以下、図面を参照しながら、本発明の電気デバイス用負極活物質並びにこれを用いてなる電気デバイス用負極および電気デバイスの実施形態を説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
以下、本発明の電気デバイス用負極活物質が適用されうる電気デバイスの基本的な構成を、図面を用いて説明する。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
まず、本発明に係る電気デバイス用負極活物質を含む負極の代表的な一実施形態であるリチウムイオン二次電池用の負極およびこれを用いてなるリチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池では、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。このほかにも、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
すなわち、本実施形態の対象となるリチウムイオン二次電池は、以下に説明する本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるものであればよく、他の構成要件に関しては、特に制限されるべきものではない。
例えば、上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用し得るものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いてごく簡単に説明する。但し、本実施形態のリチウムイオン二次電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきものではない。
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層、および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板27および負極集電板25がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、負極に特徴を有する。以下、当該負極を含めた電池の主要な構成部材について説明する。
<活物質層>
活物質層13または15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
[正極活物質層]
正極活物質層15は、正極活物質を含む。
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO2、LiMn2O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きく、エネルギー密度の向上が可能となることでコンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しており、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi0.8Co0.1Al0.1O2がより有利であるが、寿命特性に難がある。これに対し、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2並みに優れた寿命特性を有しているのである。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質層15に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。なお、本明細書において、「粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察される活物質粒子(観察面)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、本明細書において、「平均粒子径」の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
正極活物質層15は、バインダを含みうる。
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。正極活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
正極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法および溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
≪負極活物質層≫
負極活物質層13は、負極活物質を含む。
<負極活物質>
本実施形態において、負極活物質は、Si−Al−M(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される三元系の合金組成を有する。具体的には、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、下記化学式(I)で表される組成を有するものである。
(上記化学式(I)において、
Mは、1または2以上の遷移金属元素であり、
Aは、不可避不純物であり、
x、y、zおよびaは、質量%の値を表し、この際、yは、0.3≦y≦5.0であり、zは、27≦z≦35であり、ならびにxおよびaは、残部である。
Si系負極活物質では、充電時にSiとLiとが合金化する際、Si相がアモルファス状態から結晶状態へと転移して大きな体積変化(約4倍)を起こす。その結果、活物質粒子自体が壊れてしまい、活物質としての機能が失われてしまうという問題がある。このため、負極活物質が上記化学式(I)で表される組成を有することにより、充電時におけるSi相のアモルファス−結晶の相転移を抑制することで粒子自体の崩壊を抑制することができ、活物質としての機能(高容量)が保持され、サイクル寿命も向上させることができる。
これらの効果は、Al原子は、Si原子と液相状態では引付合うが、固相状態では分離しようとし、また、Al原子とTi原子は、SiとTiほどではないが結合する傾向があることに由来する。Tiに比べて少量のAlを含有させることで上述のような特性が発現することを、本発明者らは見出している。
上記化学式(I)で表される組成において、yが0.3未満であると、独立したシリサイド相(初晶シリサイド相;第一の相)の微細化が不十分であり、加えて、アモルファス形成能の増大(Si結晶晶出の臨界冷却速度を小さくする)効果が不十分であり、耐久性を十分に向上することができない。yが5.0超であると、微細組織中の共晶の割合が小さくなりすぎ(初晶シリサイドの割合が大きくなりすぎ)、合金全体としての組織の微細化が不十分となり、耐久性を十分に向上することができなくなる。また、yが27未満であると、組織中に占めるシリサイドの割合が小さくなり過ぎ、充放電に伴うSiの膨張・収縮を十分に抑制することができず、耐久性を十分に向上することができない。zが35超であると、シリサイド量が大きくなり過ぎ、この結果Liと反応できるSi量が小さくなり過ぎ、Si系合金の最大の魅力である高容量という特性を十分に発揮できなくなる。
上記化学式(I)で表される組成において、yは、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下であり、さらに好ましくは1.8以下であり、よりさらに好ましくは1.5以下である。また、yは、好ましくは0.7以上であり、より好ましくは1.0以上である。かかる範囲であると、耐久性を十分に向上させることができる。
上記化学式(I)で表される組成において、zは、好ましくは34以下であり、より好ましくは33以下であり、さらに好ましくは32以下である。また、zは、好ましくは28以上であり、より好ましくは29以上であり、さらに好ましくは、30以上である。かかる範囲であると、耐久性を十分向上させることができ、また高容量を得ることができる。
上記化学式(I)で表される組成において、xの範囲は、yおよびzが上記範囲であれば、特に制限されない。xは、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは60≦x≦72であり、より好ましくは64≦x≦70であり、さらに好ましくは65≦x≦68である。
上記化学式(I)で表される組成において、x+y+zは、最大100である。
本明細書において「不可避不純物」とは、Si含有合金において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。当該不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、Si合金の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。上記化学式(I)で表される組成において、aは、好ましくは0.5未満であり、より好ましくは0.1未満である。負極活物質(ケイ素含有合金)が上記化学式(I)の組成を有するか否かは、蛍光X線分析(XRF)による定性分析、および誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法による定量分析により確認することが可能である。
本発明の好ましい実施形態において、充放電に伴うSiの膨張収縮を抑制できるとの観点から、前記zに対する前記yの比(y/z)は、0.10(1/10)以下であり、より好ましくは0.08以下であり、さらに好ましくは0.07以下であり、よりさらに好ましくは0.06以下であり、特に好ましくは0.05以下である。前記zに対する前記yの比(y/z)の下限は、特に制限されないが、例えば0.01以上であり、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.03以上である。
上記化学式(I)で表される組成において、M(遷移金属)の種類については、Siとの間でケイ化物(シリサイド)を形成する元素(本明細書中、単に「シリサイド形成元素」とも称する)であれば、特に制限されない。シリサイド形成元素として、好ましくはTi、Zr、Ni、Cu、Mo、V、Nb、Sc、Y、Co、CrおよびFeからなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくはTiおよびZrから選択される少なくとも一種であり、とくに好ましくはTiである。これらの元素は、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。中でも、遷移金属としてTiを選択することで、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。特に、負極活物質(Si含有合金)への添加元素としてTiを選択し、さらに第2添加元素としてAlを添加することで、Li合金化の際に、より一層アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。したがって、本発明の好ましい実施形態では、上記化学式(I)で表される組成において、Mがチタン(Ti)である。
次に、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径D50としては、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。平均粒子径D90としては、好ましくは5〜30μmであり、より好ましくは10〜25μmである。
(Si含有合金の微細組織構造)
本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、その微細組織が、(1)遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とする第一の相(シリサイド相)と、(2)一部にAlを含み、非晶質または低結晶性のSiを主成分とする第二の相(Si相、好ましくはアモルファスSi相(a−Si相))とを有し、さらに、(3)一部が複数の独立した第一の相、および(4)一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造を有することが好ましい。
上記微細組織構造を有するSi含有合金は、その微細組織において、第二の相(Si相)が第一の相(シリサイド相)と共晶化し、更に複数の独立した第一の相(シリサイド相)の隙間に入る構成となっている。また、第一の相(シリサイド相)、例えばTiSi2相は、第二の相(Si相)、例えばa−Si相と比較して硬度および電子伝導性の点で優れている。そのため、充放電過程における共晶組織中のa−Si相の膨張を、共晶化したTiSi2相が抑え込み、更に複数の独立したTiSi2相が抑え込む、いわば2段構えの抑え込みで抑制することができる。
前記第一の相(シリサイド相)が遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とすることから、Mは、上記シリサイド形成元素から選択される1種以上の遷移金属元素である。すなわち、Mが、1つの遷移金属元素である場合、第一の相(シリサイド相)を構成するシリサイド形成元素である。またMが、2以上の遷移金属元素である場合、少なくとも1種は第一の相(シリサイド相)を構成するシリサイド形成元素である。残る遷移金属元素は、第二の相(a−Si相)に含まれる遷移金属元素であってもよいし、第一の相(シリサイド相)を構成するシリサイド形成元素であってもよい。あるいは、第一の相及び第二の相(a−Si相)以外の遷移金属が晶出した相(遷移金属相)を構成する遷移金属元素であってもよい。
以下、本実施形態において、上記好ましい微細組織構造を有するSi含有合金(負極活物質)について説明する。
(1)遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とする第一の相(シリサイド相)
微細組織構造を有するSi含有合金において、第一の相(シリサイド相)は、遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とする。この第一の相(シリサイド相)は、第二の相(a−Si相)と比較して硬度および電子伝導性の点で優れている。このため、シリサイド相(第一の相)は、膨張時の応力に対して、a−Si相(第二の相)中のSi活物質の形状を維持する役割を担うとともに、a−Si相(特にSi活物質)の低い電子伝導性を改善することができる。さらに、このシリサイド相(第一の相)は、遷移金属のケイ化物(例えばTiSi2)を含むことで、a−Si相(第二の相)との親和性に優れ、特に充電時の体積膨張における(結晶)界面での割れを抑制することができる。
また、上述したように、上記化学式(I)で表される組成において、Mがチタン(Ti)であることが好ましい。特に、負極活物質(Si含有合金)への添加元素としてTiを選択し、さらに第2添加元素としてAlを添加することで、Si含有合金の共晶組織において、第一の相および第二の相をより微細化することができる。その結果、Li合金化の際に、より一層アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命(耐久性)を向上させることができる。また、これによって、本発明の負極活物質(Si含有合金)は、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。したがって、微細組織中の遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とするシリサイド相(第一の相)は、チタンシリサイド(TiSi2)であるのが好ましい。
上記シリサイド相(第一の相)において、シリサイドを「主成分とする」とは、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上がシリサイドである。なお、理想的にはシリサイドが100質量%である。しかし、合金中には、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりする不可避不純物が含まれうる。よって、100質量%の第一の相を得るのは実際上、困難である。
(2)一部にAlを含み、非晶質または低結晶性のSiを主成分とする第二の相(アモルファスSi相(a−Si相))
微細組織構造を有するSi含有合金において、第二の相(アモルファスSi相(a−Si相))は、一部にAlを含み(具体的には、AlがSi中に固溶している、またはSi中に内包され分散している)、非晶質または低結晶性のSiを主成分とすることができる。このa−Si相(第二の相)は、非晶質または低結晶性のSiを主成分として含有する相である。
このa−Si相(第二の相;a−Siを主成分とする相)は、本実施形態の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)の作動時にリチウムイオンの吸蔵・放出に関与する相であり、電気化学的にLiと反応可能な相である。a−Si相(第二の相)は、Siを主成分とするため重量あたりおよび体積あたりに多量のLiを吸蔵・放出することが可能である。ただし、Siは電子伝導性に乏しいことから、a−Si相(第二の相)にはリンやホウ素などの微量の添加元素や遷移金属などが含まれていてもよい。なお、a−Si相(第二の相;Siを主成分とする相)は、シリサイド相(第一の相)よりもアモルファス化していることが好ましい。かような構成とすることにより、負極活物質(Si含有合金)をより高容量なものとすることができる。a−Si相(第二の相)がシリサイド相(第一の相)よりもアモルファス化しているか否かは、電子線回折分析により確認することができる。具体的には、電子線回折分析によると、単結晶相についは二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)が得られ、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)が得られ、アモルファス相についてはハローパターンが得られる。これを利用することで、上記の確認が可能となるのである。
上述したように、上記化学式(I)で表される組成において、Mがチタン(Ti)であることが好ましい。特に、負極活物質(Si含有合金)への添加元素としてTiを選択し、さらに第2添加元素としてAlを添加することで、Li合金化の際に、より一層アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、本発明の負極活物質(Si含有合金)は、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。したがって、微細組織中の非晶質または低結晶性を主成分とするSi相(第二の相)は、非晶質(アモルファス)のSiを主成分とするのが好ましい。
以上のことから、上記微細組織中の、第一の相の遷移金属のケイ化物は、チタンシリサイド(TiSi2)であり、かつ、前記Si相(第二の相)は非晶質(アモルファス)を主成分とするSiであるのが好ましい。かかる構成とすることで、電気デバイスの高容量を示しつつ、サイクル耐久性をより一層向上することができる。
上記a−Si相(第二の相)において、Alを含み、非晶質または低結晶性のSiを「主成分とする」とは、Si相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上が上記Siである。しかし、合金中には、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりする不可避不純物が含まれうる。よって、100質量%の第二の相を得るのは実際上、困難である。
上記Si相(第二の相)において、「一部にAlを含み」としたのは、例えば図8(b)、(c)および(e)とを対比すると、多くはSi相にAlをほとんど含まない部分(Si部分が活物質として機能する)であるが、AlがSi中に固溶している、またはSi中に内包され分散していることが分かる。また、共晶組織中のAlの残りの部分は、共晶組織中のシリサイド相に分散していることが確認できる。
(3)一部が複数の独立した第一の相
上記好ましい構造を有するSi含有合金は、微細組織中において、一部が複数の独立した第一の相となっている構造を有する。Si含有合金が前記構造を有することにより、充放電過程における共晶組織中の第二の相(a−Si相)の膨張を、複数の独立した第一の相が抑え込んで抑制することができる。またa−Si相(特にSi活物質)の低い電子伝導性を改善することができる。
微細組織中において、一部が複数の独立した第一の相の最頻半径の上限は、特に制限されないが、例えば280nm以下であり、好ましくは260nm以下であり、より好ましくは255nm以下であり、さらに好ましくは250nm以下である。前記共晶組織中の独立した第一の相の最頻半径の下限は、特に制限されないが、好ましくは160nm以上、より好ましくは170nm以上、さらに好ましくは180nm以上、特に好ましくは190nm以上である。かかる範囲であることにより、一部が複数の独立した第一の相が微細組織中に細かく分散することができる。したがって、充放電に伴うSiの膨張収縮を効果的に抑制できることで、耐久性を向上できる。
微細組織中において、一部が複数の独立した第一の相の半径分布は、好ましくは80〜1000nm、より好ましくは100〜800nm、さらに好ましくは110〜500nm、特に好ましくは120〜400nm、なかでも好ましくは150〜360nmである。かかる範囲であることにより、一部が複数の独立した第一の相が微細組織中に細かく分散することができる。したがって、充放電に伴うSiの膨張収縮を効果的に抑制できることで、耐久性を向上できる。
(4)一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造
上記好ましい構造を有するSi含有合金は、微細組織中において、一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造を有する。微細組織中において一部が第一の相と第二の相とが共晶組織となっていることにより、充放電過程における共晶組織中の第二の相(a−Si相)の膨張を、共晶化した第一の相が抑え込んで抑制することができる。つまり、a−Si相の膨張を共晶化した第一の相(TiSi2相)と一部が独立した第一の相(TiSi2相)とにより抑え込むことができる、すなわち2段構えの抑え込みで第二の相の膨張を抑制することができる。またa−Si相(特にSi活物質)の低い電子伝導性を改善することができる。
共晶組織中において、第一の相の最頻半径の上限は、特に制限されないが、好ましくは60nm以下であり、より好ましくは54nm以下である。また、前記共晶組織中の第二の相の最頻半径の下限は、特に制限されないが、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは25nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。かかる範囲であることにより、上記効果をより有効に発現することができる。
共晶組織中において、第二の相の最頻半径の上限は、特に制限されないが、好ましくは90nm以下であり、より好ましくは85nm以下であり、さらに好ましくは80nm以下である。また、前記共晶組織中の第二の相の最頻半径の下限は、特に制限されないが、好ましくは40nm以上であり、より好ましくは50nm以上であり、さらに好ましくは60nm以上である。かかる範囲であることにより、上記効果をより有効に発現することができる。
共晶組織中において、第二の相の半径分布は、好ましくは10〜200nmであり、より好ましくは20〜150nmであり、さらに好ましくは25〜120nmである。かかる範囲であることにより、上記効果をより有効に発現することができる。
本実施形態において、共晶組織中の、第二の相の最頻半径に対する第一の相の最頻半径の比は、好ましくは1.00以下であり、より好ましくは0.95以下であり、さらに好ましくは0.90以下である。また、共晶組織中の、第二の相の最頻半径に対する第一の相の最頻半径の比の下限は、特に制限されないが、例えば0.40以上であり、好ましくは0.50以上であり、より好ましくは0.60以上であり、さらに好ましくは0.70以上であり、特に好ましくは0.80以上である。すなわち、充放電に直接寄与する共晶組織中の第二の相(a−Si相)に対する共晶組織中の第一の相(シリサイド相)の割合を大きくしなくても、効果的に充放電過程における共晶組織中の第二の相(a−Si相)の膨張を抑え込むことができる。
上記(1)〜(4)の構造を有するSi含有合金は、例えば液体急冷ロール凝固法で、所定の合金原料を溶融し、所定の冷却速度で急冷し合金化することで、液相中に複数の独立した第一の相が初晶として晶出し、この独立した第一の相の隙間の液相に第一の相と第二の相の共晶組織が晶出して得られる。
上記の一部が複数の独立したシリサイド相(第一の相)及び共晶組織中のシリサイド相(第一の相)には、それぞれ複数の相が存在していてもよく、例えば遷移金属元素MとSiとの組成比が異なる2相以上(例えば、MSi2およびMSi)が存在していてもよい。また、異なる遷移金属元素とのケイ化物を含むことにより、2相以上が存在していてもよい。ここで、シリサイド相(第一の相)に含まれる遷移金属の種類について特に制限はないが、好ましくはTi、Zr、Ni、Cu、Mo、V、Nb、Sc、Y、Co、CrおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはTiまたはZrであり、特に好ましくはTiである。これらの元素は、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。特に遷移金属元素がTiである場合のシリサイドであるTiSi2は、非常に優れた電子伝導性を示すため、好ましい。
遷移金属元素MがTiであり、シリサイド相に組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi2およびTiSi)が存在する場合は、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%がTiSi2相である。
さらに、遷移金属元素MがTiである場合、化学熱力学(CALPHAD法=計算状態図法)によれば、図31のSi−Ti二元系状態図より、Si−Tiは非常に強い結合性を示す。図32のSi−Al二元系状態図より、Si−Alは液体状態では引付合うが、固相中では反発する。また、図33のTi−Al二元系状態図より、Ti−Alは結合性を示すことが分かる。つまり、本発明のSi−Al−Ti合金では、Tiに比べAlを少量含有することにより、例えば急冷凝固法などにより液体状態から冷却する場合には、液相中にAlがとどまり、TiおよびSiを引き付け、TiSi2の晶出を抑制することができる。このため、初晶TiSi2を微細化でき、独立した初晶TiSi2相が組織中に細かく分散することにより、効果的に、充放電に伴うSiの膨張収縮を抑制できるようになり、耐久性を向上できる。
上記二元系状態図は、スウェーデン Thermo−Calc software AB社製(日本代理店:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)の統合型熱力学計算システム:Thermo−Calc Ver2015aを用い、熱力学データベースとして、固溶体汎用データベース:SSOL5(SGTE* Solution Database,ver.5.0)を用いて、計算することができる。
*SGTE:Scientific Group Thermodata Europe。
上記Si含有合金の微細組織が上記(1)〜(4)の構成(構造)を有することは、例えば、高分解能STEM(走査透過型電子顕微鏡)観察、EDX(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析、電子回折測定及びEELS(電子エネルギー損失分光法)測定により、負極活物質粒子であるSi含有合金(粒子)の微細組織の構造を明らかにすることができる。分析装置(分析法)としては、例えば、XPS(X線光電子分光法)、TEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)、STEM−EDX/EELS(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法/電子エネルギー損失分光分析器)、HAADF−STEM(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)、BF−STEM(明視野−走査透過電子顕微鏡像)などを使用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、既存の合金の微細組織に用いられる各種の観察装置(装置条件、測定条件)を用いてもよい。
(Si含有合金の微細組織構造の解析)
以下では、上記微細組織構造を有する負極活物質の微細構造を、実施例1で作製したSi含有合金(粒子)を試料(サンプル)に用いた例につき説明する。しかし、他の本実施形態で得られる負極活物質であるSi含有合金(粒子)についても同様にして、合金(粒子)の微細組織構造を明らかにすることができる。また、実施例2〜5および比較例1〜2についても、同様の方法を用いることにより、解析することができる。
1.分析方法
1−1.試料調製
FIB(集束イオンビーム)法:マイクロサンプリングシステム(日立製作所製,FB−2000A)
Alグリッドを使用する。
1−2.STEMimage、EDX、EELS(電子エネルギー損失分光法)測定装置及び条件
1)装置:原子分解能分析電子顕微鏡 日本電子株式会社製JEM−ARM200
EDX(Energy dispersive X−ray Spectroscopy):日本電子株式会社製JED−2300(100mm2シリコンドリフト(SDD)型)
システム:Analysis Station
EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy):GATAN GIF Quantum
画像取得;Digital Micrograph
2)測定条件
加速電圧:200kV
ビーム径:約0.2nmφ(直径)
エネルギー分解能:約0.5eV FWHM。
1−3.電子回折測定装置及び条件
1)装置;電界放出型電子顕微鏡 日本電子株式会社製JEM2100F;
画像取得;Digital Micrograph
2)測定条件
加速電圧:200kV
ビーム径:1.0nmφ(直径)程度。
2.STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による(定量マッピング)分析
図3は、実施例1のSi67.6Al1.2Ti31.2の急冷薄帯合金の断面SEM(走査型電子顕微鏡)画像を表す図面である。図3および下記で説明する図4〜8の分析結果より、実施例1のSi含有合金は、一部が独立した第一の相(TiSi2相)と、一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造とを有することを確認できる。
図4〜8は、図3において示す共晶部の組織構造を分析したものである。
図4は、実施例1の負極活物質(Si含有合金)粒子からFIB法により試料を調製し、その試料のBF−STEM(明視野−走査透過電子顕微鏡像)およびHAADF−STEM(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)による観察画像(低倍率)である。測定対象は、実施例1で作製したSi含有合金(負極活物質)粒子とした。前記Si含有合金(負極活物質)粒子の平均粒子径D50は、6μmであり、前記Si含有合金(負極活物質)粒子の平均粒子径D90は、19μmであった。そして、前記Si含有合金(負極活物質)粒子表面を2質量%のアルミナでコーティングした後、そのコーティングした粒子の断面を観察対象とした。
図5は、STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による定量マッピングデータを示した図面(低倍率)である。図5(a)は、図4(b)と同一のHAADF−STEM画像である。図5(b)〜(d)は、それぞれHAADF−STEM(図5(a))と同一視野で測定したAl、SiおよびTiのマッピングデータを示した図面である。図5(e)は、図5(b)〜(d)のマッピングデータを重ねあわせた図面である。なお、図5(b)〜5(e)のマッピングは実際には、カラーリング(色づけ)できるため、例えば、Alを緑、Siを青、Tiを赤とすれば、シリサイド(TiSi2)は、Siの青とTiの赤が混ざり合ったピンクになるため、一目で判別し得る。しかし、出願図面では、白黒画像で提出する必要があることから、こうしたカラーリングにより明らかになった解析情報を図4(b)や図5(e)中に盛り込んでいる。これは当業者であれば、図5と同様にSTEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による定量マッピングデータから本願と同様の画像解析により、同様の解析情報を容易に得ることができるためである。因みに、図5(b)〜5(d)では、Al、SiおよびTiそれぞれの存在をグレーの濃淡または白で表しており、これらの元素が存在しない部分を黒で表している。これにより、測定対象の活物質合金Si67.6Al1.2Ti31.2(実施例1の負極活物質)を構成する元素であるSi、AlおよびTiの存在および分布状態も確認できる。
上記分析において、STEM像観察には、試料を透過した電子線を用いて結像する明視野(Bright−field:BF)STEM像と、試料から散乱された電子線を用いて結像する暗視野(Dark−field:DF)STEM像の2種類の観察法がある。図4(a)に示すBF−STEM像では、通常のTEM像と同様に、試料の内部構造を示す透過像、図4(b)に示す(HAA)DF−STEM像では、試料の組成を反映したコントラストが得られる組成像の観察できる。特に、HAADF(高角散乱環状暗視野)では、原子番号(Z)に起因する弾性散乱電子contrastが優勢なためZ−contrast像ともいわれる結像法である。原子番号の大きな物質が明るく見える(図4(b)、図5(a)、図6(b)、図7(b)、図8(a)、図9(a)、図10(a)参照)。HAADF−STEM(高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法)では、像は細く絞った電子線を試料に操作させながら当て、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出することにより得られる。Z2ρが大きな材料の方がより高角に散乱されることから、重い元素はSTEM像では暗く、HAADF−STEM像では明るい。原子量(Z)に比例したコントラストが得られることからZコントラスト像とも呼ばれる。またSTEM−EDX定量マッピングでは、電子線を細く絞り試料上を走査しながら、各点から発生した特性X線をEDS(Energy−Dispersive−Spectroscopy)検出器に取り込むことにより、試料の組成分布の情報を得ることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)測定では、走査型電子顕微鏡(SEM)測定に見られる様な電子線の拡散が殆どないため、ナノメーターの空間分解能で測定が可能となる。
図5(e)のAl、SiおよびTiを重ねあわせたマッピングデータより、試料の微細組織中に、シリサイド相(第一の相)とAlを含むSi相(第二の相)とが共晶組織(それぞれ違った成分比の(固溶体)結晶ないし非晶質又は低結晶性である、第一の相と第二の相とが混ざりあっている組織)となっていることが確認できる。
共晶組織であることは、カラーリングした場合、以下により確認できる。すなわち、図(b)〜(d)と対比することで、図5(e)の全面において、シリサイド相(第一の相)とAlを含むSi相(第二の相)との共晶であることが確認できる。
図6は、図3の共晶部(図4)の部分を図4よりも拡大したSTEM画像である(中倍率)。下記図8の観察結果から、図6(b)において、比較的淡いグレーの部分がシリサイド相(第一の相)に相当し、相対的に濃いグレーの部分がAlを含むSi相(第二の相)に相当することが分かる。また、共晶組織中、シリサイド相(第一の相)とAlを含むSi相(第二の相)とが微細化し、隣接していることが確認できる。
図7は、図3の共晶部(図4)の部分を図6よりも拡大したSTEM画像である(高倍率)。
図8は、図5と同様に、STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による定量マッピングデータを示した図面(高倍率)である。図8(a)は、図7(b)と同一のHAADF−STEM画像である。図8(b)〜(d)は、それぞれHAADF−STEM(図8(a))と同一視野で測定したAl、SiおよびTiのマッピングデータを示した図面である。図5(e)は、図8(b)〜(d)のマッピングデータを重ねあわせた図面である。なお、図8(b)〜8(e)のマッピングは実際には、カラーリング(色づけ)できるため、例えば、Alを緑、Siを青、Tiを赤とすれば、シリサイド(TiSi2)は、Siの青とTiの赤が混ざり合ったピンクになるため、一目で判別し得るが、出願図面では、白黒画像で提出する必要があることから、こうしたカラーリングにより明らかになった解析情報を図8(b)および(d)中に盛り込んでいる。これは当業者であれば、図8と同様にSTEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)による定量マッピングデータから本願と同様の画像解析により、同様の解析情報を容易に得ることができるためである。
因みに、図8(b)〜8(d)では、Al、SiおよびTiがそれぞれ存在しない部分が黒色で表され、これらの元素が存在する部分は、グレーないし白で表されている。これにより、測定対象である実施例1のSi含有合金(負極活物質)Si67.6Al1.2Ti31.2を構成する元素であるSi、Sn、Tiの存在なおよび分布状態が確認できる。
図8(a)と、図8(e)のAl、SiおよびTiを重ねあわせたマッピングデータとを対比することで、シリサイド相(第一の相)とAlを含むSi相(第二の相)とが共晶組織(それぞれ違った成分比の(固溶体)結晶ないし非晶質又は低結晶性である、第一の相と第二の相とが混ざりあっている組織)となっていることが確認できる。
詳しくは、図8(e)中の相対的に淡いグレーまたは白の部分は、図8(b)よりAl相であることが分かる。図8(e)の相対的に最も濃いグレーの部分(例えば、中央部分)は、図8(c)および(d)より、Tiが存在しない場所、つまりSi相であることが分かる。また、図8(c)および(d)より、Al相およびSi相に相当する部分以外は、シリサイド相であることが分かる。
以上より、共晶組織において、シリサイド相(第一の相)と、Alを含むSi相(第二の相)とが共晶組織となっていることが分かる。
共晶組織であることは、カラーリングした場合、以下により確認できる。すなわち、図8(e)には、ピンク、青および緑の部分が存在している。図8(d)を見ると、図8(e)の青い部分には、Tiが存在しないまたはほとんど存在しないことが分かる。つまり、図8(e)の青い部分は、Si相であることが確認できる。一方で、ピンクの部分は、図8(c)の青(Siが存在する部分)と、図8(d)の赤(Tiが存在する部分)とが混ざりあったものである。つまり、図8(e)のピンクの部分は、シリサイド相(TiSi2)であることが確認できる。また、図8(e)の青い部分には、緑の部分(Alが存在する部分)が内包されていることが確認できる。このことは、一部のAlがSi中に固溶されていることを示している。また、それ以外のAlは、Si相およびTiSi2相に分散していることも確認できる。
3.HAADF−STEM Image(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)と元素分析法による分析
図9および10は、実施例1のSi含有合金の共晶組織中のシリサイド相またはアモルファスSi相の微細組織構造を分析した結果を示す写真およびグラフである。
図9(a)は、実施例1のSi含有合金の共晶組織部分を拡大したHAADF−STEM画像である。図9(b)は、図9(a)における太線で囲んだ部分(画像中の7;シリサイド相が存在するとものと考えられた部分)について、元素分析したグラフである。
図10(a)は、図9(a)と同一の、実施例1のSi含有合金の共晶組織部分を拡大したHAADF−STEM画像である。図10(b)は、図10(a)における太線で囲んだ部分(画像中の8;a−Si相が存在するとものと考えられた部分)について、元素分析した図面である。
図9(b)より、元素分布の観察対象とする部分である図9(a)の7の部分では、Si元素のピークとTi元素のピークが観察されており、Al元素のピークはほとんど観察されない。また図9(b)より、SiとTiとがほぼ2:1の原子比で存在していることが確認された。このことからも、当該7の部分を含む相対的に淡いグレー部分は、シリサイド(TiSi2相)であることが確認できる。
図10(b)より、元素分布の観察対象とする部分である図10(a)の8の部分では、Si元素のピークが観察されており、Al元素及びTi元素のピークはほとんど観察されない。すなわち、図10(a)の8の部分は、Si相(第二の相)であることが確認できる。
4.電子回折図形による分析
図11(a)は、実施例1のSi含有合金の共晶組織を拡大したBF−STEM Image(高角度散乱暗視野−走査透過電子顕微鏡像)を表す図面である。図11(a)において、左上の囲い部分(FFT3)が共晶組織中のシリサイド相を示し、右側の囲い部分(FFT4)が共晶組織中のSi相(a−Si相)を示す。図11(b)は、共晶組織中のシリサイド相の領域を電子回折測定により高速フーリエ変換処理して得られた回折図形である。図11(c)は、共晶組織中のSi相(a−Si相)の領域を電子回折測定により高速フーリエ変換処理して得られた回折図形である。
電子回折測定により高速フーリエ変換処理して得られた回折図形では、単結晶相については二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)が得られ、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)が得られ、アモルファス相についてはハローパターンが得られる。さらに、二次元点配列のネットパターン(シリサイド相)については、その結晶構造を特定することもできる。
図11(b)に示す回折図形から、二次元点配列のネットパターン(ラウエパターン)が得られている。よって、共晶組織中のシリサイド相(TiSi2相)は、単結晶相であることが確認できる。
また、図11(c)に示す回折図形から、デバイシェラーリング(回折環)およびハローパターンの回折環が得られている。よって、共晶組織中のSi相(第二の相)は、多結晶相であり、非晶質または低結晶性のSi(a−Si)を有するアモルファス相であることが確認できる。
以上より、実施例1のSi含有合金の微細組織は、シリサイド相(第一の相)と一部にAlを含むSi相(第二の相)とが共晶組織となっていることが確認できる。図6〜図8からも、実施例1のSi含有合金の微細組織中には、遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とするシリサイド相(第一の相)と、一部にAlを含み、非晶質または低結晶性のSiを主成分とするa−Si相(第二の相)とを有し、さらに、一部が複数の独立した第一の相、および一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっていることが確認できる。
(析出物サイズの分析)
析出計算
スウェーデンThermo−Calc software AB社製(日本代理店:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)の析出成長予測ソフトウェア:TC−PRISMA Ver2015aを用い、熱力学データベースとしてSSOL5を用い、動力学データベースとして同社製MOB2(TCS Alloy Mobility Database Ver.2.5)を用いて、実施例1〜5および比較例1〜2の条件で、析出計算を行った。この析出成長予測ソフトウェアTC−PRISMAは、Langer−SchwartzおよびKampmann−Wagnerの理論に基づいて、析出計算を行うものである[3][4]。
析出計算は、実施例1〜5および比較例1〜2の条件で行う。以下に示す計算条件および温度プロファイル(図28)を用いる。
[3]:Q.Chen,H.J.Jou,G.Sterner.TC−PRISMA User’s Guide,http://www.thermocalc.com/,2011
[4]:Q.Chen,J.Jeppsson,and J.Agren.,Acta Materialia,Vol.56,pp,1890−1896,2008。
計算条件
温度プロファイル:図28(実施例1〜5、比較例1〜2)
合金組成(質量%):Si67.6Al1.2Ti31.2(実施例1)
Si65.0Al2.5Ti32.5(実施例2)
Si66.6Al1.2Ti32.2(実施例3)
Si67.0Al1.8Ti31.2(実施例4)
Si67.3Al1.5Ti31.2(実施例5)
Si65.0Sn5.0Ti30.0(比較例1)
Si60.0Sn10.0Ti30.0(比較例2)
母相/析出相:Liquid/TiSi2、Si(液相に晶出)
核生成モデル:均質核生成
核生成サイト:バルク
界面エネルギー:estimated value(温度ごとに計算)
母相/析出相体積:1E−4(1×10−4)m3。
ここで、図28の析出シミュレーションに用いた温度プロファイルは、以下により求めた。
図29は、液体急冷ロール凝固法に用いた装置により得られる急冷薄帯合金の温度を赤外サーモグラフを用いて観察した様子(熱画像)を表した図面である。温度計測には、米国フリアーシステムズ社製(株式会社チノー取扱い)の高分解能赤外サーモグラフィ CPA−SC7500(受光素子:InSb)及び、同機用の50mmレンズを用いて測定した。詳しくは1450℃に溶融した母合金を入れた石英ノズルから回転数4000rpm(周速:41.9m/秒)のCuロール上に母合金を噴射し、ロール上から水平に連続的して形成される薄帯状の合金温度を観察したものである。黄白色に光っている部分が母合金が入り加熱された石英ノズルで、ここに貯めた合金溶湯を急冷ロール表面上に噴射し、ロール上に載った合金薄帯の温度を、フレームレート350Hzにて、320×256ピクセルの熱画像にて、連続的に温度を計測した。ノズル直下のロール部分(ノズルからの距離ゼロ)から2.25mmごとの位置(距離)にある薄帯状の合金温度(観察位置を数字1〜8で示した)について、溶湯噴射中の温度の平均値をそれぞれ計測したものである。
図30(a)は、ノズルから2.25mmごとの位置(距離)での急冷薄帯合金の温度をプロットしたグラフである。図30(b)は、図30(a)を基にロールの周速から算出した、冷却時間(経過時間)と計測温度との関係を示すグラフである。図30(c)は、各測温点間の温度差/各測温点間の移動時間より算出した、ノズルから2.25mmごとの位置(距離)での冷却速度(急冷速度)を示すグラフである。実施例1において、図30(b)より、1350℃から1100℃に到達するまでの冷却時間が5.37×10−5秒であるため、冷却温度を4.67×106℃/秒と算出できる。
図28の析出シミュレーションに用いた温度プロファイルは、図30(b)の冷却時間と計測温度との関係のグラフを基に、直線近似することで算出できる。
上記析出計算より、析出物の最頻半径および半径分布を求めることができる。以下、実施例1で作製したSi含有合金(負極活物質)を用いた例につき説明する。なお、実施例2〜5および比較例1〜2についても、同様の方法により解析を行った(図16、18、20、22、24および26参照)。
図12(a)は、析出シミュレーションにより得られた、独立した第一の相ならびに共晶組織中の第一の相および第二の相の半径の頻度分布を対数表示し、最頻半径を示すグラフである。図12(a)において、シリサイド相(第一の相)は、バイモーダルなグラフで示される。上記図3〜図10の解析より、最頻半径の大きなピークが独立した第一の相であり、最頻半径の小さなピークが共晶組織中の第一の相であることが分かる。
独立した第一の相の最頻半径は、250nmである。共晶組織において、第一の相の最頻半径は、53nmであり、第二の相の最頻半径は、63nmである。
図12(b)は、図12(a)のグラフの縦軸(頻度分布)を線形表示して拡大したグラフであり、独立した第一の相および共晶組織中の第二の相の半径分布を示すグラフである。半径分布は、ピーク高さに対して5%の高さとなる箇所を読み取るものとする。
独立した第一の相の半径分布は、190〜340nmである。共晶組織において、第二の相の最頻半径は、30〜100nmである。
図3は、実施例1のSi67.6Al1.2Ti31.2の急冷薄帯合金の断面SEM(走査型電子顕微鏡)画像を表す図面である。
上記1.〜3.で説明したように、図3において、相対的に薄いグレーの部分が独立した第一の相(シリサイド相)であり、相対的に濃いグレーの部分が第一の相と第二の相(a−Si相)との共晶組織である。
図3には、上記析出計算により求めた、独立した第一の相の最頻半径(250nm)に基づく最頻直径の中間円(直径500nm)を独立した第一の相の幾つかに適用し、図示している。その結果、これらの最頻直径の中間円(直径500nm)は、実際の独立した第一の相の中間サイズの等価円直径(平均値)にほぼ合致していることが確認できた。
同様に、図3には、上記析出計算により求めた、独立した第一の相の半径分布(190〜340nm)に基づく最大円(直径680nm)と最小円(直径380nm)を独立した第一の相の幾つかに適用し、図示している。その結果、これらの最大円(直径600nm)と最小円(直径320nm)は、実際の独立した第一の相の大きなサイズ及び小さなサイズの等価円直径(直径分布)とも、ほぼ合致していることが確認できた。
また、上記析出計算により求めた共晶組織中のSi相(第二の相)の最頻半径に基づく最頻直径の中間円、ならびに半径分布に基づく最大円および最小円を、HAADF−STEM Imageなどの電子顕微鏡写真に適用し、図示することができる。その結果、これらの共晶組織中のSi相(第二の相)の最頻半径に基づく最頻直径の中間円ならびに半径分布に基づく最大円および最小円は、実際のSi相(第二の相)の等価円直径(平均値や直径分布)ともほぼ合致することが確認できる。
(等価円半径)
本実施形態のSi含有合金の微細組織について、図3〜図10のような電子顕微鏡写真等を用いて、個数基準における10〜100個、好ましくは30〜100個の等価円半径(平均値)を求めることができる。
独立した第一の相(シリサイド相)の等価円半径(平均値)は、280nm以下、好ましくは260nm以下、より好ましくは255nm以下、さらに好ましくは250nm以下である。独立した第一の相(シリサイド相)の等価円半径(平均値)の下限に関しては、特に制限されないが、好ましくは160nm以上、より好ましくは170nm以上、更に好ましくは180nm以上、特に好ましくは190nm以上である。
共晶組織中の第二の相(Si相)の等価円半径(平均値)は、90nm以下、好ましくは85nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは70nm以下、特に好ましくは65nm以下である。共晶組織中の第二の相(Si相)の等価円半径(平均値)の下限に関しては、特に制限されないが、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上である。
共晶組織中の第一の相(シリサイド相)の等価円半径(平均値)は、80nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは60nm以下、更に好ましくは54nm以下である。なお、前記共晶組織中の第一の相(シリサイド相)の等価円半径(平均値)の下限に関しては、特に制限されないが、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上である。
以上のことから、上記析出計算により求めた独立した第一の相および共晶組織中の第二の相の最頻半径は、実際の独立した第一の相および共晶組織中の第二の相の最頻半径とほぼ合致するものといえる。このことは電子顕微鏡写真等から測定される個数基準における10〜100個、好ましくは30〜100個の等価円半径(平均値)とほぼ合致しており、これらの等価円半径に代わる新たな指標として、上記した最頻半径や半径分布が問題なく適用できることを見出したものである。
<負極活物質の製造方法>
本実施形態に係る電気デバイス用負極活物質の製造方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。上述したように、本実施形態では、Si含有合金は、その微細組織において、第一の相と第二の相とを有し、さらに、一部が複数の独立した第一の相、および一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造を有することが好ましい。かかるSi含有合金からなる負極活物質の製造方法の一例としては、以下のように液体急冷ロール凝固法(本明細書中、単に「液体急冷凝固法」とも称する)による急冷薄帯合金を作製する方法が提供される。すなわち、本発明の他の形態によれば、上記化学式(I)で表される組成を有するSi含有合金からなる電気デバイス用負極活物質の製造方法であって、前記Si含有合金と同一の組成を有する母合金を用いた液体急冷凝固法により、急冷薄帯合金を作製して、前記Si含有合金からなる電気デバイス用負極活物質を得る、電気デバイス用負極活物質の製造方法もまた、提供される。このように、液体急冷凝固法を実施して負極活物質(Si含有合金)を製造することで、上述した微細組織構造を有する合金を製造することが可能となる。また、得られるSi含有合金において、上述した共晶組織中の第二の相の最頻半径、独立した第一の相の最頻半径などを小さくすることができる。これらによりSi含有合金活物質の高容量を示しつつ、サイクル耐久性の向上に有効に寄与し得る製造方法が提供されるのである。
上述したように、遷移金属元素としてTiを用いた場合、Si−Al−Ti三元系合金において、化学熱力学(CALPHAD法=計算状態図法)によれば、Si−Tiは非常に強い結合性を示す(図31)。Si−Alは液体状態では引付合うが、固相中では反発する(図32)。また、Ti−Alは結合性を示すことが分かる(図33)。
本発明に係るSi含有合金(負極活物質)は、Ti(遷移金属元素)に比べてAlを少量含有している。例えば、液体急冷凝固法を用いてSi含有合金(負極活物質)を製造する場合、Alは、液相中において、TiおよびSiを引き付け、TiSi2の晶出を抑制することができる。つまり、初晶TiSi2を微細化することができ、独立したTiSi2相(第一の相)が、合金組織中に細かく分散するため、充放電に伴うSiの膨張収縮を抑制できる。よって、本発明の負極活物質(Si含有合金)を用いたリチウムイオン二次電池などの電気デバイスのサイクル耐久性を向上できる。
さらに、冷却が進むと、初晶TiSi2の晶出が終わり、TiSi2とSiとが共晶する段階に入る。この段階においても、液相中のAlがTiSi2の晶出を抑制するため、液相中のAl含有量が増えると、共晶組織中のTiSi2が小さくなる(微細化する)。結果として、共晶組織中のSiに対してTiSi2が相対的に小さくなり、構造として共晶組織中のSi相とTiSi2相とが隣接する形となっていることから、共晶組織中のSiの割合が相対的に大きくなる。
そのため、充放電過程における共晶組織中のSi相(a−Si相)の膨張を、共晶化したTiSi2相が抑え込み、さらに複数の独立したTiSi2相が抑え込む、いわば2段構えの抑え込みで抑制することができる。
以下、本形態に係る製造方法について説明する。
(液体急冷ロール凝固法(液体急冷凝固法))
まず、所望のSi含有合金と同一の組成を有する母合金を用いて液体急冷ロール凝固法(液体急冷凝固法)を実施する。これにより、急冷薄帯(リボン)合金を作製する。
ここで、母合金を得るために、原料として、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、遷移金属(例えば、チタン(Ti))のそれぞれについて、高純度の原料(単体のインゴット、ワイヤ、板など)を準備する。続いて、最終的に製造したいSi含有合金(負極活物質)の組成を考慮して、アーク溶解法などの公知の手法により、インゴット等の形態の母合金を作製する。
その後、上記で得られた母合金を用いて液体急冷ロール凝固法を実施する。この工程は、上記で得られた母合金を溶融させた溶融物を急冷して凝固させる工程であり、例えば、高周波誘導溶解−液体急冷ロール凝固法(双ロールまたは単ロール急冷法)によって実施することができる。これにより、急冷薄帯(リボン)合金が得られる。なお、液体急冷ロール凝固法は非晶質合金の作製法としてよく使われており、その手法自体に関する知見は多く存在する。なお、液体急冷ロール凝固法は、市販の液体急冷凝固装置(例えば、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型)を用いて実施することができる。
詳しくは、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型を用いて、Ar置換の上、ゲージ圧を減圧し調整したチャンバー内に設置した噴射ノズル付きの溶融装置(例えば、石英ノズル)中に、上記母合金を入れ、適当な溶融手段(例えば、高周波誘導加熱)により所定温度域に融解した後、所定の噴射圧にて、所定の回転数の金属製ないしセラミックス製(特に熱伝導性に優れたCu製)ロール上に噴射することで、ロール上から水平に連続的して形成される薄帯状合金(急冷薄帯(リボン)合金)を作製することができる。
この際、チャンバー内の雰囲気は、不活性ガス(Heガス、Neガス、Arガス、N2ガス等)に置換するのが望ましい。不活性ガスで置換後、チャンバー内のゲージ圧は、−0.03〜−0.07MPa(絶対圧で0.03〜0.07MPa)の範囲に調整するのが望ましい。
噴射ノズル付きの溶融装置(例えば、石英ノズル)内における母合金の溶融温度は、合金の融点以上であればよい。また、溶融手段としては、高周波誘導加熱など従来公知の溶融手段を用いることができる。
噴射ノズル付きの溶融装置(例えば、石英ノズル)のノズルからの母合金の噴射圧は、ゲージ圧で0.03〜0.09MPaの範囲に調整するのが望ましい。上記噴射圧は、従来公知の手法により調節することができる。また、チャンバー内圧と噴射圧との差圧は0.06〜0.16MPaの範囲に調整するのが望ましい。
母合金を噴射する際のロールの回転数及び周速度は、4000〜6000rpm(周速として40〜65m/sec)の範囲に調整するのが望ましい。
上記薄帯状の合金(急冷薄帯(リボン)合金)の冷却速度は、好ましくは160万℃/秒以上、より好ましくは200万℃/秒以上、さらに好ましくは300万℃/秒以上、特に好ましくは400万℃/秒以上である。当該冷却速度の求め方は、上記図28〜30にて説明した通りである。冷却速度を上記範囲内に調整することで、上記した本発明の一実施形態における微細組織を有するSi含有合金を作製することができる。
(急冷薄帯(リボン)合金の粉砕工程)
続いて、上記で得られた薄帯状合金(急冷薄帯(リボン)合金)の粉砕処理を行う。例えば、適当な粉砕装置(例えば、ドイツフリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6など)を用いて、適当な粉砕ポット(例えば、ジルコニア製粉砕ポット)に適当な粉砕ボール(例えば、ジルコニア製粉砕ボール)と急冷薄帯(リボン)合金を投入し、所定の回転数で所定時間、粉砕処理を実施する。急冷薄帯(リボン)合金は、上記粉砕装置に投入しやすい大きさに、適当な粉砕機で粗粉砕しておいてもよい。
粉砕処理条件としては、粉砕機(ミル装置)の回転数は、例えば上記液体急冷ロール凝固法により形成された合金微細組織を損なわない範囲であればよく、500rpm未満、好ましくは100〜480rpm、より好ましくは300〜450rpmの範囲である。粉砕時間は、例えば上記液体急冷ロール凝固法により形成された合金微細組織を損なわない範囲であればよく、12時間未満、好ましくは、0.5〜10時間、より好ましくは、0.5〜3時間の範囲である。
上記粉砕処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、粉砕処理後の粒度分布は大小の幅が大きい場合がある。このため、粒度を整えるための、粉砕処理と分級処理を組み合わせて1回以上行ってもよい。
(メカニカルアロイング処理)
急冷薄帯(リボン)合金の作製工程に続いて、必要に応じて、上記得られた薄帯状合金(急冷薄帯(リボン)合金)に対して、メカニカルアロイング処理を行ってもよい。この際、必要に応じて、上記急冷薄帯(リボン)合金の粉砕工程を行い、得られた粉砕物に対してメカニカルアロイング処理を行ってもよい。
メカニカルアロイング処理は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えばボールミル装置(例えば、遊星ボールミル装置)を用いて、粉砕ポットに粉砕ボールおよび合金の原料粉末を投入し、回転数を高くして高エネルギーを付与することで、合金化を図ることができる。ボールミル装置の回転数は、例えば、500rpm以上、好ましくは600rpm以上である。また、メカニカルアロイング処理の時間は、例えば12時間以上であり、好ましくは24時間以上であり、より好ましくは30時間以上であり、さらに好ましくは36時間以上であり、特に好ましくは42時間以上であり、最も好ましくは48時間以上である。なお、合金化処理のための時間の上限値は特に設定されないが、通常は72時間以下であればよい。
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
以上、負極活物質層に必須に含まれる所定の合金について説明したが、負極活物質層はその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記所定の合金以外の負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどのカーボン、SiやSnなどの純金属や上記所定の組成比を外れる合金系活物質、あるいはTiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/3O4もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物(複合窒化物)、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Liなどが挙げられる。ただし、上記所定の合金を負極活物質として用いることにより奏される作用効果を十分に発揮させるという観点からは、負極活物質の全量100質量%に占める上記所定の合金の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
(アモルファス形成能)
上述したように、本実施形態において、Si含有合金の微細組織は、好ましくは遷移金属のケイ化物を主成分とする第一の相と、一部にAlを含み、非晶質または低結晶性のSiを主成分とする第二の相とを有し、さらに、一部が複数の独立した第一の相、および一部が第一の相と第二の相との共晶組織となる構造を有する。本発明の効果を効率的に発現するため、共晶組織中のSi相(第二の相)は、アモルファス化が十分に進行していることが好ましい。
具体的なアモルファス形成能の指標としては、臨界冷却速度、液相線温度、T0曲線、ガラス転移温度、結晶化温度などが用いられている。中でも、臨界冷却速度は、合金系が異なる場合であってもアモルファス形成能を比較することが可能である。
臨界冷却速度とは、原子または分子がアモルファス相となる最小の冷却速度である。合金の製造における冷却速度を、臨界冷却速度以上とすることにより、アモルファス相を有する合金を製造することができる。すなわち、臨界冷却速度が遅い合金組成は、ゆっくり冷却してもアモルファス化できるため、アモルファス形成能が高いと考えられている。
本発明の製造方法における好ましい実施形態では、共晶組織中の第二の相のアモルファス化を十分に進行させるとの観点から、母合金組成における共晶開始時の液相組成の臨界冷却速度Fが3.0×108K/sec以下であり、より好ましくは2.0×108K/sec以下であり、さらに好ましくは1.5×108K/sec以下である。また、前記臨界冷却速度Fの下限は、特に制限されず、例えば4.0×107K/sec以上である。
以下では、合金組成における共晶開始時の液相組成の臨界冷却速度の算出について、実施例1で用いた合金組成を例として説明する。実施例2〜5および比較例1〜2の合金組成についても、同様の方法により共晶開始時の液相組成の臨界冷却速度を求めることができる。
[Thermo−Calcのシャイル(Scheil)凝固シミュレータによる共晶開始時液相組成計算]
スウェーデン Thermo−Calc software AB社製(日本代理店:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)の統合型熱力学計算システム:Thermo−Calc Ver2015aを用い、熱力学データベースとして、固溶体汎用データベース:SSOL5(SGTE* Solution Database,ver.5.0)を用いて、実施例1のSi−Al−Ti三元系合金について、シャイルモデルにて、シャイル凝固計算を行う。シャイルモデルおよびシャイル凝固計算については、金属 vol.77,No.8(p.898〜p.904)に準じて行うものとする。なお、シャイルモデル条件において、固相中の原子拡散は無視できる、液相中は完全混合する、固液界面は平滑である、固液界面では局所平衡が成り立つ、凝固方向は一方向である、液相線温度において凝固が開始する、および凝固潜熱は速やかに移動する、と仮定する。
*SGTE:Scientific Group Thermodata Europe。
シャイル凝固計算により、合金組成における共晶開始時の液相組成を求めることができる。
実施例1の合金組成では、図14(a)に示すように、初晶シリサイド(TiSi2)及び共晶(TiSi2+Si)からなる組織となり、Al単相が少ない。つまり、析出相が、シリサイド(TiSi2)相及びSi相となり、ここでは固相の組成は温度に寄らず一定と考えられるため、このようなシャイルモデルを用いても、実際の状態をよく再現するものと考えられる。また、図14(b)に示すように、実施例1の合金組成において、共晶開始時の液相組成は、Si77.4Al2.0Ti20.6である。
なお、実施例2の合金組成においても、図34(a)に示すように、初晶シリサイド(TiSi2)及び共晶(TiSi2+Si)からなる組織となり、Al単相が少ない。また、図34(b)に示すように、実施例2の合金組成において、共晶開始時の液相組成は、Si76.3Al5.0Ti18.7である。
一方、特許文献2の合金組成では、図35(a)に示すように、初晶シリサイド(TiSi2)が多すぎることで粗大化し、共晶(TiSi2+Si)が少なく、またAl単層が多い。また、特許文献2に開示される合金組成の範囲で、最も耐久性に優れると考えられる、最もAlが少なくTiが多い合金組成(Si57.3Al12.7Ti30.0)における共晶開始時の液相Al量が多すぎるため(図35(b)での矢印の地点;液相組成Si62.1Al31.5Ti6.4)、共晶開始時の液相線温度が1150℃とかなり低くなっているため、急冷ロール法では十分に凝固しないことが予測される。
[アモルファス形成能計算]
アモルファス形成能は、液相から結晶が晶出する臨界冷却速度にて評価する。液相単相域から液相線温度以下の温度Tへ急冷し、等温保持した時に、体積分率Xになるまで結晶が成長するのに要する時間を表す、TTT線図(恒温変態曲線)を求め、ここから臨界冷却速度を算出する。熱力学計算ソフトThermo−Calc Ver2015a、熱力学データベース:SSOL5を用い、必要となる熱力学量を求め、TTT曲線を算出する。
以下、TTT曲線の算出方法について説明する。臨界冷却速度の計算方法については、例えば、金属 Vol.77(2007)No.10(p.1148〜p.1153)を参照することができる。
均一核生成成長理論に基づくJohnson−Mehl−Avramiの速度論的取扱いの下記式(1)(保持時間:tにおいて生成される結晶の体積分率:X、核生成頻度:I、核の成長速度:Uとする)は、DaviesとUhlmannにより、下記式(2)のように導出される。
ここで、Gmは、液相から結晶を晶出する駆動力、G*は、液相から球形の結晶核を生成する自由エネルギー、ηは、粘性係数、Nvは、単位体積当たりの原子数を表す。
G*は、σm(固液界面エネルギー)として、下記式(3)で表すことができる。また、Gmは、下記式(4)で近似できる。σmは、経験的に下記式(5)のように表され、SaundersとMiodownikとによって約0.41であることが示されている。
fは固液界面での原子の移動しうるサイトの割合であり、Uhlmannによれば下記式(6)のように表される。
液体合金の粘性係数ηは、Doolittleの式(下記式(7))により近似できる。ここでA、BおよびCは定数である。fTは液体における相対自由体積、EHは空孔生成エネルギーである。Ramachandraraoによれば、EHは下記式(8)のようにTg(ガラス転移温度)から推定できる。ここで、Tg=0.6Tmとし、fT=0.03、η=1012Pa・S、B=1と仮定して、下記式(7)の定数AおよびCを算出した。
実施例1の合金組成について、前述のシャイル凝固シミュレーションで共晶開始組成を求めた後、ガラス転移温度、液相線温度および融解エンタルピーを求め、上記式(2)より、TTT曲線(図36)を計算し、下記式(9)より臨界冷却速度Rcを計算した。実施例1の合金組成に係るTTT線図を図13(b)に示す。
以上より、実施例1の合金組成において、臨界冷却速度は、1.4×108K/secと算出される。
また、本発明の製造方法において、Si含有合金の母合金組成における共晶開始時の液相組成の臨界冷却速度Fと、Si含有合金の急冷薄帯中の全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eとが、E/F>3.0×10−9sec/Kであることが好ましく、E/F>3.5×10−9sec/Kであることがより好ましく、E/F>4.0×10−9sec/Kであることがさらに好ましい。また、E/Fの上限は、特に制限されず、上記臨界冷却速度Fの範囲および下記比Fの範囲を満たすものであればよい。
上述のとおり、Si含有合金の母合金組成における共晶開始時の液相組成の臨界冷却速度Fは、アモルファス形成能の観点から、遅いことが好ましい。他方、遷移金属のケイ化物(第一の相)は、充放電過程における共晶組織中のa−Si相(第二の相)の膨張を抑制するとの観点から、共晶組織中により多く存在することが好ましい。
よって、E/Fが上記範囲であることより、本発明の効果をより効率的に発現することができる。
Si含有合金の急冷薄帯中の全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eは、上述した析出計算により、算出することができる。
図13(a)は、実施例1において、TiSi2およびSiの析出シミュレーションの結果を示したグラフである。図13(a)において、縦軸は体積分率、横軸は時間を示す。図13(a)は、初晶としてシリサイド(TiSi2)が晶出し、その後Siが晶出することを示している。つまり、Si晶出までは、初晶としてTiSi2が晶出し、Si晶出後は、TiSi2とSiとの共晶であることが分かる。以上より、Si含有合金の急冷薄帯中の全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eを算出することができる。
全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eは、充放電過程における共晶組織中のa−Si相(第二の相)の膨張を抑制するとの観点から、好ましくは0.30以上であり、より好ましくは0.40以上であり、さらに好ましくは0.50以上であり、よりさらに好ましくは0.55以上である。前記比Eの上限は、特に制限されないが、例えば0.80以下であり、好ましくは0.70以下である。
続いて、負極活物質層13は、バインダを含む。
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。負極活物質層に用いられるバインダの種類についても特に制限はなく、正極活物質層に用いられるバインダとして上述したものが同様に用いられうる。よって、ここでは詳細な説明は省略する。
なお、負極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層に対して、0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
(正極および負極活物質層15、13に共通する要件)
以下に、正極および負極活物質層15、13に共通する要件につき、説明する。
正極活物質層15および負極活物質層13は、必要に応じて、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等を含む。特に、負極活物質層13は、導電助剤をも必須に含む。
(導電助剤)
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上の範囲である。また、活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の範囲である。活物質自体の電子導電性は低く導電助剤の量によって電極抵抗を低減できる活物質層での導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。即ち、電極反応を阻害することなく、電子導電性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、あるいはこれら導電助剤とバインダの一方ないし双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)を用いることができる。
(電解質塩(リチウム塩))
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
(イオン伝導性ポリマー)
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
<集電体>
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12上に直接形成する場合には、集電箔を用いるのが望ましい。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
<電解質層>
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩(電解質塩)が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が例示される。
また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiTaF6、LiClO4、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加され得る化合物を採用することができる。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導を遮断することが容易になる点で優れている。
マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質や真性ポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータ(不織布を含む)の具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布が挙げられる。
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
<集電板およびリード>
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出される。
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
<電池外装材>
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図2は、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板59、負極集電板58が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極集電板59および負極集電板58を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、図1に示すリチウムイオン二次電池(積層型電池)10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のもの(ラミネートセル)に制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のもの(コインセル)や角柱型形状(角型セル)のもの、こうした円筒型形状のものを変形させて長方形状の扁平な形状にしたようなもの、更にシリンダー状セルであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型や角柱型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図2に示す正極集電板59、負極集電板58の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板59と負極集電板58とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板59と負極集電板58をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、集電板に変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
上記したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる負極ならびにリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、好適に利用することができる。即ち、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
なお、上記実施形態では、電気デバイスとして、リチウムイオン電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには一次電池にも適用できる。また、電池だけではなくキャパシタにも適用できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(実施例1)
[Si含有合金の作製]
合金種をSi67.6Al1.2Ti31.2とし、液体急冷凝固法で作製した。以下詳しく説明する。具体的には、高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Alショット(3N)を用い、アーク溶解法を用いて、Si合金(Si67.6質量%、Al1.2質量%、Ti31.2質量%)のインゴット合金を作製した。インゴット合金は、石英ノズルに投入しやすいように、粉砕して直径2mm程度に粗粉砕した。
続いて、粗粉砕したインゴット合金の粉末を母合金として、液体急冷凝固法によりSi含有合金として薄帯状合金=急冷薄帯(リボン)合金を作製した。具体的には、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型を用いて、Ar置換のうえゲージ圧−0.03MPaに減圧したチャンバー内に設置した石英ノズル中に、Si67.6Al1.2Ti31.2の母合金を入れ、高周波誘導加熱により融解した。その後、0.05MPaの噴射圧にて、回転数4000rpm(周速:41.9m/sec)のCuロール上に噴射し、薄帯状合金を作製した。なお、液体急冷凝固法での合金の冷却速度は、4.67×106℃/秒であった。得られた薄帯状合金(急冷薄帯合金)の厚さは、20μmであった。
その後、得られた薄帯状合金(急冷薄帯合金)を粉砕処理した。具体的には、薄帯状合金(急冷薄帯合金)は、ボールミル装置に投入しやすいように、粉砕して直径2mm程度に粗粉砕した。次に、ドイツ フリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールと粗粉砕した薄帯状合金(急冷薄帯合金)粉末を投入し、400rpmで1時間、粉砕処理を実施して、Si含有合金(負極活物質)を得た。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径D50は、6μmであり、D90は、19μmであった。
[負極の作製]
負極活物質である上記で製造したSi含有合金(Si67.6Al1.2Ti31.2)80質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック 5質量部と、バインダであるポリアミドイミド 15質量部と、を混合し、N−メチルピロリドンに分散させて負極スラリーを得た。次いで、得られた負極スラリーを、銅箔よりなる負極集電体の両面にそれぞれ負極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、真空中で24時間乾燥させて、負極を得た。
[リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製]
上記で作製した負極と対極Liとを対向させ、この間にセパレータ(ポリオレフィン、膜厚20μm)を配置した。次いで、負極、セパレータ、および対極Liの積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、正極と負極との間の絶縁性を保つためガスケットを装着し、下記電解液をシリンジにより注入し、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしこめることにより密閉して、リチウムイオン二次電池(コインセル)を得た。
なお、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DEC=1:2(体積比)の割合で混合した有機溶媒に、リチウム塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、濃度が1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
(実施例2)
合金種をSi65.0Al2.5Ti32.5に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られた薄帯状合金(急冷薄帯合金)の厚さは、21μmであった。また、得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径D50は、4μmであり、D90は、16μmであった。
(実施例3)
合金種をSi66.6Al1.2Ti32.2に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
(実施例4)
合金種をSi67.0Al1.8Ti31.2に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
(実施例5)
合金種をSi67.3Al1.5Ti31.2に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
(比較例1)
合金種をSi65.0Sn5.0Ti30.0に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られた薄帯状合金(急冷薄帯合金)の厚さは、20μmであった。また、得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径D50は、7μmであり、D90は、20μmであった。
(比較例2)
合金種をSi60.0Sn10.0Ti30.0に変更した以外は、上述した実施例1と同様の方法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られた薄帯状合金(急冷薄帯合金)の厚さは、21μmであった。また、得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径D50は、7μmであり、D90は、20μmであった。
[負極活物質の組織構造の分析]
実施例1において作製した負極活物質(Si含有合金)の組織構造(微細組織)を分析した。詳細については、図3〜図11を用いて上述したとおりである。実施例1のSi含有合金の微細組織からは、遷移金属であるTi元素のケイ化物(TiSi2)を主成分とする第一の相と、一部にアルミニウム(Al)を含み、非晶質または低結晶性のSiを主成分とする第二の相(a−Si相)とを有し、さらに、一部が複数の独立した第一の相、および一部が第一の相と第二の相との共晶組織となっている構造を有することが確認できた。
なお、実施例2〜5について、実施例2の断面SEM画像(図15)以外、結果を図示はしていないが、実施例1と同様の結果が得られた。
実施例1において作製した負極活物質(Si含有合金)について、独立した第一の相ならびに共晶組織中の第一の相および第二の相の最頻半径は、図12を用いて上記に説明したとおりである。また、実施例2〜5および比較例1〜2において作製した負極活物質(Si含有合金)について、独立した第一の相ならびに共晶組織中の第一の相および第二の相の最頻半径を上記析出計算により算出した。得られた結果を図16、18、20、22、24および26に示す。各析出相の最頻半径の結果を下記表1に示す。
また、実施例1の合金組成における、TiSi2およびSiの析出シミュレーションの結果(図13)から、Si含有合金の急冷薄帯中の全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eを算出した。実施例2〜5および比較例1〜2の合金組成においても同様に、TiSi2およびSiの析出シミュレーションの結果から、Si含有合金の急冷薄帯中の全遷移金属のケイ化物に対する前記共晶組織中の遷移金属のケイ化物の比Eを算出した(図17(a)、19(a)、21(a)、23(a)、25(a)および27(a))。これらの結果を表1に示す。
[アモルファス形成能の評価(臨界冷却速度)]
実施例1において作製した負極活物質(Si含有合金)において、母合金組成の共晶開始時の液相組成における臨界冷却速度は、図13を用いて上記に説明したとおりである。また、実施例2〜5および比較例1〜2のそれぞれにおいて作製した負極活物質(Si含有合金)において、母合金組成物の共晶開始時の液相組成における臨界冷却速度を算出した(図17(b)、19(b)、21(b)、23(b)、25(b)および27(b))。これらの結果を表1に示す。
[サイクル耐久性の評価]
実施例1〜2および比較例1〜2のそれぞれにおいて作製した各リチウムイオン二次電池(コインセル)について以下の充放電試験条件に従ってサイクル耐久性評価を行った。
(充放電試験条件)
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.3C、2V→10mV(定電流・定電圧モード)
[放電過程]0.3C、10mV→2V(定電流モード)
3)恒温槽:PFU−3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:300K(27℃)。
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程を言う)では、定電流・定電圧モードとし、0.1mAにて2Vから10mVまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程を言う)では、定電流モードとし、0.3C、10mVから2Vまで放電した。以上の充放電サイクルを1サイクルとして、同じ充放電条件にて、初期サイクル(1サイクル)〜50サイクルまで充放電試験をおこなった。そして、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合(放電容量維持率[%])を求めた結果を、下記の表2に示す。
上記表2に示す結果から、本発明に係る負極活物質を用いたリチウムイオン電池は、50サイクル後の放電容量維持率が高い値に維持されており、サイクル耐久性に優れるものであることがわかる。また、Si含有合金負極を用いた実施例では、炭素材料を用いた負極活物質に比べて、高容量である(この点は、負極材料を用いた比較例を示すまでもなく、いわば公知(背景技術参照)であるため、当該比較例は省略した)。このように高容量を示しつつ、高いサイクル耐久性が実現できたのは、負極活物質を構成するSi含有合金が、Si−Al−M(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される三元系の合金組成を有することによると考えられる。一方、比較例の負極活物質を用いたリチウムイオン電池では、実施例の負極活物質を用いたリチウムイオン電池と比べて、サイクル耐久性が低いことがわかる。これは、Si−Alが液相では引き付け合うが、固相では反発することから、Alを少量含有させた実施例のSi−Al−Ti合金は、比較例のSi−Sn−Ti合金に比べて、Si含有合金の液体状態での安定性が相対的に高くなると考えられる。これにより、Si含有合金のアモルファス形成能が増大でき、共晶組織中のSi相のアモルファス度合いを高められるため、充放電に伴うLiの挿入脱離に対して、Si相の化学構造が変化しにくくなり、さらに高いサイクル耐久性を示すことが可能であると考えられる。