以下に、本発明実施の形態を説明する。
(1)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤とはジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであれば良く、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことをさす。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、このような形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。これらのアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のし易さ、コストの観点から好ましい。
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状、液体状、水溶液状のいずれの形態で用いても差し障り無い。
本発明においてスルフィド化剤の量は、脱水操作などによりジハロゲン化芳香族化合物との反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.50モル、好ましくは1.00から1.25モル、更に好ましくは1.005から1.200モルの範囲が例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し2.0〜3.0モル、好ましくは2.01〜2.50モル、更に好ましくは2.04〜2.40モルの範囲が例示できる。
(2)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−ブロモ−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−3−クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、及び1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1−メチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p−ジクロロベンゼンを80〜100モル%含むものであり、さらに好ましくは90〜100モル%含むものである。また、共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.9〜2.0モルの範囲であることが好ましく、0.95〜1.5モルの範囲がより好ましく、0.98〜1.2モルの範囲が更に好ましい。
(3)有機極性溶媒
本発明のポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造においては有機極性溶媒を反応溶媒として用いるが、なかでも有機アミド溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、及びこれらの混合物などが、反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
本発明において反応溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量に特に制限はなく、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物との反応により生成するPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの特性を所望のものとするためにその使用量を変化させうる。一般に分子量の高いPASを所望する場合には有機極性溶媒の使用量を少なくする事が有利であり、分子量の低いPASを所望する場合や、オリゴアリーレンスルフィドの生成量を多くしたい場合は有機極性溶媒の使用量を多くすることが好適である。なお、有機極性溶媒使用量の上限に特に制限はないが、より効率よくポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドを製造するとの観点から、有機極性溶媒使用量を反応混合物が含むイオウ成分1モルに対し50リットル以下とすることが好ましく、20リットル以下がより好ましく、15リットル以下が更に好ましい。また、有機極性溶媒使用量の下限に特に制限はないが、オリゴアリーレンスルフィドの生成量を多くしたい場合には、有機極性溶媒使用量を反応混合物が含むイオウ成分1モルに対し1.25リットル以上とすることが好ましく、1.5リットル以上がより好ましく、2リットル以上が更に好ましい。有機極性溶媒の使用量を多くするとオリゴアリーレンスルフィドの収率は向上するものの、反応容器の単位体積あたりのポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドの生成量が低下し、更に反応に要する時間が長時間化する傾向にあり、有機極性溶媒の使用量を少なくすると、オリゴアリーレンスルフィドの収率が低下し、ポリアリーレンスルフィドの収率が向上する傾向にあることから、ポリアリーレンスルフィド及びオリゴアリーレンスルフィドそれぞれの生成収率と生産性を両立するとの観点で前記した有機極性溶媒の使用量範囲とすることが好ましい。
(4)ポリアリーレンスルフィド
本発明におけるPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモポリマーまたは線状のコポリマーである。Arとしては下記の式(ア)〜式(シ)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(ア)が特に好ましい。
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(ス)〜式(タ)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)の他、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
本発明における各種PASの溶融粘度に特に制限は無いが、一般的なPASの溶融粘度としては0.1〜1000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が例示でき、0.1〜500Pa・sの範囲が入手の容易性の観点で好ましい範囲といえる。また、PASの分子量にも特に制限は無く、一般的なPASを用いることが可能でありこの様なPASの重量平均分子量としては2,000〜1,000,000が例示でき、2,500〜500,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。一般に重量平均分子量が前記範囲のPASは機械強度や耐薬品などの特性が特に優れたものとなる。また、後述するPASとオリゴアリーレンスルフィドの分離操作を行う条件下において、この様なPASは有機極性溶媒中で固形分として存在しやすくなるため、オリゴアリーレンスルフィドとの分離性が著しく向上する傾向にあるため、本発明においては特に好適であるといえる。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド(a)の製造方法は特に限定はされず、いかなる製法によるものでも使用することが可能であるが、例えば前述した特許文献1に代表される、アルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物を有機アミド溶媒中で反応せしめる方法によって得ることができる。また、製造されたPASを用いた成形品や成形屑、廃プラスチックやオフスペック品なども幅広く使用することが可能である。
また、一般的にポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドの製造は、反応系において同時に進行する。本発明ではこのようなPASも問題なく原料に用いることが可能であり、例えばスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む反応混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドを用いる方法は、特に好ましい方法といえる。さらに、本発明の実施により生成するポリアリーレンスルフィド、すなわち、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で接触させて反応させて得られた少なくともポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド、アルカリ金属ハロゲン化物を含む反応混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドを用いることは、ことさら好ましい方法である。
PASの使用量は、反応開始時点、すなわち反応系に仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の転化率が0の段階での反応混合物にPASが含まれていれば良いが、PASの主要構成単位である式−(Ar−S)−の繰り返し単位を基準として、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1〜20繰り返し単位モルの範囲であることが好ましく、0.25〜15繰り返し単位モルの範囲がより好ましく、1〜10繰り返し単位モルの範囲が更に好ましい。PASの使用量が好ましい範囲では、短時間で反応を進行させ得る傾向にある。
なお、PASの形態に特に制限はなく、乾燥状態の粉末状、粉粒状、粒状、ペレット状でも良いし、反応溶媒である有機極性溶媒を含む状態で用いることも可能であり、また、本質的に反応を阻害しない第三成分を含む状態で用いることも可能である。この様な第三成分としては例えば無機フィラーなどが例示でき、無機フィラーを含む樹脂組成物の形態のPASを用いることも可能である。
(5)オリゴアリーレンスルフィド
本発明におけるオリゴアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては前記式(ア)〜式(シ)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(ア)が特に好ましい。
また、本発明におけるオリゴアリーレンスルフィドは前記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、オリゴフェニレンスルフィド、オリゴフェニレンスルフィドスルホン、オリゴフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいオリゴアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するオリゴフェニレンスルフィドの他、オリゴポリフェニレンスルフィドスルホン、オリゴフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
本発明における各種オリゴアリーレンスルフィドの平均分子量は前述のPASよりも低いものと定義でき、一般的なオリゴアリーレンスルフィドの重量平均分子量としては200〜5,000が例示でき、200〜2,500が好ましく、300〜2,000がより好ましい。本発明者らはPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの特性の違いを詳細に検討した結果、重量平均分子量が前記範囲のオリゴアリーレンスルフィドは前述のPASと比べて各種溶剤への溶解性にすぐれる傾向にあることを見出した。特に、オリゴアリーレンスルフィドは有機極性溶媒への溶解性が高く、この点で前述のPASとは特性が大きく異なることを見出した。すなわち、後述するPASとオリゴアリーレンスルフィドの分離操作を行う条件下において、PASは有機極性溶媒中で固形分として存在しやすく、一方でオリゴアリーレンスルフィドは有機極性溶媒に溶解しやすいため、簡易な固液分離操作により分離性よくPASとオリゴアリーレンスルフィドを分離できることを見出し本発明の完成に至った。この観点から、本発明においてオリゴアリーレンスルフィドの重量分子量は前述の範囲が特に好適であるといえる。
また、本発明のオリゴアリーレンスルフィドの構造に特に制限はなく、線状構造、分岐構造、グラフト構造、環状構造など各種構造、およびこれらの混合物が許容できる。この中でも線状および/または環状のオリゴアリーレンスルフィドが好ましく、これら構造体を得るためには厳密な反応制御や分岐構造を導入するための第三成分を必要としないという利点がある。
ここで本発明におけるオリゴアリーレンスルフィドの環状体(以下、環式オリゴアリーレンスルフィドと称する場合もある)とは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(チ)のごとき化合物である。
ここでArとしては前記式(ア)〜式(シ)などであらわされる単位を例示できるが、なかでも式(ア)〜式(ウ)が好ましく、式(ア)及び式(イ)がより好ましく、式(ア)が特に好ましい。
なお、環式オリゴアリーレンスルフィドにおいては前記式(ア)〜式(シ)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式オリゴフェニレンスルフィド、環式オリゴフェニレンスルフィドスルホン、環式オリゴフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式オリゴアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式オリゴフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
環式オリゴアリーレンスルフィドの前記(チ)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、2〜50が好ましく、2〜25がより好ましく、3〜20が更に好ましい範囲として例示できる。環式オリゴアリーレンスルフィドの用途として、環式オリゴアリーレンスルフィドを含有する混合物を加熱することで高重合度体への転化させる用途が例示でき、この様な用途に用いる場合には、環式オリゴアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上に加熱して行うことが好ましいが、mが大きくなると環式オリゴアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にある。従ってこの様な用途に環式オリゴアリーレンスルフィドを用いる際には、環式オリゴアリーレンスルフィドの溶融解がより低い温度で可能となる観点でmを前記範囲にすることは有利となる。
また、環式オリゴアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式オリゴアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式オリゴアリーレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式オリゴアリーレンスルフィドの混合物の使用は前記した高重合度体への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
(6)アルカリ金属ハロゲン化物
本発明におけるアルカリ金属ハロゲン化物とは、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物が反応することによって生成するもの、反応系内のその他諸成分の反応によって生成するもの、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物の反応開始前、反応中、反応後など随意の段階で反応系に導入されたアルカリ金属ハロゲン化物など、反応混合物中に存在するすべてのアルカリ金属ハロゲン化物を含む。アルカリ金属ハロゲン化物としては、アルカリ金属、すなわちリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムとハロゲン、すなわちフッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびアスタチンから構成されるいかなる組み合わせのものをも含み、具体例としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、フッ化セシウムなどが例示できる。前記したスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物の反応により生成するアルカリ金属ハロゲン化物は、スルフィド化剤の含むアルカリ金属とジハロゲン化物の含むハロゲンから構成されるため、一般的に入手が容易なスルフィド化剤およびジハロゲン化芳香族化合物の組み合わせから生じるアルカリ金属ハロゲン化物としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムおよびヨウ化ナトリウムが例示でき、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムが好ましいものとして例示でき、塩化ナトリウムがより好ましいものである。本発明者らは、これら好ましいアルカリ金属ハロゲン化物の特性を詳細に検討した結果、前述の有機極性溶媒に対する溶解性が低く、また溶解性の温度依存性が小さいことを見出した。従って、後述する第一の固液分離により容易に反応混合物から分離できる傾向が強く、この観点からも特に好ましいといえる。
(7)ポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドの製造方法
本発明では、少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で接触させることで反応させてポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドを含む反応混合物を製造する。
本発明のPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造に際しては、上記諸成分からなる反応混合物を、反応混合物の常圧下における還流温度を越えて加熱することが好ましい。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。なお、還流温度とは反応混合物の液体成分が沸騰と凝縮を繰り返している状態の温度である。反応混合物を常圧下の還流温度を超える加熱状態にする方法としては、例えば反応混合物を常圧を越える圧力下で反応させる方法や、反応混合物を密閉容器内で加熱する方法が例示できる。
本発明のPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造におけるより好ましい反応温度は、原料として用いるポリアリーレンスルフィド(a)が反応混合物中で溶融解する温度である。原料のポリアリーレンスルフィド(a)は、室温近傍では固体状態であることが一般的であり、PASが溶解する温度で反応を行うことで反応系が均一化し飛躍的に反応速度が向上し、反応に要する時間を短縮できる傾向にある。この温度は反応混合物中の成分の種類、量、原料に用いるポリアリーレンスルフィド(a)の構造、分子量などによって多様に変化するため一意的に決めることはできないが、通常120〜350℃、好ましくは200〜320℃、より好ましくは230〜300℃、さらに好ましくは240〜280℃の範囲を例示できる。この好ましい温度範囲ではより高い反応速度が得られ、反応が均一で進行しやすい傾向にあるのみならず、生成したPAS成分の分解なども起こりにくい傾向にあるため、効率よくPAS成分が得られる傾向にある。また、反応は一定温度で行う1段反応、段階的に温度を上げていく多段階反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでもかまわない。
また、反応時間は使用する原料のポリアリーレンスルフィド(a)の構造、分子量などや、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒の種類、およびこれら原料の量あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、本発明の方法は極めて高い反応速度が得られやすい特徴を有するため、10時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは6時間以内、より好ましくは3時間以内も採用できる。反応時間の下限に特に制限はないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、この好ましい時間以上とすることで、未反応の原料成分を十分に減少できる傾向にある。
本発明のPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造において、反応混合物を加熱する際の圧力に特に制限はないが、反応混合物の常圧下における還流温度を越えることが可能となる圧力が好ましい。反応混合物を加熱する際の圧力は反応混合物を構成する原料およびその組成、反応温度等により変化するため一意的に規定することはできないが、好ましい圧力の上限としては10MPa以下、より好ましくは5MPa以下が例示できる。また好ましい圧力の下限としてゲージ圧で0.05MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa以上が例示できる。この様な好ましい圧力範囲では、PASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造に要する時間を短くできる傾向にある。また、PASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造における有機極性溶媒の使用量を多くする場合、すなわち反応混合物における原料であるポリアリーレンスルフィド(a)、スルフィド化剤(b)およびジハロゲン化芳香族化合物(c)の濃度が低い条件において、前記好ましい圧力範囲で反応を行うことの効果が特に大きい傾向にあり、原料消費率をより向上できる傾向がある。この理由については現時点定かでないが、PASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造に際し、反応における加熱条件下で揮発性を有するジハロゲン化芳香族化合物など原料はその一部が反応系内で気相に存在し、液相部の反応基質との反応が進行しにくくなる可能性があり、前記好ましい圧力範囲とすることでこのような原料の反応系内での揮発を抑制できるため、より効率よく反応が進行するようになると推測している。また、反応混合物を加熱する際の圧力を前記好ましい圧力範囲とするために、反応を開始する前や反応中など随意の段階で、好ましくは反応を開始する前に、後述する不活性ガスにより反応系内を加圧することも好ましい方法である。なおここでゲージ圧とは大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力値と同意である。
本発明のPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造方法においては、反応器に(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物、および有機極性溶媒を仕込み、これらを必須成分として反応を行う。これら必須成分を反応器に仕込む順序に特に制限は無いが、まず使用する有機極性溶媒の全量もしくは一部を仕込み、次いでその他の成分を仕込む方法が反応混合物の均一化のために好ましい。反応混合物には前記必須成分以外に反応を著しく阻害しない第三成分や、反応を加速する効果を有する第三成分を加えることも可能である。反応を行う方法に特に制限は無いが、攪拌条件下で行うことが反応系の均一化のために好ましい。なお、ここで前記原料を仕込む際の温度に特に制限は無く、例えば室温近傍で原料を仕込んだ後に反応を行っても良いし、あらかじめ前述した反応に好ましい温度に温調した反応器に原料を仕込んで反応を行なうことも可能である。また反応を行っている反応系内に逐次的に原料を仕込んで連続的に反応を行うことも可能である。
また、PASおよびオリゴアリーレンスルフィドを製造する際に、有機極性溶媒として水を含むものを用いることも可能である。一般にスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を用いる反応は反応混合物中の水分量が増大すると、反応速度が低下する傾向にあるため厳密な水分量の低減が必要であるが、本発明の方法では極めて早く反応が進行するため、反応混合物中の水分量を厳密に制御することなく十分な反応を行うことが可能である。よって本発明の反応混合物中の水分量に特に制限は無いが、反応開始時点、すなわち反応系に仕込んだジハロゲン化芳香族化合物(以下DHAと略することもある)の転化率が0の段階における水分量は、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり0.2モル以上20モル以下が好ましい範囲として例示でき、0.5モル以上10モル以下であることが好ましく、0.6モル以上8モル以下がより好ましい。反応混合物を形成するスルフィド化剤、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、PAS及びその他成分が水を含む場合で、反応混合物中の水分量が前記範囲を超える場合には、反応を開始する前や反応の途中において、反応系内の水分量を減じる操作を行い、水分量を前記範囲内にする事も可能であり、これにより短時間に効率よくPASおよびオリゴアリーレンスルフィドを得られる傾向にある。また、反応混合物の水分量が前記好ましい範囲未満の場合は、上記水分量になるように水を添加することも好ましい方法である。なお、DHAの転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をスルフィド化剤に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕]×100%
(b)上記(a)以外の場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕]×100%
さらに、PASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造において、所望の時間反応を継続し仕込んだ原料が減少した随意の段階で、PAS、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒のいずれか、もしくは複数を追加して更に反応を継続することも可能である。
PAS、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物を追加添加するのは、仕込んだ原料が減少した随意の段階が許容されることは前記した通りであるが、DHAの転化率が50%以上の段階が好ましく、70%以上の段階がより好ましく、このような段階で追加する事でより効率よくPAS成分を得ることが可能となる。
なお、原料の追加により、反応混合物中の水分量が変化する場合、前記した好ましい水分量となるように付加的な操作を行うことも可能であり、追加する前、追加している途中、追加後に反応混合物から水を随意量除去する事も望ましい方法である。なお、この水の除去に際し、水以外の成分が反応混合物から除去される場合、必要に応じてスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒を更に追加する事も可能であり、除去された成分を再度反応混合物に戻す操作を行ってもかまわない。
なお、本発明のPASおよびオリゴアリーレンスルフィドの製造には、バッチ方式、及び連続方式など公知の各種重合方式、反応方式を採用することができる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。反応圧力については、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応温度等に依存し一概に規定できないので、特に制限はない。
(8)ポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドの分離方法
本発明では少なくともポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む反応混合物から、ポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを分離する事を特徴とし、ポリアリーレンスルフィドが溶解せず、かつオリゴアリーレンスルフィドが可溶な温度領域で固液分離(B)する、もしくは、ポリアリーレンスルフィドが溶解するに足る温度で固液分離(A)に処することでポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド及び有機極性溶媒を含む濾液成分を得て、次いで、前記濾液成分をポリアリーレンスルフィドが溶解しない温度とした後に濾液成分をさらに固液分離(B)に処することを特徴とする。以下に固液分離(A)、固液分離(B)について詳述する。
<固液分離(A)>
固液分離(A)では、少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で反応させて得られる反応混合物において、PASが溶解するに足る温度で固液分離して、可溶成分すなわちポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド及び有機極性溶媒を含む溶液成分を濾液として回収する。
ここで固液分離を行う温度はポリアリーレンスルフィドが溶解する温度であれば特に制限は無いが、上限としては350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下が更に好ましい。このような上限温度以下では、目的成分であるポリアリーレンスルフィドやオリゴアリーレンスルフィドの分解や変質などが起こりにくく、また有機極性溶媒の分解や変質なども起こりにくい傾向にある。また、前述した好ましい重量平均分子量を有するポリアリーレンスルフィドの場合、200℃を越える温度であることが好ましく、220℃以上がより好ましく、230℃以上がさらに好ましい温度として例示できる。またポリアリーレンスルフィドとして特に高い重量平均分子量を有するものや、結晶性の高いものや結晶化度の高いものを用いる場合は、250℃以上の温度を採用することも可能である。この様な好ましい温度範囲においてはポリアリーレンスルフィドの有機極性溶媒に対する溶解性が向上するため、均一な溶液成分となりやすく、また、溶液成分の粘度は温度が上昇するに伴って低下する傾向にあるため、固液分離操作における分離性が向上する傾向にある。
固液分離(A)を行う際の圧力に制限は無いが、ゲージ圧で2.0MPa以下が好ましく、1.0MPa以下がより好ましく、0.8MPa以下が更に好ましい範囲として例示できる。一般に圧力が増大するに伴い、固液分離を行う機器の耐圧性を高くする必要が生じ、そのような機器はそれを構成する各部位に高度なシール性を有するものが必要となり必然的に機器費が増大することになる。上記好ましい圧力範囲では一般に入手可能な固液分離機器を使用できる。
また固液分離を行う方法は特に限定されず、公知の手法を採用可能であり、フィルターを用いる濾過である加圧濾過や減圧濾過、固形分と溶液の比重差による分離である遠心分離や沈降分離、さらにこれらを組み合わせた方法などを採用可能である。濾過操作の前に沈降分離を行うデカンタ分離方式も好ましい方法である。濾過操作に用いるフィルターは、固液分離を行う条件において安定であるものであれば良く、例えばワイヤーふるいや焼結板を好適に用いることができる。また、このフィルターのメッシュ径または細孔径は濾過操作に供するスラリーの粘度や圧力、温度、スラリー中の固形成分の粒径や得られる濾液の純度(固形分の含有量)等に依存して広範囲に調整しうる。特に本濾過操作により固形分として回収されるアルカリ金属ハロゲン化物の反応混合物中での粒径に応じてメッシュ径または細孔径を選定することは有効である。なお、反応混合物中のアルカリ金属ハロゲン化物の平均粒径(メジアン径)は反応混合物の組成や温度、濃度等により広範囲に変化しうるが、本発明者らの知りうる限り、平均粒径は1〜100μmである傾向がある。従って、この様なアルカリ金属ハロゲン化物を濾過分離するための、フィルターの孔径の好ましい平均孔径としては0.1〜80μmが例示でき、0.1〜50μmが好ましく、0.25〜20μmがより好ましく、0.5〜15μmがさらに好ましい範囲として例示できる。またより効率よく固液分離を行うために、有機極性溶媒に不溶な各種成分、例えばセラミック粉末やアルカリ金属ハロゲン化物の粉末をあらかじめ積層したフィルターを用いて固液分離を行うことも好適な方法として例示できる。
ここでの固液分離操作によれば、反応混合物中のアルカリ金属ハロゲン化物の大部分を固形分としてポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドを含む有機極性溶媒溶液から分離可能であり、好ましくは反応混合物中のアルカリ金属ハロゲン化物の90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上を固形分として回収しうる。また固液分離により分離した固形分がポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドを含む有機極性溶媒溶液を含む場合には、このような固形分をフレッシュな有機極性溶媒を用いて洗浄することで、ポリアリーレンスルフィドおよびオリゴアリーレンスルフィドの固形分への残留量を低減することも可能である。この方法としては固形分ケークが積層したフィルター上にフレッシュな有機極性溶媒を加えて固液分離する方法や固形分ケークにフレッシュな有機極性溶媒を加えて攪拌することでスラリー化した後に固液分離する方法などが例示できるが、これら操作を行う条件は前記した固液分離(A)に採用する好ましい条件に準じて行うことが好ましい。
<固液分離(B)>
本発明では固液分離(A)で得られた濾液成分、もしくは少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で反応させて得られる反応混合物を下記固液分離(B)に処する。
固液分離(B)ではポリアリーレンスルフィドが溶解せず、かつオリゴアリーレンスルフィドが可溶な温度領域で固液分離に処することが特徴であり、好ましい上限温度として200℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下が例示できる。この好ましい温度領域において濾液中に含まれるPASは固形分として存在する傾向が強く、特に前述した好ましい重量平均分子量のPASはこの条件下で固形分となりやすい傾向がある。一方でこの好ましい温度領域において反応混合物もしくは固液分離(A)で得られた濾液中に含まれるオリゴアリーレンスルフィド成分は有機極性溶媒に可溶である傾向が強く、特に前述した好ましい重量平均分子量のオリゴアリーレンスルフィドはこの条件下で有機極性溶媒に溶解する傾向が強い。従って、固液分離(B)を行う条件下においては、反応混合物もしくは固液分離(A)で得られた濾液は固形状のPASを含むスラリー状となり、後述する固液分離操作によって、PASは固形分として、一方、オリゴアリーレンスルフィドは溶液状の濾液として分離される。なお、固液分離(B)の際の下限温度としては10℃以上が例示でき、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。この下限温度以上では濾液の粘度が低くなる傾向になり固液分離操作がし易く、また固形成分と溶液成分の分離性にすぐれる傾向にある。
固液分離(B)を行う際の圧力に制限は無く、例えば固液分離(A)における圧力範囲を例示できるが、固液分離(B)は固液分離(A)と比較してより低い温度で固液分離操作を行うため、固液分離(A)よりも低い圧力下で操作を行うことが可能である。具体的にはゲージ圧で2.0MPa以下を好まし圧力範囲として例示でき、1.0MPa以下がより好ましく、0.8MPa以下が更に好ましく、0.5MPa以下がよりいっそう好ましい範囲として例示できる。一般に圧力が増大するに伴い、固液分離を行う機器の耐圧性を高くする必要が生じ、そのような機器はそれを構成する各部位に高度なシール性を有するものが必要となり必然的に機器費が増大することになる。上記好ましい圧力範囲では一般に入手可能な固液分離機器を使用できる。
また固液分離を行う方法は特に限定されず、前記固液分離(A)で例示した方法を採用可能であり、フィルターを用いる濾過である加圧濾過や減圧濾過、固形分と溶液の比重差による分離である遠心分離や沈降分離、さらにこれらを組み合わせた方法などを採用可能である。濾過操作の前に沈降分離を行うデカンタ分離方式も好ましい方法である。濾過操作に用いるフィルターは、固液分離を行う条件において安定であるものであれば良く、例えばワイヤーメッシュフィルター、焼結板、濾布、濾紙など一般に用いられる濾材を好適に用いることができる。また、このフィルターの孔径は固液分離操作に供するスラリーの粘度や圧力、温度、スラリー中の固形成分の粒径や得られる濾液の純度(固形分の含有量)等に依存して広範囲に調整しうる。特にこの固液分離(B)操作においてスラリーから固形分として回収されるPASの粒径、すなわち固液分離(B)に処するスラリー中に存在する固形分の粒径に応じてメッシュ径または細孔径などフィルターの孔径を選定することは有効である。なお、固液分離(B)に処するスラリー中のPASの平均粒径(メジアン径)はスラリーの組成や温度、濃度等により広範囲に変化しうるが、本発明者らの知りうる限り、その平均粒径は1〜200μmである傾向がある。従って、フィルターの孔径の好ましい平均孔径としては0.1〜100μmが例示でき、0.25〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましい範囲として例示できる。
ここでの固液分離操作によれば、反応混合物もしくは固液分離(A)で得られた濾液に含まれるPASの大部分を固形分として分離可能であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上を固形分として回収しうる。また固液分離により分離した固形状のPASがオリゴアリーレンスルフィドを含む有機極性溶媒溶液(母液)を含む場合には、このような固形分をフレッシュな溶媒を用いて洗浄することで、オリゴアリーレンスルフィドの固形分への残留量を低減することも可能である。この方法としては固形分ケークが積層したフィルター上にフレッシュな溶媒を加えて固液分離する方法や固形分ケークにフレッシュな溶媒を加えて攪拌することでスラリー化した後に固液分離する方法などが例示できるが、これら操作を行う条件は前記した固液分離(B)に採用する好ましい条件に準じて行うことが好ましい。なお、ここで用いる溶剤はオリゴアリーレンスルフィドが溶解しうるものであれば良く、好ましくは有機極性溶媒が例示できる。
(9)その他後処理1
本発明では、少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で反応させて得られる反応混合物を固液分離(B)に処することにより、固形成分としてPASを得ることができる。かくして得られた固形成分は、オリゴマー含有量が著しく低減されたものである。この場合、固形成分にはハロゲン化アルカリ金属が含まれているため、公知の方法でハロゲン化アルカリ金属を除去する事も可能である。除去方法としては例えば、ハロゲン化アルカリ金属が可溶な第二の溶剤と接触させる方法が挙げられる。
固形成分からハロゲン化アルカリ金属を除去する際に用いる第二の溶剤としては、ハロゲン化アルカリ金属が可溶な溶剤が好ましく、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒および水が例示出来、水が特に好ましい。
温度に特に制限はないが、上限は用いる第二の溶剤の常圧下での還流条件温度以下にすることが好ましく、前述した溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。
固形成分を第二の溶剤と接触させる方法としては、固形成分にが積層したフィルター上に第二の溶剤を加えて固液分離する方法や、固形成分に第二の溶剤を加えて撹拌することでスラリー化した後に固液分離する方法などが例示できる。固液分離方法としては、例えば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。また、このようにして得られたポリアリーレンスルフィドを再度第二の溶剤と接触させて、さらにハロゲン化アルカリ金属含有量を低減させることも可能である。
かくして得られたポリアリーレンスルフィドは第二の溶剤を含むので、所望に応じて常圧化および/または減圧下で乾燥することも可能である。かかる乾燥温度としては、50〜200℃の範囲が好ましく、70〜150℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、減圧下で行うことが好ましく、常圧下で乾燥を行って大部分の溶剤を除去した後、減圧下で再度乾燥することも好ましい方法である。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
(10)その他の後処理2
本発明においては固液分離(A)で得られた濾液成分を、次いで固液分離(B)に処すことにより、固形成分としてPASを得ることができる。
かくして得られた固形成分は極めて純度の高いPASであり、公知の方法で得られるPASと比べてアルカリ金属およびオリゴアリーレンスルフィド含有量が著しく低減されたすぐれたものである。ここで固形成分が有機極性溶媒を含む場合は、所望に応じて公知の方法を採用することで有機極性溶媒を除去することも可能である。この有機極性溶媒の除去方法としては例えば蒸留により除去する方法や有機極性溶媒と混和する各種溶剤で溶剤置換する方法などが例示できる。
蒸留により除去する具体的な方法としては、固形成分を好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜200℃にで加加熱濾過する方法が例示できる。この加熱を減圧条件下や気流下で行うことで効率よく有機極性溶媒の除去を行うことが可能である。なお、加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことも可能でありこれによりPASの分解、着色、架橋などを抑制できる傾向にある。一方でPASへの架橋構造の導入や、溶融粘度の上昇、さらには揮発性成分の低減を所望する場合は酸化性雰囲気下を選択することも可能である。なおここで、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。一方で酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以上、好ましくは10体積%以上の雰囲気を指し、空気を用いることも可能である。
また、このようにして有機極性溶媒を除去したPASを後述する各種溶剤を用いて更に洗浄することも可能であり、これによりPASに残留したイオン性化合物、オリゴアリーレンスルフィド、有機極性溶媒を更に低減できる傾向にある。
各種溶剤で溶剤置換する具体的な方法としては、固形成分を有機極性溶媒と混和する各種溶媒と混合した後に固液分離する方法を例示できる。また所望に応じてこの操作を繰り返すことも可能である。ここで用いる各種溶媒は有機極性溶媒と混和することが重要であり、有機極性溶媒の特性に応じて選択されるが、PASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒および水が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、水が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、アセトン、酢酸エチル、水が特に好ましく、メタノール、アセトン、水がよりいっそう好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
固形成分と各種溶剤を接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPAS成分や溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。固形成分を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流温度以下にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃、好ましくは30〜100℃を具体的な温度範囲として例示できる。固形成分を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示できる。
固形成分を溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえば固形成分と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後に前述した固液分離操作を行うことで固形成分を回収する方法、各種フィルター上の固形成分に溶剤をシャワーする方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。固形成分と溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえば固形成分重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比がこの様な範囲の場合、固形成分と溶剤を均一に混合し易く効率よく有機極性溶媒を固形成分から分離することが可能となる。なお、固形成分と溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。
かくして得られた有機極性溶媒を除去した固形成分は溶剤置換に用いた溶剤を含むので、所望に応じて常圧下および/または減圧下に乾燥することも可能である。かかる乾燥温度としては、50〜280℃の範囲が好ましく、70〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、減圧下で行うことが好ましく、特に常圧下で乾燥を行って大部分の溶剤を除去した後、減圧下で再度乾燥することが好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
本発明において得られたPASは十分に高品質なものであるが、さらに揮発性成分を除去するために、或いは架橋高分子量化するために、130〜260℃の温度で処理することも可能である。架橋高分子量化は抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行う場合、その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また酸素濃度2体積%未満、更には1体積%未満とすることが望ましい。減圧乾燥することも好ましい方法の一つである。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間が更に好ましい。架橋高分子量化を目的として乾式熱処理する場合、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また酸素濃度2体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。処理時間は、1〜100時間が好ましく、2〜50時間がより好ましく、3〜25時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
(11)その他後処理3
前記固液分離(B)により濾液成分(温度によっては固形成分を含む場合もある)としてオリゴアリーレンスルフィドを得ることができる。
所望に応じて濾液成分から有機極性溶媒を除去することでオリゴアリーレンスルフィドを固形分として回収することも可能である。この有機極性溶媒の除去方法としては例えば蒸留により除去する方法や、有機極性溶媒と混和する第三の溶剤と接触させる方法などが例示できる。
蒸留により除去する具体的な方法としては、濾液成分を好ましくは20〜250℃、より好ましくは40〜200℃、さらに好ましくは100〜200℃、よりいっそう好ましくは120〜200℃に加熱する方法が例示できる。この加熱を減圧条件下や気流下で行うこと、さらには攪拌条件下で行うことで効率よく有機極性溶媒の除去を行うことが可能である。なお、加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、これによりオリゴアリーレンスルフィドの分解、着色、架橋などを抑制できる傾向にある。なおここで、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
また、このようにして有機極性溶媒を除去したオリゴアリーレンスルフィドを後述する第三の溶剤を用いて更に洗浄することも可能であり、これによりオリゴアリーレンスルフィドに残留したイオン性化合物や有機極性溶媒を更に低減できる傾向にある。
濾液成分を第三の溶剤で溶剤置換する方法でオリゴアリーレンスルフィドを得る具体的な方法としては、オリゴアリーレンスルフィドが溶解しない、もしくはオリゴアリーレンスルフィドが溶解しにくい第三の溶剤と接触させることで、オリゴアリーレンスルフィドを固形成分として回収する方法を例示できる。
濾液成分を第三の溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましい。このような圧力の系はそれを構築する部材が安価であるという利点があり、この観点から濾液成分と第三の溶剤を接触させる系の圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。第三の溶剤として好ましい溶剤としては、オリゴアリーレンスルフィドの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒および水が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、アセトン、酢酸エチルおよび水が特に好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
濾液成分を第三の溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、上限温度は使用する第三の溶剤の常圧下での環流条件温度以下にすることが望ましく、前述した好ましい第三の溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。濾液成分を第三の溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示できる。
濾液成分を第三の溶剤と接触させる方法としては、濾液成分に第三の溶剤を加えて必要に応じて攪拌して混合する方法、濾液成分を第三の溶剤に必要に応じて攪拌しながら加えて混合する方法を例示できる。この方法によれば、濾液成分と第三の溶剤の接触に伴ってオリゴアリーレンスルフィドが固形分として析出するため、公知の固液分離法を用いて固体状のオリゴアリーレンスルフィドを回収することが可能である。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。固液分離後に得られたオリゴアリーレンスルフィドに有機極性溶媒、アルカリ金属ハロゲン化物、スルフィド化剤、ジハロ芳香族化合物が残存している場合は、再度えられたオリゴアリーレンスルフィドと第三の溶剤とを接触させて、さらにこれらを低減することも可能である。
かくして得られたオリゴアリーレンスルフィドは濾液成分との接触に用いた第三の溶剤を含むので、所望に応じて常圧下および/または減圧下に乾燥することも可能である。かかる乾燥温度としては、50〜200℃の範囲が好ましく、70〜150℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、減圧下で行うことが好ましく、常圧下で乾燥を行って大部分の溶剤を除去した後、減圧下で再度乾燥することも好ましい方法である。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
(12)生成ポリアリーレンスルフィド
本発明により得られるPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形することができる。また、本発明により発現する顕著な効果として、PASの含む金属含量が公知の方法により得られるPASと比べて著しく低減されるため、電気的特性、特に絶縁特性が重視される用途には特に好ましく用いることが可能である。同時に、オリゴマー成分含有量も公知の方法により得られるPASと比べて著しく少ないため、耐薬品性やオリゴマー溶出量およびガス発生量が重要視される用途に好ましく用いることが可能である。
また、本発明で得られるPASは、単独で用いてもよいし、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを添加することもでき、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミドなどの樹脂を配合することもできる。
またその用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、燃料タンク、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー等の自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。
本発明により得られたPASを用いたPASフィルムの製造方法としては、公知の溶融製膜方法を採用することができ、例えば、単軸または2軸の押出機中でPASを溶融後、フィルムダイより押出し冷却ドラム上で冷却してフィルムを作成する方法、あるいは、このようにして作成したフィルムをローラー式の縦延伸装置とテンターと呼ばれる横延伸装置にて縦横に延伸する二軸延伸法などにより製造することができるが、特にこれに限定されるものではない。
このようにして得られたPASフィルムは、優れた機械特性、電気特性、耐熱性を有しており、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム用途、回路基板、絶縁基板用途、モーター絶縁フィルム用途、トランス絶縁フィルム用途、離型用フィルム用途など各種用途に好適に使用することができる。
本発明により得られるPASを用いたPAS繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を適用することができ、例えば、原料であるPASチップを単軸または2軸の押出機に供給しながら混練し、ついで押出機の先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層などを経て紡糸口金より押出し、冷却、延伸、熱セットを行う方法などを採用することができるが、特にこれに限定されるものではない。
このようにして得られたPASのモノフィランメントあるいは短繊維は、抄紙ドライヤーキャンバス、ネットコンベヤー、バグフィルター、絶縁ペーパーなどの各種用途に好適に使用することができる。
(13)生成オリゴアリーレンスルフィド
本発明の方法で得られたオリゴアリーレンスルフィドは、通常、環式オリゴアリーレンスルフィドを50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含む純度の高いものであり、一般的に得られる線状のPASとは異なる特性を有する工業的にも利用価値の高いものである。また、本発明の製造方法により得られる環式オリゴアリーレンスルフィドは前記式(チ)におけるmが単一ではなく、m=4〜50の異なるmを有する前記式(チ)が得られやすいという特徴を有する。ここで好ましいmの範囲は4〜25,より好ましくは4〜20である。mがこの範囲の場合、後述するように環式PASを開環重合に用いる場合に重合反応が進行しやすく、高分子量体が得られやすくなる傾向にある。この理由は現時点判然とはしないが、この範囲の環式PASは分子が環式であるがために生じる結合のゆがみが大きく、重合時に開環反応が起こりやすいためと推測している。
なお、mが単一の環式PASは単結晶として得られるため、極めて高い融解温度を有するが、本発明では環式PASは異なるmを有する混合物が得られやすく、これにより環式PASの融解温度が低いという特徴があり、このことはたとえば環式PASを溶融して用いる際の加熱温度を低くできるという優れた特徴を発現することになる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<分子量測定>
ポリアリーレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<アルカリ金属含有量の定量>
PAS及びオリゴアリーレンスルフィドスルフィドの含有するアルカリ金属含有量の定量は下記により行った。
(a) 試料を石英るつぼに秤とり、電気炉を用いて灰化した。
(b) 灰化物を濃硝酸で溶解した後、希硝酸で定容とした。
(c) 得られた定容液をICP重量分析法(装置;Agilent製4500)及びICP発光分光分析法(装置;PerkinElmer製Optima4300DV)に処した。
<ポリアリーレンスルフィドの低分子化合物含有率>
ポリアリーレンスルフィドの低分子化合物の含有量は、PASを熱クロロホルムで抽出することで、熱クロロホルム可溶分の重量分率として見積もった。抽出操作は下記方法により行った。
(a)PAS5gをクロロホルム100gを用いて、バス温度85℃で5時間ソックスレー抽出した。
(b)ロータリーエバポレーターを用いて得られた抽出液からクロロホルムを留去した。
(c)ついで70℃にて真空乾燥を3時間行い、得られた固形分の重量を求め、PAS重量に対する重量分率を算出した。
[参考例1]
ここでは従来技術によるPASの製造、すなわちスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で接触させてPASの製造を行った例を示す。
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を116.9g(1.00モル)、96%水酸化ナトリウム43.8g(1.05モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)198.3g(2.00モル)、酢酸ナトリウム8.2g(0.10モル)、及びイオン交換水150gを仕込んだ。オートクレーブに精留塔を取り付けた後、240rpmで攪拌を開始し、常圧で窒素を通じながら内温235℃まで約3時間かけて徐々に加熱した。この間に精留塔から212gが系外に留出した。また、硫化水素の飛散量は0.012モルであった。なお、留出液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、水209gおよびNMP3.5gの混合液であり、反応系内の水及びNMPの量はそれぞれ2.3g、194.8gであることがわかった。
留出終了後、反応容器を約160℃に冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)148.5g(1.01モル)およびNMP99.1g(1.00モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら、約30分かけて200℃まで昇温した後、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温して、270℃で反応を140分間継続した。その後、250℃まで15分かけて冷却しながら、水36g(2.00モル)を系内に注入し、次いで250℃から220℃まで 0.4℃/分の速度で冷却した。その後室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、500gのNMPで希釈してスラリー状とし、85℃で約30分間攪拌した後、スラリーをステンレス製80meshふるいで濾別して固形分を回収した。得られた固形分にNMP400gを加え85℃で約30分間攪拌したのち同様に濾別し固形分を回収した。その後800gの温水で攪拌、洗浄、濾別する操作を5回繰り返し粒状の固形分を得た。これを60℃で熱風乾燥した後、120℃で減圧乾燥し、乾燥固体約90gを得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルより線状のポリフェニレンスルフィドであることがわかった。また重量平均分子量は38,600であった。ここで得られたポリフェニレンスルフィドを以下、PPS−1と称する。
[参考例2]
ここではスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られるPASとオリゴアリーレンスルフィドを含むPAS混合物からオリゴアリーレンスルフィドを分離する方法により、参考例1よりも分子量の低いPASを製造した例を示す。
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を14.03g(0.120モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液12.50g(0.144モル)、NMP615.0g(6.20モル)、及びp−DCB17.99g(0.122モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で1.3MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を除去した。
抽出操作後に円筒濾紙内に残留した固形成分を70℃で一晩減圧乾燥しオフホワイト色の固体を約6.98g得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルよりこれは線状のポリフェニレンスルフィドであり、また、重量平均分子量は6,300であった。ここで得られたポリフェニレンスルフィドを以下、PPS−2と称する。
[参考例3]
ここでは、ポリアリーレンスルフィド(PPS−1)とスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で加熱させて得られるポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む反応混合物の調製について示す。
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例1で得られたPPS−1を10.37g(イオウ成分量0.0960mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を2.817g(水硫化ナトリウム1.345g(0.0240mol),水1.472g(0.0818mol))、純度96%の水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液2.500g(水酸化ナトリウム1.200g(0.0300mol),水1.300g(0.0722mol))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)3.528g(0.0240mol)を仕込んだ。PPS−1および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.120molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルあたりの溶媒量は約5.0Lであった。
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で1.0MPaであった。250℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
[参考例4]
ここでは、ポリアリーレンスルフィド(PPS−2)とスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で加熱させて得られるポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む反応混合物の調製について示す。
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例2で得られたPPS−2を10.37g(イオウ成分量0.0960mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を2.817g(水硫化ナトリウム1.345g(0.0240mol),水1.472g(0.0818mol))、純度96%の水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液2.500g(水酸化ナトリウム1.200g(0.0300mol),水1.300g(0.0722mol))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)4.410g(0.0300mol)を仕込んだ。PPS−2および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.120molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルあたりの溶媒量は約5.0Lであった。
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で1.0MPaであった。250℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
[実施例1]
ここでは参考例3で得られた反応混合物を固液分離(A)および固液分離(B)に処してポリフェニレンスルフィドおよびオリゴフェニレンスルフィドを分離する方法について例示する。
<固液分離(A)>
底栓弁および底部にガラス製フィルター(平均目開き10μ)を具備したステンレス製耐圧容器に参考例3で得られた反応液100gを仕込んだ。常圧下で攪拌しながら180℃に加熱した後、容器を窒素下に密閉した。ついで235℃まで加熱し1時間保持した。
容器の底栓弁出口に冷却管を取り付け、底栓弁を開放して濾過を行った。途中濾過速度が低下した段階で容器内を窒素で加圧しながら濾液を回収した。この操作により濾液約99g、固形分約0.55gを回収した。
<固液分離(B)>
固液分離(A)で得られた濾液を100℃に加熱した。この段階で(A)の固液分離で得られた濾液は不溶部を含むスラリー状であった。このスラリーをPTFE製フィルター(平均目開き10μm)で吸引濾過した。この操作により固形分約2.1g、濾液約97gを回収した。
得られた固形分を3%酢酸水溶液300gに分散させた後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.4g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は68%)を得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量6,400のポリマーであることがわかった。また、低分子化合物含有率は0.25重量%、アルカリ金属含有量は140ppmであり、極めて純度の高いPPSであることがわかった。
<オリゴアリーレンスルフィドの回収>
固液分離(B)で得られた濾液成分を約8倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、平均孔径1μmの濾紙を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約0.61g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は30%)を得た。
このようにして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量1,000のオリゴマーであることが分かった。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式オリゴフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式オリゴフェニレンスルフィドの重量分率は約80%と純度の高い環式オリゴアリーレンスルフィドであることが分かった。
[実施例2]
ここでは、分子量6,300と参考例3よりも低分子量のPPSを原料に用いて反応を行った、参考例4で得られた反応混合物を固液分離(A)および固液分離(B)に処してポリフェニレンスルフィドおよびオリゴフェニレンスルフィドを分離する方法について例示する。
<固液分離(A)>
底栓弁および底部にガラス製フィルター(平均目開き10μ)を具備したステンレス製耐圧容器に参考例4で得られた反応液100gを仕込んだ。常圧下で攪拌しながら180℃に加熱した後、容器を窒素下に密閉した。ついで235℃まで加熱し1時間保持した。
容器の底栓弁出口に冷却管を取り付け、底栓弁を開放して濾過を行った。途中濾過速度が低下した段階で容器内を窒素で加圧しながら濾液を回収した。この操作により濾液約99g、固形分約0.54gを回収した。
<固液分離(B)>
固液分離(A)で得られた濾液を100℃に加熱した。この段階で固液分離(A)で得られた濾液は不溶部を含むスラリー状であった。このスラリーをPTFE製フィルター(平均目開き10μm)で吸引濾過した。この操作により固形分約2.0g、濾液約97gを回収した。
得られた固形分を3%酢酸水溶液300gに分散させた後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.4g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は67%)を得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量6,300のポリマーであることがわかった。また、低分子化合物含有率は0.25重量%、アルカリ金属含有量は140ppmであり、極めて純度の高いPPSであることがわかった。
<オリゴアリーレンスルフィドの回収>
固液分離(B)で得られた濾液成分を約8倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、平均孔径1μmの濾紙を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る作業を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾固固体約0.62g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は30%)を得た。
このようにして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量1,000のオリゴマーであることが分かった。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式オリゴフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式オリゴフェニレンスルフィドの重量分率は約78%と純度の高い環式オリゴアリーレンスルフィドであることが分かった。
[実施例3]
ここでは、参考例4で得られた反応混合物を固液分離(A)および固液分離(B)に処してポリフェニレンスルフィドおよびオリゴフェニレンスルフィドを分離する方法について、固液分離温度(B)の温度を実施例2よりも高温にして行った。
<固液分離(A)>
底栓弁および底部にガラス製フィルター(平均目開き10μ)を具備したステンレス製耐圧容器に参考例4で得られた反応液100gを仕込んだ。常圧下で攪拌しながら180℃に加熱した後、容器を窒素下に密閉した。ついで235℃まで加熱し1時間保持した。
容器の底栓弁出口に冷却管を取り付け、底栓弁を開放して濾過を行った。途中濾過速度が低下した段階で容器内を窒素で加圧しながら濾液を回収した。この操作により濾液約99g、固形分約0.55gを回収した。
<固液分離(B)>
固液分離(A)で得られた濾液を150℃に加熱した。この段階で固液分離(A)で得られた濾液は不溶部を含むスラリー状であった。このスラリーをPTFE製フィルター(平均目開き10μm)で吸引濾過した。この操作により固形分約1.6g、濾液約98gを回収した。
得られた固形分を3%酢酸水溶液300gに分散させた後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.2g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は57%)を得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量6,400のポリマーであることがわかった。また、低分子化合物含有率は0.21重量%、アルカリ金属含有量は130ppmであり、極めて純度の高いPPSであることがわかった。
固液分離(B)の温度を高温にすることで、収率は低下するものの、より低分子化合物含有率の低減された高純度のPPSが得られることが分かった。
<オリゴアリーレンスルフィドの回収>
固液分離(B)で得られた濾液成分を約8倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、平均孔径1μmの濾紙を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る作業を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾固固体約0.82g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は40%)を得た。
このようにして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量1,000のオリゴマーであることが分かった。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式オリゴフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式オリゴフェニレンスルフィドの重量分率が約64%の環式オリゴアリーレンスルフィドであることが分かった。
[実施例4]
ここでは、参考例4で得られた反応混合物を固液分離(A)および固液分離(B)に処してポリフェニレンスルフィドおよびオリゴフェニレンスルフィドを分離する方法について、固液分離温度(B)の温度を実施例2よりも低温にして行った。
<固液分離(A)>
底栓弁および底部にガラス製フィルター(平均目開き10μ)を具備したステンレス製耐圧容器に参考例4で得られた反応液100gを仕込んだ。常圧下で攪拌しながら180℃に加熱した後、容器を窒素下に密閉した。ついで235℃まで加熱し1時間保持した。
容器の底栓弁出口に冷却管を取り付け、底栓弁を開放して濾過を行った。途中濾過速度が低下した段階で容器内を窒素で加圧しながら濾液を回収した。この操作により濾液約99g、固形分約0.55gを回収した。
<固液分離(B)>
固液分離(A)で得られた濾液を50℃に加熱した。この段階で固液分離(A)で得られた濾液は不溶部を含むスラリー状であった。このスラリーをPTFE製フィルター(平均目開き10μm)で吸引濾過した。この操作により固形分約2.2g、濾液約97gを回収した。
得られた固形分を3%酢酸水溶液300gに分散させた後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.4g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は69%)を得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量6,300のポリマーであることがわかった。また、低分子化合物含有率は0.33重量%、アルカリ金属含有量は170ppmであり、極めて純度の高いPPSであることがわかった。
<オリゴアリーレンスルフィドの回収>
固液分離(B)で得られた濾液成分を約8倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、平均孔径1μmの濾紙を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る作業を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾固固体約0.58g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は29%)を得た。
このようにして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量1,000のオリゴマーであることが分かった。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式オリゴフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式オリゴフェニレンスルフィドの重量分率が約90%の環式オリゴアリーレンスルフィドであることが分かった。
固液分離(B)の温度を低温にすることで、収率は低下するものの、より純度の高い環状オリゴフェニレンスルフィドが得られることが分かった。
[実施例5]
ここでは、参考例4で得られた反応混合物の回収において、固液分離(A)を行わなかった場合について例示する。
<固液分離(B)>
参考例4で得られた反応混合物100gを100℃に加熱して撹拌した。この反応混合物をPTFE製フィルター(平均孔径1μm)で熱時吸引濾過した。この操作により固形分約2.6g、濾液約97gを回収した。
得られた固形分を3%酢酸水溶液300gに分散させた後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.4g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は67%)を得た。
このようにして得られたPPSを分析した結果、重量平均分子量6,300のポリマーであることが分かった。また、低分子含有率は0.32重量%、アルカリ金属含有量は2,800ppmであり、低分子含有量の低減された純度の高いPPSであることがわかった。アルカリ金属含有量の低減されたより純度の高いPPSを得るためには、(A)の固液分離を行う方がより好ましい容態であることが分かった。
<オリゴアリーレンスルフィドの回収>
固液分離(B)で得られた濾液成分を約8倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、平均孔径1μmの濾紙を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約0.62g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は30%)を得た。
このようにして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体(PPS)であり、GPC測定より重量平均分子量1,000のオリゴマーであることが分かった。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式オリゴフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式オリゴフェニレンスルフィドの重量分率は約78%と、純度の高い環式オリゴフェニレンスルフィドが得られることが分かった。
[比較例1]
ここでは、参考例4で得られた反応混合物の回収において、固液分離(B)を行わなかった場合について例示する。
参考例4で得られた反応液100gを用いて固液分離(A)まで実施例2と同様に実施し、固液分離(A)で得られた濾液成分を約3倍量の脱イオン水に滴下して析出した脱イオン水不溶成分を、ガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)を用いて濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水300gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約2.0g(反応時に反応系内に存在するイオウ成分がすべてPPS成分に転化すると仮定した場合の収率は97%)を得た。このようにして得られたPPSを分析した結果、重量平均分子量4,800のポリマーであることが分かった。また、低分子含有率は25重量%、アルカリ金属含有量は190ppmであった。低分子含有量の低減された純度の高いPPSを得るためには固液分離(B)が必須であることがわかった。
[比較例2]
ここでは、一般的な手法により、ポリフェニレンスルフィド、オリゴフェニレンスルフィドおよびアルカリ金属ハロゲン化物を含む反応混合物を調製し、この反応混合物からPPS成分(PPSおよびオリゴフェニレンスルフィドの混合物)を回収した例を示す。
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を58.4g(0.50モル)、96%水酸化ナトリウム23.0g(0.53モル)をイオン交換水50gに溶解した水溶液、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)198g(2.00モル)を仕込んだ。オートクレーブに精留塔を取り付けた後、常圧で窒素を通じて攪拌しながら内温210℃まで約3時間かけて徐々に加熱した。この間に精留塔から80gが系外に留出した。また、硫化水素の飛散量は0.012モルであった。なお、留出液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、水76.5gおよびNMP3.5gの混合液であり、反応系内の水及びNMPの量はそれぞれ3.8g、195gであることがわかった。
留出終了後、反応容器を約160℃に冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)73.1g(0.50モル)およびNMP300g(1.00モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封した。撹拌しながら、加熱を行い200℃から250℃まで約50分かけて昇温して、250℃で2時間保持した後室温近傍まで急冷した。
このようにして得られた反応物を100g分取し、1%酢酸水溶液300gを加えた。攪拌してスラリー状にした後、70℃に加熱して30分攪拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分をイオン交換水100gに分散させ70℃で30分攪拌して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約8.2g(仕込のスルフィド化剤に対する収率97%)を得た。
この様にして得られた固体を分析した結果、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量16,500のポリマーであることがわかった。また、低分子化合物含有率は4.8重量%、アルカリ金属含有量は8,000ppmであった。本発明の特徴である、ポリフェニレンスルフィドを原料に用いた反応、固液分離(A)および固液分離(B)を行わない一般的な合成、回収方法で得られるPPSは極めて多くの低分子化合物および金属成分を含むものであった。