以下、本発明に係る建設機械の実施の形態を油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、図1ないし図13を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。装軌式車両の代表例である油圧ショベル1は、自走可能な装軌式(クローラ式)の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とを備えている。上部旋回体3の前部側には作業装置4が俯仰の動作が可能に設けられ、この作業装置4を用いて掘削作業等が行われる。
下部走行体2は、左,右方向で対をなすサイドフレーム5A(左側のみ図示)を備えたトラックフレーム5と、各サイドフレーム5Aの長さ方向の一側に設けられたスプロケット(駆動輪)6と、各サイドフレーム5Aの長さ方向の他側に設けられたアイドラ(遊動輪)7と、スプロケット6とアイドラ7とに巻回された履帯8とを含んで構成されている。スプロケット6は、後述する走行装置11の回転側ハウジング17にボルト9を用いて固定され、この走行装置11によって履帯8を周回駆動させる。
次に、下部走行体2に設けられた走行装置11について説明する。
走行装置11は、サイドフレーム5Aの長さ方向の一側に設けられた走行装置取付ブラケット5Bに取付けられている。この走行装置11は、後述する固定側ハウジング12と、油圧モータ14と、回転側ハウジング17と、軸受19,20と、1段目の遊星歯車減速機構22および2段目の遊星歯車減速機構28と、ナット部材35と、緩止め機構36とを備えて構成されている。走行装置11は、油圧モータ14の回転を各遊星歯車減速機構22,28によって減速することにより、回転側ハウジング17を大きなトルクをもって回転させる。これにより、回転側ハウジング17に取付けられたスプロケット6とアイドラ7とに巻回された履帯8が周回駆動され、油圧ショベル1が走行する。
固定側ハウジング12は、サイドフレーム5Aの長さ方向の一側に設けられた走行装置取付ブラケット5Bに固定されている。固定側ハウジング12は、軸方向の一側が開口した段付き円筒状をなす筒部12Aと、筒部12Aの軸方向の他側に位置する底部12Bとにより有底円筒状に形成されている。固定側ハウジング12の軸方向の一側の外周には環状の鍔部12Cが一体形成され、この鍔部12Cは、サイドフレーム5Aの走行装置取付ブラケット5Bにボルト13を用いて固定されている。
固定側ハウジング12の軸方向の中間部位の外周には、円筒状の軸受取付部12Dが形成されている。この軸受取付部12Dは、後述の軸受19,20が取付けられるものである。一方、固定側ハウジング12の軸方向の中間部位から軸方向の他側に隣接した部位の外周には、雄ねじ部12Eが全周に亘って形成されている。この雄ねじ部12Eは、後述するナット部材35が螺合するものである。
固定側ハウジング12の底部12Bの中心部には、軸挿通孔12Fが設けられている。この軸挿通孔12Fは、後述の出力軸15が挿通されるものである。固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gには、円柱状をなす複数本(例えば4本)の歯車支持軸12Hが突設されている。これら各歯車支持軸12Hは、周方向に均等な角度(90度)をもって配置され、後述する第2の遊星歯車31を回転可能に支持するものである。各歯車支持軸12Hの軸端部には、ボルト穴12Jが形成されている。また、固定側ハウジング12の端面12Gには、雄ねじ部12Eの近くに位置して後述する1個の雌ねじ穴38が形成されている。
回転源としての油圧モータ14は、固定側ハウジング12の軸方向の一側に位置して筒部12Aの内周側に設けられている。この油圧モータ14は、例えば可変容量型の斜板式油圧モータによって構成され、固定側ハウジング12の筒部12Aの開口端は油圧モータ14によって閉塞されている。油圧モータ14は、シリンダブロック14A、複数のピストン14B、斜板14C、出力軸15等により大略構成されている。なお、油圧モータ14に代えて電動モータを回転源として用いてもよい。
出力軸15の先端側と固定側ハウジング12の軸挿通孔12Fとの間には、軸受16が設けられている。これにより、出力軸15の先端側は、軸受16を介して固定側ハウジング12に回転可能に支持されている。油圧モータ14は、油圧ポンプ(図示せず)から圧油が供給されることにより、出力軸15を回転させるものである。また、出力軸15の先端側には穴スプライン(雌スプライン)が形成され、この穴スプラインには、後述する回転軸21の軸スプライン21Aがスプライン結合されている。
回転側ハウジング17は、固定側ハウジング12の外周を外側から取囲んで設けられ、固定側ハウジング12に回転可能に支持されている。この回転側ハウジング17は、油圧モータ14によって回転されるものである。回転側ハウジング17は、円筒状をなす筒部17Aと、筒部17Aの軸方向の一側の外周に一体形成された鍔部17Bとにより鍔付き円筒状に形成されている。筒部17Aの軸方向の他側に位置する開口端は、蓋部17Cによって閉塞されている。回転側ハウジング17の鍔部17Bには、ボルト18を用いてスプロケット6が取付けられている。
回転側ハウジング17を構成する筒部17Aの軸方向の一側の内周面には、軸受取付部17Dが形成されている。この軸受取付部17Dは、固定側ハウジング12の軸受取付部12Dと全周に亘って対面し後述の軸受19,20が取付けられるものである。回転側ハウジング17(筒部17A)の軸方向の他側の内周面には、全周に亘ってリングギヤ(内歯車)17Eが形成されている。このリングギヤ17Eは、後述する第1の遊星歯車25および第2の遊星歯車31が噛合するものである。
軸受19および軸受20は、固定側ハウジング12の軸受取付部12Dと回転側ハウジング17の軸受取付部17Dとの間に設けられている。これら2個の軸受19,20は、固定側ハウジング12の軸方向に隣接して配置され、固定側ハウジング12に対して回転側ハウジング17を回転可能に支持している。各軸受19,20は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合したナット部材35によって軸方向に位置決めされている。
回転軸21は、回転側ハウジング17の筒部17A内に配置され軸方向に延びている。回転軸21の軸方向の一側は軸スプラインとなり、この軸スプラインは、油圧モータ14を構成する出力軸15の穴スプラインにスプライン結合されている。即ち、回転軸21は、油圧モータ14の出力軸15と同軸上に配設され、油圧モータ14の出力軸15と一体に回転するものである。回転軸21の軸方向の他側には、後述する第1の太陽歯車23が一体に設けられている。
1段目の遊星歯車減速機構22は、回転側ハウジング17の軸方向の他側(蓋部17C側)に位置して筒部17A内に設けられている。この1段目の遊星歯車減速機構22は、油圧モータ14の回転を減速して2段目の遊星歯車減速機構28に伝達するものである。1段目の遊星歯車減速機構22は、後述する第1の太陽歯車23、第1の遊星歯車25、第1のキャリア26等により構成されている。
第1の太陽歯車23は、回転軸21の軸方向の他側に一体形成されている。この第1の太陽歯車23は、油圧モータ14の出力軸15および回転軸21と一体に回転するものである。第1の太陽歯車23の軸方向の他側の端面は、回転側ハウジング17の蓋部17Cの内側面に設けられた摺動体24に摺動可能に当接している。
第1の遊星歯車25は、回転側ハウジング17の内周側に設けられたリングギヤ17Eと第1の太陽歯車23との間に複数個(1個のみ図示)設けられている。これら各第1の遊星歯車25は、第1のキャリア26に回転可能に支持された状態でリングギヤ17Eと第1の太陽歯車23とに噛合し、第1の太陽歯車23の周囲を自転しつつ公転するものである。
第1のキャリア26は、回転側ハウジング17の内周側に回転可能に設けられ、各第1の遊星歯車25を回転可能に支持している。第1のキャリア26は、中心部に雌スプライン26Aが形成された円板状の基板26Bと、雌スプライン26Aの周囲を取囲むように基板26Bの端面に突設された複数本(1本のみ図示)の支持軸26Cとを備えている。第1のキャリア26の雌スプライン26Aは、後述する第2の太陽歯車29にスプライン結合されている。第1のキャリア26の各支持軸26Cには、それぞれ軸受27を介して第1の遊星歯車25が支持されている。各支持軸26Cの先端側には止め輪26Dが取付けられ、この止め輪26Dによって第1の遊星歯車25および軸受27が軸方向に抜止めされている。第1のキャリア26は、各第1の遊星歯車25が第1の太陽歯車23の周囲を公転することにより回転し、この回転を2段目の遊星歯車減速機構28に伝達するものである。
2段目の遊星歯車減速機構28は、油圧モータ14と1段目の遊星歯車減速機構22との間に位置して回転側ハウジング17の筒部17A内に設けられている。この2段目の遊星歯車減速機構28は、1段目の遊星歯車減速機構22によって減速された油圧モータ14の回転をさらに減速して回転側ハウジング17に伝達するものである。2段目の遊星歯車減速機構28は、後述する第2の太陽歯車29、第2の遊星歯車31等により構成されている。
第2の太陽歯車29は、回転軸21の外周側に挿通された状態で第1の太陽歯車23と回転軸21の軸スプライン21Aとの間に配置されている。第2の太陽歯車29は、内周側が軸挿通孔29Aとなった円筒体からなり、軸挿通孔29Aには回転軸21が挿通されている。第2の太陽歯車29の軸方向の他側(第1の太陽歯車23側)の外周には、雄スプライン29Bが形成されている。この雄スプライン29Bは、第1のキャリア26の雌スプライン26Aにスプライン結合され、第2の太陽歯車29は、第1のキャリア26と一体に回転する。第1の遊星第2の太陽歯車29と第1の太陽歯車23との間には、円板状のスライドプレート30が設けられている。
第2の遊星歯車31は、回転側ハウジング17の内周側に設けられたリングギヤ17Eと第2の太陽歯車29との間に複数個(例えば4個)設けられている。これら各第2の遊星歯車31は、それぞれ軸受32を介して固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hに回転可能に支持されている。各第2の遊星歯車31は、固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hに回転可能に支持された状態で、リングギヤ17Eと第2の太陽歯車29とに噛合している。従って、第2の太陽歯車29が第1のキャリア26と一体に回転し、各第2の遊星歯車31が第2の太陽歯車29の周囲で自転することにより、回転側ハウジング17が回転する。これにより、油圧モータ14の回転は、各遊星歯車減速機構22,28によって2段減速され、回転側ハウジング17を大きなトルクをもって回転させることができる。
固定側ハウジング12に設けられた各歯車支持軸12Hの軸端部には、環状の押えプレート33が固定されている。押えプレート33は、各歯車支持軸12Hの軸端部に当接する環状体からなり、各歯車支持軸12Hのボルト穴12Jに螺着されるボルト33Aを用いて、各歯車支持軸12Hの軸端部に固定されている。押えプレート33は、各歯車支持軸12Hに対して第2の遊星歯車31および軸受32を軸方向に抜止めしている。
固定側ハウジング12の鍔部12Cと回転側ハウジング17の鍔部17Bとの間には、フローティングシール34が設けられている。フローティングシール34は、相対回転する固定側ハウジング12と回転側ハウジング17との間を液密に封止している。これにより、回転側ハウジング17内に潤滑油が保持され、各軸受19,20、各遊星歯車減速機構22,28が常に潤滑される構成となっている。
ナット部材35は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合して設けられている。図5ないし図7に示すように、ナット部材35は、全体として環状に形成され、ナット部材35の内周側には、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合する雌ねじ部35Aが形成されている。ナット部材35の軸方向の一側の端面は、軸受20の内輪に当接する軸受当接面35Bとなり、ナット部材35の軸方向の他側の端面は、各第2の遊星歯車31と対向する歯車対向面35Cとなっている。ナット部材35は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合した状態で軸受当接面35Bを軸受20の内輪に当接させることにより、軸受19,20を固定側ハウジング12の軸方向に位置決めするものである。ナット部材35の外周面には、周方向に90度の間隔をもって4個の工具係合部35Dが設けられている。これら各工具係合部35Dに工具(図示せず)を係合させることにより、工具を用いてナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに締込むことができる。
次に、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合したナット部材35の緩みを抑制する緩止め機構36について説明する。
緩止め機構36は、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gとナット部材35との間に設けられている。この緩止め機構36は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合したナット部材35を廻止めして緩みを抑え、ナット部材35の軸受当接面35Bが軸受20の内輪に当接した状態を保持するものである。緩止め機構36は、後述する凹溝37と、雌ねじ穴38と、固定ボルト39とにより構成されている。
凹溝37は、ナット部材35の内周縁に設けられている。即ち、図5ないし図7に示すように、凹溝37は、雌ねじ部35Aが形成されたナット部材35の内周縁の一部を径方向の外側に向けて円弧状に窪ませることにより、歯車対向面35Cから軸受当接面35Bに向けて軸方向に延びる凹陥溝として形成されている。凹溝37は、円弧状の周壁面37Aと底面37Bとを有し、ナット部材35の歯車対向面35Cから凹溝37の底面37Bまでの溝深さは、ナット部材35の軸方向の長さ寸法よりも小さく設定されている。凹溝37の周壁面37Aとナット部材35の内周縁とが交わる角部はボルト当接部37Cとなり、このボルト当接部37Cは、後述する固定ボルト39の頭部39Bに当接する構成となっている。
雌ねじ穴38は、ナット部材35に形成された凹溝37に対応する位置で固定側ハウジング12の端面12Gに軸方向に延びて形成されている。即ち、図3および図4に示すように、雌ねじ穴38は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eにナット部材35を螺合させ、ナット部材35の軸受当接面35Bを軸受20の内輪に当接させた状態で、ナット部材35の凹溝37と周方向で一致する部位に設けられている。雌ねじ穴38は、固定側ハウジング12の軸方向に延びる有底穴として形成され、固定側ハウジング12の端面12Gに開口している。
この場合、雌ねじ穴38は、周方向で隣合う2個の第2の遊星歯車31間、さらに詳しくは、周方向で隣合う2個の第2の遊星歯車31とナット部材35の内周縁とに囲まれた三角形状の領域内に配置されている(図3参照)。これにより、雌ねじ穴38に螺着された固定ボルト39が、各第2の遊星歯車31と干渉するのを防止でき、かつ、各第2の遊星歯車31を固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hに取付けたまま、雌ねじ穴38に対する固定ボルト39の着脱を行うことができる構成となっている。
固定ボルト39は、雌ねじ穴38に螺着されることにより、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gに固定して設けられている。固定ボルト39は、例えば六角穴付きボルトにより構成され、雌ねじ穴38に螺着されるねじ軸39Aと、ねじ軸39Aよりも大きな外径寸法を有する大径な頭部39Bとを有している。頭部39Bには、レンチ等の工具(図示せず)が係合する六角穴39Cが設けられている。図3に示すように、固定ボルト39は、ねじ軸39Aを雌ねじ穴38に螺着することにより、頭部39Bの一部がナット部材35の凹溝37内に張出した状態で、固定側ハウジング12の端面12Gに固定される。
これにより、図8に示すように、ナット部材35が緩みを生じ、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対して僅かに回転した場合には、ナット部材35に設けられた凹溝37のボルト当接部37Cが、固定ボルト39の頭部39Bに当接する。従って、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対するナット部材35のそれ以上の回転が規制され、ナット部材35は固定ボルト39によって緩止めされる。
この場合、ナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合するときの回転方向と、固定ボルト39を雌ねじ穴38に螺着するときの回転方向とは逆向きに設定されている。例えばナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合するときの回転方向が時計方向である場合には、固定ボルト39を雌ねじ穴38に螺着するときの回転方向は反時計方向に設定されている。従って、図8に示すように、ナット部材35が緩みを生じて矢示A方向(反時計方向)に回転した場合には、凹溝37のボルト当接部37Cが固定ボルト39の頭部39Bに当接し、固定ボルト39に対し矢示B方向(反時計方向)への回転力が作用する。固定ボルト39は、反時計方向に回転することにより雌ねじ穴38に締込まれる。これにより、ナット部材35の緩みを抑制する固定ボルト39が雌ねじ穴38に対して緩むのを抑え、長期に亘ってナット部材35の緩みを固定ボルト39によって抑制することができる構成となっている。
第1の実施の形態による走行装置11は、上述の如き構成を有するもので、油圧モータ14が作動して出力軸15が回転すると、この出力軸15の回転は、回転軸21を介して1段目の遊星歯車減速機構22を構成する第1の太陽歯車23に出力される。第1の太陽歯車23が回転すると、各第1の遊星歯車25が、回転側ハウジング17のリングギヤ17Eと第1の太陽歯車23とに噛合することにより、第1の太陽歯車23の周囲を自転しつつ公転する。これら各第1の遊星歯車25の公転は、第1のキャリア26に伝達される。
第1のキャリア26の減速された回転は、2段目の遊星歯車減速機構28を構成する第2の太陽歯車29に伝達され、第2の太陽歯車29に噛合する各第2の遊星歯車31が、回転側ハウジング17のリングギヤ17Eに噛合しつつ自転する。これら各第2の遊星歯車31の回転は、リングギヤ17Eを介して回転側ハウジング17に伝達される。
このように、油圧モータ14の回転は、1段目の遊星歯車減速機構22、2段目の遊星歯車減速機構28によって2段減速された後、回転側ハウジング17に伝達される。これにより、回転側ハウジング17に固定されたスプロケット6が大きなトルクをもって回転し、スプロケット6とアイドラ7とに巻回された履帯8が周回駆動されることにより、油圧ショベル1が走行する。
ここで、走行装置11を長期に亘って作動させることにより、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合したナット部材35が緩みを生じた場合には、ナット部材35の軸受当接面35Bが軸受20の内輪から離れてしまう。この場合には、ナット部材35によって軸受19,20を適正な位置に位置決めすることができなくなる。
これに対し、第1の実施の形態では、図8に示すように、ナット部材35が緩みを生じ、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対して僅かに回転した場合には、ナット部材35に設けられた凹溝37のボルト当接部37Cが、固定ボルト39の頭部39Bに当接する。これにより、ナット部材35が、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対して廻止めされ、ナット部材35の緩みを固定ボルト39によって抑制することができる。この結果、ナット部材35によって軸受19,20を常に適正な位置に位置決めすることができ、長期に亘って回転側ハウジング17を安定して回転させることができ、走行装置11の信頼性を高めることができる。
次に、走行装置11に対するメンテナンス作業として、例えばフローティングシール34を交換する作業について説明する。
フローティングシール34を交換する場合には、回転側ハウジング17の蓋部17Cを取外した状態で、回転側ハウジング17から1段目の遊星歯車減速機構22、回転軸21、第2の太陽歯車29等を取外す。また、固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hから押えプレート33、各第2の遊星歯車31、軸受32を取外す。この状態で、固定側ハウジング12の端面12Gから固定ボルト39を取外した後、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eからナット部材35を取外す。
この場合、固定ボルト39を取外すことにより、ナット部材35の凹溝37と固定ボルト39(頭部39B)との係合が解除される。従って、固定側ハウジング12の雄ねじ部12E、ナット部材35の雌ねじ部35Aを変形させることなく、ナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eから容易に取外すことができる。固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eからナット部材35を取外した後には、固定側ハウジング12から軸受19,20および回転側ハウジング17を取外す。これにより、フローティングシール34の交換を行うことができる。
フローティングシール34を交換した後には、固定側ハウジング12に軸受19,20を介して回転側ハウジング17を取付ける。次に、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eにナット部材35を螺合し、ナット部材35によって軸受19,20を軸方向に位置決めする。この状態で、固定側ハウジング12の端面12Gに形成された雌ねじ穴38に固定ボルト39を螺着し、固定ボルト39の頭部39Bの一部を、ナット部材35の凹溝37内に張出させる(図3参照)。
このようにして、固定ボルト39によってナット部材35が緩止めされた状態で、固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hに、軸受32、各第2の遊星歯車31、押えプレート33を組付ける。次に、回転側ハウジング17内に回転軸21、第2の太陽歯車29、1段目の遊星歯車減速機構22等を組付けた後、回転側ハウジング17に蓋部17Cを取付ける。これにより、フローティングシール34の交換作業が終了する。
第1の実施の形態による緩止め機構36によれば、固定ボルト39は、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gに形成された雌ねじ穴38に螺着されている。このため、固定ボルト39を雌ねじ穴38から取外すだけで、ナット部材35の凹溝37と固定ボルト39との係合状態が解除され、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eからナット部材35を容易に取外すことができる。
従って、特許文献1によるナット部材の緩止め機構のように、固定側ハウジングの雄ねじ部とナット部材との間にピンを打込む構成に比較して、固定側ハウジングの雄ねじ部またはナット部材の雌ねじ部を変形させることがない。このように、緩止め機構36によれば、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eやナット部材35の雌ねじ部35Aを変形させることなく、雄ねじ部12Eに対してナット部材35を着脱することができる。この結果、走行装置11に対するメンテナンスを行うときの作業性を高めることができる。
かくして、第1の実施の形態による走行装置11は、下部走行体2のトラックフレーム5に固定された固定側ハウジング12と、固定側ハウジング12に設けられた油圧モータ14と、固定側ハウジング12に対して回転可能に設けられた回転側ハウジング17と、固定側ハウジング12と回転側ハウジング17との間に設けられた軸受19,20と、油圧モータ14の回転を減速して回転側ハウジング17に伝達する遊星歯車減速機構22,28と、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合して設けられ固定側ハウジング12に対して軸受19,20を位置決めするナット部材35と、ナット部材35の緩みを抑制する緩止め機構36とを備えている。
緩止め機構36は、ナット部材35の内周縁に位置して径方向の外側に窪むように形成された凹溝37と、ナット部材35の凹溝37に対応する位置で固定側ハウジング12の端面12Gに軸方向に延びて形成された雌ねじ穴38と、ねじ軸39Aと頭部39Bとを有する固定ボルト39とを備え、固定ボルト39のねじ軸39Aが雌ねじ穴38に螺着された状態で頭部39Bの一部がナット部材35の凹溝37に係合することにより、ナット部材35が緩止めされる構成としている。
従って、固定ボルト39のねじ軸39Aが、雌ねじ穴38に螺着されることにより、固定ボルト39の頭部39Bの一部が、ナット部材35の凹溝37内に張出す。この状態で、ナット部材35が緩みを生じ、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対して僅かに回転した場合には、ナット部材35に設けられた凹溝37のボルト当接部37Cが、固定ボルト39の頭部39Bに当接する(図8参照)。この結果、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対するナット部材35の回転が規制されるので、ナット部材35を固定ボルト39によって緩止めすることができる。しかも、固定ボルト39のねじ軸39Aを雌ねじ穴38から取外すだけで、ナット部材35の凹溝37と固定ボルト39との係合状態が解除され、ナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eから容易に取外すことができる。この結果、走行装置11に対するメンテナンス作業の作業性を高めることができる。
実施の形態によれば、固定側ハウジング12の端面12Gには、2段目の遊星歯車減速機構28を構成する複数の第2の遊星歯車31が回転可能に支持され、雌ねじ穴38は、隣合う2個の第2の遊星歯車31間に設けられている。これにより、雌ねじ穴38に螺着された固定ボルト39が、各第2の遊星歯車31と干渉するのを防止することができる。しかも、各第2の遊星歯車31を、固定側ハウジング12の各歯車支持軸12Hに取付けたまま、雌ねじ穴38に対する固定ボルト39の着脱を行うことができる。
実施の形態によれば、ナット部材35を固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合するときの回転方向と、固定ボルト39を雌ねじ穴38に螺着するときの回転方向とは逆向きに設定されている。これにより、ナット部材35が緩み方向に回転し、凹溝37のボルト当接部37Cが固定ボルト39の頭部39Bに当接した場合には、固定ボルト39の頭部39Bに対し、雌ねじ穴38に螺着する方向への回転力が作用する。この結果、ナット部材35の緩みを抑制する固定ボルト39が、雌ねじ穴38に対して緩むのを抑えることができ、長期に亘ってナット部材35の緩みを固定ボルト39によって抑制することができる。
次に、図9ないし図11は本発明の第2の実施の形態を示し、第2の実施の形態の特徴は、固定側ハウジングの軸方向の他側の端面に、雌ねじ穴と同心上に座ぐり穴を設けたことにある。なお、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、座ぐり穴41は、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gに、雌ねじ穴38と同心上に設けられている。座ぐり穴41は、固定ボルト39の頭部39Bの外径寸法よりも大きな内径寸法を有し、底面41Aを有する有底穴として形成されている。これにより、雌ねじ穴38に固定ボルト39のねじ軸39Aを螺着すると、固定ボルト39の頭部39Bは、座ぐり穴41の底面41Aに着座した状態で、座ぐり穴41内に収容される構成となっている。従って、固定ボルト39の頭部39Bは、固定側ハウジング12の端面12Gに形成された座ぐり穴41内に収容されるため、端面12Gから上方に突出することがない。
ナット部材42は、第1の実施の形態によるナット部材35と同様に、雌ねじ部42Aと、軸受当接面42Bと、歯車対向面42Cと、4個の工具係合部42Dとを有している。ナット部材42は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合した状態で軸受当接面42Bを軸受20の内輪に当接させることにより、軸受19,20を固定側ハウジング12の軸方向に位置決めするものである。図10に示すように、ナット部材42の軸受当接面42Bと歯車対向面42Cとの間の軸方向寸法(厚さ寸法)は、固定側ハウジング12の端面12Gから座ぐり穴41の底面41Aまでの軸方向寸法(深さ寸法)と同程度に設定されている。これにより、ナット部材42は、第1の実施の形態によるナット部材35に比較して軸方向寸法が短く設定されている。このため、ナット部材42の軸受当接面42Bを軸受20の内輪に当接させた状態で、ナット部材42の歯車対向面42Cは、固定側ハウジング12の端面12Gと同一平面、あるいは固定側ハウジング12の端面12Gから第2の遊星歯車31側に突出しない位置に配置されている。
第2の実施の形態による緩止め機構43は、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gとナット部材42との間に設けられ、ナット部材42の緩みを抑えるものである。緩止め機構43は、雌ねじ穴38と、固定ボルト39と、後述する凹溝44とにより構成されている。
凹溝44は、ナット部材42の内周縁に設けられている。即ち、凹溝44は、雌ねじ部42Aが形成されたナット部材42の内周縁の一部を径方向の外側に向けて円弧状に窪ませることにより、歯車対向面42Cと軸受当接面42Bとの間の全域に亘って軸方向に延びる凹陥溝として形成されている。凹溝44の周壁面44Aとナット部材42の内周縁とが交わる角部はボルト当接部44Bとなり、このボルト当接部44Bは、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対してナット部材42が緩んだときに、固定ボルト39の頭部39Bに当接する。これにより、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対するナット部材42のそれ以上の回転が規制され、ナット部材42は固定ボルト39によって緩止めされる。
第2の実施の形態による走行装置は、上述の如き座ぐり穴41、ナット部材42および緩止め機構43を有するもので、緩止め機構43によってナット部材42の緩みを抑制する基本的作用については、第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
然るに、第2の実施の形態によれば、固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gに座ぐり穴41が設けられ、この座ぐり穴41内に固定ボルト39の頭部39Bが収容されている。また、ナット部材42は、軸受当接面42Bと歯車対向面42Cとの間の軸方向寸法が短く設定されている。これにより、固定ボルト39の頭部39Bと、ナット部材42の歯車対向面42Cとは、固定側ハウジング12の端面12Gよりも第2の遊星歯車31側に突出することがない。従って、各遊星歯車減速機構22,28を構成する部材を固定側ハウジング12の端面12G側に設ける場合に、固定ボルト39、ナット部材42との干渉を考慮する必要がない。この結果、各遊星歯車減速機構22,28を設計するときの自由度を広げることができる。
次に、図12、図13は本発明の第3の実施の形態を示し、第3の実施の形態の特徴は、固定側ハウジングの軸方向の他側の端面に複数個の雌ねじ穴を設け、ナット部材に複数個の凹溝を設けたことにある。なお、第3の実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、ナット部材51は、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに螺合して設けられている。ナット部材51は、第1の実施の形態によるナット部材35と同様に、内周側には雌ねじ部51Aが形成され、外周側には4個の工具係合部51Bが形成されている。しかし、ナット部材51の内周縁に設けられる凹溝52が、複数個(例えば3個)の凹溝52A,52B,52Cによって構成される点で、第1の実施の形態によるナット部材35とは異なるものである。
3個の凹溝52A,52B,52Cは、ナット部材51の内周縁に設けられている。これら各凹溝52A〜52Cは、それぞれナット部材51の内周縁を径方向の外側に向けて円弧状に窪ませることにより、軸方向に延びる凹陥溝として形成されている。各凹溝52A〜52Cは、周方向に均等な間隔(120°)をもって配置されている。
固定側ハウジング12の軸方向の他側の端面12Gに設けられる雌ねじ穴53は、複数個(例えば4個)の雌ねじ穴53A,53B,53C,53Dによって構成されている。これら各雌ねじ穴53A〜53Dは、周方向に均等な間隔(90°)をもって配置されている。また、各雌ねじ穴53A〜53Dは、固定側ハウジング12の端面12Gに突設された4本の歯車支持軸12Hに対し、それぞれ周方向に均等な間隔(45°)を保っている。
ここで、ナット部材51に設けられる凹溝52の個数をm個とし、固定側ハウジング12の端面12Gに設けられる雌ねじ穴53の個数n個とした場合、X番目の凹溝52は、X−1番目の凹溝52に対し下記数1で設定された角度θだけ回転した位置に配置されている。なお、数1において、kは0,1,2,・・・n−1の範囲の任意の整数である。
例えば、図12に示すように、凹溝52の個数mを3個(52A,52B,52C)とし、雌ねじ穴53の個数nを4個(53A,53B,53C,53D)とする。そして、凹溝52Aを基準となる1番目の凹溝とし、この凹溝52Aを雌ねじ穴53Aに対応させる。数1においてk=1とした場合、凹溝52Aに隣合う2番目の凹溝52Bは、1番目の凹溝52Aに対してθ=120°だけ回転した位置に配置されている。これと同様に、3番目の凹溝52Cは、2番目の凹溝52Bに対して角度θ=120°だけ回転した位置に配置されている。
この状態で、ナット部材51を、下記数2で設定された角度θ2だけ時計方向(図13中の矢示C方向)に回転させて締めつける。
このように、ナット部材51を角度θ2=30°だけ締付ける方向(矢示C方向)に回転させることにより、図13に示すように、2番目の凹溝52Bを、2番目の雌ねじ穴53Bに対応する位置に配置することができる。このため、雌ねじ穴53Bに固定ボルト39を螺着することにより、ナット部材51の緩止めを行うことができる。
一方、ナット部材51を角度θ2=30°だけ反時計方向(図13中の矢示D方向)に回転させて緩めた場合には、図13中に二点鎖線で示すように、3番目の凹溝52Cを、4番目の雌ねじ穴53Dに対応する位置に配置することができる。このため、雌ねじ穴53Dに固定ボルト39を螺着することにより、ナット部材51の緩止めを行うことができる。
このように、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対してナット部材51を角度θ2だけ回転させる毎に、m個の凹溝52のうち1個を、n個の雌ねじ穴53のうち1個に位置合わせすることができる。従って、第1の実施の形態のように、ナット部材35に設けられた1個の凹溝37を、固定側ハウジング12の端面12Gに設けられた1個の雌ねじ穴38に位置合わせする場合に比較して、雌ねじ穴53に対する凹溝52の位置合わせを容易に行うことができる。
この場合、凹溝52の個数(m)、または雌ねじ穴53の個数(n)を増やすことにより、上記数2によって設定される角度θ2は小さくなる。従って、ナット部材51を締付け方向または緩み方向に細かく回転させるだけで、雌ねじ穴53に対する凹溝52の位置合わせを一層容易に行うことができる。
第3の実施の形態による走行装置は、ナット部材51に複数(m)個の凹溝52を設け、固定側ハウジング12の端面12Gに複数(n)個の雌ねじ穴53を設けたもので、雌ねじ穴53に螺着した固定ボルト39が凹溝52に係合することにより、ナット部材51の緩みを抑制する基本的作用については、第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
然るに、第3の実施の形態によれば、ナット部材51を締付け方向または緩み方向に細かく回転させるだけで、雌ねじ穴53に対する凹溝52の位置合わせを行うことができる。これにより、第1の実施の形態のように、ナット部材35に1個の凹溝37を設け、固定側ハウジング12の端面12Gに1個の雌ねじ穴38を設ける構成に比較して、ナット部材51を細かく回転させて凹溝52を雌ねじ穴53に位置合わせする作業を容易に行うことができる。この結果、雌ねじ穴53に対する凹溝52の位置合わせを行うときのナット部材51の回転量を抑えることができ、固定側ハウジング12の雄ねじ部12Eに対するナット部材51の締付けトルクを適正な範囲に設定することができる。
なお、実施の形態では、回転側ハウジング17内に2段の遊星歯車減速機構22,28を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば1段または3段以上の遊星歯車減速機構を設ける構成としてもよい。
実施の形態では、固定側ハウジング12の端面12Gに、第2の遊星歯車31を支持する歯車支持軸12Hが一体形成された場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば固定側ハウジングとは別部材として形成された歯車支持軸を、固定側ハウジングに取付ける構成といてもよい。
実施の形態では、装軌式車両としてクローラ式の油圧ショベル1を例示したが、本発明はこれに限らず、例えばクローラ式の油圧クレーン等の他の装軌式車両に広く適用することができる。