JP6682793B2 - ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリアリーレンスルフィド本来の耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端へ選択的に反応性官能基が多く導入されたポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法に関するものである。
ポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す)は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。特に、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)は射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であり、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
一方で、PASは分子鎖中の官能基が少なく、ポリアミドやポリエステル等に代表される他のエンジニアプラスチックと比べて相互作用や反応性が劣るため、異素材との接着や複合化を図るのが困難な課題があった。
このため、PAS中に反応性官能基を導入する検討が多くなされている。例えば特許文献1には、2,5−ジクロロ安息香酸をp−ジクロロベンゼンと同時に添加して重合を行い、PASの主鎖中に官能基を導入する方法が検討されている。特許文献2、3には、p−クロロ安息香酸をp−ジクロロベンゼンと同時に添加して重合を行い、PASの末端に官能基を導入する方法が検討されている。特許文献4には、環状PAS組成物を、反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下、加熱することによってPASの末端に官能基を導入する方法が検討されている。
特開平4−283247号公報(特許請求の範囲、実施例) 特開2013−010908号公報(特許請求の範囲、実施例) 国際公開第2015/046324号(特許請求の範囲、実施例) 国際公開第2012/057319号(特許請求の範囲、実施例)
しかし、特許文献1の場合、反応性官能基はPAS分子鎖の末端では無く主鎖中に存在する。このため、反応性官能基近傍は、立体障害が大きく、異素材との接着や複合化時に反応性官能基の接触頻度が低下し、結果官能基の反応性は低くなるため、最適な分子設計とは言いがたい。
特許文献2、3の場合、反応性官能基はPAS分子鎖の末端に導入されるものの、官能基の含有量は十分とは言いがたい。さらに、分子鎖の全末端に占める反応性官能基の導入割合も不十分なため、異素材との接着や複合化の際に、十分な改質効果は得られない。
特許文献4の場合もまた、反応性官能基はPAS分子鎖の末端に導入されるものの、官能基の含有量は十分とは言いがたい。さらに、分子鎖の全末端に占める反応性官能基の導入割合も不十分なため、異素材との接着や複合化の際に、十分な改質効果は得られない。
本発明は、PASが本来有する耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された新規なPASを提供することを課題とするものである。
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させてPASを得る際、反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物とアルカリ金属水酸化物を特定の条件で添加することにより、主鎖分解を抑制しつつ、高い耐熱性が発現すると共に、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入されたPASが得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1.有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に、反応系内の硫黄原子1モルに対し、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
Figure 0006682793
(式(A)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基を示す。)
2.前記反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、反応系内の硫黄原子1モルに対し、0.2モルを越え0.35モル以下の範囲内で反応させることを特徴とする1記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法、
3.一般式(B)で表される構造を有し、官能基含有量が500μmol/g以上であって融点が270℃以上であり、下記で定義される末端官能基率が85%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド、
Figure 0006682793
(ここで、一般式(B)におけるWは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基であり、mは5以上の整数を表す。)
末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol))×100(%)
4.塩素含有量が3500ppm以下であることを特徴とする3に記載のポリアリーレンスルフィド、
5.塩素含有量が1000ppm以下であることを特徴とする4に記載のポリアリーレンスルフィド、
6.重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度(Mw/Mn)が2.5以下であることを特徴とする3〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド、
7.クロロホルム抽出成分が1重量%以上であることを特徴とする3〜6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド、
である。
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドの耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入されたポリアリーレンスルフィドを効率よく得ることができる。
本発明におけるPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(C)〜式(M)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。
Figure 0006682793
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(N)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 0006682793
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 0006682793
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のPASは、反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物のハロゲン基がPASの末端と反応することで、分子鎖末端へ選択的に反応性官能基が形成される。
本発明におけるPASの製造方法について、まずは、硫黄源、アルカリ金属水酸化物、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物、重合助剤、分岐・架橋剤の原料について述べた後、脱水工程、重合反応工程、ポリマー回収、その他の後処理について詳述する。
(1)硫黄源
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属硫化物を用いる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。その他、アルカリ金属水硫化物の前駆体となり得るアルカリ金属硫化物を用いることも可能である。アルカリ金属水硫化物の具体例としては、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、重合反応に供される硫黄源のモル量となる。
本発明において、硫黄源の量、または、系内の硫黄原子の量とは、脱水操作などにより重合反応開始前に硫黄源、または系内の硫黄原子の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
(2)アルカリ金属水酸化物
本発明では、前述したアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製される硫黄源も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から硫黄源を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
この場合、アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、特にコスト、入手性の面で水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
また本発明では、アルカリ金属水酸化物は、硫黄源の調製として用いるだけでなく、重合反応系を安定化し、分解反応などの副反応を抑制するための重合安定剤として用いることもできる。これらの効果を効率的に得るための、アルカリ金属水酸化物の使用量は、重合系内のチオラート末端成長鎖の活性を安定化させる観点から、反応系内の硫黄原子1.0モルに対し、1.2モルを超える必要がある。また、上限としては、2.0モル以下が必要で、1.8モル以下が好ましく、1.6モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。反応系内の硫黄原子1.0モルに対し、1.2モルを超える範囲であると、生成PASが分解する傾向はなく、2.0モル以下であると、重合副生物量が多く生成するということはない。
(3)有機極性溶媒
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
本発明においてPASの重合溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量に特に制限はないが、安定した反応性の観点から反応系内の硫黄原子1.0モル当たり2.5モル以上が好ましく、経済性の観点から、反応系内の硫黄原子1.0モル当たり5.5モル未満、好ましくは5.0モル未満、より好ましくは4.5モル未満の範囲が選択される。
(4)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物は、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、2,3−ジクロロ安息香酸、2,4−ジクロロ安息香酸、2,5−ジクロロ安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、3,4−ジクロロ安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸およびそれらの塩や、2,3−ジクロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノールおよびそれらの塩や、2,3−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2,6−ジクロロアニリン、3,4−ジクロロアニリン、3,5−ジクロロアニリンや、4−アミノ−2,5−ジクロロ安息香酸およびその塩などの反応性官能基を有するジハロゲン化ベンゼンなどを挙げることができ、PAS共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。
本発明では、分子鎖末端に多くの官能基を有するPASを得ることを目的としており、ジハロゲン化芳香族化合物を大過剰で使用することは末端のハロゲン量の増大を引き起こすため好ましくない。そのため、ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の上限は、反応系内の硫黄原子1.00モル当たり1.05モル未満が好ましく、さらに好ましくは1.04モル未満、特に好ましくは1.03モル未満の範囲が例示できる。また、ジハロゲン化芳香族化合物が少なすぎると反応系内にチオラート末端の成長鎖が過剰となり、分解反応を引き起こす。そのため、ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は、反応系内の硫黄原子1.00モル当たり0.85モル以上が好ましく、さらに好ましくは0.88モル以上、特に好ましくは、0.90モル以上の範囲が例示できる。
(5)反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物
本発明のポリアリーレンスルフィドの合成に用いられるモノハロゲン化化合物は、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物であれば如何なるものでも良いが、反応性官能基Wとして、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基が好ましく、なかでも、反応性が高いことから、酸性の官能基を有するものがより好ましく、特にカルボキシル基が好ましい。これらの官能基を選択することでポリアリーレンスルフィド中に効率良く官能基が導入される傾向にある。
Figure 0006682793
(式(A)中、Vはハロゲンを示す)
このようなモノハロゲン化化合物の具体例としては、2−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸、2−アミノ−4−クロロ安息香酸、4−クロロ−3−ニトロ安息香酸、4−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール、4−クロロベンズアミド、4−クロロベンゼンアセトアミド、4−クロロベンゼンスルホンアミド、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンチオール、4’−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸、2−アミノ−5−クロロベンゾフェノン、3,5−ジアミノクロロベンゼン、4−クロロフタル酸、4−クロロ無水フタル酸、5−クロロイソフタル酸などのモノハロゲン化化合物を挙げることができる。これらのなかでも重合時の反応性や経済性、汎用性などの観点から4−クロロ安息香酸、4−クロロフタル酸もしくはその塩、がより好ましく例示できる。また、これらのモノハロゲン化化合物は1種類単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても問題ない。
モノハロゲン化化合物の使用量の下限としては、反応系内の硫黄原子1.00モル当たり、0.10モルを超えることが必要であり、0.15モル以上が好ましく、0.20モル以上がさらに好ましい。また、その上限としては、反応系内の硫黄原子1.00モル当たり0.40モル以下が必要であり、0.35モル以下が好ましい。モノハロゲン化化合物の使用量が0.10モルを越えると、得られるポリアリーレンスルフィドにおける反応性末端の導入が十分であり、一方で0.40モル以下であると分解反応を併発し、ポリアリーレンスルフィドの分子量が低下することはない他、原料コストが増えるなどの不利益もない。
また、ジハロゲン化芳香族化合物とモノハロゲン化化合物などのハロゲン化化合物の合計量を特定の範囲にすることが好ましく、反応系内の硫黄原子1.00モルに対するハロゲン化化合物の合計量が0.98モル以上であることが好ましく、1.00モル以上であることがより好ましく、1.03モル以上であることがさらに好ましい。一方、反応系内の硫黄原子1.00モルに対するハロゲン化化合物の合計量の上限としては、1.30モル未満にすることが好ましく、1.25モル未満がより好ましい。反応系内の硫黄原子1.00モルに対してハロゲン化化合物の合計量が0.98モル以上であると分解する傾向はなく、1.30モル未満であると分子量が低下してポリアリーレンスルフィド本来の耐熱性が発現しないということはない。
また、反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物の添加時期には特に制限はなく、後述する脱水工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。モノハロゲン化化合物の添加時期は、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率80%未満が好ましく、70%未満がより好ましく、脱水工程完了後から重合開始までの間、重合開始時つまりジハロゲン化芳香族化合物と同時に添加することが最も好ましい。このようにモノハロゲン化化合物を好ましい時期に添加すると、モノハロゲン化化合物が揮散しないような還流装置や圧入装置などは不要であり、また、重合終了時点でモノハロゲン化化合物の消費が完結せずに重合系内に残存するということはない。
(6)重合助剤
本発明においては、重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。重合助剤を用いる一つの目的はPASを所望の溶融粘度に調整するためであるが、他の目的としては揮発性成分量を低減するためである。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸金属塩、水、アルカリ金属塩化物(但し、塩化ナトリウムは除く)、有機スルホン酸金属塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上同時に用いても差し障りない。なかでも、有機カルボン酸金属塩および/または水が好ましく用いられる。
有機カルボン酸金属塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物を好ましい例として挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。有機カルボン酸金属塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記有機カルボン酸金属塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると推定しており、安価でかつ反応系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが好ましく用いられる。
重合助剤として上記有機カルボン酸金属塩を用いる場合の使用量は、反応系内の硫黄原子1.00モルに対し、0.01モル以上が好ましく、0.02モル以上がさらに好ましく、またその上限としては、0.70モル未満の範囲が好ましく、0.60モル未満の範囲がより好ましく、0.55モル未満の範囲が特に好ましい。
重合助剤として有機カルボン酸金属塩を使用する場合、その添加時期には特に制限はなく、後述する脱水工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、添加の容易性からすると、脱水工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが好ましい。
重合助剤として水を用いる場合、水単独で用いることも可能であるが、有機カルボン酸金属塩を同時に用いることが好ましく、これにより重合助剤としての効果をより高めることができ、より少ない重合助剤の使用量でも短時間で所望の溶融粘度のPASを得ることができる傾向にある。この場合の重合系内の好ましい水分量の範囲は、反応系内の硫黄原子1.00モルに対し0.80モル以上が好ましく、0.85モル以上がさらに好ましい。その上限としては、3.00モル未満が好ましく、1.80モル未満がさらに好ましい。水分量が多すぎると反応器内圧の上昇が大きく、高い耐圧性能を有した反応器が必要となるため、経済的にも安全性の面でも好ましくない傾向にある。重合系内の水分量を前記範囲にする段階のジハロゲン化芳香族化合物の転化率は、後述するように60モル%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上であることが好ましい。なお、重合時に副生した水も重合助剤となり得る。
また、重合後に水を添加することも好ましい様態の一つである。重合後に水を添加した後の重合系内の水分量の好ましい範囲は、反応系内の硫黄原子1.0モルに対して1.0モル以上が好ましく、1.5モル以上が好ましい。上限としては、15.0モル以下が好ましく、10.0モル以下がより好ましい。
(7)分岐・架橋剤
本発明では、高い溶融流動性を有する実質的に直鎖状PASの塩素含有量が低減され、かつ揮発性成分量が低減されたPASを得ることができるが、分岐または架橋重合体を形成させ所望の溶融粘度に調整するために、トリハロゲン化以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物及びハロゲン化芳香族ニトロ化合物などの分岐・架橋剤を併用することも可能である。ポリハロゲン化合物としては通常に用いられる化合物を用いることができるが、中でもポリハロゲン化芳香族化合物が好ましく、具体例としては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,4,6−トリクロロナフタレン等を挙げることができ、中でも1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。前記、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物としては、例えばアミノ基、メルカプト基及びヒドロキシル基などの官能基を有するハロゲン化芳香族化合物を挙げることができる。具体例としては2,5−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,3−ジクロロアニリン、2,4,6−トリクロロアニリン、2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロロジフェニルエーテルなどを挙げることができる。前記、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物としては、例えば2,4−ジニトロクロロベンゼン、2,5−ジクロロニトロベンゼン、2−ニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、2,5−ジクロロ−2−ニトロピリジン、2−クロロ−3,5−ジニトロピリジンなどを挙げることができる。
(8)脱水工程
本発明のPASの製造方法において、硫黄源は通常水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物や反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒と硫黄源を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
また、上述したように、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
脱水工程が終了した段階での系内の水分量は、仕込み硫黄源1.00モル当たり0.90以上1.10モル以下であることが好ましい。ここで系内の水分量とは脱水工程で仕込まれた水分量から系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
脱水工程が終了した後、有機極性溶媒中で、脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物および反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物を接触させて重合反応を行うが、脱水工程と同じ反応器で後述の重合反応工程を行っても良いし、脱水工程と異なる反応容器に脱水工程で調製した反応物を移送した後に重合反応工程を行ってもよい。
(9)重合反応工程
本発明におけるポリアリーレンスルフィドの製造方法では、前記した脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物やモノハロゲン化化合物を有機極性溶媒中で接触させて重合反応させる重合工程を行う。重合工程開始に際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、100℃以上、好ましくは130℃以上がよく、上限としては220℃以下、好ましくは200℃以下の温度範囲で、有機極性溶媒に硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物を加える。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であっても差し支えない。
この重合反応は200℃以上280℃未満の温度範囲で行うが、本発明の効果が得られる限り重合条件に制限はない。例えば、一定速度で昇温した後、245℃以上280℃未満で反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後に245℃以上280℃未満に昇温して反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満、中でも230℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後、245℃以上280℃未満に昇温して短時間で反応を完了させる方法などが挙げられる。
また、前記した重合反応を行う雰囲気は非酸化性雰囲気下であることが望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に経済性および取り扱いの容易さの観点から窒素雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、重合反応における反応圧力に関しては、使用する原料及び溶媒の種類や量、あるいは重合反応温度などに依存し一概に規定できないため、特に制限はない。
重合反応工程を終えた段階での反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物のPASへの導入量は、例えば、固体NMRでの官能基直接分析、FT−IRでのベンゼン環由来の吸収と官能基由来の吸収の比較による相対評価、重合前または重合途中での反応性官能基含有モノハロゲン化芳香族化合物の仕込量から残存量を差し引いて算出した反応量などで評価することができる。
反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物の反応量は、反応系内の硫黄原子1.00モルに対し0.07モル以上が好ましく、0.10モル以上が更に好ましく、0.12モル以上が特に好ましい。
その上限は、0.40モル以下が好ましく、0.30モル以下が更に好ましく、0.25モル以下が特に好ましい。本発明での反応量とは、重合工程終了後にサンプリングしたサンプル中に残存する反応性官能基含有モノハロゲン化芳香族化合物量をガスクロマトグラフ(島津製作所製GC−14B)にて定量し、重合前または重合途中仕込量から残存量を差し引いて算出した値のことである。該反応量が多いほどPAS末端への反応性官能基の導入量が多く、高い反応性を有することを意味しているが、反応系内の硫黄原子1.00モルに対し反応量が0.40モル以下であれば、PASが低分子量化し、耐熱性が低下するようなことはない。一方、反応量が0.07モル以上であればPASへの反応性官能基の導入が不十分になるということはない。
(10)ポリマー回収
本発明のPASの製造においては、重合工程終了後に、重合工程で得られたPAS成分および溶剤などを含む重合反応物からPASを回収する。回収方法としては、例えばフラッシュ法、すなわち重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する方法や、クエンチ法、すなわち重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することでPAS成分を含む固体を回収する方法等が挙げられる。
本発明である、PAS本来の耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入されたPASが得られれば、クエンチ法、フラッシュ法いずれかに限定されるものではないが、フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物の回収が可能であること、回収時間が比較的短いこと、クエンチ法に比較して得られる回収物量が多いことなど、経済的に優れた回収方法であること、また、フラッシュ法にて得られたPASはクロロホルム抽出成分に代表されるようなポリマー鎖末端に反応性官能基が有するオリゴマー成分を多く含むため、クエンチ法で得られたPASに比較して、反応性官能基が多く導入されたPASを簡便に得やすいことから、本発明における好ましい回収方法である。官能基含有量の高いPASを得るのに好ましいクロロホルム抽出量としては1.0重量%以上が例示でき、より好ましくは2.0重量%以上である。なお、ここでのクロロホルム抽出量は、ポリマー10gを90℃のクロロホルム100gで3時間ソックスレー抽出し、この抽出液からクロロホルムを留去した際に得られる成分の重量をポリマー重量に対する百分率で表す。
フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧の重合反応物を常圧中の窒素または水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が例示できる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が低いと溶媒回収の効率が低下し生産性が悪化する。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度、つまり重合反応物の温度は250℃以上が好ましく255℃以上がより好ましい。常圧中にフラッシュさせるときの窒素または水蒸気などの雰囲気の温度は通常150〜250℃が選択され、重合反応物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150〜250℃の窒素または水蒸気などの雰囲気下で加熱を継続しても良い。
かかるフラッシュ法で得られたPASには重合副生物であるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ金属有機物などのイオン性不純物を含んでいるため、洗浄を行うことが通例である。洗浄条件としては、かかるイオン性不純物を除去するに足る条件であれば特に限定されるものではない。洗浄液としては例えば水や有機溶媒を用いて洗浄する方法が挙げられ、簡便かつ安価にPASを得る点、PAS中にオリゴマー成分を含有させて反応性官能基量を増加させる点で、水を用いた洗浄が好ましい方法として例示できる。本発明である末端に反応性官能基を有するPASを得るには、水の温度が80℃以上であることが好ましく、熱水、酸または酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を1回以上行うことが好ましい。
更には、80℃以上の温度で、浸漬させる処理を2回以上行うことが好ましく、1回目に熱水、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を行うことが好ましい。もちろん、2回以上の浸漬させる処理を行う場合、各処理での洗浄温度が異なっていても良いし、異なる2種以上の液体に浸漬させる処理を組み合わせて用いることも可能であり、各処理の間にはポリマーと洗浄液を分離する濾過工程を経ることがより好ましい方法である。
酸または酸の水溶液にPASを浸漬させる処理は、処理後の液体のpHが2〜8であることが好ましい。酸または酸の水溶液とは、有機酸、無機酸または上記水に有機酸、無機酸等を添加して酸性にしたものである。使用する有機酸、無機酸としては、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸等が例示でき、これらに限定されるものではないが、酢酸、塩酸が好ましい。
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液にPASを浸漬させる処理に使用する水溶液のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の量はPASに対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%が更に好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液とは、上記水にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を添加して溶解させたものである。使用するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、上記有機酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
液体でPASを洗浄する際の洗浄温度は80℃以上200℃以下が好ましく、イオン性不純物の少ないPASを得る点において150℃以上200℃以下がより好ましく、さらには180℃以上200℃以下がより好ましい。100℃以上の液体での処理の操作は、通常、所定量の液体に所定量のPASを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。

熱水、酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液に使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。PASと液体の割合は、液体が多いほうが好ましく、通常、液体1リットルに対し、PAS10〜500gの浴比が好ましく選択され、50〜200gが更に好ましい。
洗浄添加剤は洗浄工程のいずれの段階で使用してもよいが、少量の添加剤で効率的に洗浄を行うには、フラッシュ法にて回収した固形物を80℃以上200℃以下の熱水に浸漬、濾過する処理を数回行った後、150℃以上の酸または酸の水溶液にPASを浸漬させて処理する方法が好ましい。
(11)その他の後処理
かくして得られたPASは常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120〜280℃の範囲が好ましく、140〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
本発明において得られたPASを、揮発性成分を除去するために、或いは架橋高分子量化して好ましい溶融粘度に調整するために、酸素含有雰囲気下、130〜260℃の温度で処理することも可能である。
架橋高分子量化を抑制し、揮発性成分除去を目的として乾式熱処理を行う場合、熱処理は熱処理温度および熱処理時間を特定の範囲にすれば、高い酸素濃度雰囲気下でも低い酸素濃度雰囲気下でも差し支えない。
高い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%以上であることが好ましく、熱処理温度は160〜270℃、熱処理時間は0.1〜20時間行うことが望ましい。ただ、酸素濃度が高い条件下では揮発性成分の低減速度が速いものの、同時に酸化架橋が急速に進行するため反応性官能基が減少する傾向がある。そのため概して低温・長時間または高温・短時間で熱処理を行うことが好ましい。低温・長時間熱処理する具体的な条件としては160℃以上210℃以下で1時間以上20時間以下が好ましく、170℃以上200℃以下で1時間以上10時間以下がより好ましい。熱処理温度が160℃を下回る温度で熱処理を行うと揮発性成分の低減効果が小さい。また、低温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が20時間を越えると反応性官能基が減少しやすくなる。高温・短時間熱処理する具体的な条件としては210℃を超え270℃以下で0.1時間以上1時間未満が好ましく、220℃以上260℃以下で0.2〜0.8時間がより好ましい。熱処理温度が270℃を超えると酸化架橋が急激に進行し反応性官能基が減少しやすくなる。また、高温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が0.1時間を下回ると揮発性成分の低減効果が小さい。
低い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%未満であることが好ましく、熱処理温度は210〜270℃、熱処理時間は0.2〜50時間行うことが望ましい。酸素濃度が低いと揮発性成分の低減効果が小さくなる傾向にあるため概して高温・長時間で熱処理を行うことが好ましく、220℃〜260℃の熱処理温度条件下2〜20時間行うことがより好ましい。熱処理時間が210℃を下回る場合は揮発性成分が低減しにくく、熱処理時間が50時間を上回ると生産性が低下する。
架橋高分子量化して好ましい溶融粘度に調整することを目的として乾式熱処理する場合、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また酸素濃度2体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。処理時間は、1〜100時間が好ましく、2〜50時間がより好ましく、3〜25時間が更に好ましい。
加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明により得られたPASを後記する多種多用な用途に展開する上で、意匠性は重要な要素である。高い意匠性を提供するにはPASの白色度は高い方がよく、白色度の高さを示すL値は80以上が好ましく、83以上がより好ましい。通常、PASの後処理において加熱処理を行うと、熱履歴や酸化架橋により着色する傾向にあるため、後処理を行う場合はかかる白色度を維持できる範囲内で行うのが好ましい。
(12)生成PAS
本発明により、PAS本来の耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に選択的に反応性官能基が導入されたPASは具体的には、一般式(B)で表される構造を有する。
Figure 0006682793
ここで式(B)中のWは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基が好ましく、なかでも、反応性が高い観点から、酸性の官能基を有するものがより好ましく、特にカルボキシル基が好ましい。また、mは5以上の整数を表す。一方、その上限としては、100以下が挙げられ、60以下が好ましく、末端量を増加させて多量の官能基量を得る観点から40以下が特に好ましい。
本発明で得られるPASがかかる構造を有することで、反応性官能基の熱安定性が低下するようなことはない。また、反応性官能基近傍が立体的に込み合い、異素材との接着や複合化時に接触頻度が低下し反応効率が低下するようなこともない。
また、本発明で得られるPASは−(Ph−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする線状のホモポリマーであることが特に好ましい。
本発明によれば、重量平均分子量が2500g/mol以上のPASが得られ、さらに好ましくは3,000g/mol以上のPASが得られる。重量平均分子量が2500g/mol以上であると、耐熱性、耐薬品性等が損なわれることがない。一方、本発明によれば、重量平均分子量が20000g/mol以下のPASが得られ、さらに好ましくは、15000g/mol以下のPASが得られる。重量平均分子量が20000g/mol以下であると、分子量の増加に伴い、分子鎖末端の反応性官能基が減少することはない。なお、ここでの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
本発明によれば、数平均分子量が1500g/mol以上のPASが得られ、さらに好ましくは2000g/mol以上のPASが得られる。数平均分子量が1500g/mol以上であると、耐熱性、耐薬品性等が損なわれることがない。一方、本発明によれば、数平均分子量が7000g/mol以下のPASが得られ、さらに好ましくは、4000g/mol以下のPASが得られる。数平均分子量が7000g/mol以下であると、分子量の増加に伴い、分子鎖末端の反応性官能基が減少することがない。なお、ここでの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
本発明によれば、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度(Mw/Mn)が2.5以下であるPASが得られる。さらに好ましくは2.0以下のPASが得られ、生成PASの分散度が低いと、各分子鎖の反応性が均一化し、異素材との接着や複合化がより効率的に進行する。
また、本発明によれば、官能基含有量が、500μmol/g以上のPASが得られ、より好ましくは550μmol/g以上のPASが得られ、特に好ましくは600μmol/g以上のPASが得られる。PASの官能基含有量が500μmol/g以上であると異素材との接着や複合化が進行し、十分な改質効果を得ることができる。また、本発明によれば、官能基含有量が、2,000μmol/g以下のPASが得られ、特に好ましくは1,500μmol/g以下のPASが得られる。官能基含有量の上限が2,000μmol/g以下であると、官能基含有量の増加に伴ってPASの分子量が低下し、耐熱性が損なわれることはない。
また本発明で得られるPASは、末端に反応性官能基を多く有しているだけでなく、分子鎖の全末端に占める反応性官能基の導入率が高い程好ましい。この指標として、本発明では末端官能基率を用いる。ただし、末端官能基率は(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol))×100(%)で求められ、単位が百分率である値と定義できる。本発明によれば、末端官能基率が85%以上であるPASが得られ、より好ましくは90%以上であるPASが得られる。特に好ましくは、95%以上であり、異素材との接着、複合化を効率よく進行させるPASが得られる。末端官能基率が85%以上であれば、異素材と複合化を行う上で反応が意図せず停止してしまうことはない。
本発明によれば、融点の下限が270℃以上であるPASが得られる。一方、融点の上限が、290℃以下であるPASが得られる。PASの融点が上記範囲であると、耐熱性、耐薬品性などのPASに由来する特性が発現しやすくなり、また、反応性官能基の導入量の面で十分である。なお、ここでの融点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値と定義できる。
本発明によれば、塩素含有量が3500ppm以下であるPASが得られ、さらに好ましくは2500ppm以下のPASが得られ、より好ましくは1500ppm以下のPASが得られ、特に好ましくは1000ppm以下であり、環境への負荷を低減し、反応性官能基の導入量を増加させるPASが得られる。塩素含有量が3500ppm以下であれば、PASの分子鎖末端への反応性官能基の導入が不十分であるということはない。
(13)その他の添加物
さらに、本発明により得られたPASは、反応性官能基を十分に有するため、ポリアリーレンスルフィド以外の樹脂との添加配合により改質効果が得られやすい。そのため、本発明の効果を損なわない範囲で、他樹脂を添加配合しても良い。その具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物の添加量は組成物全体の10重量%以下が好ましく、1重量%以下が更に好ましい。上記好ましい範囲であると、本来の特性が損なわれることはない。
(14)用途
本発明により得られたPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形することができるが、特に射出成形用途に好適に適用される。その射出成形用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、エンジンコントロールユニットケース、エンジンドライバーユニットケース、コンデンサーケース、モーター絶縁材料、ハイブリッドカーの制御系部品ケースなどの自動車・車両関連部品、その他の各種用途が例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらは例示的なものであって、これによって限定されるものではない。なお、各種測定法は以下の通りである。また、実施例1は参考例とする。
〈分子量の測定〉
PASの分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分散度(=Mw/Mn)を測定した。GPC測定条件を以下に記す。
装置 : (株)センシュー科学製SSC−7100
カラム名 : (株)センシュー科学製GPC3506
溶離液 : 1−クロロナフタレン
検出器 : 示差屈折率検出器
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
〈融点の測定〉
PASの非晶フィルムを作製し、示差走査熱量計(DSC)により、融点を測定した。
プレスフィルムの作製条件を下記する。
・カプトンフィルム表面をアセトンで拭き、試料を載せる。
・さらにカプトンフィルムを重ね、アルミシートで挟む。
・340℃に加熱したプレスの金型に挟む。
・1分間滞留させた後10kgf加圧する。
・3分間滞留させた後40kgf加圧する。
・計4分間滞留させた後、カプトンフィルムもしくはアルミシートごと取出し、用意した水へ漬けて急冷する。
示差走査熱量計で融点を測定する場合は以下の条件で行った。
・20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した。
・その後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した。
・その後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃から340℃まで昇温した。その際に検出される融解ピーク温度の値を融点とした。
〈官能基(カルボキシル)基含有量の分析〉
PASに導入されたカルボキシル基量はポリフェニレンスルフィドの非晶フィルムを、FT−IR(日本分光(株)製IR−810型赤外分光光度計)測定し、ベンゼン環由来の1,900cm−1付近における吸収に対する、カルボキシル基由来の1,730cm−1付近における吸収を比較することにより見積もった。
〈末端官能基率の算出〉
上記の方法によって求めた官能基含有量と数平均分子量を用いて、下記の式で算出した。
末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol))×100(%)
〈塩素含有量の分析〉
ダイアインスツルメンツ社製自動試料燃焼装置AQF−100を用い、ポリマー1〜2mgを最終温度1000℃で燃焼させ、発生したガス成分を希薄な酸化剤を含んだ10mLの水に吸収させ、吸収液を炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム混合水溶液を移動相とするDIONEX社製イオンクロマトグラフィーシステムICS1500に供し、ポリマー中の全塩素含有量の測定を行った。
〈クロロホルム抽出量の分析〉
ポリマー10gを90℃のクロロホルム100gで3時間ソックスレー抽出し、この抽出液からクロロホルムを留去した際に得られる成分の重量をポリマー重量に対する百分率で求めた。
〈官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物および、官能基を有するジハロゲン化芳香族化合物の反応量〉
重合工程終了後に得た重合反応物中に残存する反応性官能基含有モノハロゲン化芳香族化合物量および、官能基を有するジハロゲン芳香族化合物を、島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−14Bガスクロマトグラフ用いて定量し、仕込量から残存量を差し引いて算出した。
[実施例1]
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム3.60kg(86.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。
その後、200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)9.58kg(65.2モル)、4−クロロ安息香酸1.364kg(8.71モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で250℃まで昇温し、250℃で180分反応した。
反応終了後、直ちにオートクレーブ底栓弁を開放し、内容物を撹拌機付き装置にフラッシュさせ、重合時に使用したNMPの95%以上が揮発除去されるまで230℃の撹拌機付き装置内で1.5時間乾固し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
得られた回収物およびイオン交換水74リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、75℃で15分洗浄した後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを75℃のイオン交換水で15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、ケークおよびイオン交換水74リットル、酢酸0.4kgを撹拌機付きオートクレーブに入れ、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物を取り出した。内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することで乾燥PPSを得た。
[実施例2]
重合時に使用する4−クロロ安息香酸を1.848kg(11.80モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[実施例3]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を9.276kg(63.1モル)とし、4−クロロ安息香酸の量を2.438kg(15.57モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[比較例1]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を10.04kg(68.3モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を2.97kg(71.3モル)とし、4−クロロ安息香酸の代わりに2,5−ジクロロ安息香酸の量を0.393kg(2.058モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[比較例2]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を1.004kg(68.3モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を2.97kg(71.3モル)とし、4−クロロ安息香酸の量を0.323kg(2.06モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[比較例3]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を9.922kg(67.5モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を3.17kg(76.1モル)とし4−クロロ安息香酸の量を1.041kg(6.65モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[比較例4]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を9.276kg(63.1モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を3.23kg(77.5モル)とし4−クロロ安息香酸の量を1.397kg(8.92モル)としたこと以外は実施例1と同様に重合および洗浄を行った。
[比較例5]
重合時に使用する4−クロロ安息香酸の量を2.438kg(15.57モル)としたこと以外は比較例4と同様に重合および洗浄を行った。
得られたポリフェニレンスルフィドの重合条件、およびポリマー物性の測定結果を表1に示す。
Figure 0006682793
実施例1から実施例3までは、比較例2や比較例3と比べて、4−クロロ安息香酸の添加量を増加し、その反応量が高くなったため、278℃と高い融点を保ちつつ、ポリマー鎖末端にカルボキシル基含有量が500μmol/g以上導入され、なおかつ末端官能基率が向上したポリフェニレンスルフィドが得られた。また、比較例1は、反応性官能基を有するジハロゲン化合物として2,5−ジクロロ安息香酸を重合に用いた。そのため、官能基が末端ではなく主鎖中に存在し、ポリマー末端は塩素が大部分を占める結果、塩素含有量は大きな値を示した。
単純にp−ジクロロベンゼンの添加量を減らし、4−クロロ安息香酸の添加量のみを増加した比較例4、5では、カルボキシル基含有量が500μmol/g以上になったものの、分解反応を併発してしまい、ポリフェニレンスルフィドの分子量が低下する結果、本来の耐熱性が損なわれ融点が低下した。これに対し、実施例1、3では、p−クロロ安息香酸と共に、水酸化ナトリウムを一定の条件で増加させたことにより、重合系の安定化が図られた結果、分子量および融点の低下を抑制しながら、カルボキシル基含有量を500μmol/g以上に高官能化できた。

Claims (7)

  1. 有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に、反応系内の硫黄原子1モルに対し、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
    Figure 0006682793
    (式(A)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基示す。)
  2. 前記反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、反応系内の硫黄原子1モルに対し、0.2モルを越え0.35モル以下の範囲内で反応させることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  3. 一般式(B)で表される構造を有し、官能基含有量が500μmol/g以上であって融点が270℃以上であり、下記で定義される末端官能基率が85%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド。
    Figure 0006682793
    (ここで、一般式(B)におけるWは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基であり、mは5以上の整数を表す。)
    末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol))×100(%)
  4. 塩素含有量が3500ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド。
  5. 塩素含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド。
  6. 重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度(Mw/Mn)が2.5以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド。
  7. クロロホルム抽出成分が1重量%以上であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド。
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