以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。ここでは、本発明をインパクトドライバに適用した場合を例に、説明を行う。
図1は、本発明の実施の形態に係るインパクトドライバの断面図である。インパクトドライバ50は、本発明の電動工具に相当し、図1に示されるように、ハウジング52、モータ11、ギヤ機構54、ハンマ55、アンビル部56、インバータ回路部14及び電源コード58から主に構成される。
ハウジング52は、樹脂製であってインパクトドライバ50の外郭を成しており、略筒状の胴体部52aと、胴体部53aから延出されるハンドル部52bとから主に構成される。胴体部52a内には、図1に示されるように、モータ11がその軸方向が胴体部52aの長手方向に一致するように配置されると共に、ギヤ機構54、ハンマ55及びアンビル部56が、モータ11の軸方向一端側に向かって並んで配置されている。
胴体部52a内の前側位置には、ハンマ55及びアンビル部56が内蔵される金属製のハンマケース68が配置されている。ハンマケース68は、前方に向かうに従って徐々に径が細くなる略漏斗形状を成しており、前端部分には開口68aが形成され、開口68aから後述する先端工具保持部66の先端部分が露出し、その先端に開口部55aが形成される。また、胴体部52aには、後述する冷却ファン64により胴体部52a内に外気を吸入及び排出するための図示せぬ吸気口及び排気口が形成されている。当該外気により、モー11及びインバータ回路部14が冷却される。
ハンドル部52bは、胴体部52aの前後方向略中央位置から下側に向けて延出し、胴体部52aと一体に構成されている。ハンドル部52bの内部には、スイッチ機構59が内蔵されると共に、その延出方向先端位置に、商用交流電源に接続可能な電源コード58が延出している。ハンドル部52bにおいて、胴体部52aからの根元部分であって前側位置には、作業者の操作箇所となり電子スイッチであるトリガ60が設けられている。このトリガ60は、スイッチ機構59と接続しており、モータ11への駆動電力の供給と遮断とを切り替えるために用いられる。また、ハンドル部52bと胴体部52aとの接続部分であって、トリガ60の直上には、モータ11の回転方向を切り替える正逆切替スイッチ61が設けられている。
モータ11は、ブラシレスモータであり、図1に示されるように、出力軸11e及び複数の永久磁石11dを備えるロータ11bと、当該ロータ11bと対向する位置に配置され複数のコイル11cを備えるステータ11aとから主に構成される。出力軸11eは、軸方向が前後方向と一致するように胴体部52a内に配置され、ロータ11bの前後に突出しており、その突出した箇所でベアリングにより胴体部52aに回転可能に支承されている。出力軸11eにおいて、前側に突出している箇所には、出力軸11eと同軸一体に回転する冷却ファン64が設けられている。
ギヤ機構54は、モータ11の前方に配置されている。ギヤ機構54は、複数の歯車を備える遊星歯車機構で構成される減速機構であり、出力軸11eの回転を減速してハンマ55に伝達する。ハンマ55は、前端に一対の衝突部65を備えている。また、ハンマ55は、バネ55aにより前方に付勢され、当該付勢力に抗して後方に移動することも可能に構成されている。
アンビル部56は、ハンマ55の前方に配置されており、先端工具保持部66と、アンビル67とから主に構成される。アンビル67は、先端工具保持部66の後方に、当該先端工具保持部66と一体に構成され、先端工具保持部66の回転中心に対して対極に配置された一対の被衝突部67aを有する。ハンマ55が回転すると、一方の衝突部65と一方の被衝突部67aとが衝突すると同時に、他方の衝突部65と他方の被衝突部67aとが衝突し、これによりハンマ55の回転力がアンビル67に伝達され、アンビル67に打撃が与えられる。また、衝突部65と被衝突部67aとの衝突後、ハンマ55はバネ55aの付勢力に抗して回転しながら後退する。そして、衝突部65が被衝突部67aを乗り越えると、バネ55aに蓄えられた弾性エネルギーが解放されてハンマ55は前方に移動し、再び、衝突部65と被衝突部67aとが衝突することとなる。なお、先端工具保持部66の先端に形成された開口部55aには、先端工具が着脱可能に保持される。
インバータ回路部14は、円盤状の回路基板上に、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子14aが設けられて構成される。電源コード58は、商用交流電源と接続することにより、各部に電源を供給する。
次に、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置について、図2乃至図4を参照して説明する。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10の電気的構成を示す回路図である。モータ駆動装置10は、図1に示されるインパクトドライバ50に組み込まれ、図2に示されるように、モータ11、整流回路部12、コンデンサ13、インバータ回路部14、コンデンサ15、ダイオード16、スイッチング素子17、電源電圧検出回路部18、コンデンサ電圧検出回路部19、演算部20及びゲートドライバ部21を含んで構成される。
モータ11は、本実施の形態では3相のブラシレスモータから構成され、ロータ11b(図1)とステータ11aとを含んで構成される。ステータ11aは、円筒状の外形を有しており、スター結線された3相のステータ巻線U、V、Wからなる。
整流回路部12は、図示せぬ4個のダイオードをブリッジ接続して構成され、商用交流電源1から入力される交流電圧を全波整流する。整流回路部12は、本発明の第1回路に相当する。コンデンサ13は、本実施の形態では静電容量の小さなフィルムコンデンサであり、高周波ノイズを吸収する。
インバータ回路部14は、3相ブリッジ形式に接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6が基板上に搭載されて構成される。インバータ回路部14には、整流回路部12により全波整流された電圧が入力される。インバータ回路部14は、この入力電圧を交流電圧に変換して、モータ11に供給する。
コンデンサ15、ダイオード16及びスイッチング素子17は、図2に示されるように、ダイオード16の下流側にコンデンサ15を直列に接続するとともに、ダイオード16の下流且つコンデンサ15の上流にスイッチング素子17を接続して、整流回路部12の出力側において、整流回路部12からインバータ回路部14へとつながる電流経路から分岐して、インバータ回路部14に並列に接続される。コンデンサ15、ダイオード16及びスイッチング素子17は、本発明の第2回路を構成する。
コンデンサ15は、インバータ回路部14から出力される回生電力や外部から重畳される外来ノイズ等を吸収するために設けられるノイズ吸収コンデンサである。コンデンサ15は、本実施の形態では静電容量の大きなコンデンサであり、高周波ノイズ及び低周波ノイズを何れも吸収可能である。ここで、外来ノイズとは、例えばモータ駆動装置10を発電機に接続して使用する場合や、商用交流電源1の状態が悪い場合、長いコードリールを使用して駆動する場合等に、しばしば発生するノイズである。コンデンサ15は、このような外来ノイズ等を吸収し、蓄積する。コンデンサ15は、本発明の電荷蓄積手段及び電荷蓄積素子に相当する。
ダイオード16は、逆流防止ダイオードであり、そのカソードはコンデンサ15に接続され、アノードはインバータ回路部14に接続される。ダイオード16は、インバータ回路部14からコンデンサ15への電流を許容する一方、コンデンサ15からインバータ回路部14への電流を遮断する。ダイオード16は、本発明の逆流防止手段及び逆流防止素子に相当する。
スイッチング素子17は、例えばMOSFETであり、そのソースはコンデンサ15とダイオード16のカソードとの間に接続され、そのドレインはダイオード16のアノードとインバータ回路部14との間に接続される。また、スイッチング素子17のゲートは、演算部20に接続される。スイッチング素子17は、オフ状態において、ダイオード16とともに、コンデンサ15及びインバータ回路部14間の電流を遮断する一方、オン状態において、コンデンサ15からインバータ回路部14への電流を許容する。スイッチング素子17は、本発明の放電手段及び第3回路に相当する。
電源電圧検出回路部18は、商用交流電源1からの入力電圧Vacを検出するための回路であり、図2に示されるように、ダイオード18a、ダイオード18b、抵抗18c及び抵抗18dを備えている。ダイオード18a及びダイオード18bのアノードは、それぞれ、商用交流電源1及び整流回路部12を接続するラインに接続される。ダイオード18a及びダイオード18bのカソードは、抵抗18c及び抵抗18dを介してGNDに接続される。電源電圧検出回路部18は、抵抗18c及び抵抗18dの分圧電圧を演算部20に出力する。電源電圧検出回路部18は、本発明の電源電圧検出手段に相当する。
コンデンサ電圧検出回路部19は、コンデンサ15の両端電圧Vcを検出するための回路であり、図2に示されるように、抵抗19a及び抵抗19bを備えている。抵抗19a及び抵抗19bは互いに直列に接続され、その一端はコンデンサ15及びダイオード16間に接続され、他端はGNDに接続される。コンデンサ電圧検出回路部19は、抵抗19a及び抵抗19bの分圧電圧を演算部20に出力する。コンデンサ電圧検出回路部19は、本発明の両端電圧検出手段に相当する。
演算部20は、例えばマイクロコンピュータであり、処理プログラム及びデータに基づき駆動信号を生成する機能や、処理プログラムや各種制御に必要な情報等を記憶する機能、時間を計測する機能等を有する。
演算部20は、モータ11の回転方向や回転数等を制御すべく、ステータ巻線U、V、Wへの通電方向及び通電時間を制御する。演算部20は、インバータ回路部14に搭載される6個のスイッチング素子Q1〜Q6をオン・オフするための駆動信号H1〜H6を生成する。
また、演算部20は、スイッチング素子17のゲートに接続しており、スイッチング素子17のオン・オフを制御する。演算部20は、スイッチング素子17をオンするための制御信号Vsを生成し、所定のタイミングで、生成した制御信号Vsをスイッチング素子17のゲートに供給する。また、演算部20は、所定のタイミングで、スイッチング素子17のゲートへの制御信号Vsの供給を停止する。演算部20は、本発明の制御手段に相当する。
ゲートドライバ部21は、図2に示されるように、インバータ回路部14に搭載される6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートに接続している。ゲートドライバ部21は、演算部20により生成された駆動信号H1〜H6を、スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに供給する。
ここで、インバータ回路部14の6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、各ゲートがゲートドライバ部21に接続され、各ドレイン又は各ソースは、モータ11のステータ巻線U、V、Wに接続される。スイッチング素子Q1〜Q6は、ゲートドライバ部21から入力される駆動信号H1〜H6に基づきスイッチング動作を行い、商用交流電源1から整流回路部12を介して供給された電圧を、3相(U相、V相、W相)電圧Vu、Vv、Vwとして、モータ11のステータ巻線U、V、Wに駆動電力を供給する。
続いて、第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10について、詳細に説明する。モータ駆動装置10は、本実施の形態では、コンデンサ15の両端電圧に基づき、スイッチング素子17のオン・オフを制御する。
演算部20は、図2に示されるように、コンデンサ電圧検出回路部19に接続している。演算部20は、コンデンサ電圧検出回路部19からの入力に基づき、コンデンサ15の両端電圧Vcを取得し、この両端電圧Vcを監視する。
また、演算部20は、予め所定の上限電圧Vmaxを記憶している。演算部20は、コンデンサ15の両端電圧Vcが上昇し、上限電圧Vmaxに達すると、制御信号Vsを生成し、当該制御信号Vsをスイッチング素子17のゲートに供給する。これにより、スイッチング素子17はオン状態となり、コンデンサ15からインバータ回路部14への電流が許容される。すなわち、コンデンサ15からの放電が可能となる。
ここで、演算部20が記憶する上限電圧Vmaxは、例えば、インバータ回路部14に搭載されるスイッチング素子Q1〜Q6の絶対定格値(耐圧)等に基づき予め設定される数値である。スイッチング素子Q1〜Q6がIGBTであり、その絶対定格値が600Vの場合、上限電圧VmaxはIGBTの絶対定格値よりも小さな値、例えば絶対定格値の80%に相当する480Vに設定される。
演算部20は、また、商用交流電源1の電源電圧に基づいて、所定の下限電圧Vminを算出する。演算部20は、図2に示されるように、電源電圧検出回路部18に接続している。演算部20は、電源電圧検出回路部18からの入力に基づき、商用交流電源1からの入力電圧Vacを取得し、これに基づき、商用交流電源1の電源電圧実効値Veを取得する。そして、演算部20は、下記の数式(1)に基づいて、下限電圧Vminを算出する。演算部20は、本発明の算出手段に相当する。
演算部20は、スイッチング素子17への制御信号Vsの供給中に、コンデンサ15の両端電圧Vcが下降し、下限電圧Vminに達すると、制御信号Vsの供給を停止する。これにより、スイッチング素子17はオフ状態となり、コンデンサ15からの電流は遮断される。すなわち、コンデンサ15からの放電は停止される。ここで、商用交流電源1の電源電圧実効値Veが例えば100Vの場合、下限電圧Vminは約141Vに設定される。
コンデンサ15の下限電圧Vminの設定値は、商用交流電源1からの入力電圧Vacの最大値に相当する。コンデンサ15の両端電圧Vcを商用交流電源1からの入力電圧Vac以下まで低下させてしまうと、入力電圧Vacからコンデンサ15に電圧が印加され、突入電流が流れる虞がある。そのため、コンデンサ15の両端電圧Vcが商用交流電源1からの入力電圧Vac以下に低下することがないように、下限電圧Vminを設定する。
次に、第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10におけるスイッチング素子17をオン・オフする動作について、図3に示すフローチャートに沿って説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10におけるスイッチング素子17のオン・オフ制御動作を示すフローチャートである。
モータ駆動装置10が商用交流電源1に接続され、商用交流電源1からの給電が開始されると、商用交流電源1からの入力電圧Vacが、電源電圧検出回路部18から演算部20に入力される。この入力に基づき、演算部20が商用交流電源1の電源電圧実効値Veを取得する(ステップS101)。
続いて、演算部20は、電源電圧実効値Veに基づき下限電圧Vminを算出する。演算部20は、数式(1)に基づいて、下限電圧Vminを算出して記憶する(ステップS102)。
次に、演算部20は、スイッチング素子17がオン状態及びオフ状態の何れであるかを判断する(ステップS103)。商用交流電源1からの給電開始時、スイッチング素子17のゲートには制御信号は入力されておらず、スイッチング素子17はオフ状態である(ステップS103:YES)。このスイッチング素子17のオフ状態において、演算部20は、コンデンサ電圧検出回路部19からの入力に基づき、コンデンサ15の両端電圧Vcを取得し、この両端電圧Vcと上限電圧Vmaxとを比較する(ステップS104)。両端電圧Vcが上限電圧Vmax未満である場合(ステップS104:NO)、演算部20は、制御信号の生成及び供給を行わず、スイッチング素子17はオフ状態を継続する(ステップS106)。モータ駆動装置10は、ステップS106の後、ステップS103の処理に戻る。演算部20は、スイッチング素子17のオフ状態において両端電圧Vcが上限電圧Vmaxに達するまで、両端電圧Vcの監視を継続する(ステップS103〜S104、S106)。
ステップS104において、両端電圧Vcが上限電圧Vmax以上である場合(ステップS104:YES)、演算部20は、制御信号Vsを生成し、スイッチング素子17のゲートに供給する。これにより、スイッチング素子17はオン状態となり(ステップS105)、コンデンサ15からの放電が開始される。モータ駆動装置10は、ステップS105の後、ステップS103の処理に戻る。
スイッチング素子17をオンした後も、演算部20は、コンデンサ15の両端電圧Vcの監視を継続する。演算部20は、スイッチング素子17への制御信号Vsの供給中、すなわち、スイッチング素子17のオン状態において(ステップS103:NO)、両端電圧Vcと下限電圧Vminとを比較する(ステップS107)。両端電圧Vcが下限電圧Vminよりも大きい場合(ステップS107:NO)、演算部20は、制御信号Vsの供給を継続し、スイッチング素子17はオン状態を継続する(ステップS109)。モータ駆動装置10は、ステップS109の後、ステップS103の処理に戻る。演算部20は、スイッチング素子17のオン状態において両端電圧Vcが下限電圧Vminに達するまで、両端電圧Vcの監視を継続する(ステップS103、S107、S109)。
両端電圧Vcが下降し、下限電圧Vmin以下となると(ステップS107:YES)、演算部20は、スイッチング素子17への制御信号Vsの供給を停止する。これにより、スイッチング素子17はオフ状態となり(ステップS108)、コンデンサ15からの放電は停止される。モータ駆動装置10は、ステップS108の後、ステップS103の処理に戻る。演算部20は、両端電圧Vcの監視を継続する。
上記のように、コンデンサ15の両端電圧Vcが上昇して上限電圧Vmaxに達すると、スイッチング素子17がオンされて、コンデンサ15に蓄積された電荷が放電される。また、コンデンサ15の両端電圧Vcが下降して下限電圧Vminに達すると、スイッチング素子17がオフされて、コンデンサ15からの放電が停止される。
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10における電圧、電流及び信号の波形を説明する図である。図4(a)は、商用交流電源1から整流回路部12に入力される入力電圧Vacの時間変化を示す。図4(b)は、インバータ回路部14に入力される入力電圧Vinvの時間変化を示し、図4(c)は、インバータ回路部14に入力される入力電流Iinvの時間変化を示す。図4(d)は、コンデンサ15の両端電圧Vcの時間変化を示し、図4(e)は、演算部20から出力される制御信号Vsの時間変化を示す。ここで、図4(a)〜図4(e)は、商用交流電源1からモータ駆動装置10への給電開始から一定の時間が経過した後の波形図である。
コンデンサ15の両端電圧Vcは、インバータ回路部14からの回生電力や外来ノイズ等を吸収して上昇する。そして、両端電圧Vcが上限電圧Vmaxに達すると、図4(d)及び図4(e)に示されるように、演算部20から制御信号Vsが出力され、スイッチング素子17がオン状態になる。これにより、コンデンサ15からの放電が可能となり、コンデンサ15の両端電圧Vcは下降する。
コンデンサ15の両端電圧Vcが下限電圧Vminに達すると、図4(d)及び図4(e)に示されるように、制御信号Vsの出力は停止され、スイッチング素子17はオフ状態になる。これにより、コンデンサ15からの放電は停止され、コンデンサ15の両端電圧Vcは再び上昇する。
インバータ回路部14への入力電圧Vinvの波形(図4(b))は、商用交流電源1からの入力電圧Vac(図4(a))を全波整流した波形と、制御信号Vsの出力期間(図4(e))を除いて略相似形になる。これは、コンデンサ15からの放電を不可とすることにより、入力電圧Vinvが平滑されないためである。制御信号Vsの出力期間では、インバータ回路部14の入力電圧Vinvは、コンデンサ15からの放電により、入力電圧Vacを全波整流した波形と相似形になった場合と比較して、電圧値が上昇することとなる。これは、コンデンサ15に蓄積されたエネルギーがインバータ回路部14に印加されることを意味し、すなわち、エネルギーの利用効率の向上に繋がる。
また、インバータ回路部14の入力電圧Vinvの波形と入力電流Iinvの波形とは、図4(b)及び図4(c)に示されるように略相似形となる。これは、コンデンサ15に直列にダイオード16を接続することにより、入力電流Iinvに高調波歪みが生じないためであり、入力電圧Vinvと入力電流Iinvとの位相が略一致することを示す。したがって、容量の大きな平滑コンデンサを設ける場合と比較して、大幅に力率が改善されることとなる。
以上のように、本実施の形態のモータ駆動装置10によれば、インバータ回路部14からの回生電力や外来ノイズ等を吸収するためのコンデンサ15に、ダイオード16及びスイッチング素子17が接続され、コンデンサ15の両端電圧Vcが上限電圧Vmaxに達するまでは、コンデンサ15への入力電流は許容される一方、コンデンサ15からの放電は不可とされる。したがって、整流後の電流における高調波歪みの発生を抑制し、大容量の平滑コンデンサを設けた場合と比較して力率の低下を抑制可能となる。
また、コンデンサ15の両端電圧Vcが上限電圧Vmaxに達すると、スイッチング素子17がオン状態とされ、コンデンサ15からの放電が可能とされるため、コンデンサ15の過度な電圧上昇を防止可能となる。したがって、モータ11の駆動を制限せずとも、回路の損傷を防止可能となり、モータ11を長時間継続して駆動可能となる。このとき、コンデンサ15から放出されたエネルギーは、インバータ回路部14を介してモータ11に印加されるので、エネルギーの利用効率が向上され、モータ11の運転性能の向上が可能となる。更に、コンデンサ15の両端電圧Vcの上昇を抑えることができるため、上限電圧Vmaxを適宜に設定することにより、インバータ回路部14のスイッチング素子Q1〜Q6をその絶対定格値(耐圧)が高いもの(例えば600V)を使用しなくてもよくなり、安価なスイッチング素子を使用することが可能となる。
更に、コンデンサ15からの放電開始後、両端電圧Vcが下限電圧Vminまで低下すると、スイッチング素子17がオフ状態とされ、コンデンサ15からの放電を再び不可とするので、突入電流の発生を防止して、モータ11の安定した駆動が可能となる。
また、モータ駆動装置10を電動工具に組み込んで使用した場合、所望の出力で長時間継続して作業可能となり、操作性及び作業性が向上される。
次に、第2の実施の形態に係るモータ駆動装置について、図2、図5及び図6を参照して説明する。第2の実施の形態に係るモータ駆動装置は、図2に示す第1の実施の形態に係るモータ駆動装置10と同様の構成を有し、本実施の形態では、後述するゼロクロスからの経過時間に基づき、スイッチング素子17のオン・オフを制御する。
電源電圧検出回路部18は、本実施の形態では、商用交流電源1からの入力電圧Vacが0になるゼロクロスを検出する。電源電圧検出回路部18は、本発明のゼロクロス検出手段に相当する。
また、演算部20は、本実施の形態では、図示せぬ放電開始タイマ及び放電停止タイマを有し、放電開始時刻及び放電停止時刻までのカウントダウンを行う。演算部20は、本発明の計時手段に相当する。
演算部20は、予め所定の時間T1を記憶している。放電開始タイマは、この所定の時間T1を初期値として、カウント値t1のカウントダウンを行う。演算部20は、電源電圧検出回路部18からの入力に基づき、各ゼロクロスの検出時刻に、放電開始タイマによるt1のカウントダウンを開始する。そして、カウント値t1が0になる、すなわち、ゼロクロスからの経過時間が所定の時間T1に達すると、演算部20は、放電開始時刻に達したことを検知し、コンデンサ15からの放電を開始すべく、制御信号Vsを生成し、スイッチング素子17のゲートに供給する。これにより、スイッチング素子17はオン状態となり、コンデンサ15からの放電が可能となる。ここで、ゼロクロスからの経過時間は、本発明の放電制御時間に相当する。
また、演算部20は、予め所定の時間T2を記憶している。放電停止タイマは、この所定の時間T2を初期値として、カウント値t2のカウントダウンを行う。演算部20は、放電開始タイマのカウント値t1が0になり、放電開始時刻に達すると、放電停止タイマによるカウント値t2のカウントダウンを開始する。そして、放電停止タイマのカウント値t2が0になる、すなわち、放電開始時刻からの経過時間が所定の時間T2に達すると、演算部20は、放電停止時刻に達したことを検知し、コンデンサ15からの放電を停止すべく、スイッチング素子17への制御信号Vsの供給を停止する。これにより、スイッチング素子17はオフ状態となり、コンデンサ15からの放電は遮断される。
ここで、所定の時間T1は、商用交流電源1からの入力電圧Vacの半周期T/2よりも短くなるような値に設定される。また、所定の時間T2は、商用交流電源1からの入力電圧Vacの周期Tから所定の時間T1の2倍を減じた値となるべく設定される。すなわち、本実施の形態では、2×T1+T2=Tの関係式が成り立つように、所定の時間T1及びT2が設定される。所定の時間T1は、本発明の第1の所定時間に相当する。また、所定の時間T1と所定の時間T2との和、すなわちT1+T2は、本発明の第2の所定時間に相当する。
次に、第2の実施の形態に係るモータ駆動装置10におけるスイッチング素子17をオン・オフする動作について、図5に示すフローチャートに沿って説明する。図5は、本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動装置10におけるスイッチング素子17のオン・オフ制御動作を示すフローチャートである。
モータ駆動装置10が商用交流電源1に接続され、商用交流電源1からの給電が開始されると、商用交流電源1の入力電圧Vacが、電源電圧検出回路部18から演算部20に入力される。この入力に基づき、演算部20は、入力電圧Vacが0になるゼロクロスを検出する(ステップS201:YES)。演算部20は、ゼロクロスを検出すると、放電開始タイマをオンする(ステップS202)。放電開始タイマは、カウント値t1=T1からのカウントダウンを開始する。
次に、演算部20は、スイッチング素子17がオン状態及びオフ状態の何れであるかを判断する(ステップS203)。商用交流電源1からの給電開始時、スイッチング素子17のゲートには制御信号は入力されておらず、スイッチング素子17はオフ状態である(ステップS203:YES)。このスイッチング素子17のオフ状態において、演算部20は、放電開始タイマによるカウント値を監視する。放電開始タイマがアンダフローではない、すなわちカウント値が0に達していない場合(ステップS204:NO)、演算部20は、制御信号の生成及び供給を行わず、スイッチング素子17はオフ状態を継続する(ステップS207)。モータ駆動装置10は、ステップS207の後、ステップS201の処理に戻る。演算部20は、スイッチング素子17のオフ状態において放電開始タイマのカウント値t1が0に達するまで、カウント値t1の監視を継続する(ステップS201〜S204、S207)。
ステップS204において、放電開始タイマがアンダフローである、すなわちカウント値t1が0以下である場合(ステップS204:YES)、演算部20は、制御信号Vsを生成し、スイッチング素子17のゲートに供給する。これにより、スイッチング素子17はオン状態となり(ステップS205)、コンデンサ15からの放電が開始される。また、演算部20は、放電停止タイマをオンする(ステップS206)。放電停止タイマは、カウント値t2=T2からのカウントダウンを開始する。モータ駆動装置10は、ステップS206の後、ステップS201の処理に戻る。
スイッチング素子17をオンした後も、演算部20は、ゼロクロスの検出を行う。ステップS201において、ゼロクロスが検出されない場合(ステップS201:NO)、演算部20は、スイッチング素子17がオン状態及びオフ状態の何れであるかを判断する(ステップS203)。スイッチング素子17がオン状態である場合(ステップS203:NO)、演算部20は、スイッチング素子17のオン後にカウントダウンを開始した放電停止タイマのカウント値t2を監視する。放電停止タイマがアンダフローではない、すなわちカウント値t2が0に達していない場合(ステップS208:NO)、演算部20は、制御信号Vsの供給を継続し、スイッチング素子17はオン状態を継続する(ステップS210)。モータ駆動装置10は、ステップS210の後、ステップS201の処理に戻る。演算部20は、スイッチング素子17のオン状態において、ゼロクロスの検出及び放電停止タイマのカウント値t2の監視を継続する(ステップS201〜S203、S208、S210)。
スイッチング素子17のオン状態において、演算部20が次のゼロクロスを検出する(ステップS201:YES)と、演算部20は、放電開始タイマをオンする(ステップS202)。放電開始タイマは、カウント値t1=T1からのカウントダウンを開始する。このとき、放電開始タイマ及び放電停止タイマは、いずれもオン状態であり、それぞれカウント値t1及びt2のカウントダウンを行っている。
演算部20は、スイッチング素子17がオン状態であると判断する(ステップS203:NO)と、放電停止タイマのカウント値t2を監視する。そして、放電停止タイマがアンダフローである、すなわちカウント値t2が0以下である場合(ステップS208:YES)、演算部20は、スイッチング素子17への制御信号Vsの供給を停止する。これにより、スイッチング素子17はオフ状態となり(ステップS209)、コンデンサ15からの放電は停止される。モータ駆動装置10は、ステップS210の後、ステップS201の処理に戻る。演算部20は、放電開始タイマのカウント値t1の監視を行う(ステップS201〜S204、S207)。
上記のように、ゼロクロスの検出から所定の時間T1が経過すると、スイッチング素子17がオンされて、コンデンサ15に蓄積された電荷が放電される。また、スイッチング素子17のオン後、所定の時間T2が経過すると、スイッチング素子17がオフされて、コンデンサ15からの放電が停止される。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動装置10における電圧、タイマカウント値及び信号の波形を説明する図である。図6(a)は、商用交流電源1から整流回路部12に入力される入力電圧Vacの時間変化を示し、図6(b)は、インバータ回路部14に入力される入力電圧Vinvの時間変化を示す。図6(c)は、放電開始タイマのカウント値t1の時間変化を示し、図6(d)は、放電停止タイマのカウント値t2の時間変化を示す。図6(e)は、コンデンサ15の両端電圧Vcの時間変化を示し、図6(f)は、演算部20から出力される制御信号Vsの時間変化を示す。ここで、図6(a)〜図6(f)は、商用交流電源1からモータ駆動装置10への給電開始から一定の時間が経過した後の波形図である。
商用交流電源1からの入力電圧Vacが0になるゼロクロスが検出されると、図6(a)及び図6(c)に示されるように、放電開始タイマがオンされ、カウント値t1のカウントダウンが開始される。そして、t1=0になると、図6(c)及び図6(f)に示されるように、演算部20から制御信号Vsが出力され、スイッチング素子17がオン状態になる。これにより、コンデンサ15からの放電が可能となり、図6(e)に示されるように、コンデンサ15の両端電圧Vcは下降する。また、図6(d)に示されるように、放電停止タイマがオンされ、カウント値t2のカウントダウンが開始される。
制御信号Vsの出力中に、次のゼロクロスが検出されると、図6(a)及び図6(c)に示されるように、放電開始タイマが再度オンされ、カウント値t1のカウントダウンが開始される。
t2=0になると、図6(d)及び図6(f)に示されるように、制御信号Vsの出力が停止され、スイッチング素子17がオフ状態になる。これにより、コンデンサ15からの放電は停止され、図6(e)に示されるように、コンデンサ15の両端電圧Vcは再び上昇する。
インバータ回路部14への入力電圧Vinvの波形(図6(b))は、第1の実施の形態と同様に、商用交流電源1からの入力電圧Vac(図6(a))を全波整流した波形と、制御信号Vsの出力期間(図6(f))を除いて略相似形になる。制御信号Vsの出力期間では、インバータ回路部14の入力電圧Vinvは、コンデンサ15の放電により、コンデンサ15に蓄積されたエネルギーがインバータ回路部14に印加され、電圧値が上昇することとなる。ここで、放電開始タイマ及び放電停止タイマの初期値T1及びT2は、商用交流電源1の周期Tに対して2×T1+T2=Tとなるべく設定されるので、制御信号Vsの出力期間は、商用交流電源1の入力電圧Vacのゼロクロスの前後の期間となる。したがって、コンデンサ15からインバータ回路部14にエネルギーが印加されるのは、インバータ回路部14への入力電圧Vinvの値が小さくなる期間である。この期間にコンデンサ15からの放電を行うことにより、インバータ回路部14への入力電圧Vinvが大きくなりすぎて回路を損傷することを確実に防止するとともに、モータ11にエネルギーを印加して運転効率を向上させることが可能となる。
以上のように、本実施の形態のモータ駆動装置10によれば、商用交流電源1のゼロクロスからの経過時間が計時され、所定の時間が経過すると、スイッチング素子17がオン状態とされ、コンデンサ15からの放電が可能とされる。したがって、簡易な制御により放電のタイミングを制御可能となり、コンデンサ15の過度な電圧上昇を防止して回路の破損を防止できる。また、コンデンサ15の放電は、ゼロクロスの前後の期間になされるため、コンデンサ15の両端電圧Vc及びインバータ回路部14の入力電圧Vinvの過度な上昇を防止して、回路の損傷を確実に防止可能となるとともに、エネルギーの利用効率及びモータ11の運転性能の向上が可能となる。
なお、本実施の形態では、放電開始タイマによりゼロクロスの検出からの計時を行うとともに、放電停止タイマにより放電開始時刻からの計時を行ったが、本発明はこれに限定されない。例えば、放電開始時刻の後、次のゼロクロスが検出されると、放電停止タイマによる計時を行い、所定時間、すなわち本発明の第2の所定時間が経過した後に、放電を停止すべくスイッチング素子17への制御信号Vsの供給を停止することも可能である。
次に、第3の実施の形態に係るモータ駆動装置30について、図7を参照して説明する。図7は、本発明の第3の実施の形態に係るモータ駆動装置30の電気的構成を示す回路図である。第3の実施の形態に係るモータ駆動装置30は、スイッチング素子17に代えて放電抵抗31を設けた点が、第1及び第2の実施の形態に係るモータ駆動装置10(図2)とは異なる。以下、第1及び第2の実施の形態に係るモータ駆動装置10と同一の構成については同一の符号で示し、これらについての詳しい説明を省略する。
本実施の形態のモータ駆動装置30では、コンデンサ15、ダイオード16及び放電抵抗31が、図7に示されるように、ダイオード16の下流側にコンデンサ15を直列に接続するとともに、ダイオード16の下流且つコンデンサ15の上流に放電抵抗31を接続して、整流回路部12の出力側において、整流回路部12からインバータ回路部14へとつながる電流経路から分岐して、インバータ回路部14に並列に接続される。コンデンサ15、ダイオード16及び放電抵抗31は、本発明の第2回路を構成する。
放電抵抗31は、その一端をコンデンサ15とダイオード16のカソードとの間に接続され、他端をダイオード16のアノードとインバータ回路部14との間に接続される。放電抵抗31は、本発明の放電手段及び第3回路に相当する。
演算部32は、モータ11の回転方向や回転数等を制御すべく、ステータ巻線U、V、Wへの通電方向を制御する。
上記のように、コンデンサ15には、ダイオード16及び放電抵抗31の並列回路が直列に接続されるが、ダイオード16は、放電抵抗31に比較してインピーダンスが低いため、コンデンサ15はダイオード16側からノイズ等のエネルギーを吸収することとなる。そして、吸収されたエネルギーは、放電抵抗31により熱に変換して放出される。
上記のように、モータ駆動装置30を構成することにより、演算部32によりスイッチング素子のオン・オフ制御を行わずとも、コンデンサ15の両端電圧の上昇を抑制可能となる。
以上のように、本実施の形態に係るモータ駆動装置30では、スイッチング素子に代えて放電抵抗31が設けられ、コンデンサ15に蓄積された電荷が放電抵抗31により熱に変換して放出されるので、コンデンサ15の電圧上昇を抑制可能となる。したがって、複雑な制御をせずとも、回路の破損を防止することができる。
次に、第4の実施の形態に係るモータ駆動装置40について、図8を参照して説明する。図8は、本発明の第4の実施の形態に係るモータ駆動装置40の電気的構成を示す回路図である。第4の実施の形態に係るモータ駆動装置40は、放電抵抗31に加えて更にツェナーダイオード41を設けた点が、第3の実施の形態に係るモータ駆動装置30(図7)とは異なる。以下、第3の実施の形態に係るモータ駆動装置30と同一の構成については同一の符号で示し、これらについての詳しい説明を省略する。
本実施の形態のモータ駆動装置40では、コンデンサ15、ダイオード16、放電抵抗31及びツェナーダイオード41が、図8に示されるように、ダイオード16の下流側にコンデンサ15を直列に接続するとともに、ダイオード16の下流且つコンデンサ15の上流に放電抵抗31を接続し、更にツェナーダイオード41を放電抵抗31に直列且つコンデンサ15に並列に接続して、整流回路部12の出力側において、整流回路部12からインバータ回路部14へとつながる電流経路から分岐して、インバータ回路部14に並列に接続される。コンデンサ15、ダイオード16、放電抵抗31及びツェナーダイオード41は、本発明の第2回路を構成する。また、放電抵抗31およびツェナーダイオード41は、本発明の第3回路を構成する。
ツェナーダイオード41は、そのカソードを放電抵抗31、ダイオード16及びコンデンサ15の接続部に接続され、そのアノードをコンデンサ15とインバータ回路部14との間に接続される。
上記のように、モータ駆動装置40を構成することにより、コンデンサ15の両端電圧が所定の上限電圧を越えて上昇することを確実に防止可能となる。
以上のように、本実施の形態に係るモータ駆動装置30では、スイッチング素子に代えて放電抵抗31が設けられるとともに、更にコンデンサ15に並列にツェナーダイオード41が設けられるので、コンデンサ15の電圧を所定の電圧に保持可能となる。したがって、複雑な制御をせずとも、回路の破損を防止することができる。