JP7494393B2 - モータ制御装置、機電一体ユニット、ハイブリッドシステム、電動パワーステアリングシステム、およびモータ制御方法 - Google Patents
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Description
本発明は、モータ制御装置、機電一体ユニット、ハイブリッドシステム、電動パワーステアリングシステム、およびモータ制御方法に関する。
永久磁石同期モータは、ブラシや整流子といった機械的な電流の整流機構を必要とせず保守が容易な上、小型軽量で効率、力率ともに高いため、電気自動車の駆動・発電等の用途に広く普及している。一般的に永久磁石同期モータは、電機子コイル等で構成される固定子と、永久磁石や鉄心等で構成される回転子から成る。バッテリ等の直流電源から供給される直流電圧をインバータで交流電圧に変換し、この交流電圧を用いて永久磁石同期モータの電機子コイルに交流電流を流すことにより、電機子磁束が発生する。この電機子磁束と永久磁石の磁石磁束との間に生じる吸引力・反発力によって発生するマグネットトルクや、回転子を透過する電機子磁束の磁気抵抗を最小化するために発生するリラクタンストルクにより、永久磁石同期モータが駆動される。
永久磁石同期モータには、モータの回転方向(周方向)と、モータの回転軸に対して垂直な方向(径方向)とで、電機子磁束と磁石磁束による電磁力がそれぞれ発生する。上記のトルクは、周方向の電磁力を積分したものであり、これにはモータの磁気回路の構造に起因するトルクの揺らぎ(トルク脈動)が含まれている。一方、モータの径方向に生じる電磁力は、モータの固定子やケースを変形・振動させる加振力(電磁加振力)として作用する。
電気自動車やハイブリッド自動車のような永久磁石同期モータを使用する環境対応自動車では、複数の歯車(ギア)からなる減速機がモータに取り付けられる場合がある。この減速機では、ギアの歯数により定まる噛合い周波数に応じた振動が発生する。そのため、モータの回転数によっては、モータに生じる電磁加振力やトルク脈動と、減速機に生じる振動とが重なり合い、大きな振動や騒音が発生してしまうことがある。
本願発明の関連技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、コンバータとインバータで構成されて電動機に交流電力を供給する周波数変換装置の出力基本周波数と、電動機の回転を減速する歯車減速機の噛合い基本周波数とを、互いに一致しないように設定することで、これらの共振を回避する技術が開示されている。
電気自動車やハイブリッド自動車のような永久磁石同期モータを使用する環境対応自動車では、広い範囲の回転数において振動・騒音が課題となる。しかしながら、特許文献1に開示された方法では、広い範囲の回転数において、モータと減速機の相互作用による振動や騒音の発生を効果的に抑制することができない。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、モータと減速機を組み合わせた場合に発生する振動や騒音を効果的に抑制することを目的とする。
本発明によるモータ制御装置は、直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と接続され、前記交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機を介して出力する交流モータの駆動を制御するものであって、搬送波を生成する搬送波生成部と、前記搬送波の周波数を調整する搬送波周波数調整部と、前記搬送波を用いてトルク指令に応じた電圧指令をパルス幅変調し、前記電力変換器の動作を制御するためのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備え、前記搬送波周波数調整部は、前記トルク指令と、前記交流モータの回転速度とに基づき、前記電圧指令と前記搬送波の位相差を変化させて、前記減速機の噛合い周波数と前記電圧指令に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、前記搬送波の周波数を調整する。
本発明による機電一体ユニットは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、前記交流モータ、前記電力変換器および前記減速機が一体構造となっている。
本発明によるハイブリッドシステムは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、前記交流モータに接続されたエンジンシステムと、を備える。
本発明による電動パワーステアリングシステムは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、前記交流モータの回転駆動力を用いて運転者のステアリング操作をアシストする。
本発明によるモータ制御方法は、直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と接続され、前記交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機を介して出力する交流モータの駆動を制御する方法であって、トルク指令に応じた電圧指令を生成し、前記トルク指令と、前記交流モータの回転速度とに基づき、前記電圧指令と搬送波の位相差を変化させて、前記減速機の噛合い周波数と前記電圧指令に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、前記搬送波の周波数を調整し、調整された周波数で前記搬送波を生成し、前記搬送波を用いて前記電圧指令をパルス幅変調し、前記電力変換器の動作を制御するためのゲート信号を生成する。
本発明による機電一体ユニットは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、前記交流モータ、前記電力変換器および前記減速機が一体構造となっている。
本発明によるハイブリッドシステムは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、前記交流モータに接続されたエンジンシステムと、を備える。
本発明による電動パワーステアリングシステムは、前記モータ制御装置と、前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、前記交流モータの回転駆動力を用いて運転者のステアリング操作をアシストする。
本発明によるモータ制御方法は、直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と接続され、前記交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機を介して出力する交流モータの駆動を制御する方法であって、トルク指令に応じた電圧指令を生成し、前記トルク指令と、前記交流モータの回転速度とに基づき、前記電圧指令と搬送波の位相差を変化させて、前記減速機の噛合い周波数と前記電圧指令に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、前記搬送波の周波数を調整し、調整された周波数で前記搬送波を生成し、前記搬送波を用いて前記電圧指令をパルス幅変調し、前記電力変換器の動作を制御するためのゲート信号を生成する。
本発明によれば、モータと減速機を組み合わせた場合に発生する振動や騒音を効果的に抑制できる。
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を備えたモータ駆動システムの全体構成図である。図1において、モータ駆動システム100は、モータ制御装置1、モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5、電流検出部7、減速機8、回転位置検出器41を有している。
モータ制御装置1には、回転位置検出器41からモータ2の回転位置θが入力される。また、電流検出部7から、モータ2に流れる三相の交流電流をそれぞれ表すIu、Iv、Iwが入力され、図示省略した上位制御装置よりトルク指令T*が入力される。モータ制御装置1は、これらの入力情報を基に、モータ2の駆動を制御するためのゲート信号を生成し、インバータ3に出力する。これにより、インバータ3の動作を制御し、モータ2の駆動を制御する。なお、モータ制御装置1の詳細については後で説明する。
インバータ3は、インバータ回路31、PWM信号駆動回路32および平滑キャパシタ33を有する。PWM信号駆動回路32は、モータ制御装置1から入力されるゲート信号に基づいて、インバータ回路31が有する各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路31に出力する。インバータ回路31は、U相、V相、W相の上アームおよび下アームにそれぞれ対応するスイッチング素子を有している。PWM信号駆動回路32から入力されたPWM信号に従ってこれらのスイッチング素子がそれぞれ制御されることで、高圧バッテリ5から供給される直流電力が交流電力に変換され、モータ2に出力される。平滑キャパシタ33は、高圧バッテリ5からインバータ回路31に供給される直流電力を平滑化する。
高圧バッテリ5は、モータ駆動システム100の直流電圧源であり、インバータ3へ電源電圧Hvdcを出力する。高圧バッテリ5の電源電圧Hvdcは、インバータ3のインバータ回路31とPWM信号駆動回路32によって可変電圧、可変周波数のパルス状の三相交流電圧に変換され、線間電圧としてモータ2に印加される。これにより、高圧バッテリ5の直流電力を基に、インバータ3からモータ2へ交流電力が供給される。なお、高圧バッテリ5の電源電圧Hvdcは、その充電状態に応じて変動する。
モータ2は、インバータ3から供給される交流電力により回転駆動される三相電動機であり、固定子(ステータ)および回転子(ロータ)を有する。本実施形態では、モータ2として永久磁石同期モータを用いる例を説明するが、例えば誘導モータやシンクロナスリラクタンスモータなど、他の方式のモータ2を用いても構わない。インバータ3から入力された交流電力が固定子に設けられた三相のコイルLu、Lv、Lwに印加されると、モータ2において三相交流電流Iu、Iv、Iwが導通し、各コイルに磁束が発生する。この各コイルの磁束と、回転子に配置された永久磁石の磁石磁束との間で吸引力・反発力が発生することで、回転子にトルクが発生し、モータ2が回転駆動される。
モータ2の回転軸には、複数の歯車を組み合わせて構成された減速機8が取り付けられている。モータ2の回転子において発生したトルクは、回転子に固定された回転軸から減速機8を介して、モータ駆動システム100の外部へと伝達される。
モータ2には、回転子の回転位置θを検出するための回転位置センサ4が取り付けられている。回転位置検出器41は、回転位置センサ4の入力信号から回転位置θを演算する。回転位置検出器41による回転位置θの演算結果はモータ制御装置1に入力され、モータ制御装置1がモータ2の誘起電圧の位相に合わせてパルス状のゲート信号を生成することで行われる交流電力の位相制御において利用される。
ここで、回転位置センサ4には、鉄心と巻線とから構成されるレゾルバがより好適であるが、GMRセンサなどの磁気抵抗素子や、ホール素子を用いたセンサであっても問題ない。回転子の磁極位置を測定することができれば、任意のセンサを回転位置センサ4として用いることができる。また、回転位置検出器41は、回転位置センサ4からの入力信号を用いず、モータ2に流れる三相交流電流Iu、Iv、Iwや、インバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu、Vv、Vwを用いて回転位置θを推定してもよい。
インバータ3とモータ2の間の電流経路には、電流検出部7が配置されている。電流検出部7は、モータ2を通電する三相交流電流Iu、Iv、Iw(U相交流電流Iu、V相交流電流IvおよびW相交流電流Iw)を検出する。電流検出部7は、例えばホール電流センサ等を用いて構成される。電流検出部7による三相交流電流Iu、Iv、Iwの検出結果はモータ制御装置1に入力され、モータ制御装置1が行うゲート信号の生成に利用される。なお、図1では電流検出部7が3つの電流検出器により構成される例を示しているが、電流検出器を2つとし、残る1相の交流電流は、三相交流電流Iu、Iv、Iwの和が零であることから算出してもよい。また、高圧バッテリ5からインバータ3に流入するパルス状の直流電流を、平滑キャパシタ33とインバータ3の間に挿入されたシャント抵抗等により検出し、この直流電流とインバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu、Vv、Vwに基づいて三相交流電流Iu、Iv、Iwを求めてもよい。
次に、モータ制御装置1の詳細について説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1の機能構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、モータ制御装置1は、電流指令生成部11、速度算出部12、三相/dq変換部13、電流制御部14、dq/三相電圧変換部15、搬送波周波数調整部16、三角波生成部17、ゲート信号生成部18の各機能ブロックを有する。モータ制御装置1は、例えばマイクロコンピュータにより構成され、マイクロコンピュータにおいて所定のプログラムを実行することにより、これらの機能ブロックを実現することができる。あるいは、これらの機能ブロックの一部または全部をロジックICやFPGA等のハードウェア回路を用いて実現してもよい。
電流指令生成部11は、入力されたトルク指令T*と電源電圧Hvdcに基づき、d軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算する。ここでは、例えば予め設定された電流指令マップや、d軸電流Id,q軸電流Iqとモータトルクの関係を表す数式等を用いて、トルク指令T*に応じたd軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*を求める。
速度算出部12は、回転位置θの時間変化から、モータ2の回転速度(回転数)を表すモータ回転速度ωrを演算する。なお、モータ回転速度ωrは、角速度(rad/s)または回転数(rpm)のいずれで表される値であってもよい。また、これらの値を相互に変換して用いてもよい。
三相/dq変換部13は、電流検出部7が検出した三相交流電流Iu、Iv、Iwに対して、回転位置検出器41が求めた回転位置θに基づくdq変換を行い、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを演算する。
電流制御部14は、電流指令生成部11から出力されるd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*と、三相/dq変換部13から出力されるd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqとの偏差に基づき、これらの値がそれぞれ一致するように、トルク指令T*に応じたd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を演算する。ここでは、例えばPI制御等の制御方式により、d軸電流指令Id*とd軸電流値Idの偏差に応じたd軸電圧指令Vd*と、q軸電流指令Iq*とq軸電流値Iqの偏差に応じたq軸電圧指令Vq*とを求める。
dq/三相電圧変換部15は、電流制御部14が演算したd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*に対して、回転位置検出器41が求めた回転位置θに基づく三相変換を行い、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*およびW相電圧指令値Vw*)を演算する。これにより、トルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する。
搬送波周波数調整部16は、電流指令生成部11が生成したd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*、回転位置検出器41が求めた回転位置θ、速度算出部12が求めた回転速度ωr、トルク指令T*に基づき、ゲート信号の生成に用いられる搬送波の周波数を表す搬送波周波数fcを演算する。なお、搬送波周波数調整部16による搬送波周波数fcの演算方法の詳細については後述する。
三角波生成部17は、搬送波周波数調整部16が演算した搬送波周波数fcに基づき、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*のそれぞれについて三角波信号(搬送波信号)Trを生成する。
ゲート信号生成部18は、三角波生成部17から出力される三角波信号Trを用いて、dq/三相電圧変換部15から出力される三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をそれぞれパルス幅変調し、インバータ3の動作を制御するためのゲート信号を生成する。具体的には、dq/三相電圧変換部15から出力される三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と、三角波生成部17から出力される三角波信号Trとの比較結果に基づき、U相、V相、W相の各相に対してパルス状の電圧を生成する。そして、生成したパルス状の電圧に基づき、インバータ3の各相のスイッチング素子に対するパルス状のゲート信号を生成する。このとき、各相の上アームのゲート信号Gup、Gvp、Gwpをそれぞれ論理反転させ、下アームのゲート信号Gun、Gvn、Gwnを生成する。ゲート信号生成部18が生成したゲート信号は、モータ制御装置1からインバータ3のPWM信号駆動回路32に出力され、PWM信号駆動回路32によってPWM信号に変換される。これにより、インバータ回路31の各スイッチング素子がオン/オフ制御され、インバータ3の出力電圧が調整される。
次に、モータ制御装置1における搬送波周波数調整部16の動作について説明する。搬送波周波数調整部16は前述のように、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*と、回転位置θと、回転速度ωrと、トルク指令T*とに基づき、搬送波周波数fcを演算する。この搬送波周波数fcに従って三角波生成部17が生成する三角波信号Trの周波数を逐次的に制御することで、トルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の電圧波形に対して、搬送波である三角波信号Trの周期と位相がそれぞれ所望の関係となるように調整する。なお、ここでの所望の関係とは、PWM信号によるインバータ3のスイッチング動作が原因の高調波電流によってモータ2に生じる電磁加振力またはトルク脈動と、減速機8において歯車の噛合いにより生じる振動とが、同周期かつ逆位相となるような関係のことを指す。これにより、モータ2と減速機8を組み合わせて構成されたモータ駆動システム100において発生する振動や騒音を抑制するようにしている。
本実施形態における減速機8の振動の抑制方法の基本的な考え方について、図3、図4を参照して以下に説明する。図3は、変調波であるU相電圧指令Vu*と搬送波である三角波信号Trとの間の位相差(以下、「変調波/搬送波位相差」と称する)を変化させた場合の、これらの電圧波形の関係を示した図である。図3(a)は、変調波/搬送波位相差を-90degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形を、図3(b)は、変調波/搬送波位相差を0degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形を、図3(c)は、変調波/搬送波位相差を90degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形をそれぞれ示している。図3(a)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に搬送波である三角波は谷となり、図3(b)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に三角波はゼロクロス立ち下がりとなり、図3(c)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に三角波は山となっている。このように、変調波/搬送波位相差を変化させることで、以下で説明するように、PWM制御によって得られるU相交流電圧Vuの振幅を一定としたままで、基本波成分以外の高調波成分の位相を自在に変化させることができる。
なお、図3(a)~図3(c)では、説明の都合上、変調波と搬送波の周波数比を15としているが、本発明はこれに限定されない。また、図3(a)~図3(c)では、変調波の例としてU相電圧指令Vu*を示しているが、他相の電圧指令、すなわちV相電圧指令Vv*やW相電圧指令Vw*についても、図3と同様に変調波/搬送波位相差を設定することで、基本波成分以外の高調波成分の位相を自在に変化させることが可能である。
図4は、変調波であるU相電圧指令Vu*と搬送波である三角波信号Trとの位相差を変化させた場合に、インバータ3からモータ2へ出力されるU相交流電圧Vuの高調波成分を示す図である。図4(a)では、図3(a)~図3(c)に示した変調波/搬送波位相差、すなわち-90deg、0deg、90degの各位相差でのU相交流電圧Vuの高調波成分ごとの振幅を示し、図4(b)では、これらの各位相差でのU相交流電圧Vuの高調波成分ごとの位相を示している。なお、図4(a)、図4(b)では、U相交流電圧Vuの1次成分として、基本波成分の振幅と位相をそれぞれ示している。また、図4(b)では、図4(a)において振幅が比較的大きい11次、13次、17次、19次、29次、31次の各高調波成分について、基本波成分の位相を-135degとしたときの位相をそれぞれ示している。
図4(a)より、変調波/搬送波位相差を変更しても、インバータ3から出力されるU相交流電圧Vuにおいて、1次(基本波)を含む各次数成分の振幅は変化しないことが確認される。つまり、変調波/搬送波位相差を変化させても、モータ2のトルク出力値は変わらないことが分かる。一方、図4(b)より、U相交流電圧Vuの1次(基本波)成分以外の各高調波成分の位相は、変調波/搬送波位相差に応じて変化することが分かる。つまり、変調波/搬送波位相差を変化させることは、U相交流電圧Vuの基本波成分以外の高調波成分の位相を変化させることと等価と言える。
なお、図4(a)、図4(b)では、インバータ3から出力される三相交流電圧のうち、U相交流電圧Vuの周波数解析結果を示しているが、他相の交流電圧、すなわちV相交流電圧VvやW相交流電圧Vwについても、図4(a)、図4(b)と同様の周波数解析結果が得られる。したがって、変調波/搬送波位相差を変化させることにより、インバータ3から出力される三相交流電圧の基本波成分以外の高調波成分の位相を任意に変化させることが可能となる。
以上説明したように、変調波/搬送波位相差を変更することで、モータ2のトルク出力値を維持しつつ、インバータ3から出力される三相交流電圧の各高調波成分の位相を変化させることが可能となる。したがって、PWM信号によるインバータ3のスイッチング動作が原因の高調波電流によってモータ2に生じる電磁加振力またはトルク脈動と、減速機8において歯車の噛合いにより生じる振動とを同周期とした上で、これらが互いに逆位相となるように変調波/搬送波位相差の値を設定することで、前述した所望の関係が満たされるようにすることができる。その結果、減速機8において生じる振動を、パルス幅変調で用いられる搬送波による電磁加振力やトルク脈動で相殺し、モータ駆動システム100において生じる振動や騒音を低減できることが分かる。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る搬送波周波数調整部16のブロック図である。搬送波周波数調整部16は、同期PWM搬送波数選択部161、電圧位相演算部162、電圧位相誤差演算部164、同期搬送波周波数演算部165、搬送波周波数設定部166を有する。
同期PWM搬送波数選択部161は、同期PWM制御における電圧波形の1周期に対する搬送波の数、すなわち、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の周波数に対する搬送波周波数fcの倍率を表す同期PWM搬送波数Ncを選択する。同期PWM搬送波数選択部161は例えば、Nc±3やNc×2の値が、減速機8において生じる噛合い脈動の次数と一致するように、同期PWM搬送波数Ncを選択する。
パルス幅変調による高調波電流の脈動(側帯波成分)の次数は、同期PWM搬送波数Ncを用いて、Nc±2、Nc±4、Nc×2±1と表される。これらの側帯波成分によりモータ2に生じる電磁加振力とトルク脈動の次数は、Nc±3、Nc×2となる。一方、減速機8は複数の歯車が互いに噛み合って回転することで、これらの歯車間の歯数比に応じた減速比によりモータ2の回転駆動力を伝達する。このとき、減速機8の出力には各歯車の噛合いによる脈動が生じ、減速機8において振動を引き起こす。
減速機8における噛合いによる脈動の周波数(噛合い周波数)は、モータ2の回転速度ωrに比例する。また、モータ2の基本波電流の周波数を基準とした噛合い周波数の次数は、減速機8の歯数比に応じて定まる。そのため、減速機8の振動を抑制するためには、上記のようにNc±3やNc×2の値が噛合い周波数の次数と一致するように同期PWM搬送波数Ncを設定することで、前述した所望の関係が満たされるように、搬送波である三角波信号Trを調整することが好ましい。これにより、減速機8において生じる振動を、パルス幅変調で用いられる搬送波による電磁加振力やトルク脈動で相殺し、モータ駆動システム100において生じる振動や騒音を抑制することが可能となる。
図6は、モータ2の回転数と搬送波周波数fc、減速機8の噛合い周波数fgおよび基本波電流の側帯波成分によるモータ2の振動(電磁加振力、トルク脈動)の周波数との関係の一例を示す図である。基本波電流の周波数をf1とすると、側帯波成分による振動の周波数はfc±3×f1で表される。同期PWM制御では、搬送波周波数fcと基本波電流の周波数f1は、いずれもモータ2の回転数に比例して変化する。そのため、図6に示すように、側帯波成分による振動の周波数fc±3×f1もモータ2の回転数に比例して変化する。また、噛合い周波数fgについても、前述のようにモータ2の回転数(回転速度ωr)に比例して変化する。
ここで、例えばNc-3の値が噛合い周波数fgの次数と一致するように同期PWM搬送波数Ncを設定し、これに応じて搬送波周波数fcを調整すると、図6に示すように、fg=fc-3×f1となる。このようにして、側帯波成分による振動の周波数を噛合い周波数fgと一致させた上で、これらが互いに逆位相となるようにすると、歯車の噛合いによって生じる減速機8の振動が側帯波成分によるモータ2の振動で相殺される。したがって、減速機8の振動を抑制することができる。なお、Nc-3の値が噛合い周波数fgの次数と完全には一致しなくても、その差が所定の範囲内に収まっていれば、減速機8の振動を側帯波成分によるモータ2の電磁加振力やトルク脈動によって相殺し、これを抑制することが可能である。
同期PWM搬送波数選択部161は、以上を踏まえて、同期PWM搬送波数Ncの値を選択する。このとき、回転速度ωrに応じて選択する同期PWM搬送波数Ncの値を変えるようにしてもよい。
なお、一般的に減速機8では、モータ2の基本波電流による電磁加振力やトルク脈動との共振が発生しないように、これらの次数(6の倍数)を避けて噛合い周波数の次数が設定されている。例えば任意の偶数または奇数、小数点以下の値を含む数などが、噛合い周波数の次数として設定され得る。上記のように、減速機8の振動を側帯波成分によるモータ2の電磁加振力やトルク脈動によって相殺するためには、このような噛合い周波数の次数に合わせて、同期PWM搬送波数Ncを設定する必要がある。
例えば噛合い周波数の次数が奇数の場合や、小数点以下の値を含む数に相当する場合には、これに合わせて設定される同期PWM搬送波数Ncの値は、噛合い周波数の次数を極対数で除算した値とする必要があるため整数とはならずに、小数点以下の値(0.5、0.25等)を含むことがある。具体的には、例えばNc=3.25、Nc=9.25等の値が、同期PWM搬送波数選択部161において同期PWM搬送波数Ncの値として選択され得る。
電圧位相演算部162は、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*と、回転位置θと、回転速度ωrと、搬送波周波数fcに基づいて、以下の式(1)~(4)により電圧位相θvを演算する。電圧位相θvは、インバータ3に対する電圧指令である三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の位相を表している。
θv=θ+φv+φdqv+0.5π ・・・(1)
φv=ωr・1.5Tc ・・・(2)
Tc=1/fc ・・・(3)
φdqv=atan(Vq/Vd) ・・・(4)
θv=θ+φv+φdqv+0.5π ・・・(1)
φv=ωr・1.5Tc ・・・(2)
Tc=1/fc ・・・(3)
φdqv=atan(Vq/Vd) ・・・(4)
ここで、φvは電圧位相の演算遅れ補償値を、Tcは搬送波周期を、φdqvはd軸からの電圧位相をそれぞれ表すものとする。演算遅れ補償値φvは、回転位置検出器41が回転位置θを取得してからモータ制御装置1がインバータ3にゲート信号を出力するまでの間に、1.5制御周期分の演算遅れが発生することを補償する値である。なお、本実施形態では、式(1)右辺の第4項で0.5πを加算している。これは、式(1)右辺の第1項~第3項で演算される電圧位相がcos波であるため、これをsin波に視点変換するための演算である。
電圧位相誤差演算部164は、同期PWM搬送波数選択部161により選択された同期PWM搬送波数Ncと、電圧位相演算部162により演算された電圧位相θvと、回転速度ωrと、トルク指令T*に基づき、電圧位相誤差Δθvを演算する。電圧位相誤差Δθvは、インバータ3に対する電圧指令である三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と、パルス幅変調に用いる搬送波である三角波信号Trとの位相差を表している。電圧位相誤差演算部164が所定の演算周期ごとに電圧位相誤差Δθvを演算することで、搬送波周波数調整部16において、インバータ3に対する電圧指令とパルス幅変調に用いる搬送波との位相差を変化させるように、三角波信号Trの周波数調整を行うことができる。なお、電圧位相誤差演算部164による電圧位相誤差Δθvの演算方法の詳細は後述する。
同期搬送波周波数演算部165は、以下の式(5)に従い、電圧位相誤差演算部164により演算された電圧位相誤差Δθvと、回転速度ωrと、同期PWM搬送波数選択部161により選択された同期PWM搬送波数Ncに基づき、同期搬送波周波数fcsを演算する。
fcs=ωr・Nc・(1+Δθv・K)/(2π)・・・(5)
fcs=ωr・Nc・(1+Δθv・K)/(2π)・・・(5)
同期搬送波周波数演算部165は、例えばPLL(Phase Locked Loop)制御により、式(5)に基づく同期搬送波周波数fcsを演算することができる。なお、式(5)においてゲインKは一定値としてもよいし、条件により可変としてもよい。
搬送波周波数設定部166は、回転速度ωrに基づいて、同期搬送波周波数演算部165により演算された同期搬送波周波数fcsと、非同期搬送波周波数fcnsとのいずれかを選択し、搬送波周波数fcとして出力する。非同期搬送波周波数fcnsは、搬送波周波数設定部166において予め設定された一定値である。なお、予め非同期搬送波周波数fcnsを複数用意しておき、その中でいずれかを回転速度ωrに応じて選択してもよい。例えば、回転速度ωrの値が大きいほど非同期搬送波周波数fcnsの値が大きくなるように、搬送波周波数設定部166において非同期搬送波周波数fcnsを選択し、搬送波周波数fcとして出力することができる。
次に、搬送波周波数調整部16のうち、電圧位相誤差演算部164における電圧位相誤差Δθvの演算方法の詳細について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る電圧位相誤差演算部164のブロック図である。電圧位相誤差演算部164は、キャリア位相シフト量演算部1641、基準電圧位相演算部1642、加算部1643を有する。
キャリア位相シフト量演算部1641は、回転数ωrとトルク指令T*に基づいてキャリア位相シフト量θcsを演算する。キャリア位相シフト量θcsは、インバータ3に対する三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と、パルス幅変調に用いる搬送波である三角波信号Trとの位相差であり、減速機8に生じる噛合い脈動を低減できる値に設定される。
ここで、減速機8に生じる噛合い脈動を低減できるキャリア位相シフト量θcsとは、前述のように、基本波電流の高調波によってモータ2に生じる電磁加振力やトルク脈動と、減速機8において歯車の噛合いにより生じる振動とが、互いに逆位相となるような変調波/搬送波位相差の値に相当し、これは回転数ωrとトルク指令T*に応じて定まる。そのため例えば、回転数ωrとトルク指令T*の様々な組み合わせについて、予め実測やシミュレーション等により、最適なキャリア位相シフト量θcsの値を決定しておき、その値をテーブル化してキャリア位相シフト量演算部1641に記憶させておく。そして、現在の回転数ωrとトルク指令T*の値がキャリア位相シフト量演算部1641に入力されると、これらの組み合わせに対応するキャリア位相シフト量θcsの値をテーブルから読み出して取得する。これにより、回転数ωrとトルク指令T*に基づいてキャリア位相シフト量θcsを演算することができる。
基準電圧位相演算部1642は、同期PWM搬送波数Ncおよび電圧位相θvと、キャリア位相シフト量演算部1641により求められたキャリア位相シフト量θcsとに基づき、同期PWM制御における搬送波の位相を固定するための基準電圧位相θvbを演算する。基準電圧位相演算部1642により基準電圧位相θvbの演算が行われることで、基本波電流の高調波によってモータ2に生じる電磁加振力やトルク脈動と、減速機8において歯車の噛合いにより生じる振動との間に、前述した所望の関係が満たされるようにすることができる。
図8は、基準電圧位相演算部1642が実施する基準電圧位相演算の概念図である。基準電圧位相演算部1642は、例えば図8に示すように、0から2πの間で同期PWM搬送波数Ncに応じた段数で階段状に変化する基準電圧位相θvbを演算する。なお、図8では説明を分かりやすくするため、同期PWM搬送波数Ncが3であるときの例を示している。
本実施形態では処理負荷低減のため、例えば図8に示すように、三角搬送波が最小値(谷)から最大値(山)まで上昇する区間である谷割り区間でのみ、搬送波周波数調整部16が搬送波の周波数を調整可能とする。この場合、同期搬送波周波数演算部165では、搬送波の谷割り区間において、電圧位相誤差Δθvから同期搬送波周波数fcsを逐次的に演算することで、同期PWM制御を実施する。基準電圧位相演算部1642は、この電圧位相誤差Δθvの演算に用いられる基準電圧位相θvbを、図8に示すようにπ/3間隔で変化する離散値として算出する。なお、この基準電圧位相θvbの間隔は、同期PWM搬送波数Ncに応じて変化する。同期PWM搬送波数Ncが大きくなるほど、基準電圧位相θvbの間隔が小さくなる。
ただし、前述のように減速機8の噛合い周波数の次数が奇数や小数点以下の値を含む数で設定されていると、Nc±3やNc×2の値がこの次数と一致するためには、小数点以下の値を含む数で同期PWM搬送波数Ncを設定しなければならない場合がある。このような場合には、電圧指令周期ごとに基準電圧位相θvbの初期値を変化させることで、三角搬送波の初期位相を変化させる必要がある。
具体的には、基準電圧位相演算部1642は、以下の式(6)~(7)に従い、電圧位相θv、同期PWM搬送波数Nc、キャリア位相シフト量θcsに基づいて基準電圧位相θvbを演算する。
θvb=int(θv/θs)・θs+0.5θs-2π/Nc・n・Nd+θcs ・・・(6)
θs=2π/Nc ・・・(7)
θvb=int(θv/θs)・θs+0.5θs-2π/Nc・n・Nd+θcs ・・・(6)
θs=2π/Nc ・・・(7)
ここで、θsは搬送波1つあたりの電圧位相θvの変化幅を表し、intは小数点以下の切り捨て演算を表すものとする。また、Ndは同期PWM搬送波数Ncの小数部分の値を表し、nは0から電圧指令の周期ごとに1ずつ増加するカウント値を表している。
なお、本実施形態では、電圧位相θvに基づき、0から2πの間で同期PWM搬送波数Ncに応じた段数で階段状に変化するとともに、電圧指令周期ごとにその初期値が変化する基準電圧位相θvbを演算できれば、式(6)~(7)以外の演算方法により、基準電圧位相演算部1642が基準電圧位相θvbの演算を行ってもよい。
加算部1643は、電圧位相θvに、基準電圧位相演算部1642にて演算した基準電圧位相θvbを加算することで、電圧位相誤差Δθvを演算する。
電圧位相誤差演算部164では、以上説明したようにして、電圧位相誤差Δθvが演算される。これにより、同期PWM搬送波数Nc、電圧位相θv、回転速度ωr、トルク指令T*に基づき、減速機8の歯車の噛合いによる脈動が、パルス幅変調で用いられる搬送波によるトルク脈動や電磁加振力で相殺されるように、電圧位相誤差Δθvを決定することができる。その結果、モータ駆動システム100において生じるトルク脈動または電磁加振力を低減させるように、インバータ3に対する電圧指令とパルス幅変調に用いる搬送波との位相差を変化させて、搬送波周波数fcを設定することができる。
図9は、本実施形態のモータ制御装置1における搬送波(三角波信号Tr)および電圧指令と、これらの比較により生成されるPWMパルスとの例を示す図である。図9(a)では、Nc=3.25、θcs=0の場合における各信号の例を示しており、図9(b)では、Nc=3.25、θcs=90degの場合における各信号の例を示している。これらの例において、前述の式(6)、(7)におけるNdの値は、Nd=0.25である。
図9(a)、(b)のいずれにおいても、式(6)、(7)に従って電圧指令周期ごとに基準電圧位相θvbの初期値を変化させることで、各電圧指令周期での三角搬送波Trの初期位相が、2π×Nd=0.5π(90deg)ずつ変化していることが分かる。すなわち、1/Nd=4周期分の電圧指令を1セットとして、インバータ3に対する電圧指令とパルス幅変調に用いる搬送波との位相差がキャリア位相シフト量θcsとなるように、三角波信号Trの周波数が調整される。
なお、搬送波周波数調整部16において、上記の処理はモータ2の力行駆動時、回生駆動時のどちらで行ってもよい。力行駆動時はトルク指令T*が正の値となり、回生駆動時にはトルク指令T*が負の値となる。したがって、搬送波周波数調整部16では、トルク指令T*の値よりモータ2が力行駆動または回生駆動のいずれであるかの判断を実施し、その判断の結果に基づいて上述のような演算処理を電圧位相誤差演算部164において行うことにより、減速機8において生じる振動を、パルス幅変調で用いられる搬送波による電磁加振力やトルク脈動で相殺するように、電圧位相誤差Δθvを変化させて搬送波周波数fcを設定することができる。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)モータ制御装置1は、直流電力から交流電力への電力変換を行うインバータ3と接続され、その交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機8を介して出力するモータ2の駆動を制御するものであって、搬送波である三角波信号Trを生成する三角波生成部17と、三角波信号Trの周波数を表す搬送波周波数fcを調整する搬送波周波数調整部16と、三角波信号Trを用いてトルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をパルス幅変調し、インバータ3の動作を制御するためのゲート信号を生成するゲート信号生成部18とを備える。搬送波周波数調整部16は、トルク指令T*と、モータ2の回転速度ωrとに基づき、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの位相差を変化させて、減速機8の噛合い周波数と三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、搬送波周波数fcを調整する。このようにしたので、モータ2と減速機8を組み合わせた場合に発生する振動や騒音を効果的に抑制することができる。
(2)搬送波周波数調整部16は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の周波数に対する搬送波周波数fcの倍率を表す同期PWM搬送波数Ncが一定数となるように、搬送波周波数fcを調整する。このようにしたので、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の電圧波形に対して、搬送波である三角波信号Trの周期と位相がそれぞれ所望の関係となるように調整し、同期PWM制御を確実に行うことができる。
(3)同期PWM搬送波数Ncが整数部分Niと小数部分Ndからなる一定数である場合、搬送波周波数調整部16は、式(6)、(7)により基準電圧位相θvbを演算することで、三角波信号Trの初期位相を三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の周期ごとに2π×Ndずつずらして、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの位相差を変化させる。このようにしたので、減速機8の噛合い周波数の次数が奇数や小数点以下の値を含む数で設定されている場合でも、搬送波である三角波信号Trの周期と位相がそれぞれ所望の関係となるように調整し、モータ2と減速機8を組み合わせた場合に発生する振動や騒音を効果的に抑制することができる。
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。
次に、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。
図10は、第2の実施形態における機電一体ユニット71の外観斜視図である。
機電一体ユニット71は、第1の実施形態で説明したモータ駆動システム100(モータ制御装置1、モータ2、インバータ3および減速機8)を含んで構成される。モータ2とインバータ3はバスバー712を介して結合部713で接続される。モータ2の出力は減速機8が有するギア711を介して、図示省略したディファレンシャルギアへと伝達され、車軸へと伝達される。なお、図10ではモータ制御装置1の図示を省略しているが、モータ制御装置1は任意の位置に配置することができる。
この機電一体ユニット71の特徴は、モータ2とインバータ3とギア711を含む減速機8とが一体となった構造である。機電一体ユニット71では、このような一体構造により、モータ2で発生した時間高調波に起因した振動・騒音と、減速機8におけるギア711の噛合いによる振動・騒音との間で共振が生じる場合があり、その場合には振動・騒音が悪化する。しかしながら、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1を用いてモータ2の駆動を制御することで、これらを互いに相殺して抑制できるため、低振動・低騒音な機電一体ユニットを実現できる。
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について図面を用いて説明する。
次に、本発明の第3の実施形態について図面を用いて説明する。
図11は、第3の実施形態におけるハイブリッドシステム72の構成図である。
図11に示すように、ハイブリッドシステム72は、第1の実施形態で説明したモータ駆動システム100(モータ制御装置1、モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5、電流検出部7、減速機8、回転位置検出器41)と、これと同様のモータ駆動システム101(モータ制御装置1、モータ2a、インバータ3a、高圧バッテリ5、電流検出部7a、減速機8a、回転位置検出器41a)とを含んで構成される。モータ駆動システム100,101は、モータ制御装置1と高圧バッテリ5を共有している。
モータ2aには、回転子の回転位置θaを検出するための回転位置センサ4aが取り付けられている。回転位置検出器41aは、回転位置センサ4aの入力信号から回転位置θaを演算し、モータ制御装置1に出力する。インバータ3aとモータ2aの間には、電流検出部7aが配置されている。モータ2aの回転軸には、複数の歯車を組み合わせて構成された減速機8aが取り付けられている。モータ2aの回転子において発生したトルクは、回転子に固定された回転軸から減速機8aを介して、モータ駆動システム101の外部へと伝達される。
インバータ3aは、インバータ回路31a、PWM信号駆動回路32aおよび平滑キャパシタ33aを有する。PWM信号駆動回路32aは、インバータ3のPWM信号駆動回路32と共通のモータ制御装置1に接続されており、モータ制御装置1から入力されるゲート信号に基づいて、インバータ回路31aが有する各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路31aに出力する。インバータ回路31aおよび平滑キャパシタ33aは、インバータ回路31および平滑キャパシタ33と共通の高圧バッテリ5に接続されている。
モータ制御装置1には、モータ2に対するトルク指令T*と、モータ2aに対するトルク指令Ta*とが入力される。モータ制御装置1は、これらのトルク指令に基づき、第1の実施形態で説明したような方法でモータ2,2aの駆動を制御するためのゲート信号をそれぞれ生成し、インバータ3,3aにそれぞれ出力する。すなわち、モータ制御装置1が有する搬送波周波数調整部16の電圧位相誤差演算部164により、モータ2,2aと減速機8,8aとをそれぞれ組み合わせて構成されたモータ駆動システム100,101で発生する振動や騒音をそれぞれ抑制できるように、電圧位相誤差Δθvを演算して搬送波である三角波信号Trの周波数を調整する。なお、電圧位相誤差演算部164において、キャリア位相シフト量演算部1641は、インバータ3,3aのそれぞれに別のキャリア位相シフト量θcsを設定してもよい。
モータ2には、エンジンシステム721とエンジン制御部722が接続されている。エンジンシステム721は、エンジン制御部722の制御により駆動し、モータ2を回転駆動させる。モータ2は、エンジンシステム721により回転駆動されることで発電機として動作し、交流電力を発生する。モータ2が発生した交流電力は、インバータ3により直流電力に変換され、高圧バッテリ5に充電される。これにより、ハイブリッドシステム72をシリーズハイブリッドシステムとして機能させることができる。なお、エンジンシステム721とエンジン制御部722は、モータ2aに接続可能としてもよい。
本実施形態によれば、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1を用いて、図11のハイブリッドシステム72が実現されることで、モータ2,2aと減速機8,8aとをそれぞれ組み合わせたときに生じる振動・騒音の低減という効果が得られる。そのため、従来のハイブリッドシステムでは振動・騒音対策のために必要であった制振材や吸音材などを削減できる。
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態では、電動パワーステアリングシステムへの適用例を説明する。
次に、本発明の第4の実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態では、電動パワーステアリングシステムへの適用例を説明する。
図12は、本発明の第4の実施形態に係る電動パワーステアリングシステムの構成を示す図である。電動パワーステアリングシステム61は、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1および減速機8と、冗長化された駆動系統102A,102Bとを含む駆動制御システム75を有している。電動パワーステアリングシステム61は、ステアリングホイール62の回転トルクをトルクセンサ63により検知し、その回転トルクに基づいて駆動制御システム75を動作させる。これにより、駆動制御システム75が有するモータ2の回転駆動力を用いて、ステアリングホイール62の入力に応じたアシストトルクを発生し、減速機8およびステアリングアシスト機構64を介してステアリング機構65へ出力することで、運転者のステアリング操作をアシストする。その結果、ステアリング機構65によってタイヤ66が転舵され、車両の進行方向が制御される。
一般的に車両の電動パワーステアリングシステムは、ステアリングホイールを介してドライバに直結しているため、振動や騒音がドライバに伝わりやすく、振動や騒音に対する要求仕様が高い。特に、ドライバがステアリングホイールを高速で回転している状態では、他の発生要因と比較して、モータや減速機の動作が振動や騒音の原因として支配的となる。これに対して、本実施形態の電動パワーステアリングシステム61は、ドライバがステアリングホイール62を高速で回転している状態での振動を効果的に低減できるため、低振動かつ低騒音な電動パワーステアリングシステムを実現できる。
図13は、本発明の第4の実施形態に係る電動パワーステアリングシステム61における駆動制御システム75の構成を示す図である。駆動制御システム75において、冗長化された駆動系統102A,102Bには、モータ制御装置1、モータ2、高圧バッテリ5および減速機8が共通に接続されている。本実施形態では、モータ2が2つの巻線系統21,22を有しており、一方の巻線系統21が駆動系統102Aを構成し、もう一方の巻線系統22が駆動系統102Bを構成する。
駆動系統102Aは、インバータ3および回転位置検出器41を有しており、巻線系統21に対応する回転子の回転位置θを検出するための回転位置センサ4がモータ2に取り付けられている。インバータ3により生成された交流電力は、モータ2の巻線系統21に流れてモータ2を回転駆動させる。駆動系統102Aにおいて、インバータ3とモータ2の間には、電流検出部7が配置されている。
駆動系統102Bは、インバータ3aおよび回転位置検出器41aを有しており、巻線系統22に対応する回転子の回転位置θaを検出するための回転位置センサ4aがモータ2に取り付けられている。インバータ3aにより生成された交流電力は、モータ2の巻線系統22に流れてモータ2を回転駆動させる。駆動系統102Bにおいて、インバータ3aとモータ2の間には、電流検出部7aが配置されている。なお、インバータ3a、回転位置検出器41a、回転位置センサ4aおよび電流検出部7aは、第3の実施形態で説明した図11のものとそれぞれ同様である。
モータ制御装置1には、モータ2に対するトルク指令T*が入力される。モータ制御装置1は、入力されたトルク指令T*に基づき、第1の実施形態で説明したような方法でモータ2の駆動を制御するためのゲート信号を生成し、インバータ3,3aにそれぞれ出力する。すなわち、モータ制御装置1が有する搬送波周波数調整部16の電圧位相誤差演算部164により、駆動系統102A,102Bと減速機8の間で発生する振動や騒音をそれぞれ抑制できるように、電圧位相誤差Δθvを演算して搬送波である三角波信号Trの周波数を調整する。なお、電圧位相誤差演算部164において、キャリア位相シフト量演算部1641は、インバータ3、3aのそれぞれに別のキャリア位相シフト量θcsを設定してもよい。
本実施形態によれば、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1を用いて、図12の電動パワーステアリングシステム61が実現されることで、モータ2と減速機8とを組み合わせたときに生じる振動・騒音の低減という効果が得られる。そのため、低振動かつ低騒音な電動パワーステアリングシステムを実現できる。
なお、以上説明した各実施形態において、モータ制御装置1内の各構成(図2、図5、図7など)は、ハードウェアによる構成によらず、CPUとプログラムによって各構成の機能を実現するようにしてもよい。モータ制御装置1内の各構成をCPUとプログラムによって実現する場合、ハードウェアの個数が減るため低コスト化できるという利点がある。また、このプログラムは、予めモータ制御装置の記憶媒体に格納して提供することができる。あるいは、独立した記憶媒体にプログラムを格納して提供したり、ネットワーク回線によりプログラムをモータ制御装置の記憶媒体に記録して格納することもできる。データ信号(搬送波)などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給してもよい。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の複数の実施形態を組み合わせた構成としてもよい。
1…モータ制御装置、2…モータ、3…インバータ、4…回転位置センサ、5…高圧バッテリ、7…電流検出部、8…減速機、11…電流指令生成部、12…速度算出部、13…三相/dq変換部、14…電流制御部、15…dq/三相電圧変換部、16…搬送波周波数調整部、17…三角波生成部、18…ゲート信号生成部、31…インバータ回路、32…PWM信号駆動回路、33…平滑キャパシタ、41…回転位置検出器、61…電動パワーステアリングシステム、71…機電一体ユニット、72…ハイブリッドシステム、75…駆動制御システム、100,101…モータ駆動システム、102A,102B…駆動系統、161…同期PWM搬送波数選択部、162…電圧位相演算部、164…電圧位相誤差演算部、165…同期搬送波周波数演算部、166…搬送波周波数設定部、1641…キャリア位相シフト量演算部、1642…基準電圧位相演算部、1643…加算部
Claims (7)
- 直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と接続され、前記交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機を介して出力する交流モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記搬送波の周波数を調整する搬送波周波数調整部と、
前記搬送波を用いてトルク指令に応じた電圧指令をパルス幅変調し、前記電力変換器の動作を制御するためのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備え、
前記搬送波周波数調整部は、前記トルク指令と、前記交流モータの回転速度とに基づき、前記電圧指令と前記搬送波の位相差を変化させて、前記減速機の噛合い周波数と前記電圧指令に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、前記搬送波の周波数を調整するモータ制御装置。 - 請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記搬送波周波数調整部は、前記電圧指令の周波数に対する前記搬送波の周波数の倍率が一定数となるように、前記搬送波の周波数を調整するモータ制御装置。 - 請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記倍率は、整数部分Niと小数部分Ndからなる一定数であり、
前記搬送波周波数調整部は、前記搬送波の初期位相を前記電圧指令の周期ごとに2π×Ndずつずらして、前記電圧指令と前記搬送波の位相差を変化させるモータ制御装置。 - 請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、
前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、
前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、
前記交流モータ、前記電力変換器および前記減速機が一体構造となった機電一体ユニット。 - 請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、
前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、
前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、
前記交流モータに接続されたエンジンシステムと、を備えるハイブリッドシステム。 - 請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置に接続された前記電力変換器と、
前記電力変換器により駆動される前記交流モータと、
前記交流モータの回転駆動力を伝達する前記減速機と、を備え、
前記交流モータの回転駆動力を用いて運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリングシステム。 - 直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と接続され、前記交流電力を用いて駆動することで生成した回転駆動力を減速機を介して出力する交流モータの駆動を制御する方法であって、
トルク指令に応じた電圧指令を生成し、
前記トルク指令と、前記交流モータの回転速度とに基づき、前記電圧指令と搬送波の位相差を変化させて、前記減速機の噛合い周波数と前記電圧指令に応じた基本波電流の高調波成分との差が所定の範囲内となるように、前記搬送波の周波数を調整し、
調整された周波数で前記搬送波を生成し、
前記搬送波を用いて前記電圧指令をパルス幅変調し、前記電力変換器の動作を制御するためのゲート信号を生成するモータ制御方法。
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