JP6959632B2 - 筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症の予防又は治療剤 - Google Patents

筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症の予防又は治療剤 Download PDF

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Description

本発明は、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)又は前頭側頭型認知症(以下、FTD)の予防又は治療剤に関する。より具体的には、C9orf72遺伝子非翻訳領域内にあるGGGGCCリピート配列(以下、G4C2リピート配列)の異常伸長を病因とするALS又はFTDに対して、効果的な予防又は治療効果を奏する、当該疾患の予防又は治療剤に関する。
筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭型認知症(以下、ALS/FTD)は、遺伝的特性及び神経病理学的特性において共通性を有する難治性の神経変性疾患である。C9orf72遺伝子の非翻訳領域におけるG4C2リピート配列の異常伸長は、家族性及び孤発性ALS/FTDにおける最も高頻度な原因遺伝子異常として同定されている(非特許文献1及び2参照)。
G4C2リピート配列の異常伸長に起因するALS/FTD患者脳では、C9orf72変異遺伝子から転写された異常伸長リピートRNAがRNA凝集体(以下、RNA foci)を形成している(非特許文献1及び2参照)。また、当該ALS/FTD患者脳には、リピート関連非ATG翻訳(以下、RAN翻訳)によって当該リピートRNAから生じたジペプチドリピートタンパク質(以下、DPRs)が凝集体を形成していることも明らかにされている(非特許文献3〜5)これらの異常伸長リピートRNA及びDPRsは、神経変性の原因と考えられているが、ALS/FTDの病因となる分子メカニズムについては、依然として十分に解明されていない。
従来、C9orf72遺伝子の非翻訳領域におけるG4C2リピート配列由来のRNAに対して翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下、ASO)が同定されている(非特許文献6〜8)。また、従来、当該G4C2リピート配列に結合する化合物についても同定されている(非特許文献9)。しかしながら、これらのASOや化合物では、動物モデルにおいて実際にALS/FTDの治療効果を確認されておらず、G4C2リピート配列の異常伸長に起因するALS/FTDに対して卓効を示す治療薬候補が見出されていないのが現状である。
DeJesus-Hernandez, M. et al. Expanded GGGGCC hexanucleotide repeat in noncoding region of C9ORF72 causes chromosome 9p-linked FTD and ALS. Neuron 72, 245-56 (2011). Renton, A.E. et al. A hexanucleotide repeat expansion in C9ORF72 is the cause of chromosome 9p21-linked ALS-FTD. Neuron 72, 257-68 (2011). Ash, P.E. et al. Unconventional translation of C9ORF72 GGGGCC expansion generates insoluble polypeptides specific to c9FTD/ALS. Neuron 77, 639-46 (2013). Mori, K. et al. The C9orf72 GGGGCC repeat is translated into aggregating dipeptide-repeat proteins in FTLD/ALS. Science 339, 1335-8 (2013). Zu, T. et al. RAN proteins and RNA foci from antisense transcripts in C9ORF72 ALS and frontotemporal dementia. Proc Natl Acad Sci U S A 110, E4968-77 (2013). Donnelly, C. J. et al. RNA toxicity from the ALS/FTD C9ORF72 expansion is mitigated by antisense intervention. Neuron 80, 415-428 (2013). Lagier-Tourenne, C. et al. Targeted degenerateon of sense and antisense C9orf72 RNA foci as therapy for ALS and frontotemporal degenerateon. Proc Natl Acad Sci U S A 110, E4530-9 (2013). Sareen, D. et al. Targeting RNA foci in iPSC-derived motor neurons from ALS patients with a C9ORF72 repeat expansion. Sci Transl Med 5, 208ra149 (2013). Su, Z. et al. Discovery of a biomarker and lead small molecules to target r(GGGGCC)-associated defects in c9FTD/ALS. Neuron 83, 1043-50 (2013).
本発明の目的は、ALS又はFTDに対して優れた薬効を示す予防又は治療剤を提供することである。
本発明者等は、先ず、G4C2リピート配列の異常伸長によって引き起こされるALS/FTDの病態メカニズムを解明すべく、複眼及び神経系で異常伸長したG4C2リピート配列を発現するショウジョウバエを作成し、当該ショウジョウバエが、(i)強度の複眼神経変性を呈すること、(ii)成虫までの生存率が低下し、成虫の寿命が短縮すること、(iii)進行性運動障害を呈すること、及び(iv)G4C2リピート配列がリピートRNAに転写され、さらにDPRsにRAN翻訳されていること、を確認し、ALS/FTDの病態を示すモデル動物として使用できることを見出した。
更に、当該ショウジョウバエにおいて、RNA結合タンパク質であるFUSタンパク質を発現させることによって、複眼神経変性の抑制、運動障害の抑制、及びDPRsへのRAN翻訳抑制が認められ、ALS/FTDの症状が改善できることを確認した。即ち、FUSタンパク質は、ALS/FTDに対して優れた予防又は治療効果を奏することを見出し、FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及び/又はFUSタンパク質の産生促進物質は、ALS/FTDの予防又は治療剤として有用であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、ALS又はFTDの予防又は治療剤。
項2. 家族性のALS、又は家族性のFTDに対して適用される、項1に記載の予防又は治療剤。
項3. ALS又はFTDにおける神経変性又は運動障害の改善のために使用される、項1又は2に記載の予防又は治療剤。
項4. 前記有効成分が、FUSタンパク質、又はFUSタンパク質をコードしているDNA分子である、項1〜3のいずれかに記載の予防又は治療剤。
項5. FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、異常伸長したGGGGCCリピート配列に起因するタンパク質の翻訳抑制剤。
本発明によれば、異常伸長したG4C2リピート配列から転写されたリピートRNAにFUSタンパク質を結合させることにより、神経変性や運動障害等のALS/FTDの病態を改善することができる。従来、異常伸長したG4C2リピート配列に起因するALS/FTDは、有効な治療法が確立されておらず、更に、近年、高齢化社会の到来によって、加齢に伴って発症するALS/FTDの患者は増大しており、これらの治療法の確立は喫緊の課題となっているが、本発明は、初めてALS/FTDの治療効果を生体内で示しており、ALS/FTDの新規治療法として有用である。
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W)、及び(G4C2)89(S))を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡にて観察した結果である。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W))又は正常なG4C2リピート配列((G4C2)9)を発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、成虫までの生存率(A)及び寿命(B)を評価した結果である。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W))又は正常なG4C2リピート配列((G4C2)9)を発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、クライミングアッセイを行った結果である。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼の成虫原基において、当該リピート配列から転写されたRNA、及びDPRs(ポリ(GR)、ポリ(GA)、及びポリ(GP))をFISH及び免疫染色にて分析した結果である。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))又はEGFPと共に、FUS、ILF2、又はhnRNPKを発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡にて観察した結果を示す。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50)と共に、FUS又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、クライミングアッセイを行った結果を示す。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))と共に、FUS、FUS-RRMmut、又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、複眼を光学顕微鏡にて観察した結果及び複眼のサイズを測定した結果を示す。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))と共に、FUS、FUS-RRMmut、又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼の成虫原基において、DPRs(ポリ(GR)、ポリ(GA)、及びポリ(GP))を免疫染色した結果(A)、各DRPsの凝集体数を測定した結果(B)、並びにポリ(GP)量をELISA法にて測定した結果(C)を示す。 異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))又はEGFPを発現し、且つcaz2変異が導入されているトランスジェニックショウジョウバエについて、複眼を光学顕微鏡にて観察した結果及び複眼のサイズを測定した結果を示す。
本書において、「(G4C2)n」という表記は、GGGGCCがn個繰り返し連結しているG4C2リピート配列を示す。また、「ポリ(GR)」、「ポリ(GA)」、及び「ポリ(GP)」は、それぞれ、グリシン−アルギニン、グリシン−アラニン、及びグリシン−プロリンのジペプチド単位を含むDPRsを示す。
1.ALS又はFTDの予防又は治療剤
本発明の予防又は治療剤は、ALS又はFTDの予防又は治療に使用される薬剤であって、FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明について、詳述する。
有効成分
本発明では、FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として使用する。
(FUSタンパク質)
FUSタンパク質は、それ自体、ALS/FTDにおいて、神経変性の抑制、進行性運動障害の抑制、DPRsへのRAN翻訳抑制等の作用を発揮するため、ALS又はFTDの予防又は治療剤の有効成分として使用できる。
FUSタンパク質は、ALS6、ETM4、HNRNPP2、POMP75、TLS等とも称され、RNA結合タンパク質として公知のタンパク質である。
本発明で使用されるFUSタンパク質としては、具体的には、ヒトFUSタンパク質、そのオルソログ、及びそれらの変異体が挙げられる。
ヒトFUSタンパク質については、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質が知られている。
FUSタンパク質のオルソログとしては、特に制限されないが、例えば、ラット、ハムスター、モルモット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ等の哺乳動物;ニワトリ、ダチョウ等の鳥類 ; サケ、ナマズ等の魚類等に由来するものが挙げられる。FUSタンパク質は、投与対象となる生物種に応じて、その由来を適宜設定すればよい。
FUSタンパク質の変異体としては、G4C2リピート配列から転写されたリピートRNAに対する結合能を保持していることを限度として特に制限されないが、具体的には、ヒトFUSタンパク質の変異体としては、以下に示す(i)及び(ii)の変異体が挙げられる。
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されてなり、且つ配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFUSタンパク質と同等のRNA結合能を有する、ヒトFUSタンパク質の変異体。
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して、配列同一性が85%以上であり、且つ配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFUSタンパク質と同等のRNA結合能を有する、ヒトFUSタンパク質の変異体。
前記(i)の変異体において、導入されるアミノ酸の改変は、置換、付加、挿入、及び欠失の中から1種類の改変のみ(例えば置換のみ)を含むものであってもよく、2種以上の改変(例えば、置換と挿入)を含んでいても良い。前記(i)のペプチドにおいて、導入される置換、付加、挿入又は欠失されるアミノ酸は、1個又は数個であればよく、例えば1〜30個又は1〜20個、好ましくは1〜15個、1〜10個、1〜8個、1〜5個、又は1〜4個、更に好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個或いは1個が挙げられる。
また、前記(ii)の変異体において、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する配列同一性は、85%以上であればよいが、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上が挙げられる。
ここで、前記(ii)の変異体において、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する配列同一性とは、配列番号1に示すアミノ酸配列と比較して算出される配列同一性である。また、「配列同一性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,p247-250,1999)により得られるアミノ酸配列の同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
また、前記(i)及び(ii)の変異体においてアミノ酸置換が導入されている場合、導入されるアミノ酸置換の態様として保存的置換が挙げられる。即ち、前記(i)及び(ii)の変異体におけるアミノ酸置換としては、例えば、置換前のアミノ酸が非極性アミノ酸であれば他の非極性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が非荷電性アミノ酸であれば他の非荷電性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が酸性アミノ酸であれば他の酸性アミノ酸への置換、及び置換前のアミノ酸が塩基性アミノ酸であれば他の塩基性アミノ酸への置換が挙げられる。
本発明において、「配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFUSタンパク質と同等のRNA結合能を有する」とは、RNA結合能が配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFUSタンパク質と同等であり、当該ヒトFUSタンパク質と同等のALS又はFTDに対する予防又は治療効果を奏することを意味する。
なお、配列番号1に示すアミノ酸配列(ヒトFUSタンパク質)において286位〜371位のアミノ酸残基は、RNA認識モチーフ領域を形成しているので、前記(i)及び(ii)の変異体では、当該RNA認識モチーフ領域には変異(置換、欠失、及び/又は挿入)が施されていないことが望ましい。
FUSタンパク質は、天然タンパク質であってもよいが、遺伝子工学的手法により製造された組換え体であってもよい。
(FUSタンパク質をコードしているDNA分子)
FUSタンパク質をコードしているDNA分子は、投与された生体内でFUSタンパク質を発現することにより、ALS又はFTDにおいて、神経変性の抑制、進行性運動障害の抑制、DPRsへのRAN翻訳抑制等の作用を発揮するため、ALS又はFTDの予防又は治療剤の有効成分として使用できる。
FUSタンパク質をコードしているDNA分子における塩基配列は公知であり、例えば、ヒトFUSタンパク質をコードしているDNA分子としては、配列番号2に示す塩基配列を含むDNA分子が挙げられる。また、ヒトFUSタンパク質をコードしているDNA分子の他の例としては、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFUSタンパク質と同等のRNA結合能を有し、且つ、配列番号2に示す塩基配列からなるDNA分子と相補的な塩基配列を含むDNA分子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA分子が挙げられる。
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、0.5% SDS、5×デンハルツ〔Denhartz's、0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1% ポリビニルピロリドン、0.1% フィコール400〕および100 μg/ml サケ***DNAを含む6×saline sodium citrate (SSC)(1×SSCは、0.15 M NaCl、0.015 M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃〜65℃で4時間〜一晩保温する条件をいう。
ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、具体的には、以下の手法によって行われる。即ち、DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを固定化したナイロン膜を作成し、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハルツ、100 μg/ml サケ***DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液中、65℃でナイロン膜をブロッキングする。その後、32Pでラベルした各プローブを加えて、65℃で一晩保温する。このナイロン膜を6×SSC中、室温で10分間、0.1% SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1% SDSを含む0.2×SSC中、45℃で30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとり、プローブと特異的にハイブリダイズしているDNAを検出する。
FUSタンパク質をコードしているDNA分子は、その塩基配列に基づいて、遺伝子工学的手法によって得ることができる。
また、FUSタンパク質をコードしているDNA分子は、生体内でFUSタンパク質を発現できるように、発現ベクターに組み込んで使用することが好ましい。
当該発現ベクターとしては、具体的には、プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が挙げられる。これらの中でも、ヒト等の哺乳動物を投与対象とする場合には、ウイルスベクターが好適である。
当該発現ベクターでは、FUSタンパク質をコードしているDNA分子が、投与対象となる生体内の細胞でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていればよい。発現ベクターに使用されるプロモーターは、投与対象である生体で機能可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、SV40由来プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来プロモーター等のウイルスプロモーター;β−actin遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、transferrin遺伝子プロモーター、nestin遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター等;Synapsin I、prion遺伝子プロモーター等の神経特異的遺伝子プロモーターが挙げられる。
当該発現ベクターは、FUSタンパク質をコードしているDNA分子の下流に転写終結シグナルを含んでいることが好ましい。更に、当該発現ベクターには、更に形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子含んでいてもよい。
(FUSタンパク質の産生促進物質)
FUSタンパク質の産生促進物質とは、生体内でFUSタンパク質の産生を促進させる物質である。当該産生促進物質は、投与された生体において、生体が本来有しているFUSタンパク質の産生能を向上させ、産生されたFUSタンパク質が、ALS又はFTDにおいて、神経変性の抑制、進行性運動障害の抑制、DPRsへのRAN翻訳抑制等の作用を発揮するため、ALS又はFTDの予防又は治療剤の有効成分として使用できる。
当該産生促進物質は、生体内でFUSタンパク質の発現を促進させることを限度として、FUSの転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化、及びフォールディング等のいかなる段階で作用するものであってもよい。
他の成分
本発明の予防又は治療剤は、前記有効成分の他に、ALS又はFTDの予防又は治療に有効な他の薬理活性成分を含んでいてもよい。
また、本発明の予防又は治療剤は、前記有効成分の他に、所望の投与形態及び製剤形態に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体としては、具体的には、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等の懸濁化剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール等の溶解補助剤;ヒト血清アルブミン、デキストラン、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等の安定化剤;ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等の吸着防止剤;ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;水、生理食塩水等の希釈剤;脂質;緩衝剤;乳化剤;着色料;着香料;甘味料等が挙げられる。
また、本発明の予防又は治療剤において、有効成分としてFUSタンパク質をコードしているDNA分子を使用する場合であれば、遺伝子治療剤において使用されるトランスフェクション試薬(リポソーム、ポリアミン等)が含まれていてもよい。
剤型
本発明の予防又は治療剤の剤型については、特に制限されず、使用する有効成分の種類や投与形態等に応じて適宜設定すればよい。本発明の予防又は治療剤の剤型として、具体的には、注射剤、シロップ剤、細胞懸濁液、リポソーム製剤等の液状製剤;錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、等の固形状製剤等が挙げられる。また、注射剤にする場合には、使用前に生理食塩水等で溶解する用時調製用粉末(例えば凍結乾燥粉末)の形態であってもよい。
投与対象
本発明の予防又は治療剤は、ALS又はFTDにおいて、神経変性、運動障害、及びDPRsへのRAN翻訳を抑制し、ALS又はFTDの症状を改善できるので、ALS又はFTD予防又は治療目的で使用される。
C9orf72遺伝子非翻訳領域内にあるG4C2リピート配列は、健常者において、2〜24回程度繰り返されている。一方、G4C2リピート配列の異常伸長によって発症するALS又はFTD患者においては、約30回以上、場合によっては数千リピート以上繰り返されている。本発明の予防又は治療剤は、このようなG4C2リピート配列の異常伸長によって発症するALS又はFTDに対して好適に使用される。とりわけ、家族性及び孤発性ALS又はFTDでは、G4C2リピート配列の異常伸長が高頻度で生じており、本発明の予防又は治療剤の好適な適用対象といえる。
本発明の予防又は治療剤において、投与対象となる生物は、ALS又はFTDに罹患している生物であればよく、ヒトの他、ラット、ハムスター、モルモット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ等の哺乳動物;ニワトリ、ダチョウ等の鳥類 ; サケ、ナマズ等の魚類等が挙げられる。本発明で使用される有効成分の由来は、投与対象となる生物の種類に応じて設定すればよい。例えば、ヒトのALS又はFTDの予防又は治療する場合であれば、有効成分は、ヒトFUSタンパク質、ヒトFUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びヒトFUSタンパク質の産生促進物質の中から選択して使用すればよい。
投与方法
本発明の予防又は治療剤の投与形態としては、例えば、経口投与、局所投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経直腸的、皮内投与等が挙げられ、使用する有効成分の種類に応じて適宜設定すればよい。これらの投与形態の中でも、本発明の予防または治療として、好ましくは局所投与が挙げられる。
本発明の予防又は治療剤の投与量については、使用する有効成分の種類、投与対象者の年齢、性別、体重、症状の程度、投与形態等に応じて、ALS又はFTDの予防又は治療に有効な量を適宜設定すればよいが、例えば、FUSタンパク質を有効成分として使用する場合であれば、1日当たり、0.1〜100000 μg程度となる量を1又は数回に別けて投与すればよい。また、有効成分としてFUSタンパク質をコードしているDNA分子/又はFUSタンパク質の産生促進物質を使用する場合であれば、生体内でのFUSタンパク質の産生量が、前記範囲内になるように適宜設定すればよい。
2.異常伸長したG4C2リピート配列に起因するタンパク質の翻訳抑制剤
後述する実施例の欄で示す通り、FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質には、異常伸長したG4C2リピート配列に起因するタンパク質の翻訳を抑制する作用がある。従って、本発明は、更に、FUSタンパク質、FUSタンパク質をコードしているDNA分子、及びFUSタンパク質の産生促進物質よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、異常伸長したG4C2リピート配列に起因するタンパク質の翻訳抑制剤を提供する。当該翻訳抑制剤は、異常伸長したG4C2リピート配列から生じるジペプチドリピートタンパク質の凝集体の形成に関連する疾患の予防又は治療目的で使用することができる。当該翻訳抑制剤において、有効成分の種類、剤型、投与方法等は、前記「1.ALS又はFTDの予防又は治療剤」の欄に記載の通りである。
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.実験材料及び実験方法
1−1.ショウジョウバエのストック
ショウジョウバエのストックは、全て、23℃又は25℃で、標準的な餌(グルコース、コーンミール、及び乾燥酵母含有)で飼育及び交配した。
GMR-Gal4の導入遺伝子を有するトランスジェニックショウジョウバエは、京都工芸繊維大の山口政光教授から、UAS-EGFP (#6874)、及びelav-Gal4 (#8765)を有するトランスジェニックショウジョウバエは、ブルーミントンショウジョウバエストックセンター(Bloomington Drosophila Stock Center)から入手した。FUSのショウジョウバエのホモログであるcazに変異を有するショウジョウバエ(caz2変異体)はドイツ、マックスプランク研究所のErik Storkebaum博士から入手した。
なお、GMRはショウジョウバエの複眼における組織特異的プロモーターであり、elavはショウジョウバエの神経系に特異的に発現する遺伝子のプロモーター部位である。UASはGal4の結合によってその下流の転写が活性化される配列である。
1−2.G4C2リピート配列コンストラクト及びトランスジェニックショウジョウバエの作製
異常伸長G4C2リピート配列を複眼において発現するトランスジェニックショウジョウバエをGal4-UASシステムを使用して樹立した。具体的な作製手順は以下に示す通りである。
5'末端側がEagI認識配列、3'末端側がPspOMI認識配列で挟まれた人工合成された(G4C2)50をT-ベクターpMD20にサブクローンした。繰り返し数を増やしたG4C2リピート配列を作製するために、pMD20-(G4C2)50プラスミドをEagI及びPspOMIで処理し、(G4C2)50インサートフラグメントを得て、EagIで線状化したpMD20-(G4C2)50プラスミドベクター内にライゲーションした。ライゲーションされたプラスミドにおけるG4C2リピート配列は、理論的に50%の確率で、GGGGCCが100個繰り返し連結していることになる。得られたプラスミドをEcoRI及びHindIIIで処理し、精製した後に、pcDNATM3.1/myc-His(-)A vector (Invitrogen)にサブクローンした。サブクローンされたpcDNATM3.1/myc-His(-)A-(G4C2)nプラスミドを増幅し、配列決定した。この段階で、偶発的に、(G4C2)9からなるG4C2リピート配列を含むpcDNATM3.1/myc-His(-)A-(G4C2)9プラスミドが得られた。再度、pcDNATM3.1/myc-His(-)A-(G4C2)nプラスミドをEcoRI及びXbaIで処理し、精製した後に、ショウジョウバエpUAST vectorにサブクローンした。これらのコンストラクトは、G4C2リピート配列の上流に開始コドン(ATG)を有していない。これらのpUAST-(G4C2)nプラスミドをrecombinase-mutated SURE2 E.coli株(Agilent Technologies)に導入し、増幅させた。
Geteway Vector Conversion System (Invitrogen)を用いて、pUAST-FUSプラスミド、pUAST-ILF2プラスミド、及びpUAST-hnRNPKプラスミドを作製した。ヒトFUS cDNA(配列番号2)、ヒトILF2 cDNA(配列番号3)、及びヒトhnRNPK cDNA(配列番号4)をpENTRTM/D-TOPO plasmid (Invitrogen)にサブクローンした。GatewayデスティネーションベクターpUAST-DESTを作製するために、Gateway cassette A sequences (Invitrogen)をpUASTベクターに挿入した。前記プラスミド、pUAST-DESTベクター、制限エンドヌクレアーゼ、及びリガーゼを用いて、pUAST-FUSプラスミド、pUAST-ILF2プラスミド、及びpUAST-hnRNPKプラスミドを得た。また、ヒトFUSタンパク質のアミノ酸配列305位、341位、359位、及び368位のフェニルアラニンをロイシンに変異させるようにDNA配列を変異させ、FUS RRM変異(FUS-RRMmut)コンストラクト(pUAST-FUS-RRMmut)も作製した。得られた各プラスミドDNAをPowerPrep HP Plasmid Maxiprep System (OriGene)を用いて精製し、G4C2リピート配列におけるGGGGCCの繰り返し数を求めた。なお、pUAST-(G4C2)89プラスミドについては、EZ-Tn5TM <KAN-2> Insertion Kit (Epicentre)を用いた転写因子の挿入変異の誘発後、挿入配列を利用して配列決定及びGGGGCCの繰り返し数を決定した。
前記各pUASTベクターが導入されたトランスジェニックショウジョウバエを、標準的な方法にて作製した。pUAST-(G4C2)nのトランスジェニックショウジョウバエをUAS-(G4C2)nとし、UAS-(G4C2)89はGMR-Gal4系統と交配した時の発現量が多いものを(G4C2)89(S)、少ないものを(G4C2)89(W)とした。また、Gal4系統とUAS系統を交配させることにより、所望の組織で導入遺伝子が発現するトランスジェニックショウジョウバエを作製した。
1−3.Repeat-primed PCR分析
FastDNA Green SPIN Kit (MP-Biomedicals)を用いてトランスジェニックショウジョウバエからゲノムDNAを単離した。ゲノムDNA中のG4C2リピート配列について、文献(Renton, A.E. et al. A hexanucleotide repeat expansion in C9ORF72 is the cause of chromosome 9p21-linked ALS-FTD. Neuron 72, 257-68 (2011).)に記載の方法に従って、Repeat-primed PCRを行った。また、Peak ScannerTM software v1.0 (Applied Biosystems)を備えたABI 3130xl genetic analyzer (Applied Biosystems)にて、PCRフラグメントの蛍光フラグメント長分析(Fluorescence fragment length analysis)を行った。これによって、導入されたG4C2リピート配列におけるGGGGCCの繰り返し数を求め、(G4C2)9、(G4C2)50、及び(G4C2)89からなるG4C2リピート配列が、それぞれ導入されていることが確認された。
1−4.ショウジョウバエの複眼のイメージング、及び当該複眼の色素異常とサイズの定量
CCDカメラPD21(Olympus)を備える実体顕微鏡SZX10(Olympus)を用いて、ショウジョウバエの複眼の光学顕微鏡像を取得した。ショウジョウバエの複眼の色素異常とサイズの定量は、文献(Saitoh, Y. et al. p62 Plays a Protective Role in the Autophagic Degradation of Polyglutamine Protein Oligomers in Polyglutamine Disease Model Flies. Journal of Biological Chemistry 290, 1442-1453 (2015).)に記載の方法に従て行った。遺伝子型毎に少なくとも10個の複眼を分析し、結果を平均値±SEMとして表した。
1−5.卵から成虫までの生存率分析
第二染色体バランサーであるCyOを有し、ヘテロ接合型のelav-Gal4ドライバーを有する雌ショウジョウバエと、ホモ接合型のUAS-(G4C2)nを有する雄ショウジョウバエとを交配した。F1では、神経細胞においてG4C2リピート配列を発現するショウジョウバエ(即ち、elav-Gal4ドライバー及びUAS-(G4C2)nを有するショウジョウバエ)が生まれた。G4C2リピート配列を発現するショウジョウバエはCyOバランサーを有しておらず(即ち、表現型が[Cy-])、G4C2リピート配列を発現しないショウジョウバエはCyOバランサーを有する(即ち、表現型が[Cy+])。
卵から成虫になるまでの孵化率を以下の方法で算出した:表現型が[Cy-]のショウジョウバエの数を表現型が[Cy+]のショウジョウバエの数で除し、更に100を掛けた相対値を卵から成虫までの生存率(%)として算出した。
1−6.クライミングアッセイを利用した運動能力分析
高さ150 mm、内径22 mmのガラスバイアルに、10〜20個体の雄ショウジョウバエを個体に刺激を与えないように入れた。5分間静置した後に、ガラスバイアルの底部を穏やかにタップし、10秒間でショウジョウバエがガラスバイアルの壁を昇って到達した高さをデジタルビデオカメラで記録し、高さが2 cm未満を0、高さが2〜3.9 cmを1、高さが4〜5.9 cmを2、高さが6〜7.9 cmを3、高さが8〜9.9 cmを4、高さが10 cm以上を5としてスコア化した。本実験は、20秒間の間隔をあけて5回実施し、結果を平均値±SEMとして表した。
1−7.寿命分析
1バイアルあたり約30個体のショウジョウバエに羽化後から標準餌を与えて飼育し、寿命分析を行った。2又は3日毎に、新鮮な餌が入ったバイアルに移し、その時に死亡していた個体数を計測した。ショウジョウバエの飼育は全個体が死滅するまで行った。各グループについて、3バイアル以上を用いて実験を行い、統計解析を行った。
1−8.蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)
3齢幼虫を氷冷PBS中で解剖により複眼成虫原基を取り出し、4%パラホルムアルデヒド(pH7.0)を含むPBS(RNase-free)で30分間固定し、更に100%メタノールで脱水処理した。固定サンプルを、75v/v%、50v/v%、及び25v/v%のエタノールを含むPBSで再水和後、PBS及び蒸留水(ジエチルピロカーボネート処理した蒸留水)でリンスした。次いで、0.2N HClを含む蒸留水を用いて、室温で20分間処理し、蒸留水でリンスした。更に、サンプルを0.2% Triton X-100を含むPBSで処理し、PBSで5分間リンスした後に、4%パラホルムアルデヒド(pH7.0)を含むPBSで20分間後固定した。その後、PBSを用いて5分間の洗浄を2回行い、2 mg/mLのグリシンを含むPBS内での15分間インキュベートを2回行った。アセチル化処理の後に、ハイブリダイゼーションバッファー(50%のホルムアミド、2×SSC、0.2mg/mLの酵母tRNA、及び0.5mg/mLのヘパリンを含有)内で、37℃で1時間インキュベートした。その後、サンプルを5'末端Alexa594標識(GGCCCC)4 LNA(locked nucleic acid)プローブ又はAlexa488標識(CCGGGG)4 LNAプローブ(5nM)と共に、ハイブリダイゼーションバッファー中で80℃、終夜インキュベートした。なお、これらのLNAプローブは、GeneDesign Incによって合成されたものを使用した。ハイブリダイゼーション後に、80℃の4×SSC内での5分間の洗浄を1回、80℃の2×SSC及び50%ホルムアミドを含む溶液内での20分間の洗浄を3回、80℃の0.1×SSC内での40分間の洗浄を3回、及び室温のPBT(0.5% Triton X-100を含むPBS)内での洗浄を1回行った。その後、サンプルをDAPIにて核染色し、SlowFadeゴールド退色防止剤(Thermo Fisher Scientific)を用いてスライドグラスにマウントし、共焦点レーザー走査型顕微鏡(Zeiss LSM710)にて観察した。
1−9.免疫蛍光染色
3齢幼虫を氷冷PBS中で解剖により複眼成虫原基を取り出し、4%パラホルムアルデヒド(pH7.0)を含むPBSで30分間固定した後に、PBTで3回洗浄した。次いで、サンプルを5%ヤギ血清を含むPBTでブロックングした後に、一次抗体としてラットモノクローナル抗poly(GR)抗体(clone 5A2, Millipore MABN778)、ウサギポリクローナル抗poly(GP)抗体(Cosmo Bio CAC-TIP-C9-P01)、又はウサギポリクローナル抗poly(GA)抗体(Novus Biologicals NBP2-25018)と共に4℃で終夜インキュベートした。PBTで3回洗浄した後に、二次抗体として、Alexa 633標識抗ラットIgG抗体(Invitrogen A-21094)、又はAlexa 488標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen A-11008)と共にインキュベートした。その後、PBTで3回洗浄した後に、DAPIにて核染色し、SlowFadeゴールド退色防止剤を用いてスライドグラスにマウントし、共焦点レーザー走査型顕微鏡(Zeiss LSM710)にて観察した。
1−10.ポリ(GP)タンパク質の測定
G4C2リピート配列、或は(G4C2)89と共にEGFP、FUS、又はFUS-RRMmutを発現している5日齢のショウジョウバエの頭部を回収し、-80℃で保存した。サンプルを文献(Tran, H. et al. Differential Toxicity of Nuclear RNA Foci versus Dipeptide Repeat Proteins in a Drosophila Model of C9ORF72 FTD/ALS. Neuron 87, 1207-14 (2015).)に記載の方法に従って調製した。Poly(GP)は、文献(Su, Z. et al. Discovery of a biomarker and lead small molecules to target r(GGGGCC)-associated defects in c9FTD/ALS. Neuron 83, 1043-50 (2014).)に記載のサンドイッチELISA法によって測定した。データは、EGFPと(G4C2)89を発現している場合の値によって標準化した。
1−11.DPRsの凝集体数の定量
ZENイメージンフソフトウェア(Zeiss)を使用して、ショウジョウバエの複眼原基におけるDPRsの凝集体数を定量的に測定した。手順は以下に示す通りである。先ず、DAPI染色によって複眼原基の後端から2列と3列の発生途中の13個眼の光受容体ニューロンを選択した。次いで、直径が2 μmよりも大きく且つ細胞質に局在するDPRsの凝集体数を計測した。各遺伝子型について10個以上の複眼原基について分析し、結果を平均値±SEMとして表した。
1−12.統計解析
全ての統計解析は、public domain R program (http://www.r-project.org/)又はGraphPad Prism 6 softwareを用いて行った。
2.実験結果
2−1.異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエの特性
2−1−1.複眼の状態
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W)、及び(G4C2)89(S))を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡にて観察した結果を図1に示す。また、比較として、EGFP又は正常なG4C2リピート配列((G4C2)9)を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡にて観察した結果も併せて図1に示す。
図1から分かるように、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは、強度の複眼神経変性が認められ、特に(G4C2)50を発現する場合では25℃での飼育では死滅していた。一方、EGFP又は正常なG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは、複眼に異常は認められなかった。
即ち、本結果から、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは、ALS/FTDの代表的な症状である神経変性を確認できた。
2−1−2.成虫までの生存率及び成虫の寿命
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W))又は正常なG4C2リピート配列((G4C2)9)を発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、成虫までの生存率を評価した結果を図2Aに示し、成虫の寿命を評価した結果を図2Bに示す。これらの結果から、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエは、正常なG4C2リピート配列を発現する場合に比して、成虫までの生存率が低く、成虫の寿命が1/4〜1/5程度にまで短縮されていることが明らかとなった。
2−1−3.運動能力
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50、(G4C2)89(W))又は正常なG4C2リピート配列((G4C2)9)を発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、クライミングアッセイを行った結果を図3に示す。この結果から、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエは、正常なG4C2リピート配列を発現する場合に比して、クライミングアッセイにおけるスコアが著しく低下していることが分かった。特に(G4C2)89を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは加齢に伴ってスコアが有意に低下していた。即ち、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエは、ALS/FTDの代表的な症状である進行性運動障害を呈することが確認された。
2−1−4.異常伸長G4C2リピート配列の転写及びRAN翻訳
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼において、当該リピート配列から転写されたRNA、及びDPRs(ポリ(GR)、ポリ(GA)、及びポリ(GP))をFISH及び免疫染色にて分析した結果を図4に示す。
この結果、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは、異常伸長したG4C2リピート配列から転写されたRNAが発現しており、更に当該RNAのRAN翻訳産物であるDPRs(ポリ(GR)、ポリ(GA)、及びポリ(GP))も凝集体を伴って生成していることが確認された。
2−1−5.まとめ
異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエでは、G4C2リピート配列が転写されたRNA及び当該RNAのRAN翻訳産物であるDPRsの凝集体が認められ、更に神経変性及び運動障害を呈しており、寿命も短縮していた。これらの事象は、ALS/FTDにおいて典型的に認められるものであり、当該トランスジェニックショウジョウバエは、ALS/FTDのモデル動物として利用できることを示している。
2−2.異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエに対してG4C2リピート配列に結合可能なタンパク質が及ぼす影響
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))又はEGFPと共に、FUS、ILF2(Interleukin enhancer-binding factor 2)、又はhnRNPK(Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K)を発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡にて観察した結果を図5に示す。
FUS、ILF2、及びhnRNPKは、G4C2リピート配列から転写されたRNAに対する結合能があることが報告されている。FUSは異常伸長したG4C2リピート配列による複眼神経変性を抑制していた。一方、ILF2、及びhnRNPKは異常伸長したG4C2リピート配列による複眼神経変性を抑制していなかった。即ち、この結果から、異常伸長したG4C2リピート配列に起因する症状の改善効果は、FUSに特有のものであることが明らかとなった。
2−3.異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエに対してFUSが及ぼす影響
2−3−1.運動能力
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)50)と共に、FUS又はEGFPを神経系で発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、クライミングアッセイを行った結果を図6に示す。また、また、比較として、EGFPと共にFUSを発現するトランスジェニックショウジョウバエの結果についても図6に示す。
図6に示すように、異常伸長したG4C2リピート配列と共にFUSを発現する場合には、運動障害を効果的に抑制できていた。
2−3−2.複眼の状態
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))と共に、FUS、FUS-RRMmut、又はEGFPを複眼で発現するトランスジェニックショウジョウバエについて、複眼を光学顕微鏡にて観察した結果及び複眼のサイズを測定した結果を図7に示す。また、比較として、EGFPと共に、FUS、FUS-RRMmut、又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエの結果についても図7に示す。
この結果、異常伸長したG4C2リピート配列と共にFUSを発現する場合には、複眼神経変性を効果的に抑制できていた。また、FUSのRNA認識モチーフ領域に変異を加えたFUS-RRMmutを発現する場合では、複眼神経変性を抑制できていなかった。即ち、これらの結果から、FUSは、G4C2リピート配列から転写されたRNAに結合することによって、神経変性を抑制していることが明らかとなった。
2−3−3.異常伸長G4C2リピート配列の転写及びRAN翻訳
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))と共に、FUS又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエの複眼において、DPRs(ポリ(GR)、ポリ(GA)、及びポリ(GP))を蛍光免疫染色した結果を図8Aに示す。また、当該トランスジェニックショウジョウバエにおいて、各DRPsの凝集体数を測定した結果についても、図8Bに示す。更に、異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))と共に、FUS、FUS-RRMmut、又はEGFPを発現するトランスジェニックショウジョウバエにおけるポリ(GP)量をELISA法にて測定した結果も図8Cに示す。
この結果から、異常伸長したG4C2リピート配列を発現するトランスジェニックショウジョウバエにおいてFUSを発現させることによって、DPRsの凝集体数、及びポリ(GP)の量が低減されていることが明らかとなった。
2−3−4.ショウジョウバエFUSホモログcaz変異体の影響
異常伸長したG4C2リピート配列((G4C2)89(S))又はEGFPを発現し、且つcaz2変異の導入されたトランスジェニックショウジョウバエ(caz2/+)について、複眼を光学顕微鏡にて観察した結果及び眼のサイズを測定した結果を図9に示す。また、比較のために、caz2変異を導入していないトランスジェニックショウジョウバエ(+/+)の結果についても、図9に示す。
この結果、ショウジョウバエFUSホモログであるcaz変異を導入すると複眼神経変性が増悪することが確認された。

Claims (4)

  1. FUSタンパク質、及びFUSタンパク質をコードしているDNA分子よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、GGGGCCリピート配列の異常伸長に起因する筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症の予防又は治療剤。
  2. 家族性の筋萎縮性側索硬化症、又は家族性の前頭側頭型認知症に対して適用される、請求項1に記載の予防又は治療剤。
  3. 筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症における神経変性又は運動障害の改善のために使用される、請求項1又は2に記載の予防又は治療剤。
  4. FUSタンパク質、及びFUSタンパク質をコードしているDNA分子よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、異常伸長したGGGGCCリピート配列に起因するタンパク質の翻訳抑制剤。

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