(実施例1)
以下、発明を実施するための実施例1について説明する。
図1は、実施例1の超音波モータの構成を説明するための図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)及び(d)は側面図、(e)は底面図である。図1において、超音波モータ10は、長方形の面を有する振動板1、振動板1の長方形の面に設けられた1つの突起1aを備えている。突起1aは絞り加工により振動板1と一体成型してもよいし、別部品を振動板1に接着してもよい。振動板1の突起1aと反対側の面には高周波振動する圧電素子2A及び2Bが貼り付けられている。
圧電素子2A及び2Bは、2Aa及び2Bbの2つの領域が同方向に分極され、このうち2AaがA相に、2BbがB相に割り当てられている。分極されていない領域2Ac及び2Bcは、圧電素子2A及び2Bの裏面2Ad及び2Bdの全面電極から側面を経由して導通されたグランドとして使用する電極である。
なお、電極2Ac及び2Bcの位置は、圧電素子2A及び2Bの裏面2Ad及び2Bdの全面電極から側面を経由して導通できれば、任意に配置できる。また、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rを有している。振動板1の面が露出した領域Rは、圧電素子2Aと2Bの間に幅Wで形成されている。
以下、図2を用いて凸包絡について説明する。有限な点集合Aの凸包絡とは、有限な点集合Aを含む最小の凸集合のことである。更に、凸集合とは、集合の任意の2点を結ぶ線分が集合に含まれるような集合をいう。図2(a)のように、有限な点集合Aは任意の2点XとYを結ぶ線分が集合Aに含まれているので凸集合である。図2(b)のように、有限な点集合Bは2点XとYを結ぶ線分の一部Zが集合Aに含まれていないので凸集合ではない。図2の(c)、(d)、(e)及び(f)のような集合C、集合D、集合E、集合Fの凸包絡とは、全て頂点x1〜x4を結ぶ、四角形となる。
従って、図1において、圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡とは、圧電素子2A及び2Bを包括する長方形(頂点x1〜x4を結ぶ長方形)の領域であって、その内部に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rを有しているといえる。
連結部1c及び1dは振動板1と同期して移動する図示されていない後述の保持部材に対し、直接的、または、間接的に連結される連結部である。又、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rが設けられている。この連結部1c及び1dは、後述の通り、振動板1と圧電素子2A及び2Bの振動において変位が少ない部分に設けられているので、振動を阻害しにくい形状となっている。従って、連結部1c及び1dは振動板1と圧電素子2A及び2Bの振動にほとんど影響を与えない。以上の振動板1と圧電素子2A及び2Bと突起1aによって、超音波モータ10が構成されている。また、図示されていない給電手段により、A相とB相に位相差を自在に変化させた交流電圧を印加することによって、超音波振動を発生させることができる。
図1(e)に振動板1と圧電素子2A及び2Bと突起1aが一体となった状態の辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードと辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードそれぞれの節及び腹が一点鎖線で図示されている。また、図1(f)は辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードを矢印d1方向から見た図を、図1(g)は辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードを矢印d2方向から見た図を示している。更に、図1(h)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを矢印d1方向から見た図を示している。
なお、図1(f)、図1(g)及び図1(h)において突起1a、連結部1c及び1d、圧電素子2A及び2Bは省略されている。図1(e)において、Ma1はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸となる節を示している。Ma2はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と平行な腹を示している。Mb1はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の節を示している。Mb2及びMb3はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の腹を示している。Na1は曲げ振動の1次の固有振動モードの節を示している。Nb2は曲げ振動の1次の固有振動モードの腹を示している。
ここで、連結部1c及び1dが設けられている部分は、ねじり振動の2次の固有振動モードの節Ma1及びMb1と、曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1の交点の近傍である。一般に、節近傍は変位が小さい。この結果、振動板1と圧電素子2A及び2Bの振動において、連結部1c及び1dは変位が少ない部分に設けられているので、振動を阻害しにくい形状となっている。
従って、連結部1c及び1dは振動板1と圧電素子2A及び2Bの振動にほとんど影響を与えない。なお、連結部1c及び1dはねじり振動の2次の固有振動モードの節Ma1及びMb1と、曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1の近傍であれば、図1の位置に限定されることはない。更に、連結部1c及び1dは振動板1と圧電素子2A及び2Bの振動において変位が少ない部分に設けられていればよいので振動の節の位置に限定されることもない。
以下、本実施例1の固有振動モードと突起の配置に関する3つの特徴を説明する。
第1の特徴は、ねじり振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する又は隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、ねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1に平行な方向の曲げ振動の1次の固有振動モードであることである。これは以下の各設計値が適切な値に設定されているためである。各設計値とは、辺D1方向と辺D2方向の寸法、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側の圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rの寸法である。更に、振動板1と圧電素子2A及び2Bの厚さ、振動板1と圧電素子2A及び2Bの剛性である。なお、これら各設計値の適切な値の組合せは一通りではなく、さまざまな組合せを設定することができる。
図3は実施例1の超音波モータの共振周波数の一例を説明するための図である。(a)と(b)は超音波モータの小型化のために従来の超音波モータに対して、振動板と圧電素子のD1寸法を小さくした例である。図3において(a−1)及び(b−1)は平面図、(a−2)及び(b−2)は左からみた側面図、(a−3)及び(b−3)は下方からみた側面図である。図3(a)は従来例と同様に振動板のほぼ全面を圧電素子が覆っている。これに対し、図3(b)は図1に示した実施例1の超音波モータであって、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rを有している。
(a−4)及び(b−4)は辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードを(a−3)及び(b−3)と同じ方向から示した概念図である。また、(a−5)及び(b−5)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを(a−3)及び(b−3)と同じ方向から示した概念図である。(a−6)及び(b−6)は辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードを示した斜視図であり、(a−7)及び(b−7)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを示した斜視図である。
いずれも変形量は誇張して描かれており、辺D1と辺D1は共通であるため平行である。辺D1方向のねじり振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致するまたは隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードとなっており、第1の特徴を満たすように、前述の各設計値が適切な値に設定されている。
ここで(a)と(b)の辺D1方向のねじり剛性と辺D1方向の曲げ剛性をそれぞれ比較すると、いずれも(b)の方が低い剛性を有するため、共振周波数の絶対値はいずれも(b)の方が低い。一般的に、振動体のサイズが同等であれば、共振周波数が低いほど振動振幅が大きいので、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことができれば、超音波モータを小型化してもほぼ同等の振動振幅を得ることができる。従って、より低い共振周波数で第一の特徴を満たすことは超音波モータの小型化にとってメリットとなる。
第2の特徴は、図1(e)に示すように、突起1aがねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の節Mb1並びに腹Mb2及びMb3のうち、節Mb1より腹Mb3に近い位置に設けられていることである。
第3の特徴は、図1(e)に示すように、突起1aが曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1及び腹Na2のうち、節Na1より腹Na2に近い位置に設けられていることである。
図4はA相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図であって、従来例の図22に相当する図である。図4(a)は、圧電素子のA相とB相に印加される交流電圧の変化を示している。図4(b)は図1(b)に対応した正面図、図4(c)は図4(b)のA−A断面図であり、P1’からP4’へ向かって時間による振動の変化を示している。また、圧電素子2A及び2B、連結部1c及び1dは省略されている。ここで、図4(a)に示す電気的な交流電圧の変化P1〜P4に対して、図4(b)及び(c)に示す機械的な振動の変化P1’〜P4’は所定の機械的応答遅れ時間を有している。また、振動の振幅は誇張して描かれている。
A相とB相に同符号の電圧が印加されている時(図4(a)に示すP2及びP4)から所定の機械的応答遅れ時間の後に、A相とB相が同様に伸縮し、曲げ振動の1次の固有振動モードの振幅が最大となる(図4(c)に示す(i))。逆にA相とB相に異符号の電圧が印加されている時(図4(a)に示すP1及びP3)から所定の機械的応答遅れ時間の後に、A相とB相が逆方向に伸縮し、ねじり振動の2次の固有振動モードの振幅が最大となる(図4(c)に示す(ii))。この結果、突起先端に図示のような円運動が発生するので、図4(c)に示すX方向に推進力を得ることができる。また、A相に対してB相の位相を約+90°進めて交流電圧を印加した場合は図4と反対方向の円運動が発生するので逆方向の推力を得ることができる。
図5はA相に対してB相をほぼ位相差なく交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図である。図5(a)〜(c)の意味は図4と同様である。図示の通り、図4と比べて、A相とB相に異符号の電圧が印加されている時間がほとんどないので、ねじり振動の2次の固有振動モードの振幅が非常に小さくなる(図5(c)に示す(ii))。この結果、突起先端に図示のような縦長の楕円運動が発生するので、図5(c)に示すX方向に非常に低速で移動することができる。
以下、本発明の効果を説明するために、実施例1の超音波モータ10と従来の超音波モータ600について、図4と図22を参照して比較する。従来の超音波モータ600では長辺D1方向(図22において矢印X方向)に進行しているのに対して、実施例1では、従来例の進行方向D1より短い辺D2方向(図4において矢印X方向)に進行できる。このため、超音波モータの進行方向の寸法を短縮することができる。
ここで、図1と図21を比較すると、実施例1の圧電素子は従来の超音波モータの圧電素子より面積が小さくなっている。しかし、実施例1の超音波モータ10は、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rを有している。
この結果、図3で説明したように、各設計値を適切な値に設定することによって、より低い周波数で前述の第1の特徴を満足することができる。このため、辺D1方向のねじれ振動の2次の固有振動モードの共振周波数を適切な値に調整でき、従来の超音波モータに近い振動振幅(図4(c)に示す(i)、(ii))が得られるため、従来の超音波モータに近い推進力を得ることができる。
以上説明した通り、実施例1の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、従来の超音波モータに対して振動振幅がほぼ同等となる。このため、ねじり中心軸と直交する方向である辺D2方向(図4において矢印X方向)に進行することが可能である。この結果、推進力を大きく損なうことなく従来例より短い辺に沿って進行できるので、超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例1ではねじり振動の2次の固有振動モードと曲げ振動の1次の固有振動モードを組み合わせた例を示したが、上述の特徴を満足していれば、高次の固有振動モードを組み合わせても同様の効果を得ることができる。
図6は本発明の各実施例による超音波モータを利用したリニア駆動装置100の概略図であり、図6(a)は超音波モータの進行方向から見た図であり、図6(b)は図6(a)のA−A断面図である。図6において、振動板1の上に圧電素子2A及び2Bが載置されている。摩擦部材3は、振動板1と接触し振動板1の高周波振動によって、振動板1を相対移動させる。
図示の通り、摩擦部材3に対して振動板1が振動板1の長方形の面のねじり中心軸と直交する方向に相対移動することができる。振動板1を保持する保持部材4は、振動板1と同期して移動する。保持部材4は上部4aにおいて連結部1c及び1dで振動板1を支持し、下部4bにおいて摩擦部材3の裏面に回転摺動するローラ101を回転自由に軸支している。加圧ばね102は、下端が圧電素子2に作用し、上端が上部4cにおいて保持部材4に作用する。駆動伝達部103は保持部材4と後述の図示されていない被駆動体とを連結する。
加圧ばね102の加圧力により突起1aは摩擦部材3に圧接され、前述の通り図4及び図5の矢印のような円運動による駆動力によって、保持部材4が図6(b)に示すX方向に推進力を得る。なお、ローラ101は駆動の際の摺動抵抗を軽減するために設けられているものであって、転動ボールのような機構でもよい。また、摺動抵抗が許容されるのであれば、直接すべり摩擦で摺動させてもよい。このような構成により、図6のリニア駆動装置100は、超音波モータ10を振動板1の長方形の面のねじり中心軸と直交する辺D2方向を駆動方向として利用している。
以上説明した通り、実施例1の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、ねじり中心軸と直交する辺D2方向に進行することが可能である。この結果、推進力を損なうことなく超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、リニア駆動装置100の小型化を達成することができる。
図7は、本発明の各実施例による超音波モータを利用したリニア駆動装置100を搭載したレンズ駆動装置300のレンズ駆動部の概略図を示したものであり、図7(a)は光軸方向の正面図、図7(b)及び(c)は枠体の一部を破断した側面図である。ここで、図7(c)は図7(b)に対して更に小型化されたレンズ駆動装置を示している。図7において、駆動伝達部103は保持部材4に連結し、超音波モータからの駆動力をレンズ駆動装置300に伝達する。枠体201は、レンズ202を保持するレンズホルダー203及びレンズホルダー203を支持し光軸方向(図7(b)においてX方向)に案内するガイド軸204及び205を収容している。図7(b)においてリニア駆動装置100は振動板1、摩擦部材3以外が図示を省略されている。
振動板1は枠体201に固定された摩擦部材3に沿って移動し、これと同期して保持部材4が移動する。レンズホルダー203は駆動伝達部103によって、保持部材4と連結された被駆動体であり、保持部材4と同期して移動する。
図示されていないマイコンからの移動命令に従い、保持部材4が図7(b)に示すX方向に相当の距離を移動することにより、レンズホルダー203を203から203’の範囲で移動させることができる。このような構成により、図6のレンズ駆動装置は、超音波モータ10を振動板1の長方形の面のねじり中心軸と直交する辺D2方向を駆動方向として利用している。
以上説明した通り、実施例1の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、ねじり中心軸と直交する辺D2方向に進行することが可能である。この結果、推進力を損なうことなく超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、レンズ駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例1では振動板1が固定された摩擦部材3に沿って移動する例を説明したが、摩擦部材3が固定された振動板1に沿って移動する構成であっても、小型化の効果は低減するが、同様の作用を実現することができる。
なお、実施例1では、圧電素子を2A及び2Bの2つに分割して、振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rを設けている。この結果、図3で説明したように前述の第1の特徴を満たしている。しかし、振動板1の圧電素子が貼り付けられた平面内の圧電素子に覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子で覆われていない領域Rを設ければ、同様の効果は得られる。
図8はその一例であって、超音波モータ10’において圧電素子2は分割することなく、振動板1の圧電素子2が貼り付けられた面の内部に幅Wの長穴20を設けることで、前述の第1の特徴を満たしている。また、長穴20は1つに限定されるわけではなく、後述の図10の通り複数設けてもよい。
なお、実施例1では、連結部1c及び1dを振動板1の圧電素子2A及び2Bが貼り付けられた平面内の圧電素子2A及び2Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子2A及び2Bで覆われていない領域Rに設ける例を説明した。しかし、図9に示すように、超音波モータ10’’においては連結部1’c及び1’dをねじり中心軸と平行な辺D1に設けても、連結部1’c及び1’dの寸法の分だけ小型化の効果は低減するが、同様の作用を実現することができる。更に、連結部1’c及び1’dは、振動板1’と圧電素子2A’及び2B’の振動にほとんど影響を与えないという条件を満たせば、振動板11や圧電素子2A’及び2B’のいずれの部分に設けても、同様の作用を実現することができる。図10はその一例であって、超音波モータ10’’’において連結部1’c及び1’dをねじり中心軸と直交する辺D2に設けた例である。
また、実施例1では突起1aを振動板1に設ける例を説明したが、図10の通り突起1’’aを圧電素子2’側に接着によって、貼り付けても、同様の効果を有する。
(実施例2)
以下、発明を実施するための実施例2について説明する。
図11は、実施例2の超音波モータの構成を説明するための図であって、それぞれの図の意味は実施例1の図1と同様である。振動板11の圧電素子12A及び12Bが貼り付けられた平面内の圧電素子12A及び12Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子12A及び12Bで覆われていない領域Rを有している点も同様である。振動板11の面が露出した領域Rは、圧電素子12Aと12Bの間に幅Wで形成されている。
図11において、圧電素子12A及び12Bに覆われた全領域の凸包絡とは、圧電素子12A及び12Bを包括する長方形(頂点x1〜x4を結ぶ長方形)の領域であって、その内部に圧電素子12A及び12Bで覆われていない領域Rを有しているといえる。実施例1と構成が異なる点は、圧電素子12A及び12Bのそれぞれに12Aa及び12Ab並びに12Ba及び12Bbの2つずつ計4つの電極が形成されている点である。又、12Aa及び12BaがA相に、12Ab及び12BbがB相に割り当てられている。図示のような振動板11と圧電素子12A及び12Bと突起11aによって、超音波モータ20が構成されている。
図11(e)に振動板11と圧電素子12A及び12Bと突起11aが一体となった状態の辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードと辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードそれぞれの節及び腹が一点鎖線で図示されている。また、図11(f)は辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードを矢印d2方向から見た図を、図11(g)は辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードを矢印d1方向から見た図を示している。
また、図11(h)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを矢印d1方向から見た図を示している。なお、図11(f)、(g)及び(h)において突起11a、連結部11c及び1d、圧電素子12A及び12Bは省略されている。図11(e)において、Ma1はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸となる節を示している。Ma2はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と平行な腹を示している。Mb1はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の節を示している。Mb2及びMb3はねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の腹を示している。Na1は曲げ振動の1次の固有振動モードの節を示している。Na2は曲げ振動の1次の固有振動モードの腹を示している。
ここで、連結部11c及び11dが設けられている部分は、ねじり振動の2次の固有振動モードの節Ma1及びMb1、または、曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1の近傍であれば、図11の位置に限定されることはない。更に、連結部11c及び11dは振動板11と圧電素子12A及び12Bの振動において変位が少ない部分に設けられていればよいので振動の節の位置に限定されない。
以下、実施例2の固有振動モードと突起の配置に関する3つの特徴を説明する。
第1の特徴は、ねじり振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する又は隣り合う共振周波数となる固有振動モードが、ねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1に直交する方向の曲げ振動の1次の固有振動モードであることである。これは以下の各設計値が適切な値に設定されているためである。各設計値とは、辺D1方向と辺D2方向の寸法、振動板11の圧電素子12A及び12Bが貼り付けられた平面内の圧電素子12A及び12Bに覆われた全領域の凸包絡の内側の圧電素子12A及び12Bで覆われていない領域Rの寸法である。更に、振動板11と圧電素子12A及び12Bの厚さ、振動板11と圧電素子12A及び12Bの剛性である。なお、これら各設計値の適切な値の組合せは一通りではなく、さまざまな組合せを設定することができる。
図12はその一例を説明するための図である。図12(a)と図12(b)は超音波モータの小型化のために従来の超音波モータに対して、振動板と圧電素子のD1寸法を小さくした例である。図12において(a−1)及び(b−1)は平面図、(a−2)及び(b−2)は左からみた側面図、(a−3)及び(b−3)は下方からみた側面図である。
図12(a)は従来例と同様に振動板のほぼ全面を圧電素子が覆っている。これに対し、図12(b)は図1に示した実施例1の超音波モータであって、振動板の圧電素子が貼り付けられた平面内の圧電素子に覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子で覆われていない領域Rを有している。振動板1の面が露出した領域Rは、圧電素子の間に幅Wで形成されている。
(a−4)及び(b−4)は辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードを(a−2)及び(b−2)と同じ方向から示した概念図である。また、(a−5)及び(b−5)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを(a−3)及び(b−3)と同じ方向から示した概念図である。(a−6)及び(b−6)は辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードを示した斜視図であり、(a−7)及び(b−7)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを示した斜視図である。
いずれも変形量は誇張して描かれており、辺D2と辺D1は直交している。辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する、または隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードとなっており、第1の特徴を満たすように、前述の各設計値が適切な値に設定されている。
ここで図12(a)と図12(b)の辺D2方向のねじり剛性と辺D1方向の曲げ剛性をそれぞれ比較すると、いずれも図12(b)の方が剛性が低いため、共振周波数の絶対値はいずれも図12(b)の方が低い。一般的に、振動体のサイズが同等であれば、共振周波数が低い方が振動振幅が大きいので、より低い共振周波数で第一の特徴を満たすことができれば、超音波モータを小型化してもほぼ同等の振動振幅を得ることができる。従って、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことは超音波モータの小型化にとってメリットとなる。
第2の特徴は、図11(e)に示すように、突起11aはねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の節Mb1並びに腹Mb2及びMb3のうち、節Mb1より腹Mb3に近い位置に設けられていることである。
第3の特徴は、図11(e)に示すように、突起11aは曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1及び腹Na2のうち、節Na1より腹Na2に近い位置に設けられていることである。
図13はA相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。図13(a)は、圧電素子のA相とB相に印加される交流電圧の変化を示し、図13(b)は図11(b)に対応した正面図である。図13(b)は図13(c)のA−A断面図であり、P1’からP4’へ向かって時間による振動の変化を示している。
また、圧電素子12A及び12B、連結部11c及び11dは省略されている。ここで、図13(a)に示す電気的な交流電圧の変化P1〜P4に対して、図13(b)及び(c)に示す機械的な振動の変化P1’〜P4’は所定の機械的応答遅れ時間を有している。また、振動の振幅は誇張して描かれている。
A相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加することによって、突起先端に図13(b)に示すような円運動が発生するので、図13(b)に示すX方向に推進力を得ることができることは、実施例1と同様である。また、A相に対してB相の位相を約+90°進めて交流電圧を印加した場合は図13(b)と反対方向の円運動が発生するので逆方向の推力を得ることができることも、実施例1と同様である。更に、A相に対してB相をほぼ位相差なく交流電圧を印加することによって、突起先端に図5に示すような縦長の楕円運動を発生させ、非常に低速で移動することができることも、実施例1と同様である。
以下、本発明の効果を説明するために、実施例2の超音波モータ20と従来の超音波モータ600について、図13と図22を参照して比較する。従来の超音波モータでは長辺D1方向(図22において矢印X方向)に進行しているのに対して、実施例2では、従来例の進行方向D1より短い辺D1方向(図13において矢印X方向)に進行できる。このため、超音波モータ20の進行方向の寸法を短縮することができる。
ここで、図11と図21を比較すると、実施例2の圧電素子は従来の超音波モータの圧電素子より面積が小さくなっている。しかし、実施例2の超音波モータ20は、振動板11の圧電素子12A及び12Bが貼り付けられた平面内の圧電素子12A及び12Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子12A及び12Bで覆われていない領域Rを有している。この結果、図12で説明したように、各設計値を適切な値に設定することによって、より低い周波数で前述の第1の特徴を満足することができる。このため、辺D2方向のねじれ振動の2次の固有振動モードの共振周波数を適切な値に調整でき、従来の超音波モータに近い振動振幅(図15において(i)及び(ii))が得られるため、従来の超音波モータに近い推進力を得ることができる。
以上説明した通り、実施例2の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、従来の超音波モータに対して振動振幅がほぼ同等となる。このため、ねじり中心軸と平行な方向である辺D1方向(図13において矢印X方向)に進行することが可能である。この結果、推進力を大きく損なうことなく従来例より短い辺に沿って進行できるので、超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例2では、ねじり振動の2次の固有振動モードと曲げ振動の1次の固有振動モードを組み合わせた例を示したが、上述の特徴を満足していれば、高次の固有振動モードを組み合わせても同様の効果を得ることができる。
なお、実施例2の超音波モータを利用して実施例1の図6や図7に示すような構成を取ることによって、リニア駆動装置やレンズ駆動装置においても同様の効果を得ることができる。
なお、摩擦部材が固定された振動板に沿って移動する構成であってもよいこと、圧電素子は一体でもよいことは実施例1と同様である。また、連結部は振動板と圧電素子の振動にほとんど影響を与えないという条件を満たせば、振動板や圧電素子のいずれの部分に設けてもよいこと、及び、突起は圧電素子に接着によって、貼り付けてもよいことも実施例1と同様である。
(実施例3)
以下、発明を実施するための実施例3について説明する。
図14は、実施例3の超音波モータの構成を説明するための図であって、それぞれの図の意味は実施例1を説明する図1と同様である。図示のような振動板21と圧電素子22A及び22Bと突起21a及び21bによって、超音波モータ30が構成されている。また、図14(e)には振動板21と圧電素子22A及び22Bと突起21a及び21bが一体となった状態の辺D2方向のねじり振動の2次の固有振動モードと辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードそれぞれの節及び腹が一点鎖線で図示されている。
それぞれの図の意味は実施例2の図11と同様である。振動板21の圧電素子22A及び22Bが貼り付けられた平面内の圧電素子22A及び22Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子22A及び22Bで覆われていない領域Rを有している点も同様である。図14において、圧電素子22A及び22Bに覆われた全領域の凸包絡とは、圧電素子22A及び22Bを包括する長方形(頂点x1〜x4を結ぶ長方形)の領域であって、その内部に圧電素子22A及び22Bで覆われていない領域Rを有しているといえる。振動板21の面が露出した領域Rは、圧電素子22Aと22Bの間に幅Wで形成されている。
ここで、連結部21c及び21dは、振動板21と圧電素子22A及び22Bの振動において変位が少ない部分に設けられていればよいので、振動の節の位置に限定されないことも実施例2と同様である。
以下実施例3の固有振動モードと突起の配置に関する3つの特徴を説明する。
第1の特徴は、ねじり振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する又は隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、ねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1に直交する方向の曲げ振動の1次の固有振動モードであることである。これについては実施例2と同様である。前述の各設計値が適切な値に設定されることによって、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことができ、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことは超音波モータの小型化にとってメリットとなることも実施例2と同様である。
第2の特徴は、図14(e)に示すように、突起21a及び21bはねじり振動の2次の固有振動モードのねじり中心軸Ma1と直交する方向の節Mb1及び腹Mb2、Mb3のうち、節Mb1より腹Mb3に近い位置に設けられていることである。これについても実施例2と同様である。
第3の特徴は、図14(e)の通り、突起21a及び21bは曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1及び腹Na2のうち、腹Na2より節Na1に近い位置に設けられていることである。これについては実施例2と異なる。
図15はA相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図であって、実施例2の図13に相当する図である。図15(a)は、圧電素子のA相とB相に印加される交流電圧の変化を示し、図15(c)及び(d)は図14(c)及び(d)に対応した側面図、図15(b)は図15(c)のA−A断面図であり、P1’からP4’へ向かって時間による振動の変化を示している。
また、圧電素子22A及び22B、連結部21c及び21dは省略されている。ここで、図15(a)に示す電気的な交流電圧の変化P1〜P4に対して、図15(b)乃至(d)に示す機械的な振動の変化P1’〜P4’は所定の機械的応答遅れ時間を有している。また、振動の振幅は誇張して描かれている。
A相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加することによって、突起先端に図15に示すような円運動が発生するので、図15(b)に示すX方向に推進力を得ることができることは、実施例1と同様である。また、A相に対してB相の位相を約+90°進めて交流電圧を印加した場合は図15と反対方向の円運動が発生するので逆方向の推力を得ることができることも、実施例1と同様である。更に、A相に対してB相をほぼ位相差なく交流電圧を印加することによって、突起先端に図5に示すような縦長の楕円運動を発生させ、非常に低速で移動することができることも、実施例1と同様である。
以下、本発明の効果を説明するために、実施例3の超音波モータ30と従来の超音波モータ600について、図15と図22を参照して比較する。従来の超音波モータでは長辺D1方向(図22において矢印X方向)に進行しているのに対して、実施例3では、従来例の進行方向D1より短い辺D1方向(図15において矢印X方向)に進行できる。このため、超音波モータの進行方向の寸法を短縮することができる。
ここで、図14と図21を比較すると、実施例3の圧電素子は従来の超音波モータの圧電素子より面積が小さくなっている。しかし、実施例3の超音波モータ30は、振動板21の圧電素子22A及び22Bが貼り付けられた平面内の圧電素子22A及び22Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子22A及び22Bで覆われていない領域Rを有している。
この結果、実施例2の図12のとおり、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することができる。このため、辺D2方向のねじれ振動の2次の固有振動モードの共振周波数を適切な値に調整でき、従来の超音波モータに近い振動振幅(図15において(i)及び(ii))が得られるため、従来の超音波モータに近い推進力を得ることができる。
以上説明した通り、実施例3の超音波モータ30は、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、従来の超音波モータに対して振動振幅がほぼ同等となる。このため、ねじり中心軸と平行な方向である辺D1方向(図15において矢印X方向)に進行することが可能である。この結果、推進力を大きく損なうことなく従来例より短い辺に沿って進行できるので、超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例3では、ねじり振動の2次の固有振動モードと曲げ振動の1次の固有振動モードを組み合わせた例を示したが、上述の特徴を満足していれば、高次の固有振動モードを組み合わせても同様の効果を得ることができる。
実施例3の超音波モータ30を利用して実施例1の図6や図7に示すような構成を取ることによって、リニア駆動装置やレンズ駆動装置においても同様の効果を得ることができる。
また、摩擦部材が固定された振動板に沿って移動する構成であってもよいこと、圧電素子は一体でもよいことは実施例1と同様である。また、連結部は振動板と圧電素子の振動にほとんど影響を与えないという条件を満たせば、振動板や圧電素子のいずれの部分に設けてもよいこと、及び、突起は圧電素子に接着によって、貼り付けてもよいことも実施例1と同様である。
(実施例4)
以下、発明を実施するための実施例4について説明する。
図16は、実施例4の超音波モータの構成を説明するための図であって、それぞれの図の意味は実施例1の図1と同様である。振動板31の圧電素子32A及び32Bが貼り付けられた平面内の圧電素子32A及び32Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子32A及び32Bで覆われていない領域Rを有している点も同様である。振動板31の面が露出した領域Rは、圧電素子32Aと32Bの間に幅Wで形成されている。
図16において、圧電素子32A及び32Bに覆われた全領域の凸包絡とは、圧電素子32A及び32Bを包括する長方形(頂点x1〜x4を結ぶ長方形)の領域であって、その内部に圧電素子32A及び32Bで覆われていない領域Rを有しているといえる。図示のような振動板31と圧電素子32A及び32Bと突起31aによって、超音波モータ40が構成されている。
図16(e)に振動板31と圧電素子32A及び32Bと突起31aが一体となった状態の辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードと辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードそれぞれの節及び腹が一点鎖線で図示されている。また、図16(f)は辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードを矢印d2方向から見た図を、図16(g)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを矢印d1方向から見た図をそれぞれ示している。
なお、図16(f)及び(g)において突起31a、連結部31c及び31d、並びに圧電素子32A及び32Bは省略されている。図16(e)において、Mb1は曲げ振動の2次の固有振動モードの腹を示している。Mb2及びMb3は曲げ振動の2次の固有振動モードの節を示している。Na1は曲げ振動の1次の固有振動モードの節を示している。Na2は曲げ振動の1次の固有振動モードの腹を示している。
ここで、連結部31c及び31dが設けられている部分は、曲げ振動の2次の固有振動モードの節であるMb2及びMb3、又は、曲げ振動の1次の固有振動モードの節であるNa1の近傍であれば、図16の位置に限定されることはない。更に、連結部31c及び31dは振動板31と圧電素子32A及び32Bの振動において変位が少ない部分に設けられていればよいので振動の節の位置に限定されない。
以下、実施例4の固有振動モードと突起の配置に関する3つの特徴を説明する。
第1の特徴は、曲げ振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する、または隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、曲げ振動の2次の固有振動モードの方向と直交する方向の曲げ振動の1次の固有振動モードであることである。これは以下の各設計値が適切な値に設定されているためである。各設計値とは、辺D1方向と辺D2方向の寸法、振動板31の圧電素子32A及び32Bが貼り付けられた平面内の圧電素子32A及び32Bに覆われた全領域の凸包絡の内側の圧電素子32A及び32Bで覆われていない領域Rの寸法である。更に、振動板31と圧電素子32A及び32Bの厚さ、振動板31と圧電素子32A及び32Bの剛性である。なお、これら各設計値の適切な値の組合せは一通りではなく、さまざまな組合せを設定することができる。
図17はその一例を説明するための図である。図17(a)及び(b)は超音波モータの小型化のために従来の超音波モータに対して、振動板と圧電素子のD1寸法を小さくした例である。図17において(a−1)及び(b−1)は平面図、(a−2)及び(b−2)は左からみた側面図、(a−3)及び(b−3)は下方からみた側面図である。図17(a)は従来例と同様に振動板のほぼ全面を圧電素子が覆っている。これに対し、図17(b)は図1に示した実施例1の超音波モータであって、振動板の圧電素子が貼り付けられた平面内の圧電素子に覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子で覆われていない領域Rを有している。
(a−4)及び(b−4)は辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードを(a−2)及び(b−2)と同じ方向から示した概念図である。(a−5)及び(b−5)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを(a−3)及び(b−3)と同じ方向から示した概念図である。
(a−6)及び(b−6)は辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードを示した斜視図であり、(a−7)及び(b−7)は辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードを示した斜視図である。いずれも変形量は誇張して描かれており、辺D2と辺D1は直交している。辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する又は隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードとなっており、第一の特徴を満たすように、前述の各設計値が適切な値に設定されている。
ここで図17(a)及び(b)の辺D2方向の曲げ剛性と辺D1方向の曲げ剛性をそれぞれ比較すると、いずれも図17(b)の方が剛性が低いため、共振周波数の絶対値はいずれも図17(b)の方が低い。一般的に、振動体のサイズが同等であれば、共振周波数が低い方が振動振幅が大きいので、より低い共振周波数で第一の特徴を満たすことができれば、超音波モータを小型化してもほぼ同等の振動振幅を得ることができる。従って、より低い共振周波数で第一の特徴を満たすことは超音波モータの小型化にとってメリットとなる。
第2の特徴は、図16(e)に示すように、突起31aは曲げ振動の2次の固有振動モードの節Mb2及びMb3並びに腹Mb1のうち、腹Mb1より節Mb3に近い位置に設けられていることである。
第3の特徴は、図16(e)に示すように、突起31aは曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1及び腹Na2のうち、節Na1より腹Na2に近い位置に設けられていることである。
図18はA相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。図18(a)は、圧電素子のA相とB相に印加される交流電圧の変化を示し、図18(b)は図16の(b)に対応した正面図、図18(c)は図16(c)に対応した側面図であり、P1’からP4’へ向かって時間による振動の変化を示している。また、圧電素子32A及び32B、連結部31c及び31dは省略されている。ここで、図18(a)に示す電気的な交流電圧の変化P1〜P4に対して、図18(b)及び(c)に示す機械的な振動の変化P1’〜P4’は所定の機械的応答遅れ時間を有している。また、振動の振幅は誇張して描かれている。
A相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加することによって、突起先端に図18に示すような円運動が発生するので、図示X方向に推進力を得ることができることは、実施例1と同様である。また、A相に対してB相の位相を約+90°進めて交流電圧を印加した場合は図18と反対方向の円運動が発生するので逆方向の推力を得ることができることも、実施例1と同様である。更に、A相に対してB相をほぼ位相差なく交流電圧を印加することによって、突起先端に図5に示すような縦長の楕円運動を発生させ、非常に低速で移動することができることも、実施例1と同様である。
以下、本発明の効果を説明するために、実施例4の超音波モータ40と従来の超音波モータ600について、図18と図22を参照して比較する。従来の超音波モータでは長辺D1方向(図22において矢印X方向)に進行しているのに対して、実施例4では、従来例の進行方向D1より短い辺D2方向(図18において矢印X方向)に進行できる。このため、超音波モータの進行方向の寸法を短縮することができる。
ここで、図16と図21を比較すると、実施例4の圧電素子は従来の超音波モータの圧電素子より面積が小さくなっている。しかし、本実施例の超音波モータ40は、振動板31の圧電素子32A及び32Bが貼り付けられた平面内の圧電素子32A及び32Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子32A及び32Bで覆われていない領域Rを有している。
この結果、図17で説明したように、各設計値を適切な値に設定することによって、より低い周波数で前述の第一の特徴を満足することができる。このため、辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードの共振周波数を適切な値に調整でき、従来の超音波モータに近い振動振幅(図18において(i)及び(ii))が得られるため、従来の超音波モータに近い推進力を得ることができる。
以上説明した通り、実施例4の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、従来の超音波モータに対して振動振幅がほぼ同等となる。このため、辺D2方向(図18において矢印X方向)に進行することが可能である。この結果、推進力を大きく損なうことなく従来例より短い辺に沿って進行できるので、超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例4では曲げ振動の2次の固有振動モードと曲げ振動の1次の固有振動モードを組み合わせた例を示したが、上述の特徴を満足していれば、高次の固有振動モードを組み合わせても同様の効果を得ることができる。
また、実施例4の超音波モータを利用して実施例1の図6や図7に示すような構成を取ることによって、リニア駆動装置やレンズ駆動装置においても同様の効果を得ることができる。
摩擦部材が固定された振動板に沿って移動する構成であってもよい。また、圧電素子は一体でもよい。連結部は振動板と圧電素子の振動にほとんど影響を与えないという条件を満たせば、振動板や圧電素子のいずれの部分に設けてもよい。更に、突起は圧電素子に接着によって、貼り付けてもよい。これらは実施例1と同様である。
(実施例5)
以下、発明を実施するための実施例5について説明する。
図19は、実施例5の超音波モータの構成を説明するための図であって、それぞれの図の意味は実施例1の図1と同様である。図示のような振動板41と圧電素子42A及び42Bと突起41a及び41bによって、超音波モータ50が構成されている。また、図19(e)に振動板41と圧電素子42A及び42Bと突起41a及び41bが一体となった状態の辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードと辺D1方向の曲げ振動の1次の固有振動モードそれぞれの節及び腹が一点鎖線で図示されている。
それぞれの図の意味は実施例1の図1と同様である。振動板41の圧電素子42A及び42Bが貼り付けられた平面内の圧電素子42A及び42Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子42A及び42Bで覆われていない領域Rを有している点も同様である。図19において、圧電素子42A及び42Bに覆われた全領域の凸包絡とは、圧電素子42A及び42Bを包括する長方形(頂点x1〜x4を結ぶ長方形)の領域であって、その内部に圧電素子42A及び42Bで覆われていない領域Rを有しているといえる。振動板41の面が露出した領域Rは、圧電素子42Aと42Bの間に幅Wで形成されている。
ここで、連結部41c及び41dが設けられている部分は、振動板41と圧電素子42A及び42Bの振動において変位が少ない部分に設けられていればよいので振動の節の位置に限定されないことも実施例4と同様である。
以下、実施例5の固有振動モードと突起の配置に関する3つの特徴を説明する。
第1の特徴は、曲げ振動の2次の固有振動モードの共振周波数に一致する又は隣り合う共振周波数となる固有振動モードは、曲げ振動の2次の固有振動モードと直交する方向の曲げ振動の1次の固有振動モードであることである。これについては実施例4と同様である。前述の各設計値が適切な値に設定されることによって、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことができ、より低い共振周波数で第1の特徴を満たすことは超音波モータの小型化にとってメリットとなることも実施例4と同様である。
第2の特徴は、図19(e)に示すように、突起41a及び41bは曲げ振動の2次の固有振動モードの節Mb2及びMb3並びに腹Mb1のうち、節Mb2及びMb3より腹Mb1に近い位置に設けられていることである。
第3の特徴は、図19(e)の通り、突起41a及び41bは曲げ振動の1次の固有振動モードの節Na1及び腹Na2のうち、腹Na2より節Na1に近い位置に設けられていることである。
図20はA相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加した場合の振動の状態を示す図であって、実施例4の図18に相当する図である。(a)は、圧電素子のA相とB相に印加される交流電圧の変化を示し、図20(b)及び(c)は図19(b)及び(c)に対応した側面図であり、P1’からP4’へ向かって時間による振動の変化を示している。また、圧電素子42A及び42B、連結部41c及び41dは省略されている。ここで、(a)に示す電気的な交流電圧の変化P1〜P4に対して、図20(b)及び(c)に示す機械的な振動の変化P1’〜P4’は所定の機械的応答遅れ時間を有している。また、振動の振幅は誇張して描かれている。
A相に対してB相の位相を約+90°遅らせて交流電圧を印加することによって、突起先端に図20に示すような円運動が発生するので、図20に示すX方向に推進力を得ることができることは、実施例1と同様である。また、A相に対してB相の位相を約+90°進めて交流電圧を印加した場合は図20と反対方向の円運動が発生するので逆方向の推力を得ることができることも、実施例1と同様である。更に、A相に対してB相をほぼ位相差なく交流電圧を印加することによって、突起先端に図5に示すような縦長の楕円運動を発生させ、非常に低速で移動することができることも、実施例1と同様である。
以下、本発明の効果を説明するために、実施例5の超音波モータ50と従来の超音波モータ600について、図20と図22を参照して比較する。従来の超音波モータでは長辺D1方向(図22において矢印X方向)に進行しているのに対して、実施例5では、従来例の進行方向D1より短い辺D2方向(図20において矢印X方向)に進行できる。このため、超音波モータの進行方向の寸法を短縮することができる。
ここで、図19と図21を比較すると、実施例5の圧電素子は従来の超音波モータの圧電素子より面積が小さくなっている。しかし、実施例5の超音波モータ50は、振動板41の圧電素子42A及び42Bが貼り付けられた平面内の圧電素子42A及び42Bに覆われた全領域の凸包絡の内側に圧電素子42A及び42Bで覆われていない領域Rを有している。この結果、実施例4の図17のとおり、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することができる。このため、辺D2方向の曲げ振動の2次の固有振動モードの共振周波数を適切な値に調整でき、従来の超音波モータに近い振動振幅(図20において(i)及び(ii))が得られるため、従来の超音波モータに近い推進力を得ることができる。
以上説明した通り、実施例5の超音波モータは、前述の第1の特徴で説明した各設計値を適切な値に設定することによって、従来の超音波モータに対して振動振幅がほぼ同等となる。このため、辺D2方向(図20において矢印X方向)に進行することが可能である。この結果、推進力を大きく損なうことなく従来例より短い辺に沿って進行できるので、超音波モータの進行方向の寸法を短縮し、この超音波モータを用いることによって、駆動装置の小型化を達成することができる。
なお、実施例5では曲げ振動の2次の固有振動モードと曲げ振動の1次の固有振動モードを組み合わせた例を示したが、上述の特徴を満足していれば、高次の固有振動モードを組み合わせても同様の効果を得ることができる。
また、実施例5の超音波モータを利用して実施例1の図6や図7に示すような構成を取ることによって、リニア駆動装置やレンズ駆動装置においても同様の効果を得ることができる。
摩擦部材が固定された振動板に沿って移動する構成であってもよいこと、圧電素子は一体でもよいことは実施例1と同様である。また、連結部は振動板と圧電素子の振動にほとんど影響を与えないという条件を満たせば、振動板や圧電素子のいずれの部分に設けてもよいこと、及び、突起は圧電素子に接着によって、貼り付けてもよいことも実施例1と同様である。
以上説明した実施例1乃至5において、圧電素子で覆われていない領域Rは、振動板のいずれかの辺と平行に延在している。また、振動板のいずれかの辺と平行な直線に関して線対称となっている。