以下に、ニッケル複合水酸化物、及びニッケル複合水酸化物の製造方法の一構成例について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明に係る実施の形態の説明は、以下の順序で行う。
1.ニッケル複合水酸化物
2.ニッケル複合水酸化物の製造方法
3.非水系電解質二次電池用正極活物質
4.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
5.非水系電解質二次電池
1.ニッケル複合水酸化物
本実施形態のニッケル複合水酸化物は、一般式Ni1−x−yCoxAly(OH)2+α(0.05≦x≦0.35、0.01≦y≦0.2、x+y<0.4、−0.2≦α≦0.2)で表すことができる。そして、硫酸根の含有量が0.4質量%以下、かつ塩素の含有量が0.05質量%以下であることが好ましい。
また、本実施形態のニッケル複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された球状の二次粒子を含有し、該二次粒子は、平均粒径が3μm以上20μm以下であり、二次粒子は、粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55より大きく1.20以下であることが好ましい。
[ニッケル複合水酸化物の組成]
本実施形態のニッケル複合水酸化物は、一般式Ni1−x−yCoxAly(OH)2+α(0.05≦x≦0.35、0.01≦y≦0.2、x+y<0.4、−0.2≦α≦0.2)で表される組成を有することができる。
上記一般式においてコバルト含有量を示すxは、0.05≦x≦0.35である。コバルトを適度に含有することで、該ニッケル複合水酸化物から得られる非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)を用いた非水系電解質二次電池(以下、単に「電池」とも記載する)のサイクル特性や充放電に伴うLiの脱挿入による結晶格子の膨張収縮挙動を低減できる。
コバルト含有量xが0.05以上の場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質について、上述の効果を十分に発揮することができるため好ましい。ただし、コバルト含有量が多すぎてxが0.35を超えると、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を用いた電池の初期放電容量の低下が大きくなる場合があり、さらにコスト面で不利となる問題もある。
このため、本実施形態のニッケル複合水酸化物のコバルト含有量を示すxは、0.05≦x≦0.35であることが好ましく、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を用いた電池の電池特性やコストをより考慮すると、0.07≦x≦0.25であることがより好ましく、0.10≦x≦0.20であることがさらに好ましい。
上記一般式において、アルミニウム含有量を示すyは、0.01≦y≦0.2であり、0.01≦y≦0.1であることが好ましい。アルミニウムの含有量が上記範囲の場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を用いた電池の耐久性や安全性を向上させることができる。
特に、アルミニウムは、ニッケル複合水酸化物の粒子の内部に均一に分布していることが好ましい。アルミニウムがニッケル複合水酸化物の粒子の内部に均一に分布している場合、アルミニウムの分布の均一性が低い場合と比較して、同じアルミニウム含有量でより大きな効果が得られ、該ニッケル複合水酸化物から得られた正極活物質を用いた電池について、電池容量の低下を抑制できるという利点がある。
上述のように、アルミニウム含有量yを0.01以上とすることで、上述の効果を特に十分に得ることができるため、好ましい。また、アルミニウム含有量yが0.2以下の場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を電池の正極材料に用いた場合に、該正極活物質は、該電池おける酸化還元反応に貢献する金属元素を特に十分に含有しているため、電池容量を特に高くすることができ、好ましいからである。このため、上述のようにアルミ含有量を示すyは0.01≦y≦0.2であることが好ましい。
更に、コバルト含有量xとアルミニウム含有量yとの合計の原子比は、x+y<0.4とすることができる。コバルト含有量とアルミニウム含有量との合計の原子比が0.4以上の場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を用いた電池の容量が低下する場合があるからである。
本実施形態のニッケル複合水酸化物の組成の分析方法は、特に限定されないが、ICP発光分光法による化学分析を用いて求めることができる。
[粒子構造]
本実施形態のニッケル複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された球状の二次粒子を含有することができ、係る球状の二次粒子により構成することもできる。二次粒子を構成する一次粒子の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば板状、針状、直方体状、楕円状、菱面体状などのさまざまな形態を採りうる。特に、二次粒子を構成する一次粒子は板状形状および針状形状から選択された1種類以上の形状を有することが好ましい。また、二次粒子を構成する複数の一次粒子の凝集状態も特に限定されるものではなく、ランダムな方向に凝集する形態のほか、中心から放射状に一次粒子の長径方向に凝集する形態等であってもよい。
凝集状態としては、板状形状および針状形状から選択された1種類以上の形状の一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成していることが好ましい。これは、このような構造の場合、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じており、正極活物質を形成するためにリチウム化合物と混合して焼成する際に、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われるからである。
なお、一次粒子及び二次粒子の形状観察方法は特に限定されないが、ニッケル複合水酸化物の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって観察できる。
[平均粒径]
本実施形態のニッケル複合水酸化物は、含有する二次粒子の平均粒径が3μm以上20μm以下であることが好ましい。これは、含有する二次粒子の平均粒径が3μm以上の場合、該ニッケル複合水酸化物から正極活物質を生成し、正極としたときに粒子の充填密度を十分に高くすることができ、単位体積あたりの電池容量を高くできるためである。一方、本実施形態のニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子の平均粒径を20μm以下とすることで、該ニッケル複合水酸化物から生成した正極活物質の比表面積を十分に高くすることができる。このため、該正極活物質を電池の正極に用いることで、正極活物質と電池の電解液との界面を十分に確保することができ、反応抵抗を抑制し、電池の出力特性を高めることができ、好ましいからである。したがって、ニッケル複合水酸化物は、含有する二次粒子の平均粒径が3μm以上20μm以上であることが好ましい。
特に本実施形態のニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子の平均粒径が7μm以上15μm以下の場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を正極に用いた電池では、単位体積あたりの電池容量を特に大きくすることができ、電池の出力特性を特に良好にすることができるため、より好ましい。
平均粒径の測定方法は、特に限定されないが、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
[不純物含有量]
ニッケル複合水酸化物は製造工程等に起因し、硫酸根や塩素が不純物として含有されているのが通常である。硫酸根や塩素は、例えば、後述する晶析工程で用いた原料に由来する。
一方、本実施形態のニッケル複合水酸化物は、硫酸根含有量が0.4質量%以下であり、0.3質量%以下であることが好ましい。さらに、本実施形態のニッケル複合水酸化物は、塩素含有量が0.05質量%以下であり、0.03質量%以下であることが好ましい。
これは、ニッケル複合水酸化物中の硫酸根含有量を0.4質量%以下とすることで、正極活物質を生成するため、該ニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成する際に、リチウムとニッケル複合水酸化物との反応が阻害されることなく進行することができるからである。また、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物との反応により得られる正極活物質である、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を十分に高いものとすることができるからである。
また、ニッケル複合水酸化物中の塩素含有量を0.05質量%以下とすることで、正極活物質を生成するため、該ニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成する際に、リチウムとニッケル複合水酸化物との反応が阻害されることなく進行することができるからである。また、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物との反応により得られる正極活物質である、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を十分に高いものとすることができるからである。
そして、結晶性の高いリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用い、電池を構成した際、固相内でLi拡散が十分に促進され、電池容量を高くすることができる。
また、ニッケル複合水酸化物に含まれる不純物は、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを混合し焼成することで得られるリチウムニッケル複合酸化物中にも残留する。これら不純物は、充放電反応に寄与しないため、電池を構成する際、正極材料の不可逆容量に相当する分、負極材料を余計に電池に使用せざるを得ない。その結果、電池全体としての単位重量当たり及び単位体積当たりの容量が小さくなる。また、不可逆容量として負極に蓄積される余分なリチウムは安全性を高める観点から抑制することが好ましい。このため、単位重量あたり、または単位体積当たりの電池容量を大きくする観点や、安全性を高める観点からも本実施形態のニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量は0.4質量%以下であることが好ましく、また塩素含有量は0.05質量%以下であることが好ましい。
さらに、ニッケル複合水酸化物中の塩素は、該ニッケル複合水酸化物から正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物を製造した場合に、主にLiClやNaClの形態でリチウムニッケル複合酸化物中に残留する。そして、LiClやNaClは吸湿性が高いため、該正極活物質を電池に用いた場合、電池内部に水分を持ち込む要因となり、さらには電池の劣化の原因となる。このため、本実施形態のニッケル複合水酸化物中の塩素含有量は0.05質量%以下であることが好ましい。
また、本実施形態のニッケル複合水酸化物は、硫酸根、及び塩素の含有量を均一に低く抑制したニッケル複合水酸化物とすることができる。このため、本実施形態のニッケル複合水酸化物を複数箇所でサンプリングした場合に、全ての箇所で硫酸根含有量、塩素含有量が既述の範囲を充足することが好ましい、また、該複数箇所でサンプリングし、評価を行った場合に、硫酸根含有量、及び塩素含有量のばらつきが、それぞれ±20%以下であることが好ましい。
なお、ニッケル複合水酸化物を複数箇所でサンプリングし、硫酸根、及び塩素の含有量を評価する場合に、そのサンプリング箇所の数は特に限定されないが、例えば2か所以上10か所以下でサンプリングを行うことが好ましい。
[粒度分布]
本実施形態のニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子は、粒子の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55より大きく1.20以下であることが好ましい。
本実施形態のニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を電池の正極材料として用いる場合、該正極活物質の粒度分布は一定の拡がりを有することが好ましい。これは正極活物質の粒度分布が一定の拡がりを有する場合、該正極活物質を用いて作製した電池の極板は、極板当たりの粒子密度を十分に確保することができ、電池の単位重量当たり、もしくは単位体積当たりの電池容量を高くすることができるからである。
ここで、本発明の発明者らの検討によれば、正極活物質と、該正極活物質の原料となるニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子とは、同様の粒度分布の拡がりを有している。そして、ニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55より大きい場合、該ニッケル複合水酸化物から生成した正極活物質を用いた電池の極板において、極板当りの粒子密度を十分に高くすることができるため好ましい。
ただし、〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.20より大きい場合は、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粒子(大径粒子)が過度に多く存在することになる。係るニッケル複合水酸化物から生成した正極活物質を用いた場合、単位重量当たり、あるいは単位体積当たりの電池容量を高くすることは可能である。
しかし、微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、微粒子が選択的に劣化し、サイクル特性が悪化する恐れがあるため好ましくない。一方、大径粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず反応抵抗の増加による電池出力が低下する恐れがあるため好ましくない。
したがって、本実施形態のニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子は、粒子の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55より大きく1.20以下であることが好ましい。本実施形態のニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子が、係る粒度分布を有する場合、該ニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質を用いた電池について、単位重量当たり、あるいは単位体積当たりの電池容量を高くすることができ、かつサイクル特性や電池出力を高くできるため、好ましい。
なお、粒度分布の拡がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。なお、本明細書の他の部分における平均粒径や、d90、d10についても同様にして求めることができる。
本実施形態のニッケル複合水酸化物によれば、硫酸根、及び塩素の含有量を均一に低く抑制することができる。このため、該ニッケル複合水酸化物から得られた正極活物質を用いて非水系電解質二次電池を作製した場合、該電池は電池容量が大きく、安全性も優れた電池とすることができる。このため、本実施形態のニッケル複合水酸化物は、電気エネルギーのみで駆動する電気自動車用の電池材料、あるいはコンセントから差込プラグを用いて直接バッテリーに充電できるプラグインハイブリッド自動車用の非水系電解質二次電池の、正極活物質の前駆体として好適に用いることができる。
2.ニッケル複合水酸化物の製造方法
本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法の一構成例について説明する。なお、本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法により、既述のニッケル複合水酸化物を製造することができるため、重複する説明は一部省略する。
本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法は、以下の工程を有することができる。
ニッケル複合水酸化物スラリーを圧搾手段内に供給配管を介して供給する供給工程。
前記ニッケル複合水酸化物スラリーを圧搾手段によりろ過し、ニッケル複合水酸化物ケーキとするろ過工程。
ニッケル複合水酸化物ケーキを、圧搾手段内で洗浄する洗浄工程。
そして、上記洗浄工程は、さらに以下のステップを有することができる。
ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾手段により圧搾した状態で、圧搾手段に接続された洗浄液配管を介して、ニッケル複合水酸化物ケーキにアルカリ性の液体を供給し、ニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄する第1洗浄ステップ。
ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾していない状態で、供給配管を介して圧搾手段内にアルカリ性の液体を供給し、その後ニッケル複合水酸化物ケーキを再圧搾する第2洗浄ステップ。
以下、各工程について説明する。
[供給工程、ろ過工程]
各種方法により得られた、ニッケル複合水酸化物は不純物を含有していることから、ろ過工程、および後述する洗浄工程を実施し、不純物を除去することができる。
ニッケル複合水酸化物を洗浄する方法としては、例えばアルカリ性の液体にニッケル複合水酸化物を添加し、スラリー化して洗浄した後、ろ過する方法が考えられる。また、共沈工程より生成したニッケル複合水酸化物を含むスラリーをろ過機に供給し、ケーキとした後、ケーキを別の洗浄手段に搬送し、洗浄する方法なども考えられる。
しかし、ろ過と洗浄とを同一の設備で連続的に行うことが可能である圧搾手段を用いてろ過、洗浄を実施することが好ましい。このため、供給工程では圧搾手段内に、該圧搾手段に接続された供給配管を介してニッケル複合水酸化物スラリーを供給する工程とすることが好ましい。
そして、ろ過工程では、圧搾手段内に供給されたニッケル複合水酸化物スラリーを圧搾手段によりろ過し、ニッケル複合水酸化物ケーキとすることができる。
なお、圧搾手段としては、上述のようにニッケル複合水酸化物スラリーについて、ろ過と洗浄とを実施できる手段であれば良く、特に限定されるものではない。ろ過と洗浄とを実施できる圧搾手段としては、例えばフィルタープレス、ベルトフィルター等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
[洗浄工程]
洗浄工程は、以下の第1洗浄ステップと、第2洗浄ステップとの2つの洗浄ステップを有することができる。以下に各ステップについて具体的に説明する。
(第1洗浄ステップ)
第1洗浄ステップでは、既述のろ過工程の後、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾手段により圧搾した状態で、圧搾手段に接続された洗浄液配管を介して、ニッケル複合水酸化物ケーキに洗浄液としてアルカリ性の液体を供給し、ニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄することができる。
ろ過されたニッケル複合水酸化物ケーキに圧搾圧がかかった状態で洗浄液であるアルカリ性の液体を通水すると、洗浄液がケーキに均一に通液され、洗浄効率が高められると共に、より少ない洗浄液量でニッケル複合水酸化物中の不純物量を均一に、目的の濃度まで低減できる。
第1洗浄ステップで用いる洗浄液としては、アルカリ性の液体を好ましく用いることができる。洗浄液として用いるアルカリ性の液体としては特に限定されないが、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種の水溶液であることが好ましい。
また、アルカリ性の液体の濃度についても特に限定されるものではないが、例えば下限値は、0.10mol/L以上であることが好ましく、0.15mol/L以上であることがより好ましく、0.20mol/L以上であることがさらに好ましい。また、上限値は、2.00mol/L以下であることが好ましく、1.50mol/L以下であることがより好ましい。
洗浄液として、濃度が0.10mol/L以上のアルカリ性の液体を用いることで、ニッケル複合水酸化物の粒子中の不純物、特に硫酸根や塩素などを、洗浄液中に含まれるイオンのイオン交換作用により、効率よく除去することができ、好ましいからである。ただし、濃度が2.00mol/Lを超えてもニッケル複合水酸化物の粒子中の不純物を除去する効果に大きな差が生じないことから、2.00mol/L以下であることが好ましい。
洗浄液として用いるアルカリ性の液体の液温(水温)についても特に限定されないが、例えば15℃以上50℃以下であることが好ましい。洗浄液の液温が上記範囲にあることにより、イオン交換反応が活発となり不純物除去が効率的に進むからである。
第1洗浄ステップにおいて洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量についても特に限定されるものではないが、例えばニッケル複合水酸化物1000gに対して1000mL以上であることが好ましく、2000mL以上であることがより好ましい。第1洗浄ステップにおいて洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量の上限値についても特に限定されないが、例えばニッケル複合水酸化物1000gに対して5000mL以下であることが好ましい。
これは、第1洗浄ステップにおいて、洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量を、ニッケル複合水酸化物1000gに対して1000mL以上とすることで、ニッケル複合水酸化物に含まれる不純物イオンを十分に除去することができるからである。また、ニッケル複合水酸化物1000gに対して5000mLよりも多くアルカリ性の液体を供給しても、不純物除去についてあまり効果に違いが見られないからである。
第1洗浄ステップにおいて、洗浄液として用いるアルカリ性の液体を供給し、洗浄する時間についても特に限定されるものではないが、例えば0.2時間以上1時間以下とすることができる。
第1洗浄ステップでは、洗浄液としてアルカリ性の液体を用いた洗浄後、必要に応じて洗浄液を純水に切り替えて、純水による洗浄を行うことが好ましい。これは、洗浄液として用いたアルカリ性の液体由来のナトリウムなどのカチオン不純物を除去するためである。純水により洗浄する方法は特に限定されないが、例えば洗浄液としてアルカリ性の液体を用いた通水洗浄後に、洗浄液を純水に切り替えて、純水による通水洗浄を連続的に行うことが好ましい。すなわち、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾手段により圧搾した状態で、圧搾手段に接続された洗浄液配管を介してニッケル複合水酸化物ケーキに純水を供給し、ニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄することができる。
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾する際の圧搾圧は、次ステップの第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキを再圧搾する際の再圧搾圧よりも低いことが好ましい。これは、第1洗浄ステップにおける圧搾圧が、第2洗浄ステップにおける再圧搾圧よりも高いと、ケーキが局所的に圧密になる部分ができ、洗浄液が流れにくくなる場合があるためである。
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾する際の圧搾圧は特に限定されないが、例えば0.2MPa以上0.5MPa以下であることが好ましい。
これは第1洗浄ステップにおける圧搾圧を0.2MPa以上とすることで、ニッケル複合水酸化物ケーキを全体に十分に圧搾することができ、イオン交換を行うことで不純物を含んだ洗浄液をニッケル複合水酸化物ケーキ内から十分に除去し、不純物量を十分に低減できるからである。一方、第1洗浄ステップにおける圧搾圧が高くなりすぎると、ニッケル複合水酸化物ケーキが圧搾されすぎて洗浄液が流れにくくなる部分が生じる恐れがあるが、圧搾圧を0.5MPa以下とした場合、洗浄液が確実にニッケル複合水酸化物ケーキ全体に行き渡り、特に均一に洗浄できるため好ましい。
なお、洗浄液による洗浄後、既述のように純水でニッケル複合水酸化物ケーキの洗浄を行う場合にも、ニッケル複合水酸化物ケーキは圧搾されていることが好ましい。そして、純水でニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄する際の圧搾圧についても特に限定されないが、上述の場合と同様の理由から、0.2MPa以上0.5MPa以下であることが好ましい。
(第2洗浄ステップ)
圧搾手段は通常、洗浄液を供給するための洗浄液配管と、該圧搾手段に対して被圧搾物を供給するための供給配管と、さらには圧搾した液を外部に排出する排水配管とが接続されている。
そして、圧搾手段により洗浄を行う場合、洗浄液は洗浄液配管のみから供給し、洗浄を行うのが一般的である。すなわち、第1洗浄ステップのように洗浄液配管のみから洗浄液を供給し、洗浄を実施するのが一般的である。
しかしながら、本発明の発明者らの検討によると、第1洗浄ステップに加えて、第2洗浄ステップを実施し、該第2洗浄ステップでは、洗浄液配管とは別の配管である供給配管から洗浄液を供給することで、ニッケル複合水酸化物ケーキ内の不純物を大幅に、かつ均一に低減できることを見出した。
本発明の発明者らの検討によると、供給配管内や、供給配管出口近傍のニッケル複合水酸化物ケーキは、洗浄液配管から洗浄液を供給したのでは洗浄されにくい。このため、既述の第1洗浄ステップを実施するだけでは、一部に十分に洗浄されていないニッケル複合水酸化物ケーキが混入する恐れがあった。そこで、第2洗浄ステップを実施し、該第2洗浄ステップでは供給配管から洗浄液を供給することで、供給配管や、その出口近傍のニッケル複合水酸化物ケーキも十分に洗浄することが可能になり、ニッケル複合水酸化物ケーキ内の不純物濃度を大幅に、かつ均一に低減することができる。
第2洗浄ステップで用いる洗浄液としては、アルカリ性の液体を好ましく用いることができる。洗浄液として用いるアルカリ性の液体としては特に限定されないが、第1洗浄ステップで好適に用いることができるアルカリ性の液体として説明したものを、好ましく用いることができる。
また、アルカリ性の液体の濃度についても特に限定されるものではないが、例えば下限値は、0.10mol/L以上であることが好ましく、0.15mol/L以上であることがより好ましく、0.20mol/L以上であることがさらに好ましい。また、上限値は、2.00mol/L以下であることが好ましく、1.50mol/L以下であることがより好ましい。
洗浄液として、濃度が0.10mol/L以上のアルカリ性の液体を用いることで、ニッケル複合水酸化物の粒子中の不純物、特に硫酸根や塩素などを、洗浄液中に含まれるイオンのイオン交換作用により、効率よく除去することができる好ましいからである。ただし、濃度が2.00mol/Lを超えてもニッケル複合水酸化物の粒子中の不純物を除去する効果に大きな差が生じないことから、2.00mol/L以下であることが好ましい。
洗浄液として用いるアルカリ性の液体の液温(水温)についても特に限定されないが、例えば15℃以上50℃以下であることが好ましい。洗浄液の液温が上記範囲にあることにより、イオン交換反応が活発となり不純物除去が効率的に進むからである。
第2洗浄ステップにおいて洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量についても特に限定されるものではないが、例えばニッケル複合水酸化物1000gに対して150mL以上であることが好ましく、250mL以上であることがより好ましい。第2洗浄ステップにおいて洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量の上限値についても特に限定されないが、例えばニッケル複合水酸化物1000gに対して5000mL以下であることが好ましい。
これは、第2洗浄ステップにおいて、洗浄液として用いるアルカリ性の液体の供給量を、ニッケル複合水酸化物1000gに対して150mL以上とすることで、ニッケル複合水酸化物に含まれる不純物イオンを十分に除去することができるからである。また、ニッケル複合水酸化物1000gに対して5000mLよりも多くアルカリ性の液体を供給しても、不純物除去についてあまり効果に違いが見られないからである。
なお、第1洗浄ステップで洗浄液として用いるアルカリ性の液体と、第2洗浄ステップで洗浄液として用いるアルカリ性の液体とは同じであってもよいが、異なっていてもよい。ただし、洗浄液に由来する異なる種類のカチオンがニッケル複合水酸化物ケーキ内に残存することを避けるため、第1洗浄ステップと、第2洗浄ステップとで、洗浄液として同じアルカリ性の液体を用いることが好ましい。
第2洗浄ステップにおいて、洗浄液であるアルカリ性の液体を供給し、洗浄する時間についても特に限定されないが、例えば0.05時間以上1時間以下とすることができる。
第2洗浄ステップにおいても、第1洗浄ステップで説明したように、洗浄液としてアルカリ性の液体を用いた洗浄後、必要に応じて洗浄液を純水に切り替えて、純水による洗浄を行うことが好ましい。これは、洗浄液として用いたアルカリ性の液体由来のナトリウムなどのカチオン不純物を除去するためである。純水により洗浄する方法は特に限定されないが、例えば洗浄液としてアルカリ性の液体を用いた通水洗浄後に、洗浄液を純水に切り替えて、純水による通水洗浄を連続的に行うことが好ましい。すなわち、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾していない状態で、圧搾手段に接続された供給配管を介してニッケル複合水酸化物ケーキに純水を供給し、ニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄することができる。
そして、第2洗浄ステップでは、アルカリ性の液体、またはさらに純水を通液した後にニッケル複合水酸化物ケーキを再圧搾することが好ましい。再圧搾により、ニッケル複合水酸化物ケーキに残存するカチオン不純物などを水分と共に除去することができ、ニッケル複合水酸化物ケーキ中の不純物量をさらに低減することができる。また、ニッケル複合水酸化物ケーキの含水率を下げることによって、例えば第2洗浄ステップの後に乾燥工程等を実施する際に、用いる熱風の使用量を低減できるためである。
第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキを再圧搾する際の再圧搾圧は特に限定されないが、例えば0.25MPa以上0.8MPa以下であることが好ましい。これは、再圧搾圧を0.25MPa以上とすることで、ニッケル複合水酸化物ケーキを十分に再圧搾することができ、ニッケル複合水酸化物ケーキから、不純物を含む洗浄液や、洗浄水を十分に除去できるからである。また、後述するように、例えば第2洗浄ステップの後に乾燥工程等を実施する際に容易にケーキの乾燥を行うことができ、その際にも不純物を含んだ洗浄液や洗浄水を十分に除去できるため、不純物濃度を特に低減することができるからである。
ただし、0.8MPaを超えると圧搾ゴムや、ろ布にかかる圧力が高くなり、ろ布の破れ等を生じる恐れがあるため、再圧搾圧は0.8MPa以下とすることが好ましい。
なお、洗浄工程終了後において、得られたニッケル複合水酸化物ケーキを乾燥工程等に供した場合に、乾燥を効率的に実施するために、また、圧搾手段から容易に回収できるように該ニッケル複合水酸化物ケーキは、含水率が10%以上30%以下となるように脱水されていることが好ましい。
本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法は、上述の供給工程、ろ過工程、洗浄工程に加えて任意の工程を有することもできる。
例えばニッケル複合水酸化物を製造する共沈工程を有することができる。
共沈工程の構成例について、以下に説明する。
[共沈工程]
共沈工程では、既述の供給工程で、圧搾手段に供給するニッケル複合水酸化物スラリーを生成することができる。
共沈工程は、例えば以下のステップを有することができる。
ニッケル及びコバルトを含むNi/Co含有混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、アルミニウム源とを含む初期水溶液を反応槽内に用意する初期水溶液準備ステップ。
そして、初期水溶液にアルカリ性溶液、Ni/Co含有混合水溶液、アンモニウムイオン供給体、アルミニウム源などを連続的に供給し、混合水溶液を形成するアルカリ性溶液供給ステップ。
なお、アルカリ性溶液供給ステップでは、液温25℃を基準として測定する混合水溶液のpH値を11.0以上12.8以下になるように制御することが好ましい。
アルカリ性溶液供給ステップでは、反応槽内に既述のニッケル複合水酸化物の一般式の原子比となるようにニッケル複合水酸化物を共沈殿させることができ、反応槽からオーバーフローさせることによりニッケル複合水酸化物を回収することができる。
共沈工程では、核生成反応と粒子成長反応とが同じ反応槽内において同時に進行するため、得られるニッケル複合水酸化物の粒度分布を広範囲とすることができる。
以下、各ステップについて説明する。
(初期水溶液準備ステップ)
上記共沈工程の初期水溶液準備ステップでは、ニッケル及びコバルトを含むNi/Co含有混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、アルミニウム源とを含む初期水溶液を反応槽内に用意することができる。以下、初期水溶液に含まれる各成分について説明する。
(1)Ni/Co含有混合水溶液
ニッケル及びコバルトを含むNi/Co含有混合水溶液に用いられる、ニッケル塩、コバルト塩などの塩としては、水溶性の化合物であれば特に限定するものではないが、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などを使用することができる。例えば、硫酸ニッケルや、硫酸コバルト等を好ましく用いることができる。
Ni/Co含有混合水溶液の金属塩の濃度は、金属塩の合計で1mol/L以上2.6mol/L以下とすることが好ましく、1mol/L以上2.2mol/L以下とすることがより好ましい。これは、Ni/Co含有混合水溶液の金属塩濃度を1mol/L以上とすることで、得られるニッケル複合水酸化物スラリーのスラリー濃度を十分に高くすることができるため、生産性良くニッケル複合水酸化物を生成できるからである。ただし、Ni/Co含有混合水溶液の金属塩濃度が2.6mol/Lを超えると、−5℃以下で結晶析出や凍結が起こり、設備の配管を詰まらせる恐れがあり、配管の保温もしくは加温を行う必要があり、コストがかかるため、好ましくない。
さらに、Ni/Co含有混合水溶液を反応槽に供給する量は特に限定されないが、例えば晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が、30g/L以上250g/L以下となるように調整することが好ましく、晶析物濃度が80g/L以上150g/L以下になるように調整することがより好ましい。これは、晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が30g/L以上の場合には、一次粒子の凝集を特に十分に進行させることができるからであり、250g/L以下とすることで、添加するNi/Co含有混合水溶液を反応槽内で十分に拡散させ、特に均一な組成のニッケル複合水酸化物スラリーを得ることができるからである。
(2)アンモニウムイオン供給体
アンモニウムイオン供給体としては、水溶性の化合物であれば特に限定するものではないが、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。特に、アンモニア、及び硫酸アンモニウムから選択された1種類以上をより好ましく用いることができる。
アンモニウムイオン供給体は錯化剤として機能することができる。アンモニウムイオン供給体を添加しておくことで、後述するアルカリ性溶液供給ステップにおいて、混合水溶液のpH値を11.0以上12.8以下の広い範囲内で制御したとしても、ニッケル複合水酸化物の生成速度を十分に速く保つことができるからである。また、混合水溶液のpH値を上記範囲内で制御したとしても、得られたニッケル複合水酸化物をろ過する際にろ過の妨げとなるような細かい粒子の生成を抑制し、ニッケル複合水酸化物の二次粒子を球状粒子とすることができるからである。
反応槽内において、初期水溶液、及び混合水溶液中のアンモニア濃度は、3g/L以上25g/L以下であることが好ましい。
上述のようにアンモニウムイオン供給体は錯化剤として作用し、初期水溶液、及び混合水溶液中のアンモニア濃度を3g/L以上とすることで、初期水溶液や、混合水溶液について、金属イオンの溶解度を安定して一定に保持することができる。このため、形状及び粒径が整ったニッケル複合水酸化物の一次粒子が形成することができる。さらには、アンモニア濃度を3g/L以上とすることで、正極活物質の原料として用いるのに適した適度な粒度分布の拡がりを有する二次粒子を含むニッケル複合水酸化物を生成することができる。
一方、初期水溶液、及び混合水溶液中のアンモニア濃度を25g/L以下とすることで、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎることを防止し、得られるニッケル複合水酸化物について、組成のずれが生じることを防止できる。
なお、初期水溶液、及び混合水溶液中のアンモニア濃度の変動に伴い、金属イオンの溶解度が変動し、ニッケル複合水酸化物の粒子の内部の組成の均一性が低下する恐れがある。このため、初期水溶液、及び混合水溶液中のアンモニア濃度の変動幅は小さくなるように制御することが好ましい。例えば、アンモニア濃度は、上限値と下限値との幅を5g/Lとして、該幅内に収まるように制御することがより好ましい。なお、この場合でもアンモニアの上限値と下限値とは3g/L以上25g/L以下であることが好ましい。
(3)アルミニウム源
アルミニウム源についても特に限定されるものではないが、アルミン酸ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。アルミン酸ナトリウム水溶液は、例えば、所定量のアルミン酸ナトリウムを水に溶解して水溶液とし、水酸化ナトリウムを所定量添加することで得られる。アルミニウムをニッケル複合水酸化物の粒子の内部に均一に分散させるためには、ニッケル及びコバルトを含む混合水溶液とアルミン酸ナトリウム水溶液を反応槽に同時に添加すればよい。この際、ニッケル複合水酸化物の一般式で示した、目標とする組成比に合うように、ニッケル、コバルト、アルミニウムのそれぞれの金属濃度を調整することが好ましい。
(アルカリ性溶液供給ステップ)
そして、アルカリ性溶液供給ステップでは、初期水溶液にアルカリ性溶液、Ni/Co含有混合水溶液、アンモニウムイオン供給体、アルミニウム源などを連続的に供給し、混合水溶液を形成することができる。
アルカリ性溶液供給ステップで用いるアルカリ性溶液は特に限定されないが、アルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、添加量の制御を行いやすいことから、水に溶解し易い化合物を用いることが好ましく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種類以上であることが好ましい。
アルカリ性溶液供給ステップにおいて、アルカリ性溶液を反応槽に添加する方法については、特に限定されるものではなく、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで添加することが好ましい。なお、アルカリ性溶液を添加する際に、混合水溶液のpH値が、液温25℃を基準として11.0以上12.8以下に保持されるように添加することが好ましい。
アルカリ性溶液供給ステップにおいて、Ni/Co含有混合水溶液、及びアルミニウム源を供給する際、混合水溶液内のニッケル、コバルト、アルミニウムのそれぞれの金属濃度が、ニッケル複合水酸化物の一般式で示した目標とする組成比に合うように調整することが好ましい。
なお、アルカリ性溶液供給ステップにおいて初期水溶液に添加する、Ni/Co含有混合水溶液、アンモニウムイオン供給体、アルミニウム源については、初期水溶液において説明したものと同様のものを好適に用いることができるため、ここでは説明を省略する。
アルカリ性溶液供給ステップにおける混合水溶液の温度は特に限定されるものではないが、例えば50℃以上80℃以下であることが好ましい。
また、本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法は、洗浄工程の後、得られたニッケル複合水酸化物のケーキを乾燥する乾燥工程を有することもできる。
[乾燥工程]
乾燥工程では、洗浄工程によって得られたニッケル複合水酸化物ケーキを乾燥することができる。ニッケル複合水酸化物ケーキを乾燥させることで粉末状にすることができる。
乾燥工程で用いる乾燥手段としては特に限定されるものではなく、各種乾燥手段を用いることができる。例えば、温風乾燥等の乾燥方法を用いることができ、乾燥設備としては定置型の乾燥機、蒸気などで加温した熱風を用いたバッチ式あるいは連続式の気流乾燥機等を用いることができる。
3.非水系電解質二次電池用正極活物質
上述したニッケル複合水酸化物を前駆体として、非水系電解質二次電池用正極活物質を生成することができる。
本実施形態の正極活物質は、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケル複合酸化物からなるものである。リチウムニッケル複合酸化物は、既述のニッケル複合水酸化物を前駆体として用いているため、所定の組成や平均粒径を有し、且つ所定の粒度分布を有することができる。このため、本実施形態の正極活物質は、サイクル特性や安全性に優れ、非水系電解質二次電池の正極の材料として適したものである。
[組成]
本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物からなり、その組成は、一般式:LitNi1−x−yCoxAlyO2+β(但し、式中において、0.97≦t≦1.20、0.05≦x≦0.35、0.01≦y≦0.2、x+y<0.4、−0.2≦β≦0.2を満たす。)で表される。
本実施形態の正極活物質においては、リチウムの原子比tは、0.97≦t≦1.20を満たすことが好ましい。リチウムの原子比tを0.97以上とすることで、該正極活物質を用いた電池における正極の反応抵抗を十分に抑制できるため、該電池の出力を特に高くすることができる。ただし、リチウムの原子比tが1.20よりも多い場合には、該正極活物質を用いた電池の初期放電容量が低下すると共に、正極の反応抵抗が増加する場合がある。従って、リチウムの原子比tは、0.97≦t≦1.20とすることが好ましく、特に、リチウムの原子比tの下限値を1.05以上とすることがより好ましい。
正極活物質にコバルトを含有させることで、良好なサイクル特性を得ることができる。これは、結晶格子のニッケルの一部をコバルトに置換することにより、充放電に伴うリチウムの脱挿入による結晶格子の膨張収縮挙動を低減できるためである。コバルトの原子比xは、0.05≦x≦0.35が好ましく、電池特性や安全性を向上させることを考慮すると、0.07≦x≦0.25がより好ましく、0.10≦x≦0.20とすることがさらに好ましい。
正極活物質では、リチウム以外の全金属の原子に対するアルミニウムの原子比yは、0.01≦y≦0.2であることが好ましく、0.01≦y≦0.1であることがより好ましい。正極活物質中にアルミニウムを添加することにより、電池の正極活物質として用いた場合において、電池の耐久性や安全性を向上させることができる。特に、正極活物質において、アルミニウムが正極活物質の粒子の内部に均一に分布している場合、粒子全体で電池の耐久性や安全性を向上させる効果を発揮することができ、同じ添加量であっても、より大きな効果が得られ、電池容量の低下を抑制できるという利点もある。
そして、既述のように正極活物質では、リチウム以外の全金属の原子に対するアルミニウムの原子比yは、0.01以上であることが好ましい。これは、リチウム以外の全金属の原子に対するアルミニウムの原子比yが、0.01以上の場合、特に耐久性(サイクル特性)や安全性を高めることができるからである。
また、正極活物質におけるリチウム以外の全金属の原子に対するアルミニウムの原子比yは0.2以下であることが好ましい。これは、リチウム以外の全金属の原子に対するアルミニウムの原子比yは0.2以下の場合、該正極活物質を電池の正極材料に用いた場合に、該正極活物質は、該電池おける酸化還元反応に貢献する金属元素を特に十分に含有しているため、電池容量を特に高くすることができ、好ましいからである。
正極活物質は、前駆体である上述したニッケル複合水酸化物の性状を引き継いでおり、硫酸根含有量が0.4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下であり、かつ塩素含有量が0.05質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以下である。
また、正極活物質の粒子(二次粒子)の平均粒径は3μm以上25μm以下が好ましい。正極活物質の粒子の平均粒径を上記範囲とすることで、該正極活物質を用いた電池について、容積あたりの電池容量を大きくすることができ、電池の出力特性を特に良好にすることができる。
正極活物質の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.55より大きく1.20以下であることが好ましい。正極活物質の〔(d90−d10)/平均粒径〕が係る範囲を充足することで、この正極活物質を正極に用いた電池では、単位重量当たりの容量あるいは単位体積当たりの容量が高く、かつ安全性に優れ、良好なサイクル特性及び電池出力を得ることができる。
4.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
次に、本実施形態の正極活物質の製造方法の構成例について説明する。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、既述のニッケル複合水酸化物から製造できる製造方法であれば特に限定されないが、次のような正極活物質の製造方法を採用すれば、より確実に正極活物質を製造できるので、好ましい。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
正極活物質の原料となるニッケル複合水酸化物を熱処理する熱処理工程。
熱処理を施したニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して混合物を形成する混合工程。
混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程。
なお、焼成工程の後、必要に応じて、焼成された焼成物を解砕することもできる(解砕工程)。
以上の工程によりリチウムニッケル複合酸化物、つまり、正極活物質を得ることができる。以下、各工程について説明する。
熱処理工程では、ニッケル複合水酸化物の残留水分の除去、及びニッケル複合水酸化物を分解し、ニッケル複合酸化物とすることができる。熱処理工程での熱処理温度は特に限定されないが、熱処理温度は300℃以上800℃以下とすることが好ましい。これは、熱処理温度を300℃以上とすることで、水分の除去と、ニッケル複合水酸化物の分解とを十分に進行することができるからである。ただし、生成したニッケル複合酸化物の焼結による凝集を抑制する観点から、熱処理温度は800℃以下であることが好ましい。
熱処理工程において、熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
混合工程では、熱処理後のニッケル複合水酸化物、すなわちニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合することができる。
混合工程で用いるリチウム化合物としては特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。これは、上述のリチウム化合物が比較的入手し易いからである。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、混合工程では、リチウム化合物として、水酸化リチウムを用いることがより好ましい。
混合工程でニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合する混合手段は特に限定されるものではない。例えば、混合処理で一般的に用いられる各種混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダー等から選択された1種類以上を用いることができる。これらの混合機を用いる場合には、ニッケル複合酸化物等の粒子の形骸が破壊されない程度で、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物とが十分に混合できるように条件を選択することが好ましい。
焼成工程では、混合工程で形成した混合物を焼成することができる。焼成工程における焼成温度は特に限定されないが、例えば700℃以上850℃以下であることが好ましく、720℃以上820℃以下であることがより好ましい。
これは、混合工程で形成した混合物を焼成する温度を700℃以上とすることで、該混合物中において、リチウムの拡散を十分に行うことができ、余剰のリチウムや未反応の粒子の残留を抑制し、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶構造を十分に整えることができる。このため、得られた正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物を用いた電池において、十分な電池特性を発揮することができる。
ただし、混合工程で形成した混合物を焼成する温度が850℃を超えると、得られるリチウムニッケル複合酸化物の凝集が促進される恐れがある。このため、混合工程で形成した混合物を焼成する温度の上限値は850℃以下であることが好ましい。
焼成工程において、混合工程で形成した混合物を焼成する焼成時間は特に限定されないが、例えば3時間以上とすることが好ましく、6時間以上とすることがより好ましい。焼成時間の上限値は特に限定されないが、例えば24時間以下とすることが好ましい。
これは、混合工程で形成した混合物を焼成する焼成時間を3時間以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の生成を十分に行うことができるからである。すなわち、反応率を十分に高めることができるためである。
また、焼成工程では、混合工程で形成した混合物を焼成する際の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、特に、酸素を、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の範囲内で含有する雰囲気とすることがより好ましい。
以上のような正極活物質の製造方法では、原料に上述した不純物である硫酸根、及び塩素の含有量を均一に、低く抑制したニッケル複合水酸化物を用いているため、リチウム化合物と混合して焼成する際に、リチウムとの反応が阻害されず、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性の低下を抑えられる。これにより、この正極活物質の製造方法で得られた正極活物質は、内部に残留している不純物が少なく、結晶性が高くなっている。このため、該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、電池全体として単位重量当り及び単位体積当りの電池容量が高く、従来よりも高容量であり、安全性も優れた非水系電解質二次電池とすることができる。
5.非水系電解質二次電池
本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池とすることができる。本実施形態の非水系電解質二次電池は、より具体的には既述の正極活物質を用いた正極を有することができる。非水系電解質二次電池は、正極材料として既述の正極活物質を用いること以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えることができるため、簡単に説明する。
本実施形態の非水系電解質二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレーターを備えた構造を有している。
本実施形態の非水系電解質二次電池は、具体的には、非水系電解液を含浸させた電極体を電池ケース内に密閉した構造を有することができる。ここでいう電極体は、正極及び負極を、セパレーターを介して積層させた構造を有し、上述のように非水系電解液を含浸させることができる。以下、非水系電解質二次電池を構成する各部材について説明する。
正極は、シート状の部材であり、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に、正極活物質、導電材および結着剤を混合してなる正極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成することができる。また、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を混合物を成形し、必要に応じて乾燥等を行い正極とすることもできる。
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極活物質を含有する負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。また、所望の形状に加工したリチウム金属を負極として用いることもできる。
セパレーターは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができる。なお、セパレーターの機能を有するものであれば、特に限定されない。
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を用いることができる。電解質塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4等を用いることができる。
本実施形態の非水系電解質二次電池は、上述した硫酸根、及び塩素の含有量を抑制したニッケル複合水酸化物を前駆体とする正極活物質を用いた正極を有している。このため、電池全体としての単位重量当たり及び単位体積当たりの容量が高容量であり、不可逆容量が小さく、安全性が高いものとすることができる。
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
ここでまず、本実施例、比較例で得られたニッケル複合水酸化物の評価方法について説明する。
(ニッケル複合水酸化物の組成の評価)
ニッケル複合水酸化物の組成は、試料を硝酸に溶解した後、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8100)で測定した。
(ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量の評価)
硫酸根含有量は、得られたニッケル複合水酸化物を硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8100)により硫黄元素の含有量を測定し、この測定された硫黄元素の量をSO4に換算することにより求めた。
なお、硫酸根含有量の評価は、各実施例、比較例で得られたニッケル複合水酸化物について、それぞれ任意の5か所からサンプルを採取し、各サンプルについて上記評価に供した。
(ニッケル複合水酸化物の塩素含有量の評価)
塩素含有量は、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM−1600)で測定した。
なお、塩素含有量の評価は、各実施例、比較例で得られたニッケル複合水酸化物について、それぞれ任意の5か所からサンプルを採取し、各サンプルについて上記評価に供した。
(ニッケル複合水酸化物の平均粒径、粒度分布の評価)
ニッケル複合水酸化物が含有する二次粒子について、レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製 型式:MT3300EXII)を用いて、d10、d90、及び平均粒径を測定した。
なお、d10は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
また、測定値から、(d90−d10)/平均粒径を算出した。
(電池特性の評価方法)
電池特性を評価するに当って、各実施例、比較例で作製したニッケル複合水酸化物から、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物をそれぞれ生成した。リチウムニッケル複合酸化物の生成方法について以下に説明する。
実施例及び比較例で作製したニッケル複合水酸化物を、酸素含有量が21容積%の空気気流中、温度700℃で6時間の熱処理を行い、ニッケル複合酸化物を回収した(熱処理工程)。
続いて、Li/Me=1.025となるように水酸化リチウムを秤量し、回収したニッケル複合酸化物と混合して混合物を形成した(混合工程)。なお、上記Li/MeのMeは、混合物中のリチウム以外の金属、すなわちニッケル、コバルト、アルミニウムの合計を意味する。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
次に、混合工程で得られた混合物を酸素含有量が100容量%の酸素気流中、500℃で4時間仮焼した後、730℃で24時間焼成した(焼成工程)。
焼成後、室温まで冷却し、回収した生成物の解砕を行った(解砕工程)。
以上の工程により、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物を得た。
次いで、得られたリチウムニッケル複合酸化物を用いて、非水系電解質二次電池を作製した。
上述の手順により、各実施例、比較例で作製したニッケル複合水酸化物から得られた正極活物質の粉末70質量%に、導電材としてアセチレンブラックを20質量%、及び結着剤としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を10質量%を添加、混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し正極とした。
負極としてリチウム金属を用いた。
非水系電解液には1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を用いた。
そして、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、上記各部材を用いて2032型のコイン電池を作製した。
作製したコイン電池について、初期放電容量を評価し、初期効率を算出した。
作製したコイン電池は24時間程度放置し、開路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とした。そして、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。初期効率は初期放電容量/初期充電容量×100(%)として算出した。
なお、実施例及び比較例では、ニッケル複合水酸化物の製造に、和光純薬工業株式会社製の特級試薬を各試料に使用している。
以下に、各実施例、比較例のニッケル複合水酸化物の製造条件について説明する。
[実施例1]
以下の共沈工程を実施して、ニッケル複合水酸化物を生成した。
ニッケル:コバルト:アルミニウムのモル比が81.5:15.0:3.5となるように、硫酸ニッケルと塩化コバルトとを含むNi/Co含有混合水溶液と、25質量%のアンモニア水と、アルミン酸ナトリウム水溶液とを反応槽に同時に添加し、初期水溶液を用意した(初期水溶液準備ステップ)。なお、硫酸ニッケルと塩化コバルトとのNi/Co含有混合水溶液の金属塩の濃度は2.0mol/Lとした。
そして、初期水溶液に対して、pHを液温25℃基準で11.8に、反応温度を50℃に、アンモニア濃度を10g/Lに保つように制御しながら、25質量%水酸化ナトリウム水溶液、Ni/Co含有混合水溶液、25質量%のアンモニア水、及びアルミン酸ナトリウム水溶液を添加した(アルカリ性溶液供給ステップ)。
なお、この際、Ni/Co含有混合水溶液、及びアルミン酸ナトリウムは、得られる混合水溶液内のニッケル、コバルト、アルミニウムのモル比が、上記初期水溶液でのモル比を維持するように添加した。
以上の初期水溶液準備ステップと、アルカリ性溶液供給ステップとを有する共沈工程を実施することで、板状の一次粒子が凝集した、球状の二次粒子からなるニッケル複合水酸化物(ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物)を生成した。反応槽内が安定した後、オーバーフロー口からニッケル複合水酸化物スラリーを回収した。
次いで、得られたスラリー濃度が100g/Lのニッケル複合水酸化物スラリー40Lを、圧搾手段であるフィルタープレス(日本濾過装置株式会社製 型式:PFS−0.48−25)内に、圧搾手段に接続された供給配管を介して供給した(供給工程)。
次いで、ニッケル複合水酸化物スラリーを、圧搾手段であるフィルタープレスを用いて、ろ過し、ニッケル複合水酸化物ケーキとした(ろ過工程)。
そして、以下の手順によりニッケル複合水酸化物ケーキを洗浄、ろ過した(洗浄工程)。
フィルタープレスによる圧搾圧を0.4MPaとして、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾しながら、フィルタープレスに接続された洗浄液配管を介して、洗浄液としてアルカリ性の液体である液温が25℃、1.0mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を8L供給した。なお、洗浄液であるアルカリ性の液体は0.3時間かけて供給した。これによりニッケル複合水酸化物ケーキの洗浄を行った(第1洗浄ステップ)。
第1洗浄ステップ終了後、フィルタープレスによる圧搾は一旦中止した。
次に、ニッケル複合水酸化物ケーキを圧搾していない状態で、フィルタープレスにニッケル複合水酸化物スラリーを供給した供給配管に、洗浄液としてアルカリ性の液体である液温が25℃、1.0mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を1L供給した。なお、洗浄液であるアルカリ性の液体は0.1時間かけて供給した。
また、アルカリ性の液体を供給した後、さらに供給配管に洗浄水として純水を9L流した。その後に再度0.7MPaでケーキを再圧搾しながら、エアーを20分流すことでケーキの脱水をした(第2洗浄ステップ)。
得られたニッケル複合水酸化物ケーキは定置乾燥機にて120℃で15時間乾燥させて、ニッケル複合水酸化物を得た。
得られたニッケル複合水酸化物について、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
なお、ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量の評価、及び塩素含有量の評価は、既述のように得られたニッケル複合水酸化物の任意の5か所からサンプルを採取し、実施した。しかし、硫酸根含有量、及び塩素含有量の評価結果は、それぞれ5か所のサンプルの評価結果が同じになったため、1つの値のみを表1に示している。実施例2〜11についても同様であった。
[実施例2]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.2MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.5MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例4]
第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの再圧搾圧を0.5MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例5]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.1MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例6]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.7MPaとした点、及び第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの再圧搾圧を0.8MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例7]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.7MPaとした点、及び第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの再圧搾圧を0.4MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例8]
第1洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの圧搾圧を0.2MPaとした点、及び第2洗浄ステップにおいて、ニッケル複合水酸化物ケーキの再圧搾圧を0.3MPaとした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例9]
共沈工程の際に各供給液の供給速度を実施例1よりも低減させることで、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.61とした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
[実施例10]
共沈工程の際に各供給液の供給速度を実施例1よりも増加させることで、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布の拡がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.18とした点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
[実施例11]
第1洗浄ステップ、及び第2洗浄ステップにおいて、洗浄液としてアルカリ性の液体である液温が25℃、1.0mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。
なお、第1洗浄ステップでは上記炭酸カリウム水溶液を8L、第2洗浄ステップでは上記炭酸カリウム水溶液を1L供給した。
評価結果を表1に示す。
[比較例1]
第2洗浄ステップを実施せず、第1洗浄ステップ終了後、引き続き0.7MPaでケーキを再圧搾しながら、エアーを20分流すことでケーキの脱水を行い、乾燥工程に供した点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を作製し、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
なお、ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量の評価、及び塩素含有量の評価は、既述のように得られたニッケル複合水酸化物の任意の5か所からサンプルを採取し、実施しており、表1には最も低かった硫酸根含有量、及び塩素含有量の評価結果を示している。
得られたニッケル複合水酸化物については、既述のニッケル複合水酸化物の組成の評価を実施したところ、実施例1〜11、及び比較例1のいずれについても、Ni
0.815Co
0.15Al
0.035(OH)
2の組成になっていることが確認できた。
また、実施例1〜実施例11において、得られたニッケル複合水酸化物の断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、複数の板状の一次粒子が凝集して球状の二次粒子を形成していることが確認できた。
そして、表1に示した結果によると、実施例1〜実施例11ではニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量は0.4質量%以下であり、かつ塩素含有量は0.05質量%以下であった。また、硫酸根、及び塩素の含有量を均一に低く抑制できていることも確認できた。
このため、実施例1〜実施例11のニッケル複合水酸化物から得た正極活物質を用いた非水系電解質二次電池の初期放電容量は180mAh/g以上であり、初期効率はいずれも85%以上と、高い電池容量を有することが確認できた。
一方、第2洗浄ステップを実施しなかった比較例1では硫酸根が0.42質量%、塩素が0.09質量%であった。また、同じサンプル内で、硫酸根や、塩素の含有量についてばらつきが見られ、均一ではないことが確認できた。具体的には、比較例1では、評価を行った5か所のサンプルの硫酸根含有量、及び塩素含有量の評価結果は、それぞれ最大値と、最小値とが、中央値の±20%の範囲を超えていることが確認された。
そして、比較例1のニッケル複合水酸化物から得た正極活物質を用いた非水系電解質二次電池の初期放電容量は173mAh/gであり、初期効率はいずれも83%と、実施例1〜実施例11と比較して低い値を示すことが確認できた。