以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、本発明に係る検出装置(測定装置)の代表例として、SPFSを利用した表面プラズモン励起増強蛍光分析装置(SPFS装置)について説明する。本実施の形態に係るSPFS装置は、検体中の被検出物質の量を検出することに加えて、粒子を含む被検出液の物性(被検出液中の粒子の濃度および粒子の大きさ)を検出することもできる。たとえば、本実施の形態に係るSPFS装置は、赤血球(粒子)を含む検体を被検出液とした場合、血液のヘマトクリット値を検出することができる。そこで、以下の実施の形態では、血液の少なくとも一部を含む検体を使用した場合に、検体中の被検出物質の量を検出するだけでなく、ヘマトクリット値により補正された被検出物質の量を算出することができるSPFS装置について説明する。
[実施の形態1]
実施の形態1では、バックグラウンドノイズの影響を受けることなく、粒子を含む被検出液の物性または検体中の被検出物質の量を検出するための検出装置(SPFS装置)および検出方法について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係るSPFS装置100の構成を示す模式図である。図1に示されるように、SPFS装置100は、励起光照射ユニット110(光照射部)、光検出ユニット130(第1の光検出部および第2の光検出部)、送液ユニット140、搬送ユニット150および制御部160を有する。SPFS装置100は、搬送ユニット150のチップホルダー154に分析チップ10を装着した状態で使用される。そこで、分析チップ10について先に説明し、その後にSPFS装置100の各構成要素について説明する。
分析チップ10は、入射面21、全反射面22および出射面23を有するプリズム20と、全反射面22に形成された金属膜30と、全反射面22または金属膜30上に配置された流路蓋40とを有する。通常、分析チップ10は、分析のたびに交換される。
プリズム20は、励起光αに対して透明な誘電体からなる。前述のとおり、プリズム20は、入射面21、全反射面22および出射面23を有する。入射面21は、励起光照射ユニット110からの励起光αをプリズム20の内部に入射させる。全反射面22上には、金属膜30が配置されている。プリズム20の内部に入射した励起光αは、金属膜30の裏面で反射して反射光β(図示せず)となる。より具体的には、励起光αは、プリズム20と金属膜30との界面(全反射面22)で反射して反射光βとなる。出射面23は、反射光βをプリズム20の外部に出射させる。
プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が全反射面22であり、一方の脚に対応する面が入射面21であり、他方の脚に対応する面が出射面23である。底面となる台形は、等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面21と出射面23とが対称になり、励起光αのS波成分がプリズム20内に滞留しにくくなる。なお、プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20は、底面である台形の上底が8mmであり、高さが3mmである。
入射面21は、励起光αが励起光照射ユニット110に戻らないように形成される。励起光αの光源がレーザーダイオード(以下「LD」ともいう)である場合、励起光αがLDに戻ると、LDの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまう。そこで、共鳴角または増強角を中心とする理想的な走査範囲において、励起光αが入射面21に垂直に入射しないように、入射面21の角度が設定される。ここで「共鳴角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、出射面23から出射される反射光βの光量が最小となるときの、入射角を意味する。また、「増強角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、分析チップ10の上方に放出される励起光αと同一波長の散乱光(以下「プラズモン散乱光」という)δの光量が最大となるときの、入射角を意味する。本実施の形態では、入射面21と全反射面22との角度および全反射面22と出射面23との角度は、いずれも約80°である。
なお、分析チップ10の設計により、共鳴角(およびその極近傍にある増強角)が概ね決まる。設計要素は、プリズム20の屈折率や、金属膜30の屈折率、金属膜30の膜厚、金属膜30の消衰係数、励起光αの波長などである。金属膜30上に捕捉された被検出物質(被測定物質)によって共鳴角および増強角がシフトするが、その量は数度未満である。
プリズム20は、複屈折特性を少なからず有する。プリズム20の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム20の材料は、好ましくは、屈折率が1.4〜1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
金属膜30は、プリズム20の全反射面22上に配置されている。これにより、全反射面22に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜30中の自由電子との間で相互作用(表面プラズモン共鳴:Surface Plasmon Resonance(以下、「SPR」と略記する))が生じ、金属膜30の表面上に局在場光(エバネッセント光)を生じさせることができる。
金属膜30の材料は、表面プラズモン共鳴(SPR)を生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜30の材料の例には、金、銀、銅、アルミ、これらの合金が含まれる。本実施の形態では、金属膜30は、金薄膜である。金属膜30の形成方法は、特に限定されない。金属膜30の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。金属膜30の厚みは、特に限定されないが、30〜70nmの範囲内が好ましい。
また、金属膜30は、被検出物質を直接的または間接的に結合させる。図1では図示しないが、金属膜30のプリズム20と対向しない面(金属膜30の表面)には、被検出物質を捕捉するための捕捉体が固定化されている。これにより、金属膜30は、被検出物質を間接的に捕捉しうる。捕捉体を固定化することで、被検出物質を選択的に検出することが可能となる。本実施の形態では、金属膜30上の所定の領域(反応場)に、捕捉体が均一に固定化されている。捕捉体の種類は、被検出物質を捕捉することができれば特に限定されない。本実施の形態では、捕捉体は、被検出物質に特異的に結合可能な抗体またはその断片である。
流路蓋40は、金属膜30上に配置されている。金属膜30がプリズム20の全反射面22の一部にのみ形成されている場合は、流路蓋40は、全反射面22上に配置されていてもよい。流路蓋40の裏面には、流路溝が形成されており、流路蓋40は、金属膜30(およびプリズム20)とともに、液体を収容し、かつ液体が流れる流路(収容部)41を形成する。液体の例には、被検出物質を含む検体(全血、血漿、血清またはこれらの希釈液)や、蛍光物質で標識された捕捉体を含む標識液、基準液、洗浄液などが含まれる。金属膜30は、流路41内に露出し、金属膜30に固定化されている捕捉体は、流路41内に露出している。流路41の両端は、流路蓋40の上面に形成された不図示の注入口および排出口とそれぞれ接続されている。流路41内へ液体が注入されると、液体は捕捉体に接触する。
流路蓋40は、金属膜30上から放出される蛍光γおよびプラズモン散乱光δのようなシグナルに対して透明な材料からなることが好ましい。流路蓋40の材料の例には、樹脂が含まれる。蛍光γおよびプラズモン散乱光δを外部に取り出す部分が蛍光γおよびプラズモン散乱光δに対して透明であれば、流路蓋40の他の部分は、不透明な材料で形成されていてもよい。流路蓋40は、例えば、両面テープや接着剤などによる接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜30またはプリズム20に接合されている。
図1に示されるように、励起光αは、入射面21からプリズム20内に入射する。プリズム20内に入射した励起光αは、金属膜30に全反射角度(SPRが生じる角度)で入射する。このように金属膜30に対して励起光αをSPRが生じる角度で照射することで、金属膜30上に局在場光を発生させることができる。この局在場光により、金属膜30上に存在する被検出物質を標識する蛍光物質が励起され、蛍光γが出射される。SPFS装置100は、蛍光物質から放出された蛍光γの光量を検出(測定)することで、被検出物質の量を検出(測定)する。
次に、SPFS装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、SPFS装置100は、励起光照射ユニット110、光検出ユニット130、送液ユニット140、搬送ユニット150および制御部160を有する。
励起光照射ユニット110は、チップホルダー154に保持された分析チップ10に励起光αを照射する光照射部として機能する。ここで「励起光」とは、蛍光物質を直接的または間接的に励起させる光である。たとえば、励起光αは、プリズム20を介して金属膜30にSPRが生じる角度で照射されたときに、蛍光物質を励起させる局在場光を金属膜30の表面上に生じさせる光である。詳細については後述するが、励起光照射ユニット110は、プリズム20側から全反射面22に第1の入射角または第2の入射角で光を照射する。ここで、第1の入射角は、ヘマトクリット値を算出するためにプラズモン散乱光δの光量を検出するときの入射角であり、第2の入射角は、被検出物質の量を算出するために蛍光γの光量を検出するときの入射角である。第1の入射角および第2の入射角は、いずれも臨界角以上であるが、第1の入射角は、第2の入射角より小さい。蛍光γまたはプラズモン散乱光δの検出(測定)時には、励起光照射ユニット110は、金属膜30に対する入射角がSPRを生じさせる角度となるように、金属膜30に対するP波のみを入射面21に向けて出射する。励起光照射ユニット110は、光源ユニット111、第1角度調整部112および光源制御部113を含む。
光源ユニット111は、コリメートされ、かつ波長および光量が一定の励起光αを、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が略円形となるように出射する。光源ユニット111は、例えば、励起光αの光源、ビーム整形光学系、APC機構および温度調整機構(いずれも不図示)を含む。
光源の種類は、特に限定されず、例えばレーザーダイオード(LD)である。光源の他の例には、発光ダイオード、水銀灯、その他のレーザー光源が含まれる。光源から出射される光がビームでない場合は、光源から出射される光は、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源から出射される光が単色光でない場合は、光源から出射される光は、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源から出射される光が直線偏光でない場合は、光源から出射される光は、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
ビーム整形光学系は、例えば、コリメーターやバンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリット、ズーム手段などを含む。ビーム整形光学系は、これらのすべてを含んでいてもよいし、一部を含んでいてもよい。コリメーターは、光源から出射された励起光αをコリメートする。バンドパスフィルターは、光源から出射された励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源からの励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。直線偏光フィルターは、光源から出射された励起光αを完全な直線偏光の光にする。半波長板は、金属膜30にP波成分が入射するように励起光αの偏光方向を調整する。スリットおよびズーム手段は、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
APC機構は、光源の出力が一定となるように光源を制御する。より具体的には、APC機構は、励起光αから分岐させた光の光量を不図示のフォトダイオードなどで検出する。そして、APC機構は、回帰回路で投入エネルギーを制御することで、光源の出力を一定に制御する。
温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。光源の出射光の波長およびエネルギーは、温度によって変動することがある。このため、温度調整機構で光源の温度を一定に保つことにより、光源の出射光の波長およびエネルギーを一定に制御する。
第1角度調整部112は、金属膜30(プリズム20と金属膜30との界面(全反射面22))に対する励起光αの入射角を調整する。第1角度調整部112は、プリズム20を介して金属膜30の所定の位置に向けて所定の入射角で励起光αを照射するために、光源ユニット111とチップホルダー154とを相対的に回転させる。
たとえば、第1角度調整部112は、光源ユニット111を励起光αの光軸と直交する軸(図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として回動させる。このとき、入射角を走査しても金属膜30上での照射スポットの位置がほとんど変化しないように、回転軸の位置を設定する。回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの励起光αの光軸の交点近傍(全反射面22上の照射位置と入射面21との間)に設定することで、照射位置のズレを極小化することができる。
前述のとおり、金属膜30に対する励起光αの入射角のうち、プラズモン散乱光δの光量が最大となる角度が増強角である。励起光αの入射角を増強角またはその近傍の角度に設定することで、高強度の蛍光γを検出(測定)することが可能となる。分析チップ10のプリズム20の材料および形状、金属膜30の膜厚、流路41内の液体の屈折率などにより、励起光αの基本的な入射条件が決まるが、流路41内の蛍光物質の種類および量、プリズム20の形状誤差などにより、最適な入射条件はわずかに変動する。このため、蛍光γの検出(測定)ごとに最適な増強角を求めることが好ましい。
光源制御部113は、光源ユニット111に含まれる各種機器を制御して、光源ユニット111からの励起光αの出射を制御する。光源制御部113は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
光検出ユニット130は、金属膜30への励起光αの照射によって生じた蛍光γと、金属膜30への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光δとを検出する。光検出ユニット130は、受光ユニット131、位置切替機構132および第1センサー制御部133を含む。本実施の形態では、1つの光検出ユニット130が、金属膜30への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光δを検出する第1の光検出部として機能するとともに、金属膜30への励起光αの照射によって生じた蛍光γを検出する第2の光検出部としても機能する。
受光ユニット131は、分析チップ10の金属膜30の法線方向に配置される。受光ユニット131は、第1レンズ134、光学フィルター135、第2レンズ136および第1受光センサー137を含む。
第1レンズ134は、例えば、集光レンズであり、金属膜30上から出射される光を集光する。第2レンズ136は、例えば、結像レンズであり、第1レンズ134で集光された光を第1受光センサー137の受光面に結像させる。両レンズの間の光路は、略平行な光路になっている。光学フィルター135は、両レンズの間に配置されている。
光学フィルター135は、蛍光成分のみを第1受光センサー137に導き、高いS/N比で蛍光γを検出するために、励起光成分(プラズモン散乱光δ)を除去する。光学フィルター135の例には、励起光反射フィルター、短波長カットフィルターおよびバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター135は、例えば、所定の光成分を反射する多層膜を含むフィルター、または所定の光成分を吸収する色ガラスフィルターである。
第1受光センサー137は、蛍光γおよびプラズモン散乱光δを検出する。第1受光センサー137は、微量の被検出物質を標識する蛍光物質からの微弱な蛍光γを検出することが可能であり、高い感度を有する。第1受光センサー137は、例えば、光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)などである。
位置切替機構132は、光学フィルター135の位置を、受光ユニット131における光路上または光路外に切り替える。具体的には、第1受光センサー137が蛍光γを検出するときには、光学フィルター135を受光ユニット131の光路上に配置し、第1受光センサー137がプラズモン散乱光δを検出するときには、光学フィルター135を受光ユニット131の光路外に配置する。
第1センサー制御部133は、第1受光センサー137の出力値の検出や、検出した出力値による第1受光センサー137の感度の管理、適切な出力値を得るための第1受光センサー137の感度の変更などを制御する。第1センサー制御部133は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
送液ユニット140は、チップホルダー154に保持された分析チップ10の流路41内に、検体や標識液、基準液、洗浄液などを供給する。送液ユニット140は、液体チップ141、シリンジポンプ142および送液ポンプ駆動機構143を含む。
液体チップ141は、検体や標識液、基準液、洗浄液などの液体を収容する容器である。液体チップ141としては、通常、複数の容器が液体の種類に応じて配置されるか、または複数の容器が一体化したチップが配置される。
シリンジポンプ142は、シリンジ144と、シリンジ144内を往復動作可能なプランジャー145とによって構成される。プランジャー145の往復運動によって、液体の吸引および吐出が定量的に行われる。シリンジ144が交換可能であると、シリンジ144の洗浄が不要となる。このため、不純物の混入などを防止する観点から好ましい。シリンジ144が交換可能に構成されていない場合は、シリンジ144内を洗浄する構成をさらに付加することにより、シリンジ144を交換せずに使用することが可能となる。
送液ポンプ駆動機構143は、プランジャー145の駆動装置、およびシリンジポンプ142の移動装置を含む。シリンジポンプ142の駆動装置は、プランジャー145を往復運動させるための装置であり、例えば、ステッピングモーターを含む。ステッピングモーターを含む駆動装置は、シリンジポンプ142の送液量や送液速度を管理できるため、分析チップ10の残液量を管理する観点から好ましい。シリンジポンプ142の移動装置は、例えば、シリンジポンプ142を、シリンジ144の軸方向(例えば垂直方向)と、軸方向を横断する方向(例えば水平方向)との二方向に自在に動かす。シリンジポンプ142の移動装置は、例えば、ロボットアーム、2軸ステージまたは上下動自在なターンテーブルによって構成される。
送液ユニット140は、液体チップ141より各種液体を吸引し、分析チップ10の流路41内に供給する。このとき、プランジャー145を動かすことで、分析チップ10中の流路41内を液体が往復し、流路41内の液体が撹拌される。これにより、液体の濃度の均一化や、流路41内における反応(例えば抗原抗体反応)の促進などを実現することができる。このような操作を行う観点から、分析チップ10の注入口は多層フィルムで保護されており、かつシリンジ144がこの多層フィルムを貫通した時に注入口を密閉できるように、分析チップ10およびシリンジ144が構成されていることが好ましい。
流路41内の液体は、再びシリンジポンプ142で吸引され、液体チップ141などに排出される。これらの動作の繰り返しにより、各種液体による反応、洗浄などを実施し、流路41内の反応場に、蛍光物質で標識された被検出物質を配置することができる。
搬送ユニット150は、分析チップ10を検出位置または送液位置に搬送し、固定する。ここで「検出位置(測定位置)」とは、励起光照射ユニット110が分析チップ10に励起光αを照射し、それに伴い発生する反射光βを第2受光センサー221が検出する位置(実施の形態1の変形例参照)、または蛍光γもしくはプラズモン散乱光δを光検出ユニット130が検出する位置である。また、「送液位置」とは、送液ユニット140が分析チップ10の流路41内に液体を供給するか、または分析チップ10の流路41内の液体を除去する位置である。搬送ユニット150は、搬送ステージ152およびチップホルダー154を含む。チップホルダー154は、搬送ステージ152に固定されており、分析チップ10を着脱可能に保持する。チップホルダー154の形状は、分析チップ10を保持することが可能であり、かつ励起光α、反射光β、蛍光γおよびプラズモン散乱光δの光路を妨げない形状である。たとえば、チップホルダー154には、励起光αおよび反射光βが通過するための開口部が設けられている。搬送ステージ152は、チップホルダー154を一方向およびその逆方向に移動させる。搬送ステージ152も、励起光α、反射光β、蛍光γおよびプラズモン散乱光δの光路を妨げない形状である。搬送ステージ152は、例えば、ステッピングモーターなどで駆動される。
制御部160は、第1角度調整部112、光源制御部113、位置切替機構132、第1センサー制御部133、送液ポンプ駆動機構143および搬送ステージ152を制御する。また、制御部160は、光検出ユニット130の検出結果に基づいて、検体が血液を含む検体であるか否か、すなわち血液または血液の希釈液であるか否かを判定する処理部としても機能する。さらに、制御部160は、光検出ユニット130の検出結果に基づいて、検体に含まれる血液のヘマトクリット値を算出する処理部としても機能する。制御部160は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
次に、SPFS装置100の検出動作(本発明の実施の形態1に係る検出方法)について説明する。前述のとおり、実施の形態1に係るSPFS装置100は、赤血球(粒子)を含む検体(被検出液)の物性(血液のヘマトクリット値)を検出するとともに、検体中の被検出物質の量を検出する。また、SPFS装置100は、検体中の被検出物質の量を、ヘマトクリット値を用いて補正する。
図2は、SPFS装置100の動作手順の一例を示すフローチャートである。工程S20〜S30(主として工程S30)は、実施の形態1に係る被検出液の物性の検出方法に該当する。工程S20〜S80(主として工程S30およびS60〜S80)は、実施の形態1に係る被検出物質の検出方法(測定方法)に該当する。
まず、検出の準備をする(工程S10)。具体的には、SPFS装置100のチップホルダー154に分析チップ10を設置する。また、分析チップ10の流路41内に保湿剤が存在する場合は、捕捉体が適切に被検出物質を捕捉できるように、流路41内を洗浄して保湿剤を除去する。
次いで、ヘマトクリット値の算出(工程S30)で使用する基準値を検出する(工程S20)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、液体チップ141内の基準液を分析チップ10の流路41内に導入する。基準液は、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)やTween20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS−T)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)などの緩衝液である。次いで、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。そして、制御部160は、励起光照射ユニット110および光検出ユニット130を操作して、金属膜30の裏面(全反射面22)に励起光αを照射するとともに、基準液のプラズモン散乱光δの光量を検出する。このとき、金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(第1の入射角)は、工程S70における励起光αの入射角(第2の入射角)より小さい。より具体的には、金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(第1の入射角)は、臨界角以上かつ増強角(例えば71°)未満であることが好ましく、臨界角以上かつ64°以下であることがより好ましい。この後説明するように、励起光αの入射角を臨界角以上かつ増強角未満とすることで、より好ましくは臨界角以上かつ64°以下とすることで、ヘマトクリット値を高精度で検出することができるからである。制御部160は、光学フィルター135を受光ユニット131の光路外に配置する。制御部160は、励起光照射ユニット110を操作して、所定の入射角(第1の入射角)で励起光αを照射させつつ、光検出ユニット130を操作して基準液のプラズモン散乱光δの光量を検出させる。この検出値は、基準液のプラズモン散乱光δの光量(基準値)として制御部160に記録される。
次いで、検体に含まれる血液のヘマトクリット値を算出する(工程S30)。また、この工程を行うことにより、流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に被検出物質が捕捉される(1次反応)。
具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、分析チップ10の流路41内の基準液を除去するとともに、液体チップ141内の検体を流路41内に導入(全反射面22および金属膜30上に提供)する。流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に被検出物質が捕捉される(1次反応)。次いで、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。この後、制御部160は、励起光照射ユニット110および光検出ユニット130を操作して、全反射面22および金属膜30上に検体(粒子を含む被検出液)が存在する状態で、金属膜30の裏面(全反射面22)に励起光αを照射するとともに、検体のプラズモン散乱光δの光量を検出する。この検出値は、検体のプラズモン散乱光δの光量(検出値)として制御部160に記録される。このとき、金属膜30に照射される励起光αの入射角(第1の入射角)は、基準値を検出したとき(工程S20)の入射角と同じである。なお、前述のとおり、検体のプラズモン散乱光δの光量の検出においても、金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(第1の入射角)は、工程S70における励起光αの入射角(第2の入射角)より小さい。より具体的には、金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(第1の入射角)は、臨界角以上かつ増強角未満であることが好ましく、臨界角以上かつ64°以下であることがより好ましい。
この後、制御部160は、光検出ユニット130の検出結果に基づいて、検体(被検出液)の物性、すなわち血液のヘマトクリット値を算出する。具体的には、検出値から基準値を差し引いて、検体のプラズモン散乱光δの光量を算出する。次いで、制御部160は、あらかじめ準備されている検量線に前述の検体のプラズモン散乱光δの光量を当てはめて、検体に含まれる血液のヘマトクリット値を算出する。なお、適切な検量線を用いることで、制御部160は、検体(被検出液)に含まれる粒子(赤血球)の濃度および大きさも算出することができる。
次いで、光学ブランク値の測定(工程S50)および蛍光γの測定(工程S70)で使用する増強角を測定する(工程S40)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、分析チップ10から検体を除去した後、液体チップ141内の基準液を分析チップ10の流路41内に導入する。次いで、制御部160は、搬送ステージ152を操作して分析チップ10を検出位置に移動させる。制御部160は、励起光照射ユニット110を操作して励起光αを金属膜30(全反射面22)の所定の位置に照射しながら、第1角度調整部112により金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(例えば71°±3°)を走査する。また、制御部160は、第1受光センサー137が金属膜30(全反射面22)の近傍からのプラズモン散乱光δを検出するように、第1センサー制御部133を制御する。金属膜30(全反射面22)の近傍からのプラズモン散乱光δは、第1受光センサー137に到達する。これにより、制御部160は、励起光αの入射角とプラズモン散乱光δの強度との関係を含むデータを得る。そして、制御部160は、データを解析して、プラズモン散乱光δの強度が最大となる入射角(増強角;実施の形態1では71°)を決定する。
次いで、蛍光γの測定(工程S70)で使用する光学ブランク値を測定する(工程S50)。ここで「光学ブランク値」とは、蛍光γの測定(工程S70)において分析チップ10の上方に放出される背景光の光量を意味する。具体的には、光検出ユニット130を操作して、金属膜30に励起光αを照射するとともに、第1受光センサー137の出力値(光学ブランク値)を記録する。このとき、制御部160は、第1角度調整部112を操作して、励起光αの入射角を増強角(第2の入射角)に設定する。また、制御部160は、位置切替機構132を制御して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路内に配置する。この検出値は、光学ブランク値として制御部160に記録される。
次いで、金属膜30上に捕捉されている被検出物質を蛍光物質で標識する(2次反応;工程S60)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、分析チップ10から基準液を除去した後、蛍光物質で標識された捕捉体を含む液体(標識液)を分析チップ10の流路41内に導入する。流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に捕捉されている被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、流路41内の標識液は除去され、流路41内は洗浄液で洗浄される。
次いで、蛍光γの光量を検出して、検体中の被検出物質の量を示す検出値(第1のシグナル値)を得る(工程S70)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。この後、制御部160は、励起光照射ユニット110および光検出ユニット130を操作して、金属膜30の裏面(全反射面22)に励起光αを照射するとともに、第1受光センサー137の出力値を記録する。このとき、制御部160は、第1角度調整部112を操作して、励起光αの入射角(第2の入射角)を増強角に設定する。また、制御部160は、位置切替機構132を制御して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路内に配置する。制御部160は、検出値から光学ブランク値を引き、検体中の被検出物質の量を示す蛍光γの光量を算出する。
算出された蛍光γの光量は、工程S30で算出された血液のヘマトクリット値を用いて、検体の液体成分中の被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する(工程S80)。具体的には、検体が希釈をしていない血液の場合は、算出された蛍光γの光量に、以下の式(1)で表される変換係数c
1を掛けることで、算出された蛍光γの光量を被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する。一方、検体が血液の希釈液の場合は、算出された蛍光γに、以下の式(2)で表される変換係数c
2を掛けることで、算出された蛍光γの光量を被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する。最後に、蛍光γの光量に対応する検体の液体成分中の被検出物質の量(第2のシグナル値)を求める。
ここで、Htはヘマトクリット値であり、dfは希釈液の希釈率である。
以上の手順により、検体の液体成分中の被検出物質の量(第2のシグナル値)を検出することができる。
上記の説明では、基準値の検出(工程S20)の後に、検体を導入した状態でのプラズモン散乱光δの光量の検出を行った。しかしながら、基準値の検出(工程S20)の前に、検体を導入した状態でのプラズモン散乱光δの光量の検出を行ってもよい。また、基準値の検出(工程S20)は、1次反応(工程S30)または光学ブランク値の測定(工程S50)の後に行ってもよい。また、光学ブランク値の測定(工程S50)は、基準値の検出(工程S20)の後に行ってもよい。
[実験1]
実験1では、金属膜30への励起光αの入射角と、ヘマトクリット値がそれぞれ異なる検体におけるプラズモン散乱光δの光量との関係について調べた。なお、比較のため、金属膜30への励起光αの入射角と、赤血球を含まない検体(血清)におけるプラズモン散乱光δの光量との関係についても調べた。図3は、金属膜30への励起光αの入射角と、プラズモン散乱光δの光量との関係を示すグラフである。図3の横軸は金属膜30への励起光αの入射角(°)であり、縦軸はプラズモン散乱光δの光量(count)である。図3において、白抜き丸シンボルは、ヘマトクリット値が60%の血液を使用したときの実験結果を示しており、黒三角シンボルは、ヘマトクリット値が43%の血液を使用したときの実験結果を示しており、白抜き三角シンボルは、ヘマトクリット値が35%の血液を使用したときの実験結果を示しており、黒丸シンボルは、血清(ヘマトクリット値が0%)を使用した場合の実験結果を示している。
図3に示されるように、金属膜30への励起光αの入射角が増強角(71°)以上の場合、各検体の間でプラズモン散乱光δの光量差が小さかった。一方、励起光αの入射角が臨界角以上かつ増強角(71°)未満の場合、ヘマトクリット値がそれぞれ異なる検体の間でプラズモン散乱光δの光量差が大きかった。この結果から、ヘマトクリット値を検出する場合の励起光αの入射角は、増強角よりも小さい方が好ましいことがわかる。
[実験2]
実験2では、金属膜30への励起光αの入射角が増強角よりも小さい場合についてより詳細に、金属膜30への励起光αの入射角と、ヘマトクリット値がそれぞれ異なる検体におけるプラズモン散乱光δの光量との関係について調べた。本実験でも、比較のため、金属膜30への励起光αの入射角と、血漿におけるプラズモン散乱光δの光量との関係についても調べた。図4Aおよび図4Bは、金属膜30への励起光αの入射角と、プラズモン散乱光δの光量との関係を示すグラフである。図4Aおよび図4Bの横軸は金属膜30への励起光αの入射角(°)であり、縦軸はプラズモン散乱光δの光量(count)である。図4Bは、図4Aにおける各プラズモン散乱光δの光量からTween20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS−T)を使用した場合のプラズモン散乱光δの光量を引いたグラフである。図4Aに示される黒丸シンボルは、Tween20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS−T)を使用した場合の実験結果を示している。図4Aおよび図4Bに示される白抜き丸シンボルは、血漿を使用した場合の実験結果を示しており、黒三角シンボルは、ヘマトクリット値が50%の血液を使用したときの実験結果を示しており、白抜き三角シンボルは、ヘマトクリット値が40%の血液を使用したときの実験結果を示している。
図4Bに示されるように、金属膜30への励起光αの入射角が小さくなるほど、ヘマトクリット値が異なる検体の間でプラズモン散乱光δの光量差が大きかった。この結果から、ヘマトクリット値を検出する場合の励起光αの入射角は、臨界角以上であれば小さい方が好ましいことがわかる。
[実験3]
実験3では、金属膜30への励起光αの入射角と、ヘマトクリット値が同一の検体におけるプラズモン散乱光δの光量のばらつきとの関係について調べた。実験3では、ヘマトクリット値を50%に調整した5つの検体について、金属膜30への励起光αの入射角を62°、64°、66°および68°にした場合におけるプラズモン散乱光δのばらつきについて調べた。なお、実験3では、ばらつきの指標として変動係数CVを用いた。図5は、金属膜30への励起光αの入射角と、変動係数CVとの関係を示すグラフである。図5の横軸は、金属膜30への励起光αの入射角(°)であり、縦軸は、変動係数CV(%)を示している。
図5に示されるように、金属膜30への励起光αの入射角が64°以下であれば、変動係数CVが10%(図5の破線)以下であった。この結果から、ヘマトクリット値を検出する場合の励起光αの入射角は、臨界角以上であれば64°よりも小さい方が好ましいことがわかる。
このように、増強角より小さい入射角で励起光αを金属膜30に照射することにより、ヘマトクリット値を精度良く検出できる。この理由としては、以下のことが推察される(これに限定されるわけではない)。
まず、励起光αの電場Eの金属膜30に平行な方向(x方向;図1参照)の成分Exは、式(3)で表される。
ここで、θ(°)は金属膜30への励起光αの入射角である。したがって、金属膜30上における励起光αの金属膜30に平行な方向の成分の光強度比Rは、式(4)で表される。
すなわち、金属膜30に対する励起光αの入射角θが小さくなると、照射領域における電場Eの金属膜30に平行な方向の成分Exは、大きくなる。
また、励起光αの電場Eの金属膜30に垂直な方向(z方向;図1参照)の成分Ezは、式(5)で表される因子に比例する。
ここで、ω(1/s)は励起光αの角周波数、z(m)は金属膜30に垂直な方向における金属膜30からの距離、vは検体中の光速(m/s)、nは検体のプリズムに対する屈折率である。すなわち、金属膜30に対する励起光αの入射角θが小さくなると、照射領域における電場Eの金属膜30に垂直な方向の成分Ezの減衰は、小さくなる。すなわち、金属膜30に垂直な方向における電場Ezの到達範囲は、増大する。
これらにより、散乱光(プラズモン散乱光δ)の光量が増大する。また、励起光αの波長程度以上の粒径の散乱体(本実施の形態では、赤血球)が金属膜30近傍に存在すると、Mie散乱理論により第1受光センサー137方向へ向かう散乱光の成分が増大する。これらによって、第1受光センサー137方向に向かう散乱光(プラズモン散乱光δ)の光量が多くなると考えられる。
以上のように、本実施の形態に係るSPFS装置100では、粒子を含む検体(被検出液)の物性(粒子の濃度や粒子の大きさなど。本実施の形態ではヘマトクリット値)を検出する時の励起光αの入射角(第1の入射角)を、検体中の被検出物質の量を検出する時の励起光αの入射角(第2の入射角)よりも小さくする。これにより、検体(被検出液)の物性(本実施の形態ではヘマトクリット値)および検体中の被検出物質の量を、それぞれ高精度に検出することができ、その結果としてヘマトクリット値で補正された被検出物質の量を高精度に算出することができる。また、本実施の形態に係るSPFS装置100は、ヘマトクリット値の検出のために、新たな装置を別途設ける必要がない。これにより、SPFS装置100を大型化させることなく、かつ装置コストも抑制することができる。
[実施の形態1の変形例]
実施の形態1の変形例に係る検出装置は、SPR法を利用したSPR装置200である。そこで、実施の形態1に係るSPFS装置100の各構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図6は、実施の形態1の変形例に係るSPR装置200の構成を示す図である。図6に示されるように、実施の形態1の変形例に係るSPR装置200は、励起光照射ユニット110(光照射部)、反射光検出ユニット220(第2の光検出部)、光検出ユニット130(第1の光検出部)、送液ユニット140、搬送ユニット150および制御部160を有する。実施の形態1の変形例では、実施の形態1と異なり、光検出ユニット130は、金属膜30への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光δを検出する第1の光検出部のみとして機能する(第2の光検出部としては機能しない)。実施の形態1の変形例では、新たに設けられた反射光検出ユニット220が、金属膜30への励起光αの照射によって生じた反射光βを検出する第2の光検出部として機能する。
反射光検出ユニット220は、共鳴角の測定などを行うために、分析チップ10への励起光αの照射によって生じた反射光βの光量を検出する。反射光検出ユニット220は、第2受光センサー221、第2角度調整部222および第2センサー制御部223を含む。
第2受光センサー221は、分析チップ10で反射した光の光路上に配置され、反射光βの光量を検出する。第2受光センサー221の種類は、特に限定されない。たとえば、第2受光センサー221は、フォトダイオード(PD)である。
第2角度調整部222は、金属膜30に対する励起光αの入射角に応じて、第2受光センサー221の位置(角度)を調整する。第2角度調整部222は、反射光βが第2受光センサー221に入射するように、第2受光センサー221とチップホルダー154とを相対的に移動させる。
第2センサー制御部223は、第2受光センサー221の出力値の検出や、検出した出力値による第2受光センサー221の感度の管理、適切な出力値を得るための第2受光センサー221の感度の変更などを制御する。第2センサー制御部223は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
実施の形態1の変形例に係るSPR装置200は、検体中の被検出物質の量を検出するために、実施の形態1に係るSPFS装置100と異なり、全反射面22で反射された反射光βの光量を検出する。具体的には、制御部160は、励起光照射ユニット110および反射光検出ユニット220を操作して、金属膜30の裏面に励起光αを照射するとともに、第2受光センサー221の出力値を記録する。一方、本実施の形態に係るSPR装置200は、粒子を含む検体(被検出液)の物性を検出するためには、実施の形態1に係るSPFS装置100と同様に、検体からの散乱光の光量を検出する。このように、光検出ユニット130は、蛍光γの光量を検出せず、散乱光(プラズモン散乱光δ)のみを検出するため、位置切替機構132および光学フィルター135を有していない。
実施の形態1の変形例に係るSPR装置200でも金属膜30に対する励起光αの入射角を小さくすることにより、ヘマトクリット値を高精度に検出することができる。なお、実施の形態1の変形例では、実施の形態1における光学ブランク値の測定(工程S50)および2次反応(工程S60)は不要である。
以上のように、実施の形態1の変形例に係るSPR装置200は、実施の形態1に係るSPFS装置100と同様の効果を有する。
なお、上記各実施の形態においては、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用するために、金属膜30を有する分析チップ10を用いるSPFS装置100およびSPR装置200について説明したが、本発明に係る検出装置および検出方法は、金属膜30を有しない分析チップ10を用いる検出装置および検出方法であってもよい。この場合は、検体(被検出液)は、金属膜30上ではなく、全反射面22上に提供される。この場合であっても、全反射面22での光の全反射により形成される局在場によって、全反射面22上の検体(被検出液)から散乱光が放出される。被検出物質の量についての情報を含む反射光β(第1のシグナル)は、SPRを利用せずに全反射測定(ATR)法などにより検出される。また、被検出液の物性(例えばヘマトクリット値)の検出を行う場合、ATR法では、背景光を含む光を検出するのに対し、本発明に係る検出方法では、被検出液から放出される散乱光を検出する。このため、本発明に係る検出方法は、ATR法などと比較して、バックグラウンドノイズの影響を排除することができ、より高精度に被検出液の物性および被検出物質の量を検出することができる。
また、上記各実施の形態では、検体(粒子を含む被検出液)の物性としてヘマトクリット値を検出する例について説明したが、本発明に係る検出方法および検出装置では、検出対象となる被検出液の物性はこれに限定されない。本発明に係る検出方法および検出装置では、例えば、被検出液の物性として粒子の大きさや被検出液中の粒子の濃度を検出することができる。
[実施の形態2]
実施の形態2に係る検出装置は、励起光照射ユニット310が角度切り替え部114を含む点において実施の形態1に係る検出装置と異なる。そこで、実施の形態1に係るSPFS装置100の各構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。実施の形態3に係る検出装置は、光を照射することによって生じたシグナルを検出することで、被検出物質を検出する検出装置である。
図7は、本発明の実施の形態3に係る表面プラズモン励起増強蛍光分析装置(SPFS装置)300の構成を示す模式図である。図7に示されるように、SPFS装置300は、角度切り替え部114を含む励起光照射ユニット310と、光検出ユニット(シグナル検出部)130と、送液ユニット140と、搬送ユニット150と、制御部160とを有する。
励起光照射ユニット310の角度切り替え部114は、金属膜30に対する励起光αの入射角を切り替える。角度切り替え部114は、第1角度調整部112が励起光αの入射角を走査していないときに使用される。角度切り替え部114は、光源から出射された励起光αが金属膜30の所定の領域に、第1角度調整部112が走査する角度範囲より小さい入射角で入射するように、光源から出射された励起光αの、金属膜30の所定の領域に対する入射角を切り替える。
図8は、角度切り替え部114による光の入射角の切り替えを説明するための図である。図8Aは、角度切り替え部114を光源側に配置した場合の説明図であり、図8Bは、角度切り替え部114を光源と反対側に配置した場合の説明図である。角度切り替え部114は、光源ユニット111から出射された励起光αを、第1角度調整部112が走査する角度範囲より小さい入射角で金属膜30に入射させる。角度切り替え部114により光路が切り替えられた励起光αは、後述するヘマトクリット値の検出に使用される。
角度切り替え部114の位置は、第1角度調整部112の走査範囲より小さい入射角で光源ユニット111から出射された励起光αを金属膜30に入射させることができれば、特に限定されない。角度切り替え部114は、光源側に配置されていてもよいし、光源と反対側に配置されていてもよい。具体的には、本実施の形態では、図8Aに示されるように、角度切り替え部114は、光源側に配置されている。すなわち、本実施の形態では、角度切り替え部114は、光源ユニット111とプリズム20との間の励起光αの光路上に配置される。光源ユニット111から出射された励起光αは、角度切り替え部本体115によって、金属膜30に対する入射角が第1角度調整部112の走査範囲より小さくなるように切り替えられて金属膜30に照射される。図8Bに示されるように、角度切り替え部114は、反射光βの光路上に配置されていてもよい。この場合、金属膜30で反射した反射光βは、第1角度調整部112の走査範囲のうち最も小さい入射角で入射した励起光αの反射光βの反射角より小さい入射角で、再び金属膜30に入射するように、その光路を切り替えられる。
角度切り替え部114は、角度切り替え部本体115および移動機構116を有する。角度切り替え部本体115は、光源ユニット111から出射された励起光αの金属膜30に対する入射角を切り替える。角度切り替え部本体115は、複数の反射面を有する。光源ユニット111から出射された励起光αは、1つめの反射面で光路から外れるように反射され、2つ目の反射面で第1角度調整部112の走査範囲外であって、走査範囲より小さい入射角で入射するようにさらに反射される。角度切り替え部本体115の構成は、複数の反射面を有し、前述のように励起光αの光路を切り替えることができれば、特に限定されない。角度切り替え部本体115の例には、プリズムおよび複数のミラー(鏡面)が含まれる。本実施の形態では、角度切り替え部本体115は、複数のミラーである。
移動機構116は、角度切り替え部本体115の位置を、光源から出射された励起光αの光路上または光路外に切り替える。具体的には、励起光αの光路を切り替える時には、移動機構116は、角度切り替え部本体115を光源ユニット111から出射された励起光αの光路上に配置する。また、励起光αの光路を切り替えない時には、移動機構116は、角度切り替え部本体115を光源ユニット111から出射された励起光αの光路外に配置する。
次に、SPFS装置300の検出動作について説明する。図9は、SPFS装置300の動作手順の一例を示すフローチャートである。
まず、検出の準備をする(工程S110)。具体的には、SPFS装置300のチップホルダー154に分析チップ10を設置する。また、分析チップ10の流路41内に保湿剤が存在する場合は、捕捉体が適切に被検出物質を捕捉できるように、流路41内を洗浄して保湿剤を除去する。
次いで、制御部160は、移動機構116を操作して、角度切り替え部本体115を励起光αの光路上に配置する(工程S120)。そして、ヘマトクリット値の算出(工程S150)で使用する基準値を検出する(工程S130)。
具体的には、制御部160は、移動機構116を操作して、角度切り替え部本体115を励起光αの光路上に配置する。また、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、液体チップ141内の基準液を分析チップ10の流路41内に導入する。基準液は、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)やTween20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS−T)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)などの緩衝液である。次いで、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。そして、制御部160は、光検出ユニット130を操作して、基準液のプラズモン散乱光δの光量を検出する。このとき、金属膜30に照射される励起光αの入射角は、第1角度調整部112の走査角度より小さい角度である。より具体的には、金属膜30に照射される励起光αの入射角は、増強角(例えば71°)未満であることが好ましく、臨界角以上かつ64°以下であることがより好ましい。前述したように、励起光αの入射角を増強角未満とすることで、より好ましくは臨界角以上かつ64°以下とすることで、ヘマトクリット値を高精度で検出することができるからである。制御部160は、光学フィルター135を受光ユニット131の光路外に配置する。制御部160は、第1角度調整部112の走査角度より小さい所定の入射角で励起光αを照射させつつ、光検出ユニット130を操作してプラズモン散乱光δの光量を検出させる。この検出値は、基準液のプラズモン散乱光δの光量(基準値)として制御部160に記録される。
次いで、流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に被検出物質を捕捉する(1次反応;工程S140)。その後、検体に含まれる全血のヘマトクリット値を算出する(工程S150)。
具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、分析チップ10の流路41内の基準液を除去するとともに、液体チップ141内の検体を流路41内に導入する。流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に被検出物質が捕捉される(1次反応)。次いで、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。この後、制御部160は、光検出ユニット130を操作して、プラズモン散乱光δの光量を検出する。この検出値は、制御部160に記録される。なお、このプラズモン散乱光δの光量の検出においても、金属膜30に照射される励起光αの入射角は、第1角度調整部112の走査角度より小さい角度である。前述のとおり、金属膜30に照射される励起光αの入射角は、臨界角以上であって、64°以下であることが好ましい。
この後、制御部160は、この検出値から全血のヘマトクリット値を算出する。具体的には、前述の検出値から前述の基準値を差し引いて、全血のプラズモン散乱光δの光量を算出する。次いで、制御部160は、あらかじめ準備されている検量線に前述の全血のプラズモン散乱光δの光量を当てはめて、検体に含まれる全血のヘマトクリット値を算出する。
次いで、制御部160は、移動機構116を操作して、角度切り替え部本体115を励起光αの光路外に配置する(工程S160)。次いで、制御部160は、分析チップ10から検体を除去した後、送液ユニット140を操作して液体チップ141内の基準液を分析チップ10の流路内に導入する。この後、制御部160は、増強角を測定する(工程S170)。励起光αを金属膜30(全反射面22)の所定の位置に照射しながら、第1角度調整部112により金属膜30(全反射面22)に対する励起光αの入射角(71°±3°)を走査する。また、制御部160は、第1受光センサー137が金属膜30上(金属膜30表面およびその近傍)からのプラズモン散乱光δを検出するように、第1センサー制御部133を制御する。金属膜上(金属膜30表面およびその近傍)からのプラズモン散乱光δは、第1受光センサー137に到達する。これにより、制御部160は、励起光αの入射角とプラズモン散乱光δの強度との関係を含むデータを得る。そして、制御部160は、データを解析して、プラズモン散乱光δの強度が最大となる入射角(増強角;71°)を決定する。
次いで、光学ブランク値を測定する(工程S180)。ここで「光学ブランク値」とは、蛍光γの検出(工程S200)において分析チップ10の上方に放出される背景光の光量を意味する。具体的には、制御部160は、励起光照射ユニット310を操作して、金属膜30に励起光αを照射するとともに、第1受光センサー137の出力値(光学ブランク値)を記録する。このとき、制御部160は、第1角度調整部112を操作して、励起光αの入射角を増強角に設定する。また、制御部160は、位置切替機構132を制御して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路内に配置する。この検出値は、光学ブランク値として制御部160に記録される。
次いで、金属膜30上に捕捉されている被検出物質を蛍光物質で標識する(2次反応;工程S190)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる。この後、制御部160は、送液ユニット140を操作して、蛍光物質で標識された捕捉体を含む液体(標識液)を分析チップ10の流路41内に導入する。流路41内では、抗原抗体反応によって、金属膜30上に捕捉されている被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、流路41内の標識液は除去され、流路内は洗浄液で洗浄される。
次いで、蛍光γの光量を検出して、検体中の被検出物質の量を示す検出値を得る(工程S200)。具体的には、制御部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を検出位置に移動させる。この後、制御部160は、励起光照射ユニット310および光検出ユニット130を操作して、金属膜30に励起光αを照射するとともに、第1受光センサー137の出力値を記録する。このとき、制御部160は、第1角度調整部112を操作して、励起光αの入射角を増強角に設定する。また、制御部160は、位置切替機構132を制御して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路内に配置する。制御部160は、検出値から光学ブランク値を引き、検体中の被検出物質の量を示す蛍光γの光量を算出する。
算出された蛍光γの光量は、工程S140で算出された全血のヘマトクリット値を用いて、検体の液体成分中の被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する(工程S210)。具体的には、検体が希釈をしていない全血の場合は、算出された蛍光γの光量に、前述の式(1)で表される変換係数c1を掛けることで、算出された蛍光γの光量を被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する。一方、検体が全血の希釈液の場合は、算出された蛍光γに、前述の式(2)で表される変換係数c2を掛けることで、算出された蛍光γの光量を被検出物質の量を示す蛍光γの光量に変換する。最後に、蛍光γの光量に対応する被検出物質の量を求める。以上の手順により、検体の液体成分中の被検出物質の量を検出することができる。
上記の説明では、基準値の検出(工程S130)の後に、検体を導入した状態でのプラズモン散乱光δの光量の検出を行った。しかしながら、基準値の検出(工程S130)の前に、検体を導入した状態でのプラズモン散乱光δの光量の検出を行ってもよい。また、基準値の検出(工程S130)は、1次反応(工程S140)または光学ブランク値の測定(工程S180)の後に行ってもよい。また、光学ブランク値の検出(工程S180)は、基準値の測定(工程S130)の後に行ってもよい。
以上のように、本実施の形態に係るSPFS装置300によれば、光源ユニット111から照射される励起光αの光路上に励起光αの角度を、第1角度調整部112の走査範囲より小さい角度に切り替える角度切り替え部114を配置することができる。これにより、SPFS装置300を大型化させることなく走査範囲外からも分析チップ10の所定の領域に光を照射させることができる。また、ヘマトクリット値を高精度に検出することができ、当該ヘマトクリット値を用いて高精度に被検出物質の量を補正することができる。
[実施の形態2の変形例]
実施の形態2の変形例に係る検出装置は、SPR法を利用したSPR装置400である。そこで、実施の形態2の変形例に係るSPFS装置300の各構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図10は、実施の形態2の変形例に係るSPR装置400の構成を示す図である。図10に示されるように、実施の形態2の変形例に係るSPR装置400は、励起光照射ユニット310、反射光検出ユニット220、光検出ユニット130、送液ユニット140、搬送ユニット150および制御部160を有する。
反射光検出ユニット220は、共鳴角の測定などを行うために、分析チップ10への励起光αの照射によって生じた反射光βの光量を検出する。反射光検出ユニット220は、第2受光センサー221、第2角度調整部222および第2センサー制御部223を含む。
第2受光センサー221は、分析チップ10で反射した光の光路上に配置され、反射光βの光量を検出する。第2受光センサー221の種類は、特に限定されない。たとえば、第2受光センサー221は、フォトダイオード(PD)である。
第2角度調整部222は、金属膜30に対する励起光αの入射角に応じて、第2受光センサー221の位置(角度)を調整する。第2角度調整部222は、反射光βが第2受光センサー221に入射するように、第2受光センサー221とチップホルダー154とを相対的に回転させる。
第2センサー制御部223は、第2受光センサー221の出力値の検出や、検出した出力値による第2受光センサー221の感度の管理、適切な出力値を得るための第2受光センサー221の感度の変更などを制御する。第2センサー制御部223は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
このように、実施の形態4に係るSPR装置400でも角度切り替え部114により金属膜30に対する励起光αの入射角を小さくすることにより、ヘマトクリット値を高精度に検出することができる。
実施の形態2の変形例においても、角度切り替え部114は、光源ユニット111と反対側に配置されていてもよい。この場合、金属膜30で反射した反射光βは、第1角度調整部112の走査範囲のうち最も小さい入射角で入射した励起光αの反射光βより小さい角度で、再び金属膜30の裏面に入射するように、その光路を切り替えられる。
以上のように、本実施の形態に係るSPR装置400は、実施の形態3に係るSPFS装置100と同様の効果を有する。
なお、実施の形態2および実施の形態2の変形例においては、検出装置としてSPRを利用したSPFS装置300およびSPR装置400に適用した例を示したが、金属膜30を配置していない分析チップを用いる検出系に適用してもよい。この場合は、SPRを利用せずに全反射測定(ATR)法などにより検出(測定)する検出装置となるが、実施の形態2および実施の形態2の変形例と同様の効果を得られる。
本出願は、2014年9月10日出願の特願2014−184189および2014年9月10日出願の特願2014−184197に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。