JP6896229B2 - 耐溶着チッピング性にすぐれた切削工具 - Google Patents
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Description
そして、前記非被覆超硬合金製の切削工具において、工具寿命等の切削性能を高めるために、更なる提案がなされている。
そして、前記特許文献1では、切削工具の表面を少なくとも部分的に0.5〜8μmの薄いCo層にて被覆することにより、切れ刃のチッピングが抑制されることが記載されている。
しかしながら、前記特許文献1に記載された発明においては、少なくとも切削工具の表面の一部をCo層の薄層にて覆うことにより、たしかに表面の靱性が向上することで逃げ面摩耗に起因したチッピングは抑制されるものの、溶着起因によるチッピングに対しては、その抑制効果が劣るという問題を有していた。
そこで、本発明では、切削工具として、溶着起因によるチッピングに対してすぐれた耐溶着チッピング性を有する切削工具を提供することを目的とする。
さらに、本発明者らは、特に、工具基体の刃先部において、ウエットブラストなどの手段による、酸化ジルコニウム(ZrO2)付着後の結合相中のCo相、すなわち、面心立方晶構造を有するCo相(以下、「fcc−Co」という。)と、六方晶構造を有するCo相(以下、「hcp−Co」という。)との面積割合と前記刃先部の特性との関係に着目し、前記刃先部の最表面部、および、前記最表面部から内部へ1mm深さの位置の二箇所にて、それぞれ、前記fcc−Coと前記hcp−Coとの総面積に対する前記hcp−Coの面積率を、EBSD法(電子線後方散乱回折法)を用いた画像解析により測定を行ったところ、fcc−Coに対し相対的に高硬度であるhcp−Coの前記面積率について、前記刃先部の最表面部における前記面積率が、前記刃先部の前記最表面部より内部へ1mmの深さの位置における前記面積率よりも40%以上高いときに、耐塑性変形性が向上することを見出したものである。
「(1) 硬質相としてWCを主成分とし、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金からなる工具基体の少なくともすくい面の最表面には、面積率20〜50%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記すくい面におけるWCの圧縮残留応力が、1500MPa〜2200MPaであることを特徴とするWC基超硬合金切削工具。
(2) 硬質相としてWCを主成分とし、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金からなる工具基体の少なくともすくい面の最表面には、面積率20〜50%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記WC基超硬合金における前記結合相中のCo相について、EBSD法(電子線後方散乱回折法)を用いた画像解析により測定された、面心立方晶構造を有するCo相と、六方晶構造を有するCo相(以下、「hcp−Co」という。)との総面積に対する前記hcp−Coの面積率が、刃先部の最表面部においては、前記刃先部の前記最表面部より内部へ1mmの深さの位置よりも40%〜90%高いことを特徴とするWC基超硬合金切削工具。」に特徴を有するものである。
本発明では、硬質相としてWCを主成分とし、結合相成分としてCoを含有するWC超硬合金基体を用いる。その他の結合相成分としては、必要に応じ、Ru、Reなどを添加成分として添加することができる。その他の硬質相成分としては、必要に応じ、TiC、TiN、TaC、NbC、Cr3C2、VCなどを添加成分として添加することができる。
結合相成分であるCoは、特に限定されないが、通常は4〜15質量%を含有する。
前述のとおり、本発明では、前記WC超硬合金基体の表面部にZrO2メディアを用いてブラスト処理を行うことにより、焼結後に基体表面に溶出し、耐溶着性を悪化させる原因となる溶出Coの除去を行うとともに、メディアとして用いた酸化ジルコニウムにて少なくともすくい面を面積率20〜50%、好ましくは、25〜40%にて覆うことにより、耐溶着性および耐チッピング性の向上を図るものである。
すくい面における酸化ジルコニウムの面積率が20%未満では、耐溶着性および耐チッピング性について所望の効果が得られず、一方、50%を超える場合には、耐溶着性および耐チッピング性効果が飽和するため、すくい面における酸化ジルコニウムの面積率は、20〜50%と規定した。
本発明では、すくい面において、特に、刃先のホーニング処理面とすくい面との交点から500μm以内の表面組織において前記面積率を満たすことにより、耐溶着性および耐チッピング性においてすぐれた特性を有するものである。
本発明では、前記WC基超硬合金からなる工具基体の基体表面部の前記すくい面において、圧縮残留応力を1500MPa〜2200MPa、好ましくは、1800MPa〜2000MPaと規定することにより、工具基体の亀裂進展性を抑制し、耐溶着チッピング性の向上を図るものである。
前記圧縮残留応力が1500MPa未満では、耐チッピング性が十分ではなく、一方、
前記ブラスト処理による投射圧力が高いなどにより、圧縮残留応力が2200MPaを超える場合には、WC基体にクラックが入る等により、耐チッピング性が低下するため、1500MPa〜2200MPaと規定した。
また、本発明では、工具基体の刃先部において、ウエットブラストなどの手段による、酸化ジルコニウム(ZrO2)付着後の結合相中のCo相の、面心立方晶構造を有するCo相(以下、「fcc−Co」という。)と、六方晶構造を有するCo相(以下、「hcp−Co」という。)との総面積に対する前記hcp−Coの面積率を、前記刃先部の最表面部および最表面部から内部へ1mm深さの位置の二箇所にて測定を行い、前記面積率の差分について、前記刃先部の最表面部においては、前記刃先部の前記最表面部より内部へ1mmの深さの位置よりも40%〜90%、好ましくは、60%〜90%高く規定することにより、耐塑性変形性の向上を図るものである。
前記面積率の差分が、40%未満では、耐塑性変形性の向上効果が小さく、また、90%を超えると耐塑性変形性の向上効果が飽和するため、面積率が40%〜90%高い範囲と定める。
1)基体として、前記硬質相と結合相とからなるWC超硬合金基体を準備し、必要に応じ、基体の刃先稜線に相当する部位については、ブラシによるホーニング処理またはアルミナメディアを用いたブラスト処理を施す。
2)ついで、基体に対し酸化ジルコニウム層を形成する。
具体的には、例えば、ウエットブラスト処理を用い、メディアとしてはZrO2粒を用い、酸化ジルコニア層を形成する。
このような酸化ジルコニアを用いたブラスト処理を行うことによって、刃先が削れ、結果的にホーニング処理と同様な丸みを有する刃先形状が得られるので、酸化ジルコニアを用いたブラスト処理を行う場合には、前記したホーニング処理を省略することができる。
具体的なウエットブラスト処理条件としては、例えば、以下のとおりである。
メディア径:100〜300μm、好ましくは、120〜200μm
投射角度 :すくい面法線に対し、0°〜80°、好ましくは、30°〜60°
投射圧力 :0.30〜0.40MPa
投射時間 :30〜180秒、好ましくは、45〜120秒
なお、それぞれの処理条件について、その数値限定理由は、以下のとおりである。
メディア径については、100μmより小さいと基体表面に残存するZrO2の割合が著しく減少する一方、300μmを超えるとWC基体にクラックが入り、切削時の耐欠損性が大幅に低下するため、100〜300μmと規定した。
また、投射角度については、80度を超える場合には、ホーニング部分に対するZrO2の付着量が著しく減少するので、上限値を80度とした。
また、投射圧力については、0.30MPa未満では、十分なZrO2の付着が起こらないため、下限値を0.30MPaとした。
同様に、投射時間については、30秒未満では、十分なZrO2の付着が起こらないため、下限値を30秒とした。
(1)基体最表面における酸化ジルコニウム層の面積率の測定
基体最表面における酸化ジルコニウム層の面積率は、例えば、刃先のホーニング処理面とすくい面との交点から500μm以内の表面組織について任意の6視野を選択し、各視野についてSEM−EDS(走査型電子顕微鏡(SEM)搭載のエネルギー分散型X線分析装置(EDS))にて500倍でSEM観察し、二次電子像を得るとともに、EDSにて、同箇所のZr元素、O元素、W元素など含有する元素のマッピング像を取得し、Zr元素の検出された部分をZrO2として、画像処理にてZrO2粒子が検出された部分とされていない部分とを2値化した画像を解析することにより算出した。
すくい面におけるWC基体の圧縮残留応力は、例えば、すくい面のホーニング部分から5mm以内の部分について、X線応力測定法(sin2ψ法)を用い、Cuκαを用いたX線回折装置にて測定することができる。
工具基体であるWCの残留応力は、WCについては、(211)面の回折ピークを用い、ヤング率としては706GPaを、ポアソン比としては0.190を用いることにより、
材料および測定波長に基づく定数Kが定まり、実験によって2θ−sin2ψの関係式から定まる勾配に前記定数Kを乗ずることにより求めることができる。
測定箇所とする、刃先部最表面部、および、該最表面部より内部へ1mm深さの位置は、例えば、ノーズRの先端のすくい面と逃げ面が交わる刃先稜線から、すくい面と逃げ面がなす角度の1/2の角度にて基体におろした平面が交わる箇所を「刃先部最表面部」とし、さらに、そのまま前記基体におろした平面が基体内部に1mm入った箇所を「前記最表面部より内部へ1mm深さの位置」とすることができ、前記基体におろした平面に対し、垂直な縦断面にて測定を行うことができる。
前記WC基超硬合金における結合相中のCo相について、EBSD法(電子線後方散乱回折法)を用いた画像解析により得られる反射回折パターン(EBSDパターン)の違いにより、面心立方晶構造を有するCo相(「fcc−Co」)と、六方晶構造を有するCo相(「hcp−Co」)とを区別して認識することができるため、前記工具基体の刃先部の最表面部および前記刃先部の最表面部より内部へ1mmの深さの位置の二箇所において、面心立方晶構造を有するCo相(「fcc−Co」)と、六方晶構造を有するCo相(「hcp−Co」)との総面積に対する六方晶構造を有するCo相(「hcp−Co」)の面積率を測定することができる。
具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内に前記工具基体をセットし、測定面に対して70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を5nAの照射電流で、表面研磨した前記測定面に照射して電子後方散乱回折像装置を用いて任意の2視野について20μm×30μmの領域を0.05μm/stepの間隔で反射回折パターン(EBSDパターン)を得る。
ここで、本発明切削工具1〜13のすくい面において、刃先のホーニング処理面とすくい面との交点から500μm以内のすくい面の表面組織について、1視野250μm×300μmの領域を3視野選択し、各視野についてSEM−EDSにて、SEM観察およびEDXによる画像解析を行い、前記箇所における酸化ジルコニウム層の面積率を求め、表3に示す。
また、本発明切削工具1〜13のWC基体の圧縮残留応力は、前述したとおり、すくい面のホーニング部分から5mm以内の部分について、sin2Ψ法を用い、Cuκαを用いたX線回折装置を用いて測定した。測定にはWCについては、(211)面の回折ピークを用い、ヤング率として706GPa、ポアソン比として0.190を用いて導出し、表3に示す。
さらに、本発明切削工具1〜13のWC基体の刃先部の最表面部および刃先部の最表面部より深さ1mmの位置において、EBSD法(電子線後方散乱回折法)を用いた画像解析により、面心立方晶構造を有するCo相(「fcc−Co」)と、六方晶構造を有するCo相(「hcp−Co」)とが占める総面積に対する六方晶構造を有するCo相(「hcp−Co」)の面積率を求め、表3に示す。
<切削条件A>
被削材 : Ti−6Al−4V合金リング熱処理後黒皮
切削速度: 40m/分
送り : 0.6mm/rev
切込深さ: 2.5mm
切削時間: 10分
以上の条件にて湿式切削試験。
<切削条件B>
被削材 : Ti−6Al−4V合金リング(黒皮なし)
切削速度: 60m/分
送り : 0.6mm/rev
切込深さ: 2.5mm
切削時間: 10分
以上の条件にて湿式切削試験。
上記切削試験において、溶着の発生の有無、チッピング発生の有無を観察し、表4に切削試験結果を示す。
これに対して、比較例切削工具は、いずれも、酸化ジルコニウム層が形成されていないか、形成されているとしても面積率は20%未満であり、耐溶着性、および、耐チッピング性に関して、十分な切削性能を有するものではなかった。
Claims (2)
- 硬質相としてWCを主成分とし、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金からなる工具基体の少なくともすくい面の最表面には、面積率20〜50%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記すくい面におけるWCの圧縮残留応力が、1500MPa〜2200MPaであることを特徴とするWC基超硬合金切削工具。
- 硬質相としてWCを主成分とし、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金からなる工具基体の少なくともすくい面の最表面には、面積率20〜50%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記WC基超硬合金における前記結合相中のCo相について、EBSD法(電子線後方散乱回折法)を用いた画像解析により測定された、面心立方晶構造を有するCo相と、六方晶構造を有するCo相(以下、「hcp−Co」という。)との総面積に対する前記hcp−Coの面積率が、刃先部の最表面部においては、前記刃先部の前記最表面部より内部へ1mmの深さの位置よりも40%〜90%高いことを特徴とするWC基超硬合金切削工具。
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