以下、この発明に係る電力変換装置の各実施の形態について図に基づいて説明する。各図において、同一または相当する部材および部位については、同一符号を付して示す。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の全体の構成を示す図である。図1に示すように、電力変換装置は、平滑コンデンサ3、第1の電力変換器4a、第2の電力変換器4b、および、制御部5を備えている。電力変換装置は、電源としての直流電源2に接続されている。また、電力変換装置には、負荷として、交流回転機1が接続されている。電力変換装置は、直流電源2からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機1に供給する。
交流回転機1は、第1の3相巻線U1、V1、W1と、第2の3相巻線U2、V2、W2とを有する3相交流回転機である。第2の3相巻線U2、V2、W2は、第1の3相巻線に対して電気的にそれぞれ30deg位相がずれている。第1の3相巻線U1、V1、W1と第2の3相巻線U2、V2、W2とは、互いに電気的に接続されることなく、交流回転機1の固定子に納められている。3相交流回転機としては、例えば、永久磁石同期回転機、誘導回転機、同期リラクタンス回転機等が挙げられる。本実施の形態1においては、2つの3相巻線を有する交流回転機であれば、いずれの回転機を交流回転機1として用いてもよい。
直流電源2は、第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bに直流電圧Vdcを出力する。直流電源2は、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する全ての機器を含む。
平滑コンデンサ3は、直流電源2に並列に接続され、母線電流の変動を抑制して安定した直流電流を実現する。なお、図1では細かく図示していないが、真のコンデンサ容量C以外に等価直列抵抗RcおよびリードインダクタンスLcが存在する。
第1の電力変換器4aは、上アームの高電位側スイッチング素子Sup1、Svp1、Swp1、および、下アームの低電位側スイッチング素子Sun1、Svn1、Swn1を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup1〜Swn1と呼ぶこととする。
第1の電力変換器4aには、制御部5から、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1が入力される。以下、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング信号Qup1〜Qwn1と呼ぶこととする。第1の電力変換器4aは、インバータである逆変換回路を用いて、スイッチング信号Qup1〜Qwn1に基づいて、スイッチング素子Sup1〜Swn1をオンオフする。第1の電力変換器4aは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第1の電力変換器4aは、当該交流電圧を、交流回転機1の第1の3相巻線U1、V1、W1に印加し、電流Iu1、Iv1、Iw1を通電させる。
ここで、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1は、第1の電力変換器4aにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup1、Sun1、Svp1、Svn1、Swp1、および、Swn1をオンオフするためのスイッチング信号である。以後、スイッチング信号Qup1〜Qwn1の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、スイッチング信号Qup1〜Qwn1の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1として、半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものを用いる。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)パワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
第2の電力変換器4bは、高電位側スイッチング素子Sup2、Svp2、Swp2および低電位側スイッチング素子Sun2、Svn2、Swn2を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup2〜Swn2と呼ぶこととする。第2の電力変換器4bには、制御部5から、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2が入力される。以下、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2を、まとめて呼ぶ場合には、スイッチング信号Qup2〜Qwn2と呼ぶこととする。第2の電力変換器4bは、インバータである逆変換回路を用いて、スイッチング信号Qup2〜Qwn2に基づいて、スイッチング素子Sup2〜Swn2をオンオフする。第2の電力変換器4bは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第2の電力変換器4bは、当該交流電圧を、交流回転機1の第2の3相巻線U2、V2、W2に印加し、電流Iu2、Iv2、Iw2を通電させる。
ここで、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2は、第2の電力変換器4bにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup2、Sun2、Svp2、Svn2、Swp2、および、Swn2をオンオフするためのスイッチング信号である。以後、スイッチング信号Qup2〜Qwn2の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、スイッチング信号Qup2〜Qwn2の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。半導体スイッチング素子Sup2〜Swn2として、半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものを用いる。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSパワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
次に、制御部5について説明する。制御部5は、電圧指令演算器6と、第1のオフセット演算器8aおよび第2のオフセット演算器8bと、オン/オフ信号発生器9とを備えている。
電圧指令演算器6は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第1の3相巻線U1、V1およびW1に印加する電圧に係る第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算して、第1のオフセット演算器8aに出力する。また、電圧指令演算器6は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第2の3相巻線U2、V2およびW2に印加する電圧に係る第2の3相電圧指令Vu2、Vv2、Vw2を演算して、第2のオフセット演算器8bに出力する。
電圧指令演算器6における、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1、および、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の演算方法としては、例えば、V/F(Voltage/Frequency)制御、電流フィードバック制御などを使用する。
V/F制御では、電圧指令演算器6は、図1における制御指令として、交流回転機1の速度指令または周波数指令fを設定して、電圧指令の振幅を決定する。
一方、電流フィードバック制御では、電圧指令演算器6は、図1における制御指令として、交流回転機1の電流指令を設定する。電圧指令演算器6は、交流回転機1の電流指令と第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算する。また、電圧指令演算器6は、交流回転機1の電流指令と第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を演算する。なお、電流Iu1、Iv1およびIw1と、電流Iu2、Iv2およびIw2とは、後述する電流検出器により検出される。
ただし、V/F制御はフィードフォワード制御であるため、第1の3相巻線を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1、および、第2の3相巻線を流れる電流Iu2、Iv2、Iw2の情報は必要としない。よって、V/F制御の場合、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1、および、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2の情報を電圧指令演算器6に入力することは必須ではない。
図2の上段のグラフは、電圧指令演算器6が演算した第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の波形を示す。図2の下段のグラフは、電圧指令演算器6が演算した第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の波形を示す。図2において、横軸は電圧位相θv[deg]を示し、縦軸は直流電圧Vdcの倍数を示す。ここでの第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1、および、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の波形は、すべて、0を基準とした正弦波波形である。また、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の電圧平均Vave1(=(Vu1+Vv1+Vw1)/3)は0である。同様に、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の電圧平均Vave2(=(Vu2+Vv2+Vw2)/3)は0である。
第1のオフセット演算器8aには、電圧指令演算器6から、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1が入力される。第1のオフセット演算器8aは、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1のそれぞれに、第1のオフセット電圧Voffset1を加算することで、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’を求める。第1のオフセット電圧Voffset1は、直流電源2の直流電圧Vdcの50%とする。
第2のオフセット演算器8bには、電圧指令演算器6から、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2が入力される。第2のオフセット演算器8bは、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2のそれぞれに、第2のオフセット電圧Voffset2を加算することで、第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’およびVw2’を求める。第2のオフセット電圧Voffset2は、直流電源2の直流電圧Vdcの50%とする。
オン/オフ信号発生器9は、第1のオフセット演算器8aからの第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’に基づいて、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1およびQwn1を出力する。また、オン/オフ信号発生器9は、第2のオフセット演算器8bからの第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づいて、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2およびQwn2を出力する。
図3および図4は、オン/オフ信号発生器9の動作説明図である。図3および図4においては、横軸は時間である。
図3において、信号C1は、第1の搬送波信号である。以下では、信号C1を、第1の搬送波信号C1、または、信号C1と呼ぶこととする。信号C1は、キャリア周期Tcの三角波である。信号C1は、時刻t1および時刻t5で最小値0となり、時刻t3で最大値Vdcとなる。オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vu1’とを比較し、印加電圧Vu1’が信号C1より大きければ、「Qup1=1かつQun1=0」を出力する。一方、印加電圧Vu1’が信号C1以下の場合は、オン/オフ信号発生器9は、「Qup1=0かつQun1=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vv1’とを比較し、印加電圧Vv1’が信号C1よりも大きければ「Qvp1=1かつQvn1=0」を出力し、印加電圧Vv1’が信号C1以下の場合は「Qvp1=0かつQvn1=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が信号C1よりも大きければ「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が信号C1以下の場合は「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
図4において、信号C2は、第2の搬送波信号である。以下では、信号C2を、第2の搬送波信号C2、または、信号C2と呼ぶこととする。信号C2は、キャリア周期Tcの三角波である。信号C2は、時刻t2で最小値0となり、時刻t4で最大値Vdcとなる。キャリア周期Tcを360degで表わした場合、信号C2は、信号C1に対して、90degの位相差を有する。オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vu2’とを比較し、印加電圧Vu2’が信号C2より大きければ、「Qup2=1かつQun2=0」を出力する。一方、印加電圧Vu2’が信号C2以下の場合は、オン/オフ信号発生器9は、「Qup2=0かつQun2=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vv2’とを比較し、印加電圧Vv2’が信号C2よりも大きければ「Qvp2=1かつQvn2=0」を出力し、印加電圧Vv2’が信号C2以下の場合は「Qvp2=0かつQvn2=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vw2’とを比較し、印加電圧Vw2’が信号C2よりも大きければ「Qwp2=1かつQwn2=0」を出力し、印加電圧Vw2’が信号C2以下の場合は「Qwp2=0かつQwn2=1」を出力する。なお、ここでは、信号C1に対して90degの位相差を有する信号C2を用いているが、そのとき、高変調率で正弦波変調とすることで母線電流リップルのピーク値を三次高調波重畳時よりも抑制することができる。
次に、図5に、スイッチング信号Qup1〜Qwn1に基づく第1の電圧ベクトル、および、第1の電力変換器4aに流入する第1の母線電流Iinv1と第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1との関係を示す。なお、図5に示した関係は公知の技術なので、ここでは詳細な説明については省略する。図5において、第1の電圧ベクトルにおける添え字(1)は、第1の電圧ベクトルを示すために設けたものであり、後述する第2の電圧ベクトルと区別するために設けている。図5において、V0(1)とV7(1)は零ベクトルであり、第1の電圧ベクトルがこれらに等しい時、第1の母線電流Iinv1は0となる。一方、第1の電圧ベクトルが零ベクトル以外、すなわち、第1の電圧ベクトルがV1(1)〜V6(1)の場合には、第1の電圧ベクトルは有効ベクトルとなる。第1の電圧ベクトルが有効ベクトルの場合、第1の母線電流Iinv1は、第1の3相巻線を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1のうちの1つと等しいか、あるいは、電流Iu1、Iv1およびIw1の符号反転値のうちの1つとなる。従って、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1が0でない限り、第1の母線電流Iinv1は0と一致しない。
次に、図6に、スイッチング信号Qup2〜Qwn2に基づく第2の電圧ベクトル、および、第2の電力変換器4bに流入する第2の母線電流Iinv2と第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2との関係を示す。なお、図6に示した関係は公知の技術なので、ここでは詳細な説明については省略する。図6において、第2の電圧ベクトルにおける添え字(2)は、第1の電圧ベクトルを示すために設けたものである。図6において、V0(2)とV7(2)は零ベクトルであり、第2の電圧ベクトルがこれらに等しい時、第2の母線電流Iinv2は0となる。一方、第2の電圧ベクトルが零ベクトル以外、すなわち、第2の電圧ベクトルがV1(2)〜V6(2)の場合には、第2の電圧ベクトルは有効ベクトルとなる。第2の電圧ベクトルが有効ベクトルの場合、第2の母線電流Iinv2は、第2の3相巻線を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2のうちの1つと等しいか、あるいは、電流Iu2、Iv2およびIw2の符号反転値のうちの1つとなる。従って、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2が0でない限り、第2の母線電流Iinv2は0と一致しない。
図7は、図2における時刻☆で示す瞬間における、第1の搬送波信号C1、第2の搬送波信号C2、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’、第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’およびVw2’、第1の母線電流Iinv1、第2の母線電流Iinv2、および、第1の母線電流と第2の母線電流との和Iinv_sumの関係を示している。図7における、電圧ベクトルに関する(a)〜(d)の各モードの定義を以下に示す。ここでは、説明を簡単にするため、力率角を0degとして説明する。
(a):第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとが共に零ベクトルを出力。
(b):第1の電力変換器4aが有効ベクトル、第2の電力変換器4bが零ベクトルを出力。
(c):第1の電力変換器4aが零ベクトル、第2の電力変換器4bが有効ベクトルを出力。
(d):第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bが共に有効ベクトルを出力。
第2の搬送波信号C2を第1の搬送波信号C1に対して90degずらしたことによって、第2の電力変換器4bが有効ベクトルを出力する期間、すなわち、モード(c)となる期間が、時刻t1の後、時刻t3の前後、および、時刻t5の前へシフトしている。これにより、第1の搬送波信号C1の周期Tcの間に、モード(b)とモード(c)とが、それぞれ、2回ずつ生じている。このように、図7の例では、4つのモードのうち、モード(a)、(b)および(c)が発生している。第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複しなければ、モード(d)は発生しない。
次に、直流電源2の出力電流Ib、平滑コンデンサ3の出力電流Ic、および、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和Iinv_sumの関係について説明する。図1から分かるように、これらの電流には、Iinv1+Iinv2=Ib+Icの関係が成り立つ。また、直流電源2の出力電流Ibは一定値Idcを出力するため、コンデンサ電流Icは、出力電流Ibに対して、Ic=Iinv1+Iinv2−Idcの関係が成り立つ。一定値Idcは、変調率k、力率角θivおよび電流実効値Irmsを用いて下式(1)で与えられる。
図7では、コンデンサ電流Icと一定値Idcとの偏差が大きくなるモード(d)の区間を無くすことによって、Iv1+Iv2―Idcで表されるコンデンサ電流Icのピーク値を出力する期間を低減できる。つまり、式(1)に示すように、一定値Idcは変調率kと力率角θivとに応じて決まる電流値であり、図7のIinv_sumの平均値である。そのため、モード(d)の区間が低減するように操作した図7の場合には、モード(a)の区間も低減する。その結果、モード(b)とモード(c)との区間が増加となって現れ、平滑コンデンサ3のリップル電流が低減する。
また、モード(d)の無い状態において、母線電流Iinv1およびIinv2の値は、最小値0から最大値√2Irmsまでの範囲になる。変調率kが1/(2√3)未満では、最大値√2Irmと一定値Idcとの偏差が大きく、変調率kが1/(2√3)以上では、最小値0と一定値Idcとの偏差が大きくなる。そのため、変調率kが1/(2√3)前後で、コンデンサCのリップル電流は極大になる。
電圧位相に応じて有効ベクトル発生区間は変化する。変調率kが(3√2−√6)/4のときの、時刻t1から時刻t5までの期間における各相のスイッチング状態を図8に示す。図8の上段は第1の電力変換器4aの場合を示し、図8の下段は第2の電力変換器4bの場合を示す。第1のオフセット電圧Voffset1を0とした場合、図8の上段に示されるように、U1_OFF、V1_OFF、および、W1_OFFの信号の波形は、時刻t2を中心とした正弦波になり、U1_ON、V1_ON、および、W1_ONの信号の波形は、時刻t4を中心とした正弦波になる。一方、第2のオフセット電圧Voffset2を0とした場合、図8の下段に示されるように、U2_OFF、V2_OFF、および、W2_OFFの信号の波形は、時刻t3を中心とした正弦波になり、U2_ON、V2_ON、および、W2_ONの信号の波形は、時刻t1または時刻t5を中心とした正弦波になる。
図8の2つの図を重ねたものが図9である。nを整数としたとき電圧位相が(15+30n)degで接しており、変調率kが(3√2−√6)/4を超えると、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複する。第1の3相巻線と第2の3相巻線の位相差が無い場合には、変調率が√3/4のときに、図10のように(t1+t2)/2と(t3+t4)/2で接するものの、(t2+t3)/2と(t4+t5)/2に電圧位相に拘らず零ベクトルを発生する区間が残る。つまり、本実施の形態1では、第1の3相巻線と第2の3相巻線の位相差を30deg、第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2の位相差を90degとすることで、正弦波変調であっても有効ベクトル発生区間を拡大できるという従来に無い効果を得ることができる。
図11に、各状態における母線電流Iinv1およびIinv2について示す。図11の上段は母線電流Iinvを示し、図11の下段は母線電流Iinv2を示す。例えば、電圧位相が15degのとき、母線電流Iinv1およびIinv2は、時刻t1ではIinv1=0、Iinv2=Iu2となり、時刻t2では、Iinv1=Iu1、Iinv2=0となり、時刻t3では、Iinv1=0、Iinv2=Iu2となり、時刻t4では、Iinv1=Iu1、Iinv2=0となり、時刻t5では、Iinv1=0、Iinv2=Iu2となる。つまり、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2が共に0となるのは、図12のハッチングの領域である。
図13は、変調率kが0.5のときの、時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチング状態を示す。図11の変調率kは、k=(3√2−√6)/4≒0.45であるため、図12の変調率kは、図11の変調率よりも高い。変調率kの値が高くなると、図12に示すように、図11の場合に比べて、U1_OFF、V1_OFF、および、W1_OFFの信号が、時刻(t1+t2)/2より左側に突出してくる。また、同様に、U2_ON、V2_ON、W2_ONの信号が、時刻(t1+t2)/2より右側に突出し、U1_ON、V1_ON、W1_ONの信号が、時刻(t3+t4)/2より左側に突出し、U2_OFF、V2_OFF、W2_OFFの信号が、時刻(t3+t4)/2より右側に突出してくる。その結果、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複し、時刻(t1+t2)/2前後、時刻(t2+t3)/2前後、時刻(t3+t4)/2前後、および、時刻(t4+t5)/2前後で、モード(d)が発生する。モード(d)の発生箇所は、図13のハッチングの領域である。
つまり、平滑コンデンサ3のリップル電流は、変調率(3√2−√6)/4前後を極小として、変調率kが上がるにつれて大きくなる。
特許文献1では、2軸に逆向きのバイアスを加えることで、有効ベクトル発生区間が重複しない変調率の範囲を広げ、それにより、変調率(√6−√2)/2前後に存在する極小値を下げているが、変調率1/(2√3)前後に存在する極大値は、本実施の形態1の電力変換装置と差異は無い。コンデンサの発熱量Qは、リップル電流Icとコンデンサの抵抗成分ESRとを用いて、下式(2)で与えられる。式(2)から分かるように、コンデンサの発熱量Qの変化量は、電流の2乗で効いてくるため、交流回転機の動作範囲においてリップル電流の振幅が小さいところを更に低減するよりも、振幅が大きいところを低減する方が、コンデンサの発熱量Qの積算値を抑制できる。
つまり、本実施の形態1の電力変換装置を用いることで、中性点の電圧変動を抑制して振動および騒音を抑制できると共に、バイアスを加えて発生する熱的アンバランスを追加の処理無く解消できる。
ここまでは、低変調率の場合において、式(1)で表される一定値Idcが小さいために、有効ベクトル発生区間の重複を回避して母線電流Iinv1およびIinv2の絶対値を抑制することで、コンデンサのリップル電流の実効値を下げる場合について説明してきた。しかしながら、高変調率の場合には、式(1)で表される一定値Idcが大きいため、有効ベクトル発生区間の重複したときの母線電流Iinv1と母線電流Iinv2との和Iinv_sumと一定値Idcとの偏差が小さいため、第1の電力変換器4aまたは第2の電力変換器4bのいずれか一方の電力変換器において零ベクトルとなっているときの他方の電力変換器の母線電流の絶対値を大きくすることが重要となる。
以下では、高変調率の場合の一例として、変調率が0.866(=√3/2)のときを例として本実施の形態1の効果について説明する。
図14は、本実施の形態1における、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を0とした正弦波変調の場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを示している。零ベクトルは、第1の電力変換器において、時刻t1、時刻t3、および、時刻t5で発生し、第2の電力変換器においてt2、t4で発生する。
図15は、特許文献1のように、同位相の第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2とを用いた状態で、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとで逆のバイアスをかけた場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流Iinv1およびIinv2とを示している。図15の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図15の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。零ベクトルは、図15の上段に示すように、第1の電力変換器4aにおいて、時刻t1および時刻t5で発生し、図15の下段に示すように、第2の電力変換器4bにおいて時刻t3で発生する。
平滑コンデンサ3のリップル電流を低減するには、一方の電力変換器で零ベクトルとなる際に、他方の電力変換器で流れる母線電流の大きさが重要になる。図16は、図14において、一方の電力変換器で零ベクトルの状態となる時刻t1〜時刻t5の期間に流れる母線電流を示している。一方の電力変換器で零ベクトルとなるときに、他方の電力変換器では、電圧位相1周期で6回切り替わる電流絶対値最大相の電流を母線に流しているため、母線電流Iinv2の絶対値が大きい。一方、図17は、図15において、一方の電力変換器で零ベクトルの状態となる時刻t1、t3およびt5で流れる母線電流を示している。一方の電力変換器で零ベクトルを流しているときに、他方の電力変換器では電圧位相1周期で3回切り替わる電流最大相の電流または電流最小相の電流の反転値を母線に流している。そのため、図17においては、図16の場合に比べて、母線電流の絶対値が小さい。つまり、図16において、図17の場合に比べて、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。
以上のように、本実施の形態1に係る電力変換装置においては、中性点の電圧変動を抑制して振動または騒音を抑制しつつ、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するタイミングに、他方の電力変換器で母線に電流絶対値最大相の電流を流すことで、高変調率における母線電流の振幅を確保して平滑コンデンサ3のリップル電流を低減することができる。
変調率kが0.866において相電圧の振幅はVdc/2となる。変調率kが0.866を超えると、所望の相電圧の振幅を得ることができない。線間電圧を正弦波で出力するためには、相電圧を正弦波に保つ必要は無い。そのため、特許文献2のような従来の電力変換装置では、例えば公知の二相変調を用いて、図18に示すような出力にして、電圧が飽和する変調率を100%まで引き上げている。しかしながら、第1巻線の中性点の電圧Vave1’、第2巻線の中性点の電圧Vave2’の変動幅が大きく、例えば、自動車のシャシー系部品に搭載される回転機の場合には車体を経由して車室内に振動および騒音となって伝わる。
本実施の形態1に係る電力変換装置では、3相電圧指令の振幅をVdc/2より大きい値に設定して出力を向上する。例えば、相電圧の振幅をVdc/√3とした場合について説明する。
相電圧の振幅としては、Vdc/√3を指示しても、直流電圧Vdcの制限によって実際の出力できる3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’は、図19のように、上下がカットされた波形となる。本実施の形態1では、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を直流電圧Vdcの50%としているため、第1巻線の中性点の電圧Vave1’および第2巻線の中性点の電圧Vave2’の変動幅が抑制できている。しかしながら、3相電圧指令の振幅と実際に出力できる3相印加電圧の基本波振幅との関係は図20となる。図20においては、横軸は3相電圧指令の振幅とし、縦軸は3相印加電圧の基本波振幅として、線間電圧波高値が直流電圧となるときを1とした比で表している。3相電圧指令の振幅が0.866となるときが、片振幅Vdc/2となっている状態である。3相電圧指令の振幅を1.21まで上げることで、3相印加電圧の基本波振幅を1とすることができる。
一方、図19の3相印加電圧は上下がカットされた歪んだ波形となっているため、3相印加電圧には、所望の基本波成分以外のノイズ成分を含む。図21は、図19の場合における3相印加電圧を2軸に変換して得られる電気角周波数の倍数次成分を直流成分に対する比で表したグラフである。図21に示すように、3相印加電圧は、6n次のリップル成分を含むことがわかる。ここで、nは整数である。本実施の形態1では、第1の3相巻線U1、V1およびW1と第2の3相巻線U2、V2およびW2との位相差が30degである。そのため、6(2k+1)次のリップル成分は、2つの巻線によって相殺されるため、トルクリップルにはならない。なお、ここで、kは整数である。図22は、変調率を0.8から1.5まで変化させたときの電気角6次および電気角12次のリップル成分を示す。変調率が1.2から1.3の領域を除いて、基本的に、電気角6次のリップル成分に比べて、電気角12次のリップル成分は小さい。そのため、電気角12次のリップル成分によって生じるトルクリップルが製品の要求性能を満足できる範囲内に変調率の上限を定めればよい。
ここで、所望の3相印加電圧の基本波振幅を得るための電圧指令演算器6の演算方法を説明する。電流検出器より検出された第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1および第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2を用いたフィードバック制御をしていれば、演算のたびに所望の3相印加電圧の基本波振幅に向けて徐々に近づいていく。しかしながら、応答性を考慮すると、3相電圧指令の振幅を、所望の3相印加電圧の基本波振幅を得られる振幅としたいところである。また、フィードフォワード制御の場合には、そもそも検出電流との偏差が得られないため、3相電圧指令の振幅を、所望の3相印加電圧の基本波振幅を得られる振幅とする必要がある。3相電圧指令の振幅と3相印加電圧の基本波振幅との関係は図20で示した通りなので、この関係により、図23に示すデータテーブルの振幅補正係数を用いればよい。図23のデータテーブルにおいては、直流電圧比である電圧指令振幅と振幅補正係数とが対応付けて格納されている。電圧指令演算器6は、図23のデータテーブルをメモリに予め格納しておく。電圧指令演算器6は、交流回転機1の制御指令により得られた第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の振幅が、直流電圧Vdcの50%を超える場合に、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1を、図23のデータテーブルに設定されている振幅補正係数により補正する、または、電圧指令演算器6は、交流回転機1の制御指令により得られた第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の振幅が、直流電圧Vdcの50%を超える場合に、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を、図23のデータテーブルに設定されている振幅補正係数により補正する。このように、振幅補正係数を用いて、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1、および、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の少なくともいずれか一方を補正することで、所望の3相印加電圧を得られるという従来に無い効果を得ることができる。
なお、ここでは、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1および第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を補正する振幅補正係数を同じ値を用いると説明した。しかしながら、その場合に限らず、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1および第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を補正する振幅補正係数を異なる値としてもよい。その場合には、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1を補正する振幅補正係数を、第1の振幅補正係数とし、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を補正する振幅補正係数を、第2の振幅補正係数とする。そして、図23のデータテーブルを2つ用意し、一方の振幅補正係数に第1の振幅補正係数の値を格納し、他方の振幅補正係数に第2の振幅補正係数の値を格納しておくようにすればよい。電圧飽和時には、基本波振幅を確保するには、さらに大きな振幅とする必要があり、振幅補正係数を用いた上記補正によって所望の基本波振幅を得ることができる。
なお、電圧指令振幅の変化が大きい場合、例えば、電圧指令振幅が0.3Vdcから0.576Vdcに変化した場合、そのまま振幅補正係数をかけると電圧の変動が大きくなるため、電流がオーバーシュートすることによる過電流の懸念がある。このような場合には、3相電圧指令の前回値の振幅によって、図24のデータテーブルに示す振幅補正係数制限値を用いて、振幅補正係数に制限をかければよい。図24のデータテーブルにおいては、直流電圧比である電圧指令振幅の前回値と振幅補正係数制限値とが対応付けて格納されている。電圧指令演算器6は、図24のデータテーブルをメモリに予め格納しておく。具体的な例を挙げて説明する。電圧指令振幅が0.3Vdcから0.576Vdcに変化した場合を考える。今回の演算周期では、電圧指令振幅の前回値が0.3Vdcであるから、図24のデータテーブルを参照して、振幅補正係数の制限値を1にすることで、0.576Vdcを出力する。次の演算周期では、電圧指令振幅の前回値が0.576Vdcであるから、図24のデータテーブルを参照して、振幅補正係数の制限値を1.203にすることで、0.576Vdcに対して1.203を乗算した振幅の電圧指令を出力する。ここでは前回値を用いた簡単な制限方法の例を示したが、前々回値を用いる、ローパスフィルタを用いる、あるいは、移動平均を用いるなどを行ってもよく、それらのいずれの場合においても、同様の効果を得られることは言うまでもない。
交流回転機1の出力トルクTは、下式(3)で与えられる。ここで、交流回転機1の極対数をPm、d軸のインダクタンスをLd、q軸のインダクタンスをLq、磁束をφ、第1の3相巻線のd軸電流をId1、q軸電流をIq1、第2の3相巻線のd軸電流をId2、q軸電流をIq2とする。
dq軸電圧に含まれる電気角6次および電気角12次のリップル成分はdq軸電流に表れる。そのため、式(3)の第1項によって、電気角6次および電気角12次のトルクリップル、式(3)の第2項によって、電気角6次、電気角12次、電気角18次および電気角24次のトルクリップルが出てくる可能性がある。特に、図22において、変調率が1.02前後の電気角6次のリップル成分が大きい変調率では、第1の3相巻線U1、V1およびW1と第2の3相巻線U2、V2およびW2との位相差が30degである効果で、電気角6次の成分は相殺できるが、第2項で生じる電気角6次と電気角6次の積によって表れる電気角12次の成分は残る。
式(3)の第2項が大きくなるのは、d軸電流を絶対値で最大としたときであるから、d軸電流の最大値をIdmaxとすると、下式(4)をみたすようなd軸電流およびインダクタンスとすることでリラクタンストルクによって生じる12次のトルクリップルの影響を軽減した交流回転機にすることができる。なお、要求値Kは製品に求められるトルクリップルの許容値によって決定すればよい。
交流回転機1が表面磁石型同期回転機から構成されている場合にはLd≒Lqとなり、式(4)を満足するため、本実施の形態1に述べた制御との組み合わせは好適である。表面磁石型同期回転機は突極性が小さいため、リラクタンストルクがマグネットトルクに対して十分小さく、リラクタンストルクに出てくるd軸電流およびq軸電流に生じた6次成分の積で生じる12次成分の影響が小さい。30deg位相差巻の効果で6次成分を低減することで、トルクリップルを抑制できる。
このように、リラクタンストルクがマグネットトルクに対して十分小さい、あるいは、突極性の小さい交流回転機では、d軸電流およびq軸電流に生じた電気角6次成分の電流リップルを30deg位相差の効果によって相殺できる。なお、突極性が大きい交流回転機では、電気角6次成分と6次成分の積によって生じる12次成分が残ってしまうが、式(4)をみたすようなd軸電流およびインダクタンスとすることでリラクタンストルクによって生じる12次のトルクリップルの影響を軽減した交流回転機にすることができる。
図25は、図19の3相印加電圧での時刻t1〜t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを示している。零ベクトルは、第1の電力変換器4aでは、時刻t1、時刻t3および時刻t5で発生し、第2の電力変換器4bでは、時刻t2および時刻t4で発生している。第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差90degの効果によって、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができるため、高変調率においてスイッチングの回数を減らしてスイッチング損失を抑制しつつコンデンサのリップル電流を低減できる。
図26に、本実施の形態1の方式と特許文献1の方式でのコンデンサのリップル電流を比較した結果を示す。横軸は3相印加電圧の基本波振幅、縦軸は平滑コンデンサ3のリップル電流であり、実線は本実施の形態1の方式、点線は特許文献1の方式を示している。これまでの説明のとおり、極小値は特許文献1の方式に比べて大きいものの、3相印加電圧の基本波振幅が0から1までの領域における平滑コンデンサ3のリップル電流ピーク値は本実施の形態1の方式の方が抑制できている。つまり、本実施の形態1の方式によって、中性点電位の変動を抑制することで、騒音性能および振動性能を確保しつつ、連続運転状態での平滑コンデンサ3のリップル電流を低減するという従来に無い効果を得ることができる。
つまり、第1の3相巻線U1、V1およびW1と第2の3相巻線U2、V2およびW2の位相差を30degとすることで、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を直流電圧Vdcの50%としたまま、3相電圧指令の振幅を上げても、交流回転機1のトルクリップルを抑制しつつ所望の出力トルクを得ることができる。また、直流電圧Vdcの制限によって上下がカットされる波形とすることで、高変調率において二相変調などの変調を用いずとも、スイッチング回数を抑制して発熱を低減することができる。また、一方の電力変換器で零ベクトルを発生する区間に、他方の電力変換器で電流絶対値最大相の電流を母線に流すことによって、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減することができる。
図27は、図1の変形例を示す。図27においては、図1の構成に対して、第1の電流検出器10cと第2の電流検出器10dとが追加されている。第1の電流検出器10cは、第1の電力変換器4aの低電位側スイッチング素子に直列に接続され、第1の3相巻線を流れる電流を検出する。第2の電流検出器10dは、第2の電力変換器4bの低電位側スイッチング素子に直列に接続され、第2の3相巻線を流れる電流を検出する。図27において、第1の電力変換器4aのスイッチング素子の状態および第2の電力変換器4bのスイッチング素子の状態によっては、電流を検出できない場合がある。第1の電流検出器10cおよび第2の電流検出器10dで電流を検出できるのは、低電位側スイッチング素子に電流が流れる場合に限られる。小型化が進んだ電力変換器では、他相のスイッチングによって発生したノイズの影響で電流検出が乱れる。例えば、スイッチングノイズの影響が収まる時間が搬送波信号1周期の1/10であれば、3相印加電圧が0.9Vdcを超える場合には電流検出精度が低下する。電圧指令演算器6にて使用する電流検出精度を確保するためには、3相印加電圧を0から0.9Vdcの範囲とすることが望ましく変調率で表すと0.693(=√3/2×0.8)以下となる。3相印加電圧の基本波振幅を確保するためには、0.693を超える変調率では、図21と同様の高調波成分を含む3相印加電圧を出力することになり、振動および騒音性能が低下する。
一方、図28の構成とすることで、第1の電力変換器4aのスイッチング素子の状態および第2の電力変換器4bのスイッチング素子の状態に関係無く電流を検出できる。図28においては、図1の構成に対して、第1の電流検出器10aと第2の電流検出器10bとが追加されている。第1の電流検出器10aは、第1の電力変換器4aと交流回転機1の第1の3相巻線U1、V1およびW1との間に設けられ、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流を検出する。第2の電流検出器10bは、第2の電力変換器4bと交流回転機1の第2の3相巻線U2、V2およびW2との間に設けられ、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流を検出する。本実施の形態1における制御部5では、図19のように、3相印加電圧Vu1’、Vv1’、Vw1’、Vu2’、Vv2’および、Vw2’が0.9Vdcを超える状態になる頻度が高い。そのため、電流検出精度がスイッチング素子の状態に関係無く確保できる電流検出器として、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流を検出する第1の電流検出器10aを、第1の電力変換器4aと交流回転機1の第1の3相巻線U1、V1およびW1との間に設け、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流を検出する第2の電流検出器10bを、第2の電力変換器4bと交流回転機1の第2の3相巻線U2、V2およびW2との間に設ける構成にした。常時、3相電流が検出できる構成とすることで、電流検出を考慮したPWM出力をする必要がなく、正弦波変調領域を最大化できる。このように、3相印加電圧Vu1’、Vv1’、Vw1’、Vu2’、Vv2’およびVw2’が0〜Vdcの範囲内の全てにおいて、スイッチング素子の状態に関係無く、電流検出精度を確保できるため、本来得たい効果を得ることが可能である。
つまり、第1の電圧飽和器7aおよび第2の電圧飽和器7bによる飽和判定を電流検出可否に関係の無い判定とすることで不飽和の期間を最大化することが可能となり、振動および騒音性能を確保しつつ高変調率でのコンデンサのリップル電流を低減できるという従来に無い効果を得ることができる。
電動パワーステアリングに本実施の形態1の電力変換装置が使用される場合、低車速では、路面反力が大きいため、高トルクが必要とされ、高車速では、路面反力が小さいため、低トルク領域での使用となる。電動パワーステアリングに使用される交流回転機で発生する騒音および振動は、ハンドルおよび車体を通して運転者に伝達される。車庫入れなど低車速での運転時にはハンドルを回す機会が多く、静穏性と共に切り返し回数が求められる。切り返し回数は、発熱性能によって決まってくるため、各部品での発熱を抑制することが求められる。また、緊急回避では、運転者が要求するアシストトルクを高速応答で出力する必要があるため、高変調率時の出力トルクの確保が重要となる。つまり、本実施の形態1の電力変換装置を電動パワーステアリング装置に適用することで、低変調率では騒音および振動を抑制し、高変調率では出力特性を確保しつつ、連続運転状態でのコンデンサのリップル電流を総合的に抑制するという従来に無い効果を得ることができる。力行運転状態で主に使用される電動パワーステアリングでは、力率角が小さいため、正弦波変調領域の拡大効果を得やすい。更に、電動パワーステアリングに本実施の形態の制御装置が使用される場合、出力トルクのトルクリップルは、低回転であればハンドルを経由した振動および高回転であれば車体経由の騒音となって運転者に不快感を与える。相電圧の基本波振幅がVdc/2を超える領域において第1のオフセット電圧および第2のオフセット電圧を直流電圧Vdcの50%としたときに生じる電気角6次の電流リップルを、第1の3相巻線と第2の3相巻線の位相差を30degの効果によって相殺することで、トルクリップルを抑制するという従来に無い効果を得ることができる。
車両用発電電動機またはその制御装置に本実施の形態の電力変換装置が使用される場合、電気自動車の主機あるいはエンジンの補機として駆動系部品を経由して車両の駆動力となる。駆動力を供給する部品として使用する場合には、高速走行時の走行抵抗が大きいときにも加速および定常走行が求められるため、高回転時でも出力トルクを確保したい。一方、直流電圧が大きいほど直流電源のサイズは大きくなるため、駆動系部品を搭載するスペースは限られるため小型化の要求が強い場合には、直流電圧を抑制することになる。直流電圧を抑制すると高変調率になる領域は低回転側に移動するため、高変調率すなわち3相印加電圧の基本波振幅の直流電圧に対する比が大きい状態での出力トルクの確保が必要であるが、本実施の形態1の電力変換装置を使用することで、低回転では中性点電位の変動を抑制することで騒音性能および振動性能を確保しつつ、平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値を抑制し連続運転状態での発熱を低減することで発熱による機能制限までの余力を確保できるという、従来に無い効果を得ることができる。
なお、ここで、本実施の形態1に係る制御部5のハードウェア構成について簡単に説明する。本実施の形態1に係る制御部5における各機能は、処理回路によって実現される。各機能を実現する処理回路は、専用のハードウェアであってもよく、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。電圧指令演算器6、オフセット演算器8a、8b、および、オン/オフ信号発生器9の各部の機能それぞれを個別の処理回路で実現してもよいし、各部の機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
一方、処理回路がプロセッサの場合、電圧指令演算器6、オフセット演算器8a、8b、および、オン/オフ信号発生器9の各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリに格納される。プロセッサは、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、電力変換装置は、処理回路により実行されるときに、電圧指令演算ステップ、オフセット演算ステップ、および、オン/オフ信号発生ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリを備える。
これらのプログラムは、上述した各部の手順あるいは方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリとは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリが該当する。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリに該当する。
なお、上述した各部の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
以上のように、本実施の形態1においては、交流回転機1の第2の3相巻線U2、V2およびW2は、第1の3相巻線U1、V1およびW1に対して、電気的に30deg位相がずれている。また、制御部5では、第1の搬送波信号C1と、第1の搬送波信号C1に対して90degの位相差を有する第2の搬送波信号C2とを用いて、第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子にオン/オフ信号を出力する。このとき、制御部5が、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を直流電圧Vdcの50%に設定する。このように、90degずらした2つの搬送波信号を用いてオン/オフ信号を出力することで、正弦波変調であっても、平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値を抑制することができ、騒音および振動を抑制することができる。また、交流回転機1の2つの3相巻線の位相差を30degにすることで、電気角6次の電流リップルによるトルクリップルを相殺することができる。
また、本実施の形態1においては、電圧指令演算器6が、第1の3相電圧指令の振幅が直流電圧の50%を超える場合に、第1の3相電圧指令を第1の振幅補正係数により補正する、または第2の3相電圧指令の振幅が直流電圧の50%を超える場合に、第2の3相電圧指令を第2の振幅補正係数により補正する。電圧飽和時には、基本波振幅を確保するには、さらに大きな振幅とする必要があり、振幅補正係数によって振幅を補正することによって、所望の基本波振幅を得ることができる。
また、本実施の形態1においては、第1の振幅補正係数は、第1の3相電圧指令の前回値の振幅に基づいて制限され、第2の振幅補正係数は、第2の3相電圧指令の前回値の振幅に基づいて制限される。変調率急変時には、振幅補正係数に制限をかけることで過電流を防止することができる。