図1は、本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、インバータ34と、蓄電装置としてのバッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50と、を備える。
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を備える。このモータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられる。このインバータ34は、高電圧側電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されており、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、6つのトランジスタT11〜T16のそれぞれに並列に接続された6つのダイオードD11〜D16と、を有する。トランジスタT11〜T16は、それぞれ、高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。また、トランジスタT11〜T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相のコイル)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11〜T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。以下、トランジスタT11〜T13を「上アーム」といい、トランジスタT14〜T16を「下アーム」ということがある。高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧側電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧側電力ライン44の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
昇圧コンバータ40は、高電圧側電力ライン42と低電圧側電力ライン44とに接続されており、2つのトランジスタT31,T32と、2つのトランジスタT31,T32のそれぞれに並列に接続された2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT31は、高電圧側電力ライン42の正極側ラインに接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧側電力ライン42および低電圧側電力ライン44の負極側ラインと、に接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧側電力ライン44の正極側ラインと、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン44の電力を昇圧して高電圧側電力ライン42に供給したり、高電圧側電力ライン42の電力を降圧して低電圧側電力ライン44に供給したりする。
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52に加えて、処理プログラムを記憶するROM54や、データを一時的に記憶するRAM56、入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ(例えばレゾルバ)32aからの回転位置θmや、モータ32の各相の相電流を検出する電流センサ32u,32vからの相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ibも挙げることができる。さらに、リアクトルLに直列に取り付けられた電流センサ40aからの電流ILや、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧VH、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧側電力ライン44)の電圧VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。
電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算している。また、電子制御ユニット50は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算している。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36の蓄電量(放電可能な電力量)の割合である。
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。また、電子制御ユニット50は、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧側電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
ここで、インバータ34の制御について説明する。実施例では、インバータ34を、正弦波PWM(パルス幅変調)制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波制御モードのうちの何れかの制御モードで制御するものとした。正弦波PWM制御モードは、擬似的な三相交流電圧がモータ32に印加(供給)されるようにインバータ34を制御する制御モードであり、過変調PWM制御モードは、過変調電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードであり、矩形波制御モードは、矩形波電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードである。正弦波PWM制御モードでは、変調率Rmは値0以上で且つ値Rm1(略0.61)以下となり、過変調制御モードでは、変調率Rmは値Rm1よりも大きく且つRm2(略0.78)未満となり、矩形波制御モードでは、変調率Rmは値Rm2となる。ここで、変調率Rmは、インバータ34の入力電圧(高電圧側電力ライン42の電圧VH)に対する出力電圧(モータ32の印加電圧)の実効値の割合である。実施例では、変調率Rmに基づいて、正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波制御モードのうちの何れかの制御モードでインバータ34を制御するものとした。
次に,こうして構成された実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置の動作、特に、PWM制御モード(正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モード)でインバータ34を制御する際の動作について説明する。図2は、電子制御ユニット50により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、繰り返し実行される。
図2の制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、最初に、モータ32の電気角θeや相電流Iu,Iv、トルク指令Tm*、高電圧側電力ライン42の電圧VHなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータ32の電気角θeは、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32の回転位置θmに基づいて演算された値を入力するものとした。モータ32の相電流Iu,Ivは、電流センサ32u,32vにより検出された値を入力するものとした。トルク指令Tm*は、上述の駆動制御により設定された値を入力するものとした。高電圧側電力ライン42の電圧VHは、電圧センサ46aにより検出された値を入力するものとした。
こうしてデータを入力すると、モータ32の三相コイルの各相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和が値0であるとして、モータ32の電気角θeを用いてU相,V相の相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する(ステップS110)。
続いて、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する(ステップS120)。ここで、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*は、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係を予め定めてマップとしてROM54に記憶しておき、モータ32のトルク指令Tm*が与えられると、このマップから対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を導出して設定するものとした。
そして、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*とd軸,q軸の電流Id,Iqとを用いて式(1)および式(2)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を演算する(ステップS130)。ここで、式(1)および式(2)は、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差分が打ち消されるようにするための電流フィードバックの関係式であり、式(1)および式(2)中、「kd1」,「kq1」は,比例項のゲインであり、「kd2」,「kq2」は、積分項のゲインである。
Vd*=kd1・(Id*-Id)+kd2∫(Id*-Id)dt (1)
Vq*=kq1・(Iq*-Iq)+kq2∫(Iq*-Iq)dt (2)
次に、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*と高電圧側電力ライン42の電圧VHとを用いて式(3)により電圧の変調率Rmを演算し(ステップS140)、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)する(ステップS150)。
続いて、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*とを用いて式(4)により電圧位相Vφを演算すると共に(ステップS160)、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を用いて式(5)により電流位相Iφを演算し(ステップS170)、式(6)に示すように、電圧位相Vφから電流位相Iφを減じて電圧電流位相差Δφを演算する(ステップS180)。電圧電流位相差Δφは、0deg〜120degの範囲内になるものとした。
Rm=√(Vd*2+Vq*2)/VH (3)
Vφ=tan-1(Vd*/Vq*) (4)
Iφ=tan-1(Id*/Iq*) (5)
Δφ=Vφ-Iφ (6)
次に、電圧電流位相差Δφを30degと比較する(ステップS190)。この処理は、U相,V相,W相の3相のうちの何れか1相(例えば、U相)の相電流指令(相電流)の絶対値が閾値以下(値0付近)となる領域で、3相のうちその1相(例えば、U相)以外の2相還流(例えば、V相、W相での電流の還流)、3相還流(U相、V相、W相での電流の還流)、2相還流がこの順に生じる(以下、「還流モード時間が生じる」という)か否かを判定する処理である。
ここで、還流モード時間について説明する。図3は、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*や三角波、各相の上下アームのうちオンする側、各相の下アームのうち単独オンになる相、各相の上アームのうち単独オンになる相の、モータ32の電気角θeに対する様子の一例を示す説明図であり、図4は、図3のうちモータ32の電気角θeが0deg〜60degの範囲を拡大した拡大図である。図4中、矢印で示した各範囲Aが各相の下アーム(トランジスタT14〜T16)のうち単独オン(以下、「下アーム単独オン」という)になる相であり、各範囲Bが各相の上アーム(トランジスタT11〜T13)のうち単独オン(以下、「上アーム単独オン」という)になる相である。下アーム単独オンは、各相の下アームのうち1つの相(例えば、U相)の下アームをオンにすると共に残りの2相(例えば、V相、W相)の下アームをオフにすることをいい、上アーム単独オンは、各相の上アームのうち1つの相の上アームをオンにすると共に残りの2相の上アームをオフにすることをいう。
図4に示すように、三角波の谷のタイミングでは、各相の上アームの全てがオン(以下、「上アーム全オン」)になり、三角波の山のタイミングでは、各相の下アームの全てがオン(以下、「下アーム全オン」という)になる。
また、図4に示すように、下アーム単独オンの相および上アーム単独オンの相は、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の大小関係により定まる。下アーム単独オンは、三角波の谷側における上アーム全オンの前後に生じる。したがって、三角波の谷側では、下アーム単独オン、上アーム全オン、下アーム単独オンの順に生じる。下アーム単独オンの相は、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうち値が最も小さい相(図4中、最も下側の相)となる。また、上アーム単独オンは、三角波の山側における下アーム全オンの前後に生じる。したがって、三角波の山側では、上アーム単独オン、下アーム全オン、上アーム単独オンの順に生じる。上アーム単独オンの相は、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうち値が最も大きい相(図4中、最も上側の相)となる。
図4では、下アーム単独オンの相は、モータ32の電気角θeが0deg〜60degの範囲でV相(トランジスタT15)となり、上アーム単独オンの相は、モータ32の電気角θeが0deg〜30degの範囲でW相(トランジスタT13)、30deg〜60degの範囲でU相(トランジスタT11)となる。モータ32の電気角θeが60deg〜360degの範囲についても同様であり、モータ32の電気角θeでの1周期で見ると、図3のようになる。具体的には、下アーム単独オンの相は、モータ32の電気角θeが0deg〜90deg,330deg〜360の範囲ではV相(トランジスタT15)となり、90deg〜210degの範囲ではW相(トランジスタT16)となり、210deg〜330degの範囲ではU相(トランジスタT14)となる。また、上アーム単独オンの相は、モータ32の電気角θeが0deg〜30deg,270deg〜360degの範囲ではW相(トランジスタT13)となり、30deg〜150degの範囲ではU相(トランジスタT11)となり、150deg〜270degの範囲ではV相(トランジスタT12)となる。
図5は、3つの上アームの全てをオンしたときの様子の一例を示す説明図であり、図6は、U相の上アームおよびV相、W相の下アームをオンしたとき(U相の上アームを単独オンしたとき)で且つU相の相電流Iuの絶対値が小さいとき(例えば、略値0のとき)の様子の一例を示す説明図である。
図5に示すように、各相の上アームの全てをオンしたときには、モータ32およびインバータ34の3相で電流が還流する(電流の向きや大きさは各相の相電流の値による)。このため、昇圧コンバータ40からの出力電流Icoのうちインバータ34側に流れる電流Iinが値0になって出力電流Icoの全てがコンデンサ46に供給され、コンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧VHが上昇する。各相の下アームの全てをオンにしたときについても同様に考えることができる。
図6に示すように、U相の上アーム(トランジスタT11)を単独オンしたときで且つU相の相電流Iuの絶対値が小さいとき(例えば、略値0のとき)には、モータ32およびインバータ34のV相、W相で電流が還流する(電流の向きや大きさは各相の相電流の値による)。このとき、昇圧コンバータ40からの出力電流Icoのうちインバータ34側に流れる電流Iinが小さく且つコンデンサ46に供給される電流が大きいことから、コンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧VHが上昇する。V相、W相での電流の還流は、U相の相電流Iuの絶対値が相電流Iu,Iv,Iwのうち最小のときに生じると考えられる。即ち、U相の上アームを単独オンしたときでも、U相の相電流Iuの絶対値が相電流Iu,Iv,Iwのうち最小でないときには、V相、W相での電流の還流は生じないと考えられる。U相の下アーム(トランジスタT12)を単独オンしたときで且つU相の相電流Iuの絶対値が小さいときや、V相の上アーム(トランジスタT12)または下アーム(トランジスタT15)を単独オンしたときでV相の相電流Ivの絶対値が小さいとき、W相の上アーム(トランジスタT13)または下アーム(トランジスタT16)を単独オンしたときでW相の相電流Iwの絶対値が小さいときについても同様に考えることができる。
これらのことから、各相のうち下アーム単独オンの相または上アーム単独オンの相と相電流指令(相電流)がゼロクロスする相とが一致すると、上述の還流モード時間が生じると考えられる。上述したように、電圧電流位相差Δφは0deg〜120degの範囲内になるものとしたから、図3に示すように、モータ32の電気角θeが0degでU相の電圧指令Vu*が負から正にゼロクロスするときには、以下のように判断することができる。モータ32の電気角θeが0deg〜30degの範囲でU相の相電流指令Iu*(相電流Iu)が負から正にゼロクロスするとき、即ち、電圧電流位相差Δφが0deg〜30degの範囲のときには、還流モード時間が生じないと判断することができる。また、モータ32の電気角θeが30deg〜120degの範囲でU相の相電流指令Iu*(相電流Iu)が負から正にゼロクロスするとき、即ち、電圧電流位相差Δφが30deg〜120degの範囲のときには、還流モード時間が生じると判断することができる。なお、各相の相電流指令Iu*,Iv*,Iw*は、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に座標変換(2相−3相変換)を施して得られる値であり、各相の相電流Iu,Iv,Iwは、この各相の相電流指令Iu*,Iv*,Iw*に追従する。
なお、各相の相電流指令Iu*,Iv*,Iw*(相電流Iu,Iv,Iw)は、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に対して位相が遅れた波形となるから、図3の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の波形から分かるように、相電流指令Iu*(相電流Iu)、相電流指令Iw*(相電流Iw)、相電流指令Iv*(相電流Iv)、相電流指令Iu*(相電流Iu)、・・・の順に60deg間隔でゼロクロスする。したがって、U相の相電流指令Iu*(相電流Iu)のゼロクロスのときに還流モード時間が生じないときには、V相,W相の相電流指令Iv*,Iw*(相電流Iv,Iw)のゼロクロスのときにも還流モード時間が生じないと判断することができ、U相の相電流指令Iu*(相電流Iu)のゼロクロスのときに還流モード時間が生じるときには、V相,W相の相電流指令Iv*,Iw*(相電流Iv,Iw)のゼロクロスのときにも還流モード時間が生じる、即ち、60deg間隔で還流モード時間が生じると判断することができる。
ステップS190で電圧電流位相差Δφが0deg〜30degの範囲のときには、還流モード時間は生じないと判断し、ステップS150で設定した各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と搬送波(三角波)との比較によりトランジスタT11〜T16のPWM信号生成してインバータ34に出力して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。
ステップS190で電圧電流位相差Δφが30deg以上のときには、還流モード時間が生じると判断し、電圧電流位相差Δφを60degと比較する(ステップS200)。そして、電圧電流位相差Δφが30deg〜60degの範囲のときには、モータ32の電気角θeと電圧位相Vφとに基づいて式(7)および式(8)により係数k1を設定する(ステップS210)。続いて、式(9)に示すように、設定した係数k1を所定値Avに乗じて補正値αを演算する(ステップS230)。式(7)〜式(9)から分かるように、この場合、補正値αは、60deg間隔で、且つ、電圧位相Vφに対してモータ32の電気角θeが0deg,60deg,・・・で(各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの何れかがゼロクロスするタイミングで)、符号が反転する方形波となる。
k1=1:sin(3(θe-Vφ))>0のとき (7)
k1=-1:sin(3(θe-Vφ))≦0のとき (8)
α=Av・k1 (9)
そして、式(10)〜式(12)に示すように、演算した補正値αをステップS180で設定した各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に加えることにより電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正する(ステップS240)。そして、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と搬送波(三角波)との比較によりトランジスタT11〜T16のPWM信号生成してインバータ34に出力して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。
Vu*=Vu*+α (10)
Vv*=Vu*+α (11)
Vw*=Vu*+α (12)
図7は、この場合の補正前の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、補正値α、各相の電流指令Iu*,Iv*,Iw*,補正後の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、三角波、各相の上下アームのうちオンする側の、モータ32の電気角θeに対する様子の一例を示す説明図である。図8は、図7のうちモータ32の電気角θeが0deg〜120degの範囲を拡大した拡大図である。図7,図8に示すように、補正値αは、60deg間隔で且つ各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの何れかがゼロクロスするタイミングで符号が反転し、更に、各相における相電流指令(相電流)がゼロクロスするタイミングの電圧指令の符号と同一となる方形波となる。
図8では、モータ32の電気角θeが30deg〜60degの範囲でU相の相電流指令Iu*がゼロクロスし、90deg〜120degの範囲でW相の相電流指令Iw*がゼロクロスしている。そして、補正値αを用いて各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正することにより、モータ32の電気角θeが30deg〜60degや60deg〜120degの範囲の還流モード時間が短くなっている。0deg〜30deg,60deg〜360degについても同様である(図7参照)。したがって、高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動(上昇)を抑制することができる。しかも、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と同位相(各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のゼロクロスで符号が反転する)の方形波を補正値αとして各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正するから、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の位相を補正前後でずらすことなく、即ち、電圧歪みが大きくなるのを抑制しつつ、高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動を抑制することができる。
ステップS200で電圧電流位相差Δφが60deg〜120degの範囲のときには、還流モード時間が生じると判断し、モータ32の電気角θeと電圧位相Vφとに基づいて式(13)および式(14)により係数k1を設定し(ステップS220)、上述のステップS230〜S250の処理により、補正値αを演算し、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正し、トランジスタT11〜T16のPWM信号生成してインバータ34に出力して、本ルーチンを終了する。式(13),式(14)および上述の式(9)から分かるように、この場合、補正値αは、60deg間隔で、且つ、電圧位相Vφに対してモータ32の電気角θeが0deg,60deg,・・・で(各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの何れかがゼロクロスするタイミングで)、符号が反転する方形波となる。
k1=1:sin(3(θe-Vφ-180))>0のとき (13)
k1=-1:sin(3(θe-Vφ-180))≦0のとき (14)
図9は、この場合の補正前の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、補正値α、各相の電流指令Iu*,Iv*,Iw*,補正後の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、三角波、各相の上下アームのうちオンする側の、モータ32の電気角θeに対する様子の一例を示す説明図である。図10は、図9のうちモータ32の電気角θeが0deg〜120degの範囲を拡大した拡大図である。図9,図10に示すように、補正値αは、60deg間隔で且つ各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの何れかがゼロクロスするタイミングで符号が反転し、更に、各相における相電流指令(相電流)がゼロクロスするタイミングの電圧指令の符号と同一となる方形波となる。
図10では、モータ32の電気角θeが0deg〜30degの範囲でV相の相電流指令Iv*がゼロクロスし、60deg〜90degの範囲でU相の相電流指令Iu*がゼロクロスしている。そして、補正値αを用いて各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正することにより、モータ32の電気角θeが60deg〜120degの範囲の還流モード時間が短くなっている(図10参照)。モータ32の電気角θeが0deg〜60deg,120deg〜360degについても同様である(図9参照)。したがって、高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動(上昇)を抑制することができる。しかも、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と同位相(各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のゼロクロスで符号が反転する)の方形波を補正値αとして各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正するから、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の位相を補正前後でずらすことなく、即ち、電圧歪みが大きくなるのを抑制しつつ、高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動を抑制することができる。
以上説明した実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、還流モード時間が生じる場合には、60deg間隔で且つ各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの何れかがゼロクロスするタイミングで符号が反転し更に各相における相電流指令(相電流)がゼロクロスするタイミングの電圧指令の符号と同一となる方形波を用いて、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を補正する。これにより、補正後の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の歪みが大きくなるのを抑制しつつ、電力ラインの電圧変動を抑制することができる。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、電子制御ユニット50は、図2の制御ルーチンを実行するものとしたが、これに代えて、図9の制御ルーチンを実行するものとしてもよい。図11の制御ルーチンは、ステップS230の処理に代えてステップS300,S310の処理を実行する点を除いて、図2の制御ルーチンと同一である。したがって、図11の制御ルーチンにおいて、図2の制御ルーチンと同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明を省略する。
図11の制御ルーチンでは、電子制御ユニット50は、ステップS210の処理またはステップS220の処理により係数kを設定すると、変調率Rmに基づいて係数k2を設定し(ステップS300)、式(15)に示すように、係数kおよび係数k2を所定値Avに乗じて補正値αを演算して(ステップS310)、ステップS240以降の処理を実行する。
α=Av・k1・k2 (15)
ここで、係数k2は、この変形例では、変調率Rmと係数k2との関係を予め定めて係数設定用マップとしてROM54に記憶しておき、変調率Rmが与えられると、このマップから対応する係数k2を導出して設定するものとした。係数設定用マップの一例を図12に示す。図示するように、係数k2は、変調率Rmが大きいときに小さいときに比して小さくなるように設定するものとした。これは以下の理由による。変調率Rmが大きくなると、モータ32の線間電圧が正弦波にならずに歪む。この歪みの程度は、上述の各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の補正を行なうと、より大きくなりやすい。このため、変調率Rmが大きい領域では、還流モード時間による高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動よりも、モータ32の線間電圧の歪みによる高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動が大きくなりやすい。したがって、これを考慮して、変調率Rmが大きいときに小さいときに比して小さくなるように係数k2ひいては補正値αの絶対値を設定することにより、変調率Rmに応じてより適切に高電圧側電力ライン42の電圧VHの変動を抑制することができる。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、昇圧コンバータ40を備えるものとしたが、こうした昇圧コンバータ40を備えないものとしてもよい。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、蓄電装置として、バッテリ36を用いるものとしたが、キャパシタを用いるものとしてもよい。
実施例では、モータ32を備える電気自動車20に搭載される駆動装置の形態とした。しかし、モータ32に加えてエンジンも備えるハイブリッド自動車に搭載される駆動装置の形態としてもよいし、自動車以外の車両や船舶、航空機などの移動体に搭載される駆動装置の形態としてもよいし、建設設備などの移動しない設備に搭載される駆動装置の形態としてもよい。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「3相モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「蓄電装置」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。