本発明のある特定の実施形態の詳細な説明
1.脳、CNS、心血管、ならびに他の傷害および状態
一部の実施形態では、本発明は、急性脳外傷と関連する脳損傷、ならびに脳およびCNSの長期疾患、ならびに心臓および心血管の疾患および状態を防止および/または処置するための新しい手法を提供する。一態様では、本発明は、現在、ニューロンの非常に重要な自然の世話役である細胞として理解されている星状膠細胞、ならびに脳のエネルギーのかなりの部分を供給する星状膠細胞ミトコンドリアによって媒介される神経保護効果および神経修復効果を利用することによって、このような傷害、疾患、および状態を処置する方法を提供する。別の態様では、本発明は、A3R受容体によって媒介される心臓保護および再生効果によって、このような傷害、疾患、および状態を処置する方法を提供する。神経保護効果および神経修復効果に関して、理論にも拘泥するものではないが、A3Rおよび/またはP2Y1受容体によって媒介される星状膠細胞のエネルギー代謝の選択的増強により、世話役としての星状膠細胞の機能、例えばそれらの神経保護機能および神経修復機能が促進され、それによって、急性傷害および長期ストレスの両方に対するニューロンおよび他の細胞の抵抗性が増強されると考えられる。ある場合には、A3Rおよび/またはP2Y1受容体によって媒介される1つまたは複数の経路を、バイアス式に、すなわち選択的または優先的に達成することが有利になる場合があり、ここで、1つまたは複数の望ましくない経路は、活性化されないか、または度合いは比較的低いが活性化される。星状膠細胞に加えて、または星状膠細胞の代替として、グリア、ミクログリア、ニューロン、内皮細胞、ならびに他の脳細胞および/またはCNS細胞型の神経保護機能または神経修復機能が活性化され得る。したがって一態様では、本発明は、例えば星状膠細胞、グリア、ミクログリア、ニューロン、内皮細胞、あるいは脳および/またはCNSの他の細胞によって媒介される神経保護効果および/または神経修復効果を増大することによって、脳傷害などの脳または中枢神経系(CNS)のある特定の状態を処置し、軽減し、またはそれらからの回復を促進するための化合物、およびその使用方法を提供し、その方法は、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む。
星状膠細胞は、ニューロンを補助し保護する、非常に重要な役割を果たしており、脳損傷、例えば虚血傷害を引き起こす脳傷害の転帰に決定的に影響を及ぼす。星状膠細胞ミトコンドリア自体がこれらの脳機能において果たす中心的役割は、十分に理解されていない。例えば、星状膠細胞ミトコンドリアが阻害されると、膨潤が増大し、壊死性細胞死に至る。ニューロンは、星状膠細胞ミトコンドリアが機能しない場合に限り反復して広がる脱分極によって永久的に損傷を受け、星状膠細胞ミトコンドリアは、細胞外K+が病態生理学的に上昇し、それによって脱分極が広がり始めるのを低減するのに必要である。星状膠細胞上のプリン作動性受容体の活性化は、ミトコンドリアCa2+を増大し、ミトコンドリアCa2+は、ミトコンドリアクエン酸回路機能を増強し、呼吸およびATP生成を増大する。したがって一態様では、本発明は、星状膠細胞のプリン受容体を活性化すると、脳細胞生存シグナル伝達経路が増強され、酸化ストレス中の星状膠細胞およびニューロンの両方が生存できるようになるという発見に関する。さらに、活性化された星状膠細胞は、酸化ストレスに対する星状膠細胞およびニューロンの両方の抵抗性の一助になる非常に重要な抗酸化物質である還元グルタチオンを産生し、供給する。したがって一態様では、本発明は、星状膠細胞のプリン受容体をモジュレートして、酸化ストレス、例えば脳傷害、虚血再灌流または神経変性状態によって引き起こされた酸化ストレス後の患者の脳内の、1つまたは複数の細胞型の生存および生存率を促進する方法であって、それを必要とする患者に、開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。
一部の実施形態では、星状膠細胞の活性化は、アデノシン受容体(AR)などの1つまたは複数のプリン受容体、例えば星状膠細胞と会合しているか、または星状膠細胞によって発現される受容体を、開示される化合物と接触させ、したがって1つまたは複数の受容体の活性をモジュレートすることによって達成される。一部の実施形態では、化合物は、星状膠細胞上のアデノシン受容体、例えばA1、A2A、A2BおよびA3の効果によって星状膠細胞を活性化して、1つまたは複数の開示される疾患または状態を処置する。一部の実施形態では、開示される化合物は、それを必要とする患者に投与された後、グルタミン酸の取込み、反応性グリオーシス、膨潤、ならびに代謝ストレスに影響を有する神経栄養因子および神経毒性因子の放出などの1つまたは複数の機能に影響を及ぼし、したがってその結果、1つまたは複数の疾患または状態を処置する。一部の実施形態では、化合物は、ARアゴニストである。一部の実施形態では、プリン受容体は、A3アデノシン受容体(A3R)である。一部の実施形態では、化合物は、A3Rアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体(A3R)、例えばヒトA3受容体(hA3R)における部分アゴニストまたはバイアスアゴニストまたはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
P2Y受容体は、Gタンパク質共役受容体であり、これらの受容体の様々なサブタイプは、シナプス連絡、細胞分化、イオン流動、血管拡張、血液脳関門透過性、血小板凝集およびニューロモジュレーションなどの過程において重要な役割を有する。プリン作動性P2Y受容体ファミリーの特徴付けられたメンバーには、アデニンヌクレオチドに結合する哺乳動物P2Y1、P2Y11、P2Y12およびP2Y13受容体、ウラシルヌクレオチドに結合するP2Y4、P2Y6、およびP2Y14受容体、ならびに混合型の選択性を有するP2Y2およびげっ歯類P2Y4受容体が含まれる。一部の実施形態では、星状膠細胞の活性化は、1つまたは複数のプリン受容体、例えばP2Y受容体、例えば星状膠細胞と会合しているか、または星状膠細胞によって発現される受容体を、開示される化合物と接触させ、したがって1つまたは複数の受容体の活性をモジュレートすることによって達成される。一部の実施形態では、化合物は、星状膠細胞と会合しているか、または星状膠細胞によって発現されるP2Y受容体、例えばP2Y1、P2Y11、P2Y12およびP2Y13受容体に対して効果を及ぼすことによって星状膠細胞を活性化して、1つまたは複数の開示される疾患または状態を処置する。一部の実施形態では、P2Y受容体は、P2Y1受容体である。一部の実施形態では、P2Y1受容体は、細胞内ミトコンドリア膜上に位置する。一部の実施形態では、化合物は、P2Yアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、例えばヒトP2Y1受容体におけるP2Y1アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体、例えばヒトP2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322または薬学的に許容されるその塩である。
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者における脳傷害、例えばTBIまたは進行性神経変性障害から生じる脳傷害を処置または軽減する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、TBI、脳振盪、脳卒中、部分的もしくは全体的脊髄離断、または栄養障害に罹患している。他の実施形態では、対象は、毒性神経障害、髄膜脳炎(meningoencephalopathies)、遺伝的障害によって引き起こされた神経変性、加齢性神経変性もしくは血管疾患、または参照によって本明細書に組み込まれるUS8,691,775に開示されている別の疾患に罹患している。一部の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者における脳傷害、例えばTBIまたは進行性神経変性障害から生じる脳傷害を処置または軽減する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者における脳傷害、例えばTBIまたは進行性神経変性障害から生じる脳傷害を処置または軽減する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者における星状膠細胞媒介性神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者における星状膠細胞媒介性神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者における星状膠細胞媒介性神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者におけるニューロン、グリア細胞、内皮細胞または他の脳細胞、例えば虚血性周辺部の脳細胞の生存を促進する方法であって、患者に、有効量の本明細書に開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者におけるニューロン、グリア細胞、内皮細胞または他の脳細胞、例えば虚血性周辺部の脳細胞の生存を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者におけるニューロン、グリア細胞または他の脳細胞、例えば虚血性周辺部の脳細胞の生存を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
さらなる実施形態では、患者は、脳傷害、例えば下記の脳傷害を有しているか、またはそれを受ける危険性がある。したがって、以下に論じられる状態を処置する方法も提供される。
外傷性脳傷害
外傷性脳傷害(TBI)は、非常に苦痛を伴う、よく見られる病状であり、世界的に、2020年までには罹患率および死亡率の第3位の主な原因になると予想される。TBIに対して承認されている処置は存在せず、ほとんどのTBI患者は、薬理学的処置を受けずに退院する(Witt 2006年)。反復性TBI、例えば脳振盪は、数十年間にわたって様々な症状および能力障害をもたらす、加齢に関連する神経変性を誘発するおそれがある(McKee 2013年)。TBIは、スポーツに関係する傷害、自動車両事故、落下、爆発衝撃、物理的暴行等によって生じるおそれがある。傷害は、それらの複雑度および重症度が多種多様であり、精神状態、認知困難または意識喪失の短時間の変化を伴う「軽度」の脳振盪から、傷害後に長期間の意識不明および/または記憶喪失を伴う「重症」にわたる。米国では、年間およそ170万人が、TBIをもたらす傷害を有しており、医学的介入を求めており(USCSFおよびCDC)、CDCは、病院または救急科を訪れていない年間160~380万人のさらなる脳振盪発生が、スポーツおよび他の娯楽活動で生じていると推定している(CDC;Langlois 2006年)。各スポーツシーズンで、選手のおよそ5~10%が脳振盪を起こす(Sports Concussion Institute 2012年)。フットボールは、男性で脳振盪の危険性が最も高いスポーツであり(脳振盪の可能性75%)、サッカーは、女性で脳振盪の危険性が最も高いスポーツである(脳振盪の可能性50%)。TBIは、子どもおよび若年成人における死亡および能力障害の主な原因であり(CDC)、その大部分は、一般的に軍事に関係する傷害を受けていた。2003年以来配置された米国軍人のおよそ20%が、少なくとも1つの持続的TBIを有している(Chronic Effects of Neurotrauma Consortium(CENC);Warden 2006年;Scholten 2012年;Taylor 2012年;Gavett 2011年;Guskiewicz 2005年;Omalu 2005年)。TBIに関係する間接的および直接的医療費全体は、年間770億ドルと推定されている(UCSFおよびCDC)。少なくとも500万人のアメリカ人は、TBIの結果、活動を実施するのに毎日の継続的支援を必要としている(CDCおよびThurman 1999年)。
本発明による星状膠細胞の活性化は、このような状態の新しい処置選択肢になる。したがって、本明細書の一態様では、TBIを処置するか、またはTBIからの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、TBIは、脳への外傷(例えば、脳振盪、爆傷、戦闘関連傷害)または脊髄への外傷(例えば、部分的または全体的脊髄離断)から選択される。一部の実施形態では、TBIは、頭部への軽度、中程度もしくは重度の衝撃から生じ、開放性もしくは閉鎖性頭部創傷を含み、または頭部への穿通性もしくは非穿通性衝撃から生じる。一部の実施形態では、本発明は、TBIを処置するか、またはTBIからの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、TBIを処置するか、またはTBIからの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
脳卒中
脳卒中は、脳に酸素および栄養分を輸送する血管が、虚血性ブロックに起因して、または脳内血管の出血性破裂により破壊され、脳の破壊領域内のニューロン、グリアおよび内皮細胞を死滅させる場合に生じる。脳卒中の転帰は、損傷の場所および幅に応じて変わり、その損傷の影響は、損傷した脳領域によって調節される身体機能において観測される。脳卒中は、片側または両側の麻痺、発語および言語能力障害、記憶喪失、行動学的変化、ならびにさらには死亡を引き起こすおそれがある。脳卒中は、米国において第4位の主な死亡原因であり、成人における能力障害の主な原因である。毎年、約800,000人が、新しいまたは再発性の脳卒中を経験している。毎日、2000人を超えるアメリカ人が脳卒中を生じ、これらの発生のうち400人超が死亡する。脳卒中は、米国において2010年には死亡者19人当たり約1人に上った。≧20歳の推定680万人のアメリカ人が、脳卒中を生じていた(AHAおよびGo 2014年)。2010年現在、脳卒中の直接的および間接的年間費用は、365億ドルと推定された。脳卒中が生じてから数分以内に、血流が不足し、脳組織の核に永久的に損傷を与える。この損傷した核と正常な脳組織との間は、周辺部として公知の組織領域であり、この組織は、血流が少なくなり、エネルギー代謝がいくらか破壊されることによる段階的ストレスを受ける。脳卒中発生から最初の24~48時間にわたって、周辺部のニューロン細胞およびグリア細胞にかかるストレスは、いくらかの回復またはさらなる細胞死のいずれかによって解消する。
一態様では、本発明は、脳卒中の患者を神経保護的に治療する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、このような治療は、可能な限り多くの周辺部を救済し、かつ/またはさらなる急性組織損傷を制限し、かつ/またはニューロンの回復を促進する。別の態様では、脳卒中を処置するか、または脳卒中からの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。別の態様では、脳卒中を処置するか、または脳卒中からの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、脳卒中を処置するか、または脳卒中からの回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、脳卒中は、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、くも膜下出血、脳血管攣縮、または一過性脳虚血発作(TIA)から選択される。一部の実施形態では、脳卒中は、虚血である。一部の実施形態では、脳卒中は、出血である。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後48時間以内に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後24時間以内に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後16時間以内に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後8時間、4時間、2時間、または1時間以内に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後少なくとも最初の1~72時間に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後少なくとも最初の8~52時間に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後少なくとも最初の8~48時間に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中後少なくとも最初の24~48時間に投与される。一部の実施形態では、化合物は、脳卒中が生じた場合、脳卒中を処置するために慢性的に投与される。一部の実施形態では、化合物は、一過性脳虚血発作(TIA)を処置するために慢性的に投与される。
一部の実施形態では、化合物は、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、くも膜下出血、脳血管攣縮、一過性脳虚血発作(TIA)を処置するか、または脳卒中の危険性が高い患者、例えば過去に脳卒中を生じたことがある患者、およびさらなる脳卒中の危険性がある患者、例えば年齢が40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳もしくは80歳を超える患者を処置するために、慢性的に投与される。
一部の実施形態では、化合物は、脳卒中によって引き起こされた虚血再かん流傷害を処置する。
神経変性疾患
神経変性疾患は、脳および脊髄内のニューロンの進行性変性および/または死滅から生じる、不治であり、進行性の、最終的に衰弱させる症候群である。神経変性は、運動障害(失調症)および/または認知機能障害(認知症)をもたらし、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および慢性外傷性脳症(CTE)などの多種多様な疾患を含む。多くの神経変性疾患は、主に遺伝的な由来のものであり、他の原因には、ウイルス、アルコール依存症、腫瘍または毒素が含まれ、現在明らかになっている通り、反復性脳傷害も含まれ得る。
ニューロンは、上記の因子に起因して細胞損傷を経時的に蓄積し、これは一般に、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの持続的細胞ストレスと関連する多くの神経変性疾患が、高齢個体において生じる理由であるとみなされている。認知症は、ADを有する神経変性疾患の主な転帰であり、症例のおよそ60~70%に相当する(Kandale 2013年)。先に論じられる通り、神経保護機構および神経修復機構の活性化は、1つまたは複数の神経変性疾患の進行を軽減することができる。したがって一態様では、本発明は、神経変性疾患を処置するか、または神経変性疾患の回復を促進する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。
一態様では、本発明は、神経変性疾患に罹患している患者における神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、神経変性疾患に罹患している患者における神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法が提供される。他の実施形態では、神経変性疾患に罹患している患者における神経保護または神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322または薬学的に許容されるその塩である。
アルツハイマー病(AD)
2014年には、すべての年齢の推定520万人のアメリカ人が、ADを有していた。65歳およびそれを超える年齢の集団の11%が、ADを有している(Alzheimer’s Association)。2050年までには、ADを有する65歳およびそれを超える年齢の人の数は、ほぼ3倍の推定1380万人になると推定される。米国では、AD患者を看護する費用は、年間約2140億ドルであり、この費用の70%は、メディケアおよびメディケイドが負担している。現在の傾向では、これらの費用は、2050年までには年間1.2兆ドルに至ると推定され得る。
本発明による星状膠細胞の活性化、ならびに神経保護および神経修復の促進は、ADの新しい処置選択肢になる。したがって、本明細書の一態様では、ADに罹患している患者におけるADを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の本明細書に開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、ADに罹患している患者におけるADを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、ADに罹患している患者におけるADを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322または薬学的に許容されるその塩である。
パーキンソン病(PD)
100万人ものアメリカ人がPDを伴って生活しており、毎年およそ60,000人のアメリカ人が新しく診断を受けているが、これには、検出されていない数千の症例が含まれていない(Parkinson’s Disease Foundation)。医学的処置、社会保障費および損失利益を含むPDの直接的および間接的費用を組み合わせた費用全体は、米国で年間ほぼ250億ドルになると推定される(Parkinson’s Disease FoundationおよびHuse 2005年)。
本発明による神経保護および神経修復の活性化は、PDの新しい処置選択肢である。したがって、本明細書の一態様では、PDに罹患している患者におけるPDを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、PDに罹患している患者におけるPDを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、PDに罹患している患者におけるPDを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
多発性硬化症(MS)
米国では、400,000を超える人がMSを有している。若年成人では、MSは、中枢神経系の最も一般的な疾患である(Multiple Sclerosis Foundation)。星状膠細胞は、MSによって引き起こされる神経細胞ミエリンコーティングの破壊を、それらの神経修復効果によって好転させ、MS患者の損傷したCNSの治癒を促進する潜在的能力を有する。
したがって、本発明によるCNSの神経保護および神経修復の活性化は、MSの新しい処置選択肢である。したがって、本明細書の一態様では、MSに罹患している患者におけるMSを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、MSに罹患している患者におけるMSを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、MSに罹患している患者におけるMSを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)/ルー・ゲーリック疾患
米国では、毎年およそ5,600人がALSの診断を受けており、30,000人ものアメリカ人が、同時に疾患を有しているおそれがある(ALS Association)。星状膠細胞の活性化は、ALS患者におけるニューロンの回復および修復、ならびにニューロンの結合を刺激することができる。
したがって、本明細書の一態様では、ALSに罹患している患者におけるALSを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。また他の実施形態では、ALS患者におけるニューロンの回復および修復、ならびにニューロンの結合を刺激する方法であって、患者に、有効量の本明細書に開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、ALSに罹患している患者におけるALSを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、ALSに罹患している患者におけるALSを処置するか、または神経保護もしくは神経回復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322または薬学的に許容されるその塩である。
慢性外傷性脳症(CTE)
CTE(タウオパチーの形態)は、頭部に1つまたは複数の(しばしば複数の、または時間経過と共に反復される)重症の衝撃を受けた個体において見出される進行性神経変性疾患である。CTEは、ほとんどの場合、脳外傷および/または脳振盪の反復を経験している、アメリカンフットボール、サッカー、ホッケー、プロレスリング、スタント、雄牛乗りおよびロデオ、モトクロス、ならびに他の接触型スポーツのプロ選手において診断される。CTEに罹患したヒトの部分集合は、ALSに似た運動ニューロン疾患症状によって特徴付けられる慢性外傷性脳筋症(CTEM)を有する。進行性筋力低下、ならびに運動および歩行異常は、CTEMの初期徴候であると考えられる。CTEの第1段階の症状には、進行性注意欠陥、見当識障害、浮動性めまい、および頭痛が含まれる。第2段階の症状は、記憶喪失、社会的不安定、移り気な行動、および判断低下を含む。第3および第4段階では、患者は、進行性認知症、動作緩慢、振戦、軽躁病(hypomimia)、回転性めまい、言語障害、聴覚消失、および自殺傾向を患い、さらには、構音障害、嚥下障害、および眼の異常、例えば下垂が含まれ得る。
したがって、本明細書の一態様では、CTEに罹患している患者のCTEを処置もしくは防止するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。また他の実施形態では、CTE患者のニューロンの回復および修復、ならびにニューロンの結合を刺激する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、化合物は、CTEの第1段階、第2段階、第3段階、または第4段階の1つまたは複数の症状を処置する。一部の実施形態では、本発明は、CTEに罹患している患者のCTEを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のA3Rアゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、CTEに罹患している患者のCTEを処置するか、または神経保護もしくは神経修復を促進する方法であって、患者に、有効量のP2Y1アゴニストを投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
顕微鏡尺度では、この病理には、神経細胞死、タウの蓄積、TAR DNA結合タンパク質43(TDP43)ベータ-アミロイドの蓄積、白質変化、および他の異常が含まれる。タウの蓄積には、高密度神経原線維変化(NFT)、神経突起、ならびに星状膠細胞および他のグリア細胞から構成されるグリア濃縮体の存在の増大が含まれる。したがって一部の実施形態では、この方法は、神経細胞死、タウの蓄積、TAR DNA結合タンパク質43(TDP43)ベータ-アミロイドの蓄積、白質変化、およびCTEと関連する他の異常を処置し、排除を増強し、または防止する。
一部の実施形態では、本発明は、神経変性疾患、例えば先および以下に論じられる疾患を処置するための、本明細書で開示される化合物、例えばA3Rのバイアスアゴニスト、部分アゴニストもしくはバイアス部分アゴニスト、またはP2Y1のバイアスアゴニスト、部分アゴニストもしくはバイアス部分アゴニストの長期間投与を提供する。
心血管疾患
開示される化合物はまた、様々な心血管疾患および状態の処置に有用である。一部の実施形態では、本発明は、心疾患または心血管疾患、例えば心虚血、心筋梗塞、心筋症、冠動脈疾患、不整脈、心筋炎、心膜炎、アンギナ、高血圧性心疾患、心内膜炎、リウマチ性心疾患、先天性心疾患、またはアテローム性動脈硬化症を処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物、例えばMRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、開示される化合物は、例えばA3R受容体のバイアスアゴニズム、部分アゴニズム、またはバイアス部分アゴニズムによる、ATP感受性カリウムチャネルのモジュレーションを提供する。
一部の実施形態では、心疾患または心血管疾患は、心虚血または心筋梗塞である。
他の疾患
例えば星状膠細胞ミトコンドリアの活性を増大することによって、神経保護などの有益な効果をモジュレートする化合物は、様々な他の疾患を処置する潜在可能性も有する。例えば、本発明で開示される神経保護における星状膠細胞の役割に起因して、例えばA3Rおよび/またはP2Y1受容体のモジュレーションによる星状膠細胞の活性化は、以下に論じられる様々な疾患および状態の処置に有用となり得る。したがって、一部の実施形態では、本発明は、疾患または状態に罹患している患者の神経保護または神経再生を処置または促進する方法であって、患者に、有効量の開示される化合物、例えばMRS4322または薬学的に許容されるその塩を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、疾患または状態は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、ならびに/または移植片拒絶反応および移植片対宿主病から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばWO2007/20018を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、高眼圧および/または緑内障から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばWO2011/77435を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、匂い感受性および/または嗅覚障害から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばEP1624753を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、2型糖尿病および/または疼痛管理から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばUS2010/0256086を参照されたい)。
他の実施形態では、疾患または状態は、呼吸器疾患および/または心血管(CV)疾患から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばFASEB J.(2013年)27巻:1118.4頁(会議抄録)を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、CNS機能障害、学習障害および/または認知欠損から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばNeuropsychopharmacology. 2015年1月;40巻(2号):305~14頁. doi: 10.1038/npp.2014.173. Epub2014年7月15日、「Impaired cognition after stimulation of a P2Y1 receptor in the rat medial prefrontal cortex」、Koch, H.ら、PMID: 25027332を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、プリオン病、および/または筋萎縮性側索硬化症から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばUS8,691,775を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、耳の障害、メニエール病、内リンパ水腫、進行性聴覚消失、浮動性めまい、回転性めまい、耳鳴症、がんの放射線治療と関連する付帯的脳損傷、および/または片頭痛処置から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、例えばそのそれぞれが参照によって本明細書に組み込まれる、US2009/0306225、UY31779、およびUS8,399,018を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、病理学的睡眠撹乱、うつ病、高齢者における睡眠障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、統合失調症、および/またはアルコール依存症からの回復によって経験する症状から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばUS2014/0241990を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、手術中の末梢神経系のニューロンまたは神経への損傷から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばUS8,685,372を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、がん、例えば前立腺がんである(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばBiochem Pharmacol. 2011年8月15日;82巻(4号):418~425頁、doi:10.1016/j.bcp.2011.05.013.「Activation of the P2Y1 Receptor Induces Apoptosis and Inhibits Proliferation of Prostate Cancer Cells」、Qiang Weiらを参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、1つまたは複数の胃腸管の状態、例えば便秘および/または下痢から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばActa Physiol (Oxf). 2014年12月;212巻(4号):293~305頁、doi: 10.1111/apha.12408. 「Differential functional role of purinergic and nitrergic inhibitory cotransmitters in human colonic relaxation」、Mane N1、Gil V、Martinez-Cutillas M、Clave P、Gallego D、Jimenez M.;およびNeurogastroenterol. Motil. 2014年1月;26巻(1号):115~23頁、doi: 10.1111/nmo.12240. Epub2013年10月8日、「Calcium responses in subserosal interstitial cells of the guinea-pig proximal colon」、Tamada H.、Hashitani H. PMID: 24329947を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、CNSによって媒介される疼痛、例えば神経障害性疼痛、炎症性疼痛、および/または急性疼痛から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばBr J Pharmacol. 2010年3月;159巻(5号):1106~17頁、doi:10.1111/j.1476-5381.2009.00596.x. Epub2010年2月5日、「A comparative analysis of the activity of ligands acting at P2X and P2Y receptor subtypes in models of neuropathic, acute and inflammatory pain.」Ando RD1、Mehesz B、Gyires K、Illes P、Sperlagh B. PMID: 20136836を参照されたい)。
他の実施形態では、疾患または状態は、脳のがん、例えば膠芽腫から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばPurinergic Signal. 2015年9月;11巻(3号):331~46頁、doi: 10.1007/s11302-015-9454-7. Epub2015年5月15日、「Potentiation of temozolomide antitumor effect by purine receptor ligands able to restrain the in vitro growth of human glioblastoma stem cells.」D'Alimonte, I.ら、PMID: 25976165を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、疼痛である(疼痛の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、例えばそのそれぞれが参照によって本明細書に組み込まれる、Pharmacol Biochem Behav. 2015年1月;128巻:23~32頁、doi: 10.1016/j.pbb.2014.11.001、Epub2014年11月6日、「Participation of peripheral P2Y1, P2Y6 and P2Y11 receptors in formalin-induced inflammatory pain in rats.」Barragan-Iglesias P.ら、PMID: 25449358;およびNeuropharmacology. 2014年4月;79巻:368~79頁、doi: 10.1016/j.neuropharm.2013.12.005、Epub2013年12月12日、「Blockade of peripheral P2Y1 receptors prevents the induction of thermal hyperalgesia via modulation of TRPV1 expression in carrageenan-induced inflammatory pain rats: involvement of p38 MAPK phosphorylation in DRGs.」Kwon SG、Roh DH、Yoon SY、Moon JY、Choi SR、Choi HS、Kang SY、Han HJ、Beitz AJ、Lee JH. PMID: 24333674を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、胃腸管障害、例えば下痢から選択される(これらの状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばActa Physiol (Oxf). 2014年12月;212巻(4号):293~305頁、doi: 10.1111/apha.12408.「Differential functional role of purinergic and nitrergic inhibitory cotransmitters in human colonic relaxation」、Mane N.、Gil V、Martinez-Cutillas M、Clave P、Gallego D、Jimenez M.を参照されたい)。他の実施形態では、疾患または状態は、認知障害である(この状態の処置における、ある特定のヌクレオシドおよびヌクレオチド化合物の使用については、参照によって本明細書に組み込まれる、例えばNeuropsychopharmacology. 2015年1月;40巻(2号):305~14頁、doi: 10.1038/npp.2014.173、Epub2014年7月15日、「Impaired cognition after stimulation of P2Y1 receptors in the rat medial prefrontal cortex」、Koch H、Bespalov A、Drescher K、Franke H、Krugel U. PMID: 25027332を参照されたい)。
一部の実施形態では、本発明は、脳傷害または神経変性状態と関連する疾患または状態、例えばてんかん、片頭痛、がんの放射線治療と関連する付帯的脳損傷、うつ病、気分もしくは行動の変化、認知症、移り気な行動、自殺傾向、振戦、ハンチントン舞踏病、運動協調の喪失、聴覚消失、発語障害、ドライアイ、軽躁病、注意欠陥、記憶喪失、認知困難、回転性めまい、構音障害、嚥下障害、眼の異常、または見当識障害を処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3Rアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
さらなる実施形態では、本発明は、それを必要とする患者におけるアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、およびプリオン病からなる群から選択される神経変性疾患を処置する方法であって、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、A3Rアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストもしくはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、MRS4322もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、認知または神経の機能の改善は、改訂版ウエクスラー記憶尺度の言語想起タスク遅延において、約1%~20%の間のスコア増大として測定される。例えば、認知機能の改善は、約1%~10%の間、または約1%~5%の間のスコア増大として測定され得る。
2.本発明のある特定の化合物の説明
一態様では、本発明は、脳または中枢神経系(CNS)のある特定の状態、例えば脳傷害または神経変性状態の処置、軽減または回復の促進のために有用な化合物を提供する。一部の実施形態では、開示される化合物は、星状膠細胞によって媒介される神経保護および神経再生を増大し、それによって状態を処置し、軽減し、または回復を促進する。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体に対して選択的であり、例えば他のアデノシン受容体と比較して、A3受容体に対して少なくとも10倍選択的であり、または他のアデノシン受容体と比較して、例えば25倍、50倍、100倍、500倍もしくは1000倍を超えて選択的である。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体を選択的にモジュレートする。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体における選択的アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3受容体における選択的部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、バイアス完全またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、バイアス完全またはバイアス部分アンタゴニストである。
さらなる実施形態では、化合物は、P2Y1受容体に対して選択的であり、例えば他のP2Y受容体と比較して、P2Y1受容体に対して少なくとも10倍選択的であり、または他のP2Y受容体と比較して、例えば25倍、50倍、100倍、500倍もしくは1000倍を超えて選択的である。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体を選択的にモジュレートする。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体における選択的アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y1受容体における選択的部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、バイアス完全またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、バイアス完全またはバイアス部分アンタゴニストである。
「バイアス(された)」という用語は、受容体と関連する経路のすべてではないが1つまたは複数を、優先的にモジュレートし、活性化し、アゴナイズし、またはアンタゴナイズする化合物を指す。
理論にも拘泥するものではないが、バイアス完全またはバイアス部分アゴニズムまたはバイアスアンタゴニズムによって、A3またはP2Y1受容体と関連する1つまたは複数の経路の選択的モジュレーションが可能になり、それによって、疾患または状態の処置を改善し、経路の望ましくないモジュレーション(副作用を生じるおそれがある)を回避することができると考えられる。選択的モジュレーションは、本明細書で開示される通り、星状膠細胞を優先的に活性化して、例えば脳傷害、または神経変性疾患もしくは状態を処置することができる。したがって、一部の実施形態では、開示される化合物は、アデノシンA3受容体またはP2Y1受容体と関連する、1つまたは複数のG共役経路またはG非依存経路のバイアス完全またはバイアス部分アゴニストまたはアンタゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A3またはP2Y1受容体によって媒介される経路、例えばベータ-アレスチン活性化、細胞内カルシウム動員、cAMPモジュレーション、ATP依存性カリウムチャネル活性化もしくはERK1/2リン酸化、またはこのような経路と関連する他の下流細胞活性を、選択的にモジュレートする。一部の実施形態では、経路は、神経保護もしくは神経修復、または心臓保護もしくは心臓再生を増大するか、またはそれらに関係する。一部の実施形態では、化合物は、(N)-メタノカルバヌクレオシド、例えばMRS4322または薬学的に許容されるその塩から選択される。
「メタノカルバヌクレオシド」という用語は、本明細書で使用される場合、リボース糖のテトラヒドロフラン環中に存在する酸素が、メチレン単位で置き換えられ、得られた炭素環式環が、シクロプロピル環に縮合して、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン、例えば構造
を形成する、ヌクレオシド類似体を指す。理論に拘泥するものではないが、メタノカルバヌクレオシドは、ある特定の受容体サブタイプによって好まれると考えられる糖コンフォメーションまたは疑似コンフォメーションを模倣すると考えられる。一部の実施形態では、North型メタノカルバヌクレオシドは、C3’-endo/C2’-exo糖コンフォメーションを模倣するか、または好むメタノカルバヌクレオシドであり、South型メタノカルバヌクレオシドは、C3’-exo/C2’-endoコンフォメーションを模倣するか、または好むメタノカルバヌクレオシドである。一部の実施形態では、(N)-メタノカルバ(「North型」メタノカルバ)糖は、以下の構造を有する。
一部の実施形態では、(N)-メタノカルバ糖は、本明細書において「D-(N)-メタノカルバ糖」と呼ばれる以下の構造を有する。
他の実施形態では、メタノカルバ糖は、South型、または(S)-メタノカルバ立体配置である。一部の実施形態では、このようなメタノカルバ糖は、以下の構造によって表される。
一部の実施形態では、(S)-メタノカルバ糖は、本明細書において「D-(S)-メタノカルバ糖」と呼ばれる以下の構造を有する。
一部の実施形態では、化合物は、A3またはP2Y1受容体において機能的に選択的であり、すなわち、例えば1つもしくは複数の経路をモジュレートし、他はモジュレートしないことによって、または1つもしくは複数の経路を活性化し、他の1つもしくは複数の経路を不活化することによって、A3またはP2Y1受容体によって媒介される経路を選択的に識別する。一部の実施形態では、化合物は、cAMPシグナル伝達によって測定される通り、アンタゴニストであるが、β-アレスチン動員については部分アゴニストである。他の実施形態では、化合物は、Gq/11媒介性Ca2+動員のアゴニストであり、アレスチン動員の部分アゴニストまたはアンタゴニストである。一部の実施形態では、本発明は、バイアスされたまたは機能的に選択的なA3受容体モジュレーション(例えば、先に列挙したものなどの経路における選択的アゴニズムまたはアンタゴニズムによって)によって、脳傷害、または神経変性疾患もしくは状態を処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の開示される化合物を投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、化合物は、DMPA、CCPA、MRS1760、またはMRS542から選択される(Verzijl Dら、「Functional selectivity of adenosine receptor ligands」、Purinergic Signaling 7巻:171~192頁(2011年)を参照されたい)。一部の実施形態では、化合物は、DBXRMである。一部の実施形態では、化合物は、(N)-メタノカルバヌクレオシド、例えばMRS4322または薬学的に許容されるその塩から選択される。
驚くべきことに、ある特定のプリンヌクレオシドの一リン酸、二リン酸、および三リン酸体、例えば本明細書で詳説されるものは、場合により細胞膜表面、ならびに血液および血漿における循環の両方に存在する、ヌクレオチドの脱リン酸化に関与する酵素であるエクトヌクレオチダーゼによって、in vivoにおいて急速に脱リン酸化されることが見出された(Ziganshinら、Pflugers Arch.(1995年)429巻:412~418頁を参照されたい)。どのヌクレオチド類似体が、エクトヌクレオチダーゼのための基質であり、したがって、in vivoで脱リン酸化されると予測されるかを予想することは、しばしば極めて困難である。一部の実施形態では、脱リン酸化された化合物は、治療有効性に関与する。したがって、一部の実施形態では、対応するリン酸化された一リン酸、二リン酸もしくは三リン酸体、またはリン酸エステル、例えばそのアルキルもしくはフェニルエステルは、治療効果に関与する薬剤のプロドラッグまたは前駆体である。
一部の実施形態では、本発明の化合物は、血液脳関門(BBB)を通過することができる。「血液脳関門」または「BBB」という用語は、本明細書で使用される場合、厳密な意味でのBBBならびに血液脊髄関門を指す。脳内血管の内皮、基底膜および神経膠細胞からなる血液脳関門は、脳内への物質の透過を制限するように作用する。一部の実施形態では、全薬物の脳/血漿比は、患者に投与(例えば経口または静脈内投与)した後、少なくともおよそ0.01である。一部の実施形態では、全薬物の脳/血漿比は、少なくともおよそ0.03である。一部の実施形態では、全薬物の脳/血漿比は、少なくともおよそ0.06である。一部の実施形態では、全薬物の脳/血漿比は、少なくともおよそ0.1である。一部の実施形態では、全薬物の脳/血漿比は、少なくともおよそ0.2である。
原型のアデノシンA3アゴニスト、例えばCl-IB-MECAおよびMRS5698は、典型的に>2のcLogP値を有する、低溶解度の親油性化合物である。この親油性は、これらの化合物の高い血漿タンパク質結合、高い脳結合に寄与し、脳内でA3受容体と相互作用するのに利用可能な薬物の遊離画分を低減する、主な因子である。一部の実施形態では、本発明の化合物、例えばMRS4322およびMRS1873の、例えば神経学的および神経変性状態、物理化学特性は、実質的に異なる。これらの化合物および関連化合物は、cLogP<0を有する親水性化合物であり、溶解度を増大し、血漿および脳結合を低減し、A3受容体と相互作用するのに利用可能な非結合薬物濃度を増大する。
したがって、一部の実施形態では、化合物は、約0.8、約0.7、約0.6、約0.5、約0.4、約0.3、約0.2、約0.1、約0.05、約0.01、または約0.005未満のcLogPを有する。一部の実施形態では、化合物は、約0未満、例えば約-0.1、-0.2、-0.3、-0.4、-0.5、-0.6、-0.7、-0.8、または-0.9またはそれ未満のcLogPを有する。一部の実施形態では、化合物は、血漿中で約0.5~0.9の非結合画分を有する。一部の実施形態では、化合物は、血漿中で約0.6~0.85、0.7~0.8、または約0.75の非結合画分を有する。一部の実施形態では、化合物は、脳内で少なくとも約0.02、または少なくとも約0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.12、0.15もしくは0.17もしくはそれを超える非結合画分を有する。一部の実施形態では、化合物は、血漿中で約0.6~0.85、0.7~0.8もしくは約0.75の非結合画分を有し、かつ/または脳内で少なくとも0.08の非結合画分を有する。
本発明の化合物は、当技術分野で公知の方法を使用し、日常的な実験方法だけを使用して調製され得る。例えば、本発明のある特定の化合物は、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第7,087,589号(およびそれに記載されている参考文献)において提示されている手順に従って調製され得る。
一部の実施形態では、化合物は、アデノシン、ADP、2-メチルチオ-ADP三ナトリウム塩、ATP、ATP二ナトリウム塩、α,β-メチレンATP、α,β-メチレンアデノシン5’-三リン酸三ナトリウム塩、2-メチルチオアデノシン三リン酸四ナトリウム塩、2-MeSATP、BzATPトリエチルアンモニウム塩、イノシン、シチジン、アシル化シチジン、シチジン-一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、CDP-コリン、CMP-コリン、デヌホソル、デヌホソル四ナトリウム、GTP、ITP、MRS541、MRS542、MRS1760、MRS2179、MRS2279、MRS2341、MRS2365、MRS2500、MRS2690、MRS2698、MRS3558、MRS4322、MRS5151、MRS5676、MRS5678、MRS5697、MRS5698、MRS5923、MRS5930、ベンジル-NECA、IB-MECA、Cl-IB-MECA、LJ529、DPMA、CCPA、DBXRM、HEMADO、PEMADO、HENECA、PENECA、CP608,039、CP532,903、CGS21680、AR132、VT72、VT158、VT160、VT163、PSB0474、ウリジン5’-二リン酸(UDP)、UDP-グルコース、ウリジンβ-チオ二リン酸(UDPβS)、ウリジン5’-三リン酸(UTP)、ウリジンγ-チオリン酸(UTPγS)、2-チオUTP四ナトリウム塩、UTPγS三ナトリウム塩、ウリジン-5’-ジホスホグルコース、ジウリジン三リン酸、2-(ヘキシルチオ)(HT)-AMP、ジアデノシン五リン酸、2’-デオキシ-2’-アミノ-UTP、2-チオ-UTP、トリアセチルウリジン、ジアセチル/アシルウリジン、ウリジン、スラミン、ジピリダモール類似体、ジアデノシン四リン酸Ap4U、Ap4A、INS365、INS37217もしくはINS48823(ここで、各糖は、North型もしくはSouth型のコンフォメーションのメタノカルバ糖で置き換えられてよく、または各糖は、D-リボ糖で置き換えられてよい)、または薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、2-メチルチオ-ADPまたは薬学的に許容されるその塩は、本発明の方法において有用である。理論にも拘泥するものではないが、2-MeS ADPは、in vivoで2-メチルチオアデノシンに急速に加水分解され、そこでA3Rのバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストになると考えられる。2-メチルチオアデノシンは、MRS4322のデータに非常に類似している受容体データを有すると考えられる。
一部の実施形態では、化合物は、A3Rアゴニスト、例えばN6-ベンジルアデノシン-5’-N-メチルウロンアミド、例えばN6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(IB-MECAまたはCan-Fite CF-101としても公知である)もしくは2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(2-CI-IB-MECAまたはCan-Fite CF-102としても公知である)、(N)-メタノカルバヌクレオシド、例えば(1R,2R,3S,4R)-4-(2-クロロ-6-((3-クロロベンジル)アミノ)-9H-プリン-9-イル)-2,3-ジ-ヒドロキシ-N-メチルビシクロ[3.1.0]ヘキサン-1-カルボキサミド(CF502、Can-Fite Biopharma、MAとしても公知である)、(2S,3S,4R,5R)-3-アミノ-5-[6-(2,5-ジクロロベンジルアミノ)プリン-9-イル]-4-ヒドロキシ-テトラヒドロフラン-2-カルボン酸メチルアミド(CP532,903としても公知である)、(1’S,2’R,3’S,4’R,5’S)-4-(2-クロロ-6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)-2,3-ジヒドロキシ-N-メチルビシクロ[3.1.0]ヘキサン-1-カルボキサミド(MRS3558としても公知である)、2-(1-ヘキシニル)-N-メチルアデノシン、(1S,2R,3S,4R)-2,3-ジヒドロキシ-4-(6-((3-ヨードベンジル)アミノ)-4H-プリン-9(5H)-イル)-N-メチルシクロペンタンカルボキサミド(CF101、Can-Fiteとしても公知である)、(1S,2R,3S,4R)-4-(2-クロロ-6-((3-ヨードベンジル)アミノ)-4H-プリン-9(5H)-イル)-2,3-ジヒドロキシ-N-メチルシクロペンタンカルボキサミド(CF102、Can-Fiteとしても公知である)、(1’R,2’R,3’S,4’R,5’S)-4-{2-クロロ-6-[(3-ヨードフェニルメチル)アミノ]プリン-9-イル-}-1-(メチルアミノカルボニル)-ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-2,3-ジオール(MRS1898としても公知である)もしくは(N)-メタノカルバヌクレオシドの2-ジアルキニル誘導体、または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、IB-MECA(CF101としても公知である)もしくはCl-IB-MECA(CF102としても公知である)、または薬学的に許容されるその塩から選択される。一部の実施形態では、化合物は、上記に開示されるものなどの(N)-メタノカルバヌクレオシドまたは薬学的に許容されるその塩から選択される。
天然リガンドの存在下で受容体活性を増強するA3Rアロステリックモジュレーター、例えば2-シクロヘキシル-N-(3,4-ジクロロフェニル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン(CF602、Can-Fiteとしても公知である)も含まれる。しかし、先に列挙したA3Rアゴニストは、決して排他的なものではなく、このような他のアゴニストを使用することもできる。ポリマーに共有結合しているA3Rアゴニストの投与も企図される。例えば、A3Rアゴニストは、アゴニストがポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーに結合しているコンジュゲートの形態で投与され得る。
理論にも拘泥するものではないが、ある特定のウリジン類似体によるバイアスアゴニズムを含む完全または部分アゴニズムによって、開示される疾患または状態の処置を改善し、望ましくない経路のモジュレーション(副作用をもたらすおそれがある)を回避することができる1つまたは複数の経路の選択的モジュレーションが可能になると考えられる。一部の実施形態では、選択的モジュレーションは、優先的に、星状膠細胞または他のグリア細胞、例えばミクログリアおよびオリゴデンドロサイトを活性化して、開示される脳傷害または神経変性疾患もしくは状態を処置する。本発明における使用に適した、ある特定のウリジン類似体化合物は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれるWO2014/160502に開示されている。一部の実施形態では、化合物は、A
3Rアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y
1アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、アデノシン受容体、例えばA
1、A
2A、A
2BまたはA
3受容体におけるバイアスアゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、A
3受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、P2Y
1受容体におけるバイアスアゴニスト、部分アゴニスト、またはバイアス部分アゴニストである。一部の実施形態では、化合物は、
もしくはそのリン酸化類似体、または薬学的に許容されるその塩からなる群から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、以下から選択される。
(Beukers MWら、(2004年)「New, non-adenosine, high-potency agonists for the human adenosine A2B receptor with an improved selectivity profile compared to the reference agonist N-ethylcarboxamidoadenosine」、J. Med. Chem.47巻(15号):3707~3709頁を参照されたい)、
(Devine SMら、「Synthesis and Evaluation of new A
3R agonists」、Bioorg Med Chem 18巻、3078~3087頁、2010年;およびMuller CE、Jacobson KA.「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 1808巻、1290~1308頁、2011年を参照されたい)、
(Ben DDら、「Different efficacy of adenosine and NECA derivatives at the human A3 receptor: Insight into the receptor activation switch」、Biochem Pharm 87巻、321~331頁、2014年;およびCamaioni E、Di Francesco E、Vittori S、Volpini R、Cristalli G.「Adenosine receptor agonists: synthesis and biological evaluation of the diastereoisomers of 2-(3-hydroxy-3-phenyl-1-propyn-1-yl) NECA」、Bioorg Med Chem 1997年;5巻:2267~75頁を参照されたい)、
(Klotz, K.N.「2-Substituted N-ethylcarboxamidoadenosine derivatives as high-affinity agonists at human A3 adenosine receptors」、Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol. 1999年8月;360巻(2号):103~8頁;およびCristalli Gら(1995年)「2-Aralkynyl and 2-heteroalkynyl derivatives of adenosine-5'-N-ethyluronamide as selective A2a adenosine receptor agonists」、J Med Chem 38巻:1462~1472頁を参照されたい)、
(Kim Sら、「3D quantitative SAR at A3R」、J Chem Inf. Model 47巻、1225~1233頁、2007年を参照されたい)、
(Lee, K.ら、「Ring-Constrained (N)-Methanocarba Nucleosides as Adenosine Receptor Agonists」、Bioorg Med Chem Lett 2001年、11巻、1333~1337頁を参照されたい)、
(Kenneth A. Jacobsonら、第6章、A3 Adenosine Receptor Agonists: History and Future Perspectives 96~97頁、Book-Springer: A3 Adenosine Receptors from Cell Biology to Pharmacology and Therapeutics、2009年を参照されたい)、
(Lee Kら、「Ring-Constrained (N)-Methanocarba Nucleosides as Adenosine Receptor Agonists」、Bioorg Med Chem Lett 2001年、11巻、1333~1337頁;およびGaoら、「Structural Determinants of A3R Activation: Nucleoside Ligands at the Agonist/Antagonist Boundary」、J. Med. Chem.、2002年、45巻、4471~4484頁を参照されたい)、
(Muller CE、Jacobson KA、「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 2011巻、1808頁、1290~1308頁を参照されたい)、
(MRS5930;Jacobson KAら、「John Daly Lecture: Structure-guided Drug Design for Adenosine and P2Y Receptors」、Comp. and Struct. Biotechnology Jour 13巻、286~298頁、2015年を参照されたい)、
(MRS5923;Jacobson KAら、「John Daly Lecture: Structure-guided Drug Design for Adenosine and P2Y Receptors」、Comp. and Struct. Biotechnology Jour 13巻、286~298頁、2015年を参照されたい)、
CP532,903(Tracey WRら、「Novel n6-substitued adenosine 5'-N-methyluronamides with high selectivity for human A3R reduce ischemic myochardial injury」、Am J Physiol Heart Circ Physiol 285巻、2003年;Muller CE、Jacobson KA、「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 1808巻、1290~1308頁、2011年;およびWan TCら、「The A3R Agonist CP-532,903 Protects against Myocardial Ischemia/Reperfusion Injury」、J. of Pharmacology and Exptl Therapies 324巻、1号、2008年を参照されたい)、
(Volpini Rら、「HEMADO as Potent and Selective Agonists of hA3R」、J Med Chem 45巻、3271~3279頁、2002年;Muller CEら、「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 1808巻、1290~1308頁、2011年;およびVolpini Rら、「Synthesis and Evaluation of Potent and Highly Selective Agonists for hA3R」、J of Med Chem 52巻、7897~7900頁、2009年を参照されたい)、
(Muller CE、Jacobson KA.「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 1808巻、1290~1308頁、2011年を参照されたい)、
(式中、Rは、Hまたはシクロペンチルメチルである)
(式中、Rは、H、ブチル、またはピリジン-2-イルである)(Cosyn L.ら、「2-triazole-substituted adenosines」、J Med Chem 2006年、49巻、7373~7383頁を参照されたい)、
(Muller CE、Jacobson KA.「Recent Developments in adenosine receptor ligands and their potential for novel drugs」、Biochimica et Biophysica Acta 1808巻、1290~1308頁、2011年を参照されたい)、
(Jacobson KAら、「John Daly Lecture: Structure-guided Drug Design for Adenosine and P2Y Receptors」、Comp. and Struct. Biotechnology Jour 13巻、286~298頁、2015年を参照されたい)、
(式中、Arは、フェニル、p-CH
3CO-フェニル、p-フルオロフェニル、または2-ピリジルから選択される)(Volpini Rら、「Synthesis and Evaluation of Potent and Highly Selective Agonists for hA3R」、J Med Chem 52巻、7897~7900頁、2009年を参照されたい)、
(Pugliese AMら、「Role of A3R on CA1 hippocampal neurotransmission during OGD」、Biochem Pharmacology 74巻、2007年を参照されたい)、
(Klotz KN「Adenosine receptors and their ligands NS's」、Arch Pharmacol. 362巻、382~391頁、2000年を参照されたい)、または薬学的に許容されるその塩。一部の実施形態では、化合物は、上記に開示されるものなどの(N)-メタノカルバヌクレオシドまたは薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩から選択される。一部の実施形態では、化合物は、上記に開示されるものなどの(N)-メタノカルバヌクレオシドまたは薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩から選択される。一部の実施形態では、化合物は、
(ここで、各化合物は、North型もしくはSouth型のコンフォメーションであってよく、またはメタノカルバ糖は、D-リボ糖で置き換えられてもよい)または薬学的に許容されるその塩、またはその一リン酸、二リン酸もしくは三リン酸体、または一リン酸、二リン酸もしくは三リン酸体の薬学的に許容される塩からなる群から選択される。一部の実施形態では、メタノカルバ糖は、D-(N)-メタノカルバ糖である。一部の実施形態では、メタノカルバ糖は、D-(S)-メタノカルバ糖である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩から選択される。一部の実施形態では、化合物は、上記に開示されるものなどの(N)-メタノカルバヌクレオシドまたは薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
である。
一態様では、本発明は、開示される化合物または薬学的に許容されるその塩および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、化合物は、
である。
一部の実施形態では、化合物は、図15に記載される化合物または薬学的に許容されるその塩から選択される。一部の実施形態では、化合物は、
(MRS1898)もしくはMRS1873または薬学的に許容されるその塩から選択される。
一態様では、本発明は、外傷性脳傷害(TBI)または脳卒中から選択される脳または中枢神経系(CNS)の傷害または状態を処置する方法であって、それを必要とする患者に、
から選択される有効量の化合物、薬学的に許容されるその塩、またはそれを含む薬学的に許容される組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、脳または中枢神経系(CNS)の傷害または状態は、TBIである。
一部の実施形態では、TBIは、脳振盪、爆傷、戦闘関連傷害、または頭部への軽度、中程度もしくは重度の衝撃から選択される。
一部の実施形態では、化合物は、TBIまたは脳卒中後24時間以内に投与される。
一部の実施形態では、化合物は、TBIまたは脳卒中後8時間以内に投与される。
一部の実施形態では、化合物は、TBIまたは脳卒中後少なくとも最初の8~48時間の間に投与される。
一部の実施形態では、脳または中枢神経系(CNS)の傷害または状態は、脳卒中である。
一部の実施形態では、化合物は、脳卒中を処置するために、脳卒中が生じた後、脳卒中が回復する期間中、慢性的に投与される。
一部の実施形態では、患者の神経保護または神経修復は、未処置患者と比較して増大する。
一部の実施形態では、化合物は、ヒトA3アデノシン受容体(A3R)におけるバイアス部分アゴニストである。
一部の実施形態では、A3Rは、A3R受容体の神経保護機能に向けてバイアスされた方式で部分的にアゴナイズされる。
一部の実施形態では、化合物は、経口、静脈内、または非経口投与される。
一態様では、本発明は、TBIまたは脳卒中に罹患している患者の神経保護または神経修復を増大する方法であって、それを必要とする患者に、
から選択される有効量の化合物、薬学的に許容されるその塩、またはそれを含む薬学的に許容される組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、神経保護または神経修復は、TBIまたは脳卒中後の回復期間を、未処置患者と比較して短縮する。
一部の実施形態では、化合物は、ヒトA3アデノシン受容体(A3R)におけるバイアス部分アゴニストであり、A3Rは、A3R受容体の神経保護機能に向けてバイアスされた方式で部分的にアゴナイズされる。
一部の実施形態では、化合物は、経口、静脈内、または非経口投与される。
一部の実施形態では、化合物または薬学的に許容されるその塩は、血漿中で少なくとも0.7の非結合画分を有するか、または脳内で少なくとも0.08の非結合画分を有するか、またはその両方である。
一部の実施形態では、化合物または薬学的に許容されるその塩は、血漿中で少なくとも0.7の非結合画分を有するか、または脳内で少なくとも0.08の非結合画分を有するか、またはその両方である。
一態様では、本発明は、外傷性脳傷害(TBI)、脳卒中、神経変性状態、または心疾患もしくは心血管疾患から選択される傷害、疾患、または状態を処置する方法であって、それを必要とする患者に、
から選択される、A
3アデノシン受容体(A
3R)の有効量のアゴニスト、薬学的に許容されるその塩、またはそれを含む薬学的に許容される組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、傷害、疾患、または状態は、TBIである。
一部の実施形態では、TBIは、脳振盪、爆傷、戦闘関連傷害、または頭部への軽度、中程度もしくは重度の衝撃から選択される。
一部の実施形態では、傷害、疾患、または状態は、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、くも膜下出血、脳血管攣縮、または一過性脳虚血発作(TIA)から選択される脳卒中である。
一部の実施形態では、神経変性疾患は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、慢性外傷性脳症(CTE)、またはウイルス、アルコール依存症、腫瘍、毒素もしくは反復性脳傷害によって引き起こされた神経変性状態から選択される。
一部の実施形態では、傷害、疾患、または状態は、パーキンソン病である。
一部の実施形態では、傷害、疾患、または状態は、アルツハイマー病、片頭痛、脳手術、またはがん化学療法と関連する神経学的副作用である。
一部の実施形態では、心疾患または心血管疾患は、心虚血、心筋梗塞、心筋症、冠動脈疾患、不整脈、心筋炎、心膜炎、アンギナ、高血圧性心疾患、心内膜炎、リウマチ性心疾患、先天性心疾患、またはアテローム性動脈硬化症から選択される。
一部の実施形態では、心疾患または心血管疾患は、心虚血または心筋梗塞である。
一部の実施形態では、化合物は、脳卒中、心虚血、または心筋梗塞を処置するために、傷害が生じた後、その傷害が回復する期間中、慢性的に投与される。
一部の実施形態では、患者の神経保護または神経修復は、未処置患者と比較して増大する。
一部の実施形態では、A3Rは、他のA3R媒介性経路の活性化をほとんど伴わない、もしくはまったく伴わない細胞内カルシウム動員の優先的な活性化によって、またはGq11媒介性細胞内カルシウム動員、cAMP生成のGi媒介性モジュレーションもしくはERK1/2およびAktのGi媒介性リン酸化の優先的な活性化によって、A3R受容体の神経保護機能に向けてバイアスされた方式でアゴナイズされる。
一部の実施形態では、A3Rは、他のA3R媒介性経路の活性化をほとんど伴わない、もしくはまったく伴わない細胞内カルシウム動員の優先的な活性化によって、またはGq11媒介性細胞内カルシウム動員、cAMP生成のGi媒介性モジュレーションもしくはERK1/2およびAktのGi媒介性リン酸化の優先的な活性化によって、A3R受容体の心臓保護機能に向けてバイアスされた方式で部分的にアゴナイズされる。
一部の実施形態では、この方法は、がん化学療法または脳手術と関連するか、またはそれから生じる神経学的状態に罹患している患者の神経保護または神経修復を増大する。
一部の実施形態では、化合物は、経口投与される。
一態様では、本発明は、TBIまたは脳卒中に罹患している患者の神経保護または神経修復を増大し、それによってTBIまたは脳卒中を処置する方法であって、それを必要とする患者に、
から選択される、A
3アデノシン受容体(A
3R)の有効量のアゴニスト、薬学的に許容されるその塩、またはそれを含む薬学的に許容される組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
一態様では、本発明は、心虚血または心筋梗塞に罹患している患者の損傷した心臓組織の心臓保護または再生を増大し、それによって心虚血または心筋梗塞を処置する方法であって、それを必要とする患者に、
から選択される、A
3アデノシン受容体(A
3R)の有効量のアゴニスト、薬学的に許容されるその塩、またはそれを含む薬学的に許容される組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、化合物は、
または薬学的に許容されるその塩である。
一部の実施形態では、TBI、脳卒中、心虚血、または心筋梗塞後の回復期間は、未処置患者と比較して短縮される。
一部の実施形態では、A3Rは、A3R受容体の神経保護機能に向けてバイアスされた方式で部分的にアゴナイズされる。
一部の実施形態では、A3Rは、A3R受容体の心臓保護機能に向けてバイアスされた方式で部分的にアゴナイズされる。
一部の実施形態では、化合物は、経口投与される。
一部の実施形態では、化合物は、完全なA3Rアゴニストと比較して改善された心臓保護機能を有するA3Rのバイアスアゴニストである。
一部の実施形態では、化合物は、以下のA3R媒介性経路:Gq11媒介性細胞内カルシウム動員の活性化、cAMP生成のGi媒介性モジュレーション、ERK1/2およびAktのGi媒介性リン酸化、またはベータ-アレスチン活性化のモジュレーションの1つまたは複数の優先的な活性化によって、完全なA3Rアゴニストと比較して改善された心臓保護機能を有するA3Rのバイアスアゴニストである。
一部の実施形態では、化合物は、その他のA3R媒介性経路の活性化をほとんど伴わない、またはまったく伴わない細胞内カルシウム動員の優先的な活性化によって、完全なA3Rアゴニストと比較して改善された心臓保護機能を有するA3Rのバイアスアゴニストである。
一部の実施形態では、化合物は、完全なA3Rアゴニストと比較して改善された心臓保護機能を有するA3Rの部分アゴニストである。
開示される方法において使用するための組成物または開示される医薬組成物中に存在するべき開示される化合物(すなわち、活性薬剤)の量は、一般に、治療有効量である。「治療有効量」または用量(または「有効量」)は、所望の治療結果、例えば神経保護、神経再生の活性化、および/または認知機能もしくは神経学的機能の改善をもたらすのに十分な活性薬剤の量を指す。活性剤の組成物の毒性および治療有効性は、当技術分野で公知の手順によって、例えばLD50(試験群の50%に対して致死的な用量)およびED50(試験群の50%において治療上有効な用量)を決定するための細胞培養または実験動物で決定することができる。毒性対治療効果の用量比は、治療指数であり、LD50/ED50比と表すことができる。高い治療指数を示す組成物が有利である。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおいて使用するために、ある範囲の投与量の決定において使用され得る。一部の実施形態では、このような組成物の投与量は、毒性をほとんどまたはまったく伴わないED50を含む循環濃度のある範囲内にある。投与量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変わり得る。
一部の実施形態では、有効用量および/または所望の治療結果は、少なくとも2回の測定について試験対象または患者の認知機能または別のパラメータを比較することによって確立されるが、2回を超える測定を使用してもよい。初期認知機能測定によって、試験対象または患者の初期ベースラインが確立される。認知機能は、確立された認知試験、例えば改訂版ウエクスラー記憶尺度の言語想起タスク遅延を使用して測定され得る。処置後、認知試験を用いるさらなる試験によって、第2の測定値が確立される。有効量は、第2の測定値を第1の測定値と比較して、少なくとも約1%改善されることが実証される場合に確立される。一部の実施形態では、改訂版ウエクスラー記憶尺度の言語想起タスク遅延によって測定される認知機能の改善は、約1%~20%の間である。一部の実施形態では、改善は、約1%~10%の間である。一部の実施形態では、改善は、約1%~5%の間である。認知症の段階を測定するものでない限り、認知機能の改善を決定する他の方法も同様に適用できることを、当業者は理解されたい。
したがって、本発明は、それを必要としている対象に有効量の開示される化合物を投与することによって認知機能または神経学的機能を改善する方法を包含し、ここで、神経学的機能および認知機能の増強は、改訂版ウエクスラー記憶尺度の言語想起タスクスコアの遅延における1%~20%の間のスコア増大と測定される。
開示される処置方法は、所望の治療効果を得るために、開示される化合物の投与を必要に応じて包含し得る。組成物は、所望の治療効果を維持するために、必要な限り投与され得る。一部の実施形態では、化合物は、約1カ月~12カ月の間投与される。一部の実施形態では、化合物は、1カ月~6カ月の間投与される。一部の実施形態では、化合物は、1カ月~3カ月の間投与される。
本発明の一態様では、開示される化合物は、約5mg/日~10g/日の間の量で投与される。一部の実施形態では、化合物の各用量は、約5mg/用量~10g/用量の間の量である。例えば、満足な結果は、1日1回または2~4回の分割用量で投与される約0.05~10mg/kg/日の間、約0.1~7.5mg/kg/日の間、約0.1~2mg/kg/日の間、または0.5mg/kg/日の投与量で、開示される本発明の化合物を経口投与することによって得られる。例えばi.v.点滴または注入による非経口投与では、約0.01~5mg/kg/日の間、約0.05~1.0mg/kg/日の間、および約0.1~1.0mg/kg/日の間の投与量が使用され得る。したがって、患者に適した1日投与量は、p.o.で約2.5~500mgの間、p.o.で約5~250mgの間、p.o.で約5~100mgの間、またはi.v.で約0.5~250mgの間、i.v.で約2.5~125mgの間およびi.v.で約2.5~50mgの間である。
3.使用、製剤化および投与
薬学的に許容される組成物
別の実施形態によれば、本発明は、開示される化合物、および薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルを含む組成物を提供する。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、このような組成物を必要とする患者に投与するために製剤化される。一部の実施形態では、本発明の組成物は、患者に経口投与するために製剤化される。
「患者」という用語は、本明細書で使用される場合、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。
「薬学的に許容される担体、アジュバント、またはビヒクル」という用語は、共に製剤化される化合物の薬理学的活性を破壊しない非毒性の担体、アジュバントまたはビヒクルを指す。本発明の組成物において使用され得る薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルには、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が含まれるが、それらに限定されない。
「薬学的に許容される誘導体」は、レシピエントに投与されると、本発明の化合物、または阻害活性がある(inhibitorily active)その代謝産物もしくは残基を直接的または間接的に提供することができる、本発明の化合物の任意の非毒性の塩、エステル、エステルの塩または他の誘導体を意味する。
本発明の組成物は、経口、非経口、吸入スプレー、局所、直腸内、経鼻、口腔内頬側、膣内、または埋込型リザーバーによって投与され得る。「非経口」という用語は、本明細書で使用される場合、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注射または注入技術を含む。一部の実施形態では、組成物は、経口、腹腔内または静脈内投与される。本発明の組成物の注入可能な滅菌形態は、水性または油性懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、当技術分野で公知の技術に従って、適切な分散化剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して製剤化され得る。注入可能な滅菌調製物は、例えば1,3-ブタンジオール溶液としての、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の注入可能な滅菌溶液または懸濁液であってもよい。用いることができる許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル溶液および等張食塩水が含まれる。さらに従来、溶媒または懸濁化媒体として、滅菌固定油が用いられている。
この目的では、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激性の固定油を用いることができる。自然の薬学的に許容される油、例えばオリーブ油またはヒマシ油、特にポリオキシエチレン化されたものと同様に、脂肪酸、例えばオレイン酸およびそのグリセリド誘導体は、注射剤の調製において有用である。これらの油性溶液または懸濁液は、エマルジョンおよび懸濁液を含む薬学的に許容される剤形の製剤において一般に使用される、長鎖アルコール希釈剤または分散剤、例えばカルボキシメチルセルロースまたは類似の分散化剤を含有することもできる。他の一般に使用される界面活性剤、例えばTweens、Spans、および薬学的に許容される固体、液体または他の剤形の製造において一般に使用される他の乳化剤またはバイオアベイラビリティ増強剤も、製剤化の目的で使用され得る。
本発明の薬学的に許容される組成物は、それに限定されるものではないが、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液剤または溶液剤を含む任意の経口的に許容される剤形で、経口投与され得る。経口で使用するための錠剤の場合、一般に使用される担体には、ラクトースおよびトウモロコシデンプンが含まれる。滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムも典型的に添加される。カプセルの形態で経口投与するために有用な希釈剤には、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが含まれる。水性懸濁液剤が、経口で使用するのに必要とされる場合、活性成分は、乳化剤および懸濁化剤と合わされる。所望に応じて、ある特定の甘味剤、香味剤または着色剤も添加され得る。
あるいは、本発明の薬学的に許容される組成物は、直腸投与のために、坐剤の形態で投与され得る。これらは、薬剤を、室温では固体であるが直腸温度では液体になり、したがって直腸で溶融して薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と混合することによって調製され得る。このような材料には、カカオバター、蜜蝋およびポリエチレングリコールが含まれる。
本発明の薬学的に許容される組成物は、特に処置標的が、局所適用によって容易に到達可能な、目、皮膚、または下部腸管の疾患を含む領域または器官を含む場合、局所投与することもできる。適切な局所製剤は、これらの領域または器官のそれぞれに合わせて容易に調製される。
下部腸管のための局所適用は、直腸坐剤製剤(先を参照)または適切な浣腸製剤で行うことができる。局所経皮パッチを使用することもできる。
局所適用では、提供される薬学的に許容される組成物は、1つまたは複数の担体に懸濁または溶解させた活性な構成成分を含有する適切な軟膏として製剤化され得る。本発明の化合物を局所投与するための担体には、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化蝋および水が含まれるが、それらに限定されない。あるいは、提供される薬学的に許容される組成物は、1つまたは複数の担体に懸濁または溶解させた活性な構成成分を含有する適切なローション剤またはクリーム剤として製剤化され得る。適切な担体には、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水が含まれるが、それらに限定されない。
眼科で使用するために、提供される薬学的に許容される組成物は、保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム(benzylalkonium)を伴って、または伴わずに、pH調整された等張滅菌生理食塩水中の微粒子化懸濁液として、またはpH調整された等張滅菌生理食塩水中の溶液として製剤化され得る。あるいは、眼科で使用するために、薬学的に許容される組成物は、軟膏、例えばワセリンとして製剤化され得る。
本発明の薬学的に許容される組成物は、鼻エアロゾルまたは吸入によって投与することもできる。このような組成物は、医薬製剤分野で周知の技術に従って調製され、ベンジルアルコールまたは他の適切な防腐剤、バイオアベイラビリティを増強するための吸収促進剤、フッ化炭素、および/または他の従来の可溶化剤もしくは分散化剤を用いて、生理食塩水溶液として調製され得る。
一部の実施形態では、本発明の薬学的に許容される組成物は、経口投与のために製剤化される。このような製剤は、食品と共にまたは食品なしに投与され得る。一部の実施形態では、本発明の薬学的に許容される組成物は、食品なしに投与される。他の実施形態では、本発明の薬学的に許容される組成物は、食品と共に投与される。
他の実施形態では、本発明の薬学的に許容される組成物は、静脈内(IV)投与のために製剤化される。
単一剤形の組成物を生成するために担体材料と合わせることができる本発明の化合物の量は、処置を受ける宿主、特定の投与方法に応じて変わる。好ましくは、提供される組成物は、1日当たり、体重1kg当たり0.01~100mgの間の投与量の阻害剤を、これらの組成物を受ける患者に投与できるように製剤化されるべきである。
任意の特定の患者のための具体的な投与量および処置レジメンは、用いられる具体的な化合物の活性、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時間、排出速度、薬物の組合せ、ならびに処置を行う医師の判断および処置を受ける特定の疾患の重症度を含む様々な因子に応じて変わることも理解されたい。組成物中の本発明の化合物の量は、組成物における特定の化合物によっても変わる。
化合物および薬学的に許容される組成物の使用
本明細書に記載される化合物および組成物は、一般に、様々な疾患および状態、例えば脳傷害および神経変性状態の処置、ならびに本明細書で開示される様々な方法に有用である。
本発明において利用される化合物の活性は、in vitro、in vivoまたは細胞株でアッセイされ得る。in vitroアッセイには、タンパク質のモジュレーションまたはタンパク質との結合を決定するアッセイが含まれる。化合物をアッセイするための詳細な条件は、以下の実施例に記載される。
本明細書で使用される場合、用語「処置」、「処置する」および「処置すること」は、本明細書に記載される通り、疾患もしくは障害、または1つもしくは複数のその症状を好転させ、緩和し、発症を遅延し、または進行を阻害することを指す。一部の実施形態では、処置は、1つまたは複数の症状が発症した後に投与され得る。他の実施形態では、処置は、症状がなくても投与され得る。例えば、処置は、症状の発症前に(例えば、症状の病歴に照らして、かつ/または遺伝的もしくは他の感受性因子に照らして)、罹患しやすい個体に投与され得る。処置は、例えばそれらの再発を防止または遅延するために、症状が回復した後も継続され得る。
本発明の方法による化合物および組成物は、開示される疾患もしくは状態、または関連する状態もしくは症候の処置または重症度の低下に有効な任意の量および任意の投与経路を使用して投与され得る。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、および全体的な状態、疾患または状態の重症度、特定の薬剤、その投与方法等に応じて対象ごとに変わる。本発明の化合物は、好ましくは投与を簡単にし、投与量を均一にするために、単位剤形で製剤化される。「単位剤形」という表現は、本明細書で使用される場合、処置を受ける患者に適した薬剤の物理的に別個の単位を指す。しかし、本発明の化合物および組成物の1日総使用量は、良好な医学的判断の範囲内で担当医によって決定されると理解されよう。任意の特定の患者または生物のための具体的な有効用量レベルは、処置を受ける障害および障害の重症度、用いられる具体的な化合物の活性、用いられる具体的な組成物、患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別および食事、用いられる具体的な化合物の投与時間、投与経路および排出速度、処置期間、用いられる具体的な化合物と合わせてまたは同時に使用される薬物、ならびに医療分野で周知の類似の因子を含む様々な因子に応じて変わる。「患者」という用語は、本明細書で使用される場合、動物を意味し、一部の実施形態では、哺乳動物を意味し、またはある特定の他の実施形態では、ヒトを意味する。
本発明の薬学的に許容される組成物は、ヒトおよび他の動物に、処置を受ける疾患または状態の重症度に応じて、経口、舌下、直腸内、非経口、嚢内、腟内、腹腔内、局所(散剤、軟膏、または点滴剤として)、眼内(例えば、点眼薬)、口腔内頬側に、または経口もしくは鼻腔用スプレーとして、等により投与され得る。ある特定の実施形態では、本発明の化合物は、所望の治療効果を得るために1日1回または複数回で、対象の体重1kg当たり1日当たり約0.01mg~約50mgまたは約1mg~約25mgの投与レベルで経口または非経口投与され得る。
経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容されるエマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれるが、それらに限定されない。液体剤形は、活性な化合物に加えて、当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物などを含有し得る。経口組成物は、不活性希釈剤に加えて、アジュバント、例えば湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味剤、香味剤、ならびに賦香剤を含むこともできる。
注射可能な調製物、例えば、注入可能な滅菌水性または油性懸濁液は、公知の技術に従って、適切な分散化剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して製剤化され得る。注入可能な滅菌調製物は、例えば1,3-ブタンジオール溶液としての、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の注入可能な滅菌溶液、懸濁液またはエマルジョンであってもよい。用いることができる許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、リンガー溶液、U.S.P.および等張食塩水が含まれる。さらに従来、溶媒または懸濁化媒体として、滅菌固定油が用いられている。この目的では、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激性の固定油を用いることができる。さらに、注射剤の調製では、脂肪酸、例えばオレイン酸が使用される。
注射可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルターを介する濾過によって、または使用前に滅菌水もしくは他の注入可能な滅菌媒体に溶解もしくは分散させることができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことによって、滅菌され得る。
本発明の化合物の効果を長引かせるために、皮下または筋肉内注射からの化合物の吸収を緩徐することがしばしば望ましい。これは、水溶度が低い結晶性または非晶質材料の懸濁液を使用することによって達成され得る。次に、化合物の吸収速度は、その溶解速度に応じて変わり、溶解速度は、結晶の大きさおよび結晶形に応じて変わり得る。あるいは、非経口投与される化合物形態の遅延吸収は、化合物を油性ビヒクルに溶解または懸濁させることによって達成される。注射可能なデポー形態は、生分解性ポリマー、例えばポリラクチド-ポリグリコリド中で化合物のマイクロ封入マトリックスを形成することによって作製される。化合物の放出速度は、ポリマーに対する化合物の比および用いられる特定のポリマーの性質に応じて制御され得る。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。デポー注射可能な製剤はまた、化合物を、身体組織と適合性があるリポソームまたはマイクロエマルジョンに捕捉することによって調製される。
直腸または膣内投与のための組成物は、好ましくは、本発明の化合物を、周囲温度で固体であるが体温で液体であり、したがって直腸または膣腔内で溶融し、活性化合物を放出する、適切な非刺激性の賦形剤または担体、例えばカカオバター、ポリエチレングリコールまたは坐剤ワックスと混合することによって調製され得る坐剤である。
経口投与のための固体剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、および顆粒剤が含まれる。このような固体剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体、例えばクエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、ならびに/またはa)充填剤もしくは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸、b)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアカシアなど、c)保湿剤、例えばグリセロール、d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、バレイショデンプンもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のシリケート、および炭酸ナトリウム、e)溶解遅延剤、例えばパラフィン、f)吸収促進物質、例えば第四級アンモニウム化合物、g)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートなど、h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土、ならびにi)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ならびにそれらの混合物と混合される。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を含むこともできる。
類似のタイプの固体組成物は、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として用いることもできる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒の固体剤形は、コーティングおよびシェル、例えば腸溶コーティングおよび医薬製剤技術分野で周知の他のコーティングを用いて調製され得る。それらの固体剤形は、任意選択で乳白剤を含有することができ、活性成分(複数可)が腸管だけで、または腸管のある特定の部分において、任意選択で遅延方式により放出される組成であってもよい。使用され得る包埋組成物の例として、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。類似のタイプの固体組成物は、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレン(polethylene)グリコールなどの賦形剤を使用して、軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として用いることもできる。
活性な化合物は、先に記載される通り、1つまたは複数の賦形剤を用いるマイクロ封入化形態であってもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒の固体剤形は、コーティングおよびシェル、例えば腸溶コーティング、制御放出コーティングおよび医薬製剤技術分野で周知の他のコーティングを用いて調製され得る。このような固体剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性希釈剤、例えばスクロース、ラクトースまたはデンプンと混合され得る。このような剤形は、通常の慣行通り、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、打錠滑沢剤および他の錠剤助剤、例えばステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロースを含むこともできる。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を含むこともできる。このような剤形は、任意選択で乳白剤を含有することができ、活性成分(複数可)が腸管だけで、または腸管のある特定の部分において、任意選択で遅延方式により放出される組成であってもよい。使用され得る包埋組成物の例として、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。
本発明の化合物の局所投与または経皮投与のための剤形には、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、散剤、溶液剤、スプレー剤、吸入剤またはパッチ剤が含まれる。活性な構成成分は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体および必要とされ得る場合には任意の必要な防腐剤または緩衝液と混合される。眼科用製剤、点耳薬、および点眼薬も、本発明の範囲内に含まれることが企図される。さらに本発明は、経皮パッチの使用を企図し、これは、身体への化合物の送達を制御できるというさらなる利点を有する。このような剤形は、化合物を適切な媒体に溶解または懸濁させることによって作製され得る。皮膚を介する化合物流量を増大するために、吸収増強剤を使用することもできる。吸収速度は、律速膜を提供するか、または化合物をポリマーマトリックスもしくはゲルに分散させることによって制御され得る。
処置される特定の状態または疾患に応じて、その状態を処置するために通常投与される追加の治療剤が、本発明の組成物中に存在することもできる。本明細書で使用される場合、特定の疾患または状態を処置するために通常投与される追加の治療剤は、「処置を受ける疾患または状態に適している」ことが公知である。
以下の実施例に示される通り、ある特定の例示的な実施形態では、化合物は、以下の一般手順に従って調製され、使用される。本発明のある特定の化合物の合成を一般法によって示しているが、以下の一般法および当業者に公知の他の方法も、本明細書に記載される通り、すべての化合物、ならびにこれらの化合物のそれぞれのサブクラスおよび種に適用され得ることを理解されよう。
本明細書に記載されるそれぞれの文書の内容は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
(実施例1)
マウスへの腹腔内投与後のMRS4322の薬物動態
目的
この研究は、光血栓および外傷性脳傷害のマウスモデルにおいて使用した用量の腹腔内投与後のMRS4322の血漿および脳内濃度を決定するために設計した。
方法
化学物質:MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。分析グレードのトルブタミドを、Seventh Wave Laboratories(Maryland Heights、MO)の商業的供給品から得た。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
動物:テキサス大学ヘルスサイエンスセンター(San Antonio、TX)によって供給された、体重およそ0.02kgの雌性C576BL/6Jマウスを、この研究で使用した。すべての研究を、承認されたテキサス大学ヘルスサイエンスセンターのIACUCプロトコールの下で実施した。
薬物投与:MRS4322をDMSOに可溶化し、次に生理食塩水で希釈して、投与溶液を調製した。MRS4322の最終的な投与溶液中濃度は、100μMであった。体重20グラム当たり体積100μLの投与溶液を、各マウスに腹腔内投与し、MRS4322を、0.16mg/kgまたは0.5μmol/kgで腹腔内投与した。3匹のマウスに、試料採取時点ごとにMRS4322を投与した。
組織試料採取:血液および脳試料を、投与後0時間目、0.083時間目、0.25時間目、0.5時間目、1時間目、2時間目および8時間目に得た。各時点において、マウス(1時点当たり3匹)を一酸化炭素チャンバ内で安楽死させた。全血を心臓穿刺によって得、ヘパリンを含有するMicrotainer管に入れ、血漿を調製するために、すぐに遠心分離し、血漿を-80℃で保存した。各時点において、断頭によって全脳試料を得、氷冷リン酸緩衝食塩水ですすぎ、秤量した。次に、脳試料を液体窒素ですぐに急速冷凍し、-80℃で保存した。
生物分析
MRS4322の血漿および脳内濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS4322の血漿中濃度の標準曲線の較正範囲は、2.42~242ng/mLであった。MRS4322の脳内濃度の較正範囲は、2.41~233ng/mLであった。
MRS4322の脳内濃度の生物分析のために、脳試料を、氷冷リン酸緩衝食塩水中、4倍希釈でホモジナイズした。得られた希釈脳ホモジネートの一定分量を、アセトニトリルで処理し、LC-MS/MSによって分析した。4倍のホモジネート希釈なので、MRS4322の脳内標準曲線の較正範囲は、9.64~932ng/gmに変換された。いくつかの試料において、MRS4322が検出可能であり、脳内LLOQは9.64ng/gm未満に低下したが、バックグラウンドは超えていた。これらの場合、最終的に記録された脳内濃度を、MSピークの高さに基づいて外挿した。
結果
マウスへの腹腔内投与後、MRS4322の濃度は、血漿および脳試料の両方において検出可能であった(図1Aおよび表2)。以下の実施例11に記載され、図1Bおよび16に示される通り、MRS4322の濃度は、ブタ新生仔の血漿および脳試料において検出可能であったことに留意されたい。ブタ新生仔への静脈内投与後、MRS4322の濃度は、血漿、脳、脳細胞外液および脳脊髄液試料において検出可能であった(図1Bおよび図16、表13)。
血漿中濃度によって、Tmax、Cmax、半減期およびAUCの初期推定値を得ることができた(表3)。
脳内濃度は検出可能であったが、データは、半減期、またはCmaxおよびTmax以外の他の薬物動態パラメータを推定するには不十分であった。しかし、利用可能な血漿および脳内データに基づくと、全薬物の脳/血漿比は、血漿および脳内の平均Cmax濃度に基づいて、およそ0.06であると推定された。
これらの結果によって、MRS4322の循環血漿中濃度は、光血栓および外傷性脳傷害のモデルで使用した投与条件下で、マウスへの腹腔内投与後に検出可能であり、MRS4322は、これらの投与条件下で脳に分布することが確認される。
(実施例2)
マウスへのMRS2365の腹腔内投与後のMRS4322の薬物動態
目的
この研究は、光血栓および外傷性脳傷害のマウスモデルにおいて使用した用量のP2Y1アゴニストであるMRS2365の腹腔内投与後の、MRS4322の血漿および脳内濃度を決定するために設計した。
方法
化学物質:MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。MRS2365を、Tocris Biosciences(Bristol、UK)から得た。分析グレードのトルブタミドを、Seventh Wave Laboratories(Maryland Heights、MO)の商業的供給品から得た。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
動物:テキサス大学ヘルスサイエンスセンター(San Antonio、TX)によって供給された、体重およそ0.02Kgの雌性C576BL/6Jマウスを、この研究で使用した。すべての研究を、承認されたテキサス大学ヘルスサイエンスセンターのIACUCプロトコールの下で実施した。
薬物投与:MRS2365をリン酸緩衝食塩水に可溶化し、次にリン酸緩衝食塩水で希釈して、投与溶液を調製した。MRS2365の最終的な投与溶液中濃度は、100μMであった。体重20グラム当たり体積100μLの投与溶液を、各マウスに腹腔内投与し、MRS2365を、0.5μmol/kgまたは0.24mg/kgで腹腔内投与した。3匹のマウスに、試料採取時点ごとにMRS2365を投与した。
組織試料採取:血液および脳試料を、投与後0時間目、0.083時間目、0.25時間目、0.5時間目、1時間目、2時間目および8時間目に得た。各時点において、マウス(1時点当たり3匹)を一酸化炭素チャンバ内で安楽死させた。全血を心臓穿刺によって得、ヘパリンを含有するMicrotainer管に入れ、血漿を調製するために、すぐに遠心分離し、血漿を-80℃で保存した。各時点において、断頭によって全脳試料を得、氷冷リン酸緩衝食塩水ですすぎ、秤量した。次に、脳試料を液体窒素ですぐに急速冷凍し、-80℃で保存した。
生物分析:過去の研究では、MRS2365の検出可能な循環濃度および脳内濃度は、腹腔内または静脈内投与後には観測されないことが実証されており、したがって、この研究は、その代謝産物であるMRS4322の検出および定量だけに焦点を当てた。MRS4322の血漿および脳内濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS4322の血漿中濃度の標準曲線の較正範囲は、2.26~241ng/mLであった。MRS4322の脳内濃度の較正範囲は、2.35~242ng/mLであった。
MRS4322の脳内濃度の生物分析のために、脳試料を、氷冷リン酸緩衝食塩水中、4倍希釈でホモジナイズした。得られた希釈脳ホモジネートの一定分量を、アセトニトリルで処理し、LC-MS/MSによって分析した。4倍のホモジネート希釈なので、MRS4322の脳内標準曲線の較正範囲は、9.40~968ng/gmに変換された。いくつかの試料において、MRS4322が検出可能であり、脳内LLOQは9.40ng/gm未満に低下したが、バックグラウンドは超えていた。これらの場合、最終的に記録された脳内濃度を、MSピークの高さに基づいて外挿した。
結果
マウスへのMRS2365の腹腔内投与後、MRS4322の濃度は、血漿および脳試料の両方において検出可能であった(図2および表5)。
血漿中濃度によって、Tmax、Cmax、半減期およびAUCの初期推定値を得ることができた(表6)。
脳内濃度は検出可能であったが、データは、半減期、またはCmaxおよびTmax以外の他の薬物動態パラメータを推定するには不十分であった。しかし、利用可能な血漿および脳内データに基づくと、全薬物の脳/血漿比は、血漿および脳内の平均Cmax濃度に基づいて、およそ0.10であると推定された。
これらの結果によって、MRS4322の循環血漿中濃度は、光血栓および外傷性脳傷害のモデルで使用した投与条件下で、マウスへのP2Y1アゴニストであるMRS2365の腹腔内投与後に検出可能であり、MRS4322は、これらの投与条件下で脳に分布することが確認される。
MRS4322の血漿および脳内の濃度を、MRS4322自体の腹腔内投与後(実施例1を参照されたい)、およびP2Y1アゴニストであるMRS2365の腹腔内投与後の2つの異なる研究で決定した。これらの両方の研究では、MRS4322またはMRS2365を、0.5μmol/kgの等モル用量で投与した。両方の研究結果を比較すると、観測されたMRS4322の血漿中濃度は、事実上同一であり、MRS4322の脳内濃度は、非常に類似していた(図1および2を比較)。等モル用量のMRS4322またはMRS2365を投与した後、MRS4322の半減期およびAUC値に統計的有意差はなかった。これらのデータは、MRS2365が、マウスへの腹腔内投与後に、MRS4322に急速に完全に代謝され、MRS4322の血漿および脳内薬物動態が、MRS4322自体の腹腔内投与後の薬物動態に非常に類似していることを示している。
(実施例3)
マウスにおけるMRS4322の血漿および脳結合
目的
この研究は、マウスにおけるMRS4322の血漿および脳内遊離画分を決定し、遊離画分を原型のアデノシンA
3受容体アゴニストであるMRS5698の遊離画分と比較するために設計した。MRS5698は、以下の化学構造を有する。
方法
化学物質:MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。MRS5698を、Tocris Biosciences(Bristol、UK)から得た。分析グレードのスルファメトキサゾールおよびワルファリンを、Seventh Wave Laboratories(Maryland Heights、MO)の商業的供給品から得た。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
動物および組織の調製:雄性CD-1マウスの血漿を、BioreclamationIVT(Westbury、NY)から得、使用するまで-80℃で保存した。雄性CD-1マウス脳を、BioreclamationIVT(Westbury、NY)から得た。
血漿限外濾過液のブランク試料を、凍結した血漿を解凍し、次に加湿5%CO2チャンバ内で37℃において60分間、血漿を予め加温することによって調製した。一定分量800μLを、Centrifree遠心フィルター(Ultracel再生セルロース(NMWL30,000amu)Lot R5JA31736)に移し、2900RPMで37℃において10分間、遠心分離した。血漿水の濾液を収集し、標準物質、ブランク、およびQC標準物質の調製に使用した。
脳を秤量し、Omni組織ホモジナイザーを使用して、1:9リン酸緩衝食塩水、pH7.4と共にホモジナイズした。4匹のマウスからの脳をホモジナイズし、プールし、混合して、1つの試料を形成した。
血漿結合決定:MRS4322、MRS5698、スルファメトキサゾール(sulfamethaxazole)およびワルファリンを、DMSOに可溶化し、次に1:1アセトニトリル:水で希釈して、100μM透析原液を調製した。スルファメトキサゾールおよびワルファリンを、公知の血漿結合値を有する研究標準物質として利用した。血漿試料を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。予め加温した血漿の一定分量3mLに、化合物ごとに100μMの原液を使用して、それぞれMRS4322、MRS5698、スルファメトキサゾールまたはワルファリンをスパイク添加して、最終試験濃度を1μMにした。スパイク添加された血漿試料を、37℃の加湿5%CO2チャンバ内で、回転ミキサー上で最小60分間インキュベートした。60分後、各試料の3つの一定分量800μLを、Centrifree遠心フィルターに添加した。フィルターを、2900rpmで37℃において10分間、遠心分離した。残留血漿の3つの一定分量100μLを、生物分析のために限外濾過液と共に収集した。
脳結合決定:MRS4322、MRS5698、スルファメトキサゾールおよびワルファリンを、DMSOに可溶化し、1:1アセトニトリル:水で希釈して、100μM透析原液を調製した。プールしておいたホモジナイズした脳を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。脳ホモジネートの一定分量3mLに、化合物ごとに100μMの原液を使用して、それぞれMRS4322、MRS5698、スルファメトキサゾールまたはワルファリンをスパイク添加して、最終スパイク添加濃度を1μMにした。プールしておいたスパイク添加された脳ホモジネートを、37℃の加湿5%CO2インキュベーター内で、Nutatorミキサー上に60分間置いた。60分後、各試料の3つの一定分量800μLを、Centrifree遠心フィルターに添加した。フィルターを、2900rpmで37℃において10分間、遠心分離した。残留脳ホモジネートおよび限外濾過液の一定分量を、生物分析のために収集した。
生物分析
スパイク添加された血漿、脳ホモジネートおよび関連する限外濾過液におけるMRS4322およびMRS5698の血漿および脳内濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。スルファメトキサゾールおよびワルファリンの関連濃度も、LC-MS/MSによって標準条件を使用して決定した(データ示さず)。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる(表7および8)。生物分析法は、すべてのマトリックスについて同一であった。標準曲線の統計(例えばフィット、切片、傾き、相関係数)を、マトリックスごとに決定したが有意差はなく、したがってマトリックスごとには示していない。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS4322およびMRS5698の血漿中濃度の標準曲線の較正範囲は、400~1200nMであった。MRS4322およびMRS5698の血漿限外濾過液の標準曲線の較正範囲は、100~1200nMであった。MRS4322の脳ホモジネートおよび脳ホモジネート限外濾過液の標準曲線の較正範囲は、それぞれ400~1200nMおよび100~1200nMであった。MRS5698の脳ホモジネートおよび脳ホモジネート限外濾過液の標準曲線の較正範囲は、それぞれ400~1200nMおよび1~500nMであった。
結果
血漿結合および遊離画分を、MRS4322およびMRS5698について血漿限外濾過を利用して決定した。血漿結合は、MRS4322については25.8%であり、関連する遊離画分は、0.742であった(表9)。
MRS5698の濃度は、血漿限外濾過液中で検出されなかった。MRS5698は、Centrifreeデバイスのドナー側から得られた、スパイク添加された残留血漿試料において完全に回収された(データ示さず)。このことは、限外濾過液中、MRS5698の濃度が低かったことが、化合物の分析のための回収量が少なかったことに起因していなかったことを示す。全体的に、これらのデータは、文献に記録されているマウス血漿および組織におけるMRS5698の高タンパク質結合(99.88%)と一致している(Tosh, D.K.ら、Purinergic Signalling(2015年)11巻:371~387頁)。研究標準物質であるスルファメトキサゾールおよびワルファリンの結合は、文献の値と一致していた。
脳結合および遊離画分を、MRS4322およびMRS5698について脳ホモジネート限外濾過を利用して決定した。脳結合は、MRS4322については87%であり、関連する遊離画分は、0.13であった(表10)。
MRS5698の濃度は、脳ホモジネート限外濾過液中で検出されなかった。推定する目的で、MRS5698の脳ホモジネート限外濾過液のLLOQを利用して、脳結合値を算出した。得られた脳結合値は99.99%であった。全体的に、これらのデータは、文献に記録されているマウス血漿および組織におけるMRS5698の高タンパク質結合(99.88%)と一致している(Tosh, D.K.ら、Purinergic Signalling(2015年)11巻:371~387頁)。研究標準物質であるスルファメトキサゾールおよびワルファリンの結合は、文献の値と一致していた。
全体的に、これらのデータは、血漿および脳の両方において、MRS4322が、アデノシンA3アゴニストであるMRS5698よりも実質的に高い遊離画分を有し、より低いタンパク質結合を有していることを示している。これらのデータは、所与の全血漿または脳内濃度について、MRS5698の場合に利用可能となり得る濃度よりも実質的に高い濃度のMRS4322が、エフェクター部位と相互作用するのに利用可能となり得ることを示している。
(実施例4)
マウスおよびヒトの血液および血漿におけるMRS2365のin vitro安定性および代謝
目的
この研究は、マウスおよびヒトの血液および血漿におけるP2Y1アゴニストであるMRS2365のin vitro安定性および代謝運命を決定するために設計した。
方法
化学物質:MRS2365を、Tocris Biosciences(Bristol、UK)から得た。MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。エナラプリルおよびプロカインを、それぞれマウスおよびヒトの血漿および血液安定性の標準物質として使用した。
組織の調製:雄性CD-1マウスおよびヒトの血漿を、BioreclamationIVT(Westbury、NY)から得、使用するまで-80℃で保存した。全血を、Seventh Wave Laboratories(Maryland Heights、MO)において雄性CD-1マウスおよびヒトボランティアから得た。血漿および血液試料は、EDTA(1mM)またはリチウムヘパリンのいずれかを抗凝固剤として使用して調製した。
血漿安定性の決定:MRS2365、エナラプリルおよびプロカインを、リン酸緩衝食塩水、pH7.4に可溶化した。血漿試料(EDTAまたはリチウムヘパリンのいずれかを抗凝固剤として用いて血液から調製した)を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。安定性についてのインキュベートを、MRS2365(最終濃度1μM)を添加して開始した。EDTAを用いて作製した血漿における安定性の初期評価では、0分、10分、30分、60分、120分および240分のインキュベート時点を利用した(図3および4)。EDTAを用いて作製した血漿およびヘパリンを用いて作製した血漿を比較するその後の研究では、0分、1分、2.5分、5分、7.5分、10分および30分のインキュベート時点を利用した(図7)。EDTAを用いて作製した血漿およびヘパリンを用いて作製した血漿を比較する、血漿安定性についての追加のインキュベートを、0秒、5秒、10秒、20秒、30秒、45秒、60秒および90秒の時点を使用して実施した(図8)。代謝産物の探索分析のために、MRS2365を、ヘパリン処理したヒト血漿中、濃度100μMで10分間または30分間インキュベートした(図9)。すべての研究において、血漿を、すぐにmicrotainer管に入れ、ドライアイス上で凍結させ、分析まで-80℃で保存した。
血液安定性の決定:MRS2365、エナラプリルおよびプロカインを、リン酸緩衝食塩水、pH7.4に可溶化した。血液試料(EDTAまたはリチウムヘパリンで処理した)を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。安定性についてのインキュベートを、MRS2365(最終濃度1μM)を添加して開始した(図5および6)。血液試料の一定分量を、0分、1分、2.5分、7.5分、10分および30分において得、microtainer管に入れた。代謝産物の探索分析のために、MRS2365を、ヘパリン処理したヒト全血中、濃度100μMで10分間または30分間インキュベートした(図10)。すべての研究において、血漿を、4℃で遠心分離によってすぐに調製し、microtainer管に入れ、ドライアイス上で凍結させ、分析まで-80℃で保存した。
生物分析
MRS2365の血漿および血液中濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる(表11)。生物分析法は、すべてのマトリックスについて同一であった。標準曲線の統計(例えばフィット、切片、傾き、相関係数)を、マトリックスごとに決定したが有意差はなく、したがってマトリックスごとには示していない。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS2365の血漿および血液内濃度の標準曲線の較正範囲は、5~5000ng/mLであった。品質管理のための試料を、32ng/mL、160ng/mL、800ng/mLおよび4000ng/mLの濃度で利用した。
血漿および血液試料を、LC-MS/MSベースの「代謝産物探索」プロトコールを利用して、MRS2365代謝産物について質的にも分析した。他のヌクレオチド(例えばATP、ADP)の代謝経路の見直しによって、MRS2365の最もありそうな代謝産物は、脱リン酸化(すなわち、一リン酸)代謝産物(MRS2347、mw=403.07)および/または完全に脱リン酸化されたリボシド代謝産物(MRS4322、mw=323.10)となるはずであるという仮説を立てた。リン酸化化合物は、優先的に負イオンを生じるはずであり、リボシドであるMRS4322は、優先的に正イオンを生じるはずであると理解されるので、血液および血漿試料を、親化合物および代謝産物について正イオンおよび負イオンLC/MS-MSの両方によって分析した。MRS4322およびMRS2347についてそれぞれ探索するために、正イオンモードでは、抽出されたイオンクロマトグラムによって、323.7~324.7および403.7~404.7の範囲の質量がモニタリングされた。これらの範囲における任意のイオンピークをさらに分析して、これらのイオンクロマトグラムピークについて生成物のイオンスペクトルを作製した。MRS4322、MRS2347およびMRS2365についてそれぞれ探索するために、負イオンモードでは、抽出イオンクロマトグラムによって、321.70~322.70、401.70~402.70および481.70~482.70の範囲の質量がモニタリングされた。ピークをさらに分析して、生成物のイオンスペクトルを作製した。MRS4322およびMRS2347の真性標準は利用不可能だったため、イオンピークの高さ/面積は、イオン化効率における電位差のために比較できなかったが、代謝産物の質的な同定だけを行うことができた。
結果
マウスおよびヒト血漿におけるMRS2365の血漿安定性を評価するために、2つの時間経過プロトコールを利用した。EDTAを用いて調製した血漿によって、240分の時間経過にわたって予備データを作製した。その後の研究では、インキュベート後1分~30分の時点を利用し、最終研究では、インキュベート後5秒~90秒のより短い時間経過を利用した。すべてのプロトコールにおいて、血漿安定性を、EDTAまたはリチウムヘパリンのいずれかを抗凝固剤として用いて血液から調製した血漿中で分析した。血漿および全血におけるエナラプリル(マウス)およびプロカイン(ヒト)のin vitro安定性データは、公開されている値と一致した(データ示さず)。
EDTAを用いて調製した血漿を利用した血漿安定性研究では、MRS2365は、インキュベート後240分間までのインキュベート過程にわたって、本質的に安定であった(図3および4)。半減期値は、インキュベートの時間経過にわたって算出することができず、したがって>240分であった。その後の代謝産物の探索分析では、MRS2347もMRS4322も検出できなかった。これらのデータによって、MRS2365は、マウスおよびヒト血漿においてin vitroで安定であったことが示唆された。
EDTAを抗凝固剤として用いて処理したマウスおよびヒトの全血においてMRS2365の安定性を評価すると、類似の観測が得られた(図5および6)。それらの研究では、EDTAで処理したマウス全血におけるMRS2365の半減期は47分であったが、これによって、EDTAが、このマトリックスにおけるMRS2365のクリアランスを完全には阻害しなかったことが示唆された。しかしMRS2365は、EDTAで処理したヒト全血においても完全に安定であり、推定半減期は>240分であった。これらの全血研究では、代謝産物は検出されなかった。
これらのデータは、血漿を調製するために血液抗凝固剤としてヘパリンを利用したマウスにおけるMRS2365の初期in vivo薬物動態評価と一致しており、ここで、MRS2365は、心拍出に近似する速度で急速にクリアランスされるように見え、化合物の広範な肝外クリアランスが示唆された。EDTAは、細胞膜表面、ならびに血液および血漿における循環の両方に存在する、ヌクレオチドの脱リン酸化に関与する酵素であるエクトヌクレオチダーゼの酵素活性に必要とされる二価のカチオンをキレートすることが公知である(Ziganshinら、Pflugers Arch.(1995年)429巻:412~418頁を参照されたい)。したがって、P2Y1アゴニストであるヌクレオチド類似体MRS2365の主な代謝経路は、上記の研究で血漿および全血を調製するために使用したEDTAによって完全に阻害された可能性があった。
この可能性を調査するために、追加の安定性の研究を実施して、EDTA、またはエクトヌクレオチダーゼに対して阻害作用が報告されていない抗凝固剤であるリチウムヘパリンのいずれかによって作製した血漿におけるMRS2365の安定性を比較した。研究を、まず、ヘパリン処理した血漿および全血を用いて、0~30分の時間経過にわたって実施した。MRS2365濃度の定量によって、すべての時点において極めて低い濃度のMRS2365が明らかになったが、in vitro半減期を算出するにはデータが不十分であった(データ示さず)。この研究の最短時点(0分および1分)でも、低い/検出不可能なMRS2365濃度が観測されたので、EDTAで処理した血漿およびヘパリンで処理した血漿の両方におけるin vitro安定性を比較し、in vitro半減期の算出を試みるために、著しくより短い時間経過(0~90秒)を用いて研究を反復した。このより短時間の研究では、MRS2365は、EDTAで処理したマウスおよびヒト血漿において相対的に安定であった(図5および6)。MRS2365濃度の変動性は、短い時間経過の開始時に混合が不完全であったこと、および90秒間のインキュベート時間経過にわたって複数の試料採取時点に変動があったことに起因する可能性が高かった。しかし、ヘパリンで処理した血漿中のMRS2365濃度は、最も短い(0秒および5秒)時点でも極めて低かった。MRS2365は、リン酸緩衝食塩水でインキュベートした場合に完全に安定であった。
全体として、これらのデータによって、MRS2365は溶液中で本来的に安定であるが、EDTAによって阻害される過程によってマウスおよびヒト血漿および血液中で急速に分解されることが示唆される。MRS2365は、ヌクレオチド類似体であり、EDTAは、ヌクレオチドを脱リン酸化するエクトヌクレオチダーゼの公知の阻害剤であることを考慮すると、これらのデータによって、MRS2365は、血漿および全血中で急速な脱リン酸化を受けやすいことが強力に示唆され、このことは、マウスにおいてMRS2365について作製されたin vivo薬物動態データと一致している。
マウスおよびヒト血漿および全血における不安定性の原因としてのMRS2365の脱リン酸化の可能性をさらに調査するために、MRS2365を100μMで10分間または30分間インキュベートした後、代謝産物の探索を、ヘパリン処理したヒト血漿および血液において実施した。形成された任意の代謝産物を確実に検出するために、より高い基質濃度を使用した。正イオン化条件下での代表的なイオンクロマトグラムおよび生成物のイオンスペクトルを示す(図7および8)。負イオン化クロマトグラムおよび生成物イオンスペクトルによって、類似の結果が得られた(データ示さず)。化学標準が存在しないため、代謝産物の絶対濃度を決定することができなかったが、インキュベートの10~30分後に、代謝産物M2と比較して代謝産物M1の相対的存在量は増大した。代謝産物M2およびM1の親イオンクロマトグラム、ならびに両方のイオン化条件下で得られた生成物イオンスペクトルは、それぞれ脱リン酸化一リン酸代謝産物であるMRS2347および完全に脱リン酸化されたリボシド代謝産物であるMRS4322の質量および構造と一致していた(図9)。両方の代謝産物の検出、および代謝産物M2(MRS2347)と比較した代謝産物M1(MRS4322)の相対的存在量の増大によって、ヒト血漿および血液中でMRS2365が段階的に脱リン酸化され、その脱リン酸化は、一リン酸化中間体であるMRS2347を経て進行し、次にMRS2347は、非リン酸化リボシドであるMRS4322にさらに脱リン酸化されることが示唆された。
全体として、これらのデータによって、MRS2365は、親化合物を脱リン酸化し、最終的に非リン酸化リボシドであるMRS4322をもたらす循環エクトヌクレオチダーゼによって、血漿および血液中で急速に代謝されるという仮説が裏付けられる。この過程は、エクトヌクレオチダーゼ活性に必要とされる二価のカチオンをキレートすることが公知の作用物質であるEDTAによって阻害される。
(実施例5)
マウスにおけるTBI後のMRS4322の神経保護有効性
目的
この研究は、外傷性脳傷害(TBI)を受けたマウスにおけるMRS4322の神経保護有効性を決定し、MRS2365およびアデノシンA3受容体の完全なアゴニストであるCl-IB-MECAで処置した外傷性脳傷害のないマウスを比較するために設計した。
方法
化学物質:MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。Cl-IB-MECAは、Tocris Biosciences(Bristol、UK)およびいくつかの他の売主から商業的に利用可能である。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
動物および外傷性脳傷害(TBI):TBIを、Talley-Wattsら、2012年(J. Neurotrauma 30巻、55~66頁)に記載されている通り、制御閉鎖性頭蓋傷害モデルを用いて生じさせた。本明細書に記載される方法に従って、空気衝撃デバイスを使用して中程度のTBIを作製し、頭蓋および硬膜は無傷のままにした。これを達成するために、C57BL/6マウスを、100%酸素中、イソフルラン(導入3%、維持1%)で麻酔した。温度制御下で加熱した外科手術台を使用して、37℃の体温を維持した。無菌外科手技を使用して、頭皮に小さい正中切開を施した。5mmのステンレス鋼ディスクを頭蓋上に置き、体性感覚皮質にわたるブレグマとラムダとの間の右頭頂骨上に、強力瞬間接着剤を使用して固定した。次にマウスを、空気衝撃先端部分の直下の台上に置いた。較正済みの衝撃を、深さ2mmにより4.5m/sで与え、それによってマウスに中程度の傷害をもたらした。頭皮切開部を、4-0のナイロン編糸を使用して縫合し、抗生物質軟膏を切開部に塗布した。マウスをThermo-Intensive Care Unit(Braintree ScientificモデルFV-1;37℃;27%O2)に入れ、完全に目が覚め、自由に動き回るまでモニタリングした。傷害またはシャム(未損傷)の30分後、マウスを、ビヒクル(生理食塩水)または薬物(MRS4322、Cl-IB-MECAまたはMRS2365)のいずれかで処置した。MRS4322、Cl-IB-MECAおよびMRS2365の用量は、それぞれ0.16mg/kg、0.24mg/kgおよび0.2mg/kgであり、それぞれおよそ0.5μmol/kgの等モル用量に等価であった。
GFAPのためのウエスタンブロット分析:選択された生存期間で、マウスをイソフルランで麻酔し、屠殺した。脳を取り出し、衝撃を受けた脳半球と受けていない脳半球とに切開するために氷上に置いた。単離した組織を、氷上でWheatonガラス製ダウンス型を使用して(往復20回)、冷却したホモジナイズ用緩衝液(0.32Mのスクロース、1mMのEDTA、1MのTris-HCL、pH=7.8)中で急速にホモジナイズした。ホモジネートを、2mL管に移し、4℃において1000gで10分間遠心分離し、上清を収集し、分析した。タンパク質濃度を、BCAアッセイによって1:50希釈を使用して決定した。タンパク質100μgを、試料ごとに一定分量として取り出し、β-メルカプトエタノールを含有するLaemmli緩衝液を添加し、試料を95℃の熱ブロックに3分間入れた。試料を12%ゲル上にロードし、80Vで20分間泳動させた後、130Vで40分間泳動させた。試料を、100Vで1時間にわたってニトロセルロース膜に転写した。膜を、TBS-T中5%乳で30分間ブロックした。GFAP(1:1000-Imgenex IMG-5083-A)を添加し、4℃で一晩置いた。膜を、10分間、TBS-Tで3回洗浄した。GFAPのための二次抗体(コンジュゲートロバ抗ラビットHRP(ImmunoJackson Laboratories;711-035-152;1:20000)を、室温で1時間適用した。膜をTBS-Tで15分間洗浄し(3回)、Western Lightning Plus-ECLキット(PerkinElmer,Inc.)を使用して製造会社の指示に従って展開した。
結果
MRS4322は、TBI後のマウス脳におけるGFAP発現を低減する。グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)発現を、TBI後の反応性グリオーシスのためのバイオマーカーとして使用した(Talley-Wattsら、2012年;Sofroniew、2005年)。本発明者らは、傷害後7日目に屠殺した、シャム、TBIまたは再処置されたTBI(MRS4322またはMRS2365)マウスにおけるGFAP発現のために、ウエスタンブロット分析を実施した。まず、ウエスタンブロット分析によって、傷害後7日目に脳の同側(中央に衝撃が与えられた側)および対側の両方において、TBIがGFAP発現の著しい増大を誘導したことが確認された(図12A)。GFAP発現は、初期外傷の30分以内に注射したMRS4322またはMRS2365で処置したマウスからのブロットにおいて著しく低かった(図12A)。ローディング対照では、ベータ-アクチンウエスタンブロットを使用し、それぞれのレーンの下に示した。図12Aに示されるウエスタンブロットは、すべて代表的な実験から得られ、同じゲルで泳動させたものであった。3回の別個の実験から平均した、GFAP/アクチン比の相対的変化を示すデータ(Image Jソフトウェアで測定したバンド強度)は、図12Bに平均+/-SEMとして提示されている。データを統合するために、値を7日目のTBIレベルに正規化した(100%)。所与の実験的な処置のためのマウスの総数は、図12BにおいてNによって示されている。
MRS4322およびアデノシンA3受容体アゴニストは、TBI後のマウス血漿におけるGFAP発現を低減する。血漿におけるGFAPレベルは、外傷後の血液脳関門(BBB)が崩壊するのでTBIのバイオマーカーとしても使用されている。結果的に、本発明者らは、7日目にTBIマウスから血漿試料を収集した。本発明者らは、GFAPレベルが、脳組織と類似して、7日目にウエスタンブロット分析によって容易に検出されたことを見出した(図12C)。より重要なことには、本発明者らは、MRS4322またはCl-IB-MECA(アデノシンA3受容体アゴニスト)のいずれかで処置されたTBIマウスの血漿から得られたウエスタンブロットによって、アクチンと比較してGFAPレベルの著しい低下が示されたことを見出した(図12C)。実験条件ごとの平均GFAP/アクチン比のヒストグラムプロットは、図12Dに提示されている。実験処置ごとのマウスの総数は、N値によって示される。
MRS4322は、マウスにおけるA3受容体の低親和性(4900nM)アゴニストである。それとは逆に、Cl-IB-MECAは、マウスにおける高親和性(0.18nM)アゴニストであり、これらの2つの化合物の親和性の差は、およそ25,000倍である。しかし、光血栓脳卒中およびTBIのマウスモデルでは、MRS4322が著しい有効性を示しているが、この有効性はA3アンタゴニストであるMRS1523によってブロックされ、一方でCl-IB-MECAは、不活性であるか(脳卒中)、または弱い活性を有する(TBI、図12)。このことは明らかに、受容体親和性の観点からは自明でない結果である。この知見についての本発明者らの現在の説明は、MRS4322およびCl-IB-MECAについて作製された、本発明者らが有する独自のADME/PKデータに基づくものである。Cl-IB-MECAは、血漿タンパク質に高度に結合し(遊離画分0.002)、脳組織に非特異的に高度に結合する(遊離画分0.002)、親油性化合物(cLogPおよそ2.5)である。MRS4322は、血漿(0.74)および脳(0.13)内で非常に多い非結合画分を有する、非常に親水性の化合物(cLogP<0)である。非結合薬物だけが、膜透過分布および受容体との相互作用に利用可能である。したがって、MRS4322の受容体親和性はより低いにもかかわらず、これらのマウスモデルにおけるA3受容体との相互作用に利用可能なMRS4322の画分は、Cl-IB-MECAの画分よりも少なくとも1000倍多い。本発明者らは、化合物の物理化学特性およびADME/PKの特徴のこれらの有意差が、これらのマウスモデルにおいて、Cl-IB-MECA(および別の親油性の高度に結合した/高親和性の完全なA3RアゴニストであるMRS5698)と比較してMRS4322の自明でない有効性に寄与すると考える。
バイアスアゴニズム。アデノシンA3受容体は、Gタンパク質に共役している多面的受容体であり、すなわちこの受容体のアゴニズムは、複数のGタンパク質ならびにベータ-アレスチンを介して複数の下流経路を潜在的に活性化する可能性がある。A3受容体アゴニズムによって活性化される経路は、現在同定されているが、Gq11媒介性細胞内カルシウム動員、cAMP生成のGi媒介性モジュレーション、ならびにERK1/2およびAktのGi媒介性リン酸化に限定することはできない。本発明者らの発見の一態様は、星状膠細胞におけるミトコンドリアATP生成の促進をもたらす、細胞内カルシウムのA3媒介性動員にある。
受容体薬理学における新しい概念は、バイアスアゴニズムである。この概念は、多面的受容体について、実際に異なるクラスのアゴニストが存在し、そのうちのいくつかは、あらゆる下流経路を活性化することができると同時に、その他は、下流経路の部分集合の活性化においてバイアスを示すことを提示している。薬物発見および受容体薬理学において、バイアスアゴニズムは、オフターゲット効果を抑え、すなわち副作用を抑えながら経路活性化の特異性を増大する可能性を導入する。A3受容体のバイアスアゴニズムに関する証拠が存在している。しかし、原型の高親和性アゴニスト、例えばCl-IB-MECAおよびMRS5698は、前述の下流経路活性化のバイアスを示さない完全なアゴニストである。したがって、いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、MRS4322は、細胞内カルシウム動員を優先的に活性化するが、その他のA3媒介性経路はほとんど/まったく活性化しないバイアスアゴニストであると考えられる。この知見によって、MRS4322は、脳卒中およびTBIのマウスモデルにおいて、完全/非バイアスアゴニストであるCl-IB-MECAおよびMRS5698と比較して有効性が観測されたことの説明がつく。
(実施例6)
マウスにおける脳卒中後のMRS4322の神経保護有効性
目的
この研究は、脳卒中を生じたマウスにおけるMRS4322の神経保護有効性を決定し、MRS2365で処置されたマウスを、A
3受容体アンタゴニストであるMRS1523が存在する状態および存在しない状態で、完全なA3RアゴニストであるMRS5698およびCl-IB-MECAとの比較において比較するために設計した。MRS1523は、以下の化学構造を有する。
方法
化学物質:MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。Cl-IB-MECA、MRS5698およびMRS2365は、Tocris Bioscience(Bristol、UK)およびいくつかの他の売主から商業的に利用可能である。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
光血栓誘導性の脳卒中:光血栓を、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り生じさせた。手短には、ローズベンガルは、脈管構造に注射され、励起されると、内皮壁に損傷を与え、局所性血栓症(血餅)を誘導する一重項酸素を生じる蛍光色素である。この技術を使用して、マウスに、人工脳脊髄液(aCSF)中滅菌ローズベンガル(RB、Sigma、U.S.A.)0.1mLを尾静脈注射した。RB濃度は、20mg/mLであった。皮質領域を画像化フィールドの中心に置き、0.8-NAの40倍水浸レンズ(ニコン、東京)を使用して緑色レーザー(543nm、5mW)を照射した。血餅形成を、標的血管または下流毛細血管がしっかりと閉塞されるまで、リアルタイムでモニタリングした。その後、安定な血餅を、高度蛍光性領域で終わる非蛍光性血管の区分けによって同定した。対照実験では、レーザー照射またはローズベンガル自体のいずれによっても血餅を形成しなかった。処置としてMRS4322(0.16mg/kg;0.5μmol/kg)またはMRS2365(0.24mg/kg;0.5μmol/kg)を、腹腔内注射(i.p.)によって導入した。A3受容体アンタゴニストであるMRS1523を用いる実験では、研究中ずっと受容体アンタゴニズムを確保するために、マウスに0時間目および2時間目の時点で腹腔内注射(2mg/kg)により投与した。
動物および光血栓誘導性の脳卒中:脳卒中を、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り生じさせた。この研究では、雌性C57Bl/6マウス(4~6カ月齢)を使用した。この原稿文書の方法によって、マウスを、ノーズコーンを介して100%酸素により3%イソフルランで麻酔し、その後1%イソフルランで維持した。麻酔深度をモニタリングし、生命徴候、つねりからの逃避反応(pinch withdrawal)および瞬目に従って調節した。体温を、フィードバック制御加熱パッド(Gaymar T/Pump)によって37℃で維持した。酸素飽和、呼吸数、および心拍を含む生命徴候を、MouseOx系(STARR Life Sciences)を使用することによって連続的にモニタリングした。各マウスの頭部の毛を刈り、頭皮を小さく切開して頭蓋を曝露した。特注のステンレス鋼プレートを、VetBond組織接着剤(3M、St.Paul、MN)を用いて頭蓋に接着した。頭蓋の厚さを薄くした頭蓋部画像化窓を、実験に応じて右の一次体性感覚皮質(ブレグマから約1.5mm後部および正中線から2mm外側)にわたって作製した。手短には、頭蓋の広範な領域を、まず電気ドリルで薄くし、次に手術用の刃でさらに薄くした。薄くした頭蓋の最終的な厚さは、およそ50μmであった。頭蓋部画像化窓が作製された後、マウスを顕微鏡台に移し、光血栓または画像化実験のために使用した。反復画像化実験では、プレートを頭蓋から注意深く剥離し、頭皮を縫合した(Ethiconの6-0絹(sild)縫合糸)。各実験後、マウスを、次の時点までまたは屠殺するまで、ケージに戻しておいた。すべての手順は、サンアントニオのテキサス大学ヘルスサイエンスセンターの動物実験委員会(IACUC)によって承認された。脳卒中またはシャム(未損傷)の30分後、マウスを、ビヒクル(生理食塩水)または薬物(MRS4322、MRS2365、MRS5698またはCl-IBMECA)のいずれかで処置した。
光血栓梗塞後の評価。脳梗塞のサイズを、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム塩化物(TTC)染色を使用して評価した。手短には、脳スライス内のRB誘導性病変を、TTCで染色した。TTCは、ミトコンドリア酵素であるスクシニルデヒドロゲナーゼによって還元されると健康な脳組織を赤色に染色する、無色色素である(Bederson JBら、1986年)。次に、壊死組織に染色が存在しないことを使用して、脳梗塞領域を画定する。マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、それらの脳を取り出し、次に氷冷HBSSに3分間入れた。その後、脳を脳型(KOPF)に移し、1mmの薄片にスライスし、37℃の2%TTC(5分)に浸漬させた。薄片を、10%緩衝化ホルムアルデヒド溶液中で4℃において一晩固定した。スライスを、病変サイズの分析のために平台走査装置(HP scanjet 8300)により1200dpiで画像化した。
結果
MRS4322による処置によって、脳卒中後の脳梗塞が低減される。多枝光血栓脳卒中を、前述の通りマウスにおいて、尾静脈を使用してRBと共に注射して誘導した。血餅形成後30分以内に、マウスに、ビヒクル(生理食塩水対照)、MRS4322(0.16mg/kg;0.5μmol/kg)またはMRS2365(0.24mg/kg;0.5μmol/kg)のいずれかを腹腔内注射した。初期脳卒中が生じてから24時間後に、脳梗塞のサイズを、前述の通りTTC染色を用いて評価した。TTCで染色された代表的な脳スライスは、図13Aに提示されている。本発明者らは、MRS4322およびMRS2365の両方によって、脳梗塞のサイズが著しく低減したことを見出した。ビヒクル、MRS4322、MRS2365、MRS5698またはCl-IBMECAで処置したマウスの脳梗塞の平均サイズのヒストグラムプロットは、図13Cに提示されている。これらのデータは、2回の独立な実験からプールしたものである。Nは、試験したマウスの総数を指す。
A3受容体アンタゴニストであるMRS1523は、脳卒中後、MRS4322およびMRS2365による処置の神経保護を阻害する。多枝光血栓脳卒中を、前述の通りマウスにおいて誘導した。しかしこの実験では、受容体アンタゴニズムを確保するために、マウスに0時間目および2時間目の時点でA3受容体アンタゴニストであるMRS1523(2mg/kg)により腹腔内注射で処置した。次に、マウスに、ビヒクル、MRS4322、MRS2365、MRS5698またはCl-IBMECAのいずれかを、血餅形成後30分以内に前述の濃度で注射した。24時間後、脳梗塞のサイズを、TTC染色を用いて評価した。TTCで染色された代表的な脳スライスは、図13Bに提示されている。本発明者らは、MRS1523を用いて予め処置したマウスにおける脳梗塞のサイズが、MRS4322またはMRS2365またはMRS5698のいずれかによる処置では低減しなかったことを見出した。これらの実験の脳梗塞の平均サイズのヒストグラムプロットは、図13Dに提示されている。データは、2回の独立な実験からプールしたものである。Nは、試験したマウスの総数を指す。
(実施例7)
マウスにおける脳卒中後のMRS1873の神経保護有効性
目的
この研究は、MRS4322の対応する2-クロロ類似体であるMRS1873の神経保護有効性を決定するために設計した。実験を、脳卒中を生じたマウスで実施し、MRS4322で処置したマウスおよびビヒクルで処置したマウスを比較した。
方法
化学物質:MRS1873およびMRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。MRS1873は、以下の構造を有する。
光血栓誘導性の脳卒中:光血栓を、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り生じさせた。手短には、ローズベンガルは、脈管構造に注射され、励起されると、内皮壁に損傷を与え、局所性血栓症(血餅)を誘導する一重項酸素を生じる蛍光色素である。この技術を使用して、マウスに、人工脳脊髄液(aCSF)中滅菌ローズベンガル(RB、Sigma、U.S.A.)0.1mlを尾静脈注射した。RB濃度は20mg/mlであった。皮質領域を画像化フィールドの中心に置き、0.8-NAの40倍水浸レンズ(ニコン、東京)を使用して緑色レーザー(543nm、5mW)を照射した。血餅形成を、標的血管または下流毛細血管がしっかりと閉塞されるまで、リアルタイムでモニタリングした。その後、安定な血餅を、高度蛍光性領域で終わる非蛍光性血管の区分けによって同定した。対照実験では、レーザー照射またはローズベンガル自体のいずれによっても血餅を形成しなかった。処置としてMRS1873(100uMの100ul)またはMRS4322(100uMの100ul)を、腹腔内注射(i.p.)によって導入した。
動物および光血栓誘導性の脳卒中:脳卒中を、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り生じさせた。この研究では、雌性C57Bl/6マウス(4~6カ月齢)を使用した。この原稿文書の方法によって、マウスを、ノーズコーンを介して100%酸素により3%イソフルランで麻酔し、その後1%イソフルランで維持した。麻酔深度をモニタリングし、生命徴候、つねりからの逃避反応および瞬目に従って調節した。体温を、フィードバック制御加熱パッド(Gaymar T/Pump)によって37℃で維持した。酸素飽和、呼吸数、および心拍を含む生命徴候を、MouseOx系(STARR Life Sciences)を使用することによって連続的にモニタリングした。マウスの頭部の毛を刈り、頭皮を小さく切開して頭蓋を曝露した。特注のステンレス鋼プレートを、VetBond組織接着剤(3M、St.Paul、MN)を用いて頭蓋に接着した。頭蓋の厚さを薄くした頭蓋部画像化窓を、実験に応じて右の一次体性感覚皮質(ブレグマから約1.5mm後部および正中線から2mm外側)にわたって作製した。手短には、頭蓋の広範な領域を、まず電気ドリルで薄くし、次に手術用の刃でさらに薄くした。薄くした頭蓋の最終的な厚さは、およそ50μmであった。頭蓋部画像化窓が作製された後、マウスを顕微鏡台に移し、光血栓または画像化実験のために使用した。反復画像化実験では、プレートを頭蓋から注意深く剥離し、頭皮を縫合した(Ethiconの6-0絹縫合糸)。各実験後、マウスを、次の時点までまたは屠殺するまで、ケージに戻しておいた。すべての手順は、サンアントニオのテキサス大学ヘルスサイエンスセンターの動物実験委員会(IACUC)によって承認された。脳卒中またはシャム(未損傷)の30分後、マウスを、ビヒクル(生理食塩水)または薬物(MRS4322またはMRS2365)のいずれかで処置した。
光血栓梗塞後の評価。脳梗塞のサイズを、Zhengら、2010年(PloS One 5巻(12号):e14401頁)に記載されている通り、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム塩化物(TTC)染色を使用して評価した。手短には、脳スライス内のRB誘導性病変を、TTCで染色した。TTCは、ミトコンドリア酵素であるスクシニルデヒドロゲナーゼによって還元されると健康な脳組織を赤色に染色する、無色色素である(Bederson JBら、1986年)。次に、壊死組織に染色が存在しないことを使用して、脳梗塞領域を画定する。マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、それらの脳を取り出し、次に氷冷HBSSに3分間入れた。その後、脳を脳型(KOPF)に移し、1mmの薄片にスライスし、37℃の2%TTC(5分)に浸漬させた。薄片を、10%緩衝化ホルムアルデヒド溶液中で4℃において一晩固定した。スライスを、病変サイズの分析のために平台走査装置(HP scanjet 8300)により1200dpiで画像化した。
結果
MRS1873による処置によって、脳卒中後の脳梗塞が低減される。多枝光血栓脳卒中を、前述の通りマウスにおいて、尾静脈を使用してRBと共に注射して誘導した。血餅形成後30分以内に、マウスに、ビヒクル(生理食塩水対照)、MRS1873(100uMの100ul)またはMRS4322(100uMの100ul)のいずれかを腹腔内注射した。初期脳卒中が生じてから24時間後に、脳梗塞のサイズを、前述の通りTTC染色を用いて評価した。TTCで染色された代表的な脳スライスは、図14Bに提示されている。本発明者らは、MRS1873およびMRS4322の両方によって、脳梗塞のサイズが著しく低減したことを見出した。ビヒクル、MRS1873およびMRS4322で処置したマウスの脳梗塞の平均サイズのヒストグラムプロットは、図14Bに提示されている。これらのデータは、3回の独立な実験からプールしたものである。Nは、試験したマウスの総数を指す。
薬物動態および有効性の理論的根拠
MRS1873は、MRS4322の2-Cl類似体であり、アデノシンA3アゴニストでもある。MRS1873の物理化学特性は、低分子量、親水性(cLogP<0)およびトポロジカル極性表面積に関して、MRS4322のものと同一である。ADME/PKパラメータ、例えば血漿および脳結合、クリアランスおよび分布体積は、これらの物理化学特性によって決まるので、本発明者らは、MRS4322およびMRS1873について類似の薬物動態を実証した。さらに本発明者らは、脳卒中の光血栓マウスモデルにおいて、MRS4322およびMRS1873について類似の有効性を実証した。
(実施例8)
A3アデノシン受容体(A3R)における化合物のバイアスアゴニズムを決定するための実験プロトコール
以下のアッセイは、開示される化合物、例えばMRS4322またはMRS1873が、A3受容体においてバイアスアゴニズム(機能的選択性またはアゴニスト輸送としても公知である)を示すかどうかを決定するために使用することができる。
材料。Fluo-4、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、およびペニシリン-ストレプトマイシンは、Invitrogen(Carlsbad、CA)から購入することができる。アデノシン脱アミノ酵素(ADA)およびハイグロマイシン-Bは、Roche(Basel、Switzerland)から購入することができる。ウシ胎児血清(FBS)は、ThermoTrace(Melbourne、Australia)から購入することができる。AlphaScreen SureFire細胞外シグナル調節キナーゼ1および2(ERK1/2)、Akt1/2/3、ならびにcAMPキットは、PerkinElmer(Boston、MA)から得ることができる。頭文字MRSで示されるすべての化合物は、既に記載されている通り合成することができる(Toshら、2012年a、b)。他のすべての試薬は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。
細胞培養。ヒトA3Rの配列を、既に記載されている方法(Stewartら、2009年)を使用して、GatewayエントリーベクターであるpDONR201にクローニングし、次にGatewayデスティネーションベクターであるpEF5/FRT/V5-destに移すことができる。A3-FlpIn-CHO細胞は、既に記載されている方法(Mayら、2007年)を使用して作製し、5%CO2を含有する加湿インキュベーターにおいて、10%FBSおよび選択抗生物質であるハイグロマイシン-B(500μg/ml)を補充したDMEM中、37℃で維持することができる。細胞生存、ERK1/2リン酸化、Akt1/2/3リン酸化、およびカルシウム動員アッセイでは、細胞を4×104個の細胞/ウェルの密度で96ウェル培養プレートに播種することができる。6時間後、細胞を無血清DMEMで洗浄し、5%CO2中、無血清DMEMにおいて37℃で12~18時間維持した後、アッセイする。cAMPアッセイでは、細胞を96ウェル培養プレートに2×104個の細胞/ウェルの密度で播種し、5%CO2中37℃で一晩インキュベートした後、アッセイすることができる。
細胞生存アッセイ。培地を除去し、A3Rリガンドが存在しない状態および存在する状態で、ADA(1U/ml)およびペニシリン-ストレプトマイシン(0.05U/ml)を含有するHEPES-緩衝食塩水溶液(10mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、146mMのNaCl、10mMのD-グルコース、5mMのKCl、1mMのMgSO4、1.3mMのCaCl2、および1.5mMのNaHCO3、pH7.45)で置き換える。次に、プレートを加湿インキュベーター中37℃で24時間維持した後、5mg/mlヨウ化プロピジウムを細胞に添加する。次にプレートを、EnVision プレートリーダー(PerkinElmer)により、励起および発光をそれぞれ320nmおよび615nmに設定して読み取ることができる。データを、それぞれHEPES緩衝液中t=0時間およびMilli-Q水中t=24時間において決定される、100%細胞生存および0%細胞生存に対して正規化する。
ERK1/2およびAkt1/2/3リン酸化アッセイ。リガンドごとのERK1/2およびAkt1/2/3リン酸化の濃度応答曲線を、1U/mlのADAを含有する無血清DMEM中で得ることができる(37℃で5分間の曝露)。アゴニストによる刺激は、培地を除去し、SureFire溶解緩衝液100mlを各ウェルに添加することによって終了させることができる。次に、プレートを5分間かき混ぜる。pERK1/2の検出では、384ウェルのProxiPlate中総体積11mlの、溶菌液:活性化緩衝液:反応緩衝液:AlphaScreenアクセプタービーズ:AlphaScreenドナービーズの80:20:120:1:1v/v/v/v/v希釈物を用いることができる。プレートを暗所で37℃において1時間インキュベートした後、EnVisionプレートリーダー(PerkinElmer)により、励起および発光をそれぞれ630nmおよび520~620nmに設定して蛍光測定を行うことができる。Akt1/2/3リン酸化の検出では、384ウェルのProxiplate中総体積9lの、溶菌液:活性化緩衝液:反応緩衝液:AlphaScreenアクセプタービーズの40:9.8:39.2:1v/v/v/v希釈物を用いることができる。プレートを、暗所で室温において2時間インキュベートした後、総体積11μlの、希釈緩衝液:AlphaScreenドナービーズの19:1v/v希釈物を添加することができる。プレートを室温でさらに2時間インキュベートした後、EnVisionプレートリーダー(PerkinElmer)により、励起および発光をそれぞれ630nmおよび520~620nmに設定して蛍光測定を行うことができる。アゴニストの濃度応答曲線を、10%FBSによって媒介されるリン酸化(5分間の刺激)に正規化する。
カルシウム動員アッセイ。培地を96ウェルプレートから除去し、1U/mlのADA、2.5mMのプロベネシド、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、および1MのFluo4を含有するHEPES-緩衝食塩水溶液で置き換えることができる。プレートを、暗所で、加湿インキュベーター内で37℃において1時間インキュベートすることができる。FlexStationプレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて、アゴニストが存在しない状態および存在する状態でHEPES-緩衝食塩水溶液を添加し、75秒間、1.52秒ごとに蛍光を測定することができる(励起、485nm;発光、520nm)。ピーク蛍光およびベースライン蛍光の間の差は、細胞内Ca2+動員のマーカーとして測定することができる。A3Rアゴニストの濃度応答曲線を、100μMのATPによって媒介された応答に正規化して、細胞数およびローディング効率の差を説明することができる。
cAMP蓄積阻害のアッセイ。培地を、刺激緩衝液(140mMのNaCl、5mMのKCl、0.8MのMgSO4、0.2mMのNa2HPO4、0.44mMのKH2PO4、1.3mMのCaCl2、5.6mMのD-グルコース、5mMのHEPES、0.1%BSA、1U/mlのADA、および10μMのロリプラム、pH7.45)で置き換え、37℃で1時間インキュベートすることができる。cAMP蓄積の阻害は、A3-FlpIn-CHO細胞をA3Rアゴニストと共に10分間プレインキュベートした後、3μMのフォルスコリンを添加して、さらに30分間置くことによって評価することができる。緩衝液を速やかに除去し、氷冷100%エタノール50μlを添加することによって、反応を終了させることができる。エタノールを蒸発させた後、検出緩衝液50μl(0.1%BSA、0.3%Tween-20、5mMのHEPES、pH7.45)を添加する。プレートを10分間かき混ぜた後、溶菌液10μlを384ウェルのOptiplateに移した。検出には、AlphaScreenアクセプタービーズ:刺激緩衝液の1:49v/v希釈物5μlの添加を用いることができる。この後、AlphaScreenドナービーズ:検出緩衝液:3.3U/μlのビオチン化cAMPの1:146:3v/v/v希釈物15μlを添加して、総体積30μlを形成した。ドナービーズ/ビオチン化cAMP混合物は、添加の前に30分間平衡化することができる。プレートを、暗所で室温において一晩インキュベートした後、EnVisionプレートリーダー(PerkinElmer)により、励起および発光をそれぞれ630nmおよび520~620nmに設定して蛍光測定を行うことができる。アゴニストの濃度応答曲線を、3μMのフォルスコリン(0%)または緩衝液(100%)単独によって媒介された応答に正規化することができる。
分子モデル化。ドッキングシミュレーションを、この研究で調査したすべての化合物について、ヒトA3Rの相同性モデルを使用して実施することができる。特に、既に報告されている以下の3つのモデルを使用することができる。アゴニスト結合hA2AAR結晶構造を完全にベースとするモデル(PDB ID:3QAK)、ハイブリッドA2AAR-β2アドレナリン受容体鋳型をベースとするモデル、およびハイブリッドA2AAR-オプシン鋳型をベースとするモデル(β2アドレナリン受容体X線構造PDB ID:3SN6;オプシン結晶X線結晶構造PDB ID:3DQB)(Toshら、2012年a)。ハイブリッド鋳型をベースとするモデルは、A2AARベースのモデルと比較して、外側へのTM2の移動を示す。A3Rリガンドの構造は、Schrodinger一式(Schrodinger Release 2013-3、Schrodinger、LLC、New York、NY、2013年)で実施されるBuilderおよびLigPrepツールを使用して構築し、ドッキングのために準備することができる。A3Rモデルにおけるリガンドの分子ドッキングは、Schrodinger一式のGlideパッケージ部分を用いることによって実施することができる。特に、Glide Gridを、アデノシン受容体の結合ポケットのいくつかの非常に重要な残基、すなわち、Phe(EL2)、Asn(6.55)、Trp(6.48)、およびHis(7.43)の重心の中心に置くことができる。Glide Gridは、14Å×14Å×14Åの内箱(リガンド直径の中間点にある箱)、および内箱から各方向に25Å拡大した外箱(中にすべてのリガンド原子が含有されていなくてはならない箱)を使用して構築することができる。リガンドのドッキングは、XP(超精密)手順を使用して硬い結合部位で実施することができる。リガンドごとのトップスコアのドッキングコンフォメーションに、視覚的検査およびタンパク質-リガンド相互反応の分析を行って、実験データと一致する、提案される結合コンフォメーションを選択することができる。
データ分析。統計分析および曲線フィッティングは、Prism 6(GraphPadソフトウェア、San Diego、CA)を使用して実施することができる。シグナル伝達バイアスを定量するために、アゴニストの濃度応答曲線を、既に記載されている通り、非線形回帰によって、アゴニズムのBlack-Leff操作モデルの誘導を使用して分析することができる(Kenakinら、2012年;Woottenら、2013年;van der Westhuizenら、2014年)。変換係数、τ/KA[対数、Log(τ/KA)として表される]を使用して、バイアスアゴニズムを定量することができる。アゴニスト応答に対する細胞依存的効果を説明するために、変換率を、参照アゴニストであるIB-MECAについて得られた値に対して正規化して、ALog(τ/KA)を作製することができる。異なるシグナル伝達経路におけるアゴニストごとのバイアスを決定するために、ALog(τ/KA)を、参照経路であるpERK1/2に対して正規化して、AALog(τ/KA)を作製する。バイアスは、10AALog(τ/KA)と定義することができ、ここで、バイアスが欠如していると、1から統計的に異なることはなく、または対数として表される場合には0から統計的に異なることはない値が得られる。すべての結果は、平均6S.E.M.として表すことができる。統計分析には、F試験または一元配置分散分析が、P、0.05と決定される統計的有意性によりTukeyまたはDunnett事後試験と共に含まれ得る。
(実施例9)
MRS4322の合成経路
MRS4322および類似の化合物、例えばMRS1873を、当技術分野で公知の方法に従って調製することができる。例えば、MRS4322は、Choi, W. J.ら、J. Org. Chem. 2004年、69巻、2634~2636頁、Tosh, D. K.ら、Purinergic Signalling 2015年、11巻、371~387頁;およびChem. Eur. J.、2009年、15巻、6244~6257頁に記載されている以下の経路によって、D-リボースから調製することができる。以下のスキーム1および2は、合成経路を示す。
スキーム2は、合成の残りを示す。
(実施例10)
開示される化合物の心臓保護についての理論的根拠
本発明者らは、アデノシンA3アゴニストであるMRS4322などの化合物へのP2Y1アゴニストの極めて急速な定量的脱リン酸化を実証した。これらのアデノシンA3アゴニストは、驚くべきことに、本明細書に記載される通り脳卒中および外傷性脳傷害の複数のマウスモデルにおいて有効であることが見出された。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、MRS4322およびMRS1873などの本明細書で説明されるA3アゴニストは、心臓保護的薬剤として有効であると考えられる。
MRS4322およびMRS1873などの化合物への、MRS2365および関連するリン酸化ヌクレオシドの急速な定量的脱リン酸化を示す本発明者らのデータは、主張されるこれらのP2X4アゴニストの心臓保護的有効性が、それらの脱リン酸化代謝産物のアデノシンA3アゴニズムに実際に起因しているという本発明者らの主張を裏付けている。実際、本発明者らは、MRS1873が、脳卒中および外傷性脳傷害モデルにおいて有効なアデノシンA3アゴニストであることを実証した。
(実施例11)
ブタ新生仔への静脈内投与後のMRS4322の薬物動態および結合
目的
この研究は、ブタ新生仔への静脈内投与後のMRS4322の血漿、脳およびCSF内濃度を決定するために設計した。
方法
化学物質。MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。
動物。この研究では、ペンシルベニア大学のバイオエンジニアリング学部(Philadelphia、PA)によって供給された、体重およそ7.5Kgの4週齢の雌性ブタ新生仔を使用した。研究中、動物に脳の微小透析プローブを装備して、薬物濃度を決定するための脳細胞外液試料を得た。すべての研究を、承認されたペンシルベニア大学のIACUCプロトコールの下で実施した。
薬物投与:MRS4322をDMSOに可溶化し、次に生理食塩水で希釈して、投与溶液を調製した。体積10mLの投与溶液を、各ブタ新生仔(n=3)に静脈内ボーラス投与することによって投与した。
組織試料採取:血液試料を、投与後0.25時間目、0.5時間目、1時間目、2時間目、4時間目および6時間目に得た。脳細胞外液試料を、埋め込まれた微小透析プローブから、投与後1時間目、4時間目および6時間目に得た。全血(1mL)を各時点に得、ヘパリンを含有するバキュテナー管に入れ、血漿を調製するためにすぐに遠心分離し、血漿を-80℃で保存した。脳細胞外および脳脊髄液試料を-80℃で保存した。安楽死の時点で(投与後6時間目)、脳脊髄液試料を得、凍結させ、一方、皮質および海馬由来の脳試料は断頭によって得、氷冷リン酸緩衝食塩水ですすぎ、秤量した。次に、脳試料を液体窒素ですぐに急速冷凍し、-80℃で保存した。
生物分析
MRS4322の血漿、脳、脳細胞外液および脳脊髄液中濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS4322のマトリックスの標準曲線のすべての較正範囲は、0.1~1000ng/mLであった。
MRS4322の脳内濃度の生物分析のために、脳試料を、氷冷リン酸緩衝食塩水中、4倍希釈でホモジナイズした。得られた希釈脳ホモジネートの一定分量を、アセトニトリルで処理し、LC-MS/MSによって分析した。
結果
ブタ新生仔への静脈内投与後、MRS4322の濃度は、血漿、脳、脳細胞外液および脳脊髄液試料において検出可能であった(図1Bおよび図16、表13)。
血漿中濃度によって、Tmax、Cmax、血漿クリアランス、分布体積、半減期およびAUCの初期推定値を得ることができた(表14)。
MRS4322の脳、脳細胞外液および脳脊髄液中の濃度は検出可能であったが、データは、半減期、またはCmaxおよびTmax以外の他の薬物動態パラメータを推定するには不十分であった。しかし、すべてのマトリックスについて試料が得られた投与後6時間目の利用可能な血漿および脳内データに基づくと、全薬物の脳/血漿比は、血漿および脳内の平均濃度に基づいて、およそ0.3であると推定された。
これらの結果によって、MRS4322の循環血漿中濃度は、ブタ新生仔への腹腔内投与後に検出可能であり、MRS4322は、これらの投与条件下で脳に十分に分布することが確認される。
(実施例12)
ブタ新生仔におけるMRS4322の血漿および脳結合
目的
この研究は、ブタ新生仔におけるMRS4322の血漿および脳内遊離画分を決定するために設計した。
方法
化学物質。MRS4322を、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(Bethesda、MD)のKen Jacobson博士の厚意によって得た。分析グレードのスルファメトキサゾールおよびワルファリンを、Seventh Wave Laboratories(Maryland Heights、MO)の商業的供給品から得た。他のすべての化学物質を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
動物および組織の調製。雌性ブタ新生仔の血漿および脳試料を、ペンシルベニア大学から得、使用するまで-80℃で保存した。
血漿限外濾過液のブランク試料を、凍結した血漿を解凍し、次に加湿5%CO2チャンバ内で37℃において60分間、血漿を予め加温することによって調製した。一定分量800ulを、Centrifree Centrifugalフィルター(Ultracel再生セルロース(NMWL30,000amu)Lot R5JA31736)に移し、2900RPMで37℃において10分間、遠心分離した。血漿水の濾液を収集し、標準物質、ブランク、およびQC標準物質の調製に使用した。
脳を秤量し、Omni組織ホモジナイザーを使用して、1:9リン酸緩衝食塩水、pH7.4と共にホモジナイズした。4匹のマウスの脳をホモジナイズし、プールし、混合して、1つの試料を形成した。
血漿結合決定。MRS4322、スルファメトキサゾールおよびワルファリンを、DMSOに可溶化し、次に1:1アセトニトリル:水で希釈して、100uM透析原液を調製した。スルファメトキサゾールおよびワルファリンを、公知の血漿結合値を有する研究標準物質として利用した。血漿試料を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。予め加温した血漿の一定分量3mlに、化合物ごとに100uMの原液を使用して、それぞれMRS4322、スルファメトキサゾールまたはワルファリンをスパイク添加して、最終試験濃度を1uMにした。スパイク添加された血漿試料を、37℃の加湿5%CO2チャンバ内で、回転ミキサー上で最小60分間インキュベートした。60分後、各試料の3つの一定分量800ulを、Centrifree遠心フィルターに添加した。フィルターを、2900rpmで37℃において10分間、遠心分離した。残留血漿の3つの一定分量100ulを、生物分析のために限外濾過液と共に収集した。
脳結合決定:MRS4322、スルファメトキサゾールおよびワルファリンを、DMSOに可溶化し、1:1アセトニトリル:水で希釈して、100uM透析原液を調製した。プールしておいたホモジナイズした脳を、37℃に維持した加湿5%CO2インキュベーター中で60分間、予め加温した。脳ホモジネートの一定分量3mlに、化合物ごとに100uMの原液を使用して、それぞれMRS4322、スルファメトキサゾールまたはワルファリンをスパイク添加して、最終スパイク添加濃度を1uMにした。プールしておいたスパイク添加された脳ホモジネートを、37℃の加湿5%CO2インキュベーター内で、Nutatorミキサー上に60分間置いた。60分後、各試料の3つの一定分量800ulを、Centrifree遠心フィルターに添加した。フィルターを、2900rpmで37℃において10分間、遠心分離した。残留脳ホモジネートおよび限外濾過液の一定分量を、生物分析のために収集した。
生物分析
スパイク添加された血漿、脳ホモジネートおよび関連する限外濾過液におけるMRS4322の血漿および脳内濃度を、LC-MS/MSによって、トルブタミドを内部標準物質として利用して決定した。スルファメトキサゾールおよびワルファリンの関連濃度も、LC-MS/MSによって標準条件を使用して決定した(データ示さず)。以下の表に、用いたLCおよびMS/MS条件をまとめる(表15および16)。生物分析法は、すべてのマトリックスについて同一であった。標準曲線の統計(例えばフィット、切片、傾き、相関係数)を、マトリックスごとに決定したが有意差はなく、したがってマトリックスごとには示していない。
組織マトリックスごとに標準曲線を作製し、LLOQ/ULOQ濃度を決定した。MRS4322の血漿中濃度の標準曲線の較正範囲は、5~1000nMであった。MRS4322の血漿限外濾過液の標準曲線の較正範囲は、5~1000nMであった。MRS4322の脳ホモジネートおよび脳ホモジネート限外濾過液の標準曲線の較正範囲は、それぞれ5~1000nMおよび5~1000nMであった。
結果
血漿結合および遊離画分を、MRS4322について、血漿限外濾過を利用して決定した。血漿結合は、MRS4322について21.6%であり、関連する遊離画分は、0.784であった(表16)。研究標準物質であるスルファメトキサゾールおよびワルファリンの結合は、文献の値と一致していた。
脳結合および遊離画分を、MRS4322について脳ホモジネート限外濾過を利用して決定した。脳結合は、MRS4322については74.7%であり、関連する遊離画分は、0.253であった(表17)。研究標準物質であるスルファメトキサゾールおよびワルファリンの結合は、文献の値と一致していた。
これらのデータは、所与の全血漿または脳内濃度について、MRS4322の実質的な非結合薬物濃度が、アデノシンA3受容体との相互作用のために脳内で利用可能であることを示している。これらの知見は、マウスにおいて観測されたものとも一致している。
(実施例13)
MRS4322の薬理学的特徴付け
化合物MRS4322を、細胞膜調製物を使用してチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において組換えで発現されたヒトおよびマウスA3アデノシン受容体における競合結合研究で調査した。[3H]NECAを、A3アゴニスト放射性リガンドとして用いた。CHO細胞は、アデノシン受容体を自然には発現しないので、非選択的アゴニストであるNECAを使用することができた。MR4322による放射性リガンドの濃度依存性の置換えを決定した。
さらにcAMP実験を、それぞれヒトA3またはマウスA3アデノシン受容体を組換えで発現するCHO細胞において実施した。非選択的アゴニストであるNECAを、対照として使用した。
結果
MRS4322は、放射性リガンド結合研究で、[3H]NECAに対して、ヒトA3受容体において1490±410nMのKi値を示し、マウスA3受容体において4940±974nMのKi値を示した。
A
3アデノシン受容体を発現するCHO細胞における機能的cAMP蓄積実験では、MRS4322は、ヒトA
3受容体において3630±370nMのEC
50値を有し、マウスA
3受容体において759±170nMのEC
50値を有するアゴニスト活性を示した。GPCRにおけるアゴニストのEC
50値は、受容体発現レベルに依存して決まる。ヒトA
3受容体細胞株は、より高いEC
50値が観測されるので、マウスA
3受容体を含む細胞株よりも発現レベルが低いと思われ、そのことは、対照アゴニストであるNECAについても該当していた。
図17は、CHO細胞において発現されたヒトA3受容体における、A3アゴニスト放射性リガンド[3H]NECA(10nM)に対するMRS4322の競合結合実験を示す。MRS4322について算出されたKi値は、1490±410nMであった。
図18は、CHO細胞において発現されたマウスA3受容体における、A3アゴニスト放射性リガンド[3H]NECA(10nM)に対するMRS4322の競合結合実験を示す。MRS4322について算出されたKi値は、4940±974nMであった。図19は、CHO細胞において発現されたヒトA3受容体における、MRS4322およびNECAのcAMP蓄積実験を示す。MRS4322について算出されたEC50値は、3630±370nMであり、NECAについては、EC50値は41.8±6.3nMであると決定された。図20は、CHO細胞において発現されたマウスA3受容体におけるMRS4322およびNECAのcAMP蓄積実験を示す。MRS4322について算出されたEC50値は、759±170nMであり、NECAについては、EC50値は6.85±0.88nMであると決定された。
これらの結果は、MRS1873について公知の結合データよりも低いが、そのデータと関係している。J. Med. Chem. 2002年、45巻:4471~4484頁、「Structural Determinants of A3 Adenosine Receptor Activation: Nucleoside Ligands at the Agonist/Antagonist Boundary」、Gao, Z-Gらによって公開されているヒトA3、Kiデータ:MRS1873Ki=353nM;EC50=803nM。
より初期の文書では、ヒトA3のKiは85nMであると記載されている。Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters 2001年、11巻:1333~1337頁、「Ring-Constrained (N)-Methanocarba Nucleosides as Adenosine Receptor Agonists: Independent 5'-Uronamide and 2'-Deoxy Modifications」、Lee, K.ら。
本発明のいくつかの実施形態が記載されているが、上記の特定の実施例は、本発明の化合物および方法を利用する他の実施形態を提供するために、日常的な実験方法を使用して変えることができると理解される。したがって、本発明の範囲は、提供されている具体的な実施形態ではなく、以下の特許請求の範囲だけによって定義されるべきであることを理解されよう。