JP7030680B2 - 凍結保存用治具 - Google Patents
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Description
本発明は、細胞または組織を凍結保存する凍結保存用治具に関する。
細胞または組織の優れた保存技術は、様々な産業分野で求められている。例えば、牛の胚移植技術においては、胚を凍結保存し、受胚牛の発情周期に合わせて胚を融解し、移植することが行われている。また、ヒトの不妊治療においては、母体から卵子または卵巣を採取後、移植に適したタイミングに合わせるために凍結保存しておき、移植時に融解して用いる手技がなされている。
一般に、生体内から採取された細胞または組織は、たとえ培養液の中であっても、次第に活性が失われていくことから、生体外での長期間の培養は好ましくない。そのため、生体活性を失わせずに長期間保存するための技術が重要になる。優れた保存技術により、採取された細胞または組織を、より正確に分析することが可能になる。また、優れた保存技術により、より高い生体活性を保ったまま、細胞または組織を移植に用いることが可能となり、移植後の生着率の向上が望める。さらには、生体外で培養した培養皮膚、生体外で構築した、いわゆる細胞シートのような移植のための人工の組織を、順次生産、保存しておき、必要な時に使用することも可能となり、医療、産業の両面において大きなメリットが期待できる。
細胞または組織の保存方法として、例えば緩慢凍結法が知られている。この方法では、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液に耐凍剤を含有させることで得られた保存液に、細胞または組織を浸漬する。該耐凍剤としては、グリセロール、エチレングリコールなどの化合物が用いられる。該保存液に、細胞または組織を浸漬後、比較的遅い冷却速度(例えば0.3~0.5℃/分の速度)で、-30~-35℃まで冷却すると、細胞内外または組織内外の保存液が十分に冷却され、粘性が高くなる。このような状態で、該保存液中の細胞または組織を、さらに液体窒素の温度(-196℃)まで冷却すると、細胞内または組織内とその外の周囲の微少溶液が、いずれも非結晶のまま固体となるガラス化が起こる。ガラス化により、細胞内外または組織内外が固化すると、実質的に分子の動きがなくなるので、ガラス化された細胞または組織を液体窒素中に保存することで、半永久的に保存できると考えられる。
例えば、特許文献1には緩慢凍結法によってブタ胚を凍結保存することが記載され、特許文献2にはウシ胚を緩慢凍結法によって保存することが記載されている。
しかしながら緩慢凍結法は、比較的遅い冷却速度で細胞または組織を冷却することから、凍結保存のための操作に時間を要する。また冷却速度を制御するための装置、または治具を必要とする問題がある。加えて細胞外または組織外の保存液中に氷晶が形成されるので、細胞または組織が該氷晶により物理的に損害を受けるおそれがある。
一方、上記した緩慢凍結法における問題点を解消する保存方法として、ガラス化凍結法が知られている。ガラス化凍結法とは、グリセロール、エチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの耐凍剤を多量に含む保存液の凝固点降下により、氷点下であっても氷晶ができにくくなる原理を用いたものである。この保存液を、急速に液体窒素中で冷却させると、氷晶を生じさせないまま固体化させることができる。このように固体化することをガラス化凍結という。ガラス化凍結に用いられる耐凍剤を多量に含む保存液は、ガラス化液と呼称される。
ガラス化凍結法では、ガラス化液に細胞または組織を浸漬させ、その後、液体窒素の温度(-196℃)で急速に冷却する。ガラス化凍結法は、このような簡便かつ迅速な工程であるために、凍結保存のための操作に長い時間を必要としないほか、温度制御をするための装置または治具を必要としないという利点がある。
ガラス化凍結法を用いた細胞または組織の凍結保存については、様々な方法で、様々な種類の細胞または組織を用いた例が示されている。例えば、特許文献3では、動物、ヒトの生殖細胞または体細胞へのガラス化凍結法の適用が、極めて有用であることが示されている。非特許文献1では、ショウジョウバエの胚の保存に、ガラス化凍結法が有効であることが示されている。さらに特許文献4では、植物培養細胞や組織の保存において、ガラス化凍結法が有効であることが示されている。
しかしながら、ガラス化液に含まれる高濃度の耐凍剤には化学的毒性がある。このため細胞または組織の凍結保存時には、細胞または組織の周囲に存在するガラス化液は少ない方が望ましく、細胞が保存液に暴露される時間、つまり凍結までの時間が短時間であることが望ましい。さらには、解凍後ただちに保存液を希釈する必要がある。
特許文献5、特許文献6には、短冊状の可撓性かつ無色透明なフィルムを卵付着保持用ストリップとして有する凍結保存用治具が記載されている。かかる文献では該ストリップの幅を制限することにより、細胞または組織の周囲に存在するガラス化液量を低減している。
特許文献7には、金網、紙などの天然物や、合成樹脂からなるフィルム状物で貫通孔を有した保存液除去材を有する凍結保存用治具が記載される。かかる文献において卵子または胚は、ガラス化液と共に保存液除去材上に載置され、卵子または胚の周囲に付着した余分なガラス化液は、保存液除去材の下部から吸引することで取り除かれる。また余分なガラス化液を下部から吸引せずとも取り除くことが可能で、細胞を載置する際の作業性が改善された凍結保存用治具として、特許文献8には特定のヘイズ値を有する保存液吸収体を利用した凍結保存用治具が記載される。特許文献9~12には、多孔質焼結形成体や、多孔質金属体、特定の屈折率を有する素材、あるいは特定の平均繊維径を有する素材で形成された多孔質構造体を保存液吸収体として有する凍結保存用治具がそれぞれ記載されている。
上記したような、保存液吸収体を有する凍結保存用治具について、特許文献13には、保存液吸収体と支持体が、部分的に接着層が存在しない形で接着されている例が記載されている。
Steponkus et al.,Nature 345:170-172(1990)
特許文献8~13に記載される凍結保存用治具では、余分な保存液を保存液吸収体が吸収して取り除くことにより、優れた生存率で細胞または組織を凍結保存することが可能であるが、凍結操作を行う際に、細胞または組織とともに滴下、あるいは載置する(以下、滴下すると記載)保存液の量が多すぎる場合、保存液吸収体が局所的に保存液で飽和してしまい、吸収体全体に保存液が行き渡らない場合があり、保存液を手作業で取り除く操作が必要となることで作業時間が延びる問題があった。
しかるに本発明は、細胞または組織とともに滴下された保存液量が多い場合にあっても、保存液の局所的な飽和を防ぎ、細胞または組織の周囲に存在する余分な保存液を迅速に除去することが可能な凍結保存用治具を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する凍結保存用治具によって、上記課題を解決できることを見出した。
光透過性支持体上に接着層と、該接着層上に保存液吸収層が積層された保存液吸収体を有する凍結保存用治具であって、細胞または組織が保存液とともに載置される保存液吸収体の載置部は接着層の存在しない空隙部を有し、かつ該載置部において、光透過性支持体の空隙部側の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm以上であることを特徴とする凍結保存用治具。
上記の発明によれば、細胞または組織の凍結操作の際、保存液の局所的な飽和を防ぎ、余分な保存液を迅速に除去することが可能な凍結保存用治具を提供することができる。
本発明の凍結保存用治具は、細胞または組織を凍結保存する際に用いられるものである。かかる凍結保存のプロトコルとしては、前記した緩慢凍結法や、ガラス化凍結法を挙げることができるが、特にガラス化凍結法に好適である。
本発明において、細胞とは、単一の細胞のみならず、複数の細胞からなる生物の細胞集団を含むものである。複数の細胞からなる細胞集団とは、単一の種類の細胞から構成される細胞集団でも良いし、複数の種類の細胞から構成される細胞集団でも良い。また、本願明細書中で、組織とは、単一の種類の細胞から構成される組織でも良いし、複数の種類の細胞から構成される組織でも良く、細胞以外に細胞外マトリックスのような非細胞性の物質を含むものでも良い。
以下に、本発明の凍結保存用治具を詳細に説明する。
本発明の凍結保存用治具は、光透過性支持体を有する。該光透過性支持体としては、全光線透過率が80%以上である光透過性支持体が好ましい。このような光透過性支持体としては、各種樹脂フィルム、ガラス、ゴム等が例示され、本発明の効果を損なわない限り、2種以上の光透過性支持体を組み合わせて用いてもよい。上記した中でも、樹脂フィルムは、取扱いがしやすく、好適に用いられる。樹脂フィルムの具体的な例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ポリカーボネート共重合体などのアクリル樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの各種ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニルジフロライドなどのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示される。
本発明における光透過性支持体は、細胞または組織を載置する載置部において、空隙部側の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm以上である。本発明において、該算術平均粗さは、保存液が細胞または組織とともに、光透過性支持体と接着層、および保存液吸収層からなる保存液吸収体に載置された際、保存液吸収層に局所的に飽和した保存液が、接着層の存在しない光透過性支持体表面(本発明における空隙部)に到達した時に、該光透過性支持体上で速やかに広がり、保存液吸収層の保存液未吸収部への吸収を促すために有効に作用する。よって、光透過性支持体の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm以上の箇所は、保存液吸収体の空隙部に存在すればよく、光透過性支持体表面の全面でも良い。なお、本発明における算術平均粗さ(Ra)は表面粗さ・輪郭形状測定機により求めることができ、例えば(株)東京精密製のサーフコム(登録商標)1400Dにより測定することができる。
本発明の凍結保存用治具は、光透過性支持体上に接着層を有する。本発明において、接着層としては、湿気硬化性の接着物質に代表されるような瞬間接着組成物、ホットメルト接着組成物、光硬化性接着組成物などを含有することが可能であり、例えばポリビニルアルコール、ヒドロキシセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉糊などの水溶性高分子化合物や、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エラストマー系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ユリア系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、オレフィン系樹脂、EVA系樹脂などの非水溶性樹脂を含有する組成物を使用することができる。接着層は、一種類の化合物や樹脂を含有してもよいし、複数種類の化合物や樹脂を含有してもよい。接着層の固形分量は、0.01~100g/m2の範囲が好ましく、更に0.1~50g/m2の範囲がより好ましい。
本発明の凍結保存用治具は、接着層上に保存液吸収層を有する。本発明において、保存液吸収層としては、繊維からなるシート、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シート等が例示される。また保存液吸収層は、これらを組み合わせた積層体であっても良い。
繊維からなるシートが紙である場合、密度が0.1~0.6g/cm3であり、坪量が10~130g/m2の紙であることが好ましい。特に密度が0.12~0.3g/cm3であり、坪量が10~100g/m2である紙を保存液吸収層として用いると、余分な保存液の吸収性に優れるため好ましい。また紙は、バインダーなどの結着成分の紙に占める割合が10質量%以下であることが保存液の吸収性の観点から好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、3質量%以下であることが特に好ましい。
繊維からなるシートが不織布である場合、該不織布が含有する繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維からなる再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、さらにはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、絹繊維などが挙げられ、これら繊維を各種混合した不織布も用いることができる。中でもセルロース繊維、セルロース繊維由来の繊維でセルロース再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、更にはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維が好ましい。
繊維からなるシートが不織布である場合、密度が0.1~0.4g/cm3であり、坪量が10~130g/m2の不織布であることが好ましい。特に、密度が0.12~0.3g/cm3であり、坪量が10~100g/m2である不織布を保存液吸収層として用いると、余分な保存液の吸収性に優れるため好ましい。
不織布においても、前記した紙と同様に、バインダーなどの結着剤成分の不織布に占める割合が10質量%以下である不織布が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に3質量%以下である不織布が好ましい。特に、結着剤を含有しない不織布が好ましい。
不織布は紙と異なり様々な製造方法があるが、上記した結着剤成分が低減された不織布としては、スパンボンド法、メルトブロー法で製造された不織布、更には湿式法または乾式法で繊維を並べた後、水流交絡法またはニードルパンチ法で製造された不織布が好適に使用できる。また、上記したとおり、本発明において不織布が含有する好ましい繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維由来の繊維でセルロース再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、さらにはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維が挙げられるが、これらの繊維を用いて不織布を製造する場合は、湿式法、乾式法に関わらず水流交絡法またはニードルパンチ法での製造が好適である。
次に、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートについて説明する。これら各種シートにおける「多孔性」とは、上記したシートが表面に気孔(細孔)を有する構造体であることを意味し、シート表面および内部に連続的な気孔を有する構造体であることがより好ましい。
多孔性樹脂シートとしては、例えば特公昭42-13560号公報や、特開平08-283447号公報に記載される、少なくとも一軸方向に延伸し、樹脂の融点以上に加熱、焼結することで得た微細繊維状構造により多孔質構造を形成した樹脂シート、特開2009-235417号公報に記載される、乳化重合または粉砕などの方法によって得られた熱可塑性樹脂の固体粉末を金型に充填し、加熱、焼結して粉末粒子表面を融着させて冷却することにより、多孔質構造を形成した樹脂シートなどが挙げられる。
多孔性樹脂シートを形成する樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの各種ポリエチレンやポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニルジフロライドなどのフッ素樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル三元共重合体、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。中でもポリテトラフルオロエチレンやポリビニリデンジフロライドなどのフッ素樹脂により形成された多孔性樹脂シートは、保存液の吸収性に優れるとともに、顕微鏡観察下において、細胞または組織の視認性に優れることから好ましい。また多孔性樹脂シートとしては、理化学実験用途や研究用途として市販されている濾過用のメンブレンフィルターも使用できる。
多孔性金属シートとしては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、錫、亜鉛、鉛、チタン、ニッケル、ステンレスなどの金属からなる多孔性金属シートが挙げられる。多孔性金属酸化物シートとしては、シリカ、アルミナ、ジルコニウムなどの金属の酸化物からなる多孔性金属酸化物シートを好ましく利用することができる。また、多孔性金属シートおよび多孔性金属酸化物シートは、上記した金属および金属酸化物をそれぞれ2種類以上含有する多孔性シートであっても良い。
上記した多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートの製造方法としては、一般に知られた方法を使用することができる。保存液吸収層が多孔性金属シートの場合には、粉末冶金法、スペーサー法などの方法を使用することができる。また、樹脂射出成型と粉末冶金法を組み合わせたいわゆるパウダースペースホルダー法も好ましく使用できる。例えば、国際公開第2006/041118号パンフレットや、特許第4578062号公報に記載された方法などを用いることができる。より具体的には、金属粉末とスペーサーとなる樹脂を混合後、圧力をかけて成型した後、高温環境下で焼成することで、金属粉末を焼き固め、スペーサーとなる樹脂を気化させて、多孔性金属シートを得ることができる。パウダースペースホルダー法などを用いる場合には、金属粉末とスペーサーとなる樹脂に加えて、樹脂のバインダーを混合することができる。また、金属粉末を高温で加熱した後に、ガスを注入して空隙を作製する発泡溶融法、ガス膨張法などの金属多孔体の製造方法も使用することができる。さらには、発泡剤を用いて金属多孔体を製造するスラリー発泡法のような製造方法も使用することができる。保存液吸収層が多孔性金属酸化物シートの場合には、例えば、特開2009-29692号公報や特開2002-160930号公報に記載された方法などを用いることができる。
本発明において、保存液吸収層の厚みは10μm~5mmであることが好ましく、より好ましくは20μm~2.5mmである。
保存液吸収層が、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの多孔体である場合には、該多孔体の細孔径は、0.02~130μmであることが好ましく、より好ましくは0.02~60μmである。細孔径が0.02μm未満の場合、保存液の吸収性能が十分でない場合がある。また、多孔性シートの製造が難しいという問題がある。一方、細孔径が130μmを超える場合、保存液吸収層の十分な吸収能が得られない場合がある。なお、本発明における多孔体の細孔径は、多孔性樹脂シートの場合には、バブルポイント試験により測定される最も大きい細孔の直径である。多孔性金属シートおよび多孔性金属酸化物シートの場合には、該多孔体の表面および断面の画像観察から測定した平均細孔直径である。
本発明において、保存液吸収層の空隙率は、20容量%以上であることが好ましく、より好ましくは30容量%以上である。また、保存液吸収層が、上記した多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの多孔体である場合、多孔体の内部の気孔は、厚み方向のみならず、厚み方向に対して垂直な方向に対しても連続的な構造であることが好ましい。このような構造を有すると、多孔体内部の気孔を有効に用いることができるために、保存液の高い吸収性能が得られる。保存液吸収層の厚み、多孔体の空隙率は、用いる細胞または組織の種類や細胞または組織と共に滴下される保存液の滴下量などに応じて、適宜選択することができる。
上記した空隙率は、以下の式で定義される。ここで空隙容量Vは水銀ポロシメーター(測定器名称 Autopore II 9220 製造者 micromeritics instrument corporation)を用い測定・処理された、保存液吸収体における細孔半径3nmから400nmまでの累積細孔容積(ml/g)に、保存液吸収体の乾燥固形分量(g/平方メートル)を乗ずることで、単位面積(平方メートル)当たりの数値として求めることができる。
P=(V/T)×100(%)
P:空隙率(%)
V:空隙容量(ml/m2)
T:厚み(μm)
P=(V/T)×100(%)
P:空隙率(%)
V:空隙容量(ml/m2)
T:厚み(μm)
本発明の凍結保存用治具は、細胞または組織を載置する載置部を有する。本発明における細胞または組織を載置する載置部とは、保存液吸収体上に細胞または組織が保存液とともに載置される箇所の保存液吸収層と、該保存液吸収層から空隙部、および光透過性支持体までの積層部を含むものとする。より具体的には、該保存液吸収体の光透過性支持体上にマスキングを施し、接着層敷設後にマスキングテープを剥離するなどして、一部、光透過性支持体上に接着層が存在しない部分を設け、該接着層上に保存液吸収層を貼り合わせて、空隙部を有する保存液吸収体を得ることができる。そして、この空隙部上に位置する保存液吸収層、および該空隙部下に位置する光透過性支持体も含めた部分が、本発明における載置部にあたる。
本発明の凍結保存用治具が有する保存液吸収体の面積は、細胞または組織と共に滴下される保存液の滴下量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、滴下する保存液1μlにつき1mm2以上とすることが好ましく、2~400mm2とすることがより好ましい。載置部は、該保存液吸収体上のいずれかの場所にあればよく、その面積は保存液吸収体の面積に準じる。
本発明の凍結保存用治具を用いて細胞または組織を長期凍結保存する場合、細胞または組織を外界と遮断するために凍結保存用治具にキャップを被せる、または、該凍結保存用治具を任意の形状の容器に入れて密閉することが可能である。液体窒素が滅菌されておらず、細胞または組織を直接液体窒素に接触させて凍結させる場合は、凍結保存用治具が滅菌されていても滅菌状態を保証できない場合がある。よって、凍結前に細胞または組織を付着させた保存液吸収体にキャップをする、または凍結保存用治具を容器中に密閉することにより、細胞または組織を直接液体窒素に接触させずに凍結させることがある。上記理由から、キャップおよび容器は耐液体窒素性のある素材である各種金属、各種樹脂、ガラス、セラミックなどで作製することが好ましい。形状としては特に限定されず、例えば、キャップは、鉛筆用のキャップのような半紡錘状またはドーム状などのキャップ、円柱状のストローキャップなど、凍結保存用治具の保存液吸収体と接触せず、細胞または組織を外界と遮断できるような形状ならどのような形状でもよい。容器は、載置された細胞または組織に接触せずに、凍結保存用治具を被包または収納して密閉できるものであればよく、その形状は特に限定されない。
本発明の凍結保存用治具は、本発明の効果を損なわない限り、凍結保存用治具を上記したようなキャップ、容器と組み合わせて使用することができる。また、このような、キャップまたは容器と組み合わせて使用される形態の凍結保存用治具も、本発明に包含される。
本発明は、例えば、クライオトップ(登録商標)法において好適に用いられるものである。また、従来のクライオトップ法は、通常、単一の細胞または10個未満の少数の細胞の保存に用いられるが、本発明は、より多くの細胞の保存(例えば、10~1000000個の細胞の保存)においても好適に用いることができる。本発明を用いると、細胞または組織の凍結操作の際、保存液の局所的な飽和を防ぎ、余分な保存液を保存液吸収体ですばやく除去することが可能である。
本発明の凍結保存用治具を用いて細胞または組織を凍結保存する手順は特に限定されない。例を以下に示す。まず、保存液に浸漬した細胞または組織を、保存液とともに載置部上に滴下する。該細胞または該組織の周囲には余分な保存液が付着しているが、載置部の保存液吸収層および該保存液吸収層下部の空隙部により、自動的かつ速やかに除かれる。次いで、前記細胞または組織を載置部に保持させたまま液体窒素などの中に浸漬することにより、細胞または組織を凍結する。この時、前記した載置部上の細胞または組織を外界と遮断することができるキャップを保存液吸収体に装着、または凍結保存用治具を前記した容器に密閉して、液体窒素などの中に浸漬することもできる。保存液は、通常卵子、胚などの細胞の凍結のために使用されるものを使用することができ、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液に耐凍剤(グリセロール、エチレングリコールなど)を含有させることで得られた保存液や、グリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの各種耐凍剤を多量に(少なくとも保存液の全質量に対して10質量%以上、より好ましくは20質量%以上)含む保存液を使用できる。融解作業の際は、液体窒素などの冷却溶媒中から、該凍結保存用治具を取り出し、凍結された細胞または組織を載せた保存液吸収体を融解液中に浸漬させ、また保存液吸収体を融解液中で揺するなどして細胞または組織を回収する。
本発明の凍結保存用治具を用いて凍結保存することができる細胞として、例えば、哺乳類(例えば、人(ヒト)、牛、豚、馬、ウサギ、ラット、マウスなど)の卵子、胚、***などの生殖細胞;人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞が挙げられる。また、初代培養細胞、継代培養細胞、および細胞株細胞などの培養細胞が挙げられる。また細胞は、一または複数の実施形態において、線維芽細胞、膵ガン・肝ガン細胞などのガン由来細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、組織幹細胞、および免疫細胞などの接着性細胞が挙げられる。さらに、凍結保存することができる組織として、同種または異種の細胞からなる組織、例えば、卵巣、皮膚、角膜上皮、歯根膜、心筋などの組織が挙げられる。本発明の凍結保存用治具は、特にシート状構造を有する組織(例えば、細胞シート、皮膚組織など)の凍結保存に好適である。本発明の凍結保存用治具は、直接生体から採取した組織だけでなく、例えば、生体外で培養し増殖させた培養皮膚、生体外で構築したいわゆる細胞シート、特開2012-205516号公報で提案されている三次元構造を有する組織モデルのような、人工の組織の凍結保存についても好適に用いることができる。本発明は、上記のような細胞または組織の凍結保存方法において好適に用いられる。
本発明の凍結保存用治具は、前記した細胞または組織を載置する保存液吸収体と共に把持部を有していても良い。把持部を有すると、凍結保存作業時および融解作業時の作業性が良好になるため好ましい。
図1は、本発明の凍結保存用治具の一例を示す全体図である。図1において凍結保存用治具8は把持部1を有し、該把持部1には、光透過性支持体3が接続されており、該光透過性支持体3上に保存液吸収体6と載置部2を有する。図1では、把持部1と光透過性支持体3が接続されている例を示しているが、把持部1と保存液吸収体6が直接接続されるような場合も本発明に含まれる。
把持部1は、耐液体窒素素材であることが好ましい。このような素材としては、例えばアルミ、鉄、銅、ステンレス合金などの各種金属、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素系樹脂や各種エンジニアプラスチック、更にはガラスなどを好適に用いることができる。図1中、把持部1は円柱形であるが、その形状は任意である。また、後述するように、細胞または組織を直接液体窒素に接触させないことを目的に、凍結前に細胞または組織を付着させた保存液吸収体6にキャップを被せることがあるが、この場合、把持部1を、保存液吸収体6を有さない側から、保存液吸収体6を有する側に向かって、円柱の径が連続的に小さくなる形状(テーパー状)とすることで、キャップを被せる際の作業性を向上させることも可能である。保存液吸収体6の形状は、ハンドリング上、短冊状またはシート状であることが好ましい。
図1の把持部1と光透過性支持体3の接続方法について説明する。把持部1が樹脂の場合、例えば、成形加工する時にインサート成形により光透過性支持体3を把持部1に接続することができる。更に、把持部1に図示しない構造体挿入部を作製し、接着剤にて光透過性支持体3を接続することができる。接着剤としては様々なものが使用できるが、低温に強いシリコン系やフッ素系の接着剤を好適に用いることができる。
図2は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の一例であり、詳細には、図1中の載置部2として、載置部表面側の全面が粗面化された光透過性支持体3aと、接着層5を介して保存液吸収層4が貼合された載置部2aの、図1中A-A’間における断面構造を示した図である。光透過性支持体3aと保存液吸収層4の間に空隙部7が存在する。かかる構造を有する載置部2aを得るためには、該光透過性支持体3a上の一部にマスキングを施した状態で、溶融させたホットメルト樹脂接着剤をコーター塗布することで接着層5を形成し、エイジングにより接着層5の流動性が低くなった段階でマスキングテープを剥離し、その上から保存液吸収層4を貼合する方法を例示することができる。
図3は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の別の一例であり、詳細には、図1中の載置部2として、載置部表面側の一部(載置部のみ)が粗面化された光透過性支持体3bと、接着層5を介して保存液吸収層4が貼合された載置部2bの図1中A-A’間における断面構造を示した図である。光透過性支持体3bと保存液吸収層4の間に空隙部7が存在する。かかる構造を有する載置部2bを得るためには、該光透過性支持体3b上の粗面化部にマスキングを施した状態で、溶融させたホットメルト樹脂接着剤をコーター塗布することで接着層5を形成し、エイジングにより接着層5の流動性が低くなった段階でマスキングテープを剥離し、その上から保存液吸収層4を貼合する方法を例示することができる。
図4は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例であり、詳細には、図1中の載置部2として、表裏全面が粗面化された光透過性支持体3cと、接着層5を介して保存液吸収層4が貼合された載置部2cの図1中A-A’間における断面構造を示した図である。光透過性支持体3cと保存液吸収層4の間に空隙部7が存在する。かかる構造を有する載置部2cを得るためには、該光透過性支持体3c上の一部にマスキングを施した状態で、溶融させたホットメルト樹脂接着剤をコーター塗布することで接着層5を形成し、エイジングにより接着層5の流動性が低くなった段階でマスキングテープを剥離し、その上から保存液吸収層4を貼合する方法を例示することができる。
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(株)きもと製のセミマットコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N30(厚み190μm、全光線透過率90.0%、ヘイズ値32.2%)のコーティング面に、(株)寺岡製作所製のマスキングテープ(厚み55μm)を用いて、凍結保存用治具の載置部に相当する部分にマスキングを施し、マスキング後のポリエチレンテレフタレートフィルムに、接着層として、ヘンケルジャパン(株)製のホットメルトウレタン樹脂Purmelt(登録商標)QR 170-7141Pを、乾燥時の固形分量が30g/m2となるように塗布した。接着層塗布後、マスキングテープを剥離し、接着層が完全に硬化する前に、保存液吸収層としてアドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)を貼り合わせた。これにより、前記したマスキングテープを剥離した箇所に空隙部が形成されている。得られたポリエチレンテレフタレートフィルム-ポリテトラフルオロエチレン多孔体貼合体を室温で24時間エイジングし、接着層の硬化を促した。得られた貼合体(保存液吸収体)を、短辺1.5mm×長辺25.0mmの長方形に裁断し、ABS樹脂製の把持部と接合させ、実施例1の凍結保存用治具を作製した。なお、実施例1において載置部は、上記した保存液吸収体のうち、短辺1.5×長辺5.0mmの範囲であり、保存液吸収体の先端部周辺に位置する。実施例1の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、(株)東京精密製のサーフコム1400Dにより測定したところ、その値は、0.321μmであった。
(株)きもと製のセミマットコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N30(厚み190μm、全光線透過率90.0%、ヘイズ値32.2%)のコーティング面に、(株)寺岡製作所製のマスキングテープ(厚み55μm)を用いて、凍結保存用治具の載置部に相当する部分にマスキングを施し、マスキング後のポリエチレンテレフタレートフィルムに、接着層として、ヘンケルジャパン(株)製のホットメルトウレタン樹脂Purmelt(登録商標)QR 170-7141Pを、乾燥時の固形分量が30g/m2となるように塗布した。接着層塗布後、マスキングテープを剥離し、接着層が完全に硬化する前に、保存液吸収層としてアドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)を貼り合わせた。これにより、前記したマスキングテープを剥離した箇所に空隙部が形成されている。得られたポリエチレンテレフタレートフィルム-ポリテトラフルオロエチレン多孔体貼合体を室温で24時間エイジングし、接着層の硬化を促した。得られた貼合体(保存液吸収体)を、短辺1.5mm×長辺25.0mmの長方形に裁断し、ABS樹脂製の把持部と接合させ、実施例1の凍結保存用治具を作製した。なお、実施例1において載置部は、上記した保存液吸収体のうち、短辺1.5×長辺5.0mmの範囲であり、保存液吸収体の先端部周辺に位置する。実施例1の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、(株)東京精密製のサーフコム1400Dにより測定したところ、その値は、0.321μmであった。
(実施例2)
(株)きもと製のマットコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N60A(厚み200μm、全光線透過率91.0%、ヘイズ値52.9%)を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の凍結保存用治具を作製した。なお、実施例2の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.753μmであった。
(株)きもと製のマットコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N60A(厚み200μm、全光線透過率91.0%、ヘイズ値52.9%)を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の凍結保存用治具を作製した。なお、実施例2の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.753μmであった。
(比較例1)
(株)きもと製のノングレアコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N10(厚み197μm、全光線透過率90.5%、ヘイズ値9.6%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例1の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例1の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.266μmであった。
(株)きもと製のノングレアコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N10(厚み197μm、全光線透過率90.5%、ヘイズ値9.6%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例1の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例1の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.266μmであった。
(比較例2)
(株)きもと製のノングレアコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N05S(厚み198μm、全光線透過率89.5%、ヘイズ値5.0%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例2の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.195μmであった。
(株)きもと製のノングレアコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム N05S(厚み198μm、全光線透過率89.5%、ヘイズ値5.0%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例2の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.195μmであった。
(比較例3)
(株)きもと製のハードコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム 188G01H(厚み200μm、全光線透過率92.0%、ヘイズ値4.8%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例3の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例3の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.033μmであった。
(株)きもと製のハードコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム 188G01H(厚み200μm、全光線透過率92.0%、ヘイズ値4.8%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例3の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例3の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.033μmであった。
(比較例4)
(株)きもと製の微マットハードコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム 188CSB(厚み197μm、全光線透過率91.3%、ヘイズ値1.2%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例4の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例4の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.019μmであった。
(株)きもと製の微マットハードコーティングが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、KBフィルム 188CSB(厚み197μm、全光線透過率91.3%、ヘイズ値1.2%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例4の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例4の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.019μmであった。
(比較例5)
東レ(株)製の易接着処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、ルミラー(登録商標)U35(厚み187μm、全光線透過率93.0%、ヘイズ値0.4%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例5の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例5の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.004μmであった。
東レ(株)製の易接着処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムである、ルミラー(登録商標)U35(厚み187μm、全光線透過率93.0%、ヘイズ値0.4%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例5の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例5の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.004μmであった。
(比較例6)
住友化学(株)製のメタクリル樹脂フィルムである、テクノロイ(登録商標)S001(厚み126μm、全光線透過率92.3%、ヘイズ値0.5%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例6の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例6の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.018μmであった。
住友化学(株)製のメタクリル樹脂フィルムである、テクノロイ(登録商標)S001(厚み126μm、全光線透過率92.3%、ヘイズ値0.5%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例6の凍結保存用治具を作製した。なお、比較例6の凍結保存用治具の作製に使用した光透過性支持体の保存液吸収層を設ける側の面の算術平均粗さ(Ra)を、実施例1同様に測定したところ、その値は、0.018μmであった。
<保存液吸収速度の評価>
保存液として、細胞または組織のガラス化保存のために一般的に用いられている、Irvine Scientific社製Vit Kitガラス化液を使用し、実体顕微鏡観察下で、実施例1~2、および比較例1~6の凍結保存用治具が有する保存液吸収体の載置部上に、上記したガラス化液0.2μlをマイクロピペットにより滴下した。滴下したガラス化液が保存液吸収体に完全に浸透するまでの時間を測定し、以下の基準により評価した。なお、滴下したガラス化液が保存液吸収体に完全に浸透するまでの時間が10秒以内であれば、保存液吸収体における保存液の局所的な飽和が起きていないと判断できる。
保存液として、細胞または組織のガラス化保存のために一般的に用いられている、Irvine Scientific社製Vit Kitガラス化液を使用し、実体顕微鏡観察下で、実施例1~2、および比較例1~6の凍結保存用治具が有する保存液吸収体の載置部上に、上記したガラス化液0.2μlをマイクロピペットにより滴下した。滴下したガラス化液が保存液吸収体に完全に浸透するまでの時間を測定し、以下の基準により評価した。なお、滴下したガラス化液が保存液吸収体に完全に浸透するまでの時間が10秒以内であれば、保存液吸収体における保存液の局所的な飽和が起きていないと判断できる。
<保存液吸収速度の評価基準>
○:保存液吸収体にガラス化液が10秒以内に浸透した。
×:保存液吸収体にガラス化液が10秒以内に浸透しなかった。
○:保存液吸収体にガラス化液が10秒以内に浸透した。
×:保存液吸収体にガラス化液が10秒以内に浸透しなかった。
表1の結果から、本発明の凍結保存用治具は、細胞または組織の凍結操作の際、保存液の局所的な飽和を防ぎ、細胞または組織の周囲に存在する余分な保存液を迅速に除去することが可能な凍結保存用治具であることがわかる。
本発明は、牛などの家畜や動物の胚移植や人工授精、人への人工授精などの他、iPS細胞、ES細胞、一般に用いられている培養細胞、生体から採取した検査用または移植用の細胞または組織、生体外で培養した細胞または組織などの凍結保存に用いることができる。
1 把持部
2、2a~2c 載置部
3、3a~3c 光透過性支持体
4 保存液吸収層
5 接着層
6 保存液吸収体
7 空隙部
8 凍結保存用治具
2、2a~2c 載置部
3、3a~3c 光透過性支持体
4 保存液吸収層
5 接着層
6 保存液吸収体
7 空隙部
8 凍結保存用治具
Claims (1)
- 光透過性支持体上に接着層と、該接着層上に保存液吸収層が積層された保存液吸収体を有する凍結保存用治具であって、細胞または組織が保存液とともに載置される保存液吸収体の載置部は接着層の存在しない空隙部を有し、かつ該載置部において、光透過性支持体の空隙部側の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm以上であることを特徴とする凍結保存用治具。
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JP2016010359A (ja) | 2014-06-30 | 2016-01-21 | 三菱製紙株式会社 | 細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具 |
WO2016063806A1 (ja) | 2014-10-23 | 2016-04-28 | 三菱製紙株式会社 | 細胞又は組織の凍結保存用治具および凍結保存方法 |
WO2018230477A1 (ja) | 2017-06-12 | 2018-12-20 | 三菱製紙株式会社 | 細胞又は組織の凍結保存用治具 |
-
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- 2018-12-28 JP JP2018247799A patent/JP7030680B2/ja active Active
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WO2016063806A1 (ja) | 2014-10-23 | 2016-04-28 | 三菱製紙株式会社 | 細胞又は組織の凍結保存用治具および凍結保存方法 |
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Non-Patent Citations (1)
Title |
---|
Momozawa, Kenji, et al. ,Efficient vitrification of mouse embryos using the Kitasato Vitrification System as a novel vitrification device,Reproductive Biology and Endocrinology,2017年,Vol. 15, No. 29,pp. 1-9,https://doi.org/10.1186/s12958-017-0249-2 |
Also Published As
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