なお、トルクtq1~tq4と速度Vとの関係は、車両10の構成に応じて、種々に変化し得る。従って、合計トルクtqsと速度Vとの関係も、車両10の構成に応じて、種々に変化し得る。合計トルクtqsがゼロとなるゼロ速度Vv1、Vv2も、車両10の構成に応じて、種々に変化し得る。また、前輪12Fに作用するトルクtq1~tq4は、車両10の走行状態に応じて、種々に変化する。
いずれの場合も、種々の走行状態において、in方向の第1トルクtq1(図10)が、前輪12Fに作用する。そして、種々の走行状態において、out方向のトルクtq2、tq3、tq4(図11~図13)が、前輪12Fに作用する。out方向のトルクtq2、tq3、tq4は、車速V等の走行状態に応じて、大きく変化し得る。一般的には、out方向のトルクtq2、tq3、tq4のうちの1以上のトルクが、車速Vが速いほど、大きくなり得る。これらの結果、旋回半径Rが一定の場合と傾斜角Tが一定の場合とに限らず、種々の走行状態において、合計トルクtqsは、車速Vに応じてin方向からout方向まで、変化する。従って、合計トルクtqsは、車速Vが特定の速度(例えば、図8(A)、図9(A)のゼロ速度Vv1、Vv2)である場合に、ゼロであるものの、特定の速度を除いた残りの速度範囲においては、合計トルクtqsは、ゼロよりも大きい。
このようにゼロよりも大きい合計トルクtqsに起因して、前輪12Fの進行方向D12は、変化し得る。例えば、車速Vが遅い場合、in方向の合計トルクtqsに起因して、前輪12Fの方向D12は、更に、傾斜方向に回動し得る。この結果、前輪12Fの操舵角AFは、式7で表される操舵角AFから、ズレ得る。
また、合計トルクtqsに起因して操舵角AFが変化する場合、操舵角AFの変化に応じて傾斜角Tが変化し得る。例えば、車速Vが遅い場合、in方向の合計トルクtqsに起因して、操舵角AFの絶対値が大きくなり得る。これにより、旋回半径が小さくなり、遠心力が増大する。増大した遠心力により、車体90は、旋回方向とは反対側に向かって起き上がり得る、すなわち、傾斜角Tの絶対値が小さくなり得る。また、本実施例では、キャスター角CA(図1)が、ゼロよりも大きいので、回動軸Ax1を中心とする合計トルクtqsは、車体90の傾斜角Tを変化させるトルク成分を、含んでいる。このように、合計トルクtqsは、車体90の傾斜角Tを変化させる力である、といえる。
このように、前輪12Fに作用する合計トルクtqsに起因して、操舵角AFと傾斜角Tとが変化し得るので、車両10の走行安定性が、低下し得る。なお、前輪12Fは、操舵装置41に支持されている。従って、合計トルクtqsは、操舵装置41(例えば、前フォーク17)に作用するトルクである、ということもできる。
なお、図10(A)、図10(B)の第1部分トルクtq11と、図11の第2トルクtq2と、図13の第4トルクtq4とは、キャスター角CAの大きさに拘わらずに、前輪12Fの操舵角AF(ひいては、車体90の傾斜角T)を変化させ得る。また、図12(B)の第3トルクtq3は、トレールLtの大きさに拘わらずに、前輪12Fの操舵角AF(ひいては、車体90の傾斜角T)を変化させ得る。このように、前輪12F(ひいては、操舵装置41)には、種々の力が作用する。従って、キャスター角CAとトレールLtとを調整することによって、操舵角AF(ひいては、車体90の傾斜角T)を変化させる力を小さくすることは、容易ではない。
なお、車速Vがゼロを含む遅い範囲内にある場合(例えば、10km/h以下)、遠心力や前輪12Fの角運動量などの種々のパラメータが非常に小さいので、前輪12Fの操舵角AFは、in方向の第1トルクtq1によって、急激に増大し得る。図8(A)、図9(A)のグラフにおける、V=0を含む低速部分(ここでは、グラフの線が細線で表されている部分)は、このような操舵角AFの変化が速い部分を示している。
制御装置110(図1)は、合計トルクtqsの影響を緩和するように、車両10を制御する。本実施例では、制御装置110は、合計トルクtqsとは反対方向の力を生成する傾斜トルクを、傾斜機構89のリーンモータ25に生成させる。図10(B)で説明したように、傾斜角Tに応じて、前輪12Fの進行方向D12を回動させるトルクが生じる。また、図12(B)のトルクtq3xと同様に、車体90を左方向DL側へ傾斜させるトルクは、前輪12Fの進行方向D12を左方向DL側へ回動させるトルク成分を、含んでいる。このように、リーンモータ25が車体90を傾斜させる傾斜トルクを生成することによって、操舵装置41(ひいては、前輪12F)に、回動軸Ax1を中心に進行方向D12を回動させるトルクを作用させることができる。これにより、制御装置110は、前輪12Fを操舵装置41の回動軸Ax1を中心に自由に回動可能な状態に維持しつつ、前輪12Fの操舵角AFを制御できる。
なお、リーンモータ25によって生成される傾斜トルクの向き(すなわち、リーンモータ25の回動軸を中心とするトルクの向き)と、操舵装置41(ひいては、前輪12F)に作用するトルクの向き(すなわち、回動軸Ax1を中心とするトルクの向き)と、の関係は、車両10の構成(例えば、キャスター角CAの大きさ、トレールLtの大きさ、等)と、車両10の走行状態と、に応じて変化し得る。
A2.車両10の制御:
図14は、車両10の制御に関する構成を示すブロック図である。車両10は、制御に関する構成として、車速センサ122と、ハンドル角センサ123と、操舵角センサ124と、リーン角センサ125と、アクセルペダルセンサ145と、ブレーキペダルセンサ146と、シフトスイッチ47と、トルクセンサ149と、制御装置110と、右電気モータ51Rと、左電気モータ51Lと、リーンモータ25と、を有している。
車速センサ122は、車両10の車速を検出するセンサである。本実施例では、車速センサ122は、前フォーク17(図1)の下端に取り付けられており、前輪12Fの回転速度、すなわち、車速を検出する。
ハンドル角センサ123は、ハンドル41aの向き(すなわち、ハンドル角)を検出するセンサである。「ハンドル角=ゼロ」は、直進を示し、「ハンドル角>ゼロ」は、右旋回を示し、「ハンドル角<ゼロ」は、左旋回を示している。ハンドル角は、ユーザの望む操舵角AF、すなわち、操舵角AFの目標値を示している。本実施例では、ハンドル角センサ123は、ハンドル41a(図1)に固定された支持棒41axに取り付けられている。
操舵角センサ124は、前輪12Fの操舵角AFを検出するセンサである。本実施例では、操舵角センサ124は、軸受け65(図1)に取り付けられている。
リーン角センサ125は、傾斜角Tを検出するセンサである。リーン角センサ125は、リーンモータ25に取り付けられている(図4)。上述したように、中縦リンク部材21に対する上横リンク部材31Uの向きが、傾斜角Tに対応している。リーン角センサ125は、中縦リンク部材21に対する上横リンク部材31Uの向き、すなわち、傾斜角Tを検出する。
アクセルペダルセンサ145は、アクセル操作量を検出するセンサである。本実施例では、アクセルペダルセンサ145は、アクセルペダル45(図1)に取り付けられている。ブレーキペダルセンサ146は、ブレーキ操作量を検出するセンサである。本実施例では、ブレーキペダルセンサ146は、ブレーキペダル46(図1)に取り付けられている。
トルクセンサ149は、操舵装置41の前フォーク17に作用するトルクを検出するセンサである。前フォーク17は、回動軸Ax1に沿って延びる部分17bを含んでいる。延びる部分17bは、例えば、軸受け65に接続される部分である。トルクセンサ149は、この延びる部分17bに、固定されている。トルクセンサ149は、例えば、歪みゲージである。ユーザがハンドル41aを持った状態で、前輪12Fにトルク(例えば、図8(A)、図9(A)の合計トルクtqs)が作用すると、前フォーク17の延びる部分17bがねじれる。このねじれは、トルクが大きいほど、大きい。歪みセンサは、前フォーク17の延びる部分17bねじれの向きと大きさを検出する。検出されたねじれの向きと大きさとから、前フォーク17に作用するトルクの向きと大きさとを、特定できる。以下、トルクセンサ149によって検出されるトルクを、検出トルクと呼ぶ。
なお、各センサ122、123、124、125、145、146は、例えば、レゾルバ、または、エンコーダを用いて構成されている。
制御装置110は、主制御部100と、駆動装置制御部101と、リーンモータ制御部102と、を有している。制御装置110は、バッテリ120(図1)からの電力を用いて動作する。制御部100、101、102は、それぞれ、コンピュータを有している。各コンピュータは、プロセッサ(例えば、CPU)と、揮発性記憶装置(例えば、DRAM)と、不揮発性記憶装置(例えば、フラッシュメモリ)と、を有している。不揮発性記憶装置には、制御部の動作のためのプログラムが、予め格納されている。プロセッサは、プログラムを実行することによって、種々の処理を実行する。
主制御部100のプロセッサは、センサ122、123、124、125、145、146、149とシフトスイッチ47とからの信号を受信し、受信した信号に応じて車両10を制御する。具体的には、主制御部100のプロセッサは、駆動装置制御部101とリーンモータ制御部102とに指示を出力することによって、車両10を制御する(詳細は後述)。
駆動装置制御部101のプロセッサは、主制御部100からの指示に従って、電気モータ51L、51Rを制御する。リーンモータ制御部102のプロセッサは、主制御部100からの指示に従って、リーンモータ25を制御する。これらの制御部101、102は、それぞれ、制御対象のモータ51L、51R、25にバッテリ120からの電力を供給する電気回路(例えば、インバータ回路)を有している。
以下、制御部のプロセッサが処理を実行することを、単に、制御部が処理を実行する、とも表現する。
図15は、制御装置110(図14)によって実行される制御処理の例を示すフローチャートである。図15のフローチャートは、後輪支持部80の制御の手順を示している。図15の実施例では、制御装置110は、傾斜角Tがハンドル角に対応付けられた目標傾斜角に近づくように、リーンモータ25を制御する。また、制御装置110は、トルクセンサ149によって検出されたトルクとは反対の方向のトルクを生成する傾斜トルクを、リーンモータ25を生成させる。図15では、各処理に、文字「S」と、文字「S」に続く数字と、を組み合わせた符号が、付されている。
S100では、主制御部100は、センサ122、123、124、125、145、146、149とシフトスイッチ47とからの信号を取得する。これにより、主制御部100は、速度Vとハンドル角と操舵角AFと傾斜角Tとアクセル操作量とブレーキ操作量と検出トルクと走行モードとを、特定する。
S130では、主制御部100は、ハンドル角に対応付けられた第1目標傾斜角T1を特定する。本実施例では、第1目標傾斜角T1は、ハンドル角(単位は、度)に所定の係数(例えば、30/60)を乗じて得られる値である。なお、ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係としては、比例関係に代えて、ハンドル角の絶対値が大きいほど第1目標傾斜角T1の絶対値が大きくなるような種々の関係を採用可能である。ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係を表す情報は、主制御部100の不揮発性記憶装置に予め格納されている。主制御部100は、この情報を参照し、参照した情報によって予め決められた対応関係に従って、ハンドル角に対応する第1目標傾斜角T1を特定する。
なお、上述したように、式6は、傾斜角Tと速度Vと旋回半径Rとの対応関係を示し、式7は、旋回半径Rと操舵角AFとの対応関係を示している。これらの式6、7を総合すれば、傾斜角Tと速度Vと操舵角AFとの対応関係が特定される。ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係は、傾斜角Tと速度Vと操舵角AFとの対応関係を通じて、ハンドル角と操舵角AFとを対応付けている、ということができる(ここで、操舵角AFは、速度Vに依存して変化し得る)。
主制御部100は、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1となるようにリーンモータ25を制御するための指示を、リーンモータ制御部102に供給する。リーンモータ制御部102は、指示に従って、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1になるように、リーンモータ25を駆動する。これにより、車両10の傾斜角Tが、ハンドル角に対応付けられた第1目標傾斜角T1に、変更される。
また、本実施例では、主制御部100は、図8~図13で説明した合計トルクtqsとは反対方向の力を生成する傾斜トルクをリーンモータ25に生成させるための指示を、リーンモータ制御部102に供給する。リーンモータ制御部102は、指示に従って、リーンモータ25を駆動する。上述したように、リーンモータ25の傾斜トルクの向きと、傾斜トルクに起因して操舵装置41(ひいては、前輪12F)に作用するトルクの向きと、の関係は、車両の走行状態に応じて、変化する。リーンモータ制御部102は、走行状態に応じて、リーンモータ25の傾斜トルクの向きと大きさとを制御する。
図16は、リーンモータ制御部102の構成を示すブロック図である。リーンモータ制御部102は、第1制御部910と、第2制御部920と、第3制御部930と、第4制御部940と、電力供給部950と、を有している。4つの制御部910~940は、リーンモータ制御部102の図示しないコンピュータによって実現されている。電力供給部950は、バッテリ12(図1)0からの電力をリーンモータ25に供給する電気回路である。
第1制御部910は、第1目標傾斜角T1と、リーン角センサ125によって測定された傾斜角Tと、を表す情報を、主制御部100から取得し、これらのパラメータT1、Tを用いることによって、第1制御パラメータCP1を特定する(以下、第1パラメータCP1とも呼ぶ)。第1パラメータCP1は、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1となるように電力供給部950を制御するためのパラメータである。電力供給部950を制御するための制御パラメータとしては、電力供給部950(ひいては、リーンモータ25)を適切に制御可能な任意のパラメータを採用してよい。例えば、制御パラメータは、電流と電圧との組み合わせであってもよく、これに代えて、リーンモータ25によって生成すべきトルクの方向と大きさとの組み合わせであってもよい。
第1制御部910は、第1目標傾斜角T1から傾斜角Tを引いた差分に応じて、第1パラメータCP1を特定する。差分と第1パラメータCP1との対応関係は、予め実験的に決められている。第1パラメータCP1は、傾斜角Tが滑らかに変化して差分がゼロになるように、決められている。第1制御部910は、予め決められた対応関係を表すデータである第1マップMP1を参照して、上記の差分に対応付けられた第1パラメータCP1を特定する。そして、第1制御部910は、特定した第1パラメータCP1を、第4制御部940に供給する。なお、第1マップMP1は、リーンモータ制御部102の図示しない記憶装置(例えば、不揮発性記憶装置)に、予め、格納されている。
第2制御部920は、車速Vと傾斜角Tとを表す情報を主制御部100から取得し、これらのパラメータV、Tを用いることによって、第2制御パラメータCP2を特定する(第2パラメータCP2とも呼ぶ)。第2パラメータCP2は、合計トルクtqs(例えば、図8(A)、図9(A))とは反対方向の力を生成する傾斜トルクを、すなわち、合計トルクtqsの少なくとも一部を打ち消す傾斜トルクを、リーンモータ25に生成させるためのパラメータである。
図8(B)、図9(B)は、車速Vとトルクtqとの関係の例を示すグラフである。横軸は、車速Vを示し、縦軸は、前輪12Fに作用する回動軸Ax1を中心とするトルクtqを示している。各グラフには、打消トルクtqC1、tqC2が示されている。打消トルクtqC1、tqC2は、リーンモータ25によって生成される傾斜トルクによって生成されるトルクである。図8(B)の打消トルクtqC1は、図8(A)の合計トルクtqsの少なくとも一部を打ち消すように調整されている。図9(B)の打消トルクtqC2は、図9(A)の合計トルクtqsの少なくとも一部を打ち消すように調整されている。合計トルクtqsを打ち消して、残留するトルクをゼロにする場合、打消トルクtqC1、tqC2は、対応する合計トルクtqsの方向を反転させて得られるトルクと、同じである。
上述したように、合計トルクtqsは、車両10の走行状態に応じて、種々に変化する。そして、車両10の走行状態は、図8(A)、図9(A)のように旋回半径Rや傾斜角Tが一定である状態に限らず、種々に変化する。このような種々の走行状態と、望ましい打消トルク(ひいては、望ましい打消トルクを生成するためのリーンモータ25の傾斜トルク)と、の対応関係は、実験に従って、予め決定される。例えば、種々の走行状態において、前輪12Fの挙動(例えば、操舵角AFの変化)を観察し、トルクセンサ149によって検出されるトルクを解析することによって、走行状態と望ましい打消トルク(ひいては、望ましい傾斜トルク)との対応関係を特定できる。
本実施例では、車速Vと傾斜角Tとの組み合わせと、望ましい傾斜トルクの向きと大きさとを表す第2パラメータCP2と、の対応関係が、予め、実験的に決定されている。そして、第2制御部920は、決定された対応関係を表すデータである第2マップMP2を参照して、車速Vと傾斜角Tとの組み合わせに対応付けられた第2パラメータCP2を特定する。そして、第2制御部920は、特定した第2パラメータCP2を、第4制御部940に供給する。なお、第2マップMP2は、リーンモータ制御部102の図示しない記憶装置(例えば、不揮発性記憶装置)に、予め、格納されている。
第3制御部930(図16)は、トルクセンサ149によって検出された検出トルクTQを表す情報を主制御部100から取得し、検出トルクTQを用いることによって、第3制御パラメータCP3を特定する(以下、第3パラメータCP3とも呼ぶ)。第3パラメータCP3は、検出トルクTQがゼロとなるように電力供給部950を制御するためのパラメータである。第3制御部930は、検出トルクTQから基準トルクTS(ここでは、ゼロ)を引いた差分に応じて、第3パラメータCP3を特定する。差分と第3パラメータCP3との対応関係は、予め実験的に決められている。第3パラメータCP3に対応付けられる傾斜トルクは、検出トルクTQとは反対方向のトルクであり、第3パラメータCP3は、検出トルクTQが滑らかに変化して差分がゼロになるように、決められている。
第3制御部930は、予め決められた対応関係を表すデータである第3マップMP3を参照して、上記の差分に対応付けられた第3パラメータCP3を特定する。そして、第3制御部930は、特定した第3パラメータCP3を、第4制御部940に供給する。なお、第3マップMP3は、リーンモータ制御部102の図示しない記憶装置(例えば、不揮発性記憶装置)に、予め、格納されている。
第4制御部940(図16)は、第1制御部910からの第1パラメータCP1と、第2制御部920からの第2パラメータCP2と、第3制御部930からの第3パラメータCP3と、を用いて、電力供給部950を制御するための制御パラメータCPfを特定する。制御パラメータCP1、CP2、CP3の組み合わせと、最終的な制御パラメータCPfと、の対応関係は、予め実験的に決められている。例えば、制御パラメータCPfに対応付けられる傾斜トルクが、第1パラメータCP1に対応付けられる傾斜トルクと、第2パラメータCP2に対応付けられる傾斜トルクと、第3パラメータCP3に対応付けられる傾斜トルクと、の和となるように、制御パラメータCPfが決められる。第4制御部940は、制御パラメータCP1、CP2、CP3と、制御パラメータCPfと、の対応関係を表すデータである第4マップMP4を参照して、制御パラメータCPfを特定する。そして、第4制御部940は、特定した制御パラメータCPfに従って、電力供給部950を制御する。電力供給部950は、制御パラメータCPfに対応付けられた電力を、リーンモータ25に供給する。これにより、リーンモータ25は、第1パラメータCP1と第2パラメータCP2と第3パラメータCP3とを総合して得られる傾斜トルクを生成する。
傾斜角Tが第1目標傾斜角T1である状態では、第1パラメータCP1に対応する傾斜トルクは、おおよそ、ゼロである。この状態では、リーンモータ25は、第2パラメータCP2に対応する傾斜トルク(すなわち、打消トルクを生成するための傾斜トルク)と、第3パラメータCP3に対応する傾斜トルクと、の合計の傾斜トルクを、生成する。例えば、リーンモータ25は、図8(A)、図9(A)で説明した走行状態においては、図8(B)、図9(B)に示す打消トルクtqC1、打消トルクtqC2を生成するように、傾斜トルクを生成する。
また、でこぼこ道を走行することに起因する振動などの外乱によって、前輪12Fに作用するトルクが変化する場合、トルクセンサ149は、傾斜角Tが変化するよりも先に、トルクの変動を検出できる。そして、リーンモータ25は、第3制御部930からの第3パラメータCP3に対応する傾斜トルクを生成することによって、検出トルクの少なくとも一部を打ち消す打消トルクを前輪12Fに作用させる。これにより、傾斜角Tが大きく変化するよりも前に、前輪12Fに作用するトルクを小さくできる。
図8(B)、図9(B)中の残留トルクtqR1、tqR2は、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に実際に作用する合計トルクtqsに相当するトルクと、打消トルクtqC1、tqC2と、の和の例を示している。図示するように、残留トルクtqR1、tqR2の大きさは、車速Vによらず、図8(A)、図9(A)の合計トルクtqsの大きさと比べて、小さい。また、残留トルクtqR1、tqR2は、車速Vによらず、おおよそゼロである。このように、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に実際に作用するトルクの少なくとも一部を、打消トルクtqC1、tqC2によって打ち消すことによって、最終的に前輪12Fに作用する残留トルクtqR1、tqR2を小さくできる。この結果、操舵角AFの意図しない変化、ひいては、傾斜角Tの意図しない変化を、抑制できる。
なお、第2マップMP2によって特定される第2パラメータCP2は、誤差を含み得る。すなわち、第2パラメータCP2に対応付けられた傾斜トルクによって生成される打消トルクは、実際に前輪12Fに作用するトルク(合計トルクtqsに相当するトルク)とは異なり得る。この結果、ゼロよりも大きい残留トルクが、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に、作用し得る。残留トルクが大きい場合、車両10の走行安定性が、低下し得る。本実施例では、第3制御部930からの第3パラメータCP3に従って、リーンモータ25は、残留トルク(すなわち、検出トルク)がゼロになるように、傾斜トルクを生成する。従って、残留トルクが大きくなることを抑制できる。さらに、本実施例では、残留トルクが、許容最大トルクtqthを超えないように、打消トルク(すなわち、第2パラメータCP2)が、決定されている。
許容最大トルクtqthは、例えば、以下のように決定される。図17は、鉛直下方向DDを向いて見た、車輪12F、12L、12Rの位置と、車体90の重心90cの位置とを、示している。ここでは、車両10は、水平で平らな地面上を、走行していることとする。図中の投影位置90cpは、重心90cを鉛直下方向DDに向かって地面上に投影する場合の地面上の投影位置である。ハッチングが付された領域ACは、3個の車輪12F、12L、12Rのそれぞれの接触領域Ca1、CaR、CaLで構成される凸包によって表される領域である(凸包領域ACと呼ぶ)。図示するように、投影位置90cpは、凸包領域ACの内部に、位置している。
投影位置90cpは、車体90の傾斜角Tの変化などに応じて、移動する。投影位置90cpが凸包領域ACの内に位置する場合、車両10は、安定して走行できる。投影位置90cpが凸包領域ACの外に位置する場合、走行安定性が低下し得る。例えば、後輪12L、12Rのうちの一方が、地面から浮き上がり得る。
上述したように、残留トルクは、傾斜角Tを変化させ得る。過度に大きい残留トルクが前輪12F(ひいては、操舵装置41)に作用する場合、傾斜角Tが大きく変化し、この結果、投影位置90cpが凸包領域ACの外に移動し得る。許容最大トルクtqthは、投影位置90cpを凸包領域ACの外に移動させ得る残留トルクよりも小さい値に、予め決められている。
図17には、凸包領域ACの輪郭ACBが、太線で示されている。境界トルクtqRBは、投影位置90cpを輪郭ACB上に移動させるために必要な残留トルクを示している。境界トルクtqRBは、輪郭ACB上の位置に応じて、異なり得る。また、境界トルクtqRBは、輪郭ACB上の位置が同じであっても、車両10の走行状態に応じて、変化し得る。残留トルクtqRが境界トルクtqRB以上である場合、投影位置90cpは、凸包領域ACの外に移動し得る。許容最大トルクtqthとしては、この境界トルクtqRBの最小値よりも小さい値が、採用される。第2パラメータCP2は、残留トルクtqRが、許容最大トルクtqthを超えないように、決定されている。このような第2パラメータCP2は、投影位置90cpが凸包領域AC内に位置するように、決定されている、といえる。
同様に、第3パラメータCP3も、残留トルクtqRが、許容最大トルクtqthを超えないように、決定されている。このような第3パラメータCP3は、投影位置90cpが凸包領域AC内に位置するように、決定されている、といえる。
リーンモータ制御部102(図16)は、以上説明した処理を、繰り返し実行する。第1制御部910は、リーンモータ25の駆動によって変化した傾斜角Tが、更に、第1目標傾斜角T1に近づくように、第1パラメータCP1を特定し、特定した第1パラメータCP1を第4制御部940に供給する。このように、第1制御部910は、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1に近づくように、リーンモータ25によって生成される傾斜トルクを、フィードバック制御する。これにより、傾斜角Tは、第1目標傾斜角T1に調整される。また、第2制御部920は、車速Vと傾斜角Tとに対応付けられた第2パラメータCP2を、第4制御部940に供給する。このように、第2制御部920は、リーンモータ25によって生成される傾斜トルクを、フィードフォワード制御する。これにより、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に、過度のトルクが作用することが、抑制される。そして、残留トルク、すなわち、検出トルクが、抑制される。また、第3制御部930は、検出トルクTQがゼロに近づくように、第3パラメータCP3を特定し、特定した第3パラメータCP3を第4制御部940に供給する。このように、第3制御部930は、検出トルクTQがゼロに近づくように、リーンモータ25によって生成される傾斜トルクを、フィードバック制御する。これにより、残留トルク、すなわち、検出トルクが、抑制される。
例えば、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1と同じである場合、第1パラメータCP1に対応付けられる傾斜トルクはゼロであり得る。ここで、第2パラメータCP2に対応付けられる傾斜トルクは、前輪12Fに作用するトルク(例えば、トルクtqs(図8(A)、図9(A))の少なくとも一部を打ち消すために、ゼロよりも大きなトルクであり得る。この場合、リーンモータ25は、第2パラメータCP2に対応付けられる傾斜トルクを、生成する。これにより、傾斜角Tを第1目標傾斜角T1に維持しつつ、前輪12Fの方向D12が不安定になることを抑制できる。さらに、第2パラメータCP2に対応付けられる傾斜トルクが、残留トルク(すなわち、検出トルク)を十分に抑制できない場合には、リーンモータ25は、検出トルクに応じて特定される第3パラメータCP3に対応付けられた傾斜トルクを、生成する。これにより、検出トルクが小さくなる(例えば、検出トルクは、許容最大トルクtqthよりも小さいトルクに、維持される。
以上により、図15の処理が終了する。制御装置110は、図15の処理を繰り返し実行する。
なお、本実施例では、車両10の走行中に、ユーザは、前フォーク17に連結されたハンドル41aを操作することによって、操舵角AFを調整できる。従って、実際の操舵角AFと旋回半径Rと車速Vとは、式6、7で表される対応関係の値から、ずれ得る。
図示を省略するが、主制御部100(図14)と駆動装置制御部101とは、アクセル操作量とブレーキ操作量とに応じて電気モータ51L、51Rを制御する駆動制御部として機能する。本実施例では、具体的には、アクセル操作量が増大した場合には、主制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを増大させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが増大するように、電気モータ51L、51Rを制御する。アクセル操作量が減少した場合には、主制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを減少させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが減少するように、電気モータ51L、51Rを制御する。
ブレーキ操作量がゼロよりも大きくなった場合には、主制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを減少させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが減少するように、電気モータ51L、51Rを制御する。なお、車両10は、全ての車輪12F、12L、12Rのうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を摩擦によって低減するブレーキ装置を有することが好ましい。そして、ユーザがブレーキペダル46を踏み込んだ場合に、ブレーキ装置が、少なくとも1つの車輪の回転速度を低減することが好ましい。
以上のように、本実施例では、車両10(図1~図5)は、車両10の幅方向に互いに離れて配置された一対の後輪12L、12Rと、車体90に対して左右に回動可能な操舵輪である前輪12Fと、を含む3個の車輪を備えている。さらに、車両10は、操作することで操舵輪12Fの操舵方向が入力される操作入力部の例であるハンドル41aと、車体90を幅方向に傾斜させる傾斜機構89と、傾斜機構89を制御する制御装置110と、を備えている。ここで、制御装置110(特に、主制御部100と第1制御部910(図16))は、ハンドル41aへの入力に応じて車体90が操舵方向側に傾斜するように、傾斜機構89を制御する。また、車両10は、車体90の傾斜角Tを変化させる力を検出するトルクセンサ149を備えている。そして、制御装置110(特に、主制御部100と制御部920、930(図16))は、トルクセンサ149によって検出される検出トルクとは反対方向の打消トルクを生成する傾斜トルクを、傾斜機構89に生成させる。従って、検出トルクを小さくすることができる。この結果、前輪12Fの操舵角AFの安定性、ひいては、車両10の走行安定性を、向上できる。
また、仮に、車両10が、一定の旋回半径Rで旋回すると仮定する。この場合、制御装置110(特に、主制御部100と第2制御部920(図16))は、図8(B)に示すように、ゼロ速度Vv1を除いた残りの車速Vの範囲(第1非ゼロ範囲VR1とも呼ぶ)内において、検出トルクとは反対方向のゼロよりも大きな打消トルクtqC1を生成するために、ゼロよりも大きな傾斜トルクを、継続して、傾斜機構89に生成させる。これにより、前輪12Fに作用する残留トルク(すなわち、検出トルク)が、継続して、抑制されるので、旋回中の操舵角AFの安定性、ひいては、車両10の走行安定性を、向上できる。
また、仮に、車両10が、一定の傾斜角Tで旋回すると仮定する。この場合、制御装置110(特に、主制御部100と第2制御部920(図16))は、図9(B)に示すように、ゼロ速度Vv2を除いた残りの車速Vの範囲(第2非ゼロ範囲VR2とも呼ぶ)内において、検出トルクとは反対方向のゼロよりも大きな打消トルクtqC2を生成するために、ゼロよりも大きな傾斜トルクを、継続して、傾斜機構89に生成させる。これにより、前輪12Fに作用する残留トルク(すなわち、検出トルク)が、継続して、抑制されるので、旋回中の操舵角AFの安定性、ひいては、車両10の走行安定性を、向上できる。
また、図8(B)、図9(B)、図17で説明したように、制御装置110(特に、主制御部100と制御部920、930(図16))は、トルクセンサ149によって検出される検出トルクが、予め決められた許容最大トルクtqthを超えないように、傾斜機構89に傾斜トルクを生成させる。従って、検出トルクが許容最大トルクtqth以下に抑制されるので、走行判定性を向上できる。
また、図17で説明したように、許容最大トルクtqthは、トルクセンサ149によって検出される検出トルクが許容最大トルクtqthと同じである場合には、車体90の重心90cを鉛直下方向DDに向かって水平な地面上に投影する場合の地面上の投影位置90cpが、3個の車輪12L、12R、12Fの3個の接地領域CaL、CaR、Ca1によって構成される地面上の凸包領域AC内に位置するように、予め決められている、このように、投影位置90cpが凸包領域AC内に位置するように、検出トルクが抑制されるので、走行判定性を向上できる。
また、制御装置110(特に、主制御部100と第2制御部920(図16))は、車体90の傾斜角Tと、車速Vと、を含む複数のパラメータを用いて、傾斜機構89によって生成される傾斜トルクをフィードフォワード制御する。そして、制御装置110(特に、主制御部100と第3制御部930(図16))は、トルクセンサ149によって検出される検出トルクを用いて、傾斜機構89によって生成されるトルクをフィードバック制御する。これにより、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に、過度の残留トルクが作用することが、抑制される。この結果、操舵角AFの安定性、ひいては、車両10の走行安定性を、向上できる。
また、操舵装置41は、前輪12Fを支持する前フォーク17を含んでいる。前フォーク17は、回動軸Ax1に沿って延びる部分17bを含んでいる(例えば、操舵モータ65に接続される部分)。そして、前輪12F(図1)と操舵装置41の前フォーク17とは、操舵装置41による回動軸Ax1と地面GLとの交点P2が前輪12Fと地面GLとの接触領域Ca1の中心位置P1よりも前方向DF側に位置するように、構成されている。トルクセンサ149は、前フォーク17の延びる部分17bに作用するトルクを、車体90の傾斜角Tを変化させるトルクとして、検出する。具体的には、トルクセンサ149は、延びる部分17bに固定されている。この構成によれば、前輪12FのトレールLtがゼロではないので、前輪12Fに作用するトルクに起因して、操舵装置41(例えば、前フォーク17)にトルクが作用する。このトルクは、車体90の傾斜角Tを変化させ得る。トルクセンサ149は、操舵装置41(例えば、前フォーク17)に作用するトルクを検出することによって、車体90の傾斜角Tを変化させる力を、適切に、検出できる。
B.変形例:
(1)傾斜角Tを変化させる力を検出する検出部(例えば、トルクセンサ149(図1))の固定位置は、前フォーク17の延びる部分17bに限らず、車両10のうちの、傾斜角Tを変化させる力に応じて変形または移動し得る任意の部分であってよい。例えば、後輪を支持する支持部(例えば、図4の縦リンク部材33L、33R)に、トルクセンサ149が固定されてもよい。
また、検出部によって検出される、車体90の傾斜角Tを変化させる力としては、種々の力を採用してよい。例えば、前フォーク17の延びる部分17bに固定されたトルクセンサ149は、回動軸Ax1に交差する軸(例えば、前方向DF側に向かって延びる軸)を中心とするトルクを検出してもよい。このようなトルクは、前フォーク17のねじれを検出することによって、特定できる。
また、前輪12Fの中心部と前フォーク17との間に荷重センサを配置し、前輪12Fと前フォーク17とに挟まれる力(ここでは、前輪12Fの回転軸に平行な方向の力)を検出してもよい。このような力が、前輪12Fの右側と左側との間で異なる場合、前輪12Fには、傾斜角Tを変化させる力が作用している。
また、前輪12Fの中心部と前フォーク17との間に荷重センサを配置し、前フォーク17が前輪12Fから受ける鉛直上方向DUの力を検出してもよい。このような力が、前輪12Fの右側と左側との間で異なる場合、前輪12Fには、傾斜角Tを変化させる力が作用している。
また、車輪12Fのタイヤの内周側に歪みセンサを固定し、タイヤに作用する力(ここでは、前輪12Fの回転軸に平行な方向の力)を検出してもよい。このようにタイヤを横方向に変形させる力は、傾斜角Tを変化させ得る。
これらの力は、いずれも、トレールLtの大きさとキャスター角CAの大きさとに拘わらずに、傾斜角Tを変化させ得る。これらの変形例や、上記実施例のように、前輪12F(より一般的には、操舵輪)には、操舵角(ひいては、車体90の傾斜角T)を変化させ得る種々の力が作用する。そして、そのような力を、キャスター角CAとトレールLtとを調整することによって小さくすることは、容易ではない。上記実施例では、傾斜機構89に傾斜トルクを生成させることによって、打消トルクを生成し、これにより、残留トルクを小さくしている。この結果、操舵角の安定性、ひいては、車両10の走行安定性を、向上できる。このように、打消トルクを用いて残留トルクを小さくする方法は、種々の構成の車両(例えば、種々のキャスター角CAと種々のトレールLtを有する種々の車両)に、容易に適用できる。
(2)打消トルクを生成する処理としては、図14~図16等で説明した処理に代えて、他の種々の処理を採用可能である。例えば、前輪12Fに打消トルクを継続して作用させる処理が行われる車速Vの範囲は、車両10の最高速度以下の範囲のうち、前輪12F(ひいては、操舵装置41)に作用するトルク(例えば、図8(A)、図9(A)の合計トルクtqsに相当するトルク)がゼロになり得るゼロ速度を除いた残りの範囲のうちの、全体、または、一部分である、特定の範囲であってもよい。例えば、図8(B)の第1非ゼロ範囲VR1のうち、ゼロよりも速い所定の閾値Vth1以下の範囲では、打消トルクの付与を省略し、閾値Vth1以上の範囲内で、打消トルクを付与してもよい。同様に、図9(B)の第2非ゼロ範囲VR2のうち、ゼロよりも速い所定の閾値Vth2以下の範囲では、打消トルクの付与を省略し、閾値Vth2以上の範囲内で、打消トルクを付与してもよい。
また、リーンモータ制御部102(図16)の要素のうち、フィードフォワード制御を行う第2制御部920と、フィードバック制御を行う第3制御部930と、の少なくとも一方を省略してもよい。いずれの場合も、第1制御部910は、傾斜角Tが目標傾斜角である状態で、フィードバック制御によって傾斜角Tを目標傾斜角に維持するために、打消トルクを生成するための傾斜トルクを、継続的に、リーンモータ25に生成させ得る。この場合、主制御部100と第1制御部910との全体が、車体90が旋回方向に傾斜するように傾斜機構89を制御し、さらに、トルクセンサ149によって検出される検出トルクとは反対方向のトルクを生成する傾斜トルクを、傾斜機構89に生成させる。これにより、検出トルク(前輪12Fに実際に作用するトルク)が抑制されるので、走行安定性を向上できる。なお、前輪12Fに作用するトルクの増大を事前に抑制するためには、制御装置110は、傾斜トルクのフィードフォワード制御を行うことが、好ましい。また、傾斜トルクのフィードフォワード制御には、車速Vと傾斜角Tとに加えて、他のパラメータ(例えば、操舵角AFなど)が用いられてもよい。
いずれの場合も、車両10の走行状態は、刻々と変化する。これにより、適切な打消トルクも、刻々と変化する。従って、車両10の制御装置(例えば、図14の制御装置110)は、刻々と変化する適切な打消トルクを生成できるように、走行状態を表すパラメータ(例えば、車速Vと傾斜角Tと検出トルクTQを含む複数のパラメータ)を用いて、制御対象(リーンモータ25や、電気モータ51R、51L)の制御を、刻々と行うことが好ましい。このような制御を行うための制御装置の構成としては、種々の構成を採用可能である。例えば、制御装置は、図16のように、走行状態を表すパラメータと、制御対象(例えば、傾斜機構)を制御するためのパラメータと、の対応関係を表すデータ(例えば、マップ)を参照して、制御対象を制御してもよい。また、制御装置は、走行状態を表すパラメータの入力に応じて制御対象を制御するためのパラメータを出力する数学的関数を用いて、制御対象を制御してもよい。そのような数学的関数は、コンピュータによる計算によって実現されてもよく、アナログ回路によって実現されてもよい。
(3)車体90を幅方向に傾斜させる傾斜機構の構成としては、リンク機構30(図4)を含む構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、傾斜機構としては、後輪12L、12Rを回転可能に支持する台と、車体90と、を幅方向に回動可能に接続するヒンジと、台に対する車体90の傾斜角度(すなわち、傾斜角T)を制御する電気モータと、を含む構成を採用してもよい。また、傾斜機構の駆動装置は、電気モータに代えて他の種類の駆動装置であってもよい。例えば、傾斜機構の駆動装置がポンプを含み、傾斜機構は、ポンプからの液圧(例えば、油圧)によって駆動されてもよい。一般的には、地面GLに対して車体90を傾斜させることが可能な種々の構成を採用可能である。ここで、単なるサスペンションとは異なり、車体90の傾斜角Tを、目標の傾斜角に維持することが可能な機構を採用することが好ましい。
(4)車両の制御方法としては、図15で説明した方法に代えて、他の種々の方法を採用可能である。例えば、制御装置110(具体的には、主制御部100)は、車速Vに応じて、傾斜角Tの目標傾斜角を調整してもよい。例えば、主制御部100、車速Vが予め決められた閾値以上である場合には、第1目標傾斜角T1を採用し、車速Vが閾値未満である場合には、第1目標傾斜角T1よりも絶対値が小さい第2目標傾斜角T2を採用してもよい。低速時には、高速時と比べて、進行方向が頻繁に変更される。従って、低速時には、傾斜角Tの絶対値を小さくすることによって、進行方向の頻繁な変更を伴う走行を、安定化できる。
(5)車両の構成としては、上述の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、制御装置110(図14)のようなコンピュータが省略されてもよい。例えば、コンピュータを含まない電気回路が、センサ122、123、124、125、145、146、149とスイッチ47とからの信号に応じて、モータ51R、51L、25を制御してもよい。また、電気回路に代えて、油圧やモータの駆動力を利用して動作する機械が、モータ51R、51L、25を制御してもよい。また、複数の車輪の総数と配置としては、種々の構成を採用可能である。例えば、前輪の総数が2であり、後輪の総数が1であってもよい。また、前輪の総数が2であり、後輪の総数が2であってもよい。また、幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪が、前輪であってもよく、操舵輪であってもよい。また、後輪が操舵輪であってもよい。いずれの場合も、車両は、車両の幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪と、操舵輪と、を含むN個(Nは3以上の整数)の車輪であって、1個以上の前輪と、前輪よりも後方向DB側に配置された1個以上の後輪とを含む、N個の車輪を備えることが好ましい。この構成によれば、車両の停止時に車両が自立できる。また、駆動輪を駆動する駆動装置は、電気モータに代えて、車輪を回転させる任意の装置であってよい(例えば、内燃機関)。また、駆動装置を省略してもよい。すなわち、車両は、人力の車両であってもよい。また、車両の最大定員数は、1人に代えて、2人以上であってもよい。
(6)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図14の車両10の制御装置110の機能を、専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
また、本発明の機能の一部または全部がコンピュータプログラムで実現される場合には、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)に格納された形で提供することができる。プログラムは、提供時と同一または異なる記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納された状態で、使用され得る。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種ROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含み得る。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。