特許文献1のような電力変換装置では、電力フィードバックの対象は、モータ電流とモータ端子電圧の基本波周波数の電力であり、モータの電流を基本波に追従させることでの高調波抑制であるため、平均的な高調波抑制は可能ではあるが、瞬時的な電源高調波歪みの抑制までは実現させることは困難であった。
また、応答性はモータ電流制御系の帯域により制限されるため、空間高調波の周波数が制御帯域より高い場合、電源高調波が生じる問題がある。即ち、特許文献1のようなdq軸PI制御によれば、入力が直流量になるため、目標値応答性(特に、定常偏差)が良好になり、過渡特性も良くなるものの、座標変換後に制御を行うために外乱応答の設計ができなくなり、モータの空間高調波成分がモータ電流として現れる。電解コンデンサレスインバータではこのモータ電流が直流電流となって電源電流に戻るため、電圧制御系において、外乱であるモータの空間高調波が電源高調波として現れ、電流歪みが生じる。
そこで、特許文献1では電源高調波を低減するために、力率改善としては本来必要のない大容量のリアクトルを設ける必要があり、コストの高騰を招いていた。また、入力電流の瞬間的な変動が電源高調波規制から外れるようにLCフィルタを設ける方法もあるが、電源のインピーダンスは設置状況によって異なるため、LCフィルタで必ずしも電源高調波規制を満足できるとは限らないという問題もあった。
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、所謂電解コンデンサレスインバータの構成において、大容量のリアクトルを設けること無く、電源高調波規制を満足することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
本発明の電力変換装置は、モータに電力を供給するものであって、入力交流を全波整流するコンバータ回路と、このコンバータ回路の出力に並列接続されたコンデンサを有し、直流電圧を出力する直流リンク部と、この直流リンク部の出力をスイッチングして交流に変換し、モータに供給するインバータ回路と、スイッチングを制御する制御部とを備え、この制御部は、モータの速度を制御する操作量を求める速度制御部と、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量を求めるトルク制御部と、モータのα軸電流iα及びβ軸電流iβを制御する操作量を求める電圧制御部とを備え、速度制御部は、モータの速度を制御する操作量を、入力交流の電源周波数ωsの2倍に同期して脈動させ、トルク制御部は、モータの速度を制御する操作量からインバータ回路の出力トルク指令値τinv *を生成し、当該出力トルク指令値τinv *に基づいて、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量を求め、電圧制御部は、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量に基づき、静止座標系上でモータのα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*を生成し、これらα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにモータのα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を生成し、且つ、モータの速度を制御する操作量に基づいて、インバータ回路に流れる直流リンク電流指令値idc *を生成し、直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正することを特徴とする。
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明において速度制御部が求めるモータの速度を制御する操作量は、インバータ回路の入力電力指令値を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した入力トルク指令値τin *であり、電圧制御部は、入力トルク指令値τin *に基づいて直流リンク電流指令値idc *を生成することを特徴とする。
請求項3の発明の電力変換装置は、上記各発明においてトルク制御部が求めるインバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量は、モータのq軸電流指令値iq *であり、電圧制御部は、q軸電流指令値iq *に基づいてα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*を生成することを特徴とする。
請求項4の発明の電力変換装置は、上記各発明において電圧制御部は、PI制御により、α軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を生成し、更に、直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正することを特徴とする。
請求項5の発明の電力変換装置は、上記発明において電圧制御部は、モータのモータ電流周波数ωreの正弦波成分を持つ制御ゲインを含むF/B制御部でフィードバック制御を行うことにより、α軸電流iα及びβ軸電流iβをモータ電流周波数ωreに追従させることを特徴とする。
請求項6の発明の電力変換装置は、上記各発明において電圧制御部は、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとの比率から算出される補正係数AIVCにより、当該直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *を一致させるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正すると共に、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*が出力可能電圧範囲を超える場合は、補正係数AIVCによらず、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致し、且つ、出力電圧が最大となるα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、置き換えることで補正することを特徴とする。
請求項7の発明の電力変換装置は、上記発明において電圧制御部は、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*の変化量が規定値Rlimを超える場合、規定値Rlimを超えず、且つ、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出することを特徴とする。
請求項8の発明の電力変換装置は、請求項1乃至請求項5の発明において電圧制御部は、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値を予測し、予測した値に基づいて求められる直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、置き換えることで当該α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正することを特徴とする。
請求項9の発明の電力変換装置は、上記発明において電圧制御部は、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値とその次のサンプリング時の直流リンク電流idcの値の平均値から直流リンク電流idcを求めることを特徴とする。
請求項10の発明の電力変換装置は、請求項8又は請求項9の発明において電圧制御部は、次サンプリング時、又は、次サンプリング時とその次のサンプリング時のモータのα軸電流iα及びβ軸電流iβの値を予測し、予測した値に基づいて次サンプリング時の直流リンク電流idcの値、又は、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値とその次のサンプリング時の直流リンク電流idcの値を算出することを特徴とする。
請求項11の発明の電力変換装置は、上記各発明において電圧制御部は、α軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるように算出されたα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*と、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*が同位相となるように補正することを特徴とする。
請求項12の発明の電力変換装置は、上記各発明においてトルク制御部は、α軸電流iαとβ軸電流iβとα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*と機械角の回転角周波数ωrmからインバータ回路の出力トルクτinvを算出し、当該出力トルクτinvと出力トルク指令値τinv *が一致するようにフィードバック制御を実施することを特徴とする。
本発明によれば、モータに電力を供給する電力変換装置において、入力交流を全波整流するコンバータ回路と、このコンバータ回路の出力に並列接続されたコンデンサを有し、直流電圧を出力する直流リンク部と、この直流リンク部の出力をスイッチングして交流に変換し、モータに供給するインバータ回路と、スイッチングを制御する制御部とを備え、この制御部は、モータの速度を制御する操作量を求める速度制御部と、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量を求めるトルク制御部と、モータのα軸電流iα及びβ軸電流iβを制御する操作量を求める電圧制御部とを備え、速度制御部は、モータの速度を制御する操作量を、入力交流の電源周波数ωsの2倍に同期して脈動させ、トルク制御部は、モータの速度を制御する操作量からインバータ回路の出力トルク指令値τinv *を生成し、当該出力トルク指令値τinv *に基づいて、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量を求めるようにしたので、制御部は変動成分を持つモータ電流周波数ωreを考慮する必要が無くなり、制御部の設計が簡易に行えるようになる。
更に、電圧制御部は、インバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量に基づき、静止座標系上でモータのα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*を生成し、これらα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにモータのα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を生成するようにしたので、外乱応答設計が行えるようになる。
更に、モータの速度を制御する操作量に基づいて、インバータ回路に流れる直流リンク電流指令値idc *を生成し、直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正するようにしたので、瞬時的な電源高調波歪みが抑制でき、加減速やトルク変化等の過渡時に収束性が悪化する不都合を補償することができる。
これらにより、本発明では速度とトルクを制御する制御部の設計及びモータ電流の外乱応答設計を容易とし、且つ、過渡応答からの収束性を改善して、直流電流として電源側に流出するモータの空間高調波成分を低減し、従来の如き大容量のリアクトルを設けること無く、電源高調波規制を満足することができるようになる。
この場合、速度制御部が求めるモータの速度を制御する操作量は、請求項2の発明の如くインバータ回路の入力電力指令値を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した入力トルク指令値τin *であり、電圧制御部は、入力トルク指令値τin *に基づいて直流リンク電流指令値idc *を生成するものである。
また、トルク制御部が求めるインバータ回路の出力トルクτinvを制御する操作量は、請求項3の発明の如くモータのq軸電流指令値iq *であり、電圧制御部はq軸電流指令値iq *に基づいてα軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*を生成するものである。
そして、請求項4の発明の如く電圧制御部が、PI制御により、α軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を生成し、更に、直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正するようにすれば、比較的少ない計算量で外乱応答の設計を行うことができるようになり、過渡応答からの収束が容易で安定的なモータにおいて有効である。
更に、それに加えて、請求項5の発明の如く電圧制御部が、モータのモータ電流周波数ωreの正弦波成分を持つ制御ゲインを含むF/B制御部でフィードバック制御を行うことにより、α軸電流iα及びβ軸電流iβをモータ電流周波数ωreに追従させるようにすれば、更に外乱応答性と目標値応答性を改善することができるようになり、加減速レートが早い場合や制御が安定し難いモータにおいて有効である。
また、請求項6の発明の如く電圧制御部が、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとの比率から算出される補正係数AIVCにより、当該直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *を一致させるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正すると共に、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*が出力可能電圧範囲を超える場合は、補正係数AIVCによらず、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致し、且つ、出力電圧が最大となるα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、置き換えることで補正するようにすれば、安定的な動作を実現することができるようになる。
更に、請求項7の発明の如く電圧制御部が、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*の変化量が規定値Rlimを超える場合、規定値Rlimを超えず、且つ、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出するようにすれば、相電流が急峻に変化して入力電流に共振電流が発生する不都合を効果的に解消することができるようになる。
また、請求項8の発明の如く電圧制御部が、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値を予測し、予測した値に基づいて求められる直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、置き換えることで当該α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正するようにすれば、サンプリング値とサンプリング間の平均値の差に起因して発生する直流リンク電流idcの制御誤差を大幅に低減することができるようになり、入力部に存在している寄生成分と直流リンク部のコンデンサによる共振回路の共振電流を低減することができるようになる。
この場合、電圧制御部が請求項9の発明の如く、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値とその次のサンプリング時の直流リンク電流idcの値の平均値から直流リンク電流idcを求めることで、制御誤差を効果的に低減することができる。
また、請求項10の発明の発明の如く、次サンプリング時、又は、次サンプリング時とその次のサンプリング時のモータのα軸電流iα及びβ軸電流iβの値を予測し、予測した値に基づいて電圧制御部が次サンプリング時の直流リンク電流idcの値、又は、次サンプリング時の直流リンク電流idcの値とその次のサンプリング時の直流リンク電流idcの値を算出することで、的確に各直流リンク電流idcの値を算出することができる。
更に、請求項11の発明の如く電圧制御部が、α軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるように算出されたα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*と、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*が同位相となるように補正することで、支障無く補正を行うことができるようになる。
また、請求項12の発明の如くトルク制御部が、α軸電流iαとβ軸電流iβとα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*と機械角の回転角周波数ωrmからインバータ回路の出力トルクτinvを算出し、当該出力トルクτinvと出力トルク指令値τinv *が一致するようにフィードバック制御を実施するようにすれば、インバータ出力電力をより入力電力の基本波成分に追従させることが可能となり、入力電流及びモータ電流の歪み成分を小さくすることができるようになる。
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
(1)電力変換装置1
図1は、本発明の一実施例の電力変換装置1の構成を示すブロック図である。この実施例の電力変換装置1は、コンバータ回路2と、直流リンク部3と、インバータ回路4と、制御部6を備え、単相の交流電源7から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換してモータ8に供給する構成とされている。実施例のモータ8は、冷凍装置の冷媒回路を構成する圧縮機を駆動するIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)であり、制御部6が生成する電圧指令によって駆動される。
(2)コンバータ回路2
コンバータ回路2は、交流電源7に接続され、交流電源7からの交流(入力交流)を直流に整流する。この実施例では、コンバータ回路2は複数(4個)のダイオードD1〜D4がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路から構成されている。これらのダイオードD1〜D4により、交流電源7の交流電圧を全波整流して直流電圧に変換する。
(3)直流リンク部3
直流リンク部3は、コンデンサ9を備えている。このコンデンサ9は、コンバータ回路2の出力に並列に接続され、このコンデンサ9の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧)Vdcがインバータ回路4の入力ノードに接続されている。このコンデンサ9は、インバータ回路4の後述するスイッチング素子がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。
即ち、コンデンサ9は、コンバータ回路2によって整流された電圧(電源電圧に応じて変動する電圧)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。実施例では、一般的なコンバータ回路の出力の平滑化に必要な電解コンデンサの概ね1/100の容量を有しているものとする。従って、この直流リンク部3が出力する直流リンク電圧Vdcは脈動している。コンデンサ9には、一例としてフィルムコンデンサを採用可能である。
(4)インバータ回路4
インバータ回路4は、入力ノードが直流リンク部3のコンデンサ9に並列に接続され、直流リンク部3の出力をスイッチングして三相交流に変換し、モータ(IPMSM)8に供給するように構成されている。実施例のインバータ回路4は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されることで構成されている。このインバータ回路4は、三相交流をモータ8に出力するため、6個のスイッチング素子S1〜S6を備えている。
詳しくは、インバータ回路4は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した三つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子S1〜S3と、下アームのスイッチング素子S4〜S6との中点が、それぞれモータ8の各相(u相、v相、w相)のコイルに接続されている。また、各スイッチング素子S1〜S6には、還流ダイオードD5〜D10がそれぞれ逆並列接続されている。そして、インバータ回路4は、これらのスイッチング素子S1〜S6のON−OFF動作によって、直流リンク部3から入力された直流リンク電圧Vdcをスイッチングし、三相交流電圧に変換してモータ8に供給する。
(5)制御部6
次に、制御部6は、インバータ回路4の出力トルクτinvが、入力交流の周波数ωs(電源周波数)の2倍に同期して脈動するようにインバータ回路4におけるスイッチング(ON−OFF動作)を制御する。実施例の制御部6は、速度制御部11と、トルク制御部12と、電圧制御部13と、スイッチング制御部14を備えた構成とされている。
(5−1)速度制御部11
速度制御部11は、モータ8の速度を制御する操作量を求める。具体的には、速度制御部11は、PI演算部16、減算器17、二乗波形生成部18と、乗算器19を備えている。この速度制御部11では、モータ8の速度を制御する操作量として、インバータ回路4の入力トルク指令値τin *を、PI演算部16の出力と二乗波形生成部18の出力に応じて生成する。この入力トルク指令値τin *は、入力交流の周波数ωsの2倍に同期して脈動する。
具体的に実施例では、速度制御部11の減算器17が、モータ8の機械角の回転角周波数ωrm(実施例では推定値。実測された真値でも良い。以下、同じ)と回転角周波数の指令値ωrm *との偏差を求める。また、PI演算部16は、減算器17が求めた偏差に対して、比例・積分演算(PI演算)を行い、その結果を出力する。更に、二乗波形生成部18は、入力電圧vinを、PLL回路21を介して入力し、入力交流を二乗した波形sinθin 2を生成して出力する。そして、乗算器19はPI演算部16の出力と二乗波形生成部18の出力とを乗じて、入力トルク指令値τin *として出力する。これにより、入力トルク指令値τin *は、入力交流の周波数ωsの2倍に同期して脈動することになる。
(5−2)トルク制御部12
次に、トルク制御部12は、減算器22、40と、q軸電流指令値生成部23を備えている。このトルク制御部12では、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *から、インバータ回路4の出力トルクτinvを制御する操作量として、モータ8のq軸電流の指令値(q軸電流指令値)iq *を生成する。
具体的に実施例では、トルク制御部12の減算器22が、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *と、コンデンサ9での電力を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に換算したコンデンサトルクτc(実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)との偏差を求める。そして、インバータ回路4の出力トルクτinvの指令値(出力トルク指令値)τinv *として出力する。
ここで、入力電力pinとコンデンサ9での電力pc、及び、インバータ回路4の出力電力pinvとの間には、下記式(I)の関係がある。
pin=pc+pinv ・・・(I)
これは、各値を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した場合でも成立するため、下記式(II)の関係がある。尚、τinは入力トルクである。
τin=τc+τinv ・・・(II)
そして、入力トルク指令値τin *は直流リンク部3のコンデンサ9に流れる電流を考慮せずに生成したもののため、出力トルク指令値τinv *には、入力トルク指令値τin *をコンデンサトルクτcで補償した値を用いる方が好ましい。そこで、この実施例では上述の如く減算器22が、コンデンサトルクτcを差し引いた値に出力トルク指令値τinv *を補償する。
更に、減算器40が、この出力トルク指令値τinv *からτoffを減算して、モータ8の出力トルクの指令値(モータ出力トルク指令値)τmtr *として出力する。上記τoffは、インバータ回路4からモータ8に伝わるまでの電力ロス及び巻線に蓄えられる磁気エネルギーの時間変化分を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した値であり、モータ出力トルク指令値τmtr *は下記式(III)の関係から求める。
τinv *=τmtr *+τoff ・・・(III)
これにより、モータ出力トルクτmtrをより正確に制御することができるようになる。
トルク制御部12のq軸電流指令値生成部23は、減算器40が出力するモータ出力トルク指令値)τmtr *に対してidの影響は無視できるものとみなし、モータ8の極対数P及び永久磁石による電機子鎖交磁束φαで除算し、q軸電流指令値iq *を生成する。また、モータによってidの影響が無視できない場合は、idを考慮した式を用いてq軸電流指令値iq *を導出してもよい。
(5−3)電圧制御部13
次に、この実施例の電圧制御部13は、αβ軸PI制御部13Aと、瞬時電圧制御部13B、及び、αβ−uvw変換部38を備えた構成とされている。
(5−3−1)αβ軸PI制御部13A
実施例の電圧制御部13のαβ軸PI制御部13Aは、dq−αβ変換部24と、減算器26、27と、PI演算部31、32を備えている。このαβ軸PI制御部13Aのdq−αβ変換部24は、d軸電流指令値id *と、トルク制御部12が出力するq軸電流指令値iq *を、静止座標系上でα軸電流指令値iα*とβ軸電流指令値iβ*に変換して出力する。そして、減算器26はdq−αβ変換部24が出力するα軸電流指令値iα*とモータ8の相電流から求められるα軸電流iα(実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)との偏差を求める。また、PI演算部31は、減算器26が求めた偏差に対して、比例・積分演算(PI演算)を行うことにより、α軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*を生成し、出力する。
一方、減算器27はdq−αβ変換部24が出力するβ軸電流指令値iβ*とモータ8の相電流から求められるβ軸電流iβ(実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)との偏差を求める。また、PI演算部32は、減算器27が求めた偏差に対して、比例・積分演算(PI演算)を行うことにより、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにβ軸電圧指令値vβ*を生成し、出力する。
dq座標系の制御では、外乱応答の設計ができず、モータ8の空間高調波成分がモータ電流として現れる。そのため、大容量の電解コンデンサやリアクトルを用いない場合、モータ電流が直流電流(直流リンク電流idc)になり、電源電流(入力電流iin)に戻るため、電圧制御系において、外乱であるモータの空間高調波が電源高調波として現れる場合がある。
他方、実施例の如くαβ軸PI制御部13Aで、α軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差に対して、比例・積分演算を行うことにより、α軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*を生成し、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差に対して、比例・積分演算を行うことにより、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにβ軸電圧指令値vβ*を生成し、それぞれ出力するようにすることで、外乱応答設計が行えるようになり、空間高調波による外乱電流を抑制し、定常時の直流リンク電流idcが整えられる。大容量の電解コンデンサやリアクトルを用いない場合、直流リンク電流idcは入力電流iinに流出するが、αβ軸PI制御部13Aによりこれを抑えることで、電源高調波規制を満足することができるようになる。
ここで、上記の如くαβ軸PI制御部13Aで、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を生成する場合、加減速やトルク変化等の過渡時には目標値応答性が悪化し、過渡応答からの収束性が悪化する場合がある。図2にその様子を示している。図2中実線は直流リンク電流指令値idc *を示し、破線は直流リンク電流idcを示している。この図のように、過渡時には直流リンク電流idcが、直流リンク電流指令値idc *に一致しない場合が出てくる。その場合、大容量の電解コンデンサやリアクトルを用いないときは、入力電流iinが急激に流れてしまい、高い周波数の共振として現れるようになる。
(5−3−2)瞬時電圧制御部13B
そこで、本発明では電圧制御部13に以下に示す瞬時電圧制御部13Bを設け、キャリア周波数で直流リンク電流idcを常時監視し、直流リンク電流指令値idc *と、直流リンク電流idcとの間にズレがでれば、後述する乗算器33、34において瞬時に電圧を変化させることで補償するようにしている。具体的には、瞬時電圧制御部13Bは、乗算器33、34、36、37、39と、減算器28を備えている。瞬時電圧制御部13Bの乗算器39は、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *に、機械角の回転角周波数ωrmを乗算することで入力電力指令値pin *に変換し、出力する。乗算器36は、乗算器39が出力する入力電力指令値pin *に、1/vinの絶対値を乗算すること、即ち、入力電力指令値pin *を入力電圧vinの絶対値で除算することで、入力電流指令値iin *の絶対値を出力する。
尚、この場合の入力電圧vinは入力電圧指令値vin *でもよい。減算器28は、この入力電流指令値iin *の絶対値からコンデンサ9に流れる直流リンクコンデンサ電流ic(平均値。実施例では推定値。但し、実測された真値でもよい。以下、同じ)を減算することで、それらの偏差としての直流リンク電流指令値idc *(平均値)を求めて出力する。尚、減算器28での直流リンク電流指令値idc *(平均値)の算出は、下記式(IV)の関係に基づいている。
iin *の絶対値=idc *(平均値)+ic(平均値) ・・・(IV)
乗算器37は、減算器28が出力する直流リンク電流指令値idc *(平均値)に、1/idc(平均値。実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)を乗算すること、即ち、直流リンク電流指令値idc *(平均値)を直流リンク電流idc(平均値)で除算することで、補正係数AIVCを算出し、出力する。
この補正係数AIVCは、直流リンク電流指令値idc *(平均値)と直流リンク電流idc(平均値)との比率であり、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとのズレ(偏差)が無ければ補正係数AIVCは1となる。一方、直流リンク電流指令値idc *より直流リンク電流idcが大きくなれば補正係数AIVCは小さくなり、逆に直流リンク電流指令値idc *より直流リンク電流idcが小さくなれば補正係数AIVCは大きくなる。
ここで、上述した直流リンク電流idc(平均値)は、下記式(V)から求められる。
idc(平均値)=duiu+dviv+dwiw ・・・(V)
iu、iv、iwは三相電流、du、dv、dwは三相電圧指令値により決定される各相デューティー比である。
この式から、空間高調波により生じるモータ電流及び電圧指令の高調波が、直流リンク電流(平均値)高調波を発生させることが分かる。そして、実施例の電力変換装置1では、コンデンサ9として小容量のフィルムコンデンサを使用しているために、直流リンク電流(平均値)高調波が電源側へ流出し、電源高調波が生じる。
(5−3−3)α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*の補正
瞬時電圧制御部13Bの乗算器33では、αβ軸PI制御部13AのPI演算部31が出力するα軸電圧指令値vα*に、瞬時電圧制御部13Bの乗算器37が出力する前述した補正係数AIVCが乗算され、乗算器34では、PI演算部32が出力するβ軸電圧指令値vβ*に、乗算器37が出力する補正係数AIVCが乗算されるように構成されている。
前述した如く、直流リンク電流指令値idc *より直流リンク電流idcが大きくなれば補正係数AIVCは小さくなり、逆に直流リンク電流指令値idc *より直流リンク電流idcが小さくなれば補正係数AIVCは大きくなるので、補正係数AIVCは、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとのズレを打ち消す方向にα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を補正し、直流リンク電流idc(平均値)を制御して電源電流波形を改善するように作用する。
即ち、乗算器33と乗算器34では、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流のidcとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*が補正されることになる。図3中破線は瞬時電圧制御部13Bにより補正係数AIVCを算出し、乗算器33、34でα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を補正した場合の直流リンク電流idcを示し、実線は直流リンク電流指令値idc *を示している。
この図からも明らかな如く、前述した図2の場合よりも、瞬時電圧制御部13Bが算出する補正値AIVCにより、過渡時にも直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *に一致するように補正されていることが分かる。これを瞬時電圧制御と云う。そして、αβ−uvw変換部38は、この瞬時電圧制御部13Bの乗算器33、34で補正されたα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を、u、v、wの各相の電圧指令値vuvw *に変換する。
(5−4)スイッチング制御部14
そして、この電圧指令値vuvw *はスイッチング制御部14に入力され、このスイッチング制御部14は、電圧指令値vuvw *の値に基づいて各スイッチング素子S1〜S6のON−OFF動作を制御するゲート信号を生成する。具体的には、スイッチング制御部14は、インバータ回路4に対して、キャリア信号(三角波)に同期したPWM(Pulse Width Modulation)制御を実行する。
ここで、α軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差、及び、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*、及び、β軸電圧指令値vβ*を算出し、そのまま各相の電圧指令値vuvw *に変換してスイッチング制御した場合、過渡時に直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとの間にズレが生じると、コンデンサ9の端子に現れる直流リンク電圧Vdcと入力電圧vinとの間にパルス状のズレ(偏差)が発生し、コンデンサ9に流れる直流リンクコンデンサ電流icが大きくなり、系統に寄生インダクタンスが存在する場合、この寄生インダクタンスと小容量のフィルムコンデンサから成るコンデンサ9間に共振が励起され、入力電流iinが振動することになる。
実施例の如く、電圧制御部13において直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を補正することで、過渡時に生じる偏差を小さくすることができる。
(5−5)電力変換装置1の動作
この実施例では、制御部6の速度制御部11が、先ず、入力交流の電源周波数ωsの2倍に同期して脈動する入力トルク指令値τin *を生成する。次に、トルク制御部12が入力トルク指令値τin *から出力トルク指令値τinv *を生成し、出力トルク指令値τinv *からq軸電流指令値iq *を生成して出力する。
次に、電圧制御部13は、d軸電流指令値id *とq軸電流指令値iq *から、静止座標系上でα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を生成する。そして、α軸電流指令値iα*及びβ軸電流指令値iβ*とα軸電流iα及びβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を生成する。更に、入力トルク指令値τin *からインバータ回路4に流れる直流リンク電流指令値idc *を生成し、この直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとの比率である補正係数AIVCを算出し、算出した補正係数AIVCをα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*に乗算することで、直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *と等しくなるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正する。
そして、補正されたα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を用いて各スイッチング素子S1〜S6のゲート信号を生成する。これらのゲート信号により、インバータ回路4においてスイッチングが行われ、モータ8に電力が供給される。
このような制御により、本発明では外乱応答設計を容易とし、且つ、過渡応答からの収束性を改善して、直流リンク電流として電源側に流出するモータの空間高調波成分を低減し、従来の如き大容量のリアクトルを設けること無く、電源高調波規制を満足することができるようになる。これにより、大幅なコストの低減を図ることができるようになる。
次に、図4は本発明を適用したもう一つの他の実施例の電力変換装置1の構成を示すブロック図である。尚、この図において、図1と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。
この実施例の電力変換装置1では、図1のトルク制御部12を、他の実施例のトルク制御部12に置き換えている。この場合のトルク制御部12は、前述した減算器22と、更に、減算器42、及び、トルク制御器44を備えている。この実施例のトルク制御部12も、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *からインバータ回路4の出力トルクτinvを制御する操作量として、モータ8のq軸電流の指令値(q軸電流指令値)iq *を生成するものである。
具体的にはこの実施例のトルク制御部12においても、減算器22が、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *と、コンデンサ9での電力pcを機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した値のコンデンサトルクτcとの偏差を求める。そして、インバータ回路4の出力トルクτinvの指令値(出力トルク指令値)τinv *として減算器42に出力する。
そして、減算器42が、この出力トルク指令値τinv *と出力トルクτinvとの偏差を算出する。ここで、インバータ回路4の出力トルクτinvは、α軸電流iα(推定値)とβ軸電流iβ(推定値)とα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*と機械角の回転角周波数ωrmから、下記式(VI)の関係に基づいて求める。
τinv=(vα*iα(推定値)+vβ*iβ(推定値))÷ωrm ・・・(VI)
そして、トルク制御器44は、減算器42が求めた偏差に対して、フィードバック制御を実施することにより、出力トルクτinvと出力トルク指令値τinv *が一致するように(偏差を無くすように)q軸電流指令値iq *を生成し、出力する。
前述した如く入力トルク指令値τin *は直流リンク部3のコンデンサ9に流れる電流を考慮せずに生成したもののため、出力トルク指令値τinv *には、入力トルク指令値τin *をコンデンサトルクτcで補償した値を用いる方が好ましい。
そして、トルク制御部12のトルク制御器44がα軸電流iαとβ軸電流iβとα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*と機械角の回転角周波数ωrmからインバータ回路4の出力トルクτinvを算出し、当該出力トルクτinvと出力トルク指令値τinv *が一致するようにフィードバック制御を実施してq軸電流指令値iq *を生成する。
このように、トルク制御器44では、トルク次元のフィードバック制御を行い、q軸電流指令値iq *を出力している。そのため、電力のフィードバック制御と比較すると、トルク制御器44にてモータ電流周波数ωreを考慮する必要がなくなり、トルク制御器44の設計が容易となる。このフィードバック制御を実施することで、インバータ回路4の出力電力pinvを、より入力電力pinの基本波成分に追従させることが可能となり、入力電流iin及びモータ電流の歪み成分を小さくすることができるようになる。
次に、図5は本発明を適用した更にもう一つの他の実施例の電力変換装置1の構成を示すブロック図である。尚、この図において、図4と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。この実施例の電力変換装置1では、図4のαβ軸PI制御部13Aを、正弦波追従制御部13Cに置き換えている。
(6)正弦波追従制御部13C
図5には、この正弦波追従制御部13Cのブロック図が示されている。正弦波追従制御部13Cは、前述した減算器26、27と、F/B制御部46、47と、PI制御部48、49と、制御安定部51、52と、減算器53、54を備えている。
この正弦波追従制御部13Cも基本的には前述したαβ軸PI制御部13Aと同様に、PI制御部48でα軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差に対し、比例・積分演算を行うことにより、α軸電流指令値iα*とα軸電流iαとの偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*を生成し、PI制御部49でβ軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差に対し、比例・積分演算を行うことにより、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流iβとの偏差が小さくなるようにβ軸電圧指令値vβ*を生成するものであるが、モータ電流周波数ωreの正弦波成分を持つ制御ゲインを含むF/B制御部46、47が、減算器26、27にフィードバック制御を行うことにより、α軸電流iαとβ軸電流iβをモータ電流周波数ωreに追従させる正弦波追従制御(αβ−sin制御)を実行する。
また、制御安定部51、52はα軸電流iαとβ軸電流iβにフィードバックゲインf3をかけ、減算器53、54でPI制御部48、49の出力から減算し、制御安定化を図る。これらにより、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を、より正弦波に近づけ、それにより、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を正弦波に近づける。
尚、ブロック図中のPI制御部48、49、制御安定部51、52における各フィードバックゲインf1、f2、f3を下記式(VII)、(VIII)、(IX)で示す。
f1=Ld(ωre 2−3ωc 2) ・・・(VII)
f2=Ld(3ωcωre 2−ωc 3) ・・・(VIII)
f3=3Ldωc−Ra ・・・(IX)
尚、Ldはモータ8の電機子巻線のd軸インダクタンス、Raは電機子巻線抵抗、ωreは前述したモータ8のモータ電流周波数、ωcは電流制御系の極である。
上記式(VII)及び(VIII)にはモータ8のモータ電流周波数ωreが含まれているため、正弦波追従制御ではモータ8の電気角速度によってゲインを可変にしなければならないが、この実施例の如き正弦波追従制御を行うことで、指令値への目標値応答性と外乱応答性の向上を図ることができる。
次に、図6は本発明を適用した更にもう一つの他の実施例の電力変換装置1の構成を示すブロック図である。尚、この図において、図1と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。この実施例の電力変換装置1では、図1の瞬時電圧制御部13Bを、この場合の瞬時電圧制御部13Dに置き換えている。その他の構成は図1の場合と同様である。
例えば、図1の実施例の場合、αβ軸PI制御部13AのPI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*に、瞬時電圧制御部13Bの乗算器33と34で補正係数AIVCを乗算することで補正するように構成されてる。即ち、補正係数AIVCはPI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*に対して可変ゲインとして作用する。そのため、安定的に動作させるには補正後のα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*が、電力変換装置1が出力可能な電圧範囲(以下、出力可能電圧範囲と称する。)を超えないように制限しなければならない。
また、瞬時電圧制御部13Bにより行われるα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*の補正では、出力される電圧ベクトル(α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)が一制御周期にて大きく変化する場合がある。その場合、相電流が急峻に変化して直流リンク電流idcに発生する電流の誤差がパルス状に変化する。所謂電解コンデンサレスインバータでは、系統に寄生するインダクタンス成分と共振し、入力電流が振動しやすい状態となっているため、前述したパルス状の制御誤差が発生すると、入力電流に共振電流が発生する。従って、一制御周期にて変化する電圧ベクトル(α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)の変化量には制限を加えなければならない。
(7)瞬時電圧制御部13D
この実施例の瞬時電圧制御部13Dは上記問題を解決する構成とされている。具体的には、瞬時電圧制御部13Dは、前述(図1)したものと同様の機能を奏する乗算器36、39と減算器28に加えて、出力電圧補正部56を備えている。そして、この場合も乗算器39は、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *に、機械角の回転角周波数ωrmを乗算することで入力電力指令値pin *に変換し、出力する。乗算器36は、乗算器39が出力する入力電力指令値pin *に、1/vinの絶対値を乗算すること、即ち、入力電力指令値pin *を入力電圧vinの絶対値で除算することで、入力電流指令値iin *の絶対値を出力する。
(7−1)出力電圧補正部56
また、減算器28は、この入力電流指令値iin *の絶対値からコンデンサ9に流れる直流リンクコンデンサ電流ic(平均値。実施例では推定値。但し、実測された真値でもよい。以下、同じ)を減算することで、それらの偏差としての直流リンク電流指令値idc *(平均値)を求めて出力し、出力電圧補正部56に入力する。この出力電圧補正部56には、更にモータ8のα軸電流iαとβ軸電流iβが入力される。そして、この出力電圧補正部56にαβ軸PI制御部13AのPI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*が入力され、出力電圧補正部56の出力がαβ−uvw変換部38に入力される構成とされている。
(7−2)出力可能電圧範囲を超える場合の瞬時電圧制御
ここで、直流リンク電流idcは下記式(X)で表される。尚、vαn *は正規化後のα軸電圧指令値、vβn *は正規化後のβ軸電圧指令値である。ここで、上記の正規化とは電圧指令値を直流リンク電圧Vdcで除算し、2を掛ける処理とする。
即ち、vαn *=2vα*/Vdc、vβn *=2vβ*/Vdcである。
そして、所望する直流リンク電流idcである直流リンク電流指令値をidc *として式(X)に代入し、vβn *に関して整理すると、式(XI)となる。この式(XI)は正規化された電圧ベクトル空間にて線の方程式となっており、過変調にならない範囲で式(XI)にて表される線上のどの点に電圧ベクトルを配置しても、所望する直流リンク電流指令値idc *がもたらされる式となっている。以後、この式(XI)で表される直線を等電流線と称する。
瞬時電圧制御部13Dも、前述した瞬時電圧制御部13Bと同様に補正係数AIVCを算出し、αβ軸PI制御部13AのPI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*に、基本的には上記算出した補正係数AIVCを掛けることで、上記の等電流線上に配置されるように補正を加える(瞬時電圧制御部13Bも同様)。これにより、補正後のα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*が、αβ軸PI制御部13AのPI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*と同位相となるようにする。
しかしながら、前述した如く補正後のα軸電圧指令値vα*と、β軸電圧指令値vβ*が、電力変換装置1の出力可能電圧範囲を超えないようにしなければならない。ここで、電力変換装置1の出力可能電圧範囲は、式(XII)の電圧制限円で表される。そして、この場合の出力電圧補正部56は、前述した補正係数AIVCにより補正したα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*が、式(XII)を満たさない場合、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*に補正係数AIVCを乗算するのでは無く、式(XIII)と式(XIV)で導出した値をα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*とする。言い換えれば、PI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を、式(XIII)と式(XIV)で算出した値に置き換えることで補正し、これをα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*とし、αβ−uvw変換部38に出力する。
即ち、この場合の瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56は、上記式(XII)で表される電圧制限円(出力可能電圧範囲)と上述した等電流線との交点に電圧ベクトルを配置する。この電圧制限円と等電流線との交点が、上記式(XIII)と式(XIV)となる。これらの式から明らかな如く、交点は二つ現れるが、もとの電圧ベクトル(PI演算部31、32が出力するα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)に近い方の値を選択して、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*とし、αβ−uvw変換部38に出力する。
このように、この実施例の瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56も、直流リンク電流指令値idc *と直流リンク電流idcとの比率から算出される補正係数AIVCにより、当該直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *を一致させるようにα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を補正するものであるが、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*が出力可能電圧範囲(式(XII)の電圧制限円)を超える場合は、補正係数AIVCによらず、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致し(等電流線上に配置し)、且つ、出力電圧が最大となる(電圧制限円上となる)α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、置き換えることで補正するようにしたので、安定的な動作を実現することができるようになる。
(7−3)変化量の制限制御
また、前述した如く図1の実施例の瞬時電圧制御部13Bにより行われるα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*の補正では、出力される電圧ベクトル(α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)が一制御周期にて大きく変化する場合がある。その場合、相電流が急峻に変化して直流リンク電流idcに発生する電流の誤差がパルス状に変化する。所謂電解コンデンサレスインバータでは、系統に寄生するインダクタンス成分と共振し、入力電流が振動しやすい状態となっているため、前述したパルス状の制御誤差が発生すると、入力電流に共振電流が発生する。従って、一制御周期にて変化する電圧ベクトル(α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)の変化量には制限を加えなければならない。そのため、この場合の瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56は、以下に説明する如く、一制御周期にて変化する電圧ベクトル(α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*)の変化量に制限を加える。
この実施例の出力電圧補正部56は一定の規定値Rlimを設け、電圧変化量の大きさ(ノルム)がこの規定値Rlimを超える場合、当該規定値Rlimを超えないように電圧ベクトルを修正する。また、修正する際に等電流線上に配置する必要があるので、規定値Rlimの円と等電流線との交点に電圧ベクトルを配置する。下記式(XV)と式(XVI)は規定値Rlimの円と等電流線との交点を示している。
尚、式(XV)と式(XVI)中の[k]は今回の制御周期を意味し、[k−1]は一制御周期前を意味している。この場合も、規定値Rlimの円と等電流線との交点は2つ現れるため、修正前の電圧ベクトルに近い方の交点のvαnLim *[k]、vβnLim *[k]を選択し、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*としてαβ−uvw変換部38に出力する。
このように、電圧制御部13の瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56は、補正後のα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*の変化量が規定値Rlimを超える場合、規定値Rlimを超えず、且つ、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *が一致するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を算出し、出力するようにしたので、相電流が急峻に変化して入力電流に共振電流が発生する不都合を効果的に解消することができるようになる。
図7中破線はこの場合の瞬時電圧制御部13Dにより補正係数AIVCを算出し、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を補正した後(瞬時電圧制御)、更に、出力電圧補正部56により、上述したα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*の変化量の制限制御を実施した場合の直流リンク電流idcを示し、実線は直流リンク電流指令値idc *を示している。
この図からも明らかな如く、出力電圧補正部56による変化量の制限制御で、図3の場合よりも更に直流リンク電流idcが直流リンク電流指令値idc *に一致するように制御されていることが分かる。
次に、図6に示された瞬時電圧制御部13Dによる制御の更にもう一つの実施例を説明する。尚、この場合の電力変換装置1の全体のブロック図は図6と同様であるので、上記実施例(実施例4)の場合と同様に図6を参照しながら説明する。
上記実施例(実施例4)では、瞬時電圧制御部13Dが連続的に変化する相電流のサンプリング値(前述した制御周期でサンプリングした値)に基づき、所望の直流リンク電流idcになるように電圧ベクトルをFF(フィードフォワード)的に操作している。しかしながら、相電流は電圧ベクトルを決定した後も連続的に変化しており、サンプリング間の平均値とサンプリング値には差が発生する。これにより、相電流のサンプリング値に基づいた瞬時電圧制御では、直流リンク電流idcの平均値にパルス状の制御誤差が発生する。
また、上記実施例(実施例4)の変化量の制限制御では、電圧ベクトルの時間変化量に制限を加えるため、相電流の制御が不安定になる等の問題がある。
そこで、この実施例では瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56が、モータ(IPMSM)8の離散方程式により、相電流の次サンプリング時の電流を予測し、現サンプリング値から次サンプリング値(予測値)までの平均値に基づいて直流リンク電流idcを制御する。
(8)IPMSM離散方程式に基づく直流リンク電流の予測制御
上記実施例(実施例4)の瞬時電圧制御は式(X)に基づく制御であった。この式(X)をサンプリング時系列に関して厳密に記述すると下記式(XVII)のようになる。
式(XVII)では、idc[k]はk(制御周期における今回のサンプリング)時点での直流リンク電流の瞬時値、iα[k]及びiβ[k]はk時点でのαβ軸でのモータ電流の瞬時値、vαn *[k]及びvβn *[k]はk時点での正規化された電圧ベクトルである。前述した実施例(実施例4)の瞬時電圧制御は、この式に基づいた等電流線上に電圧ベクトルを配置しているため、直流リンク電流idcのk時点の瞬時値しか制御できない状態である。
ここで、この実施例の瞬時電圧制御部13Dの出力電圧補正部56は、式(XVIII)に示すように、2点のサンプリング点を用いて直流リンク電流idcの平均値に関して成立する式を用い、直流リンク電流idcの平均値に関しても成立する予測等電流曲線を導出する。
尚、idc[k+1]は式(XIX)、式(XX)で求められるiα[k+1]、iβ[K+1]と、vαn *[k+1]、vβn *[k+1]を式(XVII)に代入することにより算出され、idc[k+3]は式(XXI)、式(XXII)で求められるiα[k+2]、iβ[K+2]と、vαn *[k+2]、vβn *[k+2]を式(XVII)に代入することにより算出される。
式(XVIII)では、出力電圧が決定されてから実際に出力されるまでに1サンプリング遅れることを考慮し、[k+1](一制御周期後)時点の電圧を計算するために、全体で1サンプリング進ませた式にしている。ここで、iα[k+1]及びiβ[k+1]は未来値であり、iα[k]及びiβ[k]と、vαn[k]及びvβn[k]よりモータ(IPMSM)8の離散方程式にて求めることができる。即ち、iα[k+1]及びiβ[k+1]は上記式(XIX)、式(XX)で決定される。
また、iα[k+2]及びiβ[k+2]に関しては、iα[k+1]及びiβ[k+1]に基づいてモータ(IPMSM)8の離散方程式により計算されるvαn[k+1]及びvβn[k+1]の関数である。即ち、iα[k+2]及びiβ[k+2]は上記式(XXI)、式(XXII)で決定される。尚、式(XIX)〜式(XXII)中の係数A11〜A22及びb11〜b22に関しては後述する。ここで、直流リンク電圧の未来値Vdc[k+1]が必要となるが、PLL回路21にて取得した電源の位相を1サンプリング分シフトすれば得ることができる。
式(XVIII)に式(XIX)〜式(XXII)のiα[k+1]及びiβ[k+1]、iα[k+2]及びiβ[k+2]を代入する。また、直流リンク電流idcの平均値idc(idc[k+1]+idc[k+2])/2に関しては、直流リンク電流指令値idc *[k]とする。現サンプリング時点([k]時点)では、idc *[k+1]は求められないため、idc[k]を式(XVIII)に代入すると、最終的には現サンプリング時の直流リンク電流idc[k](予測等電流曲線)の式は、式(XXIII)で表される。
式(XXIII)から求められるvβn *[k+1]は、従来の等電流線の近傍に描かれる曲線の方程式となる。この曲線は、モータ(IPMSM)8の離散方程式による次サンプリング時の電流予測に基づくサンプリング間平均の等直流リンク電流を表す正規化した電圧空間上の曲線となる。また、求められるvβn *[k+1]には正負の符号が含まれることになることから、予測等電流曲線は2本の曲線となるが、それらが繋がった連続した1本の曲線となる。
(8−1)電圧制限内における直流リンク電流の予測制御
出力電圧補正部56は、上記の如く予測により予測等電流曲線を導出し、次に、前記実施例(実施例4)と同様に、αβ軸PI制御部13Aからの出力電圧ベクトルと同位相となる予測等電流曲線上の点に電圧ベクトルを配置する。
αβ軸PI制御部13AのPI演算部31、32から出力されるα軸電圧指令値vα*、β軸電圧指令値vβ*を、ここではそれぞれα軸電圧指令値vα*1、β軸電圧指令値vβ*1とすると、αβ軸PI制御部13Aからの出力電圧の同位相線は以下の式(XXIX)になる。
このαβ軸PI制御部13Aからの出力電圧との同位相線と式(XXIII)の予測等電流曲線との交点を求めればよく、交点は式(XXX)のようになる。vβn *[k+1]は式(XXX)で求め、vαn *[k+1]は式(XXIX)の関係から求める。即ち、この実施例の出力電圧補正部56は、αβ軸PI制御部13Aが出力するα軸電圧指令値(この場合vα*1)とβ軸電圧指令値(この場合vβ*1)を用いて式(XXIX)と式(XXX)の演算を行い、これら式(XXIX)と式(XXX)で算出した値に置き換えることでα軸電圧指令値vα*1とβ軸電圧指令値vβ*1を補正し、これをα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*とし、αβ−uvw変換部38に出力する。
即ち、出力電圧補正部56は、αβ軸PI制御部13Aが出力するα軸電圧指令値vα*1とβ軸電圧指令値vβ*1を用い、当該α軸電圧指令値vα*1とβ軸電圧指令値vβ*1と同位相となるα軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*を導出し、置き換えることで補正し、αβ−uvw変換部38に出力する。
ここで、式(XXX)に同位相線と予測等電流曲線との交点を示したが、交点が電圧制限を超えた場合や電圧修正量が過大になる場合に関しても前述した実施例と同様に予測等電流曲線と電圧制限図形(実施例4では電圧制限円)との交点を選択する必要がある。次に、電圧制限円が内接する電圧制限六角形と予測等電流曲線との交点について説明する。
(8−2)電圧飽和時における直流リンク電流の予測制御
前記実施例(実施例4)の瞬時電圧制御と同様に、予測等電流曲線を用いた直流リンク電流idcの予測制御においてもαβ軸PI制御部13Aの出力を修正して直流リンク電流idcを制御する。そのため、電流制御系の安定性を確保するためや修正により電圧飽和が起こった場合等を考慮して、瞬時電圧制御と同様に電圧制限図形と予測等電流曲線の交点に電圧ベクトルを配置する。
前述した実施例(実施例4)の瞬時電圧制御では、等電流線と電圧制限円(電圧制限六角形の内接円)との交点に電圧ベクトルを配置することになっているが、予測等電流曲線と円とでは実用的な解析解が得られないため、電圧制限六角形との交点に電圧ベクトルを配置する。ここでは、電圧制限六角形のそれぞれの辺を、切片を持つ6本の直線の式で表記し、予測等電流曲線との交点を算出する。電圧制限六角形のそれぞれの辺を以下に示す直線の式(XXXI)で一般化する。
式(XXXI)のnには1〜6が代入され、それぞれ6辺の直線となり、六角形の辺を構成する。式(XXXII)に示す一般化した直線の式と予測等電流曲線との交点は式(XXXIII)に示される。式(XXXIII)はそれぞれ6辺分計算され、六角形の角頂点の内側に解を持つものを交点とする。複数個算出された交点のうち、αβ軸PI制御部13Aからの出力に最も近い交点を選択する。
(8−3)IPMSM離散方程式
予測等電流曲線を用いた直流リンク電流idcの制御は、モータ(IPMSM)8の離散方程式に基づいている。ここで用いているIPMSMの離散方程式は、IPMSMの状態方程式をサンプリング時間Tsの0次ホールドにて離散化した式である。式(XXXIV)にIPMSMの状態方程式を示す。式(XXXIV)をサンプリング時間Tsの0次ホールドにて離散化すると式(XXXV)になる。
ここで、係数行列Adは式(XXXVI)で、係数行列bdは式(XXXVII)で表され、この式(XXXVI)、式(XXXVII)を解くことで、係数行列の各要素を得ることができる。
また、上記式中に用いた変数を以下に示す。
図8に前述した実施例(実施例4)の瞬時電圧制御による入力電流iinと入力電流指令値iin *(上段)、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *(下段)を示し、図9にこの実施例(実施例5)の瞬時電圧制御による入力電流iinと入力電流指令値iin *(上段)、直流リンク電流idcと直流リンク電流指令値idc *(下段)を示している。
図8では電圧ベクトルの急峻な変動によって、P1に示す如く直流リンク電流idcにパルス状の誤差が発生している。これによって、P2に示すように寄生成分による共振回路の共振電流が入力部に流れ、電源波形に高い周波数の電流振動が発生している。また、P3に示す直流リンク電流idcの制御誤差により、P4に示すように入力部のコンバータ回路2を構成するブリッジダイオード(ダイオードD1〜D4)の導通幅が狭まっている。これらは全て、モータ電流のサンプリング値とサンプリング間の平均値との差に起因している。
一方、図9ではP5を見ても分かるように直流リンク電流idcにパルス状の制御誤差は発生していない。また、P6においても直流リンク電流idcの制御誤差が発生していないため、入力部のダイオードブリッジの導通幅が広くなっている。直流リンク電流idcの予測制御を用いることで、入力電流iinは略理想的な正弦波電流となっていることが分かる。
以上のようにこの実施例の予測制御によれば、1サンプリング先の電流を予測し、サンプリング間の平均値に関して成立する予測等電流曲線を用いるため、サンプリング値とサンプリング間の平均値の差に起因して発生する直流リンク電流idcの制御誤差を大幅に低減することができるようになる。これにより、入力部に存在している寄生成分と直流リンク部3のコンデンサ9による共振回路の共振電流を低減することができるようになる。
尚、本発明の電力変換装置1の制御対象は、各実施例で示したIPMSMに限定されるものでは無く、モータ8の用途も圧縮機に限定されるものではない。