JP7097318B2 - シラン架橋樹脂成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
ポリオレフィン樹脂を架橋する方法として、特殊な設備を要しない等の利点を有するシラン架橋法が知られている。シラン架橋法では、まず、有機過酸化物の存在下で、加水分解性シリル基と不飽和基とを有するシランカップリング剤をポリオレフィン樹脂にグラフト反応させたシラングラフト樹脂を調製する。次いで、得られたシラングラフト樹脂をシラノール縮合触媒の存在下で水分と接触させることにより、加水分解性シリル基を縮合する。このようにして、ポリオレフィン樹脂をシラン架橋させることができる。
例えば、特許文献1に記載の発明では、シラングラフト樹脂を含有した難燃コンパウンドと、シラノール縮合触媒と特定のポリプロピレンとプロピレンワックスとを混合してなる触媒マスターバッチとが用いられている。
また、特許文献2に記載の発明では、触媒マスターバッチのベース樹脂(キャリア樹脂)に、エチレン-αオレフィン共重合体樹脂等の特定の樹脂成分のほか、鉱物性オイルを含有させることが提案されている。
しかしながら、このように押出機のスクリュー回転数を低くすると、シラングラフト樹脂が押出機のシリンダー内に長時間滞留することになるため、シリンダーの熱によってシラン架橋しやすくなる。そして、押出成形中にシラングラフト樹脂がシラン架橋すると、ゲル状のブツ(凝集塊)が形成され、得られる配線材の外観が悪化する。
本発明者らは、このようなシラン架橋樹脂成形体の製造方法等について更に研究を重ねた結果、触媒マスターバッチやシランマスターバッチのベース樹脂として特定の樹脂成分を用いなくても、また、それらに鉱物性オイルを含有させてもよいが鉱物性オイルを含有させなくてもブツのない優れた外観を有する成形体が得られるようなシラン架橋樹脂成形体の製造方法等を見出すことができた。
<1>ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)に対して、有機過酸化物(A2)とシランカップリング剤(A3)とを、それぞれ所定の混合割合で、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合してシランマスターバッチ(A)を調製する工程(a)と、
ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して、シラノール縮合触媒(B2)を所定の混合割合で溶融混合して触媒マスターバッチ(B)を調製する工程(b)と、
前記工程(a)で得られた前記シランマスターバッチ(A)と前記工程(b)で得られた前記触媒マスターバッチ(B)とを混合した後に成形する工程(c)と、
前記工程(c)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程(d)を有するシラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
前記工程(a)では、前記シランマスターバッチ(A)に無機フィラーを含有させず、
前記工程(b)では、ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して更に無機フィラー(B3)を所定の混合割合で溶融混合して触媒マスターバッチ(B)を調製し、
前記工程(c)では、前記シランマスターバッチ(A)と前記触媒マスターバッチ(B)とが、前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)と前記ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)の合計100質量部に対して、前記有機過酸化物(A2)が0.003~0.3質量部、前記シラノール縮合触媒(B2)が0.01~0.5質量部、前記無機フィラー(B3)が15~50質量部になるように混合され、前記シランカップリング剤(A3)が、前記合計100質量部に対して、2質量部を超え、10質量部以下の配合量になるように混合されることを特徴とするシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<2>前記工程(c)では、前記シランマスターバッチ(A)と前記触媒マスターバッチ(B)とが、前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)と前記ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)のベース樹脂比40:60~95:5で混合されることを特徴とする<1>に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<3>前記シランカップリング剤(A3)が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランであることを特徴とする<1>又は<2>に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<4>前記無機フィラー(B3)が、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする<1>~<3>のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<5>前記無機フィラー(B3)が、水酸化マグネシウムがシランカップリング剤で表面処理されたものであることを特徴とする<1>~<4>のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<6>前記工程(a)において、前記シランマスターバッチ(A)の前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)中、エチレン系共重合体が10~100重量%含有されることを特徴とする<1>~<5>のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<7>前記工程(a)において、前記シランマスターバッチ(A)の前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)中、エチレン系共重合体が酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するエチレン系共重合体であって、共重合体成分が10~40重量%含有されることを特徴とする<6>に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
なお、以下ではシラン架橋樹脂成形体の製造方法について説明するが、以下は、その製造方法により製造されたシラン架橋樹脂成形体の説明にもなっている。
すなわち、ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)に対して、有機過酸化物(A2)とシランカップリング剤(A3)とを、それぞれ所定の混合割合で、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合してシランマスターバッチ(A)を調製する工程(a)と、ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して、シラノール縮合触媒(B2)と無機フィラー(B3)とを、それぞれ所定の混合割合で溶融混合して触媒マスターバッチ(B)を調製する工程(b)と、前記工程(a)で得られた前記シランマスターバッチ(A)と前記工程(b)で得られた前記触媒マスターバッチ(B)とを混合した後に成形する工程(c)と、前記工程(c)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程(d)を有する。
ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)やポリオレフィン系ベース樹脂(B1)として用いるポリオレフィン系樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来、耐熱性樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン-α-オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン系共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、金属水和物等をはじめとする各種フィラーに対する受容性が高く、耐熱性を確保しつつ耐電圧、特に高温での耐電圧特性の低下を抑制する点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン系共重合体等が好適である。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
ここでいう「ランダムポリプロピレン」は、プロピレンとエチレンとの共重合体であって、エチレン成分含有量が1~5質量%のプロピレン系共重合体をいう(なお、エチレン成分がランダムで結合していてもブロックで結合していてもかまわない。)。
また、「ブロックポリプロピレン」は、ホモポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体とを含む組成物であって、エチレン成分含有量が5~15質量%程度以下で、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
ポリプロピレン(PP)は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
エチレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン構成成分の具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の各構成成分が挙げられる。エチレン-α-オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体(ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)に含まれるものを除く。)であり、具体的には、エチレン-プロピレン共重合体(EPR、ただし、ポリプロピレン(PP)に含まれるものを除く。)、エチレン-ブチレン共重合体(EBR)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン-α-オレフィン共重合体などが挙げられる。エチレン-α-オレフィン共重合体は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン系共重合体(ポリエチレン(PE)に含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体は1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。
本発明者の研究によれば、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法を用いれば、シランマスターバッチ(A)のポリオレフィン系ベース樹脂(A1)中、エチレン系共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)を10~100重量%含有していても、シラン架橋樹脂成形体の成形中のブツの発生を抑制することができることが分かっており、エチレン系共重合体が酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するエチレン系共重合体であって共重合体成分(すなわち酸共重合成分又は酸エステル共重合成分)が10~40重量%含有されていればより好ましい。
有機過酸化物(A2)は、熱分解によりラジカルを発生して、加水分解性シランカップリング剤のベース樹脂(A1)へのグラフト化反応の促進、特に加水分解性シランカップリング剤がエチレン性不飽和基を含む場合における該基とベース樹脂(A1)とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を促進させる働きをする。
有機過酸化物(A1)は、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はないが、例えば、一般式:R1-OO-R2、R1-OO-C(=O)R3、R3C(=O)-OO(C=O)R4で表される化合物が好ましく用いられる。ここで、R1、R2、R3及びR4は各々独立にアルキル基、アリール基、アシル基を表す。
本発明において、有機過酸化物(A2)の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物(A2)を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味し、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
シランカップリング剤(A3)としては加水分解性シランカップリング剤を用いることができる。加水分解性シランカップリング剤は、ラジカルの存在下でベース樹脂(A1)にグラフト反応しうる基と、未処理無機フィラーと化学結合しうる基とを有するものであればよく、末端に、アミノ基、グリシジル基又はエチレン性不飽和基と加水分解性とを含有する基を有しているものが好ましく、さらに好ましくは末端にエチレン性不飽和基と加水分解性を含有する基とを有している加水分解性シランカップリング剤である。エチレン性不飽和基を含有する基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p-スチリル基等が挙げられる。またこれらの加水分解性シランカップリング剤とその他の末端基を有する加水分解性シランカップリング剤を併用しても良い。
末端にグリシジル基を有するものは、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
シラノール縮合触媒(B2)は、ベース樹脂(A1)にグラフト化された加水分解性シランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒(B2)の働きに基づき、加水分解性シランカップリング剤を介して、ベース樹脂(A1)同士が架橋される。その結果、耐熱性に優れたシラン架橋樹脂成形体が得られる。
無機フィラー(B3)は、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合もしくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラー(B3)における、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラーは、これらの無機フィラーのうち、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
無機フィラーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
シランマスターバッチ(A)や触媒マスターバッチ(B)は、電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ又はパイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を、目的とする効果を損なわない範囲で適宜含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、更には上記樹脂成分以外の樹脂等が挙げられる。
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下において、シラングラフト樹脂を形成するベース樹脂との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、多官能性化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑剤が挙げられる。
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法は、上記の通り、工程(a)と工程(b)と工程(c)と工程(d)とを有している。
なお、有機過酸化物(A2)やシランカップリング剤(A3)の混合割合については後述する。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーを用いることが好ましい。
なお、シラノール縮合触媒(B2)や無機フィラー(B3)の混合割合については後述する。
混合方法や混合装置は、上記の混合方法や混合装置と同様の方法や装置を用いて行うことができる。
シランマスターバッチ(A)と触媒マスターバッチ(B)との混合方法は、特に限定されない。例えば、工程(a)の溶融混合と同様にして混合することができる。溶融温度は、ベース樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランマスターバッチ(A)と触媒マスターバッチ(B)とが混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
また、前記工程(c)で、上記合計100質量部に対してポリオレフィン系ベース樹脂(A1)を95質量部より多く混合させるためには、触媒マスターバッチ(B)側のポリオレフィン系ベース樹脂(B1)が5質量部未満にする必要がある。しかし、ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)がこのように少量になると、前記工程(b)すなわち触媒マスターバッチ(B)の調製工程で、触媒マスターバッチ(B)を調製できなくなる場合がある。すなわち、工程(b)で、少量のポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に必要な量の無機フィラー(B3)(上記合計100質量部に対して15~100質量部)を混合しようとしても、ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して無機フィラーの量が相対的に多くなり過ぎてしまい、それらを混合しようとしても混合できなくなる場合がある。
そのため、上記合計100質量部に対するポリオレフィン系ベース樹脂(A1)の混合量は95質量部以下であることが望ましい。
シランカップリング剤(A3)の配合量は、上記合計100質量部に対して、1~10質量部であり、2質量部を超え、10質量部以下であることが好ましく、4~10質量部がより好ましい。シランカップリング剤(A3)の配合量を上記範囲内にすることにより、高い耐熱性と優れた外観をシラン架橋樹脂成形体に付与できる。
無機フィラー(B3)の配合量は、上記合計100質量部に対して、15~100質量部である。無機フィラー(B3)の配合量を上記範囲内にすることにより、高い耐熱性と優れた外観をシラン架橋樹脂成形体に付与できる。
この工程(d)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。上記縮合反応は常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(d)において、シラン架橋性樹脂成形体を水と積極的に接触させる必要はない。この縮合反応を促進させるために、シラン架橋性樹脂成形体を水と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
発明者らの研究では、シランマスターバッチ(A)のポリオレフィン系ベース樹脂(A1)が、例えば酸素(O)の二重結合を有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の場合にはブツが生じやすいが、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の場合はEVAに比べてブツが生じにくいことが分かっている。
このことから、触媒マスターバッチ(B)に無機フィラー(B3)を所定量混合させることによるシラノール縮合触媒(B2)の希釈効果が考えられる。
しかし、本発明のように触媒マスターバッチ(B)側に無機フィラー(B3)が所定量混合されていると、触媒マスターバッチ(B)におけるシラノール縮合触媒(B2)の濃度が無機フィラー(B3)によって希釈されるため、上記のようにシランマスターバッチ(A)に対する触媒マスターバッチ(B)の濃度が高い部分でもシラノール縮合触媒(B2)の濃度がさほど高くなくなるため架橋反応が生じなくなる(あるいは生じにくくなる。)。そのため、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法を用いると、製造されたシラン架橋樹脂成形体にブツが生じず(あるいはブツが生じても顕微鏡レベルであり)、優れた外観を有するシラン架橋樹脂成形体を製造できると考えられる。
そのため、触媒マスターバッチ(B)が無機フィラー(B3)を含有することで、工程(c)でシランマスターバッチ(A)と溶融混合する際に触媒マスターバッチ(B)中の無機フィラー(B3)がシランマスターバッチ(A)中に残存しているシランカップリング剤(A3)を吸着(結合)するため、残存するシランカップリング剤(A3)による余分な架橋反応を抑えること等による効果も考えられるが、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法を用いて得られるシラン架橋樹脂成形体の外観が優れる理由について、詳しくはまだ定かではない。
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製法方法は、シラン架橋樹脂成形体からなる製品(半製品、部品、部材も含む。)の製造に適用することができる。この製品は、シラン架橋樹脂成形体を含む製品でもよく、シラン架橋樹脂成形体のみからなる製品でもよい。このような製品として、例えば、耐熱性電線、耐熱性ケーブル又は光ファイバーケーブル等の配線材の被覆材、ゴムモールド材(例えば、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴム、防振ゴム)等が挙げられる。また、シラン架橋樹脂成形体は、従来、電子線照射による架橋又は化学加硫されたポリオレフィン材料、EPゴム材料の代替品として用いることができる。
本発明の製造方法を用いて押出成形により配線材を製造する場合、好ましくは、シランマスターバッチ(A)と触媒マスターバッチ(B)とを混合した成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混合して導体等の外周に押し出す。用いる導体としては、単線でも撚線でもよく、また裸線でも錫メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。導体の周りに形成される絶縁層の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15~5mm程度である。
本発明の製造方法を用いると、細径化した電線であっても外観に優れたものを製造できる。本発明において、細径化した電線とは、近年の電気・電子機器等の小型化ないしは軽量化に求められる程度の外径を有するものであれば特に限定されない。例えば、外径が2mm未満、好ましくは1.5mm以下の電線が挙げられる。
表I~表IIIにおいて、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
なお、表I~表IIIでは、シランマスターバッチが「シランMB」、触媒マスターバッチが「触媒MB」と記載されており、表IIIでは無機フィラーが「無機F」と記載されている。
(1-1)エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA(VA14%)):EV560(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)
(1-2)エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA(VA25%)):VF120T(商品名、ダウ社製)
(1-3)エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA(VA33%)):EV170(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)
(2)ポリエチレン(PE):SP0540(商品名、プライムポリマー社製)
(3)ポリプロピレン(PP):PB222A(商品名、サンアロマー社製)
(4)有機過酸化物:パーヘキサ25B(商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度179℃、日本油脂社製)
(5)シランカップリング剤:KBM1003(商品名、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)
(6)酸化防止剤:イルガノックス1010(商品名、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、BASF社製)
(7)水酸化マグネシウム(I):マグシーズFK621(商品名、シランカップリング剤処理された水酸化マグネシウム、神島化学工業社製)
(8)シラノール縮合触媒:アデカスタブOT-1(商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製)
(9)水酸化マグネシウム(II):キスマ5(商品名、未処理水酸化マグネシウム、協和化学工業社製)
(10)水酸化マグネシウム(III):マグシーズLN-6(商品名、ステアリン酸処理された水酸化マグネシウム、神島化学工業社製)
(11)シリカ:クリスタライト5X(商品名、龍森社製)
(12)炭酸カルシウム:ソフトン1200(商品名、備北粉化工業社製)
まず、表I~表IIIの「シランマスターバッチ(シランMB)」欄に示す各成分を、バンバリーミキサーを用いて、200℃で溶融混合した後、ペレット化して、シランマスターバッチ(A)を得た(工程(a))。
次いで、表I~表IIIの「触媒マスターバッチ(触媒MB)」欄に示す各成分を、バンバリーミキサーを用いて、200℃で溶融混合した後、ペレット化して、触媒マスターバッチ(B)を得た(工程(b))。
得られた被覆導体(成形体)を、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間放置して空気中の水分と接触させて架橋させて、被覆層を有する電線(シラン架橋樹脂成形体)を製造した(工程(d))。
上記と同様にして、シランマスターバッチ(A)と触媒マスターバッチ(B)を得た。
そして、工程(c)で、押出機にシランマスターバッチ(A)のペレットと触媒マスターバッチ(B)のペレットとを投入して溶融混合する際に、無機フィラー(水酸化マグネシウム(I))を添加した。そして、上記と同様にして工程(d)を行った。
上記の押出成形に製造された各実施例及び各比較例(及び参考例)の被覆導体の表面を目視で観察して、その外観を評価した。
評価は、目視でも顕微鏡でもブツが観察されない場合を「◎」とし、目視ではブツが観察されないが顕微鏡では僅かに観察される場合を「〇」とし、目視でブツが観察される場合を「×」(不合格)とした。
参考試験として、各電線において、被覆層の加熱変形特性を測定した。この試験により、架橋反応の程度(シラン架橋樹脂成形体の耐熱性)を評価できる。
試験条件はUL1581に準拠し、測定温度180℃で、各電線に対して2.45Nの負荷荷重をかけて変形率を測定した。このときの変形率が15%未満のものを「◎」とし、15%以上25%未満のものを「〇」とし、25%以上50%未満を「△」とし、50%以上のものを「×」(不合格)とした。
工程(b)で触媒マスターバッチ(B)に無機フィラー(B3)を混合しない比較例1~6の電線はいずれもシラン架橋樹脂成形体(被覆層)の外観に劣る。また、工程(b)で触媒マスターバッチ(B)に無機フィラー(B3)を混合せずに工程(c)でシランマスターバッチ(A)と触媒マスターバッチ(B)を混合する際に無機フィラーを投入した比較例7(B3)の電線も、シラン架橋樹脂成形体(被覆層)の外観に劣る。なお、参考例1、2については前述した通りである。
これに対して、工程(b)で触媒マスターバッチ(B)に無機フィラー(B3)を混合した実施例1~15は、いずれも外観に優れた細径の電線を製造できる。このように、工程(b)で触媒マスターバッチ(B)を調製する際に無機フィラー(B3)を混合することで(すなわち触媒マスターバッチ(B)側に無機フィラー(B3)を混合することで)、従来問題となっていたブツの発生が抑制され、外観に優れた細径の電線を製造することができる。なお、実施例9で加熱変形の評価が合格ではあるが△になっている理由は、他の実施例に比べて架橋されるベース樹脂(A1)の割合が少ないためである。
また、工程(b)で触媒マスターバッチ(B)を調製する際に混合する無機フィラー(B3)として、無機フィラーと予め混合されたシランカップリング剤(表I~表IIIにおける「水酸化マグネシウム(I)」)を用いた実施例1~4、9~15は、細径であっても、外観、耐熱性をより高い水準で兼ね備えている。
Claims (7)
- ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)に対して、有機過酸化物(A2)とシランカップリング剤(A3)とを、それぞれ所定の混合割合で、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合してシランマスターバッチ(A)を調製する工程(a)と、
ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して、シラノール縮合触媒(B2)を所定の混合割合で溶融混合して触媒マスターバッチ(B)を調製する工程(b)と、
前記工程(a)で得られた前記シランマスターバッチ(A)と前記工程(b)で得られた前記触媒マスターバッチ(B)とを混合した後に成形する工程(c)と、
前記工程(c)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程(d)を有するシラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
前記工程(a)では、前記シランマスターバッチ(A)に無機フィラーを含有させず、
前記工程(b)では、ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)に対して更に無機フィラー(B3)を所定の混合割合で溶融混合して触媒マスターバッチ(B)を調製し、
前記工程(c)では、前記シランマスターバッチ(A)と前記触媒マスターバッチ(B)とが、前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)と前記ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)の合計100質量部に対して、前記有機過酸化物(A2)が0.003~0.3質量部、前記シラノール縮合触媒(B2)が0.01~0.5質量部、前記無機フィラー(B3)が15~50質量部になるように混合され、前記シランカップリング剤(A3)が、前記合計100質量部に対して、2質量部を超え、10質量部以下の配合量になるように混合されることを特徴とするシラン架橋樹脂成形体の製造方法。 - 前記工程(c)では、前記シランマスターバッチ(A)と前記触媒マスターバッチ(B)とが、前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)と前記ポリオレフィン系ベース樹脂(B1)のベース樹脂比40:60~95:5で混合されることを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記シランカップリング剤(A3)が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記無機フィラー(B3)が、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記無機フィラー(B3)が、水酸化マグネシウムがシランカップリング剤で表面処理されたものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記工程(a)において、前記シランマスターバッチ(A)の前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)中、エチレン系共重合体が10~100重量%含有されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記工程(a)において、前記シランマスターバッチ(A)の前記ポリオレフィン系ベース樹脂(A1)中、エチレン系共重合体が酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するエチレン系共重合体であって、共重合体成分が10~40重量%含有されることを特徴とする請求項6に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
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