JP6942067B2 - 熱処理工程を含む電解ニッケルめっき方法 - Google Patents
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Description
電解ニッケルめっき皮膜のビッカース硬度は通常400程度かそれ以下であるが、光沢剤を添加しためっき液を用いてめっきを施した皮膜では硬度が高くなる。電解ニッケルめっきの添加剤として、種々の化合物を検討した結果、従来から光沢剤として用いられているアリルスルホン酸ナトリウムを用いると、皮膜の硬度Hvが約600というメッキ膜が得られたことが報告されている(非特許文献1)。
このように、電解ニッケルめっきの場合、光沢剤の最適な選択でもHvは約600程度が限度である。また電解ニッケルめっき皮膜については、一般に熱処理を施しても硬度は高くならないと言われてきており、現在、工業的に生産されている電解ニッケルめっき皮膜の硬度は600以下である。
電解ニッケルめっきにおいても、ワット浴やスルファミン酸浴に次亜リン酸などを加え、電析するニッケル被膜中にリンを共析させ、更にはリンが共析したニッケルめっき皮膜を熱処理することで、めっき皮膜の硬度を高めるという研究もある。しかし、次亜リン酸を添加するこの手法は、リンをできる限り均一に分布させるための工程管理に手間がかかり、またリンも決して安い元素ではないのでコストアップになることから、実用化に向けた研究はなされていない。また、前記手法は、従来の無電解ニッケルめっきにおいて、リンやホウ素を共析させ、更には300℃以上の熱処理を行うことで硬度を高めるという手法を模倣したものであり、合金めっきとも類似している。一方、次亜リン酸などを添加せずに行った電解ニッケルめっき皮膜に300℃以上の熱処理を施しても硬度の増加はなく、熱処理効果は得られない。
このような状況から、通常の電解ニッケルめっきの設備を大幅に変更することなく、まためっき皮膜の組成も変えることなく、高硬度のニッケルめっき皮膜が得られれば、実用上大きな意義がある。
本発明者らも、以前から界面活性剤と共に光沢剤を添加しためっき液の泡沫層中で電気めっきすることにより、ピンホールなどの少ない光沢のあるめっき皮膜を得る技術を開発してきた(特許文献3,4)。これらの技術は主に気泡のみの集合体としての泡沫の中でめっきを行うことが中心となっている。
具体的には、ニッケルの電解めっき液に一次光沢剤と二次光沢剤をそれぞれ適量添加し、更に界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を少量添加し、直径が500ミクロン以下のマイクロバブルをめっき液中に送入・分散させ撹拌しながら電解ニッケルめっきを行い、その後試験片に対し200℃ 1時間の熱処理を施した。
その結果、めっき面で測定したビッカース硬度(Hv)は、電気ニッケルメッキでは従来達成できないとされた600どころか、800近い高い硬度のニッケルめっき被膜を提供することができた。
次いで、界面活性剤の少量添加を省略した場合、及びマイクロバブルを省略した場合についての実験を行ったところ、いずれも750前後という高硬度のニッケルめっき被膜を提供できた。
以上の知見を得たことで、本発明を完成することができた。
なお、ここで述べる硬さの値はフューチャーテック社製マイクロビッカース硬さ試験機FM-ARS9008を用い、試験荷重50 gf、保持時間15秒で表面側から測定した値である。硬さをメッキ皮膜の側面で測定することもあるが、この場合はめっき皮膜が数十μmといった厚さになるように厚くメッキし、被メッキ物を切断し、断面を研磨した後、硬度を測定する。そのためメッキ皮膜中の結晶の配向がめっき皮膜の薄い場合と同じか否かといった問題だけでなく、切断と研磨という強い履歴を与えてしまうので、十数μmのめっき皮膜の表面側から測定した硬度とは比較ができない。
本発明は、さらに硬度のレベルを高めたニッケルめっき皮膜を得るための方法であり、上記電解めっき工程において、一次光沢剤及び二次光沢剤と共に少量の界面活性剤を添加したニッケルめっき液を用いる方法、又は最多直径500ミクロン以下のマイクロバブルを送入しながら攪拌して、めっきを行う方法を提供する。
最も高硬度のニッケルめっき皮膜を得るためには、一次光沢剤、二次光沢剤及び界面活性剤を含む電解めっき液を用い、マイクロバブルを送入し、攪拌しながら電解ニッケルめっきを行い、その後、熱処理を施す工程を設けることが好ましい。
〔1〕 ニッケルの電解めっき熱処理方法により高硬度のニッケルめっき被膜を得る方法であって、
(1)電解ニッケルめっき液として、一次光沢剤および二次光沢剤と共に、界面活性剤を添加して調製する工程、
ここで、一次光沢剤としては、1,5ナフタレンジスルホン酸ナトリウム(DNS)、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸ナトリウム(TNS); p−トルエンスルホンアミド(PTSA);オルソベンゼン・スルホンイミド( サッカリン)又はそのナトリウム塩;から選択される少なくとも1つの化合物または又はこれらの混合物であり、
また、二次光沢剤としては、ホルムアルデヒド(ホルマリン);アリルスルホン酸ナトリウム;ブチンジオール;エチレンシアンヒドリン;プロパルギルアルコール、ゼラチン、及びチオ尿素から選択される少なくとも1つの化合物又はこれらの混合物である、
(2)電解ニッケルめっき液中に泡の直径分布の最多直径が500ミクロン以下のマイクロバブルを送入し、撹拌しながら、被めっき物表面にニッケル被膜を形成させる工程、
(3)電解ニッケル被膜が形成されためっき物を、100℃以上300℃未満の温度で5分以上熱処理を施す工程、
を含むことを特徴とする、高硬度のニッケルめっき被膜を得る方法。
本発明を実施するための電気めっき装置は特に限定されず、例えば、撹拌装置を備えたステンレス鋼等で形成されためっき槽と、直流電源と、直流電源の正極側に導通する陽極と、負極側に導通する被めっき部材である陰極とを備え、さらに、マイクロバブルを送入する場合にはマイクロバブルを形成できる設備を装着した装置であることが必要である。マイクロバブルを発生させる方式には旋回剪断、加圧発泡、キャビテーション、ベンチュリ―など様々な方式があるが、これらの方式のいずれかに限定されず、必要な大きさのマイクロバブルを形成できる設備であれば良い。
なお、本発明の電解ニッケルめっきの対象となる被めっき物は、一般には鉄、銅などの金属であるが、表面に通電性があるかそれを賦与された物質であればプラスチック、セラミックなどでもよい。
熱処理を行う設備に特別な制約はなく、温度を適切に管理できる電気炉などを用いればよい。
めっき皮膜の加熱処理は、一般には、めっき処理による素材の水素脆性の防止、めっき皮膜の特殊な金属への密着性の向上、機械的性質の改善などに使われ、熱処理により、微視的歪の緩和、再結晶による無歪結晶の生成と粗大化、吸蔵ガスの放出、不純物の凝縮などが起こり、めっき皮膜の硬さは加熱と共に低下すると言われていた。
無電解ニッケルめっきでは、300℃以上の熱処理によりめっき皮膜硬度が大きく上昇するが、電解めっきで得られた被膜に同様の熱処理を施しても硬度が高くならないと言われており、したがって、従来、電解めっきで得られたニッケルめっき皮膜に熱処理を施すということも行われていない。
電解ニッケルめっきに使用されるめっき液としてはスルファミン酸浴やストライク浴(ウッド浴)などもあるが、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分としたワット浴が最も一般的で実用的であり、これを利用すればよい。ワット浴を用いて得られるめっき皮膜は素地との密着性が良く半光沢で耐食性があり、ワット浴に光沢剤を加えためっき液で鏡面光沢の皮膜を作成することも行われている。光沢剤を用いるとめっき皮膜の硬度もHv600程度までは上がるということが知られている。
光沢ニッケルめっきの光沢剤には一次光沢剤と二次光沢剤とがある(非特許文献2)。
本発明には一般的に光沢剤として知られている化合物を使用してもよく市販されている光沢剤を用いてもよい。
(4−1)一次光沢剤
一次光沢剤は、めっき皮膜中の結晶粒子を微細化することにより光沢を付与する働きをすると言われている。主に可視光の波長のひとけた下程度の大きさの構造が制御されるので、鏡面光沢までは得られないことが多く、半光沢剤とも呼ばれている。
一次光沢剤に利用される硫黄系化合物としては、芳香族スルホン酸類の1,5ナフタレンジスルホン酸ナトリウム(DNS);芳香族スルホンアミド類のp-トルエンスルホンアミド;芳香族スルホンイミド類のオルソベンゼン・スルホンイミド(サッカリン)やそのナトリウム塩;などがある。一般には、サッカリン又はナフタレンジスルホン酸ナトリウム(DNS)が用いられる。
本発明に使用する一次光沢剤は、これらの化合物の単体あるいはこれらの混合物でもこれらにさらに若干の添加剤を加えたものでもよく、更には一次光沢剤として調合された市販の一次光沢剤であってもよい。
二次光沢剤は、一次光沢剤では達せられない小さな領域を平滑化し、それによって鏡面光沢を得るために利用される。
その作用機序として、表面に吸着されたサッカリンなど一次光沢剤である硫黄系化合物が光の波長の一桁下のレベルで結晶化を制御して大まかな平滑化を行い、ブチンジオールなど二次光沢剤が、めっき表面で還元されブタンジオールに還元される際に結晶粒子によって生じる微細な凹凸を平滑化して光沢を与えると考えられている。
二次光沢剤に利用される物質としては、アルデヒド類のホルムアルデヒド(ホルマリン)など、アリル又はビニル化合物のアリルスルホン酸ナトリウムなど、アセチレン化合物のブチンジオールなど、ニトリル類のエチレンシアンヒドリンなど、その他プロパルギルアルコール、ゼラチン、チオ尿素などがある。一般には、ブチンジオールやプロパルギルアルコールなどの不飽和アルコール類が用いられるため、二次光沢剤は不飽和アルコール成分とも称される。
本発明に使用する二次光沢剤はこれらの化合物やその混合物、これらにさらに若干の添加剤を加えたものを用いてもよいし、二次光沢剤として調合された市販の二次光沢剤を用いてもよい。
界面活性剤としては、一般に汎用性が高く安価なドデシル硫酸ナトリウム(SDS、ラウリル硫酸ナトリウムともいう。)などが好ましく、実際にも使われることが多いが、その他の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、さらに両性イオン性界面活性剤なども利用できる。
陰イオン性界面活性剤としては、典型的にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのアルキル硫酸塩であるが、他にα−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、そのリン酸エステル、パーフルオロオレフィンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロエーテルスルホン酸塩等が挙げられる。尚、これらの陰イオン性アニオン界面活性剤の塩のカチオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、ジエチルジメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数C4〜C25アルキルフェノール系、炭素数C4〜C20アルカノール、ポリアルキレングリコール系等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩等が挙げられる。
両性イオン性界面活性剤としては、例えば、ベタイン、スルホベタイン、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化又はスルホン酸化付加物等が挙げられる。
マイクロバブルは、マイクロバブルを発生させるための設備をめっき槽に装着し、これを稼働させることで発生させる(特許文献1など)。マイクロバブルを発生させる設備には、加圧・旋回、加圧発泡、旋回・剪断、キャビテーション、ベンチュリーなど様々な方式のものがあるが、いずれを用いてもよい。
マイクロバブルの泡の大きさは、泡の直径の分布のピーク値すなわち最多直径が約500μm以下であることが必要である。
マイクロバブルは浮力が小さく例えば10分といっためっきをする間はかなりのマイクロバブルがめっき液中にとどまるので、めっきを行っている間、連続してマイクロバブルを発生させていても良く、マイクロバブルの発生を減速ないし停止しても良い。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬の取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した先行技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
(1−1)電解ニッケルめっき工程及び熱処理工程
水1000部に、硫酸ニッケル240部、塩化ニッケル45部及び硼酸30部を溶解し、pH4〜5に調整した。これに一次光沢剤としてサッカリンをめっき液1Lあたり16mmolと、二次光沢剤としてブチンジオールをめっき液1L当たり5.8mmol加えて、本実施例で用いるニッケルめっき液とした。
調製しためっき液を攪拌機とサイクロン方式(ベンチュリー方式)のマイクロバブル作成用ノズルを設けためっき槽に入れ、マイクロバブルを発生させつつ撹拌を継続しながら、平均電流密度5A/dm2で10分間ハルセル鉄板に対して電解ニッケルめっきを行った。
めっき終了後、作成しためっき試験片を水洗し乾燥した後硬度を測定した。めっき皮膜の硬度はマイクロビッカース硬さ試験機で位置を変えて3点測定し、平均値を求めた。
また、同じ条件でめっきを施した試験片を、電気炉を用い、200℃で1時間という条件で熱処理を行った。熱処理後のめっき試験片に対しても同様の手法で硬度を測定した。
熱処理を施さない状態の試験片のめっき皮膜のビッカース硬度は583であり、通常のニッケル電解めっきで得られる硬度とほぼ同様であったのに対し、熱処理後のめっき皮膜の硬度は722であり、かなり高くなっていることがわかる。
本実験例(1−1)に示したニッケルめっき液を用い、マイクロバブルを共存させる同じめっき条件下でめっき処理を施した場合、及びニッケルめっき液にドデシル硫酸ナトリウムを0.1 重量%の割合で添加しためっき液を用い、マイクロバブルは共存させず攪拌のみを行う条件下でめっき処理を施した場合について、それぞれ(1−1)と同様の熱処理工程を施した。
両者について、(1−1)と同様の測定条件で熱処理前及び熱処理後のめっき皮膜の硬度を測定したところ、両者の熱処理後の硬度はほぼ同等であった。すなわち、めっき液中に界面活性剤を少量添加することで、マイクロバブル共存の場合と同程度の効果が得られることがわかった。
実験例(1−1)と同様に調製したニッケルめっき液に、さらに界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.1重量%添加した。当該調製めっき液を用いて、実験例1と同じ条件でマイクロバブル共存下に攪拌しながらハルセル鉄板に対して電解ニッケルめっきを行った。得られためっき試験片の水洗・乾燥後のビッカース硬度は622であった。
また同じ条件でめっきした試験片の200℃1時間熱処理後の硬度は794と熱処理後の硬度は大幅に上昇した。
実施例1で得られためっき処理工程後の試験片に対し、100℃、150℃、200℃、250℃。300℃と温度を変えて1時間の熱処理工程を施した。めっき皮膜の硬度は100℃では718、150℃では744、200℃では794、250℃では791であり、いずれも熱処理前の硬度622と比較して大幅に高く、しかも温度が高い方が硬度も高くなる傾向があったが、無電解ニッケルめっきの場合と異なり、300℃では443と低下した。(図1)
Claims (1)
- ニッケルの電解めっき熱処理方法により高硬度のニッケルめっき被膜を得る方法であって、
(1)電解ニッケルめっき液として、一次光沢剤および二次光沢剤と共に、界面活性剤を添加して調製する工程、
ここで、一次光沢剤としては、1,5ナフタレンジスルホン酸ナトリウム(DNS)、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸ナトリウム(TNS); p−トルエンスルホンアミド(PTSA);オルソベンゼン・スルホンイミド( サッカリン)又はそのナトリウム塩;から選択される少なくとも1つの化合物または又はこれらの混合物であり、
ここで、一次光沢剤としては、ホルムアルデヒド(ホルマリン);アリルスルホン酸ナトリウム;ブチンジオール;エチレンシアンヒドリン;プロパルギルアルコール、ゼラチン、及びチオ尿素から選択される少なくとも1つの化合物又はこれらの混合物である、
(2)電解ニッケルめっき液中に泡の直径分布のピーク値が500ミクロン以下のマイクロバブルを送入し、撹拌しながら、被めっき物表面にニッケル被膜を形成させる工程、
(3)電解ニッケル被膜が形成されためっき物を、100℃以上300℃未満の温度で5分以上熱処理を施す工程、
を含むことを特徴とする、高硬度のニッケルめっき被膜を得る方法。
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