以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施の形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
実施形態は、被処理物表面を改質して高品質な印刷物を製造可能にするために、以下の特徴を有する。すなわち、実施形態では、改質された被処理物表面の濡れ性やpH値の低下によるインク顔料の凝集性および/または浸透性をコントロールすることより、インクドットの真円度の向上、ドット合一の防止、および、被処理物上の顔料の凝集厚みの薄化および均一化を実現する。それにより、高品質な印刷物を高い生産性で容易に製造することが可能となる。そこで実施形態では、たとえばパーソナルコンピュータ(以下、PCという)等からなる印刷制御装置が、被処理物の紙種(銘柄等)や使用するインクセット(以下、使用インクセットという)や解像度(もしくはインクドットの液滴量)等に適した印刷条件が登録された印刷設定テーブルを持ち、この印刷設定テーブルを印刷時に適宜選択することにより、最適な印刷条件を容易に設定できるようにする。
実施形態において、被処理物表面の改質処理としては、プラズマ処理を採用することができる。そこで、実施形態を説明するにあたり、まず、実施形態で採用するプラズマ処理の一例について、以下に図面を参照して詳細に説明する。実施形態で採用するプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層は炭酸カルシウムとバインダーとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO*や水酸ラジカル(*OH)、オゾンO3と再結合する。これらの処理をプラズマ処理と呼ぶ。これにより、被処理物の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物の表面に親水性や酸性が付与される。なお、カルボキシル基の増加により、被処理物表面が酸性化(pH値の低下)する。
被処理物表面における隣接したドットは、被処理物表面の親水性が上がることにより、濡れ拡がって合一する。これに起因したドット間の混色の発生を防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で迅速に凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが必要になる。上記において例示したプラズマ処理は、被処理物表面を酸性化させる酸性化処理手段(工程)としても作用することから、ドット内での着色剤の凝集速度を高めることができる。この点においても、インクジェット記録処理の前処理としてプラズマ処理を実行することは有効であると考えられる。
実施形態において、プラズマ処理には、たとえば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによる酸性化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させる方法としては、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理が存在する。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、たとえば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。ただし、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。たとえば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
図1は、実施形態で採用されるプラズマ処理を実施するためのプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、実施形態で採用されるプラズマ処理には、放電電極11と、カウンター電極(接地電極ともいう)14と、誘電体12と、高周波高圧電源15とを備えたプラズマ処理装置10を用いることができる。誘電体12は、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される。放電電極11およびカウンター電極14は、金属部分が露出した電極であってもよいし、絶縁ゴムやセラミックスなどの誘電体または絶縁体で被覆された電極であってもよい。また、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される誘電体12は、ポリイミド、シリコン、セラミックスなどの絶縁体であってもよい。なお、プラズマ処理として、コロナ放電を採用した場合、誘電体12は省略されてもよい。ただし、例えば誘電体バリア放電を採用した場合など、誘電体12を設けた方が好ましい場合もある。その場合、誘電体12の位置は、放電電極11側に近接または接触するように配置するよりも、カウンター電極14側に近接または接触するように配置した方が、沿面放電の領域が広がるため、よりプラズマ処理の効果を高めることが可能である。また、放電電極11およびカウンター電極14側(もしくは誘電体12が設けられている側の電極はその誘電体12)は、2つの電極間を通過する被処理物20と接触する位置に配置されてもよいし、接触しない位置に配置されてもよい。
高周波高圧電源15は、放電電極11とカウンター電極14との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、たとえば約10kV(キロボルト)(p−p)程度である。また、その周波数は、たとえば約20kHz(キロヘルツ)とすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極11と誘電体12との間に大気圧非平衡プラズマ13が発生する。被処理物20は、大気圧非平衡プラズマ13の発生中に放電電極11と誘電体12との間を通過する。これにより、被処理物20の放電電極11側の表面がプラズマ処理される。
なお、図1に例示したプラズマ処理装置10では、回転型の放電電極11とベルトコンベア型の誘電体12とが採用されている。被処理物20は、回転する放電電極11と誘電体12との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ13中を通過する。これにより、被処理物20の表面が大気圧非平衡プラズマ13に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。ただし、実施形態において採用されるプラズマ処理装置は、上記構成に限られるものではない。たとえば、放電電極11が被処理物20と接触せずに近接している構成や、放電電極11がインクジェットヘッドと同じキャリッジに搭載された構成など、種々変形可能である。また、ベルトコンベア型の誘電体12に限らず、平板型の誘電体12を採用することも可能である。
また、本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH+濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクルなどの液体中で分散している。図2に、インクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す。図2に示すように、インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、たとえば図2に示すグラフにおいてインクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンH+によって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
また、インクを必要な粘度とするためのpH値は、インクの特性によって異なる。すなわち、図2のインクAに示すように、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、インクAとは異なる特性を持つインクBに示すように、顔料を凝集させるためにインクAよりも低いpH値が必要なインクも存在する。
着色剤がドット内で凝集する挙動や、ビヒクルの乾燥速度や被処理物内への浸透速度は、ドットの大きさ(小滴、中滴、大滴)によって変わる液滴量や、被処理物の種類などによって異なる。そこで実施形態では、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、被処理物の種類や印刷モード(液滴量)などに応じて最適な値に制御してもよい。
ここで、図3〜図6を用いて、実施形態にかかるプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図3は、実施形態にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図4は、図3に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図5は、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図6は、図5に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図3および図5に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物20には、コート層21を備える一般的なコート紙を用いた。
プラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図3および図4に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図3および図4に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、実施形態にかかるプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図5に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図6のようにドットが平坦な形状となる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的に中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図6のようにビヒクルCT1およびCT2が合一した場合でも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層21内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる。これにより比較的短時間で乾燥することが出来る。濡れ性向上により真円状に広がったドットが、浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図4、図6は模式図であり、実際には図6の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物20では、プラズマ処理によって被処理物20の表面に親水性の官能基が生成されて濡れ性が改善される。さらに、プラズマ処理によって被処理物20の表面粗さが大きくなり、その結果、被処理物20表面の濡れ性がさらに向上する。また、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、被処理物20表面が酸性になる。それらにより、着弾したインクが被処理物20表面で均一に拡がりつつ、マイナスに帯電した顔料が被処理物20表面で中和されることで凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物20表面に形成されたコート層21内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物20内部に浸透し、これにより乾燥時間を短縮することが出来る。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図7は、実施形態にかかるプラズマエネルギー量と被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図7では、被処理物20としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギー量に依存してどのように変化するかが示されている。なお、図7に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図7に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギー量が低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギー量を高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギー量がある値(たとえば4J/cm2程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(たとえば4J/cm2程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
上述したように、被処理物20表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理による表面粗さの増加および生成された親水性の極性官能基によって被処理物20表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことが考えられる。また、被処理物20表面のゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されることも1つの要因と考えられる。すなわち、被処理物20表面の濡れ性が向上しつつ被処理物20表面の不安定要因が取り除かれた結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上すると考えられる。
また、被処理物20表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物20表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に被処理物表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。たとえばインクの滴量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。なお、プラズマ処理の効果は、被処理物20の種類や環境(湿度など)によって変動する。そこで、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、液滴の量や被処理物20の種類、環境などに応じて最適な値に制御してもよい。その結果、被処理物20の表面改質効率が向上し、さらなる省エネを達成することが可能な場合が存在する。
ここで、プラズマエネルギー量とドットの真円度との関係を説明する。図8は、プラズマエネルギー量とドット径との関係を示すグラフである。図9は、プラズマエネルギー量とドットの真円度との関係を示すグラフである。図10は、プラズマエネルギー量と実際に形成されたドット形状との関係を示す図である。なお、図8〜図10では、同色同種のインクを用いた場合を示す。
図8に示すように、プラズマエネルギー量を大きくした場合、CMYKのいずれの顔料についても、そのドット径が小さくなる傾向にある。これは、プラズマ処理の結果、顔料の凝集効果(凝集による粘性の増加)と浸透性効果(ビヒクルのコート層21内部への浸透)とが向上し、これにより、ドットが拡がる過程で迅速に凝集・浸透するためであると考えられる。このような効果を利用することで、ドット径をコントロールすることが可能になる。すなわち、プラズマエネルギー量を制御することで、ドット径を制御することが可能である。
また、図9および図10に示すように、ドットの真円度は、プラズマエネルギー量が低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)であっても大幅に改善されている。これは、上述したように、被処理物20をプラズマ処理することで、ドット(ビヒクル)の粘性が上がるとともにビヒクルの浸透性が上がり、これにより顔料が均等に凝集されたためであると考えられる。
また、ドット内の顔料ムラについて、プラズマ処理を行った場合と行わなかった場合とについて説明する。図11は、実施形態にかかるプラズマ処理を行わなかった場合のドットの濃度を示すグラフである。図12は、プラズマ処理を行った場合のドットの濃度を示すグラフである。なお、図11および図12では、それぞれ図面中右下にあるドット画像における線分a−b上の濃度を示している。
図11および図12の測定では、形成したドットの画像を取り込み、その画像における濃度ムラを測定して、濃度のバラツキを計算した。図11および図12を比較すると明らかなように、プラズマ処理を行った場合(図12)の方が、行わなかった場合(図11)よりも、濃度のバラツキ(濃度差)を小さくすることができた。そこで、以上のような算出方法にて求めた濃度のバラツキに基づいて、一番バラツキ(濃度差)が小さくなるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を最適化してもよい。これにより、より鮮明な画像を形成することが可能となる。
なお、濃度のバラツキは、上述した算出方法に限らず、顔料の厚みを光干渉膜厚計測手段にて測定して算出してもよい。その場合、顔料の厚みの偏差を最小にするように、プラズマエネルギー量の最適値を選定してもよい。
つづいて、実施形態にかかる被処理物改質装置、印刷装置、被処理物改質システム、印刷システム、印刷物の製造方法、およびプログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、実施形態では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されるものではなく、たとえばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図13は、実施形態にかかる印刷装置(システム)の概略構成例を示す模式図である。図13に示すように、印刷装置(システム)1は、被処理物20(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部30と、搬入された被処理物20に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置100と、プラズマ処理された被処理物20の表面に画像を形成する画像形成装置40とを有する。画像形成装置40は、プラズマ処理された被処理物20にインクジェット処理により画像を形成するインクジェットヘッド170と、被処理物20に形成された画像を読み取るパターン読取部180と、を含むことができる。また、画像形成装置40は、画像が形成された被処理物20を後処理する後処理部を含んでもよい。さらに、印刷装置(システム)1は、後処理された被処理物20を乾燥する乾燥部50と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物20を搬出する搬出部60とを有してもよい。なお、パターン読取部180は、搬送経路D1上における乾燥部50よりも下流の位置に設けられていてもよい。さらにまた、印刷装置(システム)1は、印刷用の画像データからラスタデータを生成したり、印刷装置(システム)1の各部を制御したりする制御部160を含んでもよい。この制御部160は、有線または無線のネットワークを介して印刷装置(システム)1と通信可能であるとする。なお、制御部160は、単一のコンピュータで構成されている必要はなく、複数のコンピュータがLAN(Local Area Network)などのネットワークを介して接続された構成であってもよい。また、制御部160は、印刷装置(システム)1の各部に個別に設けられた制御部を含む構成であってもよい。また、印刷システムとして構成される場合には、制御部160は何れかの装置に含まれてもよい。
なお、図13に示す各部(装置)は、別の筐体で存在し全体で印刷システム1を構成してもよいし、同じ筐体内に納められて印刷装置1を構成してもよい。印刷システム1として構成される場合には、制御部160は何れかの部または装置に含まれてもよい。
つづいて、実施形態にかかる印刷装置(システム)1を、より詳細に説明する。印刷装置(システム)1では、インクジェット記録手段の下流側に、形成されたドットの画像を取得するパターン読取手段が設けられる。また、取得した画像を解析して、ドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出し、この結果に基づいてプラズマ処理手段をフィードバック制御またはフィードフォワード制御するように構成することも可能である。
図14に、実施形態にかかる印刷装置(システム)1におけるプラズマ処理装置からインクジェット記録装置の下流に配置されたパターン読取部までの概略構成例を示す。その他の構成は、図13に示す印刷装置(システム)1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図14に示すように、印刷装置(システム)1は、搬送経路D1の上流側に配置されたプラズマ処理装置100と、搬送経路D1におけるプラズマ処理装置100よりも下流側に配置されたインクジェットヘッド170と、インクジェットヘッド170よりも下流側に配置されたパターン読取部180と、プラズマ処理装置100の各部を制御する制御部160とを含む。インクジェットヘッド170は、上流側に配置されたプラズマ処理装置100によって表面がプラズマ処理された被処理物20にインクを吐出して画像形成を行う。なお、インクジェットヘッド170は、別に設けられた制御部(不図示)によって制御されてもよいし、制御部160によって制御されてもよい。
プラズマ処理装置100は、搬送経路D1に沿って配列された複数の放電電極111〜116と、各放電電極111〜116に高周波・高電圧のパルス電圧を供給する高周波高圧電源151〜156と、複数の放電電極111〜116に対して共通に設けられたカウンター電極141と、放電電極111〜116とカウンター電極141との間を搬送経路D1に沿って流れるように配置されたベルトコンベア型の無端状の誘電体121およびローラ122と、を備える。被処理物20は搬送経路D1を搬送されながらプラズマ処理される。搬送経路D1に沿って配列する複数の放電電極111〜116を用いる場合には、図14に示すように、誘電体121に無端状のベルトが用いられることが好適である。
制御部160は、ローラ122を駆動することで、誘電体121を循環させる。被処理物20は、上流の搬入部30(図13参照)から誘電体121上に搬入されると、誘電体121の循環によって搬送経路D1を通過する。
また、制御部160は、複数の高周波高圧電源151〜156を個別にオン/オフすることが可能である。高周波高圧電源151〜156は、それぞれ制御部160からの指示にしたがって、高周波・高電圧のパルス電圧を放電電極111〜116に供給する。
パルス電圧は、すべての放電電極111〜116に供給されてもよいし、放電電極111〜116のうちの一部に供給されてもよい。すなわち、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要な数の放電電極に供給されればよい。また、制御部160は、各高周波高圧電源151〜156から供給されるパルス電圧の周波数および電圧値を調整することで、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要となるプラズマエネルギー量に調整してもよい。さらに、制御部160は、高周波高圧電源151〜156の駆動数(すなわち、パルス電圧を印加する放電電極の本数)を選択することで、被処理物20に対するプラズマエネルギー量を調整してもよい。さらにまた、制御部160は、たとえば印刷速度情報や被処理物20の種類(たとえばコート紙やPETフィルムなど)に応じて、高周波高圧電源151〜156の駆動数、および/または、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギー量を調整してもよい。
ここで、被処理物20表面を必要十分にプラズマ処理するために必要なプラズマエネルギー量を得る方法の1つとしては、プラズマ処理の時間を長くすることが考えられる。これは、たとえば被処理物20の搬送速度を遅くすることで実現可能である。ただし、印刷処理のスループットを上げるためには、プラズマ処理の時間を短くすることが望まれる。プラズマ処理時間を短くする方法としては、上述のように、放電電極111〜116を複数備え、印刷速度および必要なプラズマエネルギー量に応じて必要な数の放電電極111〜116を駆動する方法や、各放電電極111〜116が被処理物20に与えるプラズマエネルギー量の強度を調整する方法などが考えられる。ただし、これらに限定されるものではなく、これらを組み合わせた方法や、その他の方法など、適宜変更することが可能である。
また、複数の放電電極111〜116を備えることは、被処理物20の表面を均一にプラズマ処理する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極でプラズマ処理を行う場合よりも複数の放電電極でプラズマ処理を行う場合の方が被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物20の表面にプラズマ処理を施すことが可能となる。
また、図14において、パターン読取部180は、たとえば被処理物20に形成された画像のドットを撮像する。以下の説明では、画像内に形成された解析用ドットパターンである場合を例に挙げて説明する。
パターン読取部180で取得された画像は、制御部160に入力される。制御部160は、入力された画像を解析することで、解析用ドットパターンにおけるドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出し、この算出結果に基づいて、駆動する放電電極111〜116の数、および/または、各高周波高圧電源151〜156から各放電電極111〜116へ供給するパルス電圧のプラズマエネルギー量を調整する。
また、インクジェットヘッド170としては、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、たとえば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッド170における各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定される。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力される。
つづいて、実施形態で使用する印刷設定テーブルの作成について、図面を参照して詳細に説明する。図15は、実施形態にかかる印刷設定テーブルの作成手順チャートを示す図である。図16は、実施形態にかかる解像度と滴量との対応関係を示す図である。図17は、実施形態にかかる滴量と紙種とに応じたプラズマエネルギー量との対応関係を示す図である。図18は、実施形態にかかる印刷設定テーブルの一例を示す図である。なお、図15に示す手順は、ユーザが印刷装置(システム)1や不図示の印刷制御装置またはPC等の端末を用いて行うものであってよい。以下の説明では、簡略化のため、ユーザが印刷設定テーブルの作成に使用する装置を、単に設定端末という。
図15に示すように、印刷設定テーブルの作成では、まず、印刷装置(システム)1の機種名(ステップS1)と、インクの銘柄(ステップS2)と、被処理物20の紙種(ステップS3)と、解像度(ステップS4)と、インクセット(ステップS5)とが設定される。図15に示す例では、機種名として‘N’が設定され(ステップS1)、インクの銘柄(インク名ともいう)として‘N用インク’が設定され(ステップS2)、紙種として‘普通紙B’が設定され(ステップS3)、解像度として‘1200dpi’が設定され(ステップS4)、インクセットとして‘6色インク’が設定される(ステップS5)。なお、ステップS1〜S5の設定は、ユーザが必要に応じて入力するものであってよい。その場合、実施形態では、機種名とインクの銘柄と紙種と解像度とインクセットとの組み合わせの中から、ユーザによって設定された組み合わせの数分の印刷設定テーブルが作成される。
つぎに、印刷で使用するインクドットの滴量(インク滴量ともいう)が設定される(ステップS6)。インク滴量は、たとえば図16に示す解像度と滴量との対応関係に基づいて設定される。設定端末は、たとえば図16に示す対応関係テーブルを保持しており、ステップS4で入力された解像度に応じて、対応するインク滴量を自動的に設定してもよい。
つぎに、設定端末は、たとえばステップS1で入力された機種名から対象の印刷装置(システム)がシリアル型プリンタであるかライン型プリンタであるかを判断し、シリアル型プリンタである場合には、印刷時のパス数(ステップS7)と、印刷方向(ステップS8)とを設定する。なお、パス数の設定では、インクを複数のパスに分割して吐出する際のパス数が設定される。印刷方向の設定では、たとえばシリアル型プリンタにおけるインクジェットヘッド170を搭載したキャリッジのスキャン方向(主走査方向)への移動に際して、片方向の移動(往路または復路)時にインクを吐出するか、もしくは、両方向の移動(往路および復路)時にインクを吐出するかが設定される。
つぎに、設定端末は、インク総量規制の設定(ステップS9)と、リニアライゼーションの調整(ステップS10)とを実行する。インク総量規制の設定では、たとえば、1次色インク吐出量の上限値と、3次色インク吐出量の上限値とが設定される。1次色インク吐出量上限値の設定では、たとえば、印刷密度を0〜100%で振り、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの1次色のベタ画像においてビーディングやブリーディングやフェザリングなどの印刷不具合が発生しないインク吐出量の上限値が、印刷密度100%の1次色インク吐出量上限値として設定される。印刷密度が100%未満の1次色インク吐出量は、印刷密度0〜100%までの間が均等になるように割り当てられる。同様に、グリーン、ブルーおよびレッドに関する2次色インク吐出量上限値と、イエロー、マゼンタ、シアンからなるコンポジットブラックのインク吐出量上限値とを決定し、印刷密度0〜100%までの間が均等になるように2次色とコンポジットブラックとのインク吐出量が割り当てられる。さらに同様にして、3次色インク吐出量上限値と、印刷密度0〜100%までの間が均等になる3次色のインク吐出量が割り当てられる。また、リニアライゼーションの調整では、印刷結果として得られる色の階調が調整される。
つぎに、設定端末は、印刷対象の原稿画像データが決まっている場合には、原稿画像データの色情報(たとえばRGB値)からICCプロファイルを作成する(ステップS11)。ただし、印刷対象の原稿画像データが不定の場合には、ICCプロファイルの作成は、別途、たとえば印刷制御装置や印刷装置(システム)1において実行されてもよい。また、原稿画像データが予めICCプロファイルを有している場合には、ステップS11では、原稿画像データのICCプロファイルを、ステップS1で設定した機種名に好適なICCプロファイルに変換する処理が実行されてもよい。
つぎに、設定端末は、プラズマ処理での放電電極の出力値(プラズマエネルギー量に相当)を設定する(ステップS12)。プラズマエネルギー量の設定は、たとえば図17に示す滴量と紙種とに応じたプラズマエネルギー量との対応関係を示すテーブルを用いて行われる。設定端末は、たとえば図17に示す対応関係テーブルを保持しており、ステップS6で設定したインク滴量と、ステップS3で設定した紙種とに基づいて、対応するプラズマエネルギー量を自動的に特定する。
以上のような作成手順チャートに従うことで、図18に示すような印刷設定テーブルが作成される。作成された印刷設定テーブルは、たとえばUSBメモリやSDメモリカードやCDやDVDなどの記録メディアを介して他の印刷装置(システム)1に配布したり、公衆回線やインターネットやLAN(Local Area Network)などの通信回線を介して他の印刷装置(システム)1にダウンロードしたりすることが可能である。もしくは、携帯電話機やスマートフォンやスマートデバイスなどの携帯型電子機器を介して印刷装置(システム)1に組み込むことも可能である。
つづいて、以上のように作成された印刷設定テーブルを印刷装置(システム)1に組み込む際の動作について、図面を参照して詳細に説明する。作成された印刷設定テーブルは、実際に原稿画像を印刷する印刷装置(システム)1の印刷制御装置におけるメモリ等に登録される。図19および図20は、実施形態にかかる印刷制御装置を搭載した印刷装置(システム)1に印刷設定データを組み込む際の流れを説明するための図である。ただし、図19において、印刷制御装置161は、印刷装置(システム)1の内部に組み込まれている必要はなく、インターネットやLANなどのネットワークを介した外部に設けられていてもよい。
まず、図19に示すように、印刷制御装置161には、印刷装置(システム)1の機種名に対応する1つ以上の印刷設定テーブルが登録される。登録された印刷設定テーブルは、印刷制御装置161のデータ格納部162に格納され、必要に応じて処理部164に呼び出される。処理部164には、印刷対象の画像チャート(ベクタデータ)も入力される。この画像チャート(ベクタデータ)は、印刷制御装置161の画像チャート格納部163から入力されてもよいし、外部から入力されてもよい。
印刷制御装置161の処理部164は、入力された画像チャート(ベクタデータ)を実際の印刷に用いる原稿画像データ(ラスタデータ)に変換する。ここで、画像チャート(ベクタデータ)を原稿画像データ(ラスタデータ)に変換する方法について説明する。PC等で作成されたアプリケーションのデータ(ベクタデータ)は、印刷装置(システム)1が理解できない形式で作成されているため、印刷装置(システム)1において理解できるデータ(ラスタデータ)に変換する必要がある。この処理は、処理部164におけるRIP(Raster Image Processor)で実行される。ここで、ベクタデータがなめらかな曲線で表現されたデータであるのに対し、ラスタデータはドットの集合で表現されたデータであるため、ラスタデータを拡大すると輪郭部分にジャギーが発生してしまう。その反面、ラスタデータは、写真画像のような微細な色表現には適しているという特徴がある。そこで、RIPは、ベクタデータから印刷装置(システム)1の解像度に応じたラスタデータを生成する。また、RIPは、原稿画像データの色情報(たとえばRGB)を印刷装置(システム)1に対応した色情報(たとえばCMYK)に変換する処理も実行する。
つづいて、ユーザは、データ格納部162に登録された複数の印刷設定テーブルから、被処理物20に適した印刷条件(印刷モード)を有する印刷設定テーブルを呼び出す。これにより、呼び出された印刷設定テーブルが処理部164に移動する。一方、印刷装置(システム)の制御部160も、印刷設定テーブルを保有している。印刷制御装置161の処理部164と印刷装置(システム)1の制御部160とは、それぞれが保有する印刷設定テーブルのうち、機種名およびインクセット設定値の情報を交換し、これらに条件不一致がないことを確認する。なお、機種名およびインクセットの他に、紙種やインク名の情報を交換して条件不一致があるか否かを判定してもよい。
条件不一致がないことが確認されると、制御部160は、印刷設定テーブルに登録されている解像度、インク滴量、インク総量規制、リニアライゼーション、パス数、印刷方向および放電電極出力のそれぞれ設定値を用いて、試し印刷を実行する。その際、ICCプロファイル設定値と色特性変換テーブルとを用いて目標のガマット(たとえばJapan Colorのガマット)が確保できるように各色インクの混合比を決める。その後、制御部160は、被処理物20を設定された放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)でプラズマ処理するとともに、画像チャート(ベクターデータ)をRIPでラスタデータとした原稿画像データをプラズマ処理後の被処理物20に試し印刷する。なお、印刷装置(システム)の制御部160が印刷設定テーブルを保有していない場合、データ格納部162から読み出した印刷設定テーブルを制御部160に通知すればよい。
つづいて、制御部160は、試し印刷により形成された画像を確認することで、画像の品質を評価する。試し印刷の実行から放電電極出力設定値の更新までの動作は、図20を用いて説明する。なお、図20には、制御部160の動作を示す。また、図20では、画像の品質を評価するための指標としてインクドットの真円度を用いた場合を例示するが、これに限られるものではない。
図20に示すように、制御部160は、まず、試し印刷用に、印刷設定テーブルから放電電極出力(プラズマエネルギー量:0.12J/cm2)を読み出し、これをプラズマ処理装置100に設定する(ステップS101)。つぎに、プラズマ処理装置100においてプラズマ処理を開始し(ステップS102)、つづいて、画像形成装置40において原稿画像データを試し印刷する(ステップS103)。
つぎに、制御部160は、パターン読取部180で試し印刷された原稿画像を読み取り、得られた画像のドットを解析することで、ドットの真円度が十分であるか否かを判定する(ステップS104)。ドットの真円度が十分でない場合(ステップS104;NO)、制御部160は、最適な放電電極出力(プラズマエネルギー量)となるように、放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)を見直し、見直された設定値(たとえばプラズマエネルギー量:0.14J/cm2)に変更する(ステップS105)。なお、放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)の見直しは、たとえば予め定めておいた調整値を現在の設定値から増減する方法や、真円度の目標値からのずれに応じて算出された調整値を現在の設定値から増減する方法など、種々の方法で実現することが可能である。
このように、放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)を見直すと、制御部160は、変更後の放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)を印刷制御装置161へ通知し、この値でデータ格納部162に格納されている印刷設定テーブルにおける該当する放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)を更新し(ステップS106)、その後、ステップS102へリターンする。なお、制御部160は、自身が保有する印刷設定テーブルの放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)も変更後の値に更新する。
一方、ドットの真円度が十分である場合(ステップS104;YES)、制御部160は、プラズマ処理を終了して(ステップS107)、本動作を終了する。これにより、印刷設定テーブルに登録された放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)が最適な値に更新される。
なお、以上の説明では、印刷設定テーブルに放電電極出力設定値(プラズマエネルギー量)が登録される場合を例示したが、これに限らず、たとえばプラズマエネルギー量の代わりに、各高周波高圧電源151〜156から供給されるパルス電圧の周波数および/または電圧値や、高周波高圧電源151〜156の駆動数(すなわち、パルス電圧を印加する放電電極の本数)が登録されていてもよい。
また、プラズマ処理装置100において、放電電極の出力を計測するように構成することも可能である。図21は、放電電極の出力を計測する構成を示す模式図である。なお、図21では、簡略化のため、放電電極が1つである場合を示す。
図21に示す構成では、高周波高圧電源150が、放電電極110へ流れる出力電流を計測するための電流モニタ158を備えている。この構成は、複数の高周波高圧電源151〜156および放電電極111〜116を備えている場合には、それぞれの高周波高圧電源151〜156に設けられてよい。制御部160は、印刷設定テーブルの放電電極出力設定値に従い、たとえば低電流制御式の電流モニタ158を有する高周波高圧電源150に、放電電極110へ電流を流すための放電電極出力設定信号を出力する。高周波高圧電源150は、入力された放電電極出力設定信号にしたがって放電電極110にパルス電圧を印加する。電流モニタ158は、その際の出力電流を計測し、その計測値もしくはその積算値(電力量)を出力電流モニタ信号として制御部160へ送信する。出力電流モニタ信号を受信した制御部160は、たとえばその値を不図示のディスプレイに表示したり、ユーザが携帯するスマートフォンやスマートデバイスなどの端末に送信したりしてもよい。それにより、ユーザに対して実質的にリアルタイムにプラズマ処理装置100の消費電力を知らせることや、時間帯ごとの消費電力の統計を取ること等が可能となる。さらに、出力電流の電流波形を計測することで、最適な電流波形を特定することも可能である。それらの結果、印刷処理に要する消費エネルギーの低減等が可能となる。
また、放電電極の出力を計測することで、異常放電などの装置不具合を検出することも可能である。図22は、放電電極の出力に基づいて放電電極の出力異常が検出された際の動作例を示すフローチャートである。
図22に示すように、制御部160は、出力電流モニタ信号を入力すると(ステップS201)、出力電流モニタ信号が示す電流値と、予め決定しておいた正常動作時の電流値との差ΔIを算出し、その差ΔIが予め設定しておいた許容範囲内(±0.5mA以下)であるか否かを判定する(ステップS202)。差ΔIが許容範囲内(±0.5mA以下)である場合(ステップS202;YES)、制御部160は、プラズマ処理を含む印刷処理の継続を判断し(ステップS203)、ステップS201へリターンする。
一方、差ΔIが許容範囲外である場合(ステップS202;NO)、制御部160は、放電電極110で出力異常が発生していると判断し(ステップS204)、印刷装置(システム)1(特に、プラズマ処理装置100)を停止する(ステップS205)。つづいて、制御部160は、放電電極の出力異常が発生したことを不図示のディスプレイに表示する(ステップS206)とともに、予め登録された通知先(たとえば電子メールアドレス等)へ、放電電極の出力異常が発生したことを送信する(ステップS207)。その後、制御部160は、異常が解消されるまで待機する(ステップS208;NO)。出力異常が解消されると(ステップS208;YES)、制御部160は、終了するか否かを判定し(ステップS209)、終了しない場合(ステップS209;NO)、ステップS201へリターンする。一方、終了する場合(ステップS209;YES)、制御部160は、本動作を終了する。
以上のように、異常放電などの装置不具合をユーザに通知する構成とすることで、不具合の早期発見および早期解消が可能となり、それにより、さらなる生産性の向上が可能となる。なお、図22では、出力電流の電流値に基づいて放電電極110の出力異常を検出したが、これに限られるものではない。たとえば出力電流の電流波形に基づいて放電電極110の出力異常を検出してもよい。
また、実施形態では、印刷装置(システム)1にセットされた被処理物20の紙種を検出し、検出された紙種に応じて使用する印刷設定テーブルを検出し、検出された紙種に応じて使用する印刷設定テーブルを呼び出すように構成することも可能である。図23に、その場合の印刷動作の流れを示す。
図23に示すように、本動作では、まず、印刷装置(システム)1に搭載された被処理物検出手段が、セットされた被処理物20の紙種を特定する(ステップS301)。被処理物検出手段は、たとえば被処理物20の表面にレーザ光を照射してその反射光の干渉スペクトルを分析することで紙種を特定する機構や、被処理物20の梱包箱に記載されているバーコードをリーダで読み取ることで紙種を特定する機構などであってよい。
検出された被処理物20の紙種は、印刷装置(システム)1の制御部160から印刷制御装置161へ通知される(ステップS302)。これに対し、印刷制御装置161は、特定された被処理物20の紙種に該当する全ての印刷設定テーブルをデータ格納部162から検索して特定し(ステップS303)、特定した印刷設定テーブルの一覧をディスプレイに表示する(ステップS304)。つづいて、印刷制御装置161は、一覧表示に対する印刷設定テーブルの選択と、選択した印刷設定テーブルの各項目に対する変更とを、ユーザから受け付ける(ステップS305)。
その後、印刷制御装置161から印刷装置(システム)1の制御部160へ、ユーザによる変更を反映した印刷設定テーブルを通知する(ステップS306)。これに対し、印刷装置(システム)1は、通知された印刷設定テーブルに基づいて、プラズマ処理を含む印刷処理を実行し(ステップS307)、完了次第、本動作を終了する。
以上のように構成することで、ユーザは、画面に表示された印刷設定テーブルから希望する印刷条件を選択し、適宜変更した後、プラズマ処理を含む印刷処理を実行することが可能となるため、生産性をより向上できることが可能となる。
なお、図23では、印刷設定テーブルの選択および各項目の変更(ステップS305)を、印刷制御装置161の不図示のディスプレイおよび入力部を用いて実行したが、これに限られるものではない。たとえばステップS304で検索した印刷設定テーブルの一覧を、予め登録されたスマートフォンやスマートデバイスなどの端末に表示し、これに対するユーザ入力を端末から受信するように構成してもよい。
なお、上述における図15〜図19を用いて説明した印刷設定テーブルの作成および組込手順では、図17に示すテーブルを用いて初期のプラズマエネルギー量を決定したが、この方法に限定されず、たとえば最初のプラズマエネルギー量を最小値としておき、得られたテストパターンのドット画像の解析結果に基づいて、プラズマエネルギー量を段階的に上げていくように動作してもよい。
プラズマエネルギー量を最小値から段階的に上げていく場合、図14における各放電電極111〜116に印加されるプラズマエネルギー量を下流側から段階的に大きくなるように変化させてもよいし、被処理物20の搬送速度、すなわち誘電体121の巡回速度を変化させてもよい。その結果、図19を用いて説明した試し印刷では、図24に示すように、領域ごとに異なるプラズマエネルギー量でプラズマ処理された被処理物20を得ることができる。なお、図24では、領域R1はプラズマ処理をしなかった領域(プラズマエネルギー量=0J/cm2)であり、領域R2は0.1J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R3は0.5J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R4は2J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R5は5J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示す。
また、図24に示すような、領域ごとに異なるプラズマエネルギー量でプラズマ処理された被処理物20に対しては、たとえば図25に示すような、異なるドット径を持つ複数のドットを含む共通のテストパターンTPが、それぞれの領域R1〜R5に形成されてもよい。
以上のように形成されたテストパターンTPは、図14におけるパターン読取部180によって読み取られる。ここで、図26に、実施形態にかかるパターン読取部180の一例を示す。
図26に示すように、パターン読取部180には、たとえば発光部182と受光部183とを含む反射型の2次元センサが用いられる。発光部182と受光部183とは、たとえば被処理物20に対してドット形成側に配置された筐体181内に配置される。筐体181の被処理物20側には開口部が設けられており、発光部182から放射された光が被処理物20表面で反射して、受光部183に入射する。受光部183は、被処理物20の表面で反射した反射光量(反射光強度)を結像する。結像された反射光の光量(強度)は、印字(テストパターンTPのドットDT)がある部分とない部分とで変化するため、受光部183で検出された反射光量(反射光強度)を基にドット形状及びドット内部の画像濃度を検出することが可能である。なお、パターン読取部180の構成やその検出方法は、被処理物20に印刷されたテストパターンTPを検出することが可能であれば、種々変更することが可能である。
また、パターン読取部180は、発光部182の光量および受光部183の読出電圧をキャリブレーションする手段として、基準パターン185を備えた基準パターン表示部184を備えていてもよい。基準パターン表示部184は、たとえば所定の被処理物(たとえば普通紙)で構成された直方体の形状をしており、そのうちの1つの面に基準パターン185が貼り付けられている。基準パターン表示部184は、発光部182および受光部183のキャリブレーションを行う場合、基準パターン185が発光部182および受光部183側を向くように回転し、キャリブレーションを行わない場合、基準パターン185が発光部182および受光部183側を向かないように反転する。なお、基準パターン185は、たとえば図25で示したようなテストパターンTPと同様の形状であってよい。
なお、実施形態では、パターン読取部180を用いて取得したドット画像の解析結果に基づいてプラズマエネルギー量を調節する場合を例示したが、これに限らず、たとえばプラズマ処理後の被処理物20に形成されたテストパターンTPに基づいて、ユーザがプラズマエネルギー量を設定するように構成されてもよい。
次に、図を参照しながら、被処理物20に形成されたテストパターンのドットの大きさの判別方法例について説明する。テストパターンのドットの大きさを判別するには、図25に示したようなテストパターンTPをプラズマ処理後の被処理物20に記録し、パターン読取部180でこのテストパターンTPと基準パターン185とを撮像することで、図27に示すようなドットの撮像画像(ドット画像)を取得する。なお、基準パターン185の位置は、図26に示す受光部183の全撮像領域(二次元センサ全撮像領域)のうちのいずれの位置であるか、予め計測によって把握されているものとする。制御部160は、取得されたテストパターンTPのドット画像のピクセルと、基準パターン185のドット画像のピクセルとを比較することで、テストパターンTPのドット画像に対するキャリブレーションを行なう。その際、たとえば図27に示すように、完全に円ではないが、円のような図形(たとえばテストパターンTPのドットの輪郭部分:実線)があり、これを真円(基準パターン185のドットの輪郭部分:一点破線)でフィッティングするが、このフィッティングでは最小二乗法が用いられる。
図28に示すように、最小二乗法では、円のような図形(実線)と真円(一点破線)との偏差を数値化するために、大まかな中心位置に原点Oを取り、この原点Oを基準としたXY座標系を設定して、最終的に最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとを求める。そこで、まず、円のような図形の一周(2π)を角度に基づいて均等に分割し、この分割により得られたデータ点P1〜Pnそれぞれについて、X軸に対する角度θiと原点Oからの距離ρiとを求める。ここで、データ点の数(すなわち、データセットの数)を‘N’とすると、三角関数の関係から、以下の式(1)を導き出すことができる。
このとき、最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとは、以下の式(2)で与えられる。
このように、基準パターン185のドット画像を読み取り、上記した最小二乗法により算出されたドット径の直径と、基準チャートの直径とを比較してキャリブレーションを行なう。キャリブレーション後、パターンで印字されたドット画像を読み取り、ドットの直径を算出する。
また、真円度は、一般には、円のような図形を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心円の間隔が最小となった際の2つの同心円の半径の差で表すが、同心円での最小径/最大径の比率を真円度として定義することもできる。その場合、最小径/最大径の値が‘1’となった場合が真円であることを意味する。この真円度も、ドット画像を取り込むことによって、最小二乗法にて算出することができる。
最大径は、取り込んだ画像のドット中心と円周上の各点とを結んだ際に最大になる距離として求めることができる。一方、最小径は、同様にドット中心点と円周上の各点とを結んだ際に最小になる距離として算出することが可能である。
使用インクの色または種類や被処理物20のインク浸透状態によっては、ドット径およびドットの真円度が異なる。本実施形態では、使用インクの色または種類や被処理物20の種類、インクの吐出量に応じて、ドット形状(真円度)やドット径が目標とする値となるようにコントロールすることで、画像の品質を向上する。また、本実施形態では、形成した画像を読み取り、この画像を解析することで、インク吐出量毎のドット径が目的のドット径になるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を調整することにより、高画質化を図っている。
また、本実施形態では、反射光の光量に基づいてドットの顔料濃度を検出できるので、ドット画像を取り込み、そのドット内部の濃度を計測する。その濃度値を、統計計算によりバラツキ分散として算出することで、濃度ムラを測定する。また、算出した濃度ムラが最小となるようにプラズマエネルギー量を選定することで、ドットの合一による顔料の混濁を防止することが可能となり、これにより、さらなる高画質化が図れる。ドット径の制御を優先とするか、濃度ムラの抑制を優先とするか、真円度の向上を優先とするかは、好みの画質に応じてユーザがモードを切り替えられるように構成されてもよい。
以上のように、実施形態では、ドットの真円度又はドット内の顔料のムラが少なくなる、又はドット径が目的の大きさになるように、インクの色や種類に応じてプラズマエネルギー量がコントロールされる。それにより、ドット径の均一化および省エネルギー化を実現しつつ、高画質な印刷物を提供することが可能となる。また、被処理物20の性状を変更したり印刷速度を変更したりしても、安定したプラズマ処理を行うことが可能であるため、良好な画像記録を安定して実現することが可能となる。
上記した実施形態では、主として被処理物に対してプラズマ処理を行う場合を説明したが、先述の通り、プラズマ処理を行うと被処理物に対するインクの濡れ性が向上する。その結果、インクジェット記録時に付着させるドットが拡がるので、未処理の被処理物に対してイメージ展開した場合と異なる画像が記録される可能性がある。そこで、プラズマ処理した記録媒体に印刷する際は、たとえばインクジェット記録処理を行う際のインクの吐出電圧を下げてインク滴量を少なくすることで対応することが可能である。その結果、インク滴量を削減することが可能となるため、コストダウンすることが可能となる。
図29は、実施形態にかかるインク吐出量と画像濃度との関係を示すグラフである。図29において、実線C1は上述した実施形態にかかるプラズマ処理を行なった際のインク吐出量と画像濃度との関係を示し、破線C2は上述した実施形態にかかるプラズマ処理を施していない被処理物20に対してインクジェット記録処理を行った際のインク吐出量と画像濃度との関係を示す。また、一点破線C3は、破線C2に対する実線C1のインク低減率を示す。
図29における実線C1と破線C2との比較、ならびに、一点破線C3から分かるように、上述した実施形態にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、ドットの真円度の向上、ドットの拡大、顔料のドット内の濃度均一化などの効果により、同一画像濃度を得るために必要となるインク吐出量が低減される。
また、上述した実施形態にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、被処理物20に付着した顔料の厚みが薄くなるため、彩度が向上し、色域も拡がる効果を得ることができる。さらに、インク量が低減された結果、そのインクの乾燥エネルギーも低減可能であるため、省エネ効果も得ることが可能である。
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。