図1〜図3に示す本開示の一実施形態において、情報提示装置の機能は、HCU(HMI(Human Machine Interface)Control Unit)60によって実現されている。HCU60は、車両に搭載された複数の電子制御ユニットのうちの一つであって、車載ネットワークに接続された複数のノードのうちの一つである。HCU60は、車載ネットワークを通じて、車両システム20及び周辺監視システム30と電気的に接続されている。
車両システム20には、車両に搭載された複数の電子制御ユニット、車両の状態を検出する種々の車載センサ21、及び車両の外部と通信する通信機器等が含まれている。車載センサ21は、例えば車速センサ、ヨーレートセンサ及び操舵角センサ等である。車両システム20は、例えば車両の走行速度を示す速度情報、ステアリングホイールの操舵方向及び操舵量を示す舵角情報、並びに方向指示器の作動状態を示す作動情報等を、HCU60に提供可能である。さらに車両システム20は、衛星測位システムの測位信号に基づく車両の位置情報、並びに車両の周囲及び進行方向の地図情報、ドライバモニタ26による運転者の状態情報(以下、「運転者情報」)等を、HCU60に提供可能である。
周辺監視システム30は、フロントカメラユニット32、レーダユニット33及びライダユニット34等の外界センサと、情報統合ECU31とを備えている。周辺監視システム30は、運転者が注意すべきリスク対象を、車両の周囲、特に車両の数メートルから数十メートル前方の範囲から検出する。周辺監視システム30は、歩行者、人間以外の動物、自転車、オートバイ、及び他の車両のような移動物体、並びに路上の落下物等の静止物体を、リスク対象として検出可能である。さらに周辺監視システム30は、交通信号、ガードレール、縁石、道路標識、道路標示、区画線、及び樹木等の静止物体も検出可能である。
フロントカメラユニット32は、例えば車両の室内にて、バックミラー近傍に設置されている。フロントカメラユニット32は、単眼式又は複眼式のカメラであって、車両の進行方向に向けられている。フロントカメラユニット32は、車両の前方領域を連続的に撮影することにより、上述の移動物体及び静止物体を写した画像データを生成可能である。加えてフロントカメラユニット32は、移動物体及び静止物体を適切な露出で撮影できるよう、絞り、シャッター速度、ISO感度等の制御値を、車両の周囲の照度に合わせて随時調整する。フロントカメラユニット32は、前方領域の画像データ及び露出の制御情報を情報統合ECU31に出力する。
レーダユニット33は、例えば車両のフロント部に設置されている。レーダユニット33は、77GHz帯のミリ波を送信アンテナから車両の進行方向へ向けて放出し、進行方向の移動物体及び静止物体等で反射されたミリ波を、受信アンテナによって受信する。レーダユニット33は、受信信号に基づく走査結果を情報統合ECU31に逐次出力する。
ライダユニット34は、例えば車両のフロント部にて、レーダユニット33の下方に設置されている。ライダユニット34は、車両の進行方向へ向けてレーザ光を照射し、進行方向に存在する移動物体及び静止物体等で反射されたレーザ光を受光する。ライダユニット34は、受光したレーザ光に基づく走査結果を情報統合ECU31に逐次出力する。
情報統合ECU31は、プロセッサ及びメモリを有するコンピュータを主体として構成されている。情報統合ECU31は、各ユニット32〜34から取得した情報を統合する処理により、検出された移動物体及び静止物体(以下、「検出物」)の形状情報、相対的な位置情報、移動方向及び速度情報、並びに種別情報等を取得する。情報統合ECU31は、車両システム20から取得する車速情報及び操舵情報に基づき、車両の移動量を加味して演算することで、複数のタイミングで同一のリスク対象を継続して認識できる。情報統合ECU31は、具体的には、歩行者等のリスク対象の移動の有無、移動方向、移動速度等を認識し、さらに自車両の前方をリスク対象が横断する否か等も判定可能である。
情報統合ECU31は、検出物に係るこれら複数の情報を、監視情報としてHCU60に逐次出力する。加えて情報統合ECU31は、フロントカメラユニット32から取得する露出の制御情報に基づき、車両の周囲の明るさを示す照度情報を生成し、生成した照度情報をHCU60に逐次出力する。
HCU60は、発光装置40を含む複数の表示デバイス等と共に情報提示システム100を構成している。情報提示システム100は、発光装置40の線状発光領域52における発光スポット51の発光表示を、HCU60によって制御し、歩行者等のリスク対象の存在とリスク対象の方向とを、運転者に提示する。情報提示システム100は、発光スポット51の提示によって、運転者に減速やリスク対象の回避を促す。
発光装置40は、図1及び図4に示すように、インパネ発光ライン41、電源インターフェース43、通信インターフェース44、ドライバ回路45、及び制御回路46を備えている。
インパネ発光ライン41は、運転者の前方に位置するよう、車両のインスツルメントパネル19に配置されている。インパネ発光ライン41は、線状発光領域52を有している。線状発光領域52は、車両の幅方向WDに沿って延伸するよう規定されている。線状発光領域52は、コンビネーションメータ及びセンターディスプレイよりも上方に位置している。線状発光領域52は、幅方向WDの各端部を、ウインドシールド両側に位置する各ピラーの根本まで延伸させている。線状発光領域52は、運転席に着座した運転者の中心視の範囲CVAからは外れている。一方で、線状発光領域52の概ね全体が、運転席に着座した運転者の周辺視の範囲PVA内に収まっている。
インパネ発光ライン41は、幅方向WDに沿って並ぶ多数の発光素子(例えばLED)を、線状発光領域52の内部に有している。インパネ発光ライン41は、多数の発光素子の一部を発光させることにより、少なくとも一つの発光スポット51を線状発光領域52に表示可能である。インパネ発光ライン41は、線状発光領域52内にて発光スポット51を幅方向WDに移動可能である。加えてインパネ発光ライン41は、発光スポット51の発光色、発光輝度及び発光サイズ(発光幅)を変更可能である。尚、各図における線状発光領域52においては、濃いドットの範囲が消灯領域を示し、白色又はごく薄いドットの範囲が発光スポット51となる発光領域を示している。
電源インターフェース43には、電源回路49を通じて、車両に搭載されたバッテリ等から電力が供給されている。電源インターフェース43は、発光装置40の各構成に電力を供給する。電源インターフェース43を通じて供給される電力により、インパネ発光ライン41は、線状発光領域52に発光スポット51を発光表示する。
通信インターフェース44は、HCU60と接続されている。通信インターフェース44には、インパネ発光ライン41の発光態様を指示する指令信号が、HCU60から入力される。ドライバ回路45は、インパネ発光ライン41に設けられた各発光素子に流れる電流を制御する。ドライバ回路45は、電源インターフェース43から供給される電力を変換し、制御回路46から取得した制御信号によって指定された発光素子に、電流を印加する。
制御回路46は、例えばマイクロコンピュータを主体として構成されている。制御回路46は、通信インターフェース44を通じて、HCU60から指令信号を取得する。制御回路46は、取得した指令信号に対応する発光パターンにて各発光素子を発光させるために、ドライバ回路45に出力する制御信号を生成する。
図1及び図3に示すHCU60の制御回路は、処理部61、記憶部62及びRAM63等を有するコンピュータを主体に構成されている。処理部61は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の少なくとも一つを含む構成である。処理部61は、種々の演算処理を実行する。記憶部62は、不揮発性の記憶媒体を含む構成である。記憶部62には、線状発光領域52の発光を制御する情報提示ログラムを含む種々のプログラムが処理部61によって読み取り可能に格納されている。RAM(Random Access Memory)63は、揮発性の半導体メモリである。RAM63は、処理部61による演算処理の作業領域として機能する。
HCU60は、記憶部62に格納された情報提示プログラムを処理部61によって実行することで、複数の機能ブロックを構築する。具体的に、HCU60には、情報取得部71、軌跡推定部72、リスク判定部73、距離判定部74、種別判定部75、逆光判定部76、領域判定部77及び発光制御部78等が構築される。
情報取得部71は、発光スポット51の制御に必要な種々の情報を、車両システム20及び周辺監視システム30から取得する。具体的に、情報取得部71は、車両の速度情報及び舵角情報、車両に搭載された方向指示器の作動情報並びに運転者情報等を車両システム20から取得する。情報取得部71は、リスク対象の相対的な位置情報等を含む監視情報と、車両の周囲の照度情報とを周辺監視システム30から取得する。
軌跡推定部72は、情報取得部71にて取得された速度情報及び舵角情報を用いて、車両の予定走行軌跡PP(図5参照)を推定する。軌跡推定部72にて推定される車両の予定走行軌跡PPは、現在の車速及び操舵量が維持されたと仮定した場合の推定値である。尚、操舵情報には、車両に生じているヨーレート又はヨー角等の情報が含まれていてもよい。
リスク判定部73は、情報取得部71にて取得される監視情報に基づき、運転者が注意すべきリスク対象を選別する。リスク判定部73は、監視情報に基づき、自車両に対するリスク対象のリスクレベルを算出する。リスク判定部73は、個々のリスク対象のリスクレベルを、複数の段階(例えば五段階)に振り分ける。この場合、最もリスクレベルの低い状態が「通常時」となり、最もリスクレベルの高い状態が「リスクレベル4」となる。リスク判定部73は、個々のリスク対象について、リスクレベルがリスク閾値を超えるか否かを判定する。リスク判定部73は、リスクレベルがリスク閾値を超えるリスク対象を、発光スポット51による報知の対象として選定する。
リスク判定部73にて判定されるリスクレベルの高低には、リスク対象の相対位置と移動方向の関連性が大きく寄与している。例えばリスク判定部73は、車両に対して進行方向の右側に位置して、右方向に移動するリスク対象のリスクレベルを低く設定する。同様に、リスク判定部73は、車両に対して進行方向の左側に位置して、左方向に移動するリスク対象のリスクレベルも低く設定する。その結果、これらのリスク対象は、発光スポット51にて報知されるリスク対象から除外され易くされる。
リスク判定部73は、車両の走行環境及び運転者の状態等に応じて、リスク閾値を変更可能である。例えばリスク判定部73は、予め設定された対象閾値を超える数のリスク対象が車両の進行方向に存在する場合には、対象閾値以下のリスク対象しか存在しない場合と比較して、リスク閾値を上げる調整を行う。またリスク判定部73は、運転者の漫然度が上昇している場合及び運転者に脇見が発生している場合等に、リスク閾値を下げる調整を行う。
距離判定部74は、情報取得部71にて取得されたリスク対象の相対的な位置情報に基づき、車両からのリスク対象までの相対的な距離が離間閾値を超えるか否かを判定する。離間閾値は、後述する情報提示処理(図20参照)にて、発光スポット51の左右への遷移のタイミングを決定する値である。距離判定部74は、速度情報及び地図情報に基づき、遷移のタイミングが適切となるように、離間閾値を変更可能であってもよい。
種別判定部75は、情報取得部71にて取得された種別情報に基づき、発光スポット51にて報知されると選定されたリスク対象について、個々の種別を判定する。種別判定部75は、一例として、静止している歩行者と前方を横断している歩行者とを異なる種別に設定可能である。さらに種別判定部75は、自転車(サイクリスト)、前方を横断している動物及び死骸となった動物等を区別可能である。
逆光判定部76は、情報統合ECU31から情報取得部71に提供された照度情報に基づき、逆光の状態で運転者がリスク対象を見ているシーンか否かを判定する。例えば、照度情報に基づき、フロントカメラユニット32の撮像面に太陽からの直接光が入射しているシーンと推定できれば、逆光判定部76は、逆光の状態にあると判定する。加えて逆光判定部76は、照度情報に基づき、フロントカメラユニット32の撮像面に対向車の前照灯の光が直接的に入射しているシーンと推定できる場合も、逆光の状態にあると判定する。
領域判定部77は、リスク対象の位置が車両の走行可能な領域(以下、「走行可能領域」)であるか否かを判定する。走行可能領域ではない範囲には、例えばガードレール又は段差等によって車道と区分けされた歩道等が含まれる。領域判定部77は、自車両の位置情報及び地図情報の組み合わせ結果、又はフロントカメラユニット32による認識結果等に基づき、走行可能領域外とみなす歩道等の範囲を前方領域に設定する。こうした歩道等にリスク対象となる歩行者等がいる場合、領域判定部77は、リスク対象の位置が走行可能領域外であると判定する。
発光制御部78は、線状発光領域52に表示させる発光スポット51の発光位置、発光サイズ、数、移動、発光色及び発光輝度等を制御する。発光制御部78は、線状発光領域52の全体を複数(三つ)の領域に分割し、標準となる発光スポット51の点灯位置として、中央位置53c、左位置53a及び右位置53bを規定している。中央位置53cは、幅方向WDにおける線状発光領域52の中央部分に規定されており、例えばセンターディスプレイの上方に位置する範囲である。左位置53aは、運転者から見て中央位置53cの左側に規定された範囲である。右位置53bは、運転者から見て中央位置53cの右側に規定された範囲である。発光制御部78は、リスクレベルがリスク閾値を超えるリスク対象のうちで最もリスクレベルの高い一つを選択し、このリスク対象の位置情報に基づいて、中央位置53c、左位置53a及び右位置53bの中から、発光スポット51の表示位置を決定する。
発光制御部78は、リスク対象の移動に合わせて、このリスク対象を報知する発光スポット51の表示位置を移動させる。但し、発光制御部78は、リスク対象の移動に追従させて中央位置53cから左位置53a又は右位置53bに遷移させた発光スポット51を、中央位置53cに再び戻す制御を禁止している。
発光制御部78は、リスク判定部73にてリスク対象に対し算出されたリスクレベル、及び種別判定部75にて判定されたリスク対象の種別等に応じて、発光スポット51の発光態様を変更する。発光制御部78は、例えば発光スポット51の発光色及び発光輝度の少なくとも一方を変更可能である。例えば発光制御部78は、リスク対象のリスクレベルが高くなるほど、このリスク対象を報知する発光スポット51を誘目性の高い態様で表示させる。具体的に、発光制御部78は、リスクレベルの上昇に応じて、発光スポット51の発光輝度を高くできる。発光制御部78は、リスクレベルの上昇に応じて、「グリーン」、「イエロー」、「アンバー」、「レッド」等のように発光スポット51の発光色を、誘目性の高い色に順に切り替えることができる。発光制御部78は、リスク対象の種別に予め関連付けられた発光色で、このリスク対象を報知する発光スポット51を表示させることができる。
以上のような発光スポット51による情報提示は、車両が遭遇しているシーンによっては、運転者にとっては煩わしく感じられるケースもある。そのため、情報提示システム100は、発光スポット51を用いた情報提示が運転者に煩わしく感じられ難いように、車両の周囲の状況及び運転者の状況等に応じて、発光スポット51の表示の中止及び表示態様の変更等を実施する。以下、車両が遭遇する種々のシーンにて情報提示システム100により実施される複数の情報提示方法の詳細を、図5〜図26に基づき、図3を参照しつつ、順に説明する。尚、HCU60は、下記の複数の報提示処理を、地図情報、車両の状態情報、周辺監視システムの状態情報等に基づき、走行シーンに応じて適宜切り替えて、又は併行して、実施可能である。
図5に示すシーンでは、市街地を走行する車両が、道路脇から突き出した電柱等の障害物Bを避けるために、右方向に回頭する(時刻t2)。その後、障害物Bの側方を通過した車両は、もとの進路に戻るために、左方向への回頭する(時刻t3)。このように低速(例えば20km/以下)で走行する車両に操舵操作が入力されるシーンでは、軽い操舵力でも操舵量が大きくなり易い。そのため、舵角情報を用いて推定される予定走行軌跡PPは、操舵操作の入力されるタイミングで、左右に大きく変動する。故に、舵角情報に基づく予定走行軌跡PPと、実際の車両の走行軌跡との乖離が大きくなってしまう。
実際に、時刻t3での左方向への転舵によって予定走行軌跡PPが大きく左に逸れることにより、歩行者Peは、予定走行軌跡PPに対して右側に位置すると判定される。その結果、歩行者Peを報知する発光スポット51は、歩行者Peが実際には車両の左側を通過するにも係らず、線状発光領域52の右位置53bに表示される可能性がある。運転者は、誤って右位置53bに表示された発光スポット51を当然に煩わしく感じてしまう。
こうした誤提示の発生を回避するため、車両の走行速度が低速閾値未満である場合に、車両の走行速度が低速閾値以上である場合とは異なるロジックで、リスク対象の左右の相対位置が判別される。詳記すると、車両の走行速度が低速閾値未満である場合、軌跡推定部72(図3参照)は、速度情報及び舵角情報に基づく予定走行軌跡PPの推定を一時的に中止し、車両の向きだけを使った予定走行軌跡を規定する。この車両の向きに基づく予定走行軌跡は、車両の前後方向に沿った進路予測線PLである。
リスク判定部73(図3参照)は、舵角情報に基づく予定走行軌跡PPに替えて、進路予測線PLを用いて、リスク対象のリスクレベルの設定と、報知対象とするか否かの判定とを行う。さらに、発光制御部78(図3参照)も、舵角情報に基づく予定走行軌跡PPに替えて、進路予測線PLに対する歩行者Peの左右の位置に基づき、発光スポット51の点灯位置を、中央位置53c、左位置53a及び右位置53bのうちから決定する。
こうした判定ロジックの切り替えによれば、歩行者Peの検出により時刻t1で左位置53aに点灯された発光スポット51は、右方向に操舵される時刻t2だけでなく、左方向に操舵される時刻t3でも、左位置53aに留まり続ける。これにより、発光スポット51は、正しい歩行者Peの方向を継続的に示し続けることができる。
このように、低速走行時に自車向きを用いてリスク対象の左右位置を設定する情報提示処理の詳細を、図6に示すフローチャートに基づき、図5及び図3を参照しつつ説明する。図6に示す情報提示処理は、低速で障害物Bを避けるシーンに好適な処理であるため、例えば地図情報に基づき市街地を走行していると推定された場合に、主にHCU60によって繰り返し実施される。
S101では、情報統合ECU31にてリスク対象を検出する処理が行われ、S102に進む。S102では、情報統合ECU31にてリスク対象の位置情報及び速度情報等を算出する処理が行われる。HCU60は、情報統合ECU31によって演算された算出結果を監視情報として取得し、S103に進む。
S103では、車両の位置情報、速度情報及び舵角情報と、運転者情報とをさらに取得し、S104に進む。S104では、S103にて取得した速度情報に基づき、現在の車両の走行速度が低速閾値を下回るか否かを判定する。車両の走行速度が低速閾値以上であると判定した場合、S104からS105に進む。一方、車両の走行速度が低速閾値未満であると判定した場合、S104からS106に進む。
低速走行中でない場合のS105では、速度情報及び舵角情報を少なくとも用いて、車両の予定走行軌跡PPを推定し、S107に進む。一方、低速走行中である場合のS106では、予定走行軌跡として、自車両の向きと実質的に平行な進路予測線PLを規定し、S107に進む。
S107では、直前のS105及びS106のいずれか一方にて設定された予定走行軌跡と、S102にて取得したリスク対象の位置情報とを比較する。S107にて、予定走行軌跡上又は予定走行軌跡の近傍にリスク対象がいないと判定した場合、S101に戻る。一方、S107にて、予定走行軌跡上又は予定走行軌跡の近傍にリスク対象がいると判定した場合、S108に進む。
S108では、S107にて予定走行軌跡上又はその近傍にいると判定したリスク対象のリスクレベルを算出し、S109に進む。S107にて、複数のリスク対象がいると判定した場合、S108では、リスク対象毎にリスクレベルを個別に算出する。
S109では、車両の走行環境及び運転者の状態等に応じたリスク閾値を設定する。そして、S108にて算出したリスクレベルをリスク閾値と比較し、リスクレベルがリスク閾値を超えるリスク対象の有無を判定する。全てのリスク対象のリスクレベルがリスク閾値以下である場合、S101に戻る。一方、少なくとも一つのリスク対象のリスクレベルがリスク閾値を超えている場合、S109からS110に進む。以上のS107〜S109の処理により、発光スポット51による報知の対象とされるリスク対象が選定される。
S110では、S109にて選定されたリスク対象の種別を判定し、このリスク対象に予め関連付けられた発光スポット51の発光態様を設定する。加えてS110では、S102にて取得された位置情報等に基づき、発光スポット51の表示位置を決定する。そして、運転者から見たリスク対象の方向に、リスク対象の種別に応じた態様の発光スポット51を表示させ、S101に戻る。
以上のS108では、走行可能領域外に位置するリスク対象は、リスクレベルを算出する対象から除外される。その結果、ガードレールGRにて区切られた歩道等、走行可能領域外にいる歩行者Peがいる場合でも、線状発光領域52は、消灯状態となる(図7参照)。以上のように、領域判定部77にて走行可能領域外にのみリスク対象が存在すると判定されている場合、このリスク対象を報知する発光スポット51(図1参照)の表示は中止される。或いは、走行可能領域外のリスク対象を報知する発光スポット51は、弱い提示に留められる。
またS110では、S103にて取得される運転者情報に基づき、発光スポット51の発光態様が変更されてもよい。例えば、運転者がリスク対象を注視していない時には、図8に示すように、誘目性の高い態様で発光スポット51を提示しても、運転者は、煩わしさを感じ難い。強調された発光スポット51は、むしろリスク態様を回避する行動を促すことができる。故に、ドライバモニタ26にて検出された運転者情報の示す顔向き及び視線方向等に基づき、運転者がリスク対象の方向を注視してないと判断可能な場合には、発光制御部78は、発光スポット51の発光輝度を上げつつ、発光色を赤色等に設定する。尚、発光制御部78は、発光スポット51の発光サイズの拡大及び点滅等をさらに実施してもよい。加えて、音声及びブザー等による情報提示が、発光スポット51による情報提示と併用されてもよい。
次の図9及び図10に示す各シーンでは、周辺監視システム30は、十字路又はT字路(以下、「交差点」)の奥で信号待ちなどをしている歩行者Peをリスク対象として検出している。車両は、交差点を左折する予定である。こうした状況での歩行者Peは、実際には、車両に対してリスクとなる虞が低い。故に、運転者に煩わしさを感じさせないように、発光スポット51による歩行者Peの報知は、中止又は抑制されることが望ましい。
そこで、車両の方向指示器23の作動情報に基づき、方向指示器23がオン状態とされた場合に、リスク判定部73は、リスク閾値を引き上げる制御を実施する。交差点から離れた状態では、変更前のリスク閾値が用いられるため、車両の進行方向左側にいる歩行者Peは、発光スポット51によって報知されるリスク対象として選定される。その結果、線状発光領域52のうちで歩行者Peの方向に該当する左位置53aに発光スポット51が発光表示される(時刻t1)。
その後、交差点への車両の接近により、運転者が方向指示器23を作動させると、方向指示器23の作動情報に基づいて、リスク判定部73がリスク閾値を引き上げる。これにより、歩行者Peは、発光スポット51による報知の対象から外される。その結果、左位置53aの発光スポット51の発光表示は、終了される(時刻t2)。
図11に示すレーンチェンジのシーンでも同様に、方向指示器23の作動情報に基づき、リスク判定部73は、リスク閾値を引き上げる制御を実施する。左車線へのレーンチェンジの実施以前では(時刻t1)、引き上げ前の通常のリスク閾値が用いられるため、車両の進行方向左側にいる歩行者Peは、線状発光領域52の左位置53aに表示された発光スポット51によって報知される。その後、方向指示器23がオン状態とされると、リスク閾値の引き上げにより、歩行者Peは、報知対象から除外される。これにより、左位置53aの発光スポット51の発光表示は、終了される(時刻t2)。
図12に示す交差点のシーンでは、歩行者Peの車両への接近に起因して、歩行者Peのリスクレベルが上昇する。その結果、方向指示器23の作動に伴う発光スポット51の消灯後(時刻t2)に、歩行者Peは、発光スポット51にて報知されるリスク対象に再び選定される。ここで、歩行者Peは、旋回予定である車両の予定進路の外周側に位置し、左折後の車両に対して、右側から接近する。即ち、運転者から見た歩行者Peの方向は、交差点に進入するまでの旋回前の状態(時刻t3)と、交差点での旋回後の状態(時刻t4)とで異なってくる。
そこで、発光スポット51の再表示の際に、リスク対象が車両の予定進路の外周側に位置している場合には、発光制御部78は、線状発光領域52の中央位置53cに発光スポット51を表示する(時刻t3)。その後、車両の歩行者Peへの接近により、歩行者が車両の右方向に位置したタイミングで、発光制御部78は、発光スポット51を中央位置53cから右位置53bへと遷移させる(時刻t4)。尚、車両の予定進路は、ナビゲーションシステムに設定された目的地までの経路であってもよく、車速情報及び舵角情報を用いて推定される上述の予定走行軌跡PPであってもよい。
一方、図13に示す交差点のシーンでの歩行者Peは、旋回予定である車両の予定進路の内周側に位置し、左折後の車両に対して左側から接近する。こうしたシーンでは、運転者から見た歩行者Peの方向は、交差点に進入するまでの旋回前の状態(時刻t3)と、交差点での旋回後の状態(時刻t4)とで一致している。故に、発光制御部78は、変更後のリスク閾値を歩行者Peのリスクレベルが超えたタイミングで、発光スポット51を左位置53aに表示させる(時刻t3)。発光スポット51の表示位置は、交差点での旋回後も左位置53aに維持される(時刻t4)。
ここまで説明した方向指示器23の作動に伴ってリスク閾値を変更する情報提示処理の詳細を、図14に示すフローチャートに基づき、図9及び図3を参照しつつ説明する。図14に示す情報提示処理は、例えば地図情報に基づき、交差点の近傍及び複数車線の道路を走行している場合等に、主にHCU60によって繰り返し実施される。
S201及びS202では、S101及びS102(図6参照)と同様に、情報統合ECU31によって演算されたリクス対象の監視情報を取得し、S203に進む。S203では、車両の位置情報、速度情報及び舵角情報等に加えて、方向指示器23の作動情報をさらに取得し、S204に進む。S204では、S105(図6参照)と同様に、速度情報及び舵角情報を少なくとも用いて予定走行軌跡を推定し、S205に進む。
S205では、S203にて取得した作動情報に基づき、方向指示器23がオン状態に切り替えられたか否かを判定する。S205にて、方向指示器23の点滅が開始されていると判定した場合、S206に進む。S206では、リスク対象を選別するリスク閾値であって、S209にて参照されるリスク閾値を引き上げる変更を行い、S207に進む。
一方、S205にて、方向指示器23がオフ状態のままであると判定した場合、リスク閾値を変更することなく、S207に進む。S207〜S210では、S107〜S110(図6参照)と同様に、報知対象とするリスク対象を選定し、運転者から見たリスク対象の方向に、リスク対象の種別に応じた態様の発光スポット51を表示させる。
次の図15に示すシーンでは、車両の走行に伴い、車両と歩行者Peとの間に遮蔽物Sが一時的に発生している。こういったシーンにて、周辺監視システム30から取得する監視情報を正しく反映してしまうと、発光スポット51の点灯と消灯とが繰り返されてしまう。こうした発光スポット51の点滅は、運転者にとって煩わしい表示となる。
そこで、発光制御部78は、リスク判定部73にてリスク対象がなくなったと判定された場合(時刻t2)でも、発光スポット51を直ちに消さずに、予め規定された猶予時間(例えば1秒程度)、同じ点灯位置にて、発光スポット51の発光状態を維持させる。その結果、周辺監視システム30による歩行者Peの認識が回復するタイミング(時刻t3)にて、情報提示は、リスク判定部73の判定結果に基づき発光スポット51を表示させた状態に復帰する。
以上によれば、周辺監視システム30の認識性能の限界付近でリスク対象の検出が実施されているシーン等で、歩行者Peを一時的に認識できなくなる状態が頻発しても、発光スポット51の点灯及び消灯の繰り返しは、発生しなくなる。故に、発光スポット51によって報知中のリスク対象が選定から外れた後も、発光スポットの発光表示を猶予時間継続だけ発光スポット51の表示を継続する制御は、煩わしさの低減に有効となる。
ここまで説明した発光スポット51の点灯状態を猶予時間に維持させる情報提示処理の詳細を、図16に示すフローチャートに基づき、図15及び図3を参照しつつ説明する。図16に示す情報提示処理は、多数の遮蔽物Sの点在又は気象条件の悪化等により、周辺監視システム30の認識状態が良好でない場合等に、主にHCU60によって繰り返し実施される。
S301〜S303では、S201〜S203(図12参照)と同様に、情報統合ECU31によって演算されたリクス対象の監視情報を取得し、車両の予定走行軌跡を推定して、S304に進む。S304では、S107(図6参照)と同様に、S303にて推定した予定走行軌跡上又は予定走行軌跡の近傍にリスク対象がいるか否かを判定する。S304にて、リスク対象がいると判定した場合のS305〜S307では、S107〜S110(図6参照)と同様に、報知対象とするリスク対象を選定し、運転者から見たリスク対象の方向に、リスク対象の種別に応じた態様の発光スポット51を表示させる。
一方、S304にて、リスク対象がいないと判定した場合のS308では、リスク対象が消失した後の経過時間と、猶予時間とを比較する。S308にて、リスク対象の消失から猶予時間以上が経過していると判定した場合、S301に戻る。以上により、発光スポット51の表示が終了される。
対して、S308にて、リスク対象の消失から猶予時間が経過していないと判定した場合、S309に進む。S309では、発光スポット51の表示を継続させつつ、S301に戻る。S308及びS309の処理により、リスク対象が報知の選定から外れた後も猶予時間が過ぎるまでは、発光スポット51の点灯状態が維持される。
次の図17に示すシーンでは、直線状の道路を走行している車両の前方に、歩行者Peが存在している。歩行者Peは、車両に対して遠方に位置している。仮に、歩行者Peに追従するよう発光スポット51を自由に移動させた場合、車両及び歩行者Peの挙動、並びに外界センサの認識誤差等に起因し、発光スポット51は、微小な移動を繰り返し得る。さらに、車両の歩行者Peへの接近に伴い、発光スポット51は、左右いずれかの一方に高速で移動する。こうした動きは、運転者に煩わしく感じられ易い。そのため、上述したように、線状発光領域52を三分割した中央位置53c、左位置53a及び右位置53bのいずれかのうちで、発光スポット51を移動させるのが望ましい。
こうした線状発光領域52の三分割を前提とした情報提示として、発光制御部78は、予め規定した離間閾値よりも遠方の歩行者Peに対し、左位置53a及び右位置53bへの発光スポット51の表示を実施しない。発光制御部78は、歩行者Peまでの距離が離間閾値を超える場合に、車両に対する歩行者Peの左右の相対位置に係らず、歩行者Peを示す発光スポット51の表示位置を、中央位置53cに決定する(時刻t1)。
そして発光制御部78は、車両が歩行者Peに十分に近づき、車両から歩行者Peまでの距離が離間距離以下となった場合に(時刻t2)、車両に対するリスク対象の左右の相対位置に合わせて、中央位置53cから左位置53aに発光スポット51を遷移させる。以上のように、左位置53a及び右位置53bのうちで歩行者Peの位置する一方へ、発光スポット51を中央位置53cから遷移させるだけの動きであれば、運転者の受容性が高く維持され得る。尚、離間距離は、一例として、レーダユニット33等の距離を計測する外界センサが歩行者Pe等のリスク対象を高い正確性を持って検出可能な距離に設定される。具体的には、離間距離は10m程度に設定される。
また図18に示すカーブのシーンでも、遠方の歩行者Peを中央位置53cの発光スポット51で報知する提示方法が有効となる。詳記すると、歩行者Peがカーブの外周側にいる場合、運転者から見える遠方の歩行者Peの方向(例えば正面〜左方向)は、歩行者Peを横切るタイミングでの方向(例えば右方向)と異なってくる。こうしたシーンでも、車両が歩行者Peから離間閾値を超えて離れている状態で、発光スポット51を中央位置53cに表示させれば、発光スポット51は、遠方にいる歩行者Peを運転者に注意喚起できる(時刻t1)。
そして、車両から歩行者Peまでの距離が離間閾値以下となったタイミングで、発光制御部78は、中央位置53cの発光スポット51を右位置53bに遷移させる(時刻t2)。以上によれば、運転者から見た左右の逆方向に発光スポット51を提示してしまう事態は、防がれる。
さらに図19に示すような図5と同様の低速走行中のシーンでも、遠方の歩行者Peを中央位置53cの発光スポット51で報知する提示方法は、有効となる。詳記すると、障害物Bを回避している時点で、発光スポット51は、中央位置53cに提示される(時刻t2)。そして、障害物Bの回避後、車両から歩行者Peまでの距離が離間閾値以下となったタイミングで、発光スポット51は、中央位置53cから左位置53aへと移動する(時刻t3)。こうした提示であれば、発光スポット51は、リスク対象の左右の位置を誤りなく示すことができる。
以上のように、中央位置53cに発光スポット51をまず表示させる情報提示処理の詳細を、図20に示すフローチャートに基づき、図19及び図3を参照しつつ説明する。図20に示す情報提示処理は、主にHCU60によって繰り返し実施される。
S401〜S403では、S301〜S303(図16参照)と同様に、情報統合ECU31によって演算されたリクス対象の監視情報を取得し、車両の予定走行軌跡を推定して、S404に進む。S404〜S406では、S304〜S306(図16参照)と同様に、報知対象とするリスク対象を選別し、S407に進む。
S407では、S104(図6参照)と同様に、S403にて取得した速度情報に基づき、現在の車両の走行速度が低速閾値を下回るか否かを判定する。車両の走行速度が低速閾値以上であると判定した場合、S407からS410に進む。一方、車両の走行速度が低速閾値未満であると判定した場合、S407からS408に進む。
S408では、車両からリスク対象までの相対距離と離間閾値とを比較する。S408にて、相対距離が離間閾値を超えていると判定した場合、S409に進む。S409では、リスク対象の方向に係らず、リスク対象の種別に応じた発光スポット51を中央位置53cに表示させ、S401に戻る。一方、S408にて、相対距離が離間閾値以下であると判定した場合、S410に進む。S410では、運転者から見たリスク対象の方向に、発光スポット51を表示させ、S401に戻る。
尚、上記の情報提示処理にて、低速走行中か否かを判定するS407の低速判定は、省略可能である。S407の省略によれば、車両の走行速度に係らず、遠方に位置するリスク対象は、中央位置53cに表示された発光スポット51によって報知される。
次の図21に示すシーンでは、車両の前方を歩行者Peが横断している。ここで、車両が歩行者Peの近傍に到達する頃、この歩行者Peは、既に車両の前方を通り過ぎてしまう。こうした歩行者Peに対する警告は、運転者に煩わしく感じられ易い。故に、予測進路の右側にいる歩行者Peが右方向に移動しているケース(時刻t2)での発光スポット51による提示は、中止されるか、又は予測進路の左側にいる歩行者Peが右方向に移動しているケース(時刻t1)よりも弱められるのが望ましい。同様に、予測進路の左側にいる歩行者Peが左方向に移動しているケースでの発光スポット51による提示は、中止されるか、又は予測進路の右側にいる歩行者Peが左方向に移動しているケースよりも弱められるのが望ましい。
以上のように、リスク対象の位置と移動方向とを鑑みて報知を抑制する情報提示処理の詳細を、図22に示すフローチャートに基づき、図11及び図3を参照しつつ説明する。図22に示す情報提示処理は、主にHCU60によって繰り返し実施される。
S501〜S502では、S301〜S303(図16参照)と同様に、情報統合ECU31によって演算されたリクス対象の監視情報を取得し、車両の予定走行軌跡を推定して、S504に進む。
S504では、S503にて取得した監視情報に基づき、リスク対象の相対位置と移動方向を判定する。S504にて、リスク対象が予測進路の右側に位置し、且つ、右方向に移動していると判定した場合、S501に戻る。加えて、リスク対象が予測進路の左側に位置し、且つ、左方向に移動していると判定した場合もS501に戻る。こうした処理により、車両に対して右側に位置し、且つ、右方向に移動するリスク対象、及び車両に対して左側に位置し、且つ、左方向に移動するリスク対象について、発光制御部78は、発光スポット51による報知を中止可能である。
一方で、リスク対象の左右の相対位置と左右の移動方向とが一致していない場合には、S504からS505に進む。S505〜S508では、S304〜S307(図16参照)と同様に、報知対象とするリスク対象を選別し、運転者から見たリスク対象の方向に、リスク対象の種別に応じた発光スポット51表示させ、S501に戻る。
次の図23に示すシーンでは、歩行者Peが車両の前方を横断している。上述したように、発光制御部78は、中央位置53cから左位置53a又は右位置53bに遷移させた発光スポット51を、中央位置53cに再び戻す制御を禁止している。そのため、発光制御部78は、車両の予定進路に接近するリスク対象がいる場合に、このリスク対象の移動に追従させて、発光スポット51をリスク対象の移動方向に延伸させる。
具体例である図23のシーンにて、歩行者Peは、車両の前方を左から右に横断しようとしている。発光制御部78は、左位置53aに発光スポット51を表示したうえで、歩行者Peの移動方向に合わせて、発光スポット51を右方向に拡大させる。同様に、車両の前方を右から左に横断しようとしている歩行者Peがいる場合には、発光制御部78は、右位置53bに表示させた発光スポット51を左方向に拡大させる。発光制御部78は、線状発光領域52の中央へ向けて延伸する発光スポット51の動きを繰り返すことで、歩行者Peの実際の移動方向を運転者に直感的に示すことができる。
次の図24に示すシーンでは、歩行者Peが車両の前方の左右両側に存在している。このように、周辺監視システム30にて、車両の予定進路の両側に歩行者Peが認識された場合、発光制御部78は、線状発光領域52の左位置53a及び右位置53bの両方に、発光スポット51を表示させる。或いは発光制御部78は、線状発光領域52の全体を発光させる。
次の図25では、静止した歩行者Peを示す発光スポット51と、車両の前方を横断している移動中の歩行者Peを示す発光スポット51とが比較されている。このように、車両に対するリスク対象の相対位置が同じであっても、移動速度が速いか遅いか、歩行者か自転車か或いは動物か等により、運転者の回避方法は、それぞれ異なってくる。故に、例えば、移動している歩行者Peを報知する発光スポット51は、静止している歩行者Peを報知する発光スポット51よりも、運転者から見て目立つように提示される。具体的には、発光色の変更、発光輝度の上昇、発光サイズの拡大及び点滅の実施等により、発光制御部78は、移動しているリスク対象を示す発光スポット51を、静止しているリスク対象を示す発光スポット51よりも目立たせている。
次の図26では、左側通行の道路を走行中の車両にて、左側から車両の前方を横切る歩行者Peを示す発光スポット51と、右側から車両の前方を横切る歩行者Peを示す発光スポット51とが比較されている。左側通行の道路に車両がいる場合、運転者は、一般的に、左側の歩道から横断する歩行者に対し、ある程度の注意を払っている。一方で、運転者は、右側から接近する歩行者Peに対しては、警戒を怠る傾向にある。故に、発光制御部78は、右側から横断するリスク対象に対しては、左側から横断するリスク対象よりも発光スポット51を強調して呈示し、右側のリスク対象を早めに気付かせることができる。
尚、左側通行の道路環境とは逆に、右側通行の道路環境においては、車両の前方を右側から左側に横断しているリスク対象を報知する発光スポット51よりも、左側から右側に横断しているリスク対象を報知する発光スポット51が、強調した態様で表示される。
さらに、発光制御部78は、車両の周囲の外光環境に応じて、発光スポット51の発光輝度等を調整可能である。例えば昼間等の周辺が明るい外光環境下では、発光スポット51の輝度を明るくしないと、運転者は、発光スポット51の点灯を見逃し易くなる。一方で、トンネル走行時及び夜間等の暗い外光環境下では、発光スポット51は、低輝度であっても、運転者に十分に知覚され得る。
そのため図27に示す輝度調整処理がHCU60によって実施される。輝度調整処理では、照度情報が情報取得部71にて取得されると(S601)、取得された照度情報に応じて、発光制御部78が発光スポット51の発光輝度を自動的に調整する(S602)。発光制御部78は、車両の周囲の照度が高くなるに従って、発光スポットの発光輝度を高く調整し、車両の周囲が暗い場合には、発光スポット51が運転者に眩しく感じられないように、発光輝度の抑制を図る。こうした輝度調整処理は、車両の電源がオン状態に切り替えられたことに基づき、HCU60によって繰り返し実施される。
さらに、逆光時、及び対向車のヘッドライトの中にリスク対象が存在する場合、運転者は、こうしたリスク対象を見落とし易い。そのため図28に示す逆光補正処理がHCU60によって実施される。逆光補正処理では、照度情報が情報取得部71にて取得されると(S701)、取得された照度情報に基づき、逆光判定部76が、太陽又は対向車の前照灯等により、運転者から見たリスク対象が逆光の状態であるか否かを判定する(S702)。運転者から見て、リスク対象が逆光の状態にない場合、発光制御部78は、通常発光モードを採用し、基準となる発光態様にて、発光スポット51を表示させる(S703)。
一方で、太陽又は前照灯等により、運転者から見てリスク対象が逆光の状態にある場合、発光制御部78は、強調発光モードを採用し、通常発光モードよりも強調された発光態様で発光スポット51を表示させる(S704)。強調発光モードでは、発光輝度及び発光色の彩度等が、通常発光モードよりも高く調整される。
尚、照度情報は、フロントカメラユニット32の制御情報に基づく情報でなくてもよい。照度情報は、車載センサの一つとして設けられた照度計24(図27参照)等により計測され、車両システム20からHCU60に提供される情報であってもよい。
ここまで説明した本実施形態では、車両が低速で走行している場合、発光スポット51の位置は、舵角情報を用いた予定走行軌跡PPに替えて、車両の向きに対するリスク対象の左右の位置に基づき、決定される。故に、低速で運転者が大きな操舵操作を行った状況でも、運転者から見た発光スポット51の方向は、リスク対象の方向と大きく異ならない。
加えて本実施形態では、車両の方向指示器23がオン状態とされた場合、リスク対象を選定するリスク閾値が上げられる。故に、車両が右左折するシーン又は車線変更するシーン等では、リスクレベルの高くないリスク対象は、発光スポット51によって提示されなくなる。こうした制御であれば、リスク対象の左右の相対位置が変動し易い状況にて、リスク対象と大きく異なる方向に発光スポット51を表示させてしまう事態は、回避される。
また本実施形態では、周辺監視システム30の性能不足又は遮蔽物Sの存在等に起因し、リスク対象が継続して存在しているにも係らず、当該リスク対象を検出困難な状況が一時的に生じても、発光スポット51は、消されることなく発光表示され続ける。そして、猶予時間の経過前に周辺監視システム30がリスク対象を検出可能な状態に回復すれば、発光スポット51は、継続的に表示された状態を維持できる。以上によれば、不正確な監視情報の影響等で発光スポット51が頻繁に点滅する事態は、防がれ得る。
さらに本実施形態では、車両からのリスク対象までの距離が離間閾値以上である場合、線状発光領域52の中央位置53cに発光スポット51が表示される。故に、車両がカーブを走行するシーン又は低速で障害物を避けながら走行するシーン等にて、発光スポットの位置が左右に頻繁に変化してしまう事態は、防がれ得る。
以上によれば、発光スポットによるリスク対象の提示は、運転者に煩わしく感じられ難くなる。したがって、発光スポット51を用いた情報提示は、運転者にとって受容性の高い情報提示となる。
加えて本実施形態では、方向指示器23がオン状態とされた後、車両の予定進路に対して外周側にリスク対象が検出されている場合、リスク対象を示す発光スポット51は、線状発光領域52の中央位置53cに一旦表示される(図12参照)。こうした情報提示によれば、運転者から見たリスク対象の方向がリスク対象へ接近によって左右で入れ替わるようなシーンでも、発光スポット51は、違和感なくリスク対象の存在を運転者に示すことができる。
さらに本実施形態では、リスクレベルの高いリスク対象を報知する発光スポット51ほど、発光輝度及び発光色等の変更により、誘目性が高くされる。こうした制御によれば、リスクレベルの高いリスク対象が、運転者に分かり易く提示され得る。
加えて本実施形態では、発光スポット51の表示位置が、中央位置53c、左位置53a及び右位置53bに絞られている。こうした設定によれば、発光スポット51を用いた情報提示が簡素化され得る。その結果、自車両及びリスク対象の挙動、並びに外界センサの認識誤差等に起因し、発光スポット51の位置が微小に変動してしまう等の事態は、生じ難くなる。したがって、運転者にとって理解し易い情報提示が実現される。
また本実施形態では、車両の左右両側にリスク対象がそれぞれ存在する場合には、左位置53a及び右位置53bの両方に発光スポット51が表示される。又は、線状発光領域52の全体が発光する(図24参照)。こうした処理により、リスクレベルの順位の頻繁な入れ替わりに起因した発光スポット51の点灯位置の頻繁な変動が防がれる。その結果、運転者にとって受容性の高い情報提示が実現される。
さらに本実施形態では、車両が低速で走行中であり、且つ、リスク対象が遠方である場合に、リスク対象の左右の相対位置に係らず、発光スポット51が中央位置53cに表示される(図19参照)。このように、発光スポット51を中央位置53cに一旦表示する制御を低速走行時に限定すれば、中央位置53cでの発光スポット51の待機時間が確保される。以上によれば、中央位置53cから左位置53a又は右位置53bに遷移する発光スポット51の動きは、運転者によって分かり易いものとなる。
加えて本実施形態では、発光スポット51の中央位置53cへの戻りが禁止されている。以上によれば、発光スポット51の頻繁な移動が抑制される。その結果、運転者の煩わしさの低減が可能になる。
また本実施形態では、リスク対象の左右方向の移動が、発光スポット51の移動ではなく、発光スポット51の形状変化によって示される。こうした提示方法であれば、発光スポット51の移動による表示の煩わしさを低減しつつ、リスク対象の移動を運転者に提示することが可能なる。
さらに本実施形態では、車両に対して右側に位置し、右方向に移動するリスク対象と、車両に対して左側に位置し、左方向に移動するリスク対象は、報知されない。このように、車両から遠ざかっているリスク対象を報知の対象から除外すれば、いっそうの煩わしさの低減が可能になる。
加えて本実施形態では、ガードレールGRを挟んだ歩道等、車両の走行しない走行可能領域外のリスク対象の報知は、実施されない(図7参照)。このように、走行可能領域の外に存在するリスク対象の報知を中止すれば、情報提示に伴う煩わしさは、いっそう低減可能となる。
また本実施形態では、車両の周囲の照度に応じて、発光スポット51の発光輝度が自動的に調整される。以上のように、発光スポット51の発光輝度が適切に維持されれば、運転者の煩わしさは、いっそう抑制され得る。
さらに本実施形態では、リスク対象の視認が難しくなる逆光の状態では、発光スポット51が強調される。故に、発光スポット51による情報提示は、運転者によるリスク対象の見落とし低減に、効果的に寄与し得る。以上によれば、運転者は、リスク対象を円滑に回避できるようになる。
加えて本実施形態では、左側通行の道路環境にて、右側から左側に横断しているリスク対象を報知する発光スポット51が強調される(図26参照)。一方、右側通行の道路環境では、左側から右側に横断しているリスク対象を報知する発光スポット51が強調される。以上のように、見逃しやすい傾向のある方向から来るリスク対象を強調すれば、発光スポット51を用いた情報提示は、リスク対象の回避にさらに有効に寄与し得る。
また本実施形態では、リスク対象の種別が発光スポット51の発光態様で示される。その結果、運転者は、リスク対象についての情報を素早く把握可能になる。故に、発光スポット51を用いた情報提示は、運転者にとってさらに有用となる。
尚、上記実施形態において、周辺監視システム30が「周辺監視装置」に相当し、線状発光領域52が「発光領域」に相当し、情報取得部71が「監視情報取得部」,「車両情報取得部」及び「照度取得部」に相当し、HCU60が「情報提示装置」に相当する。
(他の実施形態)
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
上記実施形態の変形例1では、発光装置40による情報提示に加えて、ヘッドアップディスプレイによる虚像表示、コンビネーションメータ内のアイコン表示等が、リスク対象の報知に併用される。加えて変形例1では、図29に示すように、スピーカ28を用いて再生する「飛び出し注意」等の音声案内が、リスク対象の報知に用いられる。以上によれば、歩行者Pe等の個々のリスク対象について、具体的にどのようなリスクがあるのかを、短時間で運転者に理解させることが可能になる。故に、情報提示に対する運転者の受容性をさらに高めることができる。
上記実施形態では、リスクレベルの判定により、リスクレベルの高いリスク対象だけが選択的に報知されていた。しかし、報知対象となるケースと、報知対象とならないケースとの差異が運転者にわかりづらい場合がある。その結果、リスク対象の選定について、運転者の納得感を得ることができずに、情報提示についての運転者の受容性が低くなる可能性がある。
また実際には、リスク対象の有無及び相対位置が認識できた後、しばらくしないと移動方向及び移動速度等は、認識されない。そのため、リスクレベルの高いリスク対象だけを報知しようとすると、報知のタイミングの遅れが生じ得る。故に、図30に示す変形例2では、周辺監視システムにて認識されたリスク対象のほとんどが、発光スポット51によって一旦報知される。その後、車両の前方を横断する歩行者Pe等、リスクレベルの上昇したリスク対象だけが、強調された態様の発光スポット51により、さらに報知される。こうした提示方法であれば、報知の遅れ及び受容性の低下は、防止可能となる。
例えば市街地及び通学路等には、多数の歩行者が纏まって存在している。こうしたシーンにて、個々の歩行者を個別に報知しようとすると、発光スポット51による情報提示は、煩わしい態様になり易い。そのため、多数のリスク対象が存在する場合、具体的には、所定の時間閾値(例えば5秒程度)内に所定の対象閾値(例えば3人程度)を超える数のリスク対象が存在する場合、発光制御部78は、多数のリスク対象を報知するのに好適な提示方法を選択する。
一例として、発光制御部78は、時間閾値内に対象閾値を超える数のリスク対象が存在する場合には、対象閾値以下のリスク対象しか存在しない場合と比較して、発光スポット51の発光態様を、誘目性の低い態様に変更する。誘目性の引き下げは、発光輝度の抑制又は発光色の彩度の低下等によって実現される。こうした処理によれば、進行方向に注意を向ける必要のある運転者の視線を、発光スポット51に誘目してしまう事態は、回避される。
また別の一例として、発光制御部78は、時間閾値内に対象閾値を超える数のリスク対象が存在する場合に、発光スポット51による情報提示を中止させるか、又は、中央位置53cへの発光スポット51の表示を中止させる。多数のリスク対象が存在する場合、運転者は、リスク対象を考慮した運転を既に実施している筈である。故に、発光スポット51を消灯させる処理は、運転者の煩わしさ低減に有効となる。
また別の一例として、時間閾値内に対象閾値を超える数のリスク対象が存在する場合には、上述したように、リスク判定部73がリスク閾値を引き上げてもよい。こうした処理によれば、報知対象となるリスク対象が限定され得る。故に、情報提示の煩わしさが低減され、運転者は、リスクレベルの高いリスク対象を優先的に知覚できるようになる。
上記実施形態にて、インスツルメントパネルに設けられていた線状発光領域の位置は、適宜変更可能である。例えば線状発光領域は、コンビネーションメータ及びCIDの下方に配置可能である。さらに発光装置は、ウインドシールドの下縁部に投影した射出光を当該下縁部にて反射させることにより、虚像として結像された発光スポットを運転者に視認させる構成であってもよい。こうした構成であれば、「発光領域」は、ウインドシールドの下縁部に規定される。
さらに、ウインドシールドの上側に、幅方向WDに延伸する線状発光領域が設けられてもよい。加えて線状発光領域は、インスツルメントパネルからさらに両側へ延伸しており、左右の各ドア部分に設けられていてもよい。また、複数の発光領域が、互いに離間した状態で、幅方向WDに並べられていてもよい。さらに、個々の発光領域の形状は、線状に限定されず、適宜変更されてよい。
上記実施形態では、線状発光領域を三つの領域に分割した設定を前提として、発光スポットの位置を遷移させる制御が実施されていた。しかし、発光スポットの遷移は、上記の分割設定を前提とせずに実施されてもよい。さらに、三つ以上の領域に線状発光領域を分割したうえで、発光スポットの遷移が制御されてもよい。
上記実施形態では、種々のシーンにて有効に機能する複数の情報提示処理の詳細を説明した。HCUは、これら複数のうちの一部の情報提示処理のみを実行可能であってもよい。さらに、HCUは、複数の情報提示処理の一つのみしか実行できなくてもよい。
上記実施形態において、HCUによって提供されていた機能は、上述のものとは異なるハードウェア及びソフトウェア、或いはこれらの組み合わせによっても提供可能である。さらに、情報提示プログラムを格納する記憶部には、種々の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)が採用可能である。こうした非遷移的実体的記憶媒体は、フラッシュメモリ、ハードディスク及び光学ディスク等の種々の不揮発性の記憶媒体であってもよく、又はRAM等の揮発性の記憶媒体であってもよい。また上記の記憶媒体は、HCU等の制御装置に設けられた記憶部に限定されず、当該記憶部へのコピー元となる光学ディスク及び汎用コンピュータのハードディスクドライブ等であってもよい。