しかしながら、上述した湾曲板ガラスの成形方法は何れも、平板ガラスの加熱に伴う軟化現象を利用したものであるため、軟化した状態で成形面と接触する際に生じる痕(接触痕)が湾曲板ガラスの成形後もその表面に残る問題がある。すなわち、プレス法では、板ガラスを少なくとも軟化点近くまで加熱するため、板ガラスの表面は非常に軟らかい状態となる。そのため、板ガラスの表面には成形面との接触痕が付き易い。なにより、プレス法だと、上下両方の成形型で板ガラスを相応の加圧力で挟持することになるため、どうしても成形面との接触痕が付き易い。
また、自重法では、基本的に、板ガラスの自重による変形(通常、たわみ変形)のみで所定の曲率半径にまで当該板ガラスを曲げることから、プレス成形よりも高い温度まで加熱する必要がある。そのため、プレス法と比べて成形面に対する加圧力は強くはないものの、板ガラス自体は軟らかくなっているため、やはり成形面との接触痕が残る点は解消されない。例えば自動車用ウィンドウガラスなど(特許文献1等)、従来の製品用途であればこの種の接触痕はそれほど問題とはならなかったが、スマートフォンや、自動車用ディスプレイ等の高精細表示用途では表示面の欠陥とみなされ、製品価値の低下を招くおそれがある。
以上の事情に鑑み、本明細書では、成形型との接触痕が発生する事態を可及的に防止して、表面品質の良好な湾曲板ガラスを提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
前記課題の解決は、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法により達成される。すなわち、この成形方法は、下型に載置した板ガラスを加熱して、板ガラスの軟化に伴う自重変形で湾曲板ガラスを得る、湾曲板ガラスの成形方法において、板ガラスへの加熱を開始してから板ガラスの成形が完了するまでの間、板ガラスの粘度を1010poise以上に維持する点をもって特徴付けられる。
このように、本発明は、いわゆる自重法を用いて板ガラスを湾曲板ガラスに成形するに際し、加熱工程中の板ガラスの最小粘度に着目してなされたものである。すなわち、従来の自重法は、板ガラスを軟化点(この際のガラスの粘度は約107.65poise)付近まで加熱して十分にたわませて、このたわませた板ガラスを成形面で受けることで、板ガラスの最終的な湾曲度合い(例えば曲率半径)を調整するものであった。これに対し、本発明は、板ガラスを加熱して、軟化に伴う自重変形で曲がっていく板ガラスが、最終的な形状(成形品としての湾曲板ガラスの形状)に至るまで自重変形を生じるのに最小限必要となる粘度(最小粘度)を見極めて、加熱開始時から成形完了時までの間における当該粘度の最小値を規定した。これにより、板ガラスを所望の形状に成形しつつも、成形面と板ガラスとが必要以上に強く接触する事態を避けて、成形後の板ガラス(湾曲板ガラス)表面に成形面との接触痕が残る事態を可及的に防止することが可能となる。あるいは、接触痕が残るにしてもその程度(大きさ、個数、目立ちやすさ)を極力小さく抑えることが可能となる。また、板ガラスが高粘性であるほど、板ガラスの表面が硬くなるので、このことによっても成形面との接触痕を付き難くすることができる。特に、板ガラスへの加熱を開始してから板ガラスの成形が完了するまでの間、板ガラスの粘度を1011poise以上に維持することで、より成形面との接触痕を付き難くして、湾曲板ガラスの表面に生じる接触痕の大きさ、個数等をより小さく抑えることが可能になる。よって、例えばスマートフォン向けの高品位な表面品質を満たし得る湾曲板ガラスを成形することが可能となる。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、板ガラスへの加熱を開始してから板ガラスの成形が完了するまでの間において、板ガラスの粘度が1013poise以下となる時間を60分以下に設定するものであってもよく、好ましくは30分以下に設定するものであってもよく、より好ましくは15分以下に設定するものであってもよい。また、成形精度を高める観点から、板ガラスの粘度が1013poise以下となる時間を1分以上に設定するのが好ましい。
本発明は、既述のように、自重法による湾曲板ガラスの成形工程の間における板ガラスの最小粘度を規定することで、高精度な湾曲成形を可能としつつも、成形面との接触痕が発生する事態を防止又は抑制可能とするものであるが、この上で、板ガラス表面における接触痕の発生をより高い確率で防止することを鑑みた場合、上記最小粘度にまでは至っていなくとも比較的粘度の低い状態(高温状態)をなるべく短時間に留めることが望ましい。従って、上述のように加熱開始から成形完了までの間における板ガラスの最小粘度を1010poise以上とし、かつ板ガラスの粘度が1013poise以下となる時間を60分以下に設定することで、接触痕の発生をより高確率で防止でき、あるいはその程度(発生個数や大きさ、目立ちやすさ)をさらに抑制することが可能となる。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、板ガラスへの加熱を開始してから板ガラスの成形が完了するまでの間において、板ガラスの粘度が1014.5poise以下となる時間を90分以下に設定するものであってもよく、好ましくは60分以下に設定するものであってもよく、より好ましくは30分以下に設定するものであってもよい。また、成形精度を高める観点から、板ガラスの粘度が1014.5poise以下となる時間を5分以上に設定するのが好ましい。
本構成も、先に述べた構成と同様の趣旨で規定したものであり、加熱開始から成形完了までの間における板ガラスの最小粘度を1010poise以上とし、かつ板ガラスの粘度が1014.5poise以下となる時間を90分以下に設定することで、接触痕の発生をより高確率で防止でき、あるいはその程度をさらに抑制することが可能となる。もちろん、この場合、併せて、板ガラスの粘度が1013poise以下となる時間を60分以下に設定することで、更なる接触痕の発生防止が可能となる。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、下型と板ガラスとの間に、下型よりも軟らかいシートを介在させた状態で、板ガラスへの加熱を開始するものであってもよい。
このように、下型よりも軟らかいシートを介在させることで、板ガラスはこのシートと接触し、下型との直接的な接触は回避される。このシートは下型よりも軟らかいので板ガラスと接触しても傷(接触痕)が付きにくい。また、シートであるから変形に対してフレキシブルであり、下型に設けた成形面にも容易に倣う。そのため、このシートを介在させたとしても湾曲板ガラスの成形精度が低下するおそれはない。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、下型に板ガラスを載置して、板ガラスの下面と下型に設けた成形面との間に密閉空間を形成した後、密閉空間を減圧するものであってもよい。
このように、板ガラスと下型に設けた成形面との間に形成した密閉空間を減圧することで、板ガラスの下面側に位置する空間(密閉空間)の気圧に比べて、上面側に位置する空間の気圧が相対的に高まる。これにより、上記密閉空間と上面側に位置する空間とを区画する板ガラスはその上面側に位置する空間から成形面に向けて加圧される。よって、この加圧力が、成形面に向けた板ガラスの変形を後押しする形となり、より低温で(粘度を高めに維持した状態で)板ガラスを成形面に倣った形状に成形することができる。従って、板ガラス表面における接触痕の発生をより一層高い確率で防止し、あるいはその程度をより一層抑制しつつも、板ガラスをより正確に成形面に倣った形状に成形することが可能となる。
また、この場合、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、さらに板ガラスの上面側に位置する空間を加圧するものであってもよい。
このように、板ガラスと成形面との間に形成した密閉空間を減圧するのに加えて、板ガラスの上面側に位置する空間を加圧するようにすれば、板ガラスの下面側に位置する空間の気圧と、上面側に位置する空間の気圧との差をより大きくでき、板ガラスをより大きな加圧力で成形面に向けて加圧することができる。よって、板ガラスの粘度をさらに高めに維持した状態であっても当該板ガラスを成形面に倣った形状に成形することができる。従って、板ガラス表面における接触痕の発生をより一層高い確率で防止し、あるいはその程度をより一層抑制しつつも、板ガラスをより正確に成形面に倣った形状に成形することが可能となる。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、凹状をなす成形面が設けられた下型を用いて、板ガラスへの加熱による湾曲板ガラスの成形を行うものであってもよい。
凹状をなす成形面が設けられた下型を用いるようにすれば、例えば下型に板ガラスを載置するだけで、板ガラスの下面と成形面との間に上記密閉空間を容易に形成することができる。よって、特に、板ガラスの上面側に位置する空間を相対的に加圧する場合に上記構成が有効である。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、凹状をなす成形面と凸状をなす成形面とが設けられた下型を用いて、板ガラスへの加熱による湾曲板ガラスの成形を行った後、湾曲板ガラスを反転させて、反転後の湾曲板ガラスの下面に対応した形状の成形面を設けた下型に反転後の湾曲板ガラスを載置して、加熱による湾曲板ガラスの成形を行うものであってもよい。
上記構成は、凹状に湾曲する部分と、凸状に湾曲する部分とを有する湾曲板ガラスを成形する際に有効となる。すなわち、上述のように凹凸形状をなす湾曲板ガラスを本発明に係る方法で成形する場合には、成形すべき湾曲板ガラスの下面形状に対応した成形面、すなわち凸状をなす成形面と凹状をなす成形面とが設けられた下型を用いることが考えられる。ここで、本発明に係る方法(自重法)で板ガラスを加熱して湾曲板ガラスの成形を行った場合、湾曲板ガラスのうち凸状をなす成形面上で成形された部分の端部が浮き上がった状態となり易く、凸状に湾曲する部分を精度よく成形することが難しいことが判明した。
そこで、本発明では、下型に板ガラスを載置して加熱による湾曲板ガラスの成形を行った後、湾曲板ガラスを反転させて、反転後の湾曲板ガラスの下面に対応した形状の成形面を設けた下型に反転後の湾曲板ガラスを載置して、加熱による湾曲板ガラスの成形を行うようにした。この方法によれば、反転前の成形で凸状をなす成形面上で端部が浮き上がった状態に成形された部分が、反転後の成形で凹状をなす成形面上で加熱軟化に伴う自重変形により最終的な形状(凹状をなす成形面に準じた形状)に再成形される。よって、凹状に湾曲する部分と、凸状に湾曲する部分とを有する湾曲板ガラスであっても、端部の浮き上がりを修正して高精度に成形することが可能となる。
また、この場合、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、反転後の成形に用いる下型が、反転前の成形に用いる下型であってもよい。あるいは、反転後の成形に用いる下型が、反転前の成形に用いる下型とは異なるものであってもよい。
成形すベき湾曲板ガラスが、互いに対称的な凹状をなす部分と凸状をなす部分とで構成される場合、反転後の湾曲板ガラスの下面形状は、反転前の湾曲板ガラスの下面形状と変わらない。従って、反転前と反転後とで共通の成形面を用いることができ、反転してさらに成形を行う場合であっても、下型が一個で済む。また、湾曲板ガラスの凹状をなす部分と、凸状をなす部分とが非対称な形状をなす場合においても、反転後の成形に用いる下型として、反転前の成形に用いる下型とは異なるものを別個に用意し、反転後の湾曲板ガラスの下面に対応した形状の成形面を上記反転後用の下型に設けることで、反転前と反転後二回の成形により、所望形状の湾曲板ガラスを成形することができる。従って、本発明に係る成形方法によれば、如何なる形状の湾曲板ガラスであっても、反転動作の前後でそれぞれ対応する形状の成形面を設けた下型を用いることで、当該板ガラスを精度よく成形することが可能となる。
また、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、下型に凹状をなす成形面を設けて、対向する二辺の長さが互いに異なる板ガラスを成形面上に載置し、加熱することにより湾曲板ガラスの成形を行うに際し、板ガラスの相対的に短辺となる側が、相対的に長辺となる側よりも上方で成形面と接触するよう、板ガラスを水平方向に対して傾斜させた姿勢で成形面上に載置するものであってもよい。
湾曲成形前の板ガラスの形状は、通常、矩形状であり、下型に設けられる成形面の形状は半円筒状であることが多い。この場合、板ガラスの対向する二辺からの距離が等しい板ガラスの中心線を、成形面の周縁部をなす二辺からの距離が等しい成形面の中心線に一致させた状態で、板ガラスを成形面上に載置する。この際の板ガラスの載置姿勢は水平となる。一方で、近年ではデザイン性の観点から、例えば台形状など矩形状ではない板ガラスの湾曲板ガラス化に対するニーズが高まりをみせつつある。しかしながら、このような形状をなす板ガラスを、従来と同様、下型の成形面上に水平姿勢で載置した場合には、板ガラスが非対称に湾曲する(板ガラスの短辺側と長辺側とで湾曲の度合いが異なる)ために、成形後の板ガラスの曲率半径の値が安定せず、所要の精度に湾曲板ガラスを成形することが困難であった。
これに対して、本発明では、下型に凹状をなす成形面を設けて、対向する二辺の長さが互いに異なる板ガラスを成形面上に載置し、加熱することにより湾曲板ガラスの成形を行うに際し、板ガラスの相対的に短辺となる側が、相対的に長辺となる側よりも上方で成形面と接触するよう、板ガラスを水平方向に対して傾斜させた姿勢で成形面上に載置するようにした。このように非矩形状の板ガラスを成形面上に傾斜姿勢で載置することで、非矩形状をなす板ガラスの重心が、従来のように水平姿勢で載置した場合と比べて、相対的に板ガラスの短辺側にオフセットした状態となる。詳述すると、非矩形状をなす板ガラスを水平姿勢で成形面上に載置した場合、凹状をなす成形面の中心線(ここでは、例えば成形面の周縁部をなす二辺からの距離が等しい中心線をいう。)よりも長辺となる側に、板ガラスの重心がオフセットした状態となる。これに対し、上述のように板ガラスの短辺となる側が相対的に上方となるよう、板ガラスを傾斜姿勢で載置することで、板ガラスの重心を従来よりも成形面の中心線の短辺側にオフセットした状態にできる。これにより、短辺側と長辺側とでバランスをとりつつ湾曲板ガラスを成形することができるので、自重変形による湾曲の度合いが短辺側と長辺側とでばらつく事態を可及的に防止して、高精度な湾曲板ガラスの成形を安定的に行うことが可能となる。
また、この場合、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、板ガラスの重心が、成形面の周縁部をなす二辺からの距離が等しい成形面の中心線よりも板ガラスの短辺となる側に位置するよう、板ガラスを水平方向に対して傾斜させた姿勢で成形面上に載置するものであってもよい。
上述のように、成形面に対する板ガラスの重心位置を設定することで、加熱に伴う軟化で、板ガラスの重心が成形面の中心線に向かうように、板ガラスの自重変形(たわみ変形)が生じる。これは、板ガラスの短辺側は成形面との接触面積が小さく摩擦抵抗が小さいためである。よって、上述のように板ガラスを載置することで、短辺側と長辺側とで湾曲度合いのばらつきをさらに小さくすることができ、より高精度な湾曲板ガラスの成形が可能となる。
また、この場合、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法は、板ガラスの二辺からの距離が等しい板ガラスの中心線の、成形面の中心線に対する板ガラスの短辺側へのオフセット量が、板ガラスの中心線から重心までの距離の1倍を超えかつ15倍以下に設定されるものであってもよい。
板ガラスの重心位置を、成形面の中心線に対して具体的にどの程度オフセットした場合に、成形精度に良好な影響を与えるかにつき、本発明者らが検証を行ったところ、上記オフセット量を、板ガラスの中心線から重心までの距離の1倍を超えかつ15倍以下に設定した場合に、非常に良好な結果が得られることが判明した。従って、板ガラスの中心線の成形面の中心線に対する板ガラスの短辺側へのオフセット量を上述の範囲内に設定することで、短辺側と長辺側とで湾曲後の曲率の差が非常に小さく、かつそのばらつきも小さくなって、高精度な湾曲板ガラスの成形を安定的に行うことが可能となる。
以上に述べたように、本発明によれば、成形型との接触痕が発生する事態を可及的に防止して、表面品質の良好な湾曲板ガラスを提供することが可能となる。
以下、本発明の第一実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る湾曲板ガラスの成形装置10の概要を説明するための要部断面図である。この成形装置10は、板ガラスG1を所定の湾曲形状に成形するための下型11と、下型11に載置した板ガラスG1を加熱する加熱装置12と、下型11及び加熱装置12を収容する炉室13とを備える。
ここで、成形対象となる板ガラスG1は、その用途に応じて適当な組成を採ることが可能であり、その組成は特に限定されないが、一例を挙げると、質量%で、SiO2:50〜80%、Al2O3:5〜25%、B2O3:0〜15%、Na2O:1〜20%、K2O:0〜10%の組成を有する強化用板ガラスが採用可能であり、成形装置10にて湾曲成形した後に化学的に強化することで湾曲した強化板ガラスとすることができる。
また、板ガラスG1の寸法についても特に制限はないが、例えばその厚み寸法は3.0mm以下であればよく、好ましくは2.5mm以下であればよく、より好ましくは1.5mm以下であればよく、さらに好ましくは1.0mm以下であればよい。一方でその下限は、成形性の観点から、0.1mm以上であればよく、好ましくは0.5mm以上であればよい。厚み寸法が小さければ、比較的高粘度であっても容易に湾曲成形できるためである。
下型11は、板ガラスG1を所定の湾曲形状に成形するための成形面14を有する。本実施形態では、成形面14は凹状湾曲面であり、図2に示すように、下型11に載置した板ガラスG1の対向する二辺(ここでは矩形状をなす板ガラスG1の短辺G1a,G1a)をその幅方向(ここでは、湾曲方向に直交する向きをいう。以下、同じ。)全域にわたって支持可能としている。また、成形面14の形状は、幅方向に直線的に伸び、かつ湾曲方向全域にわたって単一の曲率半径を有する形状に形成される。なお、本実施形態では、湾曲方向が板ガラスG1の長辺G1b,G1bに沿った方向であり、幅方向が板ガラスG1の短辺G1a,G1aに沿った方向となっている(図2)。
また、本実施形態では、板ガラスG1と下型11に設けた成形面14との間にシート15が配設される。従って、この場合、板ガラスG1と成形面14との間にシート15を介在させた状態で、板ガラスG1への加熱が開始される。ここで、シート15は主に板ガラスG1を下型11から保護するためのもので、下型11よりも軟らかい材料で形成される。具体的には、ガラス、カーボン、あるいは下型11を形成する材料より軟らかい金属(ステンレスなど)が採用可能である。これらは板ガラスG1への加熱に対する耐性も有する。また、シート15は当然にシート状をなし、成形面14に載置した際、成形面14に倣って変形可能な程度の剛性(シート15としての変形に対する抵抗度合い)を示すことが要求される。この点に鑑み、例えばガラスでシート15を形成する場合にはガラスクロスで、カーボンでシート15を形成する場合にはカーボンクロスで、ステンレスでシート15を形成する場合にはステンレスクロスでそれぞれシート15を形成するのがよい。
また、下型11は、後述する板ガラスG1の加熱に耐え得る限りにおいて特に制限なく任意の材料で形成可能であり、一例としてムライトが挙げられる。もちろん、ムライト以外の材料、例えばアルミナ、ジルコン、あるいはこれらの混合物(アルミナジルコン、ジルコンムライトなど)で下型11を形成することも可能である。
加熱装置12は、炉室13内の下型11に載置された板ガラスG1を加熱するためのもので、例えば電気ヒーターなどの輻射加熱タイプや、バーナーで炉室13内の雰囲気16を対流加熱し、あるいはバーナーで加熱した気体を炉室13内に供給して、炉室13内の雰囲気16を対流加熱するタイプが採用可能である。なお、本実施形態では、図1に示すように、炉室13の上部、より正確には、下型11に載置した板ガラスGの上面G1cと対向する位置に加熱装置12を配置した場合を例示したが、もちろん、これ以外の配置態様(配置位置、個数)を採ることも可能である。
次に、上記構成の成形装置10を用いた湾曲板ガラスの成形方法の一例を本発明の利点と共に説明する。
まず、図1に示すように、成形装置10の炉室13内に、成形対象となる板ガラスG1を供給し、下型11に載置する(載置工程)。図1に示すように、シート15を介在させる場合には、下型11にシート15を載置し、その上から板ガラスG1を載置する。下型11に載置した状態では、板ガラスG1は湾曲変形前の形状(例えば図1に示す如く平板状)をなしている。なお、この際、予め下型11を所定の温度(例えば200〜300℃)で予熱しておいてもよい(予熱工程)。予熱は、この炉室13内で行ってもよいし、炉室13とは別の炉室(予熱炉)で行ってもよい。
このようにして下型11に板ガラスG1を載置した後、加熱装置12による板ガラスG1への加熱を開始する(加熱工程)。これにより、板ガラスG1を軟化させると共に、軟化に伴う自重変形(本実施形態であれば、下方へのたわみ変形)で、板ガラスG1を成形面14になじませて(成形面14にマクロ的に密着させて)、図3に示すように、成形面14に準じた形状に成形する(成形工程)。そして、湾曲板ガラスG2の成形が完了したら、湾曲板ガラスG2を下型11上から炉室13外に取り出す(取出し工程)。以上の工程を経て、湾曲板ガラスG2が得られる。
図4は、加熱工程の間における、加熱時間と板ガラスG1の粘度との関係を示している。図4に示すように、本加熱工程では、一定の勾配で板ガラスG1の温度(通常、容易に測定可能な炉室13内の雰囲気16の温度でもって板ガラスG1の温度を推定)を上昇させ、所定の温度にまで板ガラスG1を加熱した後、板ガラスG1を所定の勾配で冷却する熱履歴が設定される。この際の板ガラスG1の最高温度、すなわち板ガラスG1の最小粘度Vminが1010poise以上となるよう、熱履歴が設定される。言い換えると、板ガラスG1への加熱開始から成形完了までの間、板ガラスG1の粘度が1010poise以上に維持される。これにより、板ガラスG1を高精度に成形しつつも、成形面14と板ガラスG1とが必要以上に強く接触する事態を避けて、成形後の板ガラスG1(湾曲板ガラスG2)表面に成形面14との接触痕が残る事態を可及的に防止することが可能となる。また、板ガラスG1が高粘性であるほど、板ガラスG1の表面(下面G1d)が硬くなるので、このことによっても成形面14との接触痕を付き難くすることができる。
また、本実施形態では、加熱開始から成形完了までの間において、板ガラスG1の粘度がV1=1013poise以下となる時間T1を60分以下に設定し、かつ、板ガラスG1の粘度がV2=1014.5poise以下となる時間T2を90分以下に設定するようにした。このように、板ガラスG1が最小粘度Vminにまでは至っていなくとも、比較的粘度の低い状態をなるべく短時間に留めることで、接触痕の発生をより高確率で防止でき、あるいはその程度(発生個数、大きさ、目立ちやすさ等)をさらに抑制することが可能となる。なお、本実施形態で例示の組成を示す板ガラスG1において、上記粘度V1は徐冷点における粘度に相当し、上記粘度V2は歪点における粘度に相当する。このことから、板ガラスG1の最小粘度Vminを管理するだけでなく、徐冷点及び歪点以上の温度で板ガラスG1が保持される時間T1,T2をなるべく短時間に留めることが、接触痕の発生を可及的に防止又は抑制するのに非常に有効であることが理解できる。
なお、これら最小粘度Vminと、所定粘度V1,V2以下となる時間T1,T2は、湾曲板ガラスG2の用途によって適宜設定することが好ましい。例えば自動車用ディスプレイ向けの高精細表示用途であれば、厚み寸法が相対的に大きいことも考慮して、例えば板ガラスG1の最小粘度Vminを1010poise以上、所定粘度V1以下となる時間T1を60分以下、及び所定粘度V2以下となる時間T2を90分以下に設定するのがよい。また、スマートフォン向けの高精細表示用途であれば、厚み寸法が相対的に小さいことも考慮して、例えば板ガラスG1の最小粘度Vminを1011poise以上、所定粘度V1以下となる時間T1を30分以下、及び所定粘度V2以下となる時間T2を60分以下に設定するのがよい。
また、本実施形態では、下型11と板ガラスG1との間に、下型11よりも軟らかいシート15を介在させた状態で、板ガラスG1への加熱を開始するようにした。これにより、板ガラスG1はこのシート15と接触し、下型11との直接的な接触は回避される。このシート15は下型11よりも軟らかいので板ガラスG1と接触しても傷(接触痕)が付きにくい。また、シート15であるから変形に対してフレキシブルであり、下型11に設けた成形面14にも容易に倣う。そのため、このシート15を介在させることで板ガラスG1の加熱湾曲成形に悪影響を及ぼすおそれはなく、成形精度の面でも問題ない。
以上、本発明に係る湾曲板ガラスの成形方法の第一実施形態を説明したが、この成形方法は、当然に本発明の範囲内において任意の形態を採ることができる。
図5及び図6はその一例(本発明の第二実施形態)を示すもので、これらの図に示す成形装置17は、下型18に板ガラスG1を載置した状態で、板ガラスG1の下面G1dと成形面14との間に密閉空間19を形成し、この密閉空間19と板ガラスG1の上面G1c側に位置する空間20とを区画可能としている。詳細には、下型18は、板ガラスG1を成形面14に載置した状態で、板ガラスG1の下面G1d及び成形面14と共に密閉空間19を画成する側部21を有し、これにより成形面14に板ガラスG1を載置した状態で、板ガラスG1の下面G1d側に密閉空間19を形成可能としている。
また、下型18は、板ガラスG1の下面G1d側に形成した密閉空間19を減圧する減圧装置22を有する。これにより、板ガラスG1を加熱している間の一部又は全ての期間において、密閉空間19を減圧可能としている。
このように、板ガラスG1と成形面14との間に形成した密閉空間19を減圧することで、板ガラスG1の下面G1d側に位置する空間(密閉空間19)の気圧に比べて、上面G1c側に位置する空間20の気圧が相対的に高まる。これにより、密閉空間19と上面G1c側に位置する空間20とを区画する板ガラスG1はその上面G1c側に位置する空間20から成形面14に向けて加圧される。よって、この加圧力が、成形面14に向けた板ガラスG1の変形を後押しする形となり、より低温で(最小粘度Vminを高めに維持した状態で)板ガラスG1を成形面14に倣った形状に成形することができる。従って、板ガラスG1の下面G1dにおける接触痕の発生をより一層高い確率で防止し、あるいはその程度をより一層抑制しつつも、板ガラスG1をより高精度に成形面14に倣った形状に成形することが可能となる。この場合の板ガラスG1の最小粘度Vminは例えば1011.5poise以上とすることが可能である。
また、上記第二実施形態において、図示は省略するが、板ガラスG1の上面G1c側に位置する空間20を加圧するための加圧装置をさらに設けてもよい。板ガラスG1と成形面14との間に形成した密閉空間19を減圧するのに加えて、板ガラスG1の上面G1c側に位置する空間20をさらに加圧するようにすれば、板ガラスG1の下面G1d側に位置する空間(密閉空間19)の気圧と、上面G1c側に位置する空間20の気圧との差をより大きくでき、板ガラスG1をより大きな加圧力で成形面14に向けて加圧することができる。よって、板ガラスG1の最小粘度Vminをさらに高めに維持した状態であっても板ガラスG1を成形面14に準じた形状に成形することができる。
図7は、本発明の第三実施形態に係る成形装置23の要部断面図である。図7に示すように、この成形装置23は、凹状をなす成形面24と凸状をなす成形面25とが設けられた下型26を備える点で、上記第一及び第二実施形態と相違する。
ここで、凹状をなす成形面24と凸状をなす成形面25は共に、一定の曲率半径を有するもので、本実施形態では、双方の成形面24,25の境界27まわりに対称(回転対称)な関係にある。この場合、各成形面24,25の曲率半径、幅寸法、及び湾曲方向に沿った向きの寸法(図8において幅方向に直交する向きの寸法)は何れも同じ大きさに設定される。
次に、上記構成の成形装置23を用いた湾曲板ガラスの成形方法の一例を本発明の利点と共に説明する。
まず、図7に示すように、成形装置23の炉室13内に、成形対象となる板ガラスG1を供給し、下型26に載置する(載置工程)。この際、図8に示すように、矩形状をなす板ガラスG1の対向する二辺(短辺G1a,G1a)がその幅方向全域にわたって成形面24,25に支持されるように、板ガラスG1を成形面24,25上に載置する。図示は省略するが、第一実施形態のように、シート15を介在させる場合には、下型26にシート15を載置し、その上から板ガラスG1を載置する。
このようにして下型26に板ガラスG1を載置した後、加熱装置12による板ガラスG1への加熱を開始する(加熱工程)。これにより、板ガラスG1を軟化させると共に、軟化に伴う自重変形で、板ガラスG1を各成形面24,25になじませて(成形面24,25にマクロ的に密着させて)、図9に示すように、各成形面24,25に準じた形状である、凹状に湾曲する部分G3aと、凸状に湾曲する部分G3bとを有する湾曲板ガラスG3を成形する(成形工程)。この際、凸状に湾曲する部分G3bの端部G3b1は、凸状をなす成形面25から少し浮き上がる傾向にある。
このようにして、湾曲板ガラスG3の成形を行った後、湾曲板ガラスG3を反転させて、反転後の湾曲板ガラスG3の下面G3cに対応した形状の成形面を設けた下型、ここでは、一回目の加熱成形に用いた下型26と同じものに湾曲板ガラスG3を載置する(図10)。反転しているので、湾曲板ガラスG3の凹状に湾曲する部分G3aが凸状をなす成形面25上に載置され、凸状に湾曲する部分G3bが凹状をなす成形面24上に載置された状態となる。然る後、加熱装置12による湾曲板ガラスG3への加熱を開始し(再加熱工程)、湾曲板ガラスG3を軟化させると共に、軟化に伴う自重変形で、湾曲板ガラスG3を各成形面24,25に準じた形状に再成形する。この際、一回目の加熱成形で凸状をなす成形面25から少し浮き上がった端部G3b1は、反転後、凹状をなす成形面24上に載置された状態となり、浮き上がりを打ち消す向きに自重が作用する。よって、二回目の加熱成形で下方へのたわみ変形で、端部G3b1を含む凸状に湾曲した部分G3bは、成形面24に準じた形状に精度よく再成形される。
また、本実施形態においても、上記一回目及び二回目の加熱工程の間における板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)の最小粘度Vminが1010poise以上となるよう、熱履歴を設定することで、板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)を高精度に成形しつつも、各成形面24,25と板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)とが必要以上に強く接触する事態を避けて、成形後の板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)表面に成形面24,25との接触痕が残る事態を可及的に防止することが可能となる。
もちろん、上記最小粘度Vminに加えて、板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)の粘度がV1=1013poise以下となる時間T1を60分以下に設定し、かつ、板ガラスG1(湾曲板ガラスG3)の粘度がV2=1014.5poise以下となる時間T2を90分以下に設定することで、比較的粘度の低い状態をなるべく短時間に留めて、接触痕の発生をより高確率で防止でき、あるいはその程度(発生個数、大きさ、目立ちやすさ等)をさらに抑制することが可能となる。
なお、上記第三実施形態では、成形すべき湾曲板ガラスG3の凹状をなす部分G3aと凸状をなす部分G3bとが対称である場合を例示したが、もちろん非対称である場合にも、本発明を適用することは可能である。その場合、図示は省略するが、反転後の成形に用いる下型として、反転前の成形に用いる下型26とは異なるものを別個に用意し、反転後の湾曲板ガラスG3の下面G3cに対応した形状の成形面を上記反転後用の下型に設けることで、反転前と反転後二回の成形により、所望形状の湾曲板ガラスG3を成形することができる。
また、上記第三実施形態では、成形すべき湾曲板ガラスG3が、凹状をなす部分G3aと凸状をなす部分G3bがそれぞれ一つずつ有する場合を例示したが、もちろん、これ以外の形態をなす湾曲板ガラスG3であってもかまわない。例えば図示は省略するが、凹状をなす部分G3aの両側に凸状をなす部分G3bがつながった形状をなす湾曲板ガラスG3を上述した第三実施形態に係る方法で成形することももちろん可能である。
以下、本発明の第四実施形態を、図11〜図13に基づき説明する。
図11は、本発明の第四実施形態に係る成形装置10の要部断面図である。図11に示すように、この成形装置10は、上記第一実施形態で用いた成形装置10と同一である。異なる点は、成形対象となる板ガラスG4の形状と、その載置態様にある。以下、これらの点を中心に詳述する。
本実施形態で成形対象となる板ガラスG4は、図12に示すように、対向する二辺G4a1,G4a2の長さが互いに異なる、いわば非矩形状をなす。この図示例では、板ガラスG4は対向する二辺G4a1,G4a2が平行であることから、短辺G4a1を上底、長辺G4a2を下底とする台形形状をなしている。
そして、上記形状をなす板ガラスG4は、図11に示すように、短辺G4a1の側が、長辺G4a2の側よりも上方で成形面14と接触するよう、水平面Hに対して傾斜した姿勢で成形面14上に載置される。
また、この際、板ガラスG4の重心g(図12)が、成形面14の周縁部をなす二辺14a,14aからの距離が等しい成形面14の中心線C1(図12)よりも板ガラスG4の短辺G4a1の側に位置するよう(図11)、板ガラスG4の載置姿勢及び位置が設定される。より具体的には、板ガラスG4の二辺G4a1,G4a2からの距離が等しい板ガラスG4の中心線C2(図12)の、成形面14の中心線C1に対する板ガラスG4の短辺G4a1側へのオフセット量S(図11)が、板ガラスG4の中心線C2から重心gまでの距離d(図13)の1倍を超えかつ15倍以下に設定される。なお、ここでいう、オフセット量Sは、図11に示すように、成形面14の中心線C1に対する板ガラスG4の中心線C2の水平面Hに沿った向きのずれ量をいうものとする。
上述のようにして下型11に板ガラスG4を載置した後、加熱装置12による板ガラスG4への加熱を開始する(加熱工程)。これにより、板ガラスG4を軟化させると共に、軟化に伴う自重変形で、板ガラスG4を成形面14になじませて(成形面14にマクロ的に密着させて)、成形面14に準じた形状に成形する(成形工程)。
ここで、本発明では、板ガラスG4の相対的に短辺G4a1となる側が、相対的に長辺G4a2となる側よりも上方で成形面14と接触するよう、板ガラスG4を水平面Hに対して傾斜させた姿勢で成形面14上に載置するようにした(図11を参照)。このように非矩形状の板ガラスG4を成形面14上に傾斜姿勢で載置することで、非矩形状をなす板ガラスG4の重心gが、従来のように水平姿勢で載置した場合と比べて、相対的に板ガラスG4の短辺G4a1側にオフセットした状態となる(図11及び図13を参照)。詳述すると、非矩形状をなす板ガラスG4を水平面Hに沿った姿勢で成形面14上に載置した場合、図13に示すように、凹状をなす成形面14の中心線C1(ここでは、成形面14の周縁部をなす二辺14a,14aからの距離が等しい中心線をいう。)よりも長辺G4a2となる側に、板ガラスG4の重心gがオフセットした状態となる。これに対し、上述のように板ガラスG4の短辺G4a1となる側が相対的に上方となるよう、板ガラスG4を傾斜姿勢で載置することで、板ガラスG4の重心gを従来よりも成形面14の中心線C1の側にオフセットした状態にできる。これにより、短辺G4a1側と長辺G4a2側とでバランスをとりつつ湾曲板ガラスを成形することができるので、自重変形による湾曲の度合い(本実施形態でいえば、成形後の曲率半径)が短辺G4a1側と長辺G4a2側とでばらつく事態を可及的に防止して、高精度な湾曲板ガラスの成形を安定的に行うことが可能となる。
特に、本実施形態では、板ガラスG4の重心gが、成形面14の周縁部をなす二辺14a,14aからの距離が等しい成形面14の中心線C1よりも板ガラスG4の短辺G4a1となる側に位置するよう板ガラスG4を載置した。より具体的には、本発明者らによる検証結果に基づいて、板ガラスG4の中心線C2の成形面14の中心線C1に対するオフセット量Sが、板ガラスG4の中心線C2から重心gまでの距離d(図13)の1倍を超えかつ15倍以下となるように、板ガラスG4の位置を設定した。このように載置することにより、加熱に伴う軟化で、板ガラスG4の重心gが成形面14の中心線C1に向かうように、板ガラスG4の自重変形(たわみ変形)が生じる。よって、上述のように板ガラスG4を載置することで、短辺G4a1側と長辺G4a2側とで湾曲度合いのばらつきをさらに小さくすることができ、より高精度な湾曲板ガラスの成形が可能となる。
また、本実施形態においても、上記加熱工程の間における板ガラスG4の最小粘度Vminが1010poise以上となるよう、熱履歴を設定することで、板ガラスG4を高精度に成形しつつも、成形面14と板ガラスG4とが必要以上に強く接触する事態を避けて、成形後の板ガラスG4表面に成形面14との接触痕が残る事態を可及的に防止することが可能となる。
もちろん、上記最小粘度Vminに加えて、板ガラスG4の粘度がV1=1013poise以下となる時間T1を60分以下に設定し、かつ、板ガラスG4の粘度がV2=1014.5poise以下となる時間T2を90分以下に設定することで、比較的粘度の低い状態をなるべく短時間に留めて、接触痕の発生をより高確率で防止でき、あるいはその程度(発生個数、大きさ、目立ちやすさ等)をさらに抑制することが可能となる。
なお、上記第四実施形態では、非矩形状の板ガラスG4として、台形形状をなすものを例示したが、もちろんこれ以外の形態をなす板ガラスにも本発明を適用することは可能である。例えば図示は省略するが、対向する二辺が互いに平行でない四角形状など、非台形形状の板ガラスに本発明を適用することも可能である。なお、ここでいう辺とは、板ガラス全体としてみた場合にその周縁部を直線的に構成するものを意味し、完全な直線形状のみならず、若干の湾曲を伴って直線状に伸びる周縁部の一部を含むものとする。
また、下型11に設けた成形面14に関し、上記第一、第二、及び第四実施形態では、板ガラスG1,G4をその長手方向全域にわたって単一の曲率半径を有する形状に成形するための形状をなしたものを例示したが、もちろんこれには限られない。成形面14を、複数の曲率半径で構成してもよく、これにより板ガラスG1,G4を、複数の曲率半径が連続する湾曲形状に成形することも可能である。もちろん、板ガラスG1,G4の一部を湾曲形状とすることも可能である。また、板ガラスG1,G4の全面が成形面14上に載置される必要はなく、例えば図示は省略するが、成形面14の周囲に、水平方向に伸びる平坦面を設け、この平坦面で板ガラスG1,G4の周縁部を支持するようにしてもよい。
また、上記第一〜第四実施形態では、炉室13内に一又は複数の下型11を固定配置し、当該下型11に板ガラスG1,G4を載置して一度に成形を施す(いわゆるバッチ処理を施す)場合を例示したが、もちろん、下型11及び板ガラスG1,G4をコンベア等で搬送しながら加熱炉(炉室13)を通過させることで、通過した板ガラスG1,G4に順次成形処理を施す(いわゆる連続処理を施す)ようにしても構わない。
以下、本発明の実施例を説明する。最初に実験条件(成形条件、測定条件)について説明し、次に実験結果について説明する。
(成形条件)
実施例(実施例1〜実施例4)、比較例ともに、試験片として、長辺160mm、短辺80mm、厚み寸法0.7mmの板ガラスを用いた。そして、この板ガラスを、R1000mmの凹状湾曲形状をなす成形面上に長辺に沿って湾曲する向きに載置し、加熱軟化に伴う自重変形で上記成形面に倣った形状に成形した。この際の熱履歴は表1に示す通りである。
(測定条件)
上述のようにして成形した湾曲板ガラスの表面に残存する接触痕の数を計測した。何れの試験片についても、計測前の処理として、クリーンルーム内にて純水で湾曲板ガラスの表面を洗浄し、除去可能な異物を取り除いた上で、接触痕の数を目視にて計測した。計測は、クリーンルーム内において(1)照度700lx、及び(2)照度1200lxの二条件下にて行った。この際の計測結果を表2に示す。なお、表2中の「無数」とは、対象試験片中に目視で確認できる接触痕の数が100を超える程度に多数であることを意味する。
このように、加熱工程中における板ガラスの最小粘度を1010poise未満とした場合(比較例)、成形後の板ガラス(湾曲板ガラス)表面に許容できないレベルの無数の接触痕が見受けられた。これに対し、加熱工程中における板ガラスの最小粘度を1010poise以上とした場合(実施例1〜実施例4)には、湾曲板ガラスの表面に残存する接触痕の数は僅かであった。特に、加熱工程中において板ガラスの最小粘度を1010poise以上とした場合(実施例1、実施例2)には、接触痕の発生は少なくとも通常の照度下(700lx下)では全くみられず、特にその場合に、板ガラスの粘度が1013poise以下となる時間を30分以下に設定し、かつ1014.5poise以下となる時間を60分以下に設定した場合(実施例1)には、接触痕の発生は照度をさらに高めた条件下(1200lx下)においても全くみられず、また優れた成形精度を示す湾曲板ガラスが得られた。