本発明は、エンジン駆動車両や、走行用の駆動力源としてエンジンの他に走行用回転機を有するハイブリッド車両等に好適に適用されるが、駆動力源として電動モータのみを備えている電気自動車などにも適用され得る。走行用回転機としては、例えば電動モータおよび発電機の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータが適当であるが、電動モータを用いることもできる。出力部は、例えば駆動力源からギヤ機構等を介して伝達された駆動力を左右の駆動輪へ出力するディファレンシャル装置などである。動力伝達装置は、複数の軸が車両幅方向に沿って配置されるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)等の横置き型のトランスアクスルが好適に用いられるが、FR型や4輪駆動型の動力伝達装置であっても良い。
出力部の回転に伴って機械的に回転駆動されるオイルポンプの吐出側には、例えば動力伝達装置の各部(ギヤやベアリング、回転機など)に潤滑油を供給する第1供給経路が接続される。また、出力部とは異なる回転駆動源によって回転駆動される第2のオイルポンプの吐出側には第2供給経路が接続される。これ等の供給経路を互いに独立に構成すれば、動力伝達装置の各部を分担して潤滑できるとともに、潤滑油の供給部位によって異なる必要油量に応じて個々のオイルポンプの吸入性能等を個別に設定でき、不必要な潤滑を抑制できる。また、個別にオイルクーラ等の熱交換器を設けたり、潤滑油を貯蔵するオイルストレージを設けたりすることができるなど、供給経路毎に潤滑性能等を適切に設定することができる。なお、これ等のオイルポンプおよび第2のオイルポンプから吐出された潤滑油が合流し、共通の供給経路を介して動力伝達装置の各部の潤滑部位へ供給されるようになっていても良い。
第2のオイルポンプとしては、エンジンによって機械的に回転駆動されるオイルポンプが好適に用いられるが、ポンプ用電動モータによって回転駆動される電動式オイルポンプを採用することもできる。オイル貯留部は、車両前後方向に3つに区分けしても良く、車両幅方向に区分けすることも可能である。また、第1オイル貯留部、第2オイル貯留部、および第3オイル貯留部では、油面高さが隔壁や第2の隔壁の上端部以下になると油面高さが個別に変化するが、隔壁や第2の隔壁に連通孔等を設けて隣接するオイル貯留部の間で潤滑油の流通を許容するようにしても良い。その場合でも、連通孔による流通抵抗で油面高さは個別に変化する。
オイルポンプおよび第2のオイルポンプの吸入性能は適宜定められ、例えば車両走行時に回転駆動されるオイルポンプの吸入性能は第2のオイルポンプよりも低くされるが、同程度の吸入性能としても良いし、オイルポンプの吸入性能を第2のオイルポンプよりも高くすることも可能である。第2の隔壁の高さ寸法は、オイル貯留部を第1オイル貯留部とそれ以外の部分に区分けする隔壁の高さ寸法よりも高く設定しても良いし、同じにしても良いし、低くしても良い。
出力部の回転に伴って機械的に回転駆動されるオイルポンプは、常に出力部の回転に伴って回転駆動されるように構成しても良いが、動力伝達を断接するポンプ断接装置を介して出力部に連結されるとともに、他の回転駆動源(ポンプ用電動モータなど)に連結されて回転駆動されるように構成することもできる。この場合は、出力部からの動力伝達を遮断して他の回転駆動源に連結することにより、停車時を含めて、車速に依存しない潤滑油供給量で各部の潤滑を行なうことができる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の動力伝達装置12を説明する骨子図で、その動力伝達装置12を構成している複数の軸が共通の平面内に位置するように展開して示した展開図であり、図2は、その複数の軸の位置関係を示した断面図である。動力伝達装置12は、複数の軸が車両幅方向に沿って配置されるFF車両等の横置き型のハイブリッド車両用トランスアクスルで、図2に示されるケース14内に収容されている。ケース14は、必要に応じて複数の部材にて構成される。
動力伝達装置12は、車両幅方向と略平行な第1軸線S1〜第4軸線S4を備えており、第1軸線S1上には、駆動力源であるエンジン20に連結された入力軸22が設けられているとともに、その第1軸線S1と同心にシングルピニオン型の遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1が配設されている。遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1は電気式差動部26として機能するもので、差動機構である遊星歯車装置24のキャリア24cに入力軸22が連結され、サンギヤ24sに第1モータジェネレータMG1が連結され、リングギヤ24rにエンジン出力歯車Geが設けられている。キャリア24cは第1回転要素で、サンギヤ24sは第2回転要素で、リングギヤ24rは第3回転要素であり、第1モータジェネレータMG1は差動制御用回転機に相当する。第1モータジェネレータMG1は電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので、発電機として機能する回生制御などでサンギヤ24sの回転速度が連続的に制御されることにより、エンジン20の回転速度が連続的に変化させられてエンジン出力歯車Geから出力される。また、第1モータジェネレータMG1のトルクが0とされてサンギヤ24sが空転させられることにより、エンジン20の連れ廻りが防止される。エンジン20は、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関である。
第2軸線S2上には、シャフト28の両端に減速大歯車Gr1および減速小歯車Gr2が設けられた減速歯車装置30が配設されており、減速大歯車Gr1は前記エンジン出力歯車Geと噛み合わされている。減速大歯車Gr1はまた、第3軸線S3上に配設された第2モータジェネレータMG2のモータ出力歯車Gmと噛み合わされている。第2モータジェネレータMG2は電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので、電動モータとして機能するように力行制御されることにより、ハイブリッド車両10の走行用駆動力源として用いられる。この第2モータジェネレータMG2は走行用回転機に相当する。
上記減速小歯車Gr2は、第4軸線S4上に配設されたディファレンシャル装置32のデフリングギヤGdと噛み合わされており、エンジン20および第2モータジェネレータMG2からの駆動力がディファレンシャル装置32を介して左右のドライブシャフト36に分配され、左右の駆動輪38に伝達される。このディファレンシャル装置32は出力部に相当し、デフリングギヤGdは入力ギヤに相当する。また、エンジン出力歯車Ge、減速大歯車Gr1、減速小歯車Gr2、デフリングギヤGd等によってギヤ機構が構成されている。第4軸線S4は、図2から明らかなように、第1軸線S1〜S4の中で最も車両下方側位置に定められており、第2軸線S2および第3軸線S3は第4軸線S4の上方位置に定められており、第1軸線S1は第4軸線S4よりも車両前側の斜め上方位置に定められている。
このようなハイブリッド車両10においては、図3に示すEV(Electric Vehicle)走行モードおよびHV(Hybrid Vehicle)走行モードを実行可能であり、例えば図4に示すように要求駆動力(アクセル操作量など)および車速Vをパラメータとして定められたモード切換マップに従ってEV走行モードおよびHV走行モードに切り換えられる。EV走行モードは、エンジン20を回転停止させた状態で第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより駆動力源として用いて走行するもので、低要求駆動力すなわち低負荷の領域で選択される。エンジン20は、燃料供給等が停止させられるとともに、第1モータジェネレータMG1のトルクが0とされて遊星歯車装置24のサンギヤ24sがフリー回転可能とされることにより、走行中であっても略回転停止させられる。HV走行モードは、第1モータジェネレータMG1を回生制御することにより、エンジン20を駆動力源として用いて走行するもので、EV走行モードよりも高要求駆動力(高負荷)の領域で選択される。このHV走行モードでは、第2モータジェネレータMG2は、加速時などにアシスト的に力行制御されて駆動力源として用いられ、或いは常時力行制御されて駆動力源として用いられる。
なお、上記HV走行モードの代わりに、或いはHV走行モードに加えて、常にエンジン20のみを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モード等が設けられても良い。また、このハイブリッド車両10の動力伝達装置12はあくまでも一例であり、遊星歯車装置24としてダブルピニオン型の遊星歯車装置を採用したり、複数の遊星歯車装置を用いて構成したり、或いは第2モータジェネレータMG2を第1軸線S1と同心に配置したりすることもできるし、電気式差動部26の代わりに機械式の変速装置を採用することもできるなど、種々の態様が可能である。
一方、本実施例のハイブリッド車両10は、図5に示す潤滑装置40を備えている。潤滑装置40は、吸入装置として第1オイルポンプP1および第2オイルポンプP2を備えており、それぞれ異なる独立の第1供給経路42、第2供給経路44に接続されて、動力伝達装置12の各部を分担して潤滑するようになっている。図1に示されるように、第1オイルポンプP1は、前記デフリングギヤGdと噛み合わされたポンプ駆動歯車Gpを介して機械的に回転駆動される機械式オイルポンプであり、第2オイルポンプP2は、前記入力軸22に連結されてエンジン20により機械的に回転駆動される機械式オイルポンプである。第1オイルポンプP1は、デフリングギヤGdに連動して回転する減速大歯車Gr1や減速小歯車Gr2等にポンプ駆動歯車Gpを噛み合わせて回転駆動されるようにすることも可能である。第2オイルポンプP2は、出力部(ディファレンシャル装置32)とは異なる回転駆動源によって回転駆動されるオイルポンプで、本実施例ではエンジン20によって回転駆動されるオイルポンプであるが、ポンプ駆動用の電動モータによって回転駆動される電動式オイルポンプを採用することもできる。
上記第1オイルポンプP1および第2オイルポンプP2は、ケース14の底部に設けられたオイル貯留部46から潤滑油を吸入して、供給経路42、44へ出力する。オイル貯留部46は、ケース14そのものによって構成されているとともに、第1隔壁48によって車両前後方向における後方側部分が他の部分と区分けされた第1オイル貯留部50を備えている。この第1オイル貯留部50は、出力部であるディファレンシャル装置32の下方に位置する部分である。また、第1オイル貯留部50以外の部分、すなわち遊星歯車装置24等が配置された第1軸線S1の下方に位置する部分は、第2隔壁52によって更に車両前後方向において2分割されており、上記第1オイル貯留部50に隣接する中央部分の第2オイル貯留部54、およびその第2オイル貯留部54に隣接する車両前側部分の第3オイル貯留部56が設けられている。そして、第1オイルポンプP1の吸入口58は第2オイル貯留部54内に配置されており、第2オイルポンプP2の吸入口60は第3オイル貯留部56内に配置されている。これ等の吸入口58、60は、それぞれ独立に設けられた別々の吸入油路を介してオイルポンプP1、P2に接続されている。
第1隔壁48および第2隔壁52は、第1オイル貯留部50、第2オイル貯留部54、および第3オイル貯留部56の相互間で潤滑油が流通することを許容しつつ油面高さの均衡を制限する流通制限部として機能する。すなわち、停車時にオイルポンプP1、P2の作動が何れも停止し、油面高さの変動が停止する静的状態における静止時油面高さLstは、動力伝達装置12の各部に供給された潤滑油がオイル貯留部46へ流下して戻ることにより、図2および図5に二点鎖線で示すように隔壁48、52を越え、オイル貯留部50、54、56における油面高さが同じになるが、車両走行時やオイルポンプP1、P2の作動時には、動力伝達装置12の各部へ潤滑油が供給されてオイル貯留部46内の潤滑油量が減少することにより油面高さが隔壁48、52の上端よりも低くなり、それ等の隔壁48、52による流通制限によってオイル貯留部50、54、56の油面高さが実線で示すように個別に変化する。このように静的状態では油面高さが隔壁48、52を上回る一方、車両走行時の潤滑油供給時には、潤滑部位からの潤滑油の戻りに拘らず油面高さが隔壁48、52の上端位置よりも低くなるように、隔壁48、52の高さ寸法やオイルポンプP1、P2の吸入性能、オイル貯留部46の面積等が定められている。
上記第1隔壁48および第2隔壁52の高さ位置すなわち上端位置は、ディファレンシャル装置32の下端位置よりも高く、油面高さが隔壁48、52を上回る静的状態では、ディファレンシャル装置32の一部が潤滑油に浸漬される。このようにディファレンシャル装置32の一部が潤滑油に浸漬されると、車両発進時にデフリングギヤGd等によって潤滑油が掻き上げられることにより動力伝達装置12の各部に潤滑油が散布され、第1オイルポンプP1によって十分な量の潤滑油を供給することが難しい車両発進時においても良好な潤滑状態を確保できる。車両発進時には、通常、EV走行モードでエンジン20が回転停止しており、第2オイルポンプP2も作動停止している。
一方、車両走行時を含むオイルポンプP1またはP2の作動時には、車速Vに応じて回転するデフリングギヤGd等による掻き上げやオイルポンプP1、P2による吸入によって油面高さが低下し、隔壁48、52よりも低くなる。そして、第1オイル貯留部50では、デフリングギヤGd等による掻き上げと戻り油量とのバランス(釣り合い)によって油面高さが定まり、第2オイル貯留部54では、オイルポンプP1による吸入と戻り油量とのバランスによって油面高さが定まり、第3オイル貯留部56では、オイルポンプP2による吸入と戻り油量とのバランスによって油面高さが定まる。本実施例では、第1オイル貯留部50の油面高さが優先的に低下し、図2および図5に実線で示されるようにデフリングギヤGdの下端付近となるように、潤滑油量や第1オイル貯留部50の容積すなわち第1隔壁48の位置、第1隔壁48の形状等が定められている。このように第1オイル貯留部50の油面高さが優先的に低下させられると、ディファレンシャル装置32の回転による潤滑油の攪拌が抑制されてエネルギー損失が低減され、燃費が向上する。油面高さが第1隔壁48の上端位置以下になるまでは、デフリングギヤGd等による掻き上げおよび少なくとも第1オイルポンプP1による吸入の両方で潤滑油が供給され、油面高さが速やかに低下させられるため、ディファレンシャル装置32の回転による潤滑油の攪拌に起因するエネルギー損失が適切に低減される。
また、隔壁48、52の位置や形状、或いはオイルポンプP1、P2の吸入性能等を適当に定めることにより、吸入口58、60が配置された第2オイル貯留部54、第3オイル貯留部56における油面高さを第1オイル貯留部50よりも高くすることができる。これにより、吸入口58、60が油面上に露出することによるオイルポンプP1、P2のエア吸いが抑制され、潤滑油を適切に吸入して安定供給することができる。すなわち、第1オイル貯留部50が第1隔壁48によって区分けされることにより、第2オイル貯留部54、第3オイル貯留部56側で必要十分な量の潤滑油を確保しつつ、ディファレンシャル装置32が配置された第1オイル貯留部50の油面高さを優先的に低下させることにより、ディファレンシャル装置32の回転による潤滑油の攪拌を抑制してエネルギー損失を低減できるのである。
また、本実施例では第2隔壁52が設けられ、車両前後方向において第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56に区分けされており、それ等のオイル貯留部54、56の各々の車両前後方向の幅寸法が短いため、路面勾配等による車両の姿勢変化や加減速度等に起因する潤滑油の偏りが抑制されて油面高さの変動が低減され、それ等のオイル貯留部54、56に吸入口58、60が配置されたオイルポンプP1、P2のエア吸いが一層適切に抑制される。また、吸入口58、60が第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56に別々に配置されているため、それ等のオイル貯留部54、56の両方から潤滑油が吸入され、十分な潤滑油量を確保できるとともに、必要供給油量や各オイル貯留部54、56への戻り油量等に応じて各オイルポンプP1、P2の吸入性能を個別に設定することが可能で、例えばエア吸いが防止されるように油面高さを調整できる。例えば、走行時に車速Vに応じて回転駆動される第1オイルポンプP1については、第2オイルポンプP2よりも吸入性能を低くし、油面高さの低下を抑制してエア吸いを防止することができる。
第1隔壁48および第2隔壁52の高さ寸法は同じであっても良いが、本実施例では第1隔壁48よりも第2隔壁52の高さ寸法が高くされている。これにより、車両発進時にデフリングギヤGd等による掻き上げおよび少なくとも第1オイルポンプP1による吸入の両方で潤滑油が供給されて油面高さが低下させられ、第2隔壁52の上端以下になると、第3オイル貯留部56から第2オイル貯留部54側への潤滑油の流入が制限されるため、その後の第2オイル貯留部54および第1オイル貯留部50における油面高さの低下が促進されて、ディファレンシャル装置32の回転に伴う攪拌によるエネルギー損失が速やかに低減される。
上記第1供給経路42は、第1オイルポンプP1の吐出側に接続されて動力伝達装置12の各部に潤滑油を供給する。具体的には、動力伝達装置12の各部のベアリング62やギヤ64(Ge、Gr1、Gr2、Gd、Gm、Gpなど)へ潤滑油を供給して潤滑するように構成されている。第1オイルポンプP1はディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動されるため、エンジン20が回転停止させられるEV走行モード時にも、図3に示すように回転駆動され、車速Vに応じた吸入量で潤滑油を吸入して各部に潤滑油を供給することができる。ディファレンシャル装置32は、デフリングギヤGd等による潤滑油の掻き上げによって潤滑されるが、第1供給経路42から潤滑油を供給して潤滑することも可能である。また、第1オイルポンプP1がエア吸いを生じる可能性がある場合など、潤滑油の安定供給のために必要に応じてオイルストレージを設けることもできる。
第2オイルポンプP2の吐出側に接続された第2供給経路44は、第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56の上方に位置する入力軸22や遊星歯車装置24、第1モータジェネレータMG1に潤滑油を供給して潤滑、冷却する。また、この第2供給経路44には熱交換器66が設けられており、潤滑油を冷却して第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2に供給することにより、それ等を冷却して過熱を防止する。熱交換器66は、例えば空冷や水冷による熱交換で潤滑油を冷却するオイルクーラである。第2オイルポンプP2を回転駆動するエンジン20は、停車時においても駆動することができるため、停車時を含めて車速Vに依存しない吸入量で潤滑油を吸入して潤滑部位へ供給することができるが、EV走行モード時には図3に示すようにエンジン20の回転停止に伴って第2オイルポンプP2の作動も停止する。
このように、本実施例のハイブリッド車両10の潤滑装置40においては、出力部であるディファレンシャル装置32に連結されて機械的に回転駆動される第1オイルポンプP1を備えているため、第1モータジェネレータMG1のフリー回転によりエンジン20が回転停止させられるEV走行時においても、その第1オイルポンプP1によって車速Vに応じて第2オイル貯留部54から潤滑油が吸入され、ベアリング62やギヤ64等の潤滑部位へ供給されて適切に潤滑が行なわれる。なお、EV走行時においても、遊星歯車装置24のサンギヤ24sやリングギヤ24rは空転させられるとともに、第2モータジェネレータMG2は力行制御されるため、それ等の遊星歯車装置24および第2モータジェネレータMG2に対して第1供給経路42から潤滑油が供給されるようにすることも可能である。
また、オイルポンプP1、P2が停止する停車時等の静的状態における静止時油面高さLstは第1隔壁48よりも高く、出力部であるディファレンシャル装置32の少なくとも一部が潤滑油に浸漬されるため、車両発進時にデフリングギヤGd等の回転によって潤滑油が掻き上げられることにより動力伝達装置12の各部に潤滑油が散布され、第1オイルポンプP1によって十分な潤滑油を供給することが難しい車両発進時にも良好な潤滑状態を確保できる。
一方、車両走行時には、少なくとも第1オイルポンプP1による吸入およびデフリングギヤGd等の回転よる掻き上げによって潤滑油の油面高さが低下させられるとともに、その油面高さが第1隔壁48の上端以下になると、第2オイル貯留部54の潤滑油が第1オイルポンプP1に吸入されるとともに、デフリングギヤGd等の回転による掻き上げによって第1オイル貯留部50の油面高さが更に低下させられ、潤滑部位からの潤滑油の戻りに拘らずその第1オイル貯留部50における油面高さが第1隔壁48の上端位置よりも低い位置にされるため、ディファレンシャル装置32の回転に伴う攪拌による機械的なエネルギー損失が低減される。特に、油面高さが第1隔壁48の上端以下になるまでは、第1オイルポンプP1による吸入とデフリングギヤGd等の回転よる掻き上げの両方で油面高さが低下させられるため、潤滑油に浸漬されるディファレンシャル装置32の領域が速やかに小さくなり、攪拌によるエネルギー損失が適切に低減される。
また、第1オイルポンプP1の吸入口58は、第1オイル貯留部50に隣接する第2オイル貯留部54に配置されているため、その第1オイルポンプP1の吸入性能や第2オイル貯留部54の範囲すなわち隔壁48、52の位置や形状等によって、第1オイル貯留部50とは別個に車両走行時の油面高さを調整できる。これにより、第1オイルポンプP1のエア吸いが抑制されるように第2オイル貯留部54の油面高さを調整することが可能で、エア吸いによる潤滑油の供給不足を適切に防止して安定供給することができる。
また、第1オイルポンプP1とは別にエンジン20によって回転駆動される第2オイルポンプP2を備えているため、潤滑油供給量の不足を補償することができるとともに、車速Vに依存しない潤滑油供給量で各部の潤滑を行なうことができる。また、第2オイルポンプP2の吸入口60は第3オイル貯留部56に配置されているため、第2オイルポンプP2のエア吸いが生じることがないように吸入性能等を設定することにより、エア吸いを防止して潤滑油を安定供給することができる。
また、オイル貯留部46に第1隔壁48および第2隔壁52が設けられ、車両前後方向の一端側から第1オイル貯留部50、第2オイル貯留部54、および第3オイル貯留部56に区分けされているため、吸入口58、60が配置される第2オイル貯留部54、第3オイル貯留部56の各々の車両前後方向の幅寸法が短くなり、路面勾配等による車両の姿勢変化や加減速度等に起因する潤滑油の偏りが抑制されて油面高さの変動が低減され、オイルポンプP1、P2のエア吸いが一層適切に抑制される。また、吸入口58、60が第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56に別々に配置されているため、それ等のオイル貯留部54、56の両方から潤滑油が吸入され、十分な潤滑油量を確保できるとともに、必要供給油量や各オイル貯留部54、56への戻り油量等に応じて各オイルポンプP1、P2の吸入性能を個別に設定することが可能で、例えばエア吸いを生じないように油面高さを調整できる。
また、第2隔壁52の高さ寸法が第1隔壁48の高さ寸法よりも高いとともに、第1オイルポンプP1の吸入口58は第2オイル貯留部54に配置されているため、車両発進時にデフリングギヤGd等の回転による掻き上げおよび少なくとも第1オイルポンプP1による吸入によって潤滑油の油面高さが低下させられ、第2隔壁52の上端以下になると、第3オイル貯留部56から第2オイル貯留部54側への潤滑油の流入が制限される。このため、その後の第2オイル貯留部54および第1オイル貯留部50における油面高さの低下が促進されて、ディファレンシャル装置32の回転に伴う攪拌によるエネルギー損失が速やかに低減される。
また、第2オイルポンプP2として、エンジン20を回転駆動源とするオイルポンプが用いられているため、ポンプ用電動モータで回転駆動される電動式オイルポンプを採用する場合に比較して、面倒な制御が不要であるととともに、コストの点等で有利である。
また、第1供給経路42および第2供給経路44が互いに独立に構成されているため、切換バルブ等が不要で構造を簡素化できるとともに、供給経路42、44毎に異なる必要油量に応じて個々のオイルポンプP1、P2の吸入性能を別々に設定でき、不必要な潤滑油の供給を抑制できる。加えて、供給経路42、44が別々に定められているため、個別にオイルクーラ等の熱交換器66を設けたり、潤滑油を貯蔵するオイルストレージを設けたりすることができるなど、供給経路42、44毎に潤滑性能等を適切に設定することができる。すなわち、第1供給経路42は、必ずしも潤滑油を冷却する必要がなく、熱交換器を省略したため、潤滑油の粘度を一定以下に保持することが可能で、粘性による損失が低減される。また、粘度が低いことから第1供給経路42の耐圧要件が緩和される。
また、オイルポンプP1、P2には、別々の吸入油路を介して互いに独立に別々の吸入口58、60が設けられているため、各オイルポンプP1、P2の吸入量や供給経路42、44による潤滑部位等に応じて吸入口58、60の配置やメッシュを個別に設定できる。例えば、熱交換器66を経て潤滑油が供給される第2オイルポンプP2の吸入口60のストレーナは、細かいメッシュが望ましい。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
図6の潤滑装置100は、第1オイルポンプP1が、動力伝達を断接するポンプ断接装置102を介してディファレンシャル装置32に連結されているとともに、他の回転駆動源104に連結されて回転駆動されるようになっている場合である。ポンプ断接装置102は、クラッチやワンウェイクラッチなどで、第1オイルポンプP1とポンプ駆動歯車Gpとの間に配設される。他の回転駆動源104は、例えばポンプ駆動用の電動モータが好適に用いられるが、エンジン20によって機械的に回転駆動されるようにすることも可能で、その場合には、クラッチやワンウェイクラッチ等の第2のポンプ断接装置を介してエンジン20に連結すれば良い。この場合には、停車時を含めて、車速Vに依存しない回転速度で第1オイルポンプP1を作動させることが可能で、第1供給経路42から各部の潤滑部位へ潤滑油を供給することができる。
上記潤滑装置100はまた、第2オイルポンプP2についても、所定の回転駆動源106によって回転駆動されるようになっている。この回転駆動源106は、潤滑装置40と同様にエンジン20であっても良いが、ポンプ駆動用の電動モータを新たに設けることも可能である。
図7は、前記ハイブリッド車両10によって実行可能な他の走行モードを説明する図で、フリーラン惰性走行モードは、エンジン20の燃料供給等を停止するとともに第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2のトルクを何れも0にしてフリー回転可能とするもので、エンジン20が回転停止させられ、エンジンブレーキ無しの状態で惰性走行する。このフリーラン惰性走行モードは、例えばアクセルペダルの踏込み操作が解除されたアクセルOFF時に、EV走行モードおよびHV走行モードの何れの場合にも実行される。減速エコラン走行モードは、エンジン20の燃料供給等を停止するとともに第1モータジェネレータMG1のトルクを0にしてフリー回転可能とし、エンジン20が回転停止させられる一方、第2モータジェネレータMG2を回生制御して車両に制動トルクを発生させるものである。この減速エコラン走行モードは、例えばブレーキペダルが踏込み操作されたブレーキONの減速時に、EV走行モードおよびHV走行モードの何れの場合にも実行される。
上記フリーラン惰性走行モードおよび減速エコラン走行モードでは、何れもエンジン20が回転停止させられるが、ディファレンシャル装置32に連結された第1オイルポンプP1は車速Vに応じて回転駆動されるため、その第1オイルポンプP1からの潤滑油供給によって動力伝達装置12の各部が潤滑される。また、その第1オイルポンプP1による潤滑油の吸入およびデフリングギヤGd等の回転による掻き上げによって第1オイル貯留部50の油面高さが低下させられ、ディファレンシャル装置32の回転に伴う攪拌等によるエネルギー損失が抑制されるなど、前記各実施例と同様の作用効果が得られる。具体的には、フリーラン惰性走行モードでは、攪拌等によるエネルギー損失が抑制されることによって惰性走行の走行距離が長くなり、減速エコラン走行モードでは、攪拌等によるエネルギー損失が抑制されることによって第2モータジェネレータMG2の回生制御による発電量が多くなる。
図8のハイブリッド車両300は、前記ハイブリッド車両10に比較してオイルポンプP1、P2を機械的に回転駆動するための構造が相違する。すなわち、第1オイルポンプP1は、遊星歯車装置24のリングギヤ24rに一体的に設けられた分岐歯車Go1によりポンプ駆動歯車Gp1を介して回転駆動される。リングギヤ24rには、連結部材302を介して前記エンジン出力歯車Geが一体的に設けられており、減速大歯車Gr1等を介してディファレンシャル装置32に動力伝達可能に機械的に連結されている。第2オイルポンプP2は、遊星歯車装置24のキャリア24cに一体的に設けられた分岐歯車Go2によりポンプ駆動歯車Gp2を介して回転駆動される。キャリア24cは入力軸22に一体的に連結されており、エンジン20の回転に伴って機械的に回転駆動される。したがって、このハイブリッド車両300においても、前記潤滑装置40が好適に設けられるとともに、ポンプ断接装置102や回転駆動源104、106を設けることにより、図6に示す潤滑装置100を用いることが可能で、同様の作用効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。