1.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「芳香族ポリカーボネート樹脂」ともいう)、難燃剤、及び下記一般式(II)で表される環状カーボネート(以下、「環状カーボネート」ともいう)を必須成分として含む。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特定の環状カーボネートを所定値以下の含有量で含み、さらに難燃剤が配合されていることで、難燃性に優れると共に、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、耐衝撃性や湿熱性も大幅に改善されたものである。このような樹脂組成物を構成可能な芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、溶融重合法で得られる芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、特定構造のジオール化合物からなる連結剤との反応により、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを高分子量化する方法によって得ることができる。このような方法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その製造過程でできる環状カーボネートを特定量含み、さらに樹脂組成物とする際に特定量の難燃剤を添加することで、優れた難燃性、耐衝撃性、耐湿熱性を備えることができる。また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、これらの必須成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含むことができる。以下に、前記必須成分及びその他の成分について詳述する。
(1)芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される構造単位を主たる構造単位として有する、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を含む。ここで「主たる」とは、芳香族ポリカーボネート樹脂中の全構造単位中における一般式(I)で表される構造単位の含有率が60モル%以上であることを意味し、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
一般式(I)中、R1及びR2は、各々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表し、p及びqは、0〜4の整数を表し、Xは、単結合又は下記(Ia)の群から選択される基を表す。
一般式(Ia)中、R3及びR4は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表すか、あるいはR3とR4は、相互に結合して脂肪族環を形成していてもよい。
前記一般式(I)で表される構造単位に誘導される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(V)で表される化合物が挙げられる。
前記一般式(V)中、R1〜R2、p、q及びXは、各々前記一般式(I)におけるのと同様である。
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが芳香族ジヒドロキシ化合物としての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましい。
本発明においては、ガラス転移温度の制御、流動性の向上等を目的として、前記各種芳香族ジヒドロキシ化合物のうち複数種を必要に応じて組み合わせて用いてもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、一般式(I)で表される構造単位以外のその他の構造単位を更に含んでいてもよい。その他の構造単位としては、下記一般式(III)で表される構造単位に代表される分岐を有する異種構造単位、後述する連結剤に由来する構造単位等を挙げることができる。
なお、前記一般式(III)のXは前記一般式(I)におけるのと同様である。
本発明において芳香族ポリカーボネート樹脂が一般式(III)で表される構造単位を含む場合、その含有率は芳香族ポリカーボネート樹脂中に質量基準で2000ppm未満であり、1500ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることがさらに好ましく、700ppm以下であることが特に好ましく、600ppm以下であることが最も好ましい。一般式(III)の構造単位の含有量が2000ppm未満であると、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐度が減少し、熱安定性がより向上する傾向がある。また、これらの構造単位は自然発生する分岐構造である。そのため、これらの構造単位の含有率が所定量以上であると、分岐化剤の添加量により簡単に分岐度を制御するのが難しくなる、各種難燃剤(B)との配合・分散性が悪化する、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が低下し成形性が悪化する等のデメリットが生じる場合がある。
前記一般式(III)の構造単位は芳香族ポリカーボネート樹脂の製造時に副生し易い異種構造の一種であり、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂はこの異種構造の割合が少ないことが好ましい。このような芳香族ポリカーボネート樹脂は、後述する特定構造のジオール化合物からなる連結剤を用いて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを高分子量化する工程を含む方法によって製造することができる。
そのような芳香族ポリカーボネート樹脂は、後述するように、ジオール化合物を用いて連結し、高分子量化しているにもかかわらず、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂中に連結剤であるジオール化合物由来の構造単位が極めて少量であることから、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値が低い、異種構造単位の割合が少ない等の優れた品質を備えることができる。
一般式(III)で表される構造単位の含有率についての下限は特に制限されず、例えば検出限界(検出下限は通常1ppm程度)とすることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂における一般式(III)で表される構造単位の含有率の下限値は例えば1ppm以上(検出下限)であり、場合により5ppm以上、更に10ppm以上であることが許容される。なお、本発明における前記一般式(III)の構造単位の含有率は1H−NMR解析により求めた値である。
芳香族ポリカーボネート樹脂が後述する特定構造のジオール化合物を含む連結剤を用いる方法によって製造されたものである場合、高分子量化工程で使用するジオール化合物由来の構造単位が含まれていてもよい。その場合、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対するジオール化合物由来の構造単位の含有率は、例えば1モル%以下であり、0.1モル%以下であることが好ましい。ジオール化合物に由来する構造単位の含有率は、1H−NMR解析により求めた値である。
更に、芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端水酸基濃度が1000ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましく、600ppm以下であることがさらに好ましく、500ppm以下であることが特に好ましい。末端水酸基濃度が1000ppm以下であると耐加水分解性が向上する傾向がある。一般に芳香族ポリカーボネート樹脂における末端部分は、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物で封止された構造となっているが、一部が水酸基となっている場合がある。したがって、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度とは、芳香族ポリカーボネート樹脂中の水酸基(OH基)の濃度である。末端水酸基濃度は、例えば、1H−NMR解析により測定することができる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは35,000〜100,000、より好ましくは35,000〜80,000、さらに好ましくは35,000〜75,000、特に好ましくは40,000〜65,000であり、最も好ましくは40,000〜50,000である。芳香族ポリカーボネート樹脂は、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。そのため、重量平均分子量がこの範囲内であれば、各種難燃剤と配合することにより良好な難燃性を示し、押出成形、射出成形等の用途に用いた場合の成形性、生産性も良好である。さらに得られる成形品の機械的物性、耐湿熱性の物性が良好となる。
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂における数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比である分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、1.9〜2.5であり、2.0〜2.4であることが好ましい。なお、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いてポリスチレン換算値として測定される。
芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、1.3以下であることが好ましく、1.28以下がより好ましく、1.25以下がさらに好ましく、1.23以下が特に好ましい。
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
前記数式(1)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)を表す。
構造粘性指数「N値」は、ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるN値は低く、分岐構造の含有率が少なく直鎖構造の割合が高いことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwにおいては分岐構造の割合が多くなると流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、後述する製造方法で得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成することができる。
(2)環状カーボネート
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、下記一般式(II)で表される環状カーボネートが3000ppm以下含まれている。下記一般式(II)で表される環状カーボネートは、公知の化合物であり、試薬供給業者より入手できるか、又は公知の方法により容易に合成することができ、そのような化合物を本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に添加してもよい。あるいは、下記一般式(II)で表される環状カーボネートは、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で副生したものであってもよい。例えば、後述する製造方法で得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、製造工程で連結剤として使用するジオール化合物に対応する環状カーボネートが副生する場合があるが、これを反応系外へ除去したのちでも、少量の環状ポリカーボネートが残存し、最終的に得られる芳香族ポリカーボネート樹脂中にかかる環状ポリカーボネートが含まれることとなる。かかる環状カーボネートが3000ppm以下で存在することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が向上する傾向がある。また、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分がより均一に混合され、成形性及び強度が向上する傾向がある。さらに、難燃剤を配合した際、従来より優れた耐衝撃性を有することが可能である。なお、環状カーボネートの含有量が3000ppmを超えると、樹脂組成物の機械的強度の低下等のデメリットがある場合がある。
一般式(II)中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の環を形成していてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。R5〜R8は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。nは0〜30の整数を表す。
前記Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、又はi−ブチル基であることが特に好ましい。
前記R5〜R8は、各々独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基であることが好ましく、各々水素原子であることがより好ましい。
前記nは、1〜6の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
前記一般式(II)で表される環状カーボネートとしては、下記一般式(IIa)で表される化合物であることが好ましい。一般式(IIa)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(II)におけるのと同義である。
前記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が含む環状カーボネートの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して質量基準で3000ppm以下であり、1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、300ppm以下であることがさらに好ましく、100ppm以下であることが特に好ましい。環状カーボネートの含有量の下限は、通常は検出限界値となるが、好ましくは0.0005ppmであり、より好ましくは0.005ppmであり、さらに好ましくは0.05ppmであり、特に好ましくは0.1ppmである。このような量で環状カーボネートが存在することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が向上する場合がある。更に安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の各種の添加剤を添加した場合であっても、流動性(成形性)、色相(YI値)、耐湿熱性及び耐衝撃性の改善が可能である。なお、環状カーボネートの含有量が高過ぎると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の強度の低下等のデメリットがある場合があり、低過ぎると流動性が悪化したり、十分な耐衝撃性を有することが困難になる場合がある。
(3)難燃剤
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤を含むことで、優れた難燃性を実現することができる。難燃剤は、前記目的を達成するものであれば特に限定されないが、中でもスルホン酸金属塩系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、リン含有化合物系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、難燃剤は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
[スルホン酸金属塩系難燃剤]
本発明に用いられるスルホン酸金属塩系難燃剤としては、例えば、芳香族スルホン酸金属塩、脂肪族スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が好ましい例として挙げられる。前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムがある。
前記スルホン酸金属塩としては、難燃性と熱安定性の点より、好ましくは、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩が選択される。
芳香族スルホンスルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。なお、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩は重合体であってもよい。
芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム塩、4−クロロー4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩等が挙げられる。
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、例えば、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。中でも、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウムが好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるスルホン酸金属塩系難燃剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。スルホン酸金属塩系難燃剤の配合量が0.01質量部以上であると、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、十分な難燃性を得ることができ、5質量部以下であると熱安定性も十分満足する。
[ハロゲン含有化合物系難燃剤]
本発明に用いられるハロゲン含有化合物系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、臭素化芳香族トリアジン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシポリマー、デカブロモジフェニルオキサイド、トリブロモアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、デカブロモジフェニルエタン、臭素化ポリスチレン等が挙げられる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるハロゲン含有化合物系難燃剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましい。ハロゲン含有化合物系難燃剤の配合量が0.1質量部以上であると本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は十分な難燃性を得ることができ、20質量部以下であると十分な機械強度を保持でき、また難燃剤のブリードによる変色も起こりにくい傾向がる。
[リン含有化合物系難燃剤]
本発明に用いられるリン含有化合物系難燃剤としては、例えば、赤リン、被覆された赤リン、ポリリン酸塩系化合物、リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等が挙げられる。リン酸エステル系化合物としては、下記一般式(VI)で示されるリン酸エステル化合物が挙げられる。
一般式(VI)中、R9 、R10 、R11 及びR12 は、各々独立して、水素原子又は有機基を表し、Rは、2価以上の有機基を表し、aは、0又は1であり、bは、1以上の整数であり、cは、単一の化合物の場合は0以上の整数であるが、cの値が異なる複数の化合物の混合物でもよく、この場合はcの平均値で表す。ただし、R9 、R10 、R11 及びR12 が同時に水素原子である場合を除き、cが0のときは、R9 、R10 及びR11 の少なくとも一つは有機基を表す。
R9 、R10 、R11 及びR12が表す有機基としては、例えば、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。置換されている場合の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン化アリール基等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えば、アリールアルコキシアルキル基等)、又はこれらの置換基を酸素原子、イオウ原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)であってもよい。
Rが表す2価以上の有機基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基が挙げられ、アリーレン基としては、例えば、置換基を有していてもよいフェニレン基、ビスフェノール類、多核フェノール類から誘導される基等が挙げられ、2以上の遊離原子価の相対的位置は任意である。2価以上の有機基として特に好ましいものとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、2,2−ビス(4−ヒドキシフェニル)メタン(=ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、ジヒドロキシビフェニル、p,p’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシナフタレン等から誘導されるアリーレン基が挙げられる。
bとしては、1〜30の整数であることが好ましく、cとしては、1〜10の整数又はその平均値(前記混合物の場合)であることが好ましい。
前記一般式(VI)で表されるリン酸エステル化合物の具体例としては、c=0の場合は、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート及びビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートが挙げられ、c=1以上の場合は、R9〜R12 がアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、又は、好ましくはこれらのアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であるところの、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等のポリホスフェート又はその混合物が挙げられる。これらのうち、トリフェニルホスフェート及び各種ビスホスフェート又はその混合物が好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるリン含有化合物系難燃剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましい。リン含有化合物系難燃剤の配合量が0.1質量部以上であると、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、十分な難燃性を得ることができ、20質量部以下であると耐熱性も十分満足する。
[珪素含有化合物系難燃剤]
本発明に用いられる珪素含有化合物系難燃剤としては、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。これらのうち、シリコーンワニスが好ましい。
本発明で使用されるシリコーンワニスは、主として2官能型単位[R0 2 SiO]と3官能型単位[R0 SiO1.5 ]からなり、1官能型単位[R0 3 SiO0.5 ]及び/又は4官能型単位[SiO2 ]を含むことができる、比較的低分子量の溶液状シリコーン樹脂である。ここで、R0 は、炭素数1〜12の炭化水素基又は一個以上の置換基で置換された炭素数1から12の炭化水素基であり、置換基としてはエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基及びビニル基等が挙げられる。このR0 の種類を変えることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性を改善することが可能である。また、シリコーンワニスとしては、無溶剤のシリコーンワニスと溶剤を含むシリコーンワニスとがあるが、溶剤を含まないシリコーンワニスが好ましい。
シリコーンワニスは、アルキルアルコキシシランの加水分解により製造することができ、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等を加水分解することにより製造することができる。これらの原料のモル比、加水分解速度等を調整することにより分子の構造(架橋度)及び分子量のコントロールが可能である。さらに、製造条件によってはアルコキシシランが残存するが、組成物中に残存すると芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の耐加水分解性の低下が起こることが有り、残存アルコキシシランは少ないこと、あるいは無いことが望ましい。
シリコーンワニスの粘度は、通常300センチストークス以下である。300センチストークスを超えると難燃性が不十分になることがある。シリコーンワニスの粘度は、250センチストークス以下が好ましく、200センチストークス以下がより好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における珪素含有化合物系難燃剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましい。珪素含有化合物系難燃剤の配合量が0.1質量部以上であると、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において十分な難燃性を得ることができ、10質量部以下であると耐熱性も十分満足する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、より高い難燃性を達成させる目的で、前記難燃剤と共に以下の化合物を併用してもよい。
[ポリテトラフルオロエチレン]
本発明では、より高い難燃性を達成するためにポリテトラフルオロエチレンを併用するのが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンは、滴下防止剤であり、芳香族ポリカーボネート樹脂中に容易に分散し、かつせん断力等の外的作用により樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すことから、接炎時の樹脂の燃え垂れを防止し、難燃性を向上させる。ポリテトラフルオロエチレンとしては、ASTM規格でタイプ3に分類されるものが挙げられ、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン6J又はテフロン30Jとして、あるいはダイキン化学工業(株)よりポリフロンF201Lとして市販されているものを用いることができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるポリテトラフルオロエチレンの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜2.0質量部であることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの配合量が0.01〜2.0質量部の範囲内であると、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、燃焼時の溶融滴下防止効果を十分得ることができ、また成形品外観にも優れる。
(4)その他の成分
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ゴム性重合体、耐熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料その他の添加剤を配合してもよい。
[ゴム性重合体]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、前記必須成分に加えて、耐衝撃性を向上させる目的でゴム性重合体を配合することができる。ゴム性重合体とは、ガラス転移温度が0℃以下、中でも−20℃以下のものを示し、ゴム性重合体にこれと共重合可能な単量体成分とを共重合した重合体をも含む。本発明に用いるゴム性重合体は、一般に芳香族ポリカーボネート樹脂に配合されて、その耐衝撃性を改良し得る、従来公知の任意のものを使用できる。
ゴム性重合体の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体等のポリアルキルアクリレートゴム;ポリオルガノシロキサンゴム等のシリコーン系ゴムの他、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとから成るIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−α−オレフィン系ゴム(エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴム等)、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、耐衝撃性の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとから成るIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムの群から選択される何れか1種が好ましい。
ゴム性重合体と共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸など)等が挙げられる。これらの単量体成分は2種以上を併用してもよい。これらの中では、耐衝撃性の面から、好ましくは、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物の群から選択される何れか1種であり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。
本発明に用いるゴム性重合体は、耐衝撃性の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。この場合、コア層は、ポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとから成るIPN(Interpenetrating polymer network)型複合ゴムの群から選択される少なくとも1種のゴム成分で形成し、シェル層は、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル−スチレン共重合体で形成するのが好ましい。
前記のコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
また、前記のコア/シェル型グラフト共重合体の商品としては、例えば、ガンツ化成社製の「スタフィロイドMG1011」、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイドEXL2315」、「EXL2602」、「EXL2603」等のEXLシリーズ、「KM330」、「KM336P」等のKMシリーズ、「KCZ201」等のKCZシリーズ、三菱レイヨン社製の「メタブレンS−2001」、「SRK−200」等が挙げられる。
その他のゴム性重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)等が挙げられる。
ゴム性重合体の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、例えば、0.5〜40質量部、好ましくは2〜30質量部、更に好ましくは3〜25質量部である。ゴム性重合体の含有量を1質量部以上とすることで耐衝撃性が向上する傾向にあり、40質量部未満とすることで剛性や耐熱性、耐湿熱性が向上する傾向にある。
[耐熱安定剤]
耐熱安定剤としては、トリフェニルホスフィン(P-Ph3)等の公知のものを用いることができる。
[酸化防止剤]
酸化防止剤としては、例えば、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオネート)、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリクレジルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。これらのうち、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト及びn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネートが好ましい。
[離型剤]
離型剤としては、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物が好適に用いられる。本発明で用いる脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、特に、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上とを含有することが好ましく、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物との併用により、離型効果を向上させると共に溶融混練時のガス発生を抑制し、モールドデポジットを低減させる効果が得られる。
モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸のフルエステル化物としては、ステアリルアルコールとステアリン酸とのフルエステル化物(ステアリルステアレート)、ベヘニルアルコールとベヘン酸とのフルエステル化物(ベヘニルベヘネート)が好ましく、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物としては、グリセリンセリンとステアリン酸とのフルエステル化物(グリセリントリステアリレート)、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル化物(ペンタエリスリトールテトラステアリレート)が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラステアリレートが好ましい。
[紫外線吸収剤]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって紫外線吸収剤を含有することできる。紫外線吸収剤を含有することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性を向上させることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の機械物性が良好なものになる。
ベンゾトリアゾール化合物としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられる。これらのうち、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールがより好ましい。このようなベンゾトリアゾール化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」、「チヌビン329」等が挙げられる。
[染顔料]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって染顔料を含有していてもよい。染顔料を含有することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の隠蔽性、耐候性を向上できるほか、得られる成形品のデザイン性を向上させることができる。
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、カーボンブラックのポリスチレンマスターバッチ(カーボンブラック40%、越谷化成社製 RB904G)のように、芳香族ポリカーボネート樹脂又は他のゴム性重合体とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外に、例えば、帯電防止剤、無機フィラー、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、加水分解安定剤、強化剤、充填剤、滑剤、結晶核剤等の各種添加剤を含有することができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における前記添加剤等の混合方法、混合時期については特に制限は無く、例えば混合時期としては、重合反応の途中又は重合反応終了時、さらには芳香族ポリカーボネート等の混練途中等のポリカーボネートが溶融した状態で添加することができるが、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネートとブレンド後、押出機等で混練することも可能である。
<芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は特に制限されるものではないが、以下に示す製造方法で得られることが好ましい。以下に示す製造方法を採ることにより、分岐化度が低く、異種構造の含有率が低く、末端水酸基濃度が低く、特定構造の環状カーボネートを所望の含有率で含む芳香族ポリカーボネート樹脂を効率的に製造することができる。
すなわち、好ましい芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと下記一般式(IV)で表されるジオール化合物(以下、「ジオール化合物」ともいう)とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む製造方法である。
一般式(IV)中、Ra及びRbは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R5〜R8は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。nは0〜30の整数を表す。
前記Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、又はi−ブチル基であることが特に好ましい。
前記R5〜R8は、各々独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基であることが好ましく、各々水素原子であることがより好ましい。
前記nは、1〜6の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
一般式(IV)で表されるジオール化合物としてより好ましいものは、下記一般式(IVa)で表される化合物である。一般式(IVa)中、Ra及びRbは、一般式(IV)におけるのと同じである。
一般式(IVa)中、Ra及びRbとしては、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることが好ましく、炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びイソブチル基がさらに好ましく、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びイソブチル基が特に好ましい。
ジオール化合物としては、例えば、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、エタン−1,2−ジオール(1,2−エチレングリコール)、2,2−ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチルプロパン−1,3−ジオール等が挙げられる。
また、前記ジオール化合物の他の例としては、以下の構造式を有する化合物が挙げられる。
これらのうち、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールが特に好ましい。
[芳香族ポリカーボネートプレポリマー]
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマー(以下、「プレポリマー」、「PP」ともいう)は、芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する前記一般式(I)で表される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマーである。
このような芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、前記一般式(I)で表される構造単位に誘導される芳香族ジヒドロキシ化合物を塩基性触媒の存在下に炭酸ジエステルと反応させる公知のエステル交換法、あるいは該芳香族ジヒドロキシ化合物を酸結合剤の存在下にホスゲン等と反応させる公知の界面重縮合法、のいずれによっても容易に得ることができる。
前記一般式(I)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、前記一般式(V)で表される化合物が挙げられる。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、界面重合法で合成したものであっても溶融重合法で合成したものであってもよく、また、固相重合法や薄膜重合法などの方法で合成したものであってもよい。また、使用済みディスク成形品等の使用済み製品から回収されたポリカーボネートなどを用いることも可能である。これらのポリカーボネートは混合して反応前のポリマーとして利用しても差し支えない。例えば界面重合法で重合したポリカーボネートと溶融重合法で重合したポリカーボネートとを混合してもよく、また、溶融重合法あるいは界面重合法で重合したポリカーボネートと使用済みディスク成形品等から回収されたポリカーボネートとを混合して用いても構わない。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーとしては、特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーが好ましい。すなわち、前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、その少なくとも一部が芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基あるいは末端フェニル基(以下、合わせて「封止末端基」ともいう)で封止されていることが好ましい。
その封止末端基の割合としては、全末端量に対して60モル%以上が好ましい。また、末端フェニル基濃度(全構成単位に対する封止末端基の割合)は2モル%以上であり、2〜20モル%が好ましく、2〜12モル%がより好ましい。末端フェニル基濃度が2モル%以上の場合にジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。プレポリマーの全末端量に対する封止末端量の割合は、プレポリマーの1H−NMR解析により分析することができる。
また、Ti複合体による分光測定によって末端水酸基濃度を測定することが可能である。更に末端水酸基濃度は1H−NMR解析により測定することも可能である。同評価による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、1,000ppm以下がより好ましい。前記範囲内の水酸基末端では、ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られる傾向がある。
ここでいう「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」は、例えば分岐の無いポリカーボネート(すなわち、鎖状ポリマー)0.5モルがあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。なお、「芳香族ポリカーボネート樹脂の全末端基量」についても同様である。
封止末端基の具体例としては、フェニル末端基、クレジル末端基、o−トリル末端基、p−トリル末端基、p−t−ブチルフェニル末端基、ビフェニル末端基、o−メトキシカルボニルフェニル末端基、p−クミルフェニル末端基等が挙げられる。
これらの中では、ジオール化合物とのエステル交換反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される封止末端基が好ましく、フェニル末端基、p−tert−ブチルフェニル末端基がより好ましい。
このような封止末端基は、界面法においては芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に末端停止剤を用いることにより導入することができる。末端停止剤としては、例えばp−tert−ブチルフェノール、フェノール、p−クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端量(すなわち所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量)や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時にジフェニルカーボネートのような炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、炭酸ジエステルを1.00〜1.30モルであり、1.02〜1.20モル使用することが好ましい。これにより、前記封止末端量を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応(エステル交換反応)させて得られる末端封止された重縮合ポリマーを使用することが好ましい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、前記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシル基を有する化合物が好ましく使用される。
さらに芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、前記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロリド又はエステル化合物として反応させることが好ましい。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量としては、Mwが5,000〜35,000が好ましく、15,000〜35,000がより好ましく、20,000〜35,000がさらに好ましく、20,000〜33,000の範囲の芳香族ポリカーボネートプレポリマーが特に好ましい。
この範囲内の分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、芳香族ポリカーボネートプレポリマー自体が低粘度のため、プレポリマーの製造を高温・高剪断・長時間にて実施する必要がなくなり、及び/又は、ジオール化合物との反応を高温・高剪断・長時間にて実施する必要がなくなる傾向がある。
[環状カーボネート]
前記製造方法においては、末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーにジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させることにより、芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化する。この反応は温和な条件で高速に進み、高分子量化が達成される。すなわち、ジオール化合物により芳香族ポリカーボネートプレポリマーが開裂反応を起こした後エステル交換反応により脂肪族ポリカーボネートユニットが生成する反応よりも、ジオール化合物と芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの反応が速く進行する。
ここで、前記特定構造のジオール化合物を反応させる方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジオール化合物との反応が進行するとともに、ジオール化合物の構造に対応した構造を有するジオール化合物由来の環状体である環状カーボネートが副生する。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化が進行し、最終的には従来のホモポリカーボネート(例えばビスフェノールA由来のホモポリカーボネート樹脂)とほぼ同じ構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。この除去工程によっても、環状カーボネートは完全には除去しきれないため、本発明の前記一般式(IV)で表される構造を有するジオール化合物を用いた製造方法は、従来の溶融法によるポリカーボネートの製造方法と比べ、高速で高分子量化することができるという利点を有する。
なお、前記環状カーボネートの構造の詳細は、既述のとおりである。
上述の高分子量化とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではないが、例えば以下のスキーム(a)又は(b)に示すメカニズムが考えられる。本発明の前記一般式(IV)で表される構造を有するジオール化合物を用いた製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに連結剤としてジオール化合物を反応させ、当該芳香族ポリカーボネートプレポリマーを連結高分子量化するとともに、そこで副生するジオール化合物の構造に対応する構造の環状カーボネートを除去するものであり、その範囲内であれば特定の反応機構に限定されるものでもない。
スキーム(a):
スキーム(b):
一般式(IV)で表される構造を有するジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、ジオール化合物由来の構造単位をほとんど含まず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
すなわち、連結剤であるジオール化合物由来の構造単位が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値が低い、異種構造を有する構造単位の割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。
以下に、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法の詳細な条件を説明する。
(i)ジオール化合物の添加
芳香族ポリカーボネートプレポリマーに前記一般式(IV)で表されるジオール化合物を添加混合し、高分子量化反応器内で高分子量化反応(エステル交換反応)を行う。
ジオール化合物の使用量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01〜1.0モルであるのが好ましく、0.1〜1.0モルであるのがより好ましく、0.2〜0.7モルであるのがさらに好ましい。ただし、比較的沸点が低いものを使用するときは、反応条件によっては一部が揮発などにより反応に関与しないまま系外へ出る可能性を考慮して、予め過剰量を添加することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して最大50モル、好ましくは10モル、より好ましくは5モル添加することもできる。
ジオール化合物の添加混合方法については特に制限されないが、ジオール化合物として沸点の比較的高いもの(沸点約350℃以上)を使用する場合には、前記ジオール化合物は、減圧度10torr(1333Pa以下)以下の高真空下で、直接高分子量化反応器へ供給することが好ましい。前記減圧度は、2.0torr以下(267Pa以下)がより好ましく、0.01〜1torr(1.3〜133Pa以下)がさらに好ましい。ジオール化合物を高分子量化反応器へ供給する際の減圧度が不十分であると、副生物(フェノール)によるプレポリマー主鎖の開裂反応が進行してしまい、高分子量化するための反応時間を長くせざるを得なくなる場合がある。
一方、ジオール化合物として沸点の比較的低いもの(沸点約350℃未満)を使用する場合には、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジオール化合物とを比較的ゆるやかな減圧度で混合することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジオール化合物と常圧に近い圧力で混合してプレポリマー混合物としたのち、該プレポリマー混合物を減圧条件下の高分子量化反応に供することにより、沸点の比較的低いジオール化合物であっても揮発が最小限に抑えられ、過剰に使用する必要性がなくなる。
(ii)エステル交換反応(高分子量化反応)
芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジオール化合物とのエステル交換反応(高分子量化反応)に使用する温度としては、240℃〜320℃の範囲が好ましく、260℃〜310℃がより好ましく、280℃〜310℃がさらに好ましい。
また、減圧度としては、13kPaA(100torr)以下が好ましく、1.3kPaA(10torr)以下がより好ましく、0.67〜0.013kPaA(5〜0.1torr)がさらに好ましい。
エステル交換反応に使用されるエステル交換触媒(以下、「触媒」ともいう)としては塩基性化合物が挙げられ、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等が挙げられる。
このような化合物としては、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物及びアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシド及びそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が挙げられる。
含窒素化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基及び/又はアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラフェニルアンモニウム等の塩基あるいは塩基性塩等が挙げられる。
エステル交換触媒としては、例えば、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、具体例としては、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの触媒は、プレポリマーを構成する芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、通常、1×10−9〜1×10−3モルの比率で用いられ、1×10−7〜1×10−5モルの比率で用いられるのが好ましい。
(iii)環状カーボネート除去工程
前記高分子量化反応によって芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化されて所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が得られると同時に、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する。副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応が進行する。
環状カーボネートの除去方法としては、例えば同じく副生するフェノール及び未反応のジオール化合物等と共に反応系より留去する方法が挙げられる。反応系より留去する場合の温度は、240℃〜320℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは260℃〜310℃、より好ましくは280℃〜310℃である。
環状カーボネートの除去については、副生する環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生する環状カーボネートの残存量の好ましい上限は3000ppmである。すなわち、前記一般式(IV)で表される構造を有するジオール化合物を用いた製造方法では、前記一般式(II)で表される構造を有する環状カーボネートが3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下で含まれる芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。前記一般式(II)で表される構造を有する環状カーボネートの含有率の下限は、通常は検出限界値となり、好ましくは0.0005ppmである。なお、環状カーボネートの含有率は、GC-MSで測定した値である。
反応系外へ留去された環状カーボネートは、その後加水分解、精製等の工程を経て回収・再利用(リサイクル)することができる。環状カーボネートとともに留去されるフェノールについても同様に回収し、ジフェニルカーボネート製造工程へ供給して再利用することができる。
なお、高分子量化工程と環状カーボネート除去工程とは、必ずしも物理的及び時間的に別々の工程とする必要はなく、実際には同時に行われる。本発明の好ましい製造方法は、芳香族ポリカーボネートとジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得るとともに、前記高分子量化反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する工程を含むものである。
(iv)その他の製造条件
芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後の芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高められることが好ましく、10,000以上高められることがより好ましく、15,000以上高められることがさらに好ましい。
ジオール化合物とのエステル交換反応における装置の種類や釜の材質などは公知のいかなるものを用いても良く、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。前記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。なお、横型撹拌効率の良い回転翼を有し、減圧条件にできるユニットをもつものが好ましく、ポリマーシールを有し、脱揮構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機がさらに好ましい。
装置の材質としては、SUS310、SUS316やSUS304等のステンレスや、ニッケル、窒化鋼などポリマーの色調に影響のない材質が好ましい。また装置の内側(ポリマーと接触する部分)には、バフ加工あるいは電解研磨加工を施したり、クロムなどの金属メッキ処理を行ったりしてもよい。
高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂に触媒失活剤を適用してもよい。一般的に、公知の触媒失活剤としては、公知の酸性物質等が挙げられ、これら触媒失活剤の添加による触媒の失活が好適に実施される。これらの触媒失活剤としては、例えば、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の芳香族スルホン酸塩、ステアリン酸クロリド、酪酸クロリド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロリド、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸塩、リン酸類、亜リン酸類等が挙げられる。
これらのうちで、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及びパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩からなる群から選択される触媒失活剤が好ましい。
触媒失活剤の添加量は特に制限されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、3ppm以上であることが好ましく、5ppm以上であることがより好ましい。触媒失活剤の含有量が3ppm以上の場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性の向上効果が期待できる。触媒失活剤含有量の上限は特に制限されないが、30ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましい。
触媒失活剤の添加は、前記高分子量化反応終了後に従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、ターンブルミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
触媒失活後、芳香族ポリカーボネート樹脂中の低沸点化合物を0.013〜0.13kPaA(0.1〜1torr)の圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機である。
<本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法>
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる限り特に限定されない。即ち、難燃剤、前記添加剤等の混合方法、混合時期については特に制限は無い。例えば混合時期としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の重合反応(例えば、前記高分子量化反応)の途中又は重合反応終了時、又は重合反応に使用した触媒を触媒失活剤で失活後、ペレット化する前のいずれかの時期に添加剤を添加して、芳香族ポリカーボネート樹脂に混合することで、樹脂組成物を製造することができる。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂等の混練途中等の芳香族ポリカーボネート樹脂が溶融した状態で添加することができるが、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネートとブレンド後、押出機等で混練することも可能である。例えば、特定量の環状カーボネートを含む芳香族ポリカーボネート樹脂が溶融した状態で、難燃剤や前記添加剤等を添加、混合して調整してもよい。また、特定量の環状カーボネートを含む芳香族ポリカーボネート樹脂がペレット又は粉末等の固体状態の場合であっても、固体状態の芳香族ポリカーボネート樹脂等と、難燃剤や前記添加剤等とをブレンド後、押出機等で混練することも可能である。
2.成形品
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、各種部材などの用途に好ましく利用することができる。これらの用途に用いるときは、本発明の樹脂組成物単独であってもさらに他のポリマーとのブレンド品であっても差し支えない。用途に応じてハードコートなどの加工も好ましく使用しうる。
特に好ましくは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形、射出成形等に用いられる。優れた機械的性質を有している為、得られる成形品としては、押出成形品、精密部品や射出成形品、自動車分野、OA機器分野、電子・電気分野等の原材料、一般工業分野の原材料等が挙げられるがこれらに限定されない。
成形品の具体例としては、電気・電子分野などの各種原材料、自動車・航空機産業における各種原材料、その他光学機器部品、電車や自動車などの車載用品、各種建築部材、コピー機やファクシミリ、パソコンなどOA機器の各種部品在料、テレビや電子レンジなど家電製品の各種部品材料、コネクターやICトレイなどの電子部品用途、ヘルメット、プロテクター、保護面などの保護具部材、各異医療用機器の部材、などを挙げる事ができるがこれらに限定されない。以上のように特に好ましい本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の用途として、特に高強度(高シャルピー強度)、高耐湿熱性、且つ精密成形性を必要とする成形品が挙げられる。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は、得られた芳香族ポリカーボネート又は芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(以下、両者に共通する場合は、「芳香族ポリカーボネート」ということもある。)の分析及び物性評価は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
<物性評価方法>
(1)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、分子量既知(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、”PStQuick MP-M”)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線とした。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の計算式より、ポリスチレン換算値として求めた。
[計算式]
Mw=Σ(Wi×Mi)÷Σ(Wi)
Mn=Σ(Ni×Mi)÷Σ(Ni)
ここで、iは分子量Mを分割した際のi番目の分割点、Wiはi番目の重量、Niはi番目の分子数、Miはi番目の分子量を表す。また分子量Mとは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン分子量値を表す。
(2)分子量分布(Mw/Mn)
ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)及びポリスチレン換算数平均分子量(Mn)より以下の計算式より求めた。
[計算式]
分子量分布=Mw/Mn
[測定条件]
装置:東ソー株式会社製、HLC−8320GPC
カラム:
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ-M×1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
溶媒:HPLCグレードクロロホルム
注入量:10μL
試料濃度:0.2w/v% HPLCグレードクロロホルム溶液
溶媒流速:0.35ml/min
測定温度:40℃
検出器:RI
(3)末端水酸基濃度(ppm)
1H−NMRの解析結果から末端水酸基を観測することによって測定した。1H−NMRによるプレポリマー(PP)中の末端水酸基濃度は、樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で1H−NMRを測定することで求めた。具体的には、4.7ppmの水酸基ピークと7.0〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)の積分比より、PP中の末端水酸基濃度(OH濃度)を算出した。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂中の末端水酸基濃度も、同様に測定し、算出することができる。
なお、1H−NMRの測定条件の詳細は以下のとおりである。
装置:日本電子社製 LA−500 (500MHz)
測定核:1H
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
(4)末端フェニル基濃度(封止末端基濃度、Ph末端濃度;モル%):
1H−NMRの解析結果から、下記数式により求めた。
具体的には、樹脂サンプル0.05gを、1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で1H−NMRスペクトルを測定し、7.4ppm前後の末端フェニル基と7.0〜7.3ppm付近のフェニレン基(BPA骨格由来)の積分比より、PPの末端フェニル基量及び末端フェニル基濃度を測定した。なお、1H−NMRの測定条件の詳細は前記と同様である。
前記の末端水酸基濃度と末端フェニル基濃度とから、ポリマーの全末端基量を算出することができる。
(5)異種構造量
樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で核磁気共鳴分析装置1H−NMRを用いて高分子量化されたポリカーボネート(PC)中の異種構造量を測定した。文献Polymer 42 (2001)7653-7661中のP.7659に記載されたHa及びHbの1H−NMRの帰属により、以下の異種構造量(ppm)を測定した。なお、1H−NMRの測定条件は前記と同様である。
[算出]
前記異種構造ユニット中のHa(8.01ppm付近)及びHb(8.15ppm付近)のシグナルと7.0〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)のシグナルの積分比より、異種構造量を算出した。
(6)N値
高化式フローテスターCFT−500D(島津製作所(株)製)を用いて、120℃で5時間乾燥した芳香族ポリカーボネート(試料)について、穴径1.0mmφ、長さ10mmのダイを用い、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ160値とし、同様に280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ10値として、これらを用いて下式(1)により求めた。
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10)・・・(1)
(7)流れ値(Q値)
JIS K7210付属書Cに記載の方法にて100℃で5時間乾燥した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの流れ値(Q値)を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFT−500Dを用いて、穴径1.0mmφ、長さ10mmのダイを用い、試験温度280℃、試験力160kg/cm2、余熱時間420secの条件で排出された溶融樹脂量(×0.01cm3/sec)を測定した。
(8)耐衝撃性
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを100℃、5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「SG75Mk−II」)にて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を成形し、23℃の各条件下で、ISO−179規格に基づき、シャルピー衝撃試験(ノッチ有、単位:kJ/m2)を実施した。
(9)湿熱試験
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを100℃、5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「SG75Mk−II」)にて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(3mm厚)を成形し、スチームプレッシャー試験機((株)平山製作所製「HASTEST PC−SIII型」)を使用し、100℃の水蒸気中で24時間保持して湿熱処理を行った。湿熱処理後の試験片をハサミでカットし、流れ値(Q値)を測定した。湿熱処理後のQ値と湿熱処理前の流れ値(Q値)の差をΔQとした。
(10)燃焼性評価(UL94)
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを120℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業製「SE100DU」)にて、シリンダ温度270℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.0mmのUL試験用試験片を成形した。得られたUL試験用試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温槽の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して燃焼試験を行った。
(11)樹脂中の環状カーボネート含有量の測定法
サンプル樹脂10gをジクロロメタン100mlに溶解し、1000mlのメタノール中へ攪拌しながら滴下した。沈殿物を濾別し、濾液中の溶媒を除去した。得られた固体をGC−MSにより以下の測定条件で分析した。なお、この測定条件での検出限界値は0.0005ppmである。
[GC−MS測定条件]
測定装置:Agilent HP6890/5973MSD
カラム:キャピラリーカラムDB-5MS,30m×0.25mm I.D., 膜厚0.5μm
昇温条件:50℃(5min hold)−300℃(15min hold),10℃/min
注入口温度:300℃、打ち込み量:1.0μl(スプリット比25)
イオン化法:EI法
キャリアーガス:He,1.0ml/min
Aux温度:300℃
質量スキャン範囲:33−700
溶媒:HPLC用クロロホルム
内部標準物質:2,4,6−トリメチロールフェノール
なお、以下の実施例及び比較例で使用したジオール化合物の化学純度はいずれも98〜99%、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの化学純度は99%以上、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。
以下の実施例で、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを「BPA」、プレポリマーを「PP」、水酸基を「OH基」、フェニル基を「Ph」と略すことがある。
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の調製>
(1)芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
[ポリカーボネートの製造例1:PC−1]
(プレポリマー製造工程)
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン66.480kg(291.209モル)、ジフェニルカーボネート70.179kg(327.610モル)及び触媒として炭酸セシウム0.17μモル/モル(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数)を攪拌機及び留出装置付の300Lの反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を0.046MPa(345torr)に調整し、160℃にて原料を加熱溶融し、1間攪拌した。
その後、9時間かけて、徐々に昇温、減圧度を下げながら、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行なった。最終的に系内を260℃、減圧度を0.05kPa(0.38torr)以下とし、さらに1時間保持し、芳香族ポリカーボネートプレポリマー(以下、「PP−E」と略すことがある)を得た。
得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP−E)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は27900、OH濃度は280ppm、フェニル末端濃度(Ph末端濃度)は5.8mol%であった。OH濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中の末端フェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)濃度を示す。
(高分子量化工程)
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP-E)をメルター(二軸押出機)により樹脂温度を280℃にして溶融し、13300g/hrの速さで予め300℃へ加熱した回転数180rpmのニーダへ連続供給した。
同時に、アンカー翼を具備した連結剤調整槽において、ジオール化合物である2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(BEPG)3000gを75〜80℃で加熱溶融し、0.005mol/Lの炭酸セシウム(Cs2CO3)水溶液82mlを添加、攪拌し、0.1torrで1時間、脱水処理(最終的な水分含有量は検出限界以下)を行った。得られた触媒を含有するBEPGを124g/hrの速さで前記ニーダへPP-Eと共に連続供給した。
PP-Eの全末端量(末端フェニル基量)1モルに対し0.25モルの流量でBEPGを連続供給し、触媒である炭酸セシウム(Cs2CO3)はBPAの1モルに対し0.33μモル/モルの割合となるように連続供給した。
引き続き、ニーダ出口より280℃に保温された輸送管を経由し、PP-Aと炭酸セシウムが添加されたBEPGの混合物を流速13425g/hrで横型攪拌反応器へ供給し、高分子量化反応を行った。このときの横型攪拌反応器の器内圧力は0.5torr、樹脂温度は300℃であった。
横型攪拌反応器の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、高分子量化反応と同時に副生するフェノールと環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)の留去を行った。横型攪拌反応器の撹拌翼は20rpmで撹拌した。
さらに横型攪拌反応器で連結高分子量化反応を行った後に得られた芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、触媒失活剤としてパラ-トルエンスルホン酸ブチル(p−TSB)5ppmと、酸化防止剤としてn−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス1076・BASF社製)1000ppmを二軸混練機により混練した。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は42300、分子量分布(Mw/Mn)は2.4、また、得られたポリカーボネート樹脂のN値は1.19、末端水酸基濃度は400ppm、異種構造(PSA)量は500ppm、環状カーボネートの含有量は1ppmであった(表1)。
[ポリカーボネートの製造例2:PC−2]
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン64.662kg(283.245モル)、ジフェニルカーボネート63.710kg(297.41モル)及び触媒として炭酸セシウム1.0μモル/モル(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数)を攪拌機及び留出装置付の300Lの反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を0.046MPa(345torr)に調整し、160℃にて原料を加熱溶融し、1間攪拌した。
その後、10時間かけて、徐々に昇温、減圧度を下げながら、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行なった。最終的に系内を260℃、減圧度を0.05kPa(0.38torr)以下とし、さらに1時間保持し、芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP−F)を得た。
得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP−F)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は30000、OH濃度は1200ppm、フェニル末端濃度(Ph末端濃度)は2.0mol%であった。OH濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP-F)をメルター(二軸押出機)により樹脂温度を280℃にして溶融し、13300g/hrの速さで予め300℃へ加熱した回転数140rpmのニーダへ連続供給した。
引き続き、ニーダ出口より280℃に保温された輸送管を経由し、芳香族ポリカーボネートプレポリマー(PP−F)を流速13300g/hrで横型攪拌反応器へ供給し、高分子量化反応を行った。このときの横型攪拌反応器の器内圧力は0.5torr、樹脂温度は300℃であった。
横型攪拌反応器の平均滞留時間が120分になるように液面レベルを制御し、高分子量化反応と同時に副生するフェノールの留去を行った。横型攪拌反応器の撹拌翼は20rpmで撹拌した。
さらに横型攪拌反応器で連結高分子量化反応を行った後に得られたポリカーボネート樹脂に対し、触媒失活剤としてp-トルエンスルホン酸ブチル(p−TSB)5ppmと酸化防止剤として3−(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル(イルガノックス1076・BASF社製)1000ppmを二軸混練機により混練した。得られたポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は44700、分子量分布(Mw/Mn)は2.6、得られたポリカーボネート樹脂のN値は1.29、末端水酸基濃度は1100ppm、異種構造(PSA)量は2000ppmであった。環状カーボネートは未検出であった(表1)。
2)芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の調製
[実施例1及び比較例1〜3]
前記製造例により作製したPC−1又はPC−2と各種添加剤とを、表2に示す質量比で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練した。その後、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。各芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について、シャルピー衝撃試験、燃焼試験、Q値の測定(湿熱処理前後)を、上述した物性評価方法に従って行い評価した。結果を表2に示す。
前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の調製において用いた添加剤を以下に示す。
・難燃剤: パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(BayowetC4、ランクセス(株)製)
・エラストマー: ポリブタジエンコア/ポリメチルメタクリレートシェル系共重合体(パラロイド EXL2603、呉羽化学工業(株)製)
・PTFE: ポリテトラフルオロエチレン(テフロン 6J、三井・デュポンフロロケミカル(株)製)
・CB: カーボンブラックのポリスチレンマスターバッチ。カーボンブラック40%、
越谷化成(株)製 RB904G
・離型剤:PTS;ペンタエリスリトールテトラステアレート(ロキシオールVPG861、コグニスジャパン(株)製)
・酸化防止剤:ADK2112; トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(アデカスタブ2112、旭電化(株)製)
・UV吸収剤:TINUVIN329; 2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(TINUVIN329、チバスペシャリティケミカルズ製)
表2に示すとおり、実施例1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、比較例1〜3の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と比較して、シャルピー衝撃試験において、高いシャルピー衝撃強度を有していることがわかった。また、湿熱処理前後のQ値の変化は、比較例1及び2と比較して、実施例1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の方が小さく、湿熱処理前後で、組成物の流動性の変化が十分に抑制されており、耐湿熱性に優れることが示された。さらに、燃焼試験の結果、比較例2及び3の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性は不十分であったのに対して、実施例1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は最高レベル(V−0)の難燃性を有していることも示された。