<延伸フィルムの製造方法>
本発明に係る延伸フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、ポリビニルアルコール系樹脂を「PVA系樹脂」ともいう。)を延伸する延伸工程を実施して得られるフィルムである。本発明に係る延伸フィルムは、基材フィルムによって支持された状態(基材フィルム上に積層された状態)で存在するフィルムであってもよいし、基材フィルムによって支持されることなくそれ単独で存在するフィルムであってもよい。前者の場合、基材フィルムとその上に形成されたPVA系樹脂フィルム(PVA系樹脂層)とを含む積層フィルムを上記延伸工程に供することにより、基材フィルムによって支持された延伸フィルムが得られる(第1実施形態)。後者の場合、単独のPVA系樹脂フィルムを上記延伸工程に供することにより単独の延伸フィルムが得られる(第2実施形態)。
以下では、基材フィルムによって支持された延伸フィルムを製造する第1実施形態について主に説明する。図1を参照して、第1実施形態に係る延伸フィルムの製造方法は、下記工程:
基材フィルムの少なくとも一方の面にPVA系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによりPVA系樹脂フィルムを形成して積層フィルムを得るPVA系樹脂フィルム形成工程S10、及び
積層フィルムを延伸して、基材フィルム及び延伸フィルムを含む延伸積層フィルムを得る延伸工程S20
をこの順で含む方法であってよい。
以下、各工程について説明する。なお、PVA系樹脂フィルム形成工程S10において、基材フィルムの両面にPVA系樹脂フィルムを形成してもよいが、以下では主に片面に形成する場合について説明する。
(1)PVA系樹脂フィルム形成工程S10
図2を参照して本工程は、基材フィルム30の少なくとも一方の面にPVA系樹脂フィルム6を形成して積層フィルム100を得る工程である。PVA系樹脂層6は、PVA系樹脂を含有する塗工液を基材フィルム30の片面又は両面に塗工し、塗工層を乾燥させることにより形成することができる。このような塗工によりPVA系樹脂フィルム6を形成する方法は、薄膜のPVA系樹脂フィルム6、ひいては薄膜の偏光フィルムを得やすい点で有利である。
基材フィルム30は熱可塑性樹脂から構成することができ、中でも透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例は、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;及びこれらの混合物、共重合物を含む。
基材フィルム30は、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。基材フィルム30は、後述する延伸工程S20において、PVA系樹脂フィルムを延伸するのに好適な延伸温度で延伸できるような樹脂で構成されることが好ましい。
基材フィルム30は、添加剤を含有することができる。添加剤の具体例は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、及び着色剤を含む。
基材フィルム30の厚みは通常、強度や取扱性等の点から1〜500μmであり、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜150μmである。
基材フィルム30に塗工する塗工液は、PVA系樹脂及び水を含有するPVA系樹脂の水溶液であることが好ましい。この水溶液は、必要に応じて、水以外の溶剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。水以外の溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、多価アルコール(グリセリン等)に代表されるアルコールのような、水に相溶性のある有機溶剤を挙げることができる。
PVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」などについても同様である。
PVA系樹脂のケン化度は、80.0〜100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0〜99.5モル%の範囲であり、より好ましくは94.0〜99.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、延伸フィルムから得られる偏光フィルムの耐水性が低下しやすい。ケン化度が99.5モル%を超えるPVA系樹脂を使用した場合、後述する偏光フィルムの製造方法における染色工程での染色速度が遅くなり、生産性が低下するとともに十分な偏光性能を有する偏光フィルムが得られにくいことがある。
ケン化度とは、PVA系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:−OCOCH3)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、従って結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
PVA系樹脂は、一部が変性されている変性ポリビニルアルコールであってもよい。例えば、PVA系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド等で変性したものが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行った場合には、延伸フィルムに二色性色素が吸着されにくくなり、十分な偏光性能を有する偏光フィルムが得られにくい傾向がある。
PVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは100〜10000であり、より好ましくは1500〜8000であり、さらに好ましくは2000〜5000である。PVA系樹脂の平均重合度もJIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。
上記塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、ワイヤーバーコーティング法;リバースコーティング、グラビアコーティングのようなロールコーティング法;ダイコート法;カンマコート法;リップコート法;スピンコーティング法;スクリーンコーティング法;ファウンテンコーティング法;ディッピング法;スプレー法等の方法から適宜選択することができる。塗工層は、基材フィルム30の一方の面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
塗工層の乾燥温度及び乾燥時間は塗工液に含まれる溶媒の種類に応じて設定される。乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
積層フィルム100におけるPVA系樹脂フィルム6の厚みは、好ましくは3〜100μmであり、より好ましくは5〜50μmであり、さらに好ましくは5〜30μmである。この範囲内の厚みを有するPVA系樹脂フィルム6であれば、後述する延伸工程S20及び染色工程を経て、二色性色素の染色性が良好で偏光性能に優れ、かつ十分に薄い(例えば厚み10μm以下の)偏光フィルムを得ることができる。
塗工液の塗工に先立ち、基材フィルム30とPVA系樹脂フィルム6との密着性を向上させるために、少なくとも塗工層が形成される側の基材フィルム30の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム(火炎)処理等を施してもよい。また同様の理由で、基材フィルム30上にプライマー層等を介して塗工層を形成してもよい。
プライマー層は、プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30の表面に塗工した後、乾燥させることにより形成することができる。この塗工液は、基材フィルム30とPVA系樹脂フィルム6との両方にある程度強い密着力を発揮する成分を含み、通常は、このような密着力を付与する樹脂成分と溶媒とを含む。樹脂成分としては、好ましくは透明性、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑樹脂が用いられ、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。中でも、良好な密着力を与えるポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。より好ましくは、ポリビニルアルコール樹脂である。溶媒としては通常、上記樹脂成分を溶解できる一般的な有機溶媒や水系溶媒が用いられるが、水を溶媒とする塗工液からプライマー層を形成することが好ましい。
プライマー層の強度を上げるために、プライマー層形成用塗工液に架橋剤を添加してもよい。架橋剤の具体例は、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系(例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物)、高分子系の架橋剤を含む。プライマー層を形成する樹脂成分としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ジアルデヒド系架橋剤、金属キレート化合物系架橋剤等が好適に用いられる。
プライマー層の厚みは、0.05〜1μm程度であることが好ましく、0.1〜0.4μmであることがより好ましい。0.05μmより薄くなると、基材フィルム30とPVA系樹脂フィルム6との密着力向上の効果が小さい。
プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、上記PVA系樹脂フィルム形成用の塗工液と同様であることができる。プライマー層形成用塗工液からなる塗工層の乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
(2)延伸工程S20
図3を参照して本工程は、基材フィルム30及びPVA系樹脂フィルム6を含む積層フィルム100を延伸して、延伸された基材フィルム31及びPVA系樹脂からなる延伸フィルム7を含む延伸積層フィルム200を得る工程である。延伸工程S20は、TDへの延伸(横延伸)とMDへの収縮(縦収縮)とを同時に行う同時二軸延伸処理工程を含む。
図4は、本発明に係る延伸工程S20に含まれる同時二軸延伸処理工程の延伸パターンの一例を示すグラフである。グラフの横軸は、TDの延伸倍率A(TD延伸倍率、単位:倍)である。同時二軸延伸処理工程の開始時におけるPVA系樹脂フィルム6のTD延伸倍率をA0〔倍〕、同時二軸延伸処理工程の終了時におけるTD延伸倍率をA1〔倍〕とするとき、TD延伸倍率Aは、同時二軸延伸処理工程においてA0を超え、A1以下の値を採り得る。TD延伸倍率Aは、下記式:
TD延伸倍率A〔倍〕=(延伸されたPVA系樹脂フィルム6のTD長さ)/(同時二軸延伸処理工程に供されるPVA系樹脂フィルム6のTD長さ)
で表される。「TD長さ」は、PVA系樹脂フィルム6の幅と同義である。「延伸されたPVA系樹脂フィルム6」とは、必ずしも同時二軸延伸処理工程終了時のPVA系樹脂フィルム6のみを指すものではなく、同時二軸延伸処理工程途中の延伸されたPVA系樹脂フィルム6をも指している。
図4に示されるグラフの縦軸は、MDの収縮倍率B(MD収縮倍率、単位:倍)である。同時二軸延伸処理工程の開始時におけるPVA系樹脂フィルム6のMD収縮倍率(TD延伸倍率がA0〔倍〕であるときのMD収縮倍率)をB0、同時二軸延伸処理工程の終了時におけるMD収縮倍率(TD延伸倍率がA1〔倍〕であるときのMD収縮倍率)をB1とするとき、MD収縮倍率Bは、同時二軸延伸処理工程においてB1以上B0未満の値を採り得る。MD収縮倍率Bは、下記式:
MD収縮倍率B〔倍〕=(収縮したPVA系樹脂フィルム6のMD長さ)/(同時二軸延伸処理工程に供されるPVA系樹脂フィルム6のMD長さ)
で表される。「MD長さ」は、PVA系樹脂フィルム6の長さと同義である。「収縮したPVA系樹脂フィルム6」とは、必ずしも同時二軸延伸処理工程終了時のPVA系樹脂フィルム6のみを指すものではなく、同時二軸延伸処理工程途中の収縮したPVA系樹脂フィルム6をも指している。
図4を参照して、上記の同時二軸延伸処理工程においてPVA系樹脂フィルム6は、A0〜n・A1のTD延伸倍率範囲での同時二軸延伸処理におけるMDの平均歪速度S1が3.2〔%/秒〕以下となるように延伸される。ここで、nは0<n≦0.5を満たす数であり、n・A1はA0より大きい。このような同時二軸延伸処理工程の初期又は前半におけるMDの平均歪速度を小さくした所定の同時二軸延伸処理工程を含む延伸処理方法によれば、TD延伸倍率が高く、かつボーイング量の小さいポリビニルアルコール系樹脂からなる延伸フィルム7を安定して製造することができる。この延伸フィルム7を原料フィルムとして製造される偏光フィルムは、TDを遅相軸(吸収軸)方向とする偏光フィルムであり、また、良好な光学性能(偏光性能等)を示すことができる。ボーイング量を小さくする観点から、MDの平均歪速度S1は、好ましくは3.1〔%/秒〕以下であり、より好ましくは2.5〔%/秒〕以下である。また、外観品質を保持するうえで、MDの平均歪速度S1は、1.7〔%/秒〕以上であることが好ましい。
なお、TDへの延伸で生じるボーイングを抑制する方法として、延伸温度を徐々に下げたり、TDへの延伸後に所定の量でTDへ収縮(横延伸を緩和)させたりする方法が従来公知であるが、延伸温度の精密な管理が必要であったり、延伸操作が煩雑であったりするため改良の余地があった。
MDの平均歪速度〔%/秒〕とは、フィルムのMDにおける収縮速度、すなわち、単位時間〔秒〕あたりのフィルムのMD収縮率〔%〕を意味する。MD収縮率〔%〕とは、MD収縮倍率Bx〔倍〕のフィルムをMD収縮倍率By〔倍〕まで収縮させるとき(Bx>By)、下記式:
MD収縮率〔%〕={(Bx−By)/Bx}×100
で定義される。A0〜n・A1のTD延伸倍率範囲におけるMDの平均歪速度S1は、A0〜n・A1のTD延伸倍率範囲におけるMD収縮率〔%〕を、TD延伸倍率がA0からn・A1になるのに要した時間Tn〔秒〕で除することによって求められ、具体的には、下記式:
平均歪速度S1〔%/秒〕
=(A0〜n・A1のTD延伸倍率範囲におけるMD収縮率〔%〕)/Tn〔秒〕
=[{(B0−B2)/B0}×100〔%〕]/Tn〔秒〕
で定義される。ここでB2は、TD延伸倍率がn・A1〔倍〕であるときのMD収縮倍率〔倍〕である。なお、図4に示されるTD延伸倍率A対MD収縮倍率Bのグラフから直接、MDの平均歪速度S1を読み取ることはできない。
本発明者の検討によれば、ボーイング量を抑制するうえで、同時二軸延伸処理工程の前段でのMDの平均歪速度S1を3.2〔%/秒〕以下とすることが肝要であり、前段の中の限定された範囲でのMDの平均歪速度S1がボーイング量にとりわけ大きく影響を与えることが明らかとなっている。かかる知見に基づき、3.2〔%/秒〕以下の平均歪速度S1とされるTD延伸倍率範囲の終点n・A1〔倍〕は、0.25A1〜0.45A1の範囲内にあることが好ましく、0.3A1〜0.4A1の範囲内にあることがより好ましい。
ボーイング量を抑制する観点から、3.2〔%/秒〕以下の平均歪速度S1とされるTD延伸倍率範囲の終点は、1超2.5倍以下の範囲内にあることが好ましく、1.3〜2倍の範囲内にあることがより好ましく、1.5〜1.8倍の範囲内にあることがさらに好ましい。
また、ボーイング量を抑制する観点から、A0〜0.3A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-1、A0〜0.35A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-2、A0〜0.4A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-3、A0〜0.45A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-4、A0〜0.5A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-5とするとき、好ましくはS1-1が3.2〔%/秒〕以下であり、より好ましくはS1-1及びS1-2が3.2〔%/秒〕以下であり、さらに好ましくはS1-1、S1-2及びS1-3が3.2〔%/秒〕以下であり、特に好ましくはS1-1、S1-2、S1-3及びS1-4が3.2〔%/秒〕以下であり、最も好ましくはS1-1、S1-2、S1-3、S1-4及びS1-5が3.2〔%/秒〕以下である。
なお、図4の例においては、MD収縮倍率変化量/TD延伸倍率変化量の比(すなわち、グラフの傾き)が変化する点にn・A1を置いているが、これに限定されるものではない。例えば、3.2〔%/秒〕以下の平均歪速度S1とされるTD延伸倍率範囲A0〜n・A1の中で、MD収縮倍率変化量/TD延伸倍率変化量の比が変化してもよい。TD延伸倍率範囲n・A1〜A1の中においても同様である。
3.2〔%/秒〕以下の平均歪速度S1とされるTD延伸倍率範囲におけるMD収縮率に関し、この値があまりに大きいと、同時二軸延伸処理工程の後段においてMDに大きく収縮させる必要が生じ、その結果、延伸フィルム7にシワ等の外観不良が生じやすくなる。この点に鑑み、TD延伸倍率がn・A1〔倍〕であるときのMD収縮倍率B2は、点(A0,B0)と点(A1,B1)とを結ぶ直線上でのTD延伸倍率n・A1におけるMD収縮倍率よりも小さいことが好ましく、この要件は、A0〜n・A1の全範囲にわたって満たされることがより好ましい。より具体的には、延伸フィルム7にシワ等の外観不良が生じることを抑制するために、TD延伸倍率がn・A1〔倍〕であるときのMD収縮倍率B2は、点(A0,B0)と点(A1,B1)とを結ぶ直線上でのTD延伸倍率n・A1におけるMD収縮倍率の0.95倍以下であることが好ましく、0.9倍以下であることがより好ましい。TD延伸倍率がn・A1〔倍〕であるときのMD収縮倍率B2は、MDの平均歪速度S1を3.2〔%/秒〕以下にする観点から、点(A0,B0)と点(A1,B1)とを結ぶ直線上でのTD延伸倍率n・A1におけるMD収縮倍率の0.6倍以上であることが好ましい。
また、n・A1〜A1のTD延伸倍率範囲での同時二軸延伸処理におけるMDの平均歪速度をS2とするとき、同時二軸延伸処理工程はS1>S2を満たすことが好ましい。S1>S2を満たすことは、MD収縮率を大きくし、光学性能を高めるうえで有利である。より具体的には、0.3A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS2-1、0.35A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS2-2、0.4A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS2-3、0.45A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS2-4、0.5A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度をS1-5とするとき、好ましくはS1-1>S2-1を満たし、より好ましくはS1-1>S2-1及びS1-2>S2-2を満たし、さらに好ましくはS1-1>S2-1、S1-2>S2-2及びS1-3>S2-3を満たし、特に好ましくはS1-1>S2-1、S1-2>S2-2、S1-3>S2-3及びS1-4>S2-4を満たし、最も好ましくはS1-1>S2-1、S1-2>S2-2、S1-3>S2-3、S1-4>S2-4及びS1-5>S2-5を満たす。MDの平均歪速度S2は、平均歪速度S1と同様にして求められる。
延伸工程S20は、同時二軸延伸処理工程の前に、横延伸、縦収縮等の他の延伸処理工程を含んでいてもよい。ただし、ボーイングを効果的に抑制する観点からは、延伸処理工程S20において上記の同時二軸延伸処理工程を最初に実施することが好ましい。この場合、同時二軸延伸処理工程に供されるフィルムは未延伸のPVA系樹脂フィルム6(基材フィルムに支持されている場合には積層フィルム100)である。
延伸工程S20は、同時二軸延伸処理工程の後に、横延伸、縦収縮等の他の延伸処理工程を含んでいてもよい。ただし、ボーイングを効果的に抑制する観点からは、延伸処理工程S20は上記の同時二軸延伸処理工程で終わることが好ましい。この場合、この同時二軸延伸処理工程の実施によりTD延伸倍率A及びMD収縮倍率Bが所望値(下記Af及びBf)となるまでPVA系樹脂フィルム6を同時二軸延伸して、最終的なTD延伸倍率Af及び最終的なMD収縮倍率Bfを有する延伸フィルム7が得られることとなる。
延伸工程S20での一連の延伸処理によって得られる延伸フィルム7における上記最終的なTD延伸倍率Afは、5倍以上であることが好ましく、5.3倍以上であることがより好ましい。本発明に従う延伸方法によれば、ボーイング量を低減しながらシワ発生等の不具合を生じることなく、5倍以上のTD延伸倍率Afを達成することができる。最終的なTD延伸倍率Afは、通常10倍以下であり、好ましくは7倍以下である。10倍を超えるTD延伸は、延伸フィルムの厚みにもよるが、フィルム破断を伴いやすい。
延伸フィルム7における上記最終的なMD収縮倍率Bfは、0.2〜0.8倍であることが好ましく、0.35〜0.7倍であることがより好ましい。MD収縮倍率Bfがこの範囲内であると、TDへの高延伸倍率が容易となり、また、ボーイングの抑制によってTDへの軸配向性が良好となる。
TDへの延伸(横延伸)とMDへの収縮(縦収縮)とを同時に行う同時二軸延伸処理には、公知のテンター式延伸装置を用いることができる。図5は、テンター式延伸装置の内部構成の一例を模式的に示す平面図である。図5に示されるように、テンター式延伸装置は、走行するフィルム(PVA系樹脂フィルム6)の幅方向両端部を走行方向(機械流れ方向)に配列された複数のクリップ50で把持し、延伸ゾーンにおいてクリップ50をフィルムとともに走行させながら幅方向のクリップ間隔を広げることによってフィルムを幅方向に延伸するとともに、走行方向のクリップ間隔を狭めることによってフィルムを走行方向に収縮させる。より具体的には、延伸ゾーン手前での幅方向のクリップ間隔D1よりも延伸ゾーンから出た直後の幅方向のクリップ間隔D2を大きくすることによりTD延伸を施すことができる。また、延伸ゾーン手前での走行方向のクリップ間隔G1よりも延伸ゾーンから出た直後の走行方向のクリップ間隔G2を小さくすることによりMD収縮を施すことができる。これらのクリップ間隔の調整により同時二軸延伸処理の延伸パターンを制御することができる。また、MDの平均歪速度は、クリップ間隔G1をG2にするときの速度を調整することによって制御できる。
同時二軸延伸処理工程を含む延伸工程S20における延伸温度は、基材フィルム30によって支持されたPVA系樹脂フィルム6、すなわち積層フィルム100を延伸工程S20に供する場合、PVA系樹脂フィルム6及び基材フィルム30全体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定され、好ましくは基材フィルム30の相転移温度(融点又はガラス転移温度)の−30℃から+30℃の範囲であり、より好ましくは−30℃から+5℃の範囲であり、さらに好ましくは−25℃から+0℃の範囲である。基材フィルム30が複数の樹脂層からなる場合、上記相転移温度は該複数の樹脂層が示す相転移温度のうち、最も高い相転移温度を意味する。
延伸温度を相転移温度の−30℃より低くすると、5倍以上の高倍率延伸が達成されにくいか、又は、基材フィルム30の流動性が低すぎて延伸処理が困難になる傾向にある。延伸温度が相転移温度の+30℃を超えると、基材フィルム30の流動性が大きすぎて延伸が困難になる傾向にある。積層フィルム100を延伸工程S20に供する場合、5倍以上の高延伸倍率をより達成しやすいことから、延伸温度は上記範囲内であって、さらに好ましくは120℃以上である。また延伸温度は、通常230℃以下である。
延伸処理におけるフィルムの加熱方法としては、ゾーン加熱法(例えば、熱風を吹き込み所定の温度に調整した加熱炉のような延伸ゾーン内で加熱する方法。);ヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等をフィルムの上下に設置し輻射熱で加熱する方法)等がある。
延伸工程S20に先立ち、延伸工程S20に供されるフィルムを予熱する予熱処理工程を設けてもよい。予熱方法としては、延伸処理における加熱方法と同様の方法を用いることができる。予熱温度は、延伸温度の−50℃から±0℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−40℃から−10℃の範囲であることがより好ましい。
また、延伸工程S20における延伸処理の後に、熱固定処理工程を設けてもよい。熱固定処理は、延伸フィルム7の端部をクリップにより把持した状態で緊張状態を維持しながら、PVAの結晶化温度以上で熱処理を行う処理である。この熱固定処理によって延伸フィルム7の結晶化が促進される。熱固定処理の温度は、延伸温度の−0℃〜−80℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−0℃〜−50℃の範囲であることがより好ましい。
延伸工程S20を経て得られる延伸フィルム7の厚みは、例えば30μm以下、さらには20μm以下であることができるが、偏光フィルム、ひいては偏光板の薄型化の観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。延伸フィルム7の厚みは、通常2μm以上である。
以上、基材フィルム30に支持されたPVA系樹脂フィルム6から、基材フィルム31に支持された延伸フィルム7を製造する方法(第1実施形態)を例に挙げて、本発明に係る延伸フィルムの製造方法について説明したが、基材フィルム30に支持されることなく単独で存在するPVA系樹脂フィルムに対しても、上と同様に所定の延伸工程を施すことにより、TD延伸倍率が高く、かつボーイング量の小さいポリビニルアルコール系樹脂からなる延伸フィルム7を安定して製造することができる(第2実施形態)。単独で存在するPVA系樹脂フィルム6を延伸工程S20に供する場合、同時二軸延伸処理工程を含む延伸工程S20における延伸温度は、好ましくは150℃以上である。また延伸温度は、通常230℃以下である。第2実施形態においても、予熱処理工程及び/又は熱固定処理工程を設けることができる。
上記PVA系樹脂フィルム形成工程S10(基材フィルムを用いる場合)及び延伸工程S20は、長尺の基材フィルム30(基材フィルムを用いる場合)や長尺のPVA系樹脂フィルム6(基材フィルムを用いない場合)を連続的に搬送しながら、連続的に実施することができる。この場合、得られる延伸フィルム7も長尺であり、通常は、巻き取り装置で巻き取って延伸フィルム7のロール体とされる。あるいは、連続的に製造される長尺の延伸フィルム7を巻き取ることなく、偏光フィルム化工程(染色工程)に供してもよい。
<偏光フィルム及び偏光板の製造方法>
本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、上記本発明に係る延伸フィルムの製造方法によって得られる延伸フィルムを原料フィルムとして偏光フィルムを製造するものである。この製造方法によれば、TDを遅相軸(吸収軸)方向とし、良好な光学性能を示す偏光フィルムを得ることができる。
原料フィルムとしての延伸フィルムは、基材フィルム31に支持された延伸フィルム7(すなわち延伸積層フィルム200)であってもよいし、基材フィルム30に支持されない単独の延伸フィルム7であってもよい。
延伸積層フィルム200から基材フィルムに支持された偏光フィルムを製造する方法を例に挙げると、この製造方法は、図6を参照して、下記工程:
延伸積層フィルムの延伸フィルムを二色性色素で染色して偏光フィルム(偏光子層)を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S30
を含む方法であることができる。偏光性積層フィルムは、基材フィルムとその上に積層された偏光フィルムとを有する積層フィルム(すなわち基材フィルムに支持された偏光フィルム)である。
図6を参照して、偏光性積層フィルムを下記工程:
偏光性積層フィルムの偏光フィルム上に第1保護フィルムを貼合して保護フィルム付偏光性積層フィルムを得る第1貼合工程S40
に供すれば、保護フィルム付偏光性積層フィルムを得ることができる。
図6を参照して、保護フィルム付偏光性積層フィルムを下記工程:
保護フィルム付偏光性積層フィルムから基材フィルムを剥離除去して片面保護フィルム付偏光板を得る剥離工程S50
に供すれば、片面保護フィルム付偏光板を得ることができ、これをさらに下記工程:
片面保護フィルム付偏光板の偏光フィルム面に第2保護フィルムを貼合する第2貼合工程S60
に供すれば、両面保護フィルム付偏光板を得ることができる。
なお、本明細書においては、偏光フィルムを含み、かつ基材フィルムを含まないフィルム積層体を「偏光板」という。
(1)染色工程S30
図7を参照して本工程は、延伸積層フィルム200の延伸フィルム7を二色性色素で染色してこれを吸着配向させ、偏光フィルム(偏光子層)5とする工程である。本工程を経て基材フィルム31の片面又は両面に偏光フィルム5が積層された偏光性積層フィルム300が得られる。
二色性色素としては、具体的にはヨウ素又は二色性有機染料が挙げられる。二色性有機染料の具体例は、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックを含む。二色性色素は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
染色工程S30は通常、二色性色素を含有する液(染色浴)に延伸積層フィルム200を浸漬することにより行うことができる。染色浴としては、上記二色性色素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色溶液の溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。染色浴における二色性色素の濃度は、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.02〜7重量%であることがより好ましい。
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率を向上できることから、ヨウ素を含有する染色浴にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。染色浴におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.01〜20重量%である。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムとの割合は重量比で、好ましくは1:5〜1:100であり、より好ましくは1:6〜1:80である。染色浴の温度は、好ましくは10〜60℃であり、より好ましくは20〜40℃である。
染色工程S30は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。架橋処理は、架橋剤を含有する液(架橋浴)に染色された延伸フィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。架橋剤は1種のみを使用してもよいし2種以上を併用してもよい。架橋浴としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。架橋浴における架橋剤の濃度は、好ましくは1〜20重量%であり、より好ましくは6〜15重量%である。
架橋浴はヨウ化物をさらに含むことができる。ヨウ化物の添加により、偏光フィルム5の面内における偏光特性をより均一化させることができる。ヨウ化物の具体例は上記と同様である。架橋浴におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.05〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜8重量%である。架橋浴の温度は、好ましくは10〜90℃である。
なお架橋処理は、架橋剤を染色浴中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、組成の異なる2種以上の架橋浴を用いて、架橋浴に浸漬する処理を2回以上行ってもよい。
染色工程S30の後、洗浄工程及び乾燥工程を行うことが好ましい。洗浄工程は通常、水洗浄工程を含む。水洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水に染色処理後の又は架橋処理後のフィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3〜50℃、好ましくは4〜20℃である。洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよい。洗浄工程の後に行われる乾燥工程としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等の任意の適切な方法を採用し得る。例えば加熱乾燥の場合、乾燥温度は通常20〜95℃である。
偏光性積層フィルム300が有する偏光フィルム5の厚みは、例えば30μm以下、さらには20μm以下であることができるが、偏光板の薄型化の観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。偏光フィルム5の厚みは、通常2μm以上である。
(2)第1貼合工程S40
図8を参照して本工程は、偏光性積層フィルム300の偏光フィルム5上、すなわち、偏光フィルム5の基材フィルム31側とは反対側の面に第1接着剤層15を介して第1保護フィルム10を貼合することで保護フィルム付偏光性積層フィルム400を得る工程である。
なお、偏光性積層フィルム300が基材フィルム31の両面に偏光フィルム5を有する場合は通常、両面の偏光フィルム5上にそれぞれ第1保護フィルム10が貼合される。この場合、これらの第1保護フィルム10は同種の保護フィルムであってもよいし、異種の保護フィルムであってもよい。
第1接着剤層15を形成する接着剤は、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線の照射によって硬化する硬化性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性接着剤(好ましくは紫外線硬化性接着剤)や、ポリビニルアルコール系樹脂のような接着剤成分を水に溶解又は分散させた水系接着剤であることができる。
活性エネルギー線硬化性接着剤としては、良好な接着性を示すことから、カチオン重合性の硬化性化合物及び/又はラジカル重合性の硬化性化合物を含む活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を好ましく用いることができる。活性エネルギー線硬化性接着剤は、上記硬化性化合物の硬化反応を開始させるためのカチオン重合開始剤及び/又はラジカル重合開始剤をさらに含むことができる。
カチオン重合性の硬化性化合物としては、例えば、エポキシ系化合物(分子内に1個又は2個以上のエポキシ基を有する化合物)や、オキセタン系化合物(分子内に1個又は2個以上のオキセタン環を有する化合物)、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。ラジカル重合性の硬化性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系化合物(分子内に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物)や、ラジカル重合性の二重結合を有するその他のビニル系化合物、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。カチオン重合性の硬化性化合物とラジカル重合性の硬化性化合物とを併用してもよい。
活性エネルギー線硬化性接着剤は、必要に応じて、カチオン重合促進剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、帯電防止剤、レベリング剤、溶剤等の添加剤を含有することができる。
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて第1保護フィルム10を貼合する場合、第1接着剤層15となる活性エネルギー線硬化性接着剤を介して第1保護フィルム10を偏光フィルム5上に積層した後、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線を照射して接着剤層を硬化させる。中でも紫外線が好適であり、この場合の光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。水系接着剤を用いる場合は、水系接着剤を介して第1保護フィルム10を偏光フィルム5上に積層した後、加熱乾燥させればよい。
偏光フィルム5に第1保護フィルム10を貼合するにあたり、第1保護フィルム10及び/又は偏光フィルム5の貼合面には、偏光フィルム5との接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理のような表面処理(易接着処理)を行うことができ、中でも、プラズマ処理、コロナ処理又はケン化処理を行うことが好ましい。
第1保護フィルム10は、透光性を有する(好ましくは光学的に透明な)熱可塑性樹脂、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;又はこれらの混合物、共重合物等からなるフィルムであることができる。
第1保護フィルム10は、位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸(一軸延伸又は二軸延伸等)したり、該フィルム上に液晶層等を形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
鎖状ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のような鎖状オレフィンの単独重合体のほか、2種以上の鎖状オレフィンからなる共重合体を挙げることができる。
環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称である。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例を挙げれば、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンのような鎖状オレフィンとの共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及びこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びにそれらの水素化物等である。中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等のノルボルネン系モノマーを用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸とのエステルである。セルロースエステル系樹脂の具体例は、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートを含む。また、これらの共重合物や、水酸基の一部が他の置換基で修飾されたものを用いることもできる。これらの中でも、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース:TAC)が特に好ましい。
ポリエステル系樹脂はエステル結合を有する、上記セルロースエステル系樹脂以外の樹脂であり、多価カルボン酸又はその誘導体と多価アルコールとの重縮合体からなるものが一般的である。多価カルボン酸又はその誘導体としてはジカルボン酸又はその誘導体を用いることができ、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。多価アルコールとしてはジオールを用いることができ、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂の具体例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートを含む。
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合された重合体からなる。ポリカーボネート系樹脂は、ポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、共重合ポリカーボネート等であってもよい。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を主な構成モノマーとする樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂の具体例は、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸エステル;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂等);メタクリル酸メチルと脂環族炭化水素基を有する化合物との共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体等)を含む。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステルを主成分とする重合体が用いられ、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
なお、以上に示した各熱可塑性樹脂についての説明は、基材フィルム30を構成する熱可塑性樹脂についても適用できる。
第1保護フィルム10における偏光フィルム5とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層のような表面処理層(コーティング層)を形成することもできる。また第1保護フィルム10は、滑剤、可塑剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤のような添加剤を1種又は2種以上含有することができる。
第1保護フィルム10の厚みは、偏光板の薄型化の観点から、好ましくは90μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。第1保護フィルム10の厚みは、強度及び取扱性の観点から、通常5μm以上である。
(3)剥離工程S50
図9を参照して本工程は、保護フィルム付偏光性積層フィルム400から基材フィルム31を剥離除去して片面保護フィルム付偏光板1を得る工程である。偏光性積層フィルム300が基材フィルム31の両面に偏光フィルム5を有し、これら両方の偏光フィルム5に第1保護フィルム10を貼合した場合には、この剥離工程S50により、1枚の偏光性積層フィルム300から2枚の片面保護フィルム付偏光板1が得られる。
基材フィルム31を剥離除去する方法は特に限定されるものでなく、通常の粘着剤付偏光板で行われるセパレータ(剥離フィルム)の剥離工程と同様の方法で剥離できる。基材フィルム31は、第1貼合工程S40の後、そのまますぐ剥離してもよいし、第1貼合工程S40の後、一度ロール状に巻き取り、その後の工程で巻き出しながら剥離してもよい。
(4)第2貼合工程S60
図10を参照して本工程は、片面保護フィルム付偏光板1の偏光フィルム5上、すなわち第1貼合工程S40にて貼合した第1保護フィルム10とは反対側の面に、さらに第2接着剤層25を介して第2保護フィルム20を貼合し、両面保護フィルム付偏光板2を得る工程である。第2接着剤層25を介した第2保護フィルム20の貼合は、第1保護フィルム10の貼合と同様にして行うことができる。第2保護フィルム20及び第2接着剤層25の構成や材質については、それぞれ第1保護フィルム10及び第1接着剤層15についての記載が引用される。
以上、基材フィルムに支持された延伸フィルム(延伸積層フィルム)を用いて偏光フィルム(偏光性積層フィルム、保護フィルム付偏光性積層フィルム)、さらには偏光板を製造する方法について説明したが、基材フィルムに支持されない単独の延伸フィルムを用いる場合にも、染色処理を施すことにより同様にして偏光フィルムを製造することができる。また、この偏光フィルムの片面又は両面に、同様にして接着剤層を介して保護フィルムを貼合することにより、片面保護フィルム付偏光板又は両面保護フィルム付偏光板を製造することができる。
図9に示される片面保護フィルム付偏光板1における偏光フィルム5上、又は図10に示される両面保護フィルム付偏光板2における第1保護フィルム10若しくは第2保護フィルム20上に、偏光板を他の部材(例えば液晶表示装置に適用する場合における液晶セル)に貼合するための粘着剤層を積層してもよい。粘着剤層を形成する粘着剤は通常、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂等をベースポリマーとし、そこに、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物のような架橋剤を加えた粘着剤組成物からなる。さらに微粒子を含有させて光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。粘着剤層の厚みは通常、1〜40μmであり、好ましくは3〜25μmである。
片面保護フィルム付偏光板1及び両面保護フィルム付偏光板2は、その第1及び/又は第2保護フィルム10,20や偏光フィルム5上に積層される他の光学層をさらに含むことができる。他の光学層としては、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルム;表面に凹凸形状を有する防眩機能付フィルム;表面反射防止機能付フィルム;表面に反射機能を有する反射フィルム;反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルム;視野角補償フィルム等が挙げられる。
TDに一軸配向した延伸フィルムを用いることによりTDを吸収軸方向とする偏光フィルム及び偏光板を提供することができる。かかる偏光板を液晶パネルを構成する一対の偏光板の一方として用いれば、当該一対の偏光板を、これらのMDを90°ずらすことなくそのまま液晶セルに貼合することができる。すなわち、当該一対の偏光板を、これらのMDが平行となるように液晶セルに貼合するロール・トゥ・パネル貼合が可能となり、当該一対の偏光板の吸収軸は互いに直交することになる。また、TDを吸収軸方向とする長尺の偏光板によれば、輝度向上フィルム(反射型偏光板)との貼合を行う際、ロール・トゥ・ロール貼合が可能となる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下の例において、延伸フィルムのボーイング量I及び外観品質は、次の測定方法、評価方法に従った。
〔a〕延伸フィルムのボーイング量Iの測定
図11及び図12に示されるように、以下の実施例及び比較例においてはいずれも、延伸フィルムを構成するPVAの分子主鎖配向がフィルム幅方向両端部に比べて中央部が遅れる弓なり分布(フィルム走行方向とは反対側に凸となる弓なり分布)としてボーイング現象が観測された。この分子主鎖配向の弓なり分布の可視化は、あらかじめ未延伸フィルム(積層フィルムを構成するPVA系樹脂フィルム)の表面にフィルム幅方向と平行な直線をペンで描いておくことにより行った。延伸処理によってボーイング現象が生じた場合、この直線が弓なり線に変化する。
図11及び図12を参照して、ボーイング量I〔mm〕は、延伸フィルムの幅方向と平行であってフィルム幅Wの1/2の長さを有する直線を、その両端がボーイング現象により生じた弓なり線上にくるように配置したときの、当該直線と弓なり線との間のフィルム長さ方向に沿った最大距離として求めた。テンター式延伸装置に10m以上の積層フィルムを投入し、投入後6mの位置で上述の方法によってボーイング量を測定し、この延伸処理及びボーイング量の測定を合計2回行い、2回の平均値をボーイング量Iとして表1に記載した。
〔b〕延伸フィルムの外観品質の評価
得られた延伸積層フィルムが有する延伸フィルムを目視観察し、下記の評価基準に従って外観品質を評価した。結果を表1に示す。
A:シワの発生がない、
B:シワが認められる。
<実施例1>
(1)プライマー層形成工程
PVA粉末(日本合成化学工業(株)製の「Z−200」、平均重合度1100、ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のPVA水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の「スミレーズレジン650」)をPVA粉末6重量部に対して5重量部の割合で混合して、プライマー層形成用塗工液を得た。
次に、基材フィルムとして厚み90μmの未延伸のポリプロピレン(PP)フィルム(融点:163℃)を用意し、その片面にコロナ処理を施した後、そのコロナ処理面に小径グラビアコーターを用いて上記プライマー層形成用塗工液を塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
(2)積層フィルムの作製(PVA系樹脂フィルム形成工程)
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の「PVA124」、平均重合度2400、ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、これをPVA系樹脂フィルム形成用塗工液とした。上記(1)で作製したプライマー層を有する基材フィルムのプライマー層表面にダイコーターを用いて上記PVA系樹脂フィルム形成用塗工液を塗工した後、70℃で4分間乾燥させることにより、プライマー層上にPVA系樹脂フィルムを形成して、長尺の積層フィルムを得た。PVA系樹脂フィルム(PVA系樹脂層)の厚みは9μmであった。
(3)延伸フィルムの作製(延伸工程)
上記(2)で作製した長尺の積層フィルムに対し、これを連続的に巻き出しながら、図13に示される延伸パターンに従って、TDへの延伸(横延伸)とMDへの収縮(縦収縮)とを同時に行う同時二軸延伸処理である第1延伸処理工程及び第2延伸処理工程を含む延伸処理を、テンター式延伸装置を用いて連続的に実施し、長尺の延伸積層フィルムを得た。延伸処理は160℃で行った(以下の比較例においても同じ。)。
延伸パターンは、クリップ間隔の調整により制御した。MDの平均歪速度は、走行方向のクリップ間隔の変化速度を調整することによって制御した。延伸積層フィルムにおける最終的なTD延伸倍率Af及び最終的なMD収縮倍率Bfは、それぞれ5.0倍、0.5倍とした(以下の実施例及び比較例においても同じ。)。延伸積層フィルムにおける延伸フィルム(PVA系樹脂層)の厚みは3〜4μmであった。延伸工程においてフィルムの破断は起こらず、TD延伸倍率5.0倍の延伸積層フィルムを得ることができた(以下の実施例及び比較例においても同じ。)。各TD延伸倍率範囲におけるMDの平均歪速度S1及びS2の測定結果を表1に併せて示す。平均歪速度S1及びS2の算出は、上述の算出式(定義式)に従った。
表1において、S1-1はA0〜0.3A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S1-2はA0〜0.35A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S1-3はA0〜0.4A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S1-4はA0〜0.45A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S1-5はA0〜0.5A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度である。A0=1.0倍、A1=5.0倍である。実施例1、及び後述する実施例2〜3、比較例1のそれぞれにおいて、S1-1〜S1-5はすべて同値である。
表1において、B2-1はTD延伸倍率が0.3A1であるときのMD収縮倍率であり、B2-2はTD延伸倍率が0.35A1であるときのMD収縮倍率であり、B2-3はTD延伸倍率が0.4A1であるときのMD収縮倍率であり、B2-4はTD延伸倍率が0.45A1であるときのMD収縮倍率であり、B2-5はTD延伸倍率が0.5A1であるときのMD収縮倍率である。
表1において、S2-1は0.3A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S2-2は0.35A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S2-3は0.4A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S2-4は0.45A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度であり、S2-5は0.5A1〜A1のTD延伸倍率範囲でのMDの平均歪速度である。
<実施例2〜3、比較例1>
延伸工程における延伸パターンを図13に示されるとおりとし、かつ各TD延伸倍率範囲におけるMDの平均歪速度S1及びS2を表1に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸積層フィルムを得た。延伸積層フィルムにおける延伸フィルム(PVA系樹脂層)の厚みはいずれも3〜4μmであった。