JP6514856B2 - 鉄筋コンクリート構造物及び鉄筋コンクリート構造物の設計方法 - Google Patents
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Description
この鉄筋コンクリート構造物の従来例として、普通強度部分と、この普通強度部分より高い強度の高強度部分とを備え、地震時の応力が長期荷重時に比べて大きくなる部分に高強度部分が配筋されているものがある(特許文献1)。
通常、熱処理は、1本の主筋が加熱装置に相対的に送られながら行われる。特許文献1の主筋を熱処理するには、加熱装置に1本の普通鉄筋を所定長さ送り、その後、高強度部分に相当する部分を加熱することが考えられる。
しかしながら、特許文献1では、実際に生じる強度移行部分が主筋に存在することを前提として、強度設計がされていない。
前記高強度部分と前記強度移行部分との境界が前記接合部の内部に位置するとともに、前記接合部の付け根が前記強度移行部分に位置し、前記強度移行部分における前記接合部の付け根の強度がモーメント分布から逆算して求められる必要強度以上に設定されることを特徴とする。
本発明の鉄筋コンクリート構造物の設計方法は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定される普通鉄筋と加熱装置とを鉄筋長手方向に相対移動させながら、前記加熱装置で部分的に加熱することで、普通強度部分と、前記普通強度部分より高強度である高強度部分と、前記普通強度部分と前記高強度部分との間に配置され強度が前記普通強度部分より高く前記高強度部分より低い強度移行部分とが一体に形成され躯体に用いられる主筋を備えた鉄筋コンクリート構造物を設計する方法であって、前記躯体と前記主筋に交差する鉄筋材を有する他の躯体とが接合される接合部に前記高強度部分を配置し、外力作用時に前記主筋の前記接合部の付け根で降伏する前に降伏するように設計された設計位置を前記普通強度部分と前記強度移行部分との境界とし、前記高強度部分と前記強度移行部分との境界を前記接合部の内部に位置させるとともに、前記接合部の付け根を前記強度移行部分に位置させ、前記強度移行部分における前記接合部の付け根の強度をモーメント分布から逆算して求められる必要強度以上に設定することを特徴とする。
ここで、接合部の付け根が強度移行部の途中にかかる場合、付け根の曲げモーメントに対して強度が十分であれば問題がない。一方において、普通強度部分と高強度部分とを有する主筋を製造するにあたり、強度移行部分は所定長さ必要となる。
そこで、本発明では、モーメントの勾配に対して、強度の勾配を大きく設定することで、強度移行部分が長い主筋であっても、モーメントの勾配に対して強度の勾配が大きければ適用することができるようにした。つまり、強度移行部分における接合部の付け根の強度をモーメント分布から逆算して求められる必要強度以上に設定することで、建物に適用できるものとした。
また、強度移行部分が長いほど、強度が異なる領域を有する主筋を効率的に加熱処理することができる。つまり、強度移行部分を長くすることで、普通強度部分から高強度部分へ加熱領域を移行する際に、主筋の加熱装置に対する相対的な移動速度を速くすることが可能であるため、主筋の製造効率を上げることができる。
この場合、主筋の強度移行部分と、互いに隣合う他の躯体の対向する面の寸法との関係が合理的に設定されなければならない。
そこで、本発明に関連する鉄筋コンクリート構造物では、想定される適用部位(柱、梁、壁、床等の躯体)とモーメント分布の勾配を考慮して、隣合う他の躯体同士の寸法が2m以上8m以下であれば、強度移行部分が1.5m以下であれば対応可能であることを見いだした。
一方において、前述の主筋を製造するにあたり、強度移行部分を長くすると、加熱時の主筋の加熱装置への相対的な送り速度を速くすることが可能となり、主筋を容易に製造することができる。
この構成では、普通強度部分と高強度部分との間に強度移行部分がある梁用の主筋を用いた場合に、建物を耐震構造とすることができる。
本発明の第1実施形態を図面の図1から図5に基づいて説明する。第1実施形態では、耐震構造を有する建物の例が示されており、外力作用時として地震時を例示するものである。
図1には本実施形態の全体構成が示され、図2には主筋が示されている。
図1において、建物は、躯体である複数の梁2と、梁2と接合する他の躯体である複数の柱3とを備えた複数階建ての鉄筋コンクリート構造物であり、鉄筋構造1にコンクリート体100が打設されている。
梁2と柱3との接合形態としては、十字形接合S1やト形接合S2の接合部に適用されるが、本実施形態では、他の接合に適用されるものでもよい。以下では、十字形接合S1を例にとって詳細に説明する。
水平方向に隣合う主筋21は、継手4で接合されている。継手4は、機械式継手や、それ以外の継手でもよい。あるいは、端部同士を重ね合わせ、針金等で結線する構成でもよい。
柱3の鉄筋構造1は、垂直方向に延びて所定間隔を空けて配筋された複数の柱3用の鉄筋材31と、鉄筋材31の軸方向と交差する平面内において鉄筋材31を囲んで等間隔に鉄筋材31の延出方向に配筋されて柱3のせん断強度を補強する複数の柱3用のせん断補強筋32とを備える。鉄筋材31及びせん断補強筋32は普通鉄筋である。
なお、図1は、本実施形態の概略を示すものであるため、主筋21や鉄筋材31の本数や配列は、後述する図3(B)とは異なる。
高強度部分211、普通強度部分212及び強度移行部分210は、1本の鉄筋材から一体に形成されている。
高強度部分211は、普通強度部分212より高強度である。強度移行部分210は、強度が普通強度部分212より高く高強度部分211より低い。
例えば、高強度部分211の降伏点又は0.2%耐力は、490MPa(N/mm2)以上1000MPa(N/mm2)以下である。普通強度部分212の降伏点又は0.2%耐力は、295MPa(N/mm2)以上390MPa(N/mm2)以下である。
本実施形態では、図3に示される通り、強度移行部分210の地震時モーメント勾配より強度勾配を大きくして高強度部分211の強度を設定する。
図3(B)に示される通り、主筋21は、上下にそれぞれ水平に3本並んで配置された上部21A及び下部21Bと、上部21A及び下部21Bの間の高さ位置であって両側にそれぞれ水平に2本配置された側部21Cとからなる。なお、本実施形態では、主筋21の本数は10本に限定されるものではないが、5本以上10本以下が望ましい。
主筋21のうち接合部200から外れた位置には、上部21A、下部21B及び側部21Cの外周部分を覆うようにせん断補強筋22が複数配置されている。これらのせん断補強筋22は、梁の長手方向に沿って互いに等間隔に配置されている。
隣合う柱3の間の互いに対向する垂直面間寸法C、つまり、隣合う接合部200のうち付け根Rの間の寸法は、2m以上8m以下である。
本実施形態では、設計位置Qは、地震時に主筋21の梁の付け根Rで降伏する前に降伏するように設計された位置である。
設計位置Qの地震時モーメントに対して、普通鉄筋の強度で算定するとした場合、鉄筋が設計位置Qで降伏する前に、接合部200の付け根Rで降伏しないように、この付け根Rでは十分な強度が必要である。このとき、高強度部分211を有効に活用するには、付け根Rで高強度部分211に達していることが望ましい。しかし、付け根Rが強度移行部分210の途中に位置することがあり、この場合であっても、梁の付け根Rの地震時モーメント(例えば、1000kN・m〜2000kN・m程度)に対して強度が十分であれば問題とはならない。
強度移行部分210と普通強度部分212との境界は設計位置Qであり、設計位置Qは付け根Rから接合部200の外面から寸法sだけ離れた位置にある。
設計位置Qにおいて、必要とされる普通強度になるように鉄筋本数を算定する(本実施形態では、10本)。
図3(C)では、主筋21の強度の分布が実線で示され、図3(A)の地震時モーメント分布から公知の数式等に基づいて逆算して求められる主筋の必要強度の分布が一点鎖線で示されている。なお、図3(C)において、必要強度の分布は、一部が省略して図示されている。
図3(C)に示される通り、主筋21の強度は、高強度部分211における強度THと、普通強度部分212における強度TLと、強度移行部分210における強度NLとからなる。強度NLは、強度TLと強度THとの端部同士を接続した線分で示される。
強度THは、付け根Rでも必要とされる。付け根Rにおける必要強度と設計位置Qにおける必要強度とを結ぶ曲線Lであって、強度移行部分210と高強度部分211との境界Pの位置における強度の値が本実施形態における高強度部分211で必要とされる必要強度TH’である。つまり、曲線Lで示される勾配は、地震時において必要とされる必要強度である。曲線Lから求められる勾配(二点鎖線で示す)より設計位置Qと境界Pとの間の強度NLの勾配が大きくなるように、主筋21の強度が設定されている。
例えば、図2に示される通り、1本の普通鉄筋(例えば、鉄筋径がD3であり、材料がSD345)を矢印Xで示す鉄筋長手方向に沿って移動させ、図2中、左端に配置された図示しない加熱装置で加熱する。加熱を開始する位置は「0」で示す位置であり、位置「0」で約1000℃の焼入れをする。位置「0」では、温度が鉄筋内部まで急激に上昇しないため、直ちに強度が大きくなるものではなく、強度が大きくなるのは普通鉄筋が移動して所定位置となった時、つまり、位置「0」から右側に所定寸法離れた位置である。焼入れをした後、410℃で焼き戻す。
ビッカース硬さの結果を図4に示す。
図4において、横軸は普通鉄筋の長手方向に沿った位置を示すものである。横軸の0は焼入れを開始した位置であり、0より右側は熱処理側であり、正の数値で示され、0より左側は非熱処理側であり、負の数値で示される。
移動した普通鉄筋は、焼入れを開始した0から位置A(7mm)までビッカース硬さが普通鉄筋と大きな変化がないが、位置Aから位置B(20mm)まで進むと、ビッカース硬さが徐々に硬くなり、位置B以後は、最終的に求められる高強度部分となる。
位置Aと位置Bとの間が強度移行部分210に相当する。非熱処理側の領域と位置0から位置Aまでの領域とが普通強度部分212に相当する。位置Bから右側の領域が高強度部分211に相当する。
なお、普通強度部分212を構成する普通鉄筋は、JISG3112SD345の規格では、降伏点又は0.2%耐力が345MPa(N/mm2)以上440MPa(N/mm2)以下であり、引張強さが490N/mm2以上であり、伸び(JIS2号8d)が18%以上である。加工前の普通鉄筋の鋼材証明書では、降伏点又は0.2%耐力が386MPa(N/mm2)であり、引張強さが536N/mm2であり、伸び(JIS2号8d)が25%である。
高強度部分211の降伏点又は0.2%耐力の実測値が1014MPa(N/mm2)であり、引張強さの実測値が1106N/mm2であり、伸び(JIS2号8d)の実測値が10%であった。
以上の通り、熱処理によって、1つの普通鉄筋から、普通強度部分212、高強度部分211及び強度移行部分210が一体に形成された主筋21が製造されることがわかる。
(1)普通強度部分212と、高強度部分211と、普通強度部分212と高強度部分211との間に配置され強度が普通強度部分212より高く高強度部分211より低い強度移行部分210とが一体に形成されて主筋21を構成した。そして、高強度部分211を接合部200に配置し、地震時に主筋21の接合部200の付け根Rで降伏する前に降伏するように設計された設計位置Qを、普通強度部分212と強度移行部分210との境界とし、高強度部分211と強度移行部分210との境界を接合部200の内部に位置させるとともに、接合部200の梁の付け根Rを強度移行部分210に位置させ、強度移行部分210における梁の付け根Rの強度を地震時モーメント分布から逆算して求められた必要強度TH’以上のTHに設定した。そのため、地震時モーメントの勾配よりも、強度の勾配を大きくすることで、強度移行部分210が長くても、耐震構造の建物に用いることができる。しかも、主筋21の強度移行部分210を長くすることで、1本の普通鉄筋から主筋21を製造するに際して、普通鉄筋の送り速度を速くすることができるので、主筋21を効率的に製造することができる。
次に、本発明の第2実施形態を図5に基づいて説明する。
第2実施形態は、第1実施形態とは、主筋21の接合部200に対する位置が第1実施形態とは異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。
第2実施形態の主筋21は、第1実施形態と同様に、その中央部分に高強度部分211があり、この高強度部分211の両側にそれぞれ強度移行部分210があり、両端側にそれぞれ普通強度部分212がある。
これらの高強度部分211、普通強度部分212及び強度移行部分210は、1本の鉄筋から一体に形成されている。
高強度部分211、普通強度部分212及び強度移行部分210の降伏点又は0.2%耐力は、第1実施形態と同じである。
図5(B)に示される通り、主筋21は、第1実施形態と同様に、高強度部分211と、普通強度部分212と、高強度部分211及び普通強度部分212との間に配置された強度移行部分210とから構成されている。長手方向に隣合う主筋21のうち普通強度部分212は継手4を介して接合されている。
主筋21と直交して設けられる複数の柱3のうち互いに隣合う柱3の対向する面間の寸法Cは、2m以上8m以下である。
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、設計位置Qの地震時モーメントに対して、普通鉄筋の強度で算定する。そして、主筋21が設計位置Qで降伏する前に付け根Rで降伏しないように、梁の付け根Rで十分な強度が必要である。このとき、高強度部分211を有効に活用するには、梁の付け根Rで高強度部分211に達していることが望ましいので、高強度部分211と強度移行部分210との境界Pは、梁の付け根Rから寸法uだけ外側に離れている。なお、第2実施形態では、境界Pは付け根Rと一致するものでもよい(u=0)。
図5(C)に示される通り、地震時モーメント分布の勾配を考慮して、高強度部分211の強度を設定すると、隣合う柱3の間の互いに対向する垂直面間寸法C(付け根Rの間の寸法)が2m以上8m以下であれば、強度移行部分210の寸法Dは、1.5m以下、好ましくは、0.5m以上1.0m以下である。1.5mを超えると、普通鉄筋を用いて加熱処理する部分が長くなり過ぎるので、主筋21の製造コストが高いものとなる。
(3)梁と地震時モーメント分布の勾配を考慮して、隣合う柱同士の寸法Cが2m以上8m以下とした場合、強度移行部分210の寸法Dを1.5m以下とした。そのため、強度移行部分210の寸法Dを長くしても、強度計算上、問題のない建物を施工することができる。しかも、第1実施形態と同様に、主筋21を製造するにあたり、強度移行部分210を長くすることで、主筋21を容易に製造することができる。
例えば、前記各実施形態では、外力作用時として地震時を例示したが、本発明では、外力作用時は、地震時に限らず、地震時と同様の曲げモーメント分布になる荷重が建物に加わる場合に適用することができる。つまり、曲げモーメントを生じさせる荷重として、前記実施形態の地震時の荷重の他、固定荷重(自重)、積載荷重、積雪荷重、風荷重等があるが、これらの荷重が建物に加わり、図3(A)及び図5(A)で示される地震時モーメントと同様のモーメント分布となる場合には、本発明を適用することができる。
さらに、前記各実施形態では、主筋21を梁用としたが、本発明の主筋は、梁用に限定されるものではなく、例えば、柱用でもよく、さらには、壁、床、杭等の建築物を構成する部材全てに適用することができる。柱用として鉄筋材31に代えて主筋21を用いた場合には、梁2の鉄筋材を普通鉄筋から構成するものでもよく、前記各実施形態のように、高強度部分211、強度移行部分210及び普通強度部分212を有する主筋21から構成するものでもよい。
さらに、中央部に配置された高強度部分211と、両端部に配置された普通強度部分212と、1つの高強度部分211と2つの普通強度部分212との間にそれぞれ配置された強度移行部分210とを備えて主筋21を構成したが、本発明では、1つの鋼材に高強度部分211、強度移行部分210及び普通強度部分212を1つずつ配置した構成であってもよい。
Claims (3)
- 降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定される普通鉄筋と加熱装置とを鉄筋長手方向に相対移動させながら、前記加熱装置で部分的に加熱することで、普通強度部分と、前記普通強度部分より高強度である高強度部分と、前記普通強度部分と前記高強度部分との間に配置され強度が前記普通強度部分より高く前記高強度部分より低い強度移行部分とが一体に形成され躯体に用いられる主筋を備え、
前記躯体と前記主筋に交差する鉄筋材を有する他の躯体とが接合される接合部に前記高強度部分が配置され、
外力作用時に前記主筋の前記接合部の付け根で降伏する前に降伏するように設計された設計位置が前記普通強度部分と前記強度移行部分との境界とされ、
前記高強度部分と前記強度移行部分との境界が前記接合部の内部に位置するとともに、前記接合部の付け根が前記強度移行部分に位置し、
前記強度移行部分における前記接合部の付け根の強度がモーメント分布から逆算して求められる必要強度以上に設定される
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。 - 請求項1に記載された鉄筋コンクリート構造物において、
前記躯体は梁であり、前記他の躯体は柱である
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。 - 降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定される普通鉄筋と加熱装置とを鉄筋長手方向に相対移動させながら、前記加熱装置で部分的に加熱することで、普通強度部分と、前記普通強度部分より高強度である高強度部分と、前記普通強度部分と前記高強度部分との間に配置され強度が前記普通強度部分より高く前記高強度部分より低い強度移行部分とが一体に形成され躯体に用いられる主筋を備えた鉄筋コンクリート構造物を設計する方法であって、
前記躯体と前記主筋に交差する鉄筋材を有する他の躯体とが接合される接合部に前記高強度部分を配置し、
外力作用時に前記主筋の前記接合部の付け根で降伏する前に降伏するように設計された設計位置を前記普通強度部分と前記強度移行部分との境界とし、前記高強度部分と前記強度移行部分との境界を前記接合部の内部に位置させるとともに、前記接合部の付け根を前記強度移行部分に位置させ、
前記強度移行部分における前記接合部の付け根の強度をモーメント分布から逆算して求められる必要強度以上に設定する
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の設計方法。
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