JP6743619B2 - 機械部品の製造方法、及び時計の製造方法 - Google Patents
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本適用例によれば、シリコンを含む基材からなる回転部材の貫通孔に、軸部材を挿入して位置決めした後で、回転部材の表面にシリコン酸化膜を形成する酸化処理を行うので、貫通孔の内壁に形成されるシリコン酸化膜により貫通孔と軸部材との隙間が埋まることによって、回転部材に軸部材が強固に固定された機械部品を提供することができる。
また、酸化処理により形成されるシリコン酸化膜は、貫通孔内において、軸部材との隙間の大小に拘わらず略均一な厚みで形成されるので、貫通孔の中心と軸部材の軸の中心とを合致させた状態で回転部材に軸部材を固定することができる。
また、シリコンを含む基材からなる回転部材の表面に形成されるシリコン酸化膜により、回転部材に軸部材が固定されてなる機械部品の機械的強度を向上させることができる。
したがって、信頼性及び耐久性に優れた精度の高い時計を製造することができる。
はじめに、機械式時計1について説明する。図1は、本実施形態に係る時計としての機械式時計のムーブメント表側の平面図である。
図1に示すように、本実施形態の機械式時計1は、ムーブメント10と、このムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。この巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
脱進機構30は、上述した表輪列の回転を制御する機構であって、四番車27と噛み合うがんぎ車(機械部品)35と、このがんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル(機械部品)36と、を備えている。
調速機構31は、上述した脱進機構30を調速する機構であって、てんぷ(機械部品)40を具備している。
次に、上述したムーブメント10の脱進機構30について、より詳細に説明する。図2は脱進機構30の平面図であり、図3は脱進機構30の斜視図、図4は図2のA−A線に沿う断面図である。
図2〜図4に示すように、脱進機構30のがんぎ車35は、回転部材としてのがんぎ歯車部101と、がんぎ歯車部101に同軸(軸線O1)上に固定された軸部材(回転軸)102と、を備えている。以下の説明では、がんぎ歯車部101及び軸部材102の軸線O1に沿う方向を単に軸方向、軸線O1に直交する方向を径方向といい、軸線O1回りに周回する方向を周方向という。
図2〜図5に示すように、がんぎ歯車部101は、単結晶シリコン等、結晶方位を有する材料からなり、一方の面としての表面101a、及び、一方の面と反対側の他方の面としての裏面101bが平坦面とされるとともに、全面に亘って均一な厚みとされた板状のものである。具体的に、がんぎ歯車部101は、周囲のリム部111と、中央のハブ部112と、これらリム部111及びハブ部112を連結する複数のスポーク部113と、を有している。
リム部111の外周面には、特殊な鉤型状に形成された複数の歯部114が径方向の外側に向けて突設されている。これら複数の歯部114の先端に、後述するアンクル36の爪石144a,144bが接触するようになっている。
ほぞ部121a,121bのうち、軸方向一端側に位置する一端ほぞ部121aは、図示しない輪列受に回転可能に支持され、軸方向他端側に位置する他端ほぞ部121bは、上述した地板11に回転可能に支持されている。
次に、上述した機械部品としてのがんぎ車35の製造方法について説明する。
図6は、機械部品としてのがんぎ車35の製造方法を示すフローチャートであり、図7A,図7Bは、がんぎ車35の作成工程を説明するための説明図であって、図4のD部に相当する部分断面図である。
歯車部101の形成工程では、まず、シリコンを含む基材(ウェハー)200を準備する(ステップS1)。
基材200に塗布したフォトレジスト及び裏面マスク材の各々は所定の温度によるキュアを行うが、フォトレジストのキュア条件と裏面マスク材のキュア条件との差が大きい場合等には、フォトレジストと裏面マスク材とで別々にキュアを行い、フォトレジストのキュア条件と裏面コート材のキュア条件とが同じか近似であれば、キュア工程を同時に行うことにより工程の効率化を図ることができる。
なお、フォトレジストの塗布工程と裏面マスク材の塗布工程とは、各樹脂材料のキュア条件を考慮した工程順の設定などの便宜上、順番を逆にして行う構成としてもよい。
図7Aは、がんぎ車35の作成工程において、がんぎ歯車部101の貫通孔115に軸部材102を挿入して位置決めした状態を示している。図7Aに示すように、がんぎ歯車部101の貫通孔115の開口部の直径は、軸部材102の貫通孔115内に配置される圧入軸部123の直径に対して大きめに形成されている。具体的には、貫通孔115の直径は、軸部材102を貫通孔115に挿入したときに、貫通孔115の内壁面200cが欠けてしまわない程度であって、且つ、がんぎ歯車部101と軸部材102との位置決め状態が保持できる程度にて、軸部材102の圧入軸部123の直径よりも大きめに形成されている。例えば、軸部材102の圧入軸部123の直径が320μmである場合に、貫通孔115の開口部の直径を322μm程度に形成する。
また、図7Aに示すように、軸部材102をがんぎ歯車部101の貫通孔115に挿入して位置決めした状態では、貫通孔115の内壁面200cと軸部材102(圧入軸部123)との隙間が軸部材102の周方向各所で均一でなくてもよく、また、軸部材102の軸線O1とがんぎ歯車部101の中心(貫通孔115の中心)とが所定の範囲内でずれていてもよい。
また、酸化処理により形成されるシリコン酸化膜250は、貫通孔115内において、軸部材102(圧入軸部123)の各部との隙間の大小に拘わらず、貫通孔115の内壁面200cと、基材200の表面200aおよび裏面200bに略均一な厚みで形成される。これにより、図7Aに示すように、軸部材102をがんぎ歯車部101の貫通孔115に挿入して位置決めした状態において、貫通孔115の内壁面200cと軸部材102(圧入軸部123)との隙間が軸部材102の周方向各所で均一でなかったり、軸部材102の軸線O1とがんぎ歯車部101の中心(貫通孔115の中心)とがずれていたりする場合でも、図7Bに示すように、基材200の表面(表面200aおよび裏面200b)および貫通孔115の内壁面200cに均一な厚みで形成されるシリコン酸化膜250により、貫通孔115の中心と軸部材の軸の中心とを合致させた状態で回転部材としてのがんぎ歯車部101に軸部材102を固定することができる。
また、切削加工や研削加工などの機械加工により形成された軸部材102は、表面に微小なキズなどの凹凸を有しているので、これらの凹凸にがんぎ歯車部101のシリコン酸化膜250が入り込むことにより、所謂アンカー効果が働いて、がんぎ歯車部101の貫通孔115に軸部材102がより強固に固定される効果が得られる。
本実施形態によれば、シリコンを含む基材200からなる回転部材としてのがんぎ歯車部101の貫通孔115に、軸部材102を挿入して位置決めした後で、がんぎ歯車部101の表面にシリコン酸化膜250を形成する酸化処理を行うので、貫通孔115の内壁面200cに形成されるシリコン酸化膜250により貫通孔115と軸部材102との隙間が埋まることによって、がんぎ歯車部101に軸部材102が強固に固定された機械部品としてのがんぎ車35を提供することができる。
また、シリコンを含む基材200を本実施形態の製造方法により加工して形成されるがんぎ歯車部101などの精密な機械部品の少なくとも一部分は、金属製の機械部品に比べて軽いとともに、形状の自由度が高く、高精度な外形形状の形成ができるという利点を有する。
さらに、比較的脆く欠けなどが起こりやすいシリコンを含む基材200からなるがんぎ歯車部101は、酸化処理を行う工程で形成されるシリコン酸化膜250により、機械的な強度が顕著に向上するという効果が得られる。
上記実施形態では、軸部材102の材料として、タンタルまたはタングステンが好ましいことを説明したが、これに限らない。軸部材102の材料として、シリコンを含む材料を用いる構成としてもよい。
次に、本発明の機械式時計の製造方法について説明する。
本発明の機械式時計の製造方法は、図1〜図5のいずれかに示す香箱車22、番車(二番車25、三番車26、四番車27)、がんぎ車35、アンクル36及びてんぷ40のいずれかに、上記実施形態および変形例のがんぎ歯車部101を代表例として説明した機械部品のいずれかの製造方法により製造された機械部品を用いて、ムーブメント10を組み立てる組立工程を含むことを特徴とするものである。
また、上記実施形態のがんぎ車35におけるがんぎ歯車部101の貫通孔115と軸部材102のような、機械部品における回転部材の貫通孔の中心と、軸部材の軸の中心とが合致した機械部品を用いているので、時計用ムーブメントの精度の向上に寄与できる。
したがって、信頼性及び耐久性に優れた精度の高い機械式時計を提供することができる。
Claims (6)
- シリコンを含む基材をエッチングして貫通孔を有する回転部材を形成する工程と、
前記回転部材の前記貫通孔に軸部材を挿入して位置決めする工程と、
前記位置決めする工程の後で、酸化処理を行う工程と、
を含むことを特徴とする機械部品の製造方法。 - 請求項1に記載の機械部品の製造方法において、
前記酸化処理を行う工程は、熱酸化処理を行うことを特徴とする機械部品の製造方法。 - 請求項2に記載の機械部品の製造方法において、
前記熱酸化処理は、水蒸気酸化法によることを特徴とする機械部品の製造方法。 - 請求項2または3に記載の機械部品の製造方法において、
前記軸部材は、タンタル(Ta)またはタングステン(W)からなることを特徴とする機械部品の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載の機械部品の製造方法において、
前記軸部材は、シリコンを含む材料からなることを特徴とする機械部品の製造方法。 - 香箱車、番車、がんぎ車、アンクル及びてんぷのいずれかに、請求項1〜5のいずれか一項に記載の機械部品の製造方法により製造された機械部品を用いてムーブメントを組み立てる組立工程を含むことを特徴とする時計の製造方法。
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