JP7075794B2 - アンモニア合成用触媒の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明の製造方法で用いるルテニウム化合物は、ルテニウムを含む化合物であれば従来公知の化合物を用いることができる。例えば、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム等を用いることができる。本発明の製造方法においては、硝酸ルテニウムまたはニトロシル硝酸ルテニウムといったルテニウムの硝酸塩を用いることが好ましい。
本発明の前駆体調製工程は、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程である。本発明の製造方法においては、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持する方法として、例えば、含浸法を用いることができる。具体的には、ルテニウム化合物が溶媒に溶解または分散した含浸液を担体に浸漬する方法や、含浸液を担体に噴霧する方法等を用いることができる。本発明においては、より担体の表面にルテニウム化合物を担持できる後者の方法を用いることが好ましい。この方法を用いると、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在した触媒を調製しやすい。なお、本発明において、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在しているか否かは、触媒の断面を電子顕微鏡で観察して判断することができる。例えば、図1のような触媒について、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在しているか否か判断する場合は、まず、触媒の断面を電子顕微鏡で観察する。次に、触媒の断面が視野角にすべて入るような倍率で、触媒の中心を通るように電子線マイクロアナライザーでルテニウムの線分析を行う。このとき、触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度(すなわち中心の強度)をI1、その両表面からの距離0.1rの強度をそれぞれI2,I3とし、2I1≦I2かつ2I1≦I3であれば、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在していると判断できる(図2)。なお、この判断基準では、触媒の表面から0.1r以下の範囲にのみルテニウムが存在する場合、ルテニウムが偏在しないことになってしまう。しかし、このように極端に触媒の表面側にのみルテニウムが存在している触媒は、その触媒活性が低下する傾向があるので、本発明の技術的範囲から除外されるものとする(例えば、比較例4)。具体的な測定方法は、実施例で後述する。
本発明の焼成工程は、酸素濃度が10~3000ppm(体積基準。すなわち、ppmv)の範囲にある雰囲気下において前記前駆体調製工程で調製された触媒前駆体を焼成する工程である。この工程では、触媒前駆体を焼成して、触媒前駆体中に含まれるルテニウム化合物を酸化ルテニウムに分解(酸化)することを目的としている。
CeO2 ⇔ CeO(2-x)+x/2O2・・・(1)
つまり、酸化セリウムは、酸素のない不活性雰囲気においてCe4+→Ce3+の価数変化を伴って酸素を放出し、酸素のある酸化雰囲気下においてCe3+→Ce4+の価数変化を伴って酸素を吸蔵する。ここで、酸化セリウムの結晶格子は、前述のセリウムイオンの価数変化に伴って膨張収縮するものと考えられる。Shannonの報告(Shannon et al.,Acta A,32(1976)751)によると、Ce4+のイオン半径(8配位)が0.97Åであるのに対して、Ce3+のイオン半径(8配位)は1.143Åであり、Ce3+とCe4+で約18%異なる。これを体積に換算して比較すると、Ce3+とCe4+で約28%も異なることになる。このようなセリウムイオンの価数変化に由来して酸化セリウムの結晶構造が膨張収縮すると、担体に含まれる酸化セリウムも同じように膨張収縮するので、そのストレスによって担体中に間隙が生じ、最終的に得られる触媒の機械的強度が低下するものと考えられる。例えば、不活性雰囲気中で酸化セリウムを含む担体を焼成すると、担体に含まれる酸化セリウムは、酸素を放出してセリウムイオンがCe4+からCe3+に変化し、膨張する。これを焼成が終わった後で急に酸素リッチな雰囲気に曝してしまうと、担体に含まれる酸化セリウムは、酸素を吸蔵してCe3+がCe4+に変化し、急激に収縮する。このような酸化セリウムの膨張収縮により最終的に得られる触媒にストレスがかかり、機械的強度が低下するものと考えられる。酸化セリウムから酸素を脱離させずに焼成する方法としては、例えば空気中で焼成する等の酸素リッチな雰囲気で焼成することが有効であるが、本発明の製造方法のような、酸化セリウムのほかにルテニウム化合物を含むものを酸素リッチな状態で焼成すると、ルテニウム化合物の一部がRuO4(沸点:40℃)になって揮発してしまう等の問題が生じる。そこで、本発明の製造方法では、酸素が低濃度で存在する雰囲気、即ち酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下において酸化セリウム及びルテニウム化合物を含む触媒前駆体を焼成することが重要である。
最終的に得られるアンモニア合成用の触媒は、酸化セリウムを含む担体に酸化ルテニウムが担持された状態である。しかし、酸化ルテニウムの状態ではアンモニア合成用触媒として機能しないので、これを100~500℃の範囲の温度で水素還元してからアンモニア合成用触媒として用いる。ただし、アンモニア合成は水素雰囲気下において高温で行われるので、このような水素還元処理を省略してもよい。なお、酸化ルテニウムが還元される際に、酸化セリウムに含まれるCe4+の一部が還元されてCe3+が生成して触媒が膨張するが、アンモニア合成反応中にCe3+がCe4+に酸化されて収縮することはほとんどないので、前記反応中の触媒の機械的強度は低下しないものと考えられる。
(担体の吸水量)
約20gの担体を100mlの純水に1時間浸漬した。その後、担体を取り出して表面の濡れをふき取り、浸漬後の担体の重量を測定した。この値を用いて、下記(1)式から担体の吸水量を算出した。なお、純水の単位体積当たりの重量は1g/mlとした。
担体の吸水量 [ml/g-担体]=(浸漬後の担体重量-浸漬前の担体重量)/浸漬前の担体重量・・・(1)
減圧乾燥前の含浸担体の重量と減圧乾燥を開始してから5分後の含浸担体の重量を測定し、下記(2)式から初期乾燥速度を算出した。
初期乾燥速度[ml/g-含浸担体・Hr]=(減圧乾燥前の含浸担体の重量-5分後の含浸担体の重量)/減圧乾燥前の含浸担体重量/(5/60)・・・(2)
触媒前駆体をイオン交換水とデバルダ合金に懸濁してスラリーを得た。このとき、触媒前駆体に含まれる窒素分は、デバルダ合金によって還元され、アンモニアとなってスラリー中に存在している。このスラリーに含まれるアンモニアを蒸留装置で蒸留し、分離されたアンモニアを蒸留水でトラップした。この蒸留水を適切な濃度に希釈して、濃度既知の塩酸を用いて、中和滴定した。使用した触媒前駆体重量、及び中和滴定値から、触媒前駆体に含まれる窒素の含有量を算出した。
円柱状の触媒を輪切りにした後、その断面を電子顕微鏡(HITACHI社製、S-5500)を用いて観察し、EDSにより線分析した。この分析は、触媒の中心を通過する少なくとも12以上の線上にて行った。触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度I1、その両表面からの距離0.1rの強度I2,I3を算出した。
乳鉢で粉砕された触媒、過酸化ナトリウム及び水酸化ナトリウムをるつぼ内で混合し、これを溶融した。その後、るつぼ内の溶融物を塩酸で溶解し、適切な濃度に希釈後、ICP発光分光分析装置にてルテニウム濃度を測定した。使用した触媒の重量、測定されたルテニウム濃度から、触媒のルテニウム含有量を算出した。
T.Takeguchi,W.Ueda,,Applied Catalysis A:General,293(2005),91を参考に測定を実施した。
具体的には、触媒を約0.2g精秤し、これを反応管に充填した。ついで、以下の手順で前処理を実施した。
1st:O2/He(O2:5vol%)流通下において、300℃で30分間保持した。
2nd:He流通下において、50℃で10分間保持した。
3rd:H2/Ar(H2:15vol%)流通下において、400℃で10分間保持した。
4th:He流通下において、50℃で10分間保持した。
5th:O2/He(O2:5vol%)流通下において、50℃で10分間保持した。
6th:CO2/He(He:10vol%)流通下において、50℃で60分間保持した。
7th:He流通下において、50℃で5分間保持した。
8th:H2/Ar(H2:15vol%)流通下において、50℃で10分間保持した。
9th:He流通下において、50℃で20分間保持した。
その後、CO濃度が15vol%のガスをパルスで反応管に導入し、出口のCO濃度をTPD-Mass(日本ベル社、BEL―CAT)で測定した。入口と出口のCO濃度に変化がなくなった時点でパルスの導入を終了した。パルス1回ごとに反応管入口のCO濃度と出口のCO濃度の差分から触媒に吸着されたCO量を算出し、これをパルスの導入が終了するまで積算して触媒に吸着したCO量を算出した。使用した触媒の重量、ルテニウム含有量、ルテニウム原子量、触媒に吸着したCO量を用い、下記(4)式からルテニウム分散度を算出した。
ルテニウム分散度=(VCHEM×SF/22414×MW)/c×100・・・(4)
VCHEM :CO吸着量 [cm3]
MW :金属原子量 [g/mol] (Ru=101.07)
m :試料重量 [g]
SF :1 (Ru1原子に対してCOが1分子吸着すると仮定)
c :金属重量(試料に担持された金属の重量) [g]
c=m×p/100
p :担持金属含有率 [wt%]
触媒全体からランダムに20粒サンプリングした。次に、この触媒1粒について、ロードセル方式圧壊強度計(インストロン社製 型式3365)を用いて、触媒の径に対して垂直方向の破壊強度を測定した。これを20粒分繰り返し、その強度の平均値を機械的強度とした。
触媒5.86mlを反応管に充填し、高圧反応試験装置にセットした。この反応管内を窒素で置換した後、水素で置換し、GHSV=6000(1/Hr)相当で水素を流通させたまま460℃に昇温し、60Hrの前処理還元を実施した。前処理還元終了後、400℃まで冷却し、H2:N2=3:1のガスをGHSV=3000(1/Hr)相当で流通させながら3MPaまで昇圧した。温度及び圧力が安定した時点において、反応管入口のガスのH2濃度、反応管出口のガスのH2濃度をガスクロマトグラフ(GL Sciences社製 GC3200)で測定した。この濃度と流量から、入口水素流量(InletH2)、出口水素流量(OutletH2)を算出した。この値を用いて、下記(5)式から水素転化率を算出し、これを活性の指標とした。
水素転化率[%]=(InletH2[mmol/Hr]-OutletH2[mmol/Hr])/(InletH2[mmol/Hr]) ×100 ・・・(5)
酸化セリウム(第一稀元素化学工業社製、品番:Z-3117)の粉末と有機バインダーを混合した後、これを3.2mmφ-3.2mmHの円柱状に打錠成型した。これを、大気中で550℃の温度で焼成して、酸化セリウムを含む担体を調製した。この担体の吸水量は、0.2ml/g-担体であった。転動した状態の担体に、ニトロシル硝酸ルテニウム溶液(フルヤ金属社製)を純水で希釈して得られた含浸液を、最終的に得られる触媒の総重量に対してルテニウムの含有量が3質量%となるように、噴霧含浸して含浸担体を得た。このとき、この担体に噴霧含浸した含浸液の体積は、担体の吸水量に対して50%であった。この含浸担体を、ロータリーエバポレーターを用いて、初期乾燥速度が0.1ml/g-含浸担体・Hrとなるように圧力(真空度)と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥した。このとき、乾燥温度は、50℃を超えないように調節し、真空度は、5kPa以下となるように調節した。最終的に、含浸担体の重量減少がなくなった時点で減圧乾燥を終了した。減圧乾燥によって得られた触媒前駆体に含まれる窒素(ニトロシル硝酸ルテニウム由来)の含有量は、原料として仕込んだニトロシル硝酸ルテニウムに含まれる窒素の割合に対して、81%であった。ここで、原料として仕込んだニトロシル硝酸ルテニウムに含まれる窒素の量は、ニトロシル硝酸ルテニウムの純度と化学式から計算した。この触媒前駆体を管状炉に仕込み、酸素濃度が10ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通しながら、300℃で5時間焼成した。このとき、昇温速度は100℃/Hrとした。最終的に得られた触媒について、ルテニウム含有量、ルテニウム分散度及び活性試験を行った。また、触媒中のルテニウムの分布状態を測定した。結果を第1表に示す。また、ルテニウムの分布状態を測定した際の電子顕微鏡写真及びEDSによるルテニウムの線分析結果を図3に示す。
初期の乾燥速度が0.08ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
初期の乾燥速度が0.13ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が3000ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
ルテニウム化合物として硝酸ルテニウム(フルヤ金属社製)を原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
ルテニウム化合物として塩化ルテニウム(フルヤ金属社製)を原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が1000ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
送風式の乾燥機を用いて、常圧下、120℃において、初期乾燥速度が0.17ml/g-含浸担体・Hrとなるように含浸担体を乾燥した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が1%(10000ppm)となるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
触媒前駆体の焼成時に大気を流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が5ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
初期の乾燥速度が0.4ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。なお、この触媒は、触媒の表面にルテニウムが極端に偏在していた。
担体に噴霧含浸した含浸液の体積が、担体の吸水量に対して100%であったこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
Claims (3)
- 酸化セリウムを含む担体及びルテニウムを含み、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが、触媒の断面が視野角にすべて入る倍率で触媒の中心を通るように電子線マイクロアナライザーでルテニウムの線分析を行い、触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度をI 1 、その両表面からの距離0.1rの強度をそれぞれI 2 、I 3 としたときに2I 1 ≦I 2 かつ2I 1 ≦I 3 となるように偏在したアンモニア合成用触媒の製造方法であって、
ルテニウム化合物を含む含浸液を、前記担体の吸水量に対して10~70体積%の範囲で前記担体に含浸させて含浸担体を調整した後、乾燥開始から5分後までの乾燥速度である初期乾燥速度が0.05~0.3ml/g-含浸担体・Hrの範囲となるように前記含浸担体から溶媒が除去されるよう減圧乾燥させることで、前記酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程と、
酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下で前記触媒前駆体を焼成する工程と、
を含むアンモニア合成用触媒の製造方法。 - 前記触媒前駆体を調製する工程において、前記酸化セリウムを含む担体に前記ルテニウム化合物を含む前記含浸液を噴霧担持して前記含浸担体を調製する、請求項1に記載のアンモニア合成用触媒の製造方法。
- 前記触媒前駆体を調製する工程において、原料としてルテニウムの硝酸塩を用い、前記触媒前駆体に含まれる窒素の含有量が原料として使用したルテニウムの硝酸塩に含まれる窒素の含有量に対して60%以上である、請求項1または2に記載のアンモニア合成用触媒の製造方法。
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