しかし、上述した従来における波動歯車機構を備えるロボットの減速伝達装置は、次のような問題点があった。
第一に、主要構成部品として、フレクスプライン、ウェーブジェネレータ、サーキュラスプラインを備えており、フレクスプラインは、薄肉の金属弾性プレートにより全体をカップ状に形成するとともに、楕円状に変形する開口部の外周に形成した歯車部を、位置を固定したサーキュラスプラインの内周に形成した歯車部に噛合させている。したがって、カップ状に一体形成するフレクスプラインは、高度の精密部品として製造する必要があるため、その製造が容易でなく、高コスト化が避けられない。しかも、フレクスプラインは、使用による金属疲労や動作不良を生じ易く、耐久性にも難がある。結局、従来の波動歯車機構は、イニシャルコスト及びランニングコストの双方において大幅なコストアップを招いてしまう。
第二に、カップ状に形成するフレクスプラインにおける開口部の外周に歯車部を形成し、この歯車部を、楕円状のウェーブジェネレータにより波動変形させるとともに、底部の中心に、減速回転を出力する出力軸を結合するため、フレクスプラインを機能させるためには、当該フレクスプラインの軸方向長さをある程度確保する必要があり、減速伝達装置における全体構造の薄型化(小型化)を図るには限界があった
第三に、フレクスプラインの全体形状をカップ状に形成し、一端を閉塞する底部の中心に出力軸を結合するため、接続ケーブルを引き回すための空間確保が容易でない。特に、ロボットの場合、多数の関節機構を備え、多彩な動きを実現するための多数の駆動モータを内蔵するため、この駆動モータとロボットコントローラを接続する接続ケーブルの本数は少なくとも駆動モータの数だけ必要になるとともに、この本数を備える接続ケーブルを引き回す必要がある。したがって、多数の接続ケーブルを引き回すことができる空間を確保する観点からも更なる改善の余地があった。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したロボットの減速伝達装置の提供を目的とするものである。
本発明に係るロボットの減速伝達装置1は、上述した課題を解決するため、ロボットRに内蔵することにより、入力する回転運動を減速して出力する減速伝達装置を構成するに際して、回転運動が入力する回転入力部2と、この回転入力部2と一体に回転する楕円状に形成したカム本体部3c,及びこのカム本体部3cの外周に沿って固定した内輪3biとフレキシブルな外輪3bo間に複数の転動体3bm…を介在させたベアリング3bを有するジェネレータカム部3と、外周の周方向Ffに沿って形成したアウタギア4g,及び側面から突出し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔おきに設けた複数の伝達ピン4p…を有するとともに、ジェネレータカム部3の外周に付設したフレックスギア部4と、アウタギア4gに噛合し、かつ当該アウタギア4gに対して歯数Nを多くしたインナギア5gを内周に形成するとともに、位置を固定したインターナルギア部5と、伝達ピン4p…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔おきに形成するとともに、回転時における伝達ピン4p…の変位を許容する複数のガイド孔6s…を有する回転出力部6とを備えてなることを特徴とする。
この場合、発明の好適な態様により、回転入力部2には、駆動モータ11の回転運動を入力させることができる。また、この回転入力部2は、リング状に形成した入力回転体2rと、外輪2boの位置を固定し、かつ内輪2biにより入力回転体2rを回動自在に支持するベアリング2bを備えて構成できる。一方、カム本体部3cは、中央に形成した開口部3coを有するとともに、回転入力部2に対して一体的に構成することができる。さらに、回転出力部6は、リング状に形成した出力回転体6rと、外輪6boの位置を固定し、かつ内輪6biにより出力回転体6rを回動自在に支持するベアリング6bを備えて構成できる。なお、減速伝達装置1は、ロボットRを構成する任意のアーム部15と他のアーム部16を連結する関節機構Mjに用いることができるとともに、ロボットRには、少なくとも、生産ラインに設置する、垂直多関節ロボットRv,水平多関節ロボット,デルタ型ロボットの一又は二以上を含ませることができる。
このような構成を有する本発明に係るロボットの減速伝達装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) 薄肉の金属弾性プレート材を用いて全体形状をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になるため、容易に製造可能となり、製造コストの大幅な削減を図れるとともに、金属疲労や動作不良等も大幅に低減できるため、耐久性向上を図ることができるなど、イニシャルコスト及びランニングコストの双方における大幅なコストダウンを実現できる。
(2) 全体をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になるため、軸方向における配設スペースのサイズダウンを図ることができる。したがって、減速伝達装置1の全体構造における薄型化が可能になり、小型化に限界のあった、特に産業用ロボットの更なる小型化を容易に実現できる。
(3) 好適な態様により、回転入力部2に、駆動モータ11の回転運動を入力させれば、減速伝達装置1は、駆動モータ11を含めた駆動部として構成できるため、例えば、産業用ロボットのアーム部に内蔵する駆動部の小型化、更には耐久性向上及び信頼性向上に寄与できる。
(4) 好適な態様により、回転入力部2を、リング状に形成した入力回転体2rと、外輪2boの位置を固定し、かつ内輪2biにより入力回転体2rを回動自在に支持するベアリング2bを備えて構成すれば、回転入力部2の機能を損なうことなく、当該回転入力部2の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できるため、ケーブル類の本数が多くなっても、他の周辺構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。
(5) 好適な態様により、カム本体部3cを設けるに際し、中央に開口部3coを形成するとともに、回転入力部2に対して一体的に構成するようにすれば、ジェネレータカム部3の機能を損なうことなく、ジェネレータカム部3の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できるため、ケーブル類の本数が多くなっても、他の周辺構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。
(6) 好適な態様により、回転出力部6を、リング状に形成した出力回転体6rと、外輪6boの位置を固定し、かつ内輪6biにより出力回転体6rを回動自在に支持するベアリング6bを備えて構成すれば、回転出力部6の機能を損なうことなく、回転出力部6の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できるため、ケーブル類の本数が多くなっても、他の周辺構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。
(7) 好適な態様により、減速伝達装置1を、ロボットRを構成する任意のアーム部15と他のアーム部16を連結する関節機構Mjに用いれば、関節機構Mjの薄型化(小型化)、耐久性及び信頼性の向上に寄与できるため、特に、生産ラインに設置するための最適な産業用ロボット(垂直多関節ロボットRv,水平多関節ロボット,デルタ型ロボット等)を構築できる。
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る減速伝達装置1の構成について、図1〜図6を参照して説明する。
この減速伝達装置1は、図3に示すような産業用ロボットRの関節機構Mjに用いることができる。例示の産業用ロボットRは、垂直多関節ロボットRvであり、機台21の上面に設置したロボット本体部22と、この機台21の下方スペースに収容することによりロボット本体部22を駆動制御するロボットコントローラ23を備える。ロボット本体部22は、第1アーム部(任意のアーム部)15と第2アーム部(他のアーム部)16を備えており、この第1アーム部15と第2アーム部16が関節機構Mjを介して連結される。即ち、第1アーム部15の先端部15sに、本実施形態に係る減速伝達装置1を内蔵し、この減速伝達装置1により第2アーム部16の後端部16rを回転駆動する。これにより、第2アーム部16の位置決め制御,角度制御及び速度制御等を行うことができる。
図1に、減速伝達装置1の全体構造を示す。なお、図3に示した産業用ロボットRにおける第1アーム部15の先端部15s及び第2アーム部16の後端部16rを、それぞれ仮想線で示している。図1に示すように、減速伝達装置1は、大別して、回転の伝達方向上流側から、回転入力部2,ジェネレータカム部3,フレックスギア部4,インターナルギア部5及び回転出力部6を備える。これにより、回転入力部2に入力する回転運動は、予め設定した1/100〜1/200レベルで減速され、減速された回転運動は、回転出力部6から出力する。
以下、各部の構造について具体的に説明する。回転入力部2は、全体をリング状に構成した入力回転体2rと、この入力回転体2rを回動自在に支持するベアリング2bを備える。例示のベアリング2bは、ボールベアリングであり、外輪2boは第1アーム部15の内面に取付けて位置を固定する。また、入力回転体2rは、支持リング31と入力ギアリング32の組合わせ、即ち、支持リング31の端面に対して入力ギアリング32を軸方向Fsから重ね合わせ、複数の固定ボルト33…により固定して一体化させるとともに、支持リング31の外周面をベアリング2bの内輪2biに取付ける。このように構成すれば、回転入力部2の機能を損なうことなく、当該回転入力部2の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できる。これにより、ケーブル類の本数が多くなっても、後述する他の周辺構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。
一方、第1アーム部15の内面には、サーボモータ等の駆動モータ11を固定し、この駆動モータ11の回転シャフトに取付けた駆動ギア34を入力ギアリング32に噛合させる。これにより、回動自在に支持される回転入力部2に、駆動モータ11からの回転運動が入力する。このように、回転入力部2に、駆動モータ11の回転運動を入力させるようにすれば、減速伝達装置1は、駆動モータ11を含めた駆動部として構成できるため、例えば、産業用ロボットのアーム部に内蔵する駆動部の小型化、更には耐久性向上及び信頼性向上に寄与できる利点がある。なお、駆動モータ11から回転入力部2に対する回転伝達方式として、ギア伝達機構を例示したが、タイミングベルトとプーリを利用したベルト伝達機構等の他の回転伝達方式を用いた構成であってもよい。
ジェネレータカム部3は、カム本体部3cとこのカム本体部3cの外周面に配するベアリング3bを備える。カム本体部3cは、図2に示すように、全体形状を楕円状に形成し、中央に円形の開口部3coを形成する。そして、図1に示すように、支持リング31の端面に対して軸方向Fsから重ね合わせ、前述した固定ボルト33…を利用(兼用)することにより回転入力部2に固定する。これにより、カム本体部3cは、回転入力部2と一体に回転する。この場合、カム本体部3cの中央には円形の開口部3coを形成したため、ジェネレータカム部3の機能を損なうことなく、ジェネレータカム部3の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できる。したがって、ケーブル類の本数が多くなっても、前述した回転入力部2及び後述する他の周辺構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。また、ベアリング3bは、カム本体部3cの外周面に沿って固定する内輪3biとフレキシブルな外輪3boを備えるとともに、内輪3biと外輪3bo間には複数の転動体3bm…を介在させて構成する。例示の転動体3bm…はボールである。なお、内輪3biは、カム本体部3cの外周面に兼用させることも可能である。
フレックスギア部4は、全体を金属素材(特殊鋼等)によりフレキシブル性を有する無端ベルト状に構成し、図2に示すように、ジェネレータカム部3を構成するベアリング3bにおける外輪3boの外周面に沿って付設する。また、フレックスギア部4の外周面には、図2に抽出拡大図で示すように、周方向Ffに沿ったアウタギア4gを形成するとともに、アウタギア4gを構成する各歯部(山部)4gs…には伝達ピン4p…を埋設(穴に圧入)する。この場合、各歯部(山部)4gs…は、各伝達ピン4p…を支持する機能を有するため、支持強度を確保できる厚さ及び形状を選定するとともに、各歯部(山部)4gs…間の谷部の厚さは、ジェネレータカム部3の外周に追従できるフレキシブル性(弾性)を確保する。
各伝達ピン4p…は、図1,図2及び図5に示すように、フレックスギア部4の側面から横側方に突出させる。各伝達ピン4p…の突出位置は、各歯部4gs…における同じ位置となる。これにより、各伝達ピン4p…は、フレックスギア部4の周方向Ffに沿って一定間隔おきに配される。この場合、各歯部4gs…の側面から突出する伝達ピン4p…の形状は、断面が円形となる丸棒状に形成するとともに、先端部には後述する抜止ナット35…を装着可能なネジ部4pn…を形成する。
インターナルギア部5は、全体を金属素材により剛性を有するリング状に形成し、図2に抽出拡大図で示すように、内周面に、周方向Ffに沿ったインナギア5gを形成する。そして、図1及び図2に示すように、インターナルギア部5の外周面を第1アーム部15の内面に取付けて固定するとともに、インナギア5gをフレックスギア部4のアウタギア4gに噛合させる。この場合、インターナルギア部5に形成するインナギア5gの歯数は、フレックスギア部4に形成するアウタギア4gの歯数に対して多くなるように設定する。例示の場合、アウタギア4gの歯数を「N」に設定し、インナギア5gの歯数を「N+2」に設定した。
回転出力部6は、全体をリング状に構成した出力回転体6rと、この出力回転体6rを回動自在に支持するベアリング6bを備える。例示のベアリング6bは、クロスローラベアリングであり、外輪6boは、第1アーム部15の先端部15sにおける先端開口の内面に取付けて固定する。一方、出力回転体6rは、係合リング36と出力リング37の組合わせ、即ち、係合リング36の端面に対して出力リング37を軸方向Fsから重ね合わせ、複数の固定ボルト38…により固定して一体化させるとともに、出力リング37の外周面をベアリングbbの内輪6biに取付ける。これにより、回転出力部6は、ベアリング6bの内輪6biにより回動自在に支持される。このように構成すれば、回転出力部6の機能を損なうことなく、回転出力部6の内側(中心側)にケーブル類を通すための空間を確保できる。したがって、ケーブル類の本数が多くなっても、前述した回転入力部2の構造及びジェネレータカム部3の構造と併せてロボット全体の煩雑化を回避できる。
また、係合リング36は、図5に示すように、前述したフレックスギア部4における各伝達ピン4p…が係合する位置にそれぞれ対応するガイド孔6s…を形成する。この場合、各ガイド孔6s…は、係合リング36の周方向Ffに沿って所定間隔おきに形成するとともに、各ガイド孔6s…の形状は、回転時における伝達ピン4p…の変位を許容するように、係合リング36の放射方向に沿ったスリット状の長孔として形成する。
そして、回転出力部6を組付ける際には、まず、係合リング36と出力リング37をそれぞれ分離した状態で用意するとともに、ベアリング6bも未取付状態で容易する。最初に、図1に示すように、係合リング36の端面をフレックスギア部4の端面に軸方向Fsから重ね合わせる。この際、各ガイド孔6s…に、各伝達ピン4p…をそれぞれ挿通させる。この後、各伝達ピン4p…の先端部に形成したネジ部4pn…に抜止ナット35…を装着する。この状態の外観を図6に示している。
次いで、係合リング36の端面に対して出力リング37の端面を軸方向Fsから重ね合わせ、複数の固定ボルト38…により固定して一体化させる。したがって、予め、出力リング37の端面には、抜止ナット35…が装着された伝達ピン4p…の先端側が収容可能な収容凹部39を形成しておく。そして、最後に、ベアリング6bの外輪6boを第1アーム部15の先端部15sにおける先端開口の内面に取付けるとともに、内輪6biを出力リング37の外周面に取付け、さらに、出力リング37の端面に、第2アーム部16の後端部16rにおける後端開口に設けたフランジ部を取付ける。以上により、本実施形態に係る目的の減速伝達装置1を得ることができる。
このように、本実施形態に係る減速伝達装置1は、基本構成として、回転運動が入力する回転入力部2と、この回転入力部2と一体に回転する楕円状に形成したカム本体部3c,及びこのカム本体部3cの外周に沿って固定した内輪3biとフレキシブルな外輪3bo間に複数の転動体3bm…を介在させたベアリング3bを有するジェネレータカム部3と、外周の周方向Ffに沿って形成したアウタギア4g,及び側面から突出し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔おきに設けた複数の伝達ピン4p…を有するとともに、ジェネレータカム部3の外周に付設したフレックスギア部4と、アウタギア4gに噛合し、かつ当該アウタギア4gに対して歯数Nを多くしたインナギア5gを内周に形成するとともに、位置を固定したインターナルギア部5と、伝達ピン4p…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔おきに形成するとともに、回転時における伝達ピン4p…の変位を許容する複数のガイド孔6s…を有する回転出力部6とを備えてなるため、薄肉の金属弾性プレート材を用いて全体形状をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になるため、容易に製造可能となり、製造コストの大幅な削減を図れるとともに、金属疲労や動作不良等も大幅に低減できるため、耐久性向上を図ることができるなど、イニシャルコスト及びランニングコストの双方における大幅なコストダウンを実現できる。しかも、全体をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になることから、軸方向における配設スペースのサイズダウンを図ることができる。したがって、減速伝達装置1の全体構造における薄型化が可能になり、小型化に限界のあった、特に産業用ロボットの更なる小型化を容易に実現できる。
したがって、本実施形態に係る減速伝達装置1を、ロボットRを構成する任意のアーム部15と他のアーム部16を連結する関節機構Mjに用いれば、関節機構Mjの薄型化(小型化)、耐久性及び信頼性の向上に寄与できるため、特に、生産ラインに設置するための最適な産業用ロボット(垂直多関節ロボットRv,水平多関節ロボット,デルタ型ロボット等)を構築できる利点がある。
次に、本実施形態に係る減速伝達装置1の動作について、各図を参照し、主に図7(a)〜(d)に従って説明する。なお、図7(a)〜(d)は原理図のため、カム本体部3cの楕円形状は誇張した細長形状で描いている。
まず、ロボットコントローラ23により駆動モータ11をON制御すれば、駆動モータ11が作動し、駆動ギア34が回転する。この回転運動は入力ギアリング32に伝達されるとともに、さらに、支持リング31を介してカム本体部3cに伝達される。これにより、カム本体部3cは比較的高速で回転する。
図7(a)は、カム本体部3cの回転が開始する前の状態を示している。この状態では、カム本体部3cが位置Psで停止し、カム本体部3cの長手方向(楕円直径の最大方向)は上下方向となる。したがって、フレックスギア部4における始点は符号Xsの位置にありインターナルギア部5の基準点Xoに一致する。図7(a)の状態では、フレックスギア部4のアウタギア4gがインターナルギア部5のインナギア5gに対して上下二個所の位置で噛合する。
次いで、カム本体部3cが図7(a)の位置Psから矢印Fr方向に90°回転した状態を想定する。この状態を図7(b)に示す。この場合、カム本体部3cは位置Psから時計方向へ90°回転した位置P1まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、図7(b)に示すように左右方向となる。したがって、カム本体部3cの回転時には、アウタギア4gがインナギア5gに噛合する上側位置(下側位置も同じ)が時計方向に、噛み合いつつ90°移動することになる。この際、アウタギア4gの歯数はN、インナギア5gの歯数はN+2のため、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q1=(360°/N)×2)/4だけ反時計方向となる位置X1へ変位する。
さらに、カム本体部3cが図7(b)の位置P1から矢印Fr方向に90°回転した状態を想定する。この状態を図7(c)に示す。この場合、カム本体部3cは位置P1から時計方向へ90°回転した位置P2まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、図7(c)に示すように上下方向となる。したがって、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q2=(360°/N)×2)/2だけ反時計方向となる位置X2へ変位する。
次いで、カム本体部3cが図7(c)の状態から矢印Fr方向に180°回転した状態を想定する。この状態を図7(d)に示す。この場合、カム本体部3cは位置P2から180°回転した位置P3まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、上下方向となり、図7(c)の位置に対して上下反転する。したがって、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q3=(360°/N)×2)だけ反時計方向となる位置X3へ変位する。以上により、カム本体部3cは時計方向へ1回転するとともに、フレックスギア部4は、歯数「2」だけ反時計方向へ移動する減速処理が行われる。
他方、減速されたフレックスギア部4の回転運動は、回転出力部6に伝達される。即ち、フレックスギア部4から突出する伝達ピン4p…は、係合リング36のガイド孔6s…に係合するため、係合リング36はフレックスギア部4の回転運動に完全に同調して回転する。この場合、伝達ピン4pは、カム本体部3cの外周面の軌跡に従って径方向に反復変位するが、この変位は、長孔により形成したガイド孔6sにより吸収される。この状態を図4に示す。そして、図1に示すように、係合リング36の回転運動は、減速伝達装置1により大きく減速されることにより出力リング37に伝達される。この結果、出力リング37に固定した第2アーム部16は回転変位する。即ち、第1アーム部15を支点にして高精度で回転制御される。
次に、本実施形態に係る減速伝達装置1の変更例について、図8及び図9を参照して説明する。
変更例は、ガイド孔6s…に伝達ピン4p…を挿通させた構造の変更例である。図1に示した減速伝達装置1は、図6に示すように、ガイド孔6s…に伝達ピン4p…を挿通させた後、各伝達ピン4p…の先端部に形成したネジ部4pn…に抜止ナット35…を装着して構成したものであるが、図8及び図9に示す変更例は、ガイド孔6s…に伝達ピン4p…を挿通させた後、ガイド孔6s…をリング状に形成したカバーパネル41により覆って構成したものである。したがって、図8及び図9に示す変更例では抜止ナット35…は全く使用しない。このため、伝達ピン4p…は短く形成してガイド孔6s…内に収めるとともに、伝達ピン4p…の先端部に抜止ナット35…を装着するためのネジ部4pn…は形成しない。
このように、変更例では、抜止ナット35…を使用しないため、抜止ナット35…に係わる部品コストを削減できるとともに、抜止ナット35…を装着するための製造工程も不要になる。一方、変更例で使用するカバーパネル41は、一枚のプレート部材により容易に形成できるとともに、組付ける際には、図9に示すように、出力リング37を固定ボルト38…により係合リング36に固定する際に、出力リング37と係合リング36間に挟み込むことにより一緒に取付けることができる。なお、図8及び図9において、41oはカバーパネル41の内側(中心側)に形成した開口部を示すとともに、41s…は、固定ボルト38…が挿通する挿通孔を示す。その他、図8及び図9において、図6及び図1と同一部分については同一符号を付し、その構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、楕円状のカム本体部3cにおける楕円状とは、同一の機能を発揮し、例示した真円のインナギア5gに対して、180°対向する位置で噛合可能となる、例えば、小判形等の各種非円形を含む概念である。また、各伝達ピン4p…は、アウタギア4gにおける各歯部(山部)4gsの位置に対応して設けた場合を例示したが、必ずしも位置を対応させる必要はない。したがって、各歯部(山部)4gs…の数量と各伝達ピン4p…の数量を一致させる必要はない。一方、入力する回転運動として駆動モータ11の回転運動を例示したが、エンジン等を含む各種の回転運動源を適用できる。さらに、入力回転体2rの内側に空間を確保し、入力回転体2rの外周をベアリング2bにより支持する場合を示したが、実施形態によっては必ずしも必須構造になるものではない。即ち、入力回転体2rの内側に空間を設けることなく、中心に配するシャフトにより、入力回転体2rを回動自在に支持するとともに、アーム部15…の外部にケーブル類を引き回す構成等を排除するものではない。この点はカム本体部3c及び出力回転体6rの場合も同じである。また、各部の形成素材として金属素材を例示したが合成樹脂素材や繊維強化複合素材等であってもよいし、弾性が不要となる部品についてはセラミックス素材等であってもよく、素材の種類は限定されない。